(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ポリイミド、ポリイミドワニス、ポリイミド薄膜
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2023040554
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2022131038の分割
【原出願日】2022-08-19
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021136454
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021192249
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022068619
(32)【優先日】2022-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慎治
(72)【発明者】
【氏名】澤田 梨々花
(72)【発明者】
【氏名】今井 涼太
(72)【発明者】
【氏名】矢島 和尚
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101648958(CN,A)
【文献】特開2014-172911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0116291(US,A1)
【文献】国際公開第2020/058460(WO,A1)
【文献】BENNOUR H. et al.,Synthesis and characterization of novel organosoluble biosourced poly(ester imide)s based on 1,4:3,6,Journal of Adhesion Science and Technology,2018年03月26日,Vol. 32 No.17,p. 1886-1898,DOI: 10.1080/01694243.2018.1453227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、熱重量分析による100℃での重量を基準値とした残渣重量率が95%になる熱分解温度(Td)が、3
70℃以上であるポリイミド。
【化1】
(式中、R
1は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5又は6の環状のアルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、nは、各々独立して0又は1~3の整数を示し、Aは、
炭素原子数6~8の芳香環を含む2価の有機基、炭素原子数1~30の直鎖状の脂肪族基を含む2価の有機基、炭素原子数1~30の分岐鎖状の脂肪族基を含む2価の有機基、または炭素原子数4~30の環状の脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)~(4)で表される繰り返し単位から選択される1つ以上の繰り返し単位を有する、請求項1に記載のポリイミド。
【化2】
【化3】
【化4】
(一般式(2)~(4)中、R
1、n、Aは、一般式(1)の定義と同じである。)
【請求項3】
下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する、請求項1に記載のポリイミド。
【化5】
(式中、R
1、n、Aは、一般式(1)の定義と同じである。)
【請求項4】
前記一般式(2)~(4)で表される繰り返し単位から選ばれる2つ以上の繰り返し単位を有する、請求項2に記載のポリイミド。
【請求項5】
前記一般式(2)及び前記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する、請求項4に記載のポリイミド。
【請求項6】
前記一般式(2)で表される繰り返し単位と前記一般式(4)で表される繰り返し単位とのモル比率が、(2):(4)=99:1~50:50の範囲である、請求項5に記載のポリイミド。
【請求項7】
前記一般式(1)におけるAの芳香環を含む2価の有機基が、下記一般式(5)で表される2価の有機基である、請求項
1に記載のポリイミド。
【化6】
(式中、R
2は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素原子数5又は6の環状アルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、mは、各々独立して0又は1~4の整数を示し、p、q及びrは、0又は1を示し、Xは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~15のアルキリデン基、炭素原子数2~15のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基、フェニレン基又はフルオレニリデン基を示し、*は、各々結合位置を示す。)
【請求項8】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、ポリイミド全体の15モル%以上である、請求項1に記載のポリイミド。
【請求項9】
請求項1に記載のポリイミドと有機溶媒を含む、ポリイミドワニス。
【請求項10】
請求項1に記載のポリイミドを含む、ポリイミド薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物由来資源の原料であるイソソルビドやイソマンニドといったジアンヒドロヘキシトールと、無水トリメリット酸類から合成される、エステル結合を有するテトラカルボン酸二無水物を使用して得られるポリイミド及び、それから得られるポリイミドワニス並びにポリイミド薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは物理的及び化学的耐熱性、電気絶縁性、機械的特性、難燃性及び製造工程の簡便さの観点から信頼性の高い材料として、現行のスーパーエンジニアリングプラスチックの中でも頻用されている。
ポリイミドの原料モノマーであるテトラカルボン酸二無水物やジアミン化合物は多くの場合、石油化学由来の原料により製造される。石油化学由来のポリイミドは、その石油由来の炭素含有量の高さが原因で、温室効果ガス排出の一因になる。さらに、石油化学製品は、その原料となる石油が何十万年もかけて自然に形成されるものであるため、再生不能な製品といえる。
一方、植物などの生物由来資源を原料にしたバイオベースプラスチックはその材料中の炭素が、植物が固定した二酸化炭素に由来するものとなるため、持続的低炭素社会の構築に有効であるとされている。しかしながら、バイオベースプラスチックはそのほとんどが耐熱性や力学物性に劣るため、その用途が限られており、エンジニアリングプラスチックとしての使用は困難という課題がある。
ディスプレイや、透明基板等の最先端用途にバイオベースプラスチックを広く適用するためには、優れた耐熱性、化学的安定性、環境安定性を有し、さらに優れた光学特性、誘電特性、機械的特性を有する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】中国特許出願公開第101648958号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生物由来資源を原料に用いながら、優れた耐熱性を有し、かつ優れた光学特性と誘電特性を有するポリイミド材料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述の課題解決のために鋭意検討した結果、イソソルビドやイソマンニドといったジアンヒドロヘキシトールと無水トリメリット酸類から合成される、エステル結合を有するテトラカルボン酸二無水物を使用して得られるポリイミドにより、かかる課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、
熱重量分析による100℃での重量を基準値とした残渣重量率が95%になる熱分解温度(Td)が、350℃以上であるポリイミド。
【化1】
(式中、R
1は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5又は6の環状のアルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、nは、各々独立して0又は1~3の整数を示し、Aは、2価の有機基を示す。)
2.下記一般式(2)~(4)で表される繰り返し単位から選択される1つ以上の繰り返し単位を有する、1.に記載のポリイミド。
【化2】
【化3】
【化4】
(一般式(2)~(4)中、R
1、n、Aは、一般式(1)の定義と同じである。)
3.下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する、1.に記載のポリイミド。
【化5】
(式中、R
1、n、Aは、一般式(1)の定義と同じである。)
4.前記一般式(2)~(4)で表される繰り返し単位から選ばれる2つ以上の繰り返し単位を有する、
2.に記載のポリイミド。
5.前記一般式(2)及び前記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する、
4.に記載のポリイミド。
6.前記一般式(2)で表される繰り返し単位と前記一般式(4)で表される繰り返し単位とのモル比率が、(2):(4)=99:1~50:50の範囲である、
5.に記載のポリイミド。
7.前記一般式(1)におけるA
の2価の有機基が、芳香環を含む2価の有機基又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を含む2価の有機基である、1.に記載のポリイミド。
8.前記一般式(1)におけるAの芳香環を含む2価の有機基が、下記一般式(5)で表される2価の
有機基である、
7.に記載のポリイミド。
【化6】
(式中、R
2は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素原子数5又は6の環状アルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、mは、各々独立して0又は1~4の整数を示し、p、q及びrは、0又は1を示し、Xは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~15のアルキリデン基、炭素原子数2~15のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基、フェニレン基又はフルオレニリデン基を示し、*は、各々結合位置を示す。)
9.
前記一般式(1)におけるAの直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を含む2価の有機基が、炭素原子数1~30の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基若しくは炭素原子数4~30の環状の脂肪族基を含む2価の有機基である、
7.に記載のポリイミド。
10.前記一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量が、ポリイミド全体の15モル%以上である、1.に記載のポリイミド。
11.1.に記載のポリイミドと有機溶媒を含む、ポリイミドワニス。
12.1.に記載のポリイミドを含む、ポリイミド薄膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかるポリイミドにより、生物由来資源を原料に用いながら、ポリイミド樹脂に求められる耐熱性を十分に有しつつ、優れた光学特性並びに誘電特性を有する材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】実施例2で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】実施例3で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図4】実施例4で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図5】実施例5で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図6】実施例6で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図7】実施例7で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図8】実施例8で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図9】実施例9で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図10】実施例10で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図11】実施例11で得られたポリイミド薄膜(膜厚約15μm)のATR赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図12】実施例1で得られたポリイミド薄膜の重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d
6)溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図13】実施例2で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図14】実施例3で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図15】実施例4で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図16】実施例5で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図17】実施例6で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図18】実施例7で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図19】実施例8で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図20】実施例9で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図21】実施例10で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図22】実施例11で得られたポリイミド薄膜のDMSO-d
6溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図23】実施例1で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図24】実施例2で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図25】実施例3で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図26】実施例4で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図27】実施例5で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図28】実施例6で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図29】実施例7で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図30】実施例8で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図31】実施例9で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図32】実施例10で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図33】実施例11で得られたポリイミド薄膜の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。
【
図34】実施例1で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図35】実施例2で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図36】実施例3で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図37】実施例4で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図38】実施例5で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図39】実施例6で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図40】実施例7で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図41】実施例8で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図42】実施例9で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図43】実施例10で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図44】実施例11で得られたポリイミド薄膜の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。
【
図45】実施例1で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図46】実施例2で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図47】実施例3で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図48】実施例4で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図49】実施例5で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図50】実施例6で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図51】実施例7で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図52】実施例8で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図53】実施例9で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図54】実施例10で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図55】実施例11で得られたポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
【
図56】実施例1で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図57】実施例2で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図58】実施例3で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図59】実施例4で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図60】実施例5で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図61】実施例6で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図62】実施例7で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図63】実施例8で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図64】実施例9で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図65】実施例10で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図66】実施例11で得られたポリイミド薄膜の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。
【
図67】実施例1で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約1μm)の円偏光二色性楕円率(CD)を示すスペクトルを示す図である。
【
図68】実施例2で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約1μm)の円偏光二色性楕円率(CD)を示すスペクトルを示す図である。
【
図69】実施例3で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約1μm)の円偏光二色性楕円率(CD)を示すスペクトルを示す図である。
【
図70】実施例9で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約1μm)の円偏光二色性楕円率(CD)を示すスペクトルを示す図である。
【
図71】実施例10で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約1μm)の円偏光二色性楕円率(CD)を示すスペクトルを示す図である。
【
図72】実施例11で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約1μm)の円偏光二色性楕円率(CD)を示すスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリイミドは、
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有し、熱重量分析による100℃での重量を基準値とした残渣重量率が95%になる熱分解温度(Td)が、350℃以上のものである。
【化7】
(式中、R
1は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5又は6の環状のアルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、nは、各々独立して0又は1~3の整数を示し、Aは、2価の有機基を示す。)
【0010】
本発明のポリイミドは、下記一般式(2)~(4)で表される繰り返し単位から選択される1つ以上の繰り返し単位を有することが好ましい。
【化8】
【化9】
【化10】
(一般式(2)~(4)中、R
1、n、Aは、一般式(1)の定義と同じである。)
この中でも一般式(2)で表される繰り返し単位を有することが特に好ましい。
一般式(2)~(4)で表される繰り返し単位から選ばれる2つ以上の繰り返し単位を有する場合として、例えば、一般式(2)及び一般式(3)で表される繰り返し単位を有する場合、一般式(2)及び一般式(4)で表される繰り返し単位を有する場合、一般式(3)及び一般式(4)で表される繰り返し単位を有する場合、一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表される繰り返し単位を有する場合が挙げられる。
この中でも、一般式(2)及び一般式(4)で表される繰り返し単位を有する場合に得られるポリイミドが、光透過性に優れる観点及び複屈折(Δn)の低下の観点から好ましい。この時の一般式(2)で表される繰り返し単位と一般式(4)で表される繰り返し単位とのモル比率は、(2):(4)=99:1~50:50の範囲が好ましく、(2):(4)=90:10~60:40の範囲がより好ましく、(2):(4)=80:20~60:40の範囲がさらに好ましい。
【0011】
一般式(1)~(4)におけるR1は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5又は6の環状のアルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示す。
中でも、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子が好ましく、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子がより好ましく、トリフルオロメチル基又はフッ素原子が特に好ましい。
【0012】
一般式(1)~(4)におけるnは、各々独立して0又は1~3の整数を示す。中でも、0、1又は2が好ましく、0又は1がより好ましく、0が特に好ましい。
【0013】
一般式(1)~(4)におけるAは、2価の有機基を示す。好ましくは、芳香環を含む2価の有機基、又は直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を含む2価の有機基である。
【0014】
前記芳香環を含む2価の有機基としては、炭素原子数6~8の芳香環を含む2価の有機基であることが好ましい。
前記芳香環を含む2価の有機基としては、下記一般式(5)で表される2価の基である態様がより好ましい。
【化11】
(式中、R
2は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素原子数5又は6の環状アルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、mは、各々独立して0又は1~4の整数を示し、p、q及びrは、0又は1を示し、Xは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~15のアルキリデン基、炭素原子数2~15のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基、フェニレン基又はフルオレニリデン基を示し、*は、各々結合位置を示す。)
【0015】
上記一般式(5)におけるR
2は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素原子数5又は6の環状アルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示す。
中でも、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子が好ましく、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子がより好ましく、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基がさらに好ましく、トリフルオロメチル基が特に好ましい。
一般式(5)におけるR
2がトリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基であると、ジアミン化合物に由来する部位とテトラカルボン酸二無水物のトリメリット酸に由来する部位が基底状態において形成する電子状態の電荷移動性が低下し、光吸収端が可視域から紫外域に移動するため、可視域における高い光透過性を有する他、低い屈折率、小さい誘電率、並びに小さい誘電正接を有するポリイミドが得られることから好ましい。ここで、光吸収端とは、ポリイミド薄膜の紫外・可視光透過率のスペクトルにおいて、吸光度が急峻に上昇する波長を指す。
一般式(5)におけるmは、各々独立して0又は1~4の整数を示し、0、1又は2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
一般式(5)におけるpは、0又は1を示し、1が好ましい。一般式(5)におけるpが0である場合は、一般式(5)における左側の芳香環に2つの結合位置が存在することになる。かかる場合一般式(5)は、下記一般式(5’)のように表される。
【化12】
(式中、R
2、m、qは一般式(5)の定義と同じである。)
一般式(5)におけるq、rは、各々独立して0又は1示し、0が好ましい。
一般式(5)におけるp及びqが0である場合(一般式(5’)におけるqが0である場合)、すなわち式中の芳香環がベンゼン環である場合に、*で表される2つの結合位置がベンゼン環のパラ位又はメタ位の位置関係にあることが好ましい。その中でも、メタ位の位置関係にあると、m-フェニレン結合の屈曲した構造を有することから、ジアミン化合物に由来する部位の電子供与性が低下し、かつポリイミドの分子間の凝集を阻害して、電荷移動性の光吸収が短波長化するために、可視域における高い光透過性を有する他、低い屈折率を有するポリイミドが得られることから好ましい。
一般式(5)におけるXは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~15のアルキリデン基、炭素原子数2~15のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基、フェニレン基又はフルオレニリデン基を示す。中でも、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~12のアルキリデン基、炭素原子数2~12のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~12のシクロアルキリデン基、フェニルエチリデン基又はフルオレニリデン基が好ましく、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~8のアルキリデン基、炭素原子数2~8のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数6~12のシクロアルキリデン基、フェニルエチリデン基又はフルオレニリデン基がより好ましく、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~4のアルキリデン基、炭素原子数2~4のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数6~9のシクロアルキリデン基又はフルオレニリデン基が特に好ましい。なお、アミド基(-NHCO-)やエステル基(-OCO-)の結合位置は限定されず、例えば、アミド基は「-CONH-」も含む。
前記、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基は、分岐鎖としてのアルキル基を含んでいてもよい。シクロアルキリデン基としては、具体的には、例えば、シクロペンチリデン基(炭素原子数5)、シクロヘキシリデン基(炭素原子数6)、3-メチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数7)、4-メチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数7)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数9)、シクロヘプチリデン基(炭素原子数7)、シクロドデカニリデン基(炭素原子数12)等が挙げられる。
【0016】
前記直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を含む2価の有機基としては、炭素原子数1~30の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基若しくは炭素原子数4~30の環状の脂肪族基を含む2価の有機基であることが好ましい。また、炭素原子数2~20の直鎖状又は分岐鎖状の2価の脂肪族基若しくは炭素原子数4~20の環状の2価の脂肪族基を含む炭化水素基であることがより好ましく、かかる炭化水素基にはフッ素原子などのハロゲン原子を含んでいてもよい。炭素原子数2~20の直鎖状又は分岐鎖状の2価の脂肪族飽和炭化水素基若しくは炭素原子数4~20の環状の2価の脂肪族飽和炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素原子数6~20の直鎖状又は分岐鎖状の2価の脂肪族炭化水素基若しくは炭素原子数6~20の環状の2価の脂肪族炭化水素基が特に好ましく、かかる脂肪族炭化水素基にはフッ素などのハロゲン原子を含んでいてもよい。
前記直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を含む2価の有機基として、具体的には、例えば、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-テトラメチレン基、1,5-ペンタメチレン基、1,6-ヘキサメチレン基、1,7-ヘプタメチレン基、1,8-オクタメチレン基、1,9-ノナメチレン基、ビス(1,4-シクロヘキシレン)メチレン基、トランス-1,4-シクロヘキサン-ジイル基、シス-1,4-シクロヘキサン-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ビスメチレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ビスメチレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ビスメチレン基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル基、デカヒドロナフタレン-1,4-ジイル基、トリシクロ[5.2.1.0]デカン-3,8-ビスメチレン基、アダマンタン-1,3-ジイル基、イソプロピリデンジシクロヘキサン-4,4’-ジイル基、ヘキサフルオロイソプロピリデンジシクロヘキサン-4,4’-ジイル基などが挙げられる。
この中でも、脂環式骨格を有する、トランス-1,4-シクロヘキサン-ジイル基、シス-1,4-シクロヘキサン-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ビスメチレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,5-ビスメチレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ビスメチレン基、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル基、デカヒドロナフタレン-1,4-ジイル基、トリシクロ[5.2.1.0]デカン-3,8-ビスメチレン基、アダマンタン-1,3-ジイル基、イソプロピリデンジシクロヘキサン-4,4’-ジイル基、ヘキサフルオロイソプロピリデンジシクロヘキサン-4,4’-ジイル基などは、ポリイミドにおけるジアミン化合物に由来する部位とテトラカルボン酸二無水物のトリメリット酸に由来する部位が基底状態において形成する電子状態の電荷移動性が低下し、光吸収端が可視域から紫外域に移動するために、可視域における高い光透過性を有する他、低い屈折率を有するポリイミドが得られることから好ましい。この中でも、トランス-1,4-シクロヘキサン-ジイル基、シス-1,4-シクロヘキサン-ジイル基がより好ましい。
【0017】
本発明のポリイミドは、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含有していれば、本発明の効果を損なわない限り、その他の骨格を有していてもよい。
例えば、下記一般式(6)で表される繰り返し単位を有してもよい。
【化13】
(式中、Wは4価の有機基(但し、下記一般式(7)で表される4価の基を除く)を示し、Aは一般式(1)の定義と同じである。)
【化14】
(式中、R
1及びnは一般式(1)の定義と同じであり、*は結合位置を示す。)
【0018】
一般式(6)で表される繰り返し単位におけるWの4価の有機基は、下記一般式(8)で表される構造、下記一般式(10)で表される構造、又は下記一般式(11)で表される構造の何れか1つ以上であることが好ましい。
【化15】
(式中、Vは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~15のアルキリデン基、炭素原子数2~15のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基、フェニレン基、フルオレニリデン基又は下記一般式(9)で表される2価の基を示し、aは0又は1を示し、*は結合位置を示す。)
【化16】
(式中、R
3は、各々独立して炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5又は6の環状のアルキル基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数5又は6の環状のアルコキシ基、炭素原子数6~8のアリール基、炭素原子数6~8のアリールオキシ基、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のハロゲン化アルキル基、又はハロゲン原子を示し、Uは、直接結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基(-SO
2-)、カルボニル基(-CO-)、アミド基(-NHCO-)、エステル基(-OCO-)、炭素原子数1~15のアルキリデン基、炭素原子数2~15のフッ素含有アルキリデン基、炭素原子数5~15のシクロアルキリデン基、フェニレン基、フルオレニリデン基を示し、bは各々独立して0又は1~4の整数を示し、c、d、e、及びfは、各々独立に0又は1を示し、*は結合位置を示す。)
【化17】
(式中、R
4は、各々独立して水素原子若しくはメチル基を示し、R
5は、各々独立して直接結合又は炭素原子数1~3のアルキレン基を示し、*は結合位置を示す。)
一般式(10)におけるR
5は、直接結合であることが好ましい。
【化18】
(式中、R
6は、二重結合もしくはカルボニル基を含んでもよい4価の脂肪族基を示し、*は結合位置を示す。)
一般式(11)における、二重結合もしくはカルボニル基を含んでもよい4価の脂肪族基は、二重結合もしくはカルボニル基を含んでもよい炭素原子数3~20の4価の脂肪族基であることが好ましい。具体的には、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
【化19】
(式中、*は結合位置を示す。)
【0019】
本発明のポリイミドが、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を有する場合の、一般式(1)で表される繰り返し単位含有量は、ポリイミド全体の15モル%以上含んでいることが好ましく、50モル%以上含んでいることがより好ましく、70モル%以上含んでいることがさらに好ましく、90モル%以上含んでいることが特に好ましい。また、上記一般式(1)の繰り返し単位は、規則的に配列されていてもよいし、ランダムにポリイミド中に存在していてもよい。
一般式(1)で表される繰り返し単位が、その中でも一般式(2)、(3)又は(4)で表される繰り返し単位である場合でも同様なモル%の範囲であり、一般式(2)、(3)又は(4)で表される繰り返し単位から選ばれる2つ以上の繰り返し単位を有する場合はその合計が同様なモル%の範囲である。
【0020】
本発明のポリイミドは、熱重量分析による100℃での重量を基準値とした残渣重量率が95%になる熱分解温度(Td)が、350℃以上であり、熱安定性が高く、ポリイミド樹脂に求められる耐熱性を十分に有している。かかる熱分解温度は、370℃以上であることが好ましく、380℃以上であることがより好ましく、390℃以上であることがさらに好ましく、400℃以上であることが特に好ましい。
【0021】
本発明のポリイミドの製造方法については特に限定されないが、例えば、下記一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(13)で表されるジアミン化合物の物質量が等モルになるように反応させて、下記一般式(14)で表されるポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を得る工程及びポリイミド前駆体をイミド化する工程を経て製造することができる。
【化20】
(一般式(12)及び一般式(14)中のR
1及びn並びに、一般式(13)及び一般式(14)中のAは、一般式(1)の定義と同じである。)
【0022】
その具体例として、上記一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物がイソソルビド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)(化合物(a))であり、上記一般式(13)で表されるジアミン化合物が1,4-ジアミノシクロヘキサン(化合物(b))である場合の製造方法を下記反応式で示す。化合物(a)と化合物(b)を重合させて、下記繰り返し単位を有するポリイミド前駆体(ポリアミド酸)(化合物(c))を得て、これをイミド化することにより目的物である下記繰り返し単位を有するポリイミド(化合物(d))を得ることが出来る。
【化21】
【0023】
一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、従来公知の方法により製造することができ、その製造方法には限定されない。例えば、下記反応式で表されるように、イソソルビド、イソマンニド、イソイジドといった、ジアンヒドロヘキシトールと、無水トリメリット酸クロライド等の一般式(15)で表される無水トリメリット酸類を反応させることにより製造することができる。
【化22】
(一般式(15)、(12)におけるR
1及びnは、一般式(1)の定義と同じである。)
【0024】
一般式(12)におけるR
1、nは、一般式(1)の定義と同じであり、好ましい態様も同じである。
一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、具体的には、例えば、下記式(i)~(iii)で表される化合物が挙げられる。
【化23】
なお、式(i)で表される化合物はイソソルビド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)であり、式(ii)で表される化合物はイソイジド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)であり、式(iii)で表される化合物はイソマンニド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)である。以下、各々、化合物(i)、化合物(ii)、化合物(iii)と称する場合がある。
これらの中でも、式(i)で表される化合物が特に好ましい。
本発明のポリイミドの製造方法において、一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物を1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
一般式(13)におけるAは、一般式(1)における定義と同じであり、好ましい態様も同じである。
一般式(13)におけるAが、芳香環を含む2価の有機基である場合、一般式(13)で表されるジアミン化合物は、芳香環を含むジアミン化合物である。芳香環を含むジアミン化合物は、一般式(5)で表される2価の基を有することが好ましい。芳香環を含むジアミンジアミン化合物としては、具体的には、一般式(5)におけるpが0である場合、例えば、p-フェニレンジアミン(PPD)、m-フェニレンジアミン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、1,4-ジアミノデュレン、1,4-ジアミノ-2-フェニルベンゼン、1,3-ジアミノ-4-フェニルベンゼン、1,3-ジアミノ-5-フェニルベンゼン、5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン(TFMPD)等のジアミノベンゼン類;1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン等のジアミノナフタレン類等が挙げられる。
この中でも、m-フェニレンジアミン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、1,3-ジアミノ-4-フェニルベンゼン、1,3-ジアミノ-5-フェニルベンゼン、5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン(TFMPD)等が好ましく、m-フェニレンジアミン(MPD)、5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン(TFMPD)がより好ましい。
一般式(5)におけるpが1である場合、例えば、2,2’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン;TFDB)等のジアミノビフェニル類;3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテル;3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド等のジアミノジフェニルスルフィド;3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等のジアミノジフェニルスルホン;3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン等のジアミノベンゾフェノン;ビス(3-アミノフェニル)メタン、ビス(4-アミノフェニル)メタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン等のビス(アミノフェニル)アルカン;2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、等のビスアミノフェニルヘキサフルオロプロパン;1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン等のビス(アミノフェニル)シクロアルカン;4,4’’-ジアミノ-p-ターフェニル、4,4’’-ジアミノ-m-ターフェニル等のジアミノターフェニル類、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等のビス(アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
一般式(13)で表されるジアミン化合物の中でも、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)、5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン(TFMPD)が好ましい。
【0026】
一般式(13)におけるAが、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を含む2価の有機基である場合、一般式(13)で表されるジアミン化合物は、直鎖状、分岐鎖状若しくは環状の脂肪族基を有するジアミン化合物である。このようなジアミン化合物としては、具体的には、例えば、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジアミン、デカヒドロ-1,4-ナフタレンジアミン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。
この中でも、脂環式骨格を有する、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジアミン、デカヒドロ-1,4-ナフタレンジアミン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3-ジアミノアダマンタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等のジアミン化合物が好ましく、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン、シス-1,4-ジアミノシクロヘキサンがより好ましい。
一般式(13)で表されるジアミン化合物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明のポリイミドが、さらに一般式(6)で表される繰り返し単位を有する場合のポリイミドは、一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物に加えて、一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外のポリイミド用モノマーとして用いられる酸二無水物を使用することによって製造することができる。
【0028】
一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外のポリイミド用モノマーとして用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、後述する、一般式(16)~(18)で表されるテトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。
一般式(16)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、下記構造式で表される化合物である。
【化24】
(式中、V及びaは、一般式(8)の定義と同じである。)
このようなテトラカルボン酸二無水物として、具体的には、aが0である場合、ピロメリット酸二無水物である。aが1である場合、具体的には、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)-3,3’-ジメチルビフェニル二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]エーテル二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]スルホン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,1-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]シクロヘキサン二無水物、1,1-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]シクロデカン二無水物、1,1-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン二無水物、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン二無水物、ハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、レゾルシノール-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,5-ジヒドロキシナフタレン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、2,6-ジヒドロキシナフタレン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、2,7-ジヒドロキシナフタレン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルビフェニル-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシ-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロデカン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、9,9’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)が挙げられる。
【0029】
一般式(17)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、下記構造式で表される化合物である。
【化25】
(式中、R
4、R
5は、一般式(10)の定義と同じである。)
一般式(17)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、R
5が直接結合である場合、具体的には、例えば、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。また、R
5の一方が直接結合で、他方が炭素原子数1~3のアルキレン基である場合は、具体的には、例えば、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。また、R
5が炭素原子数1~3のアルキレン基である場合、具体的には、例えば、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
この中でも、R
5が直接結合である、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0030】
一般式(18)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、下記構造式で表される化合物である。
【化26】
(式中、R
6は、一般式(11)の定義と同じである。)
一般式(18)で表されるテトラカルボン酸二無水物として、具体的には、例えば、下記構造式で表される化合物が挙げられ、かかる態様が好ましい。
【化27】
【0031】
一般式(12)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外のポリイミド用モノマーとして用いられるテトラカルボン酸二無水物は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明のポリイミドの製造において、ジアミン化合物の使用量(総モル量)は、テトラカルボン酸二無水物化合物の総モル量を1モルとして、その下限値は、好ましくは0.94モル以上、より好ましくは0.96モル以上、さらに好ましくは0.98モル以上、特に好ましくは0.99モル以上であり、その上限値は好ましくは1.20モル以下、より好ましくは1.10モル以下、さらに好ましくは1.05モル以下、特に好ましくは1.02モル以下である。
【0033】
本発明のポリイミドを製造する際の重合反応の方法の具体例を説明する。
先ず、ジアミン化合物を重合溶媒に溶解し、この溶液にテトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、メカニカルスターラー等を用い、0~100℃の範囲、好ましくは20~60℃で0.5~150時間、好ましくは1~72時間撹拌する。この際モノマー濃度は、通常、5~50重量%の範囲、好ましくは10~40重量%の範囲である。このようなモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、均一で高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を得ることができる。ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の重合度が増加しすぎて、重合溶液が撹拌しにくくなった場合は、適宜同一溶媒で希釈することもできる。上記モノマー濃度範囲で重合を行うことによりポリマーの重合度が十分高く、モノマー及びポリマーの溶解性も十分確保することができる。上記範囲より低い濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の重合度が十分高くならない場合があり、また、上記モノマー濃度範囲より高濃度で重合を行うと、モノマーや生成するポリマーの溶解が不十分となる場合がある。
【0034】
ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の重合に使用される溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体(ポリアミド酸)、そしてイミド化されたポリイミドが溶解すれば如何なる溶媒であっても何ら問題なく使用でき、特にその溶媒の構造や種類には限定されない。具体的には、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール系溶媒、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。その他汎用溶媒として、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。これらの溶媒は、2種類以上混合して用いてもよい。
【0035】
本発明のポリイミドを製造する際の重合反応において、原料の会合体や生成物の不溶化(ゲル化)が起こりにくくするために、さらにシリル化剤を使用することができる。使用できるシリル化剤は特に限定されないが、例えば、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド等が挙げられる。
【0036】
得られたポリイミド前駆体(ポリアミド酸)のイミド化方法について説明する。
イミド化は公知のイミド化方法が適用でき、例えば、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)薄膜を熱的に閉環させる「熱イミド化法」、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液を高温で閉環させる「溶液熱イミド化法」、脱水剤を用いる「化学イミド化法」などが適宜使用できる。
具体的には、「熱イミド化法」では、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液を基板等に流延し、50~200℃、好ましくは60~150℃で乾燥してポリイミド前駆体(ポリアミド酸)薄膜を形成した後、不活性ガス中や減圧下において150℃~400℃、好ましくは200℃~380℃で1~12時間加熱することで熱的に脱水閉環させイミド化を完結させること本発明のポリイミドを得ることができる。
また、「溶液熱イミド化法」では、塩基性触媒などを添加したポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液をキシレン等の共沸剤存在下で100~250℃、好ましくは、150~220℃で0.5~12時間加熱することで副生する水を系内から除去しイミド化を完結させ、本発明のポリイミド溶液を得ることができる。もしくは、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液をN,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド溶媒中で、窒素気流下、150~220℃、好ましくは、165~205℃で0.5~2時間加熱することで、副生する水を系内から部分的に除去しイミド化を完結させ、本発明のポリイミド溶液を得ることができる。
「化学イミド化法」では、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を撹拌し易い適度な溶液粘度に調整したポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液をメカニカルスターラーなどで撹拌しながら、有機酸の無水物と、塩基性触媒としてアミン類からなる脱水閉環剤(化学イミド化剤)を滴下し、0~100℃、好ましくは10~50℃で1~72時間撹拌することで化学的にイミド化を完結させる。その際に使用可能な有機酸無水物としては特に限定されないが、無水酢酸、無水プロピオン酸等が挙げられる。試薬の取り扱いや精製のし易さから無水酢酸が好適に使用される。また塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、キノリン等が使用でき、試薬の取り扱いや分離のし易さからピリジンが好適に用いられるが、これらに限定されない。化学イミド化剤中の有機酸無水物量は、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の理論脱水量の1~10倍モルの範囲であり、より好ましくは1~5倍モルである。また塩基性触媒の量は、有機酸無水物量に対して0.1~2倍モルの範囲であり、より好ましくは0.1~1倍モルの範囲である。
【0037】
「溶液熱イミド化法」や「化学イミド化法」では反応溶液中に触媒や化学イミド化剤、副生成物のカルボン酸などの成分(以下、不純物という)が混入しているため、これらを除去して精製してもよい。精製は公知の方法が利用できる。例えば、最も簡便な方法としては、イミド化した反応溶液を撹拌しながら大量の貧溶媒中に滴下してポリイミドを析出させた後、ポリイミド粉末を回収して不純物が除去されるまで繰返し洗浄する方法がある。この時、使用できる貧溶媒としては、ポリイミドを析出させ、不純物を効率よく除去でき、乾燥し易い、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好適であり、これらを混合して用いてもよい。貧溶媒中に滴下して析出させる時のポリイミド溶液の濃度は、高すぎると析出するポリイミドが粒塊となり、その粗大な粒子中に不純物が残留する可能性や、得られたポリイミド粉末を溶媒に溶解する時間が長時間要する恐れがある。一方、ポリイミド溶液の濃度を薄くし過ぎると、多量の貧溶媒が必要となり、廃溶剤処理による環境負荷増大や製造コスト高になるため好ましくない。従って、貧溶媒中に滴下する時のポリイミド溶液の濃度は20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。この時使用する貧溶媒の量はポリイミド溶液の等量以上が好ましく、1.5~3倍量が好適である。
得られたポリイミド粉末を回収し、残留溶媒を減圧乾燥や熱風乾燥などで除去して、本発明のポリイミドを得ることができる。乾燥温度と時間は、ポリイミドが変質せず、残留溶媒が分解しない温度であれば制限はなく、30~200℃の温度範囲において48時間以下で乾燥させることが好ましい。
【0038】
本発明のポリイミドは、その固有粘度として、好ましくは0.1~10.0dL/gの範囲であり、より好ましくは0.2~5.0dL/gの範囲である。
本発明のポリイミドは様々な有機溶媒に可溶なことから、ポリイミドワニスとすることができる。その有機溶媒としては、ワニスの使用用途や加工条件に合わせて溶媒を選ぶことができる。例えば、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、ジメチルスルホキシドなどが使用できる。この中でも溶解性の観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒を使用することが好ましい。これらの溶媒を、2種類以上混合して用いてもよい。
【0039】
本発明のポリイミドを溶媒に溶解して溶液とするときの固形分濃度としては、ポリイミドの分子量、製造方法や製造する加工物にもよるが、5重量%以上が好ましい。固形分濃度が低すぎると、十分な膜厚に加工することが困難となり、逆に固形分濃度が濃いと溶液粘度が高すぎて加工することが困難になる恐れがある。本発明の溶融加工用材料に含まれるポリイミドを溶媒に溶解するときの方法としては、例えば、溶媒を撹拌しながら本発明の溶融加工用材料に含まれるポリイミド粉末を加え、空気中又は不活性ガス中で室温から溶媒の沸点以下の温度範囲で1~48時間かけて溶解させ、ポリイミド溶液(ワニス)にすることができる。
得られたポリイミド溶液は、公知の方法でポリイミドを様々な形状に成形することができる。例えば、膜状に成型する場合は、ポリイミド溶液をガラス基板等の支持体上にドクターブレード等を用いて流延し、熱風乾燥器、赤外線乾燥炉、真空乾燥器、イナートオーブン等を用いて、通常、40~350℃の範囲、好ましくは、50~250℃の範囲で乾燥することにより、行うことができる。
【0040】
本発明のポリイミドは、例えば、表示装置用デバイス(例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フォルダブルディスプレイ、ローラブルディスプレイ、3Dディスプレイ)、タッチパネル、有機EL照明、太陽電池などの透明基板やカバーフィルム用材料;光学フィルム用材料(例えば、導光板、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、導光フィルム)、電子部品の絶縁材料、半導体装置におけるパッシベーション膜、バッファーコート膜、層間絶縁膜等の材料、フレキシブルプリント基板、金属張積層板などの配線板用材料、航空機用、モーター用、発電機用等の電線被覆材料、有機ELデバイス用の発光材料や光センサー用材料、光レーダー用材料、3Dディスプレイ用材料等に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明における分析方法は以下のとおりである。
【0042】
<分析方法>
1.赤外吸収スペクトル
ポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルは、FT/IR4200フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製)を用い、Geプリズムを用いたATR(Attenuated Total Reflection、減衰全反射)法にて、ポリイミド薄膜試料(15μm厚)を測定した。
【0043】
2.1H-NMRスペクトル
ポリイミド薄膜の1H-NMRスペクトルは、JNM.ECP400フーリエ変換核磁気共鳴分光計(JEOL社製)を用い、ポリイミド薄膜試料を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に部分溶解して測定した。化学シフトの基準はTMS(テトラメチルシラン)を用いた。
【0044】
3.ガラス転移温度:Tg
ポリイミド薄膜のガラス転移温度は、TMA60熱機械分析装置(島津製作所製)を用いて、試料サイズを幅5mm、長さ10mm、荷重を5gとして、10℃/分で150℃まで一旦昇温(1回目の昇温)させた後、20℃まで冷却し、さらに10℃/分で昇温(2回目の昇温)させて2回目の昇温時のTMA曲線の接線法(ガラス状態の接線とTg以降の接線の交点)より求めた。
【0045】
4.平均線熱膨張係数:CTE
ポリイミド薄膜の平均線熱膨張係数は、TMA60熱機械分析装置(島津製作所製)を用いて、試料サイズを幅5mm、長さ10mm、荷重を5gとして、10℃/分で150℃まで一旦昇温(1回目の昇温)させた後、20℃まで冷却し、さらに10℃/分で昇温(2回目の昇温)させて2回目の昇温時のTMA曲線より計算した。線熱膨張係数は80~200℃の間の平均値として求めた。
【0046】
5.熱分解温度(窒素雰囲気):Td
ポリイミド薄膜の熱分解温度は、TG-DTA60熱重量分析装置(島津製作所製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分での昇温過程において、100℃での重量を基準値として残渣重量率が95%になる温度を熱分解温度(Td)として測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0047】
6.紫外・可視光透過性
ポリイミド薄膜の紫外・可視域における光透過性は、V-670紫外・可視分光光度計(日本分光社製)を用いて、波長250~800nmの範囲で、石英基板上に成膜したポリイミド薄膜試料を測定した。測定の光路には、紫外可視域で高い偏光度を有するグランテーラー偏光子を挿入することでp偏光とし、かつ測定試料を光路に対してブリュースター角(約60度)となるように傾かせることによって、薄膜表面での多重反射の影響を極力、排除した。
【0048】
7.平均屈折率:navと複屈折:Δn
ポリイミド薄膜の屈折率は、PC-2010プリズムカプラー(メトリコン社製)を用いて、波長636nm、845nm、1310nm、1558nmにおいて、シリコン基板上に成膜したポリイミド薄膜試料を測定した。ここで、各波長に対応する1/2波長板を光路に挿入しレーザ光の直線偏光面を回転させることで、膜面に平行な方向(nTE)と垂直な方向(膜厚方向)(nTM)の屈折率を測定した。これらの屈折率から、ポリイミド膜の平均屈折率(nav
2=(2nTE
2+nTM
2)/3)と複屈折(Δn=nTE-nTM)を算出した。
【0049】
8.誘電率(推定値):εref
ポリイミド薄膜の誘電率(推定値)は、波長1310nmにおける平均屈折率navに基づき、(εref=1.1×nav
2)として算出した。
【0050】
9.誘電率、誘電正接(実測値)
ポリイミド薄膜の誘電率、誘電正接は、周波数10GHzおよび20GHzにおいて、VNAネットワークアナライザMS46122B(アンリツ社製)と空洞共振器(10GHz、20GHz)(エーイーティー社製)を用いTEモードで測定を行った。また測定は、ポリイミド薄膜を120℃で2時間、乾燥後、23℃±1℃、50%RH±5%環境下で24時間、調湿後に行った。
【0051】
10.円偏光二色性:CD
ポリイミド薄膜の円偏光二色性(CD)は、J-1000円二色性分散計(日本分光社製)を用い、波長190~500nmの範囲で、石英基板上に成膜したポリイミド薄膜試料を測定した。
【0052】
11.溶解性試験
ポリイミド薄膜の溶媒への溶解性は、ポリイミド薄膜0.1gに対し、表3に記載の溶媒9.9g(固形分濃度1重量%)をガラス製試料管に入れ、試験管ミキサーを用いて60分間撹拌して溶解状態を目視で確認した。溶媒として、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(GBL)を使用した。評価結果は、室温で溶解した場合を「++」、加熱により溶解し、且つ室温まで放冷後も均一性を保持していた場合を「+」、膨潤/一部溶解した場合を「±」、不溶の場合を「-」として表3中に表示した。
【0053】
<合成例1> 化合物(i)(イソソルビド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)の合成
温度計、撹拌機、冷却管を備えた4つ口フラスコにイソソルビドと30倍の無水ジクロロメタンを仕込み、混合液を撹拌して溶解させながら、そこにイソソルビドに対して1.1モル倍のトリエチルアミンを添加した。さらに、イソソルビドに対して2.1モル倍の無水トリメリット酸クロライドを添加し、0℃で20時間撹拌した。
生成した沈殿をろ別し、ろ液をゆっくりと30倍の石油エーテル中に滴下し、白色固体を得た。得られた白色固体をろ別し、減圧下80℃にて乾燥させた。得られた白色固体を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解し、1H-NMRで分析し、目的化合物である化合物(i)であると同定した。
【0054】
<合成例2> 化合物(iii)(イソマンニド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)の合成
温度計、撹拌機、冷却管を備えた4つ口フラスコにイソマンニドと38倍の無水ジメチルアセトアミドを仕込み、混合液を撹拌して溶解させながら、そこにイソマンニドに対して1.1モル倍のトリエチルアミンを添加した。さらに、イソマンニドに対して2.1モル倍の無水トリメリット酸クロライドを添加し、20℃で28時間撹拌した。
生成した沈殿をろ別し、ろ液をゆっくりと38倍の石油エーテル中に滴下し、白色固体を得た。得られた白色固体をろ別し、減圧下80℃にて乾燥させた。得られた白色固体を重水素化クロロホルム(CDCl3)に溶解し、1H-NMRで分析し、目的化合物である化合物(iii)であると同定した。
【0055】
<実施例1>
窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に1,4-シクロヘキサンジアミン(DACH)0.571g(5mmol)と、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)1.29gを、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)12.6gに溶解し、<合成例1>に従って合成した化合物(i)2.472g(5mmol)を数回にわけて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度18.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉(イナートオーブン)内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然放冷した。基板から剥離し、無色透明のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率、円偏光二色性)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。実施例1のポリイミドの構造式を以下に示す。
【化28】
【0056】
<実施例2>
窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)1.601g(5mmol)を、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)12.9gに溶解し、化合物(i)2.472g(5mmol)を数回にわけて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度24.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然放冷した。基板から剥離し、無色透明のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率、円偏光二色性)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。実施例2のポリイミドの構造式を以下に示す。
【化29】
【0057】
<実施例3>
窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)1.00g(5mmol)を、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)17.0gに溶解し、化合物(i)2.472g(5mmol)を数回にわけて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度18.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然降温させた。基板から剥離し、淡黄色のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率、円偏光二色性)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。実施例3のポリイミドの構造式を以下に示す。
【化30】
【0058】
<実施例4> 化合物(i):化合物(iii)=9:1(モル比))の例 窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)1.60g(5mmol)を、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)12.9gに溶解し、化合物(iii)0.247g(0.5mmol)を混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で6時間撹拌し、さらに化合物(i)0.225g(4.5mmol)を数回に分けて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度24.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然放冷した。基板から剥離し、無色透明のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。実施例4のポリイミドの構造式を以下に示す。下記構造式におけるmとnの比は9:1である。
【化31】
【0059】
<実施例5> 化合物(i):化合物(iii)=8:2(モル比))の例
窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)1.60g(5mmol)を、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)12.9gに溶解し、化合物(iii)0.494g(1mmol)を混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で6時間撹拌し、さらに化合物(i)1.977g(4mmol)を数回にわけて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度24.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然放冷した。基板から剥離し、無色透明のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。ここで、実施例5のポリイミドの構造式は、実施例4に示した構造式と同じであり、mとnの比は8:2である。
【0060】
<実施例6>
実施例4における化合物(i)と化合物(iii)のモル比を7:3に変更した以外は、実施例4と同一の調製法により、ポリイミドを製造した。
【0061】
<実施例7>
実施例4における化合物(i)と化合物(iii)のモル比を6:4に変更した以外は、実施例4と同一の調製法により、ポリイミドを製造した。
【0062】
<実施例8>
実施例4における化合物(i)と化合物(iii)のモル比を5:5に変更した以外は、実施例4と同一の調製法により、ポリイミドを製造した。
【0063】
<実施例9>
窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン(TFMPD)1.761g(10mmol)を、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)21.2gに溶解し、化合物(i)4.944g(10mmol)を数回にわけて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度24.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然放冷した。基板から剥離し、無色透明のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率、円偏光二色性)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。実施例9のポリイミドの構造式を以下に示す。
【化32】
【0064】
<実施例10>
窒素雰囲気下において、蓋付きガラス容器に1,4-フェニレンジアミン(PPD)1.081g(10mmol)を、脱水N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)27.4gに溶解し、化合物(i)4.944g(10mmol)を数回にわけて混合し、磁気撹拌子で撹拌しながら溶解した。その後、室温で12時間撹拌し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た(固形分濃度18.0重量%)。このポリアミド酸溶液を、スピンコータに設置したシリコン基板又は溶融石英基板上に展開、回転塗布により製膜し、基板ごと加熱炉内に移動した。その後、窒素気流下、70℃で50分乾燥させ、次いで昇温速度:3℃/分で280℃まで昇温し、280℃で90分保持した後、室温まで自然放冷した。基板から剥離し、淡黄色のポリイミド薄膜を得た。なお、光学測定(光透過性、屈折率、円偏光二色性)の目的に調製したポリイミド薄膜は、基板から剥離せずに測定に用いた。得られたポリイミド薄膜は乾燥デシケータ中に保管した。実施例10のポリイミドの構造式を以下に示す。
【化33】
【0065】
<実施例11>
実施例10における1,4-フェニレンジアミン(PPD)を、その構造異性体である1,3-フェニレンジアミン(MPD)に代えた以外は実施例10と同一の調製法により、ポリイミドを製造した。実施例11のポリイミドの構造式を以下に示す。
【化34】
【0066】
実施例1~11のポリイミド薄膜について後述のとおり評価した物性を下記表1、2にまとめて示す。なお、表1のT400(%)、T450(%)は、それぞれ波長400nm、450nmにおける光透過率(%)を、λ(T95%)は、光透過率(%)が95%になる波長(nm)を意味する。
【0067】
【0068】
【0069】
<イミド化反応の完結確認>
図1~11は、それぞれ実施例1~11で得られたポリイミド薄膜(膜厚は約15μm)のフーリエ変換ATR(減衰全反射)赤外吸収スペクトルを示す図である。
図1~11において、1760cm
-1付近のピークはイミド基に含まれる2つのカルボニル炭素の対称伸縮振動、1700cm
-1付近のピークは同カルボニル炭素の非対称伸縮振動、1370cm
-1付近のピークはイミド環窒素(N)とベンゼン環1位炭素またはシクロヘキシル基1位炭素の単結合の伸縮振動に帰属される信号である。加えて
図2~11においては、1480~1510cm
-1付近にジアミン部のベンゼン環C=C伸縮振動に帰属されるピークが観測される。一方、1670cm
-1付近にはイミド化が完結しない場合に観測されるアミド基のピークは観測されていない。よって、実施例1~11における熱イミド化反応は完結しており、確かにポリイミド薄膜が得られたことが明らかとなった。
【0070】
図12~22は、実施例1~11のポリイミド薄膜の重水素化ジメチルスホキシド(DMSO-d
6)溶液の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
これらの
図12~22中の*はTMS(基準物質)、#はDMSO(溶媒)、+は水分の信号であり、7.5~8.5ppmの信号はフェニル基水素、4.5~5.5ppmの信号はイソソルビド及びイソマンニドの脂環式構造の水素に帰属される。ここで、
図15~19(実施例4~8)で観測された4.9ppm及び5.4ppmのピーク(†)は、イソマンニドに帰属される信号であり、その強度比から実施例4~8のポリイミド共重合体において、イソマンニドがそれぞれ10mol~50mol%含まれていることが確認された。また、実施例1における4.2ppmの信号は、シクロヘキシル基の1位水素、1~3ppmはシクロヘキシル基の1位以外の水素に帰属される。これらのスペクトルにおいて主たる信号はすべてポリイミドの構造に帰属することができ、かつイミド化が完結した場合に観測される信号のみが観測されている。よって、実施例1~11における熱イミド化反応は完結しており、確かにポリイミド薄膜が得られたことが明らかとなった。なお、実施例10のポリイミドについてはDMSO-d
6への溶解性が極めて低いため、スペクトルの分解能が低くノイズが多いが、その分子構造に特徴的な信号は観測されている。
【0071】
<ガラス転移温度(Tg)及び平均線熱膨張係数(CTE)測定>
図23~33は、実施例1~11のポリイミド薄膜(約15μm厚)の熱機械分析(TMA)のチャートを示す図である。表1に、低温部(150℃~250℃)の接線と高温部(270℃~275℃)の接線の交点から求めたガラス転移温度(Tg)、および80℃~200℃で求めた平均線熱膨張係数(CTE)を示している。
Tgはいずれも240℃~268℃の範囲であり、耐熱性樹脂として十分に高いTgを有していることが明らかになった。また、CTEは44~67ppm/Kであり、これは等方的な化学構造を有するポリイミドとしては、標準的かやや小さい値(非特許文献1:S. Ando et al., Macromolecular Chemistry and Physics, 2017, 1700354, (2017).)であることが明らかになった。
【0072】
<熱分解温度測定>
図34~44は、実施例1~11のポリイミド薄膜(約15μm厚)の熱重量分析(TGA)のチャートを示す図である。表1に、100℃での重量を基準値として残渣重量率が95%になる熱分解温度(Td)を示している。Tdはいずれも400℃~417℃の範囲であり、耐熱性樹脂として十分に高い熱分解温度を有していることが明らかになった。
【0073】
<紫外・可視光透過性評価>
図45~55は、実施例1~11のポリイミド薄膜(石英基板上に成膜、約10μm厚)の紫外・可視光透過率のスペクトルを示す図である。
ここで、実施例1で得られた薄膜は、膜中に存在する微少散乱体に起因するわずかな濁り(ヘイズ)が見られた。また、実施例3と10で得られた薄膜は透明でありながら、淡黄色を呈していた。他の実施例(実施例2、4~9、11)において得られた薄膜はすべてが無色透明であり、波長450nmにおける光透過率は97.5~99.1%、かつ光透過性が95%となる波長は415~423nmの範囲にあり、可視光波長(400~780nm)の全域で極めて高い光透過性を有していることが明らかになった。これはジアミン化合物として用いた1,4-シクロヘキサンジアミン(DACH)が脂環式骨格を、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)と5-トリフルオロメチル-1,3-フェニレンジアミン(TFMPD)が、かさ高くかつ電子吸引性の強いトリフルオロメチル基を有しており、その結果、ポリイミドのジアミン化合物に由来する部位とテトラカルボン酸二無水物のトリメリット酸に由来する部位が基底状態において形成する電子状態の電荷移動性が低下し、光吸収端が可視域から紫外域に移動することに起因している。特筆すべきは、テトラカルボン酸二無水物としてイソソルビド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)単独で合成した実施例2に比べて、イソマンニド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)を10~50mol%加えた実施例4~8の全てにおいて光透過性が向上している点である。これはイソマンニドに由来する強く屈曲した構造によりポリイミドの分子間の凝集が阻害され、分子間での電荷移動性の光吸収がさらに抑制されたためと考えられる。加えて、ジアミン化合物として1,4-フェニレンジアミン(PPD)を用いた実施例10のポリイミドが淡黄色を示したのに対し、その構造異性体である1,3-フェニレンジアミン(MPD)を用いた実施例11のポリイミドは無色透明であった。これもm-フェニレン結合の屈曲した構造によりジアミン化合物に由来する部位の電子供与性が低下し、かつポリイミドの凝集が阻害されたために、分子内および分子間の電荷移動性の光吸収が抑制されたことによると考えられる。
一方、実施例3と10で得られた薄膜は、原料であるジアミン化合物のベンゼン環部位とテトラカルボン酸二無水物のトリメリット酸部位が、基底状態において前者から後者への電荷移動性の電子状態を有していることに起因し、可視短波長域の紫~青色の光をわずかに吸収するため、淡黄色を呈したと考えられる。
【0074】
<屈折率特性評価>
図56~66は、実施例1~11のポリイミド薄膜(シリコン基板上に成膜、約15μm厚)の屈折率(n
TE、n
TM、n
av)と複屈折(Δn)の波長依存性を示す図である。表2に、波長1310nmで測定した平均屈折率および複屈折を代表値としてまとめて示した。
実施例1~11のポリイミド薄膜は、汎用の全芳香族ポリイミドに比べて低い屈折率(1.555~1.603)を示すことが明らかになった。これは使用したテトラカルボン酸二無水物に含まれる、イソソルビドまたはイソマンニド由来の脂環式構造が、分極率が低く、分子体積が大きいことに起因していると考えられる。
中でも、実施例1、2、4~9、11のポリイミド薄膜は、脂環式構造やフッ素を含まない汎用の全芳香族ポリイミドの、波長1310nmにおける標準的な平均屈折率n
av(1.65~1.71、非特許文献2:S. Ando et al., Japan Journal of Applied Physics, 41, 5254-5258, (2002))に比べて、顕著に低い屈折率(1.555~1.588)を示している。これは、イソソルビドまたはイソマンニド由来 の脂環式構造に加え、使用したジアミン化合物に含まれる、シクロヘキシル基やトリフルオロメチル基に起因していると考えられる。また、実施例11のポリイミドの屈折率が実施例10のそれに比べて顕著に低いのは、m-フェニレン結合の屈曲した構造により分子間の凝集が阻害され、密度が低下したためと考えられる。
加えて、実施例1~11のポリイミド薄膜は、上記の汎用の全芳香族ポリイミドにおける波長1310nmにおける標準的な複屈折(Δn)(0.026~0.170、非特許文献3:Y. Terui et al., Journal of Polymer Science, 42, 2354-2366, (2004).)に比べ、顕著に小さな複屈折(0.005~0.021)を示すことが明らかになった。これも平均屈折率を低下させるとともに分子鎖配向や凝集構造の形成を阻害するイソソルビド、イソマンニド由来の脂環式構造に起因していると考えられる。
中でも実施例1、3、8、9、11の複屈折(Δn)は0.01以下と極めて低く、これは用いたジアミン化合物が屈曲性の分子構造を有することに起因する。また、テトラカルボン酸二無水物としてイソソルビド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)単独で合成した実施例2に比べて、イソマンニド-ビス(トリメリテートアンハイドライド)を10~50mol%加えた実施例4~8においては、複屈折(Δn)が有意に減少しており、これもイソマンニドに由来する強く屈曲した構造に起因すると考えられる。
これらの特性は、実施例1~11のポリイミドが光導波路や光波回路などに利用される耐熱性光学材料として優れていることを示している。
【0075】
図67~72は、2種の酸無水物を用いたポリイミド共重合体を除く、実施例1~3と実施例9~11のポリイミド薄膜(石英基板上に成膜、約1μm厚)の円偏光二色性(CD)の楕円率を示すスペクトルを示す図である。表1にCDスペクトルにおけるCotton効果の正負と波長を示した。
実施例1のポリイミド薄膜は波長238nmに、実施例2のポリイミド薄膜は230nmと260nmに、実施例3のポリイミド薄膜は232nmと264nmに、実施例9のポリイミド薄膜は232nmと254nmに、実施例10のポリイミド薄膜は230nmと274nmに、実施例11のポリイミド薄膜は234nmと254nmにすべて負のコットン効果に対応する明確なピークを示し、CD信号は正負の対となっている。このことはこれらのポリイミド分子が固体状態でイソソルビド部が有する光学異性(キラリティ)構造を保持しており、らせん構造を形成していることを示唆している。らせん構造を形成する透明高分子薄膜は、蛍光発光性や燐光発光性(フォトルミネッセンス)を有する有機高分子と複合化することで、円偏光発光性を発現させることができ、有機ELデバイス用の発光材料や光センサー、光レーダー、3Dディスプレイに応用が可能と考えられる。
【0076】
<誘電特性評価>(推定値)
表2に示すとおり、実施例1~11のポリイミド薄膜の誘電率(屈折率からの推定値)(εref)は、平均屈折率を用いる上記式から算出され、2.66~2.87と小さな値であった。このことから、優れた誘電特性を有するポリイミドであることが期待できる。上記の全芳香族ポリイミドにおける標準的なεref(3.0~3.2、観測周波数10GHz、非特許文献4:P. M. Hergenrother, High Performance Polymers, 15, 3-45,(2003).)に比べて、顕著に小さな誘電率であることが明らかになった。
【0077】
<誘電特性評価>(実測値)
実施例2~11のポリイミド薄膜(膜厚は約15μm)の周波数10GHz(TEモード)および20GHz(TEモード)における誘電率(実測値)(ε)と誘電正接(実測値)を表2にまとめて示した。
ここで、実施例1のポリイミドは、誘電測定に必要な面積(50mm×50mm以上)の薄膜を基板から剥離することが困難であったため、測定対象から除外した。実施例2~8のポリイミド薄膜の誘電率(実測値、周波数20GHz)は2.88~2.99、誘電正接(実測値、周波数10GHz)は0.0092~0.0129であり、汎用のポリイミドに比べて有意に低い誘電率と小さな誘電正接を有していた。特に、実施例4~6の共重合体からなるポリイミド薄膜は、全実施例中で最も小さな誘電率と誘電正接を示しており、これは含フッ素ジアミン化合物(TFDB)のトリフルオロメチル基の効果に加え、イソマンニドの強く屈曲した構造に起因する分子凝集の抑制効果のためと考えられる。一方、実施例9~11のポリイミド薄膜は、誘電率(実測値, 周波数20GHz)が3.11~3.25、誘電正接(実測値、周波数10GHz)は0.0146~0.0172であり、どちらも相対的にやや高い値を示したが、汎用のポリイミドと比較して同等または小さい値であった。
総じてこれらの誘電特性は、実施例2~11のイソソルビド、イソマンニド由来の構造を有するポリイミドが高周波基板における耐熱性絶縁材料として優れていることを示している。
【0078】
<ポリイミドの溶解性評価>
実施例1~11のポリイミド薄膜の溶媒溶解性を下記表3にまとめて示した。表3において、「+」は易溶、「±」は難溶、「-」は不溶であることを意味する。
実施例2、4~9で得られたポリイミド薄膜は60℃の加熱によってN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)に十分な溶解性を示すことが明らかになった。特に、イソマンニドの分率が相対的に高い共重合体である実施例7と8のポリイミドは、γ-ブチロラクトン(GBL)にも十分な溶解性を示したが、それ以外のポリイミドはGBLにわずかな溶解性のみを示した。実施例1で得られたポリイミド薄膜は60℃の加熱によってDMAc、NMPに溶解性を示し、かつDMSOにはやや難溶であるが、かかる有機溶媒に溶解したポリイミドワニスを得ることができる。実施例3と実施例11で得られたポリイミド薄膜は100℃の加熱によってDMAc、NMP、DMSOにわずかな溶解性を示すものの難溶であり、GBLには溶解性を示さないことが明らかになった。
【0079】
【0080】
実施例1~11のポリイミド薄膜は、生物由来資源を原料にしたバイオベースポリイミドでありながら、その耐熱性(Tg、熱分解温度)と線熱膨張係数はポリイミドとしてほぼ標準的な特性を有しつつ、低い屈折率、小さな複屈折、低い誘電率(推定値、実測値)、小さな誘電正接(実測値)などの優れた特長を示す。加えて、実施例2、4~9、11で示すポリイミドは、可視光の全波長域において極めて高い光透過性(無色透明性)を示すとともに、紫外波長域における円偏光二色性や極性有機溶媒への良好な溶解性を示す。
以上を総合すると、本発明にかかるポリイミドは、高性能の工業材料、特に機能性光学材料や低誘電率材料として優れた特性を有していることが明らかとなった。