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特許7406126低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/28 20060101AFI20231220BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C08J3/28 CEW
C08J7/00 305
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021203597
(22)【出願日】2021-12-15
(62)【分割の表示】P 2019570754の分割
【原出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2022027932
(43)【公開日】2022-02-14
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018020432
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇次
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0221529(US,A1)
【文献】米国特許第04743658(US,A)
【文献】特公昭47-019609(JP,B1)
【文献】特開平10-147617(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043372(WO,A1)
【文献】特開2013-127077(JP,A)
【文献】特開平04-283268(JP,A)
【文献】特開2018-024868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28、 99/00
C08J 7/00- 7/02、 7/12- 7/18
B29C 71/04
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08F 6/00-246/00、301/00
C08C 19/00- 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)高分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物に対して電離性放射線を照射し、380℃における溶融粘度が1.0×10~7.0×10Pa・sの範囲にある低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物を得る工程、及び
(II)上記工程で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物に対して、フッ素化処理を行う工程
を含み、
工程(I)で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物が、さらに、官能基を有する低分子量含フッ素化合物を含み、
官能基を有する低分子量含フッ素化合物が、炭素原子数6~14の含フッ素炭素鎖を有する酸又はその誘導体である、
低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項2】
工程(II)が、工程(I)で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物に対して、フッ素化処理を行うこと、及び、粉砕処理を行うことを含む、請求項1に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項3】
工程(II)が、工程(I)で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物に対して粉砕処理を行い、その後、フッ素化処理を行うことを含む、請求項1又は2に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項4】
上記フッ素化処理が、工程(I)で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物と、少なくともフッ素化剤とを接触させることによって行うことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項5】
上記フッ素化剤が、求核的フッ素化剤又は求電子的フッ素化剤である、請求項4に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項6】
上記フッ素剤が、フッ素ガスである、請求項4または5に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項7】
高分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物が、粉体である請求項1~6のいずれか1項に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項8】
工程(II)で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物における炭素原子数6~14の含フッ素炭素鎖を有する酸又はその誘導体の含有量が、該低分子量ポリテトラフルオロエチレンに対して、50質量ppb以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【請求項9】
炭素原子数6~14の含フッ素炭素鎖を有する酸又はその誘導体は、パーフルオロオクタン酸又はその塩を含み、
工程(II)で得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物におけるパーフルオロオクタン酸及びその塩の含有量が、該低分子量ポリテトラフルオロエチレンに対して、25質量ppb未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量ポリテトラフルオロエチレンを含む組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量ポリテトラフルオロエチレン(以下、「低分子量PTFE」と称することがある)は、化学的安定性に優れ、表面エネルギーが極めて低いことに加え、フィブリル化が生じにくいことから、滑り性又は塗膜表面の質感を向上させる添加剤として、プラスチック、インク、化粧品、塗料、グリース等の製造に用いられてきた(例えば、特許文献1)。このような低分子量PTFEを含む組成物の製造方法の1つとして、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することがある)に電離性放射線を照射する方法が挙げられる(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-147617号公報
【文献】特公昭47-19609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のような低分子量PTFEを含む組成物には、パーフルオロオクタン酸(以下、「PFOA」と称することがある)又はその塩等の、官能基を有する低分子量含フッ素化合物及びその誘導体(以下、「PFC」と称することがある)が含まれることがあった。本発明者が鋭意検討した結果、上記のようなPFOAに代表されるPFCは、電離性放射線の照射により生じ得ることが見いだされた。
【0005】
本発明は、PFCの含有量の低減された低分子量PTFEを含む組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の要旨によれば、
(I)PTFEを含む組成物に対して電離性放射線を照射し、380℃における溶融粘度が1.0×10~7.0×10Pa・sの範囲にある低分子量PTFEを含む組成物を得る工程、及び
(II)上記工程で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して、フッ素化処理を行う工程
を含む低分子量PTFEを含む組成物の製造方法、が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、PFCの含有量の低減された低分子量PTFEを含む組成物の製造に適した方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の低分子量PTFEを含む組成物の製造方法は、
(I)PTFEを含む組成物に対して電離性放射線を照射し、380℃における溶融粘度が1.0×10~7.0×10Pa・sの範囲にある低分子量PTFEを含む組成物を得る工程(以下、「工程(I)」と称することがある)、及び
(II)上記工程で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して、フッ素化処理を行う工程(以下、「工程(II)」と称することがある)を含む。
【0009】
以下、工程(I)について説明する。
【0010】
上記PTFEは、通常行い得る重合方法、例えば、乳化重合又は懸濁重合によって得られたものであり得る。
【0011】
上記PTFEは、分子構造中に、単量体に由来する構成単位として、テトラフルオロエチレン(TFE)に由来する構成単位のみを有するものであってもよいし、TFE以外の構造を有するモノマーに由来する構成単位及びTFEに由来する構成単位を有するもの(以下、「変性PTFE」と称することがある)であってもよい。
【0012】
上記TFE以外の構造を有するモノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、通常用いられるモノマー(例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素原子含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン;エチレン等)を用いることができる。上記TFE以外の構造を有するモノマーは、1種のみを用いてもよいし、複数種を用いてもよい。
【0013】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、以下の一般式(1)
CF=CF-ORf (1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基としては、例えば、パーフルオロアルキル基、パーフルオロ(アルコキシアルキル)基等を挙げる事ができる。上記パーフルオロ有機基は、エーテル結合を形成する酸素原子を有していてもよい。
【0014】
一の態様において、上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素原子数1~10(好ましくは炭素原子数1~5)のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)が挙げられる。
【0015】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。好ましいパーフルオロアルキル基としては、パーフルオロプロピル基を挙げることができる。
【0016】
好ましいPAVEは、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)である。
【0017】
別の態様において、上記パーフルオロビニルエーテルとしては、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【化1】
(式中、mは、0、又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【化2】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0018】
上記パーフルオロアルキルエチレンとしては、特に限定されないが、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレン等が挙げられる。
【0019】
上記TFE以外の構造を有するモノマーは、HFP、CTFE、VDF、PPVE、PFBE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1であることが好ましく、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1であることがより好ましい。
【0020】
上記変性PTFE中、TFE以外の構造を有するモノマーに由来する構成単位は、0.001~1質量%の範囲で含まれていることが好ましい。上記変性PTFE中、上記TFE以外の構造を有するモノマーに由来する構成単位は、0.01質量%以上含まれていることがより好ましい。上記変性PTFE中、上記TFE以外の構造を有するモノマーに由来する構成単位は、0.5質量%以下含まれていることがより好ましく、0.1質量%以下含まれていることがさらに好ましい。上記TFE以外の構造を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、フーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)等の公知の方法により求めることができる。
【0021】
上記PTFEの標準比重(SSG)は、2.130~2.230の範囲にあることが好ましい。上記SSGは、上記PTFEが懸濁重合により得られる場合はASTM D 4894に、上記PTFEが乳化重合により得られる場合はASTM D 4895に準拠して測定される値である。なお、PTFEの分子量の指標としては、通常、SSG又は溶融粘度が用いられ得る。上記のようなSSGを有するPTFEは、溶融粘度が非常に高く、その溶融粘度を正確に測定することが困難である。従って、上記のようなSSGを有するPTFEにおいては、通常、SSGが分子量の指標として用いられる。
【0022】
上記PTFEの融点は、324℃~336℃の範囲にあることが好ましい。上記融点は、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した値である。具体的には、上記融点は、事前に標準サンプルとして、インジウム及び鉛を用いて温度較正したDSCを用い、200ml/分のエアー気流下で、250℃~380℃の温度領域において10℃/分で昇温させて得られる、融解熱量の極小点とすることができる。
【0023】
上記PTFEを含む組成物は、実質的にPTFEよりなることが好ましい。なお、「実質的にPTFEよりなる」とは、上記組成物100質量部に対して、PTFEが90質量部以上含まれ、具体的には95質量部以上含まれ得ることを意味する。上記組成物100質量部に対するPTFEの上限値は特に限定されないが、例えば100質量部以下であり、具体的には98質量部以下であり得る。
【0024】
上記PTFEを含む組成物としては、PFOA又はその塩を含むものを用いてもよいし、PFOA又はその塩を実質的に含まないものを用いてもよい。ここで、「実質的に含まない」とは、PTFEに対して、質量基準で、PFOAが25ppb未満、好ましくは15ppb以下、さらに好ましくは5ppb以下、特に好ましくは検出限界未満であることを意味する。検出限界未満とは、例えば、5ppb未満を意味する。なお、特に記載していない限り、本明細書において上記含有量は、PFOA及びその塩の合計量を表す。
【0025】
上記PTFEを含む組成物は、PFOA又はその塩を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、上記と同意義である。本態様のように、PFOA又はその塩を実質的に含まないPTFEを含む組成物を用いた場合であっても、工程(I)において該PTFEに電離性放射線を照射することにより、PFOA又はその塩が形成され得る。
【0026】
上記PFOAの塩としては、例えば、PFOAのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0027】
上記PFOA及びその塩の含有量は、液体クロマトグラフィーを用いて測定できる。より具体的には、PTFEを含む組成物から、溶媒を用いて上記PFOA及びその塩を抽出し、抽出後の溶媒に含まれる上記PFOA及びその塩の量を、液体クロマトグラフィーを用いて測定し得る。
【0028】
上記PTFEを含む組成物は、PFCを含むものを用いてもよいし、PFCを実質的に含まないものを用いてもよい。ここで、「実質的に含まない」とは、PTFEに対して、質量基準で、PFCが25ppb未満、好ましくは15ppb以下、さらに好ましくは5ppb以下、特に好ましくは検出限界未満であることを意味する。検出限界未満とは、例えば、5ppb未満を意味する。
【0029】
上記PTFEを含む組成物は、PFCを実質的に含まないことが好ましい。本態様のように、PFCを実質的に含まないPTFEを含む組成物を用いた場合であっても、工程(I)において該PTFEに電離性放射線を照射することにより、PFCが形成され得る。ここで、「実質的に含まない」とは、上記と同意義である。なお、特に記載していない限り、本明細書において、複数の構造のPFCが存在する場合には、上記含有量は複数の構造のPFCの合計量を表す。
【0030】
上記PFCの含有量は、例えば、液体クロマトグラフィーを用いて測定できる。より具体的には、PTFEを含む組成物から、溶媒を用いて上記PFCを抽出し、抽出後の溶媒に含まれる上記PFCの量を、液体クロマトグラフィーを用いて測定し得る。
【0031】
本明細書において、「PFC」とは、官能基を有する低分子量含フッ素化合物及びその誘導体を意味する。上記官能基は、上記低分子量含フッ素化合物の分子末端に存在することが好ましい。上記官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基を挙げることができる。上記誘導体としては、塩等を挙げることができる。上記塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を挙げることができる。
【0032】
上記官能基を有する低分子量含フッ素化合物としては、上記具体的には、低分子量含フッ素炭素鎖を有する酸を挙げることができる。上記含フッ素炭素鎖とは、炭素原子に結合した水素原子の1又はそれ以上がフッ素原子に置換されている炭素鎖を表す。上記酸としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸等を挙げることができる。
【0033】
上記低分子量含フッ素化合物としては、例えば、含フッ素炭素鎖に含まれる炭素原子数が6~14の含フッ素化合物、具体的には炭素原子数が6~14の含フッ素炭素鎖を有する酸を挙げることができる。
【0034】
即ち、上記PFCとしては、具体的には、炭素原子数が6~14の含フッ素炭素鎖を有する酸又はその誘導体を挙げることができる。
【0035】
上記PTFEを含む組成物の形状は、特に限定されないが、例えば、粉体、成形体、スクラップ、成形体の形成時に生じ得る破片、成形体の切削加工時に生じる切削屑、又は、予備成形体を挙げることができる。
【0036】
一の態様において、上記PTFEを含む組成物の形状は粉体である。本態様は、PTFEを含む樹脂成分に電離性放射線を均一に照射できる観点から有利である。また、本態様によると、粉体状の低分子量PTFEを含む組成物を容易に得ることができる。
【0037】
一の態様において、上記PTFEを含む組成物は成形体である。本態様においては、上記PTFEを含む組成物は、一次融点以上に加熱する成形工程を経たものであり得る。即ち、本発明の製造方法は、工程(I)の前に、PTFEの一次融点以上に加熱し、PTFEを含む組成物の成形体を形成する工程をさらに含み得る。
【0038】
上記一次融点は、DSCを用いて測定できる。具体的には、上記一次融点は、結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度であり、上記吸熱カーブは未焼成のPTFEを、昇温速度10℃/分の条件で昇温させて得られる。上記一次融点は、通常320℃以上の温度であり得る。なお、上記未焼成のPTFEとは、一次融点以上の温度に加熱した熱履歴のないPTFEを示す。
【0039】
上記成形体の形状は、特に限定されない。上記成形体の形状としては、例えば、テープ状、シート状、棒状、チューブ状、繊維状等を挙げることができる。
【0040】
上記成形体の比重は、1.0g/cm以上であることが好ましく、1.5g/cm以上であることがより好ましく、2.5g/cm以下であることが好ましい。上記比重は、水中置換法により測定することができる。
【0041】
一の態様において、上記PTFEを含む組成物は、スクラップ、成形体の形成時に生じ得る破片、又は、成形体の切削加工時に生じる切削屑である。
【0042】
一の態様において、上記PTFEを含む組成物は予備成形体である。ここで、予備成形体とは、粉体状のPTFEを圧縮して得られたものであり、かつ、焼成工程を経ていない(一次融点以上の温度に加熱されていない)成形体をいう。
【0043】
電離性放射線の照射は、従来公知の方法及び条件により行い得る。電離性放射線の照射により、PTFEを含む組成物に含まれるPTFEが、低分子量化され、低分子量PTFEとなる。電離性放射線の照射により、PFOA又はその塩等のPFCが生じ得る。
【0044】
上記電離性放射線としては、電子線、γ線、X線、中性子線、高エネルギーイオン等を挙げることができる。電離性放射線は、好ましくは、電子線又はγ線である。
【0045】
電離性放射線の照射は、特に限定されないが、例えば、空気中、炭化水素系ガス中、水中、又は溶媒中等で実施できる。
【0046】
一の態様において、電離性放射線の照射は、空気中で行い得る。本態様は、コストの低減の観点から好ましい。
【0047】
電離性放射線の照射線量は、1~2500kGyの範囲にあることが好ましい。電離性放射線の照射線量は、1000kGy以下であることがより好ましく、750kGy以下であることがさらに好ましい。電離性放射線の照射線量は、10kGy以上であることがより好ましく、50kGy以上が特に好ましい。
【0048】
電離性放射線の照射温度は、例えば、0℃以上である。電離性放射線の照射温度の上限値は、PTFEの融点以下であれば特に限定されない。PTFEの分子鎖の架橋を抑制する観点からは、電離性放射線の照射温度は、320℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましい。製造コストの低減の観点からは、電離性放射線の照射は、15℃(例えば、19℃)~60℃で行うことができる。
【0049】
工程(I)で得られる組成物に含まれる樹脂成分は、実質的に低分子量PTFEからなることが好ましい。なお、「実質的に低分子量PTFEからなる」とは、例えば、上記組成物100質量部に対して、低分子量PTFEが90質量部以上含まれ、具体的には95質量部以上含まれ得ることを意味する。上記組成物100質量部に対する低分子量PTFEの上限値は特に限定されないが、例えば、100質量部以下であり、具体的には98質量部以下であり得る。
【0050】
上記工程(I)で得られる組成物の形状は特に限定されない。
【0051】
一の態様において、工程(I)において得られる低分子量PTFEを含む組成物の形状は粉体である。該組成物は、工程(II)以降における処理の容易さの観点から有利である。
【0052】
上記態様において、工程(I)で得られる組成物中の低分子量PTFEの平均粒子径は、好ましくは、1000μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。上記低分子量PTFEの平均粒子径の下限値は、特に限定されないが、例えば、1μm超である。このような平均粒子径を有することにより、上記組成物に含まれる粒子径は、比較的小さくなり得る。
【0053】
上記低分子量PTFEの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定できる。具体的には、上記平均粒子径は、カスケードを使用せず、分散圧力1.0barで測定を行い得られる粒度分布積算の50%(体積基準)に対応する粒子径に等しいとする。上記レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば、日本電子株式会社製レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名:HELOS&RODOS)を用いることができる。
【0054】
上記低分子量PTFEの380℃における溶融粘度は、1.0×10~7.0×10Pa・sの範囲にある。上記溶融粘度のより好ましい下限は、1.5×10Pa・s以上である。上記溶融粘度のより好ましい上限は、3.0×10Pa・s以下である。本発明において、「低分子量PTFE」とは、溶融粘度が上記の範囲内にあるPTFEを意味する。なお、上記のような溶融粘度を有する低分子量PTFEでは、上述した標準比重(SSG)の測定に使用する成形品を形成することが難しく、上記低分子量PTFEの正確なSSGを測定することは困難である。従って、通常、低分子量PTFEの分子量の指標として溶融粘度が用いられる。
【0055】
上記溶融粘度は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター(島津製作所社製)を使用し、2φ-8Lのダイを用いて、予め測定温度(380℃)で5分間加熱しておいた2gの試料を、0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定することができる。
【0056】
上記低分子量PTFEは、フィブリル化性を有しないものであり得る。
【0057】
上記低分子量PTFEの融点は、324℃~336℃の範囲にあることが好ましい。上記融点は、PTFEの融点の測定方法として上記した方法を用いて測定できる。
【0058】
以下、工程(II)について説明する。
【0059】
工程(II)は、工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して、フッ素化処理を行う工程である。工程(II)を行うことにより、PFCの含有量の少ない、低分子量PTFEを含む組成物を得ることができる。
【0060】
上記工程(II)によって、工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物、具体的には、PFCを含む組成物がフッ素化される。上記工程(II)におけるフッ素化処理により、PFCに含まれる官能基(例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等)又はその塩にフッ素原子が導入され得る。例えば、上記官能基がカルボキシル基である場合、該カルボキシル基は、-COOF、-COF、-F等に変換され得、次いで-CFに変換され得る。上記のように工程(II)においてフッ素化処理することにより、低分子量PTFEを含む組成物に含まれるPFCの濃度が低減される。
【0061】
工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物に含まれるPFCの含有量は特に限定されないが、例えば、該低分子量PTFEに対して、25質量ppb以上である。
【0062】
工程(I)で得られる組成物に含まれるPFOA又はその塩の含有量は特に限定されないが、例えば、該低分子量PTFEに対して、25質量ppb以上である。
【0063】
上記フッ素化処理は、工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物と、少なくともフッ素化剤とを接触させることで行い得る。
【0064】
上記フッ素化剤としては、特に限定されないが、求核的フッ素化剤、例えば、フッ素ガス、HF、KF,CsF、BuNF、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニルサルファートリフルオリド;求電子的フッ素化剤、例えば、N-フルオロ-N’-(クロロメチル)トリエチレンジアミンビス(テトラフルオロボラート)を挙げることができる。上記フッ素化剤としては、経済性、及び生産性の観点から、フッ素ガスを用いることが好ましい。
【0065】
一の態様において、上記フッ素化処理において、フッ素化剤とともに、希釈用ガスを用いることができる。
【0066】
上記態様では、フッ素化剤及び希釈用ガスに対するフッ素化剤(例えばフッ素ガス)の濃度は特に限定されないが、例えば、容積比において、フッ素化剤及び希釈用ガスの合計100%に対して、0.01%以上であり、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。フッ素化剤及び希釈用ガスの合計100%に対する、フッ素化剤(例えばフッ素ガス)の濃度の上限値は、特に限定されないが、装置自体の発熱等の危険を回避することを目的に、容積比において、フッ素化剤及び希釈用ガスの合計100%に対して、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0067】
上記希釈用ガスは、不活性ガスであれば特に限定されず、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等を挙げることができる。安全に生産し得る観点、及び製造コスト抑制の観点から、上記希釈用ガスは、窒素ガスであることが好ましい。
【0068】
工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物と、少なくともフッ素化剤(例えば、フッ素化剤及び希釈用ガス、具体的にはフッ素ガス及び希釈用ガス)との接触は、上記フッ素化剤(例えば、フッ素化剤及び希釈用ガス、具体的にはフッ素ガス及び希釈用ガス)の常時流通法、又はバッチ法で行うことができる。上記接触としては、上記低分子量PTFEを含む組成物を入れた容器に、少なくともフッ素化剤を、連続的に流通して行うこと、あるいは、密閉可能な容器に上記低分子量PTFEを含む組成物及び少なくともフッ素化剤を密閉した状態で行うことができる。
【0069】
上記接触は、生産安定性の観点からは、密閉可能な容器に、上記低分子量PTFEを含む組成物、及び少なくともフッ素化剤を密閉した状態で行うことが好ましい。
【0070】
一の態様において、上記接触は、ステンレス製の密閉可能な容器を用いて行い得る。
【0071】
上記接触は、例えば、5℃以上300℃以下の環境で行い得る。
【0072】
一の態様において、上記接触は、フッ素化剤とPFCとの反応性を上げる為、50℃以上で行うことが好ましく、100℃以上で行うことがより好ましい。上記接触は、生産安定性の観点から300℃以下で行うことが好ましく、225℃以下で行うことがより好ましい。
【0073】
上記接触を行う圧力は特に限定されない。上記接触は、加圧下で行ってもよく、常圧下で行ってもよい。
【0074】
一の態様において、上記接触は、常圧下(例えば、ゲージ圧0~0.01MPa)において行い得る。例えば、ステンレス容器に、低分子量PTFE、及び少なくともフッ素化剤を、上記容器内の圧力が常圧になるように密閉して実施し得る。本態様は、生産の安定面から特に有利である。
【0075】
上記工程(II)は、さらに、粉砕処理を含み得る。具体的には、上記工程(II)は、工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して、フッ素化処理を行うこと、及び、粉砕処理を行うことを含み得る。
【0076】
好ましい態様において、上記工程(II)では、工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して粉砕処理を行い、その後、粉砕された組成物に対してフッ素化処理を行う。本態様によると、PFOA又はその塩に代表されるPFCの含有量をより有効に低減し得る。
【0077】
上記粉砕処理の方法は特に限定されないが、例えば、粉砕機を用いて粉砕する方法を挙げることができる。上記粉砕機としては、例えば、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の衝撃式の粉砕機、回転刃及び外周ステーター(固定刃)により生じる剪断力によって粉砕するカッターミル等の摩砕式の粉砕機等を挙げることができる。
【0078】
上記粉砕処理を行う温度は、-200℃以上50℃未満であることが好ましい。
【0079】
一の態様においては、上記粉砕は、冷凍粉砕であり、通常、-200℃~-100℃の範囲の温度で行われ得る。本態様においては、一般に液体窒素を用いて温度を調整し得る。
【0080】
一の態様においては、上記粉砕は、室温付近の温度(例えば、10℃~50℃の範囲)で行われる。
【0081】
一の態様においては、上記粉砕は、10℃以上50℃未満で行われ得、好ましくは、10℃~40℃の範囲で行われ、より好ましくは、10℃~30℃の範囲で行われる。本態様は、工程の簡素化、及び粉砕に要するコストの低減の観点から好ましい。
【0082】
本発明の低分子量PTFEを含む組成物の製造方法は、分級処理をさらに含んでいてもよい。
【0083】
上記分級処理においては、例えば気流分級を用いることができる。具体的には、微粒子又は繊維状粒子を気流分級により除去した後、さらに分級により粗粒子を除去するものであってもよい。
【0084】
上記気流分級においては、低分子量PTFE粒子(例えば粉砕された粒子)が減圧空気により円柱柱の分級室に送られ、室内の旋回気流により分散され、遠心力によって微粒子が分級される。微粒子は中央部からサイクロン及びバグフィルターへ回収される。分級室内には、粉砕粒子と空気が均一に旋回運動を行うために円錐状のコーン又はローターなどの回転体が設置されている。
【0085】
分級コーンを使用する場合には、分級点の調節は二次エアーの風量と分級コーン間の隙間を調節することにより行う。ローターを使用する場合には、ローターの回転数により分級室内の風量を調節する。
【0086】
粗粒子の除去方法としては、メッシュによる気流分級、振動篩又は超音波篩などが挙げられるが、気流分級が好ましい。
【0087】
一の態様においては、工程(I)の前に分級処理を行ってもよい。
【0088】
一の態様において、分級処理は、粉砕処理を経た組成物に対して行う。
【0089】
好ましい態様において、上記工程(II)は、工程(I)で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して、粉砕処理を行った後に分級処理を行い、その後、フッ素化処理を行い、低分子量PTFEを含む組成物を得る工程である。
【0090】
別の好ましい態様において、上記工程(II)は、工程(I)で得られる組成物に対して、粉砕処理を行った後にフッ素化処理を行い、その後、分級処理を行い、低分子量PTFEを含む組成物を得る工程である。
【0091】
本発明において得られる低分子量PTFEを含む組成物に含まれるPFOA及びその塩の含有量は、該低分子量PTFEに対して、質量基準で25ppb未満であることが好ましく、15ppb以下であることがより好ましく、5ppb未満であることがさらに好ましい。PFOA及びその塩の含有量の下限値は特に限定されないが、例えば検出限界未満であり、より具体的には0ppbである。本発明によると、上記のようにPFOA及びその塩の含有量の少ない低分子量PTFEを含む組成物を得ることができる。なお、上記含有量は、PFOA及びその塩の合計量を表す。上記PFOAの塩は、上記のとおりである。
【0092】
上記PFOA及びその塩の含有量は、液体クロマトグラフィーを用いて測定できる。より具体的には、測定対象の組成物から、溶媒を用いて上記PFOA及びその塩を抽出し、抽出後の溶媒に含まれる上記PFOA及びその塩の量を、液体クロマトグラフィーを用いて測定し得る。
【0093】
本発明において得られる低分子量PTFEを含む組成物に含まれるPFCの含有量は、該低分子量PTFEに対して、質量基準で50ppb以下であることが好ましく、25ppb未満であることがより好ましく、15ppb以下であることがさらに好ましく、5ppb以下であることが特に好ましく、5ppb未満であることがより好ましい。PFCの含有量の下限値は特に限定されないが、例えば検出限界未満であり、より具体的には0ppbである。本発明によると、上記のようにPFCの含有量の少ない低分子量PTFEを含む組成物を得ることができる。なお、複数の構造のPFCが存在する場合には、上記含有量は複数の構造のPFCの合計量を表す。PFCは上記のとおりである。
【0094】
上記PFCの含有量は、例えば、液体クロマトグラフィーを用いて測定できる。より具体的には、測定対象の組成物から、溶媒を用いて上記PFCを抽出し、抽出後の溶媒に含まれる上記PFCの量を、液体クロマトグラフィーを用いて測定し得る。
【0095】
一の態様において、本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEを含む組成物の形状は粉体である。本態様の上記粉体の比表面積は、0.1~30.0m/gの範囲にあることが好ましい。上記比表面積は、表面分析計を用いて得ることができる。具体的には、キャリアガスとして窒素30%及びヘリウム70%からなる混合ガスを用い、冷媒として液体窒素を用いて、BET法により測定する。上記表面分析計としては、例えば、BELSORP-miniII(商品名、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いることができる。上記比表面積は7.0m/g以上であることがより好ましい。
【0096】
一の態様において、本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEを含む組成物の形状は粉体である。本態様の上記粉体の比表面積は、0.1m/g以上7.0m/g未満である。比表面積の測定方法は上記のとおりである。このような低分子量PTFEは、マトリクス材料に容易に分散し得る。マトリクス材料としては、プラスチック、インクの他、塗料等を用い得る。
【0097】
上記態様の粉体(具体的には、低分子量PTFE)の比表面積の下限値は、1.0m/g以上であることが好ましい。本態様の上記粉体の比表面積の上限値は、5.0m/g以下であることが好ましく、3.0m/g以下であることがより好ましい。
【0098】
一の態様において、本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEを含む組成物の形状は粉体である。本態様の上記粉体の比表面積は、7.0m/g以上30.0m/g以下である。比表面積の測定方法は上記のとおりである。このような低分子量PTFEは、マトリクス材料への分散粒径が小さいため、塗膜表面の質感を向上させる等の表面を改質する効果が高く、吸油量が多くなり得る。マトリクス材料としては、オイル、グリース、塗料の他、プラスチック等を用い得る。
【0099】
上記態様の粉体(具体的には、低分子量PTFE)の比表面積の下限値は、8.0m/g以上であることが好ましい。本態様の上記組成物に含まれる低分子量PTFEの比表面積の上限値は、30.0m/g以下であることが好ましく、20.0m/g以下であることがより好ましい。
【0100】
一の態様において、本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEを含む組成物の形状は粉体である。本態様の上記粉体の平均粒子径は、0.5~200μmの範囲にあることが好ましい。上記平均粒子径は、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。上記平均粒子径は、例えば1.0μm以上である。本発明によって得られる低分子量PTFEは、上記のような平均粒子径を有することにより、例えば、添加剤として塗料に加えた場合に、より優れた表面平滑性を有する塗膜の形成に寄与し得る。
【0101】
本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEを含む組成物の平均粒子径の測定方法は、工程(I)で得られる組成物に含まれる低分子量PTFEの平均粒子径の測定方法として記載したとおりである。
【0102】
好ましい態様において、本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEを含む組成物は粉体状である。
【0103】
本発明で得られる低分子量PTFEを含む組成物は、必要に応じて、成形して用い得る。
【0104】
一の態様において、本発明の方法は、PTFEを含む組成物に対して電離性放射線を照射し、380℃における溶融粘度が1.0×10~7.0×10Pa・sの範囲にある低分子量PTFEを含む組成物を得ること、及び、
上記工程で得られる低分子量PTFEを含む組成物に対して、フッ素化処理を行うこと、を含む、低分子量PTFEを含む組成物の精製方法である。
【0105】
本発明により得られる低分子量PTFEを含む組成物は、好ましくは粉末であり、成形材料、インク、化粧品、塗料、グリース、オフィスオートメーション機器用部材、又はトナー等を改質する添加剤、めっき液への添加剤等として、好適に使用し得る。上記成形材料としては、例えば、ポリオキシベンゾイルポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイドなどのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。上記低分子量PTFEを含む組成物は、特にグリース用粘稠材として好適に用い得る。
【0106】
本発明により得られる低分子量PTFEを含む組成物は、好ましくは粉末であり、成形材料の添加剤として用いることができる。上記組成物は、例えば、コピーロール、又は感光体の非粘着性及び摺動特性を向上させる用途;家具の表層シート、自動車のダッシュボード、家電製品のカバーなどのエンジニアリングプラスチック成形品の質感を向上させる用途;軽荷重軸受、歯車、カム、プッシュホンのボタン、映写機、カメラ部品、摺動材などの機械的摩擦を生じ得る機械部品の滑り性又は耐摩耗性を向上させる用途;エンジニアリングプラスチックの加工助剤等として好適に用いることができる。
【0107】
本発明により得られる低分子量PTFEを含む組成物は、好ましくは粉末であり、塗料の添加剤として、ニス又はペンキの滑り性向上のために用いることができる。上記低分子量PTFEを含む組成物は、化粧品の添加剤としてファンデーションなどの化粧品の滑り性向上の目的に用いることができる。
【0108】
本発明により得られる低分子量PTFEを含む組成物は、好ましくは粉末であり、さらに、ワックスなどの撥油性又は撥水性を向上させる用途、グリース用増稠材、又はグリース又はトナーの滑り性を向上させる用途にも好適に用いることができる。
【0109】
本発明により得られる低分子量PTFEを含む組成物は、好ましくは粉末であり、二次電池や燃料電池の電極バインダー、電極バインダーの硬度調整剤、電極表面の撥水処理剤等としても使用できる。
【0110】
本発明により得られる低分子量PTFEを含む組成物は、好ましくは粉末であり、潤滑油と共に使用してグリースを調製することもできる。上記グリースは、粉末の低分子量PTFEを含む組成物及び潤滑油を含有することを特徴とすることから、潤滑油中に低分子量PTFEを含む組成物が均一かつ安定に分散し得る。該グリースは、耐熱性、耐荷重性、電気絶縁性、低吸湿性等の特性に優れ得る。
【0111】
上記潤滑油(基油)は、鉱物油であっても、合成油であってもよい。上記潤滑油(基油)としては、例えば、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、合成炭化水素油、エステル油、フッ素オイル、シリコーンオイルのような合成油等が挙げられる。耐熱性の観点からはフッ素オイルが好ましく、上記フッ素オイルとしては、パーフルオロポリエーテルオイル、三フッ化塩化エチレンの低重合物等が挙げられる。三フッ化塩化エチレンの低重合物は、重量平均分子量が500~1200であってよい。
【0112】
上記グリースにおいては、更に、他の増稠剤を併用してもよい。上記増稠剤としては、金属石けん、複合金属石けん、ベントナイト、フタロシアニン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物、イミド化合物等が挙げられる。上記金属石けんとしては、例えばナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けん等が挙げられる。また上記ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物及びウレタン化合物としては、例えばジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、その他のポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0113】
上記グリースは、粉末の低分子量PTFEを含む組成物を0.1~50質量%含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがより好ましい。上記の量の粉末の低分子量PTFEを含む組成物を含むことによって、適切な硬度のグリースを得ることができる。該グリースは、充分な潤滑性を発揮し得、適切なシール性を発揮し得る。
【0114】
上記グリースは、さらに、固体潤滑剤、極圧剤、酸化防止剤、油性剤、さび止め剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤等を含むこともできる。
【実施例
【0115】
本発明について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0116】
(比較例1)
バリアナイロン製の袋にポリフロン(登録商標)PTFE F-104(ダイキン工業株式会社製、PFCの濃度及びPFOAの濃度は、それぞれ測定限界以下)を50g計量し、ヒートシールを用いて密封した。次いで袋内のPTFE F-104に対して、室温にてコバルト-60γ線を150kGy照射し、低分子量PTFE粉末を得た。得られた低分子量PTFE粉末を、PFOA及び炭素数6~14のパーフルオロカルボン酸及びその誘導体の含有量の測定用サンプルとして用いた。また、得られた低分子量PTFE粉末の溶融粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0117】
(実施例1~6)
比較例1で得られた低分量PTFEを、密封可能なステンレス容器に入れ、上記容器を減圧状態とした。その後、窒素ガスで上記容器内の圧力が0.5Mpaになるまで加圧し再び減圧にする工程を5回行った。その後、再び窒素ガスで上記容器内の圧力が0.1MPaまで加圧した。次いで上記容器内の酸素濃度を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析し、酸素濃度が10ppb以下であることを確認した。次に、再び減圧状態にし、その後該容器に、常圧状態になるまでフッ素ガス及び窒素ガスを注入した後、該容器を密閉した。フッ素化反応を促進する為に、上記ステンレス容器を、200℃に設定し、190℃~210℃に維持した電気炉内で、表2に記載の時間静置し、フッ素化処理後の低分子量PTFEを得た。上記容器に注入したフッ素ガス濃度は、それぞれ表2のとおりである。
【0118】
(溶融粘度の測定)
実施例および比較例で得られた低分子量PTFEの溶融粘度を測定した。
溶融粘度は、ASTM D 1238に準拠して、フローテスター(島津製作所社製)を使用し、2φ-8Lのダイを用いて、予め測定温度(380℃)で5分間加熱しておいた2gの試料を用い、0.7MPaの荷重にて上記温度に保って測定した。
【0119】
(PFOA及びその塩の含有量の測定)
液体クロマトグラフ質量分析計(Waters、LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用い、実施例および比較例で得られた低分子量PTFEについて、低分子量PTFE100質量部に対する、PFOAの含有量の測定を行った。
具体的には、測定用粉末1gにアセトニトリル5mlを加え、60分間の超音波処理を行い、PFOAを抽出した。得られた液相について、MRM(Multiple Reaction Monitoring)法を用いてPFOAの含有量を測定した。移動相として、アセトニトリル(A)及び酢酸アンモニウム水溶液(20mmol/L)(B)を用い、濃度勾配(A/B=40/60-2min-80/20-1min)で送液した。分離カラムとしてACQUITY UPLC BEH C18 1.7μmを使用し、カラム温度は40℃、注入量は5μLとした。イオン化法は、ESI(Electrospray ionization) Negativeを使用し、コーン電圧は25Vに設定し、プリカーサーイオン分子量/プロダクトイオン分子量は413/369を測定した。PFOAの含有量は、外部標準法を用い、算出した。この測定における検出限界は5ppbである。
【0120】
(炭素数6~14のパーフルオロカルボン酸及びその誘導体の含有量の測定)
液体クロマトグラフ質量分析計(Waters、LC-MS ACQUITY UPLC/TQD)を用い、実施例および比較例で得られた低分子量PTFEについて、低分子量PTFE100質量部に対する、炭素数6~14のパーフルオロカルボン酸の含有量の測定を行った。
具体的には、溶液としてPFOAの測定にて抽出した液相を使用し、MRM法を用いて上記含有量を測定した。PFOAの測定条件から、濃度勾配を変更した測定条件(A/B=10/90-1.5min-90/10-3.5min)で、表1に記載のプリカーサーイオン分子量/プロダクトイオン分子量を測定した。炭素数6~14のパーフルオロカルボン酸の合計量は、上記測定より得られたパーフルオロオクタン酸の含有量(X)から、下記式を用いて算出した。この測定における検出限界は5ppbである。
(Ac6+Ac7+Ac8+Ac9+Ac10+Ac11+Ac12+Ac13+Ac14)/Ac8×X
上記式中:
c6~Ac14は、それぞれ、炭素数6~炭素数14のカルボン酸のピーク面積を表し;
Xは、MRM法を用いた測定結果から外部標準法を用いて算出したパーフルオロオクタン酸(炭素数8)の含有量を表す。
【0121】
【表1】
【0122】
結果を下表に示す。下表において、「フッ素ガス濃度」とは、工程(II)の処理開始時に用いたガスにおいて、フッ素ガスと窒素ガスとの合計容積に対するフッ素ガスの容積比率(%)を表す。また、以下の表において「C6~14の含有量」とは、炭素数6~14のパーフルオロカルボン酸及びその誘導体の含有量を示す。
【0123】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の製造方法で得られる低分子量PTFEは、プラスチック、インク、化粧品、塗料、グリース等の製造に有用に用いられ得る。