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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231220BHJP
   C08K 5/1545 20060101ALI20231220BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231220BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231220BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K5/1545
C08K3/36
C08K3/04
B60C1/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019227811
(22)【出願日】2019-12-18
(65)【公開番号】P2021095507
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】庄田 靖宏
(72)【発明者】
【氏名】荻原 明子
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-512747(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111546(WO,A1)
【文献】特開平04-076066(JP,A)
【文献】特開2017-002152(JP,A)
【文献】特開2014-129436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを含有するゴム成分と、直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物と、シリカ及びカーボンブラックを含有する充填剤と、を含み、
前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物が、下記式(1):
【化1】
[式中、Aは炭素数6~30のヒドロカルビルエステル基又は炭素数6~30のヒドロカルビルエーテル基であり、X 、X 、X 及びX はそれぞれ独立して-OH又は-R(ここで、-Rは-H又は-CH OHである)であり、但し、X 、X 、X 及びX のうち少なくとも3つは-OHである]で表わされる化合物であることを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
前記直鎖状多価アルコールが、3つ以上の水酸基を有することを特徴とする、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記直鎖状多価アルコールの融点が160℃未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記直鎖状多価アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マンニトール及びガラクチトールからなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記直鎖状多価アルコールの含有量が、前記ゴム成分中の天然ゴム100質量部に対して、0.5~6質量部であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の含有量が、前記ゴム成分中の天然ゴム100質量部に対して、0.1~6質量部であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物は、式(1)中のAのヒドロカルビル基部分の炭素数が12~24であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の融点が、40~100℃であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム成分中の天然ゴムの含有量が、70質量%以上であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5~100質量部であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のゴム組成物を、トレッド部に用いたことを特徴とする、タイヤ。
【請求項12】
前記タイヤは、建設車両用タイヤであることを特徴とする、請求項11に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物及びそれを架橋して得られる架橋ゴムの機能向上のために、種々の成分がゴム組成物の添加剤としても用いられている。
例えば、特許文献1には、(A)天然ゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムから選ばれるゴム100重量部に対して、(B)炭水化物を0.5~10重量部、(C)メトキシ化メチロールメラミン樹脂を0.5~10重量部、及び(D)カルボン酸コバルト塩をコバルト量として0.05~1重量部を配合することにより、スチールコードとの加硫接着における接着性及びゴムの硬度を改良する技術が開示されている。
また、特許文献2には、ゴム組成物中に、特定のジエン系ゴム、及び、ガラス転移点及びCTAB吸着比表面積を特定範囲に規定したシリカを含有させることにより、耐摩耗性と、ウェット性能及び氷上性能との両立を図った技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された技術については、耐カット性や、厳しい条件下(高シビリティ条件下)での耐摩耗性に劣っており、タイヤ等のゴム物品への適用を考えるとさらなる改良が望まれていた。
また、特許文献2に開示された技術についても、ゴム組成物が低弾性であるため、加硫後のゴム組成物の耐カット性や、耐摩耗性については、十分な効果が得られておらず、さらなる改良が望まれていた。
【0004】
そのため、近年、ゴム組成物の耐カット性の向上を目的として、ゴム組成物中に、ソルビトール等のポリオール構造を有する化合物を添加する技術が開発されている。
この技術によれば、低発熱性等の物性を悪化させることなく、従来に比べて耐カット性を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-118457号公報
【文献】特開2016-47888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゴム組成物中にソルビトール等のポリオール構造を有する化合物を含有させる技術では、この化合物由来の凝集塊が生成し、凝集塊の存在によって低発熱性やゴムの伸長疲労性が悪化するという問題が生じるおそれがあることから、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
そのため、本発明の目的は、低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、耐カット性に優れたゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、低転がり抵抗性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、耐カット性に優れたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、耐亀裂性及び耐摩耗性の向上を図るべく鋭意研究を行った。そして、ゴム成分として天然ゴムを含有するゴム組成物中に、直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物を含有させることによって、ゴムの強度を高め、ゴム組成物中でのポリオール化合物の凝集を抑えることができる結果、低発熱性や伸長疲労性を良好に維持しつつ、耐カット性の向上が可能となることを見出した。
【0009】
即ち、本発明のゴム組成物は、天然ゴムを含有するゴム成分と、直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物と、を含むことを特徴とする。
上記構成を具えることによって、低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、優れた耐カット性を実現できる。
【0010】
また、本発明のゴム組成物については、前記直鎖状多価アルコールが、3つ以上の水酸基を有することが好ましい。より優れた耐カット性を実現できるからである。
【0011】
さらに、本発明のゴム組成物については、前記直鎖状多価アルコールの融点が160℃未満であることが好ましい。混練、加硫反応時の溶解性を向上できるからである。
【0012】
また、本発明のゴム組成物については、前記直鎖状多価アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マンニトール及びガラクチトールからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。より優れた耐カット性を実現できるからである。
【0013】
さらにまた、本発明のゴム組成物については、前記直鎖状多価アルコールの含有量が、前記ゴム成分中の天然ゴム100質量部に対して、0.5~6質量部であることが好ましい。低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、優れた耐カット性を実現できるためである。
【0014】
また、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の含有量が、前記ゴム成分中の天然ゴム100質量部に対して、0.1~6質量部であることが好ましい。低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、優れた耐カット性を実現できるためである。
【0015】
また、本発明のゴム組成物については、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物が、下記式(1):
【化1】
[式中、Aは炭素数6~30のヒドロカルビルエステル基又は炭素数6~30のヒドロカルビルエーテル基であり、X、X、X及びXはそれぞれ独立して-OH又は-R(ここで、-Rは-H又は-CHOHである)であり、但し、X、X、X及びXのうち少なくとも3つは-OHである]で表わされる化合物であることが好ましく、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物は、式(1)中のAのヒドロカルビル基部分の炭素数が12~24であることがより好ましい。低発熱性や伸長疲労性等の性能と耐カット性とをより高いレベルで両立できるためである。
【0016】
さらに、本発明のゴム組成物については、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の融点が、40~100℃であることが好ましい。高温時の耐カット性をより向上できるためである。
【0017】
さらにまた、前記ゴム成分中の天然ゴムの含有量が、70質量%以上であることが好ましい。低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、より優れた耐カット性を実現できるためである。
【0018】
また、本発明のゴム組成物については、シリカを少なくとも含有する充填剤を、さらに含むことが好ましく、前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5~100質量部であることがより好ましい。加工性を悪化させることなく、より優れた耐カット性や補強性を実現できるためである。
【0019】
さらにまた、本発明のゴム組成物については、前記充填剤がカーボンブラックをさらに含有することが好ましい。耐摩耗性や補強性をより向上できるためである。
い。作業性をより高めることができるためである。
【0020】
本発明のタイヤは、上述のゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とする。
上記構成を具えることによって、低転がり抵抗性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、優れた耐カット性を実現できる。
【0021】
また、本発明のタイヤについては、前記タイヤは、建設車両用タイヤであることが好ましい。低転がり抵抗性や伸長疲労性等の性能と、得られるメリットが大きいためである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、耐カット性に優れたゴム組成物を提供することができる。また、本発明によれば、低転がり抵抗性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、耐カット性に優れたタイヤを提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を具体的に例示説明する。
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、天然ゴムを含有するゴム成分と、直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物と、を含むゴム組成物である。
【0024】
(ゴム成分)
本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分については、天然ゴム(NR)を含有する。天然ゴムを一定量含有することで、後述する直鎖状多価アルコール及びヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物とともに用いることで、優れた耐カット性や、補強性、耐摩耗性等を得ることができる。
【0025】
ここで、前記ゴム成分中の天然ゴムの含有量については、特に限定はされないが、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。前記ゴム成分中の天然ゴムの含有量を50質量%以上とすることで、後述する直鎖状多価アルコール及びヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物とともに用いた際、より確実に耐カット性や耐摩耗性の向上を図れるためである。
【0026】
なお、前記ゴム成分は、前記天然ゴムの他にも、任意の合成ゴムを含有することが可能である。
例えば、優れた耐カット性や耐摩耗性を得ることができる点からは、前記ゴム成分は、ジエン系合成ゴムを含むことが好ましい。
【0027】
前記ジエン系合成ゴムについては、例えば、合成ポリイソプレン(IR)、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)等を挙げられる。なお、前記ゴム成分中のジエン系合成ゴムについては、1種単独で含有してもよいし、2種以上のブレンドとして含有してもよい。また、前記ゴム成分は、要求される性能に応じて、非ジエン系の合成ゴムを含有することも可能である。
【0028】
(直鎖状多価アルコール)
また、本発明のゴム組成物は、上述したゴム成分に加えて、直鎖状多価アルコールをさらに含む。
前記直鎖状多価アルコールをさらに含むことによって、ゴム組成物の耐カット性を高めることができる。
【0029】
ここで、前記直鎖状多価アルコールについては、3つ以上の水酸基を有することが好ましく、5つ以上の水酸基を有することがより好ましい。前記直鎖状多価アルコール中に多くの水酸基を有することにより、前記ゴム成分に含有される天然ゴムの強度をより高めることができ、より優れた耐カット性や、耐摩耗性を実現できるからである。
【0030】
さらに、前記直鎖状多価アルコールの融点は、170℃未満であることが好ましい。混練、加硫反応時の溶解性を向上できるためである。また、ブロッキング性の観点から、前記直鎖状多価アルコールの融点は、40℃以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、前記直鎖状多価アルコールの種類については、特に限定はされず、公知の直鎖状多価アルコールを用いることができる。例えば、より優れた耐カット性を実現できる観点からは、キシリトール、ソルビトール、マンニトール及びガラクチトールからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0032】
また、前記直鎖状多価アルコールの含有量は、前記ゴム成分中の天然ゴム100質量部に対して0.5~6質量部であることが好ましく、0.5~4質量部であることがより好ましい。前記直鎖状多価アルコールの含有量が、前記天然ゴム100質量部に対して0.5質量部以上であることによって、より優れた耐カット性を得ることができ、前記天然ゴム100質量部に対して4質量部以下であることによって、前記直鎖状多価アルコールが凝集することに起因した伸長疲労性の低下を抑制することができる。
【0033】
(ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物)
本発明のゴム組成物は、上述したゴム成分及び特鎖状多価アルコールに加えて、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物をさらに含む。
ゴム組成物中に含有されたヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物は、前記直鎖状多価アルコールと同様に、本発明のゴム組成物の耐カット性を大きく向上させることができる。また、前記ゴム成分のゴム分子と後述する剤との相互作用を高めることによって、架橋後のゴムの物理的特性を均質化させることができる結果、低発熱性や、補強性、耐摩耗性等の性能についても向上できる。そして、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物は、ソルビトール等の前記直鎖状多価アルコールに比べて親水部位が少ないため、ゴム組成物中での自己凝集についても抑えることができる結果、ゴム組成物の伸長疲労性や低発熱性の悪化を抑えることができる。
【0034】
ここで、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物については、2つ以上の水酸基を有することが好ましく、3つ以上の水酸基を有することが好ましい。多くの水酸基を有することにより、ゴム成分と添加剤との相互作用がより強く発揮され、より優れた耐カット性を実現できるからである。
【0035】
また、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物については、低発熱性や伸長疲労性等の性能と、耐カット性とを、より高いレベルで両立できる観点から、下記式(1):
【化2】
で表わされる化合物であることがより好ましい。
【0036】
上記式(1)中、Aは炭素数6~30のヒドロカルビルエステル基又は炭素数6~30のヒドロカルビルエーテル基であり、該Aのヒドロカルビル基部分の炭素数は、12~24であることが好ましい。式(1)中のAのヒドロカルビル基部分の炭素数が12~24の範囲であれば、良好な伸長疲労性を維持しつつ、耐カット性がより向上する。
なお、式(1)中のAは、環部分から1番目の原子(即ち、環に結合している原子)、又は環部分から2番目の原子が酸素原子であることが好ましい。環部分から1番目の原子が酸素原子であるAとしては、例えば、-O-A’、-O-CO-A’’で表わされる基が挙げられ、また、環部分から2番目の原子が酸素原子であるAとしては、例えば、-CH-O-A''、-CH-O-CO-A’’’で表わされる基が挙げられ、ここで、A'は炭素数6~30のヒドロカルビル基、A''は炭素数5~29のヒドロカルビル基、A’’’は炭素数4~28のヒドロカルビル基であることが好ましく、また、A’、A’’及びA’’’は炭素数12~24のヒドロカルビル基であることがさらに好ましい。
【0037】
また、上記式(1)中、X、X、X及びXはそれぞれ独立して-OH又は-R(ここで、-Rは-H又は-CHOHである)であり、但し、X、X、X及びXのうち少なくとも3つは-OHである。X、X、X及びXの3つ以上が-OHであることで、ゴム組成物の耐カット性がさらに向上する。
【0038】
さらに、上記式(1)で表わされる化合物の中でも、下記式(2)又は式(3):
【化3】
で表わされる化合物が更に好ましく、上記式(2)で表わされる化合物が特に好ましい。
なお、式(2)及び式(3)中、nは自然数であり、11~23の範囲が好ましい。
前記変性環状ポリオール化合物として、上記式(2)又は式(3)で表わされる化合物を配合することで、良低発熱性や伸長疲労性と、耐カット性とを、より高いレベルで両立させることができる。
【0039】
前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物については、特に限定されるものではないが、例えば、ソルビット、ソルビタン、グルコース、フルクトース等のポリオール化合物に、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール等の脂肪族アルコールや、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪族カルボン酸を反応させることで得ることができる。
【0040】
前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の例として、具体的には、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノミリステート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のエステル化合物、オクチル-β-D-グルコピラノシド、デシル-β-D-グルコピラノシド、ドデシル-β-D-グルコピラノシド、テトラデシル-β-D-グルコピラノシド、ヘキサデシル-β-D-グルコピラノシド等のエーテル化合物が挙げられる。これら化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、これらの化合物の中でも、低発熱性や伸長疲労性と、耐カット性とを、より高いレベルで両立できる観点からは、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物は、ソルビタンモノエステルであることが好ましい。
【0041】
さらに、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の融点は、40~100℃であることが好ましく、45~90℃であることがより好ましい。前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の融点が100℃以下の場合、混練、加硫反応時の溶解性を向上でき、40℃以上の場合、高温時の耐カット性を高めることができるためである。
【0042】
ここで、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の含有量は、前記ゴム成分中の天然ゴムに対して0.1~6質量%であることが好ましく、0.5~2質量%であることがより好ましい。前記天然ゴムに対して0.1質量%未満の場合には、当該環状ポリオール化合物が少ないため、十分な耐カット性の向上効果が得られず、伸長疲労性についても十分な効果が得られない。一方、前記ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物の含有量が、前記天然ゴムに対して2質量%を超える場合には、当該環状ポリオール化合物の量が多くなりすぎるため、ゴム組成物中での自己凝集が発生し、伸長疲労性の悪化を招くおそれがある。
【0043】
また、前記直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物との合計含有量については、特に限定はされないが、前記ゴム成分中のゴム成分100質量部に対して、0.1~6質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましい。
前記直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物との合計含有量が、前記天然ゴム100質量部に対して0.1質量部以上の場合には、耐カット性の効果をより高めることができ、一方、前記合計含有量が、前記天然ゴム100質量部に対して6質量部以下の場合には、ゴム組成物中での自己凝集に起因した伸長疲労性等の悪化をより確実に抑えることができる。
【0044】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、上述したゴム成分、直鎖状多価アルコール及び環状ポリオール化合物に加え、少なくともシリカを含有する充填剤を含むことが好ましい。
シリカを含む充填剤を前記ゴム成分とともに含むことによって、低発熱性や、低カット性、耐摩耗性等の特性を向上できる。
【0045】
ここで、前記シリカの種類としては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記湿式シリカは、沈降シリカを用いることができる。なお、沈降シリカとは、製造初期に、反応溶液を比較的高温、中性~アルカリ性のpH領域で反応を進めてシリカ一次粒子を成長させ、その後酸性側へ制御することで、一次粒子を凝集させる結果得られるシリカのことである。
【0046】
また、前記シリカとしては、特に限定されないが、例えばCTAB比表面積(セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積)を、70m/g以上、250m/g以下とすることができる。なお、前記CTAB比表面積は、ASTMD3765-92に準拠して測定された値を意味する。ただし、シリカ表面に対するセチルトリメチルアンモニウムブロミド1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとして、CTABの吸着量から算出される比表面積(m/g)をCTAB比表面積とする。
また、前記シリカのBET比表面積は、100m/g以上、250m/g以下とすることができる。なお、前記BET比表面積は、BET法により求めた比表面積のことであり、本発明では、ASTMD4820-93に準拠して測定することができる。
【0047】
また、前記シリカの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であれば、耐カット性や操縦安定性をより向上でき、50質量部未満とすることで、ゴム組成物の加工性悪化や低転がり抵抗性の悪化を抑えることができる。
【0048】
また、前記充填剤については、上述したシリカに加えて、カーボンブラックをさらに含むこともできる。カーボンブラックを含むことで、タイヤの補強性や耐摩耗性をより向上できる。
前記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが挙げられ、窒素吸着比表面積(NSA、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する)が20~250m/gのカーボンブラックを用いることができる。これらの中でも、ゴム組成物の耐摩耗性を向上させる観点から、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが好ましい。これらカーボンブラックは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
また、前記カーボンブラックの含有量については、特に限定はされないが、前記ゴム成分100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であれば、耐カット性をより向上でき、50質量部未満とすることで発熱性を抑えることができる。
【0050】
さらに、前記カーボンブラックの含有量については、特に限定はされないが、前記シリカの含有量に対する前記カーボンブラックの含有量(カーボンブラックの含有量/シリカの含有量)が、質量比で、0.1~4であることが好ましい。
前記シリカの含有量に対する前記カーボンブラックの含有質量比が0.1以上であることで、より優れた耐摩耗性や補強性を得ることができ、前記シリカの含有量に対する前記カーボンブラックの含有質量比が4以下であることで、低発熱性の悪化を招くことなく、より優れた耐カット性を得ることができる。
【0051】
また、前記充填剤は、上述したシリカ及びカーボンブラックの他、下記一般式(XX):
nM・xSiO・zHO ・・・ (XX)
[式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、またはこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり;n、x、y及びzは、それぞれ1~5の整数、0~10の整数、2~5の整数、及び0~10の整数である]で表される無機化合物を含むこともできる。
前記一般式(XX)の無機化合物としては、γ-アルミナ、α-アルミナ等のアルミナ(Al)、ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al・H2O)、ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)]、炭酸アルミニウム[Al(CO]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、タルク(3MgO・4SiO・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO・9HO)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al)、クレー(Al・2SiO)、カオリン(Al・2SiO・2HO)、パイロフィライト(Al・4SiO・H2O)、ベントナイト(Al・4SiO・2HO)、ケイ酸アルミニウム(AlSiO、Al・3SiO・5HO等)、ケイ酸マグネシウム(MgSiO、MgSiO等)、ケイ酸カルシウム(CaSiO等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al・CaO・2SiO等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO)、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)・nHO]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO]、各種ゼオライトのように、電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等を挙げることができる。
前記一般式(XX)の無機化合物は、耐摩耗性とウェット性能のバランスの観点から、平均粒径が0.01~10μmであることが好ましく、0.05~5μmであることがより好ましい。
【0052】
ここで、前記充填剤の合計含有量は、特に限定されるものではないが、前記ゴム成分100質量部に対して20~150質量部であることが好ましく、30~120質量部であることがより好ましく、40~100質量部であることが特に好ましい。前記充填剤の量について適正化を図ることで、例えば、耐カット性、低ロス性、耐摩耗性等のタイヤ特性をより向上できるためである。
【0053】
(その他の成分)
本発明のゴム組成物は、上述した、ゴム成分、直鎖状多価アルコール、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物及び充填剤の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤を、その他の成分として含むことができる。その他の成分については、例えば、シランカップリング剤、架橋剤、加硫促進剤、ポリエチレングリコール、軟化剤、樹脂、老化防止剤、亜鉛華等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含むことができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0054】
また、前記充填剤としてシリカを含有する場合には、シランカップリング剤をさらに含有することが好ましい。シリカによる耐カット性や、補強性、低ロス性の効果をさらに向上させることができるからである。なお、シランカップリング剤は、公知のものを適宜使用することができる。
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
さらに、前記シランカップリング剤の含有量については、シランカップリング剤の種類などによっても異なるが、前記シリカの含有量に対して、質量比で0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。前記シランカップリング剤の含有量を、前記シリカの含有量に対して質量比で0.2以下と小さくすることで、ゴム組成物の耐カット性をより向上させることができるためである。
【0056】
前記架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、無機架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。なお、タイヤ用のゴム組成物としては、これらの架橋剤の中でも硫黄系架橋剤(加硫剤)がより好ましい。
前記架橋剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ゴム成分100質量部に対し、0.1~20質量部であることが好ましい。
【0057】
また、前記架橋剤として硫黄を用いる場合には、加硫促進剤を含むことが好ましい。該加硫促進剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限されるものではないが、例えば、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBSI(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンイミド)等のスルフェンアミド系の加硫促進剤;DPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤;テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。その含有量としては、前記硫黄の含有量よりも少ないことが好ましく、前記ゴム成分100質量部に対し、1~10質量部程度であることがより好ましい。
【0058】
本発明のゴム組成物は、スコーチタイムを短縮し、タイヤの製造時における加硫速度を高める等の作業性をより向上できる点から、グリセロールモノステアレートをさらに含むことが好ましい。
【0059】
なお、前記グリセロールモノステアレートの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上であり、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。0.1質量部未満であると、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。該含有量は、3.5質量部以下であり、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。3.5質量部を超えると、スコーチタイムが短くなり過ぎる傾向がある。
【0060】
さらに、本発明のゴム組成物は、ゴムの柔軟性を高め、より優れたウェット性能及び氷上性能を実現できる点から、軟化剤を含むこともできる。該軟化剤は、従来公知のものを用いることができ、特に制限されるものではないが、アロマオイル、パラフィンオイル、ナフテンオイル等の石油系軟化剤や、パーム油、ひまし油、綿実油、大豆油等の植物系軟化剤が挙げられる。使用の際にはこれらの中から1種単独で又は2種以上を適宜選択使用すればよい。
前記軟化剤を含有する場合には、取り扱い容易性の観点から、上述した軟化剤中でも、25℃等の常温で液体であるもの、例えば、アロマオイル、パラフィンオイル、ナフテンオイル等の石油系軟化剤を含有することが好ましい。
【0061】
さらに、本発明のゴム組成物は、ゴムの柔軟性を高め、より優れたウェット性能及び氷上性能を実現できる点から、樹脂を含有することができる。前記樹脂としては、種々の天然樹脂及び合成樹脂を使用することができ、具体的には、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂、石炭系樹脂、キシレン系樹脂等を使用することが好ましい。これら樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
なお、本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定はされない。例えば、上述した、ゴム成分と、直鎖状多価アルコールと、ヒドロカルビル基を有する環状ポリオール化合物と、充填剤と、任意に配合されるその他の成分等とを、公知の方法で、配合し、混錬することで得ることができる。
【0063】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述した本発明のゴム組成物を、トレッド部に用いたことを特徴とする。本発明のゴム組成物をタイヤトレッド部に適用することで、低転がり抵抗性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、優れた耐カット性を実現できる。
ここで、本発明のタイヤは、建設車両用タイヤ、トラック・バス用タイヤ又は航空機用タイヤとして用いることが好ましい。トレッド部の材料として用いている本発明のゴム組成物は、優れた耐カット性に優れており、建設車両用タイヤとして使用した際のメリットが大きいためである。
【0064】
なお、本発明のタイヤは、上述した本発明のゴム組成物をタイヤのトレッド部に用いること以外は、特に制限はなく、常法に従って製造することができる。なお、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
(実施例1~4、比較例1~4)
表1に示す配合に従って、常法で配合・混練することで、ゴム組成物のサンプルを調製した。
なお、得られた各サンプルについては、以下の評価(1)~(3)を実施した。
【0067】
<評価>
(1)耐カット性
実施例及び比較例の各サンプルについて、加硫処理を施した後、pure shear型の試験片を作製し、引張試験装置(株式会社島津製作所)を使用して試験片を引っ張った状態で切り込みを入れ、き裂が進展する様子を観察し、き裂進展速度が不連続に増大するエネルギー解放率(転移エネルギー)を測定した。
評価は、測定した各サンプルの転移エネルギーの逆数を算出し、比較例1のサンプルの移転エネルギーの逆数を100としたときの指数値で表示する。なお、表1中の指数値は、大きいほど耐カット性が良好であることを示す。
【0068】
(2)伸長疲労性
実施例及び比較例の各サンプルについて、加硫処理を施した後、引張試験装置(株式会社島津製作所)を使用し、幅6mmのダンベル型の試験片に0.5mm幅の切り込みを入れて5Hzで繰り返し引張する試験を行った。評価については、エネルギー解放率の常用対数をとった値が4.3のときの破断回数を測定した。評価については、比較例1の破断回数を100としたときの、指数として表示し、表1に示す。なお、表1中の指数値は、大きいほど伸長疲労性に優れることを示す。
【0069】
(3)低発熱性
実施例及び比較例の各サンプルについて、加硫処理を施した後、粘弾性測定装置(株式会社上島製作所製)を使用し、周波数15Hz、引張ひずみ2%、温度50℃の条件で測定し、正接損失tanδを測定した。
評価については、比較例1の正接損失tanδを100としたときの指数値の逆数として表示し、指数値が大きいほど、正接損失tanδが小さく、低発熱性に優れることを示す。なお、低発熱性は、指数値が90以上で良好な低発熱性を有する合格ラインとする。
【0070】
【表1】
【0071】
*1 天然ゴム:RSS#3
*2 ソルビタンモノエステル:ソルビタンモノステアレート、株式会社花王製、「レオドールAS-10V」、水酸基数3
*3 ソルビトール:東京化成工業株式会社製、「D-ソルビトール」、水酸基数6
*4 カーボンブラック:N234、三菱化学株式会社製、「DIABLACK N234」
*5 シリカ: 東ソーシリカ株式会社製、「NIPSIL AQ」
*6 老化防止剤、加硫促進剤及びその他成分の合計含有量
*7 シランカップリング剤:ビストリエトキシシリルプロピルポリスルフィド、信越化学株式会社製
【0072】
表1の結果から、各実施例のゴム組成物は、いずれも、低発熱性を良好に維持しつつ、耐カット性について、優れた結果が得られていることがわかる。また、低発熱性についても良好な結果が得られている。一方、比較例のゴム組成物については、評価項目のうちの低発熱性については良好であるものの、耐カット性については実施例に比べて劣る結果となっており、低転がり抵抗性、伸長疲労性及び耐カット性を高いレベルで両立することは難しいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、低発熱性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、耐カット性に優れたゴム組成物を提供することができる。また、本発明によれば、低転がり抵抗性や伸長疲労性等の性能を良好に維持しつつ、耐カット性に優れたタイヤを提供することもできる。