(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】腫瘍マーカー及び治療ターゲットとしての長鎖ノンコーディングRNA LETN
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20231220BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20231220BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231220BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20231220BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20231220BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231220BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231220BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231220BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20231220BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12Q1/02
A61K31/7105
A61K31/713
A61K45/00
A61K48/00
A61P35/00
C12N15/09 110
C12N15/113 110Z
(21)【出願番号】P 2022535254
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 CN2019124579
(87)【国際公開番号】W WO2021114137
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】502192546
【氏名又は名称】清華大学
【氏名又は名称原語表記】Tsinghua University
【住所又は居所原語表記】Tsinghua University,Haidian District,Beijing 100084,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】楊 雪瑞
(72)【発明者】
【氏名】王 顕騰
(72)【発明者】
【氏名】胡 小林
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/229046(WO,A1)
【文献】米国特許第10233495(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0178428(US,A1)
【文献】国際公開第2019/095541(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/204777(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/219264(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108384855(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108531596(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106434868(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107236817(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105950628(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105274111(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105316402(CN,A)
【文献】特表2016-529246(JP,A)
【文献】Biomed. Pharmacother.,2019年,Vol.112,108685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6886
C12Q 1/6837
C12Q 1/02
A61K 31/7105
A61K 31/713
A61K 45/00
A61K 48/00
A61P 35/00
C12N 15/09
C12N 15/113
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO: 1で表わされるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを検出する試薬を含む、癌の診断薬又は診断キット。
【請求項2】
前記試薬が、前記lncRNA RP11-196G18.22に特異的なプローブ、遺伝子チップ又はPCRプライマーである、請求項1に記載の診断薬又は診断キット。
【請求項3】
前記癌が固形腫瘍である、請求項1または2に記載の診断薬又は診断キット。
【請求項4】
前記癌が、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれるものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の診断薬又は診断キット。
【請求項5】
SEQ ID NO: 1で表わされるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤を含む、癌治療薬
であって、前記薬剤が、アンチセンスRNA、siRNA、shRNAまたはCRISPR-sgRNAである、癌治療薬。
【請求項6】
前記癌が固形腫瘍である、請求項
5に記載の癌治療薬。
【請求項7】
前記癌が、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれるものである、請求項5
または6に記載の癌治療薬。
【請求項8】
他の抗癌剤をさらに含む、請求項5から
7のいずれか一項に記載の癌治療薬。
【請求項9】
前記他の抗癌剤が、化学療法薬である、請求項
8に記載の癌治療薬。
【請求項10】
抗癌剤をスクリーニングする方法であって、
1)SEQ ID NO: 1で表わされるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)を過剰発現している細胞における前記lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを測定するステップと、
2)候補化合物をステップ1)の細胞と接触させるステップと、
3)ステップ2)の後の細胞における前記lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを測定するステップと、
4)ステップ1)とステップ3)で測定されたlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを比較するステップと、を含み、
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルの低下は、前記候補化合物が抗癌性を有することを示す、方法。
【請求項11】
前記細胞が癌細胞である、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は癌分野に関する。より具体的には、本発明は、長鎖ノンコーディングRNA LETNを腫瘍マーカー及び治療ターゲットとする使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
近年、シークエンシング技術の急速な発展に伴い、ヒトゲノム上の大量のノンコーディング領域で、翻訳活性がない長鎖ノンコーディングRNA(lnc RNA)を転写し、かつ数がタンパク質を大幅に超えることを発見し、ヒトの様々な疾患又は生理機能に関連する数百種類のlncRNAを発見した。特に癌において、ますます多くの証拠はlncRNAが腫瘍抑制又は腫瘍発生において相乗効果を果たすことを証明した[1]。しかし、大多数のlncRNAの分子及び生物学的機能についてはあまり知られていない。
【0003】
肝臓癌は、年間約841,000人が新たに罹患し、782,000人が死亡する、世界で6番目に多いがんであり[2]、罹患率と死亡率は男性の方が2~3倍高く、男性の死亡者数は2位となっている。中国は、慢性的なHBV感染とアフラトキシンへの曝露が主な原因となる肝臓がんの発症リスクが高い国の一つである。しかし、肝臓癌の発病率がますます高くなるが、驚くべきことは、治療手法が少ないということである。放射線、移植、手術などの物理的な治療以外に、進行した肝細胞がんの治療薬として承認されているのはソラフェニブのみであるが、非常に高価で、平均2.8カ月しか延命できず、下痢や吐き気など様々な副作用がある[3]。
【0004】
核小体は、細胞核に位置する非膜構造の核内コンパートメントであり、rDNA転写及びリブソーム生合成などの基本過程が行われる重要なオルガネラである。NPM1(B23とも呼ばれる)は核小体において豊富に発現されるタンパク質であり、そのタンパク質配列は3つの異なるドメインを含み、N端ドメインはNPM1のオリゴマー化及び他のタンパク質との相互作用を調節することにより、その生物学的機能に影響を与える。NPM1は5量体を形成することで対応する機能を発揮することが、多くの研究により明らかにされている。NPM1の中心領域は、ヒストンとの結合に関与する強酸性領域の存在によって特徴付けられる本質的に乱れた領域であり、C末端領域は核酸との結合を可能にする十分なプラットフォームとなっている[4]。NPM1は重要な細胞タンパク質であり、リボソーム生合成、クロマチンリモデリング、中心小体複製などの一連の生物学的プロセスに関与していることが示されている。それが異常に発現または変異すると、異常な胚発生および腫瘍形成を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明者らは、理論研究と実験ツールを組み合わせることで、マルチオミクスデータマイニングツールを用いて、がんとの関連で潜在的な機能を持つ可能性のあるlncRNAの網羅的解析を行った。肝細胞がん(LIHC)において、本発明者らは、本実験室で設計されたアルゴリズムにより、癌ゲノムアトラス(TCGA)のデータを利用してlncRNAに対して機能調査を行い、これまで研究されていなかったlncRNA RP11-196G18.22(LETNと命名する)を発見した。本発明者らは、LETNが191対の転写因子および標的遺伝子を調節し、肝臓癌の発生・進展に広く強力な制御力を持つ可能性があると予測し、実験によって検証した。
【0006】
したがって、本発明は、癌診断標的及び治療標的として用いられる長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA RP11-196G18.22、本文でLETNと命名する)に関し、それは、癌細胞で過剰発現し、当該過剰発現が癌細胞増殖を促進し、且つ癌患者の短い生存期間の予後に関するので、腫瘍マーカー及び診断マーカーとすることができる。このlncRNAの発現を低減させると、癌細胞の増殖が抑制されるため、このlncRNAの発現を抑制することは、癌治療の新しい戦略を代表する。また、本発明は、LETNの作用機序を検討し、LETNがNPM1に結合することにより機能し、rRNAの産生やヌクレオソーム集合の機能に影響を与え、癌(肝臓癌等)の発生や進行を促進することを明らかにした。
【0007】
本発明の一様態において、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)発現レベルを検出する試薬の、癌の診断薬又は診断キットの製造における使用が提供される。lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルの検出は、そのDNA又はRNAレベルの検出であってもよい。
【0008】
一実施形態において、本発明で癌の診断方法が提供され、前記方法は、受験者のサンプルにおけるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを検出することを含み、対照(健康又は正常サンプル)に対して、LETNの受験者のサンプルにおける過剰発現は、受験者が癌に罹患する(高い)リスク又は癌に罹患することを指示する。
【0009】
一実施形態において、本発明では、癌を診断するための、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)発現レベルを検出する試薬が提供される。
【0010】
一実施形態において、前記試薬は、lncRNA RP11-196G18.22に特異的なプローブ、遺伝子チップ又はPCRプライマーである。
【0011】
他の一実施形態において、前記癌は固形腫瘍であり、好ましくは、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれる。
【0012】
他の好ましい一実施形態において、前記lncRNA RP11-196G18.22のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 1(Ensembl登録番号ENST00000564237.1)に示す。
【0013】
本発明の他様態において、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤の、癌治療薬の製造における使用が提供される。
【0014】
一実施形態において、本発明では、薬剤、特に癌治療薬として用いられる、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤が提供される。
【0015】
他の実施形態において、本発明では癌を治療する方法が提供され、前記方法は、それを必要とする対象に、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減または抑制する有効量の薬剤を投与することを含む。
【0016】
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤の本質は、本発明にとって重要ではなく、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減する又は抑制すればいい。
【0017】
好ましい一実施形態において、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤は、Gapmer、アンチセンスRNA、siRNA、esiRNA、shRNA、miRNA、RNAアプタマー、TALEN、CRISPR及びジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選ばれる。より好ましい実施形態において、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPRに用いる具体的な配列は、本出願明細書の実施例で使用されるものである。
【0018】
他の一実施形態において、前記癌は固形腫瘍であり、好ましくは、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれる。
【0019】
好ましい一実施形態において、前記lncRNA RP11-196G18.22のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1に示す(Ensembl登録番号ENST00000564237.1)。
【0020】
他の一実施形態において、前記薬剤は、他の抗癌剤、例えば化学療法薬、例えばNPM1発現又は変異を低減又は抑制する薬剤、或いはLETNとNPM1との結合を抑制する薬剤をさらに含む。或いは、前記薬剤は、NPM1発現又は変異を低減又は抑制するための方法、又はLETNとNPM1との結合を抑制する方法と組み合わせて用いられる。lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を抑制することで十分ながん治療効果が得られるにもかかわらず、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低下または阻害する薬剤と化学療法剤などの他の抗がん剤を併用することで、より強い抗がん効果や相乗的な効果が期待される。本発明では、LETNがNPM1と結合することによって機能し、NPM1と結合することによってrRNAの生成及びヌクレオソームのアセンブリ機能に影響して、癌(例えば肝臓癌)の発生及び進行を促進することが発見されているので、これは、NPM1の発現又は変異を低減又は抑制する抗がん剤又は化学療法剤にとってもっとそうである。
【0021】
本発明の他の一様態において、抗癌剤をスクリーニングするための方法が提供され、この方法は、
1)lncRNA RP11-196G18.22(LETN)を過剰発現している細胞におけるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを測定するステップと、
2)候補化合物をステップ1)の細胞と接触させるステップと、
3)ステップ2)の後、細胞におけるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを測定するステップと、
4)ステップ1)とステップ3)で測定されたlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを比較するステップとを含み、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルの低下は、前記候補化合物が抗癌性を有することを示し、好ましくは、前記細胞が癌細胞である。
【0022】
本発明の他の一様態において、腫瘍がLETN発現の阻害剤による治療に適しているかどうかを特定する方法が提供され、この方法は、
1)腫瘍又は腫瘍細胞サンプルにおけるLETNの発現は、対照(正常又は健康組織/細胞)に対して増加するか否かを測定するステップと、
2)前記腫瘍が治療に適するか否かを特定するステップとを含み、増加された発現がLETN発現抑制剤による治療に適することを示す。
【0023】
本発明の他の一様態において、癌の治療および/または予防における薬剤の効果を評価する方法が提供され、この方法は、
前記薬剤が腫瘍又は腫瘍細胞サンプルにおけるLETNの発現を低減させることができるか否かをテストすることを含み、低減させることができると、前記薬剤が癌の治療及び/予防に適することを示す。一実施形態において、前記癌は固形腫瘍であり、好ましくは、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれる。好ましい一実施形態において、前記LETNのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 1に示す(Ensembl登録番号ENST00000564237.1)。
本発明のさらなる態様を、以下に記載する:
[項1]
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを検出する試薬の、癌の診断薬又は診断キットの製造における使用。
[項2]
前記試薬が、lncRNA RP11-196G18.22に特異的なプローブ、遺伝子チップ又はPCRプライマーである、項1に記載の使用。
[項3]
前記癌が固形腫瘍であり、好ましくは、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれるものである、項1に記載の使用。
[項4]
前記lncRNA RP11-196G18.22のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO: 1(Ensembl登録番号ENST00000564237.1)に示すものである、項1~3のいずれかに記載の使用。
[項5]
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤の、癌治療薬の製造における使用。
[項6]
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤が、Gapmer、アンチセンスRNA、siRNA、esiRNA、shRNA、miRNA、RNAアプタマー、TALEN、CRISPR及びジンクフィンガーヌクレアーゼからなる群から選ばれるものである、項5に記載の使用。
[項7]
前記癌が固形腫瘍であり、好ましくは、肝臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、軟部組織癌、胆道癌、膀胱癌、直腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、結腸癌、食道癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれるものである、項5に記載の使用。
[項8]
前記lncRNA RP11-196G18.22のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO:1(Ensembl登録番号ENST00000564237.1)に示すものである、項5に記載の使用。
[項9]
前記癌治療薬が、他の抗癌剤、例えば化学療法薬、例えばNPM1発現又は変異を低減又は抑制する薬剤、或いはLETNとNPM1との結合を抑制する薬剤をさらに含む、項5~8のいずれかに記載の使用。
[項10]
抗癌剤をスクリーニングする方法であって、
1)lncRNA RP11-196G18.22(LETN)を過剰発現している細胞におけるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを測定するステップと、
2)候補化合物をステップ1)の細胞と接触させるステップと、
3)ステップ2)の後の細胞におけるlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを測定するステップと、
4)ステップ1)とステップ3)で測定されたlncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを比較するステップと、を含み、
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルの低下は、前記候補化合物が抗癌性を有することを示し、
好ましくは、前記細胞は、癌細胞である、方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下、図面を合わせる詳細な説明において、本発明の上記特徴及び利点はより明確になる。
【0025】
【
図1】
図1におけるA乃至Jに示す結果は、LETNが肝臓癌の発生及び進行を促進することを表す。 Aは、TCGAデータベースの様々な癌組織およびパラ癌組織におけるLETNの発現を示している(CHOL:胆道癌、LIHC:肝臓癌、LUAD:肺腺癌、KIRC:腎臓明細胞癌、BLCA:膀胱癌、BRCA:乳癌、PRAD:前立腺癌、READ:直腸癌、LUSC:肺扁平上皮癌、UCEC:子宮内膜癌、PAAD:膵臓癌、HNSC:頭頸部扁平上皮癌、KIRP:乳頭状腎細胞癌、COAD:結腸癌、STAD:胃癌、SARC:軟部組織癌、ESCA:食道癌、THCA:甲状腺癌、THYM:胸腺癌、KICH:嫌色素性腎細胞癌、PCPG:副腎癌、CESC:子宮頸部扁平上皮癌)。人間の大部分癌組織(固形腫瘍)におけるLETN発現が、対応するパラ癌組織よりも高い。Bは、HUH7細胞系においてLETNに対してCRISPR-Cas9ノックアウトを行い、LETNノックアウト組(sgLETN)の細胞増殖速度が対照(sgEV)よりも大幅に低いことが発見された。Cに示すのは、それぞれ肝臓癌細胞系HUH7、SMMC-7721、肺癌細胞系HCC827、前立腺癌細胞系PC3、DU145においてLETNに対してノックダウンを行うことであり、検出してLETNノックダウン組の細胞増殖速度が対照組細胞よりも大幅に低いことが発見された(siNCとsiLMNAは2種類の異なる陰性対照であり、オフターゲット効果を防止するために、LETNに対して2つのsiRNAノックダウン、即ちsiLETN-1とsiLETN-2を設計した)。D、Eに示すのは、HUH7及びHCC827細胞においてLETNに対して安定ノックダウン/ノックアウトを行った後、その細胞クローン形成能力が明らかに破壊されたことである。Fに示すのは、肝臓癌細胞系HUH7、SMMC-7721においてLETNに対して過剰発現を行うことであり、検出してLETN過剰発現組の細胞増殖速度が対照組細胞よりも大幅に高いことが発見された。Gに示すのは、HUH7及びSMMC-7721細胞においてLETNに対して安定過剰発現を行った後に、その細胞クローン形成能力が明らかに増強したことである。Hに示すのは、肝臓癌細胞系HUH7においてLETNに対して安定ノックダウンを行った後にLETNノックダウン組の皮下腫瘍形成能力が顕著に低下したことである。Iに示すのは、肝臓癌細胞系HUH7においてLETNに対して安定過剰発現を行った後に、LETN過剰発現組の皮下腫瘍形成能力が顕著に増強したことである(LETN-OE組は過剰発現LETN組であり、EV組は対照組である)。
【0026】
【
図2】
図2におけるA乃至Eに示す結果は、LETNがNPM1と結合することによって機能することを示している。 具体的には、Aに示すのは、In situ hybridisation実験により、LETNは主に核内に存在し、クラスターを形成していることである。Bに示すのは、核形質分離アッセイによりLETNが核に主に存在することであり、GAPDHとLaminA/Cがそれぞれ細胞質と核のマーカーである。Cに示すのは、LETNの互いに作用するタンパク質に対して質量分析を行うことにより、2回の実験においてNPM1がいずれも結合能力最強なタンパク質であることである。Dに示すのは、LETNとNPM1が互いに結合し、核小体に局在することをさらに確認したサイトフルオロリメトリ共局在アッセイである。Eは、ホルムアルデヒド架橋または未架橋状態のNPM1によるRNAのプルダウンを示し、NPM1は確かにlncRNA LETNを引き下げることができた(図中のMALAT1は陰性対照を表す)。
【0027】
【
図3】
図3におけるA乃至Cに示す結果は、LETNがNPM1と結合することによってrRNAの発生及びヌクレオソームのアセンブリ機能を影響して肝臓癌の発生及び進行を促進することを示している(検出用抗体:マウス抗ヒトNPM1抗体(ab10530, abcam)、Histone H2A (EPR17470, ab177308, abcam)、Histone H2B (EP957Y, ab52599, abcam)、 Histone H3 (17168-1-AP, proteintech)、 Histone H4 (16047-1-AP, proteintech))。 具体的には、Aに示すのは、HUH7及びHCC827細胞系においてそれぞれLETN又はNPM1をノックダウンし、いずれも各種rRNAの発現を明らかに低下させることができ、LETN及びNPM1の機能は一致性を有することである。Bに示すのは、LETNをノックダウンしてNPM1とヒストンとの結合能力を弱くして、さらにヌクレオソームのアセンブリを影響することができることである。Cは、TCGAデータベースにおける肝臓癌患者の臨床資料に対して生存期分析を示す。単独してLETN又はNPM1に分けると、高発現組患者の予後生存期間が低発現組患者よりも短く、続いてNPM1-low+LETN-low、NPM1-low+LETN-high、NPM1-high+LETN-low、NPM1-high+LETN-highの4組にさらに分ける時に、NPM1及びLETNがいずれも高発現している患者は、その生存期間が、NPM1及びLETNがいずれも低発現している患者よりも大幅に低いことが発見された。
【0028】
【
図4】
図4におけるA乃至Dに示す結果は、LETNの様々なノックダウンおよび過剰発現の効率を示している。 Aに示すのは、siRNAにより5種類の細胞系に対してLETNノックダウンを行い、RT-qPCRによりノックダウン効率を検出したことである。Bに示すのは、レンチウイルスshRNAにより2種類の細胞系に対してLETNノックダウンを行い、RT-qPCRによりノックダウン効率を検出したことである。Cに示すのは、CRISPR-Cas9技術によりLETNノックアウトを行い、RT-qPCRによりノックダウン効率を検出したことである。Dに示すのは、レンチウイルス過剰発現システムにより2種類の細胞系に対してLETN過剰発現を行い、RT-qPCRにより過剰発現の効率を検出したことである。
【0029】
【
図5】
図5は、対応するlncRNAをノックダウンした後、肝臓癌細胞株HUH7の増殖への影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明を実施するための形態
本明細書で使用される用語は、特に断りのない限り、当業者に理解される通常の技術的意味を有する。当技術分野における定義および用語については、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Press, Plainsview, New York (1989); およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47), John Wiley & Sons, New York (1999)を参照することが、当業者には特に推奨される。
【0031】
用語「長鎖ノンコーディングリボ核酸(英語:long non-coding RNAs,lncRNAと略称する)」とは、タンパク質をコードしていない200塩基より長い転写産物である。
【0032】
用語「lncRNA RP11-196G18.22」又は「LETN」とは、Ensembl登録番号がENST00000564237.1である遺伝子、及びこの遺伝子から転写されたmRNAである。これは、タンパク質をコードしていない遺伝子であるため、タンパク質産物が存在しない。本発明では、その配列はSEQ ID NO:1で表されてもよい(下記に示す)。本発明は、さらに上記遺伝子に存在する可能性があるノンコーディングエクソンにおける変異を考慮し、これらの変異は対応する転写産物に属すると考えられ、即ち、別に説明しない限り、用語「lncRNA RP 11-196G 18.22」又は「LETN」は異なるアイソフォームをカバーする。
【0033】
【化1】
【化2】
【化3】
(SEQ ID NO:1)
【0034】
lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現について、その2つレベルの発現、即ちDNAレベルの発現、RNAレベルの発現を指す。
【0035】
用語「過剰発現」とは、遺伝子の発現(転写)の厳密な制御が乱される時に、遺伝子が適切に「オフ」されない可能性があり、又は高速度で転写される可能性があることを指す。高速転写によって大量のmRNAが発生する。本発明の「lncRNA RP11-196G18.22」又は「LETN」の過剰発現にとって、そのDNA又はRNAの発現レベルは、対照(正常又は健康組織/細胞)よりも少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、200%又は300%高く、さらに対照におけるLETNの発現レベルの4、5、6、7、8、9、10倍以上であるという意味である。
【0036】
遺伝子発現レベルを検出するための技術及び試薬は当業者に公知されているものである。本発明において、好ましくは該試薬はlncRNA RP 11-196G 18.22に特異的なプローブ(好ましくは核酸プローブであり、検出標識付き、一般的に目的遺伝子と相補的である)、遺伝子チップ又はPCR特異的増幅反応に用いられるPCRプライマーから選択される。
【0037】
用語「lncRNA RP11-196G18.22(LETN)発現を低減又は抑制する」とは、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現レベルを、元の発現レベルの80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、15%以下又は10%以下、例えば5%以下、2%以下、1%以下又は0%に低下させるという意味である。一実施形態において、遺伝子ノックアウト又はノックダウンにより、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制することができる。
【0038】
用語「ノックアウト(knock out)」とは、外来性の変異遺伝子を相同組換えにより内在性の正常な相同遺伝子と置き換えることで、内在性遺伝子を不活性化し、変異形質を発現させる遺伝子工学的手法を指す用語である。
【0039】
用語「ノックダウン(knock down)」とは、相同配列を持つ標的遺伝子のmRNAを分解することにより、遺伝子の発現を阻害することを指す用語である。低分子二本鎖RNAを用いて、細胞内の相同mRNAを効率的かつ特異的に分解することで、生体内で標的遺伝子の発現を阻害し、細胞に標的遺伝子が存在しない表現型を与えるものである。これは、遺伝子ノックアウトによる標的遺伝子の発現を永久にサイレンシングすることと異なるが、相同配列を持つ標的遺伝子のmRNAを分解することで遺伝子発現をブロックする効果を得るものである。
【0040】
遺伝子ノックアウト又はノックダウンの技術は、当分野で公知されるもので、レトロウイルス遺伝子が伝達され、例えば点変異、挿入、削除、フレームシフト、又はミスセンス変異などの変異を生じることを含むが、これらに限られない。遺伝子をノックアウトすることができる他の方式としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用する。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)とは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインと、DNA切断ドメインとを融合することによって生じる人工的な制限酵素である。ジンクフィンガードメインを改良して標的DNA配列を標的にすることができ、これは、ジンクフィンガーヌクレアーゼが複雑なゲノムにおける独特の配列を標的にするようにできる。遺伝子のノックアウトに利用可能な他のゲノムカスタマイズ技術は、TALエフェクターヌクレアーゼ(TALENs)を有する。他の技術は、ゲノム編集技術CRISPR/Casシステムであり、それがRNA誘導のゲノム改良を実現するために用いられることができる。
【0041】
「lncRNA RP11-196G18.22(LETN)発現を低減又は抑制する」ことを実現する技術は、Gapmer、アンチセンスRNA、siRNA、esiRNA、shRNA、miRNA又はRNAアプタマーの使用を更に含んでもよい。
【0042】
「アンチセンスRNA」とは、mRNAと相補的なRNA分子で、他のRNAと相補的なRNA分子も含む。リボソームは二本鎖RNAを翻訳できないため、アンチセンスRNAがmRNAと特異的に相補的に結合し、当該mRNAの翻訳が抑制される。例えば、発現プラスミドとしてアンチセンスコンストラクトを配達することができ、前記発現プラスミドが細胞で発現される場合に、細胞lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の少なくとも1つの独特部分と相補的なRNAを生成する。
【0043】
アンチセンスRNA策略の他の特殊形式はGapmerである。Gapmerは、キメラアンチセンスオリゴヌクレオチドで、RNAse H切断を十分に誘導する長さを有するデオキシヌクレオシドの中央セグメント(central block)を含む。Gapmerの設計及び合成は、当業者に公知され、且つ商業会社(例えば、Exiqon、Isis pharmaceuticals)によって完成される。
【0044】
「低分子干渉RNA(siRNA)」は、短干渉RNAまたはサイレンシングRNAと呼ばれることもあり、RNA干渉(RNAi)経路を通じて機能する、長さ約20~25塩基対の二本鎖RNA分子の一種である。siRNAと相補的な塩基配列を発現する特定遺伝子のmRNAの転写後分解を阻害し、翻訳を阻害するものである。本発明のsiRNAは、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の標的配列中の約19~25個の連続したヌクレオチドの任意の領域を標的とすることができ、その例は本出願に提供されている。siRNAの標的配列を選択するための技術は、当技術分野でよく知られている。
【0045】
「ショートヘアピンRNA」(short hairpin RNA,shRNAと略称する)とは、RNA干渉(RNAi)により遺伝子発現を抑制することができる、2つの短い逆方向反復配列からなるRNA配列のことである。
【0046】
「esiRNA」の英語全名は、Endoribonuclease-prepared siRNAsであり、大腸菌のRNAse III(1種類のリボヌクレアーゼ)により長い二本鎖RNA(dsRNA)を切断して生成されたsiRNA混合物であり、長さが18~25bpで、標的遺伝子の発現量を効率的にノックダウンすることができる。
【0047】
本発明は、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)が腫瘍マーカー及び治療ターゲットとして用いられることができるという予期せぬ発見に基づくものである。従って、本発明で、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)発現レベルを検出する試薬の、癌の診断薬又は診断キットの製造における使用が提供される。本発明で、lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の発現を低減又は抑制する薬剤の癌治療薬の製造における使用がさらに提供される。また、本発明で、候補化合物がlncRNA RP11-196G18.22(LETN)発現を低減又は抑制することができるか否かを特定するステップを含む抗癌剤をスクリーニングする方法がさらに提供される。
【0048】
本発明は、下記の実施例でさらに説明される。これらの実施例は例示のためだけであり、本発明の範囲を限定するものではない。以下の反応で使用される化学物質は、特に指定しない限り、いずれも購入可能な製品である。
【0049】
本発明で、unpaired student's t-testを統計分析として使用する。Microsoft Excelを用いて統計学計算を行う。P<0.05である時に、P値は有意である。
【実施例】
【0050】
実施例1 lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の
スクリーニング
肝細胞癌(LIHC)において、癌ゲノムアトラス(TCGA)のデータ(
https://www.cancer.gov/about-nci/organization/ccg/research/structural-genomics/tcga)を利用してlncRNAに対して機能調査を行い、本実験室の設計したアルゴリズムにより、調節転写因子及びその標的遺伝子機能を有するlncRNAを予測した。調節対数の多少、癌とパラ癌(para-carcinoma)が発現相違があるか否か、及びゲノムコピー数変異という3つの要因から、総合的に
スクリーニングして最終的に22本のlncRNAs(UBE2SP2,BMS1P8,RP11-443P15.2,LINC01296/DUXAP10,LL22NC03-N14H11.1,RP11-284F21.10,DUXAP8,CRNDE,CTD-2227E11.1,LINC00853,LINC00665,RP11-196G18.22,GOLGA2P7,RP11-14N7.2,PVT1,LINC00511,RP11-396C23.2,MIR4435-2HG,AL450992.2,HCG25,PCAT6,LINC00152)を選択した。いくつかの非特異的配列のlncRNA(その配列は完全に遺伝子のエクソン内に位置し、機能的に検証するための特異的なsiRNAを設計することができない)を除去して、16本のlncRNAsが残り、次に実験によりこれらのlncRNAについて表型検証を行った。具体的に、これらのlncRNAsに特異的なsiRNAを設計し(下記表1参照)、リポソームLipofectamine 2000 (Thermo Fisher,11668019)により、肝臓癌細胞系HUH7(中科院上海セルバンク)のトランスフェクションを行い、対応するlncRNAをノックダウンした後に細胞増殖への影響を検出した結果(
図5参照)、7本のlncRNA(DUXAP8、PCAT6,LINC00511、LINC00152、RP11-198G18.22、PVT1、CRNDE、
図5の右側7本のlncRNA)のみHUH7細胞の増殖を抑制することができるが、このうち現在研究されていないlncRNAはわずか1つであった。このlncRNAは、lncRNA RP11-196G18.22(LETNと命名する)であり、また、以前にアルゴリズム予測で同定したそれによって制御される転写因子や標的遺伝子の数が最も多いlncRNAであり、肝臓癌の発生及び進行において幅広く強力な制御能を持つ可能性が示唆された。これらの知見に基づき、TCGAデータベースの肝臓癌とパラ癌におけるLETNの発現を解析したところ、肝臓癌組織ではパラ癌組織よりもLETNの発現が非常に高いことがわかった。これを他の癌組織に拡張したところ、ほとんどの癌でLETN発現がパラ癌組織よりも高いことがわかった(
図1,A)。
【0051】
【0052】
実施例2 lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の細胞レベル研究
HUH7(中科院上海セルバンク)とSMMC-7721(中科院上海セルバンク)の2種類の肝臓癌細胞系を選択し、LETNに対してsiRNAノックダウン(siRNAプライマーは下記に示す)を行うことにより、(細胞を35mmペトリ皿に接種し細胞接着後にトランスフェクションを行い、250ml培地を取って、それぞれ2ulリポソームLipofectamine 2000 (Thermo Fisher,11668019)及び20nMのsiRNAを希釈し、その後、それをよく混ぜ、20分間インキュベートし、その後、それを細胞含有ペトリ皿内にゆっくり滴って、48時間後に、RT-qPCR(プライマー対配列は下記の表2を参照)によりノックダウンレベルを検出し、ノックダウン効率について
図4、Aを参照し、LETNのノックダウンが細胞の増殖を明らかに低下させることができる(
図1,C)ことが発見された(siNC及びsiLMNAは2種類の異なる陰性対照であり、オフターゲットを防止するために、LETNに対して、2つのノックダウンsiRNA、即ちsiLETN-1及びsiLETN-2を設計した)。
【0053】
siLETN-1 センス 5'-3' GCUGUCUCCAUGUCUUCUU (SEQ ID NO: 34)
アンチセンス 5'-3' AAGAAGACAUGGAGACAGC (SEQ ID NO: 35)
siLETN-2 センス 5'-3' GCUCUCUGCUCAAGUAUUA (SEQ ID NO: 36)
アンチセンス 5'-3' UAAUACUUGAGCAGAGAGC (SEQ ID NO: 37)
siNC(陰性対照) センス 5'-3' ACGUGACACGUUCGGAGAA (SEQ ID NO: 38)
アンチセンス 5'-3' UUCUCCGAACGUGUCACGU (SEQ ID NO: 39)
siLMNA センス 5'-3' AUCUCAUCCUGAAGUUGCUUC (SEQ ID NO: 40)
アンチセンス 5'-3' GAAGCAACUUCAGGAUGAGAU (SEQ ID NO: 41)
【0054】
【0055】
クローン形成を検出するには2週間の連続ノックダウンが必要
であるため、LETNノックダウンの安定細胞株を構築した(方法の詳細について実施例3を参照)。RT-qPCRにより(プライマー対配列は下記の表3を参照)ノックダウンレベルを検出し、ノックダウン効率は
図4,Bを参照し、LETNのノックダウンが細胞のクローン形成を明らかに低下することができる(
図1,D,E)ことが発見された。shNCは、陰性対照組である。
【0056】
【0057】
また、CRISPR-Cas9技術によりLETNノックアウトを行い(細胞を35mmペトリ皿に接種し細胞接着後にトランスフェクションを行い、250ml培地を取って、それぞれ2ulリポソームLipofectamine 2000 (Thermo Fisher,11668019)及び2ug px458-sgRNAプラスミド(px458(Addgene,catalog no.48138)プラスミドを元にsgLETN配列を加入し、具体的な方法について文献[5]参照)を希釈し、その後、それをよく混ぜて、20分間インキュベートし、その後、それを細胞含有ペトリ皿内にゆっくり滴って、48時間後に、RT-qPCRによりノックダウンレベルを検出し、ノックダウン効率について
図4,Cを参照。細胞の増殖を明らかに抑制することが発見された(
図1,B)。
【0058】
sgLETN-1 センス 5'-3' TCAAATTTCAGTCGGAACTC (SEQ ID NO: 70)
sgLETN-2 センス 5'-3' GAGACGATATGCTACGGGTG (SEQ ID NO: 71)
sgEV-1 センス 5'-3' GAACGTTGGCACTACTTCAC (SEQ ID NO: 72)
sgEV-2 センス 5'-3' GCGCCTTAAGAGTACTCATC (SEQ ID NO: 73)
【0059】
逆に、それに対してLETN過剰発現を行い(細胞を35 mmペトリ皿に接種し細胞接着後にトランスフェクションを行い、250ml培地を取って、それぞれ2ulリポソームLipofectamine 2000 (Thermo Fisher,11668019)及び2ug LETN過剰発現プラスミドplv-LETN(無錫青蘭生物科技有限公司によって構築され、発現プラスミドがplv-mCherry, catalog no.36084である)を希釈し、その後、それをよく混ぜて、20分間インキュベートし、その後、それを細胞含有ペトリ皿内にゆっくり滴って、48時間後に、RT-qPCRによりその過剰発現の効率を検出した(
図4,Dを参照)。細胞の増殖及びクローン形成を促進することが発見された(
図1,F、G)。
【0060】
その後、肺癌細胞系HCC827(ATCC
(登録商標)
CRL-2868)及び前立腺癌細胞系DU145(ATCC
(登録商標)
HTB-81)、PC3(ATCC
(登録商標)
CRL-1435)をさらに選択し、類似な効果が発見され、siRNAを用いてLETNをノックダウンした後(方法は先に肝臓癌細胞系HUH7における操作と同じであり、ノックダウン効率は
図4,Aを参照)、細胞の増殖速度は明らかに弱くなり、クローン形成能力も破壊された(
図1,C)。
【0061】
実施例3 lncRNA RP11-196G18.22(LETN)の動物レベル研究
さらに、LETNの腫瘍細胞の腫瘍形成能力への影響を研究した。まず、ウイルスでパッケージされたshRNAにより、LETNノックダウンの安定細胞株を構築した(shRNA配列は表3を参照。まず、ウイルスパッケージングし、293T細胞(中科院上海セルバンク)を100mm平皿に接種し、2日目トランスフェクションを行い、1ml培地を取って12ulリポソームLipofectamine 2000 (Thermo Fisher,11668019)を希釈し、1ml培地を取ってパッケージングベクター7.1ugΔ8.9(清華大学ライブラリプラットフォーム)及び3.55ug VSVG(清華大学ライブラリプラットフォーム)、並びに発現ベクター3ug plv-LETNを希釈し、その後、それをよく混ぜて、20分間インキュベートし、その後、それを細胞含有ペトリ皿内にゆっくり滴って、培地を加えて10mlまで補い、48時間後に上清を回収し、3000rpmで10分間遠心分離し、この上清はウイルス液であり、後で使用するために-80°Cで保存。LETNノックダウン細胞株の構築について、まず細胞を35mmペトリ皿に接種し、2日目500ulウィルス液を加え、培地を加えて2mlまで補い、48時間後にピューロマイシンを添加してウイルスが発現されていない細胞を除去し、ピューロマイシンを3日に1回添加し、このようにして必要な安定細胞株を取得した)、LETNノックダウンHUH7細胞系(RT-qPCRによりそのノックダウン効率を検出し、ノックダウン効率は
図4,Bを参照)を、無胸腺のヌードマウス(BALB / cヌードマウス、オス、清華大学動物センター)の皮下に注入し、5週間の培育の後、腫瘍ブロックのサイズをバーニアキャリパーで毎週測定した。腫瘍を取り出してその重量及び体積を測定した結果、LETNノックダウン細胞で形成された腫瘍ブロックは対照組よりも明らかに小さく、その腫瘍の体積及び重量は対照組よりも大幅に小さいことが発見された(
図1,H)。対応に、HUH7を選択してLETN過剰発現の安定細胞株を構築し、上記無胸腺ヌードマウスの皮下に注入し、5週間育成した後、同じ操作処理が行われた結果、LETN過剰発現の細胞で形成された腫瘍ブロックは対照組よりも明らかに高く、その腫瘍の体積及び重量も対照組の腫瘍よりも大幅に大きいことが発見された(
図1,I)。要するに、細胞増殖、クローン形成、及び皮下腫瘍形成等の腫瘍指標により詳細な実験検証を行い、lncRNA LETNが、肝臓癌の発生及び進行を抑制する顕著な機能を有し、潜在的な治療ターゲットであると考えられる。
【0062】
実施例4 LETNの作用メカニズムの探求
まず、RNAインサイチュハイブリダイゼーション[6]及び細胞核細胞質分離技術(Nuclear/Cytosol Fractionation Kit (Biovision,K266-25)) により、鑑定して、LETNが主に細胞核内に位置し、且つクラスターを形成していることが発見された。LETNがタンパク質と結合することにより機能する可能性が高いことが示唆される。RNA pull downにより、プルダウンされたタンパク質を質量分析して、LETNと互いに作用するタンパク質を見つけて、最終的に、NPM1がそれと結合される機能タンパク質であることを見つけた。その後、RNA pull down技術[7]により、NPM1抗体Anti-NPM1 (Abcam,ab10530)を利用してプルダウンを行い、NPM1が確かにlncRNA LETNをプルダウンすることができることも発見された。細胞蛍光共局在実験も、さらにLETNとNPM1が互いに結合し核小体内に位置することを証明した。
【0063】
NPM1は、非常重要な核小体機能タンパク質であり、rDNA プロモーターと結合しrDNA転写を促進したり、rRNA剪切成熟に参与したり、ヒストンに結合してヌクレオソームアセンブリに参与したりすることができる。LETNが確かにこれらの機能に参与することが発見され、LETNノックダウン後に各種rRNAの発現が明らかに低下し、過剰発現のLETNがrRNAの発現を促進することができる。また、LETNのノックダウンも、NPM1とヒストンとの結合能力を弱くし、さらに、ヌクレオソームのアセンブリを影響することができる。核小体は、内側から順に、繊維状中心部、高密度繊維状部、顆粒部の3つの基本構造成分で構成されている。NPM1は主に最外層に位置し、顆粒部の最も重要な組成部分であり、NPM1をノックダウンすると、核小体の形態が破壊される研究がある。
【0064】
LETNをノックダウンすると、規則正しく密集した丸い球形をしていた核小体が不規則に散らばることがわかり、LETNは核小体の構造にも影響を与えていることがわかった。当方のアルゴリズムにより、TCGAデータベースにおける肝臓癌患者の臨床資料に対して生存期分析を行い、単独してLETNの高発現組及び低発現組又はNPM1の高発現組及び低発現組に分けると、NPM1又はLETNの高発現組患者の予後生存期間が低発現組患者よりも短く、続いてNPM1-low+LETN-low、NPM1-low+LETN-high、NPM1-high+LETN-low、NPM1-high+LETN-highの4組にさらに分ける時に、NPM1、LETNともに高発現の患者は、NPM1、LETNともに低発現の患者に比べて生存期間が非常に短いことがわかった。
本発明は、上記実施形態を参照して具体的に説明されているが、本発明はこれらの特定の実施形態に限定されないことは、当業者には理解されるはずである。本明細書で教示された方法および技術的解決策に基づいて、当業者は、本発明の精神から逸脱することなく適切な修正または改良を行うことができ、その結果得られる同等の実施形態は本発明の範囲内である。
【0065】
参照文献
1. Schmitt AM, Chang HY: Long Noncoding RNAs in Cancer Pathways. Cancer Cell 2016, 29(4):452-463.
2. Bray F, Ferlay J, Soerjomataram I, Siegel RL, Torre LA, Jemal A: Global cancer statistics 2018: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 36 cancers in 185 countries. CA: A Cancer Journal for Clinicians 2018, 68(6):394-424.
3. Scudellari M: Drug development: Try and try again. Nature 2014, 516:S4.
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【配列表】