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特許7406075チタン鋳塊の製造方法およびチタン鋳塊製造鋳型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】チタン鋳塊の製造方法およびチタン鋳塊製造鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/00 20060101AFI20231220BHJP
   B22D 11/04 20060101ALI20231220BHJP
   B22D 11/05 20060101ALI20231220BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B22D11/00 D
B22D11/04 311E
B22D11/04 311G
B22D11/05
B22D11/16 106B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019207339
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021079397
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】水上 英夫
(72)【発明者】
【氏名】和田 将明
(72)【発明者】
【氏名】武田 宜大
(72)【発明者】
【氏名】北浦 知之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 繁
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-080951(JP,A)
【文献】特開2014-140894(JP,A)
【文献】特開平02-075446(JP,A)
【文献】特開平09-314287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含有する溶湯を鋳型に注入してチタン鋳塊を形成する鋳造工程を含み、
前記鋳型は、底の無い筒状の胴体を備え、
前記胴体の上端は、前記溶湯を受け入れるための開口部を含み、
前記胴体の内周面は、前記開口部の位置よりも下方の位置に配置された先太りテーパ面と、前記開口部の下方で且つ前記先太りテーパ部の上方に配置された先細りテーパ面と、を含み、
前記先太りテーパ面は、下方に進むに従い前記胴体の中心軸線からの距離が長くされており、
前記先細りテーパ面は、下方に進むに従い前記胴体の中心軸線からの距離が短くされており、
前記鋳型内での前記溶湯の湯面が、前記先細りテーパ面に接している、チタン鋳塊の製造方法。
【請求項2】
前記胴体の前記内周面には、前記溶湯を凝固させるための凝固領域が設定され、
前記凝固領域は、前記先細りテーパ面と前記先太りテーパ面とにまたがっている、請求項に記載のチタン鋳塊の製造方法。
【請求項3】
前記先太りテーパ面の少なくとも下端において、前記チタン鋳塊と前記先太りテーパ面との間に隙間が形成されている、請求項1または請求項2に記載のチタン鋳塊の製造方法。
【請求項4】
底の無い筒状の胴体を備え、
前記胴体の上端は、チタンを含有する溶湯を受け入れるための開口部を含み、
前記胴体の内周面は、前記開口部の位置よりも下方の位置に配置された先太りテーパ面と、前記開口部の下方で且つ前記先太りテーパ部の上方に配置された先細りテーパ面と、を含み、
前記先太りテーパ面は、下方に進むに従い前記胴体の中心軸線からの距離が長くされており、
前記先細りテーパ面は、下方に進むに従い前記胴体の中心軸線からの距離が短くされており、
前記先細りテーパ面は、前記溶湯を受ける面である、チタン鋳塊製造鋳型。
【請求項5】
前記先太りテーパ面と前記先細りテーパ面が直接つながっている、請求項4に記載のチタン鋳塊製造鋳型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン鋳塊(インゴット)の製造方法およびチタン鋳塊製造鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは、その融点が約1680℃と高く、溶融温度では激しく空気酸化される反応性の高い金属である。このため、チタンを鉄鋼材料のように耐火物製るつぼを用いて大気雰囲気下で溶解することは難しい。そこで、チタン鋳塊の製造時では水冷構造をもつ鋳型を用いる。チタン鋳塊は、電子ビームまたはプラズマを用いて溶解した原料(溶湯)を鋳型に連続的に注入し、鋳型内で溶湯を凝固させながら鋳型から引き抜くことで、製造される。この引き抜く際に、チタン鋳塊表面には、湯皺、表面割れ、または鋳型との擦り傷などの欠陥が発生することがある。
【0003】
特許文献1には、鋳肌の状態が良好な鋳塊を鋳造することができる鋳塊の連続鋳造方法が開示されている。特許文献1に記載の鋳造方法は、チタンまたはチタン合金を溶解させた溶湯を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する。この際、鋳型と鋳塊との接触領域における鋳塊の表面部の温度、および、その接触領域における鋳塊の表面部から鋳型への通過熱流束の少なくとも一方を制御することで、溶湯が凝固した凝固シェルの接触領域における厚みを所定の範囲内に収めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-133257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、凝固シェルの形成は、鋳型との接触による冷却のみでは決まらず、溶湯の温度または流動の状況にも大きく依存する。このため、特許文献1に記載のように、鋳塊の表面部の温度、または、鋳塊の表面部から鋳型への通過熱流束を制御しても、凝固シェルの厚みを制御できないおそれがある。その結果、鋳塊の表面に湯皺などの欠陥が生じることを抑制できないおそれがある。
【0006】
表面に欠陥が生じると、鋳塊を鋳型から引き抜く際に、その欠陥が破断し、鋳塊内部の溶湯が漏れ出るブレークアウトが発生することがある。このブレークアウトが発生すると、溶湯が鋳型周囲に飛び散るため、これを防ぐことが望まれる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できるチタン鋳塊の製造方法およびチタン鋳塊製造鋳型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のチタン鋳塊の製造方法は、チタンを含有する溶湯を鋳型に注入してチタン鋳塊を形成する鋳造工程を含み、前記鋳型は、底の無い筒状の胴体を備え、前記胴体の上端は、前記溶湯を受け入れるための開口部を含み、前記胴体の内周面は、前記開口部の位置よりも下方の位置に配置された先太りテーパ面を含み、前記先太りテーパ面は、下方に進むに従い前記胴体の中心軸線からの距離が長くされている。
【0009】
また、本発明のチタン鋳塊製造鋳型は、底の無い筒状の胴体を備え、前記胴体の上端は、チタンを含有する溶湯を受け入れるための開口部を含み、前記胴体の内周面は、前記開口部の位置よりも下方の位置に配置された先太りテーパ面を含み、前記先太りテーパ面は、下方に進むに従い前記胴体の中心軸線からの距離が長くされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、先太りテーパ面により、ブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、チタン鋳塊の製造装置を示す図である。
図2図2は、鋳型の断面図である。
図3図3は、鋳型に溶湯を注入した状態の鋳型の断面図である。
図4図4は、鋳型に溶湯を注入した状態の鋳型の断面図である。
図5図5は、変形例1である鋳型の断面図である。
図6図6は、変形例1の鋳型に溶湯を注入した状態の鋳型の断面図である。
図7図7は、変形例2である鋳型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<チタン鋳塊の製造装置>
図1は、チタン鋳塊72の製造装置1を示す図である。製造装置1は、原料供給部2と、照射部31、32、33と、ハース4と、チタン鋳塊製造鋳型(以下、単に鋳型と言う)5と、支持台6とを備えている。
【0013】
原料供給部2は、後段のハース4に、チタン合金原料(以下、単に原料と言う)70を供給する。原料供給部2はハース4の上方に配置される。原料供給部2は、原料70を載置する台21と、台21に載置された原料70を押し出す押出器22とを有している。押出器22に押し出された原料70は、原料供給部2の下方に位置するハース4へ落下する。
【0014】
原料70はチタンブリケット(チタン合金ブリケットを含む。以下同じ。)であることが望ましい。原料70は、チタンブリケットに限らず、必要に応じて板、棒、管等のスクラップをチタン合金原料に混在させてもよい。以降の説明では、原料70がチタンブリケットである場合を例にとる。なお、原料70として、純チタンの原料、チタン合金製の原料、チタン製とアルミニウム製の混合原料、および、チタン製とチタン合金製の混合原料のいずれも用いることができる。
【0015】
照射部31は、原料供給部2からハース4へ供給される原料70に電子ビームまたはプラズマを照射して、原料70を溶解する。原料供給部2は、照射部31による原料70の溶解速度に応じた供給速度で、押出器22で原料70を供給することが好ましい。また、原料供給部2は原料70を連続して供給し、照射部31は原料70を連続して溶解することが好ましい。
【0016】
ハース4は、原料70が照射部31により溶解されてなる溶湯71を収容する。ハース4は、一部の溶湯71を冷却凝固し、底部にスカルを形成しながら、残部の溶湯71を後段の鋳型5へ流す。
【0017】
照射部32は、ハース4上方に配置され、電子ビームまたはプラズマをハース4内の溶湯71の表面に照射する。これにより、ハース4内の溶湯71の温度調整が行われる。
【0018】
鋳型5は底の無い筒状である。鋳型5にはハース4から溶湯71が注入される。鋳型5は、注入された溶湯71を冷却凝固する。鋳型5で溶湯71が冷却凝固されると、例えば、円柱状のチタン鋳塊(インゴット)72が下方に延びつつ成形される。なお、鋳型5に注入された溶湯71は、鋳型5の上部における内周面との接触によりチタン鋳塊72となる。このため、鋳型5の上部では、鋳型5の軸方向から視ると、チタン鋳塊72の内側に溶湯71が存在する状態となる。また、冷却凝固されたチタン鋳塊72と溶湯71との界面において、溶湯71が冷却凝固され、チタン鋳塊72が形成される。鋳型5の構造については後述する。
【0019】
支持台6は、鋳型5の下方に配置されている。支持台6は、図示しない移動機構によって上下方向に移動するように構成されている。支持台6には、ダミーブロック(図示せず)が形成されている。そのダミーブロックに、チタン鋳塊72の下端部が支持されている。支持台6は、チタン鋳塊72を支えつつ下方に移動することで、チタン鋳塊72を鋳型5から引き抜く。この引き抜きの際、チタン鋳塊72に要求される品質が高い場合、鋳型5内では潤滑剤を用いることができない。また、チタン鋳塊72の鋳造においては、支持台6をゆっくりと間欠的に移動させたり、支持台6を上方に押し上げたりすることを繰り返し、チタン鋳塊72を鋳型5から引き抜く。
【0020】
照射部33は、鋳型5の上方に配置される。照射部33は、鋳型5に収容された溶湯71に電子ビームまたはプラズマを走査しながら照射して、溶湯71の温度調整を行う。
【0021】
なお、照射部31、32、33は同じ構成であり、1または複数配置されている。照射部31、32、33が電子ビームを照射する構成の場合、照射部31、32、33は、電子ビームガン等の公知の電子ビーム発生装置を有する。この場合、製造装置1の各部2、4、5、6は、真空雰囲気下に置かれる。照射部31、32、33がプラズマを照射する構成の場合、公知のプラズマ発生装置を有する。この場合、製造装置1の各部2、4、5、6は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下に置かれる。
【0022】
<鋳型について>
次に、鋳型5の構成について詳述する。図2は、鋳型5の断面図である。
【0023】
鋳型5は、底の無い円筒状の胴体50を有する。胴体50は、その上端部に、ハース4から溶湯71を受け入れるための開口51Aを形成する開口部51を含む。また、開口部51の下方における胴体50の内周面は、中心軸線Pに平行な円筒状の直胴面52を含む。さらに、直胴面52の下方における胴体50の内周面は、円錐台テーパ状の先太りテーパ面53を含む。先太りテーパ面53は、下方に進むに従い胴体50の中心軸線Pからの距離が長くされている。先太りテーパ面53は、下方に延びつつ成形される円柱状のチタン鋳塊72との間に、隙間102(後述の図4参照)が形成される程度に、中心軸線Pに対して傾斜していることが好ましい。また、先太りテーパ面53のテーパ率は、1~50(%/m)であることが好ましい。
【0024】
<ブレークアウトについて>
鋳型5に先太りテーパ面53を設けることにより、ブレークアウト発生時の溶湯71の飛散を防止することができる。
【0025】
図3および図4は、鋳型5に溶湯を注入した状態の鋳型の断面図である。
【0026】
鋳型5に注入された溶湯71は、鋳型5の開口部51近傍の内周面である直胴面52との接触によりチタン鋳塊72が形成される。チタン鋳塊72が形成される直前では、溶湯71の湯面付近は表面張力により曲率を持っている。この状態で溶湯71が鋳型5の直胴面52と接触して冷却凝固すると、曲率を持ったチタン鋳塊72が形成され、鋳型5とチタン鋳塊72との間に隙間101が形成される。その後、新たに鋳型5に注入された溶湯71が隙間101に部分的に供給されると、湯皺が形成される。
【0027】
上記したように、チタン鋳塊72の引き抜き速度は遅く、チタン鋳塊72の凝固収縮が進行する。鋳型5の直胴面52の長さが長いと、鋳型5の直胴面52と、チタン鋳塊72の表面との摩擦が大きく、高温状態で脆弱なチタン鋳塊72が開口して破断することになる。この破断する深さが大きいと、チタン鋳塊72の内部の溶湯71が漏れ出るブレークアウトが発生する。また、引き抜く際に、支持台6を上方に押し上げる場合がある。この場合、チタン鋳塊72の表面と鋳型5の直胴面52との摩擦力が増大し、チタン鋳塊72が破断してブレークアウトを引き起こすことにもなる。
【0028】
ブレークアウトが発生すると、鋳型5の外部に溶湯71が飛散する。そこで、直胴面52の下方に、先太りテーパ面53を設け、先太りテーパ面53とチタン鋳塊72との間に隙間102を設けることで、飛散した溶湯71は、先太りテーパ面53により受け止められる。このため、溶湯71が鋳型5の外部に飛び散ることが抑制される。
【0029】
以上のように、鋳型5に先太りテーパ面53を設けることで、ブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できる。
【0030】
<チタン鋳塊の製造方法>
次に、図1を参照して、本実施形態に係るチタン鋳塊72の製造方法について説明する。チタン鋳塊72の製造方法は第1~4の工程を有する。
【0031】
第1の工程は原料供給工程である。この第1の工程では、原料供給部2が原料70をハース4へ落下させる。原料供給工程では、原料70を、第2の工程での原料70の溶解速度に応じた供給速度で、供給することが望ましい。
【0032】
第2の工程は溶解工程である。この第2の工程では、ハース4へ供給される原料70に照射部31が電子ビームまたはプラズマを照射することにより原料70を溶解する。なお、原料供給工程で原料70を連続して供給し、溶解工程で原料70を連続して溶解することが望ましい。
【0033】
第3の工程は、ハース4において溶湯71を精錬する精錬工程である。この第3の工程では、固形物のまま落下、または、照射部31によって溶解されて流下する溶湯71を精錬する。また、精錬工程では、ハース4を流れる溶湯71に、照射部32から電子ビームまたはプラズマを照射することにより、溶湯71の温度を調整する。
【0034】
第4の工程は鋳造工程である。この第4の工程では、ハース4で精錬された溶湯71を鋳型5へ注入し、鋳型5で溶湯71を冷却凝固することで、チタン鋳塊72を形成する。この鋳造工程では、鋳型5への溶湯71の流入に伴い支持台6が下方へ移動する。これにより、チタン鋳塊72が円柱状に成形されていく。
【0035】
この第4工程において、チタン鋳塊72の表面に湯皺などが形成されて、ブレークアウトが発生しても、先太りテーパ面53により、飛散した溶湯71を受け止めることができる。
【0036】
以上のように、鋳型5に先太りテーパ面53を設けることで、ブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できる。
【0037】
<変形例>
図5は、変形例1である鋳型5Aの断面図である。
【0038】
鋳型5Aは、開口部51の下方に位置する、円錐台テーパ状の先細りテーパ面54を有する。先細りテーパ面54は、下方に進むに従い、胴体50の中心軸線Pからの距離が短くされている。また、鋳型5Aの内周面は、先細りテーパ面54の下方において、先太りテーパ面53を含む。
【0039】
この鋳型5Aの内周面には、鋳型5に注入された溶湯71を凝固させるための凝固領域が設定されている。凝固領域は、先細りテーパ面54と、先太りテーパ面53とにまたがって設定されている。つまり、鋳型5Aに注入された溶湯71が、先細りテーパ面54と、先太りテーパ面53との境界近傍に接触すると、チタン鋳塊72が形成される。
【0040】
図6は、変形例1の鋳型5Aに溶湯71を注入した状態の鋳型5Aの断面図である。鋳型5Aに注入される溶湯71は、その湯面が先細りテーパ面54に接するように、注入される。そして、溶湯71は、先細りテーパ面54と、先太りテーパ面53との接触により、部分的に冷却凝固される。冷却凝固された部分は、溶湯71が凝固することで形成された外周壁71Aと、この外周壁に取り囲まれた溶湯71とを含む。この湯面近傍では、鋳型5Aの内周面は、下方に向かうに従いチタン鋳塊72側に進む。つまり、鋳型5の内周面と、チタン鋳塊72との間に、溶湯71が侵入する隙間を生じないようにしている。
【0041】
これにより、図3で説明した場合と異なり、鋳型5Aとチタン鋳塊72との間の隙間が形成されることがない。この結果、湯皺発生の原因となる隙間の形成を抑制でき、湯皺形成を防止できる。また、湯皺が形成されて、ブレークアウトが発生した場合であっても、鋳型5Aの先太りテーパ面53により、ブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できる。
【0042】
なお、先細りテーパ面54のテーパ率γは、湯皺形成を防止するために、0.5~30(%/m)に設定されていることが好ましい。ここで、図5に示すように、胴体50の中心軸線Pと直交する方向における先細りテーパ面54の高さ(mm)を、「a」で表す。詳しくは、「a」は、中心軸線Pを中心とする先細りテーパ面54の上端の半径と、先細りテーパ面54の下端の半径との差分の絶対値である。また、先細りテーパ面54の最大内径(mm)を「W」で表す。中心軸線Pに沿った方向における先細りテーパ面54の長さ(mm)を、「L」で表す。この場合において、テーパ率γは、以下の式で表される。
γ={(a/W)/(L/1000)}×100(%/m)
γが0.5%未満であれば、湯皺を抑制する効果を十分に発揮できない。また、γが30%を超える場合には、チタン鋳塊72の径が小さくなり、生産性が低下する。
【0043】
なお、「a」、「W」、「L」は、鋳型5に注入された溶湯71の湯面を基準として、それぞれ「a」、「W」、「L」と定義してもよい。この場合のテーパ率をγと定義する。溶湯71は、中心軸線Pの方向において、その湯面が先細りテーパ面54に接するように、注入される。この場合において、図6に示すように、「a」は、中心軸線Pを中心とする径方向における、溶湯71が存在している領域での先細りテーパ面54の高さである。換言すると、「a」は、中心軸線Pを中心とする、溶湯71の湯面と一致する先細りテーパ面54の上端の半径と、先細りテーパ面54の下端の半径との差分の絶対値である。また、「W」は、溶湯71が存在している領域での胴体50の最大内径である。さらに、「L」は、中心軸線Pの方向における、溶湯71が存在している領域での先細りテーパ面54の長さである。換言すると、「L」は、中心軸線Pの方向における、溶湯71の湯面から、先細りテーパ面54の下端までの長さである
【0044】
また、先太りテーパ面53との境界点である先細りテーパ面54の下端は、胴体50の上端から100mmの位置、または、溶湯71の湯面から5mm~100mmの位置に設定することが望ましい。先細りテーパ面54の下端が上過ぎると、先細りテーパ面54の長さが短すぎるため、先細りテーパ面54を先細りテーパ形状にする効果が十分に発揮されず、下過ぎると、チタン鋳塊72の引き抜き時に表面に疵が形成されるからである。ただし、溶湯71の湯面は、胴体50の上端から5~80mmの位置とすることが好ましい。
【0045】
図7は、変形例2である鋳型5Bの断面図である。
【0046】
鋳型5Bは、開口部51の下方に位置する、円錐台テーパ状の先細りテーパ面54を有する。また、鋳型5Bの内周面は、先細りテーパ面54の下方において、中心軸線Pに平行な円筒状の直胴面55と、先太りテーパ面53とを含む。この鋳型5Bの内周面には、鋳型5に注入された溶湯71を凝固させるための凝固領域が設定されている。凝固領域は、先細りテーパ面54と直胴面55とにまたがって設定されている。つまり、鋳型5Bに注入された溶湯71が、先細りテーパ面54と直胴面55とで冷却されることで、チタン鋳塊72が形成される。
【0047】
この場合であっても、鋳型5Aと同様に、先細りテーパ面54の作用により、湯皺の発生を防ぐことができる。また、湯皺が形成されて、ブレークアウトが発生しても、先太りテーパ面53により、飛散する溶湯71を受け止めることができ、溶湯71の飛び散りを防ぐことができる。
【0048】
なお、上記の鋳型5、5A、5Bは、円筒形としているが、四角柱などの多角柱形状であってもよい。
【実施例
【0049】
鋳型に先太りテーパ面53を設けることで、ブレークアウト発生時の溶湯71の飛び散りを防ぐことができる。この鋳型に先細りテーパ面54を設けることで、ブレークアウトの発生を抑制できるため、さらに、チタン鋳塊72を鋳型から引き抜く際の溶湯71の飛び散りを防ぐことができる。以下に、先細りテーパ面54を設けた場合における、チタン鋳塊の製造方法の効果を確認するために、以下に示す鋳造試験を実施して、その結果を評価した。
(1)溶解および鋳造条件
原料:スポンジ・チタン、合金成分を混合した直径100mm×長200mmのブリケット
溶湯成分:チタン合金、純チタン
溶湯温度(ハース4内の溶湯温度):1700℃
鋳型の内径:650mm
鋳型長さ:500mm
溶解量:8000kg
溶解速度:800kg/時間
チタン鋳塊の引き抜き・押し上げパターン
・間欠引抜後、直ちに間欠上昇させるパターンを繰り返す
・平均引抜速度:2~20mm/s
・引抜間隔:1~10mm/回
・平均押上速度:2~20mm/s
・押上間隔:0.5~5mm/回
照射部31、32、33の照射方法:電子ビームあるいはプラズマ
ハース4のサイズ:幅500mm×長1500mm×深100mm
溶解原料の溶解方法:ブリケットを溶解速度に合わせて連続供給
照射部31:2基
照射部32:1基
照射部33:1基
給湯口の突き出し長さ:5mm以上100mm以下
【0050】
また、実施した試験では、本発明例および比較例の鋳型として、図5で示す鋳型5A、図7で示す鋳型5B、胴体の内周面が中心軸線に平行な鋳型、および、胴体の内周面全域が、中心軸線からの距離が上方から下方に向かって徐々に短くなる鋳型を用いた。
【0051】
(2)チタン鋳塊の化学組成
以下では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
チタン合金の場合、Al:4.1~7.5%、Fe:0.1~2.1%、V:2.8~5.0%、O:0.03~0.5%、N:0.005~0.2%、C:0.005~0.2%、残部Tiおよび不純物からなるものが例示される。
【0052】
Alは、α安定化元素であり、ヤング率を向上させ、密度を小さくする作用がある。しかし、その含有量が4.1%未満であると強度を確保することができず、密度を十分に小さくすることができず、軽量化することができない。また、その含有量が7.5%超える場合、TiAlが生成しやすくなり脆くなる。このため、Al含有量は、4.1~7.5%とした。
【0053】
Feは、β安定化元素であり、添加量に従って強度が上昇し疲労強度が向上する。しかし、その含有量が0.1%未満であると強度の上昇は小さくその効果が認められない。また、その含有量が2.1%超える場合は凝固時の偏析が顕著になり、加工熱処理工程で偏析を解消することが困難になる。このため、Fe含有量は、0.1~2.1%とした。
【0054】
Vは、β安定化元素であり、冷間加工性を向上させる。しかし、その含有量が2.8%未満であると冷間加工性の改善効果が小さい。また、その含有量が5.0%超える場合は、Vが比較的高価な元素であるためコストが上昇する。このため、V含有量は、2.8~5.0%とした。
【0055】
O、N、Cは、α安定化元素であり、不純物として含有される量は、Oが0.03~0.5%、Nが0.005~0.2%、Cが0.005~0.2%である。これらの元素の含有量を増大させることで強度を向上させる傾向があるが、上記の範囲を超えると製品の延性が低下してしまう。一方、上記の範囲未満になるように含有量を低下させても延性の改善に繋がらず、製造コストが上昇してしまう。そこで、Oは0.03~0.5%、Nは0.005~0.2%、Cは0.005~0.2%とした。
【0056】
純チタンの場合、O:0.15%以下、Fe:0.20%以下、N:0.03%以下、C:0.08%以下、H:0.013%以下であり、残部Tiであるものが例示される。上記の範囲を超えると製品の延性が低下してしまう。そこで、各元素の成分は上述の範囲とした。
【0057】
(3)評価
結果を表1にまとめて示す。
【表1】
【0058】
表1において、鋳型(I)は、図5に示す鋳型5Aと同形の鋳型である。鋳型(II)は、胴体の内周面が中心軸線に平行な鋳型である。鋳型(III)は、胴体の内周面全域が、中心軸線からの距離が上方から下方に向かって徐々に短くなる鋳型である。
【0059】
また、チタン鋳塊の表面に割れが発生した場合には、割れを含むチタン鋳塊の厚み方向に30mm、鋳造方向に30mmの試料を採取し、観察面を鏡面研磨した。光学顕微鏡で割れを観察し、表層からの割れの深さを測定した。
【0060】
また、チタン鋳塊の引き抜きの際、湯皺などの欠陥が破断して内部の溶湯が漏れ出るブレークアウトの有無を観察した。
【0061】
表1に示すように、鋳型が先細りテーパ面54を有することにより、チタン鋳塊の表面に派生する湯皺および割れを低減することができ、ブレークアウトを抑制することができることが分かる。その結果、先太りテーパ面53によりブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できる。さらに、先細りテーパ面54によりブレークアウトの発生を抑制できるため、チタン鋳塊72を鋳型から引き抜く際の溶湯71の飛び散りをさらに防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、ブレークアウト発生時の溶湯の飛び散りを防止できる。
【符号の説明】
【0063】
1 製造装置
2 原料供給部
4 ハース
5、5A、5B 鋳型
6 支持台
31、32、33 照射部
50 胴体
51 開口部
51A 開口
52、55 直胴面
53 先太りテーパ面
54 先細りテーパ面
70 チタン合金原料
71 溶湯
72 チタン鋳塊
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7