(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-18
(45)【発行日】2023-12-26
(54)【発明の名称】MnZnCo系フェライト
(51)【国際特許分類】
C04B 35/38 20060101AFI20231219BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
C04B35/38
H01F1/34 140
(21)【出願番号】P 2023042349
(22)【出願日】2023-03-16
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2022119079
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】野島 明瑞美
(72)【発明者】
【氏名】曽我 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 由紀子
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-286119(JP,A)
【文献】特開2008-169072(JP,A)
【文献】特開昭61-042104(JP,A)
【文献】特開2002-231520(JP,A)
【文献】特開2005-213100(JP,A)
【文献】特開2006-213532(JP,A)
【文献】国際公開第2022/014219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/38
H01F 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZnCo系フェライトであって、
前記基本成分が、
Fe
2O
3:51.00mol%以上、58.00mol%未満、
ZnO:6.00mol%以上、13.00mol%未満、
CoO:0.10mol%超、0.50mol%以下および
残部MnO
からなり、
前記副成分が、前記基本成分に対し、
SiがSiO
2換算で50~500質量ppm、
CaがCaO換算で200~2000質量ppm、
NbがNb
2O
5換算で85~500質量ppmおよび
Kが5~20質量ppm
からなるMnZnCo系フェライト。
【請求項2】
平均結晶粒径が6.5μm以上、9.0μm以下である請求項1に記載のMnZnCo系フェライト。
【請求項3】
結晶粒径:6~10μmの範囲の結晶粒の存在割合が51%以上である請求項1または2に記載のMnZnCo系フェライト。
【請求項4】
最大磁束密度が200mTで周波数が100kHzのときの、最低磁気損失値が360kW/m
3以下である請求項1に記載のMnZnCo系フェライト。
【請求項5】
最大磁束密度が50mTで周波数が500kHzのときの、最低磁気損失値が200kW/m
3以下である請求項1または4に記載のMnZnCo系フェライト。
【請求項6】
平均結晶粒径が6.5μm以上、9.0μm以下であって、結晶粒径:6~10μmの結晶粒の存在割合が51%以上であり、
最大磁束密度が200mTで周波数が100kHzのときの、最低磁気損失値が360kW/m
3以下であって、
最大磁束密度が50mTで周波数が500kHzのときの、最低磁気損失値が200kW/m
3以下である請求項1に記載のMnZnCo系フェライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MnZnCo系フェライトに関し、特に車載のDC―DCコンバータのメイントランスに適する、コアロスが改善されたMnZnCo系フェライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
MnZnCo系フェライトは、代表的な軟磁性材料のうちの1つであり、車載のDC―DCコンバータ内のメイントランスやノイズフィルターなどに用いられている。その中でもメイントランスの電源用として用いられているMnZnCo系フェライトは、100kHzにおいて広い温度範囲で低損失であることが求められている。さらに、近年では高周波においても低損失であることが求められている。
【0003】
磁気損失を広い温度範囲で低く保つために制御すべき因子の1つとして、磁気異方性定数K1がある。磁気損失はK1=0となる温度で最小値をとり、K1の絶対値がゼロに近いほど、磁気損失の値も小さくなる。全体のK1はフェライトの主成分の元素それぞれのK1の足し合わせによって決定する。プラスのK1を有するのはFe2+とCo2+であり、マイナスのK1を有するのはFe3+、Mn2+である。また、Co2+はK1の温度依存性を小さくすることができ、K1の温度変化率を小さくする。よって、Co2+が存在すると、Co2+が存在していないときよりも広い温度範囲でK1を0に近い値を取るようになるため、磁気損失を広い温度範囲で小さくすることができる。
【0004】
例えば、特許文献1では、Fe2O3、MnO、ZnOを主成分とするフェライトに、Coイオンを0.01~0.5mol%導入することにより、K1=0の温度範囲を広げることで、磁気損失の温度特性が平坦になる技術が開示されている。
【0005】
ところで、磁気損失は、ヒステリシス損失、渦電流損失、残留損失に分けられる。
このうち、渦電流損失は、フェライトコアの比抵抗を向上させることにより低減することが可能であることが知られている。かかるフェライトコアの比抵抗を向上させるためには、粒界に高抵抗相を形成するような基本成分以外の物質の添加が有効である。
【0006】
例えば、特許文献2では、MnZn系フェライトに副成分として酸化カルシウムや酸化ケイ素などの酸化物を微量添加して粒界に偏析させ、粒界抵抗を高めることで、全体としての抵抗率を0.01~0.05Ω・m程度から数Ω・m以上高めることにより渦電流損失が低下し、全体の磁気損失を低下させる技術が開示されている。
【0007】
また、MnZnCo系フェライトの磁気損失を低減する手法として、Kの添加がある。Kの添加により副成分を粒界に偏析させることが可能である。この効果により、磁気損失の低減が可能である。
さらに、Kには、結晶粒を微細化する効果がある。結晶粒の微細化は、特に高周波での磁気損失低減に効果的である。このように、Kの添加によって磁気損失を低減することが可能である。
【0008】
特許文献3では、Fe2O3、MnO、ZnOを主成分とするフェライトに、NiOを添加することで、低損失かつ飽和磁束密度の高いフェライトを得る技術が開示されている。
【0009】
MnZn系フェライトの損失低減にアルカリ金属を添加する方法は、これまでに報告がなされている。例えば、特許文献4では、MnZnフェライトに0.15重量%以下のK2Oを添加することで周波数:100kHzの磁気損失が低減する技術が開示されている。また、特許文献5では、K換算で100~2000ppmのK酸化物の添加により、Pを多く含むMnZnフェライトにおいて、10~500kHzの周波数領域で磁気損失が低く、かつコア強度が高い磁心が得られる技術が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献6および7でも、KをK2CO3換算で0.3重量%以下添加することにより、高周波電源トランス用磁心の透磁率が向上し、かつ磁気損失を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公平04-033755号公報
【文献】特公昭36-002283号公報
【文献】特開2000-286119号公報
【文献】特開平1-296602号公報
【文献】特開平5-36516号公報
【文献】特開昭61-42104号公報
【文献】特開昭61-42105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されているフェライトは、同文献の第1図に示されている通り、損失極小温度が低温側にあり、近年における高温での動作範囲では、温度上昇が加速して熱暴走を起こす危険性がある。また、近年におけるフェライトコアの小型化に必要な特性である飽和磁束密度についての言及がなされていない。
【0013】
特許文献2に記載された技術では、Coが含有されていないことから、磁気損失の温度特性が平坦でないと考えられ、磁気損失が最低値となる温度から離れた温度であるほど、一層、磁気損失は高くなることが予想されるものの、かかる磁気損失についての言及がなされていない。
【0014】
特許文献3に記載された技術では、NiOを加えると、磁気損失が最低値となる温度が高温側にずれてしまい、低温側の磁気損失が大きくなってしまうという問題がある。
【0015】
特許文献4および特許文献5で言及されているアルカリ金属を添加する方法では、近年要求されているほど磁気損失値が低減していない。また、Coが添加されていないため、温度特性が平坦でない。よって、近年求められている特性を満たすとは言い難い。
【0016】
また、特許文献6および7で開示されている技術でも、主成分にCoが含まれておらず、磁気損失が十分に低い材料が得られるとは言い難い。
【0017】
すなわち、従来の技術では、磁気損失が近年要求されている数値を満たすMnZnCo系フェライトを提供することが困難であった。
【0018】
本発明の主な目的は、広い周波数領域、および広い温度範囲において、小さな磁気損失を持つ電源用MnZnCo系フェライトを提供することである。なお、本発明において、広い周波数領域とは100~500kHz程度の範囲を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、MnZnCo系フェライトに、一定のKが含有するように原料にKを添加することによって、上記した諸課題を解決することに成功した。
【0020】
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
1.基本成分、副成分および不可避的不純物からなるMnZnCo系フェライトであって、前記基本成分が、Fe2O3:51.00mol%以上、58.00mol%未満、ZnO:6.00mol%以上、13.00mol%未満、CoO:0.10mol%超、0.50mol%以下および残部MnOであって、前記副成分が、前記基本成分に対し、SiがSiO2換算で50~500質量ppm、CaがCaO換算で200~2000質量ppm、NbがNb2O5換算で85~500質量ppmおよびKが5~20質量ppmであるMnZnCo系フェライト。
【0021】
2.平均結晶粒径が6.5μm以上、9.0μm以下である前記1に記載のMnZnCo系フェライト。
【0022】
3.結晶粒径:6~10μmの範囲の結晶粒の存在割合が51%以上である前記1または2に記載のMnZnCo系フェライト。
【0023】
4.最大磁束密度が200mTで周波数が100kHzのときの、最低磁気損失値が360kW/m3以下である前記1~3のいずれかひとつに記載のMnZnCo系フェライト。
【0024】
5.最大磁束密度が50mTで周波数が500kHzのときの、最低磁気損失値が200kW/m3以下である前記1~4のいずれかひとつに記載のMnZnCo系フェライト。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、100~500kHzの広い周波数帯域で、かつ広い温度範囲であっても、磁気損失が低く、エネルギー効率が良い小型のMnZnCo系フェライトを提供することができる。さらに、磁気損失値のバラツキの小さいMnZnCo系フェライトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明のMnZnCo系フェライトの基本成分について具体的に説明する。
Fe2O3:基本成分中51.00mol%以上、58.00mol%未満
Fe2O3が基本成分中のmol比率で51.00mol%未満であると、焼結密度が低下し、磁気損失も増加してしまうため、51.00mol%以上とする必要がある。下限値は、好ましくは51.20mol%以上、より好ましくは51.30mol%以上、さらに好ましくは51.40mol%以上である。一方、Fe2O3は、基本成分中のmol比率で58.00mol%以上になると、磁気損失が大きくなり過ぎる。そのため、上限を58.00mol%未満とする。上限値は、好ましくは56.00mol%以下、より好ましくは54.00mol%以下、さらに好ましくは53.00mol%以下である。
【0027】
ZnO:基本成分中6.00mol%以上、13.00mol%未満
ZnOは、最大磁束密度が200mTで周波数が100kHzであるとき、磁気損失を360kW/m3以下とし、さらに最大磁束密度が50mTで周波数が500kHzであるとき、磁気損失を200kW/m3以下とするために、その含有量を基本成分中6.00mol%以上、13.00mol%未満の範囲とする必要がある。下限値は、好ましくは8.00mol%以上、より好ましくは10.00mol%以上、さらに好ましくは10.50mol%以上である。一方、上限値は、好ましくは12.50mol%以下、より好ましくは11.90mol%以下、さらに好ましくは11.80mol%以下である。
【0028】
CoO:基本成分中0.10mol%超、0.50mol%以下
CoOは、前述したように温度特性を調節する働きがある。しかし、CoOを過剰に含有すると、磁気損失が最低値となる温度が低下しすぎてしまう。よって、CoOは、0.50mol%を上限とする。上限値は、好ましくは0.49mol%以下、より好ましくは0.48mol%以下、さらに好ましくは0.47mol%以下である。一方、CoOは、含有量が少ないと温度係数の改善効果が小さくなって、磁気損失値の改善が望めない。よって、CoOは、0.10mol%超を下限とする。下限値は、好ましくは0.20mol%以上、より好ましくは0.30mol%以上、さらに好ましくは0.35mol%以上である。
【0029】
本発明は、MnZnCo系フェライトであり、上記Fe2O3、ZnOおよびCoO以外の基本成分の残部は、マンガン酸化物である。すなわち、かかる基本成分の合計量は100.00mol%となる。なお、マンガン酸化物を全てMnOとして換算した場合の、MnOの好ましい範囲は30.00~38.00mol%である。下限値は、より好ましくは31.00mol%以上、さらに好ましくは33.00mol%以上、よりさらに好ましくは35.10mol%以上である。一方、上限値は、より好ましくは37.50mol%以下、さらに好ましくは37.00mol%以下、よりさらに好ましくは36.50mol%以下である。
【0030】
本発明のMnZnCo系フェライトは、上記基本成分以外に、副成分としてSiO2やCaO、Nb2O5を含有させることを特徴とする。
【0031】
SiがSiO2換算で前記基本成分に対して50~500質量ppm
SiO2は、CaOと共に粒界に偏析し、高抵抗相を形成することで、渦電流損失が小さくなり、全体の磁気損失を低減する効果がある。含有量が50質量ppm未満では含有した効果が十分に得られない。一方、500質量ppmを超えて含有すると、焼結時に結晶粒が異常に成長する事象が発生し、かえって磁気損失が大幅に増加する。
したがって、SiはSiO2換算で、前記基本成分に対して50~500質量ppmの範囲で含有する必要がある。さらに、異常粒成長をより確実に抑制するためには、70質量ppm以上が好ましく、480質量ppm以下が好ましい。なお、SiはSiO2換算で、下限値は、より好ましくは80質量ppm以上、さらに好ましくは90質量ppm以上である。また、上限値は、より好ましくは450質量ppm以下、さらに好ましくは420質量ppm以下である。
【0032】
CaがCaO換算で前記基本成分に対して200~2000質量ppm
CaOは、SiO2と共存した場合、粒界に偏析して抵抗を向上させることにより磁気損失の低減に寄与するが、含有量が200質量ppm未満では、その含有した効果が十分に得られない。一方、2000質量ppmより多くなると、磁気損失は増大する。したがって、CaはCaO換算で、前記基本成分に対して200~2000質量ppmの範囲で含有する必要がある。さらに、異常粒成長をより確実に抑制するためには、下限値は300質量ppm以上の含有が好ましく、500質量ppm以上の含有がより好ましい。また、異常粒成長をより確実に抑制するためには、上限値は1800質量ppm以下の含有が好ましく、1500質量ppm以下の含有がより好ましい。
【0033】
NbがNb2O5換算で前記基本成分に対して85~500質量ppm
Nb2O5は、SiO2およびCaOとの共存下で、比抵抗の増大に有効に寄与する。含有量が85質量ppm未満である場合、十分な効果が得られない。一方、500質量ppmを超過すると、磁気損失を増大させてしまう。したがって、NbはNb2O5換算で、前記基本成分に対して85~500質量ppmの範囲で含有する必要がある。なお、下限値は90質量ppm以上が好ましく、95質量ppm以上がより好ましい。また、上限値は400質量ppm以下が好ましく、350質量ppm以下がより好ましい。
【0034】
さらに、本発明のMnZnCo系フェライトは、上記基本成分、副成分に加えて、さらに副成分として、焼結コア中にKを5~20質量ppmの範囲で含有することが重要である。
Kには、添加物を粒界に偏析させる効果があり、比抵抗の向上に作用する。また、Kには、結晶粒径を微細化かつ大きさを均一化する効果があり、微細化による高周波における損失の低下、また均一化による特性の向上に作用する。なお、焼成条件や焼成環境によってKの揮発量が変化するため、実際に添加する際の量は、焼成条件、環境によって異なる。
【0035】
ここで、焼結コア中のKが5質量ppm未満では含有した効果が十分に得られない。一方、Kは20質量ppmを超える量を含有すると、周波数:100kHzの磁気損失に最適な結晶粒径よりも小さくなるため、磁気損失が増加し始める。さらにKを過剰に添加すると、焼結時に結晶粒が過剰に微細化されてしまう部分と異常に成長する部分が発生してしまうので、磁気損失が大幅に増加する。したがって、Kは、焼結コア中に5~20質量ppmの範囲で含有するよう添加する必要がある。なお、かかるKは、6質量ppm以上が好ましく、18質量ppm以下が好ましい。
【0036】
本発明のMnZnCo系フェライトは、上記した基本成分、副成分および不可避的不純物からなっている。
ここで、本発明における不可避的不純物は、基本成分の原料に含まれるCl、Sr、Ba等が挙げられる。また、MnZnCo系フェライト全体に対し、0.01質量%程度以下であれば許容される。
【0037】
次に、本発明におけるMnZnCo系フェライトの製造方法について説明する。
基本成分となるFe2O3、MnO、ZnO、およびCoOの組成比が本発明の規定範囲内となるように秤量した原料粉末を、十分に混合した後、仮焼する。かかる仮焼後の粉末に、副成分であるSiO2、CaO、Nb2O5およびKを本発明の規定範囲内となるように秤量して添加し、十分に混合および粉砕を行う。かかる混合および粉砕を施した粉末にバインダーを加えて造粒し、金型を用いて圧縮成形する。かかる成形後の成形体を焼成してフェライト焼結体(製品)とする。
【0038】
かくして、上記フェライト焼結体は、従来のMnZnCo系フェライトではその実現が極めて困難であった、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した磁気損失が360kW/m3以下かつ最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した磁気損失が200kW/m3以下の本発明のMnZnCo系フェライトとなる。
さらに、上記フェライト焼結体は、最大磁束密度が200mTで周波数が100kHzのときの、40℃の磁気損失値が400kW/m3以下、かつ、120℃の磁気損失値が500kW/m3以下であり、最大磁束密度が50mTで周波数が500kHzのときの、40℃の磁気損失値が200kW/m3以下、かつ、120℃の磁気損失値が300kW/m3以下となる。
【0039】
ここで、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した最低磁気損失値が360kW/m3以下で、かつ、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した最低磁気損失値が200kW/m3以下であり、さらに、最大磁束密度が200mTで周波数が100kHzのときの、40℃の磁気損失値が400kW/m3以下、かつ、120℃の磁気損失値が500kW/m3以下であり、最大磁束密度が50mTで周波数が500kHzのときの、40℃の磁気損失値が200kW/m3以下、かつ、120℃の磁気損失値が300kW/m3以下であると、広い周波数範囲で低損失であるため、様々な周波数に対応することが可能である。
なお、最低磁気損失値とは、本発明において、磁気損失値(鉄損値)が極小となる温度(磁気損失極小温度)での磁気損失値(鉄損値)を意味する。
【0040】
平均結晶粒径が6.5μm以上9.0μm以下
本発明に従うMnZnCo系フェライトは、その平均結晶粒径を6.5μm以上9.0μm以下とすることが好ましい。平均結晶粒径が6.5μm未満の場合、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した磁気損失が悪化してしまうおそれがある。一方、平均結晶粒径が9.0μm超の場合、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した磁気損失が悪化してしまうおそれがある。
【0041】
結晶粒径が6~10μmの範囲の結晶粒の存在割合が51%以上
本発明に従うMnZnCo系フェライトは、結晶粒径が6~10μmの範囲の結晶粒の存在割合を51%以上とすることが好ましい。
また、MnZnCo系フェライトの平均結晶粒径を6.5μm以上9.0μm以下とした上で、結晶粒径が6~10μmの範囲の結晶粒の存在割合を51%以上とすると、結晶粒径が最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzでの磁気損失も、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzでの磁気損失も、いずれも低くなるような結晶粒径の大きさであり、かつ全体の結晶粒子の大きさがそろっていることで、残留損失が低減されて、本発明の磁気損失を達成することができる。
【0042】
その他上記に記載のない焼結体(MnZnCo系フェライト)を製造する方法は、その条件や使用機器等に特に限定はなく、いわゆる常法に従えば良い。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について確認した実施例について説明する。
[実施例1]
まず、基本成分である、Fe2O3、ZnO、MnOおよびCoOを表1に示す組成比(mol%)となるように秤量し、かかる秤量した原料粉末を、湿式ボールミルを用いて16時間混合し、大気中、925℃の環境下で3時間仮焼した。
上記仮焼後の基本成分を有する仮焼粉に対し、副成分としてSiO2、CaO、Nb2O5およびK(本実施例ではK2CO3を使用)を、表1に示した比率の量(質量ppm)となるように添加し、湿式ボールミルを用いて16時間粉砕した。かかる粉砕後に乾燥して得られた粉砕粉に対し、バインダーとしてポリ塩化ビニルを加え篩に通して造粒した。
上記造粒後の造粒粉を、外径:36mm、内径:24mm、高さ:12mmのリング状に成形し、酸素分圧:1~5vol%の範囲に制御した窒素と空気の混合ガス中にて2時間の焼成を施し、リング状試料(フェライト焼結体)を得た。なお、かかる焼成時の雰囲気の最高温度は1300~1350℃の範囲とした。また、かかる焼成は、ラボスケールのバッチ式の炉を用いた。
【0044】
前記リング状試料について、1次側:5巻・2次側:5巻の巻線を施し、温度が23~130℃において、交流BHループトレーサーを用いて、周波数:100kHzで磁束密度:200mTまで励磁したときの磁気損失(鉄損)、および周波数:500kHzで磁束密度:50mTまで励磁したときの磁気損失(鉄損)をそれぞれ測定した。
なお、磁気特性などの測定時の温度は、フェライト焼結体や、コア、部品等の対象物の表面を熱電対で測定した値を意味する。より具体的には、対象物の雰囲気温度を所定の温度に設定し、対象物の表面温度が雰囲気と同じ温度になったことを確認して、磁気特性等を測定している。
【0045】
また、平均結晶粒径と結晶粒径:6~10μmの結晶粒の存在割合は次のようにして測定した。
すなわち、作成したリング状試料を破断し、かかる破断後の断面を光学顕微鏡で観察して(400倍、この視野に含まれる結晶粒径の個数は1000~2000個)、各結晶粒を真円と仮定して結晶粒径を計算し、その平均値を求めた。かかる計算には画像解析ソフト「A像くん」(登録商標:旭化成エンジニアリング(株)製)を使用した。
次に、結晶粒の粒度分布を算出し、結晶粒径が6~10μmの範囲となる結晶粒の存在割合(個数の割合)を求めた。
【0046】
上記測定結果に基づき、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した際の磁気損失極小温度、並びに最低磁気損失値、40℃および120℃での磁気損失値と、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した際の磁気損失極小温度、並びに最低磁気損失値、40℃および120℃での磁気損失値と、さらには平均結晶粒径および結晶粒径が6~10μmの範囲となる結晶粒の存在割合とを、それぞれ表1に併記する。
ここで、表1のNo.1~15は、本発明に適合する発明例を、一方、表1のNo.16~21は、焼結体のK含有量が本発明の範囲から外れた比較例、表1のNo.22~39は基本成分またはK以外の副成分が本発明の範囲から外れた比較例を示したものである。
なお、表1における実施例において、不可避的不純物量は、いずれも0.01質量%以下であることを確認している。
【0047】
表1の記載からわかるように、Fe2O3、ZnO、MnOおよびCoOの基本成分とSiO2、CaOおよびNb2O5の副成分の組成をそれぞれ適切に選び、Kを適切な量含有するように添加した上で得られた発明例のMnZnCo系フェライトは、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した、磁気損失極小温度における磁気損失値は360kW/m3以下で、また、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した、磁気損失極小温度における磁気損失値は200kW/m3以下であり、広い周波数範囲かつ広い温度範囲で低損失であることがわかる。
【0048】
また、平均の結晶粒径が6.5~9.0μmと適切な大きさであり、または結晶粒径が6~10μmの範囲である結晶粒の存在割合が51%以上になる、というこれらの特性は、Kを含有した効果により結晶粒が均一化したことに起因して得られた特性である。
これらのことから、本発明に従えば、Kの添加により、100~500kHzの広い周波数領域、かつ広い温度範囲で低損失なMnZnCo系フェライト材が得られることが分かる。
【0049】
これに対して、Fe2O3、ZnO、MnOおよびCoOの基本成分並びにSiO2、CaO、Nb2O5およびKの副成分のいずれかが一つでも本発明の範囲を外れると、最大磁束密度:200mT、周波数:100kHzで測定した、磁気損失極小温度における磁気損失値が360kW/m3以下となる、また、最大磁束密度:50mT、周波数:500kHzで測定した、磁気損失極小温度における磁気損失値が200kW/m3以下となる、の少なくともいずれか一方が未達となる結果になった。
【0050】
【0051】
[実施例2]
表2に示す基本成分と副成分の組成を用いて、実施例1と同じ方法で造粒粉を製造し、実施例1と同形状のリングを成形した。
次いで、実施例1と焼成条件が同じになるように連続焼成炉を調整して、上記の成形したリングを焼成した。また、同じ成形リングを用いて、異なる日(複数日)に、同じ連続焼成炉を用いて同じ焼成条件で焼成を行った。
これら焼成日の異なる焼成品の磁気損失(周波数:100kHz、最大磁束密度:200mT、温度:80℃での磁気損失(鉄損)および周波数:500kHz、最大磁束密度:50mT、温度:80℃での磁気損失(鉄損)を前記した方法で測定し、平均値と標準偏差を求めた。
結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
一般に、連続焼成炉を使用すると、磁気損失等のばらつきが大きくなる傾向が認められるが、表2に記載の通り、本発明に従うことで、磁気損失値のばらつきが小さくなることが確認された。
【要約】
【課題】広い周波数領域、および広い温度範囲において、小さな磁気損失を持つ電源用MnZnCo系フェライトを提供する。
【解決手段】基本成分を、Fe2O3:51.00mol%以上、58.00mol%未満、ZnO:6.00mol%以上、13.00mol%未満、CoO:0.10mol%超、0.50mol%以下および残部MnOとし、副成分を、前記基本成分に対し、SiがSiO2換算で50~500質量ppm、CaがCaO換算で200~2000質量ppm、NbがNb2O5換算で85~500質量ppmおよびKが5~20質量ppmとする。
【選択図】なし