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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】チタン鋳塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20231220BHJP
   B22D 11/041 20060101ALI20231220BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20231220BHJP
   C22B 9/22 20060101ALI20231220BHJP
   C22B 34/12 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B22D11/00 D
B22D11/041 D
B22D11/20 Z
C22B9/22
C22B34/12 103
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019207337
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021079395
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】水上 英夫
(72)【発明者】
【氏名】北浦 知之
(72)【発明者】
【氏名】武田 宜大
(72)【発明者】
【氏名】白井 善久
(72)【発明者】
【氏名】梅田 繁
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-104208(JP,A)
【文献】特開2014-024066(JP,A)
【文献】特開2012-176427(JP,A)
【文献】特開2009-172665(JP,A)
【文献】特開2006-299302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
C22B 34/12
C22B 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がチタンである原料に電子ビームを照射することにより溶解して得た溶湯をハースに供給し、前記溶湯の一部を冷却凝固して分離しつつ、残部の溶湯を円環形の鋳型に供給し、前記鋳型内の溶湯を冷却しながら鉛直下方に引抜くことにより、工業用純チタンまたはチタン合金からなるチタン鋳塊を製造する方法であって、
上部に溶融部を、下部に凝固部を備える半鋳塊の下部を、100~2000mm/時の平均速度で、鉛直下方に1~20mm移動させ、その移動を停止する第1の工程、
前記半鋳塊の下部を、鉛直上方に0.05d~0.80d(ただし、d:前記第1の工程における鉛直下方の移動距離)移動させ、その移動を停止する第2の工程、を備え、
前記第1の工程および前記第2の工程を複数回行い、
前記第1の工程後、前記第2の工程前に、
前記半鋳塊の下部を前記鋳型の軸周りに一方向に正回転させ、その回転を停止する第3の工程、および
前記半鋳塊の下部を前記鋳型の軸周りに、前記一方向とは逆方向に0.05θ~0.80θ(ただし、θ:前記正回転の回転角度)の回転角度で逆回転させ、その回転を停止する第4の工程を実施する、チタン鋳塊の製造方法。
【請求項2】
前記正回転または前記逆回転の回転速度は、1~120回/時である、
請求項に記載のチタン鋳塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン鋳塊の製造方法に関し、具体的には、表面性状が良好なチタン鋳塊の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは、その溶融温度では激しく空気酸化される活性な金属であるため、鉄鋼材料のように耐火物製るつぼを用いて大気雰囲気下で溶解することは難しい。このため、工業用純チタン鋳塊またはチタン合金鋳塊(以下、これらを総称して「チタン鋳塊」ともいう。)の製造では、水冷銅ハースを用い、高真空下で、高電圧加速した電子線を被溶解材の表面に照射することにより得られる衝撃熱を利用する電子ビーム溶解(EBM : Electron Beam melting)技術や、非消耗電極としてプラズマトーチを用いた溶解法であるプラズマ溶解(PAM : Plasma Arc melting)技術が実用化されている。
【0003】
チタン鋳塊は、チタンの融点が約1680℃と高く、反応性が高い金属であるため、チャンバー内で電子ビームあるいはプラズマを用いて原料を溶解し、水冷構造を有する鋳型(ハース)に連続的に鋳造され、鋳型に鋳込まれてから引抜かれて製造される。
【0004】
これらの鋳塊の製造には、電子ビームあるいはプラズマを用いた溶解法を用いることから、原料の溶解速度は低く、例えば1時間当たり800kg程度である。このため、鋳型で冷却された鋳塊は、1時間当たり500~1500mm程度の速度で、ゆっくりと間欠的に引抜かれる。
【0005】
間欠的に引抜かれる理由は、特に電子ビーム溶解では、減圧されたチャンバー内で操業されるため、潤滑剤を用いることができないためであり、また、潤滑剤などから溶質元素が鋳塊に混入することが、特に航空機用素材としては厳しく制限されているためである。チタン鋳塊は、このようにゆっくりと間欠的に引抜かれて製造されることから、その表面に湯皺などの欠陥が発生し易くなる。
【0006】
チタン鋳塊は、鍛造工程や圧延工程を経て板等に加工され、航空機や自動車の部品として使用される。この加工に際して、鋳塊の表面に欠陥が存在すると、割れが発生する。割れの除去により製品の歩留まりが低下し、製品にならずスクラップになってしまう。このため、チタン鋳塊の表面品質を向上することが重要である。
【0007】
特許文献1には、工業用純チタンまたはチタン合金を溶解させた溶湯を無底の鋳型に注入して凝固させながら下方に引抜くことにより、チタン鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造方法が開示されている。
【0008】
この連続鋳造方法では、鋳型と鋳塊との接触領域における鋳塊の表面部の温度、および、接触領域における鋳塊の表面部から鋳型への通過熱流束の少なくとも一方を制御することにより、溶湯が凝固した凝固シェルの接触領域における厚みを所定の範囲内に収める。
【0009】
特許文献2には、工業用純チタンまたはチタン合金を溶解させた溶湯を断面円形で無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことにより、チタン鋳塊を連続的に鋳造する連続鋳造装置が開示されている。
【0010】
この連続鋳造装置は、鋳型の上方に設けられ、鋳型内の溶湯の湯面を加熱するプラズマトーチと、鋳型の側方に設けられ、交流電流による電磁撹拌によって溶湯の少なくとも湯面を撹拌する電磁撹拌装置とを有する。この電磁撹拌装置により、溶湯の湯面の周縁部において、鋳型の壁面に平行する流れを、溶湯の少なくとも湯面に生じさせる。
【0011】
この連続鋳造装置は、溶湯の流動を、電磁撹拌装置を用いて制御することにより、湯面に付与されたプラズマトーチからの熱を拡散でき、特に溶湯の周縁部が均熱化できる。これにより、溶湯プールの中心深さを浅くでき、成分偏析を低減でき、結果的に鋳肌の状態が良好な鋳塊を得られるとしている。
【0012】
特許文献3には、鋳片を回転させながら連続的に引抜く溶融金属の回転連続鋳造における連続鋳造工程の二次冷却帯に続く引抜工程において、1段または複数段の圧下装置により鋳片の液相線クレータ先端と、固相線クレータ先端との間を連続的に圧下することにより、回転連続鋳造の凝固末期に軽圧下を行う方法が開示されている。
【0013】
非特許文献1には、鋼の丸鋳片を回転連続鋳造方法により製造することにより表面品質が良好な鋳片を製造する技術が開示されている。鋳片を連続鋳造する際の回転数は、30~120rpmであると開示されている。非特許文献1により開示された技術は、特許文献4に開示された鋳型を用いて鋳造が行われる。
【0014】
特許文献4には、回転鋳造に用いる鋳型が開示されている。この鋳型は、内壁が回転する構造を有しており、内壁の外側は固定されており、内壁と外側に間に冷却水が流れる構造を有する。工業用純チタンまたはチタン合金の半連続鋳造は、溶解炉と鋳型、引抜装置が真空チャンバー内に設置されており、接続部から冷却水が漏れない構造を有する。
【0015】
特許文献5には、電子ビーム溶解炉を構成する鋳型内に溶湯を供給して鋳型プールを形成しながら鋳型プールの底部近傍の冷却固化した鋳塊を回転させながら引抜く高融点金属鋳塊の製造方法が開示されている。
【0016】
この製造方法では、鋳塊の1回当たりの引抜き距離が鋳型プール深さより小さくするとともに、鋳塊を鉛直下方へ移動し、この移動を一旦停止し、鋳塊を水平面内で回転させた後に、この回転を停止することを繰り返すことにより、鋳肌の優れた金属鋳塊を製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2014-133257号公報
【文献】特開2015-157296号公報
【文献】特開平9-276993号公報
【文献】米国特許第4019565号明細書
【文献】特開2009-172665号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】A.I.Gueussler:「Specific Aspect of Rotary Continuous Casting」,Iron and Steel Engineer, vol.59 (1982), p.53-59.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
凝固シェルの形成は、鋳型との接触による冷却のみでは決まらず、溶湯の温度や流動の状況にも大きく依存する。しかし、特許文献1により開示された連続鋳造方法は、溶湯の温度や流動を何ら考慮しないため、表面性状が良好なチタン鋳塊を製造することはできない。
【0020】
特許文献2により開示された連続鋳造装置は、鋳塊の表面性状が電磁撹拌による流動のみに支配されているとの考えに基づいているが、チタン鋳塊の鋳造の実際の操業においては、凝固シェルの生成位置や厚みなどの違いにより周縁部の溶湯の流れが変化する。このため、電磁撹拌による溶湯の流動を制御するだけでは、鋳塊の表面性状を向上することはできない。
【0021】
特許文献3により開示された発明は、非特許文献1により開示された技術の利用を前提としており、回転連続鋳造工程の鋳片は100rpm程度の速度で回転していると想定しており、チタン鋳塊のように鋳造速度が遅い半連続鋳造には、100rpmのように高速で鋳塊を回転させることはできない。
【0022】
電子ビーム溶解を用いるチタン鋳塊の製造では、溶解と鋳造を真空チャンバー内で行う必要があり、鋳型にオシレーション機構がなく、潤滑剤を用いないで鋳造する。そして、工業用純チタンまたはチタン合金の液相線温度が高く、鋳型内に注入する溶湯温度を高くする必要がある。しかし、鋳型内に注入するよう湯の温度が高いと、鋳型内で形成される凝固シェルの強度が低下し、回転速度が大きいと凝固シェルが破断してブレークアウトが発生する。このため、非特許文献1により開示された技術をチタン鋳塊の製造に転用することはできない。
【0023】
特許文献4により開示された鋳型は、内壁が回転する機構を有し、内壁と外側の間に冷却水が流れる構造を有する。このような構造を有する鋳型を真空チャンバー内に配置して操業すると、鋳型の内壁の回転部分から冷却水が吸引されて水漏れを発生し、操業できない。
【0024】
チタン鋳塊を半連続鋳造する場合、溶湯を鋳型に注湯する際の注湯流が鋳型内の注湯の流れに影響を及ぼし、鋳型内の凝固シェルの成長を左右する。凝固シェルの成長が不均一であれば鋳塊の表面に湯皺が生成するだけでなく、凝固シェルに引張応力と圧縮応力が作用して割れが発生する。このため、注湯流にも着目して、鋳型内の溶湯の流動を制御する必要がある。
【0025】
ところで、実際の操業においては、ハース内の溶湯を鋳型に注湯する場合に、溶湯を鋳型の内壁に沿わせるように一か所から流し込む場合が多い。一か所から流し込むと、鋳型内の溶湯の流れが不均一となり、凝固シェルの成長も鋳型周方向に不均一になり、その厚みも異なるだけでなく、溶融プールの形状も不均一になり、鋳型に注湯される周囲の溶融プールが深くなり、凝固が遅れることになる。
【0026】
凝固シェルの厚みの差が大きくなると、凝固シェルに作用する引張応力と圧縮応力が異なり、割れや表面の皺などの欠陥を生じる。このような欠陥を抑制するには、鋳塊の表面を形成する凝固シェルの成長を均一化させ、溶融プール深さも均一化させる必要がある。
【0027】
これには、鋳型内で形成される溶融プールの形状を、鋳型厚み中央を通る線に対して回転対称となるように鋳造すればよい。ハースからの溶湯は、鋳型の一か所から壁面に沿って供給されるため、溶融プールが回転対称とはならず、供給位置の溶融プールが最も深く、供給位置と対称の位置のプールは浅くなる。
【0028】
ただし、ハースから鋳型に溶湯を注入する位置を時間とともに変化させることは、設備費用が増大するため、事実上困難である。
【0029】
本発明者らは、特許文献5に開示されるように、鋳造中の鋳塊を回転すれば、注湯位置が同じであっても溶融プール深さが回転対称になり、均一な凝固シェルの形成が可能であり、局所的に引張応力や圧縮応力が負荷されることがなくなることに着目した。
【0030】
しかし、特許文献5により開示された発明では、鋳塊を鉛直下方へ移動し、この移動を一旦停止し、鋳塊を水平面内で一方向へ回転させた後に、この回転を停止するため、一方向(回転方向)に傾いた凝固組織で形成される凝固シェルが凝固収縮する。このため、その方向に熱応力が発生して鋳塊の表面に皺が生成するおそれがあり、表面品質が優れたチタン鋳塊を製造することはできない。
【0031】
本発明は、従来の技術が有するこの課題に鑑みてなされたものであり、表面性状が良好なチタン鋳塊の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記の知見を得た。
鋳込み時に、上部に溶融部を、下部に凝固部(凝固シェル)を備える半鋳塊の下部を鉛直下方に移動させ、その後、半鋳塊の下部を鉛直上方に移動させることにより、均一な凝固シェルの形成が可能となる。これは、凝固シェルに作用している静圧に逆らって、凝固シェルを上昇させるため、静圧よりも大きな圧力が凝固シェル、特に湯面下近傍の厚みの薄い凝固シェルに作用することになる。そして、その凝固シェルは、鋳型内壁に押し付けられるので、凝固シェルの変形が解消されて、表面性状の良好な鋳塊となると考えられる。よって、局所的に引張応力や圧縮応力が負荷されることがなくなって、表面品質が優れたチタン鋳塊が得られやすい。
【0033】
本発明者らは、さらに好ましい方法として、半鋳塊の下部を鉛直下方に移動させた後、半鋳塊の下部を鋳型の軸周りに一方向に正回転させ、さらに、逆方向に回転させた後に、半鋳塊の下部を鉛直上方に移動させる方法を見出した。この方法により、凝固シェルの強度を上昇させることができ、割れを抑制できることを見出した。これは、半鋳塊の下部を鉛直上方に移動させると、前工程(引抜き-正回転-逆回転)で成長した凝固シェルが押し上げられ、その後に成長した凝固シェルと一体化し、見掛け上、湯面の下方で形成された凝固シェルの厚みを増大させることができる。これにより、凝固シェルの強度を上昇させることができるためであると考えられる。
【0034】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、以下に列記の通りである。
【0035】
(1)主成分がチタンである原料に電子ビームを照射することにより溶解して得た溶湯をハースに供給し、前記溶湯の一部を冷却凝固して分離しつつ、残部の溶湯を円環形の鋳型に供給し、前記鋳型内の溶湯を冷却しながら鉛直下方に引抜くことにより、工業用純チタンまたはチタン合金からなるチタン鋳塊を製造する方法であって、
上部に溶融部を、下部に凝固部を備える半鋳塊の下部を鉛直下方に、100~2000mm/時の平均速度で、1~20mm移動させ、その移動を停止する第1の工程、
前記半鋳塊の下部を、鉛直上方に0.05d~0.80d(ただし、d:前記第1の工程における鉛直下方の移動距離)移動させ、その移動を停止する第2の工程、を備え、
前記第1の工程および前記第2の工程を複数回行う、チタン鋳塊の製造方法。
【0036】
(2)前記第1の工程後、前記第2の工程前に、
前記半鋳塊の下部を前記鋳型の軸周りに一方向に正回転させ、その回転を停止する第3の工程、および
前記半鋳塊の下部を前記鋳型の軸周りに、前記一方向とは逆方向に0.05θ~0.80θ(ただし、θ:前記正回転の回転角度)の回転角度で逆回転させ、その回転を停止する第4の工程を実施する、前記(1)のチタン鋳塊の製造方法。
【0037】
(3)前記正回転または前記逆回転の回転速度は、1~120回/時である、
前記(2)のチタン鋳塊の製造方法。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、表面品質が良好なチタン鋳塊を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、本発明で用いるチタン合金鋳塊の製造装置の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係るチタン鋳塊の製造方法における各工程の例を示す斜視図であり、(a)は引抜工程、(b)は押込工程、(c)は引抜工程、(d)は押込工程を示す。
図3図3は、本実施形態に係るチタン鋳塊の製造方法における各工程の例を示す斜視図であり、(a)は引抜工程、(b)は正回転工程、(c)は逆回転工程、(d)は押込工程、(e)は引抜工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明を説明する。以降の説明では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、以降の説明では、チタン合金鋳塊を製造する場合を例にとるが、工業用純チタン鋳塊を製造する場合でも事情は同じである。
【0041】
1.製造装置
図1は、本発明で用いるチタン合金鋳塊0の製造装置1の一例を模式的に示す斜視図である。
【0042】
製造装置1は、原料供給手段2と、電子ビーム照射手段(以下、単に「照射手段」という)3と、ハース4,5と、鋳型6とを有する。
【0043】
原料供給手段2は、主成分がチタンであるチタン製の原料7を供給する。原料7はチタンブリケットであることが望ましいが、チタンのスクラップ等を混在させてもよい。なお、チタンブリケットとは、スポンジチタン等のチタン原料をプレス加工して、特定の形状に成型したものである。
【0044】
溶解する原料7を後述する溶解ハース4の上方に連続的に供給しながら電子ビームで溶解し、溶解ハース4へ溶湯を供給することにより、溶解ハース4に供給する溶湯温度を安定に保持することができ、これにより、精錬ハース5に供給される溶湯の温度も安定に保つことができる。なお、原料7の化学成分は、主成分がチタンであればよく、工業用純チタンのほか、アルミニウムなどの合金元素を含んだチタン合金であってもよい。
【0045】
また、原料供給手段2は、原料7を、照射手段3による原料7の溶解速度に応じた供給速度で、供給することが好ましい。
【0046】
照射手段3は、供給された原料7に電子ビームを照射することにより原料7を溶解する。さらに、後述する溶解ハース4、精錬ハース5を流れる溶湯の表面に、電子ビームを走査しながら照射することにより、溶湯の温度を調整する照射手段9を備えることが望ましい。
【0047】
製造装置1は、原料7を溶解するための照射手段3を2基有し、溶解ハース4用の照射手段9を2基有し、精錬ハース5用の照射手段9を2基有するが、照射手段3、9の設置数は、この形態に限定されるものではなく、製造装置1に要求する能力等を勘案して適宜決定すればよい。
【0048】
原料供給手段2は、原料7を連続して供給し、照射手段3は供給された原料7を連続して溶解することが望ましい。
【0049】
製造装置1では、溶解ハース4は、溶解されて流下する原料の溶湯を収容し、精錬ハース5は、溶解ハース4から流入する溶湯の一部を冷却凝固し、底部5aに固形物のスカルを形成して分離しながら、残部の溶湯を流す。
【0050】
溶解ハース4は、原料7に電子ビームを照射して溶解した原料の溶融プールを形成し、精錬ハース5へ供給する機能を有する。精錬ハース5は、溶解ハース4からの溶湯を受けて一旦溜め、電子ビームを照射して鋳型6に溶湯を供給する機能を有する。溶解ハース4と精錬ハース5は、湯道8からの流れの方向に対して、精錬ハース5の流れの方向がほぼ直角となるように、湯道8を介して連結されている。
【0051】
溶解ハース4において、電子ビームを照射された原料7が溶解され、溶解ハース4内を満たすと、精錬ハース5への供給口を通して溶湯が精錬ハース5に注がれる。
【0052】
溶解ハース4の供給口からの溶湯は、精錬ハース5の壁面に向かって流れ、この壁面と衝突して流れの向きが変わる。流れの向きが変わった溶湯は、精錬ハース5の出口5b、すなわち鋳型6への供給口へ向かって流れる。
【0053】
なお、製造装置1は、溶解ハース4および精錬ハース5を有するが、本発明はこの形態には限定されず、溶解ハースおよび精錬ハースが一体になった一つのハースを用いることもできる。
【0054】
鋳型6は、精錬ハース5から供給される溶湯を冷却して鋳塊(インゴット)0とする。鋳型6の上方には、供給された溶湯に電子ビームを照射する照射手段が設けられていてもよい。これにより、鋳型6に供給された溶湯を、照射手段からの電子ビームにより攪拌することができる。
【0055】
さらに、鋳塊0の底部は、支持台13に形成したダミーブロック(図示省略)と固着している。そして、支持台13は、シャフト14を介して、移動制御装置(図示省略)に接続されている。移動制御装置は、支持台13の鉛直方向の移動を制御する機構を備え、さらに、シャフト14の軸周りの回転(正回転、逆回転)を制御する機構を備えている。
【0056】
2.製造方法
図2に示すように、本実施形態に係るチタン鋳塊の製造方法においては、鋳型6内の溶湯を冷却して、上部に溶融部を、下部に凝固部を備える半鋳塊(図示省略)とし、その下部を鉛直下方に引抜くことにより、チタン鋳塊0を連続的に製造するものである。図2(a)に示すように、支持台13を鉛直下方に移動させることにより、チタン鋳塊0を鉛直下方に所定距離(d)移動させて、半鋳塊(図示省略)の下部を鉛直下方に移動させ、その移動を停止する(引抜工程)。続いて、図2(b)に示すように、支持台13を鉛直上方に移動させることにより、チタン鋳塊0を鉛直上方に所定距離(0.05d~0.80d)移動させて、半鋳塊(図示省略)の下部を鉛直上方に移動させ、その移動を停止する(押込工程)。この作業を複数回行う。すなわち、図2(c)に示すように、支持台13を鉛直下方に移動させることにより、引抜工程を実施し、続いて、図2(d)に示すように、支持台13を鉛直上方に移動させることにより、押込工程を実施する。
【0057】
これにより、凝固シェルに作用している静圧に逆らって、凝固シェルを上昇させるため、静圧よりも大きな圧力が凝固シェル、特に湯面下近傍の厚みの薄い凝固シェルに作用することになり、その凝固シェルは、鋳型内壁に押し付けられるので、凝固シェルの変形が解消されて、表面性状の良好な鋳塊となる表面品質が良好なチタン鋳塊を製造できる。
【0058】
図3(a)に示すように、他の実施形態に係るチタン鋳塊の製造方法においては、支持台13を鉛直下方に移動させることにより、チタン鋳塊0を鉛直下方に所定距離(d)移動させて、半鋳塊(図示省略)の下部を鉛直下方に移動させ、その移動を停止する(引抜工程)。続いて、図3(b)に示すように、支持台13をシャフト14の軸周りに一方向に回転させることにより、半鋳塊の下部を前記鋳型の軸周りに所定の回転角度(θ)で一方向に回転(図3(b)の矢印の方向を正回転とする)させ、その回転を停止する(正回転工程)。次に、図3(c)に示すように、支持台13をシャフト14の軸周りに図3(b)とは逆方向に回転させることにより、半鋳塊の下部を鋳型の軸周りに、前記一方向とは逆方向に所定の回転角度(0.05θ~0.80θ)で逆回転(図3(c)の矢印の方向を逆回転とする)させ、その回転を停止する(逆回転工程)。次に、図3(d)に示すように、支持台13を鉛直上方に移動させることにより、チタン鋳塊0を鉛直上方に所定距離(0.05d~0.80d)移動させて、半鋳塊(図示省略)の下部を鉛直上方に移動させ、その移動を停止する(押込工程)。この作業を複数回行う。すなわち、続いて、図3(e)に示すように、支持台13を鉛直下方に移動させることにより、引抜工程を実施し、その後、正回転工程、逆回転工程、および押込工程を実施する。
【0059】
以下、本実施形態および他の実施形態に係るチタン鋳塊の製造方法における、引抜工程、正回転工程、逆回転工程および押込工程の具体的な条件について説明する。
【0060】
(第1の工程)引抜工程
この工程において、鋳塊の引抜きは、間欠的に行われるため平均引抜速度で評価され、平均引抜速度は引抜いている時間と停止している時間の合計で引抜き長さを割った値で求められる。平均引抜速度は、100~2000mm/時であることが望ましい。平均引抜速度が、100mm/時未満であると、引抜き中に鋳型内の湯面の温度が低下して湯面が凝固してしまう可能性がある。これを防止するために、湯面に電子ビームあるいはプラズマを照射すると、純チタンの場合はチタンが蒸発し、チタン合金の場合は、チタンのほかにアルミニウムなどの合金成分が蒸発して、その蒸発量が多くなるため真空チャンバー内に多量の蒸着物が付着し、操業上のトラブルを引き起こす場合がある。平均引抜速度が2000mm/時を超えると、鋳型内の湯面直下で形成される凝固シェルの成長が十分でなくなり、鋳塊を引抜いた際にブレークアウトを発生させてしまうおそれがある。このため、平均引抜速度は100~2000mm/時とすることが望ましい。
【0061】
鋳塊を間欠的に引抜く際の1回あたりの距離(d)は1~20mmが望ましい。この引抜きピッチが1mm未満であると、鋳塊の鋳造時間が長くなるため、鋳型内の湯面の温度が低下し湯面凝固が発生しやすくなる。これを抑制するため湯面に電子ビームあるいはプラズマを照射すると、チタンや合金成分の蒸発量が増える。また、蒸発したチタンは真空チャンバーの内壁に多量に付着し、これが鋳型内に落下すると溶湯成分が大きく変化するという問題が生じる。また、引抜きピッチが20mmを超えると、鋳型内の湯面下で形成される凝固シェルの成長が間に合わず、引抜きの途中で凝固シェルの上方にある溶湯が、凝固シェルと鋳型内壁の間に回り込みブレークアウトを発生させてしまうおそれがある。このことから、引抜きピッチは1~20mmが望ましい。
【0062】
(第3の工程)正回転工程
上記(1)の工程の後に、正回転工程を実施してもよい。この工程は、上記第1の工程で得られた半鋳塊の下部を鋳型の軸周りに一方向に正回転させ、その回転を停止する工程である。この工程により、溶融プール深さを回転対称とし、均一な凝固シェルを形成しやすくする。
【0063】
鋳塊の回転速度は、1~120回/時とすることが望ましい。毎時1回転以上では、溶融プールの形状が均一になり、鋳型内の凝固シェルに加わる応力が弱まり、鋳塊の表面性状がさらに改善される効果をもたらす。また、回転速度が毎時120回転以下であれば、鋳型と凝固シェルの摩擦力が抑制されて、摩擦力に対する凝固シェルの強度が十分確保されるため、凝固シェルの破断リスクを低減できる。このため、回転速度は毎時1~120回転が望ましい。
【0064】
(第4の工程)逆回転工程
上記第1の工程の後に、上記第3の工程を実施し、さらに逆回転工程を実施してもよい。この工程は、上記第3の工程で得られた半鋳塊の下部を鋳型の軸周りに、上記第3の工程の正回転とは逆方向に、0.05θ~0.80θ(ただし、θ:正回転の回転角度)の回転角度で逆回転させ、その回転を停止する工程である。上記第3の工程にこの工程を追加することにより、溶融プール深さの回転対称性は高まり、その結果、鋳塊表面の皺が著しく軽減される。
【0065】
逆回転の回転角度は、正回転の回転角度をθとするとき、0.05θ~0.80θとすることが望ましい。逆回転の回転角度が、0.05θ以上の場合、凝固シェルの凝固組織の傾きを低減して鋳塊表面における湯皺の低減効果を大きくできる。一方、逆回転の回転角度が、0.80θ以下の場合、逆回転に要する時間は多少長くなるが、鋳塊表面における湯皺の低減効果を十分に享受できる。
【0066】
鋳塊の回転速度は、1~120回/時とすることが望ましい。毎時1回転以上では、溶融プールの形状を、鋳型の中心線に対して回転対称にすることができ、鋳型内の凝固シェルに加わる応力は軽微なものとなり、鋳塊表面の変形を抑制できて表面性状が良好となる。また、回転速度が毎時120回転以下であれば、鋳型と凝固シェルの摩擦力が抑制されて、摩擦力に対する凝固シェルの強度が十分確保されるため、凝固シェルの破断リスクを低減できる。このため、回転速度は毎時1~120回転が望ましい。
【0067】
(第2の工程)押込工程
この工程は、上記第1の工程で得られた半鋳塊の下部を、0.05d~0.80d(ただし、d:前記第1の工程における鉛直下方の移動距離)鉛直上方に移動させ、その移動を停止する工程である。この工程により、前工程で成長した凝固シェルが押し上げられ、その後に成長した凝固シェルと一体化し、湯面の下方で形成された凝固シェルの厚みを増大させることができる。これにより、凝固シェルの強度を上昇させることができる。また、この工程により、凝固シェルに作用している静圧に逆らって、凝固シェルを上昇させるため、静圧よりも大きな圧力が凝固シェル、特に湯面下近傍の厚みの薄い凝固シェルに作用することになる。そして、その凝固シェルは、鋳型内壁に押し付けられるので、凝固シェルの変形が解消されて、表面性状の良好な鋳塊となる。
【0068】
半鋳塊の下部の鉛直上方への移動距離は、上記第1の工程における鉛直下方の移動距離をdとするとき、0.05d~0.80dの範囲とする。この移動距離が、0.05d未満の場合、凝固シェル厚みの増加量が少なく凝固シェルの変形を十分に解消することができない、という問題がある。一方、この移動距離が、0.80dを超えると、凝固シェルの変形を解消させる効果が飽和してしまい、上昇に要する時間分だけ操業時間を要してしまい操業の効率が低下する、という問題がある。
【0069】
この工程において、鋳塊の押込みは、間欠的に行われるため平均押込速度で評価され、平均押込速度は押込んでいる時間と停止している時間の合計で押込み長さを割った値で求められる。平均引抜速度も平均押込速度と同様の方法で求められ、平均の押込速度/引抜速度は、0.2~0.7であることが望ましい。平均の押込速度/引抜速度が、0.2以上であれば、押込みに長時間を要することなく、湯面の凝固リスクがなくなる。平均の押込速度/引抜速度が0.7以下であると、鋳型内の湯面の波立ちが抑えられ、湯面直下の凝固が均一になり熱応力的にも均一になるため、鋳塊の表面割れを防止できる。このため、平均の押込速度/引抜速度は、0.2~0.7とすることが望ましい。
【0070】
3.チタン鋳塊
本実施形態に係る製造方法によって製造可能なチタン鋳塊の化学成分を以下に列記する。
【0071】
チタン合金の場合、Al:4.1~7.5%、Fe:0.1~2.1%、V:2.8~5.0%、O:0.03~0.5%、N:0.005~0.2%、C:0.005~0.2%、残部Tiおよび不純物からなるものが例示される。
【0072】
Alは、α安定化元素であり、ヤング率を向上させ、密度を小さくする作用がある。その含有量が4.1%以上であると強度を確保することができ、密度を十分に小さくすることができ、軽量化することができる。また、その含有量が7.5%以下の場合、TiAlの生成が抑制されて脆化を防止できる。このため、Al含有量は、4.1~7.5%とした。
【0073】
Feは、β安定化元素であり、添加量に従って強度が上昇し疲労強度が向上する。その含有量が0.1%以上であると強度の上昇は大きくその効果が認められる。また、その含有量が2.1%以下の場合は凝固時の偏析は顕著にならず、加工熱処理工程で偏析を解消することができる。このため、Fe含有量は、0.1~2.1%とした。
【0074】
Vは、β安定化元素であり、冷間加工性を向上させる。その含有量が2.8%以上であると冷間加工性の改善効果が発現する。また、Vは比較的高価な元素であるため5.0%以下に制限することが経済的に望ましい。このため、V含有量は、2.8~5.0%とした。
【0075】
O、N、Cは、α安定化元素であり、不純物として含有される量は、Oが0.03~0.5%、Nが0.005~0.2%、Cが0.005~0.2%である。これらの元素の含有量を増大させることで強度を向上させる傾向があるが、上記の上限値を超えると製品の延性が低下してしまう。一方、上記の下限値未満になるように含有量を低下させても延性の改善に繋がらず、製造コストが上昇してしまう。そこで、Oは0.03~0.5%、Nは0.005~0.2%、Cは0.005~0.2%とした。
【0076】
工業用純チタンの場合、O:0.15%以下、Fe:0.20%以下、N:0.03%以下、C:0.08%以下、H:0.013%以下であり、残部Tiであるものが例示される。上記の範囲を超えると製品の延性が低下してしまう。そこで、各元素の成分は上述の範囲とした。
【実施例
【0077】
本発明の鋳片の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
(1)溶解および鋳造条件
本発明の効果を確認するため、図1に示す製造装置1(鋳型6は円環形)を用いて、以下に示す試験を実施してその結果を評価した。
(1-1)溶湯成分:Ti-6.4%Al-4.2%V
(1-2)溶湯温度:1700℃(精錬ハース5内の溶湯温度)
(1-3)鋳型6の内径:650mm
(1-4)溶解量:8000kg
(1-5)溶解速度:800kg/時
(1-6)照射方法:電子ビーム
(1-7)ハース:以下の2種類(溶解ハース4および精錬ハース5)
(i)溶解ハース4
溶解ハース4は、原料7を電子ビームで溶解し、この溶湯を溜め、精錬ハース5に供給するためのハースである。寸法は、幅500mm×長1500mm×深100mmである。
(ii)精錬ハース5
精錬ハース5は、溶解ハース4からの溶湯を一旦溜めて、鋳型6に供給するためのハースである。寸法は、幅500mm×長1000mm×深150mmである。
(1-8)溶解ハース4および精錬ハース5の連結角度:直角
(1-9)溶解原料7:スポンジチタン、合金成分を混合した直径100mm×長200mmのブリケット
(1-10)溶解原料7の溶解方法:溶解原料7を溶解速度に合わせて連続供給するか、または、溶解原料7を1000kgずつ8回に分けて溶解ハース4内に一括添加する。
(1-11)電子ビーム照射手段:原料7の溶解用照射手段3を2基、溶解ハース4用照射手段9を2基、精錬ハース5用照射手段9を2基、鋳型6用照射手段(図示省略)を1基の合計7基を用意した。
(1-12)移動制御装置(図示省略)
移動制御装置は、支持台13の鉛直方向の移動を制御する機構を備え、さらに、シャフト14の軸周りの回転(正回転、逆回転)を制御する機構(サーボモータ)を備えている。移動および回転は、支持台13に形成したダミーブロック(図示省略)を介して行う。
【0078】
(2)評価
鋳塊の引抜条件、回転条件および押込条件を種々変更して、各工程を鋳造開始から終了までの間、継続して行って、半連続鋳造を行い、鋳塊の表面性状の向上について検討した。
【0079】
鋳塊表面には半連続鋳造に特有の湯皺が形成される。この湯皺の低減効果を評価するために、鋳塊の表層から縦断面の試料を採取し、表面の凹凸の差を寸法測定した。表面の凹凸の差は、2.0mm以下を合格、2.0mm超を不合格とした。合格の中でも1.5mm以下であれば、湯皺が目立たずさらに好ましい。本発明により、この値が小さく、表面に生成する凹凸が小さくなることが分かった。
【0080】
鋳塊の表面割れは、鋳塊表面を目視観察することで、その発生の有無を評価した。本発明により表面割れが抑制できることが分かった。
【0081】
また、鋳塊の引抜き条件および押込条件、さらには回転条件を適切に決めることで、ブレークアウトの抑制が可能であることが分かった。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、本発明例では、表面品質が良好な鋳塊の製造が可能である。
図1
図2
図3