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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】シリカ繊維組成物及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/04 20060101AFI20231220BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231220BHJP
   A61L 15/18 20060101ALI20231220BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20231220BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20231220BHJP
   A61F 13/00 20060101ALI20231220BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20231220BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K9/70 401
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/06
A61K9/107
A61K9/12
A61P17/02
A61P17/00 101
A61P17/00
A61P3/10
A61L15/18 100
A61L15/44 100
C01B33/12 Z
A61F13/00 301Z
A61F13/00 301C
D04H1/4209
D04H1/728
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2020566198
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 US2019017921
(87)【国際公開番号】W WO2019161002
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】62/710,305
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/643,946
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/131,531
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/934,599
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520308282
【氏名又は名称】アメリカン ナノ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デリンジャー, ミッチ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/111609(WO,A1)
【文献】特表2011-527913(JP,A)
【文献】特表2017-514315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、A61L、C01B、A61F、D04H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ繊維組成物を作製するための方法であって、
70重量%~90重量%のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを含むゾルを調製することと、
前記ゾルを2~7日間、湿度が40%~80%の範囲内かつ温度が10~32.22℃(50~90°F)の範囲内である条件下でゾルゲルに転移させることと、
前記ゾルゲルをエレクトロスピニングしてシリカ繊維マットにすることとを含
ここで、前記ゾルが65.56℃(150°F)を超える熱に曝露されず、そして前記ゾルが0.1重量%未満の前記酸触媒を含む、
前記方法。
【請求項2】
前記ゾルが7.78℃(100°F)を超える熱に曝露されない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゾルが、75重量%~85重量%のTEOSと、15重量%~20重量%のエタノールと、2重量%~5重量%の水とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ゾルが、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸触媒がHClである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
記ゾルが0.02重量%~0.08重量%の前記酸触媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ゾルが有機ポリマーを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物がSiOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ゾルが2~4日間転移に供されるか、または前記ゾルが3日間転移に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記湿度が50~70%であり、必要に応じて前記温度が15.56~26.67℃(60~80°F)である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記条件が、前記ゾルからの気体を排出するファンをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ゾルゲルの重量が、前記ゾルの開始重量の20%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされるか、または前記ゾルゲルのエチレン蒸気の生産量が、前記ゾルからのエチレン蒸気のピーク生産量に対し10%~20%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記マットが少なくとも0.3175cm(1/8インチ)の厚さを有するか、または前記マットが少なくとも0.635cm(1/4インチ)の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記シリカ繊維マットの少なくとも一部を、液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記液状またはゼラチン状の組成物が、塗料、エポキシ、ウレタン、または接着剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記シリカ繊維マットの前記少なくとも一部が、前記液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせるために、処理して複数の断片または粉末にされ、それによって改質組成物が形成される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記改質組成物をコーティングとして固体物体または織物に適用することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記改質組成物を成形して固体物体にすることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ゾルゲルをエレクトロスピニングすることによって調製されたシリカ繊維を含むシリカ繊維マット組成物であって、前記ゾルゲルが、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、アルコール溶媒と、酸触媒とを用いて調製され、前記ゾルゲルが少なくとも2日間、湿度が40%~80%の範囲内かつ温度が10~32.22℃(50°F~90°F)の範囲内である条件下で転移に供されておりそして
ここで、前記ゾルゲルが65.56℃(150°F)を超える熱に曝露されず、そして前記ゾルゲルが0.1重量%未満の前記酸触媒を含む、
前記シリカ繊維マット組成物。
【請求項20】
前記ゾルゲルの重量が、転移前の開始重量の20%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされるか、前記ゾルゲルからのエチレン蒸気の生産量が、転移前の前記ゾルゲルに対し10%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記繊維が50nm~5μmの直径を有するか、または前記繊維が200nm~1000nmの可変直径を有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物がSiOを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
前記ゾルゲルが、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを用いて調製される、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
局所用担体をさらに含み、必要に応じて前記局所用担体が、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、およびゲルから選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
前記局所用担体が、1つ以上の医薬剤または抗微生物剤をさらに含み、必要に応じて前記局所用担体が、抗生物質、防腐剤、抗炎症剤、および免疫抑制剤から選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
対象における損傷組織の完全性を改善するための方法において使用するための請求項19~25のいずれか1項に記載の組成物であって、前記方法は、前記組成物を前記組織に適用することを含み、前記適用が、前記組織の治癒中及び治癒後に前記組成物の相当程度の量を前記組織から除去することを伴わない、組成物。
【請求項27】
前記組成物が薄層として前記組織に適用される、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記組成物が、処理して粉末または粉塵にされ、前記粉末または粉塵が前記組織に適用される、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記粉末または粉塵が、局所用組成物中で混合または懸濁されており、必要に応じて前記局所用組成物が、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、およびゲルから選択される、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記方法が、前記組成物が前記損傷組織上で見えなくなったら、前記組成物を前記損傷組織に再適用することをさらに含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
前記損傷組織がいかなる他の創傷被覆材にも覆われていない、請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
前記組成物が前記組織の瘢痕を予防または低減する、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
前記対象が哺乳類であり、必要に応じて前記対象が、ヒト、ネコ、イヌ、およびウマから選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項34】
前記組織が皮膚を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項35】
前記組成物が、皮膚の病変、潰瘍、糖尿病性潰瘍、損傷、熱傷、切り傷、擦り傷、または水疱に適用される、請求項26に記載の組成物。
【請求項36】
前記対象が遺伝性水疱性疾患を有し、必要に応じて前記対象が表皮水疱症を有する、する、請求項26に記載の組成物。
【請求項37】
前記組成物が褥瘡、圧迫潰瘍、壊疽性創傷、または切断創に適用される、請求項26に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年9月14日に出願された米国特許出願第16/131,531号、2018年3月23日に出願された米国特許出願第15/934,599号、2018年2月16日に出願された米国特許出願第62/710,305号、及び2018年3月16日に特許出願された米国仮特許出願第62/643,946号の優先権及び利益を主張するものであり、これらの各出願の全開示内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
様々な実施形態において、本発明は、シリカ繊維の製作及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
創傷治癒は、組織破壊及び組織再生の両方を含む、良好に協働する一連の生物学的プロセスを伴う。例えば、通常の創傷治癒の間、好中球及び単球が、初期の炎症段階中に創傷に動員される。好中球は細片及び微生物を貪食し、単球及びその他の細胞は、周囲のマトリックス内に酵素を放出して損傷した組織を消化する。フィブリンがこのプロセスの一部として分解され、分解産物は線維芽細胞及び上皮細胞を創傷部位に引き寄せる。創傷(及び他の細胞)に動員されたマクロファージは、細胞外マトリックスの全ての構成要素に作用する細胞外酵素を分泌し、失活した組織の除去を担う。また、マクロファージは、ケラチノサイト、線維芽細胞、及び血管新生を刺激することができる様々なサイトカイン及び成長因子も分泌し、これによって治癒の増殖期への転移が促進される。増殖期は、血管新生、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、創傷収縮、及び上皮化によって特徴づけられる。増殖は、真皮組織の置換え及び創傷収縮を伴う。
【0004】
創傷治癒の早期段階ではコラーゲンの破壊が重要であるが、後期段階ではコラーゲンの沈着とリモデリングが不可欠である。創傷治癒中、創傷床はその底から上にコラーゲンで満たされ、創傷床は、上皮細胞が増殖を開始し、創傷表面にわたって移動して創傷を閉鎖する前に、最適な環境(適切な水分バランス及び温度)に維持しなければならない。コラーゲン構造は、細胞に発生、器官形成、細胞増殖、及び創傷修復に必要な生物学的環境を提供する。
【0005】
慢性創傷は、この通常の整然とした修復シークエンスで進行していない創傷である。さらに、慢性創傷は最終的に、持続的な解剖学的及び機能的組織を復元せずに修復プロセスを経る恐れがある。慢性創傷は、身体が創傷の原因を修正できなかったとき、及び/または治癒につながる環境が存在しない場合に生じ得る。例えば、新たに沈着したコラーゲンは、制御されない炎症応答によって酵素的に破壊される恐れがあり、その場合、真皮細胞が創傷を埋めて増殖することは困難になる。
【0006】
本発明は、急性及び慢性の創傷、ならびに正常な創傷治癒生理を妨げる物理的、生物学的、または遺伝的な原因から生じる創傷を含めて、創傷治癒を促進するための組成物及び方法を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、様々な態様及び実施形態において、動物の創傷及び組織の治療ならびに産業におけるその他の用途に有用なシリカ繊維マットを作製するための方法を提供する。当該方法は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などのシリコンアルコキシド試薬と、アルコール溶媒と、酸触媒とを用いてゾルを調製することと、湿度及び温度が制御された条件下で少なくとも2日間(及びいくつかの実施形態では7日間以下)ゾルを転移させることとを含む。ゾルゲルをエレクトロスピニングして、優れた質感及び特性を有するシリカ繊維マットを作成する。
【0008】
いくつかの実施形態において、組成物は、シリカ繊維(例えば、二酸化ケイ素ナノ繊維)から構成された軽量構造である。ゾルを熟成(または「転移」)させることにより、及び/または熟成/転移プロセス中にゾルの特性をモニターすることにより、創傷のケア及びその他の用途のための優れた組成物を調製するために、ゾルゲルを首尾よくエレクトロスピニングするための比較的短いウィンドウを特定することができる。
【0009】
様々な態様において、本発明は、急性創傷または慢性創傷の治癒を加速または改善することを含めて、対象における損傷組織の完全性を改善するための組成物及び方法を提供する。組成物はシリカ繊維マトリックスを含み、これは組織の再生及び治癒を支援するように損傷組織に適用される。いくつかの実施形態において、シリカ繊維マトリックスは、(従来の創傷被覆材とは異なり)創傷から除去されるのではなく再生組織と一体化する、恒久的な(及び様々な実施形態では非生分解性の)スキャフォールドである。
【0010】
本発明の実施形態によれば、シリカ繊維組成物は、創傷組織に適用されたときに、組織の治癒、再生、及び/または完全性を支援するスキャフォールド(例えば、非生分解性スキャフォールド)として機能する。組成物は、組織傷害部位でコラーゲンバイオミメティックとして機能し、例えば、真皮細胞の再生及び成長につながる環境を提供する。
【0011】
様々な実施形態において、ゾルを転移させるための制御された環境は、湿度、温度、及び任意選択で気圧の観点で制御された条件を伴い得る。例えば、湿度は、約30%~約90%または約40%~約80%の範囲内で制御することができる。温度は、約50°F~約90°Fの範囲内で制御することができる。転移中の環境条件を制御することにより、ゲルは、スピニングが最適となる時間中にエレクトロスピニングすることができる。この最適な時間は、直接加熱によって熟成プロセスが加速した場合は、ほんの数分という非常に狭いウィンドウで生じ得る。約50%~70%の範囲内の一定の湿度及び約60~80°Fの温度でゾルを転移させると、ゾルは数日で転移(ゼラチン化)し、首尾よいエレクトロスピニングのためのウィンドウは、少なくとも数時間まで、いくつかの実施形態では数日まで拡大し得る。そのため、ゾルは、排気ファン及び1つ以上の環境モニターまたはセンサー(例えば、温度読取りデバイス及び/または湿度読取りデバイス)を含むことができるエンクロージャー内で転移させることができる。さらに、転移プロセス中にゾルによって生成もしくは放出されたガス、またはゾルの相対重量をモニターして、エレクトロスピニングに好適または最適な時間を決定することができる。
【0012】
ゾルゲルを、本明細書で説明されるように、最適なエレクトロスピニングが可能になるように調製すれば、創傷に対する繊維適用の取扱いがより容易な、少なくとも約1/8インチ、または少なくとも約1/4インチ、または少なくとも約1/3インチ、または少なくとも約1/2インチの厚さを有する繊維マットをエレクトロスピニングすることが可能である。実際に、本発明の実施形態に従う厚さの繊維マットを形成することで、必要または所望に応じて、創傷ケアなどの用途のための単一マットから、絡み合った繊維の1つ以上の層を分離することが可能になる。
【0013】
いくつかの実施形態において、繊維組成物は、繊維の薄層として、例えば、創傷を覆うのにちょうど十分な繊維の薄層として、組織または創傷に適用され、次いで必要に応じて適用が繰り返される。いくつかの実施形態において、繊維組成物を処理して微細な粉末または粉塵にし、この粉末または粉塵を組織に適用する。いくつかの実施形態において、粉末または粉塵は、ローション、軟膏、ペースト、フォーム、またはゲルなどの局所用組成物と混合される。このような実施形態において、局所用組成物は、抗生物質、防腐剤、抗炎症剤、または免疫抑制剤などの1つ以上の医薬剤または抗微生物剤を含むことができる。
【0014】
治癒プロセス中に組成物を適用することで、急性及び慢性両方の創傷の治癒を加速することができ、また組織の瘢痕を予防または低減することができる。局所用組成物が、ざ瘡のような傷、皮膚のひび割れ、加齢または環境の侵襲(日光、風、低温など)による完全性の喪失を有する皮膚に適用されると、スキャフォールドは、細胞がそこで成長するために小さな創傷内に残る。これは治癒プロセスの速度を高め、瘢痕を低減する一助となる。
【0015】
いくつかの実施形態において、創傷は、第1度もしくは第2度の熱傷、擦り傷、または切り傷、あるいは基底層より深部に達しない軽微な創傷である。いくつかの実施形態において、創傷は、基底層を含むまたはそれを超える損傷を含む。いくつかの実施形態において、損傷は、第3度熱傷、糖尿病性潰瘍、慢性褥瘡、または壊疽性創傷である。いくつかの実施形態において、繊維は、1日1~4回創傷を覆うように適用される。繊維は概して、創傷内で見えなくなったときに再適用される。必要な場合は、創傷から空気及び酸素が制限されない限りにおいて、さらなる創傷カバーを用いることができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、対象は、表皮水疱症(EB)などの遺伝性水疱性疾患を有する。生来EBを有する人々は、2つの皮膚の層にそれらを保持するタンパク質アンカーが欠如しており、その結果皮膚が極端に脆弱となり、こすりまたは圧迫のような軽微な機械的摩擦であっても皮膚の層を分離し、水疱及び有痛性のびらんを形成する。このような実施形態において、組成物は、基底層と一体化し、皮膚の固定を助ける。したがって、皮膚は経時的に、びらん及び水疱が継続的に治療されるに伴い、完全性の改善を示す。さらに、このような患者が入浴または旅行などの日常活動を行うには、痛みの低減が重要であり得る。
【0017】
一態様において、本発明の実施形態は、対象における損傷組織の完全性を改善するための方法を特徴とする。当該方法は、シリカ繊維組成物を損傷組織に適用することを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなる。シリカ繊維組成物、または少なくともその相当程度の量は、組織の治癒中及び治癒後に、組織の所定位置にとどまる(すなわち、除去されない)ことができる。(本明細書で使用する場合、組成物の「相当程度の量」とは、組成物の70%~100%、80%~100%、90%~100%、またはさらに95%~100%を意味する。)
【0018】
本発明の実施形態は、様々な組合せのいずれかで、以下のうちの1つ以上を含むことができる。シリカ繊維組成物は、組織の治癒、再生、及び/または完全性を支援する恒久的スキャフォールドであり得る。シリカ繊維組成物は非生分解性であり得る。組成物は、創傷治癒のためのコラーゲン代替物及び/または細胞スキャフォールドとして機能することができる。組成物は、ゾルゲルをエレクトロスピニングすることによって調製することができる。ゾルゲルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を用いて調製することができる。ゾルゲルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを含むことができる。ゾルゲルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水と、酸触媒とを含むことができる。ゾルゲルは、75重量%~85重量%のTEOSと、12重量%~20重量%のエタノールと、約2重量%~5重量%の水とを含むことができる。ゾルゲルは、約80重量%のTEOSと、約17重量%のエタノールと、約3重量%の水とを含むことができる。酸触媒は、HClを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなることができる。ゾルゲルは、約0.1重量%未満の酸触媒を含むことができる。ゾルゲルは、0.02重量%~0.08重量%の酸触媒を含むことができる。ゾルゲルは、約1重量%未満、約0.8重量%未満、約0.5重量%未満、約0.3重量%未満、または約0.2重量%未満の酸触媒を含むことができる。ゾルゲルは、少なくとも約0.005重量%、少なくとも約0.01重量%、または少なくとも約0.02重量%の酸触媒を含むことができる。
【0019】
ゾルゲルは、少なくとも2日間、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移に供することができる。ゾルゲルは、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、または少なくとも7日間転移に供することができる。ゾルゲルは、2日間~7日間転移に供することができる。ゾルゲルは、重量が熟成(転移)前の開始重量の20%~40%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。ゾルゲルは、エチレン蒸気の生産量が、熟成(転移)中のエチレン蒸気のピーク生産量に対し10%~20%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。ゾルゲルは、ゾルゲルからのエチレン蒸気の生産量が、熟成(転移)前のゾルゲルに対し10%~40%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。シリカ繊維組成物の繊維は、約50nm~約5μmの可変直径を有することができる。繊維は、約200nm~約1000nmの可変直径を有することができる。
【0020】
組成物は、SiOを含むことも、それから本質的になることも、それからなることもできる。組成物は、約1/8インチ~約1/4インチの厚さでエレクトロスピニングすることができる。組成物は、約1/8インチ超または約1/4インチ超の厚さでエレクトロスピニングすることができる。繊維組成物は、薄層(例えば、約1インチ未満、約1/2インチ未満、約1/4インチ未満、または約1/8インチ未満の厚さを有する層;厚さは、約1/32インチ超または約1/16インチ超であり得る)として組織に適用することができる。繊維組成物は、処理して粉末または粉塵または繊維状断片にすることができ、粉末または粉塵または断片は、組織に適用することができる。粉末または粉塵または断片は、局所用組成物中で混合または懸濁されてもよい。局所用組成物は、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、またはゲルとすることができる。局所用組成物は、1つ以上の医薬剤及び/または抗微生物剤を含むことができる。局所用組成物は、抗生物質及び/または防腐剤を含むことができる。局所用組成物は、抗炎症剤及び/または免疫抑制剤を含むことができる。損傷組織の治癒中及び/または治癒後、シリカ繊維組成物の少なくとも一部は(またはその全てにおいても)、組織から除去されなくてもよい。シリカ繊維組成物は、シリカ繊維組成物が損傷組織上で(例えば、肉眼で)見えなくなったら、1回以上再適用することができる。損傷組織は、他のいかなる創傷被覆材で覆われなくてもよい。損傷組織の少なくとも一部は、(例えば、組成物の上を)さらなる創傷被覆材で覆われてもよい。
【0021】
当該方法は、損傷組織の瘢痕を予防または低減することができる。対象は哺乳類とすることができる。損傷組織は皮膚とすることができる。対象は、獣医学的患者、例えば、イヌ、ネコ、またはウマとすることができる。対象は、ヒト患者とすることができる。組成物は、皮膚の病変、潰瘍、創傷、熱傷、切り傷、擦り傷、または水疱に適用することができる。組成物は、糖尿病性潰瘍に適用することができる。対象は遺伝性水疱性疾患を有し得る。対象は表皮水疱症を有し得る。対象は、熱傷、例えば、第2度熱傷または第3度熱傷を有し得る。組成物は、褥瘡または圧迫潰瘍に適用することができる。損傷組織は、壊疽性創傷及び/または切断創であり得る。損傷組織はがん病変であり得る。損傷組織は、皮膚の熱傷、切り傷、または擦り傷を含むか、それから本質的になるか、それからなることができ、組成物は、損傷組織を覆うのに十分な量で1つ以上の層(例えば、複数の層)に適用することができる。組成物は損傷組織から除去されなくてもよく、また組成物は、損傷組織にて見えなくなったら再適用することができる。組成物は、対象の入浴後に再適用することができる。
【0022】
別の態様において、本発明の実施形態は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、アルコール溶媒と、酸触媒とを用いて調製されたゾルゲルをエレクトロスピニングすることによって調製されたシリカ繊維を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなるシリカ繊維マット組成物を特徴とし、当該ゾルゲルは、少なくとも2日間、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移に供されている。
【0023】
本発明の実施形態は、様々な組合せのいずれかで、以下のうちの1つ以上を含むことができる。ゾルゲルは、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、または少なくとも7日間転移に供することができる。ゾルゲルは、2日間~7日間転移に供することができる。ゾルゲルは、重量が熟成(転移)前の開始重量の20%~40%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。ゾルゲルは、エチレン蒸気の生産量が、熟成(転移)中のエチレン蒸気のピーク生産量に対し10%~20%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。ゾルゲルは、ゾルゲルからのエチレン蒸気の生産量が、熟成(転移)前のゾルゲルに対し10%~40%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。シリカ繊維組成物の繊維は、約50nm~約5μmの可変直径を有することができる。繊維は、約200nm~約1000nmの可変直径を有することができる。組成物は、SiOを含むことも、それから本質的になることも、それからなることもできる。組成物は、約1/8インチ~約1/4インチの厚さでエレクトロスピニングすることができる。組成物は、約1/8インチ超または約1/4インチ超の厚さでエレクトロスピニングすることができる。ゾルゲルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを用いて調製することができる。ゾルゲルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水と、酸触媒とを用いて調製することができる。ゾルゲルは、75重量%~85重量%のTEOSと、12重量%~20重量%のエタノールと、約2重量%~5重量%の水とを用いて調製することができる。ゾルゲルは、約80重量%のTEOSと、約17重量%のエタノールと、約3重量%の水とを用いて調製することができる。酸触媒は、HClを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなることができる。ゾルゲルは、約0.1重量%未満の酸触媒を用いて調製することができる。ゾルゲルは、0.02重量%~0.08重量%の酸触媒を用いて調製することができる。ゾルゲルは、約1重量%未満、約0.8重量%未満、約0.5重量%未満、約0.3重量%未満、または約0.2重量%未満の酸触媒を用いて調製することができる。ゾルゲルは、少なくとも約0.005重量%、少なくとも約0.01重量%、または少なくとも約0.02重量%の酸触媒を用いて調製することができる。
【0024】
組成物はさらに、局所用担体を含む(例えば、局所用担体と共に混合される)ことができる。局所用担体は、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、またはゲルとすることができる。局所用担体は、1つ以上の医薬剤及び/または抗微生物剤を含むことができる。局所用担体は、抗生物質及び/または防腐剤を含むことができる。局所用担体は、抗炎症剤及び/または免疫抑制剤を含むことができる。
【0025】
また別の態様において、本発明の実施形態は、(i)シリカ繊維の粉末または粉塵または複数の繊維状断片と、(ii)局所用担体とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる繊維組成物を特徴とする。
【0026】
本発明の実施形態は、様々な組合せのいずれかで、以下のうちの1つ以上を含むことができる。局所用担体は、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、またはゲルとすることができる。局所用担体は、1つ以上の医薬剤及び/または抗微生物剤を含むことができる。局所用担体は、抗生物質及び/または防腐剤を含むことができる。局所用担体は、抗炎症剤及び/または免疫抑制剤を含むことができる。
【0027】
別の態様において、本発明の実施形態は、シリカ繊維組成物を作製するための方法を特徴とする。ゾルが調製される。ゾルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、エタノールと、水と、酸触媒とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる。ゾルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。例えば、ゾルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水と、酸触媒とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。ゾルは、少なくとも2日間、ゾルゲルに転移させる。ゾルは、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移させることができる。ゾルゲルは、エレクトロスピニングしてシリカ繊維マットにする。
【0028】
本発明の実施形態は、様々な組合せのいずれかで、以下のうちの1つ以上を含むことができる。ゾルは、2~7日間転移させることができる。調製中及び/または転移中、ゾルは、150°F超、100°F超、90°F超、または80°F超の熱に曝露しなくてもよい。ゾルは、75重量%~85重量%のTEOSと、12重量%~20重量%のエタノールと、約2重量%~5重量%の水とを含むことができる。ゾルは、約80重量%のTEOSと、約17重量%のエタノールと、約3重量%の水とを含むことができる。酸触媒は、HClを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなることができる。ゾルは、約0.1重量%未満の酸触媒を含むことができる。ゾルは、0.02重量%~0.08重量%の酸触媒を含むことができる。ゾルは、約1重量%未満、約0.8重量%未満、約0.5重量%未満、約0.3重量%未満、または約0.2重量%未満の酸触媒を含むことができる。ゾルは、少なくとも約0.005重量%、少なくとも約0.01重量%、または少なくとも約0.02重量%の酸触媒を含むことができる。
【0029】
ゾルは有機ポリマーを含まなくてもよい。組成物は、SiOを含むことも、それから本質的になることも、それからなることもできる。ゾルは、2~4日間、例えば、約3日間転移に供することができる。湿度は約50%~約70%とすることができる。温度は約60°F~約80°Fとすることができる。条件には、ゾルからの気体を排出する排気システム(例えば、1つ以上のファン)が含まれ得る。ゾルゲルは、重量がゾルの開始重量の約20%~約40%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。ゾルゲルは、エチレン蒸気の生産量が、ゾルからのエチレン蒸気のピーク生産量に対し約10%~約20%であるときに、エレクトロスピニングすることができる。マットは、少なくとも約1/8インチまたは少なくとも約1/4インチの厚さを有することができる。マットは、約6インチ未満、約5インチ未満、約4インチ未満、約3インチ未満、約2インチ未満、または約1インチ未満の厚さを有し得る。
【0030】
シリカ繊維マットの少なくとも一部は、液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせることができる。液状またはゼラチン状の組成物は、塗料、エポキシ、ウレタン、及び/または接着剤を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。シリカ繊維マットの少なくとも一部は、液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせるために、処理して複数の断片または粉末にすることができ、それによって改質組成物が形成される。改質組成物は、コーティングとして固体物体及び/または織物に適用することができる。改質組成物は、成形して固体物体にすることができる。
【0031】
また別の態様において、本発明の実施形態は、シリカ繊維組成物を作製及び使用するための方法を特徴とする。ゾルが調製される。ゾルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、エタノールと、水と、酸触媒とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる。ゾルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水と、酸触媒とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。ゾルは、2~7日間、ゾルゲルに転移させる。ゾルは、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移させることができる。ゾルゲルは、エレクトロスピニングしてシリカ繊維マットにする。シリカ繊維マットの少なくとも一部は、ヒトまたは獣医学的患者である対象の損傷組織に適用される。
【0032】
本発明の実施形態は、様々な組合せのいずれかで、以下のうちの1つ以上を含むことができる。シリカ繊維マットの少なくとも一部のうち、少なくともいくらかは、または実質的に全てにおいても、損傷組織の治癒中及び/または治癒後に組織から除去されなくてもよい。シリカ繊維マットの少なくとも一部は、処理して粉末または粉塵(例えば、複数の粉末粒子及び/または繊維状断片)にすることができる。粉末または粉塵は、局所用組成物と共に混合または懸濁されてもよい。局所用組成物は、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、またはゲルとすることができる。局所用組成物は、1つ以上の医薬剤及び/または抗微生物剤を含むことができる。局所用組成物は、抗生物質、防腐剤、抗炎症剤、及び/または免疫抑制剤を含むことができる。
【0033】
別の態様において、本発明の実施形態は、シリカ繊維組成物を作製及び使用するための方法を特徴とする。ゾルが調製される。ゾルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、エタノールと、水と、酸触媒とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる。ゾルは、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水と、酸触媒とを含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。ゾルは、2~7日間、ゾルゲルに転移させる。ゾルは、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移させることができる。ゾルゲルは、エレクトロスピニングしてシリカ繊維マットにする。シリカ繊維マットの少なくとも一部は、液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせることができる。
【0034】
本発明の実施形態は、様々な組合せのいずれかで、以下のうちの1つ以上を含むことができる。液状またはゼラチン状の組成物は、塗料、エポキシ、ウレタン、及び/または接着剤を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなることができる。シリカ繊維マットの少なくとも一部は、液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせるために、処理して複数の断片または粉末にすることができ、それによって改質組成物が形成される。改質組成物は、コーティングとして固体物体及び/または織物に適用することができる。改質組成物は、成形して固体物体にすることができる。
【0035】
これら及びその他の目的は、本明細書で開示される本発明の利点及び特徴と共に、以下の説明、添付の図面、及び特許請求の範囲を参照することにより、より明らかになるであろう。さらに、本明細書で説明される様々な実施形態の特徴は相互に排他的ではなく、様々な組合せ及び並べ替えで存在し得ることを理解されたい。本明細書で使用する場合、「およそ」、「約」、及び「実質的に」という用語は±10%を意味し、また、いくつかの実施形態では±5%を意味する。「~から本質的になる」という用語は、本明細書で別段の定義がない限り、機能に寄与する他の材料を除外することを意味する。それでもなお、このような他の材料は、集合的にまたは個別に微量で存在してもよい。
【0036】
繊維組成物の産業におけるその他の用途が本明細書で説明される。その他の態様及び実施形態は、以下の発明を実施するための形態で説明される。
【0037】
図面内において、概して、類似する参照符号は異なる図全体にわたって同じ部分を指す。また、図面は必ずしも原寸に比例するわけではなく、概して本開示の原理を示すことに重点が置かれている。以下の説明では、本発明の様々な実施形態が、以下の図面を参照しながら説明される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A】本開示に従ってスピニングした繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1Aの画像は50ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は柔軟で滑らかで密であり、連続している(破損していない)。
図1B】本開示に従ってスピニングした繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1Bの画像は100ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は柔軟で滑らかで密であり、連続している(破損していない)。
図1C】本開示に従ってスピニングした繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1Cの画像は200ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は柔軟で滑らかで密であり、連続している(破損していない)。
図1D】本開示に従ってスピニングした繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図1Dの画像は500ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は柔軟で滑らかで密であり、連続している(破損していない)。
図2A】最適でない時間に(ゾルゲルを完全に熟成させる前に)エレクトロスピニングした繊維のSEM画像である。図2Aの画像は50ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は剛性と思われ、可視的な破損が多く、凝集塊が形成されている。
図2B】最適でない時間に(ゾルゲルを完全に熟成させる前に)エレクトロスピニングした繊維のSEM画像である。図2Bの画像は100ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は剛性と思われ、可視的な破損が多く、凝集塊が形成されている。
図2C】最適でない時間に(ゾルゲルを完全に熟成させる前に)エレクトロスピニングした繊維のSEM画像である。図2Cの画像は200ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は剛性と思われ、可視的な破損が多く、凝集塊が形成されている。
図2D】最適でない時間に(ゾルゲルを完全に熟成させる前に)エレクトロスピニングした繊維のSEM画像である。図2Dの画像は500ミクロンスケールである。図に示されるように、繊維は剛性と思われ、可視的な破損が多く、凝集塊が形成されている。
図3】最適でない時間にスピニングした繊維のSEM画像を示している(20ミクロンスケールが示されている)。繊維は剛性であり、破損が明らかに確認できる。
図4】本開示に従って約1/4インチの厚さでスピニングした繊維マットを示している。マットは柔らかく柔軟な質感を有する。
図5】本開示に従って転移させたときにエレクトロスピニングしたシリカ繊維マット(A)と、ゾルゲルを最適に熟成させる前に過度に早期にスピニングした繊維マット(B)とを比較している。Aの材料は柔らかい質感を有し、非常に柔軟であり、創傷への繊維層の適用のために容易に取り扱うことができる厚さでスピニングすることができる。Bの材料は脆性で、柔軟性がなく、繊維層は、創傷の表面積を覆うために容易に分離することができない。
図6】繊維の薄片を熱傷創に適用しているところを示している。
図7A】繊維を適用する前の熱傷の写真である。
図7B】繊維スキャフォールドを用いた治療から4日後の同じ創傷を示している。
図7C】繊維スキャフォールドを用いた治療から8日後の同じ創傷を示している。
図7D】繊維スキャフォールドを用いた治療から12日後の同じ創傷を示している。
図8A】繊維グラフトを伴ったイヌの脚の創傷の写真である。
図8B】治療から約3ヵ月後の創傷を示している。
図9A】ウマの脚の創傷の写真である。
図9B】約4日間の繊維を用いた治療後の創傷を示している。
図9C】完全に治癒した創傷を示している。
図10A】表皮水疱症(EB)を有する小児の写真であり、繊維グラフトを手の大きな開放創に適用している。
図10B】治癒後の同じ手を示している。
図11A】繊維を熱傷創に適用しているところを示している。
図11B】繊維を熱傷創に適用しているところを示している。
図11C】熱傷が発生してから8日後の図11A及び図11Bの創傷を示している。創傷は健康な組織に置き換えられ、その上に体毛が確認できる。瘢痕も瘢痕組織も見えない。
図11D】熱傷が発生してから8日後の図11A及び図11Bの創傷を示している。創傷は健康な組織に置き換えられ、その上に体毛が確認できる。瘢痕も瘢痕組織も見えない。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、様々な態様及び実施形態において、動物の創傷及び組織の治療ならびに産業におけるその他の用途に有用なシリカ繊維マットを作製するための方法を提供する。当該方法は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などのシリコンアルコキシド試薬と、アルコール溶媒と、酸触媒とを用いてゾルを調製することと、湿度及び温度が制御された条件下で少なくとも2日間(及び様々な実施形態では7日間未満)ゾルを転移させることとを含む。ゾルゲルをエレクトロスピニングして、優れた質感及び特性を有するシリカ繊維マットを作成する。
【0040】
本発明は、急性創傷または慢性創傷の治癒を加速または改善することを含めて、対象における損傷組織の完全性を改善するための組成物及び方法を提供する。組成物はシリカ繊維マトリックスを含み、これは組織の再生、治癒、及び/または痛みの低減を支援するように損傷組織または炎症組織に適用される。
【0041】
いくつかの実施形態において、組成物は、シリカ繊維(例えば、二酸化ケイ素ナノ繊維)から構成された軽量構造である。組成物はゼラチン状材料から形成されており、ゼラチン状材料をエレクトロスピニングして繊維マット(例えば、不織マット)を形成する。例えば、組成物は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などのシリコンアルコキシド試薬と、アルコール溶媒と、酸触媒とを用いて調製することができるゾルゲルをエレクトロスピニングすることによって、調製することができる。
【0042】
既知のプロセスでは、創傷ケアまたはヘルスケア用途を含めた多くの用途向けの十分な柔軟性を有するシリカ繊維組成物は産生されない。むしろ、これらの構造は比較的脆性、剛性、かつ緻密であり、マットは容易に破砕または破損し、線維層は分離が困難であり、概して、創傷内でコラーゲン沈着を模倣するための物理的特性が欠如している。様々な実施形態において、組織修復向けの優れた材料を達成するには、ゾルゲルを、適切に熟成(または「転移」)させたときにエレクトロスピニングして、所望の物理的特性を有する組成物を達成することが重要である。制御された環境条件下でゾルを転移させることにより、及び/または熟成プロセス中にゾルゲルの調製をモニターすることにより、ゾルゲルを首尾よくエレクトロスピニングするための比較的狭いウィンドウを特定することができる。本発明の実施形態によれば、組成物は非剛性であり、綿と同様の柔らかい質感を有する。
【0043】
本発明の実施形態によれば、シリカ繊維組成物は、創傷組織に適用されたときに、組織の治癒、再生、及び/または完全性を支援する非生分解性スキャフォールドとして機能する。組成物は、組織傷害部位でコラーゲンバイオミメティックとして機能し、真皮細胞の再生及び成長につながる環境を提供する。理論に束縛されることは望まないが、本明細書で説明される組成物及び方法は、温度調節不全ならびに創傷部位の過剰な痛み及び炎症の問題を回避し、創傷環境を正常化することができる。さらに、組織分解プロセスが制御されない場合、組織再生を支援するために必要な新たに沈着したコラーゲンが破壊される恐れがある。本発明の組成物は、創傷部位で放出されるプロテアーゼに破壊されずに真皮細胞の集団及び成長に最適な環境をもたらす、非生分解性細胞スキャフォールドを提供する。繊維は、創傷から除去されるのではなく、新たな組織の不可欠な部分となる。
【0044】
繊維は、約50nm~5μmの範囲内などの可変直径を有することができる。いくつかの実施形態において、繊維は、主に約100nm~約2μmの範囲内、または主に約200~約800nmの範囲内である。繊維の可変サイズは、例えば、より均一な構造を有するように意図されたスキャフォールドと比較すると、より良好な天然コラーゲン模倣物であり得る。組織の治癒または再生に関与する異なる細胞タイプは、直径のサイズが異なるコラーゲンを必要とする。理論に束縛される意図はないが、繊維内に移動する細胞は、特定の細胞の成長、接着、または増殖を支援する必要に応じて、繊維の配置を指示する能力を有する。さらに、組織は多くの表面積を必要とし、その表面積は繊維材料によって提供される。このことは、実質的な表面積が不足している多くの3Dプリンティング及び他の合成のスキャフォールド代替物とは対照的である。なおさらに、従来的に好まれていた生分解性スキャフォールドは、典型的には、組織が成長し自立可能になる能力を有する前に、過度に急速に分解する。
【0045】
例えば、マクロファージは、様々なサイトカイン及び成長因子、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、及び形質転換成長因子ベータを分泌し、これらは、血管新生、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、創傷の収縮及び上皮化に必要とされるケラチノサイト、線維芽細胞、及びその他の細胞を刺激することができる。線維芽細胞は、皮膚再生を可能にするコラーゲンフレームワークを分泌する。ただし、マクロファージに加えて上皮細胞及び線維芽細胞も、創傷部位で細胞外酵素(例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP))を分泌して壊死組織及びアポトーシス細胞を分解する。MMPは細胞外マトリックスの全ての構成要素に作用し、失活した組織の除去、喪失または損傷した組織の修復、及びリモデリングの役割を果たす。MMPは、細胞から局所的に放出されてMMPを不活性化する組織メタロプロテイナーゼ阻害物質(TIMP)によって平衡が保たれている。MMPの活性が制御されないと、新たに形成された組織(コラーゲンを含む)の分解または成長因子の破壊が生じる恐れがあり、これが創傷治癒を妨げることになる。非生分解性スキャフォールドを提供することにより、MMPの活性が制御されていなくても真皮細胞の集団及び成長は妨げられない。
【0046】
いくつかの実施形態において、シリカ繊維組成物を調製するためのゾルゲルは、アルコール溶媒と、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などのシリコンアルコキシド試薬とを含む第1の混合物を調製することと、アルコール溶媒と、水と、酸触媒とを含む第2の混合物を調製することと、第2の混合物を十分に滴定して第1の混合物中に入れることと、制御された環境条件下で、組み合わせた混合物を処理(熟成)してエレクトロスピニング用のゲルを形成することとを含む、方法によって調製される。
【0047】
いくつかの実施形態において、シリコンアルコキシド試薬はTEOSである。代替的なシリコンアルコキシド試薬としては、式Si(OR)(式中Rは1~6、好ましくは1、2、または3である)を有する試薬が挙げられる。
【0048】
いくつかの実施形態において、アルコール溶媒は、無水変性エタノールであり、またはいくつかの実施形態では、メタノール、プロパノール、ブタノール、もしくは他の任意の好適なアルコール溶媒である。第1の混合物は、例えば、マグネティックスターラーまたは同様の撹拌手段を用いて、撹拌することができる。第2の混合物は、アルコール溶媒と、水と、酸触媒とを含む。アルコール溶媒は、無水変性エタノールとすることができ、またはメタノール、プロパノール、ブタノール、もしくは他の任意の好適に提供されるアルコール溶媒とすることができる。水は、蒸留水または脱イオン水とすることができる。反応を補助するために、十分な酸触媒を混合物に添加する。この酸は塩酸とすることができ、または硫酸もしくはその他の好適な酸触媒とすることができる。第2の混合物は、例えば、マグネティックスターラーまたはその他の撹拌手段を用いて、撹拌することができる。いくつかの実施形態において、第1の混合物(またはゾル)は、直接加熱の使用を伴わずに作成される。
【0049】
いくつかの実施形態において、ゾルは、約70重量%~約90重量%のシリコンアルコキシド(例えば、TEOS)と、約5重量%~約25重量%のアルコール溶媒(例えば、無水エタノール)と、酸触媒(例えば、HClを使用する場合は約0.001重量%以上約0.1重量%未満)と、残余分の水とを含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、ゾルは、70重量%~約90重量%のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水と、酸触媒とを含む。いくつかの実施形態において、ゾルは、75重量%~85重量%のTEOSと、12重量%~20重量%のエタノールと、約2重量%~5重量%の水とを含む。例示的なゾルは、約80重量%のTEOSと、約17重量%のエタノールと、約3重量%の水とを含む。いくつかの実施形態において、酸触媒はHClである。例えば、ゾルは約0.1重量%未満のHClを含むことができる。例えば、ゾルは0.02重量%~0.08重量%のHClを含むことができる。様々な実施形態において、ゾルは、繊維組成物が実質的に純粋なSiOとなるように、有機ポリマーまたはその他の実質的な試薬を含まない。様々な実施形態において、ゾルは、無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、及び/または塩化バリウム)を含まず、また、様々な実施形態において、無機塩は、ゾルの他の構成要素ともゾル自体の中でも混合されない。様々な実施形態において、繊維組成物(及びゾル)は、金属も金属酸化物(例えば、TiOまたはZrO)も含まない。様々な実施形態において、繊維組成物は、SiOから本質的になる。すなわち、繊維組成物は、SiOと、意図されない不純物と、いくつかの実施形態では、ゾルからSiOへの不完全な変換から生じる種及び/または複合体(例えば、水及び/または化学基、例えば、エトキシ基、シラノール基、ヒドロキシル基など)とのみを含む。
【0051】
様々な実施形態によれば、第1の混合物及び第2の混合物は、好ましくは撹拌を伴って、第2の混合物を滴下または滴定して第1の混合物中に入れることによって組み合わされる。次いで、組み合わせた混合物は、制御された環境で、アルコール溶媒の実質的部分が蒸発するまでゾルを熟成させることによってさらに処理して、エレクトロスピニングに好適なゾルゲルを作成する。
【0052】
様々な実施形態において、ゾルは、転移の加速を回避するようにするため、150°F超の熱または100°F超の熱に曝露されない。
【0053】
本発明の例示的な実施形態において、制御された環境は、少なくとも1つのベントと、任意選択で、混合物からガスを取り出すための排気ファンとを含むことができる、エンクロージャーを含むことができる。エンクロージャーは、湿度、温度、及び任意選択で気圧の観点において、制御された条件を伴い得る。例えば、湿度は、(例えば、従来的な加湿器及び/または除湿機の使用により)約30%~約90%の範囲内、例えば、約40%~約80%、またはいくつかの実施形態では約50%~約80%もしくは約50%~約70%の範囲内(例えば、約55%、もしくは約60%、もしくは約65%)で制御することができる。いくらかの湿度は、溶媒の蒸発を遅らせ、それによって首尾よくエレクトロスピニングするためのウィンドウを長くする上で役立ち得る。いくつかの実施形態において、温度は、約50°F~約90°Fの範囲内、例えば、約60°F~約80°F、または約65°F~約75°Fの範囲内である。いくつかの実施形態において、気圧は任意選択で(例えば、ポンプまたはファンなどの低圧真空源を用いて)制御される。熟成中の環境条件を制御することにより、スピニングが最適となる時間中にゲルをエレクトロスピニングすることができる。この最適な時間は、直接加熱などによって熟成プロセスが過度に加速した場合は、わずか数分という狭いウィンドウ内で生じ得る。約55%の一定湿度及び約72°Fの温度でゾルを熟成させると、ゾルは数日で熟成(ゼラチン化)し、首尾よいエレクトロスピニングのためのウィンドウは、少なくとも数時間まで、いくつかの実施形態では数日まで拡大し得る。様々な実施形態において、熟成プロセスには少なくとも2日を要し、またはいくつかの実施形態では少なくとも3日を要する。ただし、様々な実施形態において、熟成に10日超を要することはなく、または7日超を要することはない。いくつかの実施形態において、熟成プロセスには、2~7日または2~5日または2~4日(例えば、約2日、約3日、または約4日)を要する。様々な実施形態において、ゾルゲルは、より凝固した非流動性の塊に転移するより十分前にスピニング可能である。
【0054】
ゾルゲルを熟成させるためのエンクロージャー空間は、エンクロージャー内からガスを排出するために、少なくとも1つの表面上にベントを含むことができ、任意選択で、ベントは、熟成プロセス中に生成されたガスを排出するためのファンを含むことができる。エンクロージャー空間は、任意選択で、好ましい温度を維持するために、エンクロージャー空間内で名目量の熱を提供するための加熱源を含むことができる。いくつかの実施形態において、湿度を所望の範囲または値に調整するために、エンクロージャー環境内で湿度源(例えば、水または水性の水ベース液体の開放容器)が提供される。エンクロージャーはさらに、1つ以上の環境モニター、例えば、温度読取りデバイス(例えば、温度計、熱電対、もしくはその他の温度センサー)及び/または湿度読取りデバイス(例えば、湿度計もしくはその他の湿度センサー)を含むことができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、ゾルゲルは、制御された環境条件での少なくとも2日、または少なくとも36時間、または少なくとも3日、または少なくとも4日、または少なくとも5日(ただし、様々な実施形態では、制御された環境条件下で10日以下、または7日以下)の熟成プロセスの後にエレクトロスピニングする。熟成プロセスを遅くすることにより、繊維をスピンするための理想的な時間を特定することができる。ゾルゲルの重量を、ゾルゲルがエレクトロスピニングに理想的な時間またはその付近にあるときの指標として使用することができる。理論に束縛される意図はないが、ゾルゲルの粘度は、エレクトロスピニングに理想的な時間を特定するための決定因子としては不十分と考えられている。例えば、様々な実施形態において、ゾルゲルは、(転移中のアルコール溶媒の損失に基づいて)ゾルの元の重量の約10%~約60%である。いくつかの実施形態において、ゾルゲルは、ゾルの元の重量の15~50%、またはゾルの元の重量の約20~約40%の範囲内である。
【0056】
いくつかの実施形態において、ゾルゲルは、少なくとも2日間、または少なくとも36時間、または少なくとも3日間、または少なくとも4日間、または少なくとも5日間熟成され、組成物によって生成されたエチレン蒸気が、出発ゾルによって生成された蒸気の約10%から約40%の間、例えば約10%~約25%の範囲、例えば約10~約20%の範囲内であるときに、エレクトロスピニングする。エチレンは無色の可燃性ガスであり、ほのかに甘いムスクのようなにおいを伴う(これは、溶媒の蒸発が遅くなると明らかに確認できる)。エチレンは、エタノール及び酸の反応によって生成される。エチレンは、任意選択で、従来的なエチレンモニターを用いて蒸気中をモニターすることができる。他の実施形態において、ゾル熟成プロセス中のゾルによって生成された気体は、エレクトロスピニングに好適または最適な時間を決定するためにモニターされる。気体プロファイルは、ガスクロマトグラフィーを用いてモニターすることができる。
【0057】
ゾルゲル混合物を処理するには、混合物の上面に二酸化ケイ素結晶性物質が発生することにより、様々な間隔でまたは継続的に混合物をかき混ぜるまたはその他の撹拌を行う必要があり得る。この上面での結晶性物質発生は処理時間を遅くし、また、この結晶性物質は、エンクロージャー空間内で提供される気体真空に対する混合物の曝露を封じると考えられている。いくつかの実施形態において、任意の固体の結晶性物質は混合物から除去される。
【0058】
ゾルゲルは、ゾルゲルプロセスが完了したら、次に任意の既知の技法を用いてエレクトロスピニングする。ゾルまたはゾルゲルは、必要に応じて保存(例えば、凍結または冷蔵)することができる(そして、このような時間は概して熟成時間に該当しない)。ゾルゲルをエレクトロスピニングするための例示的なプロセスは、Choi,Sung-Seen,et al.,Silica nanofibers from electrospinning/sol-gel process,Journal of Materials Science Letters 22,2003,891-893で説明されており、当該文献はその全体が参照により本明細書に援用される。エレクトロスピニングのための例示的なプロセスは、さらに米国特許第8,088,965号で開示されており、当該文献はその全体が参照により本明細書に援用される。
【0059】
例示的なエレクトロスピニング技法では、ゾルゲルを、1つ以上の紡糸口金と流動的に結合した1つ以上のシリンジポンプに入れる。紡糸口金は、高電圧(例えば、5kV~50kV)源に接続しており、接地したドラムコレクターの外側にありドラムコレクターの方に向いている。ドラムは、紡糸中、典型的には紡糸口金からドラムに延びる紡糸方向にほぼ垂直な回転軸に沿って、回転する。ゾルゲルがシリンジポンプ(または他の保持タンク)から紡糸口金に供給されると、紡糸口金とドラムとの間の高電圧によって帯電した液体ジェットが形成され、これが小さな絡み合った繊維としてドラム上に堆積する。ドラムが回転しエレクトロスピニングが継続するに伴い、ドラムの周囲にシリカ繊維の繊維マットが形成される。様々な実施形態において、紡糸口金及びシリンジポンプ(複数可)は、ドラムの長さに平行に可動な可動プラットフォーム上に配設することができる。このようにして、紡糸口金の数を増加させずに、得られる繊維マットのドラムに沿った長さを増加させることができる。また、ドラムの直径を増加させて、エレクトロスピニングされたマットの面積サイズを増加させることもできる。マットの厚さは、スピニングに使用するゾルゲルの量に大きく依存し得、よってエレクトロスピニング時間の量にも大きく依存し得る。例えば、マットは約1/8インチ超の厚さ、または約1/4インチ超の厚さ、または約1/3インチ超の厚さ、または約1/2インチ超の厚さを有することができる。
【0060】
本発明の実施形態に従って生成したシリカ繊維マット及び組成物は、最適でない時間でスピンした(例えば、ゾルゲルの熟成が不十分な)繊維組成物と比較したときに、1つ以上の有益な特性を示す。例えば、本発明の実施形態に従う繊維マット及び組成物は、直接熱または裸火を適用しても、燃えたり、焦げたり、可視的に劣化したりしない。これに対し、最適でない時間でスピンした様々な繊維組成物は、十分な熱または裸火に曝露したときに焦げ及び/または可視的な変色を示す。さらに、本発明の実施形態に従う繊維マット及び組成物は、水分(例えば、水または体液)を効果的に吸い取り、このような液体を繊維マットに吸収させる。これに対し、最適でない時間でスピンした様々な繊維組成物は、水分を直接適用したときであっても、水分を可視的に吸収することも吸い取ることもなく、このような組成物は疎水性の傾向がある。最後に、本発明の実施形態に従う繊維マット及び組成物はふわふわとしており、凹凸のある、不均一な、及び/または平らでない(例えば、曲面の)表面または形状に対し、構造的完全性を破損または損失することなく容易に成形することができる。したがって、このような組成物は、様々な異なる表面に容易に適用するまたは合わせることができる。これに対し、最適でない時間でスピンした様々な繊維組成物は、平坦、板状、脆性である傾向があり、過度に機械的に成形したり曲げたりした場合、少なくとも部分的に破損する。
【0061】
線維層は、例えば、創傷または損傷もしくは炎症のある組織に適用するために、マットから容易に分離することができる。いくつかの実施形態において、組成物は、約1/8インチ~約1/2インチの厚さでエレクトロスピニングする。例えば、組成物は、約1/8インチ超の厚さ、または約1/4インチ超の厚さ、またはいくつかの実施形態では約1/4の厚さでエレクトロスピニングすることができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、繊維組成物は、繊維の薄層として、例えば、創傷面を覆うのにちょうど十分な繊維の薄層として、組織または創傷に適用される。多くの場合、創傷は速やかに繊維を吸収する。このプロセスは、繊維が創傷上で見えなくなったら繰り返す。例えば、いくつかの実施形態において、繊維は1日当たり2~5回再適用される。いくつかの実施形態において、繊維組成物を処理して微細な粉末または粉塵にし、この粉末または粉塵を組織に適用する。例えば、1つ以上のスクリーンによってシリカ繊維のシートをこすることができ、メッシュサイズを変えることによって一連の粉末サイズを得ることができる。いくつかの実施形態において、粉末または粉塵は、ローション、軟膏、ペースト、フォーム、またはゲルなどの局所用組成物と混合される。このような実施形態において、局所用組成物は、抗生物質、防腐剤、抗炎症剤、または免疫抑制剤などの1つ以上の医薬剤または抗微生物剤を含むことができる。
【0063】
様々な実施形態において、エレクトロスピニングプロセスを完了しドラムからマットを除去した後に、今度はマット(またはその一部)を小さな繊維状断片に分割することができ、これを局所用組成物またはその他の組成物に組み込むことができる。得られた繊維状断片は、単一の固体粒子ではなく、各々絡み合ったシリカ繊維の集合である。いくつかの実施形態において、エレクトロスピニングしたマットは、破砕、切断、摩砕、粉砕、または別の方法で分割して、繊維状構造を維持する小さな断片にすることができる。いくつかの実施形態において、マット(またはその1つ以上の部分)を1つ以上のスクリーンまたはふるいによってこすり、スクリーンのメッシュサイズは、少なくとも部分的には、エレクトロスピニングしたマットから生成された、得られた繊維状断片のサイズを決定する。例えば、所望のサイズを有する繊維状断片の集合を生成するために、マットまたはマットの一部を、メッシュサイズを漸減させた一連の2つ以上のスクリーン(例えば、メッシュ番号が100、200、300、またはさらに400のスクリーン)によってこすることができる。
【0064】
本明細書で使用する場合、「繊維状断片」(または「繊維状マット断片」、または単に「断片」)という用語は、マットの少なくとも一部の繊維の幅よりも平均寸法が大きい(例えば、5倍、10倍、またはさらに100倍の)繊維状マットの小さな粉塵様の粒子、部分、またはフレークを指す。様々な実施形態において、繊維状断片の平均サイズは、最長軸に沿っておよそ20μm~およそ200μmの範囲内である。したがって、繊維状断片は、エレクトロスピニングしたマット自体の顕微鏡的スケールバージョン(例えば、絡み合ったシリカ繊維の集合体)に類似し得、よって典型的には多孔質である。したがって、繊維状断片は、他のタイプのマイクロスケール粒子、例えば、コロイダルシリカで使用される実質的に球状の粒子とは対照的であり、このような粒子は、繊維の小さな集合ではなく各々が単一で個別的な単位または粒状体である。
【0065】
治癒プロセス中に組成物を適用することで、急性及び慢性両方の創傷の治癒を加速することができ、また組織の瘢痕を予防または低減することができる。局所用組成物が、ざ瘡のような傷、皮膚のひび割れ、小さな擦り傷などを有する皮膚に適用されると、スキャフォールドは、細胞が成長するために小さな創傷内に残る。これは治癒プロセスの速度を高め、瘢痕を低減する一助となる。いくつかの実施形態において、ローション形態の組成物が、日光、風、及び低温などの環境に対する皮膚の耐性を改善するために(例えば、顔や手の)ひび割れた皮膚に適用され、それにより、加齢及び環境が皮膚の外観及び/または機能に及ぼす影響を低減する。
【0066】
いくつかの実施形態において、対象は哺乳類である。対象には、特にイヌ、ネコ、またはウマなどの獣医学的患者が含まれる。いくつかの実施形態において、患者はヒト患者である。組織は任意の臓器のものとすることができるが、いくつかの実施形態では、皮膚、筋肉、または骨を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、皮膚の病変、潰瘍、創傷、熱傷、切り傷、擦り傷、または水疱に適用される。
【0067】
いくつかの実施形態において、特に慢性の創傷または治癒が困難な創傷に関して、繊維スキャフォールドは、温度調節不全を含めた創傷環境を正常化し、創傷部位の痛み及び炎症を低減することができ、及び/または(例えば、コラーゲンの完全な自然沈着を伴わずに)真皮細胞が増殖し成長するためのスキャフォールドを提供する。
【0068】
いくつかの実施形態において、創傷は、熱傷、擦り傷、または切り傷、あるいは基底層より深部に達しない軽微な創傷である。このような実施形態において、実質的に完全に治癒するには、1~7日間、例えば、3~5日間(約4日間)の繊維スキャフォールドを用いた治療で十分である。このような実施形態において、繊維は、1日1~4回創傷を覆うように適用される。繊維は概して、創傷内で見えなくなったときに再適用される。
【0069】
いくつかの実施形態において、創傷は、基底層を含むまたはそれを超える損傷を含む。このような創傷は、数週間(例えば、2~8週間)、またはいくつかの実施形態では、非常に重度の創傷においては数ヵ月間(例えば、1~4ヵ月間)の治療を必要とする場合がある。いくつかの実施形態において、創傷は、糖尿病性潰瘍、慢性褥瘡、壊疽性創傷、または切断創である。壊疽性創傷または相当程度の壊死性組織を伴う創傷(例えば、壊死性筋膜炎)などの治療が困難または難しい創傷に関しては、繊維組成物は、治癒プロセスを模倣し、治癒につながる遺伝子発現及び/または環境を誘導することができる。さらに、繊維を適用することで、制御されていない炎症状態の間に天然コラーゲンを沈着させる必要を回避する。さらに、創傷部位の細菌は、繊維を容易に貫通して創傷に到達することができない。これらの実施形態において、繊維は、1日1~4回創傷を覆うように適用される。繊維は概して、創傷内で見えなくなったときに再適用される。必要な場合は、創傷から空気及び酸素が制限されない限りにおいて創傷カバーを用いることができる。
【0070】
いくつかの実施形態において、繊維材料が創傷部位からの痛みを相当程度に低減するため、患者は、オピオイドなどの鎮痛薬を用いた療法を控えることができる可能性がある。
【0071】
いくつかの実施形態において、繊維は、発疹またはその他の皮膚炎症の徴候(例えば、帯状疱疹、または自己免疫発疹もしくは病変、またはアレルギー性発疹)に適用することができ、その結果、痛み及び/または炎症が低減される。いくつかの実施形態において、繊維は、実質的に無傷の皮膚との繊維の接着を媒介するためにゲルまたはクリームまたはその他の局所用組成物と共に適用する。
【0072】
いくつかの実施形態において、対象は、皮膚及び粘膜に水疱を引き起こす主に遺伝性の結合組織疾患の一群である、表皮水疱症(EB)などの遺伝性水疱性疾患を有する。当該疾患は表皮と真皮との間の固定が不完全であることの結果であり、固定が不完全であることにより摩擦及び皮膚の脆弱性が生じる。EBは、軽微な外傷の後に水疱の形成を伴うことが多い。
【0073】
いくつかの実施形態において、対象は単純型EBを有する。単純型EBは、こすった部位に水疱をもたらし、典型的には手足に症状が見られる。いくつかの実施形態において、対象は、ラミニン及びコラーゲンに影響を及ぼす接合部型表皮水疱症を有する。接合部表皮水疱症も、摩擦部位、特に手足の摩擦部位に水疱を呈する。栄養障害型表皮水疱症は、皮膚及びその他の臓器に影響を及ぼす遺伝性のバリアントであり、非常に脆弱な皮膚を伴う。栄養障害型EBは、VII型コラーゲン(コラーゲンVII)というタンパク質をコードする遺伝子内の遺伝子欠損(または変異)によって引き起こされる。
【0074】
ヒトの皮膚は2つの層からなり、最も外側の層は表皮と呼ばれ、その下の層は真皮と呼ばれる。健康な皮膚を有する個体の場合、これらの2つの層の間にはタンパク質アンカーが存在し、これらの層が互いに独立して動く(剪断する)ことを防いでいる。生来EBを有する人々の場合、2つの皮膚層は、層を一緒に保持するタンパク質アンカーが欠如しており、その結果、極端に脆弱な皮膚がもたらされる。(こすりまたは圧迫のような)軽微な機械的摩擦または外傷であっても、皮膚の層を分離し、水疱及び有痛性のびらんを形成する。EBを患う人々は、びらんを第3度熱傷と同等とみなしている。
【0075】
いくつかの実施形態において、繊維組成物は、EB水疱、びらん、創傷、または病変に適用されたときに、治癒組織(いくつかの実施形態では基底層を含む)と一体化し、皮膚の固定を助ける。したがって、皮膚は経時的に、びらん及び水疱が治療されるに伴い、完全性の改善を示す。さらに、このような患者が入浴または旅行などの日常活動を行うには、痛みの低減が重要であり得る。
【0076】
創傷に適用される繊維の厚さは創傷の深さに依存するが、概して、創傷を覆うのにちょうど十分な繊維が適用される。組成物は、創傷部位の繊維が見えなくなった後に再適用することができる。また組成物は、入浴後に新たに適用することもできる。理論に束縛されることは望まないが、繊維は、創傷部位の再生した組織と一体化すると考えられている。
【0077】
創傷は、いくつかの実施形態では他の創傷被覆材で覆われていないが、いくつかの実施形態では他の創傷被覆材を用いることができる。例えば、いくつかの実施形態において、創傷は(繊維組成物以外で)覆われておらず、空気の曝露が可能であり、そのため酸素の利用が十分に可能である。ただし、より重度の創傷の場合、包帯が必要となり得る。好ましくは、包帯は、その部位への酸素を制限しない軽い覆いである。概して、繊維は除去されない。繊維は生分解性でないため、新たな組織の一部となる。浅い創傷の場合、スキャフォールドは、スキャフォールドと一体化する皮膚組織と共に脱落する可能性がある。
【0078】
いくつかの実施形態において、創傷は皮膚癌病変であり、例えば、黒色腫または扁平上皮癌(SCC)または基底細胞癌(BCC)の病変または潰瘍である。病変に繊維を適用することにより、悪性細胞(がん幹細胞を含む)の成長が予防または低減され、一方正常な細胞は繊維ネットワーク内で成長することができる。理論に束縛されることは望まないが、がん細胞表現型は、正常な細胞よりも繊維マトリックスを埋める能力が低いと考えられている。さらに、がんは、成長する上で自らのコラーゲン分解能力に依存している可能性があり、その結果、がん細胞は、繊維スキャフォールドを分解することができないことにより、成長が制約される。
【0079】
他の用途において、本発明の実施形態に従う繊維組成物は、2018年3月16日に出願された米国仮特許第62/643,946号(当該文献の開示内容全体は参照により本明細書に援用される)で詳述されているように、様々な他の組成物に添加して、その1つ以上の機械的及び/または熱的特性を改善することができる。具体的には、シリカ繊維マット全体、またはその一部を利用することができる。他の実施形態において、シリカ繊維マットまたはその一部は、有利な熱的及び/または機械的特定を付与するため、分解して(典型的には液状またはゼラチン状の)組成物と共に有益な添加物として使用するための複数の断片(例えば、繊維状断片)にすることもさらに粉末にすることもできる。例えば、繊維組成物は、組成物が適用されたときの単位面積当たり熱抵抗(すなわち、「R値」)を増加させるために、塗料またはその他のコーティング(例えば、接着剤、エポキシなど)内で一体化させることができる。他の実施形態において、繊維組成物(例えば、マット、マットの一部、繊維状断片、及び/または粉末の形態)は、材料が固体物体に形成(例えば、成形)されたときの機械的強度及び/または耐衝撃性を増加させるために、エポキシまたはウレタンなどの構造的組成物に添加される。また、繊維組成物は液体に混合することもでき、続いて織物などの物品に適用して、その物品に有益な特性を付与することができる。このような実施形態における液体組成物は、物品上で乾燥し、物品の一部または物品上で層となることができる。例えば、シリカ繊維を含む組成物は、衣類に適用して、耐火スーツまたは装甲もしくは防弾チョッキの様式で衣類に耐火性または耐衝撃性を付与することができる。
【0080】
次に、本発明の実施形態を以下の実施例に関して説明する。
【実施例
【0081】
実施例1:シリカ繊維組成物の調製
ゾルゲルをローラーシステム上でスピニングしてシートを作成する、電界によるスピニングプロセスを用いて、SiO繊維を調製した。ゾルゲルは2つのパートで作製する。最初に、TEOSをエタノールと混合し、次いでHCl、水、及びエタノールを含む第2の混合物を滴定して混合物中に入れる。次いで、ゾルゲルを、制御された条件下で数日間熟成させ、それからスピニングする。
【0082】
1つの例では、384グラムの(TEOS)オルトケイ酸テトラエチル98%及び41.8グラムの無水変性エタノールを秤量し、一緒に注ぐことにより、第1のゾルを作製した。第1のゾルをビーカー内に静置し、マグネティックスターラーを使用して均一な溶液を作成した。第2のゾルは、41.8グラムの無水変性エタノール、16.4グラムの蒸留水、及び0.34グラムの塩酸を秤量し、次いで一緒に注ぎ、マグネティックスターラーで8秒間、均一な第2のゾルが形成されるまで混合することによって作成した。
【0083】
次いで、滴定デバイスの中に第2のゾルを注ぎ、滴定デバイスを第1のゾルを含むビーカーの上に置いた。次いで、滴定デバイスを毎秒5滴、第1のゾル及び第2のゾルを混合した第3のゾルが形成されるまで滴下した。滴下プロセス中、第2のゾルを第1のゾルに滴下しながら、第1のゾルを引き続きマグネティックスターラーで混合する。
【0084】
次いで、組み合わせた第3のゾルをエンクロージャーボックスに入れた。中程度の速度のファンによって低圧真空を提供して煙霧を除去する。本実験では、ボックス内の気温を72°F、湿度を60%とした。本実験では、第3のゾルを静置し、約3日間処理した。ゾルゲルを数日にわたってゆっくり熟成させることにより、ゾルゲルは、エレクトロスピニングに理想的な時間が特定できるようにゆっくり転移する。
【0085】
混合物を毎日撹拌して、結晶構造の蓄積を低減した。第3のゾルは、アルコール溶媒の蒸発によってゾルゲルへの転移を開始する。ゾルゲルをモニターして蒸気中のC(エチレン)のおよその量を決定することができ、その量は、熟成前の元のゾルに対し約10~20%の範囲内とすることができる。適切にゼラチン化したら、ゾルゲルをエレクトロスピニング機器に装填するか、または凍結してエレクトロスピニング用に保存する。適切なゼラチン化は、ゾルゲルの総質量が約100グラムから約180グラムの間となったときに生じる。
【0086】
上記の実施例を適切にスケーリングして、望ましい構造を生成することができる。エレクトロスピンの理想的な時間をさらに特定するために、ゲルの一部を電界に滴下して、得られた繊維の特性を評価することができる。
【0087】
図1A~1Dは、本開示に従ってスピニングした繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である(50、100、200、及び500ミクロンのスケールが示されている)。図に示されるように、繊維は柔軟で滑らかで密であり、連続している(破損していない)。これらの特性を有する材料は、(例えば、コラーゲンミメティックとして)創傷及び動物組織の治療に理想的である。
【0088】
図2A~2Dは、最適でない時間に(ゾルゲルを完全に熟成させる前に)エレクトロスピニングした繊維のSEM画像である(50、100、200、及び500ミクロンのスケールが示されている)。繊維は剛性と思われ、可視的な破損が多く、凝集塊が形成されている。図3は、同様の材料からの繊維のSEM画像を示しており(20ミクロンスケールが示されている)、この繊維は明らかに剛性であり、多くの破損が明らかに確認できる。
【0089】
図4は、本開示に従ってスピニングした繊維マットを示している。繊維の柔軟性及び連続性により、マットを1/4インチ以上の厚さでスピニングすることが可能になる。マットは柔らかく柔軟な質感を有し、創傷床を覆うために繊維の層を容易に分離することができる。図5A及び5Bは、本開示に従って熟成させたときにエレクトロスピニングしたシリカ繊維マット(図5A)と、ゾルゲルを最適に熟成させる前に過度に早期にスピニングした繊維マット(図5B)とを比較している。図5Aの材料は柔らかい質感を有し、非常に柔軟であり、創傷への繊維層の適用に関して容易に取り扱うことができる厚さでスピニングすることができる。図5Bの材料は脆性で、柔軟性がなく、厚みがなく、繊維層は、創傷の表面積を覆うために容易に分離することができない。
【0090】
実施例2:熱傷の治療
成人男性の顔の第1度及び第2度の熱傷に繊維を適用した。適用した量は創傷部位を覆うのにちょうど十分であり、繊維の厚さは創傷の深さに基づいた。最初に繊維を適用した後、繊維が見えなくなったらさらなる繊維を追加した。4日後、熱傷はほとんど見えなくなった。
【0091】
成人男性の腕の第2度熱傷に繊維を適用した。材料の薄片を熱傷創に適用しているところを図6に示す。
【0092】
成人女性の足の第2度熱傷に繊維を適用したところ、4日間で相当程度の治癒が示された。最初に繊維を適用した後、繊維が見えなくなったらさらなる繊維を追加した。繊維は入浴後にも再適用した。熱傷の処置前の写真及び(治療中の)4日間隔で撮影した写真を図7A、7B、7C、及び7Dに示す。
【0093】
実施例3:切断創の治療
繊維スキャフォールドを、足趾が切断された壊疽性創傷部位に適用した。創傷は糖尿病性創傷であった。糖尿病性潰瘍は治癒が極めて難しく、壊死プロセスを止めることが困難である。
【0094】
創傷は、繊維マトリックスの適用により約5~6週間で治癒した。治療前には、脚の切断が必要となるリスクがあった。しかし、繊維を用いて治療した後、結局のところ脚は温存された。
【0095】
実施例4:動物の創傷の治療
繊維スキャフォールドを、切断が推奨されているイヌの脚の深い創傷に適用した。2~3週間の治療後、創傷は完全に治癒し、3ヵ月以内に毛皮が創傷全体を完全に覆った。繊維グラフトを伴った創傷の写真(図8A)と、さらに治療から約3ヵ月後の写真(図8B)とを示す。
【0096】
繊維スキャフォールドを、フェンスによって裂けたウマの脚の深い創傷に適用した。創傷のため、ウマは著しく跛行していた。ウマの創傷、特に脚の創傷は、治癒が非常に難しい。夜間、ウマが納屋にいる間に繊維を適用した(図9A)。翌朝、ウマは跛行せずに速歩で進んでおり、このことから、このウマが創傷部位から同じ痛みを感じなくなったことが示唆される。治療から4日後の同じ創傷を図9Bに示す。この創傷は現在では完治している(図9C)。
【0097】
実施例5:褥瘡の治療
腰に重度の床ずれを有する対麻痺の成人男性に対し、繊維を用いて治療した。創傷は、少なくとも17ヵ月間存在する慢性創傷であった。麻痺を有する人が創傷を負うと、痛みを感じる代わりに大量に発汗する傾向がある。繊維を創傷に加えたところ、対象の発汗が止まった。数ヵ月間の治療後、創傷はほぼ治癒している。
【0098】
実施例6:表皮水疱症(EB)創傷の治療
表皮水疱症(EB)を有する小児に対し、繊維を開放創及び水疱に適用することによって治療した。繊維を適用することによって、この小児は痛みを伴わずに入浴することができ、入浴中に鎮痛薬を用いる必要がなくなった。小児の手の重度の開放創に繊維を適用しているところを図10Aに示す。治癒後の同じ手を図10Bに示す。(水疱を誘導するための)こすり試験を繊維によって治癒した部位で行っても、皮膚は水疱を形成しない。
【0099】
実施例7:熱傷の治療
成人男性の腕の第2度熱傷に繊維を適用した。図11A及び11Bは、治療開始から数日後の創傷に適用された繊維を示している。熱傷による痛みは、最初の治療から1日以内にかなりの程度鎮静した。図11C及び11Dは、熱傷が発生してから8日後の治癒した創傷を示している。創傷部位全体にわたって健康な皮膚が確認できる。皮膚からの新たな発毛も確認でき、瘢痕または瘢痕組織の証拠は存在しない。
【0100】
本明細書で用いられる用語及び表現は、限定ではなく説明のための用語及び表現として使用され、このような用語及び表現の使用において、示され説明されている特徴またはその一部のいかなる等価物も排除されることは意図されていない。さらに、本発明のある特定の実施形態を説明してきたが、本明細書に開示される概念を組み込んだ他の実施形態が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用され得ることが当業者には明らかであろう。したがって、説明された実施形態は、あらゆる点において制約的なものではなく単に例示的なものとしてみなすべきである。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
シリカ繊維組成物を作製するための方法であって、
70重量%~90重量%のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを含むゾルを調製することと、
前記ゾルを2~7日間、湿度が40%~80%の範囲内かつ温度が50~90°Fの範囲内である条件下でゾルゲルに転移させることと、
前記ゾルゲルをエレクトロスピニングしてシリカ繊維マットにすることとを含む、前記方法。
(項目2)
前記ゾルが150°Fを超える熱に曝露されない、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記ゾルが100°Fを超える熱に曝露されない、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記ゾルが、75重量%~85重量%のTEOSと、15重量%~20重量%のエタノールと、2重量%~5重量%の水とを含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記ゾルが、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、1重量%~10重量%の水とを含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記酸触媒がHClである、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記ゾルが約0.1重量%未満の前記酸触媒を含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記ゾルが0.02重量%~0.08重量%の前記酸触媒を含む、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記ゾルが有機ポリマーを含まない、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記組成物がSiO から本質的になる、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記ゾルが2~4日間転移に供される、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記ゾルが約3日間転移に供される、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記湿度が50~70%である、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記温度が60~80°Fである、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記条件が、前記ゾルからの気体を排出するファンをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記ゾルゲルの重量が、前記ゾルの開始重量の20%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記ゾルゲルのエチレン蒸気の生産量が、前記ゾルからのエチレン蒸気のピーク生産量に対し10%~20%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記マットが少なくとも約1/8インチの厚さを有する、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記マットが少なくとも約1/4インチの厚さを有する、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記シリカ繊維マットの少なくとも一部を、液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせることをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記液状またはゼラチン状の組成物が、塗料、エポキシ、ウレタン、または接着剤を含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記シリカ繊維マットの前記少なくとも一部が、前記液状またはゼラチン状の組成物と組み合わせるために、処理して複数の断片または粉末にされ、それによって改質組成物が形成される、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記改質組成物をコーティングとして固体物体または織物に適用することをさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記改質組成物を成形して固体物体にすることをさらに含む、項目22に記載の方法。
(項目25)
ゾルゲルをエレクトロスピニングすることによって調製されたシリカ繊維を含むシリカ繊維マット組成物であって、前記ゾルゲルが、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と、アルコール溶媒と、酸触媒とを用いて調製され、前記ゾルゲルが少なくとも2日間、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移に供されている、前記シリカ繊維マット組成物。
(項目26)
前記ゾルゲルの重量が、転移前の開始重量の20%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、項目25に記載の組成物。
(項目27)
前記ゾルゲルからのエチレン蒸気の生産量が、転移前の前記ゾルゲルに対し10%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、項目25に記載の組成物。
(項目28)
前記繊維が約50nm~約5μmの直径を有する、項目25に記載の組成物。
(項目29)
前記繊維が約200nm~約1000nmの可変直径を有する、項目25に記載の組成物。
(項目30)
前記組成物がSiO から本質的になる、項目25に記載の組成物。
(項目31)
前記ゾルゲルが、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを用いて調製される、項目25に記載の組成物。
(項目32)
局所用担体をさらに含む、項目25に記載の組成物。
(項目33)
前記局所用担体が、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、またはゲルである、項目32に記載の組成物。
(項目34)
前記局所用担体が、1つ以上の医薬剤または抗微生物剤をさらに含む、項目32に記載の組成物。
(項目35)
前記局所用担体が抗生物質または防腐剤を含む、項目32に記載の組成物。
(項目36)
前記局所用担体が抗炎症剤または免疫抑制剤を含む、項目32に記載の組成物。
(項目37)
対象における損傷組織の完全性を改善するための方法であって、シリカ繊維組成物を前記組織に適用することを含み、前記適用が、前記組織の治癒中及び治癒後に前記シリカ繊維組成物の相当程度の量を前記組織から除去することを伴わない、前記方法。
(項目38)
前記シリカ繊維組成物が、組織の治癒、再生、及び/または完全性を支援する恒久的スキャフォールドである、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記シリカ繊維組成物が非生分解性である、項目37に記載の方法。
(項目40)
前記シリカ繊維組成物が、創傷治癒のためのコラーゲン代替物及び/または細胞スキャフォールドとして作用する、項目37に記載の方法。
(項目41)
前記シリカ繊維組成物が、ゾルゲルをエレクトロスピニングすることによって調製される、項目37に記載の方法。
(項目42)
前記ゾルゲルがオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を用いて調製される、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記ゾルゲルが、70重量%~90重量%のTEOSと、8重量%~25重量%のエタノールと、酸触媒と、残余分の水とを含む、項目41に記載の方法。
(項目44)
前記ゾルゲルが少なくとも2日間、湿度が約40%~約80%の範囲内かつ温度が50°F~90°Fの範囲内である条件下で転移に供される、項目41に記載の方法。
(項目45)
前記ゾルゲルの重量が、熟成前の開始重量の20%~40%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、項目41に記載の方法。
(項目46)
前記ゾルゲルのエチレン蒸気の生産量が、熟成中のエチレン蒸気のピーク生産量に対し10%~20%であるときに、前記ゾルゲルがエレクトロスピニングされる、項目41に記載の方法。
(項目47)
前記シリカ繊維組成物の繊維が約50nm~約5μmの可変直径を有する、項目37に記載の方法。
(項目48)
前記シリカ繊維組成物がSiO から本質的になる、項目37に記載の方法。
(項目49)
前記シリカ繊維組成物が薄層として前記組織に適用される、項目37に記載の方法。
(項目50)
前記シリカ繊維組成物が、処理して粉末または粉塵にされ、前記粉末または粉塵が前記組織に適用される、項目37に記載の方法。
(項目51)
前記粉末または粉塵が、局所用組成物中で混合または懸濁されている、項目50に記載の方法。
(項目52)
前記局所用組成物が、ローション、軟膏、ペースト、クリーム、フォーム、またはゲルである、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記局所用組成物が、1つ以上の医薬剤または抗微生物剤をさらに含む、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記局所用組成物が抗生物質または防腐剤を含む、項目53に記載の方法。
(項目55)
前記局所用組成物が抗炎症剤または免疫抑制剤を含む、項目53に記載の方法。
(項目56)
前記シリカ繊維組成物が前記損傷組織上で見えなくなったら、前記シリカ繊維組成物を前記損傷組織に再適用することをさらに含む、項目37に記載の方法。
(項目57)
前記損傷組織がいかなる他の創傷被覆材にも覆われていない、項目37に記載の方法。
(項目58)
前記シリカ繊維組成物が前記組織の瘢痕を予防または低減する、項目37に記載の方法。
(項目59)
前記対象が哺乳類である、項目37に記載の方法。
(項目60)
前記対象がヒト患者である、項目59に記載の方法。
(項目61)
前記対象が、ネコ、イヌ、またはウマである、項目59に記載の方法。
(項目62)
前記組織が皮膚を含む、項目37に記載の方法。
(項目63)
前記シリカ繊維組成物が、皮膚の病変、潰瘍、損傷、熱傷、切り傷、擦り傷、または水疱に適用される、項目37に記載の方法。
(項目64)
前記シリカ繊維組成物が糖尿病性潰瘍に適用される、項目37に記載の方法。
(項目65)
前記対象が遺伝性水疱性疾患を有する、項目37に記載の方法。
(項目66)
前記対象が表皮水疱症を有する、項目65に記載の方法。
(項目67)
前記シリカ繊維組成物が褥瘡または圧迫潰瘍に適用される、項目37に記載の方法。
(項目68)
前記シリカ繊維組成物が壊疽性創傷または切断創に適用される、項目37に記載の方法。
(項目69)
前記組織が、皮膚の熱傷、切り傷、または擦り傷を含む創傷を有し、前記シリカ繊維組成物が、前記創傷を覆うのに十分な量で層状に適用される、項目37に記載の方法。
(項目70)
前記シリカ繊維組成物が前記損傷組織上で見えなくなったら、前記シリカ繊維組成物を前記損傷組織に再適用することをさらに含む、項目69に記載の方法。
(項目71)
前記シリカ繊維組成物の上に創傷被覆材を適用することをさらに含む、項目37に記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D