(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】伝送路監視装置及び伝送路監視方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/079 20130101AFI20231220BHJP
H04B 10/61 20130101ALN20231220BHJP
【FI】
H04B10/079 150
H04B10/61
(21)【出願番号】P 2020058441
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-10-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/高スループット・高稼動な通信を提供する順応型光ネットワーク技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 節生
(72)【発明者】
【氏名】谷村 崇仁
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133725(JP,A)
【文献】国際公開第2021/124415(WO,A1)
【文献】特開2015-201726(JP,A)
【文献】Takahito Tanimura et al.,Experimental Demonstration of a Coherent Receiver that Visualizes Longitudinal Signal Power Profile over Multiple Spans out of Its Incoming Signal,45th European Conference on Optical Communication (ECOC 2019),2019年09月
【文献】Takeo Sasai et al.,Simultaneous Detection of Anomaly Points and Fiber types in Multi-span Transmission Links Only by Receiver-side Digital Signal Processing,2020 Optical Fiber Communications Conference and Exhibition (OFC),2020年03月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/07 - 10/079
H04B 10/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路から入力された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路を分割する仮想的な複数の区間の各々で前記光信号に生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償する補償部と、
前記補償部により前記波長分散及び前記非線形歪みを補償された前記電界信号の品質を評価する評価部と、
前記複数の区間の各々の長さに応じて前記波長分散の第1補償量を前記補償部に設定し、前記品質が所定の条件を満たすときの前記複数の区間の各々の前記非線形歪みの第2補償量を探索する探索部と、
前記第1補償量及び前記第2補償量の関係に基づき前記伝送路上の前記光信号のパワー分布を監視する監視部とを有し、
前記探索部は、
前記複数の区間の各々を順次に選択し、
前記第1補償量を前記補償部に設定し、
前記選択中の区間以外の各区間では前記非線形歪みが生じないと仮定し、前記品質が前記所定の条件を満たすときの前記選択中の区間の前記非線形歪みの第3補償量を探索し、
前記複数の区間の各々の前記第3補償量を初期値として前記第2補償量を探索することを特徴とする伝送路監視装置。
【請求項2】
前記探索部は、前記品質の前記所定の条件として、前記電界信号のQ値が最大値であることを条件とすることを特徴とする請求項1に記載の伝送路監視装置。
【請求項3】
前記探索部は、前記複数の区間の各々の前記第3補償量の探索を並列処理することを特徴とする請求項1または2に記載の伝送路監視装置。
【請求項4】
前記探索部は、前記第1補償量を、前記選択中の区間内の位置を境界とする上流側の区間及び下流側の区間に分けて前記補償部に設定して、前記第3補償量を探索することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の伝送路監視装置。
【請求項5】
前記探索部は、
前記複数の区間の前記非線形歪みの補償量を変動させることにより前記第2補償量を探索し、
前記非線形歪みの補償量を変動させるたびに前記品質の増減を判定し、前記品質の増加量が所定回数だけ連続して下限値を下回ったとき、前記第2補償量の探索を終了することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の伝送路監視装置。
【請求項6】
前記探索部は、前記選択中の区間の前記非線形歪みの補償量を最小値から最大値まで所定量ずつ増加させ、前記非線形歪みの補償量を増加させるたびに前記品質の増減を判定することにより、前記選択中の区間の前記第3補償量を探索することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の伝送路監視装置。
【請求項7】
伝送路から入力された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路を分割する仮想的な複数の区間の各々で前記光信号に生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償し、
前記波長分散及び前記非線形歪みを補償された前記電界信号の品質を評価し、
前記複数の区間の各々の長さに応じて前記波長分散の第1補償量を設定し、前記品質が所定の条件を満たすときの前記複数の区間の各々の前記非線形歪みの第2補償量を探索し、
前記第1補償量及び前記第2補償量の関係に基づき前記伝送路上の前記光信号のパワー分布を監視し、
前記第2補償量の探索において、
前記複数の区間の各々を順次に選択し、
前記第1補償量を設定し、
前記選択中の区間以外の各区間では前記非線形歪みが生じないと仮定し、前記品質が前記所定の条件を満たすときの前記選択中の区間の前記非線形歪みの第3補償量を探索し、
前記複数の区間の各々の前記第3補償量を初期値として前記第2補償量を探索することを特徴とする伝送路監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、伝送路監視装置及び伝送路監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量のデータ伝送の需要の増加に応じ、例えば1つの波長光で100(Gbps)以上の伝送を可能とするデジタルコヒーレント光伝送方式の研究開発が行われている。デジタルコヒーレント光伝送方式では信号の変調に光の強度及び位相が用いられる。このような変調方式としては、例えば64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)が挙げられる。
【0003】
デジタルコヒーレント光伝送方式の受信装置は、伝送路から光信号をデジタルコヒーレント受信し、光信号の偏波成分ごとの電界信号に変換し、各電界信号に対し、例えば、伝送路の波長分散と非線形歪み(伝送路の非線形光学効果による劣化)を補償する。
【0004】
送信装置と受信装置の間には、光信号の伝送路として、例えば数十kmから数千kmの光ファイバが延びている。ネットワーク内で光信号を適切にルーティングするため、例えば伝送路上の光信号のパワー分布の監視結果が用いられる。パワー分布の監視手段としては、例えば波長分散及び非線形歪みの各々の補償量を用いる手法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。また、非特許文献1には、伝送路のセクションごとに波長分散及び非線形歪みの各々の補償量を調整する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T.Tanimura et al., “Semi-blind Nonlinear Equalization in Coherent Multi-Span Transmission System with Inhomogeneous Span Parameters”,OFC2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の技術によると、伝送路のセクションごとに波長分散及び非線形歪みの各々の補償量が得られるため、波長分散の補償量と非線形歪みの補償量の関係に基づき光信号のパワー分布を監視することが可能である。しかし、非線形歪みの補償量は、不正確な値を初期値とし、最急降下法に従って、信号品質が最大となるようにセクションごとの最適な値が探索される。
【0008】
この探索は、セクション数分の変数の最適化問題を解くことにより行われ、多くの局所的な最適解が存在する。このため、真の最適値から離れた不正確な初期値が用いられると、光信号のパワー分布を高精度に監視することは難しい。
【0009】
本発明は、伝送路上の光信号のパワーを高精度に監視することができる伝送路監視装置及び伝送路監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様では、伝送路監視装置は、伝送路から入力された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路を分割する仮想的な複数の区間の各々で前記光信号に生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償する補償部と、前記補償部により前記波長分散及び前記非線形歪みを補償された前記電界信号の品質を評価する評価部と、前記複数の区間の各々の長さに応じて前記波長分散の第1補償量を前記補償部に設定し、前記品質が所定の条件を満たすときの前記複数の区間の各々の前記非線形歪みの第2補償量を探索する探索部と、前記第1補償量及び前記第2補償量の関係に基づき前記伝送路上の前記光信号のパワー分布を監視する監視部とを有し、前記探索部は、前記複数の区間の各々を順次に選択し、前記第1補償量を前記補償部に設定し、前記選択中の区間以外の各区間では前記非線形歪みが生じないと仮定し、前記品質が前記所定の条件を満たすときの前記選択中の区間の前記非線形歪みの第3補償量を探索し、前記複数の区間の各々の前記第3補償量を初期値として前記第2補償量を探索する。
【0011】
1つの態様では、伝送路監視方法は、伝送路から入力された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路を分割する仮想的な複数の区間の各々で前記光信号に生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償し、前記波長分散及び前記非線形歪みを補償された前記電界信号の品質を評価し、前記複数の区間の各々の長さに応じて前記波長分散の第1補償量を設定し、前記品質が所定の条件を満たすときの前記複数の区間の各々の前記非線形歪みの第2補償量を探索し、前記第1補償量及び前記第2補償量の関係に基づき前記伝送路上の前記光信号のパワー分布を監視し、前記第2補償量の探索において、前記複数の区間の各々を順次に選択し、前記第1補償量を設定し、前記選択中の区間以外の各区間では前記非線形歪みが生じないと仮定し、前記品質が前記所定の条件を満たすときの前記選択中の区間の前記非線形歪みの第3補償量を探索し、前記複数の区間の各々の前記第3補償量を初期値として前記第2補償量を探索する方法である。
【発明の効果】
【0012】
1つの側面として、伝送路上の光信号のパワーを高精度に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】デジタルコヒーレント光伝送方式の伝送システムの一例を示す構成図である。
【
図4】伝送路の区間ごとの分散補償量及び非線形補償量の一例を示す図である。
【
図5】伝送路の区間ごとの非線形補償量の初期値の探索方法の一例を示す図である。
【
図6】伝送路監視処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】非線形補償量の初期値の決定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】非線形補償量の決定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】伝送特性解析部の他の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(伝送システムの構成例)
図1は、デジタルコヒーレント光伝送方式の伝送システムの一例を示す構成図である。伝送システムは、伝送路9に光信号Soを送信する送信装置1と、伝送路9を介して光信号Soを受信する受信装置2と、伝送路上の光信号Soのパワー分布を監視する伝送路監視装置3とを有する。
【0015】
送信装置1は、送信処理回路10と、光源11と、デジタルアナログ変換器(Digital-to-Analog Converter)12a~12dとを有する。また、送信装置1は、位相変調器(PM: Phase Modulator)13a~13dと、偏波ビームスプリッタ(PBS: Polarization Beam Splitter)14と、偏波ビームコンバイナ(PBC: Polarization Beam Combiner)15とを有する。送信装置1は、イーサネット(登録商標)信号などのデータ信号Sから、互いに直交するX偏波及びY偏波が合成された光信号Soを生成する。
【0016】
送信処理回路10は、他装置から入力されたデータ信号Sを64QAMなどの多値変調方式により変調することにより電界信号Xi,Xq,Yi,Yqを生成してDAC12a~12dにそれぞれ出力する。電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは光信号Soの光電界成分を示す。電界信号Xi,Xqは光信号SoのX偏波のI成分及びQ成分であり、電界信号Yi,Yqは光信号SoのY偏波のI成分及びQ成分である。なお、送信処理回路10としては、例えばDSP(Digital Signal Processor)が挙げられるが、これに限定されず、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)であってもよい。
【0017】
DAC12a~12dは、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqをそれぞれデジタル信号からアナログ信号に変換する。電界信号Xi,Xq,Yi,YqはPM13a~13dにそれぞれ入力される。なお、DAC12a~12dは送信処理回路10内に構成されてもよい。
【0018】
光源11は、例えばLD(Laser Diode)であり、所定の周波数の光SをPBS14に出力する。PBS14は光SをX軸及びY軸(偏光軸)の偏波成分に分離する。光SのX偏波成分はPM13a,13bにそれぞれ入力され、光SのY偏波成分はPM13c,13dにそれぞれ入力される。
【0019】
PM13a~13dは、アナログ信号に変換された電界信号Xi,Xq,Yi,Yqにより光Sをそれぞれ光変調する。より具体的には、PM13a,13bは、光SのX偏波を電界信号Xi,Xqに基づきそれぞれ位相変調し、PM13c,13dは、光SのY偏波を電界信号Yi,Yqに基づきそれぞれ位相変調する。位相変調された光SのX偏波成分及びY偏波成分はPBC15に入力される。PBC15は、光SのX偏波成分及びY偏波成分を偏波合成して、光信号Soとして伝送路9に出力する。
【0020】
受信装置2は、受信処理回路20と、フロントエンド部29と、ADC(Analog-to-Digital Convertor)22a~22dとを有する。フロントエンド部29は、光源21と、PD(PhotoDiode)23a~23dと、90度光ハイブリッド回路240,241と、PBS25,26とを有し、伝送路9から光信号Soをデジタルコヒーレント受信する。PBS26は、送信装置1から伝送路9を介して入力された光信号SoをX偏波成分及びY偏波成分に分離して90度光ハイブリッド回路240,241にそれぞれ出力する。
【0021】
また、光源21は、送信装置1の局発光LOrをPBS25に入力する。PBS25は、局発光LOrをX偏波成分及びY偏波成分に分離して90度光ハイブリッド回路240,241にそれぞれ出力する。
【0022】
90度光ハイブリッド回路240は、光信号SoのX偏波成分及び局発光LOrのX偏波成分を干渉させる導波路により光信号SoのX偏波成分を検波する。90度光ハイブリッド回路240は、検波結果として、Iチャネル及びQチャネルの振幅及び位相に応じた光電界成分をPD23a,23bにそれぞれ出力する。
【0023】
90度光ハイブリッド回路241は、光信号SoのY偏波成分及び局発光LOrのY偏波成分を干渉させる導波路により光信号SoのY偏波成分を検波する。90度光ハイブリッド回路241は、検波結果として、Iチャネル及びQチャネルの振幅及び位相に応じた光電界成分をPD23c,23dにそれぞれ出力する。
【0024】
PD23a~23dは、入力された光電界成分を電気信号に変換して、電気信号をADC22a~22dにそれぞれ出力する。ADC22a~22dは、PD23a~23dから入力された電気信号を電界信号Xi,Xq,Yi,Yqにそれぞれ変換する。電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは受信処理回路20に入力される。
【0025】
受信処理回路20は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対して、伝送路9内の偏波モード分散や偏波依存性損失により光信号Soに生じた波形歪みを動的なパラメータに基づいて補償し、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqからデータ信号Sを生成する。なお、受信処理回路20としては、例えばDSPが挙げられるが、これに限定されず、例えばFPGAまたはASICであってもよい。
【0026】
また、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqは、受信処理回路20に向かう伝送線路の途中で分岐して伝送路監視装置3に入力される。
【0027】
伝送路監視装置3は、例えば電気ケーブルや電気コネクタなどを介して受信装置2に接続され、受信装置2から入力された電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに基づき伝送路9上の光信号Soのパワー分布を監視する。なお、伝送路監視装置3は、受信装置2の内部に構成されてもよい。
【0028】
(伝送路監視装置3の構成例)
図2は、伝送路監視装置3の一例を示す構成図である。伝送路監視装置3は、制御部30と、書き込み処理部31と、メモリ32と、伝送特性解析部33と、パワー分布監視部34とを有する。書き込み処理部31、制御部30、伝送特性解析部33、及びパワー分布監視部34は、例えば、FPGAまたはASICなどのハードウェア、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを駆動するソフトウェアの機能、またはハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成される。
【0029】
書き込み処理部31には、ADC22a~22dから電界信号Xi,Xq,Yi,Yqが入力される。書き込み処理部31は、光信号Soのパワー分布の監視に必要な時間分の電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの信号データをメモリ32に書き込む。メモリ32は信号データを保持する。
【0030】
伝送特性解析部33は、メモリ32から電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの信号データを読み出し、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対し、伝送路9内で光信号Soに生ずる波長分散及び非線形光学効果による劣化、つまり非線形歪みを補償することにより伝送路9の特性を解析する。伝送特性解析部33は、伝送路9を仮想的な複数の区間に離散近似し、区間ごとに波長分散及び非線形歪みを補償する。伝送特性解析部33は、一例として、伝送路9をn個の区間に均等に分割して補償を行う。
【0031】
伝送特性解析部33は、各区間の長さに応じて波長分散の補償量D[1]~D[n](n:正の整数)を設定し、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの品質が所定条件を満たすときの各区間の非線形補償量N[1]~N[n]を探索する。伝送特性解析部22は、波長分散の補償量D[1]~D[n]及び非線形歪みの補償量N[1]~N[n]をパワー分布監視部34に出力する。ここで、[1]~[n]は伝送路9の仮想的な区間を識別する。
【0032】
パワー分布監視部34は、波長分散の補償量D[1]~D[n]及び非線形歪みの補償量N[1]~N[n]の関係に基づき伝送路9上の光信号Soのパワー分布を監視する。パワー分布監視部34は、パワー分布の監視結果を例えば他装置に出力する。なお、パワー分布監視部34は監視部の一例である。
【0033】
制御部30は、書き込み処理部31、伝送特性解析部33、及びパワー分布監視部34に対し、伝送路9の監視処理の制御を行う。例えば、制御部30は、伝送特性解析部33、及びパワー分布監視部34に各種の設定や所定のシーケンスに従った動作指示などを行う。
【0034】
図3は、伝送特性解析部33の一例を示す構成図である。伝送特性解析部33は、パラメータ探索処理部40、読み出し処理部43、信号品質評価部44、補償部45、及びパラメータ記憶部46を有する。
【0035】
読み出し処理部43は、メモリ32から電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの信号データを読み出す。読み出し処理部43は、パラメータ探索処理部40からの読出し制御信号に従って補償部45にデータを出力する。
【0036】
補償部45は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対し、伝送路9を分割する仮想的な複数の区間の各々で光信号Soに生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償する。補償部45は、上流側分散補償部(上流CDC(Chromatic Dispersion Compensator))41-U、目標非線形歪み補償部(目標NLC(NonLiner Compensator))42-K、及び下流側分散補償部(下流CDC)41-Dを有する。また、補償部45は、複数組の分散補償部(CDC#1~#n)41-1~41-n及び非線形歪み補償部(NLC#1~#n)42-1~42-nを有する。
【0037】
上流CDC41-U、下流CDC41-D、及びCDC41-1~41-nは、伝送路9の各区間で光信号Soに生ずる波長分散を補償する。上流CDC41-U、下流CDC41-D、及びCDC41-1~41-nは、信号データを高速フーリエ変換(FFT: Fast Fourier Transform)し、周波数領域フィルタによりフィルタリングした後、逆高速フーリエ変換(IFFT: Inverse FFT)することで波長分散を補償する。
【0038】
目標NLC42-K及びNLC42-1~42-nは、伝送路9の各区間で光信号Soに生ずる非線形歪みを補償する。非線形歪みとは、例えば自己位相変調などの非線形光学効果により光信号Soに生ずる歪みである。目標NLC42-K及びNLC42-1~42-nは、信号データから光信号Soのパワーを検出して、非線形補償係数と乗算した後、乗算で得た値に応じて信号データの位相を調整することにより非線形歪みを補償する。
【0039】
上流CDC41-U、目標NLC42-K、下流CDC41-Dは、読み出し処理部43と信号品質評価部44の間のデータの伝送線路に直列に接続されている。また、CDC41-1~41-n及びNLC42-1~42-nは、読み出し処理部43と信号品質評価部44の間のデータの他の伝送線路に交互かつ直列に接続されている。
【0040】
読み出し処理部43は、パラメータ探索処理部40からの読出し制御信号に従って電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの信号データを伝送線路の最上流の上流CDC41-UまたはCDC41-1に出力する。なお、上記の補償部45の接続構成は、補償部45がソフトウェアの機能として構成される場合、該当機能ブロックの間の連携関係を表す。これは、以降の接続構成の説明についても同様である。
【0041】
上流CDC41-Uに入力された信号データは、目標NLC42-K及び下流CDC41-Dを経由して信号品質評価部44に出力される。信号データは、上流CDC41-U及び下流CDC41-Dにより波長分散を補償され、目標NLC42-Kにより非線形歪みを補償される。
【0042】
また、CDC41-1に入力された信号データは、CDC41-2~41-n及びNLC42-1~42-nを交互に経由して信号品質評価部44に出力される。信号データは、上流CDC41-U及び下流CDC41-Dにより波長分散を補償され、目標NLC42-Kにより非線形歪みを補償される。
【0043】
このように、補償部45は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqに対し、波長分散及び非線形歪みを交互に補償する。このため、波長分散または非線形歪みが連続して補償される場合より効果的な補償が可能である。
【0044】
最下流の下流CDC41-DまたはNLC42-nから出力された信号データは、信号品質評価部44に入力される。
【0045】
信号品質評価部44は、評価部一例であり、補償部45により波長分散及び非線形歪みを補償された電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの品質を評価する。信号品質評価部44は、信号データのエラーレートから電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの品質の一例としてQ値を算出する。信号品質評価部44はQ値をパラメータ探索処理部40に出力する。
【0046】
パラメータ探索処理部40は、探索部の一例であり、伝送路9の各区間の長さに応じて波長分散の補償量(以下、「分散補償量」と表記)を補償部45に設定し、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの品質が所定の条件を満たすときの伝送路9の各区間の非線形歪みの補償量(以下、「非線形補償量」)を探索する。
【0047】
パラメータ探索処理部40は、初期値決定部400、補償量決定部401、及び出力処理部402を有する。初期値決定部400は、NLC42-1~42-nの非線形補償量N[1]~N[n]の初期値を決定する。初期値決定部400は、初期値として、伝送路9の区間ごとにQ値が最大となる目標NLC42-Kの非線形補償量Ns[k](k=1,2,・・・,n)を探索する。このとき、初期値決定部400は、探索対象の区間内の位置の上流側の分散補償量Du[k]を上流CDC41-Uに設定し、探索対象の区間内の位置の下流側の分散補償量Dd[k]を下流CDC41-Dに設定する。なお、整数kは区間の識別子である。
【0048】
初期値決定部400は、決定した初期値をパラメータ記憶部46に記憶させ、決定の完了を補償量決定部401に通知する。なお、パラメータ記憶部46は例えばメモリなどの記憶手段である。
【0049】
補償量決定部401は、伝送路9の区間ごとの分散補償量D[1]~D[n]をCDC41-2~41-nに設定し、伝送路9の区間ごとのNLC42-1~42-nの非線形補償量N[1]~N[n]を探索してパラメータ記憶部46に記憶させる。補償量決定部401は、探索により非線形補償量N[1]~N[n]を決定すると、決定の完了を出力処理部402に通知する。
【0050】
出力処理部402は、CDC41-2~41-nの分散補償量D[1]~D[n]、及びNLC42-1~42-nの非線形補償量N[1]~N[n]をパラメータ記憶部46から読み出してパワー分布監視部34に出力する。
【0051】
パワー分布監視部34は、分散補償量D[1]~D[n]及び非線形補償量N[1]~N[n]の関係に基づき伝送路9上の光信号Soのパワー分布を監視する。
【0052】
次にパラメータ探索処理部40の処理について述べる。
【0053】
図4は、伝送路9の区間L1~Lnごとの分散補償量D[1]~D[n]及び非線形補償量N[1]~N[n]の一例を示す図である。
図4の紙面最上部には、送信装置1及び受信装置2の間を結ぶ伝送路9が示されており、伝送路9には、光信号Soを増幅する光増幅器90が間隔をおいて接続されている。また、受信装置2には、伝送路監視装置3が接続されている。
【0054】
符号G1は、伝送路9の距離(位置)に応じた光信号Soのパワー分布の一例を示す。光信号Soは光増幅器90に入るとパワーが増幅される。このため、光信号Soのパワーは、光増幅器90により増加し、光増幅器90がない伝送路9では伝送損失により徐々に低下する。
【0055】
符号G2は、伝送路9の距離(位置)に応じた光信号Soの累積波長分散量の一例を示す。伝送路9の累積波長分散量は送信装置1からの距離に比例する。
【0056】
符号G3は、伝送路9の区間L1~Lnごとの分散補償量D[1]~D[n]及び非線形補償量N[1]~N[n]の一例を示す。伝送路監視装置3は、伝送路9を離散近似することにより仮想的な区間L1~Lnとして扱う。なお、区間L1~Lnは光増幅器90の位置とは無関係に設定される。
【0057】
補償量決定部401は、符号G2で示される累積分散補償量を伝送路9の距離とみなすことにより、各区間L1~Lnの長さに応じて分散補償量D[1]~D[n]を決定し、CDC41-1~41-nにそれぞれ設定する。このとき、補償量決定部401は、予め各区間L1~Lnの長さを把握している。また、補償量決定部401は、区間L1~Lnごとの長さに加えて、伝送路9を構成する光ファイバの種類に応じて分散補償量D[1]~D[n]を決定してもよい。このように、補償量決定部401は、実際の伝送路9に関するパラメータに従って高精度に分散補償量D[1]~D[n]を決定する。
【0058】
また、補償量決定部401は、分散補償量D[1]~D[n]をCDC41-1~41-nにそれぞれ設定した後、電界信号Xi,Xq,Yi,YqのQ値が最大となるときの各区間L1~Lnの非線形補償量N[1]~N[n]を例えば山登り法により探索する。非線形光学効果は、光信号Soのパワーの高い位置、つまり光増幅器90の出力端から所定範囲内で顕著となる。また、補償量決定部401は、各区間L1~Lnの長さに応じて分散補償量D[1]~D[n]を設定する。
【0059】
このため、補償量決定部401は、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの品質が所定条件を満たすように各区間L1~Lnの非線形補償量N[1]~N[n]を決定することにより、非線形補償量N[1]~N[n]を、それぞれ、伝送路9の区間L1~Lnごとの光信号Soのパワーとみなすことを可能とする。これにより、パワー分布監視部34は、区間L1~Lnごとの分散補償量D[1]~D[n]及び非線形補償量N[1]~N[n]の関係に基づき伝送路9上の光信号Soのパワー分布を監視することができる。なお、分散補償量D[1]~D[n]及び非線形補償量N[1]~N[n]は、それぞれ、第1補償量及び第2補償量の一例である。
【0060】
この探索は、伝送路9の区間L1~Ln分の変数の最適化問題を解くことにより行われ、多くの局所的な最適解が存在する。このため、真の最適値から離れた不正確な初期値が用いられると、光信号Soのパワー分布を高精度に監視することは難しい。
【0061】
そこで、初期値決定部400は、非線形補償量N[1]~N[n]の探索に先立ち、上流CDC41-U、目標NLC42-K、及び下流CDC41-Dを用いて非線形補償量N[1]~N[n]の最適な初期値を探索する。以下に初期値の探索について述べる。
【0062】
図5は、伝送路9の区間L1~Lnごとの非線形補償量N[1]~N[n]の初期値の探索方法の一例を示す図である。
図5において、
図4と共通する内容には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0063】
初期値決定部400は、各区間L1~Ln(k=1~n)を順次に選択し、選択中の区間L1~Lnの非線形補償量Ns[k]を初期値として探索する。初期値決定部400は、選択中の区間L1~Lnの上流側及び下流側の各区間L1~Lnの分散補償量Du[k],Dd[k]を上流CDC41-U及び下流CDC41-Dにそれぞれ設定する。
【0064】
初期値決定部400は、例えば区間L1(k=1)を選択中、区間L1の非線形補償量Ns[1]の位置の上流側の分散補償量Du[1]を上流CDC41-Uに設定し、区間L1の非線形補償量Ns[1]の位置の下流側の分散補償量Dd[1]を下流CDC41-Dに設定する。初期値決定部400は、符号G2に示される累積分散補償量から上流側の分散補償量Du[1]及び下流側の分散補償量Dd[1]を算出する。
【0065】
初期値決定部400は、上流側の分散補償量Du[1]及び下流側の分散補償量Dd[1]の設定後、選択中の区間L1以外の区間L2~Lnでは非線形歪みが生じないと仮定し、Q値が最大となるときの区間L1の非線形補償量Ns[1]を探索する。
【0066】
また、初期値決定部400は、例えば区間L2(k=2)を選択中、区間L2の非線形補償量Ns[2]の位置の上流側の分散補償量Du[2]を上流CDC41-Uに設定し、区間L2の非線形補償量Ns[2]の位置の下流側の分散補償量Dd[2]を下流CDC41-Dに設定する。初期値決定部400は、符号G2に示される累積分散補償量から上流側の分散補償量Du[2]及び下流側の分散補償量Dd[2]を算出する。
【0067】
初期値決定部400は、上流側の分散補償量Du[2]及び下流側の分散補償量Dd[2]の設定後、選択中の区間L2以外の区間L1,L3~Lnでは非線形歪みが生じないと仮定し、Q値が最大となるときの区間L2の非線形補償量Ns[2]を山登り法により探索する。
【0068】
また、初期値決定部400は、例えば区間Ln(k=n)を選択中、区間Lnの非線形補償量Ns[n]の位置の上流側の分散補償量Du[n]を上流CDC41-Uに設定する。しかし、区間Lnの非線形補償量Ns[n]の位置の下流側には波長分散が生ずる区間が存在しないため、初期値決定部400は、分散補償量Dd[n]を0として下流CDC41-Dに設定する。初期値決定部400は、符号G2に示される累積分散補償量から上流側の分散補償量Du[n]を算出する。
【0069】
初期値決定部400は、上流側の分散補償量Du[n]及び下流側の分散補償量Dd[n]の設定後、選択中の区間Ln以外の区間L1~Ln-1では非線形歪みが生じないと仮定し、Q値が最大となるときの区間Lnの非線形補償量Ns[n]を山登り法により探索する。
【0070】
このように、初期値決定部400は、選択中の区間Lk以外の各区間L1~Lnでは非線形歪みが生じないと仮定し、電界信号Xi,Xq,Yi,Yqの品質が所定の条件を満たすときの選択中の区間の非線形補償量Ns[k]を探索する。この探索は、1つの変数のみの最適化問題を解くことにより容易かつ高速に行うことができる。なお、非線形補償量Ns[k]は第3補償量の一例である。
【0071】
初期値決定部400は、各区間L1~Lnの非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を初期値としてNLC42-1~42-nの非線形補償量N[1]~N[n]を探索する。非線形補償量Ns[1]~Ns[n]は、それぞれ、区間L1~Lnのごとの個別の非線形歪みを考慮し、容易かつ高速な探索により得られた正確な初期値として用いることが可能である。したがって、補償量決定部401は、正確な初期値から高精度な非線形補償量N[1]~N[n]を探索することができる。
【0072】
よって、パワー分布監視部34は、伝送路9上の光信号Soのパワーを高精度に監視することができる。
【0073】
また、初期値決定部400は、分散補償量Du[1]~Du[n],Dd[1]~Dd[n]を、選択中の区間Ln内の位置を境界とする上流側の区間L1~Ln及び下流側の区間L1~Lnに分けて上流CDC41-U及び下流CDC41-Dに設定する。このため、初期値決定部400は、分散補償量D[1]~D[n]を個別に算出して設定する場合より容易に分散補償量Du[1]~Du[n],Dd[1]~Dd[n]を算出して設定することができる。なお、分散補償量Du[1]~Du[n],Dd[1]~Dd[n]は第1補償量の一例である。
【0074】
また、補償量決定部401は、例えば、電界信号Xi,Xq,Yi,YqのQ値が最大値であることを品質の条件とする。このため、補償量決定部401は、各区間L1~Lnの非線形補償量N[1]~N[n],Ns[1]~Ns[n]を、より高精度に探索することができる。なお、補償量決定部401は、上記に限定されず、電界信号Xi,Xq,Yi,YqのQ値が所定値以上であることを品質の条件としてもよい。
【0075】
(伝送路監視方法の例)
次に伝送路監視装置3による伝送路監視方法を説明する。
【0076】
図6は、伝送路監視処理の一例を示すフローチャートである。初期値決定部400は、上述したように非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を探索して、非線形補償量N[1]~N[n]の初期値として決定する(ステップSt1)。なお、初期値の決定処理の詳細な内容については後述する。
【0077】
次に補償量決定部401は、非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を初期値として非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を探索して決定する(ステップSt2)。なお、非線形補償量N[1]~N[n]の決定処理の詳細な内容については後述する。
【0078】
次にパワー分布監視部34は、分散補償量D[1]~D[n]及び非線形補償量N[1]~N[n]の関係に基づき光信号Soのパワー分布を監視する(ステップSt3)。パワー分布監視部34は、分散補償量D[1]~D[n]を伝送路9上の距離(位置)とみなし、非線形補償量N[1]~N[n]を光信号Soのパワーとみなすことによりパワー分布を得る。このようにして伝送路監視処理は実行される。
【0079】
図7は、非線形補償量N[1]~N[n]の初期値の決定処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、上記のステップSt1において実行される。また、本処理において、初期値決定部400は、読み出し処理部43に対し、信号データを上流CDC41-Uに出力するように読出し制御信号を出力する。
【0080】
初期値決定部400は、伝送路9の各区間L1~Lnを識別するkを「1」に設定する(ステップSt10)。これにより、初期値決定部400は区間L1を選択する。
【0081】
次に初期値決定部400は、選択中の区間L1~Ln内の位置の上流側の分散補償量Du[k]を区間L1~Lnの長さに応じて算出し上流CDC41-Uに設定する(ステップSt11)。次に初期値決定部400は、選択中の区間L1~Ln内の位置の下流側の分散補償量Dd[k]を区間L1~Lnの長さに応じて算出し下流CDC41-Dに設定する(ステップSt12)。
【0082】
このように、初期値決定部400は、選択中の区間L1~Ln内の位置を境界とする上流側の区間L1~Ln及び下流側の区間L1~Lnに分けて上流CDC41-U及び下流CDC41-Dに設定する。その後、初期値決定部400は、一例として山登り法により非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を探索する。例えば初期値決定部400は、以下に述べる通り、非線形補償量Ns[k]を最小値Nminから最大値Nmaxまで刻み幅ΔNsずつ増加させる。なお、最小値Nmin、最大値Nmax、及び刻み幅ΔNsは伝送システムの特性に応じて適切な値に設定される。
【0083】
初期値決定部400は、非線形補償量Ns[k]を最小値Nminとして目標NLC42-Kに設定する(ステップSt13)。次に信号品質評価部44はQ値を算出する(ステップSt14)。初期値決定部400は、Q値を最大値Qmaxと比較する(ステップSt15)。最大値Qmaxは、例えば予め伝送路9のエラー特性などに基づき決定され、パラメータ記憶部46に記憶されている。
【0084】
初期値決定部400は、Q値が最大値Qmaxより大きい場合(ステップSt15のYes)、パラメータ記憶部46内の最大値QmaxをQ値に書き換える(ステップSt16)。これにより、最大値Qmaxがより大きなQ値に更新され、最終的には探索範囲内の最大値がパラメータ記憶部46に記憶される。
【0085】
次に初期値決定部400は、非線形補償量Ns[k]をパラメータ記憶部46に記憶させる(ステップSt17)。このため、最終的にQ値が最大値であるときの非線形補償量Ns[k]がパラメータ記憶部46に記憶される。
【0086】
また、初期値決定部400は、Q値が最大値Qmax以下である場合(ステップSt15のNo)、ステップSt16,St17の各処理を実行しない。このため、最大値Qmaxは更新されない。
【0087】
次に初期値決定部400は、非線形補償量Ns[k]に刻み幅ΔNsを加算して(Ns[k]=Ns[k]+ΔNs)、新たな非線形補償量Ns[k]を目標NLC42-Kに設定する(ステップSt18)。次に初期値決定部400は、設定済みの非線形補償量Ns[k]を最大値Nmaxと比較する(ステップSt19)。
【0088】
非線形補償量Ns[k]が最大値Nmax未満である場合(ステップSt19のNo)、再びステップSt14以降の各処理が実行される。また、非線形補償量Ns[k]が最大値Nmax以上である場合(ステップSt19のYes)、初期値決定部400は、非線形補償量Ns[k]の探索が終了したと認識する。
【0089】
次に初期値決定部400は、次の区間L1~Lnの非線形補償量Ns[k]を探索するためにkに1を加算する(k=k+1)(ステップSt21)。これにより、初期値決定部400は、次の区間Lkの非線形補償量Ns[k]を、他の区間L1~Lnでの非線形歪みがないと仮定して探索することができる。
【0090】
次に初期値決定部400はkとnを比較する(ステップSt22)。初期値決定部400は、kがnより大きい場合(ステップSt22のYes)、全ての区間L1~Lnの非線形補償量Ns[k]の探索が終了したと認識して、パラメータ記憶部46に記憶された非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を初期値として決定する(ステップSt23)。次に初期値決定部400は、初期値の決定を補償量決定部401に通知する(ステップSt24)。これにより、補償量決定部401は、非線形補償量N[1]~N[n]の決定処理を行う。
【0091】
また、初期値決定部400は、kがn以下である場合(ステップSt22のNo)、次の区間Lkの非線形補償量Ns[k]の探索を行うため、再びステップSt11以降の各処理を実行する。このようにして初期値決定処理は実行される。
【0092】
このように、初期値決定部400は、各区間L1~Lnを順次に選択し、分散補償量Du[k],Dd[k]を上流CDC41-U及び下流CDC41-Dに設定する。初期値決定部400は、選択中の区間L1~Ln以外の各区間L1~Lnでは非線形歪みが生じないと仮定し、電界信号Xi,Xq,Yi,YqのQ値が最大値となるときの選択中の区間L1~Lnの非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を探索する。
【0093】
このため、非線形補償量Ns[1]~Ns[n]は、それぞれ、区間L1~Lnのごとの個別の非線形歪みを考慮し、容易かつ高速な探索により得られた正確な初期値として用いることが可能である。
【0094】
また、初期値決定部400は、選択中の区間L1~Lnの非線形補償量Ns[k]を最小値Nminから最大値Nmaxまで所定量ΔNsずつ増加させる。初期値決定部400は、非線形補償量Ns[k]を増加させるたびにQ値の増減を判定することにより、選択中の区間L1~Lnの非線形補償量Ns[k]を探索する。
【0095】
このため、初期値決定部400は、非線形補償量Ns[k]を一方的に増加させることにより、Q値が最大となる非線形補償量Ns[k]を容易に決定することができる。
【0096】
図8は、非線形補償量N[1]~N[n]の決定処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、初期値決定処理の終了後に実行される。
【0097】
補償量決定部401は、各区間L1~Lnの分散補償量D[1]~D[n]を区間L1~Lnの長さに応じて算出してCDC41-1~41-nにそれぞれ設定する(ステップSt30)。次に補償量決定部401は、初期値決定処理で決定された初期値である非線形補償量Ns[1]~Ns[n]をパラメータ記憶部46から読み出して、非線形補償量N[1]~N[n]の初期値としてNLC42-1~42-nに設定する(ステップSt31)。
【0098】
このように、非線形補償量N[k]の決定処理では、初期値決定処理の場合ように特定の区間Lkの目標NLC42-Kだけに非線形補償量Ns[k]が設定されるのではなく、全ての区間L1~LnのNLC42-1~42-nに非線形補償量N[1]~N[n]が設定される。
【0099】
次に補償量決定部401は、区間L1~Lnの識別子であるkを1に設定し、Q値の変化量が下限値を下回った回数Mを0に設定する(ステップSt32)。次に補償量決定部401は、区間Lkの非線形補償量N[k]を刻み幅ΔN(>0)だけ増加させてNLC42-kに設定する(ステップSt33)。次に信号品質評価部44は、波長分散及び非線形歪みの補償後の信号データからQ値を算出する(ステップSt34)。
【0100】
次に補償量決定部401はQ値と最大値Qmaxを比較する(ステップSt35)。補償量決定部401は、比較の結果、Q値が最大値Qmax以下である場合(ステップSt35のNo)、非線形補償量N[k]を(2×ΔN)だけ減少させてNLC42-kに設定する(ステップSt36)。次に信号品質評価部44は、波長分散及び非線形歪みの補償後の信号データからQ値を算出する(ステップSt37)。
【0101】
次に補償量決定部401はQ値と最大値Qmaxを比較する(ステップSt38)。補償量決定部401は、比較の結果、Q値が最大値Qmax以下である場合(ステップSt38のNo)、非線形補償量N[k]を刻み幅ΔNだけ減少させてNLC42-kに設定する(ステップSt39)。これにより、非線形補償量N[k]が初期値に戻る。
【0102】
また、補償量決定部401は、比較の結果、Q値が最大値Qmaxより大きい場合(ステップSt35のYes、ステップSt38のYes)、Q値の増加量(Q値-Qmax)を下限値QLimと比較する(ステップSt43)。これにより、補償量決定部401は、非線形補償量N[k]の変化によるQ値の増加が飽和しているか否か、つまりQ値がピークに近いか否かを判定する。なお、最大値Qmax及び下限値QLimは伝送システムの特性に応じて適切な値が設定されている。
【0103】
補償量決定部401は、(Q値-Qmax)が下限値QLimより小さい場合(ステップSt43のYes)、回数Mに1を加算する(ステップSt44)。また、補償量決定部401は、(Q値-Qmax)が下限値QLim以上である場合(ステップSt43のNo)、回数Mを0に戻す(ステップSt48)。
【0104】
次に補償量決定部401は、Q値を最大値Qmaxとしてパラメータ記憶部46に記憶させる(ステップSt45)。これにより、最大値Qmaxがより大きなQ値に更新され、最終的には探索範囲内の最大値がパラメータ記憶部46に記憶される。次に補償量決定部401は、Q値が最大値Qmaxを上回るときの非線形補償量N[k]をパラメータ記憶部46に記憶させる(ステップSt46)。
【0105】
次に補償量決定部401は、Q値の増加量が下限値QLimを下回った回数Mを最大回数Mmaxと比較する(ステップSt47)。補償量決定部401は、回数Mが最大回数Mmaxに達した場合(ステップSt47のYes)、光信号Soのパワー分布を監視するための非線形補償量N[1]~N[n]を決定する(ステップSt49)。また、補償量決定部401は、回数Mが最大回数Mmaxに達していない場合(ステップSt47のNo)、後述するステップSt40の処理を行う。
【0106】
このように、補償量決定部401は、非線形補償量N[k]を正方向及び負方向に変動させることにより、Q値が最大となる非線形補償量N[k]を探索する。補償量決定部401は、非線形補償量N[k]を変動させるたびにQ値の増減を判定し、Q値の増加量が最大回数Mmaxだけ連続して下限値QLimを下回ったとき、非線形補償量N[k]の探索を終了する。
【0107】
このため、補償量決定部401は、Q値が最大となる非線形補償量N[k]を高精度に探索することができる。
【0108】
次に補償量決定部401は、kに1つ加算して(ステップSt40)、区間L1~Lnの数であるnと比較する(ステップSt41)。補償量決定部401は、kがnより大きい場合(ステップSt41のNo)、kを1に戻す(ステップSt42)。また、補償量決定部401は、kがn以下である場合(ステップSt41のYes)、再びステップSt33以降の各処理を実行する。このようにして、非線形補償量N[k]の決定処理は実行される。なお、
図7及び
図8に示されるフローチャートの各処理は、ハードウェア及びソフトウェアの何れか一方により実行されてもよいし、両方により実行されてもよい。
【0109】
(伝送特性解析部33の他の例)
図9は、伝送特性解析部33の他の例を示す構成図である。
図9において、
図3と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0110】
伝送特性解析部33は、伝送路9の各区間L1~Lnの非線形補償量N[k]の初期値の探索を並列処理する。伝送特性解析部33は、パラメータ探索処理部40a、読み出し処理部43a、信号品質評価部44a、補償部45a、及びパラメータ記憶部46を有する。
【0111】
パラメータ探索処理部40aは、伝送路9の区間L1~Lnごとの初期値決定部400-1~400-n、補償量決定部401、及び出力処理部402を有する。また、補償部45aは、n組のCDC41-1~41-n及びNLC42-1~42-nと、伝送路9の区間L1~Lnと同数の上流CDC41-U1~41-Un、目標NLC42-K1~42-Kn、及び下流CDC41-D1~41-Dnを有する。
【0112】
各区間Lkの初期値決定部400-kは、
図7に示される初期値決定処理と同様に上流CDC41-Uk、目標NLC42-Kk、及び下流CDC41-Dkを用いて非線形補償量Ns[k]を決定する。このとき、初期値決定部400-1~400-nは、同時並行的に初期値決定処理を実行する。このため、各区間L1~Lnの非線形補償量Ns[1]~Ns[n]が実質的に不同時に得ることが可能となる。
【0113】
また、読み出し処理部43aは、各初期値決定部400-1~400-nからの読出し制御信号に従って信号データを上流CDC41-U1~41-Unに出力する。また、信号品質評価部44aは、区間L1~Lnごとの上流CDC41-U1~41-Un、目標NLC42-K1~42-Kn、及び下流CDC41-D1~41-Dnから入力された補償済みの信号データからQ値を算出し、パラメータ探索処理部40aに出力する。
【0114】
このように、パラメータ探索処理部40aは、各区間L1~Lnの非線形補償量Ns[1]~Ns[n]の探索を並列処理する。このため、初期値決定処理の所要時間が、上記の例のように非線形補償量Ns[1]~Ns[n]を1個ずつ探索する場合より短縮される。
【0115】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能である。
【0116】
なお、以上の説明に関して更に以下の付記を開示する。
(付記1) 伝送路から入力された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路を分割する仮想的な複数の区間の各々で前記光信号に生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償する補償部と、
前記補償部により前記波長分散及び前記非線形歪みを補償された前記電界信号の品質を評価する評価部と、
前記複数の区間の各々の長さに応じて前記波長分散の第1補償量を前記補償部に設定し、前記品質が所定の条件を満たすときの前記複数の区間の各々の前記非線形歪みの第2補償量を探索する探索部と、
前記第1補償量及び前記第2補償量の関係に基づき前記伝送路上の前記光信号のパワー分布を監視する監視部とを有し、
前記探索部は、
前記複数の区間の各々を順次に選択し、
前記第1補償量を前記補償部に設定し、
前記選択中の区間以外の各区間では前記非線形歪みが生じないと仮定し、前記品質が前記所定の条件を満たすときの前記選択中の区間の前記非線形歪みの第3補償量を探索し、
前記複数の区間の各々の前記第3補償量を初期値として前記第2補償量を探索することを特徴とする伝送路監視装置。
(付記2) 前記探索部は、前記品質の前記所定の条件として、前記電界信号のQ値が最大値であることを条件とすることを特徴とする付記1に記載の伝送路監視装置。
(付記3) 前記探索部は、前記複数の区間の各々の前記第3補償量の探索を並列処理することを特徴とする付記1または2に記載の伝送路監視装置。
(付記4) 前記探索部は、前記第1補償量を、前記選択中の区間内の位置を境界とする上流側の区間及び下流側の区間に分けて前記補償部に設定して、前記第3補償量を探索することを特徴とする付記1乃至3の何れかに記載の伝送路監視装置。
(付記5) 前記探索部は、
前記複数の区間の前記非線形歪みの補償量を変動させることにより前記第2補償量を探索し、
前記非線形歪みの補償量を変動させるたびに前記品質の増減を判定し、前記品質の増加量が所定回数だけ連続して下限値を下回ったとき、前記第2補償量の探索を終了することを特徴とする付記1乃至4の何れかに記載の伝送路監視装置。
(付記6) 前記探索部は、前記選択中の区間の前記非線形歪みの補償量を最小値から最大値まで所定量ずつ増加させ、前記非線形歪みの補償量を増加させるたびに前記品質の増減を判定することにより、前記選択中の区間の前記第3補償量を探索することを特徴とする付記1乃至5の何れかに記載の伝送路監視装置。
(付記7) 伝送路から入力された光信号の光電界成分を示す電界信号に対し、前記伝送路を分割する仮想的な複数の区間の各々で前記光信号に生ずる波長分散及び非線形歪みを交互に補償し、
前記波長分散及び前記非線形歪みを補償された前記電界信号の品質を評価し、
前記複数の区間の各々の長さに応じて前記波長分散の第1補償量を設定し、前記品質が所定の条件を満たすときの前記複数の区間の各々の前記非線形歪みの第2補償量を探索し、
前記第1補償量及び前記第2補償量の関係に基づき前記伝送路上の前記光信号のパワー分布を監視し、
前記第2補償量の探索において、
前記複数の区間の各々を順次に選択し、
前記第1補償量を設定し、
前記選択中の区間以外の各区間では前記非線形歪みが生じないと仮定し、前記品質が前記所定の条件を満たすときの前記選択中の区間の前記非線形歪みの第3補償量を探索し、
前記複数の区間の各々の前記第3補償量を初期値として前記第2補償量を探索することを特徴とする伝送路監視方法。
(付記8) 前記品質の前記所定の条件として、前記電界信号のQ値が最大値であることを条件とすることを特徴とする付記7に記載の伝送路監視方法。
(付記9) 前記複数の区間の各々の前記第3補償量の探索を並列処理することを特徴とする付記7または8に記載の伝送路監視方法。
(付記10) 前記第1補償量を、前記選択中の区間内の位置を境界とする上流側の区間及び下流側の区間に分けて前記補償部に設定して、前記第3補償量を探索することを特徴とする付記7乃至9の何れかに記載の伝送路監視方法。
(付記11) 前記複数の区間の前記非線形歪みの補償量を変動させることにより前記第2補償量を探索し、
前記非線形歪みの補償量を変動させるたびに前記品質の増減を判定し、前記品質の増加量が所定回数だけ連続して下限値を下回ったとき、前記第2補償量の探索を終了することを特徴とする付記7乃至10の何れかに記載の伝送路監視方法。
(付記12) 前記選択中の区間の前記非線形歪みの補償量を最小値から最大値まで所定量ずつ増加させ、前記非線形歪みの補償量を増加させるたびに前記品質の増減を判定することにより、前記選択中の区間の前記第3補償量を探索することを特徴とする付記7乃至11の何れかに記載の伝送路監視方法。
【符号の説明】
【0117】
1 送信装置
2 受信装置
3 伝送路監視装置
34 パワー分布監視部
40,40a パラメータ探索処理部
44,44a 信号品質評価部
45,45a 補償部