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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】漏洩検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/24 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G01M3/24 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019139315
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021021665
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
(72)【発明者】
【氏名】金氏 眞
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-189411(JP,A)
【文献】特許第5583994(JP,B2)
【文献】特開平08-166316(JP,A)
【文献】特開平10-160614(JP,A)
【文献】特開平11-201859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0285221(US,A1)
【文献】特開2014-160019(JP,A)
【文献】特開平02-143134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
G01H 1/00- 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力を持った液体が流通する管路の漏れを検知するための漏洩検知方法であって、
漏れを検知すべき管路に、検知起点及び該検知起点から該管路の敷設方向に沿って所定距離離隔し且つ該管路の内部を監視する監視装置を配置した監視点を設定すると共に検知起点及び監視点に時計を配置し
圧力を持った液体が流通する際に該液体を介して伝達された音を集音記録し得るように構成された移動体を漏れを検知すべき管路に挿入して液体と共に移動させると共に前記検知起点から時刻を計時しつつ液体を介して伝達された音を集音して記録し、
前記移動体の前記検知起点からの計時と同一時間軸で時刻を計時しつつ前記漏れを検知すべき管路に設定された監視点に配置された監視装置によって該管路の内部を監視し、
前記移動体の前記検知起点に於ける時刻と、前記監視装置によって前記移動体が前記監視点を通過したことを検出したときの時刻と、前記検知起点から前記監視点までの距離とによって検知すべき管路に於ける移動体の時刻ごとの位置を推測すると共に、前記移動体が移動過程で記録した液体を介して伝達された音を記録した時刻によって、管路に於ける漏洩位置を検知することを特徴とする漏洩検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力を持った液体が流通する管路に於ける漏洩の有無、及び漏洩位置を検知するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には上水道や工業用水或いは農業用水を含む種々の圧力を持った液体が流通する管路が敷設されている。このような管路は、規格サイズの管を直列に配列すると共に、流通する液体に対応させた構造を持った継手を構成することで、管どうしを液密性を確保して接続している。例えば、工業用水用や農業用水用の管路の場合、ヒューム管の管端どうしをパッキンを介して接続することで水密性を確保している。また、上水道用の管路の場合には、鋳鉄管の管端どうしをパッキンを介してボルト締結することで水密性を確保している。
【0003】
一方、地中に敷設された管路には、路面を走行する車両による振動に応じた力や地盤沈下に伴う力、地震時に於ける管路の敷設方向又は管路の敷設方向に対し交差する方向への力等の力が常に作用している。そして、管路に作用するこれらの力によって管の継ぎ目が離隔して隙間ができたり、長期間にわたる利用によって劣化して管壁にひび割れが生じたりすることがある。
【0004】
圧力を持った液体が流通する管路に継ぎ目の隙間や管壁のひび割れ等が生じると、流通している液体が地中に漏洩することとなり、流通する液体の性質に対応した不具合が生じる。例えば、工業用水や農業用水或いは上水の場合、これらの水には夫々の目的に応じた水処理が行われており、漏水によって処理費用の無駄が生じることとなる。また、管路からの漏水によって、該管路周囲の地盤が軟弱化したり、或いは土壌が変化する虞もある。特に、液体がオイル成分を含むような場合、環境汚染を引き起こす虞もある。
【0005】
このような管路に於ける漏洩の有無と位置を検知するために、本件出願人は特許文献1に記載された「漏洩検知装置及び漏洩検知方法」を開発し、既に特許権を取得している。この技術は、集音部材とこの集音部材で集音した音を記録する記録部材及び音波をパルス状に発信する発信部材とクロックを搭載した移動体と、移動体に搭載した発信部材のクロックと同期させて該発信部材から発信された音を受信する受信部材と、を有している。
【0006】
漏洩位置を検出する際には、移動体を、液体が管路を流通する際に発生する音を集音して記録すると共に、発信部材からパルス状の音波を発信しつつ、液体が流通する管路内で移動させる。そして、移動体から発信された音を受信部材で受信し、受信した音波の数、及び発信部材で発信された時刻と受信部材で受信した時刻との差、或いは受信したパルス間隔の時間差によって、時間軸に対応させた移動体の位置を検出する。更に、時間軸に対応して記録された液体が管路を流通する際に発生する音のデータと、移動体の位置を同じ時間軸に重ねることで漏洩位置を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5583994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された発明では、移動体に配置された発振部材から発信されたパルス状の音波を、クロックによって規定される時間軸に対応させて受信し記録している。この方法で移動体の移動位置を検出することができる。
【0009】
しかし、移動体から発信されたパルス状の音波は管路内を進行する過程で管壁に衝突して反射を繰り返し、移動体との距離が増加するのに伴ってパルスであることが不明確になる。このため、移動体の移動距離の増加に伴ってパルスの受信精度が低下する虞がある。
【0010】
パルスの受信精度の低下に伴って時間軸に対応した移動体の位置精度も低下することとなり、同一時間軸に対応させて記録した液体が管路を流通する際に発生した音の発生位置を検出したときの位置精度が低下する虞が生じている。
【0011】
本発明の目的は、圧力を持った液体が流通する管路に於ける移動体の位置を精度よく検出することができ、この結果、漏れの有無、漏洩位置をより正確に検知することができる漏洩検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る漏洩検知方法は、圧力を持った液体が流通する管路の漏れを検知するための漏洩検知方法であって、漏れを検知すべき管路に、検知起点及び該検知起点から該管路の敷設方向に沿って所定距離離隔し且つ該管路の内部を監視する監視装置を配置した監視点を設定すると共に検知起点及び監視点に時計を配置し、圧力を持った液体が流通する際に該液体を介して伝達された音を集音記録し得るように構成された移動体を漏れを検知すべき管路に挿入して液体と共に移動させると共に前記検知起点から時刻を計時しつつ液体を介して伝達された音を集音して記録し、前記移動体の前記検知起点からの計時と同一時間軸で時刻を計時しつつ前記漏れを検知すべき管路に設定された監視点に配置された監視装置によって該管路の内部を監視し、前記移動体の前記検知起点に於ける時刻と、前記監視装置によって前記移動体が前記監視点を通過したことを検出したときの時刻と、前記検知起点から前記監視点までの距離とによって検知すべき管路に於ける移動体の時刻ごとの位置を推測すると共に、前記移動体が移動過程で記録した液体を介して伝達された音を記録した時刻によって、管路に於ける漏洩位置を検知することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る漏洩検知方法は、圧力を持った液体(以下単に「液体」という)が流通する管路(以下単に「管路」という)の漏れを検知するための方法である。この検知方法では、予め漏れを検知すべき管路に、検知起点を設定すると共に該検知起点から所定距離離隔した位置であって管路の内部を監視することができる監視点を設定して監視装置を配置しておく。
【0014】
そして、移動体を管路に挿入して、検知起点から計時しつつ管路を流通する液体と共に移動させ、該移動体の移動過程で液体を介して伝達された音(以下「伝達音」という)を集音して記録する。これにより、移動体の移動過程に於ける時刻に対応した伝達音の変化を知ることができる。また、監視点に配置された監視装置は移動体の時間軸と同一の時間軸を有しており、移動体の検知起点からの計時と同時に計時しつつ管路内を監視し、移動体が通過したことを検出したときの時刻を知ることができる。
【0015】
従って、移動体の検知起点に於ける時刻と移動体が監視点を通過した時刻とによって、時刻毎の管路に於ける移動体の位置を推測することができる。このため、時刻ごとの移動体の推測位置と、時間軸を基準として記録された音データに於ける伝達音の発生時刻とを付き合わせることで、管路に於ける漏洩位置を推測することができる。
【0016】
圧力を持った液体が流通する管路では、該管路内の空気を放出するために、管路の敷設方向に沿った所定位置、即ち、予め設定された距離(例えば1500m程度)毎に管路内の空気抜きのための弁栓部が設置されている。このため、弁栓部を利用して、移動体を挿入する位置、漏れを検知するための検知起点、移動体を取り出す検知終点を設定することができ、これらの間に一又は複数の監視点を設定することができる。
【0017】
また、移動体が監視点として設定された弁栓部を通過したとき、移動体を挿入した検知起点から監視点までの距離が既知であることから、前記検知起点に於ける時刻と監視点を通過した時刻から、検知起点と監視点に於ける時刻毎の移動体の位置を推測することができる。特に、監視点が複数設定されている場合には、移動体の通過を検出した最新の監視点を下流側に隣接する監視点に対する検知起点として認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】移動体の管路に於ける移動位置を検知する方法を説明する図である。
図2】本発明に係る漏洩検知方法を説明する模式図である。
図3本発明に係る漏洩検知方法を実施するための漏洩検知装置の構成を説明する模式図である。
図4】移動体の速度が変動したときの管路の状態を検知する方法を説明する図である。
図5】第1の集音部材と第2の集音部材とで集音した音の音データを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る漏洩検知方法について説明する。本発明に係る漏洩検知方法は、液体が流通する管路に於ける漏洩の有無と、漏洩が生じている場合にはその位置を検知するためのものである。特に、漏洩位置を検知するに際し、管路内に於ける移動体の経時的な位置の変化を精度良く検知することによって、漏洩部位の検知精度を向上させるようにしたものである。
【0020】
このため、本発明に係る漏洩検知方法では、管路内を移動する移動体が、管路の敷設方向に沿って配置された監視点を通過したことを検出することで、検知起点に於ける時刻から監視点を通過した時刻を計測することで、移動体の検知起点から監視点まで間の時刻ごとの位置を推測することが可能となる。そして、移動体が記録した時間軸に対応させた伝達音の発生時刻と前記推測した位置とによって管路に生じている漏れの位置を検知することが可能となる。
【0021】
本発明に於いて、監視点に配置された監視装置は管路の内部を液体と共に流通する物体を検出するためのものである。この監視装置としては、管路の内部を流通する物体を認識し得る機能を有するものであれば良く、監視方法や構造を限定するものではない。このような機能を有するものとして、扇状に光を照射すると共に反射光を感知して監視する装置や、管路内を撮影して監視する装置、移動体から音波を発信させると共にこの音波を受信して監視する装置などがあり、何れも利用することが可能である。
【0022】
このため、管路を移動した移動体の監視点の通過を監視装置によって確実に検出することが可能となり、この結果、移動体が監視点を通過したときの時刻を正確に検出することが可能である。従って、移動体の管路内に於ける移動を開始した時刻、監視点を通過した時刻を夫々正確に検出することが可能となり、検出した時刻を基礎として漏洩位置を検出することが可能である。
【0023】
本発明に係る漏洩検知方法の実施例について、図1、2により説明する。本実施例では、移動体から外部に向けて音波を連続発信させると共に、この移動体から発信された音波を受信して記録し得るように構成したものを監視装置として利用している。
【0024】
即ち、後述する漏洩検知装置Aを構成する移動体1を管路B内を流通する液体と共に移動させて伝達音を集音記録すると共に外部に向けて連続発信音を発信させ、漏洩検知装置Aを構成する監視装置としての音波受信記録部材2を管路Bの敷設方向に沿った所定位置(監視点、弁栓部)Cに配置し、移動体1から発信された連続発信音を受信することで移動体1の通過を検知し得るようにしている。
【0025】
管路Bに於ける漏洩を検知すべき区間の最も上流に位置する弁栓部Cから管路Bに移動体1を挿入し、管路Bの略中心を検知を開始する起点Dとして移動体1の移動を開始させる。移動体1では、移動を開始した時刻を起点時刻Tdとして伝達音の集音、記録し、同時に連続発信音を発信する。また、所定位置Cに配置されている音波受信記録部材2では、移動体1の時計と同期した時計で時を計測(同一の時間軸)しつつ受信した音を記録する。即ち、移動体1の起点Dからの移動開始に伴って、該移動体1から発信された連続発信音を受信すると共に、時刻に対応させて記録する。
【0026】
このように、移動体1の起点Dからの管路Bに於ける移動開始と同時に、同一の時間軸で、移動体1に於ける伝達音の集音記録(音記録線29)、連続発信音の発信、及び所定位置Cに配置された音波受信記録部材2による連続発信音の受信、記録(音波記録線28)が行われる。
【0027】
移動体1が管路Bに於ける起点Dから移動を開始した後、監視点となる弁栓部Cで移動体1を検出したとき、起点時刻Td、所定位置Cで移動体1から発信された連続発信音を受信したときの受信時刻Tcが検出される。そして、起点Dに対応する弁栓部Cから監視点となる弁栓部C間の所定距離Lcによって、起点Dから弁栓部Cに至る間の時刻毎の移動体1の位置を推測することが可能である。更に、移動体1で記録した伝達音の音データを処理して特定の漏水音を検知し、この漏水音を記録したときの検知時刻Taから、起点Cから漏水音の発生位置までの距離Laを検知することが可能である。
【0028】
このように本発明に係る漏洩検知方法では、管路Bの敷設方向に沿った所定位置Cに配置された音波受信記録部材2が記録した移動体1の連続発信音の音波データと、移動体1が移動過程で受信して記録した伝達音の音データと、によって、管路Bに於ける漏洩位置を検知することが可能である。
【0029】
例えば、図2に示す上水道用の管路Bの場合について説明する。この管路Bは、複数の鋳鉄管20を直列に並べ、図示しないパッキンを介してボルト、ナットを利用して接続することで構成されている。しかし、本発明に係る漏洩検知方法は、上水道用の管路にのみ適用されるものではなく、圧力を持った液体が流通する管路、例えば工業用水用管路、農業用水用管路等の管路に適用することが可能である。
【0030】
また、管路Bには、ひび割れを含む漏洩部25が存在するものとする。
【0031】
上記の如き管路Bでは、該管路Bの敷設方向に沿った所定位置に、管路Bに混入した空気を放出する弁や、管路Bを閉鎖する弁、或いは消火栓等の弁18を有する弁栓部Cが設けられている。管路Bの漏れを検知する場合、この弁栓部Cを利用して作業を行うのが一般的である。即ち、管路Bに於ける予め設定された漏洩を検知すべき区間の上流側の弁栓部Cから移動体1を挿入し、下流側の弁栓部Cから移動体1を排出している。
【0032】
従って、漏洩を検知すべき区間に於ける最も上流側に配置された弁栓部Cと最も下流側に配置された下流側の弁栓部Cの間の距離が管路Bの長さとなる。しかし、移動体1を挿入する弁栓部Cと移動体1を排出する弁栓部Cの距離は限定するものではなく、数百m~数キロmに及ぶことが可能である。尚、管路Bの敷設方向に沿って隣接した弁栓部Cの間隔は1500m程度であり、敷設図面上、或いは実測した既知の数値である。
【0033】
また、各弁栓部C、或いは予め選択された弁栓部Cには音波受信記録部材2が配置されている。
【0034】
ここで、管路Bの内部で発生する音の傾向について、同図に示す音記録線29により説明する。管路Bの漏水のない部分では、単に管路B内を上水が流通する際の音のみが発生する。この音は、流通する上水の鋳鉄管20に対する擦過音、及び上水の移動体1に対する擦過音であり、音の大きさは略一定となる。
【0035】
また、漏洩部25では、上水が鋳鉄管20から地盤に噴出する際に発する特有の音を発生する。この音は漏洩部25に対向したときに最大となり、該漏水部25から離隔するのに従って小さくなる。このため、音の波形は比較的鋭い三角形となり、三角形の高さや裾の大きさは漏洩量に比例することとなる。
【0036】
上記したように、音の大きさが略一定の部位では、集音部材によって集音して記録した音データのレベル(以下単に「音レベル」という)は略一定となる。しかし、漏洩部25で発生した音は鋳鉄管20の内壁と干渉し、集音部材によって集音される音は干渉音を含むものとなり、音データは音記録線29に示すような鋭い三角形とならない場合が多い。
【0037】
また、移動体1から外部に向けて発信された連続音は、弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2によって受信されて記録される。弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2は、該弁栓部Cに到達した連続発信音を受信するため、極めて短時間で音波を受信することとなり、音波記録線28に示すように鋭いピークを示す。従って、移動体1の起点Dから弁栓部Cまでの到達時間を正確に知ることが可能である。
【0038】
上記の如く漏洩部25を有する管路Bに於ける漏れを検知する手順について説明する。
【0039】
先ず、管路Bに設けられている二つの弁栓部Cを選択し、上流側に設置された弁栓部Cに漏洩検知装置Aを構成する移動体1と、該移動体1を管路B内に挿入するための挿入部材21を用意し、管路Bに於ける最も下流側の弁栓部Cに該管路B内を移動してきた移動体1を捕集するための捕集部材22を用意する。更に、最も上流側の弁栓部Cと最も下流側の弁栓部Cの間に配置されている全ての弁栓部C、或いは予め選択した弁栓部Cに、漏洩検知装置Aを構成する音波受信記録部材2を配置する。
【0040】
尚、移動体1及び音波受信記録部材2は、連続して且つ動機して時を刻む標準時計を有しており、この標準時計による時間軸を共有している。
【0041】
次に、移動体1を挿入部材21の先端部分に把持した後、挿入部材21を管路Bの最も上流側の弁栓部Cを通して管路Bの略中心までに挿入する。移動体1が管路Bの略中心にある位置を起点Dとし、挿入部材21による把持が解除されたときを起点時刻Tdとする。
【0042】
挿入部材21による移動体1の把持を解除すると、該移動体1は管路Bで自由な状態となり、該管路B内を流通する液体の速度エネルギーを受け、管路Bの略中心に沿って下流側へと移動する。そして、移動体1は、集音を開始すると共に時刻毎の伝達音の記録を開始し、同時に外部に向けて音波の連続発信を開始する。更に、移動体1に於ける集音、記録、音波の連続発信の開始と同時に弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2では、連続発信音の受信及び記録を開始する。
【0043】
また、下流側の弁栓部Cに捕集部材22を挿入し、先端に設けた網状の捕集部を管路Bの内部に到達させた状態で、該弁栓部Cからの漏水がないようにしておく。これにより、最上流側の弁栓部Cと最下流側の弁栓部Cの間の管路Bの漏れを検知する準備が完了する。
【0044】
移動体1が最下流側の弁栓部Cに配置した捕集部材22によって捕集されたとき、捕集部材22を引き上げて回収すると共に弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2を回収する。そして、音波受信記録部材2に記録された音波データと、移動体1で記録された伝達音の音データとによって、伝達音の発生地点を推測することで、管路Bに於ける漏洩の発生位置を検知する。
【0045】
管路Bの内部を移動する移動体1は、該管路Bの略中心に沿って移動することが好ましい。このため、移動体1が管路Bの底面に接触することがなく、このような場合に発生する音を排除することが可能である。しかし、管路Bの略中心とは、厳密に管路Bの中心Baに一致しなくとも良いという程度の意味であって、中心から変位する範囲を数値で限定するものではない。即ち、移動体1が管路Bの底面或いは側面に接触することがなく、また漏洩に伴う音が干渉しない程度の範囲をいうものとする。
【0046】
次に、本発明に係る漏洩検知方法を実施するための漏洩検知装置について説明する。漏洩検知装置Aを構成する移動体1は、管路Bを流通する液体と共に該管路Bの略中心に沿って移動する。管路Bの略中心に沿って移動する移動体1の構成については特に限定するものではない。しかし、移動体1の比重を液体の比重に対し適度な値に設定しておくことが好ましい。
【0047】
例えば、移動体1の比重を液体の比重と略同じに設定することで、管路Bの略中心に沿って移動させることが可能である。この場合、管路Bを流通する液体が層流状態を保持していることが好ましい。また、移動体1を、比重が液体の比重よりも僅かに小さくなるように設定し、外周に比重調整部材を取り付けることで、管路Bの略中心に沿って移動させることも可能である。
【0048】
移動体1の形状は特に限定するものではなく、内部に配置すべき各部材を収容することが可能な長さを有する円筒体、或いは略円形の断面を有する筒状体であることが好ましい。このような筒状体である場合、前後端の形状は球形であることが好ましい。また、寸法も限定するものではないが、目的の管路Bの内径よりも充分に小さい外径を有することが必要であり、且つ弁栓部Cを容易に通過し得る寸法であることが必要である。通常弁栓部Cを構成する管は直径が75mmであるため、移動体1の外径は50mm~70mm程度であることが好ましい。また、長さは収容すべき部材の構成に対応するものの、約100mm~約200mm程度であることが好ましい。
【0049】
特に、移動体1は、管路Bの内部を移動する際の姿勢の安定化をはかるために、内部に収容する機器類を、重量が低部に集中するように配置することが好ましい。このように配置することで、移動中に生じる虞のあるローリングを少なくすることが可能である。
【0050】
また、移動体1が管路Bの水平方向の屈曲部を移動する際には、該移動体1を水平方向に回転させるような力が作用する。この力に対抗するために、移動体1の重量が前後両端部分に分散し得るように構成することが好ましい。このように構成することによって、ヨーイングを抑えやすくなる。
【0051】
従って、移動体1は、適度な長さを有する円筒体で、重量が前後両端部及び底部に作用するように構成されることが好ましい。
【0052】
移動体1が管路Bの内部を移動する際に、該管路Bに形成されている屈曲部などで管壁に接触する虞がある。このため、移動体1の外周面にはクッション材が配置されていることが好ましい。このクッション材は移動体1の内部に収容されている機器類に対する衝撃を緩和する機能を有するものであり、このような機能を発揮し得るものであれば材質などを限定するものではない。
【0053】
移動体1に配置される伝達音を集音する集音部材、集音部材で集音した音を記録する記録部材の構成は特に限定するものではなく、管路B内を流通する液体を介して伝達された音を確実に集音することが可能なマイク、及び記録部材であれば良い。このような、集音部材、記録部材は1組あれば良い。しかし、管路B内で発生した音は管壁などに反射して明確なピークを生じないことが多い。このため、指向性の異なる2組の集音部材と、夫々の集音部材に対応させた2組の記録部材を配置しておくことが好ましい。
【0054】
移動体1から外部に向けて音波を連続発信させる連続音波発信部材の構成は特に限定するものではなく、通常利用される音波発信部材であって良い。しかし、弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2が確実に連続発信音を受信し得るようにするために、音波を放射状に発信することが好ましい。このため、移動体1にリング状に形成した連続音波発信部材を利用することが好ましい。
【0055】
弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2は、移動体1から発信された連続発信音を受信して記録する機能を有する。特に、移動体1が管路B内を移動し、弁栓部Cに対向したときに連続発信音を確実に受信し得ることが必要である。従って、このような機能を有するものであれば特に限定するものではない。
【0056】
漏洩検知装置Aには時刻を計測する標準時計が配置されており、移動体1に配置され集音した伝達音の音データを記録する記録部材、及び弁栓部Cに配置され受信した連続発信音の音波データを記録する音波受信記録部材2は、標準時計に基づいて制御される。即ち、同一時刻に移動体1に配置された記録部材は伝達音を集音して音データを記録し、音波受信記録部材2は移動体1から発信された連続発信音を受信して記録し得るように構成されている。
【0057】
本実施例に於いて、管路Bを流通する液体は層流状態を保持している。
【0058】
液体が層流状態で流通する管路Bに移動体1を挿入したとき、移動体1は層流状態を保持して流通する液体に伴って管路Bの略中心に沿って移動する。そして、移動体1が管路Bの略中心に沿って移動する過程で、液体から発生する音を集音して記録することが可能である。
【0059】
例えば、図3に示すように、移動体1が管路Bの中心から偏心した位置にあるとき、該移動体1の外周面の中心側には層流の中心側の大きい流速で流通する液体が接触し、管壁側には小さい流速で流れる液体が接触する。このため、移動体1には接触する流速の違いにより、大きい流速で流れる液体方向への力が作用し、この作用する力に応じて移動体1が管路Bの略中心に変位して安定する。
【0060】
漏洩検知装置Aの構成について図3により説明する。漏洩検知装置Aを構成する移動体1は、アルミニウム等の金属或いはプラスチックによって形成され、円筒状で滑らかな外周面を有する本体1aと、半球形で滑らかな外周面を有するキャップ1bとを有している。そして、本体1aに図示しないパッキンを介してキャップ1bを装着したとき、内部に管路の漏れを検知するのに必要な機器類を収容する収容空間1cが形成されている。従って、移動体1の収容空間1cは密閉された空間として構成されている。
【0061】
移動体1に形成された収容空間1cに2組の集音部材、記録部材が配置されている。即ち、移動体1には、第1の集音部材となる集音マイク10a、第1の集音マイク10aによって集音した音を記録する第1の録音機10b、第2の集音部材となる集音マイク11a、第2の集音マイク11aによって集音した音を記録する第2の録音機11bが配置されている。特に、第1の集音マイク10aは移動体1の移動方向下流側の端部側に配置され、下流側に対する指向性を有している。また、第2の集音マイク11aは移動体1の上流側の端部側に配置され、上流側に対する指向性を有している。
【0062】
移動体1に形成された収容空間本体1cには、帯状の連続音波発信部材12が内周面に沿って貼り付けるようにして配置されている。このため、移動体1の外部に対し放射状に音波を発信することが可能である。発信する音波の周波数や強度は限定するものではなく、管路Bの太さや流通する液体の性質などの条件に対応させて適宜設定することが好ましい。
【0063】
更に、上記収容空間1cには、標準時計を有し、集音マイク10a、11a、録音機10b、11b、連続音波発信部材12を制御する制御部13及び電源14が配置されている。
【0064】
管路Bの敷設方向に沿った全ての弁栓部C、或いは予め選択された弁栓部Cには、漏洩検知装置Aを構成する音波受信記録部材2が配置されている。この音波受信記録部材2は、音波を受信するマイク2aと、マイク2aが受信した音波を記録すると共に標準時計を有する受信記録制御部2cと、マイク2aと受信記録制御部2cを接続する通信線2bと、を有して構成されている。
【0065】
マイク2aは弁栓部Cの所定位置、例えば弁18、或いは弁栓部Cを構成する配管などの管路B内を移動する移動体1から連続発信された音波、或いはパルス発信された音波を良好に受信し得る位置に取り付けられている。特に、マイク2aを取り付ける位置としては、弁栓部Cを構成する配管と管路Bを構成する本管との交差部分であることが好ましい。また、受信記録制御部2cは弁栓部Cの近傍に設置したテント内或いはトラック内に設置されている。
【0066】
また、起点Dが設定された弁栓部Cには、漏洩検知装置Aの移動体1、音波受信記録部材2を統一して制御する制御部材19が配置されている。また、この弁栓部Cには他の弁栓部Cと同様にマイク2aが取り付けられており、制御部材19と通信線2bによって接続されている。
【0067】
制御部材19は、漏洩検知装置Aを構成する移動体1の制御部13及び音波受信記録部材2の受信記録制御部2c、と同一時間軸の標準時計を有し、且つマイク2aで受信した音波を記録するものである。
【0068】
上記の如く構成された漏洩検知装置Aによって管路Bに於ける漏洩の有無及び漏洩部位の検知手順について説明する。
【0069】
先ず、制御部材19、移動体1の制御部13、音波受信記録部材2の受信記録制御部2cで、計時の起点Tdとして夫々時間の計測を開始しつつ、移動体1を起点Dから管路B内を流通する液体と共に移動させる。
【0070】
管路Bに挿入された移動体1では起点Tdから計時しつつ、二つの集音マイク10a、11aで伝達音を集音して夫々集音した伝達音を録音機10b、11bで記録し、更に、連続音波発信部材12から外部に向けて放射状に音波を連続発信する。また、弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2では、起点Tdから計時しつつマイク2aによって移動体1から発信された連続音を受信し、受信記録制御部2cで記録する。
【0071】
管路Bに挿入された移動体1が下流側の弁栓部Cを通過したとき、該弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2では、図1、2の音波記録線28に示すように鋭いピークが形成される。また、管路Bに漏洩部が存在する場合、移動体1では同図の音記録線29に示すようなピーク形成される。
【0072】
移動体1が管路Bの最も下流側にある弁栓部Cに到達したとき、図2に示すように捕集部材22によって捕集して管路Bから離脱させ、管路Bに於ける漏洩の有無、漏洩部位の検知作業を行う。
【0073】
先ず、音波記録線28に形成されたピークを確認し、このピークを示した時刻Tcと起点Dと弁栓部C間の距離Lcとによって移動体1の移動経路を推測する。次に、音記録線29を確認し、明確なピークが存在する場合、このピークに対応する部位に漏洩部が存在するものとする。そして、ピークが形成されたときの時刻Taと、推測した移動体1の移動経路の対応する時刻Taから、管路Bに於けるピークが発生した位置を推測する。
【0074】
管路Bを流れる液体の流速に大きな変動が生じていない場合、上記の如くして管路Bに於ける漏洩の有無、漏洩部位を検知することが可能である。
【0075】
管路Bには、曲線部分や不陸部分、或いは径の異なる部分や堆積物などの障害物が存在することがある。このような場合、該管路Bに挿入された移動体1の移動速度が均一とはならず変動する虞がある。そして、移動体1の移動速度に変動が生じている場合、起点Dに於ける時刻と弁栓部Cに到達したときの時刻のみによって漏洩部位を検知しようとすると誤差が生じる虞がある。
【0076】
このため、本実施例では、移動体1の収容空間1cに前記各機器に加えてジャイロ15a又は加速度センサー15b、或いはジャイロ15a及び加速度センサー15bを配置している。これらのジャイロ15a、加速度センサー15bを配置することによって、移動体1が管路Bの内部を移動している際の加速度を検知することが可能となり、移動体1の姿勢の変化や速度の変化を経時的に記録することが可能である。
【0077】
しかし、ジャイロ15a、加速度センサー15bによって、管路Bに於ける移動体1の時刻毎に対応した加速度を記録し、記録したデータを積分を含む演算することで移動位置を推測すると、累積誤差が大きくなる虞がある。このように累積誤差が生じた場合、漏水音を記録した位置と実際に漏水が生じている位置との間に差異が生じることになる。
【0078】
例えば、図4に示すように、ジャイロ15aと加速度センサー15bによって検知した時刻と移動量とによる移動体1の移動経路が線27aによって示されるように、移動体1が起点Dから弁栓部Cに到達した時刻と移動量との関係を示す線27bとの間に差異が生じている場合、時刻Taのとき、線27bでは到達距離La1であるのに対し線27aでは到達距離La2となり、差が生じる。
【0079】
このため、線27bが弁栓部Cを通過したときの時刻Tcに、移動体1が弁栓部Cを通過したように線27aの時刻Tcを一致させる補正を行うことで、補正後の線27cを得ることが可能となる。この補正後の線27cに於ける経過時間Taに対応する距離Laが信頼性の高い漏洩部位となる。
【0080】
このように、移動体1にジャイロ15aや加速度センサー15bを配置して経時的な姿勢の変化や速度の変化を検知することによって、より高い精度で管路Bに於ける漏洩部位を検知することが可能となる。
【0081】
また、移動体1に夫々移動方向の上流側と下流側に指向性を持たせた2組の集音マイク10a、11aを配置することによって、夫々の集音マイク10a、11aによって集音した音レベル線30、31は、図5に示すように、略同じ形状を有する二つの曲線が正反対に重なると共にずらした状態となる。そして、頂部30a、31aの間に漏洩部25が存在するとして推定することが可能となる。
【0082】
また、移動体1には、起点Dに配置された制御部材19に制御された制御部13の標準時計に対応して一定の時間間隔を持って音波や超音波をパルス発信するパルス音波発信部材(図示せず)が搭載されている。このパルス音波発信部材は、発信部材12から連続発信する音波の波長とは異なる波長の音波を発信することで弁栓部Cに配置された音波受信記録部材2による受信に影響を与えることがないように構成されている。
【0083】
移動体1からパルス発信された音波(パルス音波)は、起点Dに対応する弁栓部Cに取り付けたマイク2aに受信され、該起点Dに配置されている制御部材19に記録される。そして、移動体1から発信したパルス音波の時間間隔及び、又は制御部材19で受信したパルス音波の時間差を計測し、計測された時間差のデータによって移動体1の移動量を測定することが可能である。そして、測定した移動量を積分を含む演算することで、移動体1の管路Bに於ける移動位置を推測することが可能である。このように、移動体1からパルス音波を発信しつつ位置を推測した場合、前述したジャイロ15a、加速度センサー15bによる移動位置の推測と同様に累積誤差が生じ、漏水音を記録した位置と実際に漏水が生じている位置との間に差異が生じることになる。
【0084】
移動体1からパルス音波を発信しつつ伝達音を集音して記録し、弁栓部Cに配置されたマイク2aによってパルス音波を受信して該移動体1の移動経路を推測した場合、この移動経路は図4の線27aと同様となる。このため、ジャイロ15a、加速度センサー15bによる移動位置の推測時と同様に線27aを線27bとなるように補正し、補正した線27bに対応させて記録した伝達音の音データのを処理して漏水音を認識することで、より正確な漏洩位置を推測することが可能である。
【0085】
尚、音波の伝播速度は液体の温度の影響を受けることから、管路Bを流通する液体の温度を計測することが好ましい。
【0086】
上記の如く本発明に係る漏洩検知方法では、移動体1と音波受信記録部材2は標準時計の時間軸を共有している。このため、管路Bに配置された複数の弁栓部に音波受信記録部材2を取り付けたとき、起点Dを必ずしも最も上流の弁栓部Cに設定する必要はなく、移動体1の通過を認識した弁栓部Cに於ける移動体1の通過時刻を基準として下流側に隣接する弁栓部C間の漏洩を検知することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の漏洩検知方法は、圧力を持った液体が流通する管路であれば、水用の管路、油用の管路に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
A 漏洩検知装置
B 管路
C 弁栓部
D 起点
1 移動体
1a 本体
1b キャップ
1c 収容空間
2 音波受信記録部材
2a マイク
2b 通信線
2c 受信記録制御部
10a、11a 集音マイク
10b、11b 録音機
12 連続音波発信部材
13 制御部
14 電源
15a ジャイロ
15b 加速度センサー
18 弁
19 制御部材
20 鋳鉄管
21 挿入部材
22 捕集部材
25 漏洩部
27a~27c 線
28 音波記録線
29 音記録線
30、31 音レベル線
30a、31a 頂部
図1
図2
図3
図4
図5