(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】磁気軸受用のシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/058 20060101AFI20231220BHJP
F16C 32/04 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F04D29/058
F16C32/04 Z
(21)【出願番号】P 2022577640
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2021023214
(87)【国際公開番号】W WO2021256562
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-16
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】モルガン,ジェフ エイ
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510162(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008034552(DE,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01335147(EP,A2)
【文献】国際公開第2013/152061(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/058
F16C 32/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体冷媒の圧力を増加させる圧縮機であって、
シャフトの回転を支持するよう構成される磁気スラスト軸受、を備え
前記磁気スラスト軸受は、
環状スラストステータコアであって、前記環状スラストステータコアを
軸方向に貫通して形成され、かつ、部分的に径方向に延設されている複数の溝を有する環状スラストステータコアと、
環状スラストロータであって、前記環状スラストステータコアによって形成される環状空間内に前記環状スラストロータが少なくとも部分的に配置される環状スラストロータと、
を備えており、
前記シャフトは前記環状スラストロータを貫通するよう延設されている、
圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機は、前記流体冷媒を循環させる冷媒ループと流体連通状態にあり、
前記冷媒ループは、熱エネルギーを水の循環ループと交換するよう構成されている、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記流体冷媒は、R32、R134A、R452B、R454B、R513A、R515A、R515B、R466A、R1233zd、R1233zd(E)またはHFO-1234yfを含む冷媒混合物である、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
電源からのパルス幅変調電力の模擬周波数を制御するよう構成される制御器を備える、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記複数の溝の少なくとも一つの径方向高さは、渦電流が最大密度である前記環状スラストステータコアの位置における径方向高さと実質的に同じである、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記複数の溝は、前記環状スラストステータコアの径方向における最も内側の外面から前記環状スラストステータコアの径方向における最も外側の外面へと向かって延設されている、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記複数の溝は、前記環状スラストステータコアの径方向における最も外側の外面から前記環状スラストステータコアの径方向における最も内側の外面へと向かって延設されている、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記シャフトの径方向外側に配置される支持リングを備え、
前記支持リングは、前記シャフトが回転する際、前記シャフトへと径方向内側に押圧するよう構成される装着部を部分的に形成する複数のスロットを有する、
請求項1に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、磁気軸受用のシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本欄は、本開示の実施形態の種々の面と関連しうる技術の種々の面を、その実施形態の種々の面を理解しやすくするために、紹介するものである。したがって、ここでの記載はこの点に照らして参考とするべきものであって、従来の技術を自認するものでないことが理解されよう。
【0003】
現代の住宅居住者や産業に関係する顧客らは室内空間環境が制御されていることを期待している。一般に、暖房・換気・空調(「HVAC」)システムは、室内空間の空気を低温源(冷房時)または高温源(暖房時)を通るよう循環させ、これにより、室内空間の環境温度を調整している。HVACシステムは、他の技術のなかでも、よく知られている、流体が気体から液体へと転移することによって熱を放出し、流体が液体から気体へと転移することによって熱を吸収するという物理原理を利用することによって、低温源および高温源を形成している。
【0004】
典型的な住宅用システムでは、冷媒が液相と気相との間で繰り返し変化するよう冷媒の流れおよびと圧力を制御するために、圧縮機と他の流れ制御装置を用いる配管の閉ループで流体冷媒を循環させる。こうした相転移は、一般に、閉ループの一部であって、循環している冷媒と流れる周囲空気との間で熱を移すよう設計される、HVACの熱交換器内において行われる。これが冷却サイクルの基本である。冷媒が気体から液体へと相変化する熱交換器は「凝縮器」と呼ばれ、ここで、凝縮する流体は周囲の環境に熱を放出する。冷媒が液体から気体へと転移する熱交換器は「蒸発器」と呼ばれ、ここで、蒸発する冷媒は周囲の環境から熱を吸収する。
【0005】
商業的利用として、遠心チラーチラーは大きな室内空間の室内環境状態を制御するには経済的な方法である。典型的なチラーシステム内では、複数の流体ループが協働して一の場所から他の場所へと熱を移す。典型的なチラーの中核となるのは、熱を所望の通りに吸収し放出するよう流体冷媒を液相と気相との間で転移させるために循環させる冷媒ループである。これは、従来の住宅のシステムでも同様である。しかし、周囲の空気または循環している空気へと冷媒が熱を直接移動する、または、周囲の空気または循環している空気から熱を直接吸収する代わりに、多くの場合、チラーは熱が移されるまたは熱が吸収される循環水のループを用いる。建物を冷房するために、冷媒ループの蒸発器を、冷水のループ内で循環している水から熱を吸収し、その結果、エアハンドリングユニット内の熱交換器を介して屋内の環境から熱を吸収するよう、設計することができる。冷媒ループの凝縮器を、循環している冷媒から冷却水ループ内の水へと熱を放出し、その結果、熱を冷却塔内の熱交換器を介して屋外の環境へと放出するよう、設計することができる。
【0006】
冷媒ループ内の冷媒の循環は、部分的に、遠心圧縮機によって推進力を与えることができる。遠心圧縮機は、低温で低圧の主にガス状の冷媒を受け、回転インペラを用いることによって冷媒を圧縮しその冷媒の圧力および温度を増加させる。インペラは、モータによって回転させられる。より具体的には、典型的なモータは、モータの回転子(ロータ)を貫通して延設されるとともにモータのロータに連結されるシャフトを備えており、インペラは典型的にはそのシャフトに連結される。こうして、モータの回転ロータによって、インペラが回転する。
【0007】
支持ベアリングは、シャフトを、したがってモータ・ロータを支持し、これにより、モータ・ロータは、モータ・ロータを囲繞する静止しているモータ固定子(ステータ)に対して回転することができる。多くの場合、支持ベアリングは、ボールベアリング・システムである。ボールベアリング・システムでは、内輪(インナレース)と外輪(アウタレース)との間に収納される玉(ボール)により二つのレースが互いに対して回転することができる。これは機械的な構成であり、モータにより提供される推進力(エネルギー)は、ベアリングのレースとボールとの間に摩擦により、しばしば損失を受ける。さらに、レースとボールとの間の機械的な相互作用によって、ベアリングの構成部品に望ましくない摩耗が生じることもある。これらの欠点は、比較的高速で長時間回転する場合がある大きなチラー圧縮機では増幅される。このことは、多くの場合で、高コストで複雑な潤滑システムによって機械部品の潤滑を行う必要があることを意味する。
【0008】
ある種のチラーは、シャフトおよびモータ・ロータの回転を円滑化するために、機械式ベアリングよりもむしろ磁気ベアリングを用いている。言い換えると、シャフトをステータに対して軸方向および半径方向でバランスをとるために、異なる方向に向けた、逆方向の磁場(opposing magnetic fields)が用いられる。磁気ベアリングには、ボールベアリング・システムのような摩擦の損失および機械の摩耗が生じない。それでも、若干のエネルギー損失がある。例えば、磁気ベアリングは、典型的には、動作に応じてシャフトへの力を釣り合わせるよう作用するように頻繁に磁場を変化させることによって、バランスを維持する。そして、磁場のこれらの変化により、渦電流が誘導され、渦電流は圧縮機の全体的な動作効率および性能を低下する。
【0009】
渦電流は、ベアリングコアをセグメントに分けるか、またはベアリングコアを単一部材から形成するのではなくベアリングコアを積層プレートから形成することによって、低減できる。しかしながら、渦電流を減らすことを期待した、ベアリングの複数部材への分離には課題がある。
【発明の概要】
【0010】
本明細書に開示するいくつかの面にかかる態様を以下に説明する。なお、これらの面が本発明が取りうるいくつかの態様の簡単な要約を提供するだけにすぎず、これらの面が本発明の範囲を限定するものではないことは理解されよう。実際には、本発明は以下では説明されていない様々な面をも含むことができる。
【0011】
本開示の態様は、部分的にセグメントに分かれているステータコアを有する磁気スラスト軸受(ベアリング)に関する。ある態様では、磁気スラストベアリングアセンブリは、電気巻線を支持するよう構成される環状ステータコアを備える。ステータコアは、スラストステータコアを貫通するよう部分的に径方向に延設されている複数の溝を有する。他の態様では、圧縮機は、シャフトと、シャフトの回転を支持するよう構成される磁気スラストベアリングと、を備える。また、磁気スラストベアリングは、複数の溝を有する環状ステータコアを備える。複数の溝は、スラストステータコアを貫通するよう部分的に径方向に延設される。
【0012】
本態様の種々の面に関係して、上述した各特徴の種々の変形を行うことができよう。こうした種々の面に、さらなる特徴を加えることもできる。これらの変形および特徴の追加を個々にまたは組み合わせて行うこともできる。例えば、例示した態様の一以上に関係して以下で説明する種々の特徴を、上述した本開示の面のいずれにもまたはいずれかの組み合わせにも加えることもできる。あらためて、上に示した簡単な要約は、特許請求の範囲の主題を限定するものではなく、ある面およびいくつかの態様の関連を前もって分かりやすくしておくためだけのものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
これら特徴ならびに他の特徴、面、およびある態様の利点は、以下の図面を参照しながら以降の詳細な説明からより理解されよう。以下の図面では、同じ部材には、複数の図面を通して同じ符号を付してある。
【
図1】
図1は、本開示の一の実施形態にかかる建物のためのチラーシステムを概略的に示す。
【
図2】
図2は、本開示の一の実施形態にかかる圧縮機アセンブリの断面図を概略的に示す。
【
図3】
図3は、本開示の一の実施形態にかかる、シャフトを囲む磁気スラストベアリングアセンブリの等角断面図を概略的に示す。
【
図4】
図4は、本開示の一の実施形態にかかる、シャフトに装着される支持リングの軸方向断面図を概略的に示す。
【
図5】
図5は、本開示の一の実施形態にかかる支持リングの断面図を概略的にかつ等角的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の一以上の具体的な実施形態を以下に説明する。実施形態を簡潔に説明するために、実際の実施のすべての特徴を説明しない場合もある。そのような実際の実施の開発においては、一の実施から他の実施へと変わりうるシステムに関するそしてビジネスに関する制約との適合といった、開発者の特定の目標を達成するよう、実施に関して具体的な幾多の判断が行われることを記載しておく。また、このような開発努力が複雑でかつ時間を要するが、それでも、設計、生産および製造は、本開示の技術分野の当業者にとっては、日常行われている作業であろう。
【0015】
種々の実施形態の要素を説明するとき、“a”、“an”、“the”、“said”といった冠詞は一以上の要素であることを意味する。語「備える」、「含む」、および「有する」は、排他的ではなく、列挙された要素以外の追加の要素がある場合もあることを意味する。
【0016】
次に図面を参照して、
図1はチラーシステム100の概略を示す。システムの中心は、冷媒ループ110である。圧縮機120は、比較的低温低圧の冷媒ガスを、高温高圧のガスへと変換する。図示の通り、圧縮機120は、二段(ツーステージ)圧縮機である。低圧冷媒は、第一ステージインペラ130を介して加圧され、そして、第一ステージインペラから出力される冷媒は、第二ステージインペラ140に取り込まれてさらなる加圧を受ける。特定の実施形態では単一ステージ圧縮機またはさまざまなステージを有する様々な圧縮機を使用することが想定される。そして、冷媒を、R410A、R32、R454B、R452B、R125、R466A、R1233zd、R1233zd(E)、R1234ze、R134a、R513A、R515A、R515BおよびR1234yfを含む冷媒のうちの任意の数の冷媒、またはそれらの組み合わせ、およびそれらの種々の比率での混合物とすることができる。
【0017】
そして、高温高圧のガスは、凝縮器150において高圧の液冷媒へと相転移する。このステップの際に、高圧ガスの相転移によって取り出された熱は、冷却水ループ160を循環している水へと、多くの場合凝縮器150における熱交換器を介して、移動する。最終的には、冷却水ループ160の水へと移動した熱は冷却塔170における他の熱交換器を介して屋外の環境へと排出される。
【0018】
冷媒ループにおいて凝縮器150から出てくる液体となった冷媒は、膨張弁180を通るときには低圧の液体になる。冷媒の圧力低下にともない、温度も低下し、低圧低温の液体となる。そして、低温の低圧の液体は蒸発器190へと入り、そこで熱が冷媒へと戻されて、圧縮機によって圧縮される低圧のガスに戻るよう相転移する。蒸発器190において冷媒に移された熱は、第二冷水ループ200で循環している水によって、多くの場合蒸発器190内の熱交換器を通じて供給される。冷水ループ200は、冷却された水を、室内の空気を、熱交換器を通るよう循環させるエアハンドリングユニット(AHU)210へと移送し、これにより室内空間が冷える。
【0019】
動作を連係させるために、システム100は、マンマシンインタフェースを提供するコントローラ(制御器)を有することができる。いくつか例を挙げれば、例えばWiFi、近距離RF信号(例えばブルートゥース(登録商標)SIG、すなわち標準化団体から入手可能なブルートゥース(登録商標)信号プロトコル)といった無線プロトコルのうちの任意の数のプロトコルによって無線通信ができる、または、例えばBacNET、CANといった有線プロトコルを用いてワイヤを介して、またはP1/P2もしくはS21のような専用の制御ロジックで通信できる、制御器220によって、圧縮機、圧縮機における磁気ベアリング、および冷却システムにおける種々の他の流れ(フロー)制御構成部品の動作を制御することができる。また、制御器をインターネットに接続して、遠隔地からのクラウド・ベースの動作またはネットワーク動作を提供することもできる。
【0020】
図2では、概略断面図に示すチラーのための例示的な圧縮機センブリに、焦点を当てている(説明の簡単化のために、圧縮機の一部のみを示している)。上述した通り、圧縮機は、インペラ230の回転により高圧高温状態となる、低圧低温の冷媒を取り込む。
【0021】
インペラの回転を行うために、圧縮機120は、モータアセンブリ240を有し、モータアセンブリ240は、例えば液圧モータ、空気式モータまたは電気モータといったタイプのモータのうちの任意の数のモータとすることができる。図示する通り、圧縮機センブリ230は、静止環状ステータ250と、環状ステータの内側に配置されて回転するロータ260と、を有する電気モータアセンブリ240を使用する。モータのステータおよびロータは協働して、産業において周知の通り、電流を回転運動へと変換する。好ましくは、制御器220は、動作を最適化するよう圧縮機120に対して信号を出力・受信することができる。例えば、制御器は、制御信号を送信して、電流をステータ250の電気配線(例えば巻線コイル270)へと供給する電源と連係でき、これにより、適切に通電させることによって、磁気ロータ260を回転させるよう変化する磁束を生成することができる。そして、制御器220は、パルス幅変調電流を巻線へ供給する電源と連係するよう構成することができる。例えば、交流(AC)電流を直流(DC)電流に変換するとともに、周波数を変化させるAC波形をエミュレート(模擬形成)するようDC電流の継続時間を変調するのに役立つ適切な調整(コンディショニング)回路を用いることにより、パルス幅変調電流を生成することができる。また、制御器を、チラーシステムの動作を最適化するよう、建物との信号の送受信を行う建物管理システムの一部とすることもできる。
【0022】
ロータ260を貫通するよう延設されるとともにロータ260に連結されるシャフト280は、ロータ260とともに回転する。そして、シャフトの回転は、シャフトに機械的に連結されているインペラ230へと伝達される。ある実施形態では、インペラに対するシャフトの回転速度を調整または変更するために、ギヤアセンブリをシャフトとインペラとの間に配置することもできる。なお、図示では、シャフト280はモータアセンブリによって直接駆動されており、したがって、シャフトおよびインペラの回転速度は一致する。
【0023】
シャフト280とシャフトに取り付けられるロータ260とは、ベアリング290によって支持される。図示する実施形態において、ベアリング290は、シャフト280を囲む、ラジアルベアリング300とスラストベアリング320とを備える環状磁気ベアリングである。ラジアルベアリング300は、シャフトをY-Y方向310に支持する。スラストベアリング320は、シャフトをX-X方向330に支持する。より具体的には、ベアリング300,320は、通電されたときに機械的接触なくシャフトを支持する磁束を生成するコイルを有する。例えば、シャフト280は、Y-Y方向に支持するよう生成される磁束と磁気的に相互作用する磁性部分350を有する。磁性部分350は、シャフトと一体化することもできる。または、図示する通り、シャフトに装着される別体の環状構成部品とすることもできる。さらに、一例として、図示のシャフト280は、磁性材料から形成される環状スラストロータ370を担持する。スラストロータ370は、スラストステータ380における巻線コイル340によって生成される磁束と相互作用して、X-X方向におけるシャフト(およびシャフトに装着される構成部品)の位置を制御する。図示する実施形態において、スラストロータ370および磁性部分350は、シャフトを囲み、環状支持リング390によってシャフト上へとX-X方向に関して位置的に固定される。スラストロータ370は、スラストステータコアによって形成される環状空間395内に部分的に配置される。
【0024】
好適には、制御器220は、信号400を出力して、磁気ベアリングの巻線コイル340への電流400を調整することによってコイルによって生成される磁束の量を制御し、その結果、シャフトが回転しているときの圧縮機センブリにおけるシャフトの位置を安定させることができる。
【0025】
図3は、概略的に等角的に断面図で示しているスラストベアリングアセンブリ320に焦点を当てている。図示する通り、環状スラストベアリングアセンブリ320は、シャフト280を囲むとともに、生成される磁束を用いてX-X方向に関してシャフト280を支持する。スラストロータ370は、シャフト280に直接装着される。スラストロータ370は、一方の側が肩部(ショルダー)410によって、他方の側が支持リング390(
図2を参照)によって、X-X方向330に関して位置的シャフトに固定される。上述した通り、スラストロータ370はシャフトとともに回転する。
【0026】
この回転の際、軸方向力(すなわちX-X方向の力)がシャフトを移動させるよう働く場合もあり、そのような移動は動作上の問題となる可能性がある。スラストベアリングは、これらの動作時における力に対して反対に作用して、シャフトを適切な位置に保持する。巻線コイル(図示せず)は、スラストステータ内(より具体的にはスラストステータコア430)内の環状空間であるコイルハウジング420内に配置され、スラストロータ370を適切な位置に保持するよう反対に作用する磁力を与える。例えば、(
図3に示す方向軸に関して)X+側のコイルは、スラストロータをX-方向に駆動する磁束を生成することができる。逆に、X-側のコイルは、スラストロータをX+方向に駆動する磁束を生成することができる。それぞれの巻線コイルの磁束を調整することによって、スラストロータはX-X方向に関して位置的に安定する。
【0027】
しかしながら、コイルがこの磁束を生成するときに、スラストベアリングにおいて、特にスラストベアリングコアにおいて渦電流が形成される。そして、これらの渦電流によって、間接的に、圧縮機の動作効率が低下する場合がある。例えば、渦電流によって、周波数応答性が低下する(すなわち、制御電流の急速な変動に対するベアリングの誘導力の遅延の悪化の)おそれある。そして、このため、結果的に、圧縮機が最も効率的に動作すると考えられるサージ境界で、又は、その近傍で、圧縮機を動作させることがより困難になる。
【0028】
スラストステータコア430を完全にセグメントに分けることによって、渦電流の発生および密度を低減することができる。要するに、スラストステータコア430を、複数の、扇状(パイ形状)の別々のステータコア区分(セグメント)(図示せず)から構成し、別々のステータコア・セグメントを、その後、機械的に組み立てることで、環状スラストステータコア430を形成することができる。しかしながら、これが行われても、位置合せ不良や組み立て不良に関連する他の要因が発生することもある。また、完全にセグメントに分けられたステータコアは、製造するのが困難となる場合もある。
【0029】
一の実施形態では、スラストステータコア430をセグメントに分けるまたは積層化する(すなわち複数の層で形成する)必要なく、渦電流を低減できると考えられる。本実施形態においては、
図3に示す通り、スラストステータコア430は、環状スラストステータコア430を貫通するよう径方向に部分的に延設される複数の溝450を有する。溝450は、スラストステータコア430の径方向内側の外面460において軸方向に全体的に延び、ここを起点として延設が始まり、スラストステータコア430の径方向外側の外面470に達しないように、スラストステータコア430において係方向に延設される。他の実施形態(図示せず)においては、溝は、径方向の最も外側の外面470から、径方向において最も内側の外面460に達しないように、径方向に延設される。
【0030】
いずれの実施形態においても、スラストステータコア430を従来の鋳造工程および高価でない素材(例えばAISI1008低炭素鋼)を用いて製造するのがより容易であると考えられる一体アセンブリまたは単体の状態としながら、溝が、スラストステータコアの隣接部分の間に隙間を形成する。そして、隙間を有するがそれでも一体であるステータを提供することによって、図示するスラストステータコア430を部分的にセグメントに分けることができる。
【0031】
溝は渦電流の発生を低減でき、したがって、例えばサージ動作や始動(trip)動作の際に、急速に変動する電流が印加されたときでもより効果的な動作のために役立つと考えられる。実際に、溝450によりスラストベアリングの動的負荷(ダイナミックロード)性能が向上していると考えられ、その結果、過酷で高強度な動作環境または性能要件にも圧縮機を適応させることができる。また、溝450によって、ベアリングの表面積が増加し、その増加した表面積が熱散逸を促進する。
【0032】
一の実施形態において、溝の半径方向高さRHを、スラストステータコア430における渦電流の予想される位置と一致させる。例えば、渦電流は、ステータコア430の内面に、渦電流の最大密度がコイルハウジング420の外側の角部425の近傍で発生する状態で、形成される傾向があると考えられている。したがって、溝の高さRHを、最も内側の外面460から角部425の径方向距離と相関させることができる。一例においては、最も内側の外面460から角部425の径方向高さを、溝の高さRHと同じまたは近い高さとすることができる。
【0033】
ある実施形態では、シャフト280に装着される種々の圧縮機構成部品を、一以上の支持リング390(
図2を参照)を介して、軸方向に関して位置的に固定することができる。なお、保守の際、例えば、シャフト280に装着された構成部品を取り外し可能とすることが必要または有用となる場合があろう。このような場合、支持リング390をシャフトから軸方向に取り外すことによって、固定された構成部品(例えば磁性部分350やスラストロータ390)をシャフトから分離することができる。
【0034】
支持リング390がシャフト280とともに回転するとともに、他の回転要素を固定するので、シャフト280と支持リング390との間にタイトな摩擦係合または連結が得られる利点がある。なお、タイトな摩擦係合は、例えば保守動作の際には、堅い摩擦係合によって支持リング390の取り外しが困難となる要因になりえる。
【0035】
一の実施形態では、支持リング390は、シャフト280が回転しないときにはシャフト280と支持リング390との間に摩擦力を少なくするが、シャフトが回転するときには摩擦力を増加させる特徴を有する点で有用である。
図4および
図5は、このような特徴を有する例示的な支持リング390を示す。図示の支持リングは、シャフト開口部490に隣接して、すなわち径方向内側の外面へと向かって位置する複数のスロット480を有する。これらのスロット480は、支持部(サポート)500と組み合わせて、シャフトと支持リング390との間で摩擦係合を確実に行わせるようシャフトと接する、(径方向に)比較的薄い装着部510を形成するのに役立つ。
【0036】
図4に、シャフト280とそれに装着される支持リング390とがR-R方向に回転している動作状態にある支持リング390を示す。回転中、薄い装着部510は、遠心力のために非対称的に変形する。これにより、装着部510の領域がシャフト280から径方向に(外向きに)離れるよう移動するが、典型的にはサポート500間の装着部510の中間点にある接触面520が径方向にシャフト280へと向かって(内向きに)移動するので、支持リング390とシャフト280との間の摩擦または締り嵌め(インターフェランス・フィット)が全体としては強くなる。けれど、シャフト280が静止しているときには、支持リング390は、変形していないより円形に近い形状に戻る。変形していないより円形に近い形状では、装着部510のより多くの部分がシャフトに接触するが摩擦または締り嵌めは小さくなるので、より容易に支持リング390をシャフト280から取り外すことができる。
【0037】
本開示のチラーシステムによって用いられることができる冷媒にはいくつもの種類がある。例えば、システム100は、単一の冷媒(例えばR32)を循環させることができる。または、システムは、複数の冷媒の混合物(ブレンド)を使用することもできる。例えば、システムは、以下の配合(重量で表す)の冷媒を使用することができる。
【0038】
【0039】
他の可能性がある実施形態として、システムは、ハイドロフルオロ・オレフィン(HFO)冷媒を使用することができる。使用されるHFO冷媒を、単一のタイプまたは混合冷媒とすることができる。例えば、システムは、以下の混合(重量で表す)のHFO冷媒を使用することができる。
【0040】
【0041】
本開示のいくつかの面を種々の変更にそして変形態様にすることが可能であるが、特定の態様を一例として図面に示し、ここに詳細に説明した。しかしながら、本発明を、開示した特定の態様に限定することを意図したものではないことは理解されよう。むしろ、本発明は、添付した特許請求の範囲によって特定される発明の精神および範囲内に含まれる、あらゆる変更、均等物および変形に及ぶものである。例えば、ここに記載した実施形態を、他の産業的な目的のためにモータにおいて用いられる磁気ベアリングを有する、チラー圧縮機の外部に用いる磁気軸受システムに適用することも想定される。
【符号の説明】
【0042】
100 チラーシステム
110 冷媒ループ
120 圧縮機
160 冷却水ループ
200 冷水ループ
280 シャフト
320 スラストベアリングアセンブリ
370 スラストロータ
380 スラストステータ
390 支持リング
395 環状空間
430 スラストステータコア
450 溝
460 径方向に最も内側の外面
470 径方向に最も外側の外面
480 スロット
510 装着部