(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】グリシン用呈味改善剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20231220BHJP
A23L 27/21 20160101ALI20231220BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231220BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A23L27/00 101Z
A23L27/21 Z
A61K47/18
A61K47/46
(21)【出願番号】P 2019128850
(22)【出願日】2019-07-11
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018132976
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 潤
(72)【発明者】
【氏名】近藤 茜
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093980(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029605(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101961341(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106721788(CN,A)
【文献】国際公開第2010/018614(WO,A1)
【文献】特開2000-191517(JP,A)
【文献】特開2015-128420(JP,A)
【文献】特開2017-063742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0232166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00- 2/84
A23L 27/00-27/40
A23L 27/60
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラカンカ抽出物、またはラカンカ抽出物及びソーマチンを含有するグリシン用呈味改善剤。
【請求項2】
グリシンの呈味を改善する方法であって、
グリシンに、ラカンカ抽出物、またはラカンカ抽出物及びソーマチンを共存させる工程を有する、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリシンの呈味を改善するための剤(グリシン用呈味改善剤)に関する。また本発明はグリシン用呈味改善剤を含有するグリシン含有製剤およびグリシン含有経口組成物に関する。さらに本発明はグリシンの呈味が改善されてなるグリシン含有製剤およびグリシン含有経口組成物の製造方法、並びにグリシンの呈味を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品の保存性向上を図るため、また食品の微生物による腐敗や変敗を防止して食中毒の発生を予防するために、保存料が用いられている。しかしながら、保存料によっては、そのものの味または適用する食品との相性によって、食品の味を損なう場合があり、保存能力に優れるものであっても適用範囲や使用量が制限されるものがある。
【0003】
グリシンは、アミノ酸の一種であるものの、静菌作用を有しており、枯草菌や大腸菌の繁殖を抑え、また水産ねり製品のネト防止にも有効であることから、従来より、総菜、おにぎり、漬け物(浅漬け)、水産ねり製品および珍味(ぬれ珍味)等の飲食物に対する保存料、特に日持向上剤として広く使用されている。また、グリシンは甘味を有し、酸味や塩味を和らげる緩衝作用やキレート作用を有していることから、呈味成分(調味成分)としても広く使用されている。
【0004】
しかし、グリシンには特有のエグ味がある。このため、従来よりグリシン特有のエグ味を抑制して、グリシンの呈味を改善する方法が検討されている。例えば、グリシンにスクラロースを併用する方法(特許文献1及び2等)、グリシンに、酵母エキスと乳酸菌で発酵させて得られる乳酸発酵酵母エキスを併用する方法(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-175668号公報
【文献】WO00/24273号再公表特許公報
【文献】特開2013-179862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このように従来より問題とされているグリシンのエグ味を抑制するための新しい技術を提供することを課題とする。より詳細には、第1に、本発明はグリシン用呈味改善剤を提供することを目的とする。第2にグリシン特有のエグ味が抑制され、呈味が改善されたグリシン含有製剤およびグリシン含有経口組成物を提供することを目的とする。第3に、グリシン特有のエグ味が抑制されて呈味が改善されてなるグリシン含有製剤およびグリシン含有経口組成物を製造する方法、換言すれば、グリシン含有製剤およびグリシン含有経口組成物についてグリシン特有のエグ味を抑制して呈味を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種の高甘味度甘味料が、甘味を呈する量であるか否かその使用量に関わらず、グリシン特有のエグ味(グリシン不快味)を有意に抑制する作用を発揮し、グリシン用呈味改善剤の有効成分として有用であることを見出した。これらの知見から、本発明者らは、前記物質を1種または2種以上組み合わせたグリシン用呈味改善剤を、グリシン含有製剤またはグリシン含有経口組成物に配合することでグリシン特有のエグ味(グリシン不快味)が抑制されること、つまり呈味が改善されたグリシン含有製剤またはグリシン含有経口組成物が得られることを確認して本発明を完成した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0009】
(I)グリシン用呈味改善剤
(I-1)ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するグリシン用呈味改善剤。
(I-2)グリシン含有組成物中のグリシン100質量部に対して、下記の割合になるように配合して使用される(I-1)に記載するグリシン用呈味改善剤:
(1)ラカンカ抽出物の配合量がモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部、または
(2)ソーマチンの配合量が少なくとも0.00025質量部。
【0010】
(II)グリシン含有製剤、及びその製造方法
(II-1)ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するグリシン含有製剤。
(II-2)グリシン含有製剤中のグリシン100質量部に対して、
(1)ラカンカ抽出物がモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部、または
(2)ソーマチンが少なくとも0.00025質量部
の割合で含まれる、(II-1)に記載するグリシン含有製剤。
(II-3)グリシンの呈味が改善されたグリシン含有製剤の製造方法であって、
ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、最終のグリシン含有製剤中に含まれるグリシン100質量部に対して下記の割合になるように配合する工程を有する上記製造方法:
(1)ラカンカ抽出物:モグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部、または
(2)ソーマチン:少なくとも0.00025質量部。
【0011】
(III)グリシン含有経口組成物、及びその製造方法
(III-1)ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、グリシン100質量部に対して下記の割合になるように含有するグリシン含有経口組成物:
(1)ラカンカ抽出物:モグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部、または
(2)ソーマチン:少なくとも0.00025質量部。
(III-2)グリシンの呈味が改善されたグリシン含有経口組成物の製造方法であって、
ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、最終のグリシン含有経口組成物中に含まれるグリシン100質量部に対して下記の割合になるように配合する工程を有する上記製造方法:
(1)ラカンカ抽出物:モグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部、または
(2)ソーマチン:少なくとも0.00025質量部。
【0012】
(IV)グリシンの呈味改善方法
(IV-1)グリシンの呈味を改善する方法であって、グリシンに、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を共存させる工程を有する、上記方法。
(IV-2)グリシンのエグ味を抑制する方法である(IV-1)に記載する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリシン用呈味改善剤は、グリシン含有製剤やグリシン含有経口組成物に対して用いられることで、グリシン特有のエグ味を抑制し、グリシン含有製剤やグリシン含有経口組成物の呈味を改善することができる。つまり、本発明のグリシン用呈味改善剤によれば、グリシンを含有する食品添加物(例えば、日持向上剤などの保存料)や経口組成物に対してグリシン特有のエグ味を低下若しくは消失する効果(マスキング効果)を発揮し、呈味が改善されてなるグリシン含有製剤やグリシン含有経口組成物を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)グリシン用呈味改善剤
本発明のグリシン用呈味改善剤(以下「本グリシン用呈味改善剤」とも称する)は、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0015】
(ラカンカ抽出物)
羅漢果(学名:Siraitia
grosvenorii)は、中国を原産地とするウリ科ラカンカ属のつる性の多年生植物である。本発明が対象とするラカンカ抽出物は、産地の別を問わず、羅漢果の果実、好ましくは羅漢果の生果実から、水またはエタノール等の有機溶媒を用いて抽出されたモグロシドVを含有する抽出物である。モグロシドVは、ラカンカ抽出物に含まれているトリテルペン系配糖体であり、砂糖の約300倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分でもある。
【0016】
本グリシン用呈味改善剤で用いられるラカンカ抽出物のモグロシドV含有量は、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されない。言い換えれば、本グリシン用呈味改善剤において、モグロシドVは、ラカンカ抽出物から精製された状態で使用することもできるし、また、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドV以外のトリテルペン系配糖体(モグロール、モグロシドIE1、モグロシドIA1、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIVa、モグロシドIVE、シメノシド、11-オキソモゴロシド、5α,6α-エポキシモグロシド)と混合した状態で使用することもできる。本発明において「ラカンカ抽出物」の用語には、これらの両方の意味が包含される。ラカンカ抽出物中のモグロシドVの含有量は、全体の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、とりわけ好ましくは50質量%以上である。ラカンカ抽出物中におけるモグロシドV以外の成分の含有量が増えると、当該成分による本グリシン用呈味改善剤の味質に対する影響が無視できなくなる傾向があるからである。なお、本発明及び本明細書において、ラカンカ抽出物の配合量や配合割合を示す場合には、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドVの量を基準として述べる(モグロシドV換算)。
【0017】
こうしたラカンカ抽出物は、羅漢果の果実から抽出し、さらに必要に応じて精製処理することで調製することも可能であるが、簡便には商業的に入手することができる。例えば、市販されているラカンカ抽出物として「FD羅漢果濃縮エキスパウダー」(7質量%又は15質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M30」(30質量%モグロシドV含有物)、「サンナチュレ(登録商標) M50」(50質量%モグロシドV含有品)[以上、いずれも三栄源エフ・エフ・アイ(株)製];並びに高純度ラカンカ抽出物(サラヤ株式会社製)等を例示することができる。
【0018】
(ソーマチン)
ソーマチンは、例えば、クズウコン科の熱帯植物であるソーマトコッカス・ダニエリ(Thaumatococcus daniellii BENTH)の果実の仮種皮に含有される物質であり、ソーマチンI及びソーマチンIIを主成分とし、砂糖の約3000倍の甘味を有するとされているものである。ソーマチンI及びソーマチンIIは、それぞれ分子量約21000±500のタンパク質であり、構成アミノ酸も既に明らかにされている。本発明において、ソーマチンと称する場合には、これらソーマチンIまたは/及びソーマチンIIそのもの、並びにソーマチンIまたは/及びソーマチンIIをリッチに含有する抽出物のいずれもが含まれる。また本発明及び本明細書においてソーマチンの配合量や配合割合を示す場合には、ソーマチンに含まれるソーマチンIとソーマチンIIの合計量を基準として述べる(ソーマチンI及びIIの総量換算)。ソーマチンは商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0019】
(本グリシン用呈味改善剤)
本グリシン用呈味改善剤は、前述するラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであればよく、1種単独で含有するものであっても、また2種以上を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、本グリシン用呈味改善剤中に含まれるラカンカ抽出物、または/及びソーマチンの総含有量(総量)は100質量%を限度として適宜設定することができる。
【0020】
具体的には、本グリシン用呈味改善剤の有効成分がラカンカ抽出物である場合、本グリシン用呈味改善剤はラカンカ抽出物を100質量%を限度として、モグロシドVが0.0625質量%以上含まれる範囲で含有することができる。同様に本グリシン用呈味改善剤の有効成分がソーマチンである場合、本グリシン用呈味改善剤はソーマチンを0.00025~100質量%または0.0025~100質量%の範囲で含有することができる。
【0021】
本グリシン用呈味改善剤は、対象とするグリシン含有製剤またはグリシン含有経口組成物(以下、これらを総称して「被グリシン含有組成物」ともいう)が有するグリシン特有のエグ味を抑制し、当該被グリシン含有組成物の呈味を改善するために用いられる。本グリシン用呈味改善剤の形態は、この限りにおいて、特に問わないが、適用対象とする被グリシン含有組成物の形状などに応じて、粉末状、顆粒状、タブレット状、およびカプセル剤状などの固体の形態、ならびにシロップ状、乳液状、液状、およびジェル状などの半固体または液体の形態を有することができる。また一剤の形態(合剤)のほか、二剤の形態(例えば、ラカンカ抽出物を含有する製剤とソーマチンを含有する製剤との組み合わせ物)を有するものであってもよい。
【0022】
本グリシン用呈味改善剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を製剤形態に調製する際に、その形態に応じて、飲食品に配合可能な担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。かかる担体や添加剤としては、本グリシン用呈味改善剤の作用効果に影響を与えない範囲で、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストリン、セルロース、アラビアガム、およびでん粉(コーンスターチ等)などの多糖類;および水などの溶媒を挙げることができる。また本グリシン用呈味改善剤の作用効果に影響を与えないことを限度として、乳糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、ショ糖、麦芽糖、水飴、蜂蜜、転化糖、シロップ、異性化糖(例えば、高果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖など)などの糖類;ソルビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール、還元パラチノースなどの糖アルコール類などの配合、並びにステビア抽出物、酵素処理ステビア、果糖転移ステビア、甘草抽出物、酵素処理甘草、アマチャ抽出物、モネリン、甜涼茶抽出物、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリン酸ニナトリウム、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン等の高甘味度甘味料の配合も排除するものではない。さらに本グリシン用呈味改善剤の作用効果に影響を与えない範囲で、飲食品に通常使用されるような香料、色素、または防腐剤などを配合することもできる。
【0023】
例えば、前記組み合わせの態様として、本グリシン用呈味改善剤の有効成分がラカンカ抽出物である場合、他成分としてレバウディオサイドAを含有するステビア抽出物を配合することができる。この場合、本グリシン用呈味改善剤の作用効果を妨げないことを限度として、制限されないが、本グリシン用呈味改善剤に含まれるレバウディオサイドAとモグロシドVとの含有比が質量比(以下、同じ)で50:50~99:1となるような組み合わせを挙げることができる。レバウディオサイドAとモグロシドVとの好ましい配合比は60:40~99:1であり、より好ましくは70:30~99:1である。なお、ラカンカ抽出物と併用するステビア抽出物としては、好ましくはレバウディオサイドAの含有量が90質量%以上、好ましくは95質量%以上である。
【0024】
本グリシン用呈味改善剤は、後述するグリシン含有製剤およびグリシン含有経口組成物(以下、これを総称して「本グリシン含有組成物」とも称する)の製造に際して、被グリシン含有組成物中に含まれるグリシンのエグ味を抑制し、被グリシン含有組成物の呈味を改善する目的で配合して用いられる。本グリシン用呈味改善剤を配合する製造段階や時期は、最終的に本グリシン含有組成物中に本グリシン用呈味改善剤の有効成分(ラカンカ抽出物、ソーマチン)とグリシンとの共存状態が形成できればよく、特に制限されない。グリシン含有組成物に対する本グリシン用呈味改善剤の配合割合は、本グリシン用呈味改善剤中の有効成分(ラカンカ抽出物、ソーマチン)の種類やその量、調製する本グリシン含有組成物の味やその中に含まれる他成分との関係等から、適宜設定することができる。
【0025】
具体的には、本グリシン用呈味改善剤は、例えば被グリシン含有組成物中のグリシン100質量部に対して下記の割合になるように、これを目安として配合して用いられる:
(1)本グリシン用呈味改善剤の有効成分がラカンカ抽出物である場合、その配合量がモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.0125質量部、より好ましくは少なくとも0.025質量部、特に好ましくは少なくとも0.0625質量部になる割合である。
(2)本グリシン用呈味改善剤の有効成分がソーマチンである場合、その配合量が少なくとも0.00025質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.00125質量部、より好ましくは少なくとも0.0025質量部になる割合である。
【0026】
なお、ラカンカ抽出物に含まれるモグロシドVの甘味度は砂糖の約300倍、ソーマチンの甘味度は砂糖の約3000倍である。従って、本グリシン用呈味改善剤の配合量は、本グリシン用呈味改善剤を適用して調製する本グリシン含有組成物の甘味を考慮して適宜設定することもできる。例えば、本グリシン用呈味改善剤を、被グリシン含有組成物に対して、グリシン特有のエグ味を抑制するとともに、甘味付与を目的として配合する場合、最終の本グリシン含有組成物中に含まれるモグロシドVの量が0.002質量%以上、ソーマチンの量が0.0002質量%以上となるような範囲で適宜調整することができる。また本グリシン用呈味改善剤がレバウディオサイドAとモグロシドVとの配合比が50:50~99:1のラカンカ抽出物とステビア抽出物の混合物である場合、レバウディオサイドAとモグロシドVの合計量が全体の0.002質量%以上になるように、最終の本グリシン含有組成物中に配合することができる。
【0027】
本発明において「エグ味」とはグリシン独特の甘味と収斂味(舌の荒れ感)(グリシン不快味)であり、グリシンまたはグリシンを含有する経口組成物を口に含んだときに口腔内で感じる甘味とその後に追って口腔内(特に舌)で感じる収斂味とが複合して感知される特性を意味する。また本発明においてエグ味(グリシン不快味)の「抑制」とは、グリシン含有経口組成物に、本グリシン用呈味改善剤を添加することにより、グリシン不快味が低下してグリシン含有経口組成物中のグリシン量が実際の量よりも少ないと感じるか、もしくはグリシン不快味が消失してグリシン含有経口組成物にグリシンが入っていないと感じる感覚である。こうした効果(感覚)は、通常、訓練された専門パネラーによる官能試験によって評価判定することができる。具体的には、対象とする被グリシン含有組成物に候補とする呈味改善剤(本グリシン用呈味改善剤を含む)を添加した場合に、添加する前の被グリシン含有組成物のグリシン不快味と比較してグリシン不快味が上記のように低下または消失していると感じられる場合には、当該呈味改善剤(候補物)は、本発明の本グリシン用呈味改善剤に該当すると判断することができる。なお、本発明において「呈味改善」とは、グリシンまたはグリシン含有組成物(グリシン含有製剤、グリシン含有経口組成物)の呈味が改善されることを意味し、グリシン特有のエグ味(グリシン不快味)が抑制されることによって、呈味が改善されることが包含される。
【0028】
(II)グリシン含有製剤、及びその製造方法
本発明のグリシン含有製剤(以下、単に「本グリシン含有製剤」と称する)は、グリシンに加えて前述する本グリシン用呈味改善剤が配合されていることで、グリシン特有のエグ味が抑制されていることを特徴とする。なお、本グリシン用呈味改善剤は前記(I)で説明した通りであり、前記の記載はここにそのまま援用することができる。
【0029】
本グリシン含有製剤中のグリシン含有量は、特に制限されることなく、例えば後述する食品添加物や医薬品添加物としての用途に応じて、例えば0.1~100質量%の範囲から適宜選択設定することができる。
【0030】
本グリシン含有製剤は、製剤中に含有するグリシン100質量部に対して、好ましくはラカンカ抽出物、または/及びソーマチンを、下記の割合で含有する:
(1)ラカンカ抽出物を含む場合、その配合量はモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.0125質量部、より好ましくは少なくとも0.025質量部、特に好ましくは少なくとも0.0625質量部になる割合である。
(2)ソーマチンを含む場合、その配合量は少なくとも0.00025質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.00125質量部、より好ましくは少なくとも0.0025質量部になる割合である。
【0031】
本グリシン含有製剤は食品添加物として使用することができる。ここで「食品添加物」には、食品衛生法で規定される「食品の製造の過程において又は、食品の加工、若しくは、保存の目的で食品に添加、混和、浸潤、その他の方法によって使用するもの」が含まれる。なお、本発明において「食品」という用語は、飲料を含む概念である飲食品と同意義に使用される。本グリシン含有製剤の食品添加物としての用途は、制限されないものの、主な用途を挙げると、日持向上剤(保存料)、調味料、強化剤、製造用剤等を例示することができ、例えば総菜(例えば卵焼き、茶碗蒸し、卵入りサラダなど卵を含む総菜;おにぎりなどを含む)、魚肉ねり製品(蒲鉾など)、珍味(さきいか等)、漬け物、フラワーペーストなどのペースト類、合成清酒等に配合することができる。この場合の食品への配合割合としては、目的用途によって相違し、特に制限されないものの、通常、グリシン量に換算して0.1~10質量%の範囲から適宜設定することができる。
【0032】
本グリシン含有製剤は医薬品添加物として、特に経口医薬品用の添加物として使用することもできる。ここで「医薬品添加物」は、第16改正日本薬局方の製剤総則で規定される「添加剤は、製剤に含まれる有効成分以外の物質で、有効成分及び製剤の有用性を高める、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、または使用性を向上させるなどの目的で用いられる。製剤には、必要に応じて、適切な添加剤を加えることができる。但し、用いる添加剤はその製剤の投与用において薬理作用を示さず、無害でなければならない。また、添加物は有効成分の治療効果を妨げるものであってはならない。」という定義に当てはまるものである。本グリシン含有製剤の医薬品添加物としての用途は、制限されないものの、主な用途を挙げると、安定剤、緩衝剤、甘味剤、基剤、矯味剤、懸濁化剤、pH調整剤、賦形剤、溶解補助剤等を例示することができる(例えば、「医薬品添加物事典点2016」154頁参照、2016年2月18日(株)薬事日報社発行)。
【0033】
本グリシン含有製剤は、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、最終的に調製される製剤中のグリシン100質量部に対して、下記の割合になるように配合することで製造することができる:
(1)ラカンカ抽出物を含む場合、その配合量はモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.0125質量部、より好ましくは少なくとも0.025質量部、特に好ましくは少なくとも0.0625質量部になる割合である。
(2)ソーマチンを含む場合、その配合量は少なくとも0.00025質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.00125質量部、より好ましくは少なくとも0.0025質量部になる割合である。
【0034】
その製造に際しては、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する製剤として、前述する本グリシン用呈味改善剤を用いることができる。また本グリシン含有製剤の製造に際して、グリシン、並びにラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種に加えて、グリシンの静菌作用を向上する目的でpH調整剤を配合することもできる。なお、制限されるものではないが、一態様として、例えば本グリシン含有製剤のpHを酸性、例えばpH3~6に調整することもできる。
【0035】
こうした本グリシン含有製剤の製造は、本グリシン含有製剤のグリシンに起因するエグ味を抑制し、本グリシン含有製剤の呈味を改善するために行われる。よって上記製造方法によれば、グリシン特有のエグ味(グリシン不快味)が抑制され、呈味が改善された本グリシン含有製剤を得ることができる。
【0036】
(III)グリシン含有経口組成物、及びその製造方法
本発明のグリシン含有経口組成物(以下、単に「本グリシン含有経口組成物」と称する)には、グリシンを含有する飲食物、グリシンを含有する経口医薬品、及びグリシンを含有する経口医薬部外品(口腔内で使用される洗口液、サプリメント等が含まれる)などが含まれる。本グリシン含有経口組成物は、対象とする経口組成物中に、グリシンに加えて前述する本グリシン用呈味改善剤が配合されていることで、グリシン特有のエグ味が抑制されていることを特徴とする。なお、本グリシン用呈味改善剤は前記(I)で説明した通りであり、前記の記載はここにそのまま援用することができる。また、本グリシン含有経口組成物は、対象とする経口組成物の製造に際して、グリシン含有製剤として前述する本グリシン含有製剤を配合することで、本グリシン用呈味改善剤を含まない通常のグリシン含有製剤を配合した場合に生じ得るグリシン特有のエグ味が抑制されていることを特徴とする。なお、本グリシン含有製剤は前記(II)で説明した通りであり、前記の記載はここにそのまま援用することができる。
【0037】
本グリシン含有経口組成物中のグリシン含有量は、特に制限されることなく、例えば本グリシン含有経口組成物(飲食物、医薬品、医薬部外品)の目的用途に応じて、例えば0.01~10質量%の範囲から適宜選択設定することができる。
【0038】
本グリシン含有経口組成物は、組成物中に含有するグリシン100質量部に対して、好ましくはラカンカ抽出物、または/及びソーマチンを、下記の割合で含有する:
(1)ラカンカ抽出物を含む場合、その配合量はモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.0125質量部、より好ましくは少なくとも0.025質量部、特に好ましくは少なくとも0.0625質量部になる割合である。
(2)ソーマチンを含む場合、その配合量は少なくとも0.00025質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.00125質量部、より好ましくは少なくとも0.0025質量部になる割合である。
【0039】
本グリシン含有経口組成物には食品、経口医薬品、経口医薬部外品が含まれる。例えば、本グリシン経口組成物が食品である場合、当該食品には総菜(例えば卵焼き、茶碗蒸し、卵入りサラダなど卵を含む総菜;おにぎりなどを含む)、魚肉ねり製品(蒲鉾など)、珍味(さきいか等)、フラワーペーストなどのペースト類、漬け物、合成清酒等が含まれる。
【0040】
本グリシン含有経口組成物は、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を、最終的に調製される経口組成物中のグリシン100質量部に対して、下記の割合になるように配合することで製造することができる:
(1)ラカンカ抽出物を含む場合、その配合量はモグロシドV量に換算して少なくとも0.00625質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.0125質量部、より好ましくは少なくとも0.025質量部、特に好ましくは少なくとも0.0625質量部になる割合である。
(2)ソーマチンを含む場合、その配合量は少なくとも0.00025質量部になる割合。好ましくは少なくとも0.00125質量部、より好ましくは少なくとも0.0025質量部になる割合である。
【0041】
その製造に際しては、ラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する製剤として、前述する本グリシン用呈味改善剤を用いることができる。また本グリシン含有経口組成物は、食品、医薬品、または医薬部外品の製造に際して、食品添加剤または医薬品添加剤として、前述する本グリシン含有製剤を用いることで調製することもできる。
【0042】
こうした本グリシン含有経口組成物の製造は、本グリシン含有経口組成物のグリシンに起因するエグ味を抑制し、本グリシン含有経口組成物の呈味を改善するために行われる。よって上記製造方法によれば、グリシン特有のエグ味が抑制され、呈味が改善された本グリシン含有経口組成物を得ることができる。
【0043】
(IV)グリシンの呈味改善方法
本発明のグリシンの呈味改善方法は、グリシンに、前述するラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を添加することによって実施することができる。当該本発明の方法は、より具体的な態様として、対象とするグリシン含有製剤(被グリシン含有製剤)にラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を添加する方法を挙げることができる。斯くして、被グリシン含有製剤のグリシンに起因するエグ味が抑制され、呈味が改善された本グリシン含有製剤を得ることができる。また、他の態様として、対象とするグリシン含有経口組成物(被グリシン含有経口組成物)にラカンカ抽出物、及びソーマチンよりなる群から選択される少なくとも1種を添加する方法を挙げることができる。斯くして、被グリシン含有経口組成物のグリシンに起因するエグ味(グリシン不快味)が抑制され、呈味が改善された本グリシン含有経口組成物を得ることができる。なお、ラカンカ抽出物、及びソーマチンは、被グリシン含有製剤及び被グリシン含有経口組成物に対するそれらの配合割合を含めて、前記(I)~(III)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。また被グリシン含有製剤及び被グリシン含有経口組成物も前記(I)~(III)で説明した通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
【0044】
被グリシン含有製剤及び被グリシン含有経口組成物について、それにラカンカ抽出物、又は/及びソーマチン(以下、「ラカンカ抽出物等」と称する)を配合することでグリシン特有のエグ味(グリシン不快味)が抑制されたか否かは、ラカンカ抽出物等が配合されたグリシン含有製剤及びグリシン含有経口組成物(被験組成物)の風味(エグ味)を、ラカンカ抽出物等が配合されていない以外は前記被験組成物と同じ組成のグリシン含有製剤及びグリシン含有経口組成物(比較組成物)の風味(エグ味)と比較することで評価することができる。この評価において、比較組成物と比較して被験組成物のほうがエグ味が低減している場合に、被験組成物についてラカンカ抽出物等の配合によりエグ味が抑制されていると判断することができる。制限されないものの、具体的には、後述する実施例の記載に従って評価することができる。被グリシン含有製剤及び被グリシン含有経口組成物に対して、ラカンカ抽出物等を配合することにより、グリシン特有のエグ味(グリシン不快味)が抑制されることで、実際よりも少量のグリシンを配合したか若しくはグリシンを配合しない場合と同様の呈味を有する本グリシン含有製剤及び本グリシン含有経口組成物を調製することができる。
【0045】
このように、本発明の方法を用いることにより、グリシン含有製剤及びグリシン含有経口組成物の呈味を改善することができる。
【0046】
なお、本明細書において、「含む」や「含有する」という用語には、「から実質的になる」及び「からなる」の意味が包含される。
【実施例】
【0047】
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0048】
以下の実験例に使用した原料は下記の通りである。
(1)ラカンカ抽出物:
サンナチュレ(登録商標)M50(乾燥粉末製品、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)。羅漢果の生果実(未乾燥果実)を水で抽出した後、濾過して回収した水抽出液を脱色及び濃縮した後、スプレードライにより乾燥粉末としてモグロシドVを50%の割合で含むように調製された、砂糖の約300倍の甘味を有する高甘味度甘味料。
(2)ソーマチン:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
砂糖の約3000倍の甘味を有する高甘味度甘味料。
(3)ステビア抽出物:
レバウディオJ-100(乾燥粉末製品、守田化学工業(株)製)。レバウディオサイドAを95%以上の割合で含む、砂糖の約300倍の甘味を有する高甘味度甘味料。
(4)アスパルテーム:味の素株式会社製
砂糖の約200倍の甘味を有する高甘味度甘味料
(5)スクラロース:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
砂糖の約600倍の甘味を有する高甘味度甘味料
(6)グリシン:有機合成薬品工業株式会社製
【0049】
実験例1 グリシン呈味改善剤の呈味改善効果の評価(その1)
(1)評価方法
官能評価試験は、飲食品の味質の官能評価に従事し訓練して社内試験に合格したパネル4名(以下の実験例においても同じ)を用いて実施した。具体的には、候補の各種グリシン用呈味改善剤(被験製剤)をグリシンと混合して調製したグリシン含有製剤を、水に溶解してグリシン含有経口組成物(被験組成物)を調製し、パネルにこのグリシン含有経口組成物のエグ味を評価してもらった。また比較として候補の被験製剤に代えて、高感度甘味料(ステビア抽出物、アスパルテーム、スクラロース)を配合したグリシン含有経口組成物についても、同様にエグ味を評価した。ここで「エグ味」は、グリシン含有経口組成物を口に含んだ際に口腔内、特に舌に感じる甘味と収斂味が混ざり合ったグリシン特有の味(グリシン不快味)を意味する。
【0050】
(グリシン含有製剤I/グリシン含有経口組成物I)
グリシン 4.0
グリシン用呈味改善剤または高甘味度甘味料(下記参照) 表1参照
水 残 部
合計 100.00%
【0051】
具体的には、評価基準とするグリシン含有経口組成物として、前記グリシン含有経口組成物Iの処方において、グリシン用呈味改善剤及び高甘味度甘味料のいずれも配合しないグリシン含有経口組成物を「対照組成物」;グリシンの配合量を0.875倍に減らし(グリシン配合量3.5%)、且つグリシン用呈味改善剤及び高甘味度甘味料のいずれも配合しないグリシン含有経口組成物を「陽性対照組成物」として、これらのエグ味の評価スコアをそれぞれ「0点」及び「2点」とした。
【0052】
パネル4名に下記の評価スコアに従って、グリシン含有製剤1~2(実施例1~2)及び高甘味度甘味料(比較例1~3)をそれぞれ添加した各種のグリシン含有経口組成物のエグ味を評価してもらい、パネル4名の評価スコアの平均値を求めた。なお、これらのグリシン含有経口組成物のエグ味の評価はいずれもそれらの品温を約25℃に調整したうえで実施した(以下の実験例においても同じ)。
【0053】
[エグ味抑制効果の評価スコア]
3点:陽性対照組成物よりもエグ味が弱く感じられる(エグ味抑制効果高い)
2点:陽性対照組成物とほぼ同じエグ味が感じられる(エグ味抑制効果あり)
1点:対照組成物よりも弱いが、陽性対照組成物よりは強いエグ味が感じられる(エグ味抑制効果ややあり)
0点:対照組成物と同程度のエグ味(エグ味抑制効果なし)
【0054】
(2)評価結果
グリシン含有経口組成物Iについてパネル4名の評価スコアとその平均値を表1に示す。表中「甘味倍率」は、砂糖の甘さに換算した甘味度を意味する。添加量を調節することで、最終の飲食物の甘味度が等しく砂糖2.4%相当になるように調整している。なお、ショ糖2.4%相当量とは甘味を呈する量である。
【0055】
【0056】
表1に示す結果から、ラカンカ抽出物、及びソーマチンをそれぞれ甘味を呈する量でグリシンに添加配合することで、グリシン特有のエグ味が顕著に抑制されることが確認された(実施例1~2)。これに対して、高甘味度甘味料のエグ味抑制効果は極めて低いことが確認された(比較例1~3)。なお、グリシン含有経口組成物を冷蔵して品温を10℃に調整したものについても同様に評価したところ、25℃で評価した前記評価スコアと有意な相違は認められなかった。
【0057】
実験例2 グリシン用呈味改善剤(ラカンカ抽出物)の呈味改善効果の評価
(1)評価方法
実験例1で評価したグリシン用呈味改善剤のうち、ラカンカ抽出物(実施例1)について、パネル4名を用いて、各種濃度(モグロシドV量に換算して0.00025~0.01質量%:表2参照)になるように配合したグリシン含有経口組成物IIのエグ味を評価した。
【0058】
具体的には、評価基準とするグリシン含有経口組成物として、上記各グリシン含有経口組成物IIについてグリシン用呈味改善剤を配合しないグリシン含有経口組成物を「対照組成物II」;上記各グリシン含有経口組成物IIについて各グリシンの配合量を0.875倍量とし、且つグリシン用呈味改善剤を配合しないグリシン含有経口組成物を「陽性対照組成物II」とし、これらのエグ味の評価スコアをそれぞれ「0点」及び「2点」とした。パネル4名に実験例1と同じ評価スコアに従って、各種濃度のグリシン用呈味改善剤を添加した評価試験用のグリシン含有経口組成物II(表2)のエグ味を評価してもらい、パネル4名の評価スコアの平均値を求めた。
【0059】
(2)評価結果
結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
表2に示す結果から、グリシン含有経口組成物(グリシン含有量:4質量%)に対してラカンカ抽出物(実施例1)を少なくともモグロシドV換算量で2.5ppm以上、好ましくは5ppm以上、より好ましくは10ppm以上、特に好ましくは25ppm以上の割合で配合することでグリシン含有経口組成物のエグ味が抑制されることが確認された。なお、これをグリシン含有経口組成物に含まれるグリシン100質量部に対する割合に換算すると、モグロシドV換算量で0.00625質量部以上、好ましくは0.0125質量部以上、より好ましくは0.025質量部以上、特に好ましくは0.0625質量部以上の割合でラカンカ抽出物を配合することで、グリシン含有経口組成物のエグ味が抑制されることが確認された。なお、ラカンカ抽出物(実施例1)の甘味閾値はモグロシドV含量で0.002%(20ppm)であることから、ラカンカ抽出物が発揮するグリシン特有のエグ味(グリシン不快味)を抑制する効果はその甘味の有無とは無関係であると考えられる。つまり、本発明のラカンカ抽出物を有効成分とするグリシン用呈味改善剤は甘味を呈さない量で有意にグリシン特有のエグ味(グリシン不快味)を抑制し、呈味を改善することができる。
【0062】
実験例3 グリシン用呈味改善剤(ソーマチン)の呈味改善効果の評価
(1)評価方法
実験例1で評価したグリシン用呈味改善剤のうち、ソーマチン(実施例2)について、パネル4名を用いて、各種濃度(0.00001~0.003質量%:表3参照)になるように配合したグリシン含有経口組成物IIIのエグ味を評価した。
【0063】
具体的には、評価基準とするグリシン含有経口組成物として、上記各グリシン含有経口組成物IIIについてグリシン用呈味改善剤を配合しないグリシン含有経口組成物を「対照組成物III」;上記各グリシン含有経口組成物IIIについて各グリシンの配合量を0.875倍量とし、且つグリシン用呈味改善剤を配合しないグリシン含有経口組成物を「陽性対照組成物III」とし、これらのエグ味の評価スコアをそれぞれ「0点」及び「2点」とした。パネル4名に実験例1と同じ評価スコアに従って、各種濃度のグリシン用呈味改善剤を添加した評価試験用のグリシン含有経口組成物III(表3)のエグ味を評価してもらい、パネル4名の評価スコアの平均値を求めた。
【0064】
(2)評価結果
結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
表3に示す結果から、グリシン含有経口組成物(グリシン含有量:4質量%)に対してソーマチン(実施例2)を0.01ppm以上、好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上の割合で配合することでグリシン含有経口組成物のエグ味が抑制されることが確認された。なお、これをグリシン含有経口組成物に含まれるグリシン100質量部に対する割合に換算すると、0.00025質量部以上、好ましくは0.00125質量部以上、より好ましくは0.0025質量部以上の割合でソーマチンを配合することで、グリシン含有経口組成物のグリシン特有のエグ味が抑制されることが確認された。なお、ソーマチン(実施例2)の甘味閾値は0.0002%(2ppm)であることから、ソーマチンが発揮するグリシン特有のエグ味抑制効果はその甘味の有無とは無関係であると考えられる。つまり、ソーマチンを有効成分とするグリシン用呈味改善剤は甘味を呈さない量で有意にグリシン特有のエグ味(グリシン不快味)を抑制し、呈味を改善することができる。