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特許7406228変異型CeR-2a RNAホモログ及び該RNAホモログの利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】変異型CeR-2a RNAホモログ及び該RNAホモログの利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20231220BHJP
   A01N 57/16 20060101ALI20231220BHJP
   A01N 63/12 20200101ALI20231220BHJP
   A01P 5/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
A01N57/16 104C
A01N63/12
A01P5/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019188562
(22)【出願日】2019-10-15
(65)【公開番号】P2021061785
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】牛田 千里
(72)【発明者】
【氏名】増井 達信
(72)【発明者】
【氏名】小山 昂志
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】Y. HOKII et al.,“A small nucleolar RNA functions in rRNA processing in Caenorhabditis elegans”,Nucleic Acids Research,2010年05月11日,Vol. 38, No. 17,p.5909-5918,DOI: 10.1093/nar/gkq335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
A01N 57/16
A01N 63/12
A01P 5/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号3、配列番号7又は配列番号23に記載の塩基配列から本質的になる、変異型CeR-2a RNAホモログ。
【請求項2】
請求項1に記載の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫の成長抑制用組成物又は線虫の産卵抑制用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫のrRNA前駆体蓄積促進用組成物又は線虫のリボソーム合成抑制用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫用農薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型核小体低分子RNAである変異型CeR-2a RNAホモログ、変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する組成物及び農薬、並びに変異型核小体低分子RNAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の殺生物性の農薬として、化学農薬、抗生物質、生物農薬などが挙げられる。このうち、化学農薬及び抗生物質としては、低分子化合物が用いられている。人体に適用する医薬品については、オリゴDNA、アンチセンスRNA、siRNA、miRNAなどの核酸を用いる核酸医薬が開発されているが、核酸を利用した農薬についてはこれまでにほとんど知られていない。
【0003】
植物に感染し、大きな農業被害をもたらす害虫の一種として、線虫がある。線虫のうち、Caenorhabditis elegansの細胞性CeR-2 RNAの量を減少させた変異体は、野生型N2株と比較して、rRNA前駆体のプロセシング・パターンに変化をもたらすことが報告されている(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yusuke Hokii et al., Nucleic Acids Research, Volume 38, Issue 17, 1 September 2010, Pages 5909-5918
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1には、CeR-2 RNAを発現する野生型の線虫に対して、なんらかの生理作用を及ぼし得る核酸分子などの物質について記載が無い。
【0006】
そこで、本発明は、植物に有害事象をもたらす線虫などの生物体に対して有益な生理作用を及ぼし得る核酸分子及びその製造方法並びに該核酸分子を有効成分として含有する組成物及び農薬を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を積み重ねたところ、Peculisの文献(BRENDA A. PECULIS, MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY, July 1997, p. 3702-3713)から、アフリカツメガエルにおいてU8 snoRNAの5’末端の配列に改変を加えた場合にrRNAのプロセシングにパターン変化が生じること、U8 snoRNAの5’末端の配列が28S rRNAの5’末端と不完全な塩基対(ミスマッチ及びギャップを含む塩基対)を形成する可能性があることを見出した。そこで、この不完全な塩基対形成は線虫でも起こり得るのではないかと考えた。
【0008】
そして、これとは逆に、脊椎動物のU8 snoRNAに相当するC.elegansのCeR-2a RNAの5’末端を改変して、26S rRNAの5’末端とより高度に相補的塩基対を形成するようにすれば、26S rRNAのプロセシングを阻害できると考えた。また、標的となるrRNA前駆体は核小体に局在することから、核小体に局在が可能な構造を保持するようにすれば、より効果的に26S rRNAのプロセシングを抑制し得ると考えた。
【0009】
上記考えに基づいて、本発明者らは、野生型CeR-2a RNAに比べて、5’末端部分が26S rRNAの5’末端と相補性の高い塩基からなる塩基配列になるように改変した変異型CeR-2a RNAを作製した。そして、驚くべきことに、この変異型CeR-2a RNAは、C.elegansにおけるリボソームの合成を減少し、C,elegansの個体成長の抑制及び産卵開始の遅延をもたらし得るものであった。特に、CeR-2a RNAの有無ではC.elegansの表現型に影響をほとんど及ぼさないのに対して、変異型CeR-2a RNAがC.elegansに対して上記のような表現型を導くことは、本発明者らによって初めて見出された驚くべき知見である。
【0010】
このような知見を基にして、本発明者らは、野生型CeR-2a RNAにおける5’末端側の塩基配列が、26S rRNAの5’末端側の塩基配列と相補性が高くなるように改変された変異がある、変異型CeR-2a RNA並びに該変異型CeR-2a RNAを有効成分として含有する組成物及び農薬を創作することに成功した。本発明は、かかる知見や成功例に基づいて完成された発明である。
【0011】
したがって、本発明の一態様によれば、以下[1]~[11]のRNAホモログ、組成物、農薬及び方法が提供される。
[1]線虫が有する野生型CeR-2a RNAホモログにおいて、26S rRNAの塩基配列の5’末端側の塩基配列と高度に相補的塩基対を形成するように改変された変異を有する、変異型CeR-2a RNAホモログ。
[2]前記線虫は、カエノラブディティス属(Caenorhabditis)線虫、ヘモンカス属(Haemonchus)線虫又はシファシア属(Syphacia)線虫である、[1]に記載の変異型CeR-2a RNAホモログ。
[3]野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列において、5’末端側の1位~8位の塩基からなる塩基配列が、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の21位~28位の塩基からなる塩基配列と、6個以上の相補的塩基対を形成するように改変された変異を有する、[1]~[2]のいずれか1項に記載の変異型CeR-2a RNAホモログ。
[4]更に野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列において、5’末端側の9位~18位の塩基からなる塩基配列が、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の4位~13位の塩基からなる塩基配列と、9個以上の相補的塩基対を形成するように改変された変異を有する、[3]に記載の変異型CeR-2a RNAホモログ。
[5]更に野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列において、5’末端側の8位の塩基と9位の塩基との間に、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の14位~20位の塩基からなる塩基配列の一部又は全部と相補的である塩基配列を挿入するように改変された変異を有する、[3]~[4]のいずれか1項に記載の変異型CeR-2a RNAホモログ。
[6]配列表の配列番号3、配列番号7又は配列番号23に記載の塩基配列から本質的になる、変異型CeR-2a RNAホモログ。
[7][1]~[6]のいずれか1項に記載の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫の成長抑制用組成物又は線虫の産卵抑制用組成物。
[8][1]~[6]のいずれか1項に記載の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫のrRNA前駆体蓄積促進用組成物又は線虫のリボソーム合成抑制用組成物。
[9][1]~[6]のいずれか1項に記載の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫用農薬。
[10]生物体のrRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成して結合する核小体低分子RNAを取得する工程と、
前記核小体低分子RNAの5’末端側の塩基配列を、前記rRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補性が高くなるように改変することにより、変異型核小体低分子RNAを得る工程と
を含む、変異型核小体低分子RNAの製造方法。
[11]前記生物体は、線虫である、[10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログ、組成物及び農薬によれば、成長抑制作用、産卵抑制作用、rRNA前駆体蓄積促進作用及び/又はリボソーム合成抑制作用といった有益な生理作用を通じて、線虫によって有害事象がもたらされる動植物を保護することが期待される。また、本発明の一態様の方法によれば、線虫を含む生物体に有益な変異型核小体低分子RNAを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、野生型CeR-2a RNAの構造及び野生型CeR-2a RNAと26S rRNAとの相補的塩基対の形成態様を示す模式図である。
図2図2は、野生型CeR-2a RNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなる変異型CeR-2a RNAと26S rRNAとの相補的塩基対の形成態様を示す模式図である。
図3図3は、実施例に記載されているとおりの、使用した線虫株の一覧を示す図である。
図4図4は、実施例に記載されているとおりの、20℃でインキュベートした線虫の体長測定の結果を示す図である。
図5図5は、実施例に記載されているとおりの、25℃でインキュベートした線虫の体長測定の結果を示す図である。
図6図6は、実施例に記載されているとおりの、20℃でインキュベートした線虫の産卵個数を測定した結果を示す図である。
図7図7は、実施例に記載されているとおりの、25℃でインキュベートした線虫の産卵個数を測定した結果を示す図である。
図8図8は、実施例に記載されているとおりの、20℃及び25℃でインキュベートした線虫の体長1mm到達時間及び産卵開始時間を測定した結果を示す図である。
図9図9は、実施例に記載されているとおりの、リボソーム沈降プロファイルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細について説明するが、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0015】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0016】
「RNA」は、核酸分子の一種であり、モノマーであるヌクレオチドが多数結合してなるポリマーである。RNAは、ヌクレオチドを構成する成分の一つである塩基(プリン塩基又はピリミジン塩基)の並びを表した「塩基配列」によって構造が特定される。すなわち、RNAは、ヌクレオチドが塩基配列によって示される塩基の順番で結合してなるポリマーである。
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の物質が組み合わさってなる物であり、具体的には、有効成分と別の物質とが組み合わさってなるもの、有効成分の2種以上が組み合わさってなるものなどが挙げられ、より具体的には、有効成分の1種以上と固形担体又は溶媒の1種以上とが組み合わさってなる固形組成物及び液性組成物などが挙げられる。
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0質量%~100質量%」は、0質量%以上であり、かつ、100質量%以下である範囲を意味する。
「塩基配列から本質的になる」は、該塩基配列からなるか、又は該塩基配列を有し、さらに該塩基配列によって表される核酸分子が有する構造及び/又は機能を損なわない範囲内で該塩基配列の5’末端側又は3’末端側に塩基が付加された塩基配列からなることを意味する。
「RNAホモログ」とは、同一又は近似する構造及び/又は機能を有し、かつ同一又は近似する塩基配列を有するRNAの群を意味する。CeR-2a RNAホモログは、CeR-2a RNA及び各生物におけるCeR-2a RNAに相当するRNAを意味する。CeR-2a RNAホモログは、26S rRNAの塩基配列の5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成し、かつCeR-2a RNAと同一又は近似する塩基配列を有する。
【0017】
[変異型CeR-2a RNAホモログ]
変異型CeR-2a RNAホモログは、CeR-2a RNAホモログ(以下、野生型CeR-2a RNAホモログともよぶ。)の塩基配列において、塩基の置換を有する塩基配列、又は塩基の置換と付加及び/若しくは欠失とを有する塩基配列を有するRNA分子である。ここで、「塩基の置換」は配列中の塩基が別の塩基に置き換えられていることを意味し、「塩基の付加」とは新たな塩基が挿入するように付け加えられていることを意味し、「塩基の欠失」とは配列中の塩基に欠落又は消失があることを意味する。本明細書では、塩基を置換、付加及び/又は欠失することにより、塩基配列に変更を加えることを「変異」とよぶ。
【0018】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫が有する野生型CeR-2a RNAホモログにおいて、26S rRNAの塩基配列の5’末端側の塩基配列と高度に相補的塩基対を形成するように改変された変異を有する塩基配列から本質的になる。このような塩基配列により、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、野生型CeR-2a RNAホモログよりも、より強度に26S rRNAと結合する。
【0019】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫におけるリボソームの合成を低減し、線虫の個体成長の抑制及び産卵開始の遅延をもたらし得る。このようなリボソームの合成低減が成長抑制及び産卵抑制をもたらす理由について、以下のような可能性が推測される。すなわち、26S rRNAとより強度に結合することにより、リボソームの合成低下によりタンパク質合成が低下し、生殖細胞の形成(成虫において最も盛んに細胞分裂が行われ、したがって、盛んにタンパク質合成が行われると考えられる)が低下するために、幼虫期の成長遅延及び産卵開始の遅延が観察される可能性がある。また、LSU rRNA前駆体のプロセシングが正常に行われないために、60Sサブユニットの合成が低下し、結果としてリボソームを構成するタンパク質及び/又は40Sリボソームサブユニットが細胞内に余るような状況ができ、これらが何らかのメカニズムにより、成長遅延及び産卵開始遅延のシグナルとなる可能性がある。
【0020】
線虫が有する野生型CeR-2a RNAホモログは、相互に近似した構造及び塩基配列を有する。代表的な野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列をアライメントしたものを下記塩基配列アライメント(1)に示す。塩基配列アライメント(1)における下線部で示した塩基のうちの幾つかは、各生物の26S rRNAの5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成する。
【0021】
【化1】
(1)
【0022】
野生型CeR-2a RNAホモログと同様に、線虫が有する26S rRNAは、相互に近似した構造及び塩基配列を有する。特に、野生型CeR-2a RNAホモログと相補的塩基対を形成する5’末端の塩基配列はよく保存されている。例えば、C.elegans、C.inopinata、C.briggsae、C.remanei、C.brennerといったカエノラブディティス属線虫の26S rRNAの5’末端の塩基配列は共通する。さらに、Haemonchus contortusといったヘモンカス属線虫及びSyphacia murisといったシファシア属線虫の26S rRNAの5’末端の塩基配列は、カエノラブディティス属線虫のものと数塩基が相違するのみである。これらの26S rRNAの5’末端の塩基配列をアライメントしたものを下記塩基配列アライメント(2)に示す。塩基配列アライメント(2)における下線部で示した塩基のうちの幾つかは、各生物の野生型CeR-2a RNAホモログの5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成する。
【0023】
【化2】
(2)
【0024】
塩基配列アライメント(1)及び(2)の下線部の塩基についてアライメントしたものを下記塩基配列アライメント(3)に示す(なお、TはUに置換されている)。塩基配列アライメント(3)における網掛け部分の塩基間において相補的塩基対が形成される。
【0025】
【化3】
(3)
【0026】
塩基配列アライメント(3)が示すとおり、野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列における5’末端側の1位~8位の塩基からなる塩基配列中の数塩基は、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の21位~28位の塩基からなる塩基配列と相補的塩基対を形成する。また、野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列における5’末端側の9位~18位の塩基からなる塩基配列中の数塩基は、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の4位~13位の塩基からなる塩基配列と相補的塩基対を形成する。
【0027】
上記のとおり、野生型CeR-2a RNAホモログ及び26S rRNAの5’末端の塩基配列は、線虫間でよく保存されている。これにより、C.elegansに対する変異型CeR-2a RNAは、C.inopinata、C.briggsae、C.remanei、C.brennerといったカエノラブディティス属線虫のみならず、H.contortusといったヘモンカス属線虫及びS.murisといったシファシア属線虫などの他の線虫に対しても、同様の効果を有する可能性が高い。したがって、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログが対象とする線虫は特に限定されないが、野生型CeR-2a RNAホモログを発現する線虫であることが好ましく、カエノラブディティス属(Caenorhabditis)線虫、ヘモンカス属(Haemonchus)線虫及びシファシア属(Syphacia)線虫からなる群から選ばれる少なくとも1種の線虫であることがより好ましく、カエノラブディティス属線虫であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、26S rRNAの塩基配列の5’末端側の塩基配列と高度に相補的塩基対を形成するために、野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列において、5’末端側の1位~8位の塩基からなる塩基配列が、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の21位~28位の塩基からなる塩基配列と、6個以上の相補的塩基対を形成するように改変された変異を有することが好ましい。
【0029】
C.inopinataは、最近同定された新種の線虫(Kanzaki, N. et al. Nat. Commun. 9: 3216. Doi: 10.1038/s41467-018-05712-5, 2018.)であり、イチジクの実を宿主とする。また、H.contortusは、ヒツジ、ヤギ、ウシなどの第四胃に寄生する吸血性の線虫で、畜産業者に大きな経済的損失を与える。S.murisは、ネズミ蟯虫である。
【0030】
また、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列において、5’末端側の9位~18位の塩基からなる塩基配列が、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の4位~13位の塩基からなる塩基配列と、9個以上の相補的塩基対を形成するように改変された変異を有することが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、野生型CeR-2a RNAホモログの塩基配列において、5’末端側の8位の塩基と9位の塩基との間に、26S rRNAの塩基配列における5’末端側の14位~20位の塩基からなる塩基配列の一部又は全部と相補的である塩基配列を挿入するように改変された変異を有することが好ましい。
【0032】
以下では、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログについて、具体的態様である変異型CeR-2a RNAを例にとり説明するが、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは変異型CeR-2a RNAに限定されるものではない。
【0033】
野生型CeR-2a RNA(配列番号1)は、Caenorhabditis elegans(以下、Ceともよぶ。)における核小体低分子RNA(small nucleolar RNA;snoRNA)の1種であり、rRNA前駆体のプロセシングに関与している。ヒト(Homo sapiens)のU8 snoRNA(配列番号4)は、CeR-2a RNAに相当する。
【0034】
野生型CeR-2a RNAの5’末端側の塩基配列は、Ceの26S rRNAの5’末端側の塩基配列(配列番号2)と部分的に相補的塩基対を形成する。同様に、U8 snoRNAの5’末端側の塩基配列は、28S rRNAの5’末端側の塩基配列(配列番号5)と部分的に相補的である。ここで、RNAにおける相補的塩基対を形成する塩基の組合せとしては、アデニン(A)とウラシル(U)との組合せ、シトシン(C)とグアニン(G)との組合せ、及びグアニン(G)とウラシル(U)との組合せがある。
【0035】
図1は、野生型CeR-2a RNAの構造及び野生型CeR-2a RNAとCeの26S rRNAとの相補的塩基対の形成態様を示す。なお、図1には、ヒトのU8 snoRNAの構造及びヒトU8 snoRNAとヒトの28S rRNAとの相補的塩基対の形成態様を合わせて示す。他の線虫(Nematoda)でも、CeR-2a RNAに相当するsnoRNAは見られる。そして、各線虫が有するsnoRNAは、共通してD box、LSm結合モチーフ様配列及びC boxを有しており、構造的によく保存されている。
【0036】
図1に示すとおり、野生型CeR-2a RNAの5’末端側の1位から18位までの塩基からなる塩基配列(5’-CAGUCUUCAGUAUGGGUC-3’)(配列番号1の1位~18位の塩基)は、Ceの26S rRNAの5’末端側の4位から28位までの塩基からなる塩基配列(3’-CCCAUUAGUGCUGACUCAACUCCAA-5’)(配列番号2の4位~28位の塩基)と部分的に相補的塩基対を形成する。
【0037】
例えば、野生型CeR-2a RNAの5’末端側の1位から8位までの塩基からなる塩基配列(5’-CAGUCUUC-3’)(配列番号1の1位~8位の塩基)とCeの26S rRNAの5’末端側の21位から28位までの塩基からなる塩基配列(3’-CCCAUUAG-5’)(配列番号2の21位~28位の塩基)との間で形成される相補的塩基対の数は4個である。
【0038】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAは、5’末端側の1位から8位までの塩基からなる塩基配列が、Ceの26S rRNAの5’末端側の21位から28位までの塩基からなる塩基配列と、6個以上の相補的塩基対を形成するように改変された変異を有する。
【0039】
具体的には、変異型CeR-2a RNAは、5’末端側の1位の塩基(C)のGへの置換、2位の塩基(A)のGへの置換、5位の塩基(C)のAへの置換及び6位の塩基(U)のAへの置換からなる群から選ばれる少なくとも2個以上の置換がなされているように改変された変異を有することが好ましい。変異型CeR-2a RNAの5’末端側の塩基配列とCeの26S rRNAの5’末端側の塩基配列との相補性が大きい(形成される相補的塩基対の数が多い)ほど、変異型CeR-2a RNAが有する線虫の成長抑制作用及び/又は線虫の産卵抑制作用は大きくなることから、該置換の数は、3個以上が好ましく、4個全てであることがより好ましい。
【0040】
野生型CeR-2a RNAの5’末端側の9位から18位までの塩基からなる塩基配列(5’-AGUAUGGGUC-3’)(配列番号1の9位~18位の塩基配列)とCeの26S rRNAの5’末端側の4位から13位までの塩基からなる塩基配列(3’-UCAACUCCAA-5’)(配列番号2の4位~13位の塩基配列)との間で形成される相補的塩基対の数は8個である。
【0041】
そこで、変異型CeR-2a RNAは、5’末端側の9位から18位までの塩基からなる塩基配列が、Ceの26S rRNAの5’末端側の4位から13位までの塩基からなる塩基配列と、9個以上の相補的塩基対を形成するように改変された変異を有することが好ましい。
【0042】
具体的には、変異型CeR-2a RNAは、5’末端側の12位の塩基(A)のUへの置換及び18位の塩基(C)のUへの置換からなる群から選ばれる少なくとも1個以上の置換がなされているように改変された変異を有することが好ましい。変異型CeR-2a RNAが有する線虫の成長抑制作用及び/又は線虫の産卵抑制作用の観点から、該置換は5’末端側の12位の塩基(A)のUへの置換であることが好ましく、該置換の数が2個全てであることがより好ましい。
【0043】
野生型CeR-2a RNAの5’末端側には、Ceの26S rRNAの5’末端側の14位から20位までの塩基からなる塩基配列(3’-UGCUGAC-5’)(配列番号2の14位~20位の塩基配列)と相補的塩基対を形成する塩基からなる塩基配列はない。
【0044】
そこで、変異型CeR-2a RNAは、5’末端側の8位の塩基(C)と9位の塩基(A)との間に、Ceの26S rRNAの5’末端側の14位から20位までの塩基からなる塩基配列の一部又は全部と相補的である塩基配列、例えば、5’-ACGACUG-3’(配列番号6)で表される塩基配列などを挿入するように改変された変異を有することが好ましい。
【0045】
変異型CeR-2a RNAは、上記した変異を有するものであれば特に限定されない。変異型CeR-2a RNAの具体例としては、配列番号3に記載の塩基配列から本質的になる変異型CeR-2a RNA、配列番号7に記載の塩基配列から本質的になる変異型CeR-2a RNA及び配列番号23に記載の塩基配列から本質的になる変異型CeR-2a RNAなどが挙げられる。図2に、野生型CeR-2a RNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなる変異型CeR-2a RNAと26S rRNAとの相補的塩基対を形成する態様を模式的に示す。
【0046】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫の細胞の核小体における26S rRNAと結合することにより、線虫の成長抑制作用及び/又は線虫の産卵抑制作用を発揮する。そこで、変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫の核小体に到達及び入り込み易いように設計されていてもよい。
【0047】
変異型CeR-2a RNAホモログは、これまでに知られている核酸合成技術を適用して製造することができ、例えば、手動又は自動の反応により、酵素的又は化学合成的に製造することができる。例えば、CeのゲノムDNAのうち、野生型CeR-2a RNAをコードする領域(CeのIV番染色体の8,428,478-8,429,157)を含む部分を鋳型として、5’末端側に上記した変異を有するような塩基からなる塩基配列を付加したプライマー(例えば、配列番号25~27の塩基配列を有するプライマー)を用いて核酸合成反応を実施する。次いで得られた反応産物を回収し、該反応産物を鋳型としてPCRを実施することにより変異型CeR-2a RNAをコードするDNA断片を得る。該DNA断片をRNA合成に適したプラスミドに挿入し、該プラスミドを直線化した上でRNAポリメラーゼを用いたRNA合成反応に供する。次いで反応産物として、変異型CeR-2a RNAを得る。この際、溶媒又は樹脂を用いる抽出、沈降、電気泳動、クロマトグラフィーなどによって、変異型CeR-2a RNAを精製してもよい。変異型CeR-2a RNAホモログの取得に際しては、ジーンデザイン、Dharmacon、QIAGEN、シグマアルドリッチなどの受託製造会社を利用した受託製造サービスを利用してもよい。
【0048】
変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫の細胞若しくは組織に導入し、又は線虫に導入し、標的である核小体における26S rRNAと結合するように使用することができる変異型CeR-2a RNAホモログが26S rRNAと結合することにより、線虫の成長抑制及び/又は線虫の産卵抑制を誘導することができる。変異型CeR-2a RNAホモログの導入は、当技術分野で公知の方法により、当業者であれば適切に行なうことができる。例えば、変異型CeR-2a RNAホモログを線虫に適用するためには、土壌及び/又は植物体に変異型CeR-2a RNAホモログを散布又は注入すること、変異型CeR-2a RNAホモログが発現するように遺伝子組換えしたウイルスを線虫に適用すること、BioClay(Elizabeth A.Worrallらの文献(Elizabeth A. Worrall et al., Frontiers Plant Science, March 2019, Volume 10, Article 265, [https://www.nature.com/articles/nplants2016207])を参照)を利用することなどが挙げられる。
【0049】
変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫内で生成し得るようにデザインされたものであってもよい。例えば、変異型CeR-2a RNAホモログをコードするDNA断片を線虫細胞用の発現ベクターに挿入したものであってもよい。このような発現ベクターとしては、例えば、U6 snRNAのプロモータをクローニングサイトの上流に持つプラスミドベクターなどが挙げられる。
【0050】
[変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する組成物及び農薬]
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫の成長抑制用組成物である。本発明の別の一態様は、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫の産卵抑制用組成物である。
【0051】
線虫の成長抑制用組成物は、変異型CeR-2a RNAホモログが有する線虫の成長抑制作用を利用してなるものである。「線虫の成長抑制作用」は、線虫の体長が大きくなる速度を抑制する作用及び線虫の最大体長を抑制する作用からなる群から選ばれる少なくとも1種の作用を意味する。
【0052】
Ceは、20℃において、孵化後9時間のL1期において最大370μm、L1期後12時間(孵化後21時間)のL2期において最大480μm、L2期後8時間(孵化後29時間)のL3期において最大640μm、L3期後8時間(孵化後37時間)のL4期において最大850μm、L4期後18時間(孵化後55時間)の成虫期において1,060μm程度になるといわれている。
【0053】
以下では、Ceである線虫について、後述する実施例に記載の液体培養条件にて、20℃でインキュベートする場合の各作用について言及する。
【0054】
線虫の成長抑制用組成物は、線虫の体長が大きくなる速度を抑制する作用が発揮する場合、L2期~成虫期の線虫、好ましくはL2期~L4期の線虫の体長を、線虫の成長抑制用組成物を使わない場合と比べて、小さくすることができる。例えば、線虫の成長抑制用組成物を使用することにより、L4期の線虫の体長を850μm未満にすることが期待される。
【0055】
線虫の成長抑制用組成物が線虫の体長が大きくなる速度を抑制する作用を発揮する場合であっても、線虫の体長は孵化後55時間以降に1,060μmに達し得る。したがって、線虫の成長抑制用組成物は、線虫の体長が大きくなる速度を抑制する作用を発揮するからといって、線虫の最大体長を抑制するとは限らない。
【0056】
それに対して、線虫の成長抑制用組成物は、線虫の最大体長を抑制する作用が発揮する場合、線虫の最大体長を、線虫の成長抑制用組成物を使わない場合と比べて、小さくすることができる。例えば、線虫の成長抑制用組成物を使わない場合に線虫の体長は最大1,400μm以上に達するところ、線虫の成長抑制用組成物を使用する場合は1,400μm未満に抑えることが期待される。
【0057】
線虫の産卵抑制用組成物は、変異型CeR-2a RNAホモログが有する線虫の産卵抑制作用を利用してなるものである。「線虫の産卵抑制作用」は、線虫の産卵開始時期を遅らせる作用を意味する。
【0058】
線虫の産卵抑制用組成物を用いることにより、線虫の産卵抑制用組成物を用いない場合と比べて、線虫の平均産卵開始時間は大きくなり、好ましくは5時間以上又は1.10倍以上の時間になり、より好ましくは7時間以上又は1.15倍以上の時間になる。
【0059】
線虫の産卵抑制用組成物を用いない場合は、線虫の多くは孵化後50時間までに産卵を開始する。それに対して、線虫の産卵抑制用組成物を用いる場合は、線虫の多くは孵化後50時間までに産卵を開始せず、孵化後50時間、好ましくは孵化後55時間を過ぎて産卵を開始する。
【0060】
線虫の産卵抑制用組成物は、線虫の産卵開始時期を遅らせ得るものではあるが、線虫の産卵個数を必ずしも抑制するものではない。ただし、線虫の産卵抑制用組成物は、線虫の産卵個数を抑制するものであってもよい。
【0061】
線虫の成長抑制作用及び線虫の産卵抑制作用は、後述する実施例に記載の方法によって、確認及び評価することができる。具体的には、線虫の成長抑制作用は、線虫の体長を経時的に測定し、体長成長プロファイル及び/又は体長1mm到達時の平均時間を確認することにより、評価することができる。線虫の産卵抑制作用は、線虫の受精卵個数及び/又は産卵開始個体数を経時的に測定し、時間当たりの受精卵個数、時間当たりの産卵開始個体数及び/又は平均産卵開始時間を確認することにより、評価することができる。
【0062】
変異型CeR-2a RNAホモログが有する線虫の成長抑制作用及び線虫の産卵抑制作用は、変異型CeR-2a RNAホモログが野生型CeR-2a RNAと比べてCeのリボソーム構成因子である26S rRNAの前駆体と強く結合し、それにより26S rRNAがプロセシングを受けることが阻害されることを作用機序とすると推測される。この結果として、変異型CeR-2a RNAが核小体にある場合、rRNA前駆体がプロセシングを受けずに蓄積し、リボソームの合成が抑制される。
【0063】
これにより、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫のrRNA前駆体蓄積促進用組成物である。本発明の別の一態様は、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫のリボソーム合成抑制用組成物である。
【0064】
線虫のrRNA前駆体蓄積促進用組成物又は線虫のリボソーム合成抑制用組成物を用いることにより、このような組成物を用いない場合と比べて、リボソームの小ユニットである40Sと大ユニットである60Sの比率(40S/60S)が大きくなり、好ましくは50%以上又は該組成物を用いない場合と比べて1.5倍以上、より好ましくは70%以上又は該組成物を用いない場合と比べて2.0倍以上になる。これは26S rRNA前駆体がプロセシングを受けて60Sの構成成分の一つとなるところ、26S rRNAがプロセシングを受けない場合は60Sの量が少なくなり、40S/60Sの比率が大きくなることに依拠する。線虫のリボソーム及びリボソームの各ユニットの定量は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0065】
変異型CeR-2a RNAホモログは、線虫に対する、成長抑制作用、産卵抑制作用、rRNA前駆体蓄積促進作用及びリボソーム合成抑制作用からなる群から選ばれる少なくとも1種の作用を有することにより、線虫に対する農薬の有効成分として使用することができる。そこで、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログを有効成分として含有する、線虫用農薬である。
【0066】
本発明の一態様の農薬を用いれば、土壌及び/又は植物体に付着した線虫に対して作用することにより、例えば、線虫の成長を抑制することにより、線虫が成虫になる前に、線虫の成虫に被害を受け易い植物の若芽を十分に生育させること;線虫の産卵を抑制することにより、線虫が産卵を開始する前に他の殺線虫剤により線虫を殺滅すること;rRNA前駆体の蓄積を促進し、リボソームの合成を抑制することにより、線虫の薬剤耐性を導くタンパク質の合成を抑制し、線虫が薬剤に対する感受性を高めることなどが期待される。
【0067】
本発明の一態様の組成物及び農薬における変異型CeR-2a RNAホモログの含有量は、それぞれ求められる作用及び効果が発揮する程度の量であれば特に限定されないが、例えば、組成物又は農薬の総量に対して、0.0001質量%~99質量%であり、好ましくは0.001質量%~10質量%である。本発明の一態様の組成物及び農薬の1回の使用量及び使用回数は、適用する線虫の種類及び数、適用対象、適用形態、温度、湿度、室内外などの適用環境に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、1回の使用量は有効成分である変異型CeR-2a RNAホモログあたり0.001μg~1,000mgであり;使用回数は1日に1回~複数回又は数日~数週間ごとに1回~複数回である。本発明の一態様の組成物及び農薬は、一定期間、例えば、数週間~数ヶ月間に渡って適用することが好ましい。
【0068】
変異型CeR-2a RNAが有するCeの成長抑制作用及びCeの産卵抑制作用は、20℃及び15℃に比べて、25℃の場合に、強く発揮する傾向にある。そこで、本発明の一態様の組成物及び農薬を室外で使用する場合の時期は、好ましくは気温が20℃以上である、より好ましくは25℃以上である春、夏及び秋である。本発明の一態様の組成物及び農薬を室内で使用する場合は、温度を20℃以上に設定することが好ましく、25℃以上に設定することがより好ましい。
【0069】
本発明の一態様の組成物及び農薬は、有効成分として変異型CeR-2a RNAホモログを単独で使用してもよいが、1種又は2種以上の殺線虫剤と併用してもよい。
【0070】
本発明の一態様の組成物及び農薬の剤形は、含有する変異型CeR-2a RNAホモログが有効成分として作用及び効果を発揮する剤形であれば、特に限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤などの固形剤;液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤などが挙げられる。
【0071】
本発明の一態様の組成物及び農薬は、その剤形に応じて、変異型CeR-2a RNAホモログと、薬学的に許容される担体、添加剤などとを用いて製剤化される。例えば、固形剤の場合であれば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、pH調整剤などを用いて製剤化することができる。また、液剤の場合であれば、生理食塩水、緩衝液、界面活性剤、pH調整剤などを用いて製剤化することができる。
【0072】
本発明の一態様の組成物及び農薬は、変異型CeR-2a RNAホモログが線虫の細胞内に移行され易いように、核酸導入補助剤とともに製剤化されることが好ましい。核酸導入補助剤としては、例えば、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、リポソーム、ポリアミン、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマーなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明の一態様の組成物及び農薬は容器詰めされたものであることが好ましい。容器は特に限定されず、剤形などに応じて適宜選択できるが、例えば、コーティング紙、PETやPTPなどのプラスチック、アルミなどの金属、ガラスなどを素材とするパック、瓶、缶、パウチ、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋などが挙げられる。
【0074】
本発明の一態様の組成物及び農薬の使用方法は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物及び農薬をそのまま、若しくは水などとともに、又は水などで希釈するなどして、使用することができる。
【0075】
本発明の別の一態様は、本発明の一態様の組成物又は農薬を利用する方法である。本発明の一態様の方法は、本発明の一態様の組成物又は農薬を、線虫に適用することにより、線虫の成長を抑制し、産卵を抑制し、rRNA前駆体の蓄積を促進し、及び/又はリボソームの合成を抑制する工程を含む、線虫を減弱化する方法又は線虫から植物を保護する方法である。投与方法、線虫の減弱化の確認方法などは、上記項目を適宜参照できる。
【0076】
[変異型核小体低分子RNAの製造方法]
本発明の別の一態様は、変異型核小体低分子RNAの製造方法である。本発明の一態様の製造方法は、生物体の26S rRNA、28S rRNAなどのrRNA前駆体の5’末端側の塩基配列の情報を基に、該塩基配列と比較的高度に相補的塩基対を形成するような核小体低分子RNAをデザインすることを基本構成とする。
【0077】
本発明の一態様の製造方法は、生物体のrRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成して結合する核小体低分子RNAを取得する工程と、核小体低分子RNAの5’末端側の塩基配列を、rRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補性が高くなるように改変することにより、変異型核小体低分子RNAを得る工程とを少なくとも含む。
【0078】
「rRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補性が高くなるように改変すること」とは、変異前の野生型核小体低分子RNAよりも、5’末端側の塩基配列がrRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成する数が多くなるように改変することを意味する。
【0079】
本発明の一態様の製造方法における各工程は、従来公知の方法を採用して実施することが可能である。例えば、生物体の26S rRNA、28S rRNAなどのrRNA前駆体の塩基配列はGenBank(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)などの公共のデータベースを利用して検索可能である。
【0080】
生物体のrRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補的塩基対を形成して結合する核小体低分子RNA又は該RNAをコードする遺伝子は、公知の方法により生物体から取得したゲノムDNA又はRNAに対して、rRNA前駆体の塩基配列、野生型CeR-2a RNAの塩基配列(配列番号1)及びヒトU8 snoRNAの塩基配列(配列番号4)などの情報を基に、PCR(ポリメラーゼ伸長反応)、ハイブリダイゼーション、cDNA作製技術などの公知の生物工学的手法を採用して取得することができる。
【0081】
取得した核小体低分子RNAは、変異型CeR-2a RNAを取得したのと同様の方法を採用することにより、rRNA前駆体の5’末端側の塩基配列と相補性が高くなるように改変することができる。
【0082】
本発明の一態様の方法は、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
【0083】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例
【0084】
[1.実施例の概要]
線虫としては、Caenorhabditis elegansを用いた。
【0085】
線虫を、標準プロトコールであるBrennerの文献(Brenner, S., The genetics of Caehorhabditis elegans. Genetics 77: 71-94., 1974)によって培養した。線虫は、図3に示す株を使用した。
【0086】
CeR-2a RNAはC.elegansのRNomicsにより発見されたnon-coding RNAであり、IV番染色体上にコードされている。CeR-2a RNAは核小体に局在し、その遺伝子欠損株(MT16939)ではリボソーム大サブユニットrRNA(LSU rRNA)前駆体の蓄積が確認されている(非特許文献1を参照)。
【0087】
後述する結果が示すとおり、MT16939に遺伝子cer-2aをレスキューした株(MTcer)ではLSU rRNA前駆体の蓄積が解消された。したがって、CeR-2a RNAはLSUrRNAプロセシングにおける5.8S及び26Sの切断に関与すると考えられる。これらのことから、CeR-2a RNAは脊椎動物ではU8 snoRNAの線虫ホモログであることが示唆される。
【0088】
ここでは、MT16939、MTcer及び変異遺伝子cer-2a(cerX)の導入株(MTcerX)を用いて、継時的な体長測定及び産卵数計測を行った。また、線虫から株ごとに細胞抽出液を調製して、ショ糖密度勾配遠心法によってリボソームを分離し、40S、60S及び80Sリボソームの割合を解析した。
【0089】
II番染色体上にMos1 トランスポゾンを有する株(MT4322)に、選択マーカー遺伝子(unc-119)及び遺伝子cer-2a(配列番号1)又は変異遺伝子cerX(配列番号3)がコードされたプラスミドを注入し、相同組み換えを誘導することで遺伝子の導入を行った(MosSCI法)。IV番染色体の欠損は全て、MT16939の雄との交配に由来する。
【0090】
上記の各株の遺伝子型をまとめたものを図3に示す。
【0091】
[2.線虫の液体培養]
食料源として濃縮されたE.coli W3110株を用意するために、LB培地によりW3110を一晩前培養したもの(50ml)を、LB培地(3L)に添加し、37℃で125rpm/minで振とうしながら8時間培養した。W3110は4,500rpmで5分間、4℃で遠心分離によって回収した。回収したW3110ペレットを50mlの蒸留水中に再懸濁して、W3110の再懸濁液を得た。
【0092】
様々な発生段階が混在している状態の線虫を、直径15cmのNGMプレート上で、E.coli株OP50(CGCより入手)を一晩培養したもの200μlとともに播種して前培養した。線虫の前培養液(充填容積) 約40μlと、E.coli W3110の再懸濁液 2mlとを含むS培地100mlを、20℃で125rpm/minで振とうしながら164時間培養し、次いで1mlのW3110の再懸濁液を培養液に添加した。線虫をさらに21時間培養し、6,000rpmで3分間、4℃で遠心分離して回収した。線虫を、2M スクロースを用いたショ糖浮遊法によってE.coliと分離し、100mg/ml シクロへキシミドを含む0.1M NaClを用いて洗浄した。100ml S培地からの線虫の収量は、充填容積 300μl~400μlであった。
【0093】
[3.Mos1-mediated single-copy insertion(MosSCI)]
線虫株HUJ0003及びHUJ0004は、Frokjar-Jensenらの文献(Frokjar-Jensen et al., Single-copy insertion of transgene in Caenorhabditis elegans. Nat Genet. 40:1375-1383, 2008;Improved Mos1-mediated transgenesis in C. elegans. Nat Methods, 9:117-118, 2012)に記載のMosSCI法によって作製した。
【0094】
cer-2a(8,428,478-8,429,157)及びcer-2b(4,880,391-4,881,412)を含むIV番染色体のゲノムDNA領域を、それぞれプライマーCP1及びCP2並びにプライマーCP3及びCP4によりPCRによって増幅した。
【0095】
得られた増幅産物を制限酵素SbfI及びXhoIで切断し、pCFJ151のマルチクローニングサイトに挿入した。得られたプラスミドを、それぞれcer-2aを有するpTKD843及びcer-2bを有するpTKD844と名付けた。
【0096】
pTKD843及びpTKD844を、共導入マーカーとしてpRF4(rol-6 (su1006)) 50ng/μl及びpCFJ601(Peft-3::Mos1 transposase::tbb-2 3’UTR) 50ng/μlとともに線虫株EG4322に50ng/μlでマイクロインジェクション法により注入した。
【0097】
導入遺伝子が正しい遺伝子座中に挿入されたことを確認するために、シングルワームPCRをプライマーCF420及びCF421を用いて実行した。Mos1エレメントの不在は、上記のFrokjar-Jensenらの文献に従って、プライマーoJL102及びoJL103を用いたシングルワームPCRによって検証した。得られたII番染色体にcer-2a及びcer-2bを導入した株は、それぞれHUJ0003及びHUJ0004と名付けた。
【0098】
HUJ0003及びHUJ0004の雌雄同体をMT16939の雄と交配して得た株を、それぞれHUJ0005及びHUJ0006と名付けた。EG4322の雌雄同体をMT16939の雄と交配して得た株を、HUJ0007(MT4322)と名付けた。
【0099】
変異株EG4322のII番染色体に、プラスミドpCFJ151(Addgeneより入手)を用いたMosSCI法により、Cb-unc-119をシングルコピーで挿入した。共導入マーカーとして50ng/μl pRF4(rol-6(su1006))と50ng/μl pCFJ601(Peft-3::Mos1 transposase::tbb-2 3’UTR)とを用いた。線虫へのDNAの導入はマイクロインジェクション法により行った。得られた株をHUJ0011(EG119)と名付けた。
【0100】
MT16939の雌雄同体をHUJ0011の雄と交配して得た株を、HUJ0008(MT119)と名付けた。
【0101】
EG4322のII番染色体に、プラスミドpTKD845を用いたMosSCI法により、cerXを含むDNA断片をシングルコピーで挿入した。共導入マーカーとして50ng/μl pRF4(rol-6(su1006))と50ng/μl pCFJ601(Peft-3::Mos1 transposase::tbb-2 3’UTR)を用いた。線虫へのDNAの導入はマイクロインジェクション法により行った。得られた株をHUJ0012(N2cerX)と名付けた。なお、HUJ0012はEG4322バックグラウンドでcer-2aをII番染色体に挿入してある。また、EG4322はMosSCI用の線虫株で、今回MosSCI法により作製した変異株やそれらの変異株と交配することにより作製した株はEG4322バックグラウンドとなっており、改変を加えているcer-2a関連以外の遺伝子に関してはN2とほぼ同じである。
【0102】
pTKD845はpCFJ151のマルチクローニングサイトに、オーバーラップ伸長PCR(overlap extension PCR;OE-PCR)により得たDNA断片を挿入して作製した。pTKD845はcerX及びその周辺の配列を有する。OE-PCRは2回のPCR反応から成る。1回目のPCRは2種類の反応液から成る。1回目のPCRでは、鋳型DNAをそれぞれpTKD843とし、プライマーcer-2a-BPstr_F及びプライマーcer-2a+105+xhoを用いた反応、並びにプライマーcer-2a-398+sbfI及びプライマーcer-2a-BPstr_Rを用いた反応を実施した。2回目のPCRでは、1回目のPCR反応液を混合して、制限酵素DpnIで処理したものを鋳型に用いた。プライマーはcer-2a+105+xho及びcer-2a-398+sbfIを用いた。
【0103】
MT16939の雌雄同体をHUJ0012の雄と交配して得た株を、HUJ0009(MTcerX)と名付けた。
【0104】
使用したプライマーの配列を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
[4.リアルタイムPCRを使用した変異体中のCeR-2a及びCeR-2b RNAの絶対的定量]
線虫から、トータルRNA 1μg中におけるCeR-2a及びCeR-2b RNAの絶対コピー数を、下記手順に従って検量線法を使用して計測した。
【0107】
in vitro転写用のテンプレートDNAを、非特許文献1の記載に準じて、ネスティッドPCRによって生成した。第1のPCRは、テンプレートとしてcer-2aを含むpCFJ151を使用し、プライマーはRTP1及びCeR2aT7F1を用いて実施した。第1のPCR産物をテンプレートとして使用し、プライマーRTP1及びEcoRIT7を用いて第2のPCRを実施した。なお、プライマーCeR2aT7F1及びEcoRIT7は、T7プロモータ配列領域を含む。
【0108】
第2のPCRにより得られたDNA断片を、in vitro転写用のテンプレートとして使用し、MEGAshortscript T7 transcription Kit(Ambion Inc.)を用いてCeR-2a RNAを生成した。転写物を定量し、qRT-PCRのスタンダードサンプルとして使用した。CeR-2a RNAの4.4×10~4.4×10コピーの10倍連続希釈を使用した。
【0109】
トータルRNAを、液体培地中で培養した線虫からTRIzol試薬(Life Technologies)を用いて抽出し、次いでDNase I(Promega)で処理した。cDNAを、PrimeScript Reverse Transcriptase(TaKaRa Bio)及びプライマーRTP1を用いて1μgのトータルRNAから合成した。得られたcDNAは、Brilliant III Ultra-Fast SYBR Green QPCR Master Mixes(Agilent Technologies)並びにcer-2特異的プライマーRTF1及びRTR1を用いたリアルタイムPCRに供した。リアルタイムPCRは、DNA Engine OPTICON 2 Continuous Fluorescence Detection system(MJ Research)を使用して行った。閾線は、MJ Opticon Moniter Analysis Software Version3.1(Bio-Rad)用のデフォルト設定にしたがって設定した。CT値を、同じ条件下で計算した。絶対的定量によって、検量線に対するCT値にしたがって各線虫株のCeR-2 RNAのコピー数を決定した。最終データは、トータルRNA 1μgごとのコピー数として表した。
【0110】
使用したプライマーの配列を表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
[5.ノーザンハイブリダイゼーション]
線虫のトータルRNA(1μg)を、ホルムアルデヒドを含む1.0%変性アガロースゲル上で分離し、キャピラリーブロッティングによってBiodyne Plus membrane(Pall Corporation)上にブロットした。オリゴヌクレオチドNB1及びNB2を、DIG Oligonucleotide Tailing Kit 2nd generation(Roche)を使用してDIG-ddUTPを用いてラベルして、ハイブリダイゼーション用のプローブとして使用した。
【0113】
使用したオリゴヌクレオチドの配列を表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
[6.リボソーム沈降プロファイルの測定]
リボソーム沈降プロファイルは、下記手順に従い、Kirstein-Milesらの文献(Kirstein-Miles,J.,et al., The nascent polypeptide-associated complex is a key regulator of proteostasis. EMBO J. 32: 1451-1468, 2013)及びSaijouらの文献(Saijou,E.,et al., RBD-1, a nucleolar RNA-binding protein, is essential for Caenorhabditis elegans early development through 18S ribosomal RNA processing. Nucleic Acids Res. 32: 1028-1036., 2004)に記載のショ糖密度勾配遠心法に軽微な修正を加えた方法によって分析した。
【0116】
充填容積 約400μlの線虫を、溶解バッファ(50mM Tris-HCl[pH 7.5],25mM KCl、5mM MgCl、0.5% Triton X-100、250mM sucrose)に添加して混合した。得られた混合物を、Micro Smash MS-100(Tomy Seiko Co.Ltd.)を使用して、3,500rpmで2分間、4℃にてホモジナイズした。
【0117】
ホモジナイズ後の細胞デブリを、14,000gで10分間、4℃にて遠心分離によって除去した。回収した上清を、10~30%(w/v)ショ糖密度勾配溶液上に重層し、36,000rpmで200分、スイングアウトロータ(HITACHI、P40ST-1714)内で4℃にて遠心分離した。各勾配を分画し、MODEL 152 Piston Gradient Fractionator ipTM(BioComp Instruments,Inc.)及びECONO UV MONITOR(Bio-Rad)を使用して254nmの吸光度(A254)を測定した。
【0118】
[7.線虫の体長の測定]
20体のL1期線虫を、E.coli OP50を播種したNGMプレート上に配置した。配置直後を時間0(t=0)として設定した。L1期線虫を播種したNGMプレートを20℃、25℃又は15℃でインキュベートした。
【0119】
線虫の画像を、デジタルカメラを用いて実体顕微鏡下(Olympus SZ60)で12時間毎に撮影した。線虫を、48時間毎にE.coli OP50を播種したNGMプレートに移し、L1期線虫がL2期に移ることを防いだ。
【0120】
体長は、線虫の鼻から肛門までをImageJ(Morck,C.,andPilon,M.,2006)を用いて計測した。データを、stage micrometer MR-4(NADEC CO.,LTD.)を使用して、ピクセルからマイクロメータに変換した。L1期幼虫の鼻及び肛門は画像上で検出可能ではないので、12時間後のデータを示す。
【0121】
[8.線虫の産卵アッセイ]
50体のL1期線虫を、E.coli OP50を播種したNGMプレート上に配置した。L1期線虫を播種したNGMプレートを20℃、25℃又は15℃でインキュベートした。
【0122】
線虫を、ヤングアダルト期後、プレート上に産卵するまで実体顕微鏡(Olympus SZ60)を用いて3時間毎に観察した。3時間ごとに、プレート上の線虫が産み出した卵の数を計測した。
【0123】
[9.結果]
20℃及び25℃でインキュベートした線虫の体長測定の結果を、それぞれ図4及び図5に示す。それぞれの図が示すとおり、変異型CeR-2a RNAを発現するN2cerX及びMTcerXは、それぞれ対応するN2及びMTcerに対して、体長の伸長速度が遅かった。また、線虫を15℃でインキュベートした場合においても、図4及び図5と同様の傾向を示すことがわかった。
【0124】
20℃及び25℃でインキュベートした線虫の産卵個数を測定した結果を、それぞれ図6及び図7に示す。また、20℃及び25℃でインキュベートした線虫の体長1mm到達時間及び産卵開始時間を測定した結果を、図8に示す。それぞれの図が示すとおり、変異型CeR-2a RNAを発現するN2cerX及びMTcerXは、それぞれ対応するN2及びMTcerに対して、体長1mm到達時の時間及び産卵開始の時間が遅かった。また、線虫を15℃でインキュベートした場合においても、図6~8と同様の傾向を示すことがわかった。
【0125】
以上の結果より、変異型CeR-2a RNAは、線虫に対して、成長抑制作用及び産卵抑制作用を示すことがわかった。特に、図8に示すように、CeR-2a RNAの有無を比較したMTcer及びMT4322(III番染色体に遺伝子unc-119が存在すると想定される)との比較では、20℃及び25℃の体長1mm到達時間及び25℃における産卵開始時間においてほとんど差がなく、CeR-2a RNAの有無が線虫の表現型に影響をほとんど及ぼさないことがわかった。それにもかかわらず、変異型CeR-2a RNAが線虫の成長抑制作用及び線虫の産卵抑制作用を示すということは、本発明者らによって初めて見出された驚くべき知見である。
【0126】
リボソーム沈降プロファイルの測定結果を図9に示す。図9(A)は、それぞれの線虫株から調製した細胞抽出液に対するショ糖密度遠心によって、リボソームを40S、60S及び80Sに分離したことを示す模式図である。図9(B)は、得られた画分の254nmにおける吸光度を測定し、画分ごとの吸光度をグラフ化した図である。図9(C)は、線虫株ごとにそれぞれのピークの面積を求めて、40S、60S及び80Sの比率を算出した結果を示す図である。
【0127】
図9が示すとおり、変異型CeR-2a RNAを発現するN2cerX及びMTcerXは、それぞれ対応するN2及びMTcerに対して、26S rRNAがプロセシングを受けずに60Sの量が少なくなり、40S/60Sの比率が大きくなった。これにより、変異型CeR-2a RNAは、線虫に対して、rRNA前駆体蓄積促進作用及びリボソーム合成抑制作用を示すことがわかった。
【0128】
本明細書に記載のある塩基配列について、以下に示す。
[配列番号1]野生型CeR-2a RNAの塩基配列
CAGUCUUCAGUAUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCUUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGGUGGGAACGCAAUACCCGCCUGCCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号2]26S rRNAの塩基配列(5’末端側の1位~100位の塩基配列を抜粋)
CUCAACCUGAACUCAGUCGUGAUUACCCGCUGAACUUAAGCAUAUCAUUUAGCGGAGGAAAAGAAACUAAAAAGGAUUCCCUUAGUAACGGCGAGUGAAA
[配列番号3]変異型CeR-2a RNAの塩基配列
GGGUAAUCAGUUUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCUUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGGUGGGAACGCAAUACCCGCCUGCCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号4]ヒトU8 snoRNAの塩基配列
AUCGUCAGGUGGGAUAAUCCUUACCUGUUCCUCCUCCGGAGGGCAGAUUAGAACAUGAUGAUUGGAGAUGCAUGAAACGUGAUUAACGUCUCUGCGUAAUCAGGACUUGCAACACCCUGAUUGCUCCUGUCUGAUU
[配列番号5]28S rRNAの塩基配列(5’末端側の1位~100位の塩基配列を抜粋)
CGCGACCUCAGAUCAGACGUGGCGACCCGCUGAAUUUAAGCAUAUUAGUCAGCGGAGGAGAAGAAACUAACCAGGAUUCCCUCAGUAACGGCGAGUGAAC
[配列番号6]Ceの26S rRNAの5’末端側の14位~20位の塩基からなる塩基配列と相補的である塩基配列
CAGUCGU
[配列番号7]変異型CeR-2a RNAの塩基配列において、8位と9位の間にACGACUGが挿入されている配列
GGGUAAUCACGACUGAGUUUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCUUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGGUGGGAACGCAAUACCCGCCUGCCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号8]プライマーCP1
AAACCTGCAGGTACTGGTACGATCCCTGTTC
[配列番号9]プライマーCP2
AAACTCGAGATCGTGTATTTTATGTCAACG
[配列番号10]プライマーCP3
AAACCTGCAGGGGGAAAAATGAGTTGTAGGC
[配列番号11]プライマーCP4
AAACTCGAGCGAAAATCTACCAAATCCTG
[配列番号12]プライマーCF420
TTTCTCACATGTTTTGCTGC
[配列番号13]プライマーCF421
ACATTGTCGAAATGTCCTCC
[配列番号14]プライマーoJL102
CAACCTTGACTGTCGAACCACCATAG
[配列番号15]プライマーoJL103
TCTGCGAGTTGTTTTTGCGTTTGAG
[配列番号16]プライマーRTP1
GTTCAGAATCGGGCTG
[配列番号17]プライマーCeR2aT7F1
CGACTCACTATAGTCTTCAGTATGGGTCA
[配列番号18]プライマーEcoRIT7
AAAGAATTCTAATACGACTCACTATA
[配列番号19]プライマーRTF1
GTCAATCTCTGATCTGCAAC
[配列番号20]プライマーRTR1
CGGGTATTGCGTTCCCA
[配列番号21]プローブNB1
TGGAACGTTGACATTTCGACACTCAACTGA
[配列番号22]プローブNB2
AAGAAGAAGCCTAGACGCATATAGCCACCA
[配列番号23]変異型CeR-2a RNAの塩基配列において、13位及び14位の塩基がそれぞれ「C」と「A」に置き換えられた配列
GGGUAAUCAGUUCAGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCUUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGGUGGGAACGCAAUACCCGCCUGCCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号24]プローブcer-2a-BRstr_F
GGGTAATCAGTTTGGGTCAATCTCTGATCTG
[配列番号25]プローブcer-2a-105+xho
AAACTCGAGATCGTGTATTTTATGTCAACG
[配列番号26]プローブcer-2a-BRstr_R
ACCCAAACTGATTACCCGAGAAAGGGTGAAAGTGTGC
[配列番号27]プローブcer+398+sbf
AAACCTGCAGGTACTGGTACGATCCCTGTTC
[配列番号28]Cele(2b)
CAGUCUUCAGUAUGGGUCAAAUAUUGAUCUGCAACUGAAAAUGAAGAGAUCGGGCGAUGAAAUUUUGUGAUUAAAUCGCACGGCGAGAUGGGAACGCAAUACCCGUCUGGCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号29]Cino
CAGUCUUCAGUAUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAAAAUGAUGAGCUCGGGCGAUGAUCUUUUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGGAGGGAACGCAAUACCCGCCUGCCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号30]Cbri1
CAGUCUUCAGUAUGGGUCAAAUAUUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCUUUUGUGAUUAAAUCGCACGGCGAGAUGGGAACGCAAUACCCGUCUGGCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号31]Cbri2
CAGUCUUCAGUAUGGGUCAAAUAUUGAUCUGCAACUGAAAAUGAAGAGAUCGGGCGAUGAAAUUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGGGGUGGGAAACGCAAUACCUGACCGUCAGCCUCGAUUCUGACA
[配列番号32]Crem1
UAGUCUUCAGUAUGGGUCAAAUAUUGAUCUGCAACUGAAAAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCUUCUGUGAUUAUAUCGCACGGCGAGGAGGGAACGCAAUACCCACCUGUCAGCCCGAUUCUGAA
[配列番号33]Crem2
UAGUCUUCAGUAUGGGUCAAAUAUUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGAUCCUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGUUGGGAACGCAAUACCUGACUGCCAGCCCGGUUCUGA
[配列番号34]Cbre1
CAGUCUUCAGUAUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAAUAUGAUGAGUUCGGGCGAUGACUCUCUGUGAUUACAUCGCACGGCGAGGUGGGAACGCAAUACCCGCCUGCCAGCCCGAUUCUGAAC
[配列番号35]Cbre3
UUGUCAUCAGUAUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAACAUGAUGAAAACGGGCGAUGAUCCAUCGGUGAUUAUAACGCACGGCGAGGAGGGAACGCAAUACCCACCUGUCUGCCCGAAUCUGA
[配列番号36]Cbre4
UUGUCAUCAGUAUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAACAUGAUGAUAACGGGCGAUGAUCCAUCGGUGAUUAUAACGCACGGCGAGGAGGGAACGCAAUACCCACCUGUCUGCCCGAAUCUGA
[配列番号37]Cbre5
UUGUCAUCAGUAUGGGUCAAUCUCUGAUCUGCAACUGAACAUGAUGAAAACGGGCGAUGAUCCUUUGGUGAUUAUAACGCACGGCGAGGAGGGAACGCAAUACCCACCUGUCUGCCCGAAUCUGA
[配列番号38]Hcon
UUGUCUUCAGUAAGGGUCAAUUCAGACCUGAAUCUGAAUAUGAUGAGAUCGGGCGAUGAGUCAAAGUGAGUUACGACGCACGGAUCGUCGGGACCGCAACUCCCGUACGAGGCCCGAAUCUGAA
[配列番号39]Smur
UCGGUCUCAGUAAGGGUCAAUUCAGACCUGAAUCUGAAACGUGAUGAGAUCGGGCGAUGAGUUCCAGAUGAGUUAAAGCGCACGGCGGCGCGAGUGUCGCAACUUGCGUUUGAUGCCUGAGUCUGAGUC
[配列番号40]Haemonchus contortus 26S rRNA
UGCAACCUGAGCUCAGGCGUGAUUACCCGCUGAACUUAAGCAUAUCACUUAGCGGAGA
[配列番号41]Syphacia muris 26S rRNA
UAGUACCUCAACUCAGUCGUGAUUACCCGCUGAAUUUAAGCAUAUACUAAGCGCGGAA
[配列番号42]プライマーcer-2a-BPstr_F
GGGTAATCAGTTTGGGTCAATCTCTGATCTG
[配列番号43]プライマーcer-2a+105+xho
AAACTCGAGATCGTGTATTTTATGTCAACG
[配列番号44]プライマーcer-2a-398+sbfI
AAACCTGCAGGTACTGGTACGATCCCTGTTC
[配列番号45]プライマーcer-2a-BPstr_R
ACCCAAACTGATTACCCGAGAAAGGGTGAAAGTGTGC
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の一態様の変異型CeR-2a RNAホモログ、組成物及び農薬は、線虫の体長伸長速度の抑制及び産卵開始の遅延などを誘導することにより、線虫による有害事象が生じる植物を保護及び成長促進するために利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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