(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20231220BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
(21)【出願番号】P 2019046394
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-115870(JP,A)
【文献】特開2003-008396(JP,A)
【文献】特開2007-165848(JP,A)
【文献】特開2015-216525(JP,A)
【文献】特開2006-067258(JP,A)
【文献】特開平03-165116(JP,A)
【文献】特開2012-015767(JP,A)
【文献】特開2015-126381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
H03H 3/08ー3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板である支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、粗面領域において前記支持基板との間に算術平均粗さが10nm以上である第1面が設けられ、前記粗面領域を囲み前記支持基板の側面に沿った領域を少なくとも含む平坦領域において前記支持基板との界面である第2面の算術平均粗さは1nm以下である絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられた圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、平面視において少なくとも一部が前記粗面領域に重なる一対の櫛型電極と、
を備え、
前記支持基板の側面には前記支持基板の構成元素を主成分としアモルファス
または多結晶である複数の改質領域が平面方向に設けられている弾性波デバイス。
【請求項2】
多結晶基板または単結晶基板である支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、粗面領域において前記支持基板との間に算術平均粗さが10nm以上である第1面が設けられ、前記粗面領域を囲み前記支持基板の側面に沿った領域を少なくとも含む平坦領域において前記支持基板との界面である第2面の算術平均粗さは1nm以下である絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられた圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、平面視において少なくとも一部が前記粗面領域に重なる一対の櫛型電極と、
を備え、
前記支持基板の側面には前記支持基板の構成元素を主成分としアモルファスである
複数の改質領域が平面方向に設けられている弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第1面は前記支持基板と前記絶縁層との界面である請求項1
または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記粗面領域において前記支持基板と前記絶縁層との間に複数の島状に設けられた付加膜を備え、
前記第1面は前記付加膜および前記支持基板と前記絶縁層との界面を含む請求項1
または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記絶縁層および前記圧電基板は透光性を有する請求項1から
4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記支持基板は単結晶基板である請求項1から
5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項9】
支持基板と、前記支持基板上に設けられ、複数の粗面領域において前記支持基板との間に算術平均粗さが10nm以上である第1面が設けられ、前記複数の粗面領域を各々囲む平坦領域において前記支持基板との界面である第2面の算術平均粗さは1nm以下であり、前記平坦領域は少なくとも格子状に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられた圧電基板と、を備え、前記圧電基板上に少なくとも一部が前記粗面領域に重なる一対の櫛型電極が設けられた複合基板における前記平坦領域に前記圧電基板側からレーザ光を照射し前記支持基板内に改質領域を形成する工程と、
前記改質領域に沿って前記複合基板を割断する工程と、
を含む弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサに関し、例えば櫛型電極を有する弾性波デバイスおよびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電基板を支持基板に接合することが知られている。支持基板の上面を粗面とすることが知られている(例えば特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-115870号公報
【文献】米国特許第10020796号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2のように、支持基板の上面を粗面化することで、スプリアス等が抑制される。しかしながら、弾性波デバイスをチップ化するときに、チッピングまたはクラック等が形成される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、適切にチップ化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、単結晶基板である支持基板と、前記支持基板上に設けられ、粗面領域において前記支持基板との間に算術平均粗さが10nm以上である第1面が設けられ、前記粗面領域を囲み前記支持基板の側面に沿った領域を少なくとも含む平坦領域において前記支持基板との界面である第2面の算術平均粗さは1nm以下である絶縁層と、前記絶縁層上に設けられた圧電基板と、前記圧電基板上に設けられ、平面視において少なくとも一部が前記粗面領域に重なる一対の櫛型電極と、を備え、前記支持基板の側面には前記支持基板の構成元素を主成分としアモルファスまたは多結晶である複数の改質領域が平面方向に設けられている弾性波デバイスである。
【0007】
本発明は、多結晶基板または単結晶基板である支持基板と、前記支持基板上に設けられ、粗面領域において前記支持基板との間に算術平均粗さが10nm以上である第1面が設けられ、前記粗面領域を囲み前記支持基板の側面に沿った領域を少なくとも含む平坦領域において前記支持基板との界面である第2面の算術平均粗さは1nm以下である絶縁層と、前記絶縁層上に設けられた圧電基板と、前記圧電基板上に設けられ、平面視において少なくとも一部が前記粗面領域に重なる一対の櫛型電極と、を備え、前記支持基板の側面には前記支持基板の構成元素を主成分としアモルファスである複数の改質領域が平面方向に設けられている弾性波デバイスである。
【0008】
上記構成において、前記第1面は前記支持基板と前記絶縁層との界面である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記粗面領域において前記支持基板と前記絶縁層との間に複数の島状に設けられた付加膜を備え、前記第1面は前記付加膜および前記支持基板と前記絶縁層との界面を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記絶縁層および前記圧電基板は透光性を有する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記支持基板は単結晶基板である構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0013】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【0015】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられ、複数の粗面領域において前記支持基板との間に算術平均粗さが10nm以上である第1面が設けられ、前記複数の粗面領域を各々囲む平坦領域において前記支持基板との界面である第2面の算術平均粗さは1nm以下であり、前記平坦領域は少なくとも格子状に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられた圧電基板と、を備え、前記圧電基板上に少なくとも一部が前記粗面領域に重なる一対の櫛型電極が設けられた複合基板における前記平坦領域に前記圧電基板側からレーザ光を照射し前記支持基板内に改質領域を形成する工程と、前記改質領域に沿って前記複合基板を割断する工程と、を含む弾性波デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、適切にチップ化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1における支持基板の表面の平面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その4)であり、
図6(c)は、複合基板の側面図である。
【
図7】
図7は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す平面図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図10】
図10は、比較例におけるサンプルAからBのアドミッタンスを示す図である。
【
図13】
図13は、実施例2の変形例1に係るフィルタの平面図である。
【
図14】
図14は、実施例2の変形例2に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、実施例1における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電基板の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電基板の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電基板が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に絶縁層11が設けられている。絶縁層11上に圧電基板12が設けられている。支持基板10と絶縁層11との間に粗面30が設けられている。粗面30が設けられている領域は粗面領域50であり、支持基板10と絶縁層11との界面が平坦面31である領域は平坦領域52である。平坦領域52は粗面領域50を囲むように設けられている。粗面領域50では、平坦な支持基板10と絶縁層11との間に付加膜32が設けられている。これにより、絶縁層11の下面は粗面30となる。粗面30の算術平均表面粗さRaは平坦領域52における平坦面31の算術平均表面粗さRaより大きい。
【0021】
図2は、実施例1における支持基板の表面の平面図である。
図2に示すように、支持基板10の上面は、粗面領域50と粗面領域50を囲う平坦領域52が設けられている。平坦領域52は支持基板10を切断する切断領域(ダイシングライン)を含むように形成されている。粗面領域50には付加膜32が複数の島として設けられている。粗面領域50には付加膜32に開口が複数設けられていてもよい。付加膜32の複数の島または開口の形状は四角以外にも多角形状、円形状、楕円形状、または不規則な形状でもよい。
【0022】
図1(a)および
図1(b)に戻り、粗面領域50内の圧電基板12上に弾性波共振器20が設けられている。弾性波共振器20はIDT(Inter Digital Transducer)22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電基板12上の金属膜14により形成される。
【0023】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極18を備える。櫛型電極18は、複数の電極指15と、複数の電極指15が接続されたバスバー16と、を備える。一対の櫛型電極18の電極指15が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極18は、交差領域25の少なくとも一部において電極指15がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。交差領域25において複数の電極指15が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極18のうち一方の櫛型電極の電極指15のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。弾性波の波長λはほぼ電極指15の2本分のピッチとなる。反射器24は、IDT22の電極指15が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0024】
圧電基板12は、単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)基板、単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)基板または単結晶水晶基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である。絶縁層11は、例えば酸化シリコン(SiO2)を主成分とする。絶縁層11は、酸化シリコンを主成分とし、弗素等の不純物を含んでいてもよい。絶縁層11の弾性定数の温度係数の符号は圧電基板12の弾性定数の温度係数の符号の反対である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。
【0025】
支持基板10は、圧電基板12のX方向の線膨張係数より小さな線膨張係数を有する。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。支持基板10は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、シリコン基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板はr面、c面またはa面を上面とする単結晶酸化アルミニウム(Al2O3)基板である。アルミナ基板は多結晶酸化アルミニウム(Al2O3)基板である。スピネル基板は単結晶または多結晶スピネル(MgAl2O4)基板である。シリコン基板は単結晶または多結晶シリコン(Si)基板である。炭化シリコン基板は単結晶または多結晶炭化シリコン(SiC)基板である。
【0026】
金属膜14は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜であり、例えばアルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜である。電極指15と圧電基板12との間にチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指15より薄い。電極指15を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償層として機能する。
【0027】
付加膜32は、例えば金、銅、銀、モリブデン、アルミニウム、チタンまたはクロム等の金属膜、窒化シリコン、酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウム等の無機絶縁膜、または樹脂等の有機絶縁膜である。
【0028】
支持基板10の厚さは例えば50μmから500μmである。絶縁層11の厚さは、例えば0.5μmから10μmであり、例えば弾性波の波長λ以下である。圧電基板12の厚さは例えば0.5μmから20μmであり、例えば弾性波の波長λ以下である。弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指15を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、電極指15の太さ/電極指15のピッチであり、例えば30%から80%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0029】
[実施例1の製造方法]
図3(a)から
図6(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、表面が平坦な支持基板10を準備する。支持基板10の表面の算術平均粗さは例えば1nm以下である。
図3(b)に示すように、支持基板10上に付加膜32を形成する。付加膜32上に開口を有するマスク層38を形成する。平坦領域52となる領域はマスク層38の開口であり、粗面領域50となる領域にマスク層38およびその開口が形成される。マスク層38は例えばフォトレジストである。矢印39のように、マスク層38をマスクに付加膜32をエッチング法またはサンドブラスト法を用いパターニングする。
図3(c)に示すように、平坦領域52には付加膜32は残存せず、粗面領域50に付加膜32の凸部が形成される。凸部の断面形状は
図1(b)のように錘状でもよいし、
図3(c)のように柱状でもよい。
【0030】
図4(a)に示すように、支持基板10上に付加膜32を覆うように絶縁層11を例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法または真空蒸着法を用い形成する。粗面領域50において支持基板10および付加膜32と絶縁層11との間に粗面30が形成される。平坦領域52において支持基板10と絶縁層11との間に平坦面31が形成される。
図4(b)に示すように、絶縁層11の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。
図4(c)に示すように、接合層13を介し絶縁層11の上面に圧電基板12を接合する。接合層13は例えば酸化アルミニウム層、窒化アルミニウム層、ダイヤモンドライクカーボン層、炭化シリコン層、窒化シリコン層またはシリコン層である。接合層13の厚さは例えば1nmから100nmである。接合層13を介さず絶縁層11と圧電基板12とを接合してもよい。接合には例えば表面活性化法を用いる。
【0031】
図5(a)に示すように、圧電基板12の上面を例えばCMP法を用い平坦化する。これにより、支持基板10、絶縁層11および圧電基板12を有する複合基板62が形成される。圧電基板12の上面に金属膜14からなる弾性波共振器20を形成する。
図5(b)に示すように、平坦領域52に含まれる切断領域にレーザ光33を圧電基板12の上方から照射する。これにより、支持基板10内に改質領域34を形成する。改質領域34は例えば支持基板10が溶融しアモルファスおよび/または多結晶となった領域である。改質領域34は支持基板10の構成元素からなる。レーザ光33は例えばNd:YAGレーザの第2高調波であり、レーザ光33の波長は例えば532nmであり、例えば500nmから600nmである。レーザ光は可視光、紫外線または赤外線でもよい。レーザ光33のパワーは例えば0.01Wである。
【0032】
図6(a)に示すように、支持基板10の下面(
図6(a)では上面)をダイシングフィルム35に貼り付ける。ダイシングフィルム35を介しブレーク刃を支持基板10に押し付ける。
図6(b)に示すように、支持基板10は改質領域34において割断され、支持基板10が個片化(チップ化)される。これにより、実施例1の弾性波デバイスが形成される。
図6(c)は、実施例1における複合基板の側面図である。
図6(c)に示すように、
図5(b)において、レーザ光33をパルス光とし、一定の速度で走査した場合、支持基板10の側面には平面方向に配列する複数の改質領域34が露出する。改質領域34の大きさD1は例えば1μmから10μmであり、改質領域34の平面方向の間隔D2は例えば改質領域34の大きさの1.5倍から5倍程度である。
【0033】
図7は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す平面図である。
図7に示すように、
図3(b)において、支持基板10からなるウエハ60において、粗面領域50はXYに行列状に設けられ、平坦領域52は粗面領域50の間に格子状に設けられている。平坦領域52はX方向およびY方向に直線に延伸する切断領域55を含む。
図5(b)では、切断領域55内にX方向およびY方向に配列するように改質領域54を形成する。
図6(a)では、切断領域55に沿ってX方向およびY方向にウエハ60を切断する。
【0034】
[実施例1の変形例1]
図8(a)から
図9(b)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図8(a)に示すように、支持基板10上に開口を有するマスク層38を形成する。平坦領域52となる領域はマスク層38であり、粗面領域50となる領域にマスク層38およびその開口が形成される。マスク層38は例えばフォトレジストである。矢印39のように、マスク層38をマスクに支持基板10をエッチング法またはサンドブラスト法を用いパターニングする。
図8(b)に示すように、平坦領域52の上面は平坦であり、粗面領域50に凸部10aと凹部10bが形成される。
【0035】
図9(a)に示すように、支持基板10上に凸部10aおよび凹部10bを覆うように絶縁層11を例えばCVD法、スパッタリング法または真空蒸着法を用い形成する。粗面領域50における支持基板10と絶縁層11との界面に粗面30が形成される。
図9(b)に示すように、その後、実施例1の
図4(b)から
図6(a)と同様の工程を行う。これにより、実施例1の変形例1の弾性波デバイスが形成される。
【0036】
[比較例]
比較例を用い粗面30を設ける理由を説明する。支持基板10と絶縁層11との界面の表面粗さが異なる弾性波共振器を作製した。作製条件は以下である。
支持基板10:サファイア基板
絶縁層11:厚さが0.4λの酸化シリコン膜
圧電基板12:厚さが0.4λの42°回転Yカットタンタル酸リチウム基板
【0037】
各サンプルの支持基板10と絶縁層11との間の界面の算術平均粗さRaは以下である。
サンプルA:約100nm
サンプルB:約10nm
サンプルC:1nm以下(ほぼ鏡面)
【0038】
図10は、比較例におけるサンプルAからBのアドミッタンスを示す図である。
図10に示すように、共振周波数frおよび反共振周波数faより高い周波数帯域にスプリアス59が生成される。スプリアス59は、IDT22が主モードの弾性波を励振するときに同時に励振されたバルク波が支持基板10と絶縁層11との界面で反射することで生成される。サンプルCでは大きなスプリアス59が観察される。サンプルBではスプリアス59が少し小さくなる。サンプルAではスプリアス59はかなり小さくなる。このように、支持基板10と絶縁膜との間に粗面30を設けることで、バルク波は粗面30で散乱され、バルク波に起因するスプリアスを抑制できる。
【0039】
図11(a)から
図11(c)は、比較例における課題を説明する図である。
図11(a)は、比較例に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図11(a)に示すように、レーザ光33を圧電基板12側から支持基板10内に照射するときにレーザ光33が粗面30において散乱される。これにより、支持基板10内に改質領域が形成されにくくなる。レーザ光の波長は数100nmであり、粗面30のRaがスプリアスの抑制に効果がある10nm以上ではレーザ光33が散乱されやすくなる。
【0040】
レーザ光33を支持基板10の下面から照射することも考えられる。しかし、圧電基板12、絶縁層11および支持基板10は透明なため、圧電基板12上に弾性波共振器を形成するプロセスにおいて、ウエハを認識できるように下面を梨地面とする。このため、レーザ光33を支持基板10の下面から照射するためには、支持基板10の下面を鏡面とすることになる。圧電基板12に弾性波共振器を形成した後に、支持基板10の下面を研磨しようとすると支持基板10の厚さのばらつきが大きくなる。これにより、改質領域34の深さがばらついてしまう。よって、レーザ光33は圧電基板12側から支持基板10に照射することが好ましい。
【0041】
図11(b)は、比較例に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図11(b)に示すように、割断する領域に粗面30が存在するため、粗面30の凸部または凹部が起点となり、点線46のように絶縁層11および圧電基板12が斜めに割れることがある。これにより、割れが弾性波共振器20に近づいてしまう。
【0042】
図11(c)は、比較例に係る弾性波デバイスの製造方法を示す平面図である。
図11(c)に示すように、切断領域55において支持基板10を切断するときに、切断領域55に粗面30が存在すると、点線48のように粗面30の凸部または凹部を起点に切断領域55から外れて割れることがある。なお、
図11(b)および
図11(c)の割れは、ステルスレーザダイシングにおいて、
図6(b)のように割断するときに生じやすいが、レーザ光を用いない割断またはダイシングにおいても生じることがある。このように、比較例では、チップ化が難しいことがある。
【0043】
実施例1およびその変形例によれば、
図7のように複数の粗面領域50では支持基板10と絶縁層11との間に粗面30(第1面)が設けられている。平坦領域52は複数の粗面領域50を各々囲んでおり、少なくとも支持基板10の側面に沿った切断領域55を含む。平坦領域52において支持基板10と絶縁層11との界面である平坦面31(第2面)の表面粗さは第1面の表面粗さより小さい。
図5(b)のように、支持基板10、絶縁層11および圧電基板12を備えるウエハ60(複合基板)における平坦領域52に圧電基板12側からレーザ光を照射し支持基板10内に改質領域34を形成する。
図6(a)のように改質領域34に沿ってウエハ60を割断する。これにより、
図11(a)のように、粗面30においてレーザ光33が散乱されることを抑制できる。また、レーザダイシング法を用いない場合であっても
図11(b)および
図11(c)のような割れを抑制できる。このように、適切にチップ化することができる。
【0044】
平面視において一対の櫛型電極18の少なくとも一部が粗面領域50に重なることによりバルク波に起因するスプリアスを抑制できる。一対の櫛型電極18のうち交差領域25が粗面領域50に重なることが好ましい。
【0045】
複合基板62の切断をレーザダイシング法を用いない場合においても
図11(b)および
図11(c)のような割れを抑制できる。レーザダイシング法を用いる場合、圧電基板12、絶縁層11および支持基板10はレーザ光33に対し透光性を有する。
【0046】
ステルスレーザダイシング法を用いるため、支持基板10の側面には支持基板10の構成元素を主成分とする複数の改質領域34が平面方向に設けられる。改質領域34は、レーザ光により溶融しその後固体となった溶融痕であり、支持基板10の結晶構造と異なる結晶構造を有するアモルファスおよび/または多結晶である。
【0047】
実施例1のように、粗面30は、付加膜32と絶縁層11との間の界面を含んでもよく、実施例1の変形例1のように、粗面30は支持基板10と絶縁層11との界面でもよい。
【0048】
スプリアスを抑制するため、粗面30の算術平均粗さRaは、10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。また、粗面30の算術平均粗さRaは、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。レーザ光33の散乱を抑制するため、および割れを抑制するため、平坦面31の算術平均粗さは1nm以下が好ましく、0.5nm以下がより好ましい。粗面30の算術平均粗さは平坦面31の算術平均粗さの10倍以上が好ましく、100倍以上がより好ましい。
【0049】
IDT22がSH(Shear Horizontal)を励振するとき、バルク波が生成されやすい。圧電基板12が36°以上かつ48°以下回転Yカットタンタル酸リチウム基板のとき、SH波が励振される。よって、このとき、粗面30を設けることが好ましい。圧電基板12の厚さが弾性波の波長λ以下のとき、すなわち電極指15のピッチの平均値に2倍以下のとき、損失が抑制される。また、支持基板10の上面から圧電基板12の上面までの距離が電極指15のピッチの平均値に4倍以下のとき、損失が抑制される。
【0050】
弾性波が支持基板10に漏れないように、支持基板10の音響インピーダンスは圧電基板12の音響インピーダンスより高い(すなわち支持基板10の音速は圧電基板12の音速より速い)ことが好ましい。また、絶縁層11内に弾性波が伝搬するため絶縁層11の音響インピーダンスは圧電基板12および支持基板10の音響インピーダンスより低い(すなわち絶縁層11の音速は圧電基板12および支持基板10の音速より遅い)ことが好ましい。粗面30で弾性波を反射させるため、付加膜32の音響インピーダンスは絶縁層11の音響インピーダンスより高い(すなわち付加膜32の音速は絶縁層11の音速より速い)ことが好ましい。
【0051】
平坦領域52を切断領域55を含むように形成すると、平坦領域52は、支持基板10の側面に沿って設けられる。切断領域55の幅は例えば20μmから100μmである。複合基板62を切断した後のチップの側面からの切断領域55の幅は例えば5μmから95μmである。
【実施例2】
【0052】
実施例2は、フィルタの例である。
図12は、実施例2に係るフィルタの平面図である。複合基板62上に弾性波共振器20および配線26が設けられている。配線26上にバンプ28が設けられている。配線26は弾性波共振器20間を電気的に接続する。弾性波共振器20は直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3を含む。バンプ28はバンプB1、B2およびBgを含む。
【0053】
バンプB1は入力端子に電気的に接続されている。バンプB2は出力端子に電気的に接続されている。バンプBgはグランド端子に電気的に接続されている。バンプB1とB2との間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。バンプB1とB2との間に1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。並列共振器P1からP3の一端はバンプBgに接続されている。複合基板62の側面に沿って一定の幅で平坦領域52が設けられ、平坦領域52以外の領域が粗面領域50である。
【0054】
実施例2のように、単一の粗面領域50が複数の弾性波共振器20を含むように設けられていてもよい。
【0055】
[実施例2の変形例1]
図13は、実施例2の変形例1に係るフィルタの平面図である。
図13に示すように、直列共振器S1以外の弾性波共振器20は粗面領域50に設けられ、直列共振器S1は平坦領域52に設けられている。その他の構成は実施例2と同じであり説明を省略する。
【0056】
実施例2の変形例1のように、一部の弾性波共振器は粗面領域50に設けられていなくてもよい。弾性波共振器20の間は平坦領域52でもよい。実施例2および変形例1において、直列共振器および並列共振器の個数は任意に設定できる。ラダー型フィルタを例に説明したが多重モード型フィルタでもよい。
【0057】
[実施例2の変形例2]
図14は、実施例2の変形例2に係るデュプレクサの回路図である。
図14に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2およびその変形例1のフィルタとすることができる。
【0058】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0059】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 支持基板
11 絶縁層
12 圧電基板
13 接合層
15 電極指
18 櫛型電極
20 弾性波共振器
22 IDT
30 粗面
31 平坦面
32 付加膜
33 レーザ光
50 粗面領域
52 平坦領域