(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】紫外線硬化型インクジェットインクセットおよびプリント物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/40 20140101AFI20231220BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20231220BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231220BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C09D11/40
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 116
(21)【出願番号】P 2019228589
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 明広
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123182(JP,A)
【文献】特開2009-052030(JP,A)
【文献】特開2007-169607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
11/00-13/00,
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクとして、黄色インク、赤色インクおよび青色インクを含み、
前記黄色インクは、C.I.Pigment Yellow 138
または151
のうち少なくともいずれか1種の黄色顔料を含み、
前記赤色インクは、C.I.Pigment Red 254である赤色顔料を含み、
前記青色インクは、C.I.Pigment Blue 15:4である青色顔料を含み、
それぞれの前記顔料の平均粒子径は、120~250nmであり、
前記黄色インク、前記赤色インクおよび前記青色インクは、それぞれ、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長280~380nmにおける平均光透過率が10%以下である、紫外線硬化型インクジェットインクセット。
【請求項2】
前記黄色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長530~580nmにおける平均光透過率が50~90%であり、
前記赤色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長630~680nmにおける平均光透過率が50~90%であり、
前記青色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長780~830nmにおける平均光透過率が50~90%である、請求項1記載の紫外線硬化型インクジェットインクセット。
【請求項3】
請求項1または2記載の紫外線硬化型インクジェットインクセットを用いて、インクジェット方式により基材に前記インクを付与する印刷工程と、
前記インクを硬化させる硬化工程と、を含む、プリント物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェットインクセットおよびプリント物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、インクジェット画像層の透明性が優れ、基材に形成された意匠を損ないにくく、かつ、得られた意匠から所定の色相のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすいプリント物を作製し得る紫外線硬化型インクジェットインクセットおよびプリント物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機顔料を含むインクジェットインクは、種々の技術分野で広く使用されている。特許文献1には、有機顔料を含むカラーフィルタ用インクジェットインクが開示されている。また、たとえば、インクジェットインクは、シルバー系やパール系の意匠が表現されたプリント物を作製する用途においても多用されている。シルバー系の意匠は、微細なアルミ箔を含む塗料を塗工し、その上にインクジェットインクで加飾することにより形成され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のカラーフィルタ等のプリント物は、平均粒子径の比較的小さな有機顔料が用いられる。平均粒子径の小さな顔料は、紫外線等の光線によって損傷を受けやすく、退色しやすい。また、透過した光線は、基材において反射し、再度、インクジェットインク層を通過する。そのため、インクジェット画像層中の顔料は、より損傷しやすい。さらに、有機顔料を用いて得られるプリント物は、経時的に、所定の色相(たとえば黄色や赤色)が退色しやすい。その結果、プリント物は、長期間にわたって所望の意匠が維持されにくい。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、インクジェット画像層の透明性が優れ、基材に形成された意匠を損ないにくく、かつ、得られた意匠から所定の色相のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすいプリント物を作製し得る紫外線硬化型インクジェットインクセットおよびプリント物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の紫外線硬化型インクジェットインクセットおよびプリント物には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)インクとして、黄色インク、赤色インクおよび青色インクを含み、前記黄色インクは、C.I.Pigment Yellow 138、150、151、154および184からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の黄色顔料を含み、前記赤色インクは、C.I.Pigment Red 179、254および264からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の赤色顔料を含み、前記青色インクは、C.I.Pigment Blue 15:3および15:4のうち少なくともいずれか1種の青色顔料を含み、それぞれの前記顔料の平均粒子径は、120~250nmである、紫外線硬化型インクジェットインクセット。
【0008】
このような構成によれば、顔料は、平均粒子径が小さく、インクジェット画像層の透明性が優れる。そのため、基材に形成された意匠を損ないにくい。また、それぞれのインクの顔料として、所定の有機顔料が選択されている。このようなインクを含むインクセットは、広範な色域の意匠を表現することができる。加えて、選択された所定の有機顔料は、それぞれの色相(黄色、赤色、青色)の耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【0009】
(2)前記黄色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長530~580nmにおける平均光透過率が50~90%であり、前記赤色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長630~680nmにおける平均光透過率が50~90%であり、前記青色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長780~830nmにおける平均光透過率が50~90%である、(1)記載の紫外線硬化型インクジェットインクセット。
【0010】
このような構成によれば、得られるインクジェット画像層は、透明性が高い。その結果、得られるプリント物は、基材に形成された意匠を損ないにくい。
【0011】
(3)前記黄色インク、前記赤色インクおよび前記青色インクは、それぞれ、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長280~380nmにおける平均光透過率が20%以下である、(1)または(2)記載の紫外線硬化型インクジェットインクセット。
【0012】
このような構成によれば、得られるインクジェット画像層は、透明性が高く、かつ、紫外光域の透過率が低く抑えられている。その結果、得られるプリント物は、基材に形成された意匠を損ないにくい。加えて、プリント物は、インクジェット画像層中の顔料がより損傷されにくく、耐候性が優れる。
【0013】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェットインクセットを用いて、インクジェット方式により基材に前記インクを付与する印刷工程と、前記インクを硬化させる硬化工程と、を含む、プリント物の製造方法。
【0014】
このような構成によれば、得られるプリント物は、平均粒子径が小さい顔料が用いられており、インクジェット画像層の透明性が優れる。そのため、基材に形成された意匠を損ないにくい。また、それぞれのインクの顔料として、所定の有機顔料が選択されている。そのため、プリント物は、このようなそれぞれのインクからなるインクセットによって、広範な色域の意匠が表現され得る。加えて、選択された所定の有機顔料は、それぞれの色相(黄色、赤色、青色)の耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インクジェット画像層の透明性が優れ、基材に形成された意匠を損ないにくく、かつ、得られた意匠から所定の色相のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすいプリント物を作製し得る紫外線硬化型インクジェットインクセットおよびプリント物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<紫外線硬化型インクジェットインクセット>
本発明の一実施形態の紫外線硬化型インクジェットインクセット(以下、インクセットという)は、インクとして、黄色インク、赤色インクおよび青色インクを含む。黄色インクは、C.I.Pigment Yellow 138、150、151、154および184からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の黄色顔料を含む。赤色インクは、C.I.Pigment Red 179、254および264からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の赤色顔料を含む。青色インクは、C.I.Pigment Blue 15:3および15:4のうち少なくともいずれか1種の青色顔料を含む。それぞれの顔料の平均粒子径は、120~250nmである。本実施形態のインクセットは、顔料の平均粒子径が小さいため、得られるインクジェット画像層の透明性が優れる。そのため、基材に形成された意匠を損ないにくい。また、それぞれのインクの顔料として、所定の有機顔料が選択されている。このようなそれぞれのインクからなるインクセットは、広範な色域の意匠を表現することができる。加えて、選択された所定の有機顔料は、それぞれの色相(黄色、赤色、青色)の耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。以下、それぞれの構成について説明する。
【0017】
(インク)
本実施形態のインクセットは、インクとして、黄色インク、赤色インクおよび青色インクを含む。なお、インクセットは、他の色相のインク(たとえば黒色インクや彩色系インクなど)を含んでもよい。
【0018】
・黄色インク
黄色インクは、黄色顔料を含む。黄色顔料は、C.I.Pigment Yellow 138、150、151、154および184からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の黄色顔料を含む。これらの中でも、黄色顔料は、より退色しにくく、他のインクとの退色の程度、すなわち耐候性の程度が近い点から、C.I.Pigment Yellow 138、151および184からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の黄色顔料を含むことが好ましい。黄色顔料は併用されてもよい。
【0019】
黄色インク中の黄色顔料の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、黄色顔料の含有量は、黄色インク中、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また、黄色顔料の含有量は、黄色インク中、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。黄色顔料の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、より広範な色域の意匠を表現しやすい。加えて、選択された黄色顔料は、他のインクの顔料と耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【0020】
・赤色インク
赤色インクは、赤色顔料を含む。赤色顔料は、C.I.Pigment Red 179、254および264からなる群れから選択される少なくともいずれか1種の赤色顔料を含む。これらの中でも、赤色顔料は、より退色しにくく、他のインクとの退色の程度、すなわち耐候性の程度が近い点から、C.I.Pigment Red 254を含むことが好ましい。赤色顔料は併用されてもよい。
【0021】
赤色インク中の赤色顔料の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、赤色顔料の含有量は、赤色インク中、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また、赤色顔料の含有量は、赤色インク中、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。赤色顔料の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、より広範な色域の意匠を表現しやすい。加えて、選択された赤色顔料は、他のインクの顔料と耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【0022】
・青色インク
青色インクは、青色顔料を含む。青色顔料は、C.I.Pigment Blue 15:3および15:4のうち少なくともいずれか1種の青色顔料を含む。これらの中でも、青色顔料は、より退色しにくく、他のインクとの退色の程度、すなわち耐候性の程度が近い点から、C.I.Pigment Blue 15:4を含むことが好ましい。青色顔料は併用されてもよい。
【0023】
青色インク中の青色顔料の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、青色顔料の含有量は、青色インク中、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また、青色顔料の含有量は、青色インク中、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。青色顔料の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、より広範な色域の意匠を表現しやすい。加えて、選択された青色顔料は、他のインクの顔料と耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【0024】
・黒色インク
黒色インクは、本実施形態のインクセットにおいて、好適に含まれる。黒色インクは、黒色顔料を含むことが好ましい。黒色顔料は特に限定されない。一例を挙げると、黒色顔料は、カーボン系顔料(C.I.Pigment Black 7)、ビスマスマンガン系顔料、イットリウムマンガン系顔料、銅クロム系顔料(C.I.Pigment Black 28)、銅鉄マンガン系顔料(C.I.Pigment Black 26)、コバルト鉄クロム系顔料(C.I.Pigment Black 27)、酸化ルテニウム、コバルトマンガン系顔料、チタンマンガン系顔料等である。黒色顔料は併用されてもよい。これらの中でも、黒色顔料は、より退色しにくく、他のインクとの退色の程度、すなわち耐候性の程度が近い点から、カーボン系顔料を含むことが好ましい。黒色顔料は併用されてもよい。
【0025】
黒色インクが含まれる場合、黒色インク中の黒色顔料の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、黒色顔料の含有量は、黒色インク中、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。また、黒色顔料の含有量は、黒色インク中、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。黒色顔料の含有量が上記範囲内であることにより、得られるインクセットは、より広範な色域の意匠を表現しやすい。加えて、選択された黒色顔料は、他のインクの顔料と耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【0026】
インク全体の説明に戻り、それぞれのインクに含まれる上記黄色顔料、赤色顔料、青色顔料および好適に含まれる黒色顔料の平均粒子径は、120nm以上であることが好ましく、130nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。また、平均粒子径は、250nm以下であることが好ましく、245nm以下であることがより好ましく、240nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が120nm未満である場合、得られるプリント物は、インクジェット画像層の退色の程度、すなわち耐候性が劣りやすい。一方、平均粒子径が250nmを超える場合、インクは、インクジェット方式により基材に付与される際に、ノズル等に詰まりやすくなり、吐出安定性が低下しやすい。また、インクは、基材に形成された意匠の視認性を低下させやすい。したがって、平均粒子径が上記範囲内であることにより、得られるプリント物は、インクジェット画像層の透明性が優れる。そのため、基材に形成された意匠を損ないにくい。また、インクの顔料として、上記所定の有機顔料が選択されている。このようなインクからなるインクセットは、広範な色域の意匠を表現することができる。加えて、選択された上記所定の有機顔料は、それぞれの色相(黄色、赤色、青色(および黒色))の耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。なお、本実施形態において、平均粒子径は、Malvern Instruments社製のゼータサイザーナノシリーズを用いて、動的光散乱法により測定され得る。
【0027】
本実施形態のインク(黄色インク、青色インクおよび赤色インク)は、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層(膜厚20μm)の波長280~380nmにおける平均光透過率が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。なお、インクの平均光透過率の下限は特に限定されない。平均光透過率の下限は、インクの硬化性を考慮して適宜調整され得る。なお、本実施形態において、平均光透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600plus、(株)島津製作所製)を用いて、JIS R3106に準じ、300~2500nmの波長域の光透過率(%)を1nm毎に測定することにより算出され得る。本実施形態のインクセットに含まれるインクは、得られるインクジェット画像層が上記平均光透過率の範囲内であることにより、インクジェット画像層の透明性が高く、かつ、紫外光域の透過率が低く抑えられている。その結果、得られるプリント物は、基材に形成された意匠を損ないにくい。加えて、プリント物は、インクジェット画像層中の顔料が損傷されにくく耐候性が優れる。
【0028】
また、本実施形態のインクセットに含まれるインクのうち、黄色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長530~580nmにおける平均光透過率が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。また、黄色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長530~580nmにおける平均光透過率が90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。波長530~580nmにおける黄色インクからなるインクジェット画像層の平均光透過率が上記範囲内となる黄色インクが含まれていることにより、得られるプリント物は、黄色の可視光が透過されやすく、紫外光域の光が透過されにくい。その結果、得られるプリント物は、基材に形成された意匠を損ないにくい。加えて、プリント物は、インクジェット画像層中の顔料が損傷されにくく耐候性が優れる。
【0029】
本実施形態のインクセットに含まれるインクのうち、赤色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長630~680nmにおける平均光透過率が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。また、赤色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長630~680nmにおける平均光透過率が90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。波長630~680nmにおける赤色インクからなるインクジェット画像層の平均光透過率が上記範囲内となる赤色インクが含まれていることにより、得られるプリント物は、赤色の可視光が透過されやすく、紫外光域の光が透過されにくい。その結果、得られるプリント物は、基材に形成された意匠を損ないにくい。加えて、プリント物は、インクジェット画像層中の顔料が損傷されにくく耐候性が優れる。
【0030】
本実施形態のインクセットに含まれるインクのうち、青色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長780~830nmにおける平均光透過率が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。また、青色インクは、膜厚20μmとなるよう塗布して得られるインクジェット画像層の、波長780~830nmにおける平均光透過率が90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。波長780~830nmにおける青色インクからなるインクジェット画像層の平均光透過率が上記範囲内となる青色インクが含まれていることにより、得られるプリント物は、青色の可視光が透過されやすく、紫外光域の光が透過されにくい。その結果、得られるプリント物は、基材に形成された意匠を損ないにくい。加えて、プリント物は、インクジェット画像層中の顔料が損傷されにくく耐候性が優れる。
【0031】
(その他の成分)
本実施形態のインクセットを構成するインクは、上記各顔料を含み、かつ、顔料の平均粒子径が120~250nmであればよく、この条件を満たす限りにおいて、他の成分を適宜含んでよい。それぞれのインクは、たとえば、反応性モノマー、反応性オリゴマー、光重合開始剤、バインダー樹脂、分散剤、溶剤および各種任意成分を含んでもよい。
【0032】
・反応性モノマー
反応性モノマーは特に限定されない。一例を挙げると、反応性モノマーは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートやそれらの変性体などの6官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートなどの5官能アクリレート;ペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、グリセリルトリアクリレートなどの3官能アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどの2官能アクリレート;および、カプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールジアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸などの単官能アクリレート等である。反応性モノマーは、併用されてもよい。これらの中でも、反応性モノマーは、強靭性、柔軟性が優れる点から、2官能モノマーであることが好ましい。2官能モノマーは、難黄変性が優れる点から、炭化水素からなる脂肪族反応性モノマーであることが好ましく、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート等がより好ましい。
【0033】
反応性モノマーは、リンやフッ素、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの官能基を付与した反応性モノマーであってもよい。
【0034】
反応性モノマーが配合される場合、反応性モノマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、反応性モノマーの含有量は、インク100質量部に対し、50質量部以上であることが好ましく、55質量部以上であることがより好ましい。また、反応性モノマーの含有量は、インク100質量部に対し、90質量部以下であることが好ましく、85質量部以下であることがより好ましい。反応性モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、インクは、粘度が適切に調整されやすく、インクジェットプリント時に吐出不良を生じにくい。また、インクは、適切に硬化されやすい。
【0035】
・反応性オリゴマー
反応性オリゴマーは特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーは、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレート等である。反応性オリゴマーは、併用されてもよい。これらの中でも、反応性オリゴマーは、強靭性、柔軟性および付着性が優れる点から、ウレタンアクリレートであることが好ましい。ウレタンアクリレートは特に限定されない。一例を挙げると、ウレタンアクリレートは、難黄変性が優れる点から、炭化水素からなる脂肪族ウレタンアクリレートであることが好ましい。
【0036】
反応性オリゴマーは、反応性モノマーと混合して使用されてもよい。混合する反応性モノマーは、2官能モノマーまたは3官能モノマーであることが好ましい。
【0037】
反応性オリゴマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーのMwは、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましい。また、反応性オリゴマーのMwは、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。反応性オリゴマーの分子量が上記範囲内であることにより、インクは、粘度が適切に調整されやすく、インクジェットプリント時に吐出不良を生じにくい。なお、本明細書において、反応性オリゴマーのMwは、たとえばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、高速GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8120GPC)を用いて測定し得る。
【0038】
反応性オリゴマーが配合される場合、反応性オリゴマーの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、反応性オリゴマーの含有量は、インク100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。また、反応性オリゴマーの含有量は、インク100質量部に対し、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。反応性オリゴマーの含有量が上記範囲内であることにより、得られるプリント物のインクジェット画像層は、優れた強靭性、柔軟性および密着性を示しやすい。
【0039】
・光重合開始剤
光重合開始剤は特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤は、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類等である。光重合開始剤は、併用されてもよい。これらの中でも、光重合開始剤は、反応性および難黄変性が優れる点から、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類であることが好ましい。
【0040】
光重合開始剤が配合される場合、光重合開始剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、光重合開始剤の含有量は、インク100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量は、インク100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、重合が進行しやすい。
【0041】
・バインダー樹脂
バインダー樹脂は、たとえば、インクの粘度の調整、得られるプリント物の硬度の調整や形状を制御するために好適に含まれる。
【0042】
バインダー樹脂の種類は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アイオノマー樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、アクリロニトリルアクリレートスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリル塩化ポリエチレンスチレン共重合樹脂、エチレン酢ビ樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンマレイン酸共重合樹脂、ポリスチレンアクリル酸共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、およびこれらの共重合樹脂等が例示される。バインダー樹脂は、膜強度、粘度、インクジェットインクの残部粘度、色材の分散安定性、熱安定性、非着色性、耐水性、耐薬品性を考慮し、適宜選択され得る。バインダー樹脂は、併用されてもよい。
【0043】
本実施形態のインクセットを構成するそれぞれのインクは、バインダー樹脂としてフッ素樹脂を含むことが好ましい。バインダー樹脂としてのフッ素樹脂は、いずれのインクに含まれてもよい。フッ素樹脂を含むインクが用いられることにより、インクセットは、得られるプリント物の耐熱性および耐候性を向上させることができる。中でも、本実施形態のインクセットは、黄色インク、赤色インクおよび青色インクにバインダー樹脂としてフッ素樹脂が含まれていることが好ましい。インクセットを構成するすべてのインクに、バインダー樹脂としてフッ素樹脂が含まれていることにより、インクセットは、得られるプリント物の耐熱性および耐候性がより向上しやすい。
【0044】
・フッ素樹脂
フッ素樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、フッ素樹脂は、各種含フッ素モノマーと、ビニルモノマーとの共重合体であることが好ましい。また、フッ素樹脂は、ビニルモノマーの中でも、ビニルエーテルモノマーとの共重合体であることがより好ましい。さらに、フッ素樹脂は、フルオロエチレンと、ビニルエーテルモノマーとの共重合体であることがより好ましい。なお、重合方法は特に限定されない。一例を挙げると、重合方法は、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合等である。
【0045】
得られるフッ素樹脂は、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。これらの中でも、フッ素樹脂は、フルオロエチレンとビニルモノマーとの交互共重合体であることが好ましい。このようなフッ素樹脂を含むインクを含むインクセットによれば、耐候性がさらに優れるプリント物が得られやすい。そのため、このようなインクセットが用いられることにより、得られるプリント物は、さらに長期にわたり、所望の色彩が保持され得る。なお、本実施形態において、「交互共重合体」とは、フルオロエチレン単位と、ビニルモノマー単位との結合が、フルオロエチレン単位とフルオロエチレン単位との結合、および、ビニルモノマー単位とビニルモノマー単位との結合の合計よりも、はるかに多く含まれる共重合体を意味する。具体的には、本実施形態の交互共重合体は、フルオロエチレン単位と、ビニルモノマー単位との結合を、90~100モル%含むことが好ましい。なお、本実施形態において、交互共重合体は、少数のランダム結合部分やブロック結合部分を含んでいてもよい。また、上記結合は、たとえば1H NMR測定および29Si NMR測定等により区別し得る。また、交互共重合体の分析方法については、たとえば、Journal of Applied Polymer Science, Vol. 106, 1007-1013 (2007)等を参照し得る。
【0046】
フッ素樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、8000以上であることがより好ましい。Mwは、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、フッ素樹脂は、溶剤に溶解しやすい。また、得られるインクは、乾燥性が改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。Mwが5000未満である場合、得られるプリント物は、ベタツキが生じやすく、ブロッキング防止性が低下する傾向がある。一方、Mwが50000を超える場合、フッ素樹脂の溶解性が低下したり、インクジェットプリント時におけるインクの吐出安定性が低下する傾向がある。なお、本明細書において、Mwおよび後述する数平均分子量(Mn)は、たとえばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、高速GPC装置(東ソー(株)製、HLC-8120GPC)を用いて測定し得る。
【0047】
・アクリル樹脂
アクリル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル(アクリレート)またはメタクリル酸エステル(メタクリレート)の重合体が例示される。より具体的には、アクリル樹脂は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体が例示される。これらは併用されてもよい。
【0048】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。一例を挙げると、Mwは、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましい。Mwは、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内である場合、このようなアクリル樹脂を含むインクは、インクジェットプリント時における吐出安定性が優れている。
【0049】
・塩化ビニル樹脂
塩化ビニル樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルと、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、マレイン酸、ビニルアルコール等の他のモノマーとの共重合体等が例示される。これらの中でも、塩化ビニル樹脂は、塩化ビニルおよび酢酸ビニルに由来する構成単位を含む共重合体(塩ビ酢ビ共重合体)であることが好ましい。
【0050】
塩ビ酢ビ共重合体は、たとえば懸濁重合によって得ることができる。塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位を70~90質量%含有することが好ましい。上記範囲であれば、塩ビ酢ビ共重合体は、インク中に安定して溶解するため長期の保存安定性が優れる。また、得られるインクは、吐出安定性が優れる。
【0051】
塩ビ酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位および酢酸ビニル単位のほかに、必要に応じて、その他の構成単位を備えていてもよい。一例を挙げると、その他の構成単位は、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位等が例示される。これらの中でも、その他の構成単位は、ビニルアルコール単位であることが好ましい。
【0052】
塩化ビニル樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、塩化ビニル樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、12000以上であることがより好ましい。また、Mnは、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0053】
・シリコーン樹脂
シリコーン樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン(ポリジメチルシロキサン)、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン(メチル基の一部をフェニル基に置換したポリジメチルシロキサン)、アクリル樹脂変性シリコーンレジン、ポリエステル樹脂変性シリコーンレジン、エポキシ樹脂変性シリコーンレジン、アルキッド樹脂変性シリコーンレジンおよびゴム系のシリコーンレジン等が例示される。これらは併用されてもよい。これらの中でも、シリコーン樹脂は、メチル系ストレートシリコーンレジン、メチルフェニル系ストレートシリコーンレジン、アクリル樹脂変性シリコーンレジンが好ましい。
【0054】
シリコーン樹脂は、有機溶媒等に溶解されたものであってもよい。有機溶媒は、キシレン、トルエン等が例示される。
【0055】
シリコーン樹脂の数平均分子量(Mn)は特に限定されない。一例を挙げると、シリコーン樹脂のMnは、10000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましい。また、Mnは、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがより好ましい。なお、Mnは、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
【0056】
バインダー樹脂全体の説明に戻り、バインダー樹脂の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、バインダー樹脂は、固形分換算で、インク中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、バインダー樹脂は、インク中、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の含有量が1質量%未満である場合、バインダーとしての所望の性能が得られにくく、基材への密着性などが低下する傾向がある。一方、バインダー樹脂の含有量が40質量%を超える場合、インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。
【0057】
・分散剤
分散剤は、上記顔料を分散させるために好適に含まれる。分散剤は特に限定されない。一例を挙げると、分散剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、高分子分散剤等である。分散剤は併用されてもよい。
【0058】
アニオン系界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩およびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0059】
ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーおよびこれらの置換誘導体等が例示される。
【0060】
高分子分散剤は、酸価と塩基価を両方持ち、かつ、酸価が塩基価より大きいものが、より安定な分散特性が得られる観点から好ましい。一例を挙げると、高分子分散剤は、味の素ファインテクノ(株)製のPBシリーズ、川研ファインケミカル(株)製のヒノアクトシリーズ、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ、楠本化成(株)製のDISPARLONシリーズ、BASFジャパン(株)製のEfka(登録商標)シリーズ等が例示される。
【0061】
分散剤がインクに含まれる場合、分散剤の含有量は、分散すべき顔料の種類および含有量によって適宜決定される。一例を挙げると、分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。また、分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、150質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が5質量部未満である場合、顔料が分散されにくい傾向がある。一方、分散剤の含有量が150質量部を超える場合、原料コストが上がったり、顔料の分散が阻害される傾向がある。
【0062】
・溶剤
溶剤は、インクにおいて、反応性オリゴマーやバインダー樹脂を溶解するために好適に含まれる。溶剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、水、グリコールエーテル系溶剤、アセテート系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、脂肪酸エステル系溶剤、芳香族系溶剤等である。溶剤は併用されてもよい。本実施形態の溶剤は、これらの中でも、グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤のうち、少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。グリコールエーテル系溶剤およびアセテート系溶剤は、いずれも低粘度であり、かつ、比較的沸点が高い。そのため、これらを溶剤として含むインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。
【0063】
グリコールエーテル系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が例示される。
【0064】
アセテート系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-sec-ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-エトキシブチルアセテート、3-メチル-3-プロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-イソプロポキシブチルアセテート、3-メチル-3-n-ブトキシエチルアセテート、3-メチル-3-イソブトキシシブチルアセテート、3-メチル-3-sec-ブトキシシブチルアセテート、3-メチル-3-tert-ブトキシシブチルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、トリプロピレングリコールジアセテート等が例示される。
【0065】
本実施形態の溶剤は、沸点が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。また、溶剤は、沸点が300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。沸点が上記範囲内である場合、得られるインクは、乾燥性がより改善されており、インクジェットプリント時における吐出安定性がより優れている。また、インクによれば、滲みの少ない鮮明なプリント物が形成されやすい。溶剤の沸点が150℃未満である場合、インクがヘッドノズル付近で乾燥しやすくなり、吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶剤の沸点が300℃を超える場合、インクは乾燥しにくくなり、プリント物の形成時における乾燥工程に時間がかかりやすい。また、得られるプリント物は、画像が滲みやすい。
【0066】
溶剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、インク中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。また、溶剤は、インク中、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が1質量%未満である場合、インクの粘度が高くなり、インクジェットプリント時における吐出安定性が低下する傾向がある。一方、溶剤の含有量が30質量%を超える場合、インク中に添加できる色材や反応性モノマーやバインダー樹脂の割合が低くなり、所望の発色性や性能が得られにくい傾向がある。
【0067】
(任意成分)
本実施形態のインクセットを構成するそれぞれのインクは、上記した成分のほかに、適宜任意成分が含有されてもよい。一例を挙げると、任意成分は、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤等である。
【0068】
インク全体の説明に戻り、インクの粘度は特に限定されない。一例を挙げると、インクの粘度は、2mPa・s以上であることが好ましく、5mPa・s以上であることがより好ましい。また、粘度は、50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましい。粘度が上記範囲内であることにより、インクは、インクジェットヘッドからの吐出不良を生じにくく、吐出安定性が優れる。本実施形態において、インクの粘度は、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータ回転数60rpm)を用いて測定することができる。なお、粘度を上記範囲内に調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、粘度は、各成分の添加量や、溶剤の種類および添加量によって調整され得る。粘度は、必要に応じて増粘剤等の粘度調整剤が使用されることにより調整されてもよい。
【0069】
インクの表面張力は特に限定されない。インクの表面張力は、25℃において、20dyne/cm以上であることが好ましく、22dyne/cm以上であることがより好ましい。また、インクの表面張力は、25℃において、40dyne/cm以下であることが好ましく、35dyne/cm以下であることがより好ましい。表面張力が上記範囲内である場合、インクは、吐出安定性が優れる。なお、本実施形態において、表面張力は、静的表面張力計(プレート法)(協和界面科学(株)製、CBVP-A3)を用いて測定することができる。
【0070】
本実施形態のインクセットは、インクジェット方式を採用したインクジェット装置を用いて基材に吐出することにより、基材上にインク画像を形成し、次いで、インクを硬化させることにより、プリント物を製造することができる。インクセットを構成するそれぞれのインクは、特定の有機顔料を含み、かつ、顔料の平均粒子径が120~250nmである。このように、本実施形態のインクにおいて使用される顔料は、平均粒子径が小さく、インクジェット画像層の透明性が優れる。そのため、基材に形成された意匠を損ないにくい。また、それぞれのインクの顔料として、所定の有機顔料が選択されている。このようなインクを含むインクセットは、広範な色域の意匠を表現することができる。加えて、選択された所定の有機顔料は、それぞれの色相(黄色、赤色、青色)の耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【0071】
<プリント物の製造方法>
本発明の一実施形態のプリント物の製造方法は、上記した紫外線硬化型インクジェットインクセットを用いて、インクジェット方式により基材にインクを付与する印刷工程と、インクを硬化させる硬化工程とを含む。本実施形態のプリント物の製造方法は、これら印刷工程および硬化工程を含んでいればよく、他の工程は特に限定されない。以下、それぞれについて説明する。
【0072】
・印刷工程
印刷工程は、上記したインクを、インクジェット方式により基材上に付与する工程である。
【0073】
インクジェット方式によりインクセットを構成するインクを基材に付与する方式は特に限定されない。このような方式は、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0074】
インクが付与される基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、鋼板、アルミ、ステンレス等の金属板、アクリル、ポリカーボネート、ABS、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル等のプラスチック板またはフィルム、窯業板、コンクリート、木材、ガラス等である。これらの基材は、プリント前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤は、フッ素系塗料、シリコーン系塗料、アクリルシリコーン系塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ウレタン系塗料等が例示される。これら前処理剤を基材に付与する方法は、スプレー法、ロールコーター法、カーテンフローコーター法、ハケ塗り法、ヘラ塗り法、浸漬法、インクジェット法等が例示される。また、本実施形態の基材は、表面に塗料が付与されることにより、各種意匠(たとえばシルバー系、パール系の意匠)が表現されていてもよい。本実施形態のプリント物の製造方法によれば、上記したインクセットに含まれるインクが付与される。インクは、顔料の平均粒子径が小さく、インクジェット画像層の透明性が優れる。そのため、基材にシルバー系の意匠等が形成されている場合であっても、それらの意匠が損なわれにくい。
【0075】
・硬化工程
硬化工程は、付与したインクに紫外線を照射して硬化させる工程である。基材上に吐出されたインクは、インクジェット装置に付帯された紫外線照射ランプによって紫外線が照射され、硬化される。紫外線照射ランプは、水銀ランプやガス・固体レーザー等が例示される。これらの中でも、紫外線照射ランプは、水銀ランプ、メタルハライドランプであることが好ましい。ほかにも、紫外線照射ランプは、紫外線発光ダイオード(UV-LED)や紫外線レーザダイオード(UV-LD)であってもよい。
【0076】
硬化時の紫外線の積算光量は特に限定されない。積算光量は、500mJ/cm2以上であることが好ましく、800mJ/cm2以上であることがより好ましい。また、積算光量は、5000mJ/cm2以下であることが好ましく、3000mJ/cm2以下であることがより好ましい。なお、積算光量は、たとえば紫外線照度計・光量計(UVPF-A2、アイグラフィックス(株)製)を用い、測定波長域365nmの条件で測定することができる。
【0077】
以上、本実施形態のプリント物の製造方法によれば、得られるプリント物は、上記したインクセットに含まれるインクが付与された、プリント物である。このようなプリント物は、上記インクが使用されたことにより、優れた透明性を示すインクジェット画像層が形成されている。そのため、得られるプリント物は、基材に形成された意匠が損なわれにくい。また、それぞれのインクの顔料として、所定の有機顔料が選択されている。そのため、プリント物は、このようなそれぞれのインクからなるインクセットによって、広範な色域の意匠が表現されやすい。加えて、選択された所定の有機顔料は、それぞれの色相(黄色、赤色、青色)の耐候性が同程度である。その結果、得られるプリント物は、所定の色相(たとえば黄色や赤色)のみが退色することが防がれ、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0079】
使用した原料を以下に示す。
(顔料)
黄色顔料1:C.I.Pigment Yellow 138、Sicopal Yellow D1080J、BASFジャパン(株)製
黄色顔料2:C.I.Pigment Yellow 150、Cromophtal Yellow D1085J、BASFジャパン(株)製
黄色顔料3:C.I.Pigment Yellow 151、Ink Jet Yellow H4G、クラリアントジャパン(株)製
黄色顔料4:C.I.Pigment Yellow 180、PVFast Yellow HG01 VP2657、クラリアントジャパン(株)製
赤色顔料1:C.I.Pigment Red 179、Paliogen Red L3885、BASFジャパン(株)製
赤色顔料2:C.I.Pigment Red 254、Iragazin Red L3630、BASFジャパン(株)製
赤色顔料3:C.I.Pigment Violet 19、InkJet Magenta E5B 02、クラリアントジャパン(株)製
青色顔料1:C.I.Pigment Blue 15:4、CHROMO FINE BLUE 6332 JC、大日精化工業(株)製
青色顔料2:C.I.Pigment Blue 15:3、Hostaperm Blue B4G、クラリアントジャパン(株)製
青色顔料3:C.I.Pigment Blue 28、ダイピロキサイドブルー#9410、大日精化工業(株)製
黒色顔料1:C.I.Pigment Black 7、NIPEX35、オリオン エンジニアドカーボンズ(株)製
(樹脂)
樹脂1:反応性モノマー、SR420NS、アルケマ(株)製、単官能アクリレートモノマー
樹脂2:反応性モノマー、FX-AO-MA、(株)日本触媒製、アリルエーテルメタクリレートモノマー
樹脂3:反応性モノマー、4-HBA、大阪有機化学工業(株)製、単官能アクリレートモノマー
樹脂4:反応性オリゴマー、CN991、アルケマ(株)製、ウレタンアクリレートオリゴマー
(光重合開始剤)
重合開始剤1:光ラジカル重合開始剤、Irgacure184、BASFジャパン(株)製、α-ヒドロキシケトン系
重合開始剤2:光ラジカル重合開始剤、Irgacure819、BASFジャパン(株)製、アシルホスフィンオキサイド系
(その他)
分散剤:塩基性ポリエステル系分散剤、Solsperse33000、日本ルーブリゾール(株)製
重合禁止剤:ヒンダードアミン系重合禁止剤、IRGASTAB UV10、BASFジャパン(株)製
レベリング剤:含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、メガファックF-556、DIC(株)製
【0080】
<紫外線硬化型インクジェットインクセット>
以下の表1に示される処方(単位は質量部)にしたがって、それぞれのインクを調製し、各色インクを表2に記載の処方で組み合わせて実施例1~7、比較例1~3の各色インクからなるインクセットを作製した。具体的には、各成分を樹脂にミキサー混合し、濾過することにより、各色インクを調製し、組み合わせてそれぞれのインクセットを作製した。得られたインクセットを用いて、以下のインクジェット条件にて基材(電着塗装を行った鋼板にPG80#210シルバーサンメタリック極粗目(関西ペイント(株)製)をエアスプレーにてDRY膜厚30μm塗布し、60℃雰囲気下で1時間乾燥して作製した基材)に対してインクジェットプリントを行い、プリント物を作製した。
【0081】
<インクジェット条件>
シングルパス方式
ドットサイズ:30pl
ノズル径:40μm
駆動電圧:80V
パルス幅:10μm
周波数:10kHz
解像度:400×800dpi
塗布量:20g/m2(硬化膜の厚み:20μm)
基材温度:50℃(加温)
柄:各色インクのベタ柄
【0082】
<硬化条件>
プリント後直ちに以下の条件にて乾燥を行った。
紫外線照射ランプ:メタルハライドランプ
照射強度:600mW/cm2
積算光量:1500mJ/cm2
照射高さ:40mm
【0083】
【0084】
【0085】
上記プリント物の作製に際し、それぞれのインクの粘度、顔料の平均粒子径、インクジェット画像層の光透過性(インク可視光域光透過性、インク紫外光域光透過性)を下記の評価基準にしたがって確認した。また、上記プリント物に関して、基材の意匠性、発色性、インクジェット画像層の耐候性を測定した。結果を表1または表2に示す。
【0086】
物性値の測定方法を以下に示す。
<インクの粘度>
調製後のインクを30℃に調整し、B型粘度計(東機産業(株)製、TVB-20LT、ロータ回転数60rpm)を用いて粘度(mPa・s)を測定した。
【0087】
<顔料の平均粒子径>
作製したインクをシクロヘキサノンで2500倍に希釈し、Malvern Instruments LtdのゼータサイザーナノSを用いて、動的光散乱法により平均粒子径(nm)を測定した。
【0088】
<インクジェット画像層の可視光域光透過性>
それぞれのプリント物(硬化膜の厚み:20μm)に対し、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600plus、(株)島津製作所製)を使用し、JIS R3106に準じ、300~2500nmの波長域の光透過率(%)を1nm毎に測定した。黄色インク部分のインクジェット画像層は530~580nmにおける平均光透過率を、赤色インク部分のインクジェット画像層は630~680nmにおける平均光透過率を、青色インク部分のインクジェット画像層は780~830nmにおける平均光透過率の確認を行った。
【0089】
<インクジェット画像層の紫外光域光透過性>
それぞれのプリント物(硬化膜の厚み:20μm)に対し、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600plus、(株)島津製作所製)を使用し、JIS R3106に準じ、300~2500nmの波長域の光透過率(%)を1nm毎に測定した。それぞれの色インクのインクジェット画像層の280~380nmにおける平均光透過率の確認を行った。
【0090】
<基材の意匠性>
それぞれのプリント物に対し、基材の意匠性を目視で確認した。
○:基材のシルバー感が感じられる
△:基材のシルバー感がやや感じられる
×:基材のシルバー感が全く感じられない
【0091】
<発色性>
それぞれのプリント物を分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-3700)を用いて、測定した。
○:結果1(黄色インクが70≦b*であり、赤色インクが40≦a*であり、かつ、青色インクがb*≦-35である)に該当した。
△:結果2(黄色インクが50≦b*であり、赤色インクが30≦a*であり、かつ、青色インクがb*≦-30である)に該当した(ただし、結果1に該当するものを除く)。
×:結果1に該当せず、結果2にも該当しなかった。
【0092】
<インクジェット画像層の耐候性>
それぞれのプリント物に対し、キセノンウェザーメータ(スガ試験機(株)製、SUV-W161)を用いて、促進耐候試験として照度60W/m2にて750MJ/m2照射実施後、照射前のプリント物に対する色差の測定を行った。
(色差測定方法)
プリント物の促進耐候試験前に対する試験後のΔEを色差とした。色差は分光測色計(コニカミノルタ(株)製、CM-3700)を用いて、測定した。
(評価基準)
○:いずれかの色インクの色差もΔE≦3であった。
△:いずれかの色インクの色差が3<ΔE≦5であった。
×:いずれかの色インクの色差がΔE>5であった。
【0093】
表1~表2に示されるように、実施例1~7のインクセットに使用された各色インクによって形成されたインクジェット画像層は、優れた透明性を示し、得られたプリント物において、基材の意匠を損ないにくく、優れた意匠性を付与することができた。また、得られたプリント物は、耐候性試験後の各色における色差が同程度であり、所定の色相のみが退色することが防がれたため、長期間にわたって所望の意匠が維持されやすいと考えられた。一方、平均粒子径の大きい黄色顔料を用いた比較例1のインクセットは、耐候性試験後における黄色の色差が他の色の色差よりも大きく、かつ、耐候性が劣った。本発明の赤色顔料とは異なる顔料を用いた比較例2のインクセットは、耐候性試験後における赤色の色差が他の色の色差よりも大きく、かつ、耐候性が劣った。本発明の青色顔料とは異なる顔料を用いた比較例3のインクセットは、青色の発色性が劣り、所望の色相を表現することができなかった。