(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20231220BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
E02D27/34 A
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2020079224
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓
(72)【発明者】
【氏名】石濱 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】澤石 正道
(72)【発明者】
【氏名】内藤 彩乃
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-082056(JP,A)
【文献】特開2003-074070(JP,A)
【文献】特開2017-197974(JP,A)
【文献】特開2003-286720(JP,A)
【文献】特開2002-212958(JP,A)
【文献】特開2009-293349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に打設された押し込み抵抗杭と、
該押し込み抵抗杭の杭頭部に一体的に設けられたフーチングと、
前記押し込み抵抗杭の近傍の地盤に打設された引き抜き抵抗杭と、
前記フーチングの上面に対して非接合の状態で当接され、前記フーチングの上方向の移動を前記引き抜き抵抗杭に引張力として伝達する定着部材と、
前記引き抜き抵抗杭と前記定着部材とを連結し、前記フーチングの引張力
のみが伝達される連結部材と、
前記定着部材の前記フーチングに当接する高さを調整可能に設けた高さ調整部材と、
を備えていることを特徴とする杭基礎構造。
【請求項2】
前記地盤は、支持層と、該支持層の上方に位置する中間層と、を有し、
前記押し込み抵抗杭は、前記支持層に支持され、
前記引き抜き抵抗杭の下端が前記中間層に打ち止まって設けられていることを特徴とする請求項1に示す杭基礎構造。
【請求項3】
前記フーチングは、構造物を下方から支持するフーチングのうち前記構造物の縁端部に配置されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の杭基礎構造。
【請求項4】
前記定着部材と前記フーチングとの間には摩擦低減材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の杭基礎構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の杭基礎構造を用いた構造物基礎の施工方法であって、
前記杭基礎構造を構築する工程と、
前記フーチングの上方に構造物を施工する工程と、
前記高さ調整部材を使用して前記フーチング
の上面に対して非接合の状態で当接するように前記定着部材の高さを調整する工程と、
を有することを特徴とする構造物基礎の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状化が想定されるような地盤上に建ち、地震時に大きな転倒モーメントが発生する建物の基礎構造として、地盤に打設された押し込み抵抗杭と、この押し込み抵抗杭の杭頭部に設けられたフーチングと、を備えた杭基礎構造が一般的である。このような杭基礎構造では、フーチングと押し込み抵抗杭は鉄筋などを介して上部構造の鉛直荷重や、地震時慣性力により生じる水平荷重および回転曲げモーメントが伝達される構造となっている。
【0003】
一方で、杭に鉛直力の支持を期待する押し込み抵抗杭構造として、例えば特許文献1に示される構造が知られている。特許文献1には、地盤改良体を主の耐荷部材として、転倒等のリスクに際して生じる引き抜き力に対して杭を使用し、地盤改良体の沈下の際に生じるフーチングと杭の止着部のクリアランスに対してスペーサーを挿入することにより止着部の高さを調整する構成について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の杭基礎構造では、以下のような問題があった。
すなわち、主に支持力が高い拡大根固め工法などは、鉛直支持力に対して引き抜き抵抗が相対的に小さいため、引き抜きが生じる構造物に対しては杭の本数の増大などの課題があった。引き抜きが生じる構造物としては、例えば鉄塔や煙突、塔状比が大きなマンションなどの構造物等があり、とくに大地震を想定した場合に引き抜き抵抗を考慮しなければならないケースが生じることが多い。その際、引き抜き抵抗が卓越する羽根付き回転鋼管杭工法を併用する構造がある。しかしながら、引き抜きを期待する杭にも曲げモーメントや鉛直力が分担されることで、板厚や杭径が増加し、その結果、使用材料や施工延長が増大するという問題があった。
【0006】
また、上述した特許文献1のように、地盤改良など鉛直荷重を負担する基礎躯体と、その間にクリアランスを設けて引き抜きを防止する杭を配置する構造もある。この場合には、基礎躯体の回転量によっては杭体と基礎躯体とが接触することで曲げ荷重が伝達されるおそれがあり、より確実に引き抜き力を伝達する方法が求められており、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構造により押し込み抵抗杭の引き抜き力を効率よく分担することで、フーチングの転倒を防止でき、杭基礎構造の施工にかかるコストと工期の低減を図ることができる杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明に係る杭基礎構造では、地盤に打設された押し込み抵抗杭と、該押し込み抵抗杭の杭頭部に一体的に設けられたフーチングと、前記押し込み抵抗杭の近傍の地盤に打設された引き抜き抵抗杭と、前記フーチングの上面に対して非接合の状態で当接され、前記フーチングの上方向の移動を前記引き抜き抵抗杭に引張力として伝達する定着部材と、前記引き抜き抵抗杭と前記定着部材とを連結し、前記フーチングの引張力のみが伝達される連結部材と、前記定着部材の前記フーチングに当接する高さを調整可能に設けた高さ調整部材と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る構造物基礎の施工方法では、上述した杭基礎構造を用いた構造物基礎の施工方法であって、前記杭基礎構造を構築する工程と、前記フーチングの上方に構造物を施工する工程と、前記高さ調整部材を使用して前記フーチングの上面に対して非接合の状態で当接するように前記定着部材の高さを調整する工程と、を有することを特徴としている。
【0010】
本発明では、押し込み抵抗杭に一体的に設けられたフーチングに回転するような過大な曲げモーメントが作用したときに、その曲げモーメントの回転成分の引張側の抵抗力を引き抜き抵抗杭に分担させることができる。すなわち、構造物の鉛直荷重および地震時慣性力により生じる鉛直下向きの荷重については押し込み抵抗杭が主に分担し、押し込み抵抗杭に発生した引き抜き力を引き抜き抵抗杭に伝達させて引き抜き抵抗を機能させることができる。
このとき、引き抜き抵抗杭と定着部材とを連結する連結部材がフーチングの引張力のみが伝達される部材であることから、引き抜き抵抗杭には主に押し込み抵抗杭の引き抜き力のみを伝達させることができる。そのため、引き抜き発生時に引き抜き抵抗杭が即時に機能することから、押し込み抵抗杭と引き抜き抵抗杭で機能を分担した合理的、かつ簡単な構造により抵抗機構を構築することができる。これにより、フーチングの転倒に対する安定性をより高めることが可能となり、杭全体の本数や板厚が低減でき、使用する材料の低減と施工延長の短縮が可能となるので、基礎構造の施工にかかるコストと工期の低減を図ることができる。
【0011】
また、本発明では、引き抜き抵抗杭には連結部材を介して高さ調整部材が設けられているため、フーチングの施工後や上部構造物の施工後において鉛直荷重が基礎全体に導入されることによる沈下に対して、定着部材とフーチングとの間に生じたクリアランスを高さ調整部材によって低減することができ、定着部材とフーチングとを確実に接触させることができる。
【0012】
さらに、本発明では、引き抜き抵抗杭は鉛直下向きの力(圧縮力)をほとんど伝達しない例えば鎖状のチェーン部材や線材等の連結部材によって定着部材に連結されることから、引き抜き力以外の外力が生じにくい構造となる。そのため、開端杭の杭材料としての極限状態は圧縮縁側の局部座屈によって耐力が決定されるため、圧縮力を伝達しないことで、引き抜き抵抗杭の杭材料の耐力を最大限に発揮させることができる。
【0013】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記地盤は、支持層と、該支持層の上方に位置する中間層と、を有し、前記押し込み抵抗杭は、前記支持層に支持され、前記引き抜き抵抗杭の下端が前記中間層に打ち止まって設けられていることを特徴としてもよい。
【0014】
この場合には、押し込み抵抗杭は高い支持力を発揮させるために堅固な支持層に支持させ、引き抜き抵抗杭は杭長をできるだけ短くすることを目的として支持層より浅い中間層に先端を打ち止めることで、施工重機の小型化や、例えば回転トルクが小さな拡大根固め工法を施工するための中掘り施工機であっても、羽根付き回転杭工法の施工が可能である。したがって、同一の機械を用いて、拡大根固め工法と羽根付き回転杭工法を施工できるため、作業の効率化や重機の数量や現場搬入回数を低減でき、施工にかかるコストや工期を低減することができる。
【0015】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記フーチングは、構造物を下方から支持するフーチングのうち前記構造物の縁端部に配置されるものであることを特徴としてもよい。
【0016】
本発明によれば、例えば最外縁に位置する基礎に引き抜き力が生じることが多い板状マンション等では、構造物の縁端部に配置されるフーチングのみに杭基礎構造を用いることでコスト低減効果をより発揮することができる。
【0017】
また、本発明に係る杭基礎構造では、前記定着部材と前記フーチングとの間には摩擦低減材が設けられていることを特徴としてもよい。
【0018】
このような構成によれば、定着部材の下面に摩擦低減材を設置することで、フーチングが水平力を受けて水平移動した際に、フーチングと定着部材とが相対変位を生じることで引き抜き抵抗杭に斜め方向の引張力が生じることによる曲げ変形が生じることを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法によれば、簡単な構造により押し込み抵抗杭の引き抜き力を効率よく分担することで、フーチングの転倒を防止でき、杭基礎構造の施工にかかるコストと工期の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図2】
図1にA-A線断面図であって杭基礎構造の水平断面図である。
【
図3】杭基礎構造を備えた構造物基礎において、定着板の高さを調整する状態を示した縦断面図である。
【
図4】
図1に示す杭基礎構造において水平力が作用した状態を示す縦断面図である。
【
図5】杭基礎構造の配置状態の一例を示した平面図である。
【
図6】第1変形例による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図7】第2変形例による杭基礎構造を示す縦断面図である。
【
図8】第3変形例による杭基礎構造の一部を示す縦断面図である。
【
図9】第4変形例による杭基礎構造の水平断面図であって、
図2に対応する図である。
【
図10】第5変形例による杭基礎構造の一部を示す縦断面図である。
【
図11】第5変形例による杭基礎構造を上方からみた平面図であって、(a)は基礎梁に拡幅部を設けない図、(b)は基礎梁に拡幅部を設けた図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態による杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法について、図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態による杭基礎構造1は、地震時に大きな転倒モーメントが発生する建物の基礎構造として設けられる。すなわち、上部構造物は、杭基礎構造1によって下方から支持されている。
【0023】
杭基礎構造1は、地盤Gに打設された押し込み抵抗杭2と、押し込み抵抗杭2の杭頭部2Aに一体的に設けられたフーチング3と、押し込み抵抗杭2の近傍の地盤Gに打設された引き抜き抵抗杭4と、フーチング3の上下方向の移動を規制する定着板5(定着部材)と、引き抜き抵抗杭4と定着板5とを連結し、フーチング3の引張力のみが伝達される、曲げやせん断が伝達されない低剛性なチェーン部材6(連結部材)と、定着板5のフーチング3に当接する高さを調整可能に設けた高さ調整ねじ7(高さ調整部材)と、を備えている。
【0024】
ここで、押し込み抵抗杭2や引き抜き抵抗杭4が打設される地盤Gは、支持層と、支持層の上方に位置する中間層と、を有している。
【0025】
押し込み抵抗杭2は、下端が支持層に到達して支持され、杭頭部2Aがフーチング3のコンクリート部に一体的に埋設された状態で接合されている。押し込み抵抗杭2としては、拡大根固め工法などの同一杭外径において鉛直支持力の性能が高い工法で施工した杭が好適である。例えば押し込み抵抗杭2の下端には不図示の根固め部が形成され、根固め部が支持層内に構築されている。押し込み抵抗杭2としては、コンクリート杭、鋼管杭、コンクリート充填鋼管杭等を採用することができる。杭頭部2Aには杭頭鉄筋21が上方に向けて突出するように設けられ、この杭頭鉄筋21がフーチング3のコンクリートに埋設されて固着されている。
【0026】
押し込み抵抗杭2としては、杭先端が支持層に十分根入れされた押し込み抵抗杭、主に周面摩擦により必要な鉛直支持力を確保する摩擦杭、また1つのフーチングに多数の押し込み抵抗杭や摩擦杭が配置された群杭形式を採用することができる。
【0027】
フーチング3は、上部構造物の基礎躯体の一部として構成される。フーチング3は、縦横の水平方向に延在する基礎梁の交点に位置し、
図3に示す上部構造物10の柱12が接合される。フーチング3は、上面視で矩形状に形成され、所定の厚さで地盤Gの表層部に埋設するように打設されたコンクリートブロックをなしている。上述したようにフーチング3は、押し込み抵抗杭2に接合しているので、フーチング3の鉛直力及び地震時の水平力F(
図4参照)は押し込み抵抗杭2によって支持される。
【0028】
フーチング3には、
図1及び
図2に示すように、厚さ方向に貫通する複数(
図2では4箇所)の貫通孔31が形成されている。貫通孔31には、引き抜き抵抗杭4に接続されるチェーン部材6が挿通される。複数の貫通孔31は、上方から見て押し込み抵抗杭2の杭軸Cからの距離が等しくなるように配置されている。また、引き抜き抵抗杭4は、杭軸Cを挟んで左右対称となるように配置されていることが好ましい。貫通孔31の孔径は、フーチング3が転倒したときに通過するチェーン部材6が貫通孔31の孔壁に接触しない程度の大きさに設定されている。
【0029】
引き抜き抵抗杭4は、
図1に示すように、押し込み抵抗杭2の周囲に間隔をあけて配置され、下端が地盤Gのうち中間層G2に打ち止まった状態で地盤Gに設けられている。引き抜き抵抗杭4としては、羽根付き回転鋼管杭工法により施工された杭や鋼管ソイルセメント杭などの同一杭外径において引き抜き抵抗が高い工法で施工した杭が好適である。例えば、引き抜き抵抗杭4は、鋼管からなり、先端(下端4a)に羽根部材41が設けられ、打設時において鋼管とともに羽根部材41を回転させることで地盤に貫入されている。引き抜き抵抗杭4は、フーチング3の貫通孔31と同一軸線上に位置している。引き抜き抵抗杭4の上端4bは、フーチング3の下面3bよりも下の位置とされる。引き抜き抵抗杭4の上端4bには、チェーン部材6の一端が接続されている。
【0030】
チェーン部材6は、鋼製のチェーン材であり、チェーン下端6aが引き抜き抵抗杭4の上端4bに例えば溶接やボルト接合等の固定手段によって剛に固定され、チェーン上端6bが高さ調整ねじ7のねじ下端7aに前述と同様の固定手段によって剛に固定されている。
チェーン部材6は、上述したようにフーチング3の引張力のみが伝達され、圧縮力が伝達されない特性を有している。すなわち、チェーン部材6は、引張剛性は必要であるが、圧縮剛性は不要であり、さらに曲げやせん断力が伝達されにくい部材である。つまり、チェーン部材6を用いることで、圧縮時にはチェーン部材6のチェーン間に緩みを生じさせることで上記、引張剛性のみを有する特性をもたせることができる。
【0031】
高さ調整ねじ7は、ねじ軸を引き抜き抵抗杭4の杭軸方向に向けた状態でチェーン部材6のチェーン上端6bに固定されている。高さ調整ねじ7には、定着板5が螺合している。高さ調整ねじ7の高さ方向の位置は、高さ調整ねじ7に螺合された定着板5がフーチング3の上面3aに当接可能な位置とされる。
【0032】
定着板5は、平板形状をなし、高さ調整ねじ7に螺合可能に設けられている。定着板5の平面面積は、フーチング3の貫通孔31の孔面積よりも大きく設定されている。高さ調整ねじ7に螺合した定着板5は、フーチング3の上面3aに対して上方から非接合の状態で当接されている。なお、定着板5は、剛性が高い方が好ましいことから、例えば縦リブ等で補剛されていてもよい。
【0033】
次に、上述した杭基礎構造1を備えた構造物基礎の施工方法について説明する。
図3に示すように、先ず、杭基礎構造1を構築する。具体的には、押し込み抵抗杭2を例えば回転圧入工法により地盤Gに打設する。このとき、押し込み抵抗杭2の下端部は、打設した押し込み抵抗杭2の杭頭部2Aに杭頭鉄筋21を設ける。そして、押し込み抵抗杭2の打設と同時、あるいは押し込み抵抗杭2の打設後に引き抜き抵抗杭4を地盤Gに打設する。その後、フーチング3の上方に上部構造物10を施工する。
【0034】
ここで、
図3に示す上部構造物10は、杭基礎構造1のフーチング3上に一体的に構築された基礎本体11と、基礎本体11に接合された柱12と、を備えている。基礎本体11には、貫通孔31と同軸となる連絡孔11bが形成されている。連絡孔11bの孔径は、フーチング3の貫通孔31よりも大径である。連絡孔11b内には、引き抜き抵抗杭4にチェーン部材6を介して連結される高さ調整ねじ7及び定着板5が収容されている。連絡孔11bの上部開口は、着脱可能な蓋材13によって上方から閉じられている。
【0035】
次に、高さ調整ねじ7を使用してフーチング3と当接するように定着板5の高さを調整する際には、蓋材13を取り外し、連絡孔11b内にねじ操作治具14を挿入する。ねじ操作治具14は、支持棒14Aと、支持棒14Aの先端で雌ねじが形成された雌ねじ筒部14Bと、から形成されている。
ねじ操作治具14によって高さ調整ねじ7の定着板5より上方のねじ部分を回転させることで、定着板5の高さをフーチング3の上面3aに当接する位置に調整する。
【0036】
なお、定着板5の高さ調整方法としては、上述したように高さ調整ねじ7を回転させる方法ではなく、定着板5を回転させる方法としてもよい。この場合には、ねじ操作治具14の先端が定着板5の断面形状(例えば、矩形や六角形など)に合う凹み部を有するねじ操作治具14を使用する。ねじ操作治具14によって定着板5が回転することにより高さを調節することができる。
そして、定着板5の高さを調整した後には、連絡孔11bを蓋材13で閉じて作業が完了となる。
【0037】
次に、上述した杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による杭基礎構造1では、
図4に示すように、地震によって水平力Fが作用し、押し込み抵抗杭2に一体的に設けられたフーチング3に回転するような過大な曲げモーメントが作用したときに、その曲げモーメントの回転成分の引張側の抵抗力を引き抜き抵抗杭4に分担させることができる。すなわち、上部構造の鉛直荷重および地震時慣性力により生じる荷重については押し込み抵抗杭2が主に分担し、押し込み抵抗杭2に発生した引き抜き力を引き抜き抵抗杭4に伝達させて引き抜き抵抗を機能させることができる。
【0038】
このとき、引き抜き抵抗杭4と定着板5とを連結するチェーン部材6が曲げやせん断が伝達されない低剛性な部材であることから、引き抜き抵抗杭4には主に押し込み抵抗杭2の引き抜き力のみを伝達させることができる。そのため、引き抜き発生時に引き抜き抵抗杭4が即時に機能することから、押し込み抵抗杭2と引き抜き抵抗杭4で機能を分担した合理的、かつ簡単な構造により抵抗機構を構築することができる。これにより、フーチング3の転倒に対する安定性をより高めることが可能となり、杭全体の本数や板厚が低減でき、使用する材料の低減と施工延長の短縮が可能となるので、基礎構造の施工にかかるコストと工期の低減を図ることができる。
【0039】
また、本実施形態では、引き抜き抵抗杭4にはチェーン部材6を介して高さ調整ねじ7が設けられているため、フーチング3の施工後や上部構造の施工後において鉛直荷重が基礎全体に導入されることによる沈下に対して、定着板5とフーチング3との間に生じたクリアランスを高さ調整ねじ7によって低減することができ、定着板5とフーチング3とを確実に接触させることができる。
とくに、本実施形態では、高さ調整ねじ7を用いてチェーン部材6に引張力が多少生じる程度まで適度に締め付けることで、より小さなフーチングの回転変位に対しても安定を図ることが可能である。
【0040】
さらに、本実施形態では、引き抜き抵抗杭4はフーチング3による鉛直下向きの力(圧縮力)をほとんど伝達しないチェーン部材6によって定着板5に連結されることから、引き抜き力以外の外力が生じにくい構造となる。そのため、開端杭の極限状態は圧縮縁側の局部座屈によって耐力が決定されるため、圧縮力を伝達しないことで、引き抜き抵抗杭4の耐力を最大限に発揮させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、押し込み抵抗杭2は高い支持力を発揮させるために堅固な支持層に支持させ、引き抜き抵抗杭4は杭長をできるだけ短くすることを目的として支持層より浅い中間層に先端を打ち止めることで、施工重機の小型化や、例えば回転トルクが小さな拡大根固め工法を施工するための中掘り施工機であっても、羽根付き回転杭工法の施工が可能である。したがって、同一の機械を用いて、拡大根固め工法と羽根付き回転杭工法を施工できるため、作業の効率化や重機の数量や現場搬入回数を低減でき、施工にかかるコストや工期を低減することができる。
【0042】
また、
図5に示すように、本実施形態による杭基礎構造1では、フーチング3は、上部構造物10を下方から支持するフーチング3のうち上部構造物10の縁端部10aに配置することができる。例えば、最外縁に位置する基礎に引き抜き力が生じることが多い板状マンション等では、上部構造物10の縁端部10aに配置されるフーチング3のみに杭基礎構造1を用いることでコスト低減効果をより発揮することができる。
【0043】
なお、
図5では、上方から見た平面視で、上部構造物10を挟んだ両側のみに引き抜き抵抗杭4が配置されている。つまり、上部構造物10の縁端部10aのうち紙面で上下に対向する長辺をなす二辺(符号10b、10cの縁端部)に杭基礎構造1が配列され、一方(紙面上側)の縁端部10bに配列される杭基礎構造1の引き抜き抵抗杭4は押し込み抵抗杭2の上方のみに配置され、他方(紙面下側)の縁端部10cに配列される杭基礎構造1の引き抜き抵抗杭4は押し込み抵抗杭2の下方のみに配置され、これら引き抜き抵抗杭4が上部構造物10の最外縁を挟んで紙面の上下両側に配置されている。この場合には、上部構造物10の短辺方向に沿って方向の水平力に対して引き抜き抵抗杭4が効果的に作用する。
【0044】
上述した本実施形態による杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法では、簡単な構造により押し込み抵抗杭2の引き抜き力を効率よく分担することで、フーチング3の転倒を防止でき、杭基礎構造1の施工にかかるコストと工期の低減を図ることができる。
【0045】
次に、本発明の杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法の変形例について、添付図面に基づいて説明するが、上述の実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
【0046】
(第1変形例)
図6に示す第1変形例による杭基礎構造1Aは、上述した実施形態に対して連結部材を代えた構成のものである。すなわち、上述した実施形態では引き抜き抵抗杭4と高さ調整ねじ7(高さ調整部材)とを連結する連結部材としてチェーン部材6を用いているが、引き抜き抵抗杭4と定着板5とを連結し、フーチング3の引張力のみが伝達される部材であればよく、これに限定されることはない。
図6に示す第1変形例による杭基礎構造1Aは、連結部材として鋼線6Aを採用している。この場合の鋼線6Aは、下端6aが引き抜き抵抗杭4に、上端6bが高さ調整ねじ7に、例えば溶接などの固定手段を使用して固定されている。
【0047】
第1変形例では、引き抜き抵抗杭4は鉛直力をほとんど伝達しないワイヤー等の鋼線6Aによって定着板5に連結されることから、引き抜き力以外の外力が生じにくい構造となる。すなわち、鋼線6Aには、フーチング3の圧縮時において鋼線6Aを座屈させることができ、引張剛性のみを有する特性となっている。そのため、開端杭の極限状態は圧縮縁側の局部座屈によって耐力が決定されるため、圧縮力を伝達しないことで、引き抜き抵抗杭4の耐力を最大限に発揮させることができる。
【0048】
(第2変形例)
次に、
図7に示すように、第2変形例による杭基礎構造1Bでは、定着板5が直接フーチング3の上面3aとの間に摩擦低減材8を設けるようにしてもよい。摩擦低減材8としては、例えば定着板5の下面5aに塗布されるテフロン(登録商標)材、設置されるフッ素樹脂加工された板やテープ、及びベアリング等の滑り材を採用することができる。このような摩擦低減材8を定着板5とフーチング3との間に介挿することにより、定着板5とフーチング3との間に一定大きさ以上の水平力が引き抜き抵抗杭4に伝わることを抑制することができる。
【0049】
第2変形例では、フーチング3に水平力が作用したときでも、摩擦低減材8ですべりが生じるので、定着板5の水平移動を抑えることができ、チェーン部材6を介して引き抜き抵抗杭4に対して水平力が作用しない構成となる。
【0050】
このように第2変形例では、定着板5の下面5aに摩擦低減材8を設置することで、フーチング3が水平力を受けて水平移動した際に、フーチング3と定着板5とが相対変位を生じることで引き抜き抵抗杭4に斜め方向の引張力が生じることによる曲げ変形が生じることを防止することができる。
【0051】
(第3変形例)
また、本実施形態では、引き抜き抵抗杭4が杭軸方向を鉛直方向に向けて打設した構成としているが、このような配置に限定されることはない。例えば、
図8に示す第3変形例による杭基礎構造1Cでは、引き抜き抵抗杭4Aが杭軸方向を斜めにして地盤Gに打設された構成であってもよい。この引き抜き抵抗杭4Aは、下方に向けて押し込み抵抗杭2から径方向に離れる斜杭となっている。この場合も、フーチング3には、上面3aから下面3bに向けて斜めの貫通孔32が形成され、この貫通孔32を通じてチェーン部材6が引き抜き抵抗杭4Aと定着板5とを斜めに連結している。
【0052】
(第4変形例)
また、フーチング3における引き抜き抵抗杭4の配置としては、フーチング3の形状や構造物の配置などの条件に応じて適宜設定することができる。例えば、
図9に示す第4変形例のように、上方からみた平面視で正方形状のフーチング3の4つの隅角部に引き抜き抵抗杭4が配置されていてもよい。
【0053】
(第5変形例)
また、
図10及び
図11(a)、(b)に示す第5変形例による杭基礎構造1Cは、定着部材5が地中梁8に連結された構成となっている。
図10及び
図11(a)に示すように、地中梁8は、フーチング3に連結されて設けられ、地中梁8のフーチング3寄りの位置において地中梁8を鉛直方向に貫通する貫通孔81が形成されている。そして、チェーン部材6は、貫通孔81を通じて略鉛直方向に地盤G内に打設されている引き抜き抵抗杭4と定着板5とを連結している。
【0054】
なお、
図11(b)に示すように、地中梁8は、貫通孔81が設けられる位置、すなわち定着部材5が引き抜き抵抗杭4に連結される位置で拡幅した拡幅部82を設けるようにしてもよい。
【0055】
以上、本発明による杭基礎構造、および構造物基礎の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0056】
例えば、本実施形態では、チェーン部材6(連結部材)を介して引き抜き抵抗杭4に固定される定着部材として平板状の定着板5を採用しているが、このような定着板5であることに制限されることはない。例えば、高さ調整ねじ7に螺合可能なナットであってもかまわない。
【0057】
さらにまた、高さ調整部材として本実施形態のような高さ調整ねじ7であることに限定されることはない。
【0058】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、1B、1C 杭基礎構造
2 押し込み抵抗杭
2A 杭頭部
3 フーチング
3a 上面
4 引き抜き抵抗杭
5 定着板(定着部材)
6 チェーン部材(連結部材)
6A 鋼線(連結部材)
7 高さ調整ねじ(高さ調整部材)
8 摩擦低減材
G 地盤