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特許7406327粒子、凝集法用粒子、及び、これを含む試薬、キット、並びに検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】粒子、凝集法用粒子、及び、これを含む試薬、キット、並びに検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G01N33/543 581J
G01N33/543 581U
G01N33/543 581W
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019153203
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021032703
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】須田 栄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正郎
(72)【発明者】
【氏名】中浜 数理
(72)【発明者】
【氏名】椿 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
(72)【発明者】
【氏名】名取 良
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/119288(WO,A1)
【文献】特開2009-031130(JP,A)
【文献】特開2004-331953(JP,A)
【文献】赤澤太郎,ハイドロゲル粒子のラテックス診断薬担体としての応用,高分子論文集,1993年05月30日,vol.50 no.5,431-435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にリンカーAを有するユニットを有するポリマーを含む粒子であって、
前記リンカーAの両末端をX1、X2で表記した場合、
前記リンカーAが、X1、または、X2の一方に、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有し、且つ、
前記リンカーAのX1、または、X2の一方がエステル構造を含み、
前記リンカーAのX1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和が18以上24以下の範囲であり、
前記X1及びX2がCH、またはCHを含
さらに、下記式(1)~(4)の何れかの化学構造で示される、末端に水酸基を有する側鎖を有するユニットを有するポリマーを含むことを特徴とする粒子。
【化1】
ただし、MはNHあるいはSであり、R1は水素原子あるいはメチル基、R2はアルキル基である。
【請求項2】
前記水酸基が、前記粒子表面に存在する請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
記式(2)または前記式(3)の化学構造で示される、末端に水酸基を有する側鎖を有するユニットを有するポリマーを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
側鎖にリンカーAを有するユニットを有するポリマーを含む粒子であって、
前記リンカーAの両末端をX1、X2で表記した場合、
前記リンカーAが、X1、または、X2の一方に、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有し、且つ、
前記リンカーAのX1、または、X2の一方がエステル構造を含み、
前記リンカーAのX1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和が18以上24以下の範囲であり、
前記X1及びX2がCH 、またはCHを含み
前記リンカーAのX1及びX2をCH基で置換した場合に算出されるハンセン溶解度パラメータの水素結合項の値が8.3以上10.5以下であることを特徴とする粒子。
【請求項5】
側鎖にリンカーAを有するユニットを有するポリマーを含む粒子であって、
前記リンカーAの両末端をX1、X2で表記した場合、
前記リンカーAが、X1、または、X2の一方に、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有し、且つ、
前記リンカーAのX1、または、X2の一方がエステル構造を含み、
前記リンカーAのX1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和が18以上24以下の範囲であり、
前記X1及びX2がCH 、またはCHを含み
前記リンカーAが、下記式(5)または下記式(6)で表される構造を有することを特徴とする粒子。
【化2】
【請求項6】
前記粒子が、末端に水酸基を有する側鎖を有するユニットを有するポリマーを含む粒子であることを特徴とする請求項4または5のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項7】
前記水酸基が、前記粒子表面に存在する請求項に記載の粒子。
【請求項8】
前記末端に水酸基を有する側鎖を有するユニットが、下記式(1)~(4)の何れかの化学構造であることを特徴とする請求項6又は7に記載の粒子。
【化3】
ただし、MはNHあるいはSであり、R1は水素原子あるいはメチル基、R2はアルキル基である。
【請求項9】
前記リンカーAのX1及びX2をCH基で置換した場合に算出されるハンセン溶解度パラメータの水素結合項の値が8.3以上10.5以下であることを特徴とする請求項1乃至3及び5乃至8の何れか一項に記載の粒子。
【請求項10】
前記リンカーAが、下記式(5)または下記式(6)で表される構造を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の粒子。
【化4】
【請求項11】
前記反応性官能基が、前記粒子表面に存在する請求項1乃至10の何れか一項に記載の粒子。
【請求項12】
前記X1及び前記X2が、下記構造で表されることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の粒子。
【化5】
【化6】
【請求項13】
前記リンカーAが2級または3級アミンを有し、前記アミンに由来する窒素原子数が2以下であることを特徴とする請求項1乃至12の何れか一項に記載の粒子。
【請求項14】
前記反応性官能基がカルボキシ基、またはカルボキシ基の塩であることを特徴とする請求項1乃至13の何れか一項に記載の粒子。
【請求項15】
前記カルボキシ基の塩が有機塩で中和された塩であることを特徴とする請求項14に記載の粒子。
【請求項16】
前記粒子がスチレン系単量体の繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1乃至15の何れか一項に記載の粒子。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか一項に記載の粒子に、リンカーAを介して前記リガンドが結合していることを特徴とする凝集法用粒子。
【請求項18】
前記リガンドが抗原又は抗体であることを特徴とする請求項17に記載の凝集法用粒子。
【請求項19】
請求項18に記載の凝集法用粒子を含有することを特徴とする体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための試薬。
【請求項20】
請求項19に記載の試薬を少なくとも備えることを特徴とする体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるためのキット。
【請求項21】
体外診断による検体中の標的物質の検出方法であって、請求項17又は18に記載の凝集法用粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合することを特徴とする検出方法。
【請求項22】
側鎖にリンカーAを有するユニットを有するポリマーを含む粒子であって、
前記リンカーAの両末端をX1、X2で表記した場合、
前記リンカーAが、以下の式(5)-1、式(5)-2、式(6)-1、式(6)-2、式(6)-3、及び式(6)-4の何れかで表されることを特徴とする粒子。
【化7】
【化8】
前記リンカーAのX1、または、X2の一方がエステル構造を含み、前記X1及びX2がCH 、またはCHを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子、標的物質に対するリガンドが結合された凝集法用粒子、及び、これを含む体外診断用試薬、キット、並びに標的物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
簡易・迅速な免疫検査方法として、凝集法のなかでもラテックス凝集法が挙げられる。この方法では、粒子と標的物質に対して親和性を有するリガンドとを化学結合してなるラテックス凝集法用粒子の分散液と、標的物質を含有する可能性のある検体とを混合する。その際、検体中に標的物質が含有されていれば、ラテックス凝集法用粒子が凝集反応を生じるため、この凝集反応を、散乱光強度、透過光強度、吸光度等の変化量として光学的に検出することで病気の有無を特定することができる。一般的に、リガンドと標的物質の組み合わせには、抗体と抗原、あるいは、抗原と抗体が用いられる。ラテックス凝集法用粒子を構成する粒子は、標的物質に由来しない非特異的な凝集反応を生じさせない目的で、標的物質以外の物質と吸着する特性、いわゆる非特異吸着が小さいことが望まれる。
【0003】
粒子の非特異吸着を低減する手段として、アルブミン、カゼイン、ゼラチン等の生態由来物質を用いて粒子表面を被覆する方法がある。しかし、これらの生態由来物質は、製造ロット毎に物性が異なる場合があることに加え、大量に用いることによる将来的な生物汚染を懸念する意見も聞かれる。
【0004】
粒子表面を両親媒性の高分子化合物によって被覆する手段も非特異吸着を低減する方法として有効であるが、粒子に対する高分子化合物の吸着は物理吸着に由来するため、希釈によって遊離する可能性があり、非特異吸着を十分に抑制できない場合がある。
【0005】
非特許文献1において、表面にポリグリシジルメタクリレートが配置された粒子が開示されている。この粒子の表面に配置されたポリグリシジルメタクリレートは、グリシジル基の一部が開環されてグリコールを呈することにより、非特異吸着が抑制されることが知られている。
【0006】
また、特許文献1、及び、特許文献2において、表面にポリグリシジルメタクリレートが配置された粒子に、リンカーを介して反応性官能基、またはリガンドが化学結合して成る粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-351814号公報
【文献】特開2005-232237号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】アフィニティーラテックスを用いたバイオセパレーション(1995)p11-p30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが、非特許文献1の粒子にリガンドを化学結合させたところ、一般的な水系緩衝液の多くに対して十分な分散安定性を担保することができず、凝集法用粒子として用いることが困難であった。一方、本発明者らが、特許文献1に従って合成した粒子にリガンドを化学結合させ、凝集法用粒子として用いようと試みたところ、非特異吸着は驚異的に抑制されるものの、分散安定性が過度に優れるため、十分な凝集反応を観察できない場合があった。非特許文献1に記載の粒子よりも、特許文献1に記載の粒子が分散安定性に優れる理由は、リンカーに由来する粒子間の排除体積効果に起因すると考えられる。
【0010】
本発明は、これらの背景技術、及び、課題を鑑みてなされたものである。本発明の目的は、非特異吸着が小さく、且つ、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有し、凝集法に好適な粒子、及び、これを含む試薬、キット、並びに検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の第一の態様は、側鎖にリンカーAを有するユニットを有するポリマーを含む粒子であって、前記リンカーAの両末端をX1、X2で表記した場合、前記リンカーAが、X1、または、X2の一方に、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有し、且つ、前記リンカーAのX1、または、X2の一方がエステル構造を含み、前記リンカーAのX1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和が18以上24以下の範囲であり、前記X1及びX2がCH、またはCHを含むことを特徴とする粒子に関する。
【0012】
また、本発明の第二の態様は、前記リンカーAを介してリガンドが化学結合していることを特徴とする凝集法用粒子に関する。
【0013】
本発明の第三の態様は、前記凝集法用粒子を含有することを特徴とする体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための試薬、前記試薬を少なくとも備えることを特徴とする体外診断による検体中の前記標的物質の検出に用いるためのキット、及び、前記凝集法用粒子と前記標的物質を含む可能性のある検体とを混合することを特徴とする検出方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非特異吸着が小さく、且つ、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有する粒子を提供することができる。
【0015】
さらに本発明によれば、リガンドが化学結合してなる凝集法用粒子、及び、これを含む体外診断用試薬、キット、並びにそれらを用いた標的物質の検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されない。
【0017】
本発明は、側鎖にリンカーAを有するユニットを有するポリマーを含む粒子であって、リンカーAの両末端をX1、X2で表記した場合、リンカーAが、X1、または、X2の一方に、リガンドを化学結合するための反応性官能基を有し、且つ、リンカーAのX1、または、X2の一方がエステル構造(COO)を含み、リンカーAのX1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和が18以上24以下の範囲であり、X1及びX2がCH、またはCHを含むことを特徴とする粒子である。ここで、「ユニット」とは、1つのモノマーに対応する単位構造のことを意味する。
【0018】
反応性官能基は、粒子表面に存在し、リガンドと化学結合するためのものであり、本発明の目的を達成可能な範囲において特に制限されるものではない。反応性官能基の例として、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、活性エステル基等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。但し、汎用性や化学的安定性を考慮すると、反応性官能基はカルボキシ基、またはカルボキシ基の塩であることが好ましく、本発明の粒子を水系分散液として分散安定性を保った状態で保存する場合は、カルボキシ基の塩であることがより好ましい。塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩のような金属塩や、アンモニウム塩のような有機塩が挙げられるが、反応性官能基とリガンドを化学結合させる際の反応性を考慮する場合、有機塩で中和された塩であることがより好ましい。カルボキシ基の有機塩を形成する化合物として、例えば、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミノエタノールなどが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。沸点や各種溶剤への溶解性など実験上の操作性を考慮する場合、トリエチルアミンが使用しやすい。カルボキシ基の有機塩を形成する化合物は、本発明の目的を達成可能な範囲において、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。同様に、金属塩を形成する化合物と有機塩を形成する化合物を併用してもよい。
【0019】
本発明の最大の特徴はリンカーAの鎖長にある。即ち、リンカーAは、その両末端をX1、X2で表記する場合、X1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和が18以上24以下の範囲であることを特徴とする。ここで、ボンドとは、原子と原子の間を結ぶ結合のことである。また、X1からX2を直鎖状に結ぶ原子間のボンドの和とは、原子と原子の間を結ぶ結合数の和である。例えば、X1からX2を直鎖状に結ぶ原子の数が17である場合、ボンドの数は18であり、原子の数が23である場合、ボンドの数は24となる。原子としては、炭素原子、酸素原子、窒素原子などが挙げられる。原子間のボンドの和が18より小さい場合、特許文献1に記載の粒子を凝集法用粒子として用いようとした場合と同様のメカニズムから、粒子の分散安定性が過度に優れるため、凝集反応を生じさせるには不利である。これに対し、原子間のボンドの和が18以上24以下の場合、本発明者らの検討において、粒子の分散安定性が優れるにも関わらず、本発明の粒子を凝集用粒子として用いると、極めて良好な凝集反応が生じることがわかっている。リンカーの鎖長が特許文献1よりも長くなることにより、反応性官能基の分散媒体中での運動性が増し、反応性官能基とリガンドとの化学反応性が向上すること、及び、同様の理由でリガンドと標的物質との反応性が向上することに起因すると本発明者らは考察している。一方、原子間のボンドの和が24より大きい場合、凝集用粒子として好ましくない現象が生じることを本発明者らは実験により確認している。免疫検査における凝集法とは、リガンドを化学結合して成る粒子の水系分散液(以下、A液と称する)と、標的物質を含有する可能性のある検体(以下、B液と称する)とを混合し、リガンドと標的物質との反応に基づいて生じる粒子間凝集を光学的に検出する方法である。原子間ボンドの和が24より大きい場合、リンカーが分散液の分散媒体を抱え込む(溶媒和)傾向が大きくなるため、A液とB液を混合した際に生じる浸透圧差の影響により、リガンドと標的物質との反応に基づかない非特異的な粒子間凝集が誘起されると発明者らは考察している。
【0020】
リンカーAのX1またはX2の具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【化1】
【化2】
【0021】
リンカーAは、X1とX2をCH基で置換した場合に算出されるハンセン溶解度パラメータの水素結合項(以下δh)の値が8.3以上10.5以下であることが好ましい。δhの値は、小さいほどリンカーAが疎水性の傾向を呈し、大きいほど親水性の傾向を呈する。δhの値が8.3より小さい場合、リンカーAにリガンドを化学結合させてなる凝集法用粒子において、リガンドが経時的に変性し、リガンドと標的物質間との反応性に影響を及ぼす可能性がある。一方、δhの値が10.5より大きい場合、水系分散液中での粒子の分散安定性が高まるため、リンカーAにリガンドを化学結合させてなる凝集法用粒子において、粒子間凝集が生じにくくなる場合がある。本発明におけるδhの値は、ハンセンらによって開発されたソフトウェア(ソフト名:HAnsen Solubility PArAmeter in rActice;HSPiP ver.5.0.0.4)を用いて算出される値である。上記ソフトウェアに対して、Y-MBと呼ばれるニューラルネットワーク法を用いた推算方法を適用し、分子構造を分子の線形表記法であるSmiles式で入力すると、分子を自動的に原子団に分解し、ハンセン溶解度パラメータの構成成分であるδhの値が算出される。なお、本発明において、δhを算出する際の温度条件は25℃である。
【0022】
リンカーAは、下記式(5)または下記式(6)で表される構造を有することが好ましい。式(5)または式(6)で表される構造を有さない、即ち、リンカーAが分岐構造を有する場合、近接するリンカーA同士の排除体積効果によって、1本のリンカーAに対する粒子表面の占有面積が大きくなる。このことは、リンカーAとリガンドとを化学結合させる際に、粒子1個当たりに対するリガンドの化学結合量が少なくなる場合があることを示唆している。
【化3】
【0023】
反応性官能基がカルボキシ基あるいはカルボキシ基の塩である場合、リンカーAは、リンカーAが2級あるいは3級アミンを有し、上記アミンに由来する窒素原子数が2以下であることが好ましい。非特異吸着を抑制するという目的に対し、リンカーAが電気的中性に近いほど好ましいことは定性的に自明である。この視点に立って本発明者らが検討したところ、少なくともアミン由来の窒素原子数が2以下である場合は、非特異吸着に対して重大な懸念が生じないことがわかっている。アミンに由来する窒素原子数が2より大きいリンカーAについては検討しておらず、非特異吸着に対する寄与は明らかになっていない。
【0024】
リンカーAは、下記構造Aまたは下記構造Bのいずれかであることが、最も好ましいことが、本発明者らの検討によって明らかになっている。メカニズムは先に考察した通りであり、リンカーAおよびリンカーAを有する粒子の各種物性のバランスが適正化された結果であると本発明者らは結論付けている。
【化4】
【0025】
本発明の粒子は、グリシジル(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位を含有することが好ましく、より好ましくは、スチレン系単量体の繰り返し単位をさらに含有することが好ましい。本発明の粒子を遠心分離や限外ろ過などの方法で精製する場合、ガラス転移温度が高く、且つ、機械強度に優れるスチレン系単量体の繰り返し単位を有することは、粒子の割れ欠けなどの損傷を抑制することに寄与する。スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、及び、p-フェニルスチレンが挙げられるが、本発明の目的を達成可能な範囲においてこれらに限定されない。また、2種類以上のスチレン系単量体を併用してもよい。スチレン系単量体の含有量としては、粒子の質量を100質量部とした場合、10質量部以上70質量部以下であることが、非特異吸着を抑制する能力を維持しつつ、粒子に十分な強度を付与できるため好ましい。
【0026】
本発明の粒子はさらに、架橋性を有するラジカル重合性単量体に由来する繰り返し単位を含有させることができる。架橋性を有するラジカル重合性単量体としては、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’-ビス(4-(アクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、及び、ジビニルエーテルが挙げられるが、本発明の目的を達成可能な範囲においてこれらに限定されない。また、2種類以上の架橋性を有するラジカル重合性単量体を併用してもよい。
【0027】
本発明の粒子の粒径は、個数平均粒径で、0.05μm以上1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.10μm以上0.50μm以下、さらに好ましくは0.15μm以上0.30μm以下である。個数平均粒径が0.15μm以上0.30μm以下である場合、遠心分離における作業性に優れ、且つ、粒子を分散液として長期保存する際に、粒子沈降が生じにくい点でも優れている。
【0028】
尚、本発明の粒子の粒径は、下記条件にて測定される値である。
動的光散乱型粒径測定機:ZETASIZER NANO ZS(マルバーン製)
固形分濃度:0.01質量%
測定温度:25℃
分散液の媒体:超純水
測定用セル:GlAss Cuvette
レーザー仕様:He-Ne、4mW,633nm
検出光学系:NIBS、173℃
測定回数:15回
等温化時間:5分
解析方法:GenerAl Purpose Mode(キュムラント法)
【0029】
本発明の粒子の製造方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において限定されない。例えば、表面にグリシジル(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位が存在する母粒子を最初に製造し、次いで母体粒子表面のグリシジル基を化学修飾する方法によって得ることができる。
【0030】
上記化学修飾する方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において特に限定されないが、例えば本発明の好ましい形態の1つである式(5)の構造を有するリンカーAを有する粒子を製造する場合は、下記反応式(a)~(d)のような化学修飾の反応スキームを適用することができる。
【化5】
ここでR1は水素原子あるいはメチル基である。
【0031】
また、本発明の好ましい形態の1つである式(6)の構造を有するリンカーAを有する粒子を製造する場合は、下記反応式(a’)及び(b’)のような化学修飾の反応スキームを適用することができる。
【化6】
ここでR1は水素原子あるいはメチル基である。
【0032】
H-L1-H及びH-LA-Hの構造は、以下に具体的に例示する。
【化7】
【化8】
【0033】
上記母粒子の製造方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において限定されない。ラジカル重合の中でも、粒径分布のシャープな粒子を得ることができるという視点において、乳化重合あるいは、ソープフリー乳化重合により製造することが好ましい。以下、上記母粒子をソープフリー乳化重合によって製造する場合の手順を例示するが、本発明はこの例示に限定されない。
【0034】
まず、グリシジル(メタ)アクリレートとスチレン系単量体、架橋性を有するラジカル重合性単量体を水系媒体と混合して混合液を得る。次いで、水溶性ラジカル重合開始剤を上記混合液に投入し、必要に応じて加熱することによって、ラジカル重合反応を進行させることで、母粒子が水系媒体中に分散した分散液を形成させることができる。この母粒子を形成させる過程で、グリシジル(メタ)アクリレートをさらに追加混合してもよい。このようにすることで、母粒子表面により多くのポリグリシジル(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位を局在させ易くなる。
【0035】
本発明の粒子は、末端に水酸基を有する側鎖を有するユニットを有するポリマーを含む粒子であることが好ましい。水酸基は、粒子表面に存在することが好ましい。例えば本発明の粒子を表面にグリシジル(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位が存在する母粒子を最初に製造し、次いで母体粒子表面のグリシジル基を化学修飾する方法によって得る場合、反応式(a)~(d)または反応式(a’)及び(b’)の化学修飾の反応スキームでは、粒子表面にグリシジル基が残存する場合がある。グリシジル基は疎水性を有するため、本発明の粒子を凝集法用粒子として用いる場合、非特異吸着性を示してしまうおそれがある。また、粒子表面にグリシジル基が残存したままの粒子を長期保存すると、経時でグリシジル基が加水分解し、粒子物性が変化してしまうおそれがある。これらのことから、本発明では残存グリジジル基を、水酸基を有する化合物で化学修飾し、粒子表面に、末端に水酸基を有する側鎖を形成させておくことが好ましい。末端に水酸基を有する側鎖を形成させる方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において特に限定されないが、下記反応式(a’’)のように、水酸基を有し、且つ、グリシジル基と化学反応する官能基を有する化合物を用いてグリシジル基を化学修飾する方法や、下記反応式(b’’)のようにグリシジル基の開環反応を促進し、グリシジル基をグリコールに変換する方法などが挙げられる。
ここでR1は水素原子あるいはメチル基、H-Pはグリシジルと反応する官能基、Qは水酸基を有する部位である。
【化9】
【0036】
反応式(a’’)で用いる化合物とは、本発明の目的を達成可能な範囲において特に限定されないが、グリシジル基との反応性の高いチオール基を有する化合物、あるいはアミノ基を有する化合物を用いることが好ましい。
【0037】
チオール基を有する化合物としては、例えば、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロパノール、1-メルカプト-2-プロパンノール、2-メルカプト-3-ブタノールなどが挙げられる。また、アミノ基を有する化合物としては、例えば、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-1,3-ブタンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-アミノエタノール、アミノメタノールなどが挙げられる。
【0038】
本発明の粒子の非特異吸着性の抑制性能をさらに高める視点から、化学修飾によって形成される化学結合部位がより親水性を示す、アミノ基を有する化合物を用いることがより好ましい。また、例示した化合物群を複数組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本発明において、上記末端に水酸基を有する側鎖を有するユニットが下記式(1)~(4)の何れかの化学構造であることが好ましい。特に、水酸基の数が多い式(2)及び式(3)は極めて親水性であり、粒子に対する非特異吸着を抑制する構造として非常に好ましい。
【化10】
【0040】
ただし、MはNHあるいはSである。またR1は水素原子あるいはメチル基、R2はアルキル基である。
【0041】
リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質に代表されるシグナル物質とその受容体、核酸などが挙げられるが、本発明の目的を達成可能な範囲においてこれらに限定されない。リガンドとしては、例えば、抗原、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2、F(ab’)、Fv、scFvなど)、天然由来核酸、人工核酸、アプタマー、ペプチドアプタマー、オリゴペプチド、酵素、補酵素などが挙げられる。
【0042】
本発明では、リンカーAを介して上記リガンドが化学結合して成ることを特徴とする粒子を、免疫検査における凝集法に用いる、凝集法用粒子として用いることを意図している。
【0043】
本発明において、リンカーAに由来する反応性官能基とリガンドとを化学結合する化学反応の方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。例えば、反応性官能基がカルボン酸あるいはカルボン酸塩の場合、カルボジイミド媒介性反応やNHSエステル活性化反応は好適な化学反応の事例である。但し、本発明の目的を達成可能な範囲において、リンカーAに由来する反応性官能基とリガンドと化学結合する化学反応の方法はこれらに限定されない。
【0044】
本発明において、リガンドとして抗体(抗原)、評定物質として抗原(抗体)を用いる場合、体外診断における検体中の標的物質の検出方法として、臨床検査、生化学研究などの領域において広く活用されている免疫検査における凝集法に非常に好ましく適用することができる。一般的な粒子を凝集法用粒子として用いる場合、標的物質である抗原(抗体)や血清中の異物等が粒子表面に非特異的に吸着し、このことに起因して意図しない粒子間凝集が生じてしまい、検査の正確性を損ねてしまうからである。
【0045】
本発明の体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるための試薬は、本発明の凝集法用粒子を含有することを特徴とする。本発明の試薬中の凝集法用粒子の量は、0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上10質量%以下がより好ましい。本発明の試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、本発明の凝集法用粒子のほかに、溶剤やブロッキング剤などの第三物質を含んでもよい。本発明に用いる溶剤の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、ヘペス緩衝液、メス緩衝液、アンモニア緩衝液などの各種水系緩衝液が例示されるが、本発明の試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0046】
本発明の体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットは、本発明の試薬を少なくとも備えることを特徴とする。本発明のキットとしては、本発明の試薬(以下、試薬1)に加えて、アルブミンを含有する反応緩衝液(以下、試薬2)を更に備えるものが好ましい。上記アルブミンとしては血清アルブミン等が挙げられ、プロテアーゼ処理されたものでもよい。試薬2に含有されるアルブミンの量は、0.001質量%以上5質量%以下を目安とするが、本発明のキットはこれに限定されない。試薬1と試薬2の両方、または何れか一方に、凝集測定用増感剤を含有させてもよい。凝集測定用増感剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸等が挙げられるが、本発明のキットはこれらに限定されない。また、本発明のキットは、試薬1、試薬2に加え、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液等を備えていてもよい。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定し得る標的物質が含まれていない血清、生理食塩水のほか、溶剤を用いてもよい。本発明のキットは、通常の体外診断による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットと同様にして、本発明の標的物質の検出方法に使用できる。また、従来公知の方法によって標的物質の濃度も測定することができ、特に、凝集法による検体中の標的物質の検出に用いることが好適である。
【0047】
本発明の体外診断による検体中の標的物質の検出方法は、本発明の凝集法用粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合することを特徴とするものである。また、本発明の凝集法用粒子と検体との混合は、pH3.0以上pH11.0以下で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃以上50℃以下であり、混合時間は1分以上20分以下である。また、本検出方法は、溶剤を使用することが好ましい。また、本発明の検出方法における本発明の凝集法用粒子の濃度は、反応系中、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。本発明の検出方法は、本発明の凝集法用粒子と検体との混合の結果として生じる粒子間凝集を光学的に検出することを特徴とし、上記粒子間凝集を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、更に標的物質の濃度も測定することができる。上記凝集反応を光学的に検出する方法としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出可能な光学機器を用いて、これらの値の変化量を測定すればよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
「実施例1」(ポリグリシジル(メタ)アクリレートを含有する粒子(粒子1)の合成)
500ml四つ口丸底フラスコに3.60gのスチレン(St:キシダ化学工業製)と5.40gのグリシジルメタクリレート(GMA;東京化成工業製)、0.12gのジビニルベンゼン(キシダ化学工業製)、345gのイオン交換水をはかりとり、混合液を得た後、この混合液を200rpmで撹拌しながら70℃に保持し、窒素バブリングを30分間行った。次に、窒素バブリングを窒素フローに切り替え、別途調製しておいた0.18gのV-50(富士フイルム和光純薬製)を15.0gのイオン交換水に溶解させた溶解液を上記混合液に加えることで、ラジカル重合(ソープフリー乳化重合)を開始させた。重合開始から2時間後、ラジカル重合反応場に0.92gのGMAを加え、さらに8時間、200rpmで撹拌しながら70℃で保持することによって粒子1を含有する分散液1を得た。500ml四つ口丸底フラスコの内容物を室温まで徐冷した後にサンプリングし、プロトンNMR、ガスクロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてラジカル重合転化率を評価したところ、実質的に100%であることを確認した。粒子1のキュムラント粒径は210nmであった。
【0050】
「実施例2」(粒子2の合成)
20gの分散液1を200ml四つ口丸底フラスコにはかりとり、100rpmで撹拌しながら4℃に保持した状態で、上記200ml四つ口丸底フラスコの外部から超音波(28kHz、100W)を照射しながら、全量で4.82gのジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル(DEG-3APE;東京化成工業製)を2.0g/分の速度で分散液1と混合し、混合液2を調整した。その後、混合液2を100rpmで撹拌しながら24時間、40℃で保持することにより、粒子1のポリグリシジルメタクリレートに由来するグリシジル基とDEG-3APEに由来する一級アミンとを反応させ、粒子1にDEG-3APEを片末端で結合させた粒子2’を得た。粒子2’を4℃、27000G、20分、3回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、固形分が5wt%になるようにイオン交換水で調整し、更にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris;東京化成工業製)1.48gを添加後、撹拌することでTrisを溶解した。次にトリエチルアミン(キシダ化学工業製)によりpHが11になるように調整し、70℃、24時間、撹拌した。その後4℃、27000G、20分で遠心分離を行い、上清を廃棄し、イオン交換水で沈殿物を再分散する精製を計5回行った。次に、再度、遠心精製を行い、固形分率が1wt%となるようにメタノールに再分散することで分散液2’’を調整した。次に、粒子2’が0.63gとなるようにはかりとった分散液2’’に2.77gの無水コハク酸(東京化成工業製)を加え、5時間、30℃で振とうすることにより、粒子2’’に由来する一級アミンと無水コハク酸を反応させ、粒子1にDEG-3APEを介してカルボン酸を導入した粒子2を得た。粒子2は3等分し、以下の3通りの方法によって処理し、トリエチルアミンを塩基とするカルボン酸塩を有する粒子2-1、ナトリウムを塩基とするカルボン酸塩を有する粒子2-2、カルボン酸塩としない粒子2-3の水分散液を得た。
【0051】
(i)粒子2-1の調整方法
粒子2を27000G、20分、3回の条件で3wt%トリエチルアミン水溶液を用いて遠心精製し、さらに、27000G、20分、8回の条件で超純水を用いて遠心精製した。
【0052】
(ii)粒子2-2の調整方法
粒子2を27000G、20分、3回の条件で0.1NのNaOH水溶液を用いて遠心精製し、さらに、27000G、20分、8回の条件で超純水を用いて遠心精製した。
【0053】
(iii)粒子2-3の調整方法
粒子2を27000G、20分、3回の条件でメタノールを用いて遠心精製し、さらに、27000G、20分、8回の条件で超純水を用いて遠心精製した。
【0054】
粒子2-1の各種特性を表1にまとめた。また、粒子2-1、粒子2-2、粒子2-3の水分散液の分散安定性を表2で比較した。
【0055】
「実施例3」(粒子3の合成)
無水コハク酸の代わりに2.68gの無水マレイン酸(東京化成工業製)を用いた以外は、実施例2及び実施例2(i)と同様の操作を行い粒子3の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0056】
「実施例4」(粒子4の合成)
20gの分散液1を200ml四つ口丸底フラスコにはかりとり、100rpmで撹拌しながら4℃に保持した状態で、上記200ml四つ口丸底フラスコの外部から超音波(28kHz、100W)を照射しながら、全量で4.21gのビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル(DEG-2AEE;東京化成工業製)を2.0g/分の速度で分散液1と混合し、混合液4を調整した。その後、混合液4を100rpmで撹拌しながら24時間、40℃で保持することにより、粒子1のポリグリシジルメタクリレートに由来するグリシジル基とDEG-2AEEに由来する一級アミンとを反応させ、粒子1にDEG-2AEEを片末端で結合させた粒子4’を得た。粒子4’を4℃、27000G、20分、3回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、固形分が5wt%になるようにイオン交換水で調整し、更にTris1.48gを添加後、撹拌することでTrisを溶解した。次にトリエチルアミンによりpHが11になるように調整し、70℃、24時間、撹拌した。その後4℃、27000G、20分で遠心分離を行い、上清を廃棄し、イオン交換水で沈殿物を再分散する精製を計5回行った。次に、再度、遠心精製を行い、固形分率が1wt%となるようにメタノールに再分散することで分散液4’’を調整した。次に、粒子4’’が0.63gとなるようにはかりとった分散液4’’に2.77gの無水コハク酸(東京化成工業製)を加え、5時間、30℃で振とうすることにより、粒子4’’に由来する一級アミンと無水コハク酸を反応させ、粒子1にDEG-2AEEを介してカルボン酸を導入した粒子4を得た。粒子4は、27000G、20分、3回の条件で3wt%トリエチルアミン水溶液を用いて遠心精製し、さらに、27000G、20分、8回の条件で超純水を用いて遠心精製し、粒子4の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0057】
「実施例5」(粒子5の合成)
20gの分散液1を200ml四つ口丸底フラスコにはかりとり、100rpmで撹拌しながら4℃に保持した状態で、上記200ml四つ口丸底フラスコの外部から超音波(28kHz、100W)を照射しながら、全量で2.54gの1,6-ヘキサンジアミン(東京化成工業製)を2.0g/分の速度で分散液1と混合し、混合液5-1を調整した。その後、混合液5-1を100rpmで撹拌しながら24時間、40℃で保持することにより、粒子1のポリグリシジルメタクリレートに由来するグリシジル基と1,6-ヘキサンジアミンに由来する一級アミンとを反応させ、粒子1に1,6-ヘキサンジアミンを片末端で結合させた粒子5’を得た。粒子5’を4℃、27000G、20分、8回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、固形分が10wt%となるようにイオン交換水に再分散することで分散液5’を調整した。次に、粒子5’が0.63gとなるようにはかりとった分散液5’に3.81gのエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE;東京化成工業株式会社)を加え、24時間、30℃で振とうした後、さらに、アンモニア換算でEGTEに対して10倍モルの28%アンモニア水溶液(東京化成工業製)を添加し、24時間、70℃で振とうすることで粒子5’’を得た。粒子5’’を4℃、27000G、20分、8回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、固形分が5wt%になるようにイオン交換水で調整し、更にTris1.48gを添加後、撹拌することでTrisを溶解した。次にトリエチルアミンによりpHが11になるように調整し、70℃、24時間、撹拌した。その後4℃、27000G、20分で遠心分離を行い、上清を廃棄し、イオン交換水で沈殿物を再分散する精製を計5回行った。次に、再度、遠心精製を行い、固形分率が1wt%となるようにメタノールに再分散することで分散液5’’’を調整した。次に、粒子5’’’が0.63gとなるようにはかりとった分散液5’’’に2.77gの無水コハク酸(東京化成工業製)を加え、5時間、30℃で振とうすることにより、粒子5’’’に由来する一級アミンと無水コハク酸を反応させ、粒子1に1,6-ヘキサンジアミンとEGDEを介してカルボン酸を導入した粒子5を得た。粒子5は、27000G、20分、3回の条件で3wt%トリエチルアミン水溶液を用いて遠心精製し、さらに、27000G、20分、8回の条件で超純水を用いて遠心精製し、粒子5の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0058】
「実施例6」(粒子6の合成)
1,6-ヘキサンジアミンの代わりに1.93gの1,4-ブタンジアミン(東京化成工業製)を用いた以外は、実施例5と同様の操作を行い粒子6の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0059】
「実施例7」(粒子7の合成)
1,6-ヘキサンジアミンの代わりに1.32gのエチレンジアミン(東京化成製)を用いた以外は、実施例5と同様の操作を行い粒子7の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0060】
「実施例8」(粒子8の合成)
1,6-ヘキサンジアミンの代わりに1.62gの1,2-プロパンジアミン(東京化成工業製)を用いた以外は、実施例5と同様の操作を行い粒子8の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0061】
「実施例9」(粒子9の合成)
Trisの代わりに1.11gの2-アミノ-1,3プロパンジオール(東京化成工業製)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行い粒子9の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0062】
「実施例10」(粒子10の合成)
実施例2において得られた粒子2‘を4℃、27000G、20分、3回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、Trisと反応せずに、固形分率が1wt%となるようにメタノールに再分散することで分散液を調整し、無水コハク酸との反応を行った。他の操作は実施例2及び実施例2(i)と同様に行い粒子10の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0063】
「比較例1」(粒子11の合成)
1,6-ヘキサンジアミンの代わりに4.82gのDEG-3APEを用いた以外は、実施例5と同様の操作を行い粒子11の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0064】
「比較例2」(粒子12の合成)
20gの分散液1を200ml四つ口丸底フラスコにはかりとり、100rpmで撹拌しながら4℃に保持した状態で、上記200ml四つ口丸底フラスコの外部から超音波(28kHz、100W)を照射しながら、はかりとった分散液1に含有されるグリシジル基量に対して50倍モルの28%アンモニア水を2.0g/分の速度で分散液1と混合し、混合液10-1を調整した。その後、混合液10-1を100rpmで撹拌しながら24時間、70℃で保持することにより、粒子1のポリグリシジルメタクリレートに由来するグリシジル基に一級アミンを付加した粒子12’を得た。粒子12’を4℃、27000G、20分、8回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、固形分が10wt%となるようにイオン交換水に再分散することで分散液12’を調整した。次に、粒子12’が0.63gとなるようにはかりとった分散液12’に3.81gのEGDEを加え、24時間、30℃で振とうした後、さらに、アンモニア換算でEGTEに対して10倍モルの28%アンモニア水溶液を添加し、24時間、70℃で振とうすることで粒子12’’を得た。粒子12’’を4℃、27000G、20分、8回の条件でイオン交換水を用いて遠心精製した後、固形分が5wt%になるようにイオン交換水で調整し、更にTris1.479gを添加後、撹拌することでTrisを溶解した。次にトリエチルアミンによりpHが11になるように調整し、70℃、24時間、撹拌した。その後4℃、27000G、20分で遠心分離を行い、上清を廃棄し、イオン交換水で沈殿物を再分散する精製を計5回行った。次に、再度、遠心精製を行い、固形分率が1wt%となるようにメタノールに再分散することで分散液12’’’を調整した。次に、粒子12’’’が0.63gとなるようにはかりとった分散液12’’’に2.77gの無水コハク酸(東京化成工業製)を加え、5時間、30℃で振とうすることにより、粒子10’’に由来する一級アミンと無水コハク酸を反応させ、粒子1にEGDEを介してカルボン酸を導入した粒子12を得た。粒子12は、27000G、20分、3回の条件で3wt%トリエチルアミン水溶液を用いて遠心精製し、さらに、27000G、20分、8回の条件で超純水を用いて遠心精製し、粒子12の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0065】
「比較例3」(粒子13の合成)
DEG-3APEの代わりに3.25gのエイレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル(東京化成工業製)を用いた以外は、実施例2及び実施例2(i)と同様の操作を行い粒子13の水分散液を得た。得られた粒子の各種特性を表1にまとめた。
【0066】
<粒子の非特異吸着抑制能力の評価>
粒子2-1、粒子3、粒子4、粒子5、粒子6、粒子7、粒子8、粒子9、粒子10、粒子11、粒子12、粒子13をそれぞれ、0.1wt%となるようにリン酸緩衝液に分散させた分散液(A液)を調製した。次に、それぞれの分散液30μlに対して、トリオレイン、レシチン、遊離脂肪酸、ウシアルブミン、トリス緩衝液から成る乳び液(B液)を60μl添加し、撹拌した直後の混合液に対して、波長572nmのける吸光度を測定した。吸光度測定はBiochrom社製分光光度計GeneQuAnt1300を用いた。そして、それぞれの混合液を37℃で5分間静置した後、再び波長572nmにおける吸光度を測定し、吸光度の変化量ΔABS×10000の値を算出した。この結果を表3にまとめた。値が大きいものほど、非特異吸着が生じると解釈されるが、実施形態にも記載した通り、リンカーAの鎖長が長くなるとA液とB液を混合した際に生じる浸透圧由来の粒子間凝集も発生するため、値が大きいからと言って必ずしも非特異吸着が生じているとは断言できない。但し、この値が大きい粒子は、リンカーAを介してリガンドを化学結合させ、ラテックス凝集用粒子として用いる場合に、実質的に、非特異吸着による粒子間凝集と浸透圧由来の粒子間凝集とを区別できないため使用しにくい。
【0067】
<リンカーAとリガンドの化学結合>
粒子2-1、粒子2-2、粒子2-3、粒子3、粒子4、粒子5、粒子6、粒子7、粒子8、粒子9、粒子10、粒子11、粒子12、粒子13をそれぞれ、1.0wt%となるようにリン酸緩衝液に分散させた分散液を1μlずつ調整した。これらの分散液に、それぞれ、0.055mgの1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド](富士フイルム和光純薬株式会社製)を10μlのリン酸緩衝液に溶解させた溶解液を加えた後、モノクローナル マウス アンチユーマン C-反応性タンパク(以下、CRP抗体)のクローンC5(フナコシ株式会社)の4.9mg/ml分散液を5μlとクローンC6(フナコシ株式会社)の5.8mg/ml分散液を5μl加え、室温で180時間振とうすることで、リンカーAの反応性官能基とリガンドとを化学結合させ、ラテックス凝集用粒子を得た。次に、4℃、15000rpm、3回の条件でラテックス凝集用粒子を遠心精製し、最終的に1mlリン酸緩衝液に分散させた分散液(以下、R2と表現する)として保存した。以下、ラテックス凝集用粒子の名称は、粒子名称をそのまま踏襲し、ラテックス凝集粒子2-1、ラテックス凝集用粒子3のように表現する。リンカーAの反応性官能基の種類が異なる場合に、反応性官能基とリガンドとの反応性がどの程度異なるかを比較する目的で、ラテックス凝集用粒子2-1、ラテックス凝集用粒子2-2、ラテックス凝集量粒子2-3のリガンド結合量を表4にまとめた。
【0068】
<ヒトCRP抗原に対する粒子間凝集性評価>
ヒトCRP(シグマ社製C4063,C反応性タンパク質 ヒト血漿由来、32mg/dl)を1μlと、緩衝液(デンカ生研 CRP-L オート「TBA」の緩衝液(R-1))を50μlとを混合した混合液(以下、R1+と表現する)を調製し、37℃に保温した。また、コントロールとして、リン酸緩衝液を1μlと、緩衝液(デンカ生研 CRP-L オート「TBA」の緩衝液(R-1))を50μlとを混合した混合液(以下、R1-と表現する)を調製し、同じく37℃に保温した。次に、実施例10で調整した各ラテックス凝集用粒子を含有するR2を50μlとR1+あるいはR1-とを混合し、撹拌した直後の混合液に対して、波長572nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定はBiochrom製分光光度計GeneQuant1300を用いた。そして、この混合液を37℃で5分間静置した後、再び波長572nmにおける吸光度を測定し、吸光度の変化量ΔABS×10000の値を算出した。この一連の評価を、実施例10において調製した直後のR2、調整後24時間経過した後のR2,調整後72時間経過した後のR2のそれぞれに対して行った。結果を表5にまとめた。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】