(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】サルコペニア抑制食品の製造方法、サルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品
(51)【国際特許分類】
A23B 7/155 20060101AFI20231220BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231220BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20231220BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231220BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
A23B7/155
A23L33/105
A23L33/135
A23L5/00 J
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2023520364
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026232
(87)【国際公開番号】W WO2023084839
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2021184844
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399015207
【氏名又は名称】株式会社 皇漢薬品研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 明輝
(72)【発明者】
【氏名】宇都 義浩
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170250(JP,A)
【文献】特開2010-132625(JP,A)
【文献】特開2004-049154(JP,A)
【文献】特開2019-189572(JP,A)
【文献】特開2020-026437(JP,A)
【文献】特開平03-277247(JP,A)
【文献】特開2008-179620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/
A23L 33/
A23L 5/
A23B 7/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含む微生物群を用いたアメリカ人参の発酵により製造
し、
前記微生物群は、
ビフィドバクテリウム ロンガム、
ビフィドバクテリウム ビフィダム、
ビフィドバクテリウム アドレッセンス、
ラクトバシラス アシドフィルス、
ラクトバシラス パラカゼイ、
ラクトバシラス ガツセリー、
ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)、
ラクトバシラス ヘルベティカス、
ラクトバシラス カゼイ、
ラクトバシラス ラムノーシ、
ラクトバシラス デルブリッキ、
ストレプトコッカス サーモフィルス、
ラクトバシラス ブレビス、
ラクトバシラス ジェンセニー、
ラクトバシラス ラクティス、及び
エンテロコッカス フェシーム
を含み、
前記発酵は、複数種の微生物を含む前記微生物群による共生発酵である
ことを特徴とするサルコペニア抑制食品の製造方法。
【請求項2】
前記微生物群は、人の腸内で生育可能な乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のサルコペニア抑制食品の製造方法。
【請求項3】
前記発酵は36時間以上120時間以下行われる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のサルコペニア抑制食品の製造方法。
【請求項4】
乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含む微生物群を用いた
発酵により得られたアメリカ人参の発酵物を含
み、
前記微生物群は、
ビフィドバクテリウム ロンガム、
ビフィドバクテリウム ビフィダム、
ビフィドバクテリウム アドレッセンス、
ラクトバシラス アシドフィルス、
ラクトバシラス パラカゼイ、
ラクトバシラス ガツセリー、
ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)、
ラクトバシラス ヘルベティカス、
ラクトバシラス カゼイ、
ラクトバシラス ラムノーシ、
ラクトバシラス デルブリッキ、
ストレプトコッカス サーモフィルス、
ラクトバシラス ブレビス、
ラクトバシラス ジェンセニー、
ラクトバシラス ラクティス、及び
エンテロコッカス フェシーム
を含み、
前記発酵は、複数種の微生物を含む前記微生物群による共生発酵である
ことを特徴とするサルコペニア抑制食品。
【請求項5】
乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含む微生物群を用いた
発酵により得られたアメリカ人参の発酵物を含
み、
前記微生物群は、
ビフィドバクテリウム ロンガム、
ビフィドバクテリウム ビフィダム、
ビフィドバクテリウム アドレッセンス、
ラクトバシラス アシドフィルス、
ラクトバシラス パラカゼイ、
ラクトバシラス ガツセリー、
ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)、
ラクトバシラス ヘルベティカス、
ラクトバシラス カゼイ、
ラクトバシラス ラムノーシ、
ラクトバシラス デルブリッキ、
ストレプトコッカス サーモフィルス、
ラクトバシラス ブレビス、
ラクトバシラス ジェンセニー、
ラクトバシラス ラクティス、及び
エンテロコッカス フェシーム
を含み、
前記発酵は、複数種の微生物を含む前記微生物群による共生発酵である
ことを特徴とする筋肉増強食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サルコペニア抑制食品の製造方法、サルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりを受け、サルコペニアに対する関心が集まっている。サルコペニアは加齢等により筋肉量が減少する現象であり、サルコペニアにより、例えば高齢者の身体機能障害が発生する。サルコペニアに関する文献として、非特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】井上愛子ら、老年医学の展望 サルコペニアの分子メカニズム、日本老年医学会雑誌2018年55巻1号13~24頁、2018年1月25日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載のように、サルコペニアは加齢等により進行し、骨格筋質量の顕著な減少を生じさせる。一方で、インスリン様成長因子(IGF-1)の低下が筋肉量減少を招くため、IGF-1はサルコペニア抑制に使用できる可能性がある。しかし、IGF-1は一般消費者が容易に入手できるものではない。このため、一般消費者が容易に入手可能な全く新しい技術が望まれている。
本開示が解決しようとする課題は、一般消費者が容易に入手可能なサルコペニア抑制食品の製造方法、サルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のサルコペニア抑制食品の製造方法は、乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含む微生物群を用いたアメリカ人参の発酵により製造し、前記微生物群は、ビフィドバクテリウム ロンガム、ビフィドバクテリウム ビフィダム、ビフィドバクテリウム アドレッセンス、ラクトバシラス アシドフィルス、ラクトバシラス パラカゼイ、ラクトバシラス ガツセリー、ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)、ラクトバシラス ヘルベティカス、ラクトバシラス カゼイ、ラクトバシラス ラムノーシ、ラクトバシラス デルブリッキ、ストレプトコッカス サーモフィルス、ラクトバシラス ブレビス、ラクトバシラス ジェンセニー、ラクトバシラス ラクティス、及びエンテロコッカス フェシームを含み、前記発酵は、複数種の微生物を含む前記微生物群による共生発酵であることを特徴とする。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、一般消費者が容易に入手可能なサルコペニア抑制食品の製造方法、サルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】筋萎縮抑制評価により得られた細胞横径を示すグラフである。
【
図4】筋萎縮を説明するギムザ染色画像であり、発酵時間を変えた場合の結果である。
【
図5】筋萎縮抑制効果を評価して得られた細胞横径を示すグラフであり、発酵時間を変えた場合の結果である。
【
図7】Atroginの発現量を示すグラフである。
【
図9】坐骨神経切除後の筋肉量変化を示すグラフである。
【
図10】筋肉増強の評価結果を示す蛍光画像である。
【
図11】筋肉増強の評価結果を示す筋肉量を示すグラフである。
【
図12】筋肉分化マーカの発現量を示すグラフである。
【
図13】試験1日目のマウスの体重を示すグラフである。
【
図14】試験58日目のマウスの体重を示すグラフである。
【
図15】試験期間中のマウスの体重変化を示すグラフである。
【
図16】握力の平均値についての経時変化を示すグラフである。
【
図17】握力の平均値について、58日目の結果を示すグラフである。
【
図18】握力の最大値についての経時変化を示すグラフである。
【
図19】握力の最大値について、58日目の結果を示すグラフである。
【
図20】前脛骨筋、長趾伸筋及び長腓骨筋の合計質量を示すグラフである。
【
図21】腓腹筋及びヒラメ筋の合計質量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0009】
以下、本開示のサルコペニア抑制食品の製造方法及びサルコペニア抑制食品を説明する。なお、本開示の筋肉増強食品は、本開示のサルコペニア抑制食品と同様であり、本開示のサルコペニア抑制食品の製造方法と同様にして製造できる。従って、本開示の筋肉増強食品及びその製造方法については、本開示のサルコペニア抑制食品及びその製造方法に関する説明を適用でき、それらの詳細な説明は適宜省略する。
【0010】
図1は、本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品の製造方法(以下、本開示の製造方法という)を示すフローチャートである。本開示の製造方法は、乳酸菌を用いたアメリカ人参の発酵によりサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品を製造する方法であり、原料準備工程S1と、発酵工程S2と、性状調整工程S3とを含む。
【0011】
原料準備工程S1は、本開示の製造方法に使用される原料を準備する工程である。原料としては、アメリカ人参(ウィスコンシンジンセン。西洋人参。学名;Panax quinquefolius)が使用される。アメリカ人参を使用することで、筋萎縮を抑制できるとともに、筋肉量を増加できる。そして、これらの効果を奏することでサルコペニアを抑制できる。例えば、筋委縮が生じても筋肉量を増加させることで、筋肉量の減少を抑制して、サルコペニアを抑制できる。以下、サルコペニアの抑制は、筋肉増強の意味を含む。
【0012】
発酵工程S2は、乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含む微生物群を用いて、アメリカ人参を含む原料を発酵させる工程である。以下、単に「微生物群」というときは、特に断らない限り、ここでいう「微生物群」をいうものとする。発酵工程S2では、例えば、洗浄及び乾燥を経て粉末状に加工したアメリカ人参が使用される。粉末のアメリカ人参を使用することで、発酵効率を向上できる。ただし、粉末に限定されず、刻み、チップ、アメリカ人参そのままの乾燥物(乾燥原体)を発酵させてもよい。切断の程度としては、例えば、アメリカ人参を0.5cm~1cm×0.5cm~1cm程度の大きさに加工できる。また、発酵促進の観点から、例えば摩り下ろすことでペースト状に加工してもよい。
【0013】
アメリカ人参は、切断後そのままの状態で使用されてもよく、切断後乾燥してから使用してもよい。乾燥物の場合、発酵促進の観点から、粉末状であることが好ましい。
【0014】
アメリカ人参に加え、他の原料を併用してもよい。
【0015】
発酵工程S2は、微生物群を用いて、原料準備工程S1で準備したアメリカ人参を発酵させる工程である。微生物群は、発酵物にサルコペニア抑制効果を発揮できるものであれば任意であるが、人の腸内で生育可能な乳酸菌又はビフィズス菌の少なくとも一方を含むことが好ましい。このような細菌を使用することで、実際に食べたときの状況を再現させて、人の体外で発酵できる。
【0016】
また、微生物群は、
ビフィドバクテリウム ロンガム(Bロンガム)、
ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bビフイダム)、
ビフィドバクテリウム アドレッセンス(Bアドレッセンス)、
ラクトバシラス アシドフィルス(Lアシドフィルス)、
ラクトバシラス パラカゼイ(Lパラカゼイ)、
ラクトバシラス ガツセリー(Lガツセリー)、
ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)(Lデルブリッキ(ブルガリクス))、
ラクトバシラス ヘルベティカス(Lヘルベティカス)、
ラクトバシラス カゼイ(Lカゼイ)、
ラクトバシラス ラムノーシ(Lラムノーシ)、
ラクトバシラス デルブリッキ(Lデルブリッキ)、
ストレプトコッカス サーモフィルス(Sサーモフィルス)、
ラクトバシラス ブレビス(Lブレビス)、
ラクトバシラス ジェンセニー(Lジェンセニー)、
ラクトバシラス ラクティス(Lラクティス)、又は
エンテロコッカス フェシーム(Eフェシーム)
の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの微生物は、人の腸内で生育可能な乳酸菌(乳酸桿菌、乳酸構褻、乳酸球菌)及びビフィズス菌である。これらの微生物の少なくとも1種を含むことで、実際に食べたときの状況を再現させて、人の体外で発酵できる。ただし、微生物群は、これら少なくとも1種を含むことが好ましいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0017】
好ましい微生物及びその学名を下記表1に示す。
【0018】
【0019】
中でも、表1に示す微生物を全て含む微生物群を使用することが好ましい。即ち、微生物群は、
ビフィドバクテリウム ロンガム、
ビフィドバクテリウム ビフィダム、
ビフィドバクテリウム アドレッセンス、
ラクトバシラス アシドフィルス、
ラクトバシラス パラカゼイ、
ラクトバシラス ガツセリー、
ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)、
ラクトバシラス ヘルベティカス、
ラクトバシラス カゼイ、
ラクトバシラス ラムノーシ、
ラクトバシラス デルブリッキ、
ストレプトコッカス サーモフィルス、
ラクトバシラス ブレビス、
ラクトバシラス ジェンセニー、
ラクトバシラス ラクティス、及び
エンテロコッカス フェシーム
を含み、微生物群による発酵は、複数種の微生物を含む微生物群による共生発酵であることが好ましい。表1に示した微生物は、人の腸内細菌叢を疑似的に再現した組合せであり、腸内での発酵のように予め疑似発酵させることにより、発酵生成物をより効率よく体内利用できる。ただし、発酵は、表1に示す微生物の組み合わせを使用することが好ましいが、必ずしもこの組み合わせに限定されない。
【0020】
発酵条件は、発酵物にサルコペニア抑制効果を持たせられれば特に制限はないが、発酵時間として、人が摂取した食品が通常体内(腸内)に留まり、腸内細菌により代謝される時間程度にすることが好ましい。具体的には例えば発酵は通常24時間以上、好ましくは36時間以上、より好ましくは48時間以上、特に好ましくは60時間以上、上限としては例えば120時間以下、好ましくは96時間以下、より好ましくは84時間以下、特に好ましくは72時間以下で行われることが好ましい。発酵時間をこの範囲にすることで、腸内での発酵のように予め疑似発酵させることができ、発酵生成物をより効率よく体内利用できる。
【0021】
発酵温度は、微生物群の種類によって適宜変更すればよいが、人の腸内温度と同程度の温度程度にすることが好ましい。具体的には例えば、発酵温度は通常35℃以上、好ましくは36℃以上、より好ましくは36.5℃以上、その上限として、通常は42℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは38℃以下である。この温度にすることで、腸内での発酵のように予め疑似発酵させることができ、発酵生成物をより効率よく体内利用できる。
【0022】
発酵の雰囲気は、微生物群の種類によって適宜変更すればよいが、例えば嫌気性雰囲気にできる。
【0023】
発酵は、原料と微生物群との混合スラリーを用いて行うことができる。混合スラリーは、原料及び微生物群に加えて、更に、例えばブドウ糖、乳糖、オリゴ糖等の糖類を含有できる。
【0024】
性状調整工程S3は、発酵工程S2で得られた発酵物を、適宜所望の性状に調整する工程である。所望の性状とは、例えば性状が乾燥物であれば、例えばスラリーである発酵物を乾燥させればよい。乾燥は、例えば発酵物をそのまま乾燥させてもよいし、発酵物から例えばろ過により固定分を除去して得られた溶液を乾燥させてもよい。乾燥後、適宜所望の大きさに粉砕できる。
【0025】
本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品は、微生物群を用いたアメリカ人参の発酵物を含む。サルコペア抑制効果は、本発明者の検討によれば、発酵物中の特定の成分のみによって奏されるものではなく、発酵物中の各成分が相互に作用しあう結果、奏されると考えられる。そこで、「発酵物」という表現が使用される。ただし、サルコペニア抑制効果を奏する発酵物は、上記発酵工程S2で得られたスラリーにおいて液相に含まれると考えられる。
【0026】
本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品は、例えば高齢者を対象に使用できる。また、本開示のサルコペニア抑制食品は、筋委縮効果に加えて、筋肉量増強効果も奏する。このため、例えば健常人、アスリート、スポーツ関係者への使用も好適である。筋肉量増強効果に着目して、筋肉増強食品として手軽に経口摂取することもできる。さらには、本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品は、筋肉から分泌されるマイオカイン等のホルモン物質への寄与も期待される。
【実施例】
【0027】
本開示の製造方法に沿って本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品を製造し、筋萎縮抑制効果及び筋肉量増加効果を評価した。なお、
図20、
図21、及び
図22は、測定値をマウスの体重で割ることで、マウスの単位質量当たりの測定値として図示した。
【0028】
・サルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品の製造
<実施例1>
アメリカ人参を乾燥させて粉末状(粒径10μm~100μmの混合物)に処理して、微生物発酵のための原料を調整した(原料準備工程S1)。次いで、ビフィドバクテリウム ロンガム、ビフィドバクテリウム ビフィダム、ビフィドバクテリウム アドレッセンス、ラクトバシラス アシドフィルス、ラクトバシラス パラカゼイ、ラクトバシラス ガツセリー、ラクトバシラス デルブリッキ(ブルガリクス)、ラクトバシラス ヘルベティカス、ラクトバシラス カゼイ、ラクトバシラス ラムノーシ、ラクトバシラス デルブリッキ、ストレプトコッカス サーモフィルス、ラクトバシラス ブレビス、ラクトバシラス ジェンセニー、ラクトバシラス ラクティス、及びエンテロコッカス フェシームを含む微生物群(上記表1に示す全ての微生物を含む微生物群)を使用し、原料を共生発酵させた(発酵工程S2)。共生発酵は、原料と乳酸菌との混合物を水中に懸濁し、スラリー状にしたものについて行った。発酵時間は24時間、発酵温度は37℃、発酵雰囲気は嫌気性とした。共生発酵によりスラリー状の発酵物を得た。得た発酵物について、ろ過を行って固形分を除去することで、本開示のサルコペニア抑制食品及び筋肉増強食品の液体(発酵液)を得た(性状調整工程S3)。
【0029】
<実施例2>
発酵工程S2で得た発酵物について、凍結乾燥及び粉砕を行って、本開示のサルコペニア抑制食品の粉末(粒径10μm~100μmの混合物)を得た(性状調整工程S3)。
【0030】
<比較例1>
発酵工程S2を行わないこと以外は実施例2と同様にして、粉末を得た。
【0031】
<比較例2>
アメリカ人参に代えて高麗ニンジンを使用したこと以外が実施例1と同様にして液体(発酵液)を得た。
【0032】
・評価(筋萎縮抑制、細胞横径測定)
以下のようにして筋芽細胞を筋管細胞に分化させた後、デキサメタゾンで筋萎縮を誘導させた。デキサメタゾン添加時に、本開示のサルコペニア抑制食品を同時添加し、本開示のサルコペニア抑制食品による筋萎縮抑制を評価した。
【0033】
まず、細胞播種として、培養培地で24穴プレートにC2C12細胞を5×104cells/wellずつ播種した。次いで分化誘導として、24時間後、分化培地に交換した。更に、24時間後培地交換行い、その後更に48時間後、培地交換を行った。分化を確認後、デキサメタゾン(10μM)と、本開示のサルコペニア抑制食品又はIGF-1とを培地に添加した。本開示のサルコペニア抑制食品の添加量は、1μg又は10μgとした。
【0034】
添加して24時間後、ギムザ染色を行った。ギムザ染色後、顕微鏡で細胞を撮影し、ImageJ(画像処理ソフトウェア)を用い画像中の筋管細胞の横径を測定した。筋芽細胞は細胞融合し筋管細胞へ分化をする。筋管細胞は、後記する画像(
図2)中で核(濃い有色の球状の部分)を複数個含む有色の線状に伸びている部分である。そして、横径として、筋管細胞の最も太い箇所の横径を測定した。例えば後記の
図2のブランク(B)の図でいえば、図示の3つの横径Lのうち、最も長い横径Lを測定した。
【0035】
図2は、筋萎縮を説明するギムザ染色画像である。上から、ブランク(B)、コントロール(C)、IGF-1(100μg)+デキサメタゾン(I)を示す。Bは筋委縮させない筋管細胞、Cはデキサメタゾンの添加により筋委縮させた筋管細胞、Iは、デキサメタゾンによって筋委縮したものの、IGF-1により筋萎縮が抑制された筋管細胞である。Cでは白部分が減少し、筋委縮していることがわかる。一方で、B及びIでは、白い部分の面積が大きく、筋委縮が抑制されたことがわかる。横径の測定結果を表2に示す。
【0036】
【0037】
図3は、筋萎縮抑制評価により得られた細胞横径を示すグラフである。BとCとを比較すると、デキサメタゾンの添加による筋萎縮により、細胞横径が短くなった。しかし、Iに示すように、IGF-1の添加により筋萎縮が抑制され、細胞横径がCよりも長くなった。
【0038】
実施例1及び2に示すように、発酵液(実施例1)及び粉末(実施例2)のいずれを添加しても、Cよりも細胞横径が長くなった。これにより、本開示のサルコペニア抑制食品は筋萎縮を抑制(緩和)することが確認できた。特に、それぞれ10μgを添加した場合、IGF-1を使用したIの細胞横径に迫る長さとなり、抑制効果が大きいことが確認できた。
【0039】
一方で、比較例1及び2では、いずれもCと同程度であった。なお、比較例1において10μg添加した場合、1μg添加よりも細胞横径が長くなったが、1μgと10μgとの項目間での測定誤差を考えると、ほとんど変化しなかったといえる。従って、発酵させたアメリカ人参によりはじめて筋委縮を抑制でき、発酵させない場合、及び、高麗ニンジンを使用した場合には、そのような効果が発揮されないことが確認できた。
【0040】
図4は、筋萎縮を説明するギムザ染色画像であり、添加量を10μgに固定して発酵時間を変えた場合の結果である。上から順に、実施例1において発酵時間を24時間、72時間、120時間に変えた場合の画像である。いずれの場合も、デキサメタゾンを含む。発酵時間が長いほど細胞横径が長くなるが、72時間と120時間とでは同程度のように見える。横径の測定結果を表3に示す。
【0041】
【0042】
図5は、筋萎縮抑制効果を評価して得られた細胞横径を示すグラフであり、発酵時間を変えた場合の結果である。上記の
図4を参照して説明したように、発酵時間が長いほど細胞横径が長くなるが、ある程度長いと頭打ちになる傾向がある。例えば24時間と72時間とを比較すると、72時間の方が細胞横径が長い。しかし、72時間と120時間とを比較すると、Cよりは長いものの、120時間の細胞横径は、72時間よりも短くなった。この結果は、発酵時間の長時間化により、意図しない反応が生じ、筋萎縮抑制効果が小さくなったためと考えられる。このため、発酵は36時間以上120時間時間以下で行うことが好ましく、中でも、36時間以上96時間時間以下で行うことがより好ましいことがわかった。
【0043】
・評価(筋萎縮抑制、筋萎縮マーカの確認)
筋萎縮マーカの発現量を調べた。上記の「評価(筋萎縮抑制、細胞横径測定)」において、デキサメタゾン(10μM)と本開示のサルコペニア抑制食品又はIGF-1とを添加して24時間経過した後、細胞を回収した。添加量は10μgにした。回収した細胞について、筋萎縮マーカ(Murf-1、Atrogin)の発現量を測定した。発現量を表4に示す。
【0044】
【0045】
図6は、Murf-1の発現量を示すグラフである。また、
図7は、Atroginの発現量を示すグラフである。数値が大きいほど、筋萎縮関連遺伝子の発現が増加したことを示す。従って、数値が小さいことが好ましい。実施例1の発現量は、上記実施例1のサルコペニア抑制食品を培地に添加、比較例1の発現量は、上記比較例1のアメリカ人参(発酵せず)を培地に添加した結果である。
【0046】
図6及び
図7の結果から、筋萎縮マーカの発現抑制により、本開示のサルコペニア抑制食品により筋萎縮を抑制できたことがわかった。
【0047】
・評価(筋萎縮抑制、萎縮量の測定)
以下の方法に沿ってモデルマウスの筋委縮を評価した。実験動物は、C57BL/6Jマウス(8周齢、雄)である。実験方法は、マウス片足の坐骨神経を切除し、筋委縮モデルを作成し、Shamとの筋肉湿質量を比較した。なお、Shamは偽手術を表し、坐骨神経を切除しない方の足に施される。坐骨神経切除の際にはマウスの下肢の筋肉を切り開いて神経の切除が行われる。もう一方の下肢でも筋肉を切り開き(神経は切らない)、切除群と同様のストレスを与えることで条件を揃えることを目的にShamが行われる。
【0048】
投与群として、コントロール(C)は粉末試料のみ、実施例2は、粉末試料と実施例2のサルコペニア抑制食品(含有量3質量%)との混合粉末、比較例3は、粉末試料とアメリカ人参の乾燥粉末(含有量3質量%)との混合粉末である。マウスに対し、これらの粉末を経口摂取させた。試験スケジュールは、1週間の順化後、試料投与開始を1日目とし、15日目坐骨神経切除、25日目に筋肉採取を行った。筋肉採取は、前脛骨金、長趾伸筋、長腓骨筋を採取し、質量を測定した。
【0049】
図8は、マウスの体重変化を示すグラフである。白丸はコントロール(C)、白三角は比較例1、白四角は実施例2である。坐骨神経切除の前後において、どのマウスにおいて日数ととともに体重増加が認められた。
【0050】
図9は、坐骨神経切除後の筋肉量変化(即ち筋肉の萎縮)を示すグラフである。本試験では、マウスの右下肢をSham、左下肢に坐骨神経切除を行った。解剖時の左右の筋肉質量で比較して筋肉量変化は、筋肉質量をSham群で除算することで評価した。グラフは、Shamを1とする相対的な値で示した。グラフの算出に使用した測定結果を表5に示す。
【0051】
【0052】
コントロールでは29.9%萎縮(={(0.077-0.054)/0.077}×100)、比較例1では23.4%萎縮したのに対し、実施例2では20.0%萎縮にとどまった。従って、本開示のサルコペニア抑制食品を摂取することで、手軽に筋萎縮を抑制できることが確認できた。
【0053】
・評価(蛍光画像に基づく筋肉増強評価)
筋肉の分化過程では、未分化な筋芽細胞が融合して、多核細胞である筋管細胞に分化し、さらに成熟した筋管細胞から収縮能を持つ筋繊維が形成され、筋肉が形成される。本試験では、本開示のサルコペニア抑制食品の添加による筋芽細胞から筋管細胞への分化能を評価した。分化能が大きいほど、筋肉が増強され易いといえる。
【0054】
まず、細胞播種として、培養培地で24穴プレートにC2C12細胞を5×104cells/wellずつ播種した。次いで分化誘導として、24時間後、分化培地に交換し、IGF-1、実施例1の発酵液、又は比較例4の抽出液(以下、これらを纏めて検体という)を添加した。IGF-1の添加量は100ng、実施例1の発酵液は、48時間発酵させたもの(本開示のサルコペニア抑制食品)、比較例4の抽出液は、アメリカ人参の乾燥粉末の熱水抽出液である。更に、24時間後、培地交換し、検体を1度目と同様に培地に添加した。更に、48時間後、培地交換し、検体を1度目と同様に添加した。24時間経過した後、免疫染色(MHC,DAPI)を行い、蛍光顕微鏡で観察した。
【0055】
図10は、筋肉増強の評価結果を示す蛍光画像である。
図10において、「コントロール」(C)は、本開示のサルコペニア抑制食品及びIGF-1の何れも添加しないもの、「IGF-1」(I)は、IGF-1を100ng添加したものである。「未処理液(10μg)」(比較例4)は、比較例4の抽出液を10μg添加したもの、「発酵液(10μg)」(実施例1)は、実施例1の発酵液を10μg添加したものである。
【0056】
各図において、白色又は薄いグレーの部分(以下、白色等の部分という。蛍光画像における蛍光色の部分)の面積が大きいほど筋管が多く、筋肉が増強されたと判断できる。Cと比較例4とを比べると、白色等の部分は同じように分散している。一方で、Iに示すように、IGF-1の添加により白色等の部分が増え、筋肉が増強されたことがわかる。実施例1に示すように、本開示のサルコペニア抑制食品を添加した場合、IほどではないがC及び比較例4よりも、白色等の部分が増えたことがわかる。
【0057】
図11は、筋肉増強の評価結果を示す筋肉量を示すグラフである。下記表6に、測定された面積を示し、
図11は、表6をグラフ化したものである。
【0058】
【0059】
実施例1及び比較例4は、それぞれ、10μgを添加した。比較例4は、測定誤差を考慮するとCとほぼ同じであり、比較例4に筋肉増強効果は存在しないと判断できる。一方で、実施例1では、Iほどではないが、比較例4及びIよりも有意に筋肉量に増加が認められた。従って、本開示のサルコペニア抑制食品及び本開示の筋肉増強食品には、筋肉増強効果が存在することが確認できた。
【0060】
・評価(筋肉増強効果、筋肉分化マーカの確認)
筋肉分化マーカ(MyoD)の発現量を測定した。培養培地で直径60mmシャーレに2.5×105cellsずつ接種したこと以外は「・評価(蛍光画像に基づく筋肉増強評価)」と同様にして細胞播種及び分化誘導を行った。筋肉分化マーカの発現量測定は、RT-PCRを用いて行った。
【0061】
図12は、筋肉分化マーカの発現量を示すグラフである。下記表7に、測定された発現量を示し、
図12は、表7をグラフ化したものである。数値が大きいほど、筋肉分化が進行したと判断できる。
【0062】
【0063】
測定誤差を考慮すると、比較例4とCとはほぼ同じであり、添加による分化マーカの増加は無かったと考えられる。しかし、実施例1の発酵液10μgの添加の場合、分化マーカの有意な増加が認められた。このため、上記の
図11の結果とともに、本開示のサルコペニア抑制食品及び本開示の筋肉増強食品には、筋肉増強効果が存在することが確認できた。
【0064】
・評価(別の筋肉増強の効果確認試験)
本開示の筋肉増強食品として、上記実施例2の粉末を準備した。実験動物としてC57BL/6Jマウスを24匹用意し、8匹ずつにグループ分けした。それぞれのグループに対して、同じ粉末飼料を用いて、3質量%の割合で実施例2の粉末を混ぜた飼料、3質量%の割合で比較例1の粉末(発酵させていないアメリカ人参の粉末)を混ぜた飼料、及び、粉末飼料のみを、試験期間中に与えた。
【0065】
試験期間は、1週間の順化後、58日間とし、58日間では、試料はそれぞれマウスが自由に経口摂取できるようにした。58日の間、毎日体重及び握力を測定した。握力の測定は、マウスの刺激を与えることでマウスの前脚が引っ張った紐の引っ張り力を測定することで行い、各マウスについて3回ずつ行い、それらの平均値及び最大値を測定した。
【0066】
58日目に解剖し、筋肉質量及び脂肪質量を測定した。筋肉質量は、後肢の筋肉を前側及び後側に分けて採取し、それぞれの合計質量を測定した。前側の筋肉は、前脛骨筋、長趾伸筋及び長腓骨筋であり、後側の筋肉は腓腹筋及びヒラメ筋である。
【0067】
図13は、試験1日目のマウスの体重を示すグラフである。実施例2は、実施例2の粉末を混ぜた飼料を与えたマウス、比較例1は、比較例1の粉末を混ぜた飼料を与えたマウス、コントロールは、実施例2及び比較例1の何れの粉末も混ぜていない粉末飼料を与えたマウスである。以下、同様である。1日目において、実施例2のマウスは21.08g、比較例1のマウスは21.71g、コントロールのマウスは21.59gであった。
【0068】
図14は、試験58日目のマウスの体重を示すグラフである。58日目において、実施例2のマウスは26.72g、比較例1のマウスは27.30g、コントロールのマウスは27.82gであった。
【0069】
図15は、試験期間中のマウスの体重変化を示すグラフである。四角のプロットは実施例2のマウスを表し、三角のプロットは比較例1のマウスを表し、丸のプロットはコントロールのマウスを表す。各プロットの意味は、以降のグラフにおいても同様である。いずれのマウスにも、試験期間中に体重増加が認められた。従って、実施例2の粉末又は比較例1の粉末を含む飼料は、何も混ぜていない通常のコントロールの飼料と同様に、日常的に摂取可能で、安全性にも優れることが確認できた。
【0070】
図16は、握力の平均値についての経時変化を示すグラフである。各グループには上記のように8匹ずつのマウスが含まれるため、
図16に示すグラフは、各グループにおいて8匹のマウスの平均値をグラフ化した。後記する
図18に示すグラフについても同様である。
【0071】
試験期間中、各マウスにおいて同様の傾向がみられた。具体的には、1日目から5日目迄に急激に握力が上昇した後、6日目以降は、ほぼ同程度の握力であった。各マウスの握力についての大小関係としては、15日目迄は概ね各マウスの握力は同程度であったが、16日目以降は、常に実施例2のマウスの握力が最も大きかった。比較例1のマウスの握力、及び、コントロールのマウスの握力については、概ね比較例1のマウスの握力が大きかった。しかし、49日目で、コントロールのマウスの握力の方が大きくなることがあった。このため、比較例1のマウスの握力とコントロールのマウスの握力との関係は安定せず、どちらが大きいとは一概にはいえないことが示唆された。
【0072】
図17は、握力の平均値について、58日目の結果を示すグラフである。実施例2のマウスの握力の平均値は0.135kg、比較例1のマウスの握力の平均値は0.127kg、コントロールのマウスの握力の平均値は0.117kgであった。この結果から、実施例2の飼料を58日間摂取したマウスの握力の平均値は、比較例1のマウス及びコントロールのマウスよりも大きくなることがわかる。特に、上記の
図16に示すグラフとともに検討すると、本開示の筋肉増強食品を経口摂取したマウスでは、握力の平均値は、安定的に大きくなることがわかる。
【0073】
図18は、握力の最大値についての経時変化を示すグラフである。各グループには上記のように8匹ずつのマウスが含まれるため、
図18に示すグラフは、各グループにおいて8匹のマウスの最大値をグラフ化した。
【0074】
図18に示すグラフにおいても、握力の最大値は、概ね、上記
図16に示した握力の平均値と同様の傾向を示した。34日目では、実施例2のマウスの握力は、比較例1のマウスの握力よりも低下した。しかし、35日目を含む35日目以降では、常に、実施例2のマウスの握力は、比較例1及びコントロールのマウスの握力よりも高くなった。一方で、比較例1及びコントロールのマウスの握力については、概ね比較例1のマウスの握力の方が大きかったが、概ね同程度であった。試験期間終盤の49日目では、コントロールのマウスの握力の方が大きくなったが、58日目には、再び比較例1のマウスの握力の方が大きくなった。
【0075】
図19は、握力の最大値について、58日目の結果を示すグラフである。実施例2のマウスの握力の平均値は0.148kg、比較例1のマウスの握力の平均値は0.142kg、コントロールのマウスの握力の平均値は0.133kgであった。この結果から、実施例2の飼料を58日間摂取したマウスの握力の最大値は、比較例1のマウス及びコントロールのマウスよりも大きくなることがわかる。特に、上記の
図18に示すグラフとともに検討すると、本開示の筋肉増強食品を経口摂取したマウスでは、握力の最大値は、安定的に大きくなることがわかる。
【0076】
握力は、瞬間的に、又は、たまたま、何らかの理由で大きくなることがあり得る。しかし、そのような現象が継続して生じることはない。
図16~
図19に示すように、本開示の筋肉増強食品を経口摂取することで、安定して継続的に筋肉を増強でき、この結果、握力が常に比較例1及びコントロールのマウスよりも高い状態を維持したと考えられる。
【0077】
図20は、前脛骨筋、長趾伸筋及び長腓骨筋の合計質量を示すグラフである。上記のように、これらの筋肉は、前側の筋肉である。各グループには上記のように8匹ずつのマウスが含まれるため、
図20に示すグラフは、各グループにおいて8匹のマウスの平均値をグラフ化した。
図20に示すグラフは、コントロールを1とした場合の相対的な値で示した。これらの点は、後記の
図21に及び
図22示すグラフについても同様である。実施例2のマウスの筋肉は1.069、比較例1のマウスの筋肉は0.988であった。
【0078】
図21は、腓腹筋及びヒラメ筋の合計質量を示すグラフである。上記のように、これらの筋肉は、後側の筋肉である。実施例2のマウスの筋肉質量は1.029、比較例1のマウスの筋肉質量は1.012であった。従って、実施例2のマウスの脂肪質量は、比較例1及びコントロールのマウスよりも大きかった。
【0079】
図20及び
図21に示すように、実施例2のマウスの筋肉は、前側及び後ろ側のそれぞれにおいて、比較例1及びコントロールのマウスよりも大きかった。この結果は、上記の
図16~
図19に示すように、実施例2のマウスの握力の平均値及び最大値が、比較例1及びコントロールのマウスよりも大きくなったことを裏付ける結果である。
【0080】
図22は、脂肪質量を示すグラフである。実施例2のマウスの脂肪質量は0.953であった。従って、実施例2のマウスの脂肪質量は、コントロールのマウスよりも減少した。筋肉が増えれば代謝が上がるため、脂肪量は増加する。このため、この結果は、上記の
図20及び
図21に示すように、実施例2のマウスの筋肉が、コントロールのマウスよりも増えたことを裏付ける結果である。
【0081】
以上のように、本開示の筋肉増強食品を経口摂取することで、筋肉量の増加も認められた。従って、本開示の筋肉増強食品によれば、サルコペニア抑制効果に加えて、筋肉増強効果を奏することもできる。
【符号の説明】
【0082】
S1 原料準備工程
S2 発酵工程
S3 性状調整工程