(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ステージ装置、ステージ装置の調整方法、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231220BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2019189656
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 淳生
(72)【発明者】
【氏名】高坂 敦之
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-106007(JP,A)
【文献】特開2015-079812(JP,A)
【文献】特開2014-225514(JP,A)
【文献】特開平08-290485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持して移動するステージ装置であって、
ベースと、
前記ベースより上の位置で前記基板を保持する基板保持部と、
前記ベースと前記基板保持部との間に設けられ、前記基板保持部の基板保持面の形状を調整するために前記基板保持面の複数の箇所のそれぞれに対して個別に下方から力を加える複数の調整部と、
前記複数の調整部のそれぞれに対応して設けられ、締結部材を用いて、前記調整部を挟み込む形で前記ベースと前記基板保持部とを締結する複数の締結部と、
を有
し、
前記複数の調整部のそれぞれは、
前記基板保持部と接触して移動する可動部と、
前記ベースに配置され前記可動部を支持する固定部と、
前記可動部および前記固定部を貫いて前記ベースと前記基板保持部とを連通する中空部と、
を含み、
前記複数の締結部のそれぞれは、前記ベースと前記基板保持部とを接続する前記締結部材としてのロッドを含み、
前記ロッドは、前記中空部の内部に、前記可動部と同心状に配置される、ことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記複数の締結部のそれぞれは、前記ベースと前記基板保持部とを締結している締結状態と、前記ベースと前記基板保持部との締結が解放された解放状態とに切り替え制御可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記複数の調整部のうちの少なくとも1つの調整部において調整を行う間、前記複数の締結部のうちの前記少なくとも1つの調整部に対応する少なくとも1つの締結部を前記解放状態に切り替えることを特徴とする請求項2に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記複数の締結部のそれぞれは、
前記ベースに設けられ、前記ロッドを引き込むように駆動する駆動部
を更に含み、
前記駆動部により前記ロッドを所定の力で引き込むことによって前記締結状態を得ることを特徴とする請求項2または3に記載のステージ装置。
【請求項5】
前記複数の調整部のそれぞれは、
前記可動部を駆動するアクチュエータ
を更に含むことを特徴とする請求項4に記載のステージ装置。
【請求項6】
前記可動部は、前記基板保持部に前記力を加えた方向とは異なる方向への前記基板保持部の変位を許容するためのチルト機構を含むことを特徴とする請求項
1乃至
5のいずれか1項に記載のステージ装置。
【請求項7】
前記複数の調整部のそれぞれは、前記固定部の上で前記アクチュエータによって水平方向に移動するクサビ部材を更に有し、
前記可動部は、前記クサビ部材の移動に伴って上方向に移動する
ことを特徴とする請求項
5に記載のステージ装置。
【請求項8】
前記固定部は、非圧縮性流体を満たす容器を形成しており、
前記複数の調整部のそれぞれは、前記容器に満たされている前記非圧縮性流体の液面をシールするダイヤフラムを更に有し、
前記アクチュエータは、前記容器に非圧縮性流体を送り込むように構成されており、
前記可動部は、前記アクチュエータによって前記容器に非圧縮性流体が送り込まれたことによる前記ダイヤフラムの変形に伴って上方向に移動する
ことを特徴とする請求項
5または7に記載のステージ装置。
【請求項9】
前記ベースに対する前記基板保持部の水平方向の位置決めを行う位置決め機構を更に有し、
前記複数の締結部を前記解放状態にした後、前記位置決め機構により前記位置決めを行い、前記位置決めがなされた後、前記複数の締結部を前記締結状態にする
ことを特徴とする請求項2乃至
5、7、8のいずれか1項に記載のステージ装置。
【請求項10】
前記複数の調整部のそれぞれと前記複数の締結部のそれぞれを制御する制御部と、
前記基板保持部によって保持された前記基板の平面度を計測する計測部と、を更に有し、
前記基板保持面は複数の領域に分割されており、
前記制御部は、前記計測部の計測結果に基づいて、前記少なくとも1つの締結部を前記解放状態にした後、前記複数の領域のうち隣接する領域の端部の間の段差が小さくなりかつ前記基板保持面が平坦になるように、前記少なくとも1つの調整部を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載のステージ装置。
【請求項11】
基板を保持して移動するステージ装置であって、
ベースと、
前記ベースより上の位置で前記基板を保持する基板保持部と、
前記ベースと前記基板保持部との間に設けられ、前記基板保持部の基板保持面の形状を調整するために前記基板保持面の複数の箇所のそれぞれに対して個別に下方から力を加える複数の調整部と、
前記複数の調整部のそれぞれに対応して設けられ、締結部材を用いて、前記調整部を挟み込む形で前記ベースと前記基板保持部とを締結する複数の締結部と、
前記ベースに対する前記基板保持部の水平方向の位置決めを行う位置決め機構と、
を有し、
前記複数の締結部のそれぞれは、前記ベースと前記基板保持部とを締結している締結状態と、前記ベースと前記基板保持部との締結が解放された解放状態とに切り替え制御可能に構成され、
前記複数の締結部を前記解放状態にした後、前記位置決め機構により前記位置決めを行い、前記位置決めがなされた後、前記複数の締結部を前記締結状態にする、
ことを特徴とするステージ装置。
【請求項12】
ベースと、前記ベースより上の位置で基板を保持する基板保持部と、前記ベースと前記基板保持部との間に設けられ、前記基板保持部の基板保持面の形状を調整するために前記基板保持面の複数の箇所のそれぞれに対して個別に下方から力を加える複数の調整部と、前記複数の調整部のそれぞれに対応して設けられ、締結部材を用いて、前記調整部を挟み込む形で前記ベースと前記基板保持部とを締結する複数の締結部と、を有するステージ装置の調整方法であって、
前記複数の調整部のそれぞれは、
前記基板保持部と接触して移動する可動部と、
前記ベースに配置され前記可動部を支持する固定部と、
前記可動部および前記固定部を貫いて前記ベースと前記基板保持部とを連通する中空部と、
を含み、
前記複数の締結部のそれぞれは、前記ベースと前記基板保持部とを接続する前記締結部材としてのロッドを含み、
前記ロッドは、前記中空部の内部に、前記可動部と同心状に配置されており、
前記調整方法は、
前記複数の調整部のうちの少なくとも1つの調整部において調整を行うために、前記複数の締結部のうちの前記少なくとも1つの調整部に対応する少なくとも1つの締結部を、前記ベースと前記基板保持部との締結が解放された解放状態にする工程と、
前記少なくとも1つの締結部が前記解放状態にされた後、前記少なくとも1つの調整部による調整を行う工程と、
前記少なくとも1つの調整部による調整が行われた後、前記少なくとも1つの締結部を、前記ベースと前記基板保持部とを締結する締結状態にする工程と、
を有することを特徴とする調整方法。
【請求項13】
基板を露光する露光装置であって、
前記基板を保持する、請求項1乃至1
1のいずれか1項に記載のステージ装置を有することを特徴とする露光装置。
【請求項14】
請求項1
3に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含み、前記現像された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置、ステージ装置の調整方法、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ等の製造工程であるリソグラフィ工程において、ステップ・アンド・スキャン方式(スキャナー方式)の露光装置が用いられる。スキャナー方式の露光装置は、スリット状の露光領域でのみ露光光を照射しながらフォトマスク(原版)とガラス基板とを走査方向に同期駆動させ、マスクに形成されたパターンを光によって基板上に転写する。フラットパネルディスプレイの高精細化・高性能化に伴い、転写されるパターンの微細化が進んでおり、スキャナー方式の露光装置には、高い解像力を実現することが求められている。
【0003】
解像力を向上させるには、投影光学系の開口率(NA)を大きくする方法が一般的である。ところが、レイリーの式に従えば、露光装置の解像力は投影光学系の開口率(NA)に反比例して向上するのに対し、投影光学系の焦点深度(DOF)は開口率の2乗に反比例して小さくなる。すなわち、解像力と焦点深度は一般にはトレードオフの関係にある。そのため、高い解像力を持つ投影光学系を使用した露光装置においては焦点深度を確保することが非常に重要な課題となる。
【0004】
所望の解像力を実現するためには、光学系の収差やマスク平面度、基板平面度などのさまざまなフォーカス阻害要因の総和が、焦点深度内に収まっている必要がある。したがって、高い解像力を達成するためには、基板と接して基板を保持する基板保持部には高い平面度が求められることが一般的である。加えて、部材の経時変化や装置温度などの装置環境の変化に対する余裕も小さくなるため、その高い基板平面度を長期にわたり保つ、あるいは装置メンテナンスとして再調整を行うなどして平面度を維持していく必要がある。
【0005】
基板保持部の高い平面度を実現するために、基板保持部の高精度加工や組み立て時の高さ調整が実施される。特許文献1では、加工時には実使用時と同じ応力状態を再現した状態で加工を行い、基板保持部の組み立て時には基板保持部の直下に高さ調整部を設け、高さ方向に駆動させることで所定の平面度を実現することが記載されている。また、特許文献1では、基板保持部と調整可動部(調整部には高さ方向に駆動する可動部と、ベース側に固定される固定部がある)との間の結合状態を真空吸着あるいは磁気により切り替え可能にしている。そして、高さ調整部の駆動前に結合解除、駆動後に再結合するというステップを踏んで基板保持部の平面度調整が行われる。これにより、高さ調整に伴って基板保持部に発生する歪みに起因する応力の発生および残留を防止し、残留応力が経時的に緩和されることによって発生する平面度変化を防ぐ、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、基板保持部は基板を吸着して保持する機能が必要であるため、基板と同程度の大きさを有する必要があり、例えばG8.5世代では一辺が2500mmにも及ぶ。基板保持部の材質はアルミニウムなどの軽金属あるいはセラミックスなどが用いられることが多いが、一体での製作は、材料の入手性の問題や、加工機が限定されるなどの問題があり、製作が困難あるいは非常に高コストである。また、一体での製作が可能としても、このサイズの基板の全面を吸着保持できるほどの大型の基板保持部を高い平面度で加工するためには、相応の部材剛性が必要とされる。これは基板保持部が厚く、そして重くなることを意味する。基板保持部は基板ステージ上に構成され、基板ステージとともに平面内に駆動する部材であるため、この部材の重量増加は基板ステージのアクチュエータの負荷を増大させ、基板ステージの不要な巨大化を招く。
【0008】
これに対し、基板保持部を複数に分割し一つ一つのサイズを小さくすることにより、材料の入手性や加工機制限等の問題は軽減させることができる。しかし、単品の加工精度を向上させるためには、一体の場合と同様に部材剛性を高くする必要がある。また、基板保持部を分割した場合は隣接する基板保持部間の隣接辺で高さ差が発生するが、このような箇所では平面度が急峻に変化することになるため、露光時にパターン不良が発生してしまう場合がある。そのため、隣接辺付近の調整にはより精度が求められる。
【0009】
このような状況を鑑みた場合、特許文献1の技術では次のような不都合が発生する。特許文献1では、基板保持部と調整可動部の結合を真空吸着、または磁気力の補助による真空吸着により行うとしているが、これらの結合力と基板保持部の剛性との関連性に関する記述はない。そのため、基板保持部を部分的に調整するためには、基板保持部を変形させる場合に、調整量次第で基板保持部の剛性が真空吸着力に打ち勝ってしまう場合が想定され、調整が不安定になるばかりか調整不可能な場合も生じうる。例えば、部分的に5μm高さを下げる方向に調整を行おうとした場合、真空吸着の結合力によりチャックを5μm局所的に変形させる必要があるが、真空吸着力によって2μmしか変形できなければ、3μmは調整不可能分として残留してしまう。調整量がさらに大きくなった場合、真空リークが大きくなり結合力がさらに弱くなってしまうため、調整が全くできなくなってしまう場合もありうる。
【0010】
更に特許文献1では、基板保持部を調整可動部と結合させているが、基板保持部の剛性と調整部自体の剛性(調整可動部と調整固定部との間の剛性)の関連性に関する記述がない。そのため、同様の理由で調整部が変形してしまって調整が不安定になるばかりか調整不可能な場合も生じる。例えば、部分的に高さを5μm下げる方向に調整部を駆動させた場合、調整部と基板保持部の剛性比に応じて調整可動部自体が上方に引っ張り上げられてしまう。そうすると、調整部は5μm下げたものの3μm上方に変形し、基板保持部は2μmしか下げられない、という状況が発生しうる。基板保持部を5μm下げるためには程度調整部をもっと下げてから真空吸着を行う必要があるが、吸着開始時の真空リークが大きくなり結合力がさらに弱くなってしまい、調整不可能になってしまう場合もある。
【0011】
特許文献1の調整機構は調整に不安定性を抱えており、調整精度に難があるばかりか、調整量次第では調整自体が不可能になる場合もありうる。また、調整精度が低いために所定の精度を達成するためには何度も繰り返し追い込み調整を行う必要があり、調整に時間を要する。
【0012】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであって、例えば、基板保持部の平面度の精度と調整速度の両立に有利なステージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面によれば、基板を保持して移動するステージ装置であって、ベースと、前記ベースより上の位置で前記基板を保持する基板保持部と、前記ベースと前記基板保持部との間に設けられ、前記基板保持部の基板保持面の形状を調整するために前記基板保持面の複数の箇所のそれぞれに対して個別に下方から力を加える複数の調整部と、前記複数の調整部のそれぞれに対応して設けられ、締結部材を用いて、前記調整部を挟み込む形で前記ベースと前記基板保持部とを締結する複数の締結部と、を有し、前記複数の調整部のそれぞれは、前記基板保持部と接触して移動する可動部と、前記ベースに配置され前記可動部を支持する固定部と、前記可動部および前記固定部を貫いて前記ベースと前記基板保持部とを連通する中空部と、を含み、前記複数の締結部のそれぞれは、前記ベースと前記基板保持部とを接続する前記締結部材としてのロッドを含み、前記ロッドは、前記中空部の内部に、前記可動部と同心状に配置される、ことを特徴とするステージ装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、基板保持部の平面度の精度と調整速度の両立に有利なステージ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施形態における基板ステージの構成を示す図。
【
図3】実施形態における基板ステージの詳細な構成を示す図。
【
図7】実施形態における基板保持部の位置決め機構の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
まず、本発明のステージ装置が適用される露光装置の説明をする。なお以下の説明では具体的な構成、動作等を示して説明を行うが、これらは適宜変更することができる。
【0018】
図1は、実施形態における露光装置の概略図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。一般には、被露光基板である基板Wはその表面が水平面(XY平面)と平行になるように基板ステージ20の上に置かれる。よって以下では、基板Wの表面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向といい、X軸周りの回転方向、Y軸周りの回転方向、Z軸周りの回転方向をそれぞれθx方向、θy方向、θz方向という。
【0019】
露光装置は、投影光学系10、基板Wを保持するステージ装置としての基板ステージ20、原版であるマスクMを保持するマスクステージ30、照明光学系40、干渉計50、本体ベース60を含みうる。投影光学系10は、マスクステージ30によって保持されたマスクMのパターンを基板ステージ20によって保持されている基板Wに投影する。この投影は、マスクMに向けて照射される照明光学系40の光源の光を利用し、マスクMから発せられる回折光によって行われる。また、照明光学系40とマスクMとの間には、観察光学系41が配置されうる。観察光学系41は、マスクMと投影光学系10によって基板W上に結像される像を観察することができる。
【0020】
マスクMはマスクステージ30内のマスク保持部32の上に吸着保持されている。マスク保持部32はマスクステージベース31上に配置されている。マスクステージ30がX方向およびY方向に移動することで、マスクMはX方向およびY方向に移動可能である。なお、ここでは、Y方向を走査露光におけるスキャン方向(走査方向)、X方向をステップ方向(非走査方向)とする。すなわち、投影露光時にマスクステージ30と基板ステージ20が同期走査される方向はY方向である。また、マスクMは、X、Y方向の2軸で形成されるX、Y面内で回転する回転方向(θz方向)にも移動可能である。
【0021】
投影露光により、マスクMから基板Wへのパターンへの転写は、マスクMと基板Wの倍率比と同じ速度比で同期走査することにより行われる。このマスクMのパターンが転写される基板W上の個々の領域のことをショット領域という。なお、基板W上には、各ショット領域とマスクとのアライメントに使用される不図示のアライメントマークが形成されている。このアライメントマークは、観察光学系41によって観察可能である。
【0022】
干渉計50は、マスクステージ30と基板ステージ20のそれぞれの位置を計測する。干渉計50は、検出光の光源となるレーザーヘッド51、ビームスプリッタ52、折り曲げミラー53、検出光を反射するバーミラー54および55を含みうる。
【0023】
基板ステージ20は、少なくともXYの2軸方向に駆動可能なステージ装置である。基板ステージ20は、マスクMに対して基板Wを所定の露光位置(ショット位置)に移動させ、観察光学系41によるアライメントマークの計測結果から得られる補正値に基づいて位置合わせされうる。その後、基板ステージ20は、走査露光時に、マスクステージ30と同期して走査駆動されうる。また、基板ステージ20は、位置合わせやフォーカス補正のために、Z、θx、θy、θzの各方向にも駆動されうる。ただし、
図1には、基板ステージ20の各方向への駆動機構はいずれも不図示である。本体ベース60の上にステージベース21が配置され、バーミラー54や基板Wは、ステージベース21の上に配置される。
【0024】
制御部70は、露光装置の各部を制御する。制御部70は、CPUおよびメモリを含むコンピュータによって実現されうる。制御部70は、露光装置の各部と有線または無線で接続され、上記した露光装置の各部とは隔離された場所に設置されうる。これにより、露光装置は遠隔操作されうるようになっている。
【0025】
図2は、基板ステージ20の構成を示す図である。本体ベース60の上にステージベース21が配置され、ステージベース21の上に基板保持部ベース220(ベース)が配置される。また、基板保持部ベース220とステージベース21との関係性は、本開示においては重要ではない。基板保持部ベース220とステージベース21とは、別部材で互いに固定されていてもよいし、両者が何らかの駆動軸を介して結合されていてよい。あるいは、基板保持部ベース220とステージベース21とは、一体で構成されていてもよい。ステージベース21には、Z、θx、θy、θzの各方向への駆動機構が設けられるが、それらの構成の図示および説明は省略する。
【0026】
基板保持部ベース220より上の位置には、基板Wを保持する基板保持部230が配置されている。基板保持部ベース220と基板保持部230との間には、複数の調整部240が配置されている。複数の調整部240は、基板保持部230の基板保持面の形状を調整するために基板保持面の複数の箇所のそれぞれに対して個別に下方から力を加えるように構成されている。基板Wは、基板保持部230に対して真空吸着によって固定される。実施形態において、基板保持部230の基板保持面は複数の領域に分割されている。基板保持部230には、基板Wを吸着固定するための吸着溝や空圧配管、空圧制御機器などが設けられるが、それらの構成の図示および説明は省略する。また、ステージベース21の上には、干渉計50のバーミラー54も配置されている。
【0027】
基板保持部230の基板Wと接する基板保持面の平面度は、
図1に示されている高さセンサ42(計測部)によって計測されうる。高さセンサ42は露光装置の内部に設けられていてもよいし、露光装置の外部に設けられていてもよい。基板保持部230をXY方向に移動させながら複数箇所を高さセンサ42で基板保持部230のZ方向の高さを計測することにより、基板保持部230の平面度を計測することができる。
【0028】
図3は、基板ステージ20の詳細な構成を説明する図である。複数の調整部240のそれぞれは、基板保持部230と接触して移動する可動部242と、基板保持部ベース220に配置され可動部242を支持する固定部241と、可動部242を駆動するアクチュエータ243とを含みうる。アクチュエータ243は、モータ、減速機構、駆動変換機構などを含み、更に、ドライバ基板、制御基板、モータの駆動位置を算出するエンコーダ、原点センサなどを含んでいてもよい。なお、アクチュエータ243には、上位の制御システムや電源回路等と接続される不図示のケーブルも配置されうる。固定部241は、基板保持部ベース220の上に固定されている。可動部242は、固定部241に対してZ方向に動作可能である。アクチュエータ243から出力される直動あるいは回転駆動量が、固定部241の内部でZ方向の直動に変換され、可動部242のZ方向への駆動として出力される。調整部240の具体的構成は、アクチュエータ243の種類やZ変換機構の種類等に応じて種々考えうるが、一例を
図4に示す。
【0029】
図4の調整部240は、Z変換機構としてクサビ機構を採用し、アクチュエータ243の出力としてすべり送りねじの直動駆動量を採用したものである。調整部240は、固定部241の底部241bの上でアクチュエータ243によって水平方向(Y方向)に移動するクサビ部材241aを有する。クサビ部材241aの上面は、Y方向に対して傾斜する斜面になっている。このクサビ部材241aの上に可動部242が搭載されている。クサビ部材241aの上面と当接する可動部242の下面は、可動部242の上面が水平になるようにクサビ部材241aの上面の斜面に対応する斜面となっている。可動部242は、固定部241の縦壁によってX方向およびY方向への動きは規制されており、Z方向への移動のみ可能とされている。
【0030】
クサビ部材241aの側面には、クサビ部材241aをY方向へ駆動するための、Y方向に延びる送りねじ243aが取り付けられている。送りねじ243aの回転は、減速機243bを介して回転モータ243cによって与えられる。送りねじ243aが回転することによりクサビ部材241aがY方向に移動する。可動部242は、クサビ部材241aのY方向への移動に伴って、クサビ比に従う量、上方向(Z方向)に移動する。
【0031】
この際、クサビ比を25~100のように大きくとることにより、この機構のZ方向の分解能を高くすることができる。また、減速機243bの減速比を適切に設定することで回転モータ243cの出力も小さくとることができ、全体として非常に小さいモータで機構を実現することができる。このことは調整部240が配置されるスペースの抑制につながり、ステージ全体の小型・軽量化に役立つ。
【0032】
減速機243bの機構には、ウォームギア、ギアトレイン、遊星ギア列などを採用することができる。回転モータ243cには、DCモータ、ステッピングモータ、ACモータ、超音波モータなど、様々な種類の回転モータを使用できる。また、回転モータ243cにはエンコーダを配してもよく、エンコーダを使って調整部240の駆動量を推定することが可能である。減速機による減速比、およびねじ機構の減速比、クサビ機構による減速比の積が、機構全体の減速比である。本機構は、減速比が非常に大きい機構となっているため、エンコーダ分解能が比較的粗くてもサブミクロンオーダーのZ方向分解能が実現できる。そのため、円板に円状に多数配されたスリットをフォトインタプタにより検出するような簡素なものでも十分な分解能を実現可能である。また、クサビ機構をすべり送りねじで駆動する機構は、-Z方向の力に対しては内部摩擦によりセルフロックする機構であるため減速機やモータ軸が逆回転させられることはなく、-Z方向の剛性が非常に大きい機構となっている。また、クサビ機構は+Z方向には剛性がゼロの機構であるが、以下で説明するように、締結部250によって、調整部240を介して基板保持部230と基板保持部ベース220とが締結されるため、-Z方向の剛性のみを考えればよい。
【0033】
実施形態における基板ステージは、複数の締結部250を有する。複数の締結部250のそれぞれは、複数の調整部240のそれぞれに対応して設けられ、締結部材を用いて、調整部240を挟み込む形で基板保持部ベース220と基板保持部230とを締結する。締結部250は、基板保持部ベース220と基板保持部230との間でZ方向に延びて両者を接続する締結部材としてのロッド252と、ロッド252を駆動する駆動部251とを有する。基板保持部230には貫通孔が形成されておりそこをロッド252が貫通する。ロッド252の頭部252aはその貫通孔より大きな径を有しており、頭部252がその貫通孔を貫通することはできない。また、基板保持部230には、貫通孔の上部において頭部252を収容する凹部が形成されており、通常時において頭部252が基板保持部230の上面より上に突出しないようにされている。
【0034】
駆動部251は、基板保持部ベース220の内部に構成されており、ロッド252の先端部は、駆動部251に取り付けられている。駆動部251は、ロッド252の引き込み/解放を行う。駆動部251がロッド252を所定の力Fで引き込むことにより、調整部240を介して基板保持部230と基板保持部ベース220とが力Fで結合される。実現例としては、エアシリンダにより押し引き駆動する方式、油圧シリンダにより押し引き駆動する方式、引き込み力Fはばね等で発生させ、引き込み力Fをキャンセルする押し上げ力を直動シリンダ等で付与し締結解放を行う方法等、様々考えられる。エアシリンダの代わりに電動の直動アクチュエータを使用してもよいし、省スペース化のためにシリンダに倍力機構を搭載してもよい。また、ロッド252にねじを形成し、駆動部251に内蔵したモータでねじを回転させ、トルクリミッタにより規定トルクを付与してねじ締結する方式でもよい。
【0035】
この締結部250は、流体駆動であればチューブを、電動であればケーブルを基板保持部の外部に延伸することが容易であり、制御部70あるいは外部の制御機器から遠隔操作を行うことが可能である。調整部240、締結部250はともに外部から遠隔操作ができるような構成にすることで、非常に短時間で平面度調整を実施することが可能になる。
【0036】
締結部250に必要とされる締結力Fは、次のようにして決定されうる。
【0037】
まず、基板保持部230に必要な調整量を定める。基板保持部ベース220の上面の平面度、基板保持部230の平面度、隣接する基板保持部230間の厚み差など、平面度の低下要因が抽出され、その総和が必要最大調整量として決定される。
【0038】
次に、決定された必要最大調整量を複数の基板保持部230のそれぞれの支持調整点に付与したときに発生する反力が、FEM等を用いて算出される。算出された反力に安全係数を掛け合わせた数値が、必要締結力として決定される。
【0039】
締結部250がこの締結力Fを発生させている限り、締結部250による挟み込み結合によって基板保持部230、調整部240、基板保持部ベース220が密着することが保証される。この状態においては、調整部240の駆動量がそのまま基板保持部230の平面度の変化量に反映されることになり、これにより、高精度に平面度を調整することができる。
【0040】
次に、平面度の調整方法および調整部240の駆動量の算出方法について説明する。上記したように、基板保持部230の平面度は、高さセンサ42を用いて計測されうる。平面度は、基板ステージ20を逐次駆動し、高さセンサ42により基板保持部230の全面を所定の間隔で計測することにより求められる。
【0041】
次に、複数の調整部240のそれぞれの調整量が算出される。例えば、複数の調整部240のそれぞれについて、複数の調整部240の駆動量と基板保持部230の変形量との関係が、FEMあるいは実測により予め求められ、補正テーブルとして記憶されている。その補正テーブルと平面度の計測結果から、調整後の平面度が最小になるように複数の調整部240それぞれの調整量を、最小二乗法等を用いて逆算する。
【0042】
このように算出された複数の調整部240それぞれの調整量でもって複数の調整部240それぞれを調整することにより、基板保持部の複数の領域間の段差や局所的な凹凸まで含めて高精度に調整することが可能になる。しかし、この場合には、基板保持部230の内部に応力が残留し、この残留応力が経時的に緩和されることにより、平面度の変化が発生する可能性がある。
【0043】
そこで本実施形態では、複数の締結部250のそれぞれは、基板保持部ベース220と基板保持部230とを締結している締結状態と、基板保持部ベース220と基板保持部230との締結が解放された解放状態とに切り替え制御可能に構成される。複数の調整部240のうちの少なくとも1つの調整部において調整を行う間、複数の締結部250のうちの上記少なくとも1つの調整部に対応する少なくとも1つの締結部を解放状態に切り替えることができる。
【0044】
例えば、制御部70は、複数の調整部240のそれぞれと複数の締結部250のそれぞれを制御するように構成されている。制御部70は、計測部である高さセンサ42の計測結果に基づいて、少なくとも1つの締結部を解放状態にした後、複数の領域のうち隣接する領域の端部の間の段差が小さくなりかつ基板保持面が平坦になるように、上記少なくとも1つの調整部を制御する。
【0045】
上記構成により、次のようなステージ装置の調整方法が実現される。いったん締結部250の結合が解放される。締結部250の結合が解放された後、前工程で算出された複数の調整部240それぞれの調整量でもって少なくとも1つの調整部による調整が行われる。調整が行われた後、締結部により締結状態にされる。調整部による調整においては、各調整部を順次駆動してもよいし、全ての調整部を同時に駆動してもよい。この際、各調整部におけるアクチュエータ243に内蔵されたエンコーダの情報を用いて駆動量を保証するようにしてもよい。あるいは、高さセンサ42を用いて各調整部の支持調整箇所またはその近傍を計測して、その計測結果に基づいて駆動量を保証するようにしてもよい。前者の場合は、駆動精度はエンコーダと調整部240全体の駆動精度に依存してしまう。しかし、その分全ての調整機構を同時に駆動させることが可能であるため、調整時間自体は短縮できる。後者の場合は、調整部240それぞれの支持調整箇所またはその近傍において高さセンサ42を用いた計測が必要であるため、逐時ステージを移動させる必要がある。さらに各支持調整箇所で、計測、締結解放、調整部の駆動、締結、計測のステップを踏んで、所定の調整量駆動されているかどうかを保証することになる。そのため、調整精度は高いが調整時間自体は長くなる。 調整部240に弾性がある場合、締結力Fと弾性定数に応じた量、調整部が変形しうる。この場合、予め弾性定数を計算または実測しておき、補正テーブルに補正値として加算しておくことで、弾性の影響を考慮した調整が可能である。ただし、誤差成分が増えてしまうことになるため、その分調整精度が低下する可能性はある。したがって、調整部240が剛であるほうが調整精度という観点からは有利である。
【0046】
同様の考え方で、基板保持部ベース220の剛性が基板保持部230の剛性に対して無視できない場合が考えられる。この場合も、基板保持部ベース220の剛性を含めたFEMを実施して補正テーブルを作成することで補正が可能である。しかし、この場合もやはり、誤差成分が増えてしまうことには違いないため、基板保持部230に比して剛であるほうが望ましい。
【0047】
実施形態において、ロッド252は、可動部242と同心状(同軸状)に配置される。例えば、可動部242および固定部241を貫いて基板保持部ベース220と基板保持部230とを連通する中空部246が形成されている。ロッド252がこの中空部246の内部に配置されることにより、ロッド252は、可動部242と同心状(同軸状)に配置されうる。これにより、締結力Fの作用点のずれによるモーメントの発生を防ぐことができる。また、基板保持部230の変形が複雑化し平面度調整のための補正テーブルの誤差成分が大きく発生してしまうことを防ぐこともできる。以上のような構成によれば、平面度の調整を高精度に行うことができる。
【0048】
基板保持部230を締結部250による締結を行う際に基板保持部230の位置がずれると、締結力Fの作用点がずれてモーメントが発生し、そのモーメントに伴って基板保持部230の平面度が変化する可能性がある。そのため、締結部250が解放状態にされた後、基板保持部230の位置決めを行い、位置決めがなされた後、締結状態にすることが望ましい。したがって、基板保持部230の位置ずれを修正するための位置決め機構を、基板保持部230と基板保持部ベース220との間に設けてもよい。
【0049】
図7に、基板保持部230の位置決め機構の一例を示す。位置決め機構は、基板保持部ベース220に対する基板保持部230の水平方向(XY方向)の位置決めを行う。
図7(a)は側面図、
図7(b)は基板Wを取り去った状態の平面透視図である。基板保持部230には、基板保持部ベース220に向かって突出する位置決めピン253が2つ設けられている。また、基板保持部ベース220上には、それぞれの位置決めピン253をX方向またはY方向に沿って挟むように、位置決め部材254と押圧部材255が設けられる。具体的には、一方の位置決めピン253をY方向に沿って挟むように、位置決め部材254と押圧部材255が設けられ、他方の位置決めピン253をX方向に沿って挟むように、位置決め部材254と押圧部材255が配置される。一例において、
図7(b)に示されるように、2つの位置決め部材254の位置決めピン253との当接部は、一方はV字型、他方は平面型とされる。締結部250による締結前に、押圧部材255で位置決めピン253を押し込むことで基板保持部230が移動する。この押圧によって位置決めピン253が位置決め部材254に突き当たることで位置決めが行われる。
【0050】
この位置決めがなされた状態で締結部250による締結が行われる。締結が完了したら、押圧部材255による押圧は解除してもよい。なお、押圧部材は、例えば、エアシリンダ、電動アクチュエータ等によって構成されうる。また、ばねなどを用いて常に押圧が行われるようにしてもよい。
【0051】
また、
図7の例では、基板保持部230に設けられた位置決めピン253を位置決め部材254に押し付けることにより位置決めを行っているが、他の構成により位置決めを行うようにしてもよい。例えば、位置決め部材254に孔を設け、位置決めピン253をその孔に差し込むことにより位置決めを行ってもよい。この方式はアクチュエータがいらないため簡便で低コストで実現可能である。ただし、位置決めピン253を差し込むための孔の位置の精度が低い場合には、位置決めの誤差が大きくなる可能性がある。孔の位置ずれによって発生する基板保持部230の平面度変化量が許容範囲内であれば、この方式を利用することも可能である。
【0052】
以上のように、本実施形態では、締結部250を一旦解放して調整部240の調整を行い、その後、締結部250を再度締結する。これにより、応力状態および平面度を再度調整時と同じ状態に戻すことが可能である。
【0053】
なお、締結部250が外部から遠隔操作できるように構成されていれば、解放および締結は装置外部から指令により短時間で実施可能である。そのため、装置運用中にメンテナンス動作として機能を盛り込むことも可能であり、平面度の維持に好適である。
【0054】
(変形例)
調整部240の変形例を
図5に示す。
図5では、非圧縮性流体の体積移動をZ駆動量に変換する調整機構が採用されている。
図5の例では、固定部241は、非圧縮流体を満たす容器を形成している。固定部241(容器)の内部には、オイルのような非圧縮性流体245が充填されており、非圧縮性流体245の液面はダイヤフラム244でシールされている。可動部242の両端部はダイヤフラム244に接続されている。非圧縮性流体245は、ピストン式のアクチュエータ243からチューブを介して固定部241の内部に送られる。アクチュエータ243から送られた非圧縮性流体の量に応じて内部における非圧縮性流体245の体積が変化し、それに応じてダイヤフラム244が変形する。ダイヤフラム244が変形することで可動部242が上方向(Z方向)に移動する。
【0055】
ピストン式のアクチュエータ243と固定部241とを接続するチューブの長さは任意である。よって、アクチュエータ243は基板保持部ベース220の外部にあってもよい。そのため、ピストン部を外部から制御することで基板保持部230を遠隔調整することが可能である。
【0056】
調整部240の中央部(Z軸中心)には中空部246が形成されており、その中空部246を通して、締結部250により、基板保持部230と基板保持部ベース220とが、調整部240を挟み込む形で結合される。このような構造により、流体を使用した調整部でも高精度に調整することが可能である。また、非圧縮性流体245の非圧縮性が完全なものではない場合、ダイヤフラムやチューブの弾性によって、機構が弾性を持つことが考えられる。そのような弾性を予め実測し、補正テーブルに加味することにより、調整精度を向上させることができる。
【0057】
非圧縮性流体を用いた調整部は、可動部242に関してX軸周りおよびY軸周りの傾斜自由度を持つ2軸チルト機構を有する。すなわち、可動部242は、基板保持部230に力を加えた方向とは異なる方向への基板保持部の変位を許容するためのチルト機構を含むことができる。この2軸チルト機構の効果により、基板保持部230の裏面の平面度の影響を受けにくい構造になっており、また、基板保持部230全体を均一に傾けるような駆動をした際の局所的な曲げの影響がなくなるため、調整精度の点で有利である。
【0058】
このような2軸チルト機構を、前述したクサビ機構による調整部(
図4)にも適用することができる。一例として、
図6に、可動部242の上に2軸チルト機能を有する支持部材を有する調整部240の構成を示す。
図6において、可動部242の上に、基板保持部230を支持する支持部材256が設けられている。支持部材256の上面は、基板保持部230を受けるために平面とされている一方、支持部材256の下端部は、凸球面とされている。支持部材256が配置される可動部242の上面には、球面座242aが形成されている。球面座242aは、凸球面とされた支持部材256の下端部を抱持するように凹球状に形成されている。支持部材256は、可動部242の球面座242aによって揺動回転自在に支持される。こうして揺動回転自在に支持された支持部材256は、基板保持部230の裏面の平面度のばらつきを吸収する、いわゆる「かわし」機構としての役割を果たす。
【0059】
なお、かわし機構は、この他にも、球面+3点支持、ヒンジ機構等、種々の構成で実現可能である。ただし、そのかわし機構の弾性は考慮する必要がある。前述のように、かわし機構の弾性を予め計測しておき、その影響を補正テーブルに加味しておくことで補正が可能である。
【0060】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態に係る物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0061】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0062】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0063】
220:基板保持部ベース、230:基板保持部、240:調整部、241:固定部、242:可動部、243:アクチュエータ、250:締結部、251:駆動部、252:ロッド