(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】活物質回収装置およびこれを用いた活物質の再使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2022561183
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 KR2021008377
(87)【国際公開番号】W WO2022035053
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2020-0101962
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ミン-ソ・キム
(72)【発明者】
【氏名】セ-ホ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ-キョン・ヤン
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-42641(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1803859(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-33787(KR,A)
【文献】特表2019-521485(JP,A)
【文献】特開2014-199774(JP,A)
【文献】特開2013-139592(JP,A)
【文献】特開2013-211234(JP,A)
【文献】特開2018-020950(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0040896(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュータイプのロッドを内部に有する回転型焼成装置である活物質回収装置であって、
前記ロッドの軸に沿って一列に配置されている、加熱ゾーンを形成する熱処理浴および冷却ゾーンを形成するスクリーニング壁体と、
排気注入および脱気システムと、
を含み、
前記熱処理浴では、集電体上の活物質層を含む電極スクラップを、前記ロッドの軸周りに回転させながら空気中で熱処理して前記活物質層内のバインダーと導電材を除去し、前記集電体を前記活物質層から分離し、
前記活物質層内の活物質は、前記スクリーニング壁体を通過して粉末形態の活物質として回収され、前記スクリーニング壁体を通過しなかった集電体は別途回収されることを特徴とする、活物質回収装置。
【請求項2】
前記熱処理浴も前記ロッドの軸周りに回転することを特徴とする、請求項1に記載の活物質回収装置。
【請求項3】
前記活物質回収装置は、前記ロッドの軸が地面に対して傾くように前記活物質回収装置全体が角度調節されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の活物質回収装置。
【請求項4】
前記活物質回収装置は振動機能を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の活物質回収装置。
【請求項5】
前記活物質回収装置は、新たな電極スクラップの投入と活物質の回収とが連続的に行われることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の活物質回収装置。
【請求項6】
前記熱処理浴は、電極スクラップが内部に投入され、分離された集電体と活物質が前記スクリーニング壁体に搬送されるように両端が開放された筒状であり、前記筒は空気が出入りする開放型システムであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の活物質回収装置。
【請求項7】
前記スクリーニング壁体は、分離された集電体と活物質が内部に投入され、前記集電体を排出するように両端が開放された筒状であることを特徴とする、請求項6に記載の活物質回収装置。
【請求項8】
前記熱処理浴は、投入される電極スクラップ100g当たり10mL/分~100L/分で空気が添加または注入される開放型システムであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の活物質回収装置。
【請求項9】
前記熱処理浴の複数箇所に空気注入口が設けられていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の活物質回収装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の活物質回収装置を準備するステップと、
熱処理浴に、集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを投入するステップと、
前記熱処理浴中で前記正極スクラップをロッドの軸の周りに回転させながら空気中で熱処理して前記活物質層内のバインダーと導電材を除去し、前記集電体を前記活物質層から分離するステップと、
スクリーニング壁体を通過した粉末形態の活物質を回収するステップと、
前記活物質を400~1000℃の空気中でアニーリングして再使用可能な活物質を得るステップと、
を含むことを特徴とする、正極活物質の再使用方法。
【請求項11】
前記熱処理は300~650℃で行われることを特徴とする、請求項10に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項12】
前記アニーリングの前に、前記回収された活物質を、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項10又は11に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項13】
前記アニーリングの前に、洗浄された活物質にリチウム前駆体を添加することを特徴とする、請求項12に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項14】
前記洗浄ステップの後に、洗浄した活物質をリチウム前駆体溶液に混合して噴霧乾燥することで、リチウム前駆体が添加されて粒子調節された活物質を得るステップをさらに含むことを特徴とする、請求項12又は13に記載の正極活物質の再使用方法。
【請求項15】
前記アニーリングされた活物質に表面コーティングするステップをさらに含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の正極活物質の再使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の製造時に資源をリサイクルするための装置および方法に関する。本発明は、特に、リチウム二次電池製造工程で発生する電極スクラップまたは使用後に廃棄されるリチウム二次電池から電極活物質を回収する装置、および回収された活物質を再使用する方法に関する。本出願は、2020年8月13日付け出願の韓国特許出願番号第10-2020-0101962号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書および図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
反復的な充電と放電の可能なリチウム二次電池が化石エネルギーの代替手段として脚光を浴びている。リチウム二次電池は、携帯電話、ビデオカメラ、電動工具などの従来のハンドヘルドデバイスに主に使用されてきた。しかし、最近は、電気で駆動される自動車(EV、HEV、PHEV)、大容量の電力貯蔵装置(ESS)、無停電電源システム(UPS)などにその応用分野が次第に広がりつつある。
【0003】
リチウム二次電池は、活物質が集電体にコーティングされた正極板と負極板が分離膜を挟んで配置された構造を有する単位セルが集合した電極組立体と、この電極組立体を電解液と共に封止収納する外装材、すなわち電池ケースとを備える。リチウム二次電池の正極活物質としては主にリチウム系酸化物を用い、負極活物質としては炭素材を用いる。リチウム系酸化物には、コバルト、ニッケル、またはマンガンなどの金属が含まれている。特にコバルト、ニッケル、マンガンは非常に高価な有価金属であり、その中でもコバルトは戦略的金属に属するもので、世界各国は需給に格別な関心を持っており、コバルト生産国の数が限られているため、世界的にその需給が不安定な金属として知られている。戦略的金属の原材料の需給に不均衡が生じれば、原材料価格が上昇する可能性が高い。
【0004】
従来は使用後寿命が尽きて廃棄されるリチウム二次電池(廃電池)からこのような有価金属を回収してリサイクル(recycle)する研究が主に行われてきた。廃電池の外にも、正極板を打ち抜いた後に廃棄される廃棄物または工程中に不良が発生した正極から資源を回収できればより好ましい。
【0005】
現在、リチウム二次電池の製造時には、
図1のようにアルミニウム(Al)箔などの長いシート状の正極集電体10に、正極活物質、導電材、バインダー、溶媒等を混合した正極スラリーをコーティングして正極活物質層20を形成することにより正極シート30を製造した後、正極板40を所定のサイズに打ち抜いている。打ち抜き後の残りの部分は正極スクラップ50として廃棄されている。正極スクラップ50から正極活物質を回収して再使用することができるのであれば、産業経済的および環境的な観点から非常に望ましいであろう。
【0006】
従来、正極活物質を回収する方法は、正極を塩酸、硫酸、硝酸などで溶解した後、コバルト、ニッケル、マンガンなどの活物質元素を抽出し、再び正極活物質の合成のための原料として使用する場合がほとんどである。しかし、酸を用いた活物質元素の抽出法は、純粋な原料を回収するための工程が環境にやさしくないだけでなく、中和工程と廃水処理工程が必要になり、工程コストが上昇するという短所を持っている。また、正極活物質元素のうち主要元素の一つであるリチウムを回収できないという短所がある。このような短所を解消するには、正極活物質を溶解せず、活物質を元素形態で抽出することなく直接再使用可能な方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電極スクラップから電極活物質を固有の形状のまま容易に回収することができる活物質回収装置を提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする他の課題は、それを用いた正極活物質の再使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明による活物質回収装置は、スクリュータイプのロッドを内部に有する回転型焼成装置であり、前記ロッドの軸に沿って一列に配置されている、加熱ゾーン(heating zone)を形成する熱処理浴および冷却ゾーン(cooling zone)を形成するスクリーニング壁体と、排気注入および脱気システムと、を含み、前記熱処理浴では、集電体上の活物質層を含む電極スクラップを、前記ロッドの軸周りに回転させながら空気中で熱処理して前記活物質層内のバインダーと導電材を除去し、前記集電体を前記活物質層から分離し、前記活物質層内の活物質は、前記スクリーニング壁体を通過して粉末形態の活物質として回収され、前記スクリーニング壁体を通過しなかった集電体は別途回収されることを特徴とする。
【0010】
前記熱処理浴も前記ロッドの軸の周りに回転し得る。
【0011】
前記活物質回収装置は、前記ロッドの軸が地面に対して傾くように前記活物質回収装置全体が角度調節され得る。
【0012】
前記活物質回収装置は、振動機能を有し得る。
【0013】
前記活物質回収装置は、新たな電極スクラップの投入と活物質の回収とが連続的に行われ得る。
【0014】
好ましくは、前記熱処理浴は、電極スクラップが内部に投入され、分離された集電体と活物質が前記スクリーニング壁体に搬送されるように両端が開放された筒状であり、前記筒は空気が出入りする開放型システムである。
【0015】
好ましくは、前記スクリーニング壁体は、分離された集電体と活物質が内部に投入され、前記集電体を排出するように両端が開放された筒状である。
【0016】
前記熱処理浴は、投入される電極スクラップ100g当たり10mL/分~100L/分で空気が添加または注入される開放型システムであることが好ましい。
【0017】
前記熱処理浴の複数箇所に空気注入口が設けられ得る。
【0018】
上記の他の課題を解決するための本発明による正極活物質の再使用方法は、本発明による活物質回収装置を準備するステップと、熱処理浴に、集電体上のリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質層を含む正極スクラップを投入するステップと、前記熱処理浴中で前記正極スクラップをロッドの軸の周りに回転させながら空気中で熱処理して前記活物質層内のバインダーと導電材を除去し、前記集電体を前記活物質層から分離するステップと、スクリーニング壁体を通過した粉末形態の活物質を回収するステップと、前記活物質を400~1000℃の空気中でアニーリングして再使用可能な活物質を得るステップと、を含む。
【0019】
このとき、前記熱処理は300~650℃で行われ得る。前記熱処理は昇温速度5℃/分にて550℃で30分間行われ得る。
【0020】
前記回収された活物質には、前記バインダーや導電材の炭化によって生じる炭素成分が表面に残留していない。
【0021】
前記アニーリングの前に、前記回収された活物質を、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄するステップをさらに含み得る。そのような場合、前記アニーリングの前に、洗浄された活物質にリチウム前駆体を添加することが好ましい。前記リチウム化合物水溶液は、0%超15%以下のリチウム化合物を含有するように調製され、好ましくはLiOHを使用する。前記洗浄は1時間以内で行い得る。前記洗浄は、前記回収された活物質を前記リチウム化合物水溶液の含浸と同時に撹拌することで行い得る。
【0022】
他の例として、前記洗浄ステップの後に、洗浄した活物質をリチウム前駆体溶液に混合して噴霧乾燥することで、リチウム前駆体が添加されて粒子調節された活物質を得るステップをさらに含み得る。
【0023】
前記アニーリングされた活物質に表面コーティングするステップをさらに含み得る。
【0024】
前記リチウム前駆体は、LiOH、Li2CO3、LiNO3およびLi2Oのうちのいずれか1つ以上であり得る。
【0025】
前記リチウム前駆体は、前記活物質層に使用された原材料活物質中のリチウムと他の金属との比率に対し、損失されたリチウムの比率分を添加可能な量で添加し得る。例えば、前記リチウム前駆体は、リチウム添加量が0.001~0.4モル比となる量で添加し得る。さらに、前記リチウム前駆体は、リチウムと他の金属とのモル比を1:1基準にして、リチウムを0.0001~0.1モル比となる量でさらに添加することが好ましい。前記アニーリングするステップの温度は、前記リチウム前駆体の融点を超える温度であり得る。
【0026】
前記表面コーティングするステップは、金属、有機金属および炭素成分のうちの1種以上を固相又は液相方式で表面にコーティングした後、100~1200℃で熱処理するステップであり得る。
【0027】
前記再使用可能な活物質は、下記化学式1で表され得る。
【0028】
LiaNixMnyCozMwO2+δ … 化学式1
【0029】
(前記化学式1において、Mは、B、W、Al、TiおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種を含み、1<a≦1.1、0≦x<0.95、0≦y<0.8、0≦z<1.0、0≦w≦0.1、-0.02≦δ≦0.02、x+y+z+w=1である。)
【0030】
前記再使用可能な活物質は、フッ素(F)の含有量が100ppm以下であり得る。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、回転式熱処理浴の導入により空気接触率を高め、熱処理時の集電体から電極活物質の脱離が容易であり、電極活物質と集電体とを連続的に分離することができる活物質回収装置を提供することができる。
【0032】
本発明の活物質回収装置を用いると、正極スクラップから正極活物質を回収することができる。この方法は、リチウム二次電池製造工程上に発生する正極スクラップなどの廃正極活物質を、酸を用いなくても再使用できるため、環境にやさしい。本発明による方法は、中和工程や廃水処理工程を必要としないので、環境への負担を緩和し、工程コストを節減することができる。
【0033】
本発明によれば、回収できない金属元素なく正極活物質を回収することができる。集電体を溶解しないため、集電体も回収可能である。活物質元素を抽出してさらに正極活物質合成のための原料として使用するのではなく、粉末形態で回収した活物質を直接再使用できる方法であるため、経済的である。
【0034】
本発明によれば、NMP、DMC、アセトン、メタノールなどの有毒で爆発の危険性のある溶媒を使用しないため安全であり、熱処理、洗浄、アニーリングなどの簡単な工程を利用するため、工程管理が容易であって大量生産に適している。
【0035】
本発明によれば、回収した活物質の電気化学性能が低下することなく、優れた抵抗特性および容量特性を実現することができる。
【0036】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の実施形態を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】正極シートから正極板を打ち抜いた後に廃棄される正極スクラップを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による活物質回収装置の概略図である。
【
図3】本発明の他の実施形態による活物質回収装置の概略図である。
【
図4】本発明のさらに他の実施形態による活物質の再使用方法のフローチャートである。
【
図5】本発明のさらに他の実施形態による活物質の再使用方法のフローチャートである。
【
図6】サンプル1における正極スクラップの位置による熱処理結果の違いを示す写真である。
【
図7】サンプル2における実験過程による時間別状態を示す写真である。
【
図8】比較例1~5の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【
図9】実施例1および比較例1~3、5の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【
図10】実施例1および比較例1~3、5の活物質の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真である。
【
図11】実施例1および比較例1~3、5の活物質の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図12】実施例3、4および比較例1、2の活物質の粒度分布グラフである。
【
図13】実施例3、4および比較例1の活物質を用いてセル評価を行った結果であり、表4は結果値をまとめたものである。
【
図14】実施例5および比較例6~9の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【
図15】実施例5および比較例6、7、9の活物質のX線回折(XRD:X-ray diffraction)パターンである。
【
図16】実施例5および比較例6の活物質のSEM写真である。
【
図17】比較例6、7、9の活物質のX線光電子分光法(XPS:X‐Ray Photoelectron Spectroscopy)パターンである。
【
図18】実施例5および比較例6、7、9の活物質の粒度分布グラフである。
【
図19】実施例6および比較例6、7、10の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【
図20】実施例6および比較例6~8の活物質のXPSパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは出願を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施形態及び図面に示された構成は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本発明の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0039】
以下の説明では、本明細書の一部を形成する添付図面を参照する。詳細な説明に記載された実施形態、図面、および特許請求の範囲は限定することを意図していない。本明細書に開示されている主題の精神と範囲から逸脱することなく他の実施形態を利用することができ、他の変更も行うことができる。本明細書に一般的に説明され、図面に示される本発明の態様は、種々の異なる構成で配置、置換、組み合わせ、分離、及び設計可能であり、それらすべてが本明細書中で明示的に考慮されることが即座に理解されるであろう。
【0040】
他に定義されていない限り、本明細書で用いられる全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者(以下、当業者)に一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0041】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に関して限定されるものではない。当業者には明らかなように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変更および修正を行うことができる。本明細書に列挙したものに加えて、本明細書の範囲内で機能的に均等な方法は、前述の説明から当業者に明らかであろう。そのような変更および修正は添付の特許請求の範囲内にある。そのような特許請求の範囲が資格を与える均等物の全範囲と共に、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定されるであろう。本発明は、もちろん、変更することができる特定の方法に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明する目的のためだけであり、限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0042】
従来の活物質リサイクル工程の場合、使用後に性能が劣化したリチウム二次電池活物質中に有価金属(ニッケル、コバルト、マンガンなど)を元素として抽出して活物質を再合成することが主なものであったが、本発明は、リチウム二次電池の製造工程中に発生する正極スクラップからも活物質を回収するという点で違いがある。
【0043】
さらに、従来公知の活物質リサイクル工程の場合、酸/塩基溶解または還元/添加剤を用いた溶融により有価金属を抽出し、これを金属(直接還元法)または再合成活物質として製造するなどの化学的方法が追加され、工程の複雑さと経済的コストがさらに発生する。しかしながら、本発明は、正極活物質を溶解することなく直接再使用する方法および装置に関する。
【0044】
正極活物質を直接再使用するためには、正極から集電体を除去する方法が必要である。正極から集電体を除去するには、高温熱処理によりバインダーを除去すること、溶媒を用いてバインダーを溶かすこと、集電体を完全に溶かしてしまうこと、乾式粉砕とふるい分離を通して活物質を選別することなどが可能する。
【0045】
溶媒を用いてバインダーを溶かすには、溶媒の安定性が重要である。NMPがおそらく最も効率的な溶媒であるが、毒性と高い価格という短所がある。また、廃溶媒を再処理したりするという溶媒回収工程が必要となるという短所もある。集電体を溶かしてしまうのは、溶媒を用いることよりは工程コストが安いであろう。しかし、再使用活物質の表面の異物除去が難しく、集電体除去過程で水素ガスが発生するため爆発の危険がある。乾式粉砕とふるい分離では集電体と活物質とを完全に分離することが難しい。粉砕過程で活物質の粒度分布が変化し、バインダー除去が難しいため、それを再使用した電池の特性が劣化するという短所がある。
【0046】
本発明では、高温熱処理を用いて活物質と集電体とを分離する。特に熱処理を空気中で行い、大量生産および商業化に有利な装置を提供する。また、再使用活物質の表面に異物が残留してはならないため、本発明では、再使用活物質の表面の異物除去ステップも提案する。
【0047】
以下では、
図2および
図3を参照して、本発明の実施形態による活物質回収装置について説明する。
【0048】
まず、
図2に示す活物質回収装置100は、スクリュータイプのロッド110を内部に備えた回転型焼成装置である。
【0049】
熱処理浴120とスクリーニング壁体130は、ロッド110の軸に沿って一列に配置されている。熱処理浴120とスクリーニング壁体130は、内部に被処理物を収容可能な所定の空間を有する中空の筒状であり得る。このとき、ロッド110は熱処理浴120とスクリーニング壁体130の中心部を通り、熱処理浴120とスクリーニング壁体130は同軸で配列され得る。ロッド110は、熱処理浴120およびスクリーニング壁体130の長手方向の一側から他側までつながるように長い形状を有し得る。
【0050】
熱処理浴120は加熱ゾーンを形成し、スクリーニング壁体130は冷却ゾーンを形成する。熱処理浴120は被処理物の搬送方向に沿って装置の前端に、スクリーニング壁体130は装置の後端に設けられる。熱処理浴120とスクリーニング壁体130とを順次設けることにより、熱処理浴120で被処理物が十分に加熱されて熱分解が起こるようにした後にスクリーニング壁体130に搬送できるようにする。
【0051】
活物質回収装置100は、排気注入および脱気システム140をも含む。熱処理浴120には、排気注入および脱気システム140を用いて空気または酸素が注入され得る。熱処理後の排気ガスは、排気注入および脱気システム140を用いて浄化された後に排出され得る。
【0052】
ロッド110はその軸に沿って回転する。被処理物は電極スクラップ160である。好ましくは正極スクラップである。電極スクラップ160は、集電体150上に活物質層を含む。熱処理浴120では、電極スクラップ160をロッド110の軸周りに回転させながら空気中で熱処理して、活物質層内のバインダーと導電材を除去する。熱処理は300~650℃で行うことができ、高温熱処理とも称し得る。300℃未満の温度ではバインダーの除去が難しく、集電体150を分離できないという問題が生じ、650℃以上の温度では集電体150が溶け(Alの融点:660℃)集電体を分離することができない現象が生じる。熱分解が十分に起きてバインダーが除去されると、前記活物質層を集電体150から分離できる。熱処理浴120をもロッド110の軸周りに回転させ得る。このとき、熱処理浴120の回転方向はロッド110の回転方向と同じであってもよく逆であってもよい。適切な時間間隔で回転方向を変えながら行ってもよい。
【0053】
ロッド110および/または熱処理浴120の回転により電極スクラップ160が回転する。特にロッド110は、電極スクラップ160をかき回しながら電極スクラップ160を押し出すため、電極スクラップ160が空気と十分に接触するようにし、かき回す力により活物質層が粉末形態の活物質170として落ちるのに役立つ。熱処理浴120のみを回転させると、重い金属成分を含む電極スクラップ160はうまく回転せず、熱処理浴120内の下側に積み重なる可能性が高い。これにより、酸素や空気との接触が少なくなる。本発明では、熱処理浴120内のロッド110を回転させて電極スクラップ160をかき回すことができる。電極スクラップ160を細かくシュレッディング(shredding)して投入しなくてもロッド110によって破砕し得る。破砕された電極スクラップ160は、ロッド110によって回転することによって酸素または空気と十分に接触することができる。ロッド110は、単に回転を起こすものではなく、スクリュータイプであるため、ピン、翼またはロッドなどの突出構造を有するものである。この突出構造は、電極スクラップ160の回転および混合を最大化する。したがって、電極スクラップが重なって不完全に燃焼する現象を解消することができる。
【0054】
熱処理浴120での熱処理を通じて集電体150から分離される活物質層は、個々の粒子あるいは粒子が片状に凝集したフレーク等の構造を有し得、連続的な膜状態ではないため、本発明では粉末形態と呼ぶ。このように熱処理浴120では、単なる空気中での熱処理により、集電体150から粉末形態の活物質が得られる状態となり、一部の電極スクラップ160は、集電体150上に単にファンデルワールス力等により活物質層が付着している状態あるいは一部の活物質層が脱落して粉末形態の活物質170となった状態でスクリーニング壁体130に搬送され得る。
【0055】
熱処理浴120は、電極スクラップ160が内部に投入され、バインダーと導電材が除去された集電体150と活物質170とがスクリーニング壁体130に搬送されるように、両端が開放された筒状であることが好ましい。そして、前記筒は、空気が出入りする開放型システムであることが好ましい。すなわち、前記筒は密閉構造を有さず、外気中の酸素が流入可能である。
【0056】
熱処理浴120は、電極スクラップ160を収容して回転させて混合する容器と、この容器に熱を加えて電極スクラップ160を熱処理する加熱部とを含む。容器は、金属またはセラミック材料からなり得る。特に、セラミック材料を使用すると、活物質との反応による腐食を防止することができ、容器から生じる金属イオンによる活物質の汚染をも防ぐことができる。また、マイクロ波などの熱源も加熱部として使用できるので、使用可能な熱源の種類が多様になる。
【0057】
例えば、熱処理浴120の容器は、セラミック材料、例えば高純度アルミナからなるチューブであり得る。そして、このようなチューブは、長手方向に連結するフランジをチューブの両端にさらに含むので、2本以上のチューブを互いに連結して長さを伸ばすことにより、大容量処理が可能な熱処理浴120として製造することができる。一般に、セラミック材料からなるチューブは、材料の特性上、一定の口径および一定の長さ以上の製造が非常に困難であり、製品価格が非常に高い。これにより、セラミック材料からなる適切な口径および長さの複数のチューブを、フランジを介して所望の長さに連結することができ、例えば数百mmまたは数千mm以上の長さに製造して大容量処理が可能である。
【0058】
加熱部は、この容器の外周面に設けられ得る。例えば、加熱部は線状の発熱体であり、この発熱体は、容器の長手方向の一側から他側につながるように長いバー状を有し、容器の外周面に配置され得る。これにより、容器の長手方向に均一な温度で発熱することができる。発熱体は、SiC、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、およびグラフェンからなる群から選択される少なくともいずれかを含み得、好ましくはSiC材料から形成され得る。
【0059】
熱処理浴120は、投入される電極スクラップ160の100g当たり10mL/分~100L/分の速度で空気が添加または注入される開放型システムであることが好ましい。熱処理浴120が、両端が開放された筒状であれば、空気添加が円滑に行われる。また、
図2に矢印で示すように、熱処理浴120において空気注入口を複数箇所に設けると、排気注入および脱気システム140を通じて注入される空気又は酸素が、電極スクラップ160が混ざる部分で円滑に供給されるので、熱処理浴120内に熱分解に必要な空気と酸素の十分な供給が可能となる。空気注入口はロッド110にも設けられ得る。
【0060】
電極スクラップ160は、熱処理時に活物質層内に存在するバインダーであるポリビニリデンフルオリド(PVdF:polyvinylidene fluoride)および導電材が分解して集電体から脱離する。しかしながら、十分な空気および酸素が供給されないと、不完全燃焼により活物質層が集電体から分離できず、かえってより強く炭化して集電体に付着してしまう。この場合、活物質の回収率が低下して工程性を確保し難い。熱処理浴120は、空気の添加量を制御することができ、熱処理時に電極スクラップ160が空気と十分に接触する構造である。特に、大量の活物質を回収するために、電極スクラップ160が空気と良好に接触するようにロッド110を回転させ、熱処理浴120も回転させて、熱処理浴120の内部で電極スクラップ160が回りながら均等に加熱され、空気との接触を最大化することができる。活物質層の構成元素の不完全燃焼を抑制できるため、最終脱離した活物質の回収率を増加させることができる。空気が投入される電極スクラップ160の100g当たり10mL/分未満で注入または添加される場合、バインダーと導電材が不完全燃焼して活物質回収率が減少する。100L/分よりも多く注入または添加されると、過剰な添加により活物質の飛散が生じ、温度制御が困難になることがある。
【0061】
スクリーニング壁体130はメッシュ構造を有し得る。メッシュの大きさは、集電体150を通過させない程度で適切に決定され得る。スクリーニング壁体130を通過した粉末形態の活物質170は、スクリーニング壁体130の下部に設けられた第1コレクタ180により回収することができる。スクリーニング壁体130を通過できなかった集電体150は、スクリーニング壁体130の端部に設けられた第2コレクタ190により回収することができる。このように活物質回収装置100を用いると、活物質170と集電体150をそれぞれ回収することができる。このように、本発明の活物質回収装置100によれば、活物質170を固有の形状のまま回収することができるとともに、集電体150を溶かしたり廃棄したりすることなく再活用することができる。
【0062】
スクリーニング壁体130は、分離された集電体150と活物質170が内部に投入され、前記集電体150を排出するように両端が開放された筒状であることが好ましい。ロッド110の回転により集電体150から活物質170の脱落が円滑に行われる。ロッド110は、集電体150を回転させてかき回し、集電体150から活物質170を脱落させるだけでなく、集電体150とスクリーニング壁体130とが互いに衝突し、その衝撃により集電体150から活物質170が離脱できるようにする。スクリーニング壁体130をもロッド110の軸の周りに回転させることができる。回転するロッド110が存在しない場合、またはスクリーニング壁体130が回転していないために集電体150が静止している場合、集電体150から活物質170が離脱しにくい。
【0063】
スクリーニング壁体130の回転方向は、ロッド110の回転方向と同じであってもよく逆であってもよい。適切な時間間隔で回転方向を変えながら行ってもよい。また、スクリーニング壁体130の回転方向は、熱処理浴120の回転方向と同じであってもよい。熱処理浴120とスクリーニング壁体130との接続部位を固定すると、熱処理浴120とスクリーニング壁体130を一緒に回転させることができる。熱処理浴120とスクリーニング壁体130とは、互いに接続される組み立て型または一体型で構成され得る。
【0064】
例えば、熱処理浴120の一方の側に周面に沿って結合溝を形成し、スクリーニング壁体130の一側に周面に沿って結合突起を形成し、結合溝と結合突起とを介して相互に対応する熱処理浴120の端部とスクリーニング壁体130の端部とをしっかりと接続することができる。結合溝と結合突起とは、しまりばめまたは螺合により結合され得る。結合溝と結合突起とは、係止爪とフック構造で結合されてもよい。
【0065】
上記のように熱処理浴120とスクリーニング壁体130とを同軸に配置した筒状にすると、前記活物質回収装置100では、新たな電極スクラップの投入と活物質の回収とが連続的に行われて好ましい。
【0066】
スクリーニング壁体130は、単に加熱部を備えないことにより、自然冷却の徐冷方式で冷却区間を実現してもよく、スクリーニング壁体130の外部に冷却手段をさらに備え、より速い急冷方式あるいは温度制御冷却を可能にしてもよい。
【0067】
活物質回収装置100はまた振動機能を有することが好ましい。振動は、熱処理後にバインダーおよび導電材が除去された活物質が集電体から脱離して離れるように物理的な力を与えることができる。振動を加えると、スクリーニング壁体130内の活物質170は、スクリーニング壁体130を通過してその下の第1コレクタ180に落下する。
【0068】
次に、
図3に示す活物質回収装置100’は、ロッド110の軸が地面に対して傾くように活物質回収装置100’全体の角度θが調節されることを特徴とする。図示のように活物質回収装置100’の後端、すなわち図面上右側が下になるように少し傾斜した状態で支持され得る。互いに高さの異なる支持台を活物質回収装置100’の前端および後端の下にそれぞれ設け得る。
【0069】
角度θの調節により地面に対して傾斜が生じ、傾斜により、集電体150および活物質170が自重によって下方に移動できるようになる。図示のように傾斜を与えると、集電体150と活物質170が熱処理浴120とスクリーニング壁体130を通って図の左から右に徐々に移動し、この場合、スクリーニング壁体130内の活物質170は、スクリーニング壁体130を通過してその下の第1コレクタ180に落ち、スクリーニング壁体130を通過できなかった集電体150は、スクリーニング壁体130の端部に設けられた第2コレクタ190に落ちる。角度θは、工程の前に設定された状態で工程中に維持されるか、または工程中に必要に応じて調節および変更されてもよい。
【0070】
以上説明した活物質回収装置100、100’は、大量の電極スクラップを処理することができ、それにより作業効率性を有し作業時間を大幅に短縮することができる。特に、外気中の酸素を遮断しない開放型システムであり、活物質層を完全燃焼させるのに十分な空気や酸素を供給することができる。電極スクラップを回転させることができ、これにより空気との接触がより円滑であるので、均一な品質と高い回収率で活物質を回収することができる。
【0071】
以下では、
図4および
図5を参照して、本発明の実施形態による活物質の再使用方法について説明する。まず、
図4は、本発明のさらに他の実施形態による活物質の再使用方法のフローチャートである。
【0072】
図4を参照すると、まず、捨てられる正極スクラップを準備する(ステップS10)。
【0073】
正極スクラップは、先の
図1を参照して説明したように、集電体上に正極活物質層を含む正極シートを製造して打ち抜いた後に残る部分であり得る。さらに、工程中に不良が発生した正極を集めて正極スクラップを準備し得る。また、使用後に廃棄されたリチウム二次電池から正極を分離して正極スクラップを準備してもよい。
【0074】
例えば、LiCoO2(LCO)などのリチウムコバルト酸化物である活物質、またはニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系活物質、導電材としての炭素系であるカーボンブラック、およびバインダーであるPVdFにN-メチルピロリドン(NMP:N-methyl pyrrolidone)を添加して混合して製造したスラリーをアルミニウム箔からなるシート状集電体上にコーティングした後、約120℃の真空オーブンで乾燥させて正極シートを製造してから、一定サイズの正極板を打ち抜いて残った正極スクラップを準備する場合であり得る。
【0075】
リチウム二次電池の正極活物質としてはリチウム複合遷移金属酸化物が用いられており、その中でもLiCoO2のリチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4など)あるいはリチウムニッケル酸化物(LiNiO2など)などが主に用いられている。また、LiNiO2の優れた可逆容量は維持しながらも低い熱安定性を改善するための方法として、ニッケル(Ni)の一部を熱的安定性に優れたマンガン(Mn)で置換したニッケルマンガン系リチウム複合金属酸化物、およびマンガン(Mn)とコバルト(Co)で置換したNCM系リチウム複合遷移金属酸化物が用いられている。
【0076】
このように正極スクラップは、アルミニウム箔などの金属箔の集電体上の活物質層を有する。活物質層は、活物質、導電材、バインダー、溶媒等を混合したスラリーをコーティングして形成したものであり、溶媒揮発後に活物質と導電材とをバインダーによって連結する構造となっている。したがって、バインダーを除去すると、集電体から活物質が分離することができる。
【0077】
次に、このような正極スクラップを、本発明による活物質回収装置100、100’の熱処理浴120に投入する(ステップS15)。
【0078】
投入前に正極スクラップを適切なサイズに破砕するステップをさらに含み得る。破砕は、正極スクラップを適切に取り扱いやすい大きさに細かく切断またはシュレッディングすることを指す。破砕後、正極スクラップは、例えば1cm×1cmの小さい断片に切断される。破砕には、ハンドミル、ピンミル、ディスクミル、カッティングミル、ハンマーミルなどの様々な乾式粉砕装置を使用してもよく、高速切断機を使用してもよい。破砕は、正極スクラップの取り扱い、およびその後の工程で使用される活物質回収装置100、100’内で要求される特性、例えば流動性を考慮して行い得る。活物質回収装置100、100’はロッド110を備えているため、ロッド110が回転しながら正極スクラップが割れてしまうこともある。したがって、大きすぎない正極スクラップであれば破砕せずに投入してもよい。
【0079】
次に、熱処理浴120において正極スクラップをロッド110の軸周りに回転させながら空気中で熱処理して前記活物質層内のバインダーと導電材を除去し、前記集電体を前記活物質層から分離する(ステップS30)。熱処理は300~650℃で行うことができるので、高温熱処理とも言える。300℃未満の温度ではバインダーの除去が困難であるため、集電体を分離できない問題が生じ、650℃以上の温度では集電体が溶け(Alの融点:660℃)集電体を分離できない現象が生じるため、熱処理浴120の加熱部温度を調節して所望の熱処理温度となるようにする。
【0080】
熱処理時間は、バインダーが十分に熱分解できる程度に保たれる。例えば30分前後とする。好ましくは30分以上とする。熱処理時間が長くなるほどバインダーの熱分解が起こる時間が長くなるが、一定時間以上になると熱分解効果に差がない。好ましくは、熱処理時間は30分以上5時間以内とする。
【0081】
例えば、熱処理は昇温速度5℃/分で、550℃で30分間行い得る。前記昇温速度は、例えば熱処理浴120の加熱部を介して無理なく実施可能なものであり、正極スクラップに熱衝撃等を発生させることなく加熱できる程度である。550℃はAl集電体の融点を考慮したものであり、且つ、バインダーの熱分解が十分に行われるようにするものである。この温度では10分未満で熱処理すると熱分解が不十分であるため、10分以上の熱処理を行うべきであり、なるべくなら30分以上の熱処理を行う必要がある。
【0082】
空気中の熱処理により活物質層内のバインダーと導電材が熱分解し、CO2とH2Oとなり除去される。バインダーが除去されるため、集電体から活物質が分離され、回収しようとする活物質は粉末形態で選別できる。したがって、ステップS30のみでも集電体を活物質層から分離し、活物質層内の活物質を回収することができる。
【0083】
ステップS30の熱処理は空気中で行うことが重要である。還元気体あるいは不活性気体雰囲気で熱処理を行うと、バインダーと導電材が熱分解されず、炭化するだけである。炭化だけでは炭素成分が活物質の表面に残留し、再使用活物質の性能を低下させることになる。空気中で熱処理するとバインダーや導電材中の炭素物質は酸素と反応してCO、CO2ガスとして燃焼して除去されるため、バインダーと導電材の残留なくほぼ全て除去される。活物質回収装置100、100’は十分な空気接触が可能であるので、ステップS30の熱処理を行うのに適している。
【0084】
熱処理時間とは、熱処理浴120内で所望の熱処理温度に留まる時間を意味する。熱処理時間が30分であれば、正極スクラップが熱処理浴120内で30分間加熱されるようにした後に次のスクリーニング壁体130に搬送できるように工程管理を行う。
【0085】
次に、スクリーニング壁体130を通過した粉末形態の活物質を回収する(ステップS35)。開放型システムである活物質回収装置100、100’は、前述したように、熱処理浴120内での円滑な空気接触により、バインダーおよび導電材をほぼ完全に除去し、粉末形態の活物質を回収できるようにする。スクリーニング壁体130に搬送された正極スクラップは、前からバインダーが除去された状態であるため、ロッド110の回転により集電体と活物質を完全に脱離させることができる。スクリーニング壁体130を通過して得られる活物質は、バインダーや導電材の炭化によって生じる炭素成分が表面に残留していない。
【0086】
このようにして、活物質回収装置100、100’の利用が終了する。活物質回収装置100、100’を用いて熱処理を行うことにより、非常に高い回収率で活物質を回収することができ、回収された活物質は炭素成分を含まないため、炭素成分を除去するための別途の処理は必要ない。
【0087】
回収された活物質をそのまま再使用すると、電極物性に良くない結果をもたらすことがある。これに続く工程として、本発明では、洗浄、乾燥、リチウム前駆体の添加、アニーリング、表面コーティング等のステップをさらに含み得る活物質の再使用方法を提案する。
【0088】
次に、回収した活物質を洗浄して乾燥させる(ステップS40)。洗浄の際、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄することが重要である。このリチウム化合物水溶液は、0%超15%以下のリチウム化合物を含有するように製造され、好ましくはLiOHを使用する。LiOHの量は15%以下とすることが好ましい。過剰のLiOHの使用は、洗浄後も活物質の表面に過剰のLiOHを残留させる可能性があり、後のアニーリング工程に影響を及ぼす可能性がある。可能な限り、アニーリングの前のステップで活物質の表面をきれいにするため、過剰のLiOH添加は工程上好ましくないため、15%以下に制限する。
【0089】
洗浄は、このようなリチウム化合物水溶液に回収された活物質を浸漬しておくことで行われ得る。浸漬後1週間、好ましくは1日以内、さらに好ましくは1時間以内で洗浄を行い得る。1週間以上洗浄すると、リチウムが過剰に溶出して容量が低下するおそれがある。したがって、1時間以内で行うことが望ましい。洗浄は、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液に活物質を浸漬しておくこと、浸漬した状態で撹拌することなどを含む。なるべく撹拌を並行することが良い。リチウム化合物水溶液において撹拌せずに浸漬する場合、洗浄工程が遅くなり、リチウム溶出の原因となることがある。撹拌を並行すれば工程時間を最小化することができるので、リチウム化合物水溶液の含浸と同時に撹拌を行うことが好ましい。乾燥は濾過後にオーブン(対流式)にて空気中で行い得る。
【0090】
水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄する理由は、回収された活物質の表面に存在し得るLiFと金属フッ化物(メタルフルオリド)を除去して表面改質を行うためである。ステップS30の熱処理中には活物質層内のバインダーと導電材がCO2とH2Oとなり気化して除去されるが、この過程でCO2とH2Oが活物質表面のリチウムと反応してLi2CO3、LiOHが形成されることもあり、PVdFなどのバインダーに含まれるフッ素(F)が正極活物質を構成する金属元素と反応してLiFあるいは金属フッ化物が形成されることもある。LiFあるいは金属フッ化物が残留すると、活物質の再使用時に電池特性が劣化する。本発明では、ステップS40のように洗浄するステップを追加して、熱処理ステップS30中に活物質の表面に生成している可能性のある反応物を除去することにより、活物質の表面に異物が残留しないようにする。
【0091】
強調するが、ステップS40では、水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液で洗浄することが重要である。水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液ではなく硫酸や塩酸の水溶液を使用すると、活物質表面のFを洗浄することはできるが、活物質に存在する遷移金属(Co、Mg)などを溶出させて再使用正極活物質の性能を低下させる。本発明による活物質の再使用方法で用いる水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液は、ステップS30の熱分解後ももしかして微量に残留する可能性のあるバインダーを除去できるだけでなく、活物質に存在する遷移金属等を溶出させることなく、洗浄過程で溶出できるリチウムの量を補うのにも役立つため、非常に好ましい。
【0092】
ステップS40により、本発明では、回収された活物質の表面にLiF含有量を500ppm未満に調節可能であり、これにより容量改善の効果を奏することができる。好ましくは、Fの含有量を100ppm以下にし得る。より好ましくは、Fの含有量を30ppm以下にし得る。
【0093】
次に、洗浄した活物質にリチウム前駆体を添加してアニーリングする(ステップS50)。
【0094】
前のステップS30、ステップS40を経ている間、活物質中のリチウム損失が発生する可能性がある。ステップS50では、そのようなリチウム損失量を補う。
【0095】
さらに、ステップS50では、アニーリングによって活物質の結晶構造を回復し、再使用活物質の特性を一度も使用しなかったフレッシュな活物質レベルに回復または改善する。
【0096】
前のステップS30、ステップS40を経ている間、活物質表面に変形構造が現れることがある。例えば、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物からなる活物質は、ステップS40においてNiが水分により岩塩(rock salt)化(NiCO3・2Ni(OH)2)H2O]し、スピネル構造が形成され得る。このまま電池を製造すると、容量減少など電池特性が劣化し得る。本発明では、ステップS50により結晶構造を回復させる。例えば、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物からなる活物質を再び六方晶構造に回復させる。これにより、フレッシュな活物質と類似のレベルに初期特性を回復または改善することができる。
【0097】
ステップS50のリチウム前駆体は、LiOH、Li2CO3、LiNO3およびLi2Oのうちの1つ以上であり得る。
【0098】
リチウム前駆体は、熱処理前の前記活物質層に使用された原材料活物質(すなわち、フレッシュな活物質)中のリチウムと他の金属との比率に対し、損失されたリチウムの比率分を添加できる量で添加するものである。例えば、フレッシュな活物質中のリチウムと他の金属との比率が1である場合、0.001~0.4モル比でリチウムを添加できる量のリチウム前駆体を添加し得る。好ましくは、0.01~0.2モル比のリチウムを添加する。洗浄などにより損失されたリチウム量以外の過剰のリチウム前駆体を添加すると、未反応のリチウム前駆体を再使用活物質に残留させることになり、これは活物質の再使用過程で抵抗を増加させる要因になるため、適切な量のリチウム前駆体を投与する必要がある。
【0099】
また、リチウム前駆体は、リチウム:他の金属のモル比を1:1基準にして、リチウムを0.0001~0.1モル比となる量でさらに添加することが好ましい。このように過量のリチウムを添加する理由は、活物質に表面コーティングによる表面保護層を形成するためであり、これについては以下でさらに説明する。このような活物質を用いて二次電池を製造する場合、電解液による副反応を抑えながらも寿命特性を維持することができる。
【0100】
ステップS50のアニーリングは、400~1000℃、空気中で行う。アニーリング温度は600~900℃であってもよい。この温度は、リチウム前駆体の種類によって制限された範囲内で変化し得る。アニーリング時間は1時間以上とすることが好ましい。好ましくは5時間前後である。アニーリング時間が長いと、結晶構造回復が十分に行われるが、長時間にしても性能に大きい影響を与えない。アニーリング時間は、例えば15時間以内とする。
【0101】
例えば、リチウム前駆体としてLi2CO3を使用する場合、アニーリング温度は、好ましくは700~900℃であり、より好ましくは710~780℃である。これは、Li2CO3の融点が723℃であるためである。最も好ましくは750℃である。リチウム前駆体としてLiOHを使用する場合、アニーリング温度は、好ましくは400~600℃であり、より好ましくは450~480℃である。これは、LiOHの融点が462℃であるためである。
【0102】
アニーリング温度は、リチウム前駆体の融点を超える温度であることが好ましい。ただし、1000℃を超える温度では、正極活物質の熱分解が発生して活物質の性能が低下するため、1000℃を超えないようにする。
【0103】
ステップS50まで行うと、再使用可能な活物質を得ることができる。「再使用可能」とは、これ以上の成分調整のための追加的な添加物または処理なしに、フレッシュな活物質のように直ちにスラリーの製造に投入可能な状態であることを意味する。
【0104】
次に、選択的なステップとして、ステップS60をさらに行い得る。ステップS60では、ステップS50でアニーリングした活物質に表面コーティングを施す。
【0105】
表面コーティングするステップは、金属、有機金属および炭素成分のうちの1種以上を固相又は液相方式で表面にコーティングした後、100~1200℃で熱処理するステップであり得る。1200℃を超える温度で熱処理すると、正極活物質の熱分解により性能低下が発生するおそれがある。表面コーティングにおいて固相または液相方式での表面へのコーティングには、混合(mixing)、ミリング(milling)、噴霧乾燥(spray drying)、グラインディング(grinding)などの方法を用い得る。
【0106】
表面コーティングにより異種金属による表面保護層が形成される。リチウムと正極活物質中の他の金属とのモル比が1:1になるようにした場合、活物質中のリチウムが表面コーティング物質と反応してリチウムと正極活物質中の他の金属とのモル比が1:1未満に減少するようになると、容量が100%発現できない。そのため、足りなくなったリチウムを前段階であるステップS50で添加して、リチウムと正極活物質中の他の金属とのモル比が1:1になるようにすると共に、正極活物質中の他の金属に対してリチウムが0.0001~0.1モル比さらに含まれるように過量を添加するのである。これによって、表面コーティング時、リチウムと正極活物質中の他の金属とのモル比が1:1になりながらも表面保護層が形成可能になる。
【0107】
具体的には、B、W、BWなどの金属酸化物を活物質にコーティングした後、熱処理すると、活物質の表面にリチウムホウ素酸化物(lithium boron oxide)層を形成することができ、これは表面保護層として機能する。ステップS50で0.0001~0.1モル比分をさらに多く添加したリチウムが、ステップS60でB、W、BW等の金属酸化物と反応し、リチウムと正極活物質中の他の金属とのモル比が1:1未満に減少しないため、容量低下が起こらない。
【0108】
以上説明した方法で得られる再使用可能な活物質は、下記化学式1で表されるものであり得る。
【0109】
LiaNixMnyCozMwO2+δ … 化学式1
【0110】
(前記化学式1において、Mは、B、W、Al、TiおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種を含み、1<a≦1.1、0≦x<0.95、0≦y<0.8、0≦z<1.0、0≦w≦0.1、-0.02≦δ≦0.02、x+y+z+w=1である。)
【0111】
再使用可能な活物質は、Fの含有量が100ppm以下であり得る。本発明によれば、Fの含有量が減少した活物質を回収することができるので、これを活物質として再使用すれば優れた抵抗特性および容量特性を実現することができる。
【0112】
このように本発明によれば、単なる熱処理により活物質の回収が可能である(S30)。LiFまたは金属フッ化物は、洗浄を行うステップS40で除去される。水溶液状態で塩基性を示すリチウム化合物水溶液を用いた洗浄および乾燥ステップは、安全かつ安価でありながら、他の元素の損失なくLiFあるいは金属フッ化物を除去することができ、転移金属などの溶出を防止するだけでなく、工程中に発生するリチウム損失を補うことができるという長所がある。S50のアニーリングステップも安全かつ安価でありながら、結晶構造の回復、すなわち結晶性を改善して再使用活物質の電池特性を回復できるという長所がある。
【0113】
本発明に従って得られる再使用可能な活物質は、フレッシュな活物質と類似の粒度分布を有するため、粒度分布を調節するための別の処理をしなくてもよい。特に、熱処理に適した活物質回収装置100、100’の使用を通じて、バインダーや導電材の炭化で生じる炭素成分が表面に残留していないため、このような炭素成分を除去するためのステップ等を必要としない。したがって、以上の
図4の方法によって得られた活物質は、別途の処理なくそのまま再使用して正極の製造に用いることができる。
【0114】
再使用活物質を組成調節せずにそのまま100%使用するか又はフレッシュな活物質と混合し、導電材、バインダー、溶媒に混合してスラリーとして製造して使用し得る。
【0115】
次に、
図5は、本発明のさらに他の実施形態による活物質の再使用方法のフローチャートである。
図5において、
図4と同じステップには同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0116】
図5を参照すると、
図4を参照して説明したステップS10からステップS35までは同様に行われる。次いで、回収された活物質を洗浄する(ステップS40’)。洗浄する方法、洗浄に使用する溶液などは、
図4のステップS40と同じである。
【0117】
ここでは、洗浄した活物質を乾燥せずに直ちにリチウム前駆体溶液に混合し、噴霧乾燥する(ステップS45)。
【0118】
前のステップS30、S40’を経る間、活物質中のリチウムが損失され得る。ステップS45では、そのようなリチウム損失量をより簡単かつ確実に補う。
【0119】
リチウム前駆体溶液は、水溶液または有機溶媒に溶解可能なリチウム化合物を使用し、特に好ましくはステップS45でのリチウム前駆体は、LiOH、Li2CO3、LiNO3およびLi2Oのうちの1つ以上であり得る。
【0120】
噴霧乾燥するステップの温度は80℃以上であることが好ましい。80℃以下の場合、溶液が完全に乾燥しないという問題が生じるおそれがあるからである。より好ましくは、噴霧乾燥するステップの温度は100~300℃であり得る。
【0121】
ステップS40’での洗浄による表面改質工程の後、オーブン等で直ちに乾燥を行うと、活物質粒子が凝集して塊状になることがある。このように凝集した粒子にリチウム前駆体を混合するには、塊への粉砕(grinding)が必要である場合があり、固相のリチウム前駆体を混合するには、物質混合時に粉末混合(powder mixing)またはミリング工程が必要であり、その場合には工程が複雑であり、連続工程が難しい。また、NCM系正極活物質の場合には、水分がある状態でリチウム前駆体と粉末混合、ミリング等を進行すると、正極活物質が水分を吸収して凝集が激しく発生する。したがって、本実施形態では、ステップS40’で洗浄した後、乾燥せずに活物質をリチウム前駆体溶液に混合して分散させて噴霧乾燥することを提案する。これにより、乾燥による粒子の凝集、固相リチウム前駆体を混合する煩わしさを解消することができる。すなわち、噴霧乾燥によっては、塊ではなく粉末形態で製造されるという長所を有する。
【0122】
噴霧乾燥の際、噴霧した直後にリチウム前駆体溶液が乾燥し、リチウム前駆体成分が活物質の表面にコーティング又は接触されるが、このとき溶媒であるリチウム前駆体溶液の乾燥時に毛細管力(capillary force)により粒子が固まって粒子が調節されるという長所も有する。電極から作られた正極スクラップの場合、圧延工程により表面の粒子が潰され、ひび割れたり割れたりし得る。特に、LCOに比べてNCM系活物質は、電極形成時の圧延による粒子の割れが多いため、フレッシュな活物質に比べて回収した活物質中には小さい粒子が多く含まれるようになり、粒子が不均一な問題がある。
【0123】
特に、NCM系活物質は、数十~数百nmの大きさを有する一次粒子が集まって二次粒子化した大粒子を含むものを使用しているが、このような活物質から製造した正極は、電極内の気孔度(porosity)を調節するために圧延する過程で二次粒子が割れて一次粒子化するか、またはそれより大きいが大粒子よりは小さく小粒子化することもある。圧延により割れた粒子が多いほど活物質の比表面積が増加するため、圧延された電極から得られる再使用活物質の場合には、再使用時にスラリー物性および電極接着力、電極性能に影響を与える問題が生じ得る。
【0124】
活物質が再使用可能なレベルになるためには、その粒度分布もフレッシュな活物質のそれと異ならないことが望ましい。本実施形態で提案する噴霧乾燥では、圧延時に割れて生じた小さい粒子を固めて大きい粒子に回復させることができるため、粒子のバラツキを解消し、粒度においてもフレッシュな活物質の初期特性に近づけることができる。特に、前工程の圧延で粒子割れが酷いNCM系活物質において、その効果が卓越である。したがって、本発明による方法で回収する活物質を再使用した電池特性が、フレッシュな活物質を使用した電池特性と類似のレベルになると期待できる。
【0125】
以上説明したように、噴霧乾燥ステップS45を通じて、活物質の表面にリチウム前駆体がコーティングされ、活物質は粒子調節されて得られる。リチウム前駆体の添加と粒子化、および乾燥が一つのステップで行われるため、工程簡略化の効果がある。また、噴霧乾燥が活物質を単に収得するための手段ではなく、すでに先に使用されて圧延等で割れた粒子を再粒子化するための手段である点で特別である。
【0126】
また、一定濃度のリチウム前駆体溶液にステップS40’で洗浄された活物質粒子を混合して分散させるだけでステップS45が行われるので、ステップS40’の洗浄とステップS45の噴霧乾燥との連続工程が可能であるという長所もある。このように本実施形態による活物質の再使用方法では、工程の連続性があり、リチウム前駆体のコーティング、乾燥および粒子化(粒子再調節)が一つのステップで同時に行われるという長所がある。
【0127】
ここでも、リチウム前駆体は、
図4を参照して説明したステップS50で添加する量分だけ、フレッシュな活物質中のリチウムと他の金属との比率に比べて損失されたリチウムの比率分を補い得る量で添加される。
【0128】
次に、噴霧乾燥した活物質をアニーリングする(ステップS50’)。ステップS45で活物質にリチウム前駆体を添加するので、本ステップではリチウム前駆体をさらに添加することなく噴霧乾燥の直後にアニーリングを行い得る。ステップS50’のアニーリングの効果は、
図4を参照して説明したステップS50と同じである。その後、必要に応じてステップS60の表面コーティングをさらに行い得る。
【0129】
一方、活物質回収装置100、100’を用いた他の正極活物質再使用方法も可能である。例えば、
図3を参照して説明したステップS30の熱処理時間を1時間以内、好ましくは30分以内とする。熱処理時間が長くなるほどバインダーの熱分解が起こる時間が長くなるが、一定時間以上になると熱分解効果に差がなく、かえって電池性能に有害なLiFなどの反応生成物が多く生成されて好ましくない。したがって、熱処理時間を1時間以内に、好ましくは30分以内に制限して、電池性能に悪影響を及ぼし得る不要な異物の発生を最小限に抑える方法が可能である。
【0130】
この場合、ステップS30以降、
図3のステップS35を行った後、ステップS40なく直ちにステップS50およびS60を行い得る。すなわち、熱処理を短縮した結果、洗浄ステップを省略可能である。このように本発明のさらに他の実施形態によれば、空気中での熱処理(ステップS30)とリチウム前駆体添加後のアニーリング処理(ステップS50)という2つのステップのみでも再使用可能な活物質を得ることができる。特に熱処理は非常に短時間、好ましくは30分以内で行うため、電池特性に悪影響を及ぼす反応生成物を抑制し、反応生成物除去のための水洗などの追加のステップを必要としないことが長所である。
【0131】
また一方、活物質回収装置100、100’を用いたさらに他の正極活物質再使用方法も可能である。例えば、
図4を参照して説明したステップS40の洗浄時間を1時間以内、好ましくは10分以内に短縮することである。洗浄時間が長くなると、リチウムの過剰溶出により容量低下が発生するおそれがある。したがって、洗浄時間を制限して非常に短くしてリチウムの溶出を最小限に抑える方法が可能である。
【0132】
この場合、ステップS40で洗浄液として使用するリチウム前駆体水溶液だけでもリチウム損失を補うのに十分である。したがって、洗浄した活物質に追加のリチウム前駆体を添加せずにアニーリング処理を行い得る。すなわち、
図4のステップS40の洗浄時間を非常に短くすれば、
図5のステップS50’のようなアニーリング処理を直ちに行い得る。
【0133】
このように本発明によれば、再使用可能な正極活物質を得る多様な方法が可能であり、集電体と活物質層の分離に最適化された本発明の活物質回収装置を用いることにより、このような方法をより効率的に行うことができる。
【0134】
以下、本発明の実験例について詳細に説明する。
【0135】
<実験例1>
以下の方法でサンプル1、2を設定し、各方法で正極スクラップを熱処理した後、活物質回収率を評価した。
【0136】
サンプル1:
正極スクラップを炉(ファーネス)内で単純に積層した後、熱処理した。正極スクラップを炉内に固定型にして配置した場合である。
【0137】
図6は、サンプル1における正極スクラップの位置による熱処理結果の違いを示す写真である。
【0138】
図6の(a)は、積層された正極スクラップのうち表面に位置した正極スクラップの写真である。この正極スクラップの場合には、外部に露出することにより空気との接触でバインダーおよび導電材が熱分解して集電体から活物質が分離することを観察したが、熱分解が不十分な箇所、すなわち十分な空気および酸素が供給されない不完全燃焼により、活物質層が集電体から分離できず、かえってより強く炭化して集電体に付着している箇所も観察された。
【0139】
図6の(b)は、積層された正極スクラップのうち内側に位置した正極スクラップの写真である。この正極スクラップの場合には、上下に他の正極スクラップと接触しており、空気との接触が不足していたと評価される。熱分解が不十分で炭化して集電体に付着している箇所がはるかに多く観察された。
【0140】
このように、正極スクラップをスタック状に積み重ねて固定型で熱処理を行う場合には、不完全燃焼により活物質が集電体から落ちず、回収率が非常に良くないことを確認した。正極スクラップ100gを熱処理したところ、約40gは回収されなかった。
【0141】
サンプル2:
正極スクラップを炉内に立ててサンプル1よりも多くの空気と接触するように配置した後、熱処理した。正極スクラップを炉内で固定型に配置した場合であるが、正極スクラップ間に距離を確保して空気との接触面を最大にした場合である。
【0142】
図7は、サンプル2における実験過程による時間別状態を示す写真である。
【0143】
図7の(a)は、シュレッディングされた正極スクラップをるつぼに立てて積載した状態の写真である。
図7の(b)は、このような正極スクラップを炉内に入れて空気中550℃で30分間熱処理した後の状態を示す写真である。
図7の(c)は、熱処理された正極スクラップをるつぼから取り出した後の写真である。このような正極スクラップの表面で粉末形態の活物質を回収した状態が
図7の(d)である。
【0144】
サンプル2はサンプル1と異なり、集電体から活物質がほとんど脱離して回収される結果を得た。回収率は95%以上であった。これにより、酸やNMPを用いずに空気中の熱処理だけでも有意義な量の活物質を回収できることを確認した。特に、空気との接触面積をさらに増加させることができれば、集電体に残留している一部(5%)の活物質までも脱離させることができ、活物質の回収率をさらに増加させることができることに着目し、本発明の活物質回収装置を創案するに至った。本発明の活物質回収装置は、比較例2と比較して、正極スクラップを回転させる移動型でありながら空気との接触がよりスムーズになるため、回収率は95%をはるかに上回っている。
【0145】
<実験例2>
以下の実施例および比較例と同様の方法でそれぞれ正極活物質を準備し、電気化学性能を評価した。
【0146】
実施例1:
図4を参照して上述した本発明の活物質の再使用方法に従って再使用活物質を回収した。NCM系リチウム複合遷移金属酸化物からなる活物質を有する正極板を打ち抜いた後に捨てられる正極スクラップを準備し、ステップS30では550℃で30分間熱処理した。ステップS40では、LiOHを用いて10分間洗浄した。ステップS50では、原材料活物質中のリチウムと他の金属とのモル比(ICP分析)を基準として、工程中にリチウムを0.09モル比分さらに添加できる量のリチウム前駆体(Li
2CO
3)を投入して750℃で15時間アニーリングした。理論上、フレッシュな活物質の場合、リチウム:他の金属のモル比が1:1であるが、これを確認する活物質回収装置であるICP活物質回収装置の平均誤差が±0.05、好ましくは±0.02程度であるため、ICP測定による原材料活物質のリチウム:他の金属のモル比は1±0.05:1であり得る。本実験では、ICP分析により、その分析比率に基づいてリチウム前駆体を添加した。
【0147】
実施例2:
実施例1に加えて、
図4の選択的なステップS60の活物質表面の保護層回復工程も行った。
【0148】
比較例1:
再使用活物質ではなく、フレッシュなNCM系リチウム複合遷移金属酸化物を使用した。
【0149】
比較例2:
上述したような本発明の活物質の再使用方法におけるステップS30の熱処理のみ行い、バインダー、導電材の除去およびAl集電体を分離し、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物からなる活物質を回収した。ステップS30は実施例1と同じ条件で行った。本発明の活物質の再使用方法におけるステップS40の表面改質、ステップS50の結晶構造回復およびステップS60の表面コーティング工程は実施しなかった。
【0150】
比較例3:
比較例2よりさらに進み、上述した本発明の活物質の再使用方法におけるステップS40の表面改質まで実施して活物質を回収した。すなわち、表面改質は行うが、本発明の活物質の再使用方法におけるステップS50の結晶構造回復とステップS60の表面コーティング工程は実施しなかった。ステップS40は実施例1と同じ条件で行った。
【0151】
比較例4:
比較例2よりさらに進み、上述した本発明の活物質の再使用方法におけるステップS40の表面改質は実施せず、ステップS50の結晶構造回復までのみ行い、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物からなる活物質を回収した。結晶構造回復のためのアニーリングでは実施例1と異なりリチウム前駆体を添加せずに実施した。
【0152】
比較例5:
実施例1と同様にステップS30、S40およびS50までのみ進行した。ただし、結晶構造回復のためのアニーリングでは実施例1と異なりリチウム前駆体を添加せずに実施した。
【0153】
上記実施例および比較例においてそれぞれ回収または準備した正極活物質についてICP分析を行い、LiF残存量、活物質中のリチウムと他の金属との比率、およびBやWなどの特定元素の量をも分析した。
【0154】
そして、上記実施例1、2および比較例1~5においてそれぞれ回収または準備した正極活物質を96.25重量%、導電材であるカーボンブラックを1.5重量%、バインダーであるPVdFを2.25重量%秤量し、NMPに混合してスラリーを作製して正極を製造した後、セル(Coin Half Cell、CHC)を製造し、電気化学性能を評価した。
【0155】
比較例2と比較例3で回収した活物質中のLiF残存量を確認するためにICPでFを検出して分析した。その結果を下記表1に示す。
【0156】
【0157】
NDは、測定値が30ppm以下であることを意味する。上記表1を参照すると、比較例2と比較して比較例3では、回収された正極活物質中のF含有量が著しく低下していることが確認できる。すなわち、洗浄によりLiFがリチウム化合物水溶液に完全に溶け、ICPで検出されない程度まで除去されたことが確認できる。したがって、ステップS40により、LiF除去が優れていることがわかる。
【0158】
本発明のステップS30、ステップS40を経ている間に正極活物質中のリチウム成分の変化があるか否かを確認するために、ICPで活物質中のリチウム/他の金属の比率を分析した。その結果を下記表2に示す。
【0159】
【0160】
表2を参照すると、ステップS30の熱処理を経て比較例2は比較例1に比べて約0.2~0.5程度、ステップS40の洗浄と乾燥を経て比較例3は比較例2に比べて約0.2~0.5程度でリチウム/他の金属の比率が減少することが確認できる。NCM系リチウム複合遷移金属酸化物は、粒子の比表面積が比較的大きく、スピネル構造への変化により他の金属に対するリチウムの比率が大幅に減少しているように見える。したがって、不十分なリチウムを補充しなければならないことがわかる。
【0161】
表2はICP分析で測定した値であり、前述したようにICP分析は約±0.02の誤差値を有する。したがって、フレッシュな活物質である比較例1においても、リチウムと他の金属間との比率が1未満であり得る。したがって、リチウムの損失を補うために添加するリチウム前駆体の量は、活物質層に使用された原材料活物質(すなわち、フレッシュな活物質)中のリチウムと他の金属との比率(ICP分析したモル比)を基準として減少した分だけのリチウムを添加する。
【0162】
図8および
図9は、実施例1、2および比較例1~5の活物質を用いてセル評価を行った結果である。異なる電流において、サイクル繰り返し回数に応じた容量を評価することにより、レート性能(rate performance)を調べた。評価に使用した活物質回収装置は、実験室でよく使用される一般的な充放電実験装置である。測定装置や方法による偏差はない。
図8および
図9のグラフにおいて、横軸はサイクル数を示し、縦軸は容量を示す。
【0163】
電圧の条件は3~4.3Vであり、初期フォーメーション(formation)充放電は0.1C/0.1Cで行った。セルを構成する電解液は、カーボネート系で、エチレンカーボネート(Ethylene carbonate:EC):エチルメチルカーボネート(Ethyl methyl carbonate:EMC)=3:7でありながら添加剤が一部入っているものを使用した。
【0164】
まず
図8を参照すると、脱離のための一次熱処理(550℃/30分)を行った後、表面改質前の比較例2と表面改質後の比較例3を見ると、表面改質を行った比較例3で電極容量が急激に減少する結果を示す。これは、前述したように、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物中のNiが水分により暗塩化して容量が減少したためである。
【0165】
しかしながら、表面改質を行わずにアニーリング(750℃/15時間)を行う場合、これは比較例4に該当するが、比較例2と比較して容量改善効果がほとんどない。これは、表面改質をしない場合に活物質の表面にLiFが残留しているためである。これは、前の表1で洗浄を実施してこそ、LiFが満足できるレベルに除去されるということを示している。
【0166】
一次熱処理後に表面改質もしてアニーリングもすると、比較例5に示すように容量が増加する。これは、表面改質ステップ後は比較例3のように容量が減少するが、表面改質でLiFが除去された後にアニーリングによりNi岩塩が減少し、その構造が六方晶に回復するためである。
【0167】
次に
図9を参照すると、比較例5に比べて実施例1の容量改善が確認される。比較例5と比較して実施例1では、アニーリング時にリチウム前駆体を添加した。このようにリチウム前駆体を添加することにより、前のステップで損失されたリチウムを補充して容量が改善されることが分かる。熱処理と洗浄によるリチウムの損失は表2を参照して説明されている。
【0168】
リチウム化合物は、ICP分析(表2)の結果に基づき、既存の正極活物質中のリチウム含有量に比べて損失された割合分だけを添加した。その結果、0.09~0.1モル比を添加した場合、比較例1と同等レベルの容量改善効果を示すことをさらなる実験で確認した。
【0169】
このように本発明によれば、直接再使用できるレベルで正極スクラップから活物質を回収することができる。NMP、DMC、アセトン、メタノールなどの有毒および爆発の危険性のある溶媒を使用しないため安全であり、熱処理、洗浄および乾燥、アニーリングなどの簡単で安全な方法を使用するため、大量生産にも適している。
【0170】
図10および
図11は、実施例1および比較例1~3、5の活物質の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真である。SEM写真は、実験室でよく使用される一般的なSEM装置で撮影した。例えば、日立製作所社製のS-4200を使って撮影できる。しかし、測定装置や方法による偏差はない。
【0171】
図10の(a)は比較例1のフレッシュな活物質のSEM写真であり、(b)は(a)の拡大写真である。(c)はこのようなフレッシュな活物質を用いて製造した正極スクラップの表面であり、(d)は(c)の拡大写真である。フレッシュな活物質の場合、粒子割れ現象はないが、電極で作られた正極スクラップの場合、圧延工程により表面の粒子が押されて割れる現象が発生することを示す。
【0172】
図10(e)は比較例2のSEM写真であり、(f)は(e)の拡大写真である。(e)および(f)を参照すると、回収した活物質においてバインダーや導電材は観察されない。すなわち、高温熱処理過程でこれらが除去されたことを確認することができる。したがって、空気中での熱処理だけでも集電体から活物質が分離され、活物質表面にバインダーや導電材がほとんど残留していないことがわかる。
【0173】
図11の(a)は比較例3のSEM写真であり、(b)は(a)の拡大写真である。正極スクラップの写真である
図10の(c)および(d)と比較すると、工程を経て粒子が解けたことがわかる。
【0174】
図11の(c)は比較例5のSEM写真であり、(d)は(c)の拡大写真である。(e)は実施例1のSEM写真であり、(f)は(e)の拡大写真である。前のステップで解けていた粒子がアニーリングによって凝集されることがわかる。そして、
図11の(f)と
図10の(a)とを比較すると、実施例1の再使用活物質がフレッシュな活物質と同じ形状を示していることが確認できる。
【0175】
上記実施例および比較例でそれぞれ回収または準備した正極活物質についてICP分析を行い、特定元素の量も分析した。その結果を下記表3に示す。
【0176】
【0177】
本実験に用いたフレッシュな活物質は、比較例1に示すように、BとWをさらに含んでいたものであった。比較例2を見ると、熱処理を経てBとWの含有量が減少し、残りの結果を見ると以降の工程でBはほぼ全て除去されることが分かる。Wの場合には、比較例3のように、洗浄による表面改質過程で大量が除去されることがわかる。
【0178】
したがって、最初に使用した活物質の種類によっては、工程中に一部の特定元素が損失になりかねず、特に洗浄による表面改質過程で完全に除去または少量だけが残留する場合が生じることもありうるため、実施例1のようにアニーリングステップまでしか実施しないと、完全な特性回復が難しい場合も存在することがある。そのような場合には、本発明で提案するような追加の表面コーティングステップを実施することが望ましい。表面コーティングステップは、本実験例の場合、BとWをコーティングすることである。表面コーティングでは、正極活物質が表面保護層として機能し得る。表面コーティングは、不足している特定の元素を補充するとともに、フレッシュな活物質の表面保護層を再構築する工程でもあり得る。本実験に用いたフレッシュな活物質の場合、表面保護層がB-Wでできており、工程中のリチウム損失量は、活物質自体のリチウム対他の金属の比率である1:1ではない「活物質自体リチウム+表面保護層形成リチウム」:他金属の比率の観点からその意味が解釈される。したがって、上記実験で比較例3のように損失された0.09モル比は、正極活物質中のリチウムと表面保護層形成用リチウムとを合わせたリチウム量と解釈でき、実施例ではその分だけのリチウムを補充できるリチウム前駆体を追加したのである。
【0179】
表面コーティングステップでは、固相または液相反応後の熱処理工程を経る。再使用可能な活物質が上記の化学式1で表される場合、化学式1におけるMはそのような表面コーティングによって補足されるものと考えられる。
【0180】
表面コーティング層がB、B-W、B-Ti、B-W-Tiを含む場合、表面コーティング熱処理は200~500℃の温度で行うことができ、その他の成分も100~1200℃の温度で金属成分、炭素成分、有機金属成分でコーティングすることができる。
【0181】
このように本発明によれば、単純であって、環境にやさしく、経済的な方法を用いて正極スクラップを再使用することができ、このように製造されたNCM系リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質をそのまま再使用してリチウム二次電池を製造しても電池の性能に問題はない。
【0182】
<実験例3>
以下の実施例および比較例のような方法でそれぞれ正極活物質をさらに準備し、電気化学性能を評価した。
【0183】
実施例3:
実施例1と同様である。但し、アニーリング時間は実施例1の15時間より短い5時間とした。
【0184】
実施例4:
実施例4は、
図5を参照して説明した方法に従って製造した再使用活物質である。実施例1と同様のステップS30まで行った後、ステップS40’、S45およびS50’を行った。ステップS40’で洗浄後、乾燥せず(洗浄電極を)0.1mol LiOH粉末と共に水溶液(粉末:水溶液=1:50比で混合)に混合し、噴霧乾燥装置で粒子化してステップS45を行った。ステップS50’は実施例3と同様に750℃で5時間実施した。
【0185】
ステップS45を行う際、電極の沈殿を防ぐために洗浄電極と0.1mol LiOH混合水溶液を撹拌し、噴霧乾燥装置で噴霧ノズルを用いて加熱容器へと噴霧を行う際の雰囲気温度(input温度)は180℃、加熱容器から採集容器に出る際の雰囲気温度(output温度)は、100℃以上を維持するように調節した。
【0186】
図12は、実施例3、4および比較例1、2の活物質の粒度分布グラフである。粒度分布は、実験室でよく使用される一般的な粒度分析器で得ることができる。例えば、Horiba LA 950V2粒度分析器を用いて測定することができる。しかし、測定装置や方法による偏差はない。
図12において、横軸は粒子の大きさ(粒度:particle size、μm)であり、縦軸は体積(volume)%である。
【0187】
比較例2の場合、電極工程での加圧によって比較例1の活物質がサブミクロン(1μm未満)サイズの粒子に割れて微粉化される結果を示している。このように、比較例2は、比較例1とは非常に異なる粒度分布を有する。
【0188】
実施例3と実施例4はアニーリング処理まで進んだので、アニーリング処理時には、先に追加したリチウム前駆体が溶けながら粒子同士の凝集現象が誘導され、これにより比較例2で見られる微粉化粒子が多くなくなったことが分かる。特に本発明による実施例4の場合、実施例3に比べて小粒子が減少し、大粒子が若干増加する傾向を示すが、粒度分布に大きい差は見られず、小サイズの粒子がより少ないことからは、実施例3と比較して実施例4の方が、比較例1の粒度分布と類似していると言える。
【0189】
このように本発明の他の実施例で提案する噴霧乾燥利用時(実施例4)、固相でリチウム前駆体を混合する場合(実施例3)に比べて粒度分布がフレッシュな活物質(比較例1)にさらに類似しており、特に噴霧乾燥前の洗浄ステップと連続工程が可能な長所を十分に有することが確認された。
【0190】
図13は、実施例3、4および比較例1の活物質を用いてセル評価を行った結果であり、表4は結果値をまとめたものである。
【0191】
【0192】
図13および表4を参照すると、実施例3および実施例4を用いたすべての電極は、比較例1を用いた電極と同様のレベルの結果を示した。初期フォーメーション容量は比較例1が高く、シーレート(c-rate)容量では実施例3および実施例4が若干高い結果を示すが互いに同様のレベルと判断される。このように本発明の実施例によれば、フレッシュな活物質(比較例1)と同様のレベルの再使用活物質を得ることができる。
【0193】
<実験例4>
以下の実施例および比較例と同様の方法でそれぞれ正極活物質をさらに準備し、電気化学性能を評価した。
【0194】
実施例5:
上述したような本発明のさらに他の活物質の再使用方法に従って再使用活物質を回収した。正極板打ち抜き後に捨てられるLCO正極スクラップを準備し、ステップS30の熱処理を昇温速度5℃/分にて空気中600℃で30分間実施した。ステップS40またはS40’のように洗浄せずにステップS50を行った。再使用LCOのリチウム量に対して過剰2モル%リチウム量のリチウム前駆体(Li2CO3)を投入し、空気中750℃で15時間アニーリングした。
【0195】
比較例6:再使用活物質ではなくフレッシュなLCOを使用した。
【0196】
比較例7:上述した本発明の活物質の再使用方法におけるステップS30の熱処理のみを行い、バインダー、導電材除去およびAl集電体を分離し、LCO活物質を回収した。ステップS30は実施例5と同じ条件で行った。
【0197】
比較例8:熱処理時間を1時間とした以外は上記比較例7と同様の方法でLCO活物質を回収した。
【0198】
比較例9:熱処理時間を5時間とした以外は上記比較例8と同様の方法でLCO活物質を回収した。
【0199】
図14は、実施例5および比較例6~9の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【0200】
図14を参照すると、熱処理時間が5時間で最も長い比較例9で最も低いレート性能を確認することができる。これは、ステップS30のような高温熱処理過程を長時間行うと、バインダーと導電材がCO
2とH
2Oとして除去されながら正極活物質表面のリチウムと反応してLi
2CO
3が形成され、バインダーに存在していたFと反応してLiFが形成されるからである。さらに、LCO表面で熱分解によって生成されるCo
3O
4が故に低い電池特性を示すと判断される。
【0201】
比較例8では、熱処理時間が比較例9よりも短い1時間であって、初期サイクル3程度まではレート性能が比較例9よりも良好であったが、サイクル数が増加するにつれて、レート性能が低下することがわかる。
【0202】
比較例7の熱処理時間は30分であり、比較例8および9に比べて短い。比較例7の場合、比較例8および9よりもレート性能に優れている。したがって、熱処理時間が30分以内であることがレート性能の点で好ましいことを確認することができ、これはLiFなどの反応生成物の発生を最小限に抑えたからである。
【0203】
実施例5は、比較例7と比較して、リチウム前駆体を添加してアニーリングまで行ったものであり、活物質を回収する過程で損失されたリチウムを補い結晶性を回復するためにLi2CO3を添加してアニーリングしたものである。実施例5によれば、工程中に発生するリチウムの不足量を補うことができるだけでなく、再生中に活物質表面に現れる可能性がある変形構造およびCo3O4を再びLCO結晶構造に還元させ、比較例6のフレッシュなLCO活物質の初期特性よりも改善された結果を示すことが確認されている。このように、本発明によれば、直接再使用可能なレベルで正極スクラップから活物質を回収することができる。
【0204】
図15は、実施例5および比較例6、7、9の活物質のXRDパターンである。XRDパターンにおいて、横軸は2θ(Theta)(degree、度)であり、縦軸は強度(intensity)である。XRDパターンは、実験室でよく使用される一般的なX線回折装置を用いて得ることができた。例えば、リガク社製のX線回折分析器XG-2100を用いて分析することができる。しかし、装置や方法による偏差はない。
【0205】
図15の(a)は、比較例6、すなわちフレッシュなLCOのXRDパターンである。(b)は、比較例7の活物質のXRDパターンであり、(c)は、比較例9の活物質のXRDパターンである。(b)、(c)を(a)と比較すると、Co
3O
4相が確認される。すなわち、ステップS30の熱処理において、LCOの表面にCo
3O
4が生成されていることが確認できる。
【0206】
図15の(d)は、実施例5の活物質のXRDパターンである。(b)、(c)と(d)を比較すると、ステップS50のアニーリングによりCo
3O
4相はなくなり、結晶構造がLCOに回復されたことが分かる。XRDパターンにおける回折ピークの位置を見ると、(d)の結晶構造は(a)の結晶構造と類似している。したがって、本発明の実施例が比較例6のフレッシュな活物質レベルに回復されたことを確認することができる。このように、本発明によれば、熱処理過程で生成されたCo
3O
4をアニーリング過程で除去することができ、直接再使用できるレベルで正極スクラップから活物質を回収することができる。
【0207】
図16は、実施例5および比較例6の活物質のSEM写真である。
【0208】
図16の(a)は比較例6のフレッシュLCOのSEM写真であり、(b)は実施例5の再使用活物質のSEM写真である。フレッシュなLCOと比較した場合、実施例5の回収されたLCOも同じ形状を示していることが確認できる。さらに、LCOのみが観察されているので、バインダーおよび導電材が高温熱処理過程で除去されたことが確認される。したがって、空気中での熱処理だけでも集電体から活物質が分離され、活物質表面にバインダーや導電材がほとんど残留していないことがわかる。このように本発明によれば、複雑な方法や有害な物質を用いることなく集電体と活物質分離が可能となり、活物質を環境に優しく回収することができる。酸を使わずに再使用することができるため、中和工程や廃水処理工程が不要で、環境への負担を緩和し、工程コストを節減することができる。
【0209】
図17は、比較例6、7、9の活物質のXPS(X‐Ray Photoelectron Spectroscopy)パターンである。XPSパターンにおいて、横軸は結合エネルギー(Binding energy、単位:eV)である。XPSパターンは、実験室でよく使用される一般的なXPS測定装置を用いて得ることができる。例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)社製のK-Alphaを用いて分析することができる。前述のように、バインダーに存在するFは、熱処理の過程で活物質のLiと反応してLiFを形成することができる。
【0210】
図17において、684eV付近のピークはLiFによって示され、試料による強度が高いほど、より多量のLiFが正極活物質表面に存在することを示す。比較例6のXPSパターンは、フレッシュなLCOを用いて測定したため、LiFの存在は測定されなかった。比較例9では、5時間という長時間の熱処理により活物質表面に多量のLiFが生成された結果、XPSのLiFピーク強度が比較例6に比べて格段に高く測定された。しかし、熱処理時間を5時間から30分に短縮した比較例7の場合、バインダー分解によるFの形成が比較的少なくなり、活物質表面に存在するLiFの量は比較的少なくなることがわかる。LiFは電極特性劣化の原因となり得るため、可能な限りLiFを少なくする必要がある。比較例9と比較例7の結果から、熱処理時間の短縮が再生活物質表面におけるLiFの量を減少させることができ、再生活物質の性能改善に有効であることが分かる。実施例5は比較例7と同様のレベルのLiFを有するが、先に
図14の結果からわかるようにアニーリングまで実施した後にフレッシュな活物質以上のレベルを確保できるので、実施例5に残留するLiFの量は電池性能にあまり問題にならないことがわかる。したがって、本発明のさらに他の実施形態のように熱処理時間を最適化する場合、LiFなどを除去するための水洗などの別の過程は必要ない。
【0211】
図18は、実施例5および比較例6、7、9活物質の粒度分布グラフである。
【0212】
実施例5および比較例7、9で回収されたすべての活物質は、比較例6のフレッシュなLCOと比較して粒度分布が類似している。同じ粒子サイズを有する粒子の体積%が±2%以内の範囲でのみ差を有する場合、粒度分布は類似していると定義する。このように、本発明によれば、活物質の粒度分布が変わらず、初期特性がほぼそのまま維持され、これを再使用した電池特性がフレッシュな活物質を用いた電池特性と同様のレベルになると期待できる。
【0213】
<実験例5>
以下の実施例および比較例と同様の方法でそれぞれ正極活物質を準備し、電気化学性能を評価した。
【0214】
実施例6:上述した本発明のさらに他の活物質の再使用方法に従って再使用活物質を回収した。正極板打ち抜き後に捨てられるLCO正極スクラップを準備し、ステップS30の熱処理を600℃で30分間実施した。ステップS40の洗浄はLiOHを用いて10分間行った。ステップS50’のように追加のリチウム前駆体を添加せずに750℃の空気中で15時間アニーリングした。
【0215】
比較例10:比較例7からさらに進んで上述した本発明の活物質の再使用方法におけるステップS40の表面改質を行ってLCO活物質を回収した。すなわち、表面改質は行うが、本発明の活物質の再使用方法におけるステップS50やS50’の結晶構造回復は実施しなかった。ステップS40は実施例6と同じ条件で行った。
【0216】
実施例6と比較例7で回収した活物質中のLiF残存量を把握するためにICPでFを検出して分析した。その結果を下記表5に示す。
【0217】
【0218】
上記表5を参照すると、回収された正極活物質中のF含有量が比較例7に比べて実施例6で著しく低下したことが確認できる。すなわち、洗浄によりLiFがリチウム化合物水溶液に完全に溶け、ICPで検出されない程度に除去されたことが確認できる。したがって、ステップS40により、LiF除去が優れていることがわかる。
【0219】
上記実施例および比較例でそれぞれ回収または準備した正極活物質についてICP分析を行い、特定元素の量も分析した。その結果を下記表6に示す。
【0220】
【0221】
本実験に用いたフレッシュな活物質は、比較例6に示すようにAlをさらに含んでいたものであった。比較例7を見ると、熱処理を経てもAl含有量は変化せず、その後の工程ステップをさらに含む比較例10および実施例6でもAl含有量が維持されることが分かる。このように本発明によれば、Alなどの他の元素の損失なくLiFあるいは金属フッ化物を除去することができ、遷移金属などの溶出を防止できることが分かる。
【0222】
図19は、実施例6および比較例6、7、10の活物質を用いてセル評価を行った結果である。
【0223】
図19を参照すると、再使用活物質であるが本発明による表面改質と結晶構造回復を行っていない比較例7で最も低いレート性能を確認することができる。これは、ステップS30のような高温熱処理過程でバインダーと導電材がCO
2とH
2Oとして除去されながら正極活物質表面のリチウムと反応してLi
2CO
3、LiOHが形成されるだけでなく、バインダーに存在していたFと反応してLiFあるいは金属フッ化物が再使用活物質の表面に形成されたからである。さらに、LCO表面で熱分解によって生成されるCo
3O
4が故に低い電池特性を示すと判断される。
【0224】
比較例10は、比較例7と比較して、表面改質を行ったものである。比較例10は、表面に生成された反応物を洗浄により除去したので、比較例7と比較してより良い結果が得られたと評価された。
【0225】
実施例6は、比較例10と比較して、アニーリングまで実施したものである。再生中に活物質表面に現れ得る変形構造およびCo3O4を再びLCO結晶構造に還元させ、比較例6のフレッシュなLCO活物質初期特性よりも改善された結果を示すことが確認される。このように、本発明によれば、直接再使用可能なレベルで正極スクラップから活物質を回収することができる。
【0226】
図20は、実施例6および比較例6~8の活物質のXPSパターンである。比較例6のXPSパターンは、フレッシュなLCOを用いて測定したため、LiFの存在は測定されなかった。しかし、比較例7では、熱処理過程で活物質表面に形成されたLiFの存在を確認することができる。比較例8では熱処理時間を5時間に増やしたため、Fの生成が比較例7に比べて増え、活物質表面に生成されるLiFの量が多くなったため、XPSのLiFピーク強度が比較例7に比べて高く測定されている。活物質表面に存在するLiFの量は電極特性の劣化の原因となるため、LiFの除去が必要である。実施例6は、比較例7と比較して、洗浄によりLiFを除去し、XPS結果でもLiFのピークが現れないことを確認することができる。
【0227】
以上のXPS分析により、実施例6の結果が比較例6の結果と類似していることが確認できた。したがって、本発明の実施例6が比較例6のフレッシュな活物質レベルに回復したことを確認することができる。このように本発明によれば、洗浄時間を短くする場合、リチウム前駆体添加なしで直接再使用できるレベルで正極スクラップから活物質を回収することができる。
【0228】
以上、本発明は限定された実施形態と図面によって説明されたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者によって本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内
【符号の説明】
【0229】
10 正極集電体
20 正極活物質層
30 正極シート
40 正極板
50 正極スクラップ
100 活物質回収装置
100’ 活物質回収装置
100g 電極スクラップ
100g 正極スクラップ
110 ロッド
120 熱処理浴
130 スクリーニング壁体
140 脱気システム
150 集電体
160 電極スクラップ
170 活物質
180 第1コレクタ
190 第2コレクタ