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特許7406088鉄道車両用台車、及びその台車を備えた鉄道車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】鉄道車両用台車、及びその台車を備えた鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/44 20060101AFI20231220BHJP
   B61F 5/46 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B61F5/44 A
B61F5/46
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020022224
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021126975
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】水野 将明
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/007930(WO,A1)
【文献】特開2006-103424(JP,A)
【文献】特開2017-124745(JP,A)
【文献】特開2013-126835(JP,A)
【文献】特開2006-282060(JP,A)
【文献】国際公開第2013/061641(WO,A1)
【文献】特開平03-258656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/44
B61F 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車枠と、
ボルスタと、
前記台車枠に設けられた前側の輪軸及び後側の輪軸と、
前記前側の輪軸及び前記後側の輪軸それぞれの左側及び右側にそれぞれ設けられた軸箱と、
前記台車枠の左の側部及び右の側部にそれぞれ設けられた操舵装置であって、各々が前記前側の輪軸及び前記後側の輪軸を操舵する前記操舵装置と、を備え、
前記各操舵装置は、
前記台車枠に支持された梃子と、
前記ボルスタと前記梃子とを接続する第1のリンクであって、前記第1のリンクと前記ボルスタとの接続部、及び前記第1のリンクと前記梃子との接続部を有する前記第1のリンクと、
前側の前記軸箱と前記梃子とを接続する第2のリンクであって、前記第2のリンクと前記前側の前記軸箱との接続部、及び前記第2のリンクと前記梃子との接続部を有する前記第2のリンクと、
後側の前記軸箱と前記梃子とを接続する第3のリンクであって、前記第3のリンクと前記後側の前記軸箱との接続部、及び前記第3のリンクと前記梃子との接続部を有する前記第3のリンクと、を含み、
前記第2のリンクと前記軸箱との接続部、及び前記第2のリンクと前記梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部は弾性部材を有し、
前記前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である、鉄道車両用台車。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用台車であって、
さらに、前記第1のリンクと前記ボルスタとの接続部、及び前記第1のリンクと前記梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部が弾性部材を有する、鉄道車両用台車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両用台車であって、
前記各接続部は、断面が円形の軸と、前記軸が挿入された穴と、を含み、
前記弾性部材を有する前記各接続部は、前記軸と前記穴との隙間に前記弾性部材としてゴムブッシュを備える、鉄道車両用台車。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の台車と、車体と、を備えた鉄道車両。
【請求項5】
車体と、
台車と、を備え、
前記台車は、
台車枠と、
前記台車枠に設けられた前側の輪軸及び後側の輪軸と、
前記前側の輪軸及び前記後側の輪軸それぞれの左側及び右側にそれぞれ設けられた軸箱と、
前記台車枠の左の側部及び右の側部にそれぞれ設けられた操舵装置であって、各々が前記前側の輪軸及び前記後側の輪軸を操舵する前記操舵装置と、を備え、
前記各操舵装置は、
前記台車枠に支持された梃子と、
前記車体と前記梃子とを接続する第1のリンクであって、前記第1のリンクと前記車体との接続部、及び前記第1のリンクと前記梃子との接続部を有する前記第1のリンクと、
前側の前記軸箱と前記梃子とを接続する第2のリンクであって、前記第2のリンクと前記前側の前記軸箱との接続部、及び前記第2のリンクと前記梃子との接続部を有する前記第2のリンクと、
後側の前記軸箱と前記梃子とを接続する第3のリンクであって、前記第3のリンクと前記後側の前記軸箱との接続部、及び前記第3のリンクと前記梃子との接続部を有する前記第3のリンクと、を含み、
前記第2のリンクと前記軸箱との接続部、及び前記第2のリンクと前記梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部は弾性部材を有し、
前記前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である、鉄道車両。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両であって、
さらに、前記第1のリンクと前記車体との接続部、及び前記第1のリンクと前記梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部が弾性部材を有する、鉄道車両。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の鉄道車両であって、
前記各接続部は、断面が円形の軸と、前記軸が挿入された穴と、を含み、
前記弾性部材を有する前記各接続部は、前記軸と前記穴との隙間に前記弾性部材としてゴムブッシュを備える、鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用台車(以下、単に「台車」ともいう)に関し、特に、前後に設けられた輪軸の操舵が可能な台車、及びその台車と車体とを備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車体と台車から構成され、レール上を走行する。鉄道車両が曲線路を通過する際、車輪がレールを左右方向に押す力、いわゆる横圧が発生する。特に、曲線路の出口では、横圧が大きくなりやすい。軌道が出口緩和曲線区間から出口直線区間に移行し、その軌道に輪軸が追従しにくいからである。横圧が大きいと脱線の危険性が高まる。そのため横圧を抑制することが望ましい。
【0003】
曲線路の出口で横圧を低減する技術として、例えば国際公開WO2013/061641号パンフレット(特許文献1)は、前後の輪軸が操舵する台車(以下、「操舵台車」ともいう)を開示する。特許文献1に記載の操舵台車では、台車枠の左右の側部にそれぞれ操舵装置が設けられる。各操舵装置は、台車枠に支持された梃子と、3つのリンクと、を含む。1つ目のリンクは、ボルスタと梃子とを接続する。2つ目のリンクは、前側の輪軸の軸箱と梃子とを接続する。3つ目のリンクは、後側の輪軸の軸箱と梃子とを接続する。
【0004】
操舵台車を備えた鉄道車両が曲線路を通過する際、車体と一体化されたボルスタの回転により、1つ目のリンクを介して、梃子が回転する。梃子の回転により、2つ目のリンクと3つ目のリンクとが相互に逆向きで前後方向に移動する。2つ目のリンクの前後方向移動によって前側の輪軸の操舵角が操作され、3つ目のリンクの前後方向移動によって後側の輪軸の操舵角が操作される。特許文献1に記載の操舵台車では、前側の輪軸の操舵角が後側の輪軸の操舵角よりも大きくなるように、輪軸の操舵角が操作される。鉄道車両が曲線路を通過した直後において、輪軸の操舵角が軌道に対して過剰に大きくなる状態(過操舵状態)が抑制され、横圧が低減される、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2013/061641号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の操舵台車では、1つ目のリンクとボルスタとの接続部は、断面が円形の軸と、その軸が挿入された穴と、から構成される。そのリンクとボルスタのうちの一方にその軸が設けられ、他方にその穴が設けられる。その軸とその穴とは、相互にその軸回りの回転のみ許容される。つまり、その軸とその穴との間に隙間はない。そのため、そのリンクとボルスタとの接続部は、前後方向の剛性が剛である。これと同様に、1つ目のリンクと梃子との接続部、2つ目のリンクと軸箱との接続部、2つ目のリンクと梃子との接続部、3つ目のリンクと軸箱との接続部、及び3つ目のリンクと梃子との接続部はいずれも、前後方向の剛性が剛である。
【0007】
上記の操舵装置では、全ての接続部の前後方向の剛性が剛であるため、各リンクと梃子との間で力の伝達が直になされる。そのため、操舵の応答性が高いと言える。しかしながら、実際には、軌道が出口緩和曲線区間から出口直線区間に移行する曲線路の出口において、内軌側で、横圧が過大に急上昇することがわかった。
【0008】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものである。本発明の一つの目的は、曲線路の出口の内軌側で横圧の過大な急上昇を抑制できる、操舵が可能な鉄道車両用台車及び鉄道車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態による鉄道車両用台車は、台車枠と、ボルスタと、台車枠に設けられた前側の輪軸及び後側の輪軸と、前側の輪軸及び後側の輪軸それぞれの左側及び右側にそれぞれ設けられた軸箱と、台車枠の左の側部及び右の側部にそれぞれ設けられた操舵装置と、を備える。各操舵装置は、前側の輪軸及び後側の輪軸を操舵する。各操舵装置は、台車枠に支持された梃子と、ボルスタと梃子とを接続する第1のリンクと、前側の軸箱と梃子とを接続する第2のリンクと、後側の軸箱と梃子とを接続する第3のリンクと、を含む。第1のリンクは、第1のリンクとボルスタとの接続部、及び第1のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクは、第2のリンクと前側の軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部を有する。第3のリンクは、第3のリンクと後側の軸箱との接続部、及び第3のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクと軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部は弾性部材を有する。前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である。
【0010】
本発明の実施形態による鉄道車両は、上記の台車と、車体と、を備える。
【0011】
また、本発明の実施形態による鉄道車両は、車体と、台車と、を備える。台車は、台車枠と、台車枠に設けられた前側の輪軸及び後側の輪軸と、前側の輪軸及び後側の輪軸それぞれの左側及び右側にそれぞれ設けられた軸箱と、台車枠の左の側部及び右の側部にそれぞれ設けられた操舵装置と、を備える。各操舵装置は、前側の輪軸及び後側の輪軸を操舵する。各操舵装置は、台車枠に支持された梃子と、車体と梃子とを接続する第1のリンクと、前側の軸箱と梃子とを接続する第2のリンクと、後側の軸箱と梃子とを接続する第3のリンクと、を含む。第1のリンクは、第1のリンクと車体との接続部、及び第1のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクは、第2のリンクと前側の軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部を有する。第3のリンクは、第3のリンクと後側の軸箱との接続部、及び第3のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクと軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部は、弾性部材を有する。前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄道車両用台車及び鉄道車両は、操舵が可能であり、曲線路の出口の内軌側で横圧の過大な急上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態による台車を備えた鉄道車両の一例を模式的に示す上面図である。
図2図2は、図1に示される鉄道車両の右側面図である。
図3図3は、図1に示される鉄道車両の左側面図である。
図4図4は、本発明例1及び比較例1における曲線路での横圧の変動を示す図である。
図5図5は、本発明例2及び比較例1における曲線路での横圧の変動を示す図である。
図6図6は、本発明例3及び比較例1における曲線路での横圧の変動を示す図である。
図7図7は、比較例2及び比較例1における曲線路での横圧の変動を示す図である。
図8図8は、比較例3及び比較例1における曲線路での横圧の変動を示す図である。
図9図9は、ヨーイング剛性と横圧減少率との相関を示す図である。
図10図10は、ヨーイング剛性と出口直線区間における輪軸の左右変位との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明者らは、5つの区間(入口直線区間、入口緩和曲線区間、定常曲線区間、出口緩和曲線区間及び出口直線区間)からなる曲線路を鉄道車両が走行することを想定した数値解析を行い、鋭意検討を重ねた。その結果、下記の知見を得た。なお、本明細書において、前後方向とは、鉄道車両が走行する方向を意味する。つまり、前とは、鉄道車両の走行状態における前を意味し、後ろとは、鉄道車両の走行状態における後ろを意味する。
【0015】
軌道が出口緩和曲線区間から出口直線区間に移行する曲線路の出口では、レールから車輪に作用する力によって、輪軸自身が元の姿勢(操舵角が0(ゼロ))に自然と戻ろうとする。このように輪軸自身がレールに沿って自然に移動する現象は、輪軸の自己操舵と称される。
【0016】
ここで、上記のとおり、特許文献1に記載の台車における操舵装置では、全ての接続部の前後方向の剛性が剛である。つまり、前側の輪軸及び後側の輪軸それぞれのヨーイング剛性が極めて大きい。そのため、輪軸が元の姿勢に戻ろうとしても、車体と一体化されたボルスタから梃子及びリンクを介して輪軸(軸箱)に抵抗力が与えられ、輪軸の移動が拘束される。つまり、操舵装置がかえって輪軸の自己操舵を阻害する。この場合、特に、先行する前側の輪軸が元の姿勢に戻らずに、通過した曲線路の内軌側を向いたままの状態となる。その結果、前側の輪軸の車輪が内軌レールと接触し、内軌側の横圧が過大に急上昇する。
【0017】
以上のことから、曲線路の出口で横圧の過大な急上昇を抑制するには、前側の輪軸の自己操舵が有効に発現すればよい、と言える。したがって、曲線路の出口で前側の輪軸の適度なヨーイングを許容できればよい。具体的には、操舵装置における接続部のうち、前側の輪軸のヨーイングに直接関与する接続部において、前後方向の剛性が剛ではなくて柔であればよい。台車枠の左右の側部にそれぞれ設けられた各操舵装置において、前側の輪軸のヨーイングに直接関与する接続部は、車体又は車体と一体のボルスタと、梃子と、を接続するリンクにおける2つの接続部、及び前側の軸箱(輪軸)と、梃子と、を接続するリンクにおける2つの接続部である。これらの4つの接続部のうち、前側の軸箱と梃子とを接続するリンクにおける2つの接続部の少なくとも1つの接続部において、前後方向の剛性が柔であればよい。剛性が柔の接続部は弾性部材によって実現できる。これにより、前側の輪軸のヨーイング剛性が、小さくもなくて大きくもない、適度な大きさになる。
【0018】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0019】
本発明の実施形態による鉄道車両用台車は、台車枠と、ボルスタと、前側の輪軸と、後側の輪軸と、4つの軸箱と、2つの操舵装置と、を備える。前側の輪軸及び後側の輪軸は台車枠に設けられる。軸箱は、前側の輪軸及び後側の輪軸それぞれの左側及び右側にそれぞれ設けられる。操舵装置は、台車枠の左の側部及び右の側部にそれぞれ設けられる。各操舵装置は、前側の輪軸及び後側の輪軸を操舵する。
【0020】
各操舵装置は、梃子と、第1のリンクと、第2のリンクと、第3のリンクと、を含む。梃子は、台車枠に支持される。第1のリンクは、ボルスタと梃子とを接続する。第1のリンクは、第1のリンクとボルスタとの接続部、及び第1のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクは、前側の軸箱と梃子とを接続する。第2のリンクは、第2のリンクと前側の軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部を有する。第3のリンクは、後側の軸箱と梃子とを接続する。第3のリンクは、第3のリンクと後側の軸箱との接続部、及び第3のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクと軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部は、弾性部材を有する。そして、前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である。
【0021】
典型的な例では、ボルスタは台車枠の上に支持される。軸箱は、台車枠に弾性的に支持される。例えば、軸箱は、輪軸における車輪の外側に配置される。この場合、軸箱は、輪軸の端部に設けられる。また、軸箱は、輪軸における車輪の内側に配置されてもよい。この場合、軸箱は、輪軸の端部よりも輪軸の長手方向中央寄りの位置に配置される。
【0022】
本発明の実施形態による鉄道車両は、上記の台車と、車体と、を備える。
【0023】
典型的な例では、左右に一対の空気ばねがボルスタ上に配置されて車体を支持する。
【0024】
また、本発明の実施形態による鉄道車両は、車体と、台車と、を備える。台車は、台車枠と、前側の輪軸と、後側の輪軸と、4つの軸箱と、2つの操舵装置と、を備える。軸箱は、前側の輪軸及び後側の輪軸それぞれの左側及び右側にそれぞれ設けられる。操舵装置は、台車枠の左の側部及び右の側部にそれぞれ設けられる。各操舵装置は、前側の輪軸及び後側の輪軸を操舵する。
【0025】
各操舵装置は、梃子と、第1のリンクと、第2のリンクと、第3のリンクと、を含む。梃子は、台車枠に支持される。第1のリンクは、車体と梃子とを接続する。第1のリンクは、第1のリンクと車体との接続部、及び第1のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクは、前側の軸箱と梃子とを接続する。第2のリンクは、第2のリンクと前側の軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部を有する。第3のリンクは、後側の軸箱と梃子とを接続する。第3のリンクは、第3のリンクと後側の軸箱との接続部、及び第3のリンクと梃子との接続部を有する。第2のリンクと軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部は、弾性部材を有する。そして、前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である。
【0026】
典型的な例では、軸箱は、台車枠に弾性的に支持される。左右に一対の空気ばねが台車枠上に配置されて車体を支持する。例えば、軸箱は、輪軸における車輪の外側に配置される。この場合、軸箱は、輪軸の端部に設けられる。また、軸箱は、輪軸における車輪の内側に配置されてもよい。この場合、軸箱は、輪軸の端部よりも輪軸の長手方向中央寄りの位置に配置される。
【0027】
本実施形態の台車及びその台車を備えた車両によれば、ボルスタを有するボルスタ付きの操舵台車の場合、各操舵装置において、第2のリンクと軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部のうちの、少なくとも1つが弾性部材を有する。これにより、前側の輪軸のヨーイング剛性が適度な大きさになる。車両が曲線路の出口に至ったとき、ボルスタから梃子及びリンク(第1及び第2のリンク)を介して輪軸(軸箱)に抵抗力が与えられたとしても、弾性部材の圧縮変形によって、前側の輪軸の適度なヨーイングが許容される。これにより、前側の輪軸はスムーズに自己操舵して元の姿勢に戻る。その結果、内軌側で横圧の過大な急上昇を抑制できる。
【0028】
ボルスタを有さないボルスタレスの操舵台車の場合、各操舵装置において、第2のリンクと軸箱との接続部、及び第2のリンクと梃子との接続部のうちの、少なくとも1つが弾性部材を有する。これにより、前側の輪軸のヨーイング剛性が適度な大きさになる。車両が曲線路の出口に至ったとき、車体から梃子及びリンク(第1及び第2のリンク)を介して輪軸(軸箱)に抵抗力が与えられたとしても、弾性部材の圧縮変形によって、前側の輪軸の適度なヨーイングが許容される。これにより、前側の輪軸はスムーズに自己操舵して元の姿勢に戻る。その結果、内軌側で横圧の過大な急上昇を抑制できる。
【0029】
上記の台車及び車両において、前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下である。ヨーイング剛性Ryは下記の式(1)で表わされる。
Ry=2×A×B2 (1)
【0030】
式(1)中のAは、操舵装置の剛性を意味する。具体的には、操舵装置の剛性Aは、梃子、第1のリンク、第2のリンク、及び第3のリンクの各剛性、ならびに上記全ての接続部(弾性部材が存在する場合は弾性部材を含む)の剛性の総和である。弾性部材の剛性は、弾性部材のばね定数である。
【0031】
また、式(1)中のBは、腕の長さを意味する。具体的には、腕の長さBは、台車(車両)の幅方向(左右方向)において、前側の輪軸の長手方向中心から、操舵装置が配置された位置までの距離である。
【0032】
前側の輪軸のヨーイング剛性Ryが1.16×105[Nm/rad]以上であれば、曲線路の出口直線区間内で前側の輪軸の左右方向の変位が0(ゼロ)になる。つまり、前側の輪軸が曲線路通過前の元の姿勢に戻る。もっとも、前側の輪軸のヨーイング剛性が1.16×105以上であれば、操舵装置による本来の操舵機能を十分に発揮することができ、しかも走行中に輪軸の位置が安定する。
【0033】
一方、前側の輪軸のヨーイング剛性Ryが3.00×106以下であれば、曲線路の出口直線区間内で内軌側の横圧を十分に抑制できる。ヨーイング剛性Ryがあまりに大きければ、特許文献1に記載の台車の場合と同じ傾向になるからである。
【0034】
各操舵装置において、弾性部材は、上記2つの接続部のうちの一方に設けられてもよいし、両方に設けられてもよい。前側の輪軸のヨーイング剛性Ryが上記の範囲内である限り、弾性部材が設けられる接続部は任意であり、弾性部材のばね定数も任意である。ただし、前側の輪軸のヨーイング剛性Ryを確実に上記の範囲内に設定するためには、弾性部材は、上記2つの接続部の両方に設けられることが好ましい。
【0035】
上記のボルスタ付きの操舵台車の場合、第1のリンクとボルスタとの接続部、及び第1のリンクと梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部が弾性部材を有してもよい。また、上記のボルスタレスの操舵台車の場合、第1のリンクと車体との接続部、及び第1のリンクと梃子との接続部のうち、少なくとも1つの接続部が弾性部材を有してもよい。これらの接続部も前側の輪軸のヨーイングに直接関与するからである。
【0036】
弾性部材は、後側の軸箱(輪軸)と梃子とを接続する第3のリンクにおける2つの接続部のうちの一方又は両方に設けられても構わない。つまり、第3のリンクと軸箱との接続部、及び第3のリンクと梃子との接続部のうちの、少なくとも1つが弾性部材を有しても構わない。典型的な例では、上記全ての接続部が弾性部材を有する。この場合、後側の輪軸のヨーイング剛性も1.16×105[Nm/rad]以上3.00×106[Nm/rad]以下にすれば、車両の走行する向きが変わったとしても、すなわち台車の前後方向が逆向きになったとしても、確実に横圧の過大な急上昇を抑制できる。
【0037】
典型的な例では、接続部は、断面が円形の軸と、その軸が挿入された穴と、を含む。弾性部材を有する接続部は、その軸とその穴との隙間に弾性部材としてゴムブッシュを備える。例えば、第2のリンクと梃子との接続部がゴムブッシュ(弾性部材)を有する場合、第2のリンクと梃子のうちの一方にその軸が設けられ、他方にその穴が設けられる。さらに、その軸とその穴の隙間にゴムブッシュが設けられる。この接続部では、その軸とその穴とは、相互にその軸回りの回転を許容され、且つゴムブッシュの圧縮変形域の分だけ前後移動を許容される。このような状況は、第2のリンクと軸箱との接続部がゴムブッシュを有する場合でも同様である。またこのような状況は、第3のリンクと軸箱との接続部がゴムブッシュを有する場合、及び第3のリンクと梃子との接続部がゴムブッシュを有する場合でも同様である。さらにこのような状況は、第1のリンクと梃子との接続部がゴムブッシュを有する場合でも同様である。ボルスタ付き台車では、第1のリンクとボルスタとの接続部がゴムブッシュを有する場合でも同様であり、ボルスタレス台車では、第1のリンクと車体との接続部がゴムブッシュを有する場合でも同様である。
【0038】
弾性部材(ゴムブッシュ)を有さない接続部では、その軸とその穴とは、相互にその軸回りの回転のみ許容される。つまり、その軸とその穴との間に隙間はなく、その接続部の前後方向の剛性は剛である。
【0039】
以下に、本発明の鉄道車両用台車及び鉄道車両について、その実施形態を詳述する。
【0040】
図1は、本発明の実施形態による台車を備えた鉄道車両の一例を模式的に示す上面図である。図2は、図1に示される鉄道車両の右側面図である。図3は、図1に示される鉄道車両の左側面図である。なお、図1図3には、車両の進行方向が矢印Fwで示され、左右方向が矢印L及びRで示される。車体の図示は省略される。
【0041】
図1図3を参照して、本実施形態の台車1は、ボルスタ7を有するボルスタ付きの操舵台車である。ボルスタ7の上に、左右に一対の空気ばね8A、8Bが配置される。空気ばね8A、8Bは、図示しない車体を支持する。これにより、車体はボルスタ7と一体化される。車両は、車体の前後に台車1を1台ずつ備える。
【0042】
台車1は、台車枠2と、ボルスタ7と、2つの輪軸3A、3Bと、4つの軸箱5A~5Dと、2つの操舵装置10A、10Bと、を備える。台車枠2は、2つの側ばり2aA、2aBと、これらの側ばり2aA、2aBを結合する横ばり2bを備える。ボルスタ7は、台車枠2の上に支持される。具体的には、横ばり2bの左右方向の中心部に心皿受け(図示省略)が設けられ、左右の側ばり2aA、2aBそれぞれの前後方向の中心部に側受け2cA、2cBが設けられる。ボルスタ7は、自身の左右方向の中心部を横ばり2bの心皿受けによって支持される。また、ボルスタ7は、自身の左右の端部を左右の側ばり2aA、2aBの側受け2cA、2cBによって支持される。これにより、ボルスタ7は、台車枠2に対し、心皿受けを中心にして水平面内で回転可能である。
【0043】
台車枠2の前後にそれぞれ、輪軸3A、3Bが配置される。前側の輪軸3Aは、左右に車輪4A、4Bを備える。後側の輪軸3Bは、左右に車輪4C、4Dを備える。前側の輪軸3Aの左右の端部には、それぞれ軸箱5A、5Bが取り付けられる。後側の輪軸3Bの左右の端部には、それぞれ軸箱5C、5Dが取り付けられる。右前の軸箱5Aは、右側の側ばり2aAに対し、軸箱支持装置6Aによって弾性的に支持される。右後の軸箱5Cは、右側の側ばり2aAに対し、軸箱支持装置6Cによって弾性的に支持される。左前の軸箱5Bは、左側の側ばり2aBに対し、軸箱支持装置6Bによって弾性的に支持される。左後の軸箱5Dは、左側の側ばり2aBに対し、軸箱支持装置6Dによって弾性的に支持される。軸箱支持装置6A~6Dは、コイルスプリング、積層ゴム、板ばね、ゴムブッシュ等のばね要素を含む。
【0044】
左右の側ばり2aA、2aBそれぞれの側部に操舵装置10A、10Bが設けられる。右側の操舵装置10Aは、梃子11Aと、第1のリンク12Aと、第2のリンク13Aと、第3のリンク14Aと、を含む。梃子11Aは、右側の側ばり2aAに支持される。具体的には、側ばり2aAの外側面に軸11aAが設けられる。梃子11Aの長手方向のほぼ中心に穴11bAが形成される。その穴11bAに側ばり2aAの軸11aAが挿入される。これにより、梃子11Aは、軸11aAを支点にして鉛直面内で回転可能である。
【0045】
第1のリンク12Aは、ほぼ前後方向に延び出しており、ボルスタ7と梃子11Aとを接続する。具体的には、ボルスタ7の外側面に軸15aAが設けられる。第1のリンク12Aの前端部に穴15bAが形成される。その穴15bAにボルスタ7の軸15aAが挿入される。このような第1のリンク12Aとボルスタ7との接続部15Aでは、その軸15aAとその穴15bAとは、相互にその軸15aA回りの回転のみを許容される。つまり、その軸15aAとその穴15bAとの間に隙間はない。
【0046】
また、梃子11Aの上端部に軸16aAが設けられる。第1のリンク12Aの後端部に穴16bAが形成される。その穴16bAに梃子11Aの軸16aAが挿入される。このような第1のリンク12Aと梃子11Aとの接続部16Aでは、その軸16aAとその穴16bAとは、相互にその軸16aA回りの回転のみを許容される。つまり、その軸16aAとその穴16bAとの間に隙間はない。
【0047】
第2のリンク13Aは、ほぼ前後方向に延び出しており、右前の軸箱5Aと梃子11Aとを接続する。具体的には、軸箱5Aの外側面に軸17aAが設けられる。第2のリンク13Aの前端部に穴17bAが形成される。その穴17bAに軸箱5Aの軸17aAが挿入される。このような第2のリンク13Aと軸箱5Aとの接続部17Aでは、その軸17aAとその穴17bAとは、相互にその軸17aA回りの回転のみを許容される。つまり、その軸17aAとその穴17bAとの間に隙間はない。
【0048】
また、梃子11Aの下端部に軸18aAが設けられる。第2のリンク13Aの後端部に穴18bAが形成される。その穴18bAに円筒状のゴムブッシュ21Aが挿入される。そのゴムブッシュ21Aに梃子11Aの軸18aAが挿入される。これにより、その軸18aAとその穴18bAの隙間にゴムブッシュ21Aが設けられる。このような第2のリンク13Aと梃子11Aとの接続部18Aでは、その軸18aAとその穴18bAとは、相互にその軸18aA回りの回転を許容され、且つゴムブッシュ21Aの圧縮変形域の分だけ前後移動を許容される。
【0049】
第3のリンク14Aは、ほぼ前後方向に延び出しており、右後の軸箱5Cと梃子11Aとを接続する。具体的には、軸箱5Cの外側面に軸19aAが設けられる。第3のリンク14Aの後端部に穴19bAが形成される。その穴19bAに軸箱5Cの軸19aAが挿入される。このような第3のリンク14Aと軸箱5Cとの接続部19Aでは、その軸19aAとその穴19bAとは、相互にその軸19aA回りの回転のみを許容される。つまり、その軸19aAとその穴19bAとの間に隙間はない。
【0050】
また、梃子11Aには、その上端部と支点(軸11aA)との間に軸20aAが設けられる。第3のリンク14Aの前端部に穴20bAが形成される。その穴20bAに梃子11Aの軸20aAが挿入される。このような第3のリンク14Aと梃子11Aとの接続部20Aでは、その軸20aAとその穴20bAとは、相互にその軸20aA回りの回転のみを許容される。つまり、その軸20aAとその穴20bAとの間に隙間はない。
【0051】
左側の操舵装置10Bは、右側の操舵装置10Aと同様に、梃子11Bと、第1のリンク12Bと、第2のリンク13Bと、第3のリンク14Bと、を含む。左側の操舵装置10Bは右側の操舵装置10Aと左右対称であるため、左側の操舵装置10Bに関する具体的な構成の説明は省略する。
【0052】
このような操舵台車1を備えた鉄道車両が曲線路を通過する際、台車枠2に対するボルスタ7の回転、すなわち車体の回転により、第1のリンク12A、12Bに前後方向の力が加わる。右側の第1のリンク12Aに加わる力の方向と、左側の第1のリンク12Bに加わる力の方向とは、相互に逆向きである。これにより、梃子11A、11Bが回転する。
【0053】
梃子11A、11Bの回転により、第2のリンク13A、13Bと第3のリンク14A、14Bとが相互に逆向きで前後方向に移動する。第2のリンク13A、13Bの前後方向移動によって前側の輪軸3Aの操舵角が操作され、第3のリンク14A、14Bの前後方向移動によって後側の輪軸3Bの操舵角が操作される。
【0054】
鉄道車両が曲線路の出口に至ったとき、先行する前側の輪軸3Aは自己操舵により元の姿勢に戻ろうとする。この場合、第2のリンク13A、13Bが前後方向に移動する。これにより、梃子11A、11Bが回転し、第1のリンク12A、12Bが前後方向に移動する。その際、ボルスタ7から抵抗力が与えられたとしても、ゴムブッシュ21A、21B(弾性部材)の圧縮変形によって、第2のリンク13A、13Bの前後方向の移動が許容される。つまり、前側の輪軸3Aのヨーイングが許容される。これにより、前側の輪軸3Aはスムーズに自己操舵して元の姿勢に戻る。その結果、横圧の過大な急上昇を抑制できる。
【実施例
【0055】
本発明による効果を確認するため、数値シミュレーション解析を実施した。具体的には、1台の車体と2台の操舵台車を備えた車両のモデルを種々作製し、このモデルを用いて曲線路の走行状況を数値解析により模擬した。曲線路として、5つの区間(A:入口直線区間、B:入口緩和曲線区間、C:定常曲線区間、D:出口緩和曲線区間、及びE:出口直線区間)からなる曲線路を採用した。定常曲線区間Cの曲率半径は200m(曲率:0.005)とした。各モデルにおいて、前側の輪軸のヨーイング剛性を変更した。各モデルの変更した条件は下記表1のとおりである。
【0056】
【表1】
【0057】
比較例1のモデルは、特許文献1に記載の台車を用いたモデルであった。つまり、このモデルでは、操舵装置における全ての接続部がゴムブッシュ(弾性部材)を有さずに、ヨーイング剛性が極めて大きかった。
【0058】
これに対し、本発明例1~3のモデルは、図1図3に示されるボルスタ付き台車を用いたモデルであった。つまり、これらのモデルでは、第2のリンクと梃子との接続部がゴムブッシュ(弾性部材)を有した。この接続部以外の接続部はゴムブッシュを有さなかった。本発明例1~3のモデルは、上記したヨーイング剛性の範囲を満たした。つまり、これらのモデルでは、ゴムブッシュの剛性が適度に剛であった。これらのうちで本発明例3のモデルのヨーイング剛性が最も低かった。
【0059】
比較例2~3のモデルは、上記したヨーイング剛性の範囲を満たさなかった。具体的には、比較例2のモデルのヨーイング剛性は、上記したヨーイング剛性の範囲を上回った。比較例3のモデルのヨーイング剛性は、上記したヨーイング剛性の範囲を下回った。
【0060】
各モデルについて、横圧の変動を評価するため、前側の輪軸の内軌側の車輪に作用する横圧を調査した。
【0061】
図4図8は、曲線路での内軌側横圧の変動を示す図である。これらの図のうち、図4は本発明例1及び比較例1の結果を示す。図5は本発明例2及び比較例1の結果を示す。図6は本発明例3及び比較例1の結果を示す。図7は比較例2及び比較例1の結果を示す。図8は比較例3及び比較例1の結果を示す。
【0062】
図4を参照して、本発明例1では、出口緩和曲線区間Dにおける横圧の最大値が定常曲線区間Cにおける横圧の最大値を下回った。つまり、本発明例1では、比較例1と比較して、出口緩和曲線区間Dにおける横圧の過大な急上昇が抑制された。ただし、横圧の僅かな急上昇が認められた。これは、ヨーイング剛性がやや大きかったことによる。
【0063】
図5を参照して、本発明例2では、比較例1と比較して、出口緩和曲線区間Dにおける横圧の急上昇が一切認められなかった。しかも、出口直線区間E内で横圧が早期になくなった。
【0064】
図6を参照して、本発明例3では、比較例1と比較して、出口緩和曲線区間Dにおける横圧の過大な急上昇が抑制された。ただし、出口直線区間E内での横圧の消滅が本発明例2よりも遅れた。これは、ヨーイング剛性がやや小さかったことによる。
【0065】
図7を参照して、比較例2では、比較例1と同様に、出口緩和曲線区間Dにおける横圧の最大値が定常曲線区間Cにおける横圧の最大値を超えた。つまり、比較例2では、比較例1と同様に、横圧の著しい急上昇が認められた。
【0066】
図8を参照して、比較例3では、比較例1と比較して、出口緩和曲線区間Dにおける横圧の過大な急上昇が抑制された。ただし、出口直線区間E内で低い横圧が残ったままとなった。この現象は、輪軸の左右方向の変位が軌道中心に戻らなかった表れである。
【0067】
図9及び図10は、実施例の結果をまとめた図である。図9には、ヨーイング剛性と横圧減少率との相関が示される。図10には、ヨーイング剛性と出口直線区間における輪軸の左右変位との相関が示される。これらの図において、白抜きのプロットは本発明例を示し、塗り潰しのプロットは比較例を示す。なお、これらの図には、上記の本発明例1~3及び比較例1~3それぞれのモデルのみならず、さらにヨーイング剛性を変化させたモデルの結果も示される。
【0068】
図9に示される横圧減少率D(単位:%)は下記の式(2)で表わされる。
D=(1-(P÷PB))×100 (2)
【0069】
式(2)中のPは、各モデルにおいて、出口直線区間Eにおける横圧の最大値を意味する。式(2)中のPBは、比較例1のモデルにおいて、出口直線区間Eにおける横圧の最大値を意味する。つまり、式(2)で表わされる横圧減少率Dは、比較例1のモデルに対して、各モデルの横圧が減少した度合いを示す。比較例1の横圧減少率Dは0%であり、横圧減少率Dが大きいほど、比較例1に対して横圧が小さくなる。
【0070】
図9を参照して、ヨーイング剛性が3.00×106[Nm/rad]以下であれば、横圧減少率Dが16.5%以上となる。したがって、ヨーイング剛性が3.00×106[Nm/rad]以下であれば、曲線路の出口直線区間E内で内軌側の横圧を十分に抑制できる、と言える。
【0071】
図10を参照して、ヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上であれば、曲線路の出口直線区間E内で前側の輪軸の左右方向の変位が0(ゼロ)mmになる。したがって、ヨーイング剛性が1.16×105[Nm/rad]以上であれば、前側の輪軸が曲線路通過前の元の姿勢に戻る、と言える。
【0072】
以上の結果から、本実施形態の台車及び車両は、曲線路の出口の内軌側で横圧の過大な急上昇を抑制できることが明らかになった。
【0073】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0074】
例えば、上記の図1図3に示す実施形態では、ボルスタ付き台車を備えた車両に操舵装置を適用した例が示されるが、ボルスタレス台車を備えた車両に操舵装置を適用することも可能である。具体的には、ボルスタレス台車を備えた車両の場合、台車枠の上に配置された左右に一対の空気ばねが車体を支持する。車体は、台車枠に対し、中心ピンを中心にして水平面内で回転可能である。この車両に適用される操舵装置は、第1のリンクの接続対象が異なる以外は、上記の図1図3に示すものと同じである。つまり、第1のリンクは車体に接続される。このようなボルスタレス台車を備えた車両であっても、上記と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、あらゆる鉄道車両に利用することができ、特に、曲線路の多い地下鉄等の鉄道車両に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 台車
2 台車枠
2aA、2aB 側ばり
2b 横ばり
2cA、2cB 側受け
3A、3B 輪軸
4A、4B、4C、4D 車輪
5A、5B、5C、5D 軸箱
6A、6B、6C、6D 軸箱支持装置
7 ボルスタ
8A、8B 空気ばね
10A、10B 操舵装置
11A、11B 梃子
11aA、11aB 軸
11bA、11bB 穴
12A、12B 第1のリンク
13A、13B 第2のリンク
14A、14B 第3のリンク
15A、15B 接続部
15aA、15aB 軸
15bA、15bB 穴
16A、16B 接続部
16aA、16aB 軸
16bA、16bB 穴
17A、17B 接続部
17aA、17aB 軸
17bA、17bB 穴
18A、18B 接続部
18aA、18aB 軸
18bA、18bB 穴
19A、19B 接続部
19aA、19aB 軸
19bA、19bB 穴
20A、20B 接続部
20aA、20aB 軸
20bA、20bB 穴
21A、21B ゴムブッシュ(弾性部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10