IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

特許7406068インナーライナー、積層体および空気入りタイヤ
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】インナーライナー、積層体および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20231220BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20231220BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20231220BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231220BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C08L9/00
B32B25/08
B60C5/14 A
C08L21/00
C08L101/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019158320
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038273
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056323(WO,A1)
【文献】特開2019-104828(JP,A)
【文献】特開2017-214061(JP,A)
【文献】特開2018-154827(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156334(WO,A1)
【文献】特開2019-077742(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116673(WO,A1)
【文献】特開2001-026713(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105437699(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08L 21/00
B60C 5/14
B32B 25/08
C08L 101/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー組成物からなる空気入りタイヤ用インナーライナーであって、熱可塑性エラストマー組成物が、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)が、ビニルアルコール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が酸無水物基またはエポキシ基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体またはその部分水素添加物であり、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上であることを特徴とするインナーライナー。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー組成物が、さらに、200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)または200℃以上の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)を、熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として2体積%以上含むことを特徴とする請求項に記載のインナーライナー。
【請求項3】
180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)の含有量が熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として20~70体積%であり、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の含有量が熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として30~80体積%であることを特徴とする請求項1または2に記載のインナーライナー。
【請求項4】
インナーライナーの表面は共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が露出しており、その露出面積の割合はインナーライナーの表面積に対して5%以上であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のインナーライナー。
【請求項5】
熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の積層体であって、熱可塑性エラストマー組成物が、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)が、ビニルアルコール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が酸無水物基またはエポキシ基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体またはその部分水素添加物であり、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上であり、ゴム組成物がジエン系ゴムを50体積%以上含み、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層が隣接していることを特徴とする積層体。
【請求項6】
ジエン系ゴムが、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムおよびアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の積層体。
【請求項7】
熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の界面において、熱可塑性エラストマー組成物の層中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)がゴム組成物の層と接触しており、その接触面積の割合は熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の全接触面積に対して5%以上であることを特徴とする請求項またはに記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のインナーライナーまたは請求項のいずれか1項に記載の積層体を含む空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーライナー、積層体および空気入りタイヤに関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性エラストマー組成物からなる空気入りタイヤ用インナーライナー、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の積層体、前記インナーライナーまたは前記積層体を含む空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料消費率の低減は、自動車における大きな技術的課題の一つであり、この対策の一環として空気入りタイヤの軽量化に対する要求がある。空気入りタイヤの内面には、タイヤ空気圧を一定に保持するためにブチルゴムなどのような低気体透過性のゴムからなるインナーライナーが設けられているが、そのインナーライナーを熱可塑性樹脂フィルムで形成することにより、インナーライナーを薄くし、空気入りタイヤを軽量化する技術が知られている。しかし、熱可塑性樹脂フィルムはタイヤを構成するゴム組成物の層と容易には接着しないので、両者を接着するために接着剤または接着タイゴムを使用することが行われる。しかし、接着剤または接着タイゴムを使用すると、製造コストが増加し、かつ接着剤または接着タイゴムの質量分だけ重くなる。そこで、接着剤または接着タイゴムを使用せずに、タイヤを構成するゴム組成物の層(たとえばカーカス)と容易に接着するインナーライナーが求められる。
【0003】
たとえば、特開平9-314752号公報(特許文献1)には、ポリアミド樹脂および臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体を含み、かつポリアミド樹脂中にビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体のエポキシ化物及び/又はその部分水素添加物を含む熱可塑性エラストマー組成物のフィルムをインナーライナーとして用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-314752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なタイヤは180℃程度の温度で加硫されるが、低燃費タイヤや競技用タイヤなど、一般的なタイヤ加硫に比べ、低温(たとえば160℃)で加硫されるケースがある。
特許文献1に記載された熱可塑性エラストマー組成物のフィルムは、160℃程度の低温加硫では、タイヤを構成するゴム組成物の層とほとんど接着しない。
本発明は、160℃程度の低温加硫でも、接着剤や接着タイゴムを使用せずに、カーカス等のタイヤを構成するゴム組成物の層と接着するインナーライナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(I)は、熱可塑性エラストマー組成物からなる空気入りタイヤ用インナーライナーであって、熱可塑性エラストマー組成物が、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上であることを特徴とする。
本発明(II)は、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の積層体であって、熱可塑性エラストマー組成物が、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上であり、ゴム組成物がジエン系ゴムを50体積%以上含み、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層が隣接していることを特徴とする。
本発明(III)は、本発明(I)のインナーライナーまたは本発明(II)の積層体を含む空気入りタイヤである。
【0007】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]熱可塑性エラストマー組成物からなる空気入りタイヤ用インナーライナーであって、熱可塑性エラストマー組成物が、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上であることを特徴とするインナーライナー。
[2]180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)が、ビニルアルコール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載のインナーライナー。
[3]共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が酸無水物基またはエポキシ基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体またはその部分水素添加物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のインナーライナー。
[4]熱可塑性エラストマー組成物が、さらに、200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)または200℃以上の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)を、熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として2体積%以上含むことを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のインナーライナー。
[5]180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)の含有量が熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として20~70体積%であり、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の含有量が熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として30~80体積%であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のインナーライナー。
[6]インナーライナーの表面は共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が露出しており、その露出面積の割合はインナーライナーの表面積に対して5%以上であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のインナーライナー。
[7]熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の積層体であって、熱可塑性エラストマー組成物が、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上であり、ゴム組成物がジエン系ゴムを50体積%以上含み、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層が隣接していることを特徴とする積層体。
[8]ジエン系ゴムが、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムおよびアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[7]に記載の積層体。
[9]熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の界面において、熱可塑性エラストマー組成物の層中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)がゴム組成物の層と接触しており、その接触面積の割合は熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の全接触面積に対して5%以上であることを特徴とする[7]または[8]に記載の積層体。
[10][1]~[6]のいずれかに記載のインナーライナーまたは[7]~[9]のいずれかに記載の積層体を含む空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインナーライナーは、160℃程度の低温加硫でも、接着剤や接着タイゴムを使用せずに、カーカス等のタイヤを構成するゴム組成物の層と接着することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明(I)は、空気入りタイヤ用インナーライナーに関する。インナーライナーは、チューブレスタイヤにおいて、チューブの代わりに空気漏れを防止するために、タイヤ内面に設けられる空気透過防止層である。
インナーライナーは熱可塑性エラストマー組成物からなる。
【0010】
熱可塑性エラストマー組成物は180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)を含む。
【0011】
180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)(以下、単に、「熱可塑性樹脂(a11)」ともいう。)は、限定するものではないが、好ましくはビニルアルコール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、またはポリ酢酸ビニルである。ビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。
熱可塑性樹脂(a11)の融点は、好ましくは70~180℃であり、より好ましくは90~180℃である。熱可塑性樹脂(a11)の融点が高すぎると、低温加硫ではゴム組成物の層との接着が得られない。熱可塑性樹脂(a11)の融点が低すぎると、タイヤを製造する過程で、加硫工程などの温度の高い環境に置かれた場合、インナーライナーの寸法を保持できなくなる虞がある。
【0012】
180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)(以下、単に、「熱可塑性エラストマー(a12)」ともいう。)は、限定するものではないが、好ましくはポリエステルエラストマーまたはポリアミドエラストマーである。
ポリエステルエラストマーは、ハードセグメントがポリエステル(たとえばポリブチレンテレフタレート)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリテトラメチレングリコール)またはポリエステル(たとえば脂肪族ポリエステル)である熱可塑性エラストマーである。ポリエステルエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリエステルエラストマーの市販品としては、東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)などが挙げられる。
ポリアミドエラストマーは、ハードセグメントがポリアミド(たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)である熱可塑性エラストマーである。ポリアミドエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPAシリーズ、アルケマ社製「PEBAX」(登録商標)などが挙げられる。
熱可塑性エラストマー(a12)の融点は、好ましくは70~180℃であり、より好ましくは90~180℃である。熱可塑性エラストマー(a12)の融点が高すぎると、低温加硫ではゴム組成物の層との接着が得られない。熱可塑性エラストマー(a12)の融点が低すぎると、タイヤを製造する過程で、加硫工程などの温度の高い環境に置かれた場合、インナーライナーの寸法を保持できなくなる虞がある。
【0013】
熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性樹脂(a11)または熱可塑性エラストマー(a12)の含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として、好ましくは20~70体積%であり、より好ましくは25~65体積%であり、さらに好ましくは30~60体積%である。熱可塑性樹脂(a11)または熱可塑性エラストマー(a12)の含有量が少なすぎると、フィルムやシートを溶融押出する際の加工性が悪化する。
なお、熱可塑性エラストマー組成物が熱可塑性樹脂(a11)および熱可塑性エラストマー(a12)の両方を含む場合は、熱可塑性樹脂(a11)と熱可塑性エラストマー(a12)の合計の含有量が熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として20~70体積%であればよい。ここで、ポリマー成分とは、少なくとも樹脂、エラストマー、ゴム等のポリマーを含む。
【0014】
熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、さらに、200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)または200℃以上の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)を熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として2体積%以上含む。熱可塑性エラストマー組成物が200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)または200℃以上の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)を含めることにより、熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性が向上し、加硫時の発泡や寸法変化などの加硫故障を抑制することができる。
【0015】
200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)(以下、単に、「熱可塑性樹脂(a13)」ともいう。)としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンMXD6、ポリ乳酸などが挙げられるが、好ましくはポリブチレンテレフタレートである。
熱可塑性樹脂(a13)の融点は、好ましくは200~300℃であり、より好ましくは200~280℃である。
【0016】
200℃以上の融点を有する共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)(以下、単に、「熱可塑性エラストマー(a14)」ともいう。)としては、200℃以上の融点を有するポリエステルエラストマーが挙げられる。好ましくは、ポリブチレンテレフタレートエラストマー、ポリブチレンナフタレートエラストマーである。
熱可塑性エラストマー(a14)の融点は、好ましくは200~300℃であり、より好ましくは200~280℃である。
【0017】
熱可塑性エラストマー組成物中の200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)または熱可塑性エラストマー(a14)の含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として、好ましくは2体積%以上であり、より好ましくは3~30体積%であり、さらに好ましくは4~25体積%である。熱可塑性樹脂(a13)または熱可塑性エラストマー(a14)の含有量が少なすぎると、熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性が十分向上しない。熱可塑性樹脂(a13)または熱可塑性エラストマー(a14)の含有量が多すぎると、ジエン系ゴム組成物と十分な接着性が得られない虞がある。
なお、熱可塑性エラストマー組成物が熱可塑性樹脂(a13)および熱可塑性エラストマー(a14)の両方を含む場合は、熱可塑性樹脂(a13)と熱可塑性エラストマー(a14)の合計の含有量が熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として2体積%以上であればよい。
【0018】
熱可塑性エラストマー組成物は、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)を含む。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基とは、熱可塑性エラストマーの構成単位となる共役ジエン化合物に由来する不飽和結合を含有する残基であって、ジエン系ゴムと共架橋可能なものを意味する。たとえば、1,3-ブタジエン由来の不飽和結合を含有する残基としては、-CHCH=CHCH-や-CHCH(-CH=CH)-を挙げることができる。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)(以下、単に、「エラストマー(a2)」ともいう。)は、限定するものではないが、好ましくは、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体、それらの部分水素添加物などが挙げられる。ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。
【0019】
共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)は、好ましくは、酸無水物基またはエポキシ基を有する。酸無水物基またはエポキシ基を有することにより、熱可塑性樹脂(a11)または熱可塑性エラストマー(a12)と化学的な相互作用ができるため、両者が均一に混ざり易くなり、かつ界面が補強されるため、伸びや応力などの力学的性質が向上する。酸無水物基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体としては、無水マレイン酸変性SBS、無水マレイン酸変性SIS、無水マレイン酸変性SBRなどが挙げられる。エポキシ基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体としては、エポキシ変性SBS、エポキシ変性SIS、エポキシ変性SBRなどが挙げられる。
【0020】
熱可塑性エラストマー組成物中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中の全ポリマー成分の総量を基準として、好ましくは30~80体積%であり、より好ましくは35~75体積%であり、さらに好ましくは40~70体積%である。エラストマー(a2)の含有量の含有量が少なすぎると、ジエン系ゴム組成物と十分な接着性が得られない虞がある。エラストマー(a2)の含有量の含有量が多すぎると、フィルムやシートを溶融押出する際の加工性が悪化する。
【0021】
熱可塑性エラストマー組成物は、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)、180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)、200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)および200℃以上の融点を有する共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)以外のポリマー、ならびに各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、含んでもよい。
【0022】
本発明のインナーライナーの表面は、熱可塑性エラストマー組成物中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が露出しており、その露出面積の割合は、インナーライナーの表面積に対して5%以上である。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の露出面積の割合は、好ましくは5~100%であり、より好ましく8~95%であり、さらに好ましくは10~90%である。露出面積の割合が小さすぎると熱可塑性エラストマー組成物とゴム組成物が十分接着しない虞がある。大きすぎると、タイヤ成形の過程で熱可塑性エラストマー組成物のタッキネスが強くなり過ぎて取り扱い性が悪化する。露出面積の割合は、原子間力顕微鏡で得られたモルフォロジー像から算出することができる。露出面積は、熱可塑性エラストマー組成物を混練する条件あるいは、熱可塑性エラストマー組成物中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とその他のポリマー成分との体積比および溶融粘度比により制御することができ、全ポリマー成分に占める共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の体積比が高く、混練温度での溶融粘度比が大きいと露出面積は大きくなり易い。
【0023】
熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びは、100%以上であり、好ましくは150~1000%であり、よりさらに好ましくは200~800%である。引張破断伸びが前記数値範囲にあることにより、タイヤ成形時のにインナーライナーに加わる変形に追従することができ、タイヤ転動時の変形に追従することができる。引張破断伸びは、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に準拠して測定する。
【0024】
インナーライナーの厚さは、必要な空気透過防止性能を有する限り限定されないが、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは20~400μmであり、さらに好ましくは30~300μmである。インナーライナーの厚さが薄すぎると、タイヤ成形機上でゴムと積層する際に皺になりやすく、取り扱い性が悪化する虞がある。インナーライナーの厚さが厚すぎると、タイヤを十分軽量化できなくなる。
【0025】
本発明のインナーライナーの製造方法は、限定するものではないが、たとえば、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)および共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)を含む組成物、またはそれらに200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)もしく200℃以上の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)、その他のポリマー、各種添加剤を必要に応じて配合した組成物を、溶融混練し、Tダイ押出成形法、インフレーション成形法などの成形法によりシート状に成形することにより、本発明のインナーライナーを製造することができる。
【0026】
本発明(II)は、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の積層体に関する。
熱可塑性エラストマー組成物の層を構成する熱可塑性エラストマー組成物は、180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)と、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とを含み、熱可塑性エラストマー組成物の温度25℃および引張速度500mm/minでの引張破断伸びが100%以上である。熱可塑性エラストマー組成物の層を構成する熱可塑性エラストマー組成物は、本発明(I)のインナーライナーを構成する熱可塑性エラストマー組成物と同一のものを使用することができる。
【0027】
ゴム組成物の層を構成するゴム組成物は、ジエン系ゴムを50体積%以上含む。ジエン系ゴムを50体積%以上含むことにより、隣接するタイヤ部材と共加硫により接着することができる。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エポキシ化天然ゴム、それらの水素添加物などが挙げられるが、好ましくは天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムおよびアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
ゴム組成物は、ジエン系ゴム以外のゴムを含んでもよい。
【0028】
ゴム組成物中のジエン系ゴムの含有量は、ゴム組成物を基準として、50体積%以上であり、好ましくは55~95体積%であり、より好ましくは60~90体積%である。ジエン系ゴムの含有量が少なすぎると、隣接するタイヤ部材と十分な接着性が得られない虞があり、ジエン系ゴムの含有量が多すぎると、熱可塑性エラストマー組成物と十分な接着性が得られない虞がある。
【0029】
ゴム組成物は、ゴム以外に、補強剤(フィラー)、加硫剤(架橋剤)、加硫促進助剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を含むことができる。
【0030】
本発明の積層体は、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層が隣接している。ここで、隣接しているとは、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層とが直接接していることを意味し、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層との間に他の層を含まないことを意味する。本発明の積層体は、接着剤や接着タイゴムの層がないにもかかわらず、またゴム組成物の層が接着剤を含まないにもかかわらず、160℃程度の低温加硫で、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層が接着する。
【0031】
本発明の積層体は、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の界面において、熱可塑性エラストマー組成物の層中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が、ゴム組成物の層と接触しており、その接触面積の割合は、熱可塑性エラストマー組成物の層とゴム組成物の層の全接触面積に対して5%以上である。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とゴム組成物の接触面積の割合は、好ましくは5~100%であり、より好ましく8~95%であり、さらに好ましくは10~90%である。接触面積の割合が小さすぎると熱可塑性エラストマー組成物とゴム組成物が十分接着しない虞がある。大きすぎると、タイヤ成形の過程で熱可塑性エラストマー組成物とゴム組成物を積層する際、タッキネスが強くなり過ぎて、貼り直しなどの修正ができなくなり、取り扱い性が悪化する。接触面積の割合は、原子間力顕微鏡で得られたモルフォロジー像から算出することができる。接触面積は、熱可塑性エラストマー組成物を混練する条件あるいは、熱可塑性エラストマー組成物中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とその他のポリマー成分との体積比および溶融粘度比により制御することができ、全ポリマー成分に占める共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の体積比が高く、混練温度での溶融粘度比が大きいと、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)が露出し易くなり、接触面積は大きくなり易い。
【0032】
熱可塑性エラストマー組成物の層の厚さは、必要な空気透過防止性能を有する限り限定されないが、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは20~400μmであり、さらに好ましくは30~300μmである。熱可塑性エラストマー組成物の層の厚さが薄すぎると、タイヤ成形機上でゴムと積層する際に皺になりやすく、取り扱い性が悪化する虞がある。熱可塑性エラストマー組成物の層の厚さが厚すぎると、タイヤを十分軽量化できなくなる。
【0033】
ゴム組成物の層の厚さは、好ましくは0.1~10.0mmであり、より好ましくは0.15~8.0mmであり、さらに好ましくは0.2~6.0mmである。ゴム組成物の層の厚さが薄すぎると、熱可塑性エラストマー組成物と積層する際に皺になりやすく、取り扱い性が悪化する虞がある。ゴム組成物の層の厚さが厚すぎると、タイヤを十分軽量化できなくなる。
【0034】
本発明の積層体は、空気入りタイヤに組み込まれたときに、インナーライナーとして機能する。
【0035】
本発明の積層体は、限定するものではないが、たとえば、次のように製造することができる。180℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂(a11)または180℃以下の融点を有し共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まない熱可塑性エラストマー(a12)および共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)を含む組成物、またはそれらに200℃以上の融点を有する熱可塑性樹脂(a13)もしくは200℃以上の融点を有し共役ジエン化合物由来の残基を含まない熱可塑性エラストマー(a14)、その他のポリマー、各種添加剤を必要に応じて配合した組成物を、溶融混練し、Tダイ押出成形法、インフレーション成形法などの成形法によりシート状に成形して、熱可塑性エラストマー組成物のシートを作製する。別途、ジエン系ゴムに各種添加剤を配合し、バンバリーミキサーなどを用いて混合して、ゴム組成物を調製し、ゴム組成物をカレンダー加工して、シート状に成形し、ゴム組成物のシートを作製する。作製した熱可塑性エラストマー組成物のシートとゴム組成物のシートを重ね合わせることにより、積層体が得られる。
【0036】
本発明(III)は、本発明(I)のインナーライナーまたは本発明(II)の積層体を含む空気入りタイヤである。
空気入りタイヤが本発明(II)の積層体を含む場合において、カーカス層が本発明(II)の積層体のゴム組成物の層を構成してもよい。
本発明(III)の空気入りタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、タイヤ成形用ドラム上に、本発明(I)のインナーライナーまたは本発明(II)の積層体を置き、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層などの通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例
【0037】
(1)原材料
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
ナイロン11: アルケマ社製「リルサン」(登録商標)BESN O 0TL(融点:187℃)
ナイロン6/66: 宇部興産株式会社製ナイロン6/66共重合体「UBEナイロン」5023B(融点:197℃)
EVOH1: 日本合成化学工業株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)H4815B(融点:158℃)
EVOH2: 日本合成化学工業株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)E3808(融点:173℃)
EVA: 日本ポリエチレン株式会社製エチレン-酢酸ビニル共重合体「ノバテック」(登録商標)EVA LV211A(融点:103℃)
部分けん化EVA: 東ソー株式会社製部分けん化エチレン-酢酸ビニル共重合体「メルセン」(登録商標)H6410M(融点:100℃)
PP: 株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン「プライムポリプロ」(登録商標)E-333GV(融点:160℃)
ポリアミドエラストマー: 宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPA 9040X1(融点:135℃)
PBTエラストマー1: 東洋紡株式会社製ポリブチレンテレフタレートエラストマー「ペルプレン」(登録商標)P-75M(融点:155℃)
PBTエラストマー2: 東洋紡株式会社製ポリブチレンテレフタレートエラストマー「ペルプレン」(登録商標)P-30B(融点:160℃)
PBTエラストマー3: 東洋紡株式会社製ポリブチレンテレフタレートエラストマー「ペルプレン」(登録商標)P-40H(融点:172℃)
PBTエラストマー4: 東洋紡株式会社製ポリブチレンテレフタレートエラストマー「ペルプレン」(登録商標)P150B(融点:212℃)
PBT: 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリブチレンテレフタレート「ノバデュラン」(登録商標)5010R5(融点:225℃)
【0038】
酸変性SBS: 旭化成ケミカルズ株式会社製無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「タフプレン」(登録商標)912
エポキシ変性SBS1: 株式会社ダイセル製エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「エポフレンド」(登録商標)AT501
エポキシ変性SBS2: 株式会社ダイセル製エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「エポフレンド」(登録商標)CN310
酸変性PO: 三井化学株式会社製無水マレイン酸変性ポリオレフィンエラストマー「タフマー」(登録商標)MH7020
【0039】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の調製
表1~表3に示す配合にて、ポリマー成分のうち最も融点の高い原料の融点より20℃高いシリンダー温度に設定した二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に導入し、滞留時間約3~6分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0040】
(3)熱可塑性エラストマー組成物のシートの作製
上記(2)の手順で調製したペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を組成物中の最も融点の高い材料の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの押出条件で、平均厚み0.1mmのシートに成形し、熱可塑性エラストマー組成物のシート(すなわちインナーライナー)を作製した。
【0041】
(4)ゴム組成物の調製とシートの作製
表4に記載の配合にて、原料ゴムおよび各種配合剤を密閉式バンバリーミキサーに投入し、混合した。得られたゴム組成物をゴム用ロールを使用して厚さ2mmのシート状に加工し、ゴム組成物のシートを作製した。
【0042】
(5)積層体の作製
上記(3)で作製した熱可塑性エラストマー組成物のシートと上記(4)で作製したゴム組成物のシートを、縦15cm、横15cmの大きさに切り出し、積層して、積層体を作製した。
【0043】
(6)熱可塑性エラストマー組成物の引張破断伸びの測定
上記(3)で作製した熱可塑性エラストマー組成物のシートをJIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に準拠して、温度25℃および引張速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から引張破断伸びを求めた。引張破断伸びが100%未満の場合を「不可」、100%以上200%未満の場合を「可」、200%以上300%未満の場合を「良」、300%以上の場合を「優」と等級分けした。結果を表1~表3に示す。「優」、「良」、「可」はタイヤ部材として使用可能である。
【0044】
(7)熱可塑性エラストマー組成物表面の確認
上記(3)で作製した熱可塑性エラストマー組成物のシートを切り出し、原子間力顕微鏡(AFM)にて表面の観察を行った。フォースカーブマッピングモードで試料と試料間距離を制御して走査し、カンチレバーに掛かる力から弾性率のマッピング像を取得した。熱可塑性エラストマー組成物中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)は、熱可塑性樹脂(a11)および共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含まないエラストマー(a12)と弾性率に差があり、異なる相として識別できるため、得られた像を画像解析により面積比を算出することで、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)の露出割合を求めた。30μm×30μmの視野でランダムに10箇所抽出して観察し、平均値を用いた。
【0045】
(8)接着強度の測定
上記(3)で作製した熱可塑性エラストマー組成物のシートに上記(4)で作製したゴム組成物のシートを積層し、プレス成形機を用いて、2.3MPaの圧力で160℃×20分間、加硫接着を行った。得られた積層体を25mm幅の短冊状に切断し、その試験片を25℃、180°の角度で500mm/minの剥離速度で引張り、剥離試験を行い、接着強度(N/25mm)を測定した。結果を表1~表3に示す。接着強度が20N/25mm未満の場合は、タイヤ転動時に剥離してしまうため、タイヤ部材として使用不可であり、20N/25mm以上の場合は使用可能である。
【0046】
(9)積層体における接触状態の確認
上記(8)で作製した加硫積層体の一部を切り出し、液体窒素で冷却した状態でミクロトームにより積層体を切削して、平滑な断面を出し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察を行った。積層体断面において、熱可塑性エラストマー組成物中の共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むエラストマー(a2)とゴム組成物が接触していない界面をL1、接触している界面をL2として、L2/(L1+L2)を接触割合として求めた。30μm×30μmの視野でランダムに10箇所抽出して観察し、平均値を用いた。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のインナーライナーは、空気入りタイヤの製造に好適に利用することができる。