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  • 特許-昇温脱離分析装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】昇温脱離分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/06 20060101AFI20231220BHJP
   G01N 30/66 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G01N30/06 G
G01N30/66
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019215097
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021085769
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】508116975
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【弁理士】
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】岡野 拓史
(72)【発明者】
【氏名】柳生 敬
(72)【発明者】
【氏名】大熊 隆次
(72)【発明者】
【氏名】長沢 尚三
(72)【発明者】
【氏名】内垣 真由美
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-194354(JP,A)
【文献】特開2007-192781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0153314(US,A1)
【文献】特開2009-257921(JP,A)
【文献】特開2007-010442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析試料に含まれている成分を分析する昇温脱離分析装置であって、
前記分析試料から被分析ガスを取出す昇温炉と、
前記昇温炉から送出される前記被分析ガスを複数の分岐ガス流路に分岐させる分岐手段と、
分岐した前記各分岐ガス流路の上流側に設けられて分岐ガス流路を開閉する開閉手段と、
下流側に設けられて当該分岐ガス流路を流れる前記被分析ガスの成分を分析する分析手段と、
前記各開閉手段の開閉タイミングを指示し、前記各分析手段の分析結果を同一時間ごとに順次収集して前記開閉タイミングに合わせて表示させる制御を行う制御手段と
を有していることを特徴とする昇温脱離分析装置。
【請求項2】
前記分析手段はガスクロマトグラフによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の昇温脱離分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇温脱離分析装置にかかり、分析周期(測定周期ともいう)を短くして高精度の分析を行うのに好適な昇温脱離分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水素脆性に関わる水素分析方法の1つとして昇温脱離分析法(TDA)が利用されている。
【0003】
この昇温脱離分析法は、鋼材に侵入し遅れ破壊の原因となる水素を、室温以下から最大1000℃(拡散性水素測定の場合は300℃程度で十分)まで、一定速度で昇温炉を昇温し、温度プロファイル(温度に対する水素放出量)を検証し、鋼材中の水素の存在状態(トラップサイト等)を推測することを可能とする(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-032223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような前記の従来方式においては、水素放出量の検出をガスクロマトグラフ法によって行っている。
【0006】
このガスクロマトグラフ法においては、その技術的要請により、通常5分(最短2.5分程度)の測定周期で連続バッチ測定により水素放出量を検出していた。
【0007】
ところが、最短2.5分の測定周期では、当該測定周期の間に検出される水素放出量の急激な変化を見落としてしまう、即ち測定できない場合がある。
【0008】
そこで、測定を見逃さない方法として測定周期をできるだけ短くする方法が提案されている。
【0009】
その測定周期を短くする方法としては、1)分析カラムを短くする、2)分析カラム操作温度を高くする、3)キャリヤーガス流量を多くする等の方策がある。
【0010】
しかしながら、これらのいずれの方策も、ピーク分離が悪くなったり、TCD感度が悪くなるというデメリットを伴うものであった。
【0011】
また、単に測定周期を短くしても、水素以外の成分が共存している場合には、これらが溶出し終わるまでは、次測定にかかれないという問題点があった。
【0012】
さらには、システム全体を小型化し、高速化を図る方策もあるが、微量濃度またはかさばる試料測定のためには、試料サイズを現状以下に小さくできないため、適当な選択ではなかった。
【0013】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、バッチ式の測定を行うとともに、分析能力を高く維持しつつ分析周期(測定周期)も短くして高精度の分析を行うことのできる昇温脱離分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究し、現状の測定条件をベースにして、2台のガスクロマトグラフを使って双方にタイムラグを持たせ、交互に測定することによって、今まで測定できていなかった、隙間の測定を可能として、本発明を完成させた。
【0015】
前記の課題を解決するために、本発明の第1の態様の昇温脱離分析装置は、分析試料に含まれている成分を分析する昇温脱離分析装置であって、前記分析試料から被分析ガスを取出す昇温炉と、前記昇温炉から送出される前記被分析ガスを複数の分岐ガス流路に分岐させる分岐手段と、分岐した前記各分岐ガス流路の上流側に設けられて分岐ガス流路を開閉する開閉手段と、下流側に設けられて当該分岐ガス流路を流れる前記被分析ガスの成分を分析する分析手段と、前記各開閉手段の開閉タイミングを指示し、前記各分析手段の分析結果を同一時間ごとに順次収集して前記開閉タイミングに合わせて表示させる制御を行う制御手段とを有していることを特徴とする。
【0016】
このように本発明は構成されているので、制御手段によって複数の開閉手段を開閉タイミングに合わせてタイムラグを持たせて開閉させて、複数の分析手段によって分析された被分析ガスの成分の分析結果を分析周期に応じて表示させることができる。これにより各分析ガス流路における分析手段の分析能力を高く維持しながら、分析結果を開閉タイミングに合わせて統合することによって分析周期(測定周期)を短くした高精度の分析を行うことができる。例えば、分岐ガス流路を2とすると、分析周期を1/2に短縮した高精度の分析結果が得られる。
【0017】
また、本発明の第2の態様の昇温脱離分析装置は、前記分析手段がガスクロマトグラフによって形成されていることを特徴とする。
【0018】
このように本発明は構成されているので、ガスクロマトグラフによって形成されている分析手段による分析周期を短くした高精度の分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明は、バッチ式の測定を行うとともに、分析能力を高く維持しつつ分析周期(測定周期)も短くして高精度の分析を行うことのできる昇温脱離分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の1実施形態の全体構成を示すブロック図
図2】本実施形態に基づく分析周期毎の分析結果の収集処理状態を示す線図
図3】(a)は本実施形態に基づく分岐された双方の分岐ガス流路によって分析された場合の水素放出速度を収集して示す特性図、(b)は分岐された1方の分岐ガス流路のみによって分析された場合の水素放出速度を示す特性図
図4図3の(a)および(b)を重ねて示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図1図4について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の昇温脱離分析装置の1実施形態の全体構成を示している。
【0023】
本実施形態の昇温脱離分析装置1は、最上流側に昇温炉2が設けられている。この昇温炉2には長尺な円筒状の石英管によって形成されている分析チャンバ3が設けられており、分析チャンバ3内は図示しない試料設置台上に分析試料Sが挿入して設置されるように形成されている。この分析チャンバ3には図1の左側開口よりパージアルゴンが供給され、右側開口より分析試料Sから放出された水素等の被分析ガスがガス流路4を通して送出されるように形成されている。この昇温炉2においては、零度以下の低温度から1000℃程度の高温度まで昇温できるように形成するとよい。
【0024】
このガス流路4は下流側において、ヘッダ等の分岐手段5をもって昇温炉2の分析チャンバ3から送出される被分析ガスを複数(本実施形態においては2個)の分岐ガス流路10、20に分岐させられている。
【0025】
分岐した各分岐ガス流路10、20の上流側には、分岐ガス流路10、20を開閉するバルブ等の開閉手段11、21が設けられている。各開閉手段11、21の下流側には、当該分岐ガス流路11、21を流れる被分析ガスの成分を分析する分析手段12、22が設けられている。本実施形態においては、各分析手段12、22はバッチ式の測定を行うガスクロマトグラフによって形成されており、それぞれにおいて被分析ガスが分析カラム13、23に流入して分析され、TCD14、24において数値化されてクロマト信号C1、C2として出力されるように形成されている。
【0026】
前記開閉手段11、21および分析手段12、22等を関連動作(例えば、シーケンス制御)させるために制御手段30が設けられている。制御手段30には、2つの開閉手段11、21をタイムラグをもって開閉させる開閉タイミングを指示する開閉指示部31が設けられている。本実施形態においては、各開閉手段11、21はそれぞれ2.5分単位で開閉し、両者を1.25分のタイムラグをもって開閉する開閉タイミングが開閉指示部31より発信される。このタイムラグ=1.25分が本実施形態の昇温脱離分析装置1の分析周期となる。制御手段30には、2つのTCD14、24より出力されたクロマト信号C1、C2を受けて、前記タイムラグ=分析周期=1.25分間隔で収集(統合)させて交互に連続したクロマト信号として出力するデータ処理部32が設けられている。制御手段30には、データ処理部32より入力された交互に連続したクロマト信号を表示するディスプレイ等の表示手段33が設けられている。制御手段30には、これらの開閉指示部31、データ処理部32、表示部33を関連動作させるCPU等の中央制御部34が設けられている。
【0027】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0028】
昇温脱離分析装置1の昇温炉2の分析チャンバ3内に分析試料Sを載置し、分析チャンバ3内の温度を低温域から高温域に向けて所定速度をもって昇温させながらパージアルゴンを分析チャンバ内に送給する。
【0029】
これにより分析試料Sより分析チャンバ3内の温度に対応した水素が発生し被分析ガスとなってガス流路4に流出する。ガス流路4を通って分岐手段5に到達した被分析ガスは2つの分岐ガス流路10、20に等分に分岐して下流側に流れる。
【0030】
各分岐ガス流路10、20においては、開閉手段11、21が制御手段30の開閉指示部31からの指示を受けて、タイムラグ=分析周期=1.25分間隔の開閉タイミングをもってそれぞれ2.5分毎に開閉される。各分岐ガス流路10、20における各開閉手段11、21の下流側の各分析手段12、22においては、各分析カラム13、23によってガスクロマトグラフ法に基づいてバッチ式で水素濃度が検出されて、各TCD14、24によって数値化されて、クロマト信号C1、C2として2.5分間隔で出力される(図2(a)参照)。
【0031】
制御手段30のデータ処理部32は、受信したこれらのクロマト信号C1、C2をタイムラグ=分析周期=1.25分間隔で収集(統合)して図2(b)に示すように交互に連続したクロマト信号として表示部33に出力して表示させる。
【0032】
次に得られた分析結果を図3および図4により説明する。
【0033】
<本発明の分析>
本実施形態においては、双方の分岐ガス流路10、20に設けた分析手段12、22よって分析された分析結果の水素放出速度を収集しているので、タイムラグ=分析周期=1.25分間隔で収集(統合)して交互に連続したクロマト信号として表示部33に表示された水素放出速度は図3(a)に示す通りとなり、温度150℃付近において水素濃度のピークが検出されたことがわかる。
【0034】
<従来方式による分析>
本実施形態を示す図1において一方の分岐ガス流路20の開閉手段21を常時全閉とし、他方の分岐ガス流路10に設けた開閉手段11を2.5分間隔で開閉して分析手段12よって分析した。その分析結果を示すクロマト信号C1に基づいて表示部33に表示された水素放出速度は図3(b)に示す通りとなり、温度150℃付近において水素濃度のピークが検出されないことがわかる。
【0035】
<本発明と従来方式の比較>
図3(a)および(b)を重ねて表示すると図4の通りとなり、温度150℃付近において、本発明によれば水素濃度のピークが検出されるけれども、従来方式によれば水素濃度のピークが検出されないことがわかり、本発明が極めて優れていることがわかる。更に説明すると、本発明によれば、従来の温度プロファイルに現れていなかったトラップサイトを明確に表示することが可能となった。
【0036】
このように本実施形態によれば、バッチ式の測定を行うとともに、分析能力を高く維持しつつ分析周期(測定周期)も短くして高精度の分析を行うことのできる昇温脱離分析装置を提供することができる。
【0037】
更に、本発明によれば、連続バッチ測定法における飛び飛びの測定方法を維持しながら、より多くの分析データを取得することができ、その結果、従来では温度プロファイルに現れていなかった対温度に関わる成分を検出できる。このような本発明による分析周期の短縮化により、水素昇温脱離ピークの解析により水素トラップサイトと水素との結合エネルギーを算出するなど基礎的な研究に寄与することができる。
【0038】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、分岐ガス流路を3流路以上として、更に分岐周期を短くすることも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 昇温脱離分析装置
2 昇温炉
5 分岐手段
10、20 分岐ガス流路
11、21 開閉手段
12、22 分析手段
30 制御手段
S 分析試料
図1
図2
図3
図4