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  • 特許-制御装置、制御方法、およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20231220BHJP
   G06F 3/04883 20220101ALI20231220BHJP
   A63F 13/285 20140101ALN20231220BHJP
【FI】
G06F3/01 560
G06F3/01 510
G06F3/04883
A63F13/285
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019164229
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021043618
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(72)【発明者】
【氏名】大西 剛史
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 史明
(72)【発明者】
【氏名】中井 裕真
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097706(JP,A)
【文献】特開2004-265281(JP,A)
【文献】特開2004-219976(JP,A)
【文献】特表2010-528394(JP,A)
【文献】特開2015-215891(JP,A)
【文献】特表2018-507485(JP,A)
【文献】国際公開第2018/018003(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086046(US,A1)
【文献】特開2017-129916(JP,A)
【文献】特開2014-201300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
G06F 3/04883
A63F 13/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が接触する接触領域を有した入力部に対する操作がなされたと判定された場合、触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示、および聴覚を介して刺激を呈示する聴覚呈示を制御する制御部、
を備え、
前記制御部は、前記触覚呈示、および前記聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、前記入力部の利用者にとって知覚可能であり、かつ前記利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、前記触覚呈示に係る波形の特徴量および前記聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御し、
前記触覚呈示に係る波形の特徴量は、振動によって生じる前記接触領域の変位が、前記変位の極小値から第1の所定範囲にある第1の変位となる第1の時刻から、前記変位の極大値から第2の所定範囲にある第2の変位となる第2の時刻までの所要時間である、変位立ち上がり時間であり、
前記聴覚呈示に係る波形の特徴量は、音の鋭さを示すシャープネスの最大値であるシャープネスピークであり、
前記制御部は、前記変位立ち上がり時間が前記適正範囲においてより短く、前記シャープネスピークが前記適正範囲においてより小さくなるよう、制御し、
前記適正範囲は、前記触覚呈示および前記聴覚呈示に対する評価を目的変数とし、前記変位立ち上がり時間および前記シャープネスピークを説明変数とした多変量分析により定義され、
前記目的変数は、前記変位立ち上がり時間に比例する値と前記シャープネスピークの自乗に比例する値とを加算した値で定義される、
制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、移動体に搭乗する前記利用者による前記入力部の操作に対する前記触覚呈示および前記聴覚呈示の出力を制御する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
対象物が接触する接触領域を有した入力部に対する操作がなされたと判定された場合、触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示、および聴覚を介して刺激を呈示する聴覚呈示を制御すること、
を含み、
前記制御することは、前記触覚呈示、および前記聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、前記入力部の利用者にとって知覚可能であり、かつ前記利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、前記触覚呈示に係る波形の特徴量および前記聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御すること、をさらに含み、
前記触覚呈示に係る波形の特徴量は、振動によって生じる前記接触領域の変位が、前記変位の極小値から第1の所定範囲にある第1の変位となる第1の時刻から、前記変位の極大値から第2の所定範囲にある第2の変位となる第2の時刻までの所要時間である、変位立ち上がり時間であり、
前記聴覚呈示に係る波形の特徴量は、音の鋭さを示すシャープネスの最大値であるシャープネスピークであり、
前記制御することは、前記変位立ち上がり時間が前記適正範囲においてより短く、前記シャープネスピークが前記適正範囲においてより小さくなるよう、制御すること、をさらに含み、
前記適正範囲は、前記触覚呈示および前記聴覚呈示に対する評価を目的変数とし、前記変位立ち上がり時間および前記シャープネスピークを説明変数とした多変量分析により定義され、
前記目的変数は、前記変位立ち上がり時間に比例する値と前記シャープネスピークの自乗に比例する値とを加算した値で定義される、
制御方法。
【請求項4】
コンピュータに、
対象物が接触する接触領域を有した入力部に対する操作がなされたと判定された場合、触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示、および聴覚を介して刺激を呈示する聴覚呈示を制御する制御機能、
を実現させ、
前記制御機能に、前記触覚呈示、および前記聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、前記入力部の利用者にとって知覚可能であり、かつ前記利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、前記触覚呈示に係る波形の特徴量および前記聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御させ、
前記触覚呈示に係る波形の特徴量は、振動によって生じる前記接触領域の変位が、前記変位の極小値から第1の所定範囲にある第1の変位となる第1の時刻から、前記変位の極大値から第2の所定範囲にある第2の変位となる第2の時刻までの所要時間である、変位立ち上がり時間であり、
前記聴覚呈示に係る波形の特徴量は、音の鋭さを示すシャープネスの最大値であるシャープネスピークであり、
前記制御機能に、前記変位立ち上がり時間が前記適正範囲においてより短く、前記シャープネスピークが前記適正範囲においてより小さくなるよう、制御させ、
前記適正範囲は、前記触覚呈示および前記聴覚呈示に対する評価を目的変数とし、前記変位立ち上がり時間および前記シャープネスピークを説明変数とした多変量分析により定義され、
前記目的変数は、前記変位立ち上がり時間に比例する値と前記シャープネスピークの自乗に比例する値とを加算した値で定義される、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、利用者による操作に対し、フィードバックを出力する種々の装置が開発されている。上記のような装置には、利用者の五感に対する刺激の呈示をフィードバックとして用いるものが存在する。例えば、特許文献1には、操作面に対する利用者の操作に対し、振動と音響を用いたフィードバックを出力する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-36818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるように、利用者による操作に対し、感覚刺激を用いたフィードバックを出力する場合、当該フィードバックを確実に利用者に知覚させると共に、当該フィードバックが利用者にとって不利益とならないよう制御することが重要となる。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、操作性をより向上させるフィードバックを実現することが可能な仕組みを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、対象物が接触する接触領域を有した入力部に対する操作がなされたと判定された場合、触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示、および聴覚を介して刺激を呈示する聴覚呈示を制御する制御部、を備え、前記制御部は、前記触覚呈示、および前記聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、前記入力部の利用者にとって知覚可能であり、かつ前記利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、前記触覚呈示に係る波形の特徴量および前記聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御する、制御装置が提供される。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、対象物が接触する接触領域を有した入力部に対する操作がなされたと判定された場合、触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示、および聴覚を介して刺激を呈示する聴覚呈示を制御すること、を含み、前記制御することは、前記触覚呈示、および前記聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、前記入力部の利用者にとって知覚可能であり、かつ前記利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、前記触覚呈示に係る波形の特徴量および前記聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御すること、をさらに含む、制御方法が提供される。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータに、対象物が接触する接触領域を有した入力部に対する操作がなされたと判定された場合、触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示、および聴覚を介して刺激を呈示する聴覚呈示を制御する制御機能、を実現させ、前記制御機能に、前記触覚呈示、および前記聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、前記入力部の利用者にとって知覚可能であり、かつ前記利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、前記触覚呈示に係る波形の特徴量および前記聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御させる、プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、操作性をより向上させるフィードバックを実現することが可能な仕組みが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るシステム1の構成例を示す図である。
図2】同実施形態に係る変位立ち上がり時間について説明するための図である。
図3】同実施形態に係るシャープネスピークについて説明するための図である。
図4】同実施形態に係る重回帰分析により算出した目的変数と説明変数の関係をマップ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.実施形態>
<<1.1.構成例>>
図1は、本発明の一実施形態に係るシステム1の構成例を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るシステム1は、入力装置100、制御装置200、および音響出力装置300を備えてもよい。
【0013】
(入力装置100)
本実施形態に係る入力装置100は、システム1に対する利用者の入力操作を検出し、当該入力操作に係る情報を制御装置200に対し出力する。また、本実施形態に係る入力装置100は、制御装置200が出力する制御信号に基づいて、上記入力操作を行った利用者の触覚を介して刺激を呈示する触覚呈示を行う。
【0014】
本実施形態に係る入力装置100は、例えば、図1に示すように、入力部110、検出部120、触覚呈示部130、および支持部140を備えてもよい。
【0015】
本実施形態に係る入力部110は、利用者が入力操作を行うための構成であり、入力操作に際し、対象物が接触する接触領域111を有する。ここで、上記の対象物とは、例えば、利用者の指などの身体の一部や、利用者が把持して用いるペン状のツール等であってもよい。利用者は、指や上記ツールなどを用いて接触領域111に対する押下操作やなぞり操作を行うことで、システム1に対する各種の命令を入力する。本実施形態に係る入力部110は、例えば、各種のタッチパネルであってもよい。
【0016】
本実施形態に係る検出部120は、入力部110が有する接触領域111に対する対象物の接触を検出し、当該対象物の接触に係る情報を制御装置200に対し出力する。本実施形態に係る検出部120は、例えば、接触領域111に対する利用者の入力操作に伴い変化する圧力の変化を電気信号に変換する感圧センサであってもよい。また、検出部120は、接触領域111に対する利用者の入力操作に伴い変化する静電容量の変化を電気信号に変換する静電容量センサであってもよい。
【0017】
本実施形態に係る触覚呈示部130は、利用者の触覚を介して刺激を呈示する構成である。本実施形態に係る触覚呈示部130は、例えば、検出部120が、入力部110が有する接触領域111に対象物が接触したことを検出した場合、すなわち、入力部110に対する操作がなされたと判定された場合、制御装置200が出力する制御信号に基づいて触覚呈示を行ってもよい。
【0018】
本実施形態に係る触覚呈示部130は、例えば、振動刺激を用いた触覚呈示を行ってもよい。この場合、触覚呈示部130は、振動を発生させることが可能な偏心モータ(ERM:Eccentric Rotating Mass)、リニア・バイブレータ(LRA:Linear Resonant Actuator)、ピエゾ(圧電)素子等の各種のアクチュエータであってもよい。
【0019】
一方、本実施形態に係る触覚呈示部130は、温度変化を伴う触覚呈示や、力覚に関する触覚呈示(例えば、物体に押される感覚の呈示、物体と接触した感覚の呈示、又は締め付けられる感覚の呈示など)を行う構成、または皮膚感覚に関する触覚呈示(例えば、ざらざらした感覚の呈示、又はつるつるした感覚の呈示など)を行ってもよい。本実施形態に係る触覚呈示部130は、呈示する触覚呈示の特性に応じた各種の構成を取り得る。
【0020】
本実施形態に係る支持部140は、入力部110、検出部120、および触覚呈示部130を支持する構成である。本実施形態に係る支持部140は、システム1の仕様に応じた素材および形状で形成される。
【0021】
(制御装置200)
本実施形態に係る制御装置200は、入力装置100および音響出力装置300の動作を制御する。本実施形態に係る制御装置200は、図1に示すように、制御部210および記憶部220を備えてもよい。
【0022】
本実施形態に係る制御部210は、検出部120が、入力部110が有する接触領域111に対象物が接触したと判定した場合、あるいは、検出部120が出力する電気信号に基づいて規定の入力操作がなされた判定された場合、触覚呈示部130による触覚呈示、および音響出力装置300による、利用者の聴覚を介した刺激の呈示である聴覚呈示を制御する。この際、本実施形態に係る制御部210は、触覚呈示および聴覚呈示のうちの少なくとも一つが、利用者にとって知覚可能であり、かつ当該利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲となるように、触覚呈示に係る波形の特徴量および聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御する、ことを特徴の一つとする。制御部210の機能は、例えば、例えば、CPU(Central Processing Unit)やマイクロプロセッサ等の電子回路によって構成される。本実施形態に係る制御部210が有する機能の詳細については別途詳細に説明する。
【0023】
本実施形態に係る記憶部220は、入力装置100、制御装置200、および音響出力装置300の動作に係る各種の情報を記憶する。記憶部220は、例えば、入力装置100に出力させる触覚呈示の態様や、音響出力装置300に出力させる聴覚呈示の態様を定義するための情報等を記憶する。
【0024】
(音響出力装置300)
本実施形態に係る音響出力装置300は、制御装置200が出力する制御信号に基づいて、聴覚呈示を行う。本実施形態に係る音響出力装置300は、例えば、スピーカであってもよい。
【0025】
以上、本実施形態に係るシステム1の構成例について述べた。なお、図1を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係るシステム1の構成は係る例に限定されない。例えば、本実施形態に係る入力装置100、制御装置200、および音響出力装置300が有する各機能は、単一の装置により実現されてもよい。本実施形態に係るシステム1の構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
<<1.2.詳細>>
続いて、本実施形態に係る触覚呈示および聴覚呈示の制御について詳細に説明する。本実施形態に係る制御部210は、例えば、利用者による入力部110への入力操作に対するフィードバックとして、触覚呈示部130に触覚呈示を出力させ、当該触覚呈示と同期して音響出力装置300に聴覚呈示を出力させる。このように、触覚呈示および聴覚呈示を同期して行うことで、いずれかのみが行われる場合と比較して、利用者が自身の入力操作がシステム1に認識されたことを、より明確に把握することが可能となる。
【0026】
一方、触覚呈示と聴覚呈示を同期して行う場合であっても、各呈示の態様により利用者が知覚する感覚や、想起する印象が異なることが想定される。
【0027】
例えば、触覚呈示に用いられる振動のタイミングが遅すぎる場合、利用者がフィードバックを知覚しづらくなることが想定される。また、例えば、聴覚呈示に用いる音が鋭すぎる場合、利用者がフィードバックを不快に感じる可能性がある。
【0028】
上記のような事態を回避するためには、触覚呈示および聴覚呈示のうちの少なくとも一つが利用者にとって知覚可能であり、かつ当該利用者にとって不快ではない範囲である適正範囲を精度高く規定し、当該適正範囲に従って触覚呈示および聴覚呈示を制御することが重要となる。さらには、触覚呈示および聴覚呈示のそれぞれが上記適正範囲となるように制御を行う場合、操作性をより向上させるフィードバックを実現することが可能となる。
【0029】
本願の出願人は、上記の適正範囲を規定するために、触覚呈示に係る波形の特徴量および聴覚呈示に係る波形の特徴量に着目して実験を行った。ここで、上記の触覚呈示に係る波形の特徴量とは、例えば、変位立ち上がり時間であってもよい。変位立ち上がり時間は、振動によって生じる入力部110(より正確には、接触領域111)の変位が、当該変位の極小値から第1の所定範囲にある第1の変位となる第1の時刻から、当該変位の極大値から第2の所定範囲にある第2の変位となる第2の時刻までの所要時間である。ここで、極小値は最小値であってもよい。また、極大値は最大値であってもよい。本実施形態に係る変位立ち上がり時間について、図2を参照しながら詳しく説明する。
【0030】
図2は、本実施形態に係る変位立ち上がり時間について説明するための図である。図2の縦軸は、触覚呈示部130への印加により生じる接触領域111の変位を示している。変位の単位はマイクロメートルである。図2の横軸は時間を示している。時間の単位はミリ秒である。また、図2においては、一例として、1周期の変位を示している。
【0031】
図2における振動時間VTは、制御部210による制御に基づいて触覚呈示部130が振動を出力する時間長である。ここでは一例として、振動時間VTにおいて1周期の振動が出力されている。振動時間VT以降にも、制御部210による制御に基づく触覚呈示部130の振動が停止した後の惰性の振動により、変位は生じ得る。ここで、制御パラメータとしての変位立ち上がり時間は、制御部210による制御に基づいて入力部110が振動を出力する期間内の時間に限定されてもよい。即ち、惰性で振動する区間内の時間は、制御パラメータとしての変位立ち上がり時間には含まれなくてもよい。図2に示した例では、第1の所定範囲は、最大値Mの10%であり、第1の変位は、最小値である0に最大値Mの10%を加えた変位となる。また、第2の所定範囲は、最大値Mの10%であり、第2の変位は、最大値Mから最大値Mの10%を差し引いた変位、即ち、最大値Mの90%の変位となる。そのため、変位立ち上がり時間RTは、変位が変位の最大値Mの10%になる第1の時刻T1から、変位が変位の最大値Mの90%になる第2の時刻T2までの時間である。
【0032】
なお、第1の所定範囲は0であってもよく、第2の所定範囲は0であってもよい。その場合、変位立ち上がり時間は、変位が極小値(例えば、最小値)である時刻から変位が極大値(例えば、最大値)をとる時刻までの所要時間となる。換言すると、変位立ち上がり時間は、振動が開始してから変位が極大となるまでの時間となる。
【0033】
上記のような変位立ち上がり時間が長くなるほど、接触領域111への接触が検出され触覚呈示部130への印加が行われてから実際に振動が発生するまでの時間が長くなる。すなわち、変位立ち上がり時間は、利用者が接触領域111に対する入力操作を行ってから触覚呈示が呈示されるまでの時間を規定するパラメータであるといえ、利用者による触覚呈示を用いたフィードバックの知覚に強く影響することが想定される。
【0034】
次に、本実施形態に係る聴覚呈示に係る波形の特徴量の一例について述べる。本実施形態に係る聴覚呈示に係る波形の特徴量は、例えば、音の鋭さを示すシャープネスの最大値であるシャープネスピークであってもよい。ここで、シャープネスとは、音の鋭さを示す指標であり、とりわけ、人が知覚する音の鋭さを示す指標である。典型的なシャープネスの単位はacumである。一例として、1kHzを中心とする、音圧レベルが60dBである狭帯域雑音のシャープネスが、1acumに相当する。シャープネスピークについて、図3を参照しながら詳しく説明する。
【0035】
図3は、本実施形態に係るシャープネスピークについて説明するための図である。図3には、聴覚呈示に用いられる音のシャープネスの時系列変化が示されている。図3の縦軸は、シャープネスを、また、図3の横軸は時間をそれぞれ示している。なお、時間の単位はミリ秒である。図3に示すように、本実施形態に係るシャープネスピークは、聴覚呈示に用いられる音のシャープネスの時系列変化における最大値であってよい。シャープネスピークの値が大きいほど音の鋭さが増すことから、シャープネスピークは、聴覚呈示を用いたフィードバックに対する利用者の印象、特に快不快に係る印象に強く影響することが想定される。
【0036】
実験においては、一例として、触覚呈示に振動刺激を用い、触覚呈示に係る波形の特徴量を上述の変位立ち上がり時間として定義し、変位立ち上がり時間の異なる複数の触覚呈示を規定した。また、聴覚呈示に係る波形の特徴量を上述のシャープネスピークとして定義し、音の強度の異なる複数の聴覚呈示を規定した。
【0037】
また、実験では、車両のドライビングシミュレータを用いた運転環境中において入力部110を操作する複数の被験者に対して、上記のように規定した触覚呈示と聴覚呈示の全組み合わせをそれぞれフィードバックとして呈示し、フィードバックのわかり易さ、また総合的な観点としてのフィードバックの適切さについて主観的評価を求めた。
【0038】
上記のような実験の結果、フィードバックのわかり易さについては、変位立ち上がり時間が長くなるにつれ、被験者の評価が減少することがわかった。当該結果は、変位立ち上がり時間が長くなることで、被験者の操作から振動の発生までの遅延がより大きくなり、被験者が触覚呈示を知覚しづらくなったことが要因であると想定される。
【0039】
また、総合的な観点であるフィードバックの適切さについては、変位立ち上がり時間が長くなるにつれ、また、シャープネスピークが高くなるにつれ、被験者の評価が減少することがわかった。当該結果は、上述の振動発生までの遅延に加え、音の鋭さに被験者が不快感を示したことが要因であると想定される。
【0040】
本願の出願人は上述の適正範囲をさらに精度高く規定するために、上記の被験者の評価に基づく多変量分析を行った。多変量分析とは、ある対象から得られた互いに関連のある多種類のデータを統合的に要約する等の分析作業の総称を指す。ここでは、上記の規定に基づく触覚呈示および聴覚呈示を用いたフィードバックの適切さに対する被験者の評価を目的変数とし、触覚呈示に係る変位量および聴覚呈示に係る音の強度を説明変数とした重回帰分析を行った。なお、目的変数は、下記の数式(1)を用いて求めた。数式(1)におけるx1は、上述の変位立ち上がり時間であり、x2は、シャープネスピークである。
【0041】
【数1】
…(1)
【0042】
また、図4は、重回帰分析により算出した目的変数と説明変数の関係をマップ化したものである。図4では、横軸に触覚呈示に波形の特徴量(変位立ち上がり時間)が、縦軸に聴覚呈示に係る波形の特徴量(シャープネスピーク)が示されている。また、図3では、被験者による評価の平均が複数の段階ごとに対応するハッチングで表されている。なお、図3では、複数の段階のうち被験者が好ましいと評価した段階L1~L3を含むマップの一部を示している。
【0043】
段階L1~L3は、数値が小さいほど、被験者たちが、フィードバックがより適切であると評価したこと、すなわち、フィードバックがわかり易くかつ不快ではないと評価したことを示している。このことから、変位立ち上がり時間とシャープネスピークとが、段階L1~L3の範囲に収まるように各値(パラメータ)を制御することで、利用者にとって知覚可能であり、不快ではないフィードバックを実現することが可能となる。
【0044】
以上、本実施形態に係る触覚呈示および聴覚呈示の制御について詳細に述べた。上述のような制御によれば、操作性をより向上させるフィードバックを実現することが可能となる。
【0045】
なお、上記のような触覚呈示および聴覚呈示を用いたフィードバックは、車両等の移動体に搭乗する利用者へのフィードバックに特に有効であると考えられる。例えば、利用者が車両等を運転しながら入力部110に対する操作を行う場合、車室内においては走行に伴う振動や各種の環境音が発生することが想定される。この際、例えば、移動体の振動が激しい状況において触覚呈示のみを用いたフィードバックを行う場合や、環境音が大きい状況において聴覚呈示のみを用いたフィードバックを行う場合、利用者が当該フィードバックを知覚できない事態も想定される。
【0046】
一方、本実施形態に係る制御部210によれば、上述のような多変量分析により算出した目的変数に基づく触覚呈示および聴覚呈示の両方を用いたフィードバックを行うことで、上記のような状況においても、利用者に知覚可能であるかつ不快ではない適切なフィードバックを実現することが可能である。このように、本実施形態に係る制御部210は、移動体に搭乗する利用者による入力部110の操作に対する触覚呈示および聴覚呈示の出力を制御してもよい。なお、上記では多変量分析の一例として重回帰分析を示したが、本実施形態に係る目的変数は、例えば、判別分析、ロジスティクス回帰分析、数量化1類、数量化2類などにより求められてもよい。また、実験手法は採用する多変量分析の特性に応じて設計されてよい。
【0047】
<2.補足>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0048】
例えば、上記では、触覚呈示および聴覚呈示に対する評価を目的変数とした多変量分析により適正範囲を定義し、触覚呈示および聴覚呈示のそれぞれが当該適正範囲となるように触覚呈示に係る波形の特徴量および聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御する場合を例に挙げて説明した。一方、本実施形態に係る適正範囲は、触覚呈示および聴覚呈示のそれぞれで別個に定義されてもよい。この場合、制御部210は、触覚呈示および聴覚呈示のうちの少なくとも一つが適正範囲となるように、触覚呈示に係る波形の特徴量および聴覚呈示に係る波形の特徴量を制御してよい。
【0049】
また、例えば、上記では、触覚呈示の一例として振動刺激を挙げたが、本発明に係る触覚呈示は係る例に限定されない。本実施形態に係る触覚呈示は、温度変化を伴う触覚呈示であってもよいし、力覚に関する触覚呈示であってもよい。この場合であっても、利用者による操作の検出から触覚呈示が供されるまでの時間に関する評価、および重回帰分析を行うことで、適正範囲となる時間を特定することが可能である。
【0050】
また、本明細書において説明した各装置による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、及びソフトウェアとハードウェアとの組合せのいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部又は外部に設けられる記録媒体(非一時的な媒体:non-transitory media)に予め格納される。そして、各プログラムは、例えば、コンピュータによる実行時にRAMに読み込まれ、CPUなどのプロセッサにより実行される。上記記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ等である。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1:システム、100:入力装置、110:入力部、111:接触領域、120:検出部、130:触覚呈示部、140:支持部、200:制御装置、210:制御部、220:記憶部、300:音響出力装置
図1
図2
図3
図4