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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】衝撃試験装置及び衝撃試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/08 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G01M7/08 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020017222
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021124351
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博司
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-194445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体に衝撃を与える衝撃試験装置であって、
前記試験体に向かう運動方向に運動するインパクタと、
前記試験体及び前記インパクタの一方に取り付けられる回動部材と、を連結する連結部を備え、
前記試験体及び前記インパクタの他方と、前記回動部材とは、互いの相対運動のうちの前記運動方向と直交する第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結されており、
前記試験体及び前記インパクタの他方は、前記インパクタが前記運動方向に運動する行程の途中で、前記1自由度の相対運動を規制する規制部材を有し、
前記規制部材は、ガイド軸部を有し、
前記回動部材は、前記ガイド軸部に沿って相対運動自在かつ前記ガイド軸部の周りに回動自在に軸支される
ことを特徴とする衝撃試験装置。
【請求項2】
前記第1座標軸は、鉛直軸である
ことを特徴とする請求項1に記載の衝撃試験装置。
【請求項3】
前記規制部材は、前記第1座標軸を中心として、前記運動方向に垂直な面に対して所定の鋭角で傾斜する規制面を有する
ことを特徴とする請求項又は請求項に記載の衝撃試験装置。
【請求項4】
試験体に衝撃を与える衝撃試験方法であって、
前記試験体及びインパクタの一方に回動部材を取り付ける回動部材取付工程と、
前記試験体及び前記インパクタの他方と、前記回動部材とを、互いの相対運動のうち第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結する連結工程と、
前記インパクタを前記試験体に向けて運動させて前記試験体に衝突させる衝突工程と、を備え
前記連結工程の前に、前記試験体及び前記インパクタの他方に、前記1自由度の相対運動を規制する規制部材を取り付ける規制部材取付工程を有しており、
前記規制部材は、ガイド軸部を有し、
前記回動部材は、前記ガイド軸部に沿って相対運動自在かつ前記ガイド軸部の周りに回動自在に軸支される
ことを特徴とする衝撃試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃試験装置及び衝撃試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝突物が構造体に衝突するような状況を評価するため、構造体の部分構造を模擬した試験体に衝撃を与える衝撃試験装置があった。
【0003】
しかしながら、従来の衝撃試験装置は、実際の衝突の過程における部分構造の変形モードを適切に模擬できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/083376号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、衝突時における部分構造の実態を適切に模擬できる衝撃試験装置及び衝撃試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る衝撃試験装置は、試験体に衝撃を与える衝撃試験装置であって、前記試験体に向かう運動方向に運動するインパクタと、前記試験体及び前記インパクタの一方に取り付けられる回動部材と、を連結する連結部を備え、前記試験体及び前記インパクタの他方と、前記回動部材とは、互いの相対運動のうちの前記運動方向と直交する第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結されており、前記試験体及び前記インパクタの他方は、前記インパクタが前記運動方向に運動する行程の途中で、前記1自由度の相対運動を規制する規制部材を有し、前記規制部材は、ガイド軸部を有し、前記回動部材は、前記ガイド軸部に沿って相対運動自在かつ前記ガイド軸部の周りに回動自在に軸支される。
(2)上記(1)において、前記第1座標軸は、鉛直軸であってよい。
(3)上記(1)又は(2)において、前記規制部材は、前記第1座標軸を中心として、前記運動方向に垂直な面に対して所定の鋭角で傾斜する規制面を有してよい。
(4)本発明の一態様に係る衝撃試験方法は、試験体に衝撃を与える衝撃試験方法であって、前記試験体及びインパクタの一方に回動部材を取り付ける回動部材取付工程と、前記試験体及び前記インパクタの他方と、前記回動部材とを、互いの相対運動のうち第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結する連結工程と、前記インパクタを前記試験体に向けて運動させて前記試験体に衝突させる衝突工程と、を備え、前記連結工程の前に、前記試験体及び前記インパクタの他方に、前記1自由度の相対運動を規制する規制部材を取り付ける規制部材取付工程を有しており、前記規制部材は、ガイド軸部を有し、前記回動部材は、前記ガイド軸部に沿って相対運動自在かつ前記ガイド軸部の周りに回動自在に軸支される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、衝突時における部分構造の実態を適切に模擬できる衝撃試験装置及び衝撃試験方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両の全面の幅の一部が障害物に衝突する状況を説明する図であり、(a)は衝突前の状況を説明する図であり、(b)は衝突後の状況を説明する図である。
図2】障害物が衝突した後の車両の状態を説明する図である。
図3】障害物が衝突する際の平面視における車両前方の構造の変形を説明する説明図である。
図4】障害物が衝突する際の側面視における車両前方の構造の変形を説明する説明図である。
図5】実施形態に係る衝撃試験装置と試験体との関係を説明する図である。
図6】規制部材及び回動部材を示す説明図であり、(a)は試験前の状態を示す斜視図であり、(b)は試験前の状態を示す平面図であり、(c)は試験後の状態を示す斜視図であり、(d)は試験後の状態を示す平面図である。
図7】側面視における衝撃試験装置の作用を示す説明図であり、順に、(a)は試験前の初期状態を示す図であり、(b)は衝撃が作用した直後である第1時点の状態を示す図であり、(c)は第1時点の後の第2時点の状態を示す図であり、(d)は第2時点の後の最終状態を示す図である。
図8】平面視における衝撃試験装置の作用を示す説明図であり、順に、(a)は試験前の初期状態を示す図であり、(b)は衝撃が作用した直後である第1時点の状態を示す図であり、(c)は第1時点の後の第2時点の状態を示す図であり、(d)は第2時点の後の最終状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
自動車分野では、地球環境への負荷軽減の観点から、車両の軽量化が求められている。このため、車両の骨格は、高強度化された材料及び薄肉化された板厚に基づいて設計されている。新たに設計された車両に対しては、安全性評価の一環として、衝突の際の影響を評価することが求められている。評価方法の一つである、車両を丸ごと用いた試験(フルカー試験)の実施は、高いコストを要するので、比較的低コストで実施可能な、車両の部分構造を用いて部分構造を評価する試験(部分構造試験)の需要がある。部分構造試験における試験体には、フルカー試験における試験体となる車両の部分構造を正確に模擬することが求められる。
【0011】
本発明は、試験体に衝撃を与える衝撃試験装置であって、試験体に向かう運動方向に運動するインパクタと、試験体及びインパクタの一方に取り付けられる回動部材と、を連結する連結部を備え、試験体及びインパクタの他方と、回動部材とは、互いの相対運動のうちの運動方向と直交する第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結されている。これにより、インパクタと試験体とが、3次元の直交座標系を構成する3つの軸のうち、インパクタの運動方向(第3座標軸)と直交する第1座標軸と、第1座標軸及び運動方向の双方に直交する第2座標軸と、に関する4自由度(2軸×2自由度)の全てでは拘束されない状態となる。よって、試験体は、運動方向と直交する第1座標軸の少なくとも1自由度で自由に変形できるようになる。したがって、部分構造試験における試験体であっても、実際の衝突の過程における部分構造の変形モードを適切に模擬できる。
【0012】
例えば、車両の前方における両側に配置され、フロントフェンダーに沿って湾曲した形状のアッパーメンバーは、後方をメインフレームに、前方をバンパーに接続している。アッパーメンバーとメインフレームとは、構造力学的には、固定端を介して接合されているとみなすことができる。アッパーメンバーとバンパーとは、構造力学的には、モーメントを伝達する剛節点を介して接合されており、部材相互の角度が固定されているとみなすことができる。
【0013】
ここで、アッパーメンバーだけを、衝突による変形の影響を評価したい部分構造である試験体として取り出して試験する場合、特に、フロントバンパーとの剛節点における拘束条件を試験体に反映すると、アッパーメンバーの実態を適切に模擬できるので、好ましい。
【0014】
すなわち、アッパーメンバーだけを試験体として取り出して試験する場合、実際の車両の構造におけるアッパーメンバーとフロントバンパーとの拘束条件を考慮する。そして、衝撃試験装置におけるインパクタとアッパーメンバーを模擬した試験体との境界を、インパクタの運動方向となるX軸(第3座標軸、前後方向)に沿う相対運動拘束、X軸周りに回動拘束、横方向(水平方向)となるY軸(第2座標軸)に沿う相対運動拘束、Y軸周りに回動拘束、鉛直軸となるZ軸(第1座標軸、上下方向)に沿う相対運動自由、鉛直軸周りに回動自由である状態となるようにする。このようにして、アッパーメンバーの実態を適切に模擬できる。
【0015】
このように、衝撃試験装置は、試験体に向かう運動方向に運動するインパクタと、試験体及びインパクタの一方に取り付けられる回動部材と、を有する連結部を備え、試験体及びインパクタの他方と、回動部材とは、互いの相対運動のうちの運動方向と直交する第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結されている。よって、部分構造試験における試験体であっても、フルカー試験における試験体となる車両の部分構造を正確に模擬できる。
以下、本発明の実施形態として、試験体で模擬する構造が車両のアッパーメンバーである場合を想定し、詳細に説明する。
【0016】
(実施形態)
図1は、車両200の全面の幅の一部が障害物OBに衝突する状況を説明する図であり、(a)は衝突前の状況を説明する図であり、(b)は衝突後の状況を説明する図である。図2は、障害物OBが衝突した後の車両200の状態を説明する図である。図3は、障害物OBに車両200が衝突する際の平面視における車両200前方の構造の変形を説明する説明図である。図4は、障害物OBに車両200が衝突する際の側面視における車両200前方の構造の変形を説明する説明図である。図5は、実施形態に係る衝撃試験装置100と試験体Tとの関係を説明する図である。なお、特に説明のない限り、衝撃試験装置100が試験体Tに対して相対的に運動する運動方向をX軸(図5における矢印X参照)といい、衝撃試験装置100を基準として試験体Tの側を前方といい、試験体Tを基準として衝撃試験装置100の側を後方といい、X軸に沿って前方を見たときの横方向をY軸(図5における矢印Y参照)といい、X軸に沿って前方を見たときのY軸と直行する方向又は鉛直方向をZ軸(図5における矢印Z参照)という場合がある。
【0017】
図1(a)に示すように、車両200は、障害物OBと対向して、車両200の前面の幅の一部が障害物OBに衝突する場合がある。特に、車両200の前面の幅に対する所定の割合αが、例えば、25%の場合の衝突は、スモールオーバーラップ(SOL)衝突と呼ばれている。この場合、図1(b)及び図2に示すように、衝突エネルギーが集中する車両200の構造の一部(車両200の左側前方)が大きく変形し、その変形による車両200の変形及び加速度が運転者に影響を及ぼしやすくなる。このような状況であっても、車両200の構造には、運転者の安全性を保つことが要求されている。
【0018】
実際に車両200が障害物OBに衝突して、スモールオーバーラップ衝突が生じた際の車両200前方の構造は、図3及び図4に模式的に示すように、衝突前における実線で示されたような形状から、衝突の途中における二点鎖線で示されたような形状に複雑に変形する。
【0019】
詳細には、図3及び図4に示すように、車両200の前方の構造は、キャビンCAを囲むメインフレームMFと、前端部がメインフレームMFに剛結されるとともに後方に延びて後端部がフロントバンパーBPに剛結されるフロントメンバーFMと、前端部がメインフレームMFに剛結されるとともに車両200の両側に配置され、フロントフェンダー(不図示)に沿って湾曲した形状のアッパーメンバーUMと、を備えている。アッパーメンバーUMとフロントメンバーFMとは、互いにコネクションメンバーCMを介して剛結されている。アッパーメンバーUMとメインフレームMFとは、構造力学的には、固定端を介して接合されているとみなすことができる。アッパーメンバーUMとフロントバンパーBPとは、構造力学的には、モーメントを伝達する剛節点BとなるコネクションメンバーCMを介して接合されており、部材相互の角度が固定されているとみなすことができる。
【0020】
このような構造であるので、実際に車両200が障害物OBに衝突して、スモールオーバーラップ衝突が生じた際の車両200の前方の構造において、特に、アッパーメンバーUMとコネクションメンバーCMとの間の剛節点Bは、図3において矢印で示すように、X軸に沿って前方に移動しながら、Z軸周りに反時計回りに回動し、剛節点BBの位置になる。また、剛節点Bは、図4において矢印で示すように、X軸に沿って前方に移動しながら、Z軸に沿って下方に移動し、剛節点BBの位置になる。
【0021】
このように、実際に車両200が障害物OBに衝突して、スモールオーバーラップ衝突が生じた際の車両200前方の構造は、剛節点Bに着目すると、X軸と直交するZ軸に係る相対運動及び回動の2自由度が自由になっており、他の自由度、すなわち、Y軸に係る相対運動及び回動の2自由度は拘束されており、X軸に係る相対運動及び回動の2自由度は拘束されている状態となっている。
【0022】
(試験体T)
図5に示すように、試験体Tは、衝突による変形の影響を評価したい部分構造であり、例えば、車両200の部分構造であるアッパーメンバーである。試験体Tの後端部Teは、回動部材20に剛結されている。試験体Tの前端部Twは、実質的に変形しない剛体壁Wに剛結されている。試験体Tは、適宜、実際の車両200における拘束状態を模擬するため、所定の剛性を有する治具Gによって支持されている。なお治具Gは、実質的に変形しない剛体に設けられている。
【0023】
実際の車両200の構造全体の中から、アッパーメンバーUMだけを試験体Tとして取り出して試験する場合、実際の車両200の構造におけるアッパーメンバーUMとフロントバンパーBPとの拘束条件を考慮する。そして、衝撃試験装置100におけるインパクタ10とアッパーメンバーUMを模擬した試験体Tとの境界を、インパクタ10の運動方向となるX軸(図5における矢印X参照)に沿う相対運動拘束、X軸周り(図5における矢印Rx参照)に回動拘束、Y軸(図5における矢印Y参照)に沿う相対運動拘束、Y軸周り(図5における矢印Ry参照)に回動拘束、Z軸(図5における矢印Z参照)に沿う相対運動自由、Z軸周り(図5における矢印Rz参照)に回動自由となるようにする。このようにすることで、アッパーメンバーUMの実態を適切に模擬できる。
【0024】
(衝撃試験装置100)
図6は、規制部材12及び回動部材20を示す斜視図である。
実際の車両200の部分構造を模擬するため、図5及び図6に示すように、本実施形態に係る衝撃試験装置100は、試験体Tに向かう運動方向となるX軸に沿って運動するインパクタ10と、試験体T及びインパクタ10の一方(ここでは、試験体Tであるが、インパクタ10であってもよい。)に取り付けられる回動部材20と、を連結する連結部Jを備えている。
【0025】
インパクタ10は、試験体Tの後端部Teを押圧することにより、試験体Tに与える衝撃エネルギーに応じた運動エネルギーを伝達する。インパクタ10は、例えば、シリンダに対して進退自在に挿通されたピストンロッドを含む油圧式のアクチュエータ11と、適宜、アクチュエータ11の前端部に取り付けられた規制部材12を備えている。なお、規制部材12は、回動部材20がインパクタ10に取り付けられる場合、試験体Tの後端部Teに取り付けられてもよい。なお、インパクタ10は、規制部材12を備えていなくてもよい。例えば、回動部材20が試験体Tに取り付けられる場合、回動部材20は、規制部材12を介することなく、アクチュエータ11(インパクタ10)の前端部と直接的に連結されてもよい。
【0026】
アクチュエータ11は、例えば、蓄圧された作動油を一気に開放することにより、ピストンロッドを試験体Tの後端部Teに向けて打ち出すものである。
インパクタ10から試験体Tに伝達する運動エネルギーは、インパクタ10の質量又は速度を制御することで設定できる。
【0027】
(連結部J)
図5及び図6に示すように、衝撃試験装置100は、前端部に、インパクタ10を試験体Tと連結するための連結部Jを有している。衝撃試験装置100が規制部材12を備える場合、連結部Jは、規制部材12の前端部と回動部材20との間に形成される。なお、衝撃試験装置100が規制部材12を備えない場合、連結部Jは、インパクタ10の前端部と回動部材20との間に形成される。
連結部Jにより、インパクタ10と、回動部材20とは、Z軸に沿う相対運動及びZ軸周りの回動が自由になっている。すなわち、インパクタ10と、回動部材20とは、互いの相対運動のうち、X軸と直交するZ軸(第1座標軸)に係る2自由度が自由になるように連結されている。同時に、連結部Jにより、インパクタ10と、回動部材20とは、X軸及びY軸に沿う相対運動並びにX軸及びY軸周りの回動が拘束されている。
【0028】
詳細には、連結部Jは、ガイド軸部13と、ガイド軸部13が沿う軸(ここではZ軸)に沿って摺動自在で、かつ、その軸周りに回動自在となるようにガイド軸部13に対して嵌装される被ガイド軸部21とを有している。
ガイド軸部13は、回動部材20が回動する軸(ここではZ軸)に沿う円柱状の外形状を有している。ガイド軸部13の外径は、ガイド軸部13に対して回動部材20の被ガイド軸部21が摺動自在となるように、被ガイド軸部21の内径に対して若干小さい。
被ガイド軸部21は、ガイド軸部13の外形状に応じた円柱状の内形状を有している。被ガイド軸部21の内径は、ガイド軸部13に対して回動部材20の被ガイド軸部21が摺動自在となるように、ガイド軸部13外径に対して若干大きい。
【0029】
このようにして、試験体T及びインパクタ10の他方(ここでは、インパクタ10であるが、試験体Tであってもよい。)と、回動部材20とは、互いの相対運動のうちのX軸と直交する第1座標軸(ここではZ軸であるが、Y軸であってもよい。)に係る少なくとも1自由度(ここでは、Z軸に係る回動及び相対運動の2自由度)が自由になるように連結部Jによって連結されている。
これにより、インパクタ10と試験体Tとが、3次元の直交座標系を構成する3つの軸のうち、X軸と直交するZ軸(第1座標軸)と、Z軸(第1座標軸)及びX軸の双方に直交するY軸(第2座標軸)と、に関する4自由度(2軸×2自由度)の全てでは拘束されない状態となる。したがって、部分構造試験における試験体Tであっても、実際の衝突の過程における部分構造の変形モードを適切に模擬できる。よって、衝突時における部分構造の実態を適切に模擬できる。
【0030】
(回動部材20)
回動部材20は、試験体Tの後端部Teに剛結される。回動部材20は、被ガイド軸部21と、規制部材12の規制面14(図6参照)に当接する当接面22aを有する当接部22と、回動部材20を試験体Tに固定するためのボルト等の固定部材23と、を備えている。回動部材20は、被ガイド軸部21が、規制部材12のガイド軸部13が沿うZ軸に沿い、当接面22aがZ軸と実質的に平行になるような姿勢で配置される。回動部材20は、ガイド軸部13に沿って相対運動自在で、ガイド軸部13の周りに回動自在に軸支されている。これにより、回動部材20は、試験体Tの後端部Teに固定され、被ガイド軸部21が規制部材12のガイド軸部13に嵌装された状態で、Z軸に沿って相対運動でき、Z軸周りに回動できるようになっている。よって、実際の衝突時において、端部がZ軸に沿って相対運動し、かつ、Z軸周りに回動するような、部分構造の実態を適切に再現できる。
【0031】
被ガイド軸部21は、中空円筒状である。被ガイド軸部21は、ガイド軸部13の円柱状の外形状に応じた円柱状の内形状を有している。なお、規制部材12のガイド軸部13に対して嵌め込んで組み立てられるように、被ガイド軸部21は、軸方向沿うスリットを有していてもよい。
【0032】
当接部22は所定の厚みを有する平板形状である。当接部22は、被ガイド軸部21の横に固定され、片持ち支持されている。当接部22は、固定部材23により、試験体Tの後端部Teに固定される。当接面22aは、規制面14に応じた平坦な面である。当接面22aと規制面14との関係は、回動部材20が規制部材12に対してZ軸に沿って相対運動しても、当接部22と規制面14とが接した際に、当接面22aの全面が規制面14に部分的に重なる関係となっている。これにより、回動部材20と規制部材12との位置関係に依らず、規制部材12から回動部材20へ確実に衝撃力を伝達でき、回動部材20が損傷しないようにできる。
【0033】
(規制部材12)
規制部材12は、被ガイド軸部21が摺動するガイド軸部13に沿って延びた形状を有している。規制部材12は、ガイド軸部13と、回動部材20の回動運動を規制する規制面14(図6参照)を有している。規制面14は、回動部材20がZ軸周りに回動して、図6(a)及び図6(b)に示すような初期位置から、鋭角βだけ回動した際(図6(c)及び図6(d)参照)にそれ以上の回動を規制するために、X軸に垂直な面、すなわち、YZ平面に対して鋭角β(例えば、β=45度)をなすように傾斜している。このように、規制部材12は、Z軸(第1座標軸)を中心として、X軸に垂直な面に対して、所定の鋭角βで傾斜する規制面14を有している。
このような構造により、規制部材12は、インパクタ10が運動方向に運動する行程の途中で、試験体Tの後端部Teの少なくとも1自由度(ここでは、Z軸周りの回動)の相対運動を規制する。
【0034】
このように、試験体T及びインパクタ10の他方は、インパクタ10が運動方向に運動する行程の途中で、相対運動が自由となっている1自由度の相対運動を規制する規制部材12を有している。
これにより、インパクタ10が運動方向に運動する行程の途中で、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20との互いの相対運動を、自由な状態から拘束の状態に変えることができる。
したがって、部分構造試験における試験体Tであっても、実際の衝突の過程における部分構造の変形モードの変化を適切に模擬できる。よって、衝突時における部分構造の実態を適切に模擬できる。
【0035】
ガイド軸部13は、上端部又は下端部に、ストッパ13Sを備えていてもよい。これにより、規制部材12に対して回動部材20がガイド軸部13に沿って相対運動する範囲を規制できる。そして、被ガイド軸部21の上端部又は下端部が、ストッパ13Sに当接した時点で、規制部材12に対する回動部材20のZ軸に対する相対運動を拘束の状態にできる。よって、インパクタ10がX軸に沿って運動する行程の途中で、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20との互いのZ軸に沿う相対運動を、自由な状態から拘束の状態に変えることができる。
【0036】
(衝撃試験装置100の作用及び衝撃試験方法)
ここで、図7及び図8を用いて、試験体Tに対する衝撃試験装置100の作用とともに、衝撃試験装置100を使用した衝撃試験方法を説明する。
図7は、側面視における衝撃試験装置100の作用を示す説明図であり、順に、(a)は試験前の初期状態を示す図であり、(b)は衝撃が作用した直後である第1時点の状態を示す図であり、(c)は第1時点の後の第2時点の状態を示す図であり、(d)は第2時点の後の最終状態を示す図である。
図8は、平面視における衝撃試験装置100の作用を示す説明図であり、順に、(a)は試験前の初期状態を示す図であり、(b)は衝撃が作用した直後である第1時点の状態を示す図であり、(c)は第1時点の後の第2時点の状態を示す図であり、(d)は第2時点の後の最終状態を示す図である。
【0037】
(1)まず、図7(a)及び図8(a)に示すように、衝撃試験装置100を試験体Tに組み込む。これを、衝撃試験方法における衝撃試験装置100の初期状態とする。
詳細には、試験体T及びインパクタ10の一方(ここでは、試験体T)に回動部材20を取り付ける(回動部材取付工程)。
【0038】
(2)また、試験体T及びインパクタ10の他方(ここでは、インパクタ10)と、回動部材20とを、互いの相対運動のうち第1座標軸に係る少なくとも1自由度(ここでは、Z軸に沿う相対運動及びZ軸周りの回動の2自由度)が自由になるように連結する(連結工程)。
適宜、試験体T及びインパクタ10の他方に、前述の1自由度の相対運動を規制する規制部材12を取り付ける(規制部材取付工程)。
具体的には、インパクタ10の規制部材12に備わるガイド軸部13に対して、回動部材20に備わる被ガイド軸部21を嵌めて軸支させ、連結部Jを介して衝撃試験装置100と試験体Tとを連結する。
衝撃試験装置100と試験体Tは、このように連結されているので、初期状態において、試験体Tの後端部Teは、X軸に沿って規制部材12(衝撃試験装置100)との相対運動拘束で、X軸周りに回動拘束で、Y軸に沿って相対運動拘束で、Y軸周りに回動拘束で、Z軸に沿って相対運動自由で、Z軸周りに回動自由な状態で、衝撃試験装置100に対して連結された状態となっている。
【0039】
(3)次に、インパクタ10を試験体Tに向けて運動させて試験体Tに衝突させる(衝突工程)。すなわち、インパクタ10を駆動して、試験体Tに衝撃エネルギーを与えることにより、試験体TをX軸に沿って押す。すると、試験体Tを押す行程において、試験体Tの後端部Teは、押す行程の前半となる第1時点では、Z軸周りに回動自由である(図7(b)及び図8(b)参照)ので、回動部材20の当接部22とともに鋭角β(例えば45度)に満たない所定の角度だけ回動する。
試験体Tの後端部Teは、押す行程の途中となる第1時点の後の第2時点では、回動部材20の当接部22とともに鋭角βだけ回動して、回動部材20の当接部22の当接面22aが規制部材12の規制面14に当接し、それ以上の回動(例えば、初期から45度の回動)が規制されるようになり、Z軸周りに回動拘束となる(図7(c)及び図8(c)参照)。すなわち、第2時点において、試験体Tの後端部Teは、Z軸周りの拘束状態が、回動自由から回動拘束へと変化する。つまり、試験体Tの後端部Teは、試験体Tを押す行程の途中において、Z軸に沿って相対運動自由で、Z軸に回動拘束であり、Y軸に沿って相対運動拘束で、Y軸に回動拘束の状態となる。
【0040】
(4)続いて、インパクタ10により試験体TをX軸に沿って更に押す。すると、当接部22の当接面22aは、規制面14で規制された姿勢(初期状態の当接面22aの姿勢から所定の鋭角βだけ回動した状態)を保ったまま、X軸に沿って移動する(図8(c)及び図8(d)参照)。同時に、当接面22aは、Z軸に沿って適宜の距離だけ相対運動する(図7(c)及び図7(d)参照)。すなわち、試験体Tの後端部Teは、試験体Tを押す行程の後半において、Z軸に沿って相対運動自由で、Z軸に回動拘束であり、Y軸に沿って相対運動拘束で、Y軸に回動拘束の状態となる。
なお、ここで、規制部材12のガイド軸部13の下端部にストッパ13Sが設けられている場合、規制部材12に対する回動部材20のZ軸に沿う更なる相対運動は、回動部材20の被ガイド軸部の下端部がストッパ13Sに当接した時点で規制される。すなわち、インパクタ10に対する試験体Tの後端部TeのZ軸に沿う相対運動が拘束の状態となる。
【0041】
(5)試験体Tに与えられた衝撃エネルギーが試験体Tの変形等によって費やされると、インパクタ10は停止する(図7(d)及び図8(d)参照)。
【0042】
このように、本実施形態に係る衝撃試験装置100及び衝撃試験装置100を用いた衝撃試験方法によれば、衝撃試験装置100が、X軸に直交する第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由となるように、インパクタ10と試験体Tとを連結する連結部Jを備えているので、実際に衝突物が車両200に衝突する際の部分構造の変形モードを適切に模擬できる。また、衝撃試験装置100が規制部材12を備えているので、実際に衝突物が車両200に衝突する行程の途中で、部分構造の拘束状態が自由から拘束に変化するような、実際に衝突物が車両200に衝突する際の部分構造の変形モードの変化を適切に模擬できる。
【0043】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20とが、互いの相対運動のうちのX軸(インパクタ10の運動方向)と直交するZ軸に係る2自由度(Z軸に沿う相対運動及びZ軸周りの回動)が自由になるように連結されている場合で説明したが、これに限らない。すなわち、互いの相対運動のうちのX軸と直交する第1座標軸に係る少なくとも1自由度が自由になるように連結されていればよい。
【0044】
例えば、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20とが、互いの相対運動のうちのX軸と直交するZ軸に係る1自由度(Z軸周りの回動)が自由(X軸に係る2自由度を除く、Y軸及びZ軸に係る4自由度のうち、1自由度は自由で3自由度は拘束)になるように連結されていてもよい。
【0045】
例えば、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20とが、互いの相対運動のうちのX軸と直交するZ軸に係る1自由度(Z軸に沿う相対運動)が自由(X軸に係る2自由度を除く、Y軸及びZ軸に係る4自由度のうち、1自由度は自由で3自由度は拘束)になるように連結されていてもよい。
【0046】
例えば、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20とが、互いの相対運動のうちのX軸と直交するY軸に係る1自由度(Y軸周りの回動)が自由(X軸に係る2自由度を除く、Y軸及びZ軸に係る4自由度のうち、1自由度は自由で3自由度は拘束)になるように連結されていてもよい。
【0047】
例えば、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20とが、互いの相対運動のうちのX軸と直交するY軸に係る2自由度(Y軸に沿う相対運動、Y軸周りの回動)が自由(X軸に係る2自由度を除く、Y軸及びZ軸に係る4自由度のうち、1自由度は自由で3自由度は拘束)になるように連結されていてもよい。
【0048】
例えば、試験体T及びインパクタ10の他方と、回動部材20とが、互いの相対運動のうちのX軸と直交するY軸及びZ軸に係る4自由度(Y軸に沿う相対運動、Y軸周りの回動、Z軸に沿う相対運動、Z軸周りの回動)が自由(X軸に係る2自由度を除く、Y軸及びZ軸に係る4自由度のうち、4自由度が自由)になるように連結されていてもよい。
【0049】
上述の各例を実現するための具体的な構造としては、例えば、連結部Jを、連結部Jを構成する軸部(ガイド軸部13及び被ガイド軸部21)が、自由となる座標軸に沿うような姿勢となるようにする。そして、その座標軸に係る回動を拘束する場合は、例えば、自由となる座標軸に沿うレールをガイド軸部13に設け、そのレールに嵌る溝を被ガイド軸部21に設ければよい。また、その座標軸に係る相対運動を拘束する場合は、例えば、被ガイド軸部21の両端部に当接する突片を、ガイド軸部13の対応する位置に設ければよい。また、Y軸及びZ軸に係る4自由度を自由にする場合は、連結部Jを球面同士で軸支する構造としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 インパクタ
11 アクチュエータ
12 規制部材
13 ガイド軸部
14 規制面
20 回動部材
21 被ガイド軸部
22 当接部
22a 当接面
23 固定部材
100 衝撃試験装置
200 車両
B 剛節点
BB 剛節点
BP フロントバンパー
CA キャビン
CM コネクションメンバー
FM フロントメンバー
J 連結部
MF メインフレーム
OB 障害物
T 試験体
Te 後端部
Tw 前端部
UM アッパーメンバー
W 剛体壁
α 割合
β 鋭角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8