(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】X線検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/087 20180101AFI20231220BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20231220BHJP
G01G 9/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01N23/087
G01N23/04
G01G9/00
(21)【出願番号】P 2019048143
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-02-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000147833
【氏名又は名称】株式会社イシダ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180851
【氏名又は名称】▲高▼口 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】杉本 一幸
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-141176(JP,A)
【文献】特許第5297206(JP,B2)
【文献】特開2018-141736(JP,A)
【文献】特開2010-145135(JP,A)
【文献】特開2003-139723(JP,A)
【文献】特開2009-294209(JP,A)
【文献】特開2018-155544(JP,A)
【文献】特開2018-105697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0023697(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01G 9/00
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品にX線を照射する照射部と、
前記物品を透過した複数のエネルギー帯の各々のX線を検出する検出部と、
前記エネルギー帯毎の前記X線の検出結果に基づいて前記エネルギー帯毎のX線透過画像を生成する生成部と、
前記エネルギー帯毎のX線透過画像に基づいて、前記エネルギー帯毎の前記物品の質量の第1推定値を取得する第1推定部と、
前記エネルギー帯毎の前記第1推定値に基づいて、前記物品の質量の第2推定値を取得する第2推定部と、
を備え
、
前記第2推定部は、
前記エネルギー帯毎の前記第1推定値間の対比に基づくパラメータに基づいて、前記複数のエネルギー帯のうちの一のエネルギー帯に対応する前記第1推定値に対する補正量を取得し、
前記補正量に基づいて前記一のエネルギー帯に対応する前記第1推定値を補正することにより、前記第2推定値を取得する、X線検査装置。
【請求項2】
前記第2推定部は、前記エネルギー帯毎の前記第1推定値間の対比に基づくパラメータと適正補正量との関係を規定する関係情報を用いることにより、前記エネルギー帯毎の前記第1推定値間の対比に基づくパラメータに対応する前記適正補正量を前記補正量として取得する、請求項
1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記関係情報は、前記物品と同種の物品である複数のサンプルの各々についての前記エネルギー帯毎の前記第1推定値間の対比に基づくパラメータと適正補正量とを含む教師データを用いた機械学習により生成された学習済みモデルであり、
前記第2推定部は、前記関係情報に前記エネルギー帯毎の前記第1推定値間の対比に基づくパラメータを入力することにより、前記関係情報により出力される前記適正補正量の推定値を前記補正量として取得する、請求項
2に記載のX線検査装置。
【請求項4】
X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品にX線を照射する照射部と、
前記物品を透過した複数のエネルギー帯の各々のX線を検出する検出部と、
前記エネルギー帯毎の前記X線の検出結果に基づいて前記エネルギー帯毎のX線透過画像を生成する生成部と、
前記エネルギー帯毎のX線透過画像に基づいて、前記エネルギー帯毎の前記物品の質量の第1推定値を取得する第1推定部と、
前記エネルギー帯毎の前記第1推定値に基づいて、前記物品の質量の第2推定値を取得する第2推定部と、
を備え、
前記第2推定部は、推定モデルに前記エネルギー帯毎の前記第1推定値を入力することにより、前記推定モデルにより出力される前記物品の質量の推定値を前記第2推定値として取得し、
前記推定モデルは、前記物品と同種の物品である複数のサンプルの各々についての前記エネルギー帯毎の前記第1推定値と前記サンプルの質量値とを含む教師データを用いた機械学習により生成された学習済みモデルである
、X線検査装置。
【請求項5】
前記第2推定値が予め定められた適正範囲内であるか否かを判定する判定部を更に備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載のX線検査装置。
【請求項6】
前記X線透過画像に複数の前記物品が含まれている場合に、ラベリング処理により複数の前記物品を区別して認識する認識部を更に備え、
前記第1推定部は、前記物品毎に前記第1推定値を取得し、
前記第2推定部は、前記物品毎に前記第2推定値を取得する、請求項1~
5のいずれか一項に記載のX線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象の物品に対してX線を照射し、当該物品を透過したX線の検出結果(X線透過画像)に基づいて、当該物品の質量を推定(算出)する装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。このような装置は、X線透過画像において物品の厚みが大きい部分ほど暗く写るという性質を利用して、X線透過画像に含まれる単位領域当たりの明るさ(輝度値等)に基づいて物品の質量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5297206号公報
【文献】特許第5148285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、検査対象の物品がX線に対する特性の異なる複数の成分を含有すると共にその成分比率に個体差(ばらつき)がある物品である場合、上記の質量推定方法では、比較的大きい誤差が生じる場合がある。このような物品の具体例としては、脂肪部分と肉(赤身)部分とを含む物品(例えば鶏の唐揚げ等)が挙げられる。
【0005】
そこで、本開示は、X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品の質量を精度良く推定することができるX線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るX線検査装置は、X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品にX線を照射する照射部と、物品を透過した複数のエネルギー帯の各々のX線を検出する検出部と、エネルギー帯毎のX線の検出結果に基づいてエネルギー帯毎のX線透過画像を生成する生成部と、エネルギー帯毎のX線透過画像に基づいて、エネルギー帯毎の物品の質量の第1推定値を取得する第1推定部と、エネルギー帯毎の第1推定値に基づいて、物品の質量の第2推定値を取得する第2推定部と、を備える。
【0007】
仮に2つの物品間で一のエネルギー帯についての第1推定値が一致する場合であっても、当該第1推定値が、一方の物品については精度の高い推定値(すなわち、当該一方の物品の真の質量値からのずれが比較的小さい値)である一方で、他方の物品については精度の低い推定値(すなわち、当該他方の物品の真の質量値からのずれが比較的大きい値)であるという状況が生じ得る。これは、X線に対する特性の異なる複数の成分の比率に関して、上記2つの物品間で個体差があることに起因する。従って、このような物品の質量を精度良く推定するためには、当該物品に含まれる複数の成分の比率を考慮する必要がある。しかし、一のエネルギー帯についての第1推定値のみからは、物品に含まれる複数の成分の比率に関する情報を得ることはできない。一方、複数のエネルギー帯の各々についての第1推定値間には、上記物品の成分の比率に応じた差が生じる。これは、X線に対する特性の異なる複数の成分間において、各エネルギー帯のX線の吸収率に差があることに起因する。
【0008】
そこで、上記X線検査装置は、複数のエネルギー帯の各々について得られたX線透過画像に基づいて、物品の質量の第1推定値をエネルギー帯毎に取得する。そして、上記X線検査装置は、複数のエネルギー帯についての第1推定値に基づいて、物品の質量の第2推定値を取得する。これにより、複数のエネルギー帯についての第1推定値に基づいて上記物品に含まれる複数の成分の比率が間接的に考慮された推定値(第2推定値)が、最終的な推定値として取得される。従って、上記X線検査装置によれば、X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品の質量を精度良く推定することができる。
【0009】
第2推定部は、エネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータに基づいて、複数のエネルギー帯のうちの一のエネルギー帯に対応する第1推定値に対する補正量を取得してもよく、補正量に基づいて一のエネルギー帯に対応する第1推定値を補正することにより、第2推定値を取得してもよい。これによれば、エネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータと一のエネルギー帯に対応する第1推定値の物品の真の質量値からの誤差との間の相関関係に基づいて、物品の質量を精度良く推定することができる。
【0010】
第2推定部は、エネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータと適正補正量との関係を規定する関係情報を用いることにより、エネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータに対応する適正補正量を補正量として取得してもよい。これによれば、予め用意された関係情報を用いることにより、物品の質量の最終的な推定値(第2推定値)を簡易に得ることができる。
【0011】
関係情報は、検査対象の物品と同種の物品である複数のサンプルの各々についてのエネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータと適正補正量とを含む教師データを用いた機械学習により生成された学習済みモデルであってもよい。第2推定部は、関係情報にエネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータを入力することにより、関係情報により出力される適正補正量の推定値を補正量として取得してもよい。これによれば、検査対象の物品と同種の物品である複数のサンプルについての教師データに基づいて予め用意された学習済みモデルを関係情報として用いることにより、物品の質量の最終的な推定値(第2推定値)を簡易かつ精度良く得ることができる。
【0012】
第2推定部は、推定モデルにエネルギー帯毎の第1推定値を入力することにより、推定モデルにより出力される物品の質量の推定値を第2推定値として取得してもよい。推定モデルは、検査対象の物品と同種の物品である複数のサンプルの各々についてのエネルギー帯毎の第1推定値とサンプルの質量値とを含む教師データを用いた機械学習により生成された学習済みモデルであってもよい。これによれば、エネルギー帯毎に得られた複数の第1推定値を推定モデルに入力するだけの処理によって、物品の質量の最終的な推定値(第2推定値)を簡易に得ることができる。
【0013】
上記X線検査装置は、第2推定値が予め定められた適正範囲内であるか否かを判定する判定部を更に備えてもよい。これによれば、物品の最終的な質量の推定値(第2推定値)に基づく物品の良否判定を行うことができる。このような判定結果は、例えば後段の工程において、物品の選別(例えば、第2推定値が適正範囲内でないと判定された物品の除外等)等に好適に利用され得る。
【0014】
上記X線検査装置は、X線透過画像に複数の物品が含まれている場合に、ラベリング処理により複数の物品を区別して認識する認識部を更に備えてもよい。第1推定部は、物品毎に第1推定値を取得してもよい。第2推定部は、物品毎に第2推定値を取得してもよい。これによれば、X線透過画像に複数の物品が含まれる場合において、個々の物品の質量を精度良く推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品の質量を精度良く推定することができるX線検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1に示されるシールドボックスの内部の構成図である。
【
図4】(A)は低エネルギー画像の一例であり、(B)は高エネルギー画像の一例である。
【
図5】線形回帰により得られる関係情報の一例を示す図である。
【
図6】X線検査装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。各図において同一又は相当の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1に示されるように、X線検査装置1は、装置本体2と、支持脚3と、シールドボックス4と、搬送部5と、X線照射部6(照射部)と、X線検出部7(検出部)と、表示操作部8と、制御部10と、を備えている。X線検査装置1は、物品Gを搬送しつつ物品GのX線透過画像を生成し、当該X線透過画像に基づいて物品Gの検査(例えば、収納数検査、異物混入検査、欠品検査、割れ欠け検査等)を行う。検査前の物品Gは、搬入コンベア51によってX線検査装置1に搬入される。検査後の物品Gは、搬出コンベア52によってX線検査装置1から搬出される。X線検査装置1によって不良品と判定された物品Gは、搬出コンベア52の下流に配置された振分装置(図示省略)によって生産ライン外に振り分けられる。X線検査装置1によって良品と判定された物品Gは、当該振分装置をそのまま通過する。
【0019】
装置本体2は、制御部10等を収容している。支持脚3は、装置本体2を支持している。シールドボックス4は、装置本体2に設けられている。シールドボックス4は、外部へのX線の漏洩を防止する。シールドボックス4の内部には、X線による物品Gの検査が実施される検査領域Rが設けられている。シールドボックス4には、搬入口4a及び搬出口4bが形成されている。検査前の物品Gは、搬入コンベア51から搬入口4aを介して検査領域Rに搬入される。検査後の物品Gは、検査領域Rから搬出口4bを介して搬出コンベア52に搬出される。搬入口4a及び搬出口4bのそれぞれには、X線の漏洩を防止するX線遮蔽カーテン(図示省略)が設けられている。
【0020】
搬送部5は、シールドボックス4内に配置されている。搬送部5は、搬入口4aから検査領域Rを介して搬出口4bまで、搬送方向Aに沿って物品Gを搬送する。搬送部5は、例えば、搬入口4aと搬出口4bとの間に掛け渡されたベルトコンベアである。
【0021】
図1及び
図2に示されるように、X線照射部6は、シールドボックス4内に配置されている。X線照射部6は、搬送部5によって搬送される物品GにX線を照射する。X線照射部6は、例えば、X線を出射するX線管と、X線管から出射されたX線を搬送方向Aに垂直な面内において扇状に広げるコリメータと、を有している。X線照射部6から照射されるX線には、低エネルギー(長波長)から高エネルギー(短波長)までの様々なエネルギー帯のX線が含まれている。なお、上述した低エネルギー帯及び高エネルギー帯における「低」及び「高」は、X線照射部6から照射される複数のエネルギー帯の中で相対的に「低い」及び「高い」ことを示すものであり、特定の範囲を示すものではない。
【0022】
X線検出部7は、シールドボックス4内に配置されている。X線検出部7は、物品Gを透過した複数のエネルギー帯の各々のX線を検出する。本実施形態では、X線検出部7は、低エネルギー帯のX線及び高エネルギー帯のX線を検出するように構成されている。すなわち、X線検出部7は、第1ラインセンサ11と、第2ラインセンサ12と、を有している。第1ラインセンサ11及び第2ラインセンサ12は、それぞれ、搬送方向Aに垂直な水平方向に沿って一次元に配列されたX線検出素子によって構成されている。第1ラインセンサ11は、物品G及び搬送部5の搬送ベルトを透過した低エネルギー帯のX線を検出する。第2ラインセンサ12は、物品G、搬送部5の搬送ベルト及び第1ラインセンサ11を透過した高エネルギー帯のX線を検出する。
【0023】
図1に示されるように、表示操作部8は、装置本体2に設けられている。表示操作部8は、各種情報を表示すると共に、各種条件の入力を受け付ける。表示操作部8は、例えば、液晶ディスプレイであり、タッチパネルとしての操作画面を表示する。この場合、オペレータは、表示操作部8を介して各種条件を入力することができる。
【0024】
制御部10は、装置本体2内に配置されている。制御部10は、X線検査装置1の各部の動作を制御する。制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成されている。制御部10には、X線検出部7の第1ラインセンサ11から低エネルギー帯のX線の検出結果が入力されると共に、X線検出部7の第2ラインセンサ12から高エネルギー帯のX線の検出結果が入力される。
【0025】
図3に示されるように、制御部10は、生成部21と、認識部22と、変換テーブル生成部23と、変換テーブル記憶部24と、第1推定部25と、関係情報生成部26と、関係情報記憶部27と、第2推定部28と、判定部29と、を備えている。
【0026】
生成部21は、エネルギー帯毎のX線の検出結果に基づいてエネルギー帯毎のX線透過画像を生成する。本実施形態では、生成部21は、X線検出部7の第1ラインセンサ11による低エネルギー帯のX線の検出結果に基づいて、当該低エネルギー帯についてのX線透過画像(以下「低エネルギー画像」)を生成する。また、生成部21は、X線検出部7の第2ラインセンサ12による高エネルギー帯のX線の検出結果に基づいて、当該高エネルギー帯についてのX線透過画像(以下「高エネルギー画像」)を生成する。
【0027】
ここで、本実施形態では、
図2に示されるように、X線照射部6から照射されるX線は扇状に放射されると共に、X線照射部6から第1ラインセンサ11までの距離とX線照射部6から第2ラインセンサ12までの距離とが異なる。このため、低エネルギー画像における物品Gの大きさと高エネルギー画像における物品Gの大きさとが異なる。具体的には、高エネルギー画像における物品Gは、低エネルギー画像における物品Gよりも僅かに大きくなる。そこで、生成部21は、X線照射部6から第1ラインセンサ11までの距離(L1)とX線照射部6から第2ラインセンサ12までの距離(L2)との比(L2/L1)に基づいて、低エネルギー画像と高エネルギー画像とのスケールを合わせる処理を実施してもよい。例えば、生成部21は、低エネルギー画像を上記比で拡大してもよいし、高エネルギー画像を上記比の逆数(L1/L2)で縮小してもよい。
【0028】
図4の(A)は、生成部21の上述した処理によって生成された低エネルギー画像P1の一例であり、
図4の(B)は、生成部21の上述した処理によって生成された高エネルギー画像P2の一例である。低エネルギー画像P1は、比較的コントラストが高く、全体的に暗くなっている。一方、高エネルギー画像P2は、比較的コントラストが低く、全体的に明るくなっている。本実施形態では、1つのX線透過画像(低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2)に複数(ここでは一例として5つ)の物品Gが含まれている。例えば、複数の物品Gを袋詰めしたものを被検査物としてX線検査装置1に流す場合等に、1つのX線透過画像に複数の物品Gが含まれる。
【0029】
認識部22は、X線透過画像に複数の物品Gが含まれている場合に、ラベリング処理により複数の物品Gを区別して認識する。ラベリング処理には公知のアルゴリズムを用いることができる。例えば、ラベリング処理は、以下のようにして行われる。すなわち、認識部22は、低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2の一方(一例として低エネルギー画像P1)について、予め定められた閾値を用いて各画素の輝度値を二値化する。これにより、低エネルギー画像P1において、物品Gが占める範囲のみが白(又は黒)に対応する値に変換される。そして、認識部22は、白(又は黒)の部分が連続した画素に同じ番号を割り当てる処理を行う。そして、認識部22は、このように物品Gが占める範囲が認識された低エネルギー画像P1と高エネルギー画像P2とを重ね合わせることにより、高エネルギー画像P2において物品Gが占める範囲を認識する。これにより、
図4の例において、認識部22は、低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2において、複数(ここでは5つ)の物品Gを、互いに異なる物品G(すなわち、互いに異なる番号が割り当てられた物品)として認識する。なお、X線透過画像に1つの物品Gしか含まれていない場合においても、認識部22の上記処理により、X線透過画像において当該物品Gが占める範囲(画素)が特定される。
【0030】
変換テーブル生成部23は、低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2の各々についての変換テーブルを生成する。低エネルギー画像P1用の変換テーブルm1(a)は、低エネルギー画像P1において物品Gに対応する各画素の明るさa(輝度値)から、単位領域(1画素)毎の推定質量m1を算出するための情報である。一方、高エネルギー画像P2用の変換テーブルm2(a)は、高エネルギー画像P2において物品Gに対応する各画素の明るさa(輝度値)から、単位領域(1画素)毎の推定質量m2を算出するための情報である。以下、X線透過画像(低エネルギー画像P1又は高エネルギー画像P2)用の変換テーブルm(a)を生成する方法の一例について説明する。以下の説明において、「X線透過画像」を「低エネルギー画像P1」と読み替えた場合に生成される変換テーブルm(a)が、低エネルギー画像P1用の変換テーブルm1(a)に相当し、「X線透過画像」を「高エネルギー画像P2」と読み替えた場合に生成される変換テーブルm(a)が、高エネルギー画像P2用の変換テーブルm2(a)に相当する。
【0031】
まず、変換テーブル生成部23は、上述した生成部21及び認識部22の機能を利用することにより、予め質量が把握されている複数(例えば10個)の物品(検査対象の物品Gと同種の物品)についてのX線透過画像を取得する。
【0032】
続いて、変換テーブル生成部23は、上述のように取得されたX線透過画像における物品に対応する単位領域(1画素)毎の明るさaから、当該単位領域における推定質量mを算出するための下記式(1)に基づいて、変換テーブルm(a)を生成する。
m(a)=ct=-c/μ×ln(I/a)=-αln(I/a) ・・・(1)
(ただし、m:推定質量、c:物品の厚さを質量に変換するための係数、t:物質の厚さ、I:物品がないときの明るさ、μ:線吸収係数)
【0033】
変換テーブル生成部23は、例えば表示操作部8を介して入力された10個の物品の各々の実際の質量と、上記変換テーブルによって求められる各単位領域の推定質量を合計した合計推定質量とを比較し、合計推定質量が実際の質量に近くなるように変換テーブルを調整する。このような変換テーブルの調整には、公知の手法(例えば特許第5297206号に記載の手法等)を用いることができる。
【0034】
変換テーブル生成部23により生成された低エネルギー画像P1用の変換テーブルm1(a)及び高エネルギー画像P2用の変換テーブルm2(a)は、後述する第1推定部25から参照可能となるように、変換テーブル記憶部24に記憶される。
【0035】
第1推定部25は、エネルギー帯毎のX線透過画像に基づいて、エネルギー帯毎の物品Gの質量の第1推定値を取得する。本実施形態では、第1推定部25は、低エネルギー画像P1に基づいて、低エネルギー帯に基づく物品Gの質量の第1推定値M1を取得し、高エネルギー画像P2に基づいて、高エネルギー帯に基づく物品Gの質量の第1推定値M2を取得する。
図4の例のようにX線透過画像に複数の物品Gが含まれる場合、第1推定部25は、認識部22のラベリング処理の結果を参照することにより、物品G毎に個別に第1推定値M1,M2を取得する。すなわち、第1推定部25は、推定対象となる1つの物品G(以下「対象物品」)を選択し、当該対象物品の第1推定値M1,M2を取得する処理を、複数の物品Gの各々の第1推定値M1,M2を取得するまで繰り返す。以下、対象物品の第1推定値M1,M2を取得する処理について説明する。
【0036】
第1推定部25は、以下のようにして対象物品の第1推定値M1を取得する。まず、第1推定部25は、認識部22のラベリング処理の結果を参照することにより、低エネルギー画像P1において対象物品が占める領域に含まれる画素(すなわち、対象物品に対応する番号が割り当てられた画素)を抽出する。そして、第1推定部25は、抽出された画素毎に、変換テーブル記憶部24に記憶された変換テーブルm1(a)に当該画素の明るさaを代入することにより、画素毎の推定質量を取得する。そして、第1推定部25は、このように取得された各画素の推定質量の和を求めることにより、対象物品の第1推定値M1を取得する。
【0037】
また、第1推定部25は、以下のようにして対象物品の第1推定値M2を取得する。まず、第1推定部25は、認識部22のラベリング処理の結果を参照することにより、高エネルギー画像P2において対象物品が占める領域に含まれる画素(すなわち、対象物品に対応する番号が割り当てられた画素)を抽出する。そして、第1推定部25は、抽出された画素毎に、変換テーブル記憶部24に記憶された変換テーブルm2(a)に当該画素の明るさaを代入することにより、画素毎の推定質量を取得する。そして、第1推定部25は、このように取得された各画素の推定質量の和を求めることにより、対象物品の第1推定値M2を取得する。
【0038】
ここで、検査対象となる物品GがX線に対する特性(例えばエネルギー帯毎のX線の吸収率等)の異なる複数の成分を含有する場合について考える。このような物品Gの具体例としては、例えば、互いにX線に対する特性の異なる複数の部分(例えば、肉部分、皮部分、衣部分等)を含む物品(例えば鶏の唐揚げ等)が挙げられる。本発明者は、このような場合について、物品Gの質量を簡易かつ精度良く推定する手法について鋭意研究を行った結果、以下のような知見を得た。
【0039】
仮に2つの物品G(以下「物品G1」及び「物品G2」と表す。)間で一のエネルギー帯(本実施形態では、低エネルギー帯又は高エネルギー帯)についての第1推定値(第1推定値M1又は第1推定値M2)が一致したとしても、当該第1推定値が、一方の物品G1については精度の高い推定値(すなわち、当該一方の物品G1の真の質量値からのずれが比較的小さい値)である一方で、他方の物品G2については精度の低い推定値(すなわち、当該他方の物品G2の真の質量値からのずれが比較的大きい値)であるという状況が生じ得る。これは、X線に対する特性の異なる複数の成分の比率(以下単に「成分比率」という。)に関して、上記2つの物品G1,G2間で個体差があることに起因する。すなわち、上記例では、物品G1の成分比率は、第1推定部25による一のエネルギー帯に基づく推定処理によって精度良く推定できる成分比率となっている一方で、物品G2の成分比率は、第1推定部25による一のエネルギー帯に基づく推定処理によって精度良く推定できる成分比率となっていない。このように、一のエネルギー帯についての物品Gの第1推定値と物品Gの真の質量値との間には、物品Gの成分比率に応じた誤差Eが生じる。
【0040】
従って、このような物品Gの質量を精度良く推定するためには、当該物品Gの成分比率を考慮する必要がある。しかし、一のエネルギー帯についての第1推定値のみからは、物品Gの成分比率に関する情報を得ることはできない。一方、複数のエネルギー帯の各々についての物品Gの第1推定値間(本実施形態では、低エネルギー帯についての第1推定値M1と高エネルギー帯についての第1推定値M2との間)には、物品Gの成分比率に応じた差が生じる。これは、X線に対する特性の異なる複数の成分間において、各エネルギー帯のX線の吸収率に差があることに起因する。
【0041】
以上を整理すると、上記誤差Eは、物品Gの成分比率に応じて生じる。つまり、上記誤差Eと物品Gの成分比率との間には相関がある。そして、複数のエネルギー帯の各々についての第1推定値間の差も、物品Gの成分比率に応じて生じる。つまり、複数のエネルギー帯の各々についての第1推定値間の差と物品Gの成分比率との間にも相関がある。従って、上記誤差Eと複数のエネルギー帯の各々についての第1推定値間の差との間にも相関があるといえる。
【0042】
上記知見に基づいて、X線検査装置1は、第1推定値M1と第1推定値M2との差(対比に基づくパラメータ)に基づいて物品Gの推定値(第1推定値M1又は第1推定値M2)を補正することにより、より精度の良い物品Gの質量の推定値(第2推定値M3)を取得するように構成されている。すなわち、X線検査装置1は、第1推定値M1,M2から第2推定値M3を取得するための構成として、関係情報生成部26、関係情報記憶部27、及び第2推定部28を備えている。
【0043】
関係情報生成部26は、第1推定値M1と第1推定値M2との差と適正補正量との関係を規定する関係情報を生成する。適正補正量とは、一のエネルギー帯についての第1推定値(第1推定値M1又は第1推定値M2)と物品Gの真の質量値との差を埋めるための補正量(すなわち、「真の質量値-第1推定値M1」又は「真の質量値-第1推定値M2」)である。
【0044】
関係情報生成部26は、検査対象の物品Gと同種の物品である複数のサンプルの測定値に基づいて、関係情報を生成する。例えば、関係情報生成部26は、各サンプルについて、真の質量値Mrと第1推定部25により得られる第1推定値M1及び第1推定値M2とを取得する。そして、関係情報生成部26は、各サンプルについて、第1推定値M1と第1推定値M2との差(ここでは一例として、「第1推定値M2-第1推定値M1」)を説明変数とし、適正補正量(ここでは一例として、「質量値Mr-第1推定値M1」)を目的変数とするサンプルデータSを取得する。そして、関係情報生成部26は、このようなサンプルデータSを教師データとして用いた機械学習を行うことにより、学習済みモデルとしての関係情報を取得する。
【0045】
図5に示されるように、本実施形態では一例として、関係情報生成部26は、複数のサンプルデータSに基づく回帰分析(ここでは一例として線形回帰)を上記機械学習として実行することにより、下記式(2)に示される回帰式R(回帰直線)を学習済みモデルとして取得する。下記式(2)において、Xは上記差「第1推定値M2-第1推定値M1」に対応する説明変数である。Yは上記適正補正量「質量値Mr-第1推定値M1」に対応する目的変数である。Aは回帰式Rの傾きを示すパラメータである。Bは回帰式Rの切片を示すパラメータである。この場合、当該回帰式RのパラメータA,Bの組み合わせが、上記学習済みモデルを構成するパラメータに対応する。
Y=AX+B ・・・(2)
【0046】
関係情報生成部26により生成された関係情報は、後述する第2推定部28から参照可能となるように、関係情報記憶部27に記憶される。
【0047】
第2推定部28は、エネルギー帯毎の第1推定値に基づいて、物品Gの質量の第2推定値M3を取得する。
図4の例のようにX線透過画像に複数の物品Gが含まれる場合、第2推定部28は、認識部22のラベリング処理の結果を参照することにより、物品G毎に個別に第2推定値M3を取得する。すなわち、第2推定部28は、第1推定部25と同様に、推定対象となる1つの物品G(対象物品)を選択し、当該対象物品の第2推定値M3を取得する処理を、複数の物品Gの各々の第2推定値M3を取得するまで繰り返す。以下、対象物品の第2推定値M3を取得する処理について説明する。
【0048】
第2推定部28は、対象物品の低エネルギー帯についての第1推定値M1と高エネルギー帯についての第1推定値M2とに基づいて、対象物品の第2推定値M3を取得する。具体的には、第2推定部28は、エネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差(本実施形態では、「第1推定値M2-第1推定値M1」)に基づいて、複数のエネルギー帯のうちの一のエネルギー帯(本実施形態では、低エネルギー帯)に対応する第1推定値M1に対する補正量を取得する。そして、第2推定部28は、上記補正量に基づいて低エネルギー帯に対応する第1推定値M1を補正することにより、第2推定値M3を取得する。
【0049】
本実施形態では、第2推定部28は、関係情報生成部26に記憶された関係情報(回帰式R)を用いることにより、上記差「第1推定値M2-第1推定値M1」に対応する適正補正量を上記補正量として取得する。具体的には、第2推定部28は、上記式(2)により示される回帰式Rの説明変数Xに上記差「第1推定値M2-第1推定値M1」を入力することにより、回帰式Rにより出力される目的変数Y(すなわち、適正補正量の推定値)を上記補正量として取得する。そして、第2推定部28は、第1推定値M1に上記補正量を加算することにより、第2推定値M3を取得する。
【0050】
判定部29は、第2推定部28により得られた物品Gの第2推定値M3が予め定められた適正範囲内であるか否かを判定する。ここで、物品G毎に質量値の適正範囲が予め定められている場合には、判定部29は、物品G毎に、第2推定値M3が上記適正範囲内であるか否かを判定してもよい。そして、判定部29は、第2推定値M3が上記適正範囲内にない物品Gを不良品と判定してもよい。このような判定結果は、例えば、上述した振分装置(図示省略)に通知される。これにより、判定部29によって不良品と判定された物品Gを、当該振分装置によって生産ライン外に適切に振り分けることができる。
【0051】
また、袋詰め商品のように複数の物品Gをひとまとめにした商品単位での質量値の適正範囲が予め定められている場合には、判定部29は、当該複数の物品Gの各々の第2推定値M3の和を算出し、上記和が上記適正範囲内であるか否かを判定してもよい。そして、判定部29は、上記和が上記適正範囲内にない商品を不良品と判定してもよい。この場合、複数の物品Gを含む商品単位で、上述した振分装置による振り分け制御を実施することができる。
【0052】
次に、
図6を参照して、X線検査装置1の動作の一例について説明する。ステップS1の処理は、検査対象の物品Gの質量の最終的な推定値(第2推定値M3)を取得するために必要な情報(変換テーブル及び関係情報)を準備するための処理である。ステップS2~S8の処理は、検査対象の物品G(物品Gが複数存在する場合には各物品G)の第2推定値M3を取得するための処理である。ステップS9の処理は、第2推定値M3に基づいて物品Gの良否判定を行う処理である。ステップS1の処理は、変換テーブル及び関係情報が用意されていない場合にのみ実行されればよく、既に変換テーブル及び関係情報が変換テーブル記憶部24及び関係情報記憶部27に記憶されている場合には省略され得る。以下、各ステップの処理について説明する。
【0053】
ステップS1において、変換テーブル(本実施形態では、低エネルギー画像P1用の変換テーブルm1(a)及び高エネルギー画像P2用の変換テーブルm2(a))と関係情報(本実施形態では、上記式(2)で示される回帰式R)とが生成される。具体的には、変換テーブル生成部23が、予め質量が把握されている複数の物品(検査対象の物品Gと同種の物品)についての低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2に基づいて、変換テーブルm1(a)及び変換テーブルm2(a)を生成する。生成された変換テーブルm1(a)及び変換テーブルm2(a)は、変換テーブル記憶部24に記憶される。また、関係情報生成部26が、検査対象の物品Gと同種の物品である複数のサンプルの測定値(質量値Mr、第1推定値M1、及び第1推定値M2)に基づいて、関係情報を生成する。生成された関係情報は、関係情報記憶部27に記憶される。
【0054】
ステップS2において、検査対象の物品Gが、搬入コンベア51から搬入口4aを介して検査領域Rに搬入される(
図1参照)。そして、X線照射部6が当該物品GにX線を照射し、X線検出部7が当該物品Gを透過した複数のエネルギー帯の各々のX線を検出する。本実施形態では、X線検出部7の第1ラインセンサ11によって低エネルギー帯のX線が検出され、X線検出部7の第2ラインセンサ12によって高エネルギー帯のX線が検出される(
図2参照)。
【0055】
ステップS3において、生成部21は、第1ラインセンサ11による低エネルギー帯のX線の検出結果に基づいて、低エネルギー画像P1を生成し、第2ラインセンサ12による高エネルギー帯のX線の検出結果に基づいて、高エネルギー画像P2を生成する(
図4参照)。
【0056】
ステップS4において、認識部22がX線透過画像(低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2)に対してラベリング処理を実行する。これにより、X線透過画像に複数の物品Gが含まれている場合には、X線透過画像に含まれる複数の物品Gが区別して認識される。
【0057】
ステップS5において、第1推定部25は、認識部22によるラベリング処理の結果を参照することにより、X線透過画像に含まれる物品Gのうちから対象物品を選択する。
【0058】
ステップS6において、第1推定部25は、低エネルギー画像P1用の変換テーブルm1(a)を用いることにより、対象物品の質量の第1推定値M1を取得すると共に、高エネルギー画像P2用の変換テーブルm2(a)を用いることにより、対象物品の質量の第1推定値M2を取得する。
【0059】
ステップS7において、第2推定部28は、対象物品の第1推定値M1、第1推定値M2、及び関係情報に基づいて、対象物品の質量の第2推定値M3を取得する。本実施形態では、第2推定部28は、第1推定値M1と第1推定値M2との差「第1推定値M2-第1推定値M1」を算出し、当該差を上記式(2)により示される回帰式Rの説明変数Xに入力することにより、回帰式Rにより出力される目的変数Yを補正量として取得する。そして、第2推定部28は、第1推定値M1に上記補正量を加算することにより、第2推定値M3を取得する。
【0060】
ステップS5~S7における第1推定部25及び第2推定部28の処理は、X線透過画像に含まれる全ての物品Gについて第2推定値M3が得られるまで繰り返し実行される(ステップS8:NO)。X線透過画像に含まれる全ての物品Gについて第2推定値M3が得られると(ステップS8:YES)、第1推定部25及び第2推定部28の処理は完了する。
【0061】
ステップS9において、判定部29は、第2推定部28により得られた物品Gの第2推定値M3に基づいて、物品G単位の良否判定又は複数の物品Gを含む商品単位の良否判定を実行する。上述したように、判定部29による判定結果は、搬出コンベア52の下流に配置された振分装置(図示省略)による振り分け制御等に用いられ得る。
【0062】
以上述べたX線検査装置1は、複数のエネルギー帯の各々について得られたX線透過画像(本実施形態では、低エネルギー画像P1及び高エネルギー画像P2)に基づいて、物品Gの質量の第1推定値M1,M2をエネルギー帯毎に取得する。そして、X線検査装置1は、複数のエネルギー帯についての第1推定値M1,M2に基づいて、物品Gの質量の第2推定値M3を取得する。これにより、複数のエネルギー帯についての第1推定値M1,M2に基づいて上記物品Gに含まれる複数の成分の比率が間接的に考慮された推定値(第2推定値M3)が、最終的な推定値として取得される。従って、X線検査装置1によれば、X線に対する特性の異なる複数の成分を含有する物品Gの質量を精度良く推定することができる。また、X線検査装置1では、物品Gに含まれる複数の成分の比率を具体的に特定する必要がないため、その分、コンピュータ等の計算資源の節約及び処理の高速化を図ることができる。
【0063】
また、第2推定部28は、エネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差(本実施形態では「第1推定値M2-第1推定値M1」)に基づいて、複数のエネルギー帯のうちの一のエネルギー帯(本実施形態では、低エネルギー帯)に対応する第1推定値M1に対する補正量を取得する。そして、第2推定部28は、当該補正量に基づいて第1推定値M1を補正することにより、第2推定値M3を取得する。これによれば、エネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差と一のエネルギー帯に対応する第1推定値M1の真の質量値からの誤差との間の相関関係に基づいて、物品Gの質量を精度良く推定することができる。
【0064】
また、第2推定部28は、エネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差と適正補正量との関係を規定する関係情報を用いることにより、エネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差に対応する適正補正量を補正量として取得する。これによれば、予め用意された関係情報を用いることにより、物品Gの質量の最終的な推定値(第2推定値M3)を簡易に得ることができる。
【0065】
また、関係情報は、検査対象の物品Gと同種の物品である複数のサンプルの各々についてのエネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差と適正補正量とを含む教師データを用いた機械学習(本実施形態では、線形回帰分析)により生成された学習済みモデル(本実施形態では、上記式(2)により示される回帰式R)である。そして、第2推定部28は、関係情報にエネルギー帯毎の第1推定値M1,M2間の差を入力することにより、関係情報により出力される適正補正量の推定値を補正量として取得する。これによれば、検査対象の物品Gと同種の物品である複数のサンプルについての教師データに基づいて予め用意された学習済みモデルを関係情報として用いることにより、物品Gの質量の最終的な推定値(第2推定値M3)を簡易かつ精度良く得ることができる。
【0066】
また、X線検査装置1は、第2推定値M3が予め定められた適正範囲内であるか否かを判定する判定部29を備えている。これによれば、物品Gの最終的な質量の推定値(第2推定値M3)に基づく物品Gの良否判定を行うことができる。このような判定結果は、例えば後段の工程において、物品Gの選別(例えば、第2推定値M3が適正範囲内でないと判定された物品Gの除外等)等に好適に利用され得る。
【0067】
また、X線検査装置1は、X線透過画像に複数の物品Gが含まれている場合に、ラベリング処理により複数の物品Gを区別して認識する認識部22を備えている。そして、第1推定部25は、物品G毎に第1推定値M1,M2を取得し、第2推定部28は、物品G毎に第2推定値M3を取得する。これによれば、X線透過画像に複数の物品Gが含まれる場合において、個々の物品Gの質量を精度良く推定することができる。
【0068】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態に限定されない。
【0069】
例えば、上記実施形態では、関係情報の例として機械学習の一種である線形回帰分析によって得られる回帰式(回帰式R)を示したが、関係情報は、線形回帰分析以外の機械学習によって得られる学習済みモデルであってもよい。例えば、関係情報は、非線形回帰分析によって得られる学習済みモデルであってもよい。つまり、上記実施形態において、説明変数である差「第1推定値M2-第1推定値M1」と適正補正量との関係を曲線近似することにより得られるモデルが関係情報として用いられてもよい。また、関係情報は、説明変数として上述した差「第1推定値M2-第1推定値M1」以外の任意の情報を含む教師データを用いた機械学習(例えばディープラーニング等)によって生成された学習済みモデルであってもよい。或いは、関係情報は、機械学習以外の手法によって得られた情報であってもよい。例えば、関係情報は、上記差の特定の範囲毎に特定の補正量を対応付けたテーブル情報(例えば、差の範囲「1以上2未満」に対して補正量「+1」を対応付け、差の範囲「2以上3未満」に対して補正量「+2」を対応付けるといった対応関係を規定した情報)であってもよい。このようなテーブル情報は、予めオペレータ等によって手動で作成されてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、2つのエネルギー帯(低エネルギー帯及び高エネルギー帯)についての第1推定値M1,M2に基づいて第2推定値M3が取得されたが、第2推定値M3は、3つ以上のエネルギー帯についての第1推定値に基づいて算出されてもよい。例えば3つのエネルギー帯を用いる場合、第1推定部25は、第1エネルギー帯についての第1推定値M11、第2エネルギー帯についての第1推定値M12、及び第3エネルギー帯についての第1推定値M13を取得することができる。この場合、第1推定値M11を基準とした複数のエネルギー帯毎の第1推定値間の差としては、「第1推定値M12-第1推定値M11」と「第1推定値M13-第1推定値M11」の2つの値が得られる。この場合、2つの値を説明変数として含むと共に適正補正量「真の質量値Mr-第1推定値M11」を目的変数として含む教師データに基づく機械学習により生成された学習済みモデルを関係情報として用いることが可能となる。このように、3つ以上のエネルギー帯を用いる場合、説明変数に含めることができる情報(第1推定値間の差)を増やすことができるため、対象物品の第2推定値M3をより精度良く推定することが可能となる。
)
【0071】
また、上記実施形態では、関係情報の例として、説明変数として第1推定値間の差「第1推定値M2-第1推定値M1」を含むと共に目的変数として適正補正量「真の質量値Mr-第1推定値M1」を含む教師データを用いた機械学習により生成された学習済みモデルを示した。しかし、例えば特徴量を自動的に抽出可能な機械学習(例えばディープラーニング等)を実行する場合等には、第1推定値間の差及び適正補正量を明示的に特徴量(説明変数、目的変数)として与えなくても、適切に学習を行うことが可能となる。このような場合、関係情報生成部26は、検査対象の物品Gと同種の物品である複数のサンプルの各々についてのエネルギー帯毎の第1推定値M1,M2とサンプルの質量値Mrとを含む教師データを用いた機械学習により生成された推定モデル(学習済みモデル)を関係情報として生成してもよい。より具体的には、関係情報は、サンプルの第1推定値M1,M2を説明変数として含むと共にサンプルの真の質量値Mrを目的変数として含む教師データを用いて機械学習された推定モデルであってもよい。この場合、第2推定部28は、推定モデルに対象物品のエネルギー帯毎の第1推定値M1,M2を入力することにより、推定モデルにより出力される物品の質量の推定値を第2推定値M3として取得してもよい。これによれば、エネルギー帯毎に得られた複数の第1推定値M1,M2を推定モデルに入力するだけの処理によって、物品の質量の最終的な推定値(第2推定値M3)を簡易に得ることができる。
【0072】
また、上記実施形態では、判定部29が第2推定値M3に基づく良否判定を行ったが、第2推定値M3は上記良否判定以外に利用されてもよい。ここで、上述したように物品の成分比率が間接的に考慮された第2推定値M3は、従来の質量推定値(すなわち、第1推定値M1又は第1推定値M2)よりも推定精度が高い。そこで、第2推定値M3は、高精度な質量推定結果を前提とする種々の制御(例えば、ベルトコンベアを流れる物品Gの流量を監視・調整する流量制御等)に用いられてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、エネルギー帯毎の第1推定値間の対比に基づくパラメータとして、第1推定値間の差「第1推定値M2-第1推定値M1」を用いたが、上記パラメータは、第1推定値間の差に限られない。例えば、上記パラメータは、第1推定値間の比率(例えば、第1推定値M1/第1推定値M2)等であってもよい。すなわち、上記パラメータは、複数のエネルギー帯の各々の第1推定値同士を対比することにより得られる値であればよい。また、上記実施形態では、適正補正量及び補正量は、一のエネルギー帯の第1推定値(上記実施形態では、第1推定値M1)に加算することにより第2推定値M3を得るためのパラメータであったが、上記に限られず、例えば当該第1推定値に乗算することにより第2推定値M3を得るためのパラメータ等であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…X線検査装置、6…X線照射部(照射部)、7…X線検出部(検出部)、21…生成部、22…認識部、25…第1推定部、28…第2推定部、29…判定部、G…物品、P1…低エネルギー画像(X線透過画像)、P2…高エネルギー画像(X線透過画像)。