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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】歯科用ダイヤモンドバー
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/02 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61C3/02 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019141199
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021023402
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松谷 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘子
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特許第2868570(JP,B2)
【文献】特表2016-513591(JP,A)
【文献】国際公開第2018/080778(WO,A1)
【文献】特開昭61-019570(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0183636(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104070422(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0291866(US,A1)
【文献】特開2003-191109(JP,A)
【文献】特表2013-525130(JP,A)
【文献】特表2014-528846(JP,A)
【文献】特開2013-200211(JP,A)
【文献】荻野 碩哉, 外2名,ダイヤモンドポイントの実験的西方に関する研究(第2法)試作装置と研削評価について,広大歯誌,日本,1995年,Vol. 27,pp. 55-68
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 3/02
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状部材と、該棒状部材の先端表面に固着されたダイヤモンド製の複数の砥粒とを備えた歯科用ダイヤモンドバーであって、
前記複数の砥粒には、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒が含有されており、
前記複数の特定砥粒の個数の、前記複数の砥粒の全個数に対する比で表される含有率が5%以上であることを特徴とする、歯科用ダイヤモンドバー。
【請求項2】
棒状部材と、該棒状部材の先端表面に固着されたダイヤモンド製の複数の砥粒とを備えた歯科用ダイヤモンドバーであって、
前記複数の砥粒として、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒が含有された砥粒が用いられ、
前記クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、砥粒を集めて均して該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定することにより予め求められており、
前記複数の特定砥粒の個数の、前記複数の砥粒の全個数に対する比で表される含有率が5%以上であることを特徴とする、歯科用ダイヤモンドバー。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記各砥粒は、前記棒状部材にめっき層を介して固着され、
前記複数の特定砥粒のうち少なくとも一部が前記めっき層の表面から突出していることを特徴とする、歯科用ダイヤモンドバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科用ダイヤモンドバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の歯科用ダイヤモンドバーとしては、例えば特許文献1に、円柱状の台金に砥粒が金属めっき層によって固着されてなる歯科用バーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2868570公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歯科用ダイヤモンドバーに求められる性能として、優れた研削性能だけではなく、優れた操作性も実現したいという要望がある。
【0005】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、研削性能及び操作性に優れた歯科用ダイヤモンドバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する歯科用ダイヤモンドバーは、棒状部材と、該棒状部材の先端表面に固着されたダイヤモンド製の複数の砥粒とを備える。
【0007】
前記複数の砥粒には、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒が含有されている。
【0008】
前記の構成によれば、複数の砥粒の中に、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒が含有されているため、優れた研削性能及び操作性が得られる。
【0009】
なお、本明細書において、「優れた操作性」とは、歯科用ダイヤモンドバーによる歯の研削開始時であって、回転する棒状部材の先端表面に固着された砥粒が歯に最初に接触したときにおいて、その接触時における手への振動がほとんどない、又は振動が少ないことにより、研削時に歯への繊細なタッチが行えることをいう。
【0010】
また、ここに開示する歯科用ダイヤモンドバーは、棒状部材と、該棒状部材の先端表面に固着されたダイヤモンド製の複数の砥粒とを備える。
【0011】
前記複数の砥粒として、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒が含有された砥粒が用いられている。
【0012】
前記クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、砥粒を集めて均して該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定することにより予め求められている。
【0013】
前記の構成によれば、クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、砥粒を集めて均して該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定することにより予め求められた値であることが具体化される。そして、この予め求められたクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、歯科用ダイヤモンドバーの先端表面のこれらの値と相関があると考えられる。したがって、歯科用ダイヤモンドバーでは、予め求められた値、即ち特定の特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒が含有された砥粒が用いられているため、優れた研削性能及び操作性が得られる。
【0014】
前記各砥粒は、前記棒状部材にめっき層を介して固着され、前記複数の特定砥粒のうち少なくとも一部が前記めっき層の表面から突出している、こととしてもよい。
【0015】
前記の構成によれば、複数の特定砥粒のうち少なくとも一部がめっき層の表面から突出しているため、より一層優れた研削性能及び操作性が得られる。
【0016】
ここに開示する、棒状部材と、該棒状部材の先端表面に固着されたダイヤモンド製の複数の砥粒とを備えた歯科用ダイヤモンドバーに用いられる砥粒の集合体で形成した表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの測定方法は、砥粒を集めて均して、該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定する。
【0017】
前記の構成によれば、歯科用ダイヤモンドバーに用いられる砥粒の表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの測定方法が具体化される。この測定方法では、クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値が再現性高く測定できる。また、この測定方法により測定されるクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、歯科用ダイヤモンドバーの先端表面のこれらの値と相関があると考えられる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本開示によると、研削性能及び操作性に優れた歯科用ダイヤモンドバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の歯科用ダイヤモンドバーを示す縦断面図である。
図2】本開示の歯科用ダイヤモンドバーの「優れた操作性」を説明するための模式断面図であり、(a)は特定砥粒が歯に最初に接触するときを示し、(b)は特定砥粒とは異なる砥粒が歯に最初に接触するときを示す。
図3図1のIII-III線矢視断面図である。
図4】砥粒A及び砥粒Zをそれぞれ集めて均して該均した面を構成する各砥粒表面の面粗さを測定した結果を示す図である。
図5】砥粒A及び砥粒ZのクルトシスSkuをそれぞれ測定した結果を示す図である。
図6】砥粒A及び砥粒Zの、山頂点の算術平均曲率Spcをそれぞれ測定した結果を示す図である。
図7】実施例1及び比較例1で得られた歯科用ダイヤモンドバーの研削試験の評価結果を示す図である。
図8】実施例1及び比較例1で得られた歯科用ダイヤモンドバーの研削耐久試験の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0021】
(歯科用ダイヤモンドバー)
図1は、本開示の実施形態に係る歯科用ダイヤモンドバー(以下、単に「ダイヤモンドバー」ともいう。)1を示す。このダイヤモンドバー1は、例えば、歯科治療において歯の研削に用いられる歯科用研削バーである。
【0022】
ダイヤモンドバー1は、棒状部材2と、棒状部材2の先端表面にめっき層7を介して固着された複数の砥粒3とを備える。
【0023】
棒状部材2は、金属製のものである。この金属としては、例えば、錆に強いステンレス鋼が好ましい。このステンレス鋼としては、例えば、マルテンサイト系のステンレス鋼やオーステナイト系のステンレス鋼等が挙げられる。なお、棒状部材2は、ダイヤモンドバー1に求められる強度を有していれば、金属以外の材料(例えば樹脂)で構成されてもよい。
【0024】
棒状部材2は、丸棒状に形成されている。棒状部材2の先端部(軸方向一端部)は、先端に行くに従って略円錐状に直径が次第に減少するテーパー状に形成されている。なお、棒状部材2の先端部は、図1に示すようなテーパー状に限定されず、先端に行くに従って略円錐状に直径が次第に増大する逆テーパー状や、直径が先端部以外の部分と略同一の丸棒状、その他、紡錘状、球状、円盤状等であってもよい。
【0025】
棒状部材2の先端部は、歯を研削するための研削部4を、複数の砥粒3及びめっき層7と共に構成している。棒状部材2の先端部とは反対側の基端部(棒状部材2の軸方向他端部)は、例えばハンドピース等の回転工具のチャックに把持されるシャンク部5を構成している。棒状部材2における先端部(研削部4)の基端側近傍には、ダイヤモンドバー1の種類を識別するための識別部6が設けられている。この識別部6は、例えば、絶縁有色塗料を棒状部材2の外周面全周に亘って塗布してなる。めっき層7は、棒状部材2の先端部の表面を被覆してなる。めっき層7は、その全体に亘って略同じ厚さTを有する。
【0026】
複数の砥粒3は、ダイヤモンド製の粗粒(粒径41μm~1180μm)である。砥粒3としては、ISO 7711-3(JIS T 5505-3)に規定される、粒度範囲64~126μm(カラーコード:青)の粗粒、及び粒度範囲107~181μm(カラーコード:緑)の粗粒を好適に使用できる。これらのなかでは、青のカラーコードで分類される粗粒が好ましく、粒度範囲100~125μmの粗粒がより好ましい。緑色のカラーコードで分類される粗粒のなかでは、粒度範囲125~150μmの粗粒が好ましい。なお、本明細書において、粒径とは、砥粒の平均直径をいう。砥粒の平均直径は、砥粒の長手方向の長さ(長手方向の最も離れた部分間の距離)と直交する短手方向の長さを含む。また、粗粒(砥粒3)の粒度分布を測定又は検証する方法は、JIS B 4130による。
【0027】
複数の砥粒3には、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒8が含有されている。砥粒11(特定砥粒8とは異なる)は、クルトシスSkuの中央値が3以上であり、山頂点の算術平均曲率Spcの中央値が350(1/mm)以上である特性を有する表面を形成する。なお、本明細書において、山頂点とは、砥粒の表面(歯と接触する部分)にある山や谷(凹部や凸部)のうち、山(凸部)の頂点をいう。
【0028】
本明細書において、クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、以下の実施例に記載の方法により測定される値をいう。より具体的には、測定表面は、砥粒を集めて均して、該均した面を構成する砥粒表面であり、例えば、測定容器上に砥粒を盛り、その盛られた砥粒の頂部を、圧力はかけずに定規、ヘラ等ですり切って平らにして準備する。この測定方法では、クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値が再現性高く測定できる。
【0029】
このように、クルトシスSkuが5以上及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上という値は、特定砥粒8を含有する砥粒3を集めて均して、該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定することにより予め求められている。換言すると、この特定砥粒8を含有する砥粒3(砥粒3の集合体)は、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する砥粒表面(図4の左図(砥粒A)参照)を形成するものである。
【0030】
したがって、前記測定表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、これらの値が予め求められた砥粒3を用いて棒状部材2の表面に砥粒3がランダムに配置されたダイヤモンドバー1(即ち、棒状部材2)の先端表面のこれらの値と相関があると考えられる。なお、前記測定表面は、前記した方法で準備された表面に限定されず、ダイヤモンドバー1の先端表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値と相関があると考えられる表面であれば他の方法で準備された表面でもよい。
【0031】
クルトシスSku(尖り度)は、ISO 25178(面粗さ測定)で規定される表面粗さの評価方法に準拠して求められた面粗さのパラメータの1つであり、高さ分布の鋭さをいう。一般に、クルトシスSku=3のときに、高さ分布が正規分布になる。クルトシスSku>3であると、表面に鋭い山や谷が多いことを示す。一方、クルトシスSku<3であると、表面が平坦であることを示す。
【0032】
特定砥粒8を含有する砥粒3の集合体は、クルトシスSkuが5以上である特性を有する表面を形成する。そのため、この砥粒3が用いられたダイヤモンドバー1の先端表面(即ち、研削部4)は、鋭い山や谷が多い表面を持つ。これにより、研削性能が向上する。また、図2(b)に示す砥粒11と歯tとの接触面積に比べて、図2(a)に示す特定砥粒8と歯tとの接触面積は小さいため、特定砥粒8が歯に最初に接触するときにおける手への振動がほとんどない、又は振動が少なくなる。その結果、研削時に歯への繊細なタッチが行えるため、操作性が向上する。
【0033】
クルトシスSkuの値は、優れた研削性能及び操作性の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上である。また、特定砥粒8を含有する砥粒3の集合体は、クルトシスSkuの最大値が8.5以上である特性を有する表面を形成するものが好ましい。
【0034】
山頂点の算術平均曲率Spcは、ISO 25178で規定される表面粗さの評価方法に準拠して求められた面粗さのパラメータの1つであり、表面の山頂点の主曲率の平均をいう。一般に、山頂点の算術平均曲率Spcは、その値が小さいと、歯と接触する部分が丸みを帯びていることを示す。一方、その値が大きいと、歯と接触する部分が尖っていることを示す。
【0035】
特定砥粒8を含有する砥粒3の集合体は、山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性を表面を形成する。そのため、この砥粒3が用いられたダイヤモンドバー1の先端表面は、歯と接触する部分が尖っている。これにより、研削性能が向上する。また、図2(b)に示す砥粒11と歯tとの接触面積に比べて、図2(a)に示す特定砥粒8と歯tとの接触面積は小さいため、特定砥粒8が歯に最初に接触するときにおける手への振動がほとんどない、又は振動が少なくなる。その結果、研削時に歯への繊細なタッチが行えるため、操作性が向上する。
【0036】
山頂点の算術平均曲率Spcの値は、優れた研削性能及び操作性の観点から、好ましくは385(1/mm)以上である。特定砥粒8を含有する砥粒3の集合体は、山頂点の算術平均曲率Spcの最大値が390(1/mm)以上である面を形成するものが好ましい。
【0037】
なお、複数の特定砥粒8の個数の、複数の砥粒3の全個数に対する比で表される含有率は、好ましくは5%以上である。
【0038】
複数の特定砥粒8のうち少なくとも一部は、めっき層7の表面から突出している。より具体的には、図1に示すように、複数の特定砥粒8は、縦断面視で短手方向Yが棒状部材2の表面に対して略垂直な複数の第1砥粒9と、縦断面視で長手方向Xが棒状部材2の表面に対して略垂直な複数の第2砥粒10とを有する。各特定砥粒8の短手方向Yの長さLyは、めっき層7の厚さTと略同じ長さである。
【0039】
各第1砥粒9は、その短手方向Yが棒状部材2の表面に対して略垂直な伏臥姿勢(又は傾斜姿勢)で固着されているため、めっき層7内に埋没しているか、又は短手方向Yの一方側の部分がめっき層7の表面から突出している(はみ出している)。これにより、めっき層7の表面の摩耗が抑制され、該表面が保護される。
【0040】
一方、各第2砥粒10は、その長手方向Xが棒状部材2の表面に対して略垂直な直立姿勢で固着されているため、長手方向Xの一方側の部分がめっき層7の表面から突出している。これにより、研削性能及び操作性がより一層向上する。
【0041】
このように、各第1砥粒9及び第2砥粒10は、棒状部材2の表面にランダムに配置されている。これにより、図3に示すように、第1砥粒9を介して相隣接する第2砥粒10間に研削屑を逃がすための複数のポケットPが形成される。その結果、研削時に発生した研削屑が該ポケットPを介して除去されるため、研削時に目詰まりが発生し難くなり、優れた研削性能が維持される。より具体的には、研削時において、ダイヤモンドバー1が把持されるハンドピース等から、通常、水が噴射される。この水により、研削屑が洗い流される(流速によっては研削屑が吹き飛ばされる)。このとき、ポケットPが広いほど、ポケットP内に水が行き届くため、研削時に目詰まりが発生し難くなる。
【0042】
特定砥粒8は、長手方向(図1に示す断面視で細長い特定砥粒8の長い方向)Xの長さ(該長手方向Xの最も離れた部分間の距離)Lxの、該長手方向Xと直交する短手方向(断面視で細長い特定砥粒8の短い方向)Yの長さLyに対する比で表されるアスペクト比(以下、単に「アスペクト比」ともいう。)が1.4以上2.0以下であるものが好ましく、アスペクト比が1.4以上1.6以下であるものがより好ましい。なお、本明細書において、アスペクト比は、各特定砥粒8のアスペクト比の平均をいう。また、本明細書において、アスペクト比は、ISO 7711-3に準拠して、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置〔Malvern Panalytical製、品番:マスターサイザー 3000〕を用い、レーザー回折・散乱法により、測定される値である。
【0043】
アスペクト比が1.4以上であると、前記したように、各特定砥粒8の短手方向Yの長さLyがめっき層7の厚さTと略同じ長さであるため、めっき層7の表面から突出する特定砥粒8(第2砥粒10)の突出量(Lx-Ly)が大きくなるため、研削性能が向上する。また、第2砥粒10間に形成されたポケットPの大きさが十分に確保され、研削時に目詰まりが発生し難くなるため、優れた研削性能が維持される。一方、アスペクト比が2.0未満であると、めっき層7から突出している特定砥粒8(第2砥粒10)の長手方向Xの長さLxのうち長さLy分はめっき層7内に確実に埋没され、固着される。その結果、第2砥粒10は、めっき層7から脱落し難いため、研削耐久性能が向上する(ダイヤモンドバー1の寿命が長くなる)。
【0044】
アスペクト比が1.4以上2.0以下である特定砥粒8は、例えば、長手方向Xの長さLxが150μm程度であり、短手方向Yの長さLyが100μm程度である。
【0045】
めっき層7は、前記したように、各特定砥粒8の短手方向Yの長さLyと略同じ厚さを有している。より具体的には、めっき層7は、該長さLyの±20%の厚さを有している。めっき層7の厚さTが、該長さLyの-20%以上であると、めっき層7に特定砥粒8が保持される保持力が大きく、めっき層7から突出している第2砥粒10が脱落し難いため、研削耐久性能が向上する。一方、めっき層7の厚さTが、該長さLyの+20%未満であると、第1砥粒9の短手方向Yの一方側の部分がめっき層7の表面からはみ出し易いため、めっき層7の摩耗が抑制され、めっき層7の表面が保護される。
【0046】
前記の如く構成されたダイヤモンドバー1は、ハンドピース等に把持された棒状部材2がその軸を中心に回転するようになっている。
【0047】
(歯科用ダイヤモンドバーの製造方法)
以下に、ダイヤモンドバー1の製造方法を説明する。まず、ステンレス鋼の丸棒の先端部をテーパ状に加工し、所定の寸法に切断することにより、棒状部材2を形成する。
【0048】
続いて、ダイヤモンドバー1の砥粒として用いられる砥粒3を集めて均して該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定する。これにより、砥粒3に、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成する特定砥粒8が含有されていることを予め求める。なお、砥粒3に特定砥粒8が含有されていることが予測可能な場合には、ダイヤモンドバー1の製造毎に測定しなくてもよく、例えば、砥粒3の製造ロット毎や砥粒3の種類を変更する場合等に測定すればよい。
【0049】
最後に、棒状部材2の先端表面に砥粒3をめっき法で固着する。より具体的には、めっき槽にめっき液を充填し、めっき液内に砥粒3を収容した容器を浸漬し、この容器から離れた位置にニッケル等の陽極金属を浸漬する。容器内の砥粒3は、めっき液に浸漬された状態となっている。そして、容器内に棒状部材2の先端部を挿入し、この棒状部材2を陰極として通電すると、該棒状部材2の先端表面にニッケル等の陽極金属が析出し、この金属の成長に伴って棒状部材2の先端表面に接触している砥粒3が電着される。このとき、めっき層7は、特定砥粒8の短手方向Yの長さLyに相当する厚さに調整される。
【0050】
以上により、棒状部材2の先端表面にめっき層7を介して砥粒3が固着されたダイヤモンドバー1を製造できる。
【0051】
(効果)
以上のように構成されるダイヤモンドバー1によれば、棒状部材2の先端表面に固着されたダイヤモンド製の複数の砥粒3の中に、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性を有する表面を形成する複数の特定砥粒8が含有されている。これにより、ダイヤモンドバー1の研削部4は、鋭い山や谷が多い表面になり、且つ歯と接触する部分が尖っているため、優れた研削性能及び操作性が得られる。
【0052】
また、ダイヤモンドバー1は、複数の特定砥粒8のうち少なくとも一部がめっき層7の表面から突出しているため、より一層優れた研削性能及び操作性が得られる。
【0053】
クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、砥粒を集めて均して該均した面を構成する砥粒表面のクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcを測定することにより予め求められている。これにより、ダイヤモンドバー1に用いられる砥粒3の物性として、クルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値を高い再現性で測定できるため、これらの値を管理することにより、ダイヤモンドバー1の品質の向上を図ることができる。
【0054】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、特定砥粒8は、クルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性を有する表面を形成するものであるが、これに限定されず、これら2つの特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を持つものであってもよい。
【0055】
前記実施形態では、特定砥粒8が1.4以上2.0以下のアスペクト比を有しているが、特定砥粒8以外の砥粒3も該アスペクト比を有していてもよい。
【0056】
また、前記実施形態では、砥粒3又は特定砥粒8が1.4以上2.0以下のアスペクト比を有していない場合であっても、実施可能である。
【0057】
前記実施形態では、めっき層7は、その全体に亘って略同じ厚さTを有しているが、各特定砥粒8の短手方向Yの長さLyと略同じ厚さを有する範囲内において、棒状部材2の先端表面に沿って厚さTが変化していてもよい。
【実施例
【0058】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0059】
<面粗さの測定>
ISO 25178に準拠して、ダイヤモンド製の砥粒A、及び砥粒Aとは異なるダイヤモンド製の砥粒Zの各集合体で形成した表面(即ち測定表面)の面粗さを、表面粗さ測定機器〔(株)キーエンス製、形状解析レーザー顕微鏡 VK-X1000〕を用いて測定した。その結果(計測表面)を図4に示す。なお、面粗さの測定は、ドライ環境(砥粒に水分が付着しない環境、より具体的には温度が17℃以上28℃以下及び相対湿度が40%以上70%以下の室内環境)で行った。また、面粗さの測定は、粒径100~125μmの砥粒A及び砥粒Zで実施した。
【0060】
測定表面を形成するために用いる測定容器には、その中央部に砥粒を入れるための窪みが設けられている。この窪みから砥粒が溢れるように測定容器上に砥粒を盛り、その盛られた砥粒の頂部を、圧力はかけずにヘラで平らにすることにより、測定表面を準備した。より具体的には、測定表面は、測定容器の縁よりも高くなるように砥粒A又は砥粒Zを測定容器の窪みに入れた後、砥粒A又は砥粒Zの頂部を測定容器の縁と同じ高さになるようにすり切って平面状にした、砥粒の集合体で形成した表面(砥粒を集めて均した面)とした。
【0061】
なお、前記した手順で準備された測定表面、特に測定容器の窪みがある部分における表面は、複数の砥粒が積み重ねられて形成されている。換言すると、測定表面を構成する複数の砥粒は、同じ複数の砥粒によって支持されている。これにより、測定表面を構成する各砥粒は、アスペクト比が高くても、測定表面に対して略垂直な姿勢や伏臥姿勢(又は傾斜姿勢)でランダムに配置されている。その結果、各砥粒の特徴が出やすくなり、測定値の再現性が高くなる。一方、砥粒が積み重ならないように平面上に敷き詰められた砥粒表面を測定表面とする場合、アスペクト比が高い砥粒は、測定表面に対して伏臥姿勢(又は傾斜姿勢)になり易いため、測定値の再現性が低くなる。
【0062】
図4に示された結果から、砥粒Aの測定表面は、砥粒Zの測定表面と比較して、鋭い山や谷が多いことが分かる。また、砥粒Zの測定表面の山頂点(山や谷)が丸みを帯びているのに対して、砥粒Aの測定表面の山頂点は尖っていることが分かる。
【0063】
<クルトシスSku、及び山頂点の算術平均曲率Spc>
図4に示す面粗さの計測表面に対応する基準表面を求め、クルトシスSku、及び山頂点の算術平均曲率Spcを演算した。その結果を図5及び図6に示す。
【0064】
図5に示された結果から、砥粒Aには、クルトシスSkuが5以上である特性を有する表面(図4の左図も参照)を形成する特定砥粒が含有されていることが分かる。また、砥粒Aには、クルトシスSkuが8以上である特性を有する表面、及びその最大値が8.5以上である特性を有する表面を形成する特定砥粒が含有されていることが分かる。一方、砥粒Zは、クルトシスSkuが5未満である特性を有する表面(図4の右図も参照)を形成する。即ち、砥粒Zには、前記特定砥粒が含有されていないことが分かる。
【0065】
図6に示された結果から、砥粒Aには、山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性を有する表面(図4の左図も参照)を形成する特定砥粒が含有されていることが分かる。また、砥粒Aには、山頂点の算術平均曲率Spcが385(1/mm)以上である特性を有する表面、及びその最大値が390(1/mm)以上である特性を有する表面を形成する特定砥粒が含有されていることが分かる。一方、砥粒Zは、山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)未満である特性を有する表面(図4の右図も参照)を形成する。即ち、砥粒Zには、前記特定砥粒が含有されていないことが分かる。
【0066】
(実施例1)
まず、ステンレス鋼の丸棒の先端部をテーパ状に加工し、所定の寸法に切断することにより、棒状部材を得た。
【0067】
続いて、棒状部材のテーパ状に加工された先端表面に、特定砥粒(長手方向長さ:150μm程度、短手方向長さ:100μm程度)が含有されている砥粒A(粒径:100~125μm程度)を固着させて、研削部を形成した。より具体的には、めっき槽にめっき液を充填し、めっき液内に砥粒Aを収容した容器を浸漬し、この容器から離れた位置に陽極金属としてニッケルを浸漬した。続いて、容器内に棒状部材の先端部を挿入し、この棒状部材を陰極として通電することにより、該棒状部材の先端表面にニッケルを析出させ、砥粒Aの短手方向の長さに相当する厚さのニッケルめっき層を形成した。
【0068】
以上により、棒状部材の先端表面にニッケルめっき層を介して砥粒Aが電着された歯科用ダイヤモンドバーを製造した。
【0069】
(比較例1)
砥粒の種類を砥粒Z(粒径:100~125μm程度)に代えた以外は、実施例1と同様にして、棒状部材の先端表面にニッケルめっき層を介して砥粒Zが電着された歯科用ダイヤモンドバーを製造した。
【0070】
<歯科用ダイヤモンドバーの評価>
実施例1及び比較例1で得られた歯科用ダイヤモンドバーの性能を以下の方法に基づいて評価した。
【0071】
(研削性能)
研削試験を行い、実施例1及び比較例1で得られた歯科用ダイヤモンドバーの研削性能をそれぞれ評価した。
【0072】
具体的には、まず、歯科用ハンドピース(NSK社製、品番:PANA-MAX)に、各実施例1及び比較例1で得られた歯科用ダイヤモンドバーを把持させた。
【0073】
続いて、歯科用ハンドピースにより回転数30万回/分で回転させた各歯科用ダイヤモンドバーを、歯を模擬した被削材(ガラス、厚さ10mm)に、注水しながら、定荷重(200g)で一定方向に押し当てて研削深さが3mmになるようにガラスを研削させた。研削時間は、作業者である歯科医師の操作を模擬して、1カ所当たり30秒(5秒毎に休止、合計6回)とし、30秒毎に研削する場所を移動して合計20カ所行い、合計600秒(10分)とした。
【0074】
研削試験後、1カ所目の研削距離を計測することにより、各歯科用ダイヤモンドバーの初期研削性能を評価した。その結果を図7に示す。また、20カ所の研削距離の合計を計測することにより、各歯科用ダイヤモンドバーの研削耐久性能を評価した。その結果を図8に示す。
【0075】
(操作性)
実施例1及び比較例1で得られた歯科用ダイヤモンドバーを用い、操作性をそれぞれ評価した。より具体的には、3人の作業者が歯科用ダイヤモンドバーの研削時の操作性を以下の評価基準に基づいて5段階評価した。その結果を表1に示す。
【0076】
(評価基準)
5:歯の研削開始時の手への振動がほとんどない。
4:歯の研削開始時の手への振動が少ない。
3:歯の研削開始時の手への振動が少なくも多くもない。
2:歯の研削開始時の手への振動が多い。
1:歯の研削開始時の手への振動が大きい。
【0077】
【表1】
【0078】
図7に示された結果から、実施例1の歯科用ダイヤモンドバーは、棒状部材の先端表面に砥粒Aが固着されているため、該表面に砥粒Zが固着された比較例1の歯科用ダイヤモンドバーと比較して、研削性能に優れることが分かる。
【0079】
また、図8に示された結果から、実施例1の歯科用ダイヤモンドバーは、研削耐久性能にも優れることが分かる。この理由としては、特定砥粒は、衝撃を受けて破砕したときに、新たに鋭利なエッジが形成され易い、換言するとクルトシスSkuが5以上である特性及び山頂点の算術平均曲率Spcが380(1/mm)以上である特性のうち少なくとも一方の特性を有する表面を形成し易いことが考えられる。
【0080】
また、表1に示された結果から、実施例1の歯科用ダイヤモンドバーは、比較例1の歯科用ダイヤモンドバーと比較して、操作性に優れることが分かる。
【0081】
そして、前記測定表面を測定して予め求められたクルトシスSku及び山頂点の算術平均曲率Spcの値は、棒状部材の先端表面のこれらの値と相関があると言える。
【0082】
以上により、実施例1の歯科用ダイヤモンドバーは、棒状部材の先端表面に特定砥粒を含有する砥粒Aが固着されているため、優れた研削性能及び操作性が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、歯科用ダイヤモンドバーに適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 歯科用ダイヤモンドバー
2 棒状部材
3 砥粒
4 研削部
5 シャンク部
6 識別部
7 めっき層
8 特定砥粒
9 第1砥粒
10 第2砥粒
Lx 特定砥粒の長手方向の長さ
Ly 特定砥粒の短手方向の長さ
P ポケット
T めっき層の厚さ
t 歯
X 特定砥粒の長手方向
Y 特定砥粒の短手方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8