(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】層状物体厚さ測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 15/02 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G01B15/02 C
(21)【出願番号】P 2020087478
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】519441523
【氏名又は名称】7Gaa株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】黒川 悟
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 良和
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-196446(JP,A)
【文献】特開2006-250634(JP,A)
【文献】特開2017-053731(JP,A)
【文献】特開2018-077192(JP,A)
【文献】特開2017-025387(JP,A)
【文献】米国特許第07339382(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00-15/08
21/00-21/32
G01N 22/00-22/04
24/00-24/14
G01R 33/28-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する導電性物体上に層状に設置されたマイクロ波を少なくとも一部透過する層状物体の厚さを測定する方法であって、
電気信号を入力してマイクロ波を出力し、入力されるマイクロ波を受信して電気信号を出力する送受信アンテナと、マイクロ波の電気信号を発生して前記送受信アンテナに供給し、前記送受信アンテナにより受信されたマイクロ波の電気信号が入力される送受信回路と、を有するマイクロ波送受信装置と、
前記マイクロ波送受信装置を制御する制御装置と、を備え、
前記層状物体の表面にほぼ垂直に周波数を掃引しながらマイクロ波を入射して、前記層状物体から反射されるマイクロ波の強度が極小、又は極大となる周波数を検出し、
前記の検出した周波数に基づいて前記層状物体の厚さを算出
し、
前記層状物体の表面に位置制御用のマイクロ波を照射してその反射波を検出する位置制御手段を有し、該位置制御手段により前記送受信アンテナと前記層状物体との間の距離、又は該距離の変化を検出し、前記距離をほぼ一定に保つように制御し、
前記位置制御手段は、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波の前記層状物体の表面への入射角度、又は該入射角度の変化を検出し、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波が前記層状物体の表面にほぼ垂直に入射するように制御することを特徴とする層状物体厚さ測定方法。
【請求項2】
導電性を有する導電性物体上に層状に設置されたマイクロ波を少なくとも一部透過する層状物体の厚さを測定する方法であって、
電気信号を入力してマイクロ波を出力し、入力されるマイクロ波を受信して電気信号を出力する送受信アンテナと、マイクロ波の電気信号を発生して前記送受信アンテナに供給し、前記送受信アンテナにより受信されたマイクロ波の電気信号が入力される送受信回路と、を有するマイクロ波送受信装置と、
前記マイクロ波送受信装置を制御する制御装置と、を備え、
前記層状物体の表面にほぼ垂直に周波数を掃引しながらマイクロ波を入射して、前記層状物体から反射されるマイクロ波の強度が極小、又は極大となる周波数を検出し、
前記の検出した周波数に基づいて前記層状物体の厚さを算出
し、
前記層状物体の表面に位置制御用のマイクロ波を照射してその反射波を検出する位置制御手段を有し、該位置制御手段により前記送受信アンテナと前記層状物体との間の距離、又は該距離の変化を検出し、前記距離をほぼ一定に保つように制御し、
前記位置制御手段は、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波を前記位置制御用のマイクロ波として使用し、前記送受信アンテナから得られる受信信号を使用して、前記の距離、又は該距離の変化の検出を行うことを特徴とする層状物体厚さ測定方法。
【請求項3】
前記位置制御手段は、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波を前記位置制御用のマイクロ波として使用し、前記送受信アンテナから得られる受信信号を使用して、前記の距離、又は該距離の変化の検出、又は前記のマイクロ波の入射角度、又は該入射角度の変化の検出を行うことを特徴とする
請求項1に記載の層状物体厚さ測定方法。
【請求項4】
前記送受信アンテナ及び前記送受信回路は、それぞれO/E変換器とE/O変換器とを備え、前記送受信アンテナと前記送受信回路との間は光ファイバで接続され、
前記送受信回路より出力されて前記送受信アンテナに供給されるマイクロ波の電気信号及び前記送受信アンテナにより受信されて前記送受信回路に入力されるマイクロ波の電気信号は、それぞれ光信号に変換されて上記光ファイバにより伝達されることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の層状物体厚さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する導電性物体上に層状に設置された層状物体の厚さを測定する方法に関し、特にマイクロ波を用いた層状物体厚さ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板等の導電性を有する導電性物体上に層状に誘電体等からなる層状物体を設置する工程は様々な目的で行われている。例えば、車や船舶、鉄橋や道路の付帯設備、その他の構造体の腐食を防ぐ目的で行われる金属表面への塗膜の設置、金属からなる工業製品の輸送時や加工時の傷や汚れ防止のための金属表面への保護膜の設置、工業製品や家電製品の振動を吸収するための防振用の膜体の設置、等である。
【0003】
このような層状物体は、一般的に、その設置目的に適したある特定の範囲内の厚さで設置することが要求されており、そのため、厚さを正確に測定することが必要とされる。従来、このような様々な層状物体の厚さの測定は、磁気式、電磁式、渦電流式、超音波式、光学式等の方式を用いた測定器により測定されている。特許文献1には従来の電磁式膜厚計の一例が、特許文献2には超音波式膜厚計の一例が、特許文献3には光学式膜厚計の一例が、それぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-300412号公報
【文献】特開平9-42950号公報
【文献】特開平6-300529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
層状物体の膜厚測定においては、例えば、膜厚を制御しながら大面積の塗装を実施する場合等には、膜厚測定を高速に行い、塗布工程にフィードバック制御する必要が生ずる。また、設定膜厚が異なる表面を有する領域について連続して測定する際には、容易に異なる膜厚に対する設定変更の操作が行えることが望ましい。しかし、従来のいずれの方式の膜厚測定においても、上記のような目的に適合できるような膜厚の測定速度や測定膜厚の変化等への対応性については十分な性能は得られていない。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、十分な測定速度が得られ、測定膜厚の変化等に対して柔軟に対応可能な層状物体厚さ測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の観点では、本発明による層状物体厚さ測定方法は、導電性を有する導電性物体上に層状に設置されたマイクロ波を少なくとも一部透過する層状物体の厚さを測定する方法であって、電気信号を入力してマイクロ波を出力し、入力されるマイクロ波を受信して電気信号を出力する送受信アンテナと、マイクロ波の電気信号を発生して前記送受信アンテナに供給し、前記送受信アンテナにより受信されたマイクロ波の電気信号が入力される送受信回路と、を有するマイクロ波送受信装置を備え、前記層状物体の表面にほぼ垂直に周波数を掃引しながらマイクロ波を入射して、前記層状物体から反射されるマイクロ波の強度が極小、又は極大となる周波数を検出し、前記の検出した周波数に基づいて前記層状物体の厚さを算出することを特徴とする。
【0008】
本発明の層状物体厚さ測定方法において、層状物体とは、膜状の物体のみでなく膜状の物体よりも厚い層状の物体を含み、表面と裏面とがほぼ平行な一定の厚さの物体である。また、本発明における層状物体は、マイクロ波を少なくとも一部透過するので、層状物体から反射されるマイクロ波は、その表面からの反射波と、その裏面と導電性物体との境界からの反射波を含んでいる。本発明においては、裏面は反射率の大きな導電性物体と接しているので、層状物体におけるマイクロ波の吸収があっても裏面からは大きな反射波が得られる。周波数を掃引しながらマイクロ波を入射することにより、表面からの反射波と裏面からの反射波が干渉し、特定の周波数において、反射されるマイクロ波の強度が極小、又は極大となる。
【0009】
具体的には、層状物体の厚さが層状物体中に入射されたマイクロ波の波長の1/4の奇数倍となるときには、層状物体中を往復したマイクロ波と層状物体の表面で反射するマイクロ波は互いに逆相となり、打ち消し合うので反射されるマイクロ波の強度が極小となる。一方、層状物体の厚さが上記マイクロ波の波長の1/4の偶数倍となるときには、層状物体中を往復したマイクロ波と層状物体の表面で反射するマイクロ波は同相となり、強め合うので反射されるマイクロ波の強度が極大となる。例えば、層状物体の厚さがマイクロ波の波長の1/4であるとき、層状物体中のマイクロ波は、表面と裏面との間を往復する間にπの位相変化を生じ、さらに裏面の導電性物体の表面での反射によりπの位相変化を生じるので、層状物体の表面に戻るときの位相変化量は合計2πとなる。一方、層状物体の表面で反射するマイクロ波はπの位相変化を生ずる。この結果、層状物体中を往復したマイクロ波と層状物体の表面で反射するマイクロ波の間にはπの位相差が生じ、互いに逆相となる。
本発明においては、層状物体の誘電率を予め把握しておくことにより各周波数における層状物体中のマイクロ波の波長を把握することができる。極小、又は極大となる周波数を検出し、その周波数に基づいて層状物体の厚さを算出することが可能となる。測定膜厚が変化した場合にもマイクロ波の周波数を変えるという簡単な手段により対応可能である。なお、本発明において、上記のマイクロ波はいわゆるミリ波帯の周波数領域を含んでいてもよい。送受信回路は、マイクロ波発信回路、周波数掃引回路、マイクロ波検出回路等を有している。
【0010】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記マイクロ波が入射される前記層状物体上に所定の厚さの誘電体を設置して該誘電体の表面から前記マイクロ波を照射し、前記誘電体の厚さは、前記層状物体から反射されるマイクロ波の強度が、前記マイクロ波の掃引周波数の範囲内において極小、又は極大となるように設定されることを特徴とする。
【0011】
本観点の発明は、使用可能な最大のマイクロ波周波数においても、測定可能な厚さ、すなわち、マイクロ波の波長の1/4よりも層状物体の厚さが小さい場合、予めその誘電率と厚さが判明している誘電体を測定対象の層状物体上に設置することにより、層状物体の厚さを測定可能とするものである。すなわち、誘電体と層状物体の厚さの合計が誘電体及び層状物体中に入射されたマイクロ波の波長のほぼ1/4となるとき、誘電体の表面と導電性物体の表面との間を往復したマイクロ波と誘電体の表面で反射するマイクロ波は互いに逆相となり、打ち消し合うので反射されるマイクロ波の強度が極小となる。層状物体上に設置する誘電体の誘電率は層状物体に近く、誘電体と層状物体の境界における反射波が小さいことが望ましいが、その境界からの反射波があっても、測定された周波数特性に基づく計算により層状物体の厚さを求めることができる。
【0012】
第3の観点では、本発明は、前記第1又は第2の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記マイクロ波は、前記層状物体又は前記誘電体の表面に近接して配置された導波管の開口又はホーンアンテナの開口から放射されることを特徴とする。本観点の発明においては、マイクロ波を放射し、かつ、反射波が入力される導波管の開口又はホーンアンテナの開口を常に層状物体又は誘電体の表面に近接して配置することにより、層状物体又は誘電体との間の距離をほぼ0に、又は小さい一定の値に保ち、かつ、層状物体へのマイクロ波の入射角度及び反射波の導波管の開口又はホーンアンテナの開口への入射角度を一定に保つことが容易となる。これにより、測定精度の向上が図れる。導波管又はホーンアンテナを移動させながら層状物体の厚さ分布を測定する場合等には非常に有効である。
【0013】
第4の観点では、本発明は、前記第2の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記マイクロ波は、前記層状物体の表面に近接して配置された導波管の開口又はホーンアンテナの開口から放射され、前記誘電体は前記導波管又は前記ホーンアンテナの開口の内側に設置されることを特徴とする。前記の第2の観点の発明のように誘電体を測定対象の層状物体上に設置して測定する場合、大きな領域を測定するためには、誘電体を測定の度に測定個所に移動するか、又はその領域全体に同じ厚さの誘電体シート等を貼り付けておく必要がある。しかし、本観点の発明では、その誘電体をアンテナに一体として設置することにより、同じ誘電体を用いて容易に異なる個所の測定を行うことができる。
【0014】
第5の観点では、本発明は、前記第1乃至第4の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記送受信アンテナ及び前記送受信回路は、それぞれO/E変換器とE/O変換器とを備え、前記送受信アンテナと前記送受信回路との間は光ファイバで接続され、前記送受信回路より出力されて前記送受信アンテナに供給されるマイクロ波の電気信号及び前記送受信アンテナにより受信されて前記送受信回路に入力されるマイクロ波の電気信号は、それぞれ光信号に変換されて上記光ファイバにより伝達されることを特徴とする。
【0015】
本観点の発明では、送受信アンテナと送受信回路とを分離して配置し、光ファイバによりそれらの間を接続することにより、誘電体膜の複数の測定個所や広い面積を走査して測定する場合、一般的に電源が必要な送受信回路を移動させることなく、送受信アンテナのみを移動させて測定することが可能となる。光ファイバは軽量であり、かつ、マイクロ波信号を小さな損失で送信することができる。また、送受信アンテナにおいて、O/E変換により、測定に必要なマイクロ波の電力が得られることも発明者らにより確認されている。
【0016】
第6の観点では、本発明は、前記第1乃至第5の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記マイクロ波送受信装置を制御する制御装置を備えることを特徴とする。本観点の発明において、制御装置は、放射されるマイクロ波の周波数、強度等を決定してマイクロ波の送信回路を制御し、マイクロ波の受信回路により受信されたマイクロ波の強度等の情報を受信する。また、制御装置は、マイクロ波の強度が極小、又は極大となる周波数を検出し、その検出した周波数に基づいて層状物体の厚さを算出する手段を有していてもよい。又は、上記の算出手段などは制御装置の情報に基づいて、他のパーソナルコンピュータ等により算出してもよい。
【0017】
第7の観点では、本発明は、前記第6の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記制御装置は、前記マイクロ波送受信装置と離れた場所に設置され、前記マイクロ波送受信装置との間の通信手段を有することを特徴とする。本観点の発明では、マイクロ波送受信装置と制御装置とを分離して配置することにより、測定システムにおいて演算処理回路や表示装置等の出力装置等が必要な場合、それらの装置を備える制御装置を移動させることなく、マイクロ波送受信装置のみを移動させて広い面積の層状物体を測定することが可能となる。また、マイクロ波送受信装置と制御装置との間の通信手段としては、無線LANを利用した通信や、E/O変換器、O/E変換器を設置して光ファイバによる通信を行うことができる。
【0018】
第8の観点では、本発明は、前記第6又は第7の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記層状物体の表面に沿って、前記層状物体との間の距離をほぼ一定に保ちながら前記送受信アンテナを移動する走査手段を有することを特徴とする。層状物体の複数個所の厚さ、又はある程度の広い領域の厚さ分布等を測定する場合に、送受信アンテナを層状物体との間の距離をほぼ一定に保って移動させながら測定を行うことが必要であり、このような場合に本観点の発明は有効である。一定の制御により順次所定の位置に送受信アンテナを移動するための走査手段としては、電動の移動機構や工業用のロボット等を利用することができる。
【0019】
前記の第5の観点の発明のように、送受信アンテナと送受信回路とが分離されている場合は送受信アンテナのみを移動し、送受信アンテナと送受信回路が一体となっている場合は、マイクロ波送受信装置全体を移動することができる。また、その走査手段は、送受信アンテナ又はマイクロ波送受信装置を搭載し層状物体との間の距離をほぼ一定に保つように制御されて走行する車両等であってもよい。また、層状物体が円筒状の物体の表面に設置されている場合は、走査手段としては、その円筒面に沿って移動する移動機構を用いることができる。
【0020】
第9の観点では、本発明は、前記第8の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記走査手段は、前記制御装置により制御されるか、又は、前記制御装置に前記送受信アンテナの位置情報を送信することを特徴とする。本観点の発明では、走査手段は、制御装置からの移動指示に基づいて送受信アンテナを移動させてもよく、又は、送受信アンテナの位置を予め定められた移動ルールによって移動させ、送受信アンテナの位置情報を制御手段に通知してもよい。
【0021】
第10の観点では、本発明は、前記第8又は第9の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記層状物体又は前記誘電体の表面に位置制御用のマイクロ波又は光波を照射してその反射波を検出する位置制御手段を有し、該位置制御手段により前記送受信アンテナと前記層状物体との間の距離、又は該距離の変化を検出し、前記距離をほぼ一定に保つように制御することを特徴とする。本観点の発明は位置制御手段を有し、その位置制御手段は、マイクロ波又は光波を利用して対象物との間の距離を計測するいわゆる距離センサを備え、そのセンサの出力に基づいて送受信アンテナと層状物体との間の距離をほぼ一定に保つ制御を行うものである。この位置制御手段は、上記の目的を達成するため送受信アンテナの位置を調整する位置調整機構を有している。この位置調整機構は、前記の走査手段に一体として設けられていてもよい。
【0022】
第11の観点では、本発明は、前記第10の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記位置制御手段は、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波の前記層状物体又は前記誘電体の表面への入射角度、又は該入射角度の変化を検出し、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波が前記層状物体又は前記誘電体の表面にほぼ垂直に入射するように制御することを特徴とする。本発明の層状物体厚さ測定方法においては、送受信アンテナから放射されるマイクロ波は層状物体にほぼ垂直に入射され、層状物体からの反射波もほぼ垂直に送受信アンテナに戻ることが必要である。そこで、本観点の発明では、マイクロ波の反射波を検出する検出器の位置を適切に配置することにより、例えば、検出強度が最大となるように角度を調整できるような機構を位置制御手段に備えること等により、層状物体又は誘電体の表面にマイクロ波をほぼ垂直に入射するように制御することが可能となる。上記の角度調整は、層状物体厚さの各測定前に行ってもよく、角度ずれが予想される場合にのみ行ってもよい。
【0023】
第12の観点では、本発明は、前記第10又は第11の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記位置制御手段は、前記送受信アンテナから出射されるマイクロ波を前記位置制御用のマイクロ波として使用し、前記送受信アンテナから得られる受信信号を使用して、前記の距離、又は該距離の変化の検出、又は前記のマイクロ波の入射角度、又は該入射角度の変化の検出を行うことを特徴とする。本観点の発明では、送受信アンテナから出射されるマイクロ波を、前記の送受信アンテナと層状物体との間の距離をほぼ一定に保つ制御を行うための距離センサ用、又はマイクロ波の入射角度の変化を検出する角度センサ用のマイクロ波としても使用するものである。これにより位置制御手段のためだけのマイクロ波源や光源が不要となる。この場合の距離、又は角度の制御は、層状物体厚さの各測定前に行ってもよく、距離ずれ、又は角度ずれが予想される場合にのみ行ってもよい。
【0024】
第13の観点では、本発明は、前記第1又は第2の観点の層状物体厚さ測定方法において、前記層状物体又は前記誘電体の表面に照射されるマイクロ波の照射領域の大きさを制御する手段を有することを特徴とする。本観点の発明では、マイクロ波の照射領域を変化させることにより、目的に応じて測定対象となる平面内の測定分解能を変えることができ、照射領域内の平均的な層状物体厚さを測定することができる。また、マイクロ波の照射領域の大きさを制御することにより、検出感度の調整も可能となる。
【発明の効果】
【0025】
上記のように、本発明により、十分な測定速度が得られ、測定膜厚に対して柔軟に設定可能な層状物体厚さ測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例1の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図。
【
図2】本発明の実施例2の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図。
【
図3】本発明の実施例3の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図であり、
図3(a)は送受信アンテナとしてホーンアンテナを使用した場合、
図3(b)は送受信アンテナとして導波管を使用した場合、
図3(c)は導波管の開口の内側に誘電体を設置した場合を示す。
【
図4】本発明の実施例4の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図。
【
図5】本発明の実施例5の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図。
【
図6】本発明の実施例6の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の層状物体厚さ測定方法を実施例により詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複した説明を省略する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図である。
図1は、ほぼ平坦な金属板1上に層状に設置された誘電体膜2の厚さを層状物体厚さ測定装置10を用いて測定する場合の構成を示しており、層状物体厚さ測定装置10は、電気信号を入力してマイクロ波を出力し、入力されるマイクロ波を受信して電気信号を出力するホーンアンテナ5と、マイクロ波の電気信号を発生してホーンアンテナ5に供給し、ホーンアンテナにより受信されたマイクロ波の電気信号が入力される送受信回路6とを有するマイクロ波送受信装置3を備えている。ホーンアンテナ5により誘電体膜2にほぼ垂直にマイクロ波7を放射し、誘電体膜2から反射される反射波8を受信する。
【0029】
さらに、本実施例では、マイクロ波送受信装置3を制御し、マイクロ波送受信装置3から得られる受信データを用いて誘電体膜2の厚さを算出し表示する制御装置4を備えている。制御装置4は、パーソナルコンピュータを用いて構成し、送受信回路6の発信周波数や発信強度、マイクロ波ビーム幅等を制御する。誘電体膜2は、例えば、金属板1の保護のためライニング等の方法により設けられた膜である。
【0030】
発信強度をほぼ一定とし、発信周波数を掃引しながらホーンアンテナ5よりマイクロ波7を誘電体膜2に入射することにより、誘電体膜2の表面からの反射波とその裏面からの反射波が干渉し反射波8となってホーンアンテナ5に戻る。この結果、誘電体膜2の厚さdが誘電体膜2中に入射されたマイクロ波の波長の1/4の奇数倍となるときには反射されるマイクロ波の強度が極小となり、そのマイクロ波の波長の1/4の偶数倍となるときには反射されるマイクロ波の強度が極大となる。例えば、誘電体膜2の厚さdを470μm、比誘電率を4とし、マイクロ波7の周波数を75GHzから85GHzまで掃引したときに、周波数fc=79.8GHzにおいて、誘電体2中でのマイクロ波の波長λ1がdの値の4倍、すなわちdの値がλ1の1/4となる。この周波数fcにおいて送受信回路6により検出される反射波8の強度は最小となる。本実施例においては、制御装置4において送受信回路6より送られる受信データより受信強度が最小となるfcの値を判別し、その値から、誘電体膜2の厚さdを算出する。なお、誘電体膜2の誘電率は予め過去のデータや予備測定などにより把握しておく。
【実施例2】
【0031】
図2は、本発明の実施例2の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図である。本実施例は、実施例1と同様な金属板1上に層状に設置された誘電体膜12の厚さを測定する場合の構成を示しており、本実施例においても、実施例1と同様に、マイクロ波送受信装置3と制御装置4を使用するが、
図2ではそれらを省略して示している。本実施例においては、マイクロ波7が入射される誘電体膜12上に所定の厚さの誘電体13を設置して誘電体13の表面からマイクロ波7を照射する。誘電体13の厚さは、誘電体膜12から反射されるマイクロ波の強度が、前記マイクロ波の掃引周波数の範囲内において極小、又は極大となるように設定される。
【0032】
例えば、誘電体膜12が塗装により形成された塗膜であり、その厚さd1を240μm、比誘電率を4とし、誘電体13の厚さd2を1100μm、比誘電率を4とし、マイクロ波7の周波数を25GHzから35GHzまで掃引したときに、周波数fc=28.0GHzにおいて、誘電体膜12及び誘電体13中でのマイクロ波7の波長λ2がd1+d2の値の4倍、すなわちd1+d2の値がλ2の1/4となる。この周波数fcにおいて反射波8の強度は最小となる。本実施例においても、制御装置において送受信回路より送られる受信データより受信強度が最小となるfcの値を判別し、その値から、誘電体膜12の厚さd1を算出する。誘電体13の厚さd2と誘電率、及び誘電体膜12の誘電率を予め把握しておけば、上記のd1の算出は可能である。
【0033】
なお、誘電体13は、誘電体膜12と誘電率が同じ値でなくとも、近い値であれば誘電体13と誘電体膜12の境界での反射は小さいので、反射波8の極小値の判別は可能である。また、そのように誘電体膜12と誘電体13の誘電率が異なる場合、誘電体13の誘電率に基づく誘電体13内のマイクロ波7の波長、及び誘電体膜12内でのマイクロ波7の波長を用いた詳細な計算によりd1の値を求めることができる。
【実施例3】
【0034】
図3は、本発明の実施例3の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図であり、
図3(a)は送受信アンテナとしてホーンアンテナを使用した場合、
図3(b)は送受信アンテナとして導波管を使用した場合、
図3(c)は導波管の開口の内側に誘電体を設置した場合を示す。本実施例は、実施例1と同様な金属板1上に層状に設置された誘電体膜2又は誘電体膜22の厚さを測定する場合の構成を示しており、本実施例においても、実施例1と同様に、マイクロ波送受信装置と制御装置を使用するが、
図3(a)及び
図3(b)では制御装置を省略し、
図3(c)ではマイクロ波送受信回路も省略して示している。
【0035】
図3(a)及び
図3(b)に示す構成例においては、マイクロ波を放射するホーンアンテナ5の開口、又は導波管15の開口は誘電体膜2の表面に近接して配置されている。例えば、上記の開口部に非常に薄く誘電体膜2の損傷を防ぐことが可能なスペーサー等を設けて測定時に誘電体膜2にその開口を押し当てることにより、繰り返しの測定において、ホーンアンテナ5と誘電体膜2との間隔を常に一定に保ち、かつ、マイクロ波の入射角度をほぼ垂直に保つことが容易となる。
【0036】
また、誘電体膜の膜厚が薄い場合、実施例2に示したように誘電体を誘電体膜上に配置することにより測定が可能となる。
図3(c)では、誘電体23を導波管15の内側に配置し、導波管15の開口部分を誘電体膜22に押し当てたときに誘電体23が誘電体膜22に接するように配置されている。このような構成により、実施例2と同様に、誘電体膜22の厚さを測定することが可能である。このように誘電体23をアンテナとして機能する導波管15に一体として設置することにより、同じ誘電体23を用いて容易に異なる個所の測定を行うことができ、膜厚の算出が容易となる。
【実施例4】
【0037】
図4は、本発明の実施例4の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図である。
本実施例においても、実施例1と同様に、ホーンアンテナ5と送受信回路24と制御装置25により、金属板1上に設置された誘電体膜2の厚さを測定する。誘電体膜2の膜厚の測定、算出方法も実施例1と同様であり、放射するマイクロ波周波数、マイクロ波強度等が制御装置25から送受信回路24に指令され、送受信回路24からの検出データが制御装置25に送られる。
【0038】
但し、本実施例においては、
図4に示すように、ホーンアンテナ5及び送受信回路24は、それぞれ、O/E変換器とE/O変換器とを有する光端末26及び27を備え、ホーンアンテナ5と送受信回路24とは分離され、その間は光ファイバ30で接続されている。送受信回路24より出力されてホーンアンテナ5に供給されるマイクロ波の電気信号及びホーンアンテナ5により受信されて送受信回路24に入力されるマイクロ波の電気信号は、それぞれ光信号に変換されて光ファイバ30により伝達される。
【0039】
また、本実施例は、誘電体膜2の表面に沿って、誘電体膜2との間の距離をほぼ一定に保ちながらホーンアンテナ5を移動する走査手段を有している。この走査手段は、誘電体膜2の表面に対して平行に設置された移動ステージ28と、移動ステージ28上でのホーンアンテナ5の移動を制御する移動制御装置29を備えている。例えば、移動ステージ28が位置コード情報を備え、移動制御装置29が電動による移動手段と上記の位置コード読み取り手段を備えてもよく、又は、移動ステージ28が電動による移動手段を備え、移動制御装置29が移動ステージ28から位置情報を取得してもよい。あるいは、ホーンアンテナ5の位置情報はGPSにより取得してもよい。
【0040】
本実施例においては、移動ステージ28及び移動制御装置29による走査手段は制御装置25により制御している。この制御信号は光ファイバ30を介した光信号により伝送される。制御装置25からの移動指示に基づいてホーンアンテナ5を移動させてもよい。又は、ホーンアンテナ5の位置を予め定められた移動ルールによって移動させ、ホーンアンテナ5の位置情報を制御装置25に通知してもよい。
【0041】
本実施例では、電源が必要な送受信回路24や制御装置25を移動させることなく、ホーンアンテナ5のみを移動させて測定することが可能となる。光ファイバは軽量であり、かつ、マイクロ波信号を小さな損失で送信することができるので、層状物体の複数個所の厚さ、又はある程度の広い領域の厚さ分布等を測定する場合に非常に有効である。
【実施例5】
【0042】
図5は、本発明の実施例5の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図である。本実施例においても、実施例1と同様に、ホーンアンテナ5と送受信回路6を備えたマイクロ波送受信装置31と、制御装置32により、金属板1上に設置された誘電体膜2の厚さを測定する。誘電体膜2の膜厚の測定、算出方法も実施例1と同様であり、放射するマイクロ波周波数、マイクロ波強度等が制御装置32からマイクロ波送受信装置31に指令され、マイクロ波送受信装置31からの検出データが制御装置32に送られる。
【0043】
但し、本実施例においては、
図5に示すように、マイクロ波送受信装置31とマイクロ波送受信装置31を制御する制御装置32とは離れて設置されている。マイクロ波送受信装置31と制御装置32との間には通信手段として無線LANを備え、マイクロ波送受信装置31は無線LAN端末である通信回路33を有し、制御装置32は無線LAN端末である通信回路34を有している。
【0044】
また、本実施例は、誘電体膜2の表面に沿って、誘電体膜2との間の距離をほぼ一定に保ちながらマイクロ波送受信装置31を移動する走査手段を有している。この走査手段は、実施例4と同様に、誘電体膜2の表面に対して平行に設置された移動ステージ28と、移動ステージ28上でのマイクロ波送受信装置31の移動を制御する移動制御装置29を備えている。例えば、移動ステージ28が位置コード情報を備え、移動制御装置29が電動による移動手段と上記の位置コード読み取り手段を備えてもよく、又は、移動ステージ28が電動による移動手段を備え、移動制御装置29が移動ステージ28から位置情報を取得してもよい。あるいは、マイクロ波送受信装置31の位置情報はGPSにより取得してもよい。
【0045】
本実施例においては、移動ステージ28及び移動制御装置29による走査手段は制御装置25により制御し、無線LANにより通知される制御装置25からの移動指示に基づいてマイクロ波送受信装置31を移動させてもよい。又は、マイクロ波送受信装置31の位置を予め定められた移動ルールによって移動させ、通信手段によりマイクロ波送受信装置31の位置情報を制御装置32に通知してもよい。
【0046】
本実施例の層状物体厚さ測定方法は、固定個所に設置された制御装置32において測定を制御し、データを取得できるので、層状物体の複数個所の厚さ、又はある程度の広い領域の厚さ分布等を測定する場合に有効である。
【実施例6】
【0047】
図6は、本発明の実施例6の層状物体厚さ測定方法の構成例を模式的に示す図である。本実施例においては、実施例4と同様に、ホーンアンテナ5及び送受信回路24(
図6では非表示)は、それぞれ、O/E変換器とE/O変換器とを有する光端末26及び27(
図6では非表示)を備え、ホーンアンテナ5と送受信回路24との間は光ファイバ30で接続されている。また、誘電体膜2の表面に対して平行に設置された移動ステージ28と、移動ステージ28上でのホーンアンテナ5の移動を制御する移動制御装置29を備えている。ホーンアンテナ5の
図6におけるx方向への移動に関する構成、測定方法等は実施例4と同じである。
図6においては、送受信回路24と光端末27、制御装置25の記載は省略している。
【0048】
本実施例においては、誘電体膜2の表面に位置制御用のマイクロ波を照射してその反射波を検出する位置制御装置40を有し、位置制御装置40によりホーンアンテナ5と誘電体膜2との間の距離の変化を検出し、その距離をほぼ一定に保つように制御する。さらに、ホーンアンテナ5から出射されるマイクロ波の誘電体膜2の表面への入射角度θの変化を検出し、ホーンアンテナ5から出射されるマイクロ波が誘電体膜2の表面にほぼ垂直に入射するように制御する。ここで、位置制御装置40は、ホーンアンテナ5から出射される膜厚測定用のマイクロ波7を位置制御用のマイクロ波として使用し、ホーンアンテナ5から得られる受信信号を使用して、ホーンアンテナ5と誘電体膜2との間の距離の変化の検出、及びマイクロ波7の入射角度の変化の検出を行う。位置制御装置40は、上記の距離の変化を補正するため、
図6におけるy方向の移動機構を有し、上記の入射角度の補正を行うため、y軸に対する傾き角度調整機構を有している。
【0049】
例えば、特定のマイクロ波周波数において、ホーンアンテナ5からの放射波と誘電体膜2からの反射波の干渉による定在波の強度が検出器において最大となるように距離を設定し、その状態を保つようにy方向の距離を調整することができる。また、検出される反射波の強度は一般的に垂直入射の状態が最大となるので、検出強度が最大となるように傾き角度の調整を行うことができる。上記の位置調整や角度調整は、誘電体膜2の厚さの各測定前に行ってもよく、y方向の位置ずれや角度ずれが予想される場合にのみ行ってもよい。
【0050】
以上のように、本発明により、十分な測定速度が得られ、測定膜厚に対して柔軟に設定可能な層状物体厚さ測定方法を得ることができる。
【0051】
本発明は上記の実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、目的に応じて様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例に示した層状物体厚さ測定方法に使用する送受信アンテナや送受信回路は、既存のマイクロ波システムで用いられる各種のアンテナやマイクロ波回路を適宜選択して適用することができる。制御回路や移動ステージ、位置制御装置の機能も目的に応じて必要な機能を追加してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 金属板
2,12,22 誘電体膜
3,31 マイクロ波送受信装置
4,25,32 制御装置
5 ホーンアンテナ
6,24 送受信回路
7 マイクロ波
8 反射波
10 層状物体厚さ測定装置
13,23 誘電体
15 導波管
26,27 光端末
28 移動ステージ
29 移動制御装置
30 光ファイバ
33,34 通信回路
40 位置制御装置