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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】線維症治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/44 20060101AFI20231220BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P37/02
A61P1/04
A61P43/00 105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020568610
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003522
(87)【国際公開番号】W WO2020158890
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019015226
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502019933
【氏名又は名称】リンク・ジェノミクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518063193
【氏名又は名称】サイエンスファーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】倉原 琳
(72)【発明者】
【氏名】尹 浩信
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅巳
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】LUONG, Vu Huy et al.,Blockade of TGF-β/Smad signaling by the small compound HPH-15 ameliorates experimental skin fibrosi,Arthritis Research & Therapy,2018年,Vol.20:46,pp.1-13,doi.org/10.1186/s13075-018-1534-y
【文献】RIEDER, Florian and FIOCCHI, Claudio,Intestinal fibrosis in inflammatory bowel disease Current knowledge and future perspectives,Journal of Crohn's and Colitis,2008年,Vol.2,pp.279-290
【文献】HOSONO, Tetsuji et al.,Antiviral activities against herpes simplex virus type 1 by HPH derivatives and their structure acti,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2008年,Vol.18,pp.371-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される化合物:
【化5】
またはその塩および薬学的に許容可能な担体を含む、炎症性腸疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
炎症性腸疾患が、クローン病又は潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
式1で表される化合物:
【化6】
またはその塩を薬学的に許容可能な担体と共に混合して医薬へと製剤化する工程を含む、炎症性腸疾患を治療するための医薬の製造方法。
【請求項4】
炎症性腸疾患が、クローン病又は潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項3に記載の医薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線維症の治療薬に関する。特に炎症性腸疾患と全身性強皮症に関する。
【背景技術】
【0002】
「線維化」は、組織中の結合組織が異常増殖する現象であり、線維芽細胞が産生するコラーゲンをはじめとする細胞外マトリクスが過剰沈着することによって起こり、肝硬変、強皮症、ケロイドなどの疾患において観察され、その分子機構についてはTGF-βを中心とする細胞内シグナルの異常などが明らかになっている(非特許文献1)。
【0003】
「線維症」は、肺、肝臓等、生命活動に重要な臓器が一旦ダメージを受け、修復の過程で誤ってI型コラーゲンなどの膠原繊維が集積した場合に、臓器が弾性を失って硬化し正常な役割が出来なくなる疾患であり、肺、心臓、肝臓、腎臓、皮膚等々、重要な臓器で起こりうる疾患である(非特許文献2)。
【0004】
線維芽細胞が産生するコラーゲンなどの細胞外マトリクスが異常沈着を起こす線維症には肺線維症、肝線維化、腎線維化、消化器線維症、皮膚線維化など、各種臓器の線維症が知られている。TGF-β-Smadシグナルによるコラーゲンの蓄積が亢進していることが、線維症に共通である。
【0005】
クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は、大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍が起こる疾患群である。炎症性サイトカインTNF-αの過剰産生が腸管炎症の主たる機序とされ、腸管粘膜上皮下の間質に存在する線維芽細胞が形質変化を起こして筋線維芽細胞となり、転写因子NF-κBの活性化を介したCOX-2の発現誘導によりPGE2を産生する。抗TNF-α抗体による治療が好成績をあげている。一方、炎症性腸疾患ではTGF-β-Smadシグナルを介したコラーゲン遺伝子の発現亢進による線維化による腸狭窄が大きな問題となっており、これには現在のところ薬物療法がなく、外科切除か内視鏡的バルーン拡張術が主たる治療法である(非特許文献3、非特許文献4、および非特許文献5)。
【0006】
全身性強皮症(Systemic sclerosis:SSc)は、皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化という。)を特徴とし、慢性に経過する疾患である。しかし、硬化の程度、進行などについては患者によって様々である点に注意が必要である。この観点から、全身性強皮症を大きく2つに分ける分類が国際的に広く用いられている。つまり、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と、比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」に分けられている。前者は発症より5~6年以内は進行することが多いが、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいは緩徐である。なお、「限局性強皮症」は皮膚のみに硬化が起こる全く別の病気であり、前述の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」とは全く異なるものである。全身性強皮症の病因は複雑であり、その病態は十分には解明されていない。しかし、これまでの研究により(1)免疫異常、(2)線維化、(3)血管障害、これら3つの異常と深い関連性を有することが明らかとなった。しかし、その相互関係や病因については不明のままである(非特許文献6および非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】実験医学オンライン(<https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/2007.html>)
【文献】線維症 - 大阪大学免疫学フロンティア研究センター<http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/research/upload_img/commentary20161222_j.pdf>)
【文献】内藤裕二、内山和彦、高木智久、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease: IBD)に対する分子標的治療、京府医大誌、123 (4), 233~245, 2014.
【文献】倉原琳、科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書、筋線維芽細胞を標的とした腸管狭窄薬物治療法の開発、若手研究(B)課題番号22790677
【文献】Lin Hai, Yasuhiro Kawarabayashi, Yuko Imai, Akira Honda, and Ryuji Inoue, Counteracting effect of TRPC1-associated Ca2+influx on TNF-α-induced COX-2-dependent prostaglandin E2 production in human colonic Myofibroblasts, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 301: G356-G367, 2011.
【文献】難病情報センター全身性強皮症(指定難病51)(<http://www.nanbyou.or.jp/entry/4027>)
【文献】Hironobu Ihn, Autocrine TGF-β signaling in the pathogenesis of systemic sclerosis, Journal of Dermatological Science (2008) 49, 103-113.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、細胞の線維化を原因とする疾患の治療に有効な医薬が求められている。
【0009】
上記の線維症等の予防や治療において、TGF-β-Smadシグナルを介したコラーゲン産生の抑制は、有力な戦略となりうる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ピリジンの2,6位に2つの側鎖を有する基本骨格をもつ各種化合物を合成し、TGF-β-Smadシグナルを介したコラーゲン産生を抑える活性を持つ化合物として、以下に詳述する式(1)で表される化合物(本明細書中、「HPH-15」ともいう。)を見出した。
【0011】
したがって、本発明は、以下を含む。
[1]式1で表される化合物:
【化1】
またはその塩および薬学的に許容可能な担体を含む、コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患を治療するための医薬組成物であって、上記疾患が、線維症、炎症性腸疾患、または全身性強皮症からなる群から選択される、医薬組成物。
[2]式1で表される化合物:
【化2】
またはその塩を薬学的に許容可能な担体と共に混合して医薬へと製剤化する工程を含む、コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患を治療するための医薬の製造方法であって、上記疾患が、線維症、炎症性腸疾患、および全身性強皮症からなる群から選択される、製造方法。
[3]コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患を治療するための医薬の製造における式1で表される化合物:
【化3】
またはその塩の使用であって、上記疾患が、線維症、炎症性腸疾患、および全身性強皮症からなる群から選択される、使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、コラーゲンの産生による細胞の線維化を抑える活性を有する。
【0013】
本発明の医薬組成物は、コラーゲン遺伝子の発現亢進またはコラーゲン産生の亢進による細胞の線維化により特徴付けられる疾患の症状を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】InMyoFib細胞をTGF-β1で刺激して上昇するSmadリン酸化のHPH-15による変化を示す図である。
図2】InMyoFib細胞をTGF-β1で刺激して上昇するcollagen I量のHPH-15による変化を示す図である。
図3】ヒト皮膚線維芽細胞株をTGF-β1で刺激して上昇するcollagen I量のHPH-15による変化を示す図である。
図4】ブレオマイシン(BLM)誘導強皮症モデルマウスにおいて、HPH-15による用量依存性の皮膚硬化抑制効果を検証した結果を示す図である。a:コントロール、ブレオマイシン単独群、HPH-15の各用量群(50、100、200、300mg/kg/day)ごとに、試験開始前と、組織回収時(6週間後)におけるマウス体重を測定・比較した結果を示す。b:メスと尖刀により回収したマウス皮膚組織をHE染色した各群の代表的な染色像を示す。c:各群についてHE染色像を用いて皮膚真皮境界部と皮下脂肪組織間の距離を測定し、比較した結果を示すグラフである。d:各群についての皮膚組織におけるコラーゲン量の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.用語の定義
本明細書中で使用される用語「コラーゲン」は、特に断らない限り、コラーゲンタンパク質を意味して用いられ、「コラーゲン遺伝子」は、コラーゲンタンパク質をコードする遺伝子を意味して用いられる。コラーゲンは、主に脊椎動物の真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつであり、多細胞動物の細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分である(Wikipedia)。
【0016】
本明細書中、「コラーゲンの過剰蓄積」、「コラーゲン蓄積の亢進」、「コラーゲンの過剰沈着」、「コラーゲンの異常沈着」、「コラーゲン産生の亢進」などの用語は、同義語として使用される。また、本明細書中、コラーゲン遺伝子について「コラーゲン遺伝子の発現亢進」などの表現が、「コラーゲン産生の亢進」と同様の現象を意味するものとして用いられる。
【0017】
本明細書中、「線維症」、「炎症性腸疾患」、「(全身性)強皮症」などの用語は、当該分野で通常使用される意味で用いられる。
【0018】
本明細書中で使用される用語「塩」は、当該分野で一般に使用される意味で使用される。「塩」は、広義には酸由来の陰イオン(アニオン)と塩基由来の陽イオン(カチオン)とがイオン結合した化合物のことであり、狭義にはアレニウス酸とアレニウス塩基との等当量混合物のことである。「塩」は、塩は酸と塩基の中和反応の他、酸と塩基性酸化物または金属の単体との反応、塩基と酸性酸化物または非金属の単体との反応、酸性酸化物と塩基性酸化物との反応、そして非金属の単体と金属との反応によって生成することができる(Wikipedia)。
【0019】
本発明の化合物が塩基と形成する塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどの無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩などが含まれるがこれらに限定されない。また、当該塩は、酸付加塩であってもよく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;およびギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などの有機酸との酸付加塩が含まれるが、これらに限定されない。これらの塩は、薬理学的に許容可能な慣用的なものであり得る。
【0020】
本発明に係る化合物の塩の製造法は、有機合成化学分野で通常用いられる方法を適宜組み合わせて行うことができる。具体的には、本発明に係る化合物の遊離型の溶液をアルカリ溶液あるいは酸性溶液で中和滴定すること等が挙げられる。
【0021】
2.式(1)で表される化合物を含有する医薬組成物
本発明は、式:
【化4】
で表される化合物またはその塩および薬学的に許容可能な担体を含有する、コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患を治療するための医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明の式(1)で表される化合物は、コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患の治療のための医薬として使用することができる。被験対象は、ヒトまたは動物(例えば、ヒトを除く哺乳動物)であり得る。
【0023】
本発明の化合物は、そのまま、または薬学的に許容可能な担体などとともに医薬として製剤化されて、各種疾患の治療のためにヒトまたは動物に投与され得る。
【0024】
また、本発明の化合物は、コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患によって特徴付けられる各種疾患の治療のための医薬の製造のために使用され得る。
【0025】
本発明の化合物またはそれを含む医薬組成物は、医療用(例えば、治療または予防用)キットの構成要素の一つとして当該キットに含まれて提供され得る。当該キットには、当該化合物または医薬組成物の他に、適用方法、適用量などを説明した使用説明書を含み得る。
【0026】
上記「コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞または組織の線維化によって特徴付けられる疾患」の代表的な例としては、肺線維症、肝線維化、腎線維化、消化器線維症、皮膚線維化などを含む各種臓器の線維症、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、ならびに全身性強皮症などが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書中、用語「薬学的に許容可能な」または「薬理学的に許容可能な」は、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題あるいは合併症がなく、妥当な利点/危険の比と相応しており、人間および動物の組織と接触して使用するために適切であるという正しい医学的判断の範囲内にあるそのような化合物、材料、組成物、および/または剤形を言い表すために使用される。
【0028】
本明細書で使用される「薬(理)学的に許容可能な担体」としては、当業者に知られている任意の、溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存料、薬剤、薬物安定剤、ゲル、結合剤、添加剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、香味料、染料、および/またはそれらの材料および組合せが含まれる。
【0029】
本明細書で使用される「治療」または「治療する」は、(i) 病的状態が起こることを防ぐこと(例えば、予防)、(ii) 病的状態を阻止することまたはその発達を阻むこと、(iii) 病的状態を軽減、寛解、もしくは完治すること、および/または病的状態と関連する症状が軽減、寛解、もしくは完治することを含む。
【0030】
本発明の化合物は、そのまま、またはその薬理学的に許容可能な塩として使用することができる。薬理学的に許容可能な塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が含まれる。
【0031】
本発明の化合物またはその薬理学的に許容可能な塩を医薬組成物として投与する場合、例えば、当該化合物またはその薬学的に許容可能な塩である有効成分を単独、または慣用の賦形剤と共に製剤して、カプセル剤、錠剤、注射剤等の適宜な剤形として、経口的または非経口的投与に使用し得る。例えば、カプセル剤は、本発明の化合物またはその塩を乳糖、澱粉またはその誘導体、セルロース誘導体等の賦形剤と混合してゼラチンカプセルに充填し調製することができる。
【0032】
また、錠剤は、上記賦形剤の他に、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、アラビアゴム等の結合剤と水を加えて練合し、必要により顆粒とした後、さらにタルク、ステアリン酸等の滑沢剤を添加して、通常の圧縮打錠機を用いて錠剤に調製することができる。
【0033】
さらに、注射による非経口投与に際しては、本発明の化合物またはその塩を溶解補助剤と共に滅菌蒸留水または滅菌生理食塩水に溶解し、アンプルに封入して注射用製剤とする。必要により安定化剤、緩衝物質等を含有させてもよい。これらの非経口投与製剤は、静脈内投与、あるいは点滴静注により投与することができる。
【0034】
本発明の化合物の投与量は、種々の要因、例えば治療すべき患者の症状、重症度、年齢、合併症の有無等によって変化する。また、投与経路、剤形、投与回数等によっても異なるものであるが、一般的には、経口投与の場合は、有効成分として、通常、0.1~1000mg/日/ヒト、好ましくは1~500mg/日/ヒトの範囲内、また、非経口投与の場合は、経口投与の場合における投与量の約1/100~1/2量程度の範囲内で適宜選別し、投与することができる。
【0035】
本発明は、以下の実施例によってより詳細に記載される。これらの実施例は、例示であって、本発明の範囲をいかなる様式においても限定するものではない。
【0036】
以下の実施例に具体的に記載される本発明の化合物の合成方法は、その全体が参考として本明細書中で援用されるHosono et al., Bioorganic Medicinal Chemistry Letters, vol 18, page 371-374, 2008に記載される方法に従うものである。
【実施例
【0037】
[実施例1]HPH-15がヒト結腸筋線維芽細胞株InMyoFibに及ぼす影響の免疫ブロットによる検討
【0038】
炎症性腸疾患を再現するInMyoFibヒト結腸筋線維芽細胞株を用いた。培養条件としては、培地SmBM with 5% fetal bovine serum (FBS), antibiotics and growth factors (insulin, hFGF-B, hEGF, FBS and gentamicin/ amphotericin-B). 10~17代継代数の細胞を使用した。TGF-β1 (5ng/ml)及びHPH-15で細胞を24時間刺激して(血清FBS濃度1%)、線維化に関わるコラーゲン、リン酸化Smadについて免疫ブロットで観察した。
【0039】
[結果]
【0040】
図1に示すように、InMyoFib細胞をTGF-β1で刺激して上昇するリン酸化Smad(P-Smad)の量がHPH-15処理により、用量依存的に低下した。
【0041】
図2に示すように、InMyoFib細胞をTGF-β1で刺激して上昇するcollagen Iの量がHPH-15処理により、用量依存的に低下した。
【0042】
図1図2から、InMyoFib細胞ではHPH-15によりTGF-β-Smadシグナルを介したコラーゲンの産生が抑制されることが示された。
【0043】
[実施例2]HPH-15がヒト皮膚線維芽細胞株に及ぼす影響の免疫ブロットによる検討
【0044】
ヒト皮膚線維芽細胞をTGF-β 2ng/mLと24時間インキュベートして強皮症の状態とし、HPH-15 5μMまたは10μMを加え48時間インキュベートする。コラーゲンについて免疫ブロットで観察した。
【0045】
[結果]
【0046】
図3に示すようにHPH-15 5μMまたは10μMによりコラーゲンの発現が抑制された。
【0047】
[実施例3]HPH-15を用いた炎症性腸疾患モデルマウスの実験
【0048】
炎症性腸疾患モデルマウスを用いてHPH-15の炎症性腸疾患に対する治療効果を検証した。
【0049】
[実施例4]HPH-15を用いた強皮症モデルマウスの実験
【0050】
強皮症モデルマウスを用いてHPH-15の強皮症に対する治療効果を検証した。
【0051】
具体的には、HPH-15の用量依存性の効果を検討するために、ブレオマイシン(BLM)誘導強皮症モデルマウスにおいて、HPH-15 50, 100, 200, 300mg/kg/dayの各用量における皮膚硬化の抑制効果について検討した。本検討におけるブレオマイシン(BLM)誘導強皮症モデルマウスでは、2週間のブレオマイシン投与の後に、4週間のHPH-15の経口投与(オリブ油に溶解)を併用する治療モデルを使用した。
【0052】
皮膚回収時(試験開始6週間後)において、HPH-15の各用量で試験開始前と比較して体重に有意な減少はみられず、マウスの全身状態は良好に保たれていた(図4a)。回収したマウス皮膚組織からHE染色を行い、皮膚の厚さを比較した結果、ブレオマイシン(Bleomycin)により増加した皮膚厚は、HPH-15 50mg/kg/day以上の用量で有意に減少していた (図4b、c)。また、皮膚組織からコラーゲン測定を行った結果、ブレオマイシンにより増加した皮膚のコラーゲン量は、HPH-15 100mg/kg/day以上の用量で有意に減少していた(図4d)。
【0053】
<実験プロトコール>
ブレオマイシン(BLM)誘導強皮症モデルマウスの治療プロトコールにおける、HPH-15の用量依存性の効果について検討した。生後8-10 週のメスのC57BL/6 マウスに、ブレオマイシン 150μl(生理食塩水に1 mg/mlで溶解)またはコントロール(Control)として生理食塩水150μl を剃毛した背部に1日1回6週間、隔日で皮下注射した。ブレオマイシン注射開始2週間後より、オリブ油に溶解したHPH-15を、50, 100, 200, 300mg/kg/dayの各用量で1日1回連日経口投与(オリブ油の投与量は200μl/day)することを併用した。
【0054】
a 各群ごとに、試験開始前と、組織回収時(6週間後)におけるマウス体重を測定し比較を行った。統計には、student-t検定を用いた。各群4匹のマウスを使用している。コントロール群で回収時の体重増加を認めた。ブレオマイシン単独群、HPH-15の各用量群では、体重に変化は認めなかった(図4a)。
【0055】
b HE染色用のマウス皮膚組織はメスと尖刀にて回収した。皮膚組織は4%パラホルムアルデヒド固定を行い、パラフィンブロックからHE染色スライドを作成した。各群の代表的な染色像を示した(図4b)。
【0056】
c 皮膚厚(Dermal Thickness)は、HE染色を用いて表皮真皮境界部と皮下脂肪織間の距離を測定した。統計には、Tukey-Kramer法によるパラメトリック多重比較検定を行った。各群4匹のマウスを使用した。ブレオマイシンにより増加した皮膚厚は、HPH-15 50mg/kg/day以上の用量で有意に減少した(図4c)。
【0057】
d 皮膚組織におけるコラーゲン量を比較するため、マウス背部皮膚のブレオマイシン注射箇所を中心とし、4mmデルマパンチを用いて皮膚を回収した。コラーゲン量の測定にはSircol soluble collagen assay kit(# S1000、Funakoshi)を用いた。各群4匹のマウスを用いて、皮膚組織中のコラーゲン量(μg)をグラフで示した。統計にはTukey-Kramer法を用いた。ブレオマイシン投与により、皮膚組織のコラーゲン量はコントロール群より増加している。ブレオマイシン単独投与群と比較して、HPH-15 100mg/kg/day以上の用量では、皮膚のコラーゲン量が有意に減少していた(図4d)。
【0058】
以上、実施例により本発明を具体的に説明したが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではなく、本願明細書および図面の教示および本出願時における当該分野の技術常識に基づき、添付の特許請求の範囲に記載される発明およびその等価物の技術的範囲内で種々のバリエーションが可能であり、それらバリエーションも、本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の化合物は、コラーゲンの産生による細胞の線維化により特徴付けられる各種疾患を治療するための医薬組成物もしくはキット、またはそれらを用いた当該疾患を治療する方法において使用し得る。本発明の化合物またはその塩は、細胞の形質転換を抑制する薬剤として有用である。
図1
図2
図3
図4