IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-チェーン 図1
  • 特許-チェーン 図2
  • 特許-チェーン 図3
  • 特許-チェーン 図4
  • 特許-チェーン 図5
  • 特許-チェーン 図6
  • 特許-チェーン 図7
  • 特許-チェーン 図8
  • 特許-チェーン 図9
  • 特許-チェーン 図10
  • 特許-チェーン 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/06 20060101AFI20231220BHJP
   F16G 5/18 20060101ALI20231220BHJP
   F16H 9/24 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F16G13/06 E
F16G5/18 C
F16G13/06 A
F16H9/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019126268
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011919
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000207425
【氏名又は名称】大同工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大畠 俊和
(72)【発明者】
【氏名】石王 章文
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-077847(JP,A)
【文献】特開2007-051711(JP,A)
【文献】特開2009-063164(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0207368(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/06
F16G 5/18
F16H 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ外プレート及び内プレートを有する第1リンクと第2リンクとを、前記外プレート及び内プレートに形成した1対のピン孔にピンを貫通して交互にかつ無端状に連結してなるチェーンにおいて、
前記ピンの断面形状は、転動面を有する非対称形状からなり、
前記第1リンク及び前記第2リンクは、前記外プレートを幅方向両端に配置し、複数枚の前記内プレートを前記外プレートの間に配置し、
前記第1リンク及び前記第2リンクにおける外プレートの一方のピン孔に前記ピンを固定すると共に内プレートの一方のピン孔に該ピンを一体に回転するように嵌挿し、
前記第1リンク及び前記第2リンクにおける外プレート及び内プレートの他方のピン孔に前記ピンの転動面を転動自在に嵌挿し、
前記第1リンク及び前記第2リンクの外プレートは、同じ形状からなり、
前記第1リンク及び前記第2リンクの内プレートは、同じ形状からなり、
前記外プレート及び前記内プレートの他方のピン孔は、一方側が円弧面からなり、他方側が前記ピンの転動面に転動する転動域からなる概ね半円形状からなる、
ことを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記ピンの両端面は、無段変速装置のVプーリのシーブに当接する傾斜面からなる、
請求項1記載のチェーン。
【請求項3】
前記ピンの断面形状は、一方側が所定半径の円弧面であり、前記転動面である他方側が前記所定半径より大きな半径からなる円弧面である概ね半円形状からなり、
前記外プレート及び前記内プレートにおける他方のピン孔の前記転動域である他方側が直線形状である、
請求項1又は2記載のチェーン。
【請求項4】
前記外プレート及び前記内プレートにおける前記他方のピン孔の転動域である他方側が、チェーンの外径方向に向って拡がるように傾斜してなり、
前記他方のピン孔の転動域である他方側は、チェーンの直線状態におけるピン転動面との接触位置に対して前記チェーンの内径側に比して外径側が広い、
請求項1乃至のいずれか1項記載のチェーン。
【請求項5】
前記外プレート及び前記内プレートの前記他方のピン孔側の危険断面長さは、前記チェーンの外径側に比して内径側が長い、
請求項記載のチェーン。
【請求項6】
前記第1リンク及び前記第2リンクにおける前記外プレートの一方のピン孔は、前記ピンを圧入して固定してなる、
請求項1ないしのいずれか1項記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンクプレートからなる第1及び第2リンクをピンにより交互に連結したチェーンに係り、特にベルト式無段変速装置(CVT)に用いて好適なチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、チェーン1は、図11に示すように、両端部に円形のピン孔2,2を有するリンクプレート3からなる第1及び第2リンク5,6をピンを介して交互に連結して無端状に形成されており、ピンの両端をVプーリのシーブに当接して、CVT用チェーンとして用いられる。第1及び第2リンク5,6の同列のリンクプレート3,3同士は、所定隙間を在して整列しており、このためリンクプレートの危険断面長さAは、チェーンピッチPからピン孔径Dを引いた距離の半分以下となる[A<(P-D)/2]。
【0003】
CVT用チェーンにあって、ピン(クレードル部材)の断面形状を左右非対称として、該ピンの転動面とリンクプレート(リンクエレメント)のピン孔の転動域とが転動可能に接触すると共に、上記ピンのシーブへの接触部がピンの中心からずれて形成されるチェーンが提案されている(特許文献1)。該チェーンは、左右のピン孔の転動域が内側面と外側面で異なるリンクプレートを有し、該リンクプレートの左右のピン孔に上記左右非対称のピンを嵌挿して、それぞれ隣接する2つの上記ピンの転動間隔及びピンのシーブとの接触点間の間隔を、3種の長さ(平均、長い、短い)にランダム化して、ピンがシーブに接触することによる騒音の周波数を分散して、低騒音を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-520161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記円形からなるピン孔を有するリンクプレートを備えたチェーン1は、前記危険断面長さAがチェーン伝動能力に対応した値であり、従って該チェーン1のピッチPは、所定値以上に規定される。
【0006】
上記特許文献1のチェーンは、ピンとピン孔との転動面及び転動域の間隔が短いチェーンリンクがあるとしても、リンクプレートの両端部には転動域を有するピン孔が必要であり、リンクプレートの長さは、所定値に規定され、チェーンピッチの低減化には機能しない。
【0007】
そこで、本発明は、チェーンの強度を損うことなくチェーンピッチの低減化を図り、もってチェーンの静音性を向上したチェーンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、それぞれ外プレート(21)及び内プレート(22)を有する第1リンク(19)と第2リンク(20)とを、前記外プレート(21)及び内プレート(22)に形成した1対のピン孔(25,26)にピン(23)を貫通して交互にかつ無端状に連結してなるチェーン(13)において、
前記ピン(23)の断面形状は、転動面(23b)を有する非対称形状からなり、
前記第1リンク(19)及び前記第2リンク(20)は、前記外プレート(21)を幅方向両端に配置し、複数枚の前記内プレート(22)を前記外プレート(21)の間に配置し、
前記第1リンク(19)及び前記第2リンク(20)における外プレート(21)の一方のピン孔(25)に前記ピン(23)を固定すると共に内プレート(22)の一方のピン孔(27)に該ピン(23)を一体に回転するように嵌挿し、
前記第1リンク(19)及び前記第2リンク(20)における外プレート(21)及び内プレート(22)の他方のピン孔(26,29)に前記ピン(23)の転動面(23b)を転動自在に嵌挿し、
前記第1リンク(19)及び前記第2リンク(20)の外プレート(21)は、同じ形状からなり、
前記第1リンク(19)及び前記第2リンク(20)の内プレート(22)は、同じ形状からなり、
前記外プレート(21)及び前記内プレート(22)の他方のピン孔(26)(29)は、一方側(E)が円弧面からなり、他方側(F)が前記ピン(23)の転動面(23b)に転動する転動域からなる概ね半円形状からなる、
ことを特徴とするチェーンにある。
【0009】
例えば図1図5を参照して、前記ピン(23)の両端面は、無段変速装置(CVT)(10)のVプーリ(11,12)のシーブ(14,15)(16,17)に当接する傾斜面(23c)からなる。
【0011】
例えば図5を参照して、前記ピン(23)の断面形状は、一方側(23a)が所定半径(R1)の円弧面であり、前記転動面である他方側(23b)が前記所定半径(R1)より大きな半径(R2)からなる円弧面である概ね半円形状からなり、
前記外プレート(21)及び前記内プレート(22)における他方のピン孔(26)(29)の前記転動域である他方側(F)が直線形状である。
【0012】
例えば図7図8及び図9を参照して、前記外プレート(21)及び前記内プレート(22)における前記他方のピン孔(26)(29)の転動域である他方側(F)が、チェーンの外径方向に向って拡がるように傾斜してなり、
前記他方のピン孔(26)(29)の転動域である他方側(F)は、チェーンの直線状態におけるピン転動面との接触位置(d)に対して前記チェーンの内径側(α)(L2)に比して外径側(β)(L3)が広い。
【0013】
例えば図9を参照して、前記外プレート(21)及び前記内プレート(22)の前記他方のピン孔(26)(29)側の危険断面長さは、前記チェーンの外径側(L5)に比して内径側(L4)が長い。
【0014】
例えば図3図4を参照して、前記第1リンク(19)及び前記第2リンク(20)における前記外プレート(21)の一方のピン孔(25)は、前記ピン(23)を圧入して固定してなる。
【0015】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明によると、第1リンク及び第2リンクの外プレート及び内プレートは、それぞれ一方のピン孔にはピンが固定又は一体に回転するように嵌挿し、他方のピン孔にピンの転動面が転動してチェーンを屈曲するので、チェーンの引張り応力を安定して確実に動力伝達し得ると共に、各リンクそれぞれ1個のピンに対して転動して、高い精度の転動によりチェーンを安定して屈曲して、正確なチェーン伝動を行うことができる。
【0017】
ピンは、転動面を有する非対称形状からなり、各リンクに一方のピンが転動しかつ他方のピンは固定又は一体に回転するように連結するので、外プレート及び内プレートの長さを短くすることができ、チェーンの強度を損うことなくチェーンピッチの低減化を図ることができ、チェーンの静音性を向上することが可能となる。
また、外プレート及び内プレートは、第1リンク及び第2リンクにあって共通した形態で足り、外プレート及び内プレートの他方のピン孔は、概ね半円形状からなり、チェーンピッチの短縮化を図り、比較的簡単な構成でチェーンの静音化を図ることができる。
【0018】
請求項2に係る本発明によると、本チェーンを無段変速装置(CVT)に適用して、伝動容量を保持しつつ、無段変速装置の静音化に寄与することができる。
【0020】
請求項に係る本発明によると、ピンは、半径の異なる円弧面により概ね半円形状からなり、該ピンの大きな半径の円弧面からなる転動面と、直線形状からなるピン孔の転動域とで、比較的簡単な構成で正確で安定した転動を可能とすることができる。
【0021】
請求項に係る本発明によると、他方のピン孔の転動域が、チェーンの外径方向に向って拡がるように傾斜して、チェーン直線状態におけるピン転動面との接触位置に対してチェーンの外径側が内側に比して広くしたので、チェーンは、全体の屈曲面を所定範囲に抑えて、チェーンの引張り強度を保持しつつ、チェーン巻掛け(内径)方向に対して必要屈曲角にて屈曲して、チェーン、特に無段変速装置(CVT)用チェーンとしての機能を得ることができる。
【0022】
請求項に係る本発明によると、他方のピン側の危険断面長さを、チェーンの内径側を外径側に比して長くしたので、チェーンの引張り力が最も作用するチェーンの直線状態において、上述したピン孔の転動域を斜めに形成したことによるプレート端部の応力の差異を上記危険断面長さの相違で吸収して、外及び内プレートの引張り強度を確保することができる。
【0023】
請求項に係る本発明によると、第1及び第2リンクの外プレートの一方のピン孔にピンを圧入して固定するので、比較的簡単な構造でもって、チェーンの各プレートの列を整然と保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るチェーンを用いた無段変速装置(CVT)を示す概略斜視図。
図2】本発明の実施の形態に係るチェーンを示す斜視図。
図3】上記チェーンの第1リンクを示す分解斜視図。
図4】上記チェーンの第2リンクを示す分解斜視図。
図5】上記チェーンのピンを示し、(a)は正面図、(b)は側面図。
図6】(a)は上記チェーンの外プレートを示す側面図、(b)は内プレートを示す側面図。
図7】(a)は直線状態にある上記チェーンの側面断面図、(b)はピン及びピン孔部分を示す側面断面図。
図8】(a)は上記チェーンの屈曲状態を示す側面断面図、(b)はその状態のピン及びピン孔部分を示す側面断面図。
図9】上記チェーンのリンクプレートの端部分を示す側面断面図。
図10】本発明に係るチェーンと従来技術によるチェーンを比較した側面図。
図11】従来の技術によるチェーンを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態について説明する。無段変速装置(CVT)10は、図1に示すように、原動プーリ11、従動プーリ12及びチェーン13を備える。原動プーリ11は、対向する円錐形状からなる可動シーブ14及び固定シーブ15からなり、従動プーリ12も可動シーブ16及び固定シーブ17からなり、これら両プーリ11,12の間にチェーン13が巻掛けられる。原動プーリ11の可動シーブ14を移動することにより、原動プーリ11のチェーン巻掛け半径が調節され、それに応じて従動プーリ12のチェーン巻掛け半径が移動して、原動プーリ11の回転が従動プーリ12に無段に変速して伝達される。
【0026】
上記チェーン13は、図2に示すように、第1(外)リンク19と第2(内)リンク20とがピン23により交互に連結されて、無端状に形成されている。第1リンク19は、図3に示すように、外プレート21及び内プレート22を有し、ピン23により連結されている。外プレート21は、ピンの軸方向(チェーン幅方向)両端に位置し、これら両外プレート21の間に複数枚の内プレート22が配置される。外プレート21は、1対の概ね半円形状のピン孔25,26を有しており、内プレート22は、左右に円形状のピン孔27と概ね半円形状のピン孔29とを有している。ピン23は、外プレートの一方のピン孔25に圧入・固定されており、かつ内プレート22の円形状のピン孔27を貫通して延び出ている。
【0027】
第2リンク20は、図4に示すように、外リンク19と同様に、外プレート21、内プレート22及びピン23を有し、外プレート21は、ピン23の軸方向(チェーン幅方向)両端に位置し、その一方のピン孔25にピン23が圧入・固定され、内プレート22は、両外プレート21の間において円形状のピン孔27にピン23を貫通して配置されている。第2(内)リンク20の内プレート22は、外リンク19の内プレート22より1枚少なく、従って第1(外)リンク19の外プレート21がチェーン13の幅方向最両端に配置される。
【0028】
第1リンク19は、一方のピン23が外プレート21の一方(前方)のピン孔25に圧入・固定され、該ピン23が多数枚の内プレート22のピン孔27を軸方向に移動可能に嵌挿するが、該内プレート22の一方のピン孔27の外側面にピン23の円弧面が密着して伝動引張力を担持すると共に、ピン23と回転方向一体に連結する。第2リンク20も上記外リンク19と同様に、一方のピン23が外プレート21の一方のピン孔25に圧入・固定され、かつ該ピン23が内プレート22の一方のピン孔27に伝動引張力を担持すべく回転方向一体に連結すると共に軸方向移動可能に嵌合する。
【0029】
そして、第2リンク20における外プレート21の他方(後方)のピン孔26の幅方向外側に、第1リンク19の一方(前方)のピン孔25が重なるように位置して、第2リンク20の内プレート22と第1リンク19の内プレート22を交互に配置して、第1リンク19と第2リンク20とが1ピッチずれてピン23により連結される。第1リンク19における外プレート21の一方(前方)のピン孔25及び内プレート22の一方(前方)のピン孔27に回転方向一体のピン23は、第2リンク20における外プレート21の他方(後方)のピン孔26及び内プレート22の他方(後方)のピン孔29に所定量転動可能に嵌合し、同様に第2リンク20における外プレート21の一方(前方)のピン孔25及び内プレート22の一方(前方)のピン孔27に回転方向一体のピン23は、第1リンク19における外プレート21の他方(後方)のピン孔26及び内プレート22の他方(後方)のピン孔29に所定量転動可能に嵌合する。これにより、第1リンク19と第2リンク20とは、それぞれ他方(後方)のピン孔26,29とピン23との転動により、所定量屈曲可能となる。
【0030】
前記ピン23は、図5(a)に示すように、所定長さLを有し、左右の両端は、前記無段変速装置(CVT)10の各シーブ14,15,16,17に当接するように所定角θの傾斜面23cからなる。該ピン23の断面形状は、図5(b)に示すように、左右非対称からなり、一方面(側)23aは、従来の円形ピンと同様な半径R1からなる円弧面からなり、他方面(側)23bは、ピン孔26,29の転動域に転動して接する比較的大きな半径R2からなる円弧面からなる。なお、一方面23aは、内プレート22の一方のピン孔27の端側円弧面G(図6(b)参照)に密接し得る円弧面からなるが、該ピン23は、内プレート22(及び圧入される外プレート21)に対して回転方向一体になるので、単一半径R1でなくてもよく、強度要件に合わせ複合R形状、連続して変化する半径からなる徐変R形状、R形状と直線とが混在する形状、楕円等の二次曲線形状等の他の形状でもよい。また、上記ピン23の他方面23bは、ピン孔26,27の転動域と転動する転動面を構成し、単一半径R2の円弧面に限らず、複合R形状、徐変R形状、R形状と直線とが混在する形状、二次曲線形状等の他の形状でもよい。
【0031】
前記第1リンク19及び第2リンク20の外プレート21は、図6(a)に示すように、一方(前方)のピン孔25及び他方(後方)のピン孔26を有する。一方のピン孔25は、上記ピン23を圧入して固定するものであり、ピン23の断面形状より僅かに小さい相似形状からなる。なお。該一方のピン孔25は、ピン23を圧入して固定するためにピン断面と同形状としたが、ピン23は、圧入以外にも溶接等の他の方法で固定することも可能であり、この場合、該一方のピン孔25は、他の形状でもよい。他方のピン孔26は、ピン23と転動し得る形状からなり、内プレート22の他方のピン孔29も同形状からなる。該他方のピン孔26,29の内側面(一方側)Eは、ピン23との転動を妨げない形状であればよく、ピン23の一方面23aの半径R1より僅かに大きい半径R3の円弧面が好ましい。なお、該内側面Eは、どのような形状でもよく、一方のピン孔25,27と繋がる形状でもよい。
【0032】
該他方のピン孔26,29の外側面(他方側)Fは、ピン23の転動面(他方面)23bと転動する転動域となり、チェーン13は、内径方向の屈曲が大きく、詳細は、後述するが、長手方向中心線X-Xに直交する下側(チェーン外径側)が拡がるように傾斜する直線形状からなる。該外側面(転動域)Fは、上記ピン23の転動面(他方面)23bと転動する形状であればよく、該ピン転動面23bが半径R2の円弧面からなることにより直線形状としたが、ピン転動面23bの形状に合せて、複合R形状、徐変R形状、R形状と直線とが混在する形状、二次曲線形状等の他の形状でもよい。
【0033】
内プレート22の一方(前方)のピン孔27は、生産性の良好な円(丸)形状となっているが、該ピン孔27の外側面Gは、ピン23の一方面23aに整合して伝達引張力(荷重)を担持する部分であり、ピン一方面23aの半径R1と同等の半径からなる円弧面が好ましい。該ピン孔27の内側面Hは、内プレート22をピン23に対して軸方向に摺動可能とする余裕を持たせればよく、ピン23と接する(荷重を伝達する)ことがなく、例えばピン23の他方面23bの半径R2より僅かに大きい半径の円弧面、直線、その他どのような形状でもよい。
【0034】
図7は、直線状態にあるチェーン13を示す図で、第1リンク19と第2リンク20とがピン23で連結している。第1リンク19(外、内プレート21,22及びピン23)は、ハッチングで示されており、その外プレート21(及び内プレート22)の一方(前方)のピン孔25(27)にピン23が回転不能に結合されている。第2リンク20の外プレート21(及び内プレート22)の他方(後方)のピン孔26(29)に上記ピン23が転動自在に嵌合している。他方のピン孔26(29)は、図7(b)に示すように、上下(プレート幅)方向Yに対して下方が拡がる方向に傾斜した直線からなる転動域(外側面)Fからなり、ピン23の転動面(他側面)23bは、大きな半径R2の円弧面からなる。チェーン直線状態にあって、転動域(外側面)Fの上方側(チェーン内径側)位置dにてピン転動面23bに接触している。上記転動域Fは、上記接触位置dから上方(チェーン内径側)が所定角αであり、上記接触位置dから下方(チェーン外径側)が所定角βであり、上記所定角の合計(α+β)がチェーン13の屈曲角γとなる。下方(外径側)の角βは、チェーン13が巻掛け内径方向に屈曲する際の屈曲角となり、上方(内径側)の角αは、チェーンの巻掛け外径方向の屈曲角となる。上記接触位置dにおける上下方向線Yと、一方(前方)のピン23の後端面における上下方向線Yとの間隔がチェーンピッチPとなる(図6参照)。
【0035】
図8は、チェーン13が巻掛け方向の内径側に屈曲した状態を示す。第1リンク19の外及び内プレート21,22は、ピン23と共に上方(反時計方向)に屈曲し、ピン23は、その転動面23bをピン孔26,29の転動域Fを転がりつつ接触点を下方向に移動し、第2リンク20に対して第1リンク19が上方に屈曲する。この際、図8(b)に示すように、ピン23の一方面23aの円弧面R1とピン孔26,29の円弧面R3からなる内側面Eとは、相対移動可能なようになっている。
【0036】
チェーン13の内径方面(巻掛け方向)に大きく屈曲するように、上記他方(後方)のピン孔26,29の転動域(外方面)Fは、下方(外径側)角βが上方(内径側)角αより大きくなっている。上記角の合計(α+β)がチェーンの屈曲角γである。該チェーンの屈曲面γが大きくなると、ピン23の転動面23bの半径R2が小さくなり、ピン転動面とピン孔転動域との接触面圧が増加し、チェーン強度が低下するため、ピン転動面23bの半径R2は、大きい方が望ましい。チェーン13は、原動側及び従動側プーリに巻付くため、巻掛け方向の屈曲角を、反対方向の屈曲角に比して大きくして、チェーン使用状態における必要屈曲角を保持しつつ、全体屈曲角γを可能な限り小さくして、下方(外径側)角βと上方(内径側)角αとを適切な割合としている。これにより、上記屈曲角β,αを適正に設定して、全体屈曲角γを最小限としてピン転動面23bの半径R2を可能な限り大きくしてある。
【0037】
なお、上記実施の形態では、プレートのピン孔26,29の転動域Fを幅方向線Yに対して角度を持たせたが、これは、ピン23の転動面23bに角度を持たせてもよい。また、上記実施の形態は、プレートのピン孔26,29の転動域を直線形状としているが、これは、チェーン直線状態でのピンと接する部分dを直線形状とし、チェーンが屈曲するに従いRを径変させるような形状等の他の形状でもよい。
【0038】
図9は、外及び内プレート21,22の他方(後方)のピン孔26,29部分の構造を示す。上述した通り、上記他方のピン孔26,29の外側面(他方側)である転動域Fは、幅方向線Yに対して傾斜している。チェーン13は、直線状態にある場合、最も引張力が作用する。該引張力が直線状態の接触位置dに作用すると、上述したように外方角αと内方角βとが相違している(α<β)ため、接触位置dからの転動域(外方面)Fの長さL2,L3が相違する。即ち、内径側の長さL2が外径側の長さL3より小さくなり(L2<L3)、このためプレート端部の応力に差異が生じる。このため、本実施の形態では、プレート端部の危険断面長さを、内径側長さL4が外径側長さL5より大きくして(L4>L5)、上述した応力の差異に対抗するように、内径側(L4)の引張り強度を外径側(L5)より大きくして、外プレート21及び内プレート22の引張り強度を保持する。
【0039】
図10に示すように、本実施の形態によるチェーン13の外及び内プレート21,22は、他方(後方)のピン孔26,29が概ね半円形状からなり、従って図11に示す従来のチェーン1のプレート3より、危険断面長さAに相当する長さ分短くなる。これにより、所定引張り力を保持しつつ、チェーンピッチを短縮化し、チェーンの静粛化を可能とする。
【0040】
なお、上述した実施の形態は、無段変速装置(CVT)用チェーンとして説明したが、これに限らず、本チェーンを他の装置に適用することも可能である。また、ピンの断面形状、外プレート及び内プレートのピン孔形状は、必ずしも実施の形態で説明した形状に限らず、他の形状でもよく、特に内プレート22の一方のピン孔27は、円形以外の形状、例えば内側面Hは、どのような形状でもよい。また、外プレート及び内プレートにおけるピンを固定又は一体に回転する一方のピン孔を前方のピン孔とし、転動域を有する他方のピン孔を後方のピン孔としたが、これは、後方のピン孔を、ピンを固定又は一体に回転する一方のピン孔とし、前方のピン孔を、転動域を有する他方のピン孔としてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 無段変速装置(CVT)
11,12 プーリ
13 チェーン
14,15,16,17 シーブ
19 第1(外)リンク
20 第2(内)リンク
21 外プレート
22 内プレート
23 ピン
23a 一方側(R1円弧面)
23b 他方側(転動面)
23c 傾斜面
25,27 一方のピン孔
26,29 他方のピン孔
E 一方側(円弧面)
F 他方側(転動域)
d 接触位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11