(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】切断加工用金型及び切断加工部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 37/08 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
B21D37/08
(21)【出願番号】P 2020031076
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】イサカ ハミード
(72)【発明者】
【氏名】▲乗▼田 克哉
(72)【発明者】
【氏名】野口 恵太
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-178729(JP,A)
【文献】特開2012-101257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型からなる金型を用いて
めっき鋼板を切断加工するための切断加工用金型であって、
前記可動金型は、前記可動金型による前記
めっき鋼板の切断加工の進行に伴い、固定金型と可動金型の間のクリアランスがc+Δc(Δc>0)である第一段切断加工と、前記第一段切断加工の後に、固定金型と可動金型の間のクリアランスがcである第二段切断加工が行われるように構成され
、
前記可動金型のうち、前記第一段切断加工を行う部分を第一段刃、前記第二段切断加工を行う部分を第二段刃とするとき、
前記可動金型による前記めっき鋼板の切断加工の進行に沿って、クリアランスがc超えc+Δc未満の部分の可動金型の表面は、切断加工の進行方向に対して前記第一段刃の表面から略垂直に設けられ、凸湾曲面を経て前記第二段刃の表面に至る
ことを特徴とする切断加工用金型。
【請求項2】
前記固定金型はダイであり、前記可動金型はパンチである、
請求項1に記載の切断加工用金型。
【請求項3】
切断加工部品の製造方法であって、
請求項1または2に記載の切断加工用金型を用いてめっき鋼板を切断する工程を備える、
切断加工部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断加工を施しためっき金属板の切断端面に、従来よりも多くのめっき金属を回りこませることが可能な切断加工用の金型及び切断加工部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板の切断加工において、上型刃先にR>0mmのRを付与することで点接触を回避し、めっき層を分断させずに切断端面に回りこませる切断加工方法が開示されている。この切断加工方法によれば、これまで刃先のR=0であった汎用の金型よりも多くのめっき層を切断端面に回りこませることができ、切断端面の耐食性が向上した切断加工部品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
めっき鋼板の切断端面に赤錆が発生すると外観が粗悪に見えるため、改善が求められている。しかし、従来技術による切断加工方法では、切断端面のうち、めっき金属が切断端面に回りこんで防錆能を有する面積は70%程度であり、残り30%の部分は屋外暴露を行うと赤錆が発生してしまうことから、防錆能を有する面積率をさらに高める必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は次のような金型を用いることにより、上記の課題を解決するものである。
(1)固定金型と可動金型からなる金型を用いてめっき鋼板を切断加工するための切断加工用金型であって、前記可動金型は、前記可動金型による前記めっき鋼板の切断加工の進行に伴い、固定金型と可動金型の間のクリアランスがc+Δc(Δc>0)である第一段切断加工と、前記第一段切断加工の後に、固定金型と可動金型の間のクリアランスがcである第二段切断加工が行われるように構成され、前記可動金型のうち、前記第一段切断加工を行う部分を第一段刃、前記第二段切断加工を行う部分を第二段刃とするとき、前記可動金型による前記めっき鋼板の切断加工の進行に沿って、クリアランスがc超えc+Δc未満の部分の可動金型の表面は、切断加工の進行方向に対して前記第一段刃の表面から略垂直に設けられ、凸湾曲面を経て前記第二段刃の表面に至ることを特徴とする切断加工用金型。
【0006】
(2)前記固定金型はダイであり、前記可動金型はパンチである、(1)に記載の切断加工用金型。
【0007】
(3)本発明は、切断加工部品の製造方法であって、(1)または(2)に記載の切断加工用金型を用いてめっき鋼板を切断する工程を備える、切断加工部品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の可動金型を用いてめっき鋼板の切断加工を行うと、従来技術による切断加工よりも、切断端面においてめっき金属が回り込んで防性能を有する面積率を、例えば95%程度まで大きくすることが可能である。したがって、めっき鋼板の切断端面に赤錆が発生して外観が粗悪に見えるという問題点を大いに解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)は従来技術における切断加工の金型形状を示し、(B)は、本発明の金型の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の金型を用いて、めっき鋼板の切断加工を行う場合の金型の動きに伴うめっき層の動きを説明する説明図である。
【
図3】第二段刃の湾曲面に沿ってめっき層が流動する挙動に関する説明図である。
【
図4】従来技術と本発明の金型により切断加工を行った場合の切断端面におけるめっき金属の分布を、シミュレーションにより求めたものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(A)は、従来技術における切断加工の金型形状を示している。
図1(A)は固定金型であるダイと、可動金型であるパンチと、切断加工を開始する前に、ダイの上に載置されている被切断金属板(めっき鋼板)を図示している。
【0011】
ダイとパンチの間のクリアランスはcであり、また、パンチの肩RであるRpは0超えである。また、パンチを図中に示したストローク方向の方向に移動させることにより、パンチとダイとがめっき鋼板を挟み込んで切断加工が行われる。
【0012】
図1(B)は、本発明の金型の構成を示している。パンチのストローク方向の先端には、クリアランスcよりもΔc(以下、段差間距離という)だけ大きなクリアランスを有するように、第一段刃が設けられている。この第一段刃のパンチ肩RであるRpはRp≧0である。また、クリアランスがcである部分は従来技術と同様であり、この部分を、第二段刃という。
【0013】
図2は、本発明の金型を用いて、めっき鋼板の切断加工を行う場合の金型の動きに伴うめっき層の動きを説明する説明図である。まず、
図2(A)は、
図1(A)に対応するものであり、固定金型であるダイと、可動金型であるパンチと、切断加工を開始する前に、ダイの上に載置されているめっき鋼板を示している。
【0014】
図2(B)は、ストロークの進行に伴って第一段刃がめっき鋼板に押込まれて、切断が始まる。このとき、ダイとパンチ(第一段刃)の間のクリアランスはc+Δcであり、めっき鋼板の表面には、クリアランスがcである場合よりも、大きなダレが形成されるとともに、段差間領域のめっき層体積が増加する。これは、段差間領域のめっき層体積は、ダレが形成されない場合は線長Δcに比例するが、ダレが形成される場合はΔc/cosθに比例すると考えられるためである。
【0015】
図2(c)は、さらにストロークが進行し、第二段刃がめっき鋼板に押込まれて、再切断が始まる。このとき、めっき鋼板が切断されるまでの間に、段差間領域にあるめっき層は第2二段刃の湾曲面によりストローク方向に押圧されて、湾曲面に沿って流動しようとする。
【0016】
このときのめっき層の挙動について、
図3により説明する。
第2段刃の段差間領域の部分は湾曲面を持つため、この湾曲面と接しているめっき層には、切断加工の進行に伴い、めっき層の厚み方向に圧縮応力が掛かる。
めっき層は、めっき層の厚み方向に圧縮を受けることで、めっき層の厚み方向と直交方向に流動しようとする。この流動する方向には、
図3の中に示したように、A点を境にして、端面側と抜き落とし側の2通りがあるが、本発明の可動金型(パンチ)を用いている場合は、抜き落とし側へ流動しためっき金属であっても、第一段刃の平面部に塞き止められてしまうため、抜き落とされることはなく、湾曲面とめっき鋼板の間に残留して集積することになる。
【0017】
図2(c)に戻り、このあとストロークが進み第二段刃がめっき鋼板を切断したときだとき、湾曲面とめっき鋼板の間に集積しためっき金属は、切断端面の表面を覆うことになる。
【0018】
図4(A)は従来技術の金型により、また
図4(B)は本発明の金型により切断加工を行った場合の切断端面におけるめっき金属の分布を、シミュレーションにより求めたものである。本発明の金型による切断加工のほうが、切断端面においてめっき金属の途切れが少なく、また切断端面のほぼ全域にわたってめっき金属に覆われていることが分かる。
【0019】
それに対して、従来技術の可動金型は第一段刃しかないため、第二段刃の湾曲面でめっき層に圧縮を掛ける作用は働かず、また、それと同時に、抜き落とし側へ流動しためっき金属を第一段刃の平面部が塞き止めてくれる作用もなく、そのまま抜き落とし側へ流出してしまう。そのため、切断端面においてめっき金属が途切れやすく、また切断端面のほぼ全域にわたってめっき金属が蓋うことも困難である。
【0020】
(金型の形状)
本発明の金型について、好ましい各部の大きさは次のとおりである(
図5)。
Rp1: 0 以上 0.5×Rp2 以下 (mm)
Rp2: 0.5 以上 2.0 以下 (mm)
h : 0.5 以上 1.0 以下 (mm)
c : めっき鋼板の板厚の1%程度
Δc : 0.3 以上 0.7 以下、特に好ましくは0.5 (mm)
【0021】
(金型の材質、表面処理等)
本発明の金型について、材質は例えばSKD11であり、#1000程度の研磨仕上げであればよく、特に表面処理は必要ではない。また、硬度はHRC60程度でよく、通常焼入れで構わない。
【0022】
本発明の金型を用いて切断加工を行うにあたり、ストローク量は
図5中の領域Sがダイ内径に進入する程度以上であればよい。また、ストロ-ク速度は、通常の切断加工において行われるストローク速度と同じ程度で構わない。
【0023】
また、本発明の可動金型(パンチ)と対にして用いる固定金型は、通常の表面処理鋼板の切断加工に用いられる固定金型(ダイ)と同じものを用いることができ、特別な仕様の固定金型である必要はない。
【0024】
(表面処理鋼板)
本発明において用いられる表面処理鋼板としては、表面にめっきが施された鋼板を用いることが好ましい。ここで、めっきとしては、Zn系、Zn-Al系、Zn-Al-Mg系、Zn-Al-Mg-Si系の金属めっき又は合金めっきが挙げられる。その中でも、Zn-Al-Mg系の合金めっきが施された鋼板を用いることが好ましい。ここで、合金めっきとしては、めっきの全モル数に対して、Znを80質量%以上含有することが好ましく、90質量%以上含有することがより好ましい。
【0025】
ここで、表面処理鋼板におけるめっき付着量は、好ましくは60g/m2、より好ましくは90g/m2を下限とし、また、好ましくは450g/m2、より好ましくは190g/m2を上限とする。特に、表面処理鋼板へのめっき付着量を90g/m2以上にすることで、切断端面にめっき金属が回り込み易くなるため、剪断加工後の耐食性を向上できる。
【0026】
本発明は、板厚が大きい表面処理鋼板を用いても、切断端面の耐食性に優れる部品が得られる。切断加工に供される表面処理鋼板の板厚は、作製される部品の形状、機械的強度、重量等に基づいて適宜に設定できる。例えば、2.0mmを超える板厚の表面処理鋼板を用いても、切断端面にめっき金属が十分に回り込み、切断端面を被覆するので、切断加工後の耐食性が向上する。
【実施例】
【0027】
(パンチA、パンチB)
本発明の金型の一実施形態である第一段刃と第二段刃を有するパンチAを準備した。一方、本発明の金型の実施形態には該当しないパンチBも用意した。それぞれ、各部の大きさは表1のとおりである。また、いずれのパンチも、材質はSKD11であり、通常焼入れにより硬度をHRC60に調整し、#1000の表面処理を施した。
【0028】
【0029】
(ダイ)
パンチAまたはパンチBと対にして用いるダイは1種類のみ準備し、どちらのパンチにもこのダイを用いて、表面処理鋼板の切断加工を行った。このダイのダイ肩Rは0とした。材質はSKD11であり、通常焼入れにより硬度をHRC60に調整し、#1000の表面処理を施した。
【0030】
(表面処理鋼板)
表面処理鋼板として、板厚がそれぞれ3.2mm、4.5mm、6.0mmで、めっき付着量290g/m2であるZn-6%Al-3%Mg(質量比)合金めっき鋼板を用いた。それらのうち板厚が3.2mmである表面処理鋼板は、鋼板の部分の硬さは129Hv、めっきの部分の硬さは103Hvであった。
【0031】
Hv
(切断加工)
切断加工は、1辺の長さが40mmの角型ダイ4と、クリアランスが所定の値になるように大きさを変更したパンチ1を用い、板押さえ5により表面処理鋼板1を保持して行った。切断加工の速度は120mm/sとした。
【0032】
(耐食性の評価)
切断加工して得られた切断加工品を屋外にて大気曝露試験を行い、切断端面へ目立った赤錆が発生するまでの日数を15日ごとに観察した。その結果を表2に示す。表2には、各切断部品に用いた表面処理鋼板の板厚や、切断加工の条件も合わせて示している。
【0033】
【0034】
まず、パンチBを用いて切断加工を行った表面処理鋼板の切断加工部品である表2のNo.11~13は、第一段刃のみ有するパンチを用いて切断加工を行った切断加工品である。そのため、切断端面へのめっき回り込み長さが短く、切断端面においてめっき金属で覆われた切断端面の割合[B]/[A]はたかだか70%程度どまりであった。
【0035】
一方、表2のNo.1~3は、本発明の金型の実施形態に属するパンチA、すなわち、第一段刃と第二段刃を有するパンチAを用いて切断加工を行った切断加工品である。そのため、切断端面へのめっき回り込み長さが長く、切断端面の80%以上がめっき金属で覆われた切断端面を有していた。
【0036】
表2のNo.1~3とNo.11~13の切断加工品について大気暴露試験を行って、90日後の切断端面を
図4の(a)と(b)に示す。(a)はNo.11の切断端面であり、切断端面の下部において赤錆が発生していた。一方、(b)はNo.1の切断端面であり、赤錆の発生は認められず、No.11と比較して耐食性は大いに向上していた
【符号の説明】
【0037】
1A 可動金型(従来技術)
1B 可動金型(本発明)
3 金属板
4 固定金型
5 めっき層
6 第1段刃の平面部
S ストローク方向