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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】安定なウイルス含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/275 20060101AFI20231220BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231220BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K39/275
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/26
A61P31/12
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019563270
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 IB2018053390
(87)【国際公開番号】W WO2018211419
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】17171105.4
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17199139.1
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516257833
【氏名又は名称】ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN VACCINES & PREVENTION B.V.
(73)【特許権者】
【識別番号】509296443
【氏名又は名称】バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】セディク,アフマド シャケブ
(72)【発明者】
【氏名】トニス,ウーター フランク
(72)【発明者】
【氏名】カペレ,マルティヌス アンネ ホッベ
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-538841(JP,A)
【文献】特表2017-537910(JP,A)
【文献】特表2020-519666(JP,A)
【文献】特表2003-525909(JP,A)
【文献】国際公開第2016/034678(WO,A2)
【文献】国際公開第2005/028634(WO,A2)
【文献】特表2015-526450(JP,A)
【文献】特表2010-523127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00-39/44
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.ポックスウイルスと、
b.トリス緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、またはクエン酸/リン酸緩衝液からなる群から選択される、約5mM~40mMの間の濃度の緩衝液と、
c.硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、および硫酸アンモニウムからなる群から選択される、約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩と
を含む組成物であって、約7.5~8.5の間のpHを有する、組成物。
【請求項2】
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス、好ましくは、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記MVAが、フィロウイルスタンパク質、好ましくは、フィロウイルス糖タンパク質、最も好ましくは、2種または3種のフィロウイルス糖タンパク質を発現する組換えMVAである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ウイルスの力価が、約1×10InfU/mL~約2×10InfU/mL、好ましくは、1×10InfU/mL~約4×10InfU/mL、または0.1×10InfU/mL~約4×10InfU/mLの範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、液体組成物または凍結した液体であり、好ましくは、約2℃~8℃の間で貯蔵された液体組成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記緩衝液が、約5mM~25mMの間の濃度である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記緩衝液がトリス緩衝液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記緩衝液が、約7.~8.の間のpH、好ましくは、pH8のトリス緩衝液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記緩衝液がリン酸緩衝液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記緩衝液が、約7.5~8.2の間のpHのリン酸緩衝液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記塩濃度が約5mM~150mMの間である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
約10mMの濃度のトリス緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約8のpHを有する、請求項1~8または11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7.5のpHを有する、請求項1~6または9~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
塩化ナトリウムをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
10mM~100mMの間の濃度の塩化ナトリウムを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
糖、糖アルコール、および/またはポリオールをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記ポリオールがグリセロールである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記グリセロールの濃度が、約1%(w/w)~6%(w/w)の間の範囲である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記グリセロールの濃度が、約5%(w/w)の濃度である、請求項17または18に記載の組成物。
【請求項20】
前記糖がスクロースである、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
前記糖の濃度が、約1%(w/w)~10%(w/w)の間の範囲である、請求項16または20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物を含む、医薬組成物。
【請求項23】
請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
a)前記ポックスウイルスと、b)前記緩衝液と、c)約5mM~約300mMの濃度の前記硫酸塩とを組成物において合わせることを含む、方法。
【請求項24】
請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物を調製することを含む、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法。
【請求項25】
前記組成物を摂氏2度~摂氏8度の温度で貯蔵することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援の表明
本発明は、米国保健社会福祉省(Department of Health and Human Services of the United States of America)事前準備対応担当次官補局(Office of the Assistant for Preparedness and Response)生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority)より与えられた契約HHSO100201500008Cに基づく政府支援を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、ポックスウイルス含有組成物および貯蔵に適する関連医薬製品の分野に関する。本明細書で開示する好ましい組成物は、ワクシニアウイルスや改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスなどのポックスウイルスと、硫酸塩と、リン酸やトリス緩衝液などの緩衝液とを含む、長期貯蔵下で使用される組成物である。組成物は、特に、種々の病原体または疾患に対するワクチンまたは治療薬として使用することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ワクシニアウイルスや改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスなどのポックスウイルスは、天然痘に対する予防用ワクチンとして使用される。加えて、組換えワクシニアウイルスおよびMVAは、現在、多くの病原体、またはがんを始めとするターゲットに対する予防的または治療的ワクチン接種に関する多くの臨床研究において使用されている。他の生または不活化ウイルスワクチンと同様に、予防用または治療用ポックスウイルス医薬は、受容者または患者に適用する前に貯蔵する必要があり、したがって、その効力を損なうことなく、数日、数週間、または数カ月から最長で数年間にわたり貯蔵する必要がある。ポックスウイルスのエンベロープは、細胞移入に関与し、対象において所望の免疫応答を刺激するための複製または組換え抗原発現の前提条件であるため、ウイルス力価の低下は、感染力、したがって、製品の有効性の変化と密接に関連している。
【0004】
通常、エンベロープをもつウイルスは、貯蔵されている間、エンベロープのないウイルスより高い易変性さえ示し、脂質二重層がウイルス不安定性の主な要因であることが示唆される。ワクシニアウイルスは、サイズが並外れて大きい(約200~300nm)だけでなく、そのエンベロープは、他のウイルスのエンベロープよりさらにいっそう複雑である。ポックスウイルスは、細胞内の包囲された膜に加えて、表面から分離するとき、追加の膜を獲得する。ワクシニアウイルスを安定化させることは、エンベロープをもつ他のウイルスよりさらにいっそう難易度が高い。たとえば、国際公開第2016/087457号パンフレットは、MVAの安定性にマイナスの影響を及ぼす種々の添加剤が加えられたいくつかの試験液体製剤(処方物)を開示している。したがって、広範な条件での安定性を確保するポックスウイルス用の堅固な製剤を見出すには、調整の行き届いた手法が必要となる。
【0005】
国際公開第03/053463号パンフレットおよび国際公開第2014/053571号パンフレットは、MVAを含む凍結乾燥製剤を開示している。しかし、凍結乾燥工程には、より時間がかかり、活性の低下を回避するために、乾燥工程の間にウイルスの生物活性を保つ添加剤が必要である。その上、投与する前に復元ステップが必要となり、これにより、投与手順が複雑になる。
【0006】
したがって、製品の生物活性に影響を及ぼすことなく工業的応用および長期間にわたる貯蔵を可能にする、医薬的用途向けの安定なポックスウイルスワクチン製剤を開発することが、当技術分野では依然として求められている。より詳細には、毒性を増大させ、または免疫原性を変化させる可能性のある、ウイルス力価低下および/または副生物の生成が最小限に限定されるべきである。ワクチンは、適用および臨床的使用の際のせん断力から保護され、また、特に輸送後の、種々の気候状況に応じた温度上昇から、または不適正な監視もしくはコールドチェーンの中断による効力の低下を回避するために保護されるべきである。さらに、製品の製造、貯蔵、および輸送の間の1または複数の凍結および解凍サイクル後に活性を保持することも求められる。ウイルスによってコードされた膜タンパク質を含有する細胞外小胞が、組換えポックスウイルス生産の副生物であるため、ポックスウイルス(たとえば、ワクシニアウイルスまたはMVA)の製剤は、さらにいっそう複雑になり、ウイルス感染力に影響を及ぼす多くの不確定要素を考慮した調整の行き届いた手法を要する。本発明のこれらおよび他の目的については、本発明の詳細な説明に関連してさらに詳しく記載する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
これらおよび他の必要性に応じるために、本明細書では、以前に開示されている製剤に比べて、熱安定性が向上し、撹拌ストレスに対する安定性も向上した、ポックスウイルスを含む組成物について記載する。前記組成物に含まれるポックスウイルスは、その効力および感染力を保持する。これは、約6.0~8.5の間の範囲のpHを有する緩衝液中のポックスウイルスに、硫酸塩、好ましくは、硫酸ナトリウムを約5mM~300mMの間の濃度で加えることにより実現された。こうした組成物は、たとえば、室温で、-20℃の貯蔵温度で、または加速ストレスに従って貯蔵したとき、示されるウイルスの凝集および立体構造変化がより少なく、貯蔵後のpH変化がより少なく、かつ/または濁り度の変化がより少ないことによって、当技術分野で公知の従来の組成物より改善されている。詳細には、本発明は、より長期間にわたり、凍結条件の外部で、25℃で数週間もしくは数カ月、または2℃~8℃の貯蔵寿命を有するという目標とする製品プロファイル特性を実現することが予想される。本発明では、0℃未満、詳細には-20℃で数週間もしくは数カ月またはより長期間の貯蔵寿命も実現される。
【0008】
したがって、本発明は、a)ポックスウイルスと、b)緩衝液と、c)約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩とを含む、約6.0~8.5の間のpHを有する組成物を提供する。
【0009】
一部の実施形態では、本発明は、a)ポックスウイルスと、b)緩衝液と、c)約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩とを含む医薬組成物であって、前記製剤は、約6.0~8.5の間のpHを有する、医薬組成物に関する。
【0010】
一部の実施形態では、組成物または医薬組成物は、注射、たとえば、筋肉内、皮下、静脈内、または鼻腔内適用による投与に適する。たとえば、医薬組成物は、病原体またはがんに対する処置または予防に使用することができる。
【0011】
一部の実施形態では、本発明は、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法であって、a)ポックスウイルスと、b)緩衝液と、c)約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩とを含む、約6.0~8.5の間のpHを有する組成物を調製することを含む方法に関する。
【0012】
一部の実施形態では、本発明は、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法であって、a)ポックスウイルスと、b)緩衝液と、c)約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩とを含む、約6.0~8.5の間のpHを有する組成物を調製するステップと、前記組成物を摂氏2度~摂氏8度の間の範囲の温度で貯蔵するステップとを含む方法に関する。
【0013】
一部の実施形態では、本発明は、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法であって、ポックスウイルス組成物に、硫酸塩を約5mM~300mMの間の濃度で加えるステップを含む方法に関する。
【0014】
図面の簡単な説明
添付の図面は、明細書中に組み込まれ、その一部を構成するが、本発明のいくつかの実施形態を例証し、詳細な説明と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。本発明は、図面に示す厳密な実施形態に限定されないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】NaSOを含まない(A1~A4、10mM トリスpH7.5、8.0、8.5、および9.0)および100mMのNaSOを含む(B1~B4、10mM トリスpH7.5、8.0、8.5、および9.0、100mM NaSO)異なる処方について、Fluoromax4を使用して得られた異方性結果を示すグラフである。(で示される)黒色の線は、加速ストレス(1週間25℃)前、灰色の線は、ストレス後に得られた走査値を示す。
図2】NaSOを含まない(A1~A4、10mM トリスpH7.5、8.0、8.5、および9.0)および100mMのNaSOを含む(B1~B4、10mM トリスpH7.5、8.0、8.5、および9.0、100mM NaSO)異なる処方について、上から下へ、加速ストレス(1週間25℃)適用後のpHの変化、発光ピークシフト、発光強度の変化、Z平均直径の変化、および多分散指数(PDI)の変化を示すグラフである。
図3】左から右へ、各縦列が、加速ストレス(1日37℃)適用後の濁り度、Z平均直径、および多分散指数(PDI)の変化を示すグラフである。異なる処方群:塩を含有しない処方(処方A1~A4)、100mMのNaSOを含有する処方(処方B1~B4)、100mMのCaClを含有する処方(処方C1~C4)、100mMのMgSOを含有する処方(処方D1~D4)、100mMのMgClを含有する処方(処方E1~E4)、および140mMのNaClを含有する処方(処方F1~F4)を、垂直面に、すなわち、上から下に配置している。処方については、実施例3に完全に記載している。
図4】左から右へ、各縦列が、加速ストレス(1日37℃)適用後の濁り度、Z平均直径、および多分散指数(PDI)の変化を示すグラフである。異なる処方群:塩を含有しない処方(処方A1~A4)、100mMのNaSOを含有する処方(処方B1~B4)、100mMのMgClを含有する処方(処方C1~C4)、および100mMのNaClを含有する処方(処方D1~D4)を、垂直面に、すなわち、上から下に配置している。処方については、実施例4に完全に記載している。
図5】4種の異なる処方(対照A、1、対照B、および3)について、Fluoromax4を使用して得られた異方性、蛍光発光、および90度光散乱結果を示すグラフである。を付けて示す黒線は、T0における走査値を表し、なしの線は、5℃で3カ月貯蔵する形のストレスを適用した後の走査値を表す。処方については、実施例6に完全に記載している。
図6】4種の異なる処方(対照A、1、対照B、および3)について、Fluoromax4を使用して得られた異方性、蛍光発光、および90度光散乱結果を示すグラフである。を付けて示す黒線は、T0における走査値を表し、なしの線は、-20℃で3カ月貯蔵する形のストレスを適用した後の走査値を表す。処方については、実施例6に完全に記載している。
図7】4種の異なる処方(対照A、1、対照B、および3)について、Fluoromax4を使用して得られた異方性、蛍光発光、および90度光散乱結果を示すグラフである。を付けて示す黒線は、T0における走査値を表し、なしの線は、20回の凍結解凍サイクルという形の加速ストレスを適用した後の走査値を表す。処方については、実施例6に完全に記載している。
図8】5種の処方(対照A、1、対照B、3、および7)について、Fluoromax4を使用して得られた異方性、蛍光発光、および90度光散乱結果を示すグラフである。を付けて示す黒線は、T0における走査値を表し、なしの線は、200rpmで1日(24時間)の撹拌という形の加速ストレスを適用した後の走査値を表す。処方については、実施例6に完全に記載している。
図9】左から右へ、各縦列が、濁り度、Z平均直径、および多分散指数(PDI)を示すグラフである。グラフは、上から下へ、調製後(T0)、5℃で3カ月後(3M5C)、-20℃で3カ月後(3M-20℃)、20回の凍結解凍サイクル後(20FT)、および1日の撹拌後(AG)の値を示す。これらのグラフのx軸上に処方を配置している(対照A、1、対照B、3、および7)。処方については、実施例6に完全に記載している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本明細書は、本発明の特色を包含する1つまたは複数の実施形態を開示する。開示する実施形態は、単に本発明を例証するにすぎない。本発明の範囲は、開示する実施形態に限定されない。
【0017】
背景および本明細書全体において種々の刊行物、論文、特許出願、および特許を引用または記載しており、そうした参考文献はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される。参照により援用された資料が本明細書に矛盾し、または一致していない限り、本明細書は、そうしたいかなる資料にも優先する。本明細書に含められた文書、行為、材料、装置、物品などについての論述は、本発明に脈絡を与える目的のためにある。そうした論述は、こうした事柄の一部または全部が、開示または特許請求がなされたいずれの発明に関しても、先行技術の一部をなすことを容認しない。
【0018】
本発明は、本明細書に記載の特定の方法、プロトコール、および試薬に限定されず、これらは、様々になりうると理解される。また、本明細書で使用する述語は、特定の実施形態について述べる目的のためだけにあり、本発明の範囲を限定するものではないことも理解される。別段定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の技術者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。さもなければ、本明細書で使用される、ある特定の用語は、本明細書において明記するとおりの意味を有する。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「その(the)」が、文脈によって明らかにそうではないことが規定されない限り、複数の言及を包含することに留意しなければならない。したがって、たとえば、「核酸(a nucleic acid)」への言及は、1種または複数の核酸配列を包含し、「方法(the method)」への言及は、改変されていてもよく、または本明細書に記載の方法の代わりに用いてもよい、当業者公知の同等のステップおよび方法を包含する。
【0020】
別段指摘しない限り、一続きの要素の前に付く用語「少なくとも」は、その一続きの中に含まれる個々の要素に適用されると理解される。また、別段明記しない限り、本明細書に記載の濃度や濃度範囲などのいずれの数値も、すべての例において、用語「約」で修飾されると理解されることにも留意しなければならない。本明細書中では、いずれかの量または濃度に関しての用語「約」は、その量を包含するように意図される。たとえば、「約5mM」は、本明細書では、5mMに加えて、記載された実体に関しておよそ5mMと理解される値も包含することが意図される。本明細書で使用するとき、数字の範囲の使用は、文脈によって明らかにそうではないことが規定されない限り、そのような範囲内の整数および値の分数を含めて、その範囲内の考えられるすべての下位範囲、個々のすべての数値を明確に包含する。同様に、これより好ましくはないが、本発明の状況において本明細書で使用するいずれかの数値または範囲の前に付く用語「約」は、削除され、用語「約」なしの数値または範囲で置き換えられる場合もある。
【0021】
本明細書で使用するとき、列挙された複数の要素間の接続的な用語「および/または」は、個別および複合両方の選択肢を包含すると理解される。たとえば、2つの要素が「および/または」によって接続される場合において、第1の選択肢は、第1の要素の第2なしでの適用可能性を意味する。第2の選択肢は、第2の要素の第1なしでの適用可能性を意味する。第3の選択肢は、第1および第2の要素の適用可能性を合わせて意味する。これらの選択肢のいずれか1つが、その意味の範囲内にあり、したがって、本明細書で使用する用語「および/または」の要件を満たすと理解される。選択肢の2つ以上の同時の適用可能性も、その意味の範囲内にあり、したがって、用語「および/または」の要件を満たすと理解される。
【0022】
本明細書および後に続く特許請求の範囲の全体において、文脈によってそうではないことが規定されない限り、単語「含む(comprise)」、および「含む(comprises)」や「含む(comprising)」などのその変形語は、明記された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含むが、他のいずれかの整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を除外しないことを含意すると理解される。本明細書で使用するとき、用語「含む(comprising)」は、用語「含有する(containing)」もしくは「含む(including)」で、または本明細書で使用するときは「有する(having)」で代用することができる。これより好ましくはないが、前述の用語(comprising、containing、including、having)はいずれも、本発明の態様または実施形態の状況において本明細書で使用するいかなるときも、用語「からなる」または「から本質的になる」で代用してよい。
【0023】
本明細書で使用するとき、「からなる」は、請求項要素において指定されない要素、ステップ、または成分を除外する。本明細書で使用するとき、「から本質的になる」は、請求項の基本的かつ新奇な特性に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを除外しない。
【0024】
本明細書で使用する用語「凝集」とは、2つ以上のタンパク質またはウイルスが集積するおよび/または集塊をなす過程を指す。凝集は、無処置の未変性タンパク質だけでなく、変性タンパク質に対して起こる場合がある。多くの場合、タンパク質凝集は、タンパク質の疎水性基の露出によって引き起こされ、次いでそれが集積する。ウイルス凝集は、ウイルスエンベロープ上に発現されたタンパク質の修飾により起こる場合がある。
【0025】
用語「核酸」、「ヌクレオチド配列」、「核酸配列」、および「ポリヌクレオチド」は、区別なく使用することができ、線状もしくは分岐、一本鎖もしくは二本鎖、またはこれらのハイブリッドであるRNAまたはDNAを指す。この用語は、RNA/DNAハイブリッドも包含する。ポリヌクレオチドは、化学合成によって取得する、または微生物から得ることができる。組換えウイルスに関連して使用されるとき、用語「外因性」核酸配列とは、組換えウイルスの生成に使用される、または組換えウイルスを生成する間、ウイルスゲノムに挿入される、外来核酸配列、すなわち、非組換えウイルス中に含まれない核酸配列を意味する。
【0026】
用語「医薬」、「医薬組成物」、および「医薬品」は、本明細書では、疾患の予防または処置に使用される物質および/または物質の組合せ(併用)(combination)を指して区別なく使用される。
【0027】
「医薬的に許容される」とは、用いられる投与量および濃度の担体、添加剤、抗菌剤、保存剤、佐剤、希釈剤、安定剤、または賦形剤が、これらを投与される対象において、いかなる不要または有害な作用も引き起こさないことを意味する。
【0028】
用語「対象」および「患者」は、区別なく使用される。本明細書で使用するとき、対象は、通常、非霊長類(たとえば、乳牛、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)または霊長類(たとえば、サルおよびヒト)などの哺乳動物、一部の好ましい実施形態では、ヒトである。
【0029】
本発明によれば、「ウイルス」とは、ウイルス、ウイルス粒子、ウイルスベクター、およびウイルスワクチンを意味する。これら用語は、すべて区別なく使用することができる。この用語は、野生型ウイルス、組換えおよび非組換えウイルス、生ウイルス、および弱毒化ウイルスを包含する。
【0030】
本発明の実施では、別段指摘しない限り、当業者の技量の範囲内にある、従来の分析論、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、および組換えDNAの技術が用いられる。たとえば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, 1989、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel FM, et al., eds, 1987、the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.)、PCR2: A Practical Approach, MacPherson MJ, Hams BD, Taylor GR, eds, 1995、Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane, eds, 1988を参照されたい。
【0031】
本明細書全体において、別段明記する場合を除き、pHなどの物理パラメーターの値は、25℃で測定したものである。
【0032】
本発明は、約6.0~8.5の間の範囲のpHを有する、約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩と緩衝液とを含むポックスウイルスの組成物を対象とする。
【0033】
用語「組成物」とは、活性のある医薬的または生物学的成分、たとえば、組換えMVAを、1種または複数の付加的成分と共に含有する製剤(処方(物))を指す。用語「組成物」および「製剤(処方(物))(formulation)」は、本明細書では、用語「医薬組成物」、「ワクチン組成物」、「ワクチン」、および「ワクチン製剤」と区別なく使用される。
【0034】
ある特定の実施形態では、製剤、組成物、医薬組成物、ワクチン組成物、ワクチン、またはワクチン製剤は、安定なまたは安定化された組成物である。
【0035】
すべて区別なく使用することのできる、「安定な」、「安定化された」、「安定性」、または「安定化させる」によって、本発明の組成物に含まれているポックスウイルスは、医薬組成物の貯蔵寿命に必要とされる貯蔵後、その物理的安定性、同一性、完全性、および/または化学的安定性、同一性、完全性、粒子形態、および/または生物活性もしくは効力を本質的に保持していると理解される。
【0036】
安定性を測定するための種々の分析技術が当業者公知であり、安定性を決定する前記特性は、実施例においてより詳細に記載する、自家蛍光、異方性、動的光散乱、pH測定、350nmでの濁り度測定、および90度光散乱からなる群から選択される方法の少なくとも1つによって求められる場合がある。安定性は、選択された温度および他の貯蔵条件で、選択された時間をかけて測定することができる。
【0037】
粒子形態を明らかにする方法は、当業者周知である。たとえば、透過型電子顕微鏡および免疫電子顕微鏡(immune-EM)を使用して、たとえばSchweneker et al., Recombinant modified vaccinia virus Ankara generating Ebola virus-like particles. J. of Virology 22 March 2017に記載されているとおりに粒子形態を明らかにすることができる。粒子形態を明らかにする別の方法は、たとえば、Vasco et al. (2010), Critical Evaluation of Nanoparticle Tracking Analysis (NTA) by NanoSight for the Measurement of Nanoparticles and Protein Aggregates. Pharmaceutical Research. 27: 796-810に記載されている、ナノ粒子トラッキング分析(NTA)である。ナノ粒子トラッキング分析(NTA)は、液体における粒度分布および凝集を直接的かつリアルタイムに可視化および分析するための方法である。レーザー照明顕微鏡技術に基づき、ナノ粒子のブラウン運動が電荷結合素子(CCD)カメラによってリアルタイムで分析され、各粒子は、専用の粒子トラッキング画像解析プログラムによって、同時でありながら別々に可視化およびトラッキングされる。NTAによって粒径と粒子散乱強度を同時に測定することができるおかげで、異成分からなる粒子混合物を分解し、粒子濃度を直接推定することが可能になる。
【0038】
本明細書で使用する用語「効力」または「感染力」とは、通常はInfU/mLとして示される感染単位(InfU)またはTCID50/mLとして示される組織培養感染量50(TCID50)として表されるポックスウイルス(たとえば、ワクシニアウイルスまたはMVA)の活性を指す。「効力」および「感染力」の両方の用語を本明細書では区別なく使用することができる。MVAなどのポックスウイルスの効力は、たとえば、蛍光活性化細胞選別機(FACS)アッセイや組織培養感染量50(TCID50)アッセイなどの、当業者公知の種々の方法を使用して求めることができる。本発明において使用するような典型的なFACSアッセイおよびTCID50アッセイを、実施例において記載する。
【0039】
本明細書で使用するとき、用語「貯蔵寿命」とは、製品が、ヒト薬物療法として使用されるように、指定された貯蔵条件下(たとえば、2℃~8℃での貯蔵)で、製品特性に従って活性および/または安定性を保持する時間を意味する。貯蔵寿命は、所与の規格の下限または上限の超過が起こる時点に相当する。
【0040】
ある特定の実施形態では、本発明の実施形態のいずれかの組成物は、4℃で6カ月間貯蔵したとき、(0日目時点の)出発感染力の少なくとも50%、60%、79%、80%、または90%の感染力を有するものとさらに規定される。
【0041】
ある特定の実施形態では、本発明の実施形態のいずれかの組成物は、25℃で3カ月間貯蔵したとき、(0日目時点の)出発感染力の少なくとも50%、60%、79%、80%、または90%の感染力を有するものとさらに規定される。
【0042】
ある特定の実施形態では、本発明の実施形態のいずれかの組成物は、-20℃で3カ月、好ましくは6カ月間貯蔵したとき、(0日目時点の)出発感染力の少なくとも50%、60%、79%、80%、または90%の感染力を有するものとさらに規定される。
【0043】
ある特定の実施形態では、本発明の実施形態のいずれかの組成物は、4℃で6カ月間貯蔵したとき、感染力の低下が、(0日目時点の)出発感染力の50%、40%、30%、20%、10%、または5%以下である。
【0044】
ある特定の実施形態では、本発明の実施形態のいずれかの組成物は、25℃で3カ月間貯蔵したとき、感染力の低下が、(0日目時点の)出発感染力の50%、40%、30%、20%、10%、または5%以下である。
【0045】
ある特定の実施形態では、本発明の実施形態のいずれかの組成物は、-20℃で3カ月、好ましくは6カ月間貯蔵したとき、感染力の低下が、(0日目時点の)出発感染力の50%、40%、30%、20%、10%、または5%以下である。
【0046】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、25℃(+/-5℃)で3週間(好ましくは、3カ月、6カ月、または少なくとも1年)のウイルス力価の総合的な低下が、0.5log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満好ましくは、0.4log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、より好ましくは、0.3log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満であるとき、安定である。
【0047】
本発明による「ウイルス力価の総合的な低下」とは、表示する温度n(たとえば、37℃)および時間t(たとえば、1週間)での組成物の貯蔵中に測定される、log10TCID50/mLとして示されるウイルス力価の累積的な低下であると定義される。別法として、これをlog10InfU/mLとして示してもよい。ウイルス力価の総合的な低下は、xlog10(たとえば、37℃にて1週間で0.5log10)として示される。
【0048】
種々の実施形態において、組成物の安定性評価を短縮するために温度上昇下、たとえば37℃で1週間実施される加速安定性研究を使用して、加速ストレスを測定することができる。このような加速安定性研究では、より高い温度で、実データを待つ必要なく、安定性を予測することが可能になる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、貯蔵中のウイルス力価の低下は、5℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.4log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、好ましくは、5℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.3log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、より好ましくは、5℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.2log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満である。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、貯蔵中のウイルス力価の低下は、-20℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.4log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、好ましくは、-20℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.3log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、より好ましくは、-20℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.2log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満である。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、貯蔵中のウイルス力価の低下は、-50℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.4log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、好ましくは、-50℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.3log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、より好ましくは、-50℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.2log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満である。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、貯蔵中のウイルス力価の低下は、-80℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.4log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、好ましくは、-80℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.3log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満、より好ましくは、-80℃+/-3℃にて少なくとも3カ月間で0.2log10InfU/mLまたはTCID50/mL未満である。
【0053】
ポックスウイルス力価を求めるためのアッセイは、たとえば、Kaufmann and Kabelitz (2002), Methods in Microbiology Volume 32: Immunology of Infection, Academic Press, ISBN 0125215320に記載されている。アッセイからの力価は、1ミリリットルあたりのプラーク形成単位(PFU/mL)として報告される。本発明に使用されるようなFACSアッセイおよびTCID50アッセイは、実施例に記載しており、別法として、適切な他のいずれかの方法に加えて使用してもよい。
【0054】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、水性組成物である。ある特定の実施形態では、組成物は、室温(たとえば、周囲温度)、約-20℃~25℃の間、約-20℃~4℃の間、約2℃~25℃の間、または約2℃~8℃の間での貯蔵に適する。いずれの実施形態の組成物も、液体であってもよいし、または凍結した液体であってもよい。本発明の組成物は、約-20℃~25℃の間、約-20℃~4℃の間、約2℃~25℃の間、または約2℃~8℃の間での、3カ月、6カ月、9カ月、12カ月、24カ月間、または指定された各温度範囲でより長期間を超えての長期貯蔵に適用できる。本発明の好ましい実施形態では、ポックスウイルスを含む組成物は、2℃~8℃で、6カ月、9カ月、12カ月、24カ月間、またはより長期間を超えての長期貯蔵に適用できる。本明細書で使用するとき、「室温」または周囲「温度」とは、25℃+/-3℃の温度である。
【0055】
本発明のポックスウイルス
本発明によるポックスウイルスとは、ヒトに感染可能なポックスウイルス属のいずれか(たとえば、オルソポックスウイルス、アビポックスウイルス、パラポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、モルシポックスウイルス)を指す。
【0056】
種々の実施形態において、ポックスウイルスは、オルソポックスウイルスおよびアビポックスウイルスの群から選択される。
【0057】
本開示の種々の実施形態において、ポックスウイルスは、アビポックスウイルスであることが好ましい。アビポックスウイルスには、カナリア痘ウイルス(CNPV)および鶏痘ウイルス(FWPV)が含まれる。
【0058】
本開示の種々の実施形態において、ポックスウイルスは、オルソポックスウイルス(OPV)であることが好ましい。本発明によるオルソポックスウイルスには、限定はしないが、天然痘ウイルス(痘瘡ウイルスとしても公知)、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、およびサル痘ウイルスを含めることができる。
【0059】
本開示の種々の実施形態において、ポックスウイルスは、ワクシニアウイルスまたはFWPVである。
【0060】
数多くのFWPV株が本発明に適する。FWPV株は、当業者公知であり、たとえば、国際公開第2016/034678号パンフレットにFPVとして記載されている。適切なFWPVには、FP1、FP5、FP9、FPV M、FPV S、ATCC(登録商標)VR-229、ATCC(登録商標)VR-250、USDA株、およびPOXVAC-TCが含まれる。
【0061】
本発明の好ましい実施形態では、ポックスウイルスは、ワクシニアウイルス(VACV)である。適切なVACVには、たとえば、アンカラ、VACVウエスタンリザーブ(WR)、VACVコペンハーゲン(VACV-COP)、テンプルオブヘブン(Temple of Heaven)、パリ、ブダペスト、大連(Dairen)、Gam、MRIVP、Per、タシケント(Tashkent)、TBK、チアンタン(Tian Tan)、Tom、Bern、パトワダンガル(Patwadangar)、BIEM、B-15、EM-63、IHD-J、IHD-W、イケダ(Ikeda)、DryVax(たとえば米国特許第7,410,644号明細書に記載されているとおり、VACV WyethまたはNew York City Board of Health[NYCBH]株としても公知)、NYVAC、ACAM1000、ACAM2000、ワクシニアLister(Elstreeとしても公知)、LC16mO、LC16m8、改変ワクシニアアンカラ(MVA)、国際特許出願PCT/EP01/02703(国際公開第01/68820号パンフレット)において特徴付けられているとおりのMVA-Vero)、ACAM3000 MVA、および改変ワクシニアウイルスアンカラ-ババリアンノルディック(Bavarian Nordic)(MVA-BN)が含まれる。
【0062】
一部の実施形態では、VACVは、DryVax、ACAM1000、ACAM2000、Lister、EM-63、VACV-COP、WR、NYCBH、NYVAC、およびMVAの群から選択される。
【0063】
本発明の一部の実施形態では、ポックスウイルスは、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスである。
【0064】
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)
種々の実施形態において、本発明に適する組換え体の作製に使用されるMVAまたはMVAは、MVA-572、MVA-575、MVA-I721、ATCC(登録商標)VR-1508(商標)として寄託されているMVA、ATCC(登録商標)VR-1566(商標)として寄託されているMVA、ACAM3000 MVA、MVA-BN、または同様に弱毒化されたいずれかのMVA株である。好ましい実施形態では、組換え体の作製に使用されるMVAは、MVA-575、ATCC(登録商標)VR-1508(商標)として寄託されているMVA、ATCC(登録商標)VR-1566(商標)として寄託されているMVA、ACAM3000 MVA、およびMVA-BNである。組換え体の作製に使用されるMVAは、MVA-BNであることがより好ましい。
【0065】
MVA-572は、1994年1月27日、European Collection of Animal Cell Cultures(ECACC、Vaccine Research and Production Laboratory,Public Health Laboratory Service,Centre for Applied Microbiology and Research,Porton Down,Salisbury Wiltshire SP4 0JG,United Kingdom)に、寄託番号ECACC V94012707が付されて寄託されている。MVA-575は、2000年12月7日に、ECACC V00120707で寄託されている。Acam3000 MVAは、2003年3月27日、American Type Culture Collection(ATCC)に、受託番号PTA-5095で寄託されている(American Type Culture Collection,10801 University Blvd.,Manassas,VA 20110-2209,USA)。MVA-I721は、パスツール研究所Collection Nationale de Cultures de Microorganismsに、CNCM I721として寄託されている。MVA-BNは、2000年8月30日、ECACCに、V00083008号で寄託されている。MVA-BNは、PCT国際公開第02/042480号パンフレットに記載されている(たとえば、米国特許第6,761,893号および第6,913,752号明細書も参照されたい)。
【0066】
本明細書に記載のMVAウイルスまたはMVA-BNのいずれかの派生体または変異体も、本発明に包含される。MVAまたはMVA-BNの「派生体(derivative)」または「変異体(variant)」とは、言及されるMVAまたはMVA-BNと本質的に同じ複製特性を示すが、それらのゲノムの1つまたは複数の部分において差異を示すMVAまたはMVA-BNウイルスを指す。寄託されているウイルスと同じ「複製特性」を有するウイルスとは、CEF細胞、ならびに細胞株HaCat(Boukamp et al. [1988], J Cell Biol 106: 761-771)、ヒト骨骨肉腫細胞株143B(ECACC番号91112502)、ヒト胎児由来腎臓細胞株293(ECACC番号85120602)、およびヒト子宮頚腺癌細胞株HeLa(ATCC番号CCL-2)において、寄託株と同様の増幅比で複製するウイルスである。国際公開第02/42480号パンフレットに記載されているような細胞株許容度アッセイなど、MVA、その派生体および変異体のこのような性質を明らかにする試験およびアッセイが、当業者周知である。典型的な細胞株許容度アッセイでは、哺乳動物細胞株を、親(parenteral)および派生体または変異体MVAウイルスに、低い細胞あたり感染多重度、すなわち、細胞あたり0.05感染単位(5×10TCID50)で感染させる。1時間吸収させた後、ウイルス接種材料を除去し、細胞を3回洗浄して、残存する吸収されていないウイルスを除去する。3%FCSで補充した新鮮な培地を加え、感染を(37℃、5%COで)合計4日間放置し、ここで、ウイルス抽出物を調製することができる。プレートを-80℃で3回凍結させることにより、感染を停止させる。引き続いて、Carroll and Moss [1997], Virology 238, 198-211に記載されているものなどの当業者周知の方法を使用して、CEF細胞において、ウイルス増殖および細胞変性効果(CPE)を明らかにする。
【0067】
より詳細には、MVA-BNまたはMVA-BNの派生体もしくは変異体は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)では繁殖性複製能を有するが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat(Boukamp et al (1988), J. Cell Biol. 106:761-771)、ヒト骨骨肉腫細胞株143B(ECACC寄託番号91112502)、ヒト胎児由来腎臓細胞株293(ECACC寄託番号85120602)、およびヒト子宮頚腺癌細胞株HeLa(ATCC寄託番号CCL-2)では繁殖性複製能がないことが好ましい。加えて、MVA-BNの派生体または変異体は、Hela細胞およびHaCaT細胞株において、MVA-575の少なくとも2分の1、より好ましくは3分の1の増幅比しかもたない。MVA変異体のこのような性質についての試験およびアッセイは、国際公開第02/42480号パンフレットまたは上述したとおりの典型的な細胞株許容度アッセイに記載されている。
【0068】
用語「繁殖性複製が不能」または「繁殖性複製能がない」については、たとえば、国際公開第02/42480号パンフレットに記載されており、この特許文献は、上で言及したような所望の性質を有するMVAの取得方法も教示している。この用語は、感染後4日の時点のウイルス増幅比が、国際公開第02/42480号パンフレットまたは米国特許第6,761,893号明細書に記載のアッセイを使用して、1未満であるウイルスに適用される。
【0069】
用語「繁殖性に複製しない」とは、感染後4日の時点のウイルス増幅比が1未満であるウイルスを指す。ウイルス増幅比を求めるには、国際公開第02/42480号パンフレットまたは米国特許第6,761,893号明細書に記載のアッセイが適用可能である。
【0070】
ウイルスの増幅または複製は、通常、「増幅比」と呼ばれる、感染細胞から産生されるウイルス(産出量)の、最初の場面で細胞を感染させるのに当初使用された量(投入量)に対する比として表される。増幅比「1」は、感染細胞から産生されたウイルスの量が、細胞を感染させるのに当初使用された量と同じである増幅状態を規定し、感染細胞が、ウイルス感染および繁殖に許容的であることを意味する。対照的に、1未満の増幅比、すなわち、投入量レベルに比べて産出量が減少することは、繁殖性複製の欠如、したがって、ウイルスの弱毒化を示唆する。
【0071】
ある特定の実施形態では、組成物のいずれかに含まれるMVAは、好ましくはEuropean Collection of Animal Cell cultures(ECACC)に受託番号V00083008で寄託されているようなMVA-BNまたはその派生体である。
【0072】
一部の実施形態では、組成物のいずれかに含まれるMVAは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞ではin vitroで繁殖性複製能を有するが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat、ヒト骨骨肉腫細胞株143B、ヒト胎児由来腎臓細胞株293、およびヒト子宮頚腺癌細胞株HeLaでは繁殖性複製能がないMVA-BNウイルスまたはその派生体である。
【0073】
一部の実施形態では、組成物のいずれかに含まれるMVAは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞ではin vitroで繁殖性複製能を有するが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat、ヒト骨骨肉腫細胞株143B、ヒト胎児由来腎臓細胞株293、およびヒト子宮頚腺癌細胞株HeLaでは繁殖性複製能がないことが好ましい、European Collection of Animal Cell cultures(ECACC)に受託番号V00083008で寄託されているMVA-BNウイルスまたはその派生体である。
【0074】
好ましい実施形態では、本明細書で開示するポックスウイルスまたは好ましいいずれかのウイルスは、精製または部分精製ウイルスである。ポックスウイルス、たとえば、VACVまたはMVAを生産し、精製する方法は、当業者公知であり、以下でさらに記載する。
【0075】
いずれの実施形態のポックスウイルスも、組換えまたは非組換えポックスウイルス、好ましくは、組換えワクシニアウイルス、より好ましくは、組換えMVAである場合がある。用語「組換え(組換え体)(recombinant)」とは、そのゲノムに挿入された、親ウイルス中に自然には存在しない外因性核酸配列を含むウイルス、より詳細には、ポックスウイルスを指す。したがって、組換えウイルス(たとえば、限定はしないがMVAなどのポックスウイルス)とは、自然界では発生しない、または別の核酸に自然界では見出されない取合わせで連結されている合成または半合成起源の核酸配列の2つ以上のセグメントを人工的に組み合わせることにより作製された核酸またはウイルスを指す。人工的に組み合わせるのは、十分に確立された遺伝子工学技術を使用して、核酸の単離されたセグメントを人工的に操作することにより実現されるのが最も一般的である。一般に、本明細書に記載するような「組換え」ポックスウイルスとは、標準の遺伝子工学方法によって生産されているポックスウイルスを指し、したがって、たとえば、本発明のMVAは、遺伝子操作または遺伝子改変MVAである。したがって、用語「組換えMVA」は、そのゲノムの中に、好ましくは転写単位の形で安定して統合された組換え核酸を有するMVA(たとえば、MVA-BN)を包含する。転写単位には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、および/またはサイレンサーが含まれうる。本発明の組換えMVAは、調節エレメントが導入されると、異種抗原決定群、ポリペプチド、またはタンパク質(抗原)を発現しうる。
【0076】
用語「抗原決定群」とは、宿主の免疫系を刺激して、細胞性応答であろうと体液性抗体応答であろうと、抗原特異的免疫応答を生じさせるいずれかの分子を指す。抗原決定群には、宿主において免疫応答を惹起し、抗原の一部をなすタンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、抗原、およびエピトープ;たとえば、グリコシル化されたタンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、抗原、およびエピトープを含む、タンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、およびエピトープの相同体または変異体、ならびにこのような分子をコードするヌクレオチド配列または遺伝子が含まれうる。したがって、タンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、およびエピトープは、特定の自然ヌクレオチドまたはアミノ酸配列に限定されず、自然配列と同一の配列だけでなく、自然配列に対する、欠失、付加、挿入、置換などの修飾も包含する。
【0077】
抗原決定群の文脈で使用するとき、用語「派生体」および「変異体」は、特定のタンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、抗原、およびエピトープにおいて、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列のレベルで、参照抗原決定群との同一性が、少なくとも約50%、少なくとも約60%または65%、少なくとも約70%または75%、少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的な場合では、少なくとも約90%、91%、92%、93%、または94%、さらにより典型的な場合では、少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%、最も典型的な場合では、少なくとも約99%であることが好ましい。核酸およびアミノ酸間の配列同一性を明らかにする技術は、当技術分野で公知である。その「同一性パーセント」を求めることにより、2種以上の配列を比較することができる。2種の配列の同一性パーセントは、核酸配列であろうとアミノ酸配列であろうと、整列させた2つの配列の正確な一致の数を、短い方の配列の長さで割り、100で乗じたものである。
【0078】
用語「エピトープ」とは、B細胞および/またはT細胞が、単独で、または、たとえば主要組織適合遺伝子複合体(「MHC」)タンパク質やT細胞受容体などの別のタンパク質と共に応答する抗原上の部位を指す。エピトープは、隣接するアミノ酸、またはタンパク質の二次および/もしくは三次フォールディングによって並置された隣接していないアミノ酸の両方から形成される場合がある。隣接するアミノ酸から形成されたエピトープは、変性溶媒に曝されても通常は保持されるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、変性溶媒で処理されると通常は失われる。エピトープは通常、少なくとも5、6、7、8、9、10、またはより多く(但し、20アミノ酸未満である)のアミノ酸を、独特な空間コンフォメーションで含む。エピトープの空間コンフォメーションを明らかにする方法には、たとえば、X線結晶構造解析および二次元核磁気共鳴が含まれる。たとえば、“Epitope Mapping Protocols” in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996)を参照されたい。
【0079】
ある特定の実施形態では、本発明の組換えウイルスは、そのゲノムに挿入された、外因性核酸配列をコードする核酸を含む組換えウイルスである。
【0080】
本明細書で使用するとき、用語「外因性」とは、参照分子が、ウイルスゲノムに導入されていることを意味する。分子は、たとえば、ウイルスゲノムへのコード化核酸の導入によって、導入される場合がある。したがって、この用語は、外因性核酸を発現させることに関連して使用するとき、発現可能な形でのコード化核酸のウイルスへの導入を指す。対照的に、用語「内因性」とは、宿主の中に存在する参照分子を指す。
【0081】
ある特定の実施形態では、本発明の組換えウイルスは、そのゲノムに挿入された、外因性核酸配列を発現する核酸を含む組換えウイルスである。
【0082】
本明細書で使用するとき、区別なく使用することのできる、「発現された」、「発現する」、「発現すること」、および「発現」などの用語は、当該配列の転写のみ、ならびに転写と翻訳の両方を意味する。したがって、DNAの形で存在するヌクレオチド配列の発現に言及する際、この発現の結果として生じる産物は、(発現される配列の転写のみから生じる)RNAまたは(発現される配列の転写と翻訳の両方から生じる)ポリペプチド配列のいずれかである場合がある。すなわち、用語「発現」は、RNA産物とポリペプチド産物の両方が、前記発現の結果として生じ、共有される同じ環境中に一緒に残る可能性も包含する。たとえば、mRNAがポリペプチド産物へと翻訳された後も消えずに残るとき、これが当てはまる。
【0083】
他の実施形態によれば、いずれの実施形態の外因性核酸配列も、抗原をコードする場合があり、抗原は、ウイルス抗原または腫瘍関連抗原(TAA)であることが好ましい。
【0084】
ウイルス性抗原は、たとえば、フィロウイルス(好ましくは、たとえば国際公開第2016/034678号パンフレットに記載されているようなマールブルクウイルス(MARV)および/もしくはエボラウイルス(EBOV))、I型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1、gp120やgp160など)、口蹄疫(FMD)ウイルス(国際公開第2016/202828号パンフレットを参照されたい)、ヒトもしくは動物ヘルペスウイルス、好ましくはHSV1もしくはHSV2、サイトメガロウィルス(CMV)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)などのウイルス、またはB型肝炎ウイルス(HBV)、たとえば、B型肝炎表面抗原もしくはその誘導体(国際公開第2011/015656号パンフレットおよび国際公開第2013/007772号パンフレットを参照されたい)、A型肝炎ウイルス(HAV)、C型肝炎ウイルス(HCV、国際公開第04/111082号パンフレットを参照されたい、優先的には、遺伝子型1b株からの非構造HCVタンパク質)、E型肝炎ウイルス(HEV)、ヒトパピローマウイルス(HPV、国際公開第90/10459号パンフレット、国際公開第95/09241号パンフレット、国際公開第98/04705号パンフレット、国際公開第99/03885号パンフレット、および国際公開第07/121894号パンフレットを参照されたい;HPV16およびHPV18株からのE6およびE7タンパク質が好ましい)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV、国際公開第2014/019718号パンフレットを参照されたい)、またはインフルエンザウイルス(国際公開第2012/048817号パンフレット)由来であることが好ましい。
【0085】
本発明のある特定の実施形態によれば、前記抗原は、HCV、HBV、HIV-1、HPV、RSV、EBOV、および/またはMARV、好ましくは、EBOVおよびMARVから選択されることが好ましい。
【0086】
ある特定の実施形態では、組換えMVAおよび外因性核酸配列は、国際公開第2016/034678号パンフレットに記載されているとおりのフィロウイルスの抗原タンパク質または抗原決定群をコードするいずれの組換えMVAおよび核酸でもよく、したがって、この出願は、参照により本明細書に完全に援用される。参照により援用された資料が本明細書に矛盾し、または一致していない限り、本発明の本明細書は、上ですでに言及したとおり、そうしたいかなる資料にも優先する。参照による援用には、国際公開第2016/034678号パンフレットの配列表も含まれる。
【0087】
ある特定の実施形態では、本発明の組換えウイルス(好ましくはMVA)は、1種または複数のフィロウイルスタンパク質(好ましくは、1種または複数のフィロウイルス糖タンパク質)、好ましくは、3種のフィロウイルス糖タンパク質をコードする核酸を含む組換えウイルスである。
【0088】
別のある特定の実施形態では、フィロウイルス糖タンパク質は、エボラウイルスSudan(SEBOV)、エボラウイルスザイール(ZEBOV)、およびマールブルクウイルス(MARV)から選択される。
【0089】
別のある特定の実施形態では、フィロウイルス糖タンパク質は、エボラウイルスSudan(SEBOV)、エボラウイルスザイール-メインガ(Mayinga)(ZEBOV-メインガ)、およびマールブルクウイルス・ムソーク(Musoke)(MARV-ムソーク)から選択される。他のある特定の実施形態では、本発明の組換えウイルス(好ましくはMVA)は、SEBOV、ZEBOV-メインガ、およびMARV-ムソークのフィロウイルス糖タンパク質をコードする核酸を含む組換えウイルスである。
【0090】
ある特定の実施形態では、本発明の組換えウイルス(好ましくはMVA)は、フィロウイルス核タンパク質、好ましくは、エボラウイルスのフィロウイルス核タンパク質、より好ましくは、エボラウイルスアイボリーコーストの核タンパク質(NP-EBOV-CdI)をさらにコードする核酸を含む。
【0091】
ある特定の実施形態では、本発明による組成物中に使用される組換えウイルスは、国際公開第2016/034678号パンフレットに記載されているような、MVA-mBN226、MVA-mB255、MVA-mBN254と呼ばれる組換えMVAである。
【0092】
ある特定の実施形態では、腫瘍関連抗原は、癌胎児性抗原(CEA)、ムチン1(MUC-1)、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)、B7-1(CD80としても公知)、細胞内接着分子1(ICAM-1、CD54としても公知)、リンパ球機能関連抗原3(LFA-3、CD58としても公知)、前立腺特異的抗原(PSA)、HER-2、およびブラキュリ、またはこれらのいずれかの組合せから選択される。TAAは、CEA、MUC-1、B7-1、ICAM-1、LFA-3、HER-2、およびブラキュリから選択されることが好ましい。このような組換え体のこれ以上の細目は、たとえば、国際公開第2015/175340号パンフレットおよび国際公開第2008/045346号パンフレットに記載されている。
【0093】
非組換えおよび組換えポックスウイルスの生産方法
組換えポックスウイルス(たとえば、VACVやMVA)を取得する、または外因性コード配列をポックスウイルス(たとえば、VACVやMVA)ゲノムに挿入する方法は、当業者周知である。たとえば、DNAのクローン化、DNAおよびRNA単離、ウエスタンブロット分析、RT-PCRおよびPCR増幅技術などの標準の分子生物学技術の方法については、Molecular Cloning, A laboratory Manual 2nd Ed. (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載されており、ウイルスの取扱いおよび操作についての技術については、Virology Methods Manual (B.W.J. Mahy et al. (eds.), Academic Press (1996))に記載されている。同様に、ポックスウイルスの取扱い、操作、および遺伝子工学の技術およびノウハウについては、Molecular Virology: A Practical Approach (A.J. Davison & R.M. Elliott (Eds.), The Practical Approach Series, IRL Press at Oxford University Press, Oxford, UK (1993)、たとえば、Chapter 9: Expression of genes by Vaccinia virus vectorsを参照されたい);Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Son, Inc. (1998)、たとえば、Chapter 16, Section IV: Expression of proteins in mammalian cells using vaccinia viral vectorを参照されたい);およびGenetic Engineering, Recent Developments in Applications, Apple Academic Press (2011), Dana M. Santos、たとえば、Chapter 3: Recombinant-mediated Genetic Engineering of a Bacterial Artificial Chromosome Clone of Modified Vaccinia Virus Ankara (MVA)を参照されたい)に記載されている。組換えMVAの構築および単離についても、Methods and Methods and Protocols, Vaccinia Virus and Poxvirology, ISBN 978-1-58829-229-2 (Staib et al.), Humana Press (2004)に記載されており、たとえば、Chapter 7を参照されたい。
【0094】
本発明に従って使用されるウイルスベクターおよび/またはウイルスなどのウイルス系材料を生産および精製する方法は、当業者公知である。利用可能な方法は、CEF細胞または細胞株、特に、DF-1(米国特許第5,879,924号明細書)、EBxニワトリ細胞株(国際公開第2005/007840号パンフレット)、EB66アヒル細胞(国際公開第08/129058号パンフレット)、またはノバリケン(Cairina moschata)不死化トリ細胞(国際公開第2007/077256号パンフレットまたは国際公開第2009/004016号パンフレット)中でのウイルスの複製を含む。これらの細胞は、当業者周知の条件下で培養することができる。CEF細胞中でウイルスを培養し、ウイルスを増幅する無血清法については、たとえば、国際公開第2004/022729号パンフレットに記載されている。ウイルス生産のための上流および下流工程は、国際公開第2012/010280号または第2016/087457号パンフレットから入手することができる。本出願のウイルスを精製するのに有用な方法は、国際公開第03/054175号パンフレット、国際公開第07/147528号パンフレット、国際公開第2008/138533号パンフレット、国際公開第2009/100521号パンフレット、および国際公開第2010/130753号パンフレットにおいて詳細に開示されている。アヒル胚由来細胞中で組換えポックスウイルスを増殖させ、精製するための典型的な方法については、Leon et al. [2016], The EB66 cell line as a valuable cell substrate for MVA-based vaccines production, Vaccine 34:5878-5885に記載されている。
【0095】
一部の実施形態では、前記組成物は、約1×10InfU/mL~約2×10InfU/mL、好ましくは、約1×10InfU/mL~約2×10InfU/mL、より好ましくは、約1×10InfU/mL~約4×10InfU/mLの範囲のウイルス力価を含む。ある特定の実施形態では、力価は、約0.1×10InfU/mL~約4×10InfU/mLの範囲である。
【0096】
硫酸塩
ある特定の実施形態では、硫酸塩は、一価カチオン塩である。本発明による一価カチオンは、たとえば、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、マグネシウムカチオン、またはアンモニウムカチオンである。
【0097】
ある特定の実施形態では、本発明の硫酸塩は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、および/または硫酸アンモニウムから選択される。
【0098】
好ましい実施形態では、硫酸塩は、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、および/または硫酸アンモニウム、好ましくは、硫酸ナトリウムである。ある特定の実施形態では、硫酸ナトリウム塩は、一塩基性および/または二塩基性硫酸塩である。硫酸塩は、硫酸二ナトリウム(NaSO)および/または硫酸水素ナトリウム(NaHSO)塩であることが好ましく、硫酸塩は、硫酸二ナトリウム(NaSO)塩であることが好ましい。
【0099】
ある特定の実施形態では、硫酸塩(たとえば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、および/または硫酸アンモニウム)濃度は、約5mM~300mMの間、約5mM~250mMの間、約5mM~220mMの間、約5mM~200mMの間、約5mM~180mMの間、約5mM~150mMの間、約5mM~120mMの間、約10mM~300mMの間、約20mM~300mMの間、約30mM~300mMの間、約40mM~300mMの間、約50mM~300mMの間、約70mM~300mMの間、約80mM~300mMの間、約80mM~150mMの間、約90mM~150mMの間、約90mM~120mMの間、約90mM~110mMの間、約48mM~110mMの間、または約10mM~110mMの間である。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、約100mMの濃度の硫酸塩、好ましくは、硫酸ナトリウム(特に、NaSOおよび/もしくはNaHSO)、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、および/または硫酸アンモニウム、より好ましくは、硫酸ナトリウムおよび/または硫酸アンモニウム、最も好ましくは、硫酸ナトリウムを含む。
【0100】
ある特定の実施形態では、硫酸ナトリウム(特に、NaSOおよび/またはNaHSO)の濃度は、他の硫酸塩について上述したとおりの濃度範囲の1つになり、本明細書に記載するような組成物中のNaSOおよび/またはNaHSO塩が、約50mM~150mMの間の濃度、好ましくは、約100mMの濃度で存在することが好ましい。
【0101】
本発明のある特定の実施形態では、本明細書に記載のとおりの硫酸塩および好ましいいずれかの硫酸塩は、無機塩であり、無機塩は、炭素原子を含んでいないことが好ましい。
【0102】
本発明のある特定の実施形態では、硫酸塩は、医薬的に許容される硫酸塩である。
【0103】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、ドデシル硫酸ナトリウムを含まない、または本質的に含まない。用語「ドデシル硫酸ナトリウムを本質的に含まない」とは、ドデシル硫酸ナトリウムが、存在するとしても、製剤中のウイルスの安定化に、当業者がその存在を安定化の観点から有益と判断するほどまでには寄与しないことを意味するものとする。
【0104】
pHおよび緩衝液
本発明による組成物は、約6.0~8.5の間、好ましくは、約6.5~8.5の間のpHを有する。
【0105】
ある特定の実施形態では、本発明による組成物は、約6.5~8.5の間、約6.6~8.0の間、約6.8~7.5の間、約6.8~7.2の間、約6.8~8.2の間、約6.9~8.2の間、約7.0~8.5の間、約7.2~8.2の間、約7.4~8.2の間、約7.6~8.2の間、または約7.5~8.5の間のpHを有する。
【0106】
このpHを維持するために、本発明による組成物は、組成物のpHで緩衝能を有する緩衝液を含む。本明細書で使用する用語「緩衝液」または「緩衝溶液」とは、弱酸とその共役塩基またはその逆の混合物からなる水溶液を指す。緩衝剤は、少量または適度な量の強酸または塩基が加えられても、そのpHが僅かしか変化せず、したがって、溶液のpH変化を防ぐために使用される。緩衝液は、多種多様な適用例において、pHをほぼ一定の値に保つ手段として使用される。酸領域にある緩衝液については、緩衝剤に塩酸などの強酸を加えることにより、pHを所望の値に調整することができる。アルカリ性緩衝液については、水酸化ナトリウムなどの強塩基を加えることができる。別法として、酸とその共役塩基の混合物から、緩衝液混合物を作製してもよい。たとえば、酢酸と酢酸ナトリウムの混合物から、酢酸緩衝液を作製することができる。同様に、塩基とその共役酸の混合物から、アルカリ性緩衝液を作製することができる。緩衝液は、医薬的に許容される緩衝液であることが好ましい。
【0107】
緩衝液の例としては、限定はしないが、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffer saline)(たとえば、PBS)、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液(たとえば、SSC)、クエン酸/リン酸緩衝液、TES、DIPSO、TEA、EPPS、ビシン、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、トリス-HCl(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン-HCl)、トリシン(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル)-メチル]-グリシン)、TAPSO、HEPES、TES、MOPS、PIPES、POPSO、MES、コハク酸緩衝液が挙げられる。リン酸緩衝食塩水(PBSと略される)は、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ならびに、組成物によっては塩化カリウムおよびリン酸カリウムを含有する、水を主体とする塩溶液である。緩衝液は、トリス、トリス-HCL、トリシン、クエン酸緩衝液、クエン酸/リン酸、およびリン酸緩衝液の群から選択されることが好ましい。さらに好ましい実施形態では、緩衝液は、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸/リン酸、またはリン酸緩衝液である。リン酸緩衝液は、NaHPOとKHPOの混合物またはNaHPOとNaHPOの混合物を含むことが好ましい。クエン酸/リン酸緩衝液は、NaHPOおよびクエン酸ナトリウムを含むことが好ましい。ある特定の実施形態では、緩衝液は、トリス緩衝液またはリン酸緩衝液を含む。
【0108】
前記緩衝液は、約5mM~40mMの間の濃度で存在することが好ましい。ある特定の実施形態では、前記緩衝液は、約5mM~25mMの間、約8mM~22mMの間、約8mM~15mMの間、または約5mM~15mMの間の濃度で存在する。ある特定の実施形態では、前記緩衝液は、約10mMの濃度で存在する。
【0109】
さらに好ましい実施形態では、前記緩衝液は、pHが約6.5~8.5、好ましくは約7.5~8.5の範囲であり、最も好ましくは、pH約8.0であるトリス緩衝液である。
【0110】
さらに好ましい実施形態では、前記緩衝液は、pHが約6.5~8.5の範囲であり、pHが約6.5~7.5の範囲であり、pHが約7.0~8.5の範囲であり、pHが約6.9~7.6の範囲であり、pHが約7.3~7.6の範囲であり、pHが約6.9~7.2の範囲であり、より好ましくは、pH約7.0であり、より好ましくは、pH約7.5であるリン酸緩衝液である。
【0111】
さらに好ましい実施形態では、前記緩衝液は、pHが約6.0~8.0の範囲であり、好ましくは、pHが約6.5~7.5の範囲であり、クエン酸緩衝液またはクエン酸/リン酸緩衝液である。
【0112】
他の成分
本発明の組成物は、医薬的に許容されるかつ/または承認されている1種または複数の担体、添加剤、抗生物質、保存剤、アジュバント、酸化防止剤、希釈剤、および/または安定剤をさらに含んでもよい。このような補助物質は、限定はしないが、1種または複数の糖、糖アルコール、ポリオール、界面活性剤(detergent)、1種または複数のアミノ酸、増粘剤(viscosity enhancer)、1種または複数の追加の塩、酸化防止剤、エタノール、EDTAなどである場合がある。
【0113】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、糖、糖アルコール、および/またはポリオールをさらに含む。
【0114】
ある特定の他の実施形態では、本発明の組成物は、スクロース、ラクトース、マンノース、およびトレハロースの群から選択される糖を含む。
【0115】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、ソルビトール、グリセロール、またはマンニトールから選択されるポリオール、好ましくは、グリセロールおよび/またはソルビトールを含む。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、ソルビトールを含む。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、グリセロールを含む。
【0116】
ある特定の実施形態では、いずれの組成物中の前記糖または糖アルコールの濃度も、約1%(w/w)~10%(w/w)の間の範囲である。好ましい実施形態では、前記組成物中の糖または糖アルコールの前記濃度は、約2%(w/w)~10%(w/w)、3%(w/w)~10%(w/w)、4%(w/w)~10%(w/w)、1%(w/w)~9%(w/w)、1%(w/w)~8%(w/w)、1%(w/w)~7%(w/w)、1%(w/w)~6%(w/w)、2%(w/w)~6%(w/w)、2.5%(w/w)~6%(w/w)、4%(w/w)~6%(w/w)、5%(w/w)~7%(w/w)の間の範囲であるか、または約6%(w/w)である。ある特定の実施形態では、前記組成物中のスクロースの濃度は、約6%(w/w)である。
【0117】
ある特定の実施形態では、前記組成物中のポリオールの濃度は、約1%(w/w)~6%(w/w)の間の範囲である。好ましい実施形態では、前記組成物中のポリオールの前記濃度は、約2%(w/w)~6%(w/w)、3%(w/w)~6%(w/w)、4%(w/w)~6%(w/w)、1%(w/w)~4%(w/w)、1%(w/w)~3%(w/w)、1%(w/w)~2.5%(w/w)の間の範囲であるか、または約5%(w/w)である。ある特定の実施形態では、前記組成物中のグリセロールの濃度は、約1%(w/w)~6%(w/w)の間の範囲である。好ましい実施形態では、前記組成物中のポリオールの前記濃度は、約2%(w/w)~6%(w/w)、3%(w/w)~6%(w/w)、4%(w/w)~6%(w/w)、1%(w/w)~4%(w/w)、1%(w/w)~3%(w/w)、1%(w/w)~2.5%(w/w)の間の範囲であり、または約5%(w/w)である。ある特定の実施形態では、前記組成物中のグリセロールの濃度は、約1%(w/w)~6%(w/w)の間の範囲で大体あり、5%(w/w)であることが好ましい。
【0118】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、界面活性剤、好ましくは、非イオン性界面活性剤をさらに含む。非イオン性界面活性剤は、たとえば、凝集を軽減することにより、液体状態で種々のウイルスを安定化させることが示されており(Evans et al. [2004], J. Pharm Sci. 93:2458-75、米国特許第7,456,009号明細書、米国特許出願公開第2007/0161085号明細書)、または容器表面への吸収を軽減するために加えられる。
【0119】
ある特定の実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、およびポロキサマーの群から選択され、ポリソルベートは、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、およびポリソルベート-80の群から選択されることが好ましい。
【0120】
ある特定の実施形態では、ポリソルベート(特に、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、およびポリソルベート-80は、約0.001%(w/w)~約1%(w/w)、好ましくは、約0.001%(w/w)~約0.5%(w/w)の濃度範囲を有する。好ましい実施形態では、ポリソルベートは、約0.001%(w/w)~約0.1%(w/w)、約0.001%(w/w)~約0.008%(w/w)、約0.001%(w/w)~約0.005%(w/w)の濃度範囲を有する。ポリソルベート濃度は、0.001%(w/w)より高いことが好ましいが、0.005%(w/w)未満であることが好ましい。
【0121】
ある特定の実施形態では、前記ポロキサマーは、ポロキサマー182、ポロキサマー188、ポロキサマー121、ポロキサマー331、ポロキサマー338、および/またはポロキサマー407の群から選択される。
【0122】
ある特定の実施形態では、ポロキサマー濃度(特に、ポロキサマー182、ポロキサマー188、ポロキサマー121、ポロキサマー331、ポロキサマー338、および/またはポロキサマー407)は、約0.001%(w/w)~1%(w/w)の間、好ましくは、約0.005%(w/w)~0.5%(w/w)の間、約0.01%(w/w)~0.1%(w/w)の間、約0.01%(w/w)~0.05%(w/w)の間、約0.015%(w/w)~0.03%(w/w)の間の範囲であるか、または約0.025%(w/w)である。
【0123】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、アミノ酸をさらに含み、アミノ酸は、アルギニン、グリシン、アラニン、リシン、プロリン、ヒスチジン、グルタメート(glutamate)、グルタミン酸、およびアスパラギン酸、またはこれらのいずれかの組合せの群から選択されることが好ましい。好ましい実施形態では、アミノ酸は、グルタミン酸、アルギニン、またはグリシンから選択される。アミノ酸は、L-異性体、好ましくは、L-アルギニン、L-グリシン、およびまたはL-ヒスチジンであることが好ましい。前記アミノ酸は、本発明の組換えまたは非組換えウイルスによってコードされたアミノ酸ではない。したがって、アミノ酸は、ウイルス(たとえば、VACVまたはMVA)を精製する過程では組成物中に含まれないが、ワクチン製造のために組成物を生成する際に加えられる。
【0124】
アミノ酸は、組成物中に、約0.1%(w/w)~約10%(w/w)の間、好ましくは、約0.1%(w/w)~約5%(w/w)の間の濃度で存在することが好ましい。別の実施形態では、アミノ酸は、組成物中に、約0.1%(w/w)~約2.5%(w/w)の間、好ましくは、約2.0%(w/w)~約5%(w/w)の間の濃度で存在することが好ましい。
【0125】
アミノ酸、特に、ヒスチジン、アルギニン、またはメチオニンは、種々のウイルスを液体状態で安定化させることがわかっている(EVANS et al. J Pharm Sci. 2004 Oct, 93(10):2458-75、米国特許第7,456,009号明細書、米国特許出願公開第2007/0161085号明細書、米国特許第7,914,979号明細書、国際公開第2014/029702号パンフレット、国際公開第2014/053571号パンフレットを参照されたい)。安定性を向上させるためにヒスチジンが液体組成物中に存在するとき、ヒスチジンは、一般に、少なくとも5mM、好ましくは、少なくとも10mMの濃度で存在する(EVANS et al. J Pharm Sci. 2004 Oct, 93(10):2458-75、米国特許第7,456,009号明細書、国際公開第2014/029702号パンフレットを参照されたい)。安定性を向上させるためにアルギニンが液体組成物中に存在するとき、アルギニンは、一般に、少なくとも50mM(米国特許出願公開第2007/0161085号明細書を参照されたい、少なくとも1%(w/v)のアルギニンは、少なくとも約57.4mMに相当する)、時に、好ましくは、少なくとも150mM、特に約300mMの濃度で存在する(国際公開第2014/029702号パンフレットを参照されたい)。安定性を向上させるためにメチオニンが液体組成物中に存在するとき、メチオニンは、一般に、少なくとも25mM、好ましくは、約67mMの濃度で存在する(国際公開第2014/029702号パンフレットを参照されたい)。
【0126】
ある特定の実施形態では、アミノ酸(好ましくは、アルギニン、より好ましくは、L-アルギニン)は、300mM未満、好ましくは、150mM未満、100mM未満、75mM未満、またはさらに50mM未満の濃度で存在する。メチオニンが本発明による液体組成物中に存在するときも、60mM未満、好ましくは、50mM未満、40mM未満、30mM未満、またはさらに25mM未満の濃度で存在することが好ましい。より一般には、本発明による組成物中に1種または複数のアミノ酸が存在するとき、1種または複数のアミノ酸は、300mM未満、好ましくは、150mM未満、100mM未満、75mM未満、50mM未満、40mM未満、30mM未満、25mM未満、20mM未満、10mM未満、9mM未満、8mM未満、7.5mM未満、7mM未満、6mM未満、またはさらに5mM未満の濃度で存在することが好ましい。
【0127】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、ヒスチジン、アルギニン、および/またはグルタミン酸を含まない。
【0128】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、増粘剤などの、1種または複数の追加の医薬添加剤をさらに含む。本発明による増粘剤には、限定はしないが、ポリエチレングリコール(PEG)、メチルセルロース(MC)やカルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース、ゼラチン、寒天、および/またはアガロースおよびその誘導体が含まれる。たとえば、増粘剤の濃度は、本発明の組成物の約0.1%(w/w)~10%(w/w)の間、好ましくは、約1%(w/w)~5%(w/w)の間の範囲である場合がある。
【0129】
なお、増粘剤によって、溶液の粘度を増大させることができる。
【0130】
本発明のある特定の実施形態では、組成物は、アジュバントをさらに含む。
【0131】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、医薬的に許容される塩をさらに含む。ある特定の好ましい実施形態では、塩は、塩化ナトリウム(NaCl)である。塩化ナトリウムは、本発明の組成物中に、約10mM~100mMの間、好ましくは、約20mM~100mMの間、約40mM~100mMの間、または約50mM~100mMの間の濃度で存在することが好ましい。好ましい実施形態では、塩化ナトリウムは、約70mMの濃度で存在する。
【0132】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、1種または複数の酸化防止剤をさらに含む。
【0133】
ある特定の実施形態では、酸化防止剤は、メチオニン、アスコルビン酸、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、アノキソマー、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、クエン酸、クエン酸塩、および第三級ブチルヒドロキノンの群から選択される。抗酸化剤賦形剤は、間にあるすべての値および範囲を含めて、ポックスウイルス組成物の0.01%(w/w)、0.05%(w/w)、0.1%(w/w)、0.5%(w/w)、1%(w/w)、2%(w/w)、3%(w/w)、4%(w/w)、5%(w/w)、6%(w/w)、7%(w/w)、8%(w/w)、9%(w/w)、10%(w/w)の濃度で存在する場合がある。
【0134】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、キレート剤、好ましくは、医薬的に許容されるキレート剤をさらに含む。キレート剤によって、特に液体状態での組成物の安定性をさらに向上させることができる。
【0135】
ある特定の実施形態では、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、および2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸(DMPS)から選択され、前記キレート剤は、EDTAであることが好ましい。
【0136】
ある特定の実施形態では、キレート剤は、少なくとも50μMの濃度、好ましくは、50μM~1mM、50μM~750μM、50μM~500μM、50μM~250μM、50μM~150μM、50μM~100μM、50μM~75μM、100μM~300μM、100μM~250μM、100μM~200μM、100μM~150μM、150μM~1mM、150μM~750μM、150μM~500μM、または150μM~250μMの範囲の濃度で存在し、好ましくは、前記キレート剤は、50μM~150μMの範囲の濃度で存在しうる。
【0137】
ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、エタノールをさらに含む。ある特定の実施形態では、本発明の組成物は、0.05%(v/v)~5%(v/v)の範囲の濃度、好ましくは、0.01%(v/v)~5%(v/v)、0.01%(v/v)~2.5%(v/v)、0.01%(v/v)~1.5%(v/v)、0.1%(v/v)~5%(v/v)、0.1%(v/v)~2.5%(v/v)、0.1%(v/v)~1.5%(v/v)、または0.25%(v/v)~0.75%(v/v)の範囲の濃度でエタノールをさらに含む。
【0138】
モル浸透圧濃度
一部の実施形態では、本発明の組成物は、宿主に生理的に許容されるイオン強度を有する。組成物に塩を含める目的は、所望のイオン強度またはモル浸透圧濃度を実現して組成物を安定化させること、ならびに組成物をワクチンとして注射する部位における副作用または局所反応を軽減することである。一部の実施形態では、本発明の組成物は、約200mOsm/L~約1000mOsm/Lの範囲、約200mOsm/L~約900mOsm/L、約200mOsm/L~約800mOsm/L、約200mOsm/L~約700mOsm/L、約200mOsm/L~約600mOsm/L、または約200mOsm/L~約500mOsm/Lの範囲である合計モル浸透圧濃度(溶液中の分子の総数)を有する。一部の実施形態では、本発明の組成物は、約250mOsm/L~約450mOsm/Lの範囲であり、好ましくは、約300mOsm/Lの合計モル浸透圧濃度を有する。記載したとおりのモル浸透圧濃度によって、組成物が、非経口、特に、筋肉内または皮下注射に適するものになりながら、2℃~8℃またはより高い温度での長期の貯蔵が容易になる。イオン強度への寄与は、緩衝性化合物によって生じたイオンだけでなく、非緩衝性塩のイオンからももたらされる場合がある。溶液のモル浸透圧濃度およびイオン濃度は、ヒト身体のものと一致する(等張性である)ことが好ましい。
【0139】
さらに好ましい組成物
一実施形態では、本発明は、a)ポックスウイルスと、b)緩衝液と、c)約5mM~約300mMの間の濃度の硫酸塩とを含む、約6.0~約8.5のpHを有する組成物であって、ポックスウイルスは、MVAであることが好ましく、ポックスウイルスは、フィロウイルス抗原を発現するMVAであることがより好ましい、組成物を提供する。
【0140】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約5mM~25mMの間の濃度のトリス緩衝液またはリン酸緩衝液、約5~150mMの間の濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7.0~8.5の間の範囲のpHを有する。
【0141】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約5mM~25mMの間の濃度のトリス緩衝液、約5~150mMの間の濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7.5~8.5の間の範囲のpHを有する。
【0142】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約8mM~12mMの間の濃度のトリス緩衝液、および80mM~100mMの間の濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7.7~8.2の間の範囲のpHを有する。
【0143】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約8mM~12mMの間の濃度のトリス緩衝液、90mM~110mMの間の範囲の濃度の硫酸ナトリウムを、4%(w/w)~6%(w/w)のスクロースまたはグリセロールと共にまたはこれなしで含み、約7.6~8.2の間の範囲のpHを有する。
【0144】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約8mM~12mMの間の濃度のトリス緩衝液、約45mM~55mMの間の濃度の硫酸ナトリウム、および約60mM~80mMの間の濃度の塩化ナトリウムを含み、約7.6~8.0の間の範囲のpHを有する。
【0145】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のトリス緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約8のpHを有する。
【0146】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のトリス緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを、4%(w/w)~6%(w/w)のスクロースまたはグリセロールと共に含み、約8のpHを有する。
【0147】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のトリス緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウム、および約6%(w/w)の濃度のスクロースを含み、約8のpHを有する。
【0148】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のトリス緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウム、および約5%(w/w)の濃度のグリセロールを含み、約8のpHを有する。
【0149】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のトリス緩衝液、約50mMの濃度の硫酸ナトリウム、および約70mMの塩化ナトリウムを含み、約7.7のpHを有する。
【0150】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約5mM~25mMの間の濃度のリン酸緩衝液、約5~150mMの間の濃度の硫酸ナトリウムを含み、約6.8~7.5の間の範囲のpHを有する。
【0151】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約7.5mM~12mMの間の濃度のリン酸緩衝液、約90mM~110mMの間の濃度の硫酸ナトリウムを含み、約6.8~7.2の間の範囲のpHを有する。
【0152】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約6.8~7.8の間の範囲のpHを有する。
【0153】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7のpHを有する。
【0154】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7.5のpHを有する。
【0155】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約7.5mM~12mMの間の濃度のリン酸緩衝液、約90mM~110mMの間の濃度の硫酸ナトリウムを、4%(w/w)~6%(w/w)のスクロースまたはグリセロールと共にまたはこれなしで含み、約6.8~7.2の間の範囲のpHを有する。
【0156】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを、4%(w/w)~6%(w/w)のスクロースまたはグリセロールと共にまたはこれなしで含み、約7のpHを有する。
【0157】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウム、および約6%(w/w)の濃度のスクロースを含み、約7のpHを有する。
【0158】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウム、および約5%(w/w)の濃度のグリセロールを含み、約7のpHを有する。
【0159】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを、4%(w/w)~6%(w/w)のスクロースまたはグリセロールと共にまたはこれなしで含み、約7.5のpHを有する。
【0160】
本発明による別の実施形態では、組成物は、約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウム、および約5%(w/w)の濃度のグリセロールを含み、約7.5のpHを有する。
【0161】
ある特定の実施形態では、本発明は、本明細書に記載するいずれかの実施形態の組成物を含む医薬組成物に関する。
【0162】
ある特定の実施形態では、いずれかの実施形態の組成物を含む医薬組成物は、非経口投与に適する医薬組成物である。
【0163】
本発明のある特定の実施形態では、いずれかの実施形態の組成物を含む医薬組成物は、筋肉内、皮下、静脈内、または鼻腔内適用に適する医薬組成物である。
【0164】
ある特定の実施形態では、本発明による組成物は、バイアルに収容される。用語「バイアル」とは、本明細書で開示するようなウイルスなどの活性医薬成分の貯蔵が可能であるいずれかの容器、槽、カートリッジ、デバイス、ガラスアンプル、または注射器を指す。したがって、用語バイアル、容器、槽、カートリッジ、デバイス、ガラスアンプル、または注射器は、区別なく使用することができる。バイアルは、不活性材料、特に、ガラス(DIN 2R I型ホウケイ酸ガラスバイアルなど)、または高分子材料製であるのが普通である。好ましい実施形態では、組成物は、注射器に収容される。
【0165】
本発明の組成物は、対象、好ましくはヒトに、当技術分野で公知のいずれかの方法によって投与することができる。投与経路には、限定はしないが、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、静脈内適用、鼻腔内投与、経皮(transdermal)投与、経皮(transcutaneous)投与、または経皮(percutaneous)投与が含まれる。投与方式、用量、および投与回数は、当業者が既知のやり方で最適化してよい。
【0166】
ある特定の実施形態では、本出願の組成物は、10~10TCID50/mL、10~5×10TCID50/mL、10~10TCID50/mL、または10~10TCID50/mLの用量範囲でウイルスを含む。対象(好ましくはヒト)のための好ましい用量は、10TCID50、10TCID50、または10TCID50の用量を始めとする、10~10の間のTCID50を含む。ヒトのための用量は、好ましくは0.1mL~0.5mLの体積中に、少なくとも2×10TCID50、少なくとも3×10TCID50、少なくとも5×10TCID50、少なくとも1×10TCID50、少なくとも2×10TCID50を含むことが好ましい。
【0167】
本発明はまた、疾患または病原体に関する処置および/または予防のための、本発明のいずれかの実施形態の組成物または医薬組成物に関するものであり、疾患は、がんまたは感染性疾患から選択されることが好ましい。
【0168】
本発明はまた、疾患または病原体に関する処置および/または予防のための医薬品を製造するための、本発明のいずれかの実施形態の組成物または医薬組成物の使用に関するものであり、疾患は、がんまたは感染性疾患から選択されることが好ましい。
【0169】
別の実施形態は、それを必要とする対象(好ましくはヒト)を、本発明のいずれかの実施形態の組成物または医薬組成物でワクチン接種する方法に関する。
【0170】
別の実施形態は、疾患または病原体、好ましくは、がんまたは感染性疾患から選択される疾患に関して処置および/または予防する方法であって、それを必要とする対象(好ましくはヒト)に、本明細書に記載するような組成物または医薬組成物を投与することを含む方法に関する。
【0171】
ある特定の実施形態では、本発明は、いずれかの実施形態の組成物を調製することを含む、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法に関する。
【0172】
ある特定の実施形態では、本発明は、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法であって、いずれかの実施形態の組成物を調製し、前記組成物を摂氏2度~摂氏8度の間の範囲の温度で貯蔵するステップを含む方法に関する。
【0173】
ある特定の実施形態では、本発明は、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法であって、ポックスウイルス組成物に、約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩を加える、好ましくは、約10mM~140mMの間の濃度の硫酸塩を加えるステップを含む方法に関する。
【0174】
ある特定の実施形態では、本発明は、いずれかの実施形態のポックスウイルス組成物を安定化させる方法であって、ポックスウイルス組成物は、緩衝液を含み、約6.5~8.5の間のpHを有する、方法に関する。
【0175】
以下の詳細な実施例は、本発明のより深い理解の一助となるためのものである。しかし、本発明は、実施例によって限定されない。本発明の他の実施形態が、本明細書を検討し、本明細書で開示する本発明を実施することで、当業者に明らかとなろう。
【実施例
【0176】
実施例1
原体を含有する液体ポックスウイルスの調製
以下の実施例で使用するようなMVA-BN-FILO(MVA-mBN266)は、詳細には、国際公開第2016/034678号パンフレットに記載されている。MVAは、3種のフィロウイルス糖タンパク質、すなわち、エボラウイルスSudan(GP-SEBOV)、エボラウイルスザイール-メインガ(GP-ZEBOV-メインガ)、およびマールブルクウイルス・ムソーク(GP-MARV-ムソーク)の糖タンパク質、ならびにエボラウイルスアイボリーコースト(NP-EBOV-CdI)の核タンパク質をコードする。GP-ZEBOV-メインガおよびGP-MARV-ムソーク用の発現カセットを、遺伝子間領域IGR148/149に挿入した。GP-SEBOVおよびNP-EBOV-CdI用の発現カセットは、国際公開第2016/034678号パンフレットに記載されているとおりに、ポックスウイルスプロモーター下の遺伝子間領域IGR88/89に挿入した。組換えウイルスは、当業者公知の標準の方法を使用して精製した。ウイルス濃度が5×10InfU/mLであるMVA-BN-FILO原体(BDS)を、40mMのNaClを含有し、pH7.7である10mMのトリス中で貯蔵した。製品の2℃~8℃での安定性を向上させるために、様々な塩、糖添加剤、アミノ酸、および緩衝液を使用して、200種を超える異なる処方を分析した。最良の結果は、硫酸ナトリウム(NaSO)で得られた。
【0177】
実施例2
pH、緩衝液、および硫酸塩の影響
MilliQグレード水への限外濾過/ダイアフィルトレーションを使用して、MVA-BN-FILO BDSの緩衝液交換を行った。その後、特定の体積の(異なるpHの)濃縮トリス緩衝液および硫酸ナトリウム(NaSO)溶液を加えて、最終処方を得た。この処方、すなわち処方Bは、10mMのトリス緩衝液および100mMのNaSOからなっており、それぞれpH7.5、8、8.5、および9である処方B1、B2、B3、およびB4に分けた。
【0178】
100mMのNaSOを含まない同じ組成物(処方A1、A2、A3、およびA4)を、対照薬として共に用いた。表1に、調製された処方の概要を示す。処方はすべて、MVAウイルス効力力価が3.75×10InfU/mLであった。
【0179】
【表1】
【0180】
各処方を、MVAの分解をもたらすことがわかっている条件である、25℃で1週間の加速ストレス条件下に置いた。加速ストレスを適用する前後にサンプルの測定を行った。異方性(図1)および自家蛍光(図2に、発光ピークシフトおよび発光強度変化として示す)の測定を、Fluoromax4分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horiba、英国)において行った。動的光散乱測定(図2に、Z平均直径変化および多分散指数(PDI)変化として示す)を、Zetasizerにおいて行った。加えて、加速ストレスを適用する前後にpHも測定した。
【0181】
結果および結論
異方性測定の結果は、図1に示す。加速ストレスを適用した後、すべての異方性走査値が変化したことが示された。すべての処方について、ストレス後に異方性走査値が低下し、MVAのタンパク質中の励起された基がより柔軟になったことが示唆された。柔軟性のこの増大は、こうしたタンパク質の特定の基のアンフォールディングおよび/またはタンパク質構築物の解離のせいであるとすることができる。しかし、この変化の程度は、溶液中に硫酸塩が存在したとき、それほど顕著でなかった。加えて、硫酸塩含有処方では、異なるpHでも変化が同様であり、硫酸塩の堅固な安定化効果が示唆された。異方性がタンパク質濃度および光散乱と無関係であるという事実を踏まえると、これにより、この方法で得られた結果が非常に信頼できることが示唆される。
【0182】
図2は、処方A1~A4(NaSOなし)およびB1~B4(NaSO使用)の加速ストレス後のpH変化、発光ピークシフト、発光強度変化、Z平均直径および多分散指数(PDI)の変化の結果を示す。硫酸塩の存在は、硫酸塩含有処方ではより低かったZ平均直径およびPDIの変化から認めることのできる、コロイド安定性に対する顕著な効果を示す。コロイド安定性の向上は、粒子混合物が容易に凝集または解離しないことを意味する。MVA-BN-FILOについてのコロイド不安定性とウイルスの効力の低下とには相関があるため、コロイド安定性の向上は、ウイルスの活性にプラスの影響を及ぼす。特に、NaSOを含有する処方について、pH7.5および8.0では、観察されたpHおよび発光強度の変化は限られていた。発光強度は、サンプルの散乱特性による影響を受ける場合があるため、サンプルの散乱特性が増大したということにより、発光強度が低減する場合もある。発光強度とは対照的に、ピークシフトは、光の散乱に左右されず、結果は、すべての硫酸塩処方でピークシフトが低いことを示している。このことから、こうした処方ではタンパク質構造の立体構造変化が限られること、および硫酸塩が堅固な安定化効果を有することが示唆される。
【0183】
実施例3
実験の設計および方法
MVAウイルスの安定性に対する硫酸塩の効果をさらに調べるために、本発明者らは、異なる塩を含むいくつかの追加の処方を試験した。それらの追加処方の概要を表2に示す。
【0184】
【表2】
【0185】
各処方を、MVAの分解をもたらすことがわかっている加速ストレス条件(37℃で1日)下に置いた。各処方物からサンプルを採取し、加速ストレスを適用する前後に測定を行った。濁り度の測定を、BioTek Neoプレートリーダーにおいて行った。(Z平均直径変化およびPDI変化として表される)動的光散乱(DLS)測定を、Zetasizerにおいて行った。
【0186】
結果および結論
この実験で得られたすべての結果の概要を、図3に示している。各グラフは、異なるpHの処方ごとに得られた結果を表す。グラフの各縦列は、別個のアッセイで得られた測定値を示す。
【0187】
濁り度の結果から、MgClを含有する処方(処方E1~4)が、加速ストレス後に最も少ない変化を示し、次がNaSO処方(処方B1~4)およびMgSO処方(処方D1~4)であることが認められ、これらは、限られた濁り度の変化しか被らなかったように思われる。濁り度は、溶液中の粒子の存在による全体的な光の散乱の結果であることを留意すべきである。この散乱、すなわち濁り度の程度は、多くの要因、中でも、粒径、粒子濃度、および粒子形状に応じて決まる。コロイド性(colloidal)についての追加情報は、DLS結果(Z平均直径およびPDI)によって示される。
【0188】
加速ストレス後のZ平均直径の変化は、CaClを含有する処方(処方C1~4)で最も少ない。しかし、こうした処方における初期Z平均直径は、900nmを超えていた。これは、MVA処方物にしては比較的大きく(MVAは大きさが約200nmである)、加速ストレスが適用される前の初期の凝集の存在を示唆している。CaCl含有処方の結果を無視すると、NaCl含有処方(処方F1~4)が、ストレス後に最も少ないZ平均直径の変化を示した。興味深いことに、NaSO処方(処方B1~4)は、NaCl含有処方と同様に良好に機能し、次にMgSO処方(処方D1~4)がくると思われる。この知見は、処方中の硫酸塩の存在によって、コロイド安定性が向上することを示している。MgSOとは対照的に、MgCl(E1~4)の存在は、試験したpHとは無関係に、Z平均直径にマイナスの影響を与えるように思われる。PDIの変化に注目すると、NaSO処方(処方B1~4)が、最も少ない変化を示し、次が、MgSO処方(処方D1~4)およびNaCl含有処方(処方F1~4)となった。上でZ平均直径の変化について示したのと同じ説明を、PDI結果にも当てはめることができ、硫酸塩の存在が非常に重要であり、示されたデータを根拠としてNaSOが最も好ましいことが示唆される。
【0189】
実施例4
実験の設計および方法
本研究では、実施例3と同じ塩の効果を、異なるpHのリン酸緩衝液中で試験した。それらの追加処方の概要を表3に示す。
【0190】
各処方を、加速ストレス条件(37℃で1日)下に置いた。加速ストレスを適用する前後にサンプルの測定を行った。濁り度の測定を、BioTek Neoプレートリーダーにおいて行った。(Z平均直径変化およびPDI変化として表される)動的光散乱(DLS)測定を、Zetasizerにおいて行った。
【0191】
【表3】
【0192】
結果および結論
この実施例で得られたすべての結果の概要を、図4に示している。各グラフは、異なるpHの処方ごとに得られた結果を表す。グラフの各縦列は、別個のアッセイで得られた測定値を示す。
【0193】
全体として、濁り度結果からは、NaSO含有処方が、4種すべての処方(B1~4)において、最も少ない変化しか被らなかったようであると結論付けることができる。MgCl処方(C1~4)は、濁り度に関してNaSO処方より機能せず、次がNaCl含有処方(D1~4)である。コロイド特性に関する追加の情報となる、DLSによって得られた結果からも、MVA-BN-FILOの安定性に対するNaSOの高い有益な効果が示され、それは、試験したすべてのpH値について観察された。MgCl処方(C1~4)については、ストレス後のZ平均直径の特に大幅で望ましくない増大が観察され、塩化物を含有する塩の処方中のMg2+イオンがMVA-BN-FILOのコロイド安定性に及ぼすマイナスの影響が示唆された。したがって、NaSO含有処方の安定化効果が、試験した他の処方より堅固であると結論付けることができる。
【0194】
実施例5
実験の設計および方法
この実験では、これまでの研究からの有望な処方ならびに新規処方および硫酸塩を含有しない対照処方を調製した。それらの処方の概要を表4に示す。
【0195】
各処方を、加速ストレス条件(すなわち、25℃で2週間、2W25C)下に置いた。処方5、6、および8は、さらに、別の加速ストレス条件、すなわち、37℃で1日(1D37C)にも曝した。加速ストレスを適用する前後にサンプルの効力を測定した。効力測定は、蛍光活性化細胞選別機(FACS)アッセイによって、以下に記載するとおりに行い、相対効力差として示した(表5を参照されたい)。
【0196】
【表4】
【0197】
結果および結論
加速ストレス条件の結果としての効力の低下の概要を、表5に、試験した各処方について示す。
【0198】
【表5】
【0199】
全体として、結果からは、試験した組成物中の硫酸塩の存在が、加速ストレス後の効力低下に対してプラスの効果を与えることが示唆される。その上、硫酸塩と比較的高いpH(>7.5)を組み合わせると、安定性はさらに向上する(処方1、2、3、4、および7を参照されたい)。加えて、処方中のグリセロールの存在も、効力の低下を軽減するようであった。これについては、処方3および8(詳細には、処方8についての1D37C後)について観察された効力低下が証拠となる。
【0200】
実施例6
実験の設計および方法
この実験では、これまでの研究からの有望な硫酸塩含有処方(実施例5、表5:処方1、3、および7)ならびに硫酸塩なしの対照処方を調製した。限外濾過/ダイアフィルトレーションを使用して、MVA-BN-FILO原体の緩衝液交換を行った。所望の薬物製品濃度前後で、処方物をガラスバイアルに充填し、栓をし、蓋を被せた。処方の概要を表6に示す。各処方を次のストレス条件下に置いた。i)5℃で3カ月、ii)-20℃で3カ月、iii)20回の凍結解凍サイクル、iv)200rpmで1日の撹拌。示したストレス条件の1つの前後に、種々の分光学的方法によってサンプルの測定を行った(たとえば、異方性、自家蛍光、90度光散乱、燐光、動的光散乱、および濁り度)。加えて、サンプルの効力も測定した。
【0201】
濁り度の測定は、BioTek Neoプレートリーダーにおいて行った。(Z平均直径変化およびPDI変化として表される)動的光散乱(DLS)測定は、Zetasizerにおいて行った。異方性、自家蛍光、90度光散乱、および燐光の測定は、Fluoromax4分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horiba、英国)において石英キュベットで行った。効力測定は、蛍光活性化細胞選別機(FACS)アッセイによって行い、1mLあたりの感染単位(表7)ならびに相対効力差(表8)として示した。
【0202】
【表6】
【0203】
結果および結論
ストレス条件を適用する前後の処方物の効力を、表7および8に示す。図5、6、7、および8には、それぞれ、調製後、5℃で3カ月、-20℃で3カ月、20回の凍結解凍サイクル、および200rpmで1日の撹拌という、受けたストレス条件後のMVA処方物についての異方性、蛍光発光、および90度光散乱スペクトルを収載する。図9には、試験したサンプルの濁り度、Z平均直径、およびPDIを収載する。処方3は、-20℃で3カ月後、20回の凍結解凍サイクル後、および1日の撹拌後に効力低下を示さなかった(表7および8)。測定されたばらつきは、アッセイ変動値の範囲内であった。処方7は、1日の撹拌後には効力低下を示さなかったが、-20℃で3カ月または20回の凍結乾燥サイクル後には顕著な低下があった(表7および8)。
【0204】
MVA処方物は、感染性MVA粒子(活性物質)と種々の宿主細胞タンパク質および工程由来の他の不純物の固有の組合せであり、すべてがまとまって、平均直径およびPDIによって測定される大きさを有する大小の粒子を含有する白みがかった懸濁液をなす。濁り度および90度光散乱から、こうした懸濁液の粒子の性質に付加的な見識がもたらされる。一般に、処方中の硫酸塩によって、濁り度は低下する結果となり、それが、処方1で最も顕著であると結論付けることができる(図9)。この実施例では、示したストレス条件を受けて、濁り度、光散乱、Z平均、およびPDIのより低くさえある値から判断されるとおり、処方1においてより大きい粒子を減少させることに対する硫酸塩の破壊的な効果が、対照Aに比べてさらに増大した(図5~9)。
【0205】
硫酸ナトリウムおよびグリセロールを含有するトリス中のMVAである処方3は、次のストレス条件:i)-20℃で3カ月、ii)20回の凍結解凍サイクル、およびiii)200rpmで1日の撹拌後、異方性スペクトル、蛍光発光スペクトル、90度光散乱、濁り度、Z平均直径、およびPDIの変化を示さない、または最小限しか示さなかった(図6~9)。これは、(アッセイ変動値の範囲内で)効力低下の変化がないという知見と一致する。トリスおよびグリセロールと組み合わせられた硫酸塩は、MVA処方物にプラスに影響を与え、懸濁液の粒子の性質およびコロイド特性に関して適正な平衡が確立され、たとえば、処方物は、T0に比べて、その濁り度、ならびに0.3前後のPDIによって示される多少の不均一性を維持した(図9)。
【0206】
硫酸ナトリウムを含有するリン酸緩衝液中のMVAである処方7は、高いPdIおよび高いZ平均値を有しており(図9)、大小の多くの粒子の存在が示唆される。処方7は、撹拌によって誘導されたストレスに対し、処方3と同じようにしてMVAを安定化させた。撹拌によって、異方性値の少しの低下が測定されたものの、処方7の蛍光発光、90度光散乱、または濁り度の変化は引き起こされなかった。これは、概して、Trp環境が、MVAコロイド懸濁液の全体的な粒子の性質に影響を与えることなく、それほど厳格でなくなった(たとえば、解離またはアンフォールディング)ことを示唆している。撹拌によって、処方7の効力の変化は誘導されておらず、観察された変化は、MVAに関係のないタンパク質の解離または分解によって引き起こされたと思われる。加えて、1日撹拌後の処方7のPdIおよびZ平均値は、5℃で3カ月または-20℃で3カ月後の値に比べて低く、粒子およびその粒度分布が、程度の大きい凝集体またはクラスターのない精製MVA粒子から推測されるものとより一致していたことが示唆される。処方7を処方1と比較すると、硫酸塩と組み合わせられたリン酸の存在が、撹拌によって誘導されるストレスに対して、硫酸塩を含有するトリスより保護的であることが示唆される(表7および8)。
【0207】
この実施例において、対照処方B(トリス、グリセロール、およびNaCl)は、対照処方A(トリスおよびNaCl)と同様またはよりひどい効力低下を示しており、グリセロールの存在によって、硫酸塩を含有しない対照処方の物理的および生物学的性質は改善されなかったことが示唆された。しかし、対照処方Bの塩化ナトリウムを硫酸ナトリウムで置き換えると(処方3)、結果として、効力の変化が最小限からゼロとなり、MVA処方物は安定化されており、表7および8において、-20℃、20回の凍結解凍、および撹拌条件について示す値は、アッセイ変動値の範囲内である。
【0208】
結論として、MVAの効力および物理的安定性は、処方に硫酸塩を加えることにより安定化された。硫酸塩をグリセロールと組み合わせることで、MVA粒子は、凍結状態でも凍結解凍されても安定化された。MVA安定性の向上は、長期貯蔵、備蓄、および現場での使用を含むサプライチェーンにとって有益となりうる。
【0209】
【表7】
【0210】
【表8】
【0211】
安定性を見極めるのに使用した方法
自家蛍光アッセイ
MVAタンパク質は、励起後に光を再び発する芳香族アミノ酸(フルオロフォア)、特に、トリプトファン、ならびに、より程度は低いが、チロシンおよびフェニルアラニンを含んでいる。トリプトファンの発光極大および量子収量は、その環境の極性に大きく左右される。極性の水性環境(たとえば、球状タンパク質の表面、または解離および遊離状態)では、量子収量が比較的低いが、極性環境(たとえば、凝集体の内側、または親油性のウイルスエンベロープ内)では、量子収量が増大する。この特色により、トリプトファン蛍光は、タンパク質立体構造変化、凝集、分解、解離、および分子間相互作用を研究するのに有用なツールとなる。
【0212】
蛍光強度は、タンパク質安定性の感度のよい尺度であることが当技術分野で公知である。サンプルにおいて起こる変化の性質に応じて、増大または低減のいずれかが、ストレス後に観察される場合がある。タンパク質アンフォールディングおよびカプシド解離は、自家蛍光の低減をもたらすことが予想され、凝集は、増大をもたらすことが予想される。発光極大の位置の変化からは、フルオロフォアの環境に関する付加的な情報が得られる。一般に、レッドシフト(強度極大のより長波長へのずれ)は、フルオロフォアがより水性の環境に曝された場合に起こる。フルオロフォアが水からより遮られるとき、ブルーシフト(強度極大のより短波長へのずれ)が通常は起こる。
【0213】
ストレス負荷サンプルについて得られた蛍光は、常に対照サンプルと比較すべきである。t=0サンプルに比べて(より高いまたは低い)変化は、安定性に劣る処方の指標である。t=0サンプル値に近いままであるストレス負荷サンプルは、より安定している。
【0214】
キュベットによる分光蛍光光度計とマイクロプレートによるプレートリーダーの2種の異なる蛍光技術を適用した。両方の技術の精度は、使用した範囲の5%(CV%)未満である。
【0215】
キュベットによる定常状態蛍光測定は、Fluoromax-4分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horiba、英国)を用いて実施した。測定は、サーモスタットで調温されたキュベットホルダーを使用して25℃で行った。Hellma石英キュベットを使用した。定常状態発光測定については、サンプルを290nmで励起させ、2nm(励起)および4nm(発光)のバンドパスならびに0.1の積分時間を使用して、300nm~450nmの間で発光をモニターした。
【0216】
マイクロプレートによる自家蛍光アッセイは、Biotek Neo2プレートリーダーを用いて測定した。サンプルを、UV透過性平底マイクロプレートに三通りに移す。280nmおよびバンド幅10nmで励起させ、310nm~450nmの間で発光させた後、トリプトファン蛍光を測定する。
【0217】
異方性
定常状態蛍光異方性によって、フルオロフォアが偏光を回転させる能力が測定される。励起波長は、フルオロフォアによって発光されると、一方向に偏極され、引き続いて、回転する。フィルターを使用して、励起された波長と同じ平面にある発光波長を測定するが、これは、励起波長と同じ平面にある光だけが検出されることを意味する。偏光が回転するほど、検出器におけるシグナルは弱い。光を回転させる能力は、個々のフルオロフォアの平均柔軟性に応じて決まり、フルオロフォアの柔軟性が高いほど、光は回転し、検出器におけるシグナルは弱くなる。このため、異方性は、タンパク質立体構造変化、凝集、分解、解離、および分子間相互作用を研究するのに有用なツールとなる。
【0218】
異方性は、タンパク質安定性の感度のよい尺度であることが当技術分野で公知である。サンプルにおいて起こる変化の性質に応じて、増大または低減のいずれかが、ストレス後に観察される場合がある。タンパク質アンフォールディングおよびカプシド解離は、異方性の低下をもたらすことが予想され、凝集は、増大をもたらすことが予想される。ストレス負荷サンプルについて得られた異方性は、常に対照サンプルと比較すべきである。適用ストレス後の増大または低下は、分解経路次第であり、各活性医薬成分(API)に特異的であるため、予測することはできない。t=0サンプルに比べて(より高いまたは低い)変化は、安定性に劣る処方であることを示す。t=0サンプル値に近いままであるストレス負荷サンプルは、より安定している。
【0219】
定常状態異方性測定は、Fluoromax-4分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horiba、英国)を用いて実施した。測定は、サーモスタットで調温されたキュベットホルダーを使用して25℃で行った。Hellma石英キュベットを使用した。Glan-Thompsonプリズム偏光子を用い、Tフォーマット配置を使用して、定常状態異方性測定を行った。290nmでの励起の結果として得られる発光ピーク範囲(333~375nm)で異方性を測定した。蛍光異方性Aは、次式から算出した。
【0220】
【数1】
ここで、Gは、補正係数G=I90,0/I90,90である。Im,nは、所与の波長での蛍光強度であり、下付き数字は、励起(m)および発光(n)ビームにおける垂直軸を基準とした偏光子の位置を指す。1nmのスペクトルステップあたり1.0秒の積分時間でスペクトルを記録した。
【0221】
90度光散乱
キュベットによる90度光散乱測定を、Fluoromax-4分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horiba、英国)で実施した。測定は、サーモスタットで調温されたキュベットホルダーを使用して25℃で行った。Hellma石英キュベットを使用した。最適化されたバンドパスの組合せおよび0.01秒の積分時間を使用して励起波長で発光をモニターすることにより、角度90度での光散乱を、500~750nmの間の波長で測定した。光散乱スペクトルからは、溶液中の粒子の濃度、屈折率、および大きさに関する情報が得られる。この技術は、生物学的製剤の凝集状態の小さな変化に高感度であることが示されている。たとえば、光散乱の減少は、粒子の濃度の低下もしくは同数の粒子の大きさの縮小のいずれかによって、またはこれらを組み合わせて説明をつけることができる。光散乱の増加は、多くの場合、粒子の数の増加もしくは同数の粒子の大きさの増大またはこれらの組合せによる凝集と関連付けられる。
【0222】
動的光散乱
動的光散乱(DLS)は、懸濁液または溶液中の粒子の粒度分布を測定するのに使用されている技術である。偏極レーザー光をサンプルに侵入させ、サンプル中に存在する粒子によって散乱させる。その後、散乱光を光電子増倍管によって収集する。ここで、経時的な強度の変動を分析する。小さい粒子は、大きい粒子より溶液中を速く動き回るため、その高度なブラウン運動により、小さい粒子の方が、強度の変動が大きい。MVAは、粒子であり、偏極レーザー光を散乱させるので、DLSを使用して、MVA粒子の大きさの増大(たとえば、凝集)および/または縮小(たとえば、解離)を見極めることができ、このため、DLSは、凝集または解離を検出するのに有用な技術となる。
【0223】
DLSでは、サンプルを、UV透過性平底マイクロプレートに三通りに移した。10mV He-Neレーザー(830nm)を装備し、90°の角度で動作させたDLS装置Zetasizer APS(Malvern、英国)を使用して、粒径および粒度分布を測定した。
【0224】
ストレス負荷サンプルについて得られた粒度分布を対照サンプルと比較した。t=0サンプルに比べて(より高いまたは低い)変化は、安定性に劣る処方であることを示す。t=0サンプル値に近いままであるストレス負荷サンプルは、より安定している。
【0225】
350nmでの濁り度測定
濁り測定では、サンプル中の分子が光を吸収しない波長(たとえば、タンパク質が主な発色団であるサンプルでは350nm)で検出される、サンプル中の粒子の散乱による透過光の強度低下(見かけの吸光度)が測定される。分子が凝集し、または超分子複合体を形成するとき、別々の粒子から生じるときはランダムであった光散乱が、このとき干渉性になり、それによって、測定される強度が増大する。このため、光散乱および濁り測定は、凝集および複合体形成または解離を検出するのに有用な技術となる。
【0226】
濁り度アッセイでは、サンプルを、UV透過性平底マイクロプレートに三通りに移す。マイクロプレートリーダーによって、230~500nmの間で吸光度を記録し、975nmでの吸光度を測定して求め、場合により、光路長の差について補正する。MVAなしの処方からなる対照サンプルをアッセイに含めて、必要なら、マトリックス成分の散乱または吸収について補正した。350nmでの見かけの吸光度を、濁り度の定量的尺度として使用した。
【0227】
濁り度アッセイは、MVAサンプルについての安定性を示すものである。MVA凝集は、濁り度の増大をもたらし、カプシド解離は、低下をもたらす。アッセイ精度は、1NTU未満の濁り度値で5%(CV%)未満である。
【0228】
ストレス負荷サンプルについて得られた濁り度は、常に対照サンプルと比較すべきである。t=0サンプルに比べて(より高いまたは低い)変化は、安定性に劣る処方であることを示す。t=0サンプルに匹敵するストレス負荷サンプルは、より安定していると推測される。
【0229】
燐光
蛍光が、励起された一重項状態からの発光を指すのに対し、燐光は、励起された三重項状態からの発光を指す。燐光は、基本的には、蛍光(nsスケール)と同様であるがより長い時間スケール(ms~ms)での放射線の放出であるため、励起が止んだ後も発光が持続する。ヤブロンスキー図によれば、フルオロフォアは、光を吸収し、基底状態から一重項状態へと進んだ後、三重項状態への項間交差へと進む。三重項状態からの発光(燐光)は、蛍光に比べて低エネルギーであり、したがって、長波長である。燐光シグナルは、活性医薬成分(API)の特定の性質である場合があり、減少の場合では、立体構造変化、分解、または解離の徴候となる。燐光発光の増加は、より大きく厳格な構造が形成されるとき、たとえば、タンパク質凝集の場合に起こりうる。
【0230】
燐光測定は、Fluoromax-4分光蛍光光度計(Jobin Yvon Horiba、英国)を用いて実施した。測定は、サーモスタットで調温されたキュベットホルダーを使用して25℃で行った。Hellma石英キュベットを使用した。サンプルを343nmで励起させ、2nm(励起)および4nm(発光)のバンドパスならびに0.5秒の積分時間を使用して、360nm~550nmの間で燐光をモニターした。
【0231】
感染力(効力)を求める方法
蛍光活性化細胞選別機(FACS)アッセイ
組換えまたは非組換えMVAの力価(InfU/mL)を、蛍光活性化細胞選別機(FACS)アッセイによって求めた。MVAに感染させたベビーハムスター腎臓細胞21(BHK-21)細胞を、ワクシニアウイルス(VACV)に特異的な蛍光色素結合抗体で免疫染色し、引き続いて、定量的な細胞計数のためにBD Flow Sensorを備えたFACSVerse(商標)(BD Bioscience)機器を使用してこれを収集し、定量化した。
【0232】
より詳細には、2.5×10個のBHK21細胞(供給元ATCC)を、12ウェルプレートのGMEM/9%FBS/1.8%Ala-Gln中に播いた。翌日、当該MVAウイルス保存液の連続希釈物を用いて細胞を感染させた。37度で1時間インキュベートした後、リファンピン(GMEM/9%FBS/1.8%Ala-Gln中100μg/mL)を加えた。感染から19±2時間後に細胞を収穫し、固定し、抗体染色の前に、BDPerm/Wash(商標)キットで透過処理した。固定された細胞を、抗ワクシニアFITC(Fitzgerald Industries International、カタログ番号60-v68)と共に60~90分間インキュベートした。次いで、BD FACSVerse(商標)サイトメーターを使用するフローサイトメトリーによって、ウイルス陽性細胞の百分率を求めた。並行して固定した、染色されていない細胞においてBD FACSVerse(商標)Flow Sensorを使用することにより、合計細胞カウントを求めた。本アッセイのInfU/mLの算出は、ウイルス陽性細胞の百分率、感染の際に使用したウイルス希釈度、感染体積(infection volume)、およびウェルあたりの平均細胞数をもとにした。細胞カウントのウェル毎の変動性の影響を制限するために、複数のウェルの細胞カウントの平均をとって細胞数を定めた。ウイルスサンプルのInfU/mLを算出するために、2~35%のVACV陽性細胞を含有する希釈度だけを含めた。サンプル希釈物あたりのInfU/mLの算出を、次式に従って行った。
【0233】
【数2】
【0234】
組織培養感染性用量50(TCID50)MVA感染力アッセイ
TCID50は、国際公開第03/053463号パンフレットの実施例2に記載されているように、96ウェルフォーマットにおいて10倍希釈物を使用して、MVAの感染力を滴定する方法である。MVAの滴定は、96ウェルフォーマットにおいて10倍希釈物を使用する、TCID50に基づくアッセイにおいて実施した。アッセイの終点において、抗ワクシニアウイルス抗体および適切な染色溶液を使用して、感染した細胞を可視化した。2~3日齢の初代CEF(ニワトリ胚線維芽細胞)細胞を7%RPMI中に希釈して1×10細胞/mLとした。1希釈物あたりの反復試験を8回として、10倍希釈を行った。希釈した後、96ウェルプレートのウェルあたり100μLを播いた。次いで、細胞を37℃、5%COで終夜インキュベートした。
【0235】
ウシ胎児血清を含まないRPMIを使用して、ウイルス含有溶液を10倍ステップで希釈した。次いで、細胞を含むウェルに、すべてのウイルスサンプルを100μLずつ加えた。96ウェルプレートを、摂氏37度、5%COで5日間インキュベートして、感染およびウイルス複製を可能にした。感染から5日後、細胞をワクシニアウイルス特異的抗体で染色した。特異的抗体の検出には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体を使用した。MVA特異的抗体は、抗ワクシニアウイルス抗体、ウサギポリクローナル、IgG分画(Quartett、ドイツ国ベルリン #9503-2057)とした。二次抗体は、抗ウサギIgG抗体、HRP結合ヤギポリクローナル(Promega、ドイツ国マンハイム #W4011)とした。既知の技術に従って呈色反応を起こした。呈色反応において陽性であった細胞を含むすべてのウェルを、TCID50の算出のために陽性として選抜した。力価は、Spearman-Kaerberの算出方法を使用して算出した。データは、T=0時点から所与のいずれかの時点についての相対的な差である、ウイルス力価の対数として表すこともできる。
【0236】
上述したような実施例は、単なる例示的とみなされ、本発明の真の範囲および意図は、以下の特許請求の範囲によって示されるものとする。
また、本発明は以下を提供する。
[1]
a)ポックスウイルスと、b)緩衝液と、c)約5mM~300mMの間の濃度の硫酸塩とを含む組成物であって、約6.0~8.5の間のpHを有する、組成物。
[2]
前記ポックスウイルスが、ワクシニアウイルス、好ましくは、改変ワクシニアアンカラ(MVA)ウイルスである、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[3]
前記ポックスウイルスが組換えポックスウイルスである、前述の項目のいずれかに記載の組成物。
[4]
前記MVAが、フィロウイルスタンパク質、好ましくは、フィロウイルス糖タンパク質、最も好ましくは、2種または3種のフィロウイルス糖タンパク質を発現する組換えMVAである、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[5]
前記ウイルスの力価が、約1×10 InfU/mL~約2×10 InfU/mL、好ましくは、1×10 InfU/mL~約4×10 InfU/mL、または0.1×10 InfU/mL~約4×10 InfU/mLの範囲にある、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[6]
前記組成物が、液体組成物または凍結した液体であり、好ましくは、約2℃~8℃の間で貯蔵された液体組成物である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[7]
前記緩衝液が、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、またはクエン酸/リン酸緩衝液である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[8]
前記緩衝液が、約5mM~40mMの間の濃度である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[9]
前記緩衝液が、約5mM~25mMの間の濃度である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[10]
前記緩衝液が、約6.5~8.5の間のpHのトリス緩衝液である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[11]
前記緩衝液が、約7.5~8.5の間のpH、好ましくは、pH8のトリス緩衝液である、項目[1]から[9]のいずれかに記載の組成物。
[12]
前記緩衝液が、約6.5~8.5の間のpHのリン酸緩衝液である、項目[1]から[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[13]
前記緩衝液が、約6.8~7.8の間のpH、好ましくは、pH7.0または7.5のリン酸緩衝液である、項目[1]から[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[14]
前記硫酸塩が、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、および硫酸アンモニウムからなる群から選択される、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[15]
前記硫酸塩が、硫酸ナトリウムおよび/または硫酸アンモニウム、好ましくは、硫酸ナトリウムである、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[16]
前記塩濃度が約5mM~150mMの間である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[17]
約10mMの濃度のトリス緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約8のpHを有する、項目[1]から[11]または[14]から[16]のいずれか一項に記載の組成物。
[18]
約10mMの濃度のリン酸緩衝液、約100mMの濃度の硫酸ナトリウムを含み、約7.5のpHを有する、項目[1]から[9]または[12]から[16]のいずれか一項に記載の組成物。
[19]
塩化ナトリウムをさらに含む、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[20]
10mM~100mMの間の濃度の塩化ナトリウムを含む、項目[19]のいずれか一項に記載の組成物。
[21]
糖、糖アルコール、および/またはポリオールをさらに含む、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[22]
前記ポリオールがグリセロールである、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[23]
前記グリセロールの濃度が、約1%(w/w)~6%(w/w)の間の範囲である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[24]
前記グリセロールの濃度が、約5%(w/w)の間の濃度である、前述の項目のいずれか一項に記載の組成物。
[25]
前記糖がスクロースである、項目[21]に記載の組成物。
[26]
前記糖の濃度が、約1%(w/w)~10%(w/w)の間の範囲である、項目[21]または[25]に記載の組成物。
[27]
前述の項目のいずれか一項に記載の組成物を含む、医薬組成物。
[28]
前述の項目のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
a)前記ポックスウイルスと、b)前記緩衝液と、c)約5mM~約300mMの濃度の前記硫酸塩とを組成物において合わせることを含み、前記組成物は、約6.0~約8.5のpHを有する、方法。
[29]
前述の項目のいずれか一項に記載の組成物を調製することを含む、ポックスウイルス組成物を安定化させる方法。
[30]
前記組成物を摂氏2度~摂氏8度の温度で貯蔵することをさらに含む、項目[29]に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9