(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ゴム臭気の変調剤、ゴム臭気の変調方法、及びゴム臭気の変調装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/013 20060101AFI20231220BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20231220BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61L9/013
A61L9/14
C11B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020022752
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 肇
(72)【発明者】
【氏名】笠井 豪
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暁
(72)【発明者】
【氏名】光田 恵
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099718(JP,A)
【文献】特開昭50-160434(JP,A)
【文献】特開2019-128287(JP,A)
【文献】特開2019-189745(JP,A)
【文献】特開2012-180420(JP,A)
【文献】特開2005-160845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウッディ
調かつスパイシー調の香気成分を含む
ゴム臭気の変調剤であって、
ジュニパーベリーオイル、及びエストラゴンオイルからなる第1の群から選択される少なくとも1種と、
シナモンカッシア、ピンクペッパー抽出物、及びブラックペッパー抽出物からなる第2の群から選択される少なくとも1種と、
バニリン、及びヒノキ抽出物からなる第3の群から選択される少なくとも1種と、を含むことを特徴とする、ゴム臭気の変調剤。
【請求項2】
ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンを含む臭気に対する感覚的消臭効果を有する、請求項1に記載のゴム臭気の変調剤。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のゴム臭気の変調剤を用いることを特徴とする、ゴム臭気の変調方法。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のゴム臭気の変調剤を有し、該ゴム臭気の変調剤を噴霧する噴霧手段を具えることを特徴とする、ゴム臭気の変調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム臭気の変調剤、ゴム臭気の変調方法、及びゴム臭気の変調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴム等のゴムを、タイヤをはじめとする各種ゴム製品に用いる場合に生じる腐敗臭や刺激臭を和らげる為に、香料、特には、特定の香気成分をマスキング剤として用いる技術が知られている。
例えば、下記特許文献1には、香料を含むゴム組成物が開示されており、該ゴム組成物中の香料が、香りを発生することによりゴム組成物特有の臭いを和らげることが開示さている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、天然ゴム等のゴム特有の臭いを低減する効果が十分ではなく、依然として改良の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、ゴム臭気を効果的に低減することが可能な、ゴム臭気の変調剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、ゴム臭気を効果的に低減することが可能な、ゴム臭気の変調方法、及びゴム臭気の変調装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0007】
本発明のゴム臭気の変調剤は、ウッディ・スパイシー調の香気成分を含むことを特徴とする。
かかる本発明のゴム臭気の変調剤は、ゴム臭気を効果的に低減することができる。
【0008】
本発明のゴム臭気の変調剤は、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンを含む臭気に対する感覚的消臭効果を有することが好ましい。この場合、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。
【0009】
本発明のゴム臭気の変調剤は、ジュニパーベリーオイル、及びエストラゴンオイルからなる第1の群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、スパイシー調の香りを形成し易くなり、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。
【0010】
本発明のゴム臭気の変調剤は、シナモンカッシア、ピンクペッパー抽出物、及びブラックペッパー抽出物からなる第2の群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合も、スパイシー調の香りを形成し易くなり、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。
【0011】
本発明のゴム臭気の変調剤は、バニリン、及びヒノキ抽出物からなる第3の群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、ウッディ調の香りを形成し易くなり、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。
【0012】
本発明のゴム臭気の変調方法は、上記の変調剤を用いることを特徴とする。かかる本発明のゴム臭気の変調方法は、ゴム臭気を効果的に低減することができる。
【0013】
本発明のゴム臭気の変調装置は、上記のゴム臭気の変調剤を有し、該ゴム臭気の変調剤を噴霧する噴霧手段を具えることを特徴とする。かかる本発明のゴム臭気の変調装置は、ゴム臭気を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゴム臭気を効果的に低減することが可能な、ゴム臭気の変調剤を提供することができる。
また、本発明によれば、ゴム臭気を効果的に低減することが可能な、ゴム臭気の変調方法、及びゴム臭気の変調装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の臭気強度の評価結果を示すグラフである。
【
図2】天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の快・不快度の評価結果を示すグラフである。
【
図3】天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の非容認率の評価結果を示すグラフである。
【
図4】天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の臭いの質の評価結果を示すグラフである。
【
図5】天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1~3の臭いサンプルと、の臭気強度の評価結果を示すグラフである。
【
図6】天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1~3の臭いサンプルと、の快・不快度の評価結果を示すグラフである。
【
図7】天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1~3の臭いサンプルと、の非容認率の評価結果を示すグラフである。
【
図8】天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1の臭いサンプルと、の臭いの質の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のゴム臭気の変調剤、ゴム臭気の変調方法、及びゴム臭気の変調装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0017】
<ゴム臭気の変調剤>
本発明のゴム臭気の変調剤は、ウッディ・スパイシー調の香気成分を含むことを特徴とする。
ここで、「変調剤」とは、対象とする臭気と混合されて、対象とする臭気の変調により不快を和らげるものを言う。この現象は感覚的消臭とも言われる。
【0018】
本発明者らは、ゴムの中でも、腐敗臭や刺激臭が特に強い天然ゴムの臭気成分を鋭意検討した。天然ゴムの臭気成分としては、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンが臭気の主たる原因であることが知られているが、本発明者らは、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンからなる天然ゴム臭気の模擬臭を作製し、該模擬臭から各一臭気成分を抜いた寄与物質検討用サンプルを調製し、その官能評価を行ったところ、ギ酸及びn-吉草酸、特には、n-吉草酸が臭気の不快感に大きく影響していることを見出した。
この知見を基に、本発明者らは、更に検討を進めたところ、ウッディ・スパイシー調の香気成分を含む変調剤を、天然ゴム臭気の模擬臭に配合したところ、ゴム臭気の不快感が大きく和らげられ、ゴム臭気を効果的に低減できることを見出した。
ウッディ・スパイシー調の香気成分が、ゴム臭気の不快感を大きく和らげるメカニズムは必ずしも明らかではなく、理論に拘束されることを望むものではないが、ゴム臭気の中でも、前述のギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンの臭気、特には、ギ酸及びn-吉草酸の臭気が、ウッディ・スパイシー調の香気成分と組み合わされて、それらの臭気の不快感を和らげるものと考えられる。
従って、ウッディ・スパイシー調の香気成分を含む本発明のゴム臭気の変調剤によれば、ゴム臭気を効果的に低減することができる。
【0019】
前述の通り、ゴムの中でも、腐敗臭や刺激臭が特に強い天然ゴムの臭気成分の主たる原因は、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンであり、これに対して、本発明のゴム臭気の変調剤は、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンを含む臭気に対する感覚的消臭効果を有することが好ましい。変調剤は、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンを含む臭気に対する感覚的消臭効果を有することで、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンを含む臭気の不快感を和らげられ、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。
【0020】
本発明のゴム臭気の変調剤は、ウッディ・スパイシー調の香気成分を含むことを特徴とするが、かかるウッディ・スパイシー調の香気成分は、種々の香料を適宜配合することで調製できる。変調剤中の、香料の含有率は、使用する香料の香りの強度にもよるが、通常は、1~50質量%の範囲が好ましく、5~20質量%の範囲が更に好ましい。
【0021】
本発明のゴム臭気の変調剤は、ジュニパーベリーオイル、リナリルアセテート、及びエストラゴンオイルからなる第1の群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。変調剤が、第1の群から選択される少なくとも1種を含む場合、スパイシー調の香りを形成し易くなり、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。前記第1の群から選択される物質は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
本発明のゴム臭気の変調剤中の、前記第1の群から選択される物質の含有率(複数の物質を含む場合は、合計含有率)は、1~20質量%の範囲が好ましく、2~15質量%の範囲が更に好ましく、3~10質量%の範囲が特に好ましい。
【0022】
本発明のゴム臭気の変調剤は、シナモンカッシア(「シナニッケイ」とも呼ばれる)、ピンクペッパー抽出物、及びブラックペッパー抽出物からなる第2の群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。変調剤が、第2の群から選択される少なくとも1種を含む場合、スパイシー調の香りを形成し易くなり、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。前記第2の群から選択される物質は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
本発明のゴム臭気の変調剤中の、前記第2の群から選択される物質の含有率(複数の物質を含む場合は、合計含有率)は、0.1~10質量%の範囲が好ましく、0.5~5質量%の範囲が更に好ましく、0.7~3質量%の範囲が特に好ましい。
【0023】
本発明のゴム臭気の変調剤は、バニリン、及びヒノキ抽出物からなる第3の群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。変調剤が、第3の群から選択される少なくとも1種を含む場合、ウッディ調の香りを形成し易くなり、ゴム臭気をより効果的に低減することが可能となる。前記第3の群から選択される物質は、1種単独でもよいし、2種の組み合わせでもよい。
本発明のゴム臭気の変調剤中の、前記第3の群から選択される物質の含有率(複数の物質を含む場合は、合計含有率)は、0.5~15質量%の範囲が好ましく、1~8質量%の範囲が更に好ましく、1.5~5質量%の範囲が特に好ましい。
【0024】
本発明のゴム臭気の変調剤は、前記第1の群から選択される少なくとも1種と、前記第2の群から選択される少なくとも1種と、前記第3の群から選択される少なくとも1種と、を含むことが特に好ましい。変調剤が、前記第1の群から選択される少なくとも1種と、前記第2の群から選択される少なくとも1種と、前記第3の群から選択される少なくとも1種と、を含む場合、ウッディ・スパイシー調の香りが特に形成し易く、また、ゴム臭気をより一層効果的に低減することが可能となる。
ここで、第1の群から選択される物質と、第2の群から選択される物質と、第3の群から選択される物質と、の質量比(第1の群:第2の群:第3の群)は、第2の群から選択される物質を基準として、3~5:1:1~3の範囲が好ましい。
【0025】
上述の通り、ウッディ・スパイシー調の香気成分は、種々の香料を適宜配合することで調製できるが、本発明のゴム臭気の変調剤においては、単独でウッディ・スパイシー調の香気成分を含む香料を、1種単独で使用してもよい。
ここで、スパイシー調の香気成分を含む香料としては、β-カリオフィレン、シンナムアルデヒド、クミンアルデヒド、オイゲノール、イソオイゲノール、ペリルアルデヒド、カルダモン油、丁子油、ショウガ抽出物、黒コショウ抽出物、ベルガモット抽出物、シナモン抽出物、ナツメグ抽出物、クローブ抽出物等が挙げられる。
また、ウッディ調の香気成分を含む香料としては、アンバーコア、アンバーエクストリーム、アンブロキサン、バクダノール、セドランバー、セダノール、エバノール、ヒンジノール、ヒノキチオール、ジャバノール、ノーリンバノールデキストロ、オシロール、パッチョン、ポリアンブロール、α-ピネン、β-ピネン、サンダルマイソールコア、サンダロール、サンタレックスT、オルビトン、セダーウッド油、パチュリ油、ビャクダン油、ベチベル油、ヒノキ抽出物、ベチバー抽出物、アイビーリーフ抽出物等が挙げられる。
更には、上記のスパイシー調の香気成分を含む香料と、ウッディ調の香気成分を含む香料を混合して、ウッディ・スパイシー調の香気成分となるように調整して、使用してもよい。
【0026】
本発明のゴム臭気の変調剤は、上記香料成分の臭気強度を和らげるために、希釈剤(溶媒)を含んでもよい。該希釈剤としては、ジプロピレングリコール(DPG)、流動パラフィン、エタノール、プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチルフタレート、イソプロピルミリステート、トリエチルシトレート、ベンジルベンゾエート、ベンジルアセテート等が挙げられ、これらの中でも、ジプロピレングリコール(DPG)が好ましい。これら希釈剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
希釈剤を含む場合、変調剤中の、希釈剤の含有率は、50~99質量%の範囲が好ましく、80~95質量%の範囲が更に好ましい。
【0027】
本発明のゴム臭気の変調剤は、上述した香料、希釈剤(溶媒)の他、目的に応じて添加剤を含んでもよい。かかる添加剤としては、酸化防止剤等が挙げられる。
【0028】
本発明のゴム臭気の変調剤は、上述の通り、ゴムの中でも、腐敗臭や刺激臭が特に強い天然ゴムの臭気を効果的に低減できる。従って、本発明のゴム臭気の変調剤は、天然ゴムの他、種々のゴムの臭気の低減にも利用できる。
【0029】
<ゴム臭気の変調方法>
本発明のゴム臭気の変調方法は、上記のゴム臭気の変調剤を用いることを特徴とする。本発明のゴム臭気の変調方法においては、上述の変調剤を用いることで、ゴムの臭気を効果的に低減することができる。
前記変調剤の使用形態は、特に限定されるものではなく、一実施形態においては、ゴム臭気を含む気体や液体と、変調剤とを接触させて、ゴム臭気を低減する。例えば、ゴム臭気が放たれる工場の排気口、煙突等に、変調剤を噴霧することで、ゴム臭気の不快感を効果的に低減することが可能となる。
また、変調剤を含む浴を、ゴム臭気を含む気体が通過するようにして、ゴム臭気を含む気体と、変調剤とを接触させて、ゴム臭気を低減することもできる。
また、変調剤を洗浄液として、スクラバーに充填して、ゴム臭気を有する気体を、スクラバーを通過させるようにして、ゴム臭気を低減することもできる。
【0030】
<ゴム臭気の変調装置>
本発明のゴム臭気の変調装置は、上記のゴム臭気の変調剤を有し、該変調剤を噴霧する噴霧手段を具えることを特徴とする。本発明のゴム臭気の変調装置によれば、ゴムの臭気に対して、上述の変調剤を噴霧することで、ゴムの臭気を低減することができる。該ゴム臭気の変調装置は、前記ゴム臭気の変調剤を有するが、例えば、容器中に変調剤を収容し、該容器を、変調装置中の任意の位置に配置することができる。
また、前記噴霧手段としては、特に制限はなく、スプレー、シャワー等が挙げられる。
前記ゴム臭気の変調装置は、更に他の構成部品を具えてもよく、かかる構成部品としては、変調剤を収容する容器と噴霧手段とを連結する流路、噴霧手段からの変調剤の噴霧量を制御する制御手段(流量調節機、温度調節機等)等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
<1.ゴム臭気寄与物質の検討>
(1)天然ゴム臭気の模擬臭の調製
ゴムの中でも、腐敗臭や刺激臭が特に強い天然ゴムの臭気成分として、ギ酸、n-吉草酸、トリメチルアミン、及び2-ピロリドンが知られているが、各化学物質の臭気への寄与度を検討した。
まず、表1に示す配合処方の臭気組成物を調製した。該臭気組成物は、臭気が強すぎるため、該臭気組成物を流動パラフィンで10倍希釈し、臭気強度3に調整して、天然ゴム臭気の模擬臭を作製した。
【0033】
【0034】
(2)寄与物質検討用サンプルの調製
上記模擬臭の作製に使用した物質から、1物質ずつ除いたサンプルを調製し、上記模擬臭と同様に流動パラフィンで希釈して、寄与物質検討用サンプルを作製した。
【0035】
(3)臭気強度、快・不快度、容認性、臭いの質の評価
臭気強度を調整した天然ゴムの模擬臭と、各寄与物質検討用サンプルと、のそれぞれを臭い紙に付着させ、臭気強度、快・不快度、容認性、臭いの質をパネルに評価してもらった。
各評価においては、パネル選定試験に合格した18~19歳の男女26名をパネルとした。
図1に、天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の臭気強度の評価結果を示す。
また、
図2に、天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の快・不快度の評価結果を示す。
また、
図3に、天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の非容認率の評価結果を示す。
更に、
図4に、天然ゴム臭気の模擬臭と、寄与物質検討用サンプルと、の臭いの質の評価結果を示す。
【0036】
図1から、n-吉草酸を除くことで、1段階以上臭気強度が下がることが分かる。
また、
図2から、ギ酸、又はn-吉草酸を除くことで、1段階以上不快度が改善することが分かる。
これらの結果から、n-吉草酸は、臭気強度、快・不快度において、天然ゴム臭気の模擬臭への寄与が最も高く、天然ゴム臭気の臭気強度、不快度に対する寄与が特に大きいことが分かる。
【0037】
また、
図3から、天然ゴム臭気の模擬臭からギ酸、又はn-吉草酸を除くことで、非容認率が25%前後まで低下することが分かる。この結果から、ギ酸、n-吉草酸は、非容認性においても、天然ゴム臭気の模擬臭への寄与が特に高いことが分かる。
【0038】
また、
図4から、ギ酸、又はn-吉草酸を除いたサンプルと、トリメチルアミン、又は2-ピロリドンを除いたサンプルとでは、臭いの質が異なることが分かる。
特に、ギ酸、又はn-吉草酸を除くと、刺激臭、イソ吉草酸、腐敗臭、糞臭等の不快な評価が少なくなることから、ギ酸、n-吉草酸は、天然ゴム臭気の模擬臭の臭いの質、特には、模擬臭の中の、刺激臭、イソ吉草酸、腐敗臭、糞臭等の不快な臭いに対する寄与も大きいことが分かる。
【0039】
<2.感覚的消臭実験>
(1)臭いサンプルの調製
表2に示す配合処方の臭いサンプルを調製し、上記の天然ゴム臭気の模擬臭の感覚的消臭実験を行った。
なお、比較対象である強度調整をした前記天然ゴム臭気の模擬臭と、各臭いサンプルに含まれる模擬臭の割合を合わせるため、模擬臭10.0%、香料90.0%の割合で作製した。この内、香料90.0%が変調剤に相当し、いずれも主としてスパイシー調の香調を有しており、より程度は低いもののウッディ調の香調も有していた。
ここで、「割合」は、「質量の割合」を意味する。
【0040】
【0041】
*1 天然ゴム模擬臭組成物: 表1に示す配合の組成物
*2 ジュニパーベリーオイル: ジュニパーベリーオイルを10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*3 リナリルアセテート: リナリルアセテートを10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*4 エストラゴンオイル: エストラゴンオイルを10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*5 シナモンカッシア: シナモンカッシアを10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*6 ピンクペッパー抽出物: ピンクペッパー抽出物を10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*7 ブラックペッパー抽出物: ブラックペッパー抽出物を10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*8 バニリン: バニリンを10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
*9 ヒノキ抽出物: ヒノキ抽出物を10質量%の濃度で、ジプロピレングリコール(DPG)に希釈したもの
【0042】
(2)臭気強度、快・不快度、容認性、臭いの質の評価
臭気強度を調整した天然ゴム臭気の模擬臭と、天然ゴム臭気の模擬臭を用いて調香を行った各臭いサンプルと、市販の消臭剤(シキボウ株式会社製、商品名「デオマジック」)を用いて調香を行った臭いサンプルと、に対して官能評価実験を行った。臭い紙に各サンプルを付着させ、臭気強度、快・不快度、容認性、臭いの質をパネルに評価してもらい、更に、臭いから感じたことを、自由記述してもらった。
各評価においては、パネル選定試験に合格した18~19歳の男女25名をパネルとした。
図5に、天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1~3の臭いサンプルと、の臭気強度の評価結果を示す。
また、
図6に、天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1~3の臭いサンプルと、の快・不快度の評価結果を示す。
また、
図7に、天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1~3の臭いサンプルと、の非容認率の評価結果を示す。
更に、
図8に、天然ゴム臭気の模擬臭と、市販の消臭剤を用いたサンプルと、実施例1の臭いサンプルと、の臭いの質の評価結果を示す。
【0043】
図6から、実施例1~3の臭いサンプルは、臭気強度を調整した天然ゴム臭気の模擬臭と比較して、1段階以上不快度が改善することが分かる。また、実施例1~3の臭いサンプルは、芳香消臭脱臭剤協議会の判定基準を満たしていた。
また、
図7から、実施例1~3の臭いサンプルは、非容認率が約20%まで下がることが分かり、日本建築学会臭気規準である非容認率20%以下の基準まで改善できることが分かる。
これらの結果から、本発明に従うゴム臭気の変調剤は、天然ゴム臭気の模擬臭の快・不快度の軽減に加え、非容認率の低下にも有効であることが分かる。
【0044】
また、
図8から、天然ゴム臭気の模擬臭と、快・不快度において効果の高かった実施例1の臭いサンプルを比較したところ、悪臭を思わせる臭い質から、爽快感を思わせる臭い質へと変化しており、臭いの質の改善が見られた。
特に、実施例1の臭いサンプルは、刺激臭、イソ吉草酸、腐敗臭、糞臭等の不快な評価が少なく、上述のギ酸、n-吉草酸の影響を和らげられていることが分かる。
【0045】
(3)パネラーによる自由記述の分類
更に、パネラーの自由記述を、「菓子」、「ナッツ」等の食べられる表現と、「フローラル」、「ウッディ」等の自然的な表現に分類した。結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
表3に示すように、市販の消臭剤を用いたサンプルでは、自然的な表現は少なく、食べられる表現が多かったのに対し、実施例1の臭いサンプルでは、食べられる表現と自然的な表現が同程度見られ、特徴が異なることが分かった。特に、実施例1の臭いサンプルでは、自然的な表現が多かったことから、本発明に従うゴム臭気の変調剤は、工場からの排気を、自然に感じられるようにするのに有効であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の変調剤は、ゴム臭気の低減に利用できる。