(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2018169638
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野澤 有司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千比呂
(72)【発明者】
【氏名】加茂 考史
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180111(JP,A)
【文献】特開2011-027715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/12
3/13-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系と、
前記光源からの光を案内して参照光とする参照光学系と、
前記参照光学系の光路長と前記測定光学系の光路長とが一致するゼロ点からの光路長が所定の長さに調整されており、前記光源からの光を案内して異常検出光とする異常検出光学系と、
前記測定光学系により導かれた前記反射光と前記参照光学系により案内された前記参照光とを合波した測定用干渉光と、前記異常検出光学系により案内された前記異常検出光と前記参照光学系により案内された前記参照光とを合波した異常検出用干渉光とを受光する受光素子と、
演算装置と、を備えており、
前記光路長は、前記被検眼の測定領域の範囲外となるように設定されており、
前記測定領域は、前記被検眼の角膜前面から網膜まで
であり、
前記受光素子は、前記異常検出用干渉光から異常検出用干渉信号を前記演算装置に出力し、
前記演算装置は、
フーリエ変換した前記異常検出用干渉信号の波形の深さ方向の位置が所定範囲外である場合、及び、フーリエ変換した前記異常検出用干渉信号の波形の形状が、異常が生じていないときに前記所定の長さと対応する位置に検出される正常なピーク形状と異なっている場合、の少なくとも一方に該当するとき、前記異常検出用干渉光が異常であると判定し、
前記異常検出用干渉光が異常であると判定したときに、前記受光素子で受光した前記測定用干渉光が異常であると判定する、眼科装置。
【請求項2】
前記演算装置は、
前記フーリエ変換した異常検出用干渉信号の波形のピークの深さ方向の位置を検出し、
検出された前記フーリエ変換した異常検出用干渉信号の深さ方向の位置が、前記所定の長さと対応する深さ方向の位置に基づいて決定される所定範囲外であるときに、前記受光素子で受光した前記異常検出用干渉光及び前記測定用干渉光を異常と判定する、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記演算装置は、
前記フーリエ変換した異常検出用干渉信号のピーク形状を検出し、
検出された前記フーリエ変換した異常検出用干渉信号のピーク形状が、異常が生じていないときに前記所定の長さと対応する位置に検出される正常なピーク形状と異なっているときに、前記受光素子で受光した前記異常検出用干渉光及び前記測定用干渉光を異常と判定する、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記演算装置は、
前記前記異常検出用干渉信号の前記ピーク形状の高さを検出し、
検出された前記異常検出用干渉信号の前記ピーク形状の高さが、前記正常なピーク形状の高さに基づいて決定される所定範囲外であるときに、前記受光素子で受光した前記異常検出用干渉光及び前記測定用干渉光を異常と判定する、請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記演算装置は、
前記前記異常検出用干渉信号の前記ピーク形状の幅を検出し、
検出された前記異常検出用干渉信号の前記ピーク形状の幅が、前記正常なピーク形状の幅と異なっているときに、前記受光素子で受光した前記異常検出用干渉光及び前記測定用干渉光を異常と判定する、請求項3に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、眼科装置に関する。詳細には、光干渉を用いて被検眼を測定する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の内部の断層画像を撮影する眼科装置が開発されている。例えば、特許文献1に記載の眼科装置は、光源からの光を被検眼の内部に照射すると共にその反射光を導く測定光学系と、光源からの光を参照面に照射すると共にその反射光を導く参照光学系を備えている。測定の際には、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた反射光とを合波した干渉光から、被検眼の断層画像を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような眼科装置を用いて被検眼を測定する際には、干渉光から得られる干渉信号に異常が生じることがある。これは、例えば、振動や衝撃等によって干渉信号に異常が生じたり、光源を駆動する電流の変化や光源の温度が変化することによって発振波長が変化(いわゆる、モードホップ)したりする場合を挙げることができる。このような異常が生じている状態では、被検眼を正確に測定することができない。しかしながら、被検眼を測定した測定光からの干渉信号が正常な状態と比較して乱れている場合に、撮影状態に問題があるために異常が生じたのか、被検眼に病変等の異常あるために干渉信号が乱れているのかを判別することが難しいという問題があった。本明細書は、被検眼の測定時に撮影状態に異常が生じていたか否かを判別する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する眼科装置は、光源と、光源からの光を被検眼に照射すると共に被検眼からの反射光を導く測定光学系と、光源からの光を案内して参照光とする参照光学系と、光路長が所定の長さに調整されており、光源からの光を案内して異常検出光とする異常検出光学系と、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により案内された参照光とを合波した測定用干渉光と、異常検出光学系により案内された異常検出光と参照光学系により案内された参照光とを合波した異常検出用干渉光とを受光する受光素子と、異常検出用干渉光を受光したときに受光素子から出力される異常検出用干渉信号の波形に基づいて、受光素子で受光した測定用干渉光の異常を判定する演算装置と、を備えている。
【0006】
上記の眼科装置では、測定光学系とは別個に異常検出光学系を備えることによって、被検眼を測定する際に測定用干渉光と同時に異常検出用干渉光が生成される。異常検出光学系の光路長は既知であるため、異常検出用干渉光による信号と測定用干渉光による信号とを区別することができる。また、異常検出用干渉光は被検眼の状態とは関係がなく既知であるため、その信号波形に基づいて異常検出用干渉光に異常が生じているか否かを判定することができる。測定用干渉光と異常検出用干渉光は同時に取得されるため、異常検出用干渉光の異常を検出することによって、測定時の撮影状態の異常を判定することができ、これによって、測定用干渉光にも異常があると判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例に係る眼科装置の光学系の概略構成を示す図。
【
図2】実施例に係る眼科装置の制御系を示すブロック図。
【
図3】ゼロ点と参照光路長と測定光路長と異常検出光路長との関係の一例を示す図。
【
図4】被検眼を測定したときの測定状態の異常を検出する処理の一例を示すフローチャート。
【
図5】干渉信号波形を処理する手順を説明するための図。
【
図6】異常検出用干渉信号のピーク形状を示す図であり、(a)は異常検出用干渉信号が正常である場合のピーク形状を示し、(b)は異常検出用干渉信号が異常である場合のピーク形状の一例を示す。
【
図7】ゼロ点と参照光路長と測定光路長と異常検出光路長との関係の他の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0009】
(特徴1)本明細書が開示する眼科装置では、受光素子は、異常検出用干渉光から異常検出用干渉信号を演算装置に出力してもよい。演算装置は、異常検出用干渉信号の深さ方向の位置及び波形の形状の少なくとも一方が所定範囲外であるときに、受光素子で受光した異常検出用干渉光及び測定用干渉光を異常と判定してもよい。このような構成によると、被検眼の測定時において、撮影状態に異常が生じていると、異常検出用干渉信号の深さ方向の位置にずれが生じたり、異常検出用干渉信号の波形の形状に乱れが生じたりする。このため、異常検出用干渉信号が所定範囲外であるときに、撮影状態が異常であると判定することができ、受光した干渉光(異常検出用干渉光及び測定用干渉光)に異常が生じていると判定することができる。
【実施例】
【0010】
以下、実施例に係る眼科装置1について説明する。
図1に示すように、眼科装置1は、被検眼100を検査するための測定部10を備えている。測定部10は、被検眼100から反射される反射光と参照光とを干渉させる干渉光学系14と、被検眼100の前眼部を観察する観察光学系50と、被検眼100に対して測定部10を所定の位置関係にアライメントするためのアライメント光学系(図示省略)を有している。アライメント光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
【0011】
干渉光学系14は、光源装置12と、測定光学系と、参照光学系と、異常検出光学系と、受光素子26によって構成されている。測定光学系は、光源装置12からの光を被検眼100の内部に照射すると共にその反射光を導く光学系である。参照光学系は、光源装置12からの光を参照面22aに照射すると共にその反射光を導く光学系である。異常検出光学系は、光源装置12からの光を反射面70aに照射すると共にその反射光を導く光学系である。受光素子26は、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した測定用干渉光と、異常検出光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した異常検出用干渉光とを受光する。
【0012】
光源装置12は、波長掃引型の光源装置であり、出射される光の波長が所定の周期で変化するようになっている。光源装置12から出射される光の波長が変化すると、出射される光の波長に対応して、被検眼100の深さ方向の各部位から反射される光のうち参照光と干渉を生じる反射光の反射位置が被検眼100の深さ方向に変化する。このため、出射される光の波長を変化させながら干渉光を測定することで、被検眼100の内部の各部位(すなわち、水晶体104や網膜106)の位置を特定することが可能となる。
【0013】
測定光学系は、ビームスプリッタ24と、ビームスプリッタ28と、焦点調整機構40と、ガルバノスキャナ46と、ホットミラー48によって構成されている。光源装置12から出射された光は、ビームスプリッタ24、ビームスプリッタ28、焦点調整機構40、ガルバノスキャナ46、及びホットミラー48を介して被検眼100に照射される。被検眼100からの反射光は、ホットミラー48、ガルバノスキャナ46、焦点調整機構40、ビームスプリッタ28、及びビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。
【0014】
焦点調整機構40は、光源装置12側に配置される凸レンズ42と、被検眼100側に配置される凸レンズ44と、凸レンズ42に対して凸レンズ44を光軸方向に進退動させる第2駆動装置56(
図2に図示)を備えている。凸レンズ42と凸レンズ44は、光軸上に配置され、入射する平行光の焦点の位置を変化させる。第2駆動装置56が凸レンズ44を
図1の矢印Aの方向に駆動することで、被検眼100に照射される光の焦点の位置が被検眼100の深さ方向に変化し、被検眼100に照射される光の焦点の位置が調整される。
【0015】
ガルバノスキャナ46は、ガルバノミラー46aと、ガルバノミラー46aを傾動させる第3駆動装置58(
図2参照)を備えている。第3駆動装置58がガルバノミラー46aを傾動することで、被検眼100への測定光の照射位置が走査される。
【0016】
参照光学系は、ビームスプリッタ24と、参照ミラー22によって構成されている。光源装置12から出射された光の一部は、ビームスプリッタ24で反射され、参照ミラー22の参照面22aに照射され、参照ミラー22の参照面22aによって反射される。参照ミラー22で反射された光は、ビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。参照ミラー22とビームスプリッタ24と受光素子26は、干渉計20内に配置され、その位置が固定されている。このため、本実施例の眼科装置1では、参照光学系の参照光路長は一定で変化しない。
【0017】
異常検出光学系は、ビームスプリッタ24と、ビームスプリッタ28と、ミラー70によって構成されている。光源装置12から出射された光は、ビームスプリッタ24を介してビームスプリッタ28で反射され、ミラー70の反射面70aに照射され、ミラー70の反射面70aで反射される。ミラー70で反射された光は、ビームスプリッタ28及びビームスプリッタ24を介して受光素子26に導かれる。本実施例の眼科装置1では、ミラー70の配置位置は固定されている。このため、異常検出光学系により導かれる光(以下、異常検出光ともいう)の光路長は一定で変化しない。
【0018】
また、
図3に示すように、異常検出光学系は、ゼロ点を基準にしてミラー70の位置が設定されており、ゼロ点を被検眼100より光源装置12側の位置に設定した場合に、ゼロ点からの光路長L1が、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定されている。ここで、ゼロ点とは、参照光学系の光路長(参照光路長)と測定光学系の光路長(測定光路長)とが同一となる点を意味する。本実施例では、ゼロ点の位置は所定の位置(例えば、角膜102の前面からわずかに光源装置12側にずれた位置)に設定されている。異常検出光学系のゼロ点からの光路長L1を、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定することによって、ミラー70の反射面70aが被検眼100の測定領域(角膜102前面から網膜106までの領域)に重なることなく検出される。このため、反射面70aの位置を容易に特定することができる。
【0019】
受光素子26は、参照光学系により導かれた光と測定光学系により導かれた光とを合成した測定用干渉光と、参照光学系による導かれた光と異常検出光学系により導かれた光とを合成した異常検出用干渉光を検出する。受光素子26は、測定用干渉光と異常検出用干渉光を受光すると、それに応じた干渉信号を出力する。すなわち、測定用干渉光による信号(測定用干渉信号)と、異常検出用干渉光による信号(異常検出用干渉信号)を出力する。これらの信号は、演算装置64に入力される。受光素子26としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0020】
観察光学系50は、被検眼100にホットミラー48を介して観察光を照射すると共に、被検眼100から反射される反射光(すなわち、照射された観察光の反射光)を撮影する。ここで、ホットミラー48は、光源装置12からの光を反射する一方で、観察光学系50の光源装置からの光を透過する。このため、本実施例の眼科装置1では、干渉光学系14による測定と、観察光学系50による前眼部の観察を同時に行うことができる。なお、観察光学系50には、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な構成については説明を省略する。
【0021】
なお、本実施例の眼科装置1では、被検眼100に対して測定部10の位置を調整するための位置調整機構16(
図2に図示)と、その位置調整機構16を駆動する第1駆動装置54(
図2に図示)を備えている。第1駆動装置54を駆動することで、被検眼100に対する測定部10の位置が調整される。
【0022】
次に、本実施例の眼科装置1の制御系の構成を説明する。
図2に示すように、眼科装置1は演算装置64によって制御される。演算装置64は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。演算装置64には、光源装置12と、第1~第3駆動装置54~58と、モニタ62と、観察光学系50が接続されている。演算装置64は、光源装置12のオン/オフを制御し、第1~第3駆動装置54~58を制御することで位置調整機構16、焦点調整機構40、ガルバノスキャナ46を駆動し、また、観察光学系50を制御して観察光学系50で撮像される前眼部像をモニタ62に表示する。
【0023】
また、演算装置64には、受光素子26が接続され、受光素子26で検出される干渉光(すなわち、測定用干渉光及び異常検出用干渉光)の強度に応じた干渉信号が入力する。演算装置64は、受光素子26からの干渉信号をフーリエ変換することによって、被検眼100の各部位(角膜102の前後面、水晶体104の前後面、網膜106の表面)及びミラー70の反射面70aの位置を特定し、これらを用いて被検眼100の眼軸長を算出する。
【0024】
次に、実施例に係る眼科装置1を用いて、被検眼100を測定したときの測定状態の異常を検出する処理について説明する。被検眼100を測定する際に、例えば、眼科装置1に振動や衝撃等が発生することによって干渉信号に異常が生じたり、光源装置12を駆動する電流の変化や光源装置12の温度が変化することによって発振波長が変化(いわゆる、モードホップ)したりすると、干渉光から得られる干渉信号に異常が生じる。したがって、このような異常が生じている状態では、被検眼100を正確に測定することができず、このような状態で被検眼100を測定したデータを用いて断層画像を生成しても、被検眼100の状態を正確に把握することができない。本実施例の眼科装置1は、上記のような測定時の異常を検出し、異常が生じている状態で測定したデータを排除して、正常な状態で測定したデータのみを用いて断層画像を生成する。以下に、
図3~
図6を参照して、被検眼100を測定したときの測定状態の異常を検出する処理について説明する。
【0025】
図4に示すように、まず、演算装置64は、干渉信号(すなわち、測定用干渉信号と異常検出用干渉信号)を取得する(S12)。干渉信号の取得は、以下の手順で行われる。まず、検査者は図示しないジョイスティック等の操作部材を操作して、被検眼100に対して測定部10の位置合わせを行う。すなわち、演算装置64は、検査者の操作部材の操作に応じて、第1駆動装置54により位置調整機構16を駆動する。これによって、被検眼100に対する測定部10のxy方向(縦横方向)の位置とz方向(進退動する方向)の位置が調整される。また、演算装置64は、第2駆動装置56を駆動して、焦点調整機構40を調整する。これによって、光源12から被検眼100に照射される光の焦点の位置が被検眼100の所定の位置(例えば、角膜102の前面)となる。
【0026】
次いで、演算装置64は、光源装置12から照射される光の周波数を変化させながら、受光素子26で検出される信号を取り込む。上述したように、受光素子26から出力される干渉信号は、
図5に示すように、信号強度が時間によって変化する信号となり、この信号には被検眼100の各部(角膜102の前面及び後面、水晶体104の前面及び後面、網膜106の表面)及びミラー70の反射面70aから反射された各反射光と参照光とを合成した干渉波による信号が含まれている。そこで、演算装置64は、受光素子26から入力する信号をフーリエ変換することで、その信号から被検眼100の各部(角膜102の前面及び後面、水晶体104の前面及び後面、網膜106の表面)及び反射面70aから反射された反射光による干渉信号成分を分離する(
図5の下段のグラフ参照)。これにより、演算装置64は、被検眼100の各部の位置及び反射面70aの位置を特定することができる。
【0027】
干渉信号を取得すると、演算装置64は、異常検出用干渉信号(すなわち、反射面70aから反射された反射光と参照光とを合成した干渉波による信号)が正常であるか否かを判定する(S14)。上述したように、異常検出光の光路長は一定で変化しない。このため、
図5に示すように、フーリエ変換後の異常検出用干渉信号は、常に一定の深さ方向の位置に検出される。また、異常検出光学系のゼロ点からの光路長L1は、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定されている(
図3参照)。これによって、反射面70aの位置は、被検眼100の測定領域の範囲外(詳細には、測定領域より深い位置)に検出される。このため、測定用干渉信号と異常検出用干渉信号を含む干渉信号をフーリエ変換することで、これら干渉信号の中から、異常検出用干渉信号を特定することができる。そして、演算装置64は、特定した異常検出用干渉信号(詳細には、フーリエ変換後の信号波形、例えば、点像分布関数信号波形)の深さ方向の位置と波形の形状(以下、ピーク形状ともいう)が正常であるか否かを判断することによって、異常検出用干渉信号が正常であるか否かを判定する。
【0028】
詳細には、演算装置64は、異常検出用干渉信号の深さ方向の位置が所定範囲内であり、かつ、異常検出用干渉信号のピーク形状のピークの高さ及び幅が所定範囲内である場合(
図6(a)参照)、異常検出用干渉信号が正常であると判定する。一方、演算装置64は、異常検出用干渉信号の深さ方向の位置が所定範囲外である場合や、異常検出用干渉信号のピーク形状のピークの高さ又は幅が所定範囲外である場合(
図6(b)参照)、異常検出用干渉信号が異常であると判定する。具体的には、異常検出用干渉信号の深さ方向の位置が所定範囲外の場合は、異常検出用干渉信号のピーク形状が正常であるか否かにかかわらず、異常検出用干渉信号が異常であると判定される。一方、異常検出用干渉信号の深さ方向の位置が所定範囲である場合は、異常検出用干渉信号のピーク形状(ピーク高さ及び幅)に基づいて異常検出用干渉信号が異常か否かが判定される。例えば、異常検出用干渉信号のピーク形状のピークの高さが所定範囲であっても、ピーク形状の幅が所定範囲外の場合は、異常検出用干渉信号が異常であると判定される。同様に、異常検出用干渉信号のピーク形状の幅が所定範囲であっても、ピーク形状のピークの高さが所定範囲外の場合は、異常検出用干渉信号が異常であると判定される。なお、深さ方向の位置やピーク形状に関する上記の「所定範囲」は特に限定されるものではなく、適宜選択できる。
【0029】
異常検出用干渉信号が正常ではない(異常である)と判定された場合(ステップS14でNO)、演算装置64は、ステップS12で取得した全ての干渉信号(すなわち、測定用干渉信号及び異常検出用干渉信号)が異常であると判定する(S16)。本実施例の眼科装置1を用いて正常な状態で測定された場合、フーリエ変換後の異常検出用干渉信号は、既知の深さ方向の位置に既知のピーク形状で検出される。換言すると、フーリエ変換後の異常検出用干渉信号が正常に検出されない場合には、何らかの原因(例えば、振動や衝撃、モードホップ等)によって眼科装置1による測定が正常に行われなかったと判断できる。このように測定時に異常が生じると、異常検出用干渉信号だけでなく、同時に取得された測定用干渉信号も正常に測定されていないと判断できる。したがって、演算装置64は、異常検出用干渉信号が異常であると判定したとき(ステップS14でNO)、測定用干渉信号も異常であると判定する。そして、演算装置64は、異常と判定した全ての干渉信号(測定用干渉信号及び異常検出用干渉信号)のデータを廃棄する(S18)。
【0030】
一方、異常検出用干渉信号が正常であると判定した場合(ステップS14でYES)、演算装置64は、ステップS12で取得した全ての干渉信号(すなわち、測定用干渉信号及び異常検出用干渉信号)が正常に測定されたと判定する(S20)。すなわち、フーリエ変換後の異常検出用干渉信号が正常に検出されているため、正常な状態で測定されたと判断される。これによって、この異常検出用干渉信号と同時に取得された測定用干渉信号についても、正常な状態で測定されたものであると判定される。そして、演算装置64は、全ての干渉信号(測定用干渉信号及び異常検出用干渉信号)のデータをメモリ(図示省略)に記憶する(S22)。
【0031】
上記の処理は各走査角において実行される。これによって、異常が生じている状態で測定されたデータは廃棄されるため、正常な状態で測定したデータのみで構成される断層画像を生成することができる。断層画像内に異常な状態で測定されたデータが含まれていると、断層画像内に歪みが生じる。このような歪みがあると、被検眼100の状態を正確に評価し難くなる。異常な状態で測定されたデータを排除して断層画像を生成することによって、測定状態の異常に起因する歪みを排除することができ、被検眼100の状態を正確に評価することができる。
【0032】
なお、本実施例では、ゼロ点を被検眼100より光源装置12側の位置に設定し、異常検出光学系のゼロ点からの光路長L1は、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも長くなるように設定されていたが、このような構成に限定されない。反射面70aの位置が、被検眼100の測定領域の範囲外に検出されるように構成されていればよく、例えば、異常検出光学系のゼロ点からの光路長は、ゼロ点から被検眼100の角膜102までの距離よりも短くなるように設定されていてもよい。また、ゼロ点を被検眼100に対して光源装置12から離れる位置に設定し、異常検出光学系のゼロ点からの光路長L2が、ゼロ点から被検眼100の角膜102までの距離よりも長くなるように設定してもよいし(
図7参照)、ゼロ点から被検眼100の網膜106までの距離よりも短くなるように設定してもよい。また、異常検出光学系の光路長は、光源装置12からゼロ点までの距離より長くなるように設定してもよいし、光源装置12からゼロ点までの距離より短くなる位置に設定してもよい。例えば、異常検出光学系の光路長がゼロ点から光路長L1分だけ長くなるように(
図3に示す位置に)設定してもよいし、ゼロ点から同じ光路長L1分だけ短くなるように設定してもよい。いずれの場合であっても、ゼロ点からの距離が同じであるため、取得されたデータでは異常検出用干渉信号は同じ位置に検出される。
【0033】
また、本実施例では、ゼロ点の位置とミラー70の位置は予め設定された位置に固定されていたが、このような構成に限定されない。反射面70aの位置が被検眼100の測定領域の範囲外に検出されるように構成されていればよく、例えば、ゼロ点の位置が調整可能に構成されていると共に、ミラー70の位置が調整可能に構成されていてもよい。このような場合であっても、ゼロ点の位置の調整後に、ゼロ点を基準としてミラー70の位置を調整して、異常検出光学系のゼロ点からの光路長を上述したような所定の長さに設定することによって、反射面70aの位置を容易に特定することができる。
【0034】
また、本実施例の眼科装置1は、異常検出光学系がミラー70を備えていたが、このような構成に限定されない。異常検出光学系が光路長が既知の異常検出光を導くように構成されていればよく、例えば、異常検出光学系は、ファイバ長が予め所定長さに調整された光ファイバを用いて、光路長が既知の異常検出光を導くように構成されていてもよい。また、異常検出光学系には、ミラー70を配置する代わりに、散乱体を配置してもよい。異常検出光学系に散乱体を配置することによって、異常検出光の軸ずれを抑制することができる。
【0035】
また、本実施例では、取得した干渉信号が正常であるか否かを判断し、異常と判断されたデータを廃棄していたが、このような構成に限定されない。例えば、演算装置64は、各走査角における全ての干渉信号を取得(記憶)した後に、各走査角における干渉信号がそれぞれ正常であるか否かを判定してもよい。この場合、異常と判断されたデータについても廃棄せず、異常と判断されたデータを用いずに、正常と判断されたデータのみを選択して断層画像を生成してもよい。
【0036】
また、本実施例では、眼科装置1が備える演算装置64が上記の異常検出処理を実行するように構成されていたが、このような構成に限定されない。例えば、外部の演算装置に本実施例の眼科装置1で取得した干渉信号のデータを入力し、当該演算装置において異常検出処理を実行して断層画像を生成してもよい。
【0037】
また、本実施例の眼科装置1は、波長掃引型の光源装置12を備えたフーリエドメイン方式(SS-OCT方式)の眼科装置であったが、このような構成に限定されない。例えば、眼科装置は、スペクトルドメイン方式(SD-OCT方式)であってもよいし、タイムドメイン方式(TD-OCT方式)であってもよい。
【0038】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1:眼科装置
10:測定部
12:光源装置
14:干渉光学系
16:位置調整機構
22:参照ミラー
26:受光素子
40:焦点調整機構
46:ガルバノスキャナ
50:観察光学系
64:演算装置
70:ミラー
100:被検眼