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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】予兆検知装置及び予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231220BHJP
   F01D 25/00 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
F01D25/00 A
F01D25/00 V
F01D25/00 W
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020005452
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113695
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中森 友仁
(72)【発明者】
【氏名】松山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】三井 悠生
【審査官】目黒 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-028032(JP,A)
【文献】特開2003-293793(JP,A)
【文献】特開2019-183810(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0297256(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045
99/00
G01H 1/00-17/00
F01D 13/00-15/12
23/00-25/36
F02C 1/00- 9/58
F23R 3/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測するように構成された複数のセンサと、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するデータ取得部と、
前記複数の位置のそれぞれにおける前記物理量の前記時系列変動データの振幅又は位相から、前記検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算する演算部と、
前記発生確率に基づいて前記突変振動の予兆を検知する検知部と、
を備える予兆検知装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記複数の位置における前記物理量の同時刻の前記振幅に基づいて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成された
請求項1に記載の予兆検知装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記複数の位置における前記物理量の同時刻の前記振幅を正規化したうえで合算し、合算値に応じて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成された
請求項1又は2に記載の予兆検知装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記合算値が、前記複数のセンサの数に応じて設定された第1閾値より大きい場合に前記振動モードが発生していると判定するように構成された
請求項3に記載の予兆検知装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記複数の位置のうち何れか一つの位置における前記時系列変動データの前記振幅のピーク発生時刻を探索し、前記ピーク発生時刻における前記複数の位置における前記物理量の前記振幅に基づいて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成された
請求項1乃至4の何れか一項に記載の予兆検知装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記複数の位置における前記物理量の前記位相が同期しているか否かに応じて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成された
請求項1に記載の予兆検知装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記複数のセンサから取得した複数の前記時系列変動データのうち1つの前記時系列変動データを基準データとし、他の前記時系列変動データのそれぞれの前記位相について前記基準データの前記位相との位相差を算出し、算出した前記位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となるか否かに基づいて前記位相が同期しているか否かを判定するように構成された
請求項6に記載の予兆検知装置。
【請求項8】
前記演算部は、算出した前記位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となる前記時系列変動データの数が前記複数のセンサの数に応じて設定された第2閾値より大きい場合に、前記振動モードが発生していると判定するように構成された
請求項7に記載の予兆検知装置。
【請求項9】
前記演算部は、所定時間内の複数タイミングにおいて前記振動モードが発生しているか否かを判定し、前記複数タイミングのうち前記振動モードが発生していると判定した回数の割合を前記振動モードの発生確率として演算するように構成された
請求項1乃至8の何れか一項に記載の予兆検知装置。
【請求項10】
前記検知部は、前記演算部が演算した前記振動モードの発生確率の大きさが第3閾値以上である場合に前記突変振動の予兆として検知するように構成された
請求項1乃至9の何れか一項に記載の予兆検知装置。
【請求項11】
前記検知部は、前記演算部が演算した前記振動モードの発生確率の時間的変化の傾きが第4閾値以上である場合に前記突変振動の予兆として検知するように構成された
請求項1乃至10の何れか一項に記載の予兆検知装置。
【請求項12】
前記物理量は、圧力、ひずみ、加速度、速度、変位の何れか一つ以上である
請求項1乃至11の何れか一項に記載の予兆検知装置。
【請求項13】
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置された複数のセンサが、各位置における物理量を計測するステップと、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するステップと、
前記複数の位置のそれぞれにおける前記物理量の前記時系列変動データの振幅又は位相から、前記検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算するステップと、
前記発生確率に基づいて前記突変振動の予兆を検知するステップと、
を含む予兆検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、突変振動の予兆を検出するための予兆検知装置及び予兆検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン、エンジン、ボイラ、航空機、コンプレッサ等の機械では、燃焼器、圧縮機、翼等で燃焼振動や軸振動が生じる場合がある。これらの振動のうち突変傾向のある不安定な振動(突変振動)は、振動増大が生じてから短時間でリミットサイクルに到達する。リミットサイクルに到達すると、トリップに至ったり、機器に大きな負担がかかったりする。
【0003】
したがって、このような突変振動は早い段階で回避されることが望ましい。しかし、リミットサイクルに達するまでの振動増大は短時間であるため、振動増大を検知した後の制御では突変振動を回避できない場合がある。突変振動を回避するためには、突変振動の発生時より十分に先立ってその予兆を検知することが必要である。
【0004】
近年、突変振動を事前に検知することを目的とした検知技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ガスタービンの燃焼器内の圧力に関連する値を用いて、燃焼振動を検知する装置が開示されている。この装置は、ガスタービンの燃焼器内の圧力に関連する値を取得してネットワークエントロピーを解析し、そのネットワークエントロピーが閾値を下回った場合に燃焼振動の発生を検知するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-80621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者が鋭意検討した結果、ある物理量(例えば圧力)の振幅に基づいて突変振動(機器の損傷リスクが高い振動)を検出するように構成された振動検知装置が突変振動の発生を検知する前に、発生確率が上昇する振動モードが存在することが判明した。このような振動モードの発生確率を利用すれば、突変振動の予兆を検知することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献1のように1つの位置における物理量(燃焼器内の圧力に関連する値)の時系列変動データを取得してネットワークエントロピーを解析しても、振動モードの発生確率を求めることは困難である。また、1つの物理量の時系列変動データに着目しても、突変振動の発生時より十分に先立ってその予兆を検知することは困難である。
【0008】
上述の事情に鑑みて、本開示は、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る予兆検知装置は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測するように構成された複数のセンサと、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するデータ取得部と、
前記複数の位置のそれぞれにおける前記物理量の前記時系列変動データの振幅又は位相から、前記検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算する演算部と、
前記発生確率に基づいて前記突変振動の予兆を検知する検知部と、
を備える。
【0010】
本開示に係る予兆検知方法は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置された複数のセンサが、各位置における物理量を計測するステップと、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するステップと、
前記複数の位置のそれぞれにおける前記物理量の前記時系列変動データの振幅又は位相から、前記検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算するステップと、
前記発生確率に基づいて前記突変振動の予兆を検知するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る予兆検知装置の構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る予兆検知装置のセンサの配置例を示す模式図である。
図3】一実施形態に係る予兆検知装置のセンサの配置例を示す概略断面図である。
図4】一実施形態に係る予兆検知装置が算出する複数の位置における物理量の正規化振幅を説明するための概念図である。
図5A】一実施形態に係る予兆検知装置が算出する位相同期パラメータを説明するための概念図である。
図5B】2つの位置における物理量の位相が同期していると判別される一例を示す概念図である。
図5C】2つの位置における物理量の位相が同期していると判別される一例を示す概念図である。
図6A】0ND振動モードが発生した場合における複数の位置の位相関係を説明するための概念図である。
図6B】1ND振動モードが発生した場合における複数の位置の位相関係を説明するための概念図である。
図6C】2ND振動モードが発生した場合における複数の位置の位相関係を説明するための概念図である。
図7】一実施形態に係る予兆検知装置が物理量の振幅に基づいて算出した振動モード発生確率の推移の一例を示すグラフである。
図8】一実施形態に係る予兆検知装置が物理量の位相に基づいて算出した振動モード発生確率の推移の一例を示すグラフである。
図9】一実施形態に係る予兆検知方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0014】
(予兆検知装置)
以下、一実施形態に係る予兆検知装置300について説明する。図1は、一実施形態に係る予兆検知装置300の構成を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、予兆検知装置300は、複数のセンサ200と、突変振動の予兆を検知するための演算処理を実行するように構成された演算処理装置100とを備える。センサ200は、検知対象物における物理量を計測するように構成されたセンサである。
【0016】
複数のセンサ200は、検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測する。センサ200が計測する物理量は、例えば、圧力、ひずみ、加速度、速度、変位の何れか一つ以上である。なお、センサ200が計測する物理量は、これらの物理量に限られない。センサ200が計測する物理量は、振動モードの発生との関連性が高い物理量であればよい。
【0017】
演算処理装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えるコンピュータである。演算処理装置100では、プロセッサ(CPU)がメモリ(RAM又はROM)に記憶されているプログラムを実行することにより、後述する各種機能を実現する。
【0018】
以下、演算処理装置100の機能的な構成を説明する。図1に示すように、演算処理装置100は、データ取得部110、演算部120、検知部130、出力部140として機能する。
【0019】
データ取得部110は、複数のセンサ200から物理量の時系列変動データを取得する。時系列変動データは、直近過去の所定時間(例えば、1秒間)において複数のタイミングでサンプリングした計測データである。
【0020】
演算部120は、データ取得部110が取得した物理量の時系列変動データに基づいて、検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算する。具体的には、演算部120は、複数の位置のそれぞれで計測された物理量の時系列変動データから、振動モードの発生確率を演算するように構成される。
【0021】
ここで、振動モードの発生確率の演算方法には、物理量の時系列変動データの振幅に基づく演算方法と、物理量の時系列変動データの位相に基づく演算方法とがある。演算部120の演算処理では、これらの演算方法のいずれか一方が採用されてもよいし、両方を組み合わせた方法が採用されてもよい。物理量の時系列変動データの振幅は、時間的に変化する振幅の変動成分の関数を求めて、その関数に特定時刻を入力した場合の振幅の瞬時値であってもよい。なお、振動モードの発生確率の2つの演算方法の詳細については、後述する。
【0022】
検知部130は、演算部120が演算した振動モードの発生確率に基づいて、突変振動の予兆を検知するように構成される。具体的には、検知部130は、演算部120が演算した振動モードの発生確率の大きさ又はその時間的変化の傾きに基づいて、検知すべき突変振動の予兆であるか否かを判別する。この判別方法の詳細については、後述する。
【0023】
出力部140は、検知部130が突変振動の予兆を検知した場合に、所定の信号を出力するように構成される。所定の信号は、例えば、検知対象物の動作を停止させるための停止信号、検知対象物の出力を低下させるための出力制御信号、ユーザに突変振動の予兆であることを報知するための報知信号等の突変振動の回避に有効な信号である。なお、出力部140は省略されてもよい。
【0024】
(検知対象物とセンサの配置例)
以下、一実施形態に係る検知対象物とセンサ200の配置例について説明する。図2は、一実施形態に係る予兆検知装置300のセンサ200の配置例を示す模式図である。この図は、ガスタービン20のタービン軸に垂直な方向に沿った断面を示している。図3は、一実施形態に係る予兆検知装置300のセンサ200の配置例を示す概略断面図である。この図は、ガスタービン20のタービン軸に沿った断面を示している。
【0025】
一実施形態では、予兆検知装置300の検知対象物は、例えば、図2及び図3に示すガスタービン20であってもよい。なお、検知対象物は、ガスタービン20ではなく、例えば、蒸気タービン、エンジン、ボイラ、航空機、コンプレッサ等の機械であってもよい。
【0026】
図2及び図3に示すように、ガスタービン20は、コンプレッサ7と、燃焼器8と、静翼4と、動翼6とを備える。図3に示すように、燃焼器8は、それぞれ燃料ノズル9、内筒2及び尾筒3を有する8つの缶型燃焼器を備える。センサ200は、燃焼器8の内部の圧力を計測するための圧力センサである。センサ200は、8つの尾筒3のそれぞれに配置される。
【0027】
なお、この例では、センサ200がガスタービン20の燃焼器8の尾筒3に配置されている。しかし、センサ200の配置は、このような例に限られない。センサ200は、振動モードを観測可能な位置に配置されていればよく、検知対象物の種類によっては、圧縮機、翼、軸受等に配置されてもよい。
【0028】
(振幅に基づく振動モードの発生確率の演算方法)
以下、物理量の時系列変動データが示す振幅に基づいて、振動モードの発生確率を演算する演算方法について説明する。演算部120は、複数の位置における物理量の同時刻の振幅に基づいて振動モードが発生しているか否かを判定する。演算部120は、時系列変動データの波形からヒルベルト変換によって振幅と位相を求めて、その振幅の瞬時値を使用してもよい。例えば、演算部120は、複数の位置における物理量の同時刻の振幅を正規化したうえで合算し、合算値に応じて振動モードが発生しているか否かを判定してもよい。
【0029】
複数の時系列変動データにおける同時刻の振幅を合算した場合、高次ND振動モードでは、振幅の合算値が理論上ゼロとなるのに対し、0ND振動モードでは、振幅の合算値が理論上有限値(ゼロでない値)になる。なお、ND(Nodal Diameter)は、振動モードにおいて振動しない節直径の数を意味する。
【0030】
ガスタービン20では、0ND振動モードだけが突変振動に寄与する。図4は、一実施形態に係る予兆検知装置300が算出する複数の位置における物理量の正規化振幅を説明するための概念図である。図4において、#1~#8に対応するプロットは、図2に示すガスタービン20の燃焼器8の8つの尾筒3のそれぞれの正規化振幅を示している。各々のプロットが示す正規化振幅は、1~-1の範囲内の値をとり得る。ただし、この例では、同相同振幅を示しているため、どのプロットも1に近い値である。この場合、#1~#8に対応するプロットが示す正規化振幅の合算値がゼロではない。
【0031】
演算部120は、合算値が、複数のセンサ200の数に応じて設定された第1閾値より大きい場合に振動モードが発生していると判定してもよい。例えば、正規化した振幅瞬時値を用いる場合、センサ200の数(例えば8)に1以下の係数(例えば0.5)を乗じた値が第1閾値(例えば4)として設定される。係数は判定誤差を考慮した大きさであり、0以上1以下の範囲内で適宜変更可能である。図4に示す例では、第1閾値より大きいために0ND振動モードが発生していないと判定される。
【0032】
このような判定方法によれば、0ND振動モードが発生しているか否かを振幅の合算値によって判定し、0ND振動モードに起因する突変振動を検知する場合に適している。また、第1閾値との比較によって振動モード(0ND振動モード)の発生の有無を容易に判定することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような判定方法は有利である。なお、このような振幅による振動モードの発生の判定によれば、後述する、位相による判定よりも精度が高くなる場合がある。
【0033】
演算部120は、複数の位置のうち何れか一つの位置における時系列変動データの振幅のピーク発生時刻を探索し、そのピーク発生時刻における複数の位置における物理量の振幅に基づいて振動モードが発生しているか否かを判定するように構成されてもよい。振幅のピーク発生時刻は、振幅に振動モードの発生状態に反映されやすい時刻である。この点、上記構成では、振動モードが発生しているか否かの判定において、複数の位置のうち何れか一つの位置(特定位置)における時系列変動データの振幅のピーク発生時刻を使用している。そのため、判定精度が向上する。
【0034】
演算部120は、所定時間内(例えば1秒間)の複数タイミング(例えば100回)において振動モードが発生しているか否かを判定し、その複数タイミングのうち振動モードが発生していると判定した回数の割合を振動モードの発生確率として演算するように構成されてもよい。かかる構成によれば、複数タイミングについて振動モードが発生しているか否かを判定し、それを振動モードの発生確率として演算しているため、1回のタイミングのみで振動モードの発生確率を演算する場合に比べて精度を向上させることができる。
【0035】
(位相に基づく振動モードの発生確率の演算方法)
以下、物理量の時系列変動データが示す位相に基づいて、振動モードの発生確率を演算する演算方法について説明する。演算部120は、複数の位置における物理量の位相が同期しているか否かに応じて振動モードが発生しているか否かを判定する。演算部120は、時系列変動データの波形からヒルベルト変換によって位相差を求めてもよい。例えば、演算部120は、複数のセンサ200から取得した複数の時系列変動データのうち1つの時系列変動データを基準データとし、他の時系列変動データのそれぞれの位相について基準データの位相との位相差を算出し、算出した位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となるか否かに基づいて位相が同期しているか否かを判定してもよい。
【0036】
位相差から位相が同期としているか否かを評価する場合に、次式(1)に示す位相同期パラメータrijを算出してもよい。位相同期パラメータrijは、0以上1以下の範囲内の値をとり得るパラメータである。θi(t)は基準データが示す位相であり、θj(t)は基準データ以外の時系列変動データが示す位相である。これらの差分が位相差に相当する。
【0037】
図5Aは、一実施形態に係る予兆検知装置300が算出する位相同期パラメータrijを説明するための概念図である。位相同期パラメータrijは、図5Aに示すように、位相θi(t)と位相θj(t)との関係性から求めることが可能である。
【0038】
位相の同期判定において、同相範囲内の位相差は、例えば、±10°以内に相当する範囲に設定される。逆相範囲内の位相差は、例えば、180±10°以内に相当する範囲に設定される。なお、これらの幅は判定誤差を考慮した大きさであり、適宜変更可能である。また、これらは位相差の範囲そのものではなく、位相差の範囲を上述した位相同期パラメータに換算した範囲であってもよい。
【0039】
図5Bは、2つの位置における物理量の位相が同期していると判別される一例を示す概念図である。図5Cは、2つの位置における物理量の位相が同期していると判別される一例を示す概念図である。例えば、図5Bに示すように、位相θi(t)と位相θj(t)との位相差が180±10°以内である場合、位相差が逆相範囲内であるために位相が同期していると判別される。例えば、図5Aに示すように、位相θi(t)と位相θj(t)との位相差が±10°以内である場合、位相差が同相範囲内であるために位相が同期していると判別される。
【0040】
演算部120は、算出した位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となる時系列変動データの数が複数のセンサ200の数に応じて設定された第2閾値より大きい場合に、振動モードが発生していると判定してもよい。例えば、センサ200の数(例えば8)に1以下の係数(例えば0.5)を乗じた値が第2閾値(例えば4)として設定される。係数は判定誤差を考慮した大きさであり、0以上1以下の範囲内で適宜変更可能である。
【0041】
図6Aは、0ND振動モードが発生した場合における複数の位置の位相関係を説明するための概念図である。図6Bは、1ND振動モードが発生した場合における複数の位置の位相関係を説明するための概念図である。図6Cは、2ND振動モードが発生した場合における複数の位置の位相関係を説明するための概念図である。
【0042】
これらの図は、0ND振動モードと高次ND(1ND、2ND)振動モードのモード形成断面において配置された複数のセンサ200が計測した時系列変動データの位相を示している。例えば、図6Aでは、モード形成断面のどの位置においても、振動の位相が0°である。この場合、位置同士を比較すると位相差は同相である。例えば、図6Bでは、モード形成断面の左右で0°と180°に分かれる。この場合、位置同士を比較すると位置によって位相差が同相又は逆相である。例えば、図6Cでは、モード形成断面の上下左右で0°と180°に分かれる。この場合、位置同士を比較すると位置によって位相差が同相又は逆相である。
【0043】
これらの図から、どの振動モードが支配的に生じた場合であっても位置同士を比較すると、その位相差は同相又は逆相となる。そのため、異なる位置のセンサ200の時系列変動データが示す位相差が同相又は逆相であることが確認された場合、0ND又は高次NDの振動モードが発生していることがわかる。なお、3ND以上の高次ND振動モードにおいても、同様である。
【0044】
したがって、物理量の時系列変動データの位相に基づいて、上記のように判定する判定方法によれば、0ND振動モードと高次ND振動モードのどちらに起因する突変振動であっても検知することが可能となる。すなわち、突変振動と関連する振動モードが0ND振動モードに限られないため、汎用性が向上する。
【0045】
振動モードが発生している場合、物理量の時系列変動データの位相の同期状態が確立し、ある時系列変動データの位相と他の時系列変動データの位相との間の位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となる。そのため、上記の判定方法では、その位相差に着目することにより、位相が同期しているか否かを容易に判定することができる。
【0046】
また、上記の判定方法によれば、第2閾値との比較によって振動モード(0ND振動モード又は高次ND振動モード)の発生の有無を容易に判定することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような構成は有利である。
【0047】
演算部120は、所定時間内(例えば1秒間)の複数タイミング(例えば100回)において振動モードが発生しているか否かを判定し、その複数タイミングのうち振動モードが発生していると判定した回数の割合を振動モードの発生確率として演算するように構成されてもよい。かかる構成によれば、複数タイミングについて振動モードが発生しているか否かを判定し、それを振動モードの発生確率として演算しているため、1回のタイミングのみで振動モードの発生確率を演算する場合に比べて精度を向上させることができる。
【0048】
なお、1回のタイミングのみで振動モードの発生確率を演算する構成としては、例えば、位相に基づいて振動モードの発生を判定する場合に複数の時系列変動データの何割が同相又は逆相であるかを振動モードの発生確率とするような構成が考えられる。すなわち、演算部120は、第2閾値との比較ではなく、同相又は逆相の時系列変動データを示すセンサ200の数を、センサ200の数より1だけ小さい数で除した値(すなわち基準データを除いた全体数を母数とする)に100を乗じて振動モードの発生確率として演算してもよい。
【0049】
(突変振動の予兆の検知方法)
以下、突変振動の予兆の検知方法について説明する。検知部130は、例えば、演算部120が演算した振動モードの発生確率の大きさに基づいて、検知すべき突変振動の予兆であるか否かを判別するように構成されてもよい。
【0050】
図7は、一実施形態に係る予兆検知装置300が物理量の振幅に基づいて算出した振動モード発生確率の推移の一例を示すグラフである。図8は、一実施形態に係る予兆検知装置300が物理量の位相に基づいて算出した振動モード発生確率の推移の一例を示すグラフである。これらの図において、横軸は経過した時間を示し、縦軸は演算部120が演算した振動モードの発生確率の大きさを示している。
【0051】
図7図8に示すように、突変振動の状態では、振動モードの発生確率が100%になっている。図7図8において、予兆前の振動モードの発生確率に着目すると、図7の方が図8より低いことがわかる。これは、振幅に基づく演算方法の方が位相に基づく演算方法よりも精度が高いことを意味する。
【0052】
ここで、検知部130は、振動モード発生確率が第3閾値以上である場合に突変振動の予兆として検知してもよい。例えば、通常運転時の振動モードの発生確率が20%程度である場合に、第3閾値は40%に設定される。なお、検知誤差に応じて、第3閾値の大きさは適宜変更可能である。
【0053】
振動モードの発生確率が大きい場合には突変振動の予兆である可能性が高い。この点、上記の検知方法によれば、振動モードの発生確率の大きさを第3閾値と比較することによって容易に突変振動の予兆を検知することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような検知方法は有利である。
【0054】
検知部130は、例えば、演算部120が演算した振動モードの発生確率の時間的変化の傾きに基づいて、検知すべき突変振動の予兆であるか否かを判別するように構成されてもよい。検知部130は、振動モードの発生確率の時間的変化の傾きが第4閾値以上である場合に突変振動の予兆として検知するように構成されてもよい。例えば、通常運転時の振動モードの発生確率の時間的変化の傾きが毎秒5%以下である場合に、第4閾値は10%に設定される。傾きを算出するための時間(すなわち傾き計算における分母)は、短時間で変動するノイズの影響を受けにくい程度の長さに設定することが好ましい。なお、検知誤差に応じて、第4閾値の大きさは適宜変更可能である。
【0055】
振動モードの発生確率が急激に大きくなる場合には突変振動の予兆である可能性が高い。この点、上記の検知方法によれば、振動モードの発生確率の時間的変化の傾きを第4閾値と比較することによって容易に突変振動の予兆を検知することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような構成は有利である。
【0056】
このような検知方法により、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知することが可能となる。例えば、図7及び図8において破線で示すように、突変振動の状態に移行する前の振動モードの発生確率の上昇開始時点において突変振動の予兆が検出される。
【0057】
(予兆検知方法)
以下、図9を参照しながら予兆検知方法の具体例について説明する。図9は、一実施形態に係る予兆検知方法の手順を示すフローチャートである。なお、以下に説明する各々の手順において一部又は全部がユーザの手動によって実行されてもよい。また、以下に説明する予兆検知方法は、上述した予兆検知装置300が実行する処理に対応するように、各々の手順を適宜変形することが可能である。以下の説明では、予兆検知装置300の説明と重複する説明については省略する。
【0058】
図9に示すように、まず、検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置された複数のセンサ200が、各位置における物理量を計測する(ステップS1)。複数のセンサ200から、各々のセンサ200が計測した物理量の時系列変動データを取得する(ステップS2)。次に、検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算する(ステップS3)。具体的には、複数の位置のそれぞれにおける物理量の時系列変動データの振幅又は位相から振動モードの発生確率を演算する。ステップS3において演算した発生確率に基づいて突変振動の予兆を検知する(ステップS4)。
【0059】
これらのステップS1~S4は、定期的に繰り返し実行されてもよい。これにより、突変振動の予兆を監視することができる。なお、突変振動の予兆が検知された場合には、上述した所定の信号(停止信号や報知信号等)を出力してもよい。
【0060】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0061】
例えば、検知対象物がコンプレッサである場合、圧力を計測するための複数のセンサ200をコンプレッサの複数の位置に配置して、予兆検知装置300がサージングの振動モードの発生確率を演算するように構成されてもよい。検知対象物が軸流圧縮機である場合、その出口部の周方向に複数のセンサ200を配置して、予兆検知装置300が振動モードの発生確率を演算するように構成されてもよい。検知対象物が遠心圧縮機である場合、環状方向に複数のセンサ200が配置されてもよい。翼振動の突変振動の予兆を検知する場合、翼の根元に複数のセンサ200が配置されてもよい。軸振動の突変振動の予兆を検知する場合、異なる軸受位置に配置してもよい。
【0062】
検知対象物が蒸気タービンである場合、ひずみゲージがセンサ200として使用されてもよい。例えば、同一段において周方向に沿って配置される蒸気タービンの翼の根元に複数のセンサ200が配置されてもよい。
【0063】
検知対象物がロケットエンジンである場合、燃焼器は一つだけであるかもしれない。しかし、この場合においても、燃焼器の出口部の周方向に複数のセンサ200を配置して、予兆検知装置300が突変振動の予兆を検出するように構成されてもよい。検知対象物が航空機である場合、予兆検知装置300による突変振動の予兆の検出方法は、そのエンジンに適用されてもよいし、その翼に適用されてもよい。このようにモードが形成される断面の周方向に沿って複数のセンサ200を配置することによって、多様な検知対象物の突変振動の予兆を検出することができる。
【0064】
(まとめ)
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0065】
(1)本開示の一実施形態に係る予兆検知装置(300)は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測するように構成された複数のセンサ(200)と、
前記複数のセンサ(200)から前記物理量の時系列変動データを取得するデータ取得部(110)と、
前記複数の位置のそれぞれにおける前記物理量の前記時系列変動データの振幅又は位相から、前記検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算する演算部(120)と、
前記発生確率に基づいて前記突変振動の予兆を検知する検知部(130)と、
を備える。
【0066】
上記(1)に記載の構成によれば、複数の異なる位置における物理量(例えば、振動によって変化する、圧力、ひずみ、加速度、速度、変位等の物理量)の時系列変動データを取得するため、それらの振幅又は位相のバランス関係から検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算することができる。また、その発生確率に基づいて突変振動の予兆を検知するため、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知することができる。
【0067】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、
前記演算部(120)は、前記複数の位置における前記物理量の同時刻の前記振幅に基づいて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成される。
【0068】
上記(2)に記載の構成によれば、複数の位置における物理量の同時刻の振幅に基づいて振動モードが発生しているか否かを判定するため、振動モードの発生の判定精度が向上する。
【0069】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の構成において、
前記演算部(120)は、前記複数の位置における前記物理量の同時刻の前記振幅を正規化したうえで合算し、合算値に応じて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成される。
【0070】
複数の時系列変動データにおける同時刻の振幅を合算した場合、高次ND振動モードでは、振幅の合算値が理論上ゼロとなるのに対し、0ND振動モードでは、振幅の合算値が理論上有限値になる。そのため、上記(3)に記載の構成によれば、0ND振動モードが発生しているか否かを振幅の合算値によって判定し、0ND振動モードに起因する突変振動を検知する場合に適している。なお、このような振幅による振動モードの発生の判定によれば、位相による判定よりも精度が高くなる場合がある。
【0071】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の何れか一つに記載の構成において、前記演算部(120)は、前記合算値が、前記複数のセンサの数に応じて設定された第1閾値より大きい場合に前記振動モードが発生していると判定するように構成される。
【0072】
上記(4)に記載の構成によれば、第1閾値との比較によって振動モード(0ND振動モード)の発生の有無を容易に判定することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような構成は有利である。
【0073】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか一つに記載の構成において、前記演算部(120)は、前記複数の位置のうち何れか一つの位置における前記時系列変動データの前記振幅のピーク発生時刻を探索し、前記ピーク発生時刻における前記複数の位置における前記物理量の前記振幅に基づいて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成される。
【0074】
振幅のピーク発生時刻は、振幅に振動モードの発生状態に反映されやすい時刻である。この点、上記(5)に記載の構成では、振動モードが発生しているか否かの判定において、複数の位置のうち何れか一つの位置(特定位置)における時系列変動データの振幅のピーク発生時刻を使用している。そのため、判定精度が向上する。
【0075】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れか一つに記載の構成において、前記演算部(120)は、前記複数の位置における前記物理量の前記位相が同期しているか否かに応じて前記振動モードが発生しているか否かを判定するように構成される。
【0076】
上記(6)に記載の構成によれば、0ND振動モードと高次ND振動モードのどちらに起因する突変振動であっても検知することが可能となる。すなわち、突変振動と関連する振動モードが0ND振動モードに限られないため、汎用性が向上する。
【0077】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載の構成において、
前記演算部(120)は、前記複数のセンサ(200)から取得した複数の前記時系列変動データのうち1つの前記時系列変動データを基準データとし、他の前記時系列変動データのそれぞれの前記位相について前記基準データの前記位相との位相差を算出し、算出した前記位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となるか否かに基づいて前記位相が同期しているか否かを判定するように構成される。
【0078】
振動モードが発生している場合、物理量の時系列変動データの位相の同期状態が確立し、ある時系列変動データの位相と他の時系列変動データの位相との間の位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となる。上記(7)に記載の構成では、その位相差に着目することにより、位相が同期しているか否かを容易に判定することができる。
【0079】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載の構成において、
前記演算部(120)は、算出した前記位相差が同相範囲内又は逆相範囲内となる前記時系列変動データの数が前記複数のセンサ(200)の数に応じて設定された第2閾値より大きい場合に、前記振動モードが発生していると判定するように構成される。
【0080】
上記(8)に記載の構成によれば、第2閾値との比較によって振動モード(0ND振動モード又は高次ND振動モード)の発生の有無を容易に判定することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような構成は有利である。
【0081】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか一つに記載の構成において、
前記演算部(120)は、所定時間内の複数タイミングにおいて前記振動モードが発生しているか否かを判定し、前記複数タイミングのうち前記振動モードが発生していると判定した回数の割合を前記振動モードの発生確率として演算するように構成される。
【0082】
上記(9)に記載の構成によれば、複数タイミングについて振動モードが発生しているか否かを判定し、それを振動モードの発生確率として演算しているため、1回のタイミングのみで振動モードの発生確率を演算する場合に比べて精度を向上させることができる。
【0083】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れか一つに記載の構成において、前記検知部(130)は、前記演算部(120)が演算した前記振動モードの発生確率の大きさが第3閾値以上である場合に前記突変振動の予兆として検知するように構成される。
【0084】
振動モードの発生確率が大きい場合には突変振動の予兆である可能性が高い。この点、上記(10)に記載の構成によれば、振動モードの発生確率の大きさを第3閾値と比較することによって容易に突変振動の予兆を検知することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような構成は有利である。
【0085】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れか一つに記載の構成において、前記検知部(130)は、前記演算部(120)が演算した前記振動モードの発生確率の時間的変化の傾きが第4閾値以上である場合に前記突変振動の予兆として検知するように構成される。
【0086】
振動モードの発生確率が急激に大きくなる場合には突変振動の予兆である可能性が高い。この点、上記(11)に記載の構成によれば、振動モードの発生確率の時間的変化の傾きを第4閾値と比較することによって容易に突変振動の予兆を検知することが可能となる。突変振動の予兆は素早く検知できた方が好ましいため、このような構成は有利である。
【0087】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(11)の何れか一つに記載の構成において、前記物理量は、圧力、ひずみ、加速度、速度、変位の何れか一つ以上である。
【0088】
上記(12)に記載の構成によれば、振動モードの発生との関連性が高い物理量を予兆検知に使用するため、検知精度が高い。
【0089】
(13)本開示の一実施形態に係る予兆検知方法は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置された複数のセンサ(200)が、各位置における物理量を計測するステップと、
前記複数のセンサ(200)から前記物理量の時系列変動データを取得するステップと、
前記複数の位置のそれぞれにおける前記物理量の前記時系列変動データの振幅又は位相から、前記検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算するステップと、
前記発生確率に基づいて前記突変振動の予兆を検知するステップと、
を含む。
【0090】
上記(13)に記載の方法によれば、複数の異なる位置における物理量(例えば、振動によって変化する、圧力、ひずみ、加速度、速度、変位等の物理量)の時系列変動データを取得するため、それらの振幅又は位相のバランス関係から検知対象物の突変振動に関与する振動モードの発生確率を演算することができる。また、その発生確率に基づいて突変振動の予兆を検知するため、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知することができる。
【符号の説明】
【0091】
2 内筒
3 尾筒
4 静翼
6 動翼
7 コンプレッサ
8 燃焼器
9 燃料ノズル
20 ガスタービン
100 演算処理装置
110 データ取得部
120 演算部
130 検知部
140 出力部
200 センサ
300 予兆検知装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9