(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】接合構造、チップ、基板、導電性フィラー含有ペースト及び接合構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
H01L21/60 311S
(21)【出願番号】P 2020081743
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2023-02-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトに掲載された学会予稿の掲載日:令和元年5月15日、掲載アドレス:webサイトのトップページのアドレスhttp://hashi.shinshu-u.ac.jp/emnano/index.html、予稿集ダウンロードページのアドレス http://hashi.shinshu-u.ac.jp/emnano/abstracts/abstracts.html、学会名:EM-NANO 2019、予稿タイトル:Millimeter-wave Electromagnetic Simulation for Conductive Paste Bonding using Single Fullerene Shaped Model(予稿タイトルの日本語訳:単一フラーレン形状モデルを使用した導電性ペースト接合のミリ波電磁シミュレーション) ・集会名:EM-NANO 2019、開催日:令和元年6月19日~22日開催の内の6月20日に発表、開催場所:長野県長野市若里四丁目17番1号 国立大学法人信州大学工学部、発表タイトル:Millimeter-wave Electromagnetic Simulation for Conductive Paste Bonding using Single Fullerene Shaped Model(日本語訳は予稿タイトルと同じ)、ポスターを用いて菱田晃右、下石坂望、曽根原誠及び佐藤敏郎が発明した絶縁接合の構造について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトに掲載された学会予稿の掲載日:令和元年8月20日、掲載アドレス:webサイトのトップページのアドレスhttp://denki.iee.jp/fms/?post_type=custom_event&p=16355、予稿集ダウンロードページのアドレスhttps://onsite.gakkai-web.net/fms/fms2019.zip、学会名:令和元年電気学会 基礎・材料・共通(A)部門大会、予稿タイトル:数十GHz帯用導電ペースト接合材料の電磁界解析・集会名:令和元年 電気学会 基礎・材料・共通(A)部門大会、開催日:令和元年9月3日~4日学会開催の内の9月4日に発表、開催場所:岩手県盛岡市上田4-3-5 岩手大学 上田キャンパス理工学部、発表タイトル:数十GHz帯用導電ペースト接合材料の電磁界解析、スライドを用いて菱田晃右、下石坂望、曽根原誠及び佐藤敏郎が発明した絶縁接合の構造について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510018649
【氏名又は名称】コネクテックジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144130
【氏名又は名称】中山 実
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 誠
(72)【発明者】
【氏名】下石坂 望
(72)【発明者】
【氏名】菱田 晃右
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏郎
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-082758(JP,A)
【文献】特開平6-224257(JP,A)
【文献】特開2004-343000(JP,A)
【文献】特開2005-223057(JP,A)
【文献】特開平7-161769(JP,A)
【文献】特開平4-304645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面実装用のチップに設けられた電極であるパッドと、前記チップの実装される基板に設けられた電極であるランドとの接合構造であって、
導電性フィラーをバインダに含む導電性フィラー含有層が、対向する前記パッドと前記ランドとの間に配されていて、
前記パッドと前記ランドとが前記導電性フィラーの接触によって導通しないように、前記パッドと前記ランドとの間に絶縁材を有することを特徴とする接合構造。
【請求項2】
前記絶縁材は、前記パッド及び前記ランドの一方又は両方の表面に設けられた絶縁膜であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記絶縁材は、前記導電性フィラーの表面に設けられた絶縁膜であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造。
【請求項4】
前記導電性フィラーが、前記パッドと前記ランドとの間に平面状に並ぶように配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の接合構造。
【請求項5】
前記導電性フィラーが、断面視でパッドの表面に沿う方向に一列に並ぶように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の接合構造。
【請求項6】
前記導電性フィラーが、球体、楕円体、多面体、板体又は針状であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の接合構造。
【請求項7】
前記パッドと前記ランドとの間のインピーダンスが、使用周波数において10Ω以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の接合構造。
【請求項8】
前記パッドと前記ランドとの間の電気的特性が、帯域通過フィルタ、帯域阻止フィルタ、又は、帯域通過フィルタと帯域阻止フィルタとを組み合わせたフィルタになっていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の接合構造。
【請求項9】
表面実装用のチップであって、導電性フィラー含有ペーストにより基板のランドに接合されるパッドの表面に絶縁膜が設けられていることを特徴とするチップ。
【請求項10】
表面実装用のチップが実装される基板であって、前記チップのパッドが導電性フィラー含有ペーストにより接合されるランドの表面に絶縁膜が設けられていることを特徴とする基板。
【請求項11】
表面実装用のチップに設けられた電極であるパッドと、前記チップの実装される基板に設けられた電極であるランドとが対向し、対向する前記パッドと前記ランドとの間に配されて用いられる導電性フィラー含有ペーストであって、
前記導電性フィラーの表面に絶縁膜が設けられていることを特徴とする導電性フィラー含有ペースト。
【請求項12】
表面実装用のチップと基板とを、導電性フィラー含有ペーストを用いて接合して形成する接合構造の製造方法であって、
前記チップと前記基板の、少なくとも一方に、それぞれ、
パッドの表面にパッド絶縁用の絶縁膜を備えるチップと、ランドの表面にランド絶縁用の絶縁膜を備える基板とを用意し、
これら用意したチップと基板とを前記導電性フィラー含有ペーストを用いて接合し、前記パッドと前記ランドとの間に、前記導電性フィラー含有ペーストによって形成された導電性フィラー含有層を形成する工程を有することを特徴とする接合構造の製造方法。
【請求項13】
表面実装用のチップに設けられた電極であるパッドの表面、及び前記チップの実装される基板に設けられた電極であるランドの表面の少なくとも一方に、表面に絶縁膜を有する導電性フィラーがバインダに含まれている導電性フィラー含有ペーストを配する工程と、
前記チップと前記基板とを接合して、前記パッドと前記ランドとの間に、前記導電性フィラー含有ペーストによって形成された導電性フィラー含有層を形成する工程とを有することを特徴とする接合構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップのパッドと基板のランドとの新規な接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子などのチップは基板に実装されて用いられる。チップを基板に実装する方法の一つとして、いわゆるフリップチップ実装法がある。フリップチップ実装法のひとつに、チップのパッドと基板のランドとの間に導電ペーストを挟み込むことで、電気的に接続する方法がある。例えば、特許文献1に、半導体素子の実装用電極と、基板の配線との間に、導電性ペーストが挟まれた半導体素子フリップチップ接合構造体が記載されている。
【0003】
近年、ミリ波帯で低誘電率な回路基板材料が要求されており、例えば、液晶ポリマー(LCP)やポリフェニヘンサルファイド(PPS)などが使用されている。これらの基板材料は、電子部品の実装の際に260℃などの高温で半田接合する実装法では変形したり、ダメージを受けたりしてしまう。そのため、フリップチップ実装法による導電ペーストを用いた低温接合が利用され始めている。導電ペーストとして、例えばCuあるいはAgの金属微粒子(導電性フィラー)が有機溶剤(バインダ;接合材、接着材)中に分散した複合導電ペーストが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チップのパッド及び基板のランドは導電ペースト中の導電性フィラーに確実に接触して導通することが必要である。一方、ミリ波帯のような高周波領域において、導電ペーストによる接合構造について十分に検討されていないという課題があった。本発明者らは、高周波領域における導電ペーストによる接合構造について鋭意研究した結果、従来にない新たな接合構造を発明することができた。
【0006】
本発明は、高周波領域で使用できる新たな接合構造、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された接合構造は、表面実装用のチップに設けられた電極であるパッドと、前記チップの実装される基板に設けられた電極であるランドとの接合構造であって、導電性フィラーをバインダに含む導電性フィラー含有層が、対向する前記パッドと前記ランドとの間に配されていて、前記パッドと前記ランドとが前記導電性フィラーの接触によって導通しないように、前記パッドと前記ランドとの間に絶縁材を有することを特徴とする。
【0008】
なお、絶縁性バインダに絶縁材の役割をもたせてもよい。要は、パッド及びランドの少なくとも一方に導電性フィラーが接触しない構造になっていればよい。
【0009】
請求項2に記載の接合構造は、請求項1に記載のものであり、前記絶縁材は、前記パッド及び前記ランドの一方又は両方の表面に設けられた絶縁膜であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の接合構造は、請求項1に記載のものであり、前記絶縁材は、前記導電性フィラーの表面に設けられた絶縁膜であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の接合構造は、請求項1から3のいずれかに記載のものであり、前記導電性フィラーが、前記パッドと前記ランドとの間に平面状に並ぶように配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の接合構造は、請求項4に記載のものであり、前記導電性フィラーが、断面視でパッドの表面に沿う方向に一列に並ぶように配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の接合構造は、請求項1から5のいずれかに記載のものであり、前記導電性フィラーが、球体、楕円体、多面体、板体又は針状であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の接合構造は、請求項1から6のいずれかに記載のものであり、前記パッドと前記ランドとの間のインピーダンスが、使用周波数において10Ω以下であることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の接合構造は、請求項1から6のいずれかに記載のものであり、前記パッドと前記ランドとの間の電気的特性が、帯域通過フィルタ、帯域阻止フィルタ、又は、帯域通過フィルタと帯域阻止フィルタとを組み合わせたフィルタになっていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載のチップは、表面実装用のチップであって、導電性フィラー含有ペーストにより基板のランドに接合されるパッドの表面に絶縁膜が設けられていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の基板は、表面実装用のチップが実装される基板であって、前記チップのパッドが導電性フィラー含有ペーストにより接合されるランドの表面に絶縁膜が設けられていることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の導電性フィラー含有ペーストは、表面実装用のチップに設けられた電極であるパッドと、前記チップの実装される基板に設けられた電極であるランドとが対向し、対向する前記パッドと前記ランドとの間に配されて用いられる導電性フィラー含有ペーストであって、前記導電性フィラーの表面に絶縁膜が設けられていることを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の接合構造の製造方法は、表面実装用のチップと基板とを、導電性フィラー含有ペーストを用いて接合して形成する接合構造の製造方法であって、前記チップと前記基板の、少なくとも一方に、それぞれ、パッドの表面にパッド絶縁用の絶縁膜を備えるチップと、ランドの表面にランド絶縁用の絶縁膜を備える基板とを用意し、これら用意したチップと基板とを前記導電性フィラー含有ペーストを用いて接合し、前記パッドと前記ランドとの間に、前記導電性フィラー含有ペーストによって形成された導電性フィラー含有層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載の接合構造の製造方法は、表面実装用のチップに設けられた電極であるパッドの表面、及び前記チップの実装される基板に設けられた電極であるランドの表面の少なくとも一方に、表面に絶縁膜を有する導電性フィラーがバインダに含まれている導電性フィラー含有ペーストを配する工程と、前記チップと前記基板とを接合して、前記パッドと前記ランドとの間に、前記導電性フィラー含有ペーストによって形成された導電性フィラー含有層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の接合構造によれば、パッドとランドとは非導通状態であるが、高周波信号を通過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明を適用する接合構造を模式的に示す側面図である。
【
図2】本発明を適用する接合構造を模式的に表した拡大断面図である。
【
図4】解析モデル1の解析結果を示すグラフである。
【
図6】解析モデル2の解析結果を示すグラフである。
【
図8】解析モデル3の解析結果を示すグラフである。
【
図9】本発明を適用する接合構造の等価回路である。
【
図10】本発明を適用する別の接合構造を模式的に表した拡大断面図である。
【
図12】解析モデル4の解析結果を示すグラフである。
【
図13】本発明を適用する別の接合構造を模式的に表した拡大断面図である。
【
図14】本発明を適用する別の接合構造を模式的に表した拡大断面図である。
【
図15】従来の接合構造の製造方法を模式的に示す図である。
【
図16】本発明を適用する接合構造の製造方法を模式的に示す図である。
【
図17】本発明を適用する別の接合構造の製造方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0024】
(第1実施形態)
図1に、本発明を適用する接合構造1を模式的に表した側面図を示す。なお、
図1を含む以下の各図では、発明の理解を容易にするために、各部の厚さ、大きさなどのサイズや比率を実際のものとは変えて模式的に図示している。
【0025】
接合構造1は、表面実装用のチップ2に設けられた電極であるパッド4と、チップ2の実装される基板3に設けられた電極であるランド5とを接合させたものである。接合構造1によって接合されているチップ2及び基板3全体がフリップチップ接合構造体201である。接合構造1のパッド4及びランド5は、高周波信号が流れるものである。
【0026】
チップ2は、半導体素子もしくはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)であり、いわゆるフリップチップ実装法により基板3に表面実装されるものである。チップ2の基材21の実装面側(図の下面側)には、多数のパッド4が設けられている。パッド4は、電極であり、導電性を有している。
【0027】
基板3の基材22の実装面側(図の上面側)には、チップ2の多数のパッド4の実装位置に対応させて、多数のランド5が設けられている。ランド5は、配線パターンによって形成された電極であり、導電性を有している。
【0028】
対向するパッド4とランド5とは、導電性フィラー含有層6を間に挟み込むことで接合されている。この接合部以外のチップ2と基板3との間の隙間には、チップ2と基板3とを接着して機械的強度を増すために充填層9が設けられている。なお、必要性に応じて、充填層9が設けられない場合もある。
【0029】
図2に、パッド4とランド5との接合構造1を模式的に拡大して表した拡大断面図を示す。パッド4及びランド5は、一例として、マイクロ波帯(3GHz~30GHz)、ミリ波帯(30GHz以上300GHz以下)、サブミリ波(300GHz以上3000GHz以下)のような高周波信号が流れるものである。本発明の接合構造1は、好ましくはミリ波帯(30GHz以上300GHz以下)の高周波信号、より好ましくは100GHz以上の高周波信号で用いることができる。
【0030】
パッド4は、チップ2の基材21の表面に設けられている。パッド4は、例えばアルミニウム、銅、銀、金などの導電性を有する金属である。ランド5は、基板3の基材22の表面に設けられている。ランド5は、例えばアルミニウム、銅、銀、金などの導電性を有する金属である。
【0031】
本発明を適用する接合構造1は、導電性フィラー(導電性微粒子)7をバインダ8に含む導電性フィラー含有層6が、対向するパッド4とランド5との間に配されていて、パッド4とランド5とが導電性フィラー7の接触によって導通しないように、パッド4とランド5との間に絶縁材を有することに特徴がある。従来、パッド4とランド5とが導通(直流的に電気接続)するように、導電性フィラー7がパッド4及びランド5に確実に接触していることが必要であると考えられていた。ところが、本発明では、あえてパッド4とランド5とが非導通になるように接合している。本発明の接合構造1は、非導電接合(非導通接合)ともいうことができる。
【0032】
一例として、絶縁材はパッド4及びランド5の一方又は両方の表面に設けられた絶縁膜である。
図2の例は、パッド4及びランド5の両方の表面に絶縁膜が設けられた例であり、パッド4の表面に絶縁膜11が設けられると共に、ランド5の表面に絶縁膜12が設けられている。
【0033】
このように、本発明を適用するチップ2は、パッド4の表面に絶縁膜11が設けられていることに特徴がある。また、本発明を適用する基板3は、ランド5の表面に絶縁膜12が設けられていることに特徴がある。
【0034】
絶縁材(絶縁膜11,12)は、絶縁性を有するものであれば材質は限定されない。絶縁材は、例えば、絶縁性樹脂、絶縁性無機材である。絶縁材は、使用周波数帯で低誘電特性のもの、すなわち低誘電率かつ低誘電正接であるものが好ましい。絶縁材が絶縁性樹脂である場合、例えば、ポリイミド、PBO(Poly-Benzo Oxazole)、BCB(Benzocylobutene)、フッ素樹脂、液晶ポリマーなどの低損失絶縁樹脂が挙げられる。絶縁材が絶縁性無機材である場合、例えば、窒化シリコン、酸化シリコン、アルミナ、窒化アルミニウム、ガラス、LTCC(アルミナとホウケイ酸ガラスの混合物)などが挙げられる。
【0035】
絶縁膜11,12の膜厚は限定されず、使用する高周波信号の周波数によって適宜決めればよい。例えば、ミリ波帯で使用する場合、膜厚0.01~100μm程度である。後述する電磁界解析では、膜厚を0.25~2.0μmに変化させた場合の例を示している。
【0036】
導電性フィラー含有層6は、導電性フィラー7がバインダ8中に分散されている層である。導電性フィラー含有層6は、例えば、導電性フィラー含有ペースト(導電ペースト)によって形成されている。導電性フィラー含有ペーストは、導電性フィラー7をペースト状のバインダ8に分散させたものである。バインダ8が硬化(固体化)して、導電性フィラー含有層6が形成されている。
【0037】
導電性フィラー7は、導電性を有する例えば金属製の微粒子である。導電性フィラー7は導電性を有するものであれば材質は限定されない。導電性フィラー7の材質として、例えば、Cu、Ag、Al、Au、Pdが挙げられる。導電性フィラー7は、Pd、Auなどの金属が表面にめっきされた樹脂粒子のような導電膜付き樹脂粒子であってもよい。導電性フィラー7の形状は限定されない。導電性フィラー7の形状として、例えば、球体、楕円体、多面体、板体、針状などの形状が挙げられる。多面体は、例えば四面体、六面体、八面体、切頂二十面体のように、任意の形状である。
【0038】
導電性フィラー7のサイズは限定されず、使用する高周波信号の周波数によって適宜決めればよい。例えば、ミリ波帯では、導電性フィラー7の形状が球体、切頂二十面体である場合、直径0.05~50μm程度である。
【0039】
導電性フィラー7は、パッド4とランド5との間に平面状に並ぶように配置されていることが好ましい。厚さが均一に平面状に導電性フィラー7が配置されることで、電気的特性が安定する。
【0040】
さらに、
図2に示すように、導電性フィラー7は、断面(縦断面)視でパッド4(ランド5)の表面に沿う方向に一列に並ぶように配置されていることが好ましい。言い換えると、導電性フィラー7は、パッド4(ランド5)の表面に直交する方向に重ならないように配置されていることが好ましい。このように、各導電性フィラー7が、断面視で横一列に並んでいる場合、各導電性フィラー7は、パッド4の絶縁膜11及びランド5の絶縁膜12の両方に接する。そのため、導電性フィラー7の径(サイズ)の層厚で均一に導電性フィラー7が配置され、パッド4と導電性フィラー7との距離、及びランド5と導電性フィラー7との距離が絶縁膜11,12の膜厚に規定されるため、電気的特性がより安定する。導電性フィラー7同士は、接触していてもよいし、非接触であってもよい。
【0041】
バインダ8の材質は限定されない。バインダ8は、絶縁性を有する絶縁性バインダであることが好ましい。バインダ8は、絶縁性バインダである場合、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド、アクリル、ウレタン、シリコーンなどの絶縁性の樹脂である。バインダ8は、使用周波数帯で低誘電特性のもの、すなわち低誘電率かつ低誘電正接であるものが好ましい。バインダ8は、接着性、熱硬化性を有するものを好ましく用いることができる。絶縁膜11及び絶縁膜12の少なくとも一方を備える場合は、導電性フィラー含有層6は導電性バインダであってもよい。
【0042】
充填層9は、アンダーフィルとも呼ばれ、絶縁性を有する例えば液状硬化性樹脂が硬化(固体化)して形成されたものである。
【0043】
なお、本発明における絶縁材が絶縁性を有するバインダ(絶縁性バインダ)8で構成されていてもよい。例えば、以下で説明する解析モデルを示した
図3、5、7のように、導電性フィラー7とパッド4との間や、導電性フィラー7とランド5との間にバインダ8が配されていてもよい。
【0044】
[周波数特性]
ここで、本発明の接合構造の周波数特性について説明する。周波数特性は電磁界解析で算出した。電磁界解析には、三次元電磁界解析ソフトウェア(ANSYS;HFSS Ver18.1)を用いた。
【0045】
[解析1]
図3に、接合構造の解析モデル1を示す。
図3(a)は解析モデル1の斜視図であり、
図3(b)は側面図である。解析モデル1は、パッド4とランド5との間に1つの導電性フィラー7が有る1粒子モデルである。パッド4及びランド5は、直径D=10μm、厚さT=1.0μmの円板形状である。導電性フィラー7の形状は、C
60フラーレンの外形形状である切頂二十面体でモデリングした。導電性フィラー7の直径Z=4.6μmとした。解析空間は4.0mm立方体空間とした。パッド4から導電性フィラー7までの間隔と、ランド5から導電性フィラー7までの間隔を等距離の距離Xとした。この距離Xを0.25~2.0μmまで0.25μm毎離して解析した。なお、参考として、本発明外の距離X=0μmの場合についても解析した。解析した周波数は、10GHzから300GHzまでとした。
【0046】
パッド4、ランド5及び導電性フィラー7の材質をCuとした。導電性フィラー7を分散させたバインダ8をエポキシ樹脂とした。バインダ8によってパッド4-ランド5間が満たされているものとした。各材料の物性値を表1に示す。
【表1】
【0047】
図4に、解析モデル1の解析結果を示す。
図4(a)はインピーダンス(絶対値)の周波数特性であり、
図4(b)はインピーダンス角の周波数特性である。参考として、距離X=0の場合についても解析してグラフ中に表示している。
【0048】
X=0.25~2.0μmのいずれでも、インピーダンスは周波数が高くなるに従い減少して最小値(極小値)になり、さらに周波数が高くなるに従い増加して最大値(極大値)になる傾向になった。X=0.25μmの場合、約110GHzでインピーダンスが最小値になり、約220GHzでインピーダンスが最大値になった。X=1.0μmの場合、約130GHzでインピーダンスが最小値になり、約230GHzで最大値になった。X=2.0μmの場合、約140GHzでインピーダンスが最小値になり、約240GHzで最大値になった。このように、距離Xを変えることで、接合構造の周波数特性を変えることができる。
【0049】
[解析2]
解析モデル1は、パッド4とランド5との間に1つの導電性フィラー7が有る1粒子モデルであったが、
図2に示すように、導電性フィラー7は複数個存在している。そこで、導電性フィラー7が3つの場合の解析を行った。
【0050】
図5に、導電性フィラー7が3つの場合の解析モデル2を示す。
図5(a)は解析モデル2の斜視図であり、
図5(b)は側面図である。解析モデル2は、パッド4とランド5との間に3つの導電性フィラー7が互いに非接触で存在する3粒子モデルである。パッド4、ランド5、導電性フィラー7及びバインダ8の形状、サイズ、材質等は解析モデル1と同様である。パッド4から導電性フィラー7までの間隔と、ランド5から導電性フィラー7までの間隔を等距離の距離X=1.0μmとして解析した。他の解析条件は解析モデル1と同様である。
【0051】
図6に、解析モデル2の解析結果を示す。
図6(a)はインピーダンス(絶対値)の周波数特性であり、
図6(b)はインピーダンス角の周波数特性である。解析結果は、解析モデル1の距離X=1.0μmの場合とほぼ同様であった。
【0052】
[解析3]
解析モデル2は、3つの導電性フィラー7が非接触の場合であったが、
図2に示すように、導電性フィラー7は隣同士で接触する場合もある。そこで、3つの導電性フィラー7同士が接触している場合の解析を行った。
【0053】
図7に、3つの導電性フィラー7が接触している場合の解析モデル3を示す。
図7(a)は解析モデル3の斜視図であり、
図7(b)は側面図である。解析モデル3は、パッド4とランド5との間に3つの導電性フィラー7が接触して存在する3粒子モデルである。1つの導電性フィラー7は他の2つの導電性フィラー7に接触している。パッド4、ランド5、導電性フィラー7及びバインダ8の形状、サイズ、材質等は解析モデル1と同様である。パッド4から導電性フィラー7までの間隔と、ランド5から導電性フィラー7までの間隔を等距離の距離Xとした。この距離Xを0.5~2.0μmまで0.5μm毎離して解析した。他の解析条件は解析モデル1と同様である。なお、参考として、本発明外の距離X=0μmの場合についても解析した。
【0054】
図8に、解析モデル3の解析結果を示す。
図8(a)はインピーダンス(絶対値)の周波数特性であり、
図8(b)はインピーダンス角の周波数特性である。解析結果は、解析モデル1、2の結果とほぼ同様であった。つまり、導電性フィラー7が1つ存在する場合、導電性フィラー7が非接触状態で複数個が存在する場合、及び導電性フィラー7が接触状態で複数個が存在する場合のいずれでも、ほぼ同様の周波数特性が得られることが分った。距離Xを変えることで、接合構造の周波数特性を変えることができることが分った。
【0055】
解析1~3の解析結果から、解析モデル1~3の等価回路は、いずれも200GHz程度まで直列共振回路(容量性リアクタンス)であり、さらに周波数が高い領域では並列共振回路(誘導性リアクタンス)になっていると考えられる。
【0056】
直列共振周波数frsでは、インピーダンスが最小になる。このため、本発明の接合構造1は、パッド4とランド5とが非導通接合であっても、直列共振周波数frs付近の高周波信号を通過させることができる。パッド4とランド5との間のインピーダンスは、使用する高周波信号の周波数において、例えば10Ω以下(最大でも10Ω)であることが好ましく、5Ω以下(最大でも5Ω)であることがより好ましく、さらに1Ω以下(最大でも1Ω)であることがより好ましい。
【0057】
また、直列共振周波数frs付近のインピーダンスは小さいが、直列共振周波数frsから周波数が離れるに従いインピーダンスが大きくなる。このため、本発明の接合構造1は、直列共振周波数frs付近の高周波信号を通過させる帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)として利用することができる。
【0058】
また、より高い周波数域で現れる並列共振周波数frpと考えられる付近では、インピーダンスが非常に大きくなる。このため、本発明の接合構造1は、並列共振周波数frp付近の高周波信号を除去する帯域除去フィルタ(バンドストップフィルタ)として利用することができる。距離Xが小さい方が、直列共振周波数frs及び並列共振周波数frpが低くなる。
【0059】
また、直列共振周波数frs及び並列共振周波数frpが存在するため、上記の直列共振周波数frs付近の高周波信号を通過させる帯域通過フィルタと、並列共振周波数frp付近の高周波信号を除去する帯域除去フィルタとを組み合わせたフィルタとして利用することができる。例えば携帯電話等の送受信に用いられる通信バンド毎の帯域通過フィルタは、通過帯域の減衰が少ない事が求められると同時に、隣接バンドや特定の周波数(周波数変換で発生するイメージ周波数等)に対しては帯域阻止特性を求められるため、このような用途に利用することができる。このような用途には現在SAWフィルタやBAWフィルタが利用されているが、本発明の接合構造に置き換えることができる。
【0060】
このように本発明の接合構造は、高周波素子として利用することができる。
【0061】
図9に、本発明の接合構造1の等価回路を示す。以下、電極とは、パッド4、ランド5を示す。
Z:等価回路のインピーダンス,Y:等価回路のアドミッタンス,
R:電極-導電性フィラー間に生じる等価直列抵抗,
L:電極-導電性フィラー間に生じる等価直列インダクタンス,
j:虚数,ω:は角周波数,C:電極-導電性フィラー間に生じる静電容量,
b:電極間のバインダを誘電体とする静電容量
とする。
【0062】
等価回路のインピーダンスZは、次式で表される。
【数1】
【0063】
等価回路のアドミッタンスYは、次式で表される。
【数2】
【0064】
上記(5)式より、本発明の接合構造1は、等価直列インダクタンスL及び静電容量Cが生じる周波数帯で、並列共振周波数frpになる素子として使用できる。上記(8)式より、本発明の接合構造1は、等価直列インダクタンスL及び静電容量Cが生じる周波数帯で、直列共振周波数frsになる素子として使用できる。パッド4(ランド5)と導電性フィラー7との間隔は非常に狭く、導電性フィラー7は微小であるため、並列共振周波数frp及び直列共振周波数frsは非常に高い周波数になる。そのため、例えばマイクロ波帯(3GHz~30GHz)、より好ましくはミリ波帯(30GHzから300GHz)のような高周波信号で、接合構造1を高周波用の素子として使用することができる。
【0065】
所望の周波数で所望の電気的特性(インピーダンス、並列共振周波数frp、直列共振周波数frs等)になるように、各部のサイズや形状、材質等を設定すればよい。具体的には、例えば、導電性フィラー7とパッド4との距離、導電性フィラー7とランド5との距離、導電性フィラー7の材質、サイズ及び形状、パッド4の材質及び形状、ランド5の材質及び形状、導電性フィラー7のバインダ8に対する充填率、パッド4とランド5との接合荷重、バインダ8の材質、パッド4とランド5との間隔、絶縁膜11(
図2参照)の材質や膜厚、絶縁膜12(
図2参照)の材質や膜厚などを適宜設定すればよい。導電性フィラー7とパッド4との隙間の距離と、導電性フィラー7とランド5との隙間の距離は、同じ距離に設定してもよいし、異なる距離に設定してもよい。
【0066】
(第2実施形態)
図10に、本発明を適用する別の接合構造1aを模式的に表した拡大断面図を示す。なお、以下の各形態では、既に説明した構成と同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0067】
本発明の接合構造1aは、パッド4とランド5との接合構造であり、導電性フィラー7をバインダ8に含む導電性フィラー含有層6が、対向するパッド4とランド5との間に配されている。パッド4とランド5とが導電性フィラー7の接触によって導通しないように、絶縁材としてパッド4の表面に絶縁膜11が設けられている。パッド4及びランド5には、高周波信号が流れる。
【0068】
既に説明した
図2に示す接合構造1は、パッド4の表面に絶縁膜11を有すると共に、ランド5の表面に絶縁膜12を有したものであった。一方、
図10に示す接合構造1aは、パッド4の表面にのみ絶縁膜11を有しており、ランド5は絶縁膜を有していないものである。そのため、導電性フィラー7は、パッド4と非接触であるが、ランド5と接触する。しかしながら、絶縁膜11を有するため、パッド4とランド5は非導通になる。
【0069】
[周波数特性]
[解析4]
接合構造1aの周波数特性の電磁界解析を行った。
図11に、接合構造1aの解析モデル4を示す。
図11(a)は解析モデル4の斜視図であり、
図11(b)は側面図である。解析モデル4は、パッド4とランド5との間に1つの導電性フィラー7が存在し、導電性フィラー7がランド5に接触しているモデルである。パッド4から導電性フィラー7までの間隔である距離Xを0.25~2.0μmまで0.25μm毎離して解析した。パッド4、ランド5、導電性フィラー7及びバインダ8の形状、サイズ、材質や、他の解析条件等は解析モデル1と同様である。なお、参考として、本発明外の距離X=0μmの場合についても解析した。
【0070】
図12に、解析モデル4の解析結果を示す。
図12(a)はインピーダンス(絶対値)の周波数特性であり、
図12(b)はインピーダンス角の周波数特性である。
【0071】
解析4の解析結果から、解析モデル4の等価回路は、150GHz程度まで直列共振回路(容量性リアクタンス)であり、さらに周波数が高い領域では並列共振回路(誘導性リアクタンス)になっていると考えられる。解析1~3の場合より、直列共振周波数frs及び並列共振周波数frpが低くなった。これは、パッド4及びランド5と導電性フィラー7とのトータルの間隔が、解析1~3の場合2Xであったが、解析4の場合その半分のXである。そのため、等価静電容量Cが約2倍になったためと考えられる。
【0072】
(第3実施形態)
図13に、本発明を適用する別の接合構造1bを模式的に表した拡大断面図を示す。
【0073】
本発明の接合構造1bは、パッド4とランド5との接合構造であり、導電性フィラー7をバインダ8に含む導電性フィラー含有層6bが、対向するパッド4とランド5との間に配されている。パッド4とランド5とが導電性フィラー7の接触によって導通しないように、パッド4とランド5との間に絶縁材を有している。この例では、パッド4の表面に絶縁膜11が設けられ、ランド5の表面に絶縁膜12が設けられている。絶縁膜11,12はいずれか一方だけ設けられていてもよい。
【0074】
接合構造1bは、パッド4とランド5との間に導電性フィラー含有層6bが挟まれて設けられている。導電性フィラー含有層6bは、導電性フィラー7がパッド4とランド5との間に平面状に並ぶように配置されている。この導電性フィラー含有層6bは、同図に示すように、断面(縦断面)視でパッド4(ランド5)の表面に沿う方向に複数列(3列)に並ぶように導電性フィラー7が配置されている。言い換えると、導電性フィラー7は、パッド4(ランド5)の表面に直交する方向に重なるように配置されている。
【0075】
このように、導電性フィラー7が複数列に並ぶように配列されていても、パッド4とランド5とは導通せず、高周波信号を通過させることができる。導電性フィラー含有層6bの膜厚を変えることで、接合構造の周波数特性を変えることができる。なお、導電性フィラー7が規則的に並んでおらず、無秩序に配置されていてもよい。また、導電性フィラー7の形状が揃っておらず、種々の異形状のものが配置されていてもよい。
【0076】
(第4実施形態)
図14に、本発明を適用する別の接合構造1cを模式的に表した拡大断面図を示す。
【0077】
本発明の接合構造1cは、パッド4とランド5との接合構造であり、導電性フィラー7をバインダ8に含む導電性フィラー含有層6cが、対向するパッド4とランド5との間に配されている。パッド4とランド5とが導電性フィラー7の接触によって導通しないように、パッド4とランド5との間に絶縁材を有している。
【0078】
この例では、同図下側に拡大して示すように、絶縁材は、導電性フィラー7の表面に設けられた絶縁膜13である。このように、導電性フィラー7の表面に絶縁膜13が設けられている絶縁膜付導電性フィラー71を配することでパッド4とランド5とは導通せず、高周波信号は通過する。
【0079】
絶縁膜付導電性フィラー71を使用すると、パッド4及びランド5の表面に絶縁膜を形成する必要がない。そのため、従来のチップ及び基板を使用して本発明の接合構造を構成することができる。
【0080】
[接合構造の製造方法]
次に、本発明を適用する接合構造の製造方法について説明する。
【0081】
本発明の接合構造の製造方法は、表面実装用のチップと基板とを、導電性フィラー含有ペースト6aを用いて接合して形成する接合構造の製造方法であって、
前記チップと前記基板の、少なくとも一方に、それぞれ、
パッド4の表面にパッド絶縁用の絶縁膜11(11d、33)を備えるチップと、ランド5の表面にランド絶縁用の絶縁膜12(12d、43)を備える基板とを用意し、
これら用意したチップと基板とを前記導電性フィラー含有ペースト6aを用いて接合し、前記パッド4と前記ランド5との間に、前記導電性フィラー含有ペーストによって形成された導電性フィラー含有層6を形成する工程を有することを特徴とする。
【0082】
例えば、接合構造の製造方法は、表面実装用のチップに設けられた電極であるパッド4の表面にパッド絶縁用の絶縁膜11(11d、33)を形成する工程、及び、チップの実装される基板に設けられた電極であるランド5の表面にランド絶縁用の絶縁膜12(12d、43)を形成する工程のうちの少なくとも一方の工程と、パッド4又はランド5に導電性フィラー7をバインダ8に含む導電性フィラー含有ペースト6aを配する工程と、チップと基板とを接合して、パッド4とランド5との間に、導電性フィラー含有ペースト6aによって形成された導電性フィラー含有層6を形成する工程とを有するものである。
【0083】
また、本発明を適用する別の接合構造の製造方法は、表面実装用のチップ2に設けられた電極であるパッド4の表面、及びチップ2の実装される基板3に設けられた電極であるランド5の表面の少なくとも一方に、表面に絶縁膜13を有する導電性フィラー7(絶縁膜付導電性フィラー71)がバインダ8に含まれている導電性フィラー含有ペーストを配する工程と、チップ2と基板3とを接合して、パッド4とランド5との間に、導電性フィラー含有ペーストによって形成された導電性フィラー含有層6cを形成する工程とを有するものである。
【0084】
以下、具体的に説明する。
【0085】
本発明を適用する接合構造の製造方法との違いを明確にするために、先ず、従来の接合構造の製造方法から説明する。
【0086】
[従来の接合構造の製造方法]
図15に、従来の接合構造の製造方法を模式的に示す。同図の工程a1~a3は、従来のチップ202の製造方法である。
【0087】
[工程a1]
工程a1に示す基材21は、例えばシリコンなどの半導体である。この基材21の表面にパッド4が形成されている。パッド4は、例えばアルミニウムなどの金属であり、基材21中に形成されているトランジスタ等の電気素子に接続されている。このパッド4の形成されている基材21の表面に、絶縁性の保護膜33を形成する。同図の例では、保護膜33は、例えばシリコン窒化膜である。保護膜33は、例えばシリコン窒化膜とポリイミド膜のような2層膜であってもよい。シリコン窒化膜には、高防水性、低埋込性という特徴がある。
【0088】
[工程a2]
続いて、パッド4の上部の保護膜33を例えばフォトリソグラフィ工程により除去して、パッド4部分を開口させる。
【0089】
[工程a3]
続いて、パッド4の上に、バンプ(突起電極)37を形成する。バンプ37は、例えばニッケルめっき層35、及びその表面に酸化を防止するために形成した金めっき層36で形成されている。ニッケルめっき層35は、例えば無電解ニッケルめっき法により形成する。金めっき層36は、例えば無電解金めっき法により形成する。以上で、チップ202の製造が完了する。
【0090】
同図の工程b1~b3は、従来の基板203の製造方法である。
【0091】
[工程b1]
工程b1に示す基材22は、パターン配線用の基材であり、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニヘンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂(PTFE)などの有機材、又はセラミックなどの板材である。この基材22の表面に、ランド5が形成されている。基材22が有機材の場合、ランド5は例えば銅配線であり、基材22がセラミックの場合、ランド5は例えばタングステン配線である。このランド5の形成されている基材22の表面に、絶縁性の保護膜43を形成する。基材22が有機材の場合、保護膜43は例えばエポキシ、ポリイミドなどの樹脂材であり、基材22がセラミックの場合、保護膜43は例えばガラスコート、アルミナコートなどの無機材である。
【0092】
[工程b2]
続いて、ランド5の上部の保護膜43を例えばフォトリソグラフィ工程又はスクリーン印刷工法により除去して、ランド5及びその周辺部分を開口させる。続いて、ランド5の上に、バンプ(突起電極)46を形成する。バンプ46は、例えばニッケルめっき層44、及びその表面に酸化を防止するために形成した金めっき層45である。ニッケルめっき層44は、例えば無電解ニッケルめっき法により形成する。金めっき層45は、例えば無電解金めっき法により形成する。以上で、基板203の製造が完了する。
【0093】
同図の工程c1~c2は、従来の接合工程である。
【0094】
[工程c1]
チップ202のバンプ37と、基板203のバンプ46とを接合する接合工程を行う。先ず、バンプ46上に印刷工程などで導電性ペースト206aを載せる。導電性ペースト206aは、導電性フィラー207がペースト状のバインダ208に分散しているものである。続いて、導電性ペースト206aの上からエポキシ樹脂などの液状硬化性樹脂(アンダーフィル)9aを供給(ディスペンス)する。
【0095】
[工程c2]
続いて、チップ202を上下反転(フェイスダウン)させて、バンプ37とバンプ46とを対向させ、加熱・加圧して接合する。加熱・加圧により導電性ペースト206aがバンプ37とバンプ46との間に均等な層厚で押し広がり硬化して導電性フィラー含有層206になる。また、液状硬化性樹脂9aが硬化して充填層9になる。加熱硬化処理(バッチキュア処理)をさらに行って導電性ペースト206a及び液状硬化性樹脂9aを十分に硬化させる場合もある。
【0096】
以上の工程によって、バンプ37とバンプ46とが導電性フィラー含有層206を間に挟んで接合され、接合構造201(フリップチップ接合構造体211)の製造が完了する。これにより、バンプ37とバンプ46とが共に導電性フィラー7に接触して導通するようになる。
【0097】
なお、硬化した導電性フィラー含有層206によって接合強度が十分な場合、液状硬化性樹脂9a(充填層9)を使用しない場合もある。以下の各実施形態でも同様である。また、バンプ37とバンプ46とを接合した後に、チップ202と基板203の隙間に液状硬化性樹脂9aを流し込んで加熱硬化させて充填層9を形成する場合もある。以下の各実施形態でも同様である。
【0098】
また、チップ202が1層の保護膜33を備える場合について説明したが、チップ202が複数層で形成される保護膜33を備えている場合もある。例えば基材21の表面に、シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜で構成される2層の保護膜33を有していてもよい。この場合、工程b1で、基材21の表面に先ずシリコン酸化膜を形成し、さらにその表面にシリコン窒化膜を形成する。続いて、工程b2で、ランド5の表面上の2層の保護膜33を例えばフォトリソグラフィ工程又はスクリーン印刷工法により除去して、パッド4を開口させればよい。以下の各実施形態中のチップ2d及びチップ2eも同様である。
【0099】
[本発明を適用する接合構造の製造方法の第1実施形態]
次に、本発明を適用する接合構造の製造方法について説明する。なお、第1実施形態を含む以下の各形態では、既に説明した工程については詳細な説明を省略する。
【0100】
図16に、本発明を適用する接合構造101dの製造方法を模式的に示す。同図の工程a1、a2、A3は、本発明を適用するチップ2dの製造方法である。
【0101】
[工程a1]
工程a1では、既に説明した通り、パッド4の形成されている基材21の表面に保護膜33を形成する。
【0102】
[工程a2]
続く工程a2では、既に説明した通り、パッド4の上部の保護膜33を除去して、パッド4部分を開口させる。
【0103】
[工程A3]
続いて、工程A3では、少なくともパッド4の表面に、絶縁膜11dを形成する。この例では、パッド4及び保護膜33を含む基材21の表面全体に絶縁膜11dを形成している。絶縁膜11dの材質は限定されない。絶縁膜11dは、例えば絶縁性樹脂で形成する。絶縁膜11dは、例えば、ポリイミド、PBO(Poly-Benzo Oxazole)、BCB(Benzocylobutene)、エポキシ樹脂、などの低損失絶縁樹脂で形成することが好ましい。絶縁膜11dの形成方法は限定されない。例えば、絶縁膜11dは、液状の絶縁性樹脂をパッド4(基材21)の表面に塗布して硬化させて形成してもよいし、フィルム状の絶縁樹脂をパッド4(基材21)の上に配して設けてもよい。絶縁膜11dをフォトリソグラフィ法で必要部分のみ形成してもよい。以上で、チップ2dの製造が完了する。
【0104】
このように、本発明のチップ2dは、従来のチップの製造方法の工程a1,a2を行った後に、バンプ37を形成せず、絶縁膜11dを形成することで製造できる。
【0105】
同図の工程b1、B2は、本発明を適用する基板3dの製造方法である。
【0106】
[工程b1]
工程b1では、既に説明した通り、ランド5の形成されている基材22の表面に保護膜43を形成する。
【0107】
続いて、工程B2では、ランド5の上部の保護膜43を例えばフォトリソグラフィ工程又はスクリーン印刷工法により除去して、ランド5及びその周辺部分を開口させる。続いて、ランド5の表面に、絶縁膜12dを形成する。絶縁膜12dの材質は限定されない。絶縁膜12dは、例えば絶縁性樹脂で形成する。絶縁膜12dは、例えば、エポキシ樹脂、LCP、PPS、ポリイミドなどの低損失絶縁樹脂で形成することが好ましい。絶縁膜12dの形成方法は限定されない。例えば、絶縁膜12dは、液状の絶縁性樹脂をランド5(基材22)の表面に塗布して硬化させて形成してもよいし、フィルム状の絶縁樹脂をランド5(基材22)の上に配して設けてもよい。絶縁膜12dをフォトリソグラフィ法で必要部分のみ形成してもよい。以上で、基板3dの製造が完了する。
【0108】
このように、本発明の基板3dは、従来の基板の製造方法の工程b1を行った後に、バンプ46を形成せず、絶縁膜12dを形成することで製造できる。
【0109】
[工程C1]
続いて、チップ2dのパッド4と、基板3dのランド5とを接合する接合工程を行う。先ず、ランド5の上の絶縁膜12dの上に印刷工程などで導電性フィラー含有ペースト6aを載せる。導電性フィラー含有ペースト6aは、導電性フィラー7がペースト状のバインダ8中に分散して含まれているものである。続いて、導電性フィラー含有ペースト6aの上からエポキシ樹脂などの液状硬化性樹脂9aを供給する。
【0110】
[工程C2]
続いて、チップ2dを上下反転させて、パッド4とランド5とを対向させ、加熱・加圧して接合する。加熱・加圧により導電性フィラー含有ペースト6aが均等な膜厚に押し広がり硬化して導電性フィラー含有層6になる。また、液状硬化性樹脂9aが硬化して充填層9になる。さらに、加熱硬化処理を行って硬化させる場合もある。
【0111】
以上の工程によって、導電性フィラー含有層6は、パッド4の絶縁膜11dとランド5の絶縁膜12dとが導電性フィラー含有層6を間に挟んで接合され、接合構造101d(フリップチップ接合構造体201d)の製造が完了する。
【0112】
以上のように、この接合構造の製造方法は、従来の接合構造の製造方法と比較して、パッド4及びランド5の表面にバンプ37、46を形成する代わりに、絶縁膜11d、12dを形成する方法である。
【0113】
[本発明を適用する接合構造の製造方法の第2実施形態]
次に、本発明を適用する別の接合構造の製造方法について説明する。
【0114】
図17に、本発明を適用する別の接合構造101eの製造方法を模式的に示す。同図の工程a1は、本発明を適用するチップ2eの製造方法である。
【0115】
[工程a1]
工程a1では、既に説明した通り、パッド4の形成されている基材21の表面に保護膜33を形成する。この工程だけで、チップ2eの製造が完了する。これは、保護膜33を絶縁膜33として利用する製造方法である。従来のチップの製造方法や、
図16に示した製造方法と比較して、簡便にチップ2eを製造することができる。
【0116】
同図の工程b1は、本発明を適用する基板3eの製造方法である。
【0117】
[工程b1]
工程b1では、既に説明した通り、ランド5の形成されている基材22の表面に保護膜43を形成する。この工程だけで、基板3eの製造が完了する。これは、保護膜43を絶縁膜43として利用する製造方法である。従来のチップの製造方法や、
図16に示した製造方法と比較して、簡便に基板3eを製造することができる。
【0118】
[工程C11]
続いて、チップ2eのパッド4と、基板3eのランド5とを接合する接合工程を行う。先ず、ランド5の上の保護膜43の上に印刷工程などで導電性フィラー含有ペースト6aを載せる。導電性フィラー含有ペースト6aは、導電性フィラー7がペースト状のバインダ8中に分散して含まれているものである。続いて、導電性フィラー含有ペースト6aの上からエポキシ樹脂などの液状硬化性樹脂9aを供給する。
【0119】
[工程C12]
続いて、チップ2eを上下反転させて、パッド4とランド5とを対向させ、加熱・加圧して接合する。加熱・加圧により導電性フィラー含有ペースト6aが均等な膜厚に押し広がり硬化して導電性フィラー含有層6になる。また、液状硬化性樹脂9aが硬化して充填層9になる。さらに、加熱硬化処理を行って硬化させる場合もある。
【0120】
以上の工程によって、パッド4の保護膜(絶縁膜)33と、ランド5の保護膜(絶縁膜)43とが導電性フィラー含有層6を間に挟んで接合され、接合構造101e(フリップチップ接合構造体201e)の製造が完了する。
【0121】
なお、
図16に製造方法を示したチップ2dと、
図17に製造方法を示したチップ2eとを入れ替えて、接合構造101d,101eを製造してもよい。同様に、
図16に製造方法を示した基板3dと、
図17に製造方法を示した基板3eとを入れ替えて、接合構造101d,101eを製造してもよい。
【0122】
また、
図16,17に示した接合構造101d,101eは、パッド4及びランド5の両方に絶縁膜11d、33、12d、43を有している場合であるが、パッド4及びランド5の少なくとも一方に絶縁膜を有していればよい。そのため、パッド4に絶縁膜11d(33)を有する場合、例えば
図15に示した従来の基板203(ランド5)を使用して接合構造を製造してもよい。ランド5に絶縁膜を有する場合、例えば
図15に示した従来のチップ202(パッド4)を使用して接合構造を製造してもよい。
【0123】
[本発明を適用する接合構造の製造方法の第3実施形態]
図15に、従来の接合構造の製造方法を示したが、次に説明する本発明の導電性フィラー含有ペーストを使用することで、本発明を適用する接合構造の製造方法とすることができる。
【0124】
本発明を適用する導電性フィラー含有ペーストは、導電性フィラー7をバインダ8に含み、その導電性フィラー7の表面に絶縁膜13が設けられたものである。導電性フィラー7の表面に絶縁膜13が設けられたものが、
図14に示す絶縁膜付導電性フィラー71である。この絶縁膜付導電性フィラー71を含むペーストを絶縁膜付導電性フィラー含有ペーストということもできる。絶縁膜付導電性フィラー含有ペーストを用いることで、導電性フィラー7の表面に絶縁膜13を有するため、対向するパッド4とランド5との間に配されていても、パッド4とランド5とが非導通になる。既に説明した
図14に示す導電性フィラー含有層6cが、この絶縁膜付導電性フィラー含有ペーストで形成されたものである。
【0125】
導電性フィラー7は、既に説明したものと同様のものである。絶縁膜13の材質は限定されない。絶縁膜13は、例えば、シリカなど無機材料の薄膜や、ポリイミドなど有機材料の薄膜である。例えば、絶縁膜13は、導電性フィラー7の表面に、Stober(ストーバー)法によってシリカを成膜して形成できる。
【符号の説明】
【0126】
1・1a・1b・1c・1dは接合構造、2・2d・2e・2dはチップ、3・3d・3e・3dは基板、4はパッド、5はランド、6・6b・6cは導電性フィラー含有層、6aは導電性フィラー含有ペースト、7は導電性フィラー、8はバインダ、9は充填層、9aは液状硬化性樹脂(アンダーフィル)、11・11d・11dは絶縁膜、12・12dは絶縁膜、13は絶縁膜、21は基材、22は基材、33は保護膜(絶縁膜)、35はニッケルめっき層、36は金めっき層、37はバンプ(突起電極)、43は保護膜(絶縁膜)、44はニッケルめっき層、45は金めっき層、46はバンプ(突起電極)、71は絶縁膜付導電性フィラー、101d・101eは接合構造、201・201d・201eはフリップチップ接合構造体、202はチップ、203は基板、206は導電性フィラー含有層、206aは導電性ペースト、207は導電性フィラー、208はバインダ、bは静電容量、frpは並列共振周波数、frsは直列共振周波数、Rは等価直列抵抗、Lは等価直列インダクタンス、Cは静電容量である。