(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】原子力プラントのリスク評価システム、リスク評価方法、及び、リスク評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20231220BHJP
G06Q 10/0635 20230101ALI20231220BHJP
【FI】
G21C17/00 110
G06Q10/0635
G21C17/00 200
(21)【出願番号】P 2020010403
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】東丸 英人
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】坂下 武志
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-215246(JP,A)
【文献】特開2016-145917(JP,A)
【文献】特開2018-036939(JP,A)
【文献】特開2018-136226(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0082318(US,A1)
【文献】原子力施設の地震リスク評価手法の高度化に向けて-断層モデルと発生頻度予測を組み合わせた地震動生成法の提案-,原子力機構の研究開発成果 2014,日本,日本原子力研究開発機構,2014年,システム計算科学研究 10-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00
G06Q 10/0635
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラントのリスク評価システムであって、
前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーを有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報を出力する第1解析モデルと、
前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントを含む第2イベントツリーを有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデルと、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する成否確率設定部と、
前記炉心が損傷する要因となり得る起因事象の発生頻度が前記第1解析モデルに入力された際に、前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を算出する確率頻度算出部と、
を備える、原子力プラントのリスク評価システム。
【請求項2】
前記第1解析モデルは、前記起因事象ごとに設定された前記第1イベントツリーを有し、
前記第2解析モデルは、前記第1イベントツリーから出力される前記格納容器の損傷状態ごとに設定された前記第2イベントツリーを有する、請求項1に記載の原子力プラントのリスク評価システム。
【請求項3】
前記第2イベントツリーは、前記格納容器損傷防止システムに関するイベントと、前記物理化学現象に関するイベントとを含む、請求項1
又は2に記載の原子力プラントのリスク評価システム。
【請求項4】
前記第1イベントツリーは、
前記炉心損傷防止システムに関する複数のイベントを含み、各シナリオに対応する前記炉心の損傷状態を出力する炉心損傷防止イベントツリーと、
前記炉心の損傷状態ごとに前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含み、各シナリオに対応する前記格納容器の損傷状態を出力する格納容器損傷防止イベントツリーと、
を含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の原子力プラントのリスク評価システム。
【請求項5】
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラントのリスク評価方法であって、
(i)前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーを有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報を出力する第1解析モデルと、(ii)前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントを含む第2イベントツリーを有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデルとを用意する工程と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する工程と、
前記炉心が損傷する要因となり得る起因事象の発生頻度を前記第1解析モデルに入力する工程と、
前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を算出する工程と、
を備える、原子力プラントのリスク評価方法。
【請求項6】
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラントのリスク評価プログラムであって、
コンピュータ装置で、
(i)前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーを有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報を出力する第1解析モデルと、(ii)前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントを含む第2イベントツリーを有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデルとを用意する工程と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する工程と、
前記炉心が損傷する要因となり得る起因事象の発生頻度を前記第1解析モデルに入力する工程と、
前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を算出する工程と、
を実行可能な、原子力プラントのリスク評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子力プラントのリスク評価システム、リスク評価方法、及び、リスク評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、確率論的リスク評価(PRA:Probabilistic Risk Assessment)を用いて、例えば、プラントの運転管理に内在する内的事象や、地震や津波等の外的事象による結果の不確実性を考慮した上で、異なる安全対策の効果比較や施設の安全性を総合的に評価している。
【0003】
特許文献1では、原子力プラントにおけるPRAの評価例の一つが開示されている。原子力プラントにおけるPRAは主に3つのレベルに分けられており、レベル1PRAは、炉心損傷に至る事故シナリオを同定するとともに、そのシナリオの発生頻度が評価される。レベル2PRAでは、レベル1PRAに加えて、原子炉格納容器から大量の放射性物質が拡散する事故シナリオを同定するとともに、事故シナリオでの原子炉冷却系の内部及び格納容器内の熱水力及び放射性物質の挙動を予測し、環境中に放出される放射性物質の種類と量及びその頻度が評価される。レベル3PRAでは、レベル2PRAに加えて、気象条件などを考慮して原子力プラントから放出される放射性物質の環境中移行を予測して、被ばくによる一般公衆への健康影響が評価される。特許文献1では、レベル3PRAによるリスク評価を考慮して、原子力プラントにおいて緊急事象が発生した場合の避難対応時におけるリスクを系統的に評価する手法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】(社)日本原子力学会、原子力学会標準「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的リスク評価に関する実施基準(レベル1PRA編):2013」
【文献】(社)日本原子力学会、原子力学会標準「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的リスク評価に関する実施基準(レベル2PRA編):2016」
【文献】(社)日本原子力学会、原子力学会標準「原子力発電所の確率論的安全評価に関する実施基準(レベル3PSA編):2008」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように原子力プラントのPRAでは、3つのレベルに分けられてリスク評価がなされる。例えば、レベル2PRAでは、レベル1PRAに加えて、原子炉格納容器から大量の放射性物質が拡散する事故シナリオを特定することから、レベル1PRAに対応するイベントツリーで特定される各シナリオを、レベル2PRAに対応するイベントツリーに引き継ぐことで、シナリオごとの確率頻度の算出が行われる。このような確率頻度の算出は、従来、レベル1PRA及びレベル2PRAにわたって一体的に構成されたイベントツリーに基づいて行われていた。しかしながら、このような手法では、レベル1PRA及びレベル2PRAを一気通貫で評価する構成となっているためイベントツリーが巨大化し、演算負担が膨大なものになってしまう。例えば、レベル1PRAでは、各イベントの成功又は失敗の組み合わせによって約1000パターンものシナリオが想定されるため、これらを個別にレベル2PRAに引き継ぐと、演算量が膨大になってしまう。演算負担が膨大なため、計算に掛かる時間が膨大になり、コンピュータ装置の挙動が安定せず停止するケースもあった。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、原子力プラントにおけるリスク評価を少ない演算負荷で実施可能な原子力プラントのリスク評価システム、リスク評価方法、及び、リスク評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力プラントのリスク評価システムは上記課題を解決するために、
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラントのリスク評価システムであって、
前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーを有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報を出力する第1解析モデルと、
前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントを含む第2イベントツリーを有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデルと、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する成否確率設定部と、
前記起因事象の発生頻度が前記第1解析モデルに入力された際に、前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を算出する確率頻度算出部と、
を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力プラントのリスク評価方法は上記課題を解決するために、
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラントのリスク評価方法であって、
(i)前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーを有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報を出力する第1解析モデルと、(ii)前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントを含む第2イベントツリーを有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデルとを用意する工程と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する工程と、
前記起因事象の発生頻度を前記第1解析モデルに入力する工程と、
前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を算出する工程と、
を備える。
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力プラントのリスク評価プログラムは上記課題を解決するために、
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラントのリスク評価プログラムであって、
コンピュータ装置で、
(i)前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーを有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報を出力する第1解析モデルと、(ii)前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントを含む第2イベントツリーを有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデルとを用意する工程と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する工程と、
前記起因事象の発生頻度を前記第1解析モデルに入力する工程と、
前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を算出する工程と、
を実行可能である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、原子力プラントにおけるリスク評価を少ない演算負荷で実施可能な原子力プラントのリスク評価システム、リスク評価方法、及び、リスク評価プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価システムの全体構成図である。
【
図4】第2解析モデルを第1解析モデルの一部とともに示す図である。
【
図7】本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価方法を工程毎に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価システム100は、原子力プラント1を対象とする。
図1は原子力プラント1の概略構成図である。
【0015】
原子力プラント1は、核分裂反応で発生する熱エネルギーにより蒸気を生成するための原子炉格納容器2を備える。原子炉格納容器2は、核燃料を含む炉心を有する原子炉容器4(圧力容器)を備える。原子炉容器4にはペレット状の核燃料(例えばウラン燃料やMOX燃料等)を含む燃料棒(不図示)が収容されており、この燃料の核分裂反応で発生する熱エネルギーにより、原子炉容器4の中の一次冷却水が加熱される。原子炉容器4には、原子炉出力を制御するために、核燃料を含む炉心で生成される中性子数を吸収して調整するための制御棒8が設けられている。
【0016】
一次冷却水が流れる一次冷却ループ10は、前述の原子炉容器4に加え、加圧器12、蒸気発生器14及び一次冷却材ポンプ16を備える。加圧器12は、一次冷却ループ10において、一次冷却水が沸騰しないように、一次冷却水を加圧するように構成される。蒸気発生器14では、一次冷却ループ10を流れる一次冷却水と二次冷却ループ18を流れる二次冷却水(二次冷却材)との熱交換により、二次冷却水を加熱して蒸気を発生させる。一次冷却材ポンプ16は、一次冷却ループ10において一次冷却水を循環させるように構成される。
尚、加圧器12、蒸気発生器14及び一次冷却材ポンプ16は、前述の原子炉容器4とともに原子炉格納容器2に格納されている。
【0017】
二次冷却ループ18を構成する配管21,22は、不図示の蒸気タービンに連結されている。蒸気タービンは、配管21を介して蒸気発生器14から送られる蒸気により駆動され、発電を行う。蒸気タービンを駆動した蒸気は、復水器(不図示)で冷却されて復水となり、配管22を通して蒸気発生器14に戻される。
【0018】
尚、
図1に示す原子炉格納容器2は、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。他の実施形態では、原子炉格納容器2は沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)であってもよく、あるいは、加圧水型原子炉及び沸騰水型原子炉を含む軽水炉とは異なり、減速材又は冷却材として軽水以外の物質を用いるタイプの原子炉であってもよい。
【0019】
このような構成を有する原子力プラント1は、炉心(原子炉容器4)の損傷を防止するための炉心損傷防止システムと、原子炉格納容器2の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムと、を備える。炉心損傷防止システムは、炉心の損傷を防止するために機能する複数の機器MS1、MS2、・・・を含み、
図1では一部の例として、炉心注入系15が示されている。格納容器損傷防止システムは、原子炉格納容器2の損傷を防止するために機能する複数の機器CS1、CS2、・・・を含み、
図1では一部の例として、格納容器スプレイ系17が示されている。
尚、炉心損傷防止システムを構成する機器MS1、MS2、・・・及び格納容器損傷防止システムを構成する機器CS1、CS2、・・・は、互いに異なっていてもよいし、互いに重複していてもよい。
【0020】
続いて上記構成を有する原子力プラント1を評価対象とする、リスク評価システム100について説明する。リスク評価システム100は、原子力プラント1において炉心損傷が発生した際に、炉心損傷が進行して原子炉格納容器2が損傷し、原子炉格納容器2の機能喪失に至るまで一連の流れにおいて、原子炉格納容器2の損傷状態ごとの各シナリオの確率頻度を算出することにより、定量的なリスク評価を行う。このようなリスク評価システム100は、例えば、コンピュータのような電子演算装置を含むハードウェア構成を有し、本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価プログラムがインストールされることにより、本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価方法を実施可能に構成される。
【0021】
尚、リスク評価プログラムは、例えば所定の記憶媒体に記録されていてもよい。この場合、リスク評価システム100は、記憶媒体を読み取ることにより上記ハードウェア構成にリスク評価プログラムをインストールすることで実現される。このようなリスク評価プログラムが記録された記憶媒体もまた、本開示の一実施形態に含まれる。
【0022】
図2は本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価システム100の全体構成図である。リスク評価システム100は、起因事象発生頻度取得部102と、解析モデル記憶部104と、成否確率設定部106と、確率頻度算出部108と、解析部110と、を備える。
【0023】
尚、
図2ではリスク評価システム100の内部構成を機能ブロックによって示しているが、これらの機能ブロックは、後述するリスク評価方法の各工程に対応するように規定した一例に過ぎず、幾つかの機能ブロックが統合されていてもよいし、複数の機能ブロックに更に細分化されていてもよい。
【0024】
起因事象発生頻度取得部102は、原子力プラント1が備える炉心が損傷する要因となり得る起因事象の発生頻度を取得するための構成である。起因事象は、原子力プラント1の炉心が損傷する要因として想定され得る事象であり、例えば、内的事象では大破断LOCA、及び、外的事象では原子炉建屋損傷を含む。起因事象発生頻度取得102部が取得する起因事象ごとの発生頻度は、過去データに基づく実績値であってもよいし、シミュレーションなどによって算出された仮想値であってもよい。
【0025】
図6は起因事象ごとの発生頻度の一例である。
図6では、炉心損傷に関して想定され得る複数の起因事象A、B、・・・が示されている。また、各起因事象A、B、・・・について発生頻度NA、NB、・・・が予め特定されている。このような起因事象A、B、・・・と発生頻度NA、NB、・・・との組み合わせは、予めアクセス可能な記憶装置に読み出し可能に記憶され、起因事象発生頻度取得部102によって読み出されることで取得されてもよいし、オペレータの操作によって入力インターフェイス(不図示)を介して入力されたものが起因事象発生頻度取得部102によって取得されてもよい。
【0026】
解析モデル記憶部104は、リスク評価を実施するために用いられる解析モデル112を記憶するための構成であり、ハードウェア構成としては、例えばデータベースのような記憶装置から構成される。解析モデル112は、原子力プラント1で発生した炉心損傷が原子炉格納容器2の損傷に至るまでの各シナリオを構成する複数のイベントを含むイベントツリーを有する。このイベントツリーは、入力として起因事象発生頻度取得部102によって取得される起因事象A、B、・・・ごとの発生頻度NA、NB、・・・を受け付け、シナリオごとに原子炉格納容器2の機能喪失が生じる確率頻度を出力可能に構成される。
【0027】
図3及び
図4は解析モデル記憶部104に記憶される解析モデル112を概念的に示す図である。解析モデル112は、第1解析モデル112A及び第2解析モデル112Bを含んで構成されており、
図3は第1解析モデル112Aを示し、
図4は第2解析モデル112Bを第1解析モデル112Aの一部とともに示している。
【0028】
第1解析モデル112Aは、起因事象発生頻度取得部102で取得される起因事象A、B、・・・ごとの発生頻度NA、NB、・・・を入力として受け付ける第1イベントツリーET1を有し、第1イベントツリーET1の出力が第2解析モデル112Bに入力されるように構成される。第2解析モデル112Bでは、第1解析モデル112Aの第1イベントツリーET1からの出力を入力として受け付ける第2イベントツリーET2を有し、シナリオごとに原子炉格納容器2の機能喪失が生じる確率頻度を出力するように構成される。
【0029】
第1解析モデル112Aは、原子力プラント1が備える炉心損傷防止システム、及び、格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む第1イベントツリーET1を有する。第1イベントツリーは、炉心損傷防止システムに関する複数のイベントを含む炉心損傷防止イベントツリーET1Aと、格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含む格納容器損傷防止イベントツリーET1Bと、を含む。炉心損傷防止イベントツリーET1Aは、原子力プラントにおける3つのレベルのPRAのうちレベル1PRAに対応するイベントツリーであり、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bはレベル2PRAに対応するイベントツリーのうちシステムに関する部分である(すなわち第1イベントツリーET1は、従来のレベル1PRAに対してレベル2PRAのシステム部分が組み合わされた構成を有する)。
【0030】
炉心損傷防止イベントツリーET1Aは、炉心損傷防止システムを構成する機器MS1、MS2、・・・に対応する複数のイベントMS1、MS2、・・・を少なくとも部分的に含んで構成され、炉心損傷の起因事象A、B、・・・ごとに設定される。より具体的には、各炉心損傷防止イベントツリーET1Aは、炉心損傷防止システムを構成する機器MS1、MS2、・・・のうち関連する起因事象が発生した際に機能する機器に対応するイベントが時系列順に配列されて構成され、各イベントにおいて成功又は失敗に対応する枝分かれ構造を有する。つまり炉心損傷防止イベントツリーET1Aに含まれるイベントは、当該炉心損傷防止イベントツリーET1Aに対応する起因事象に関連する炉心損傷防止システムの構成機器に対応する各イベントが選択されることで構成される(尚、互いに異なる起因事象に対応する炉心損傷防止イベントツリーET1Aに含まれるイベントは、少なくとも一部が重複していてもよい)。
【0031】
炉心損傷防止イベントツリーET1Aは、各イベントMS1、MS2、・・・を含む枝分かれ構造によって規定されるシナリオごとに、炉心損傷状態PDSを出力する。炉心損傷防止イベントツリーET1Aから出力される炉心損傷状態PDSは、予め規定されたルールに基づいて分類される。
図3の例では、炉心損傷状態PDSはいくつかの観点に基づく特徴に応じて、複数の炉心損傷状態PDSa、PDSb、・・・に分類されている。このように、炉心損傷防止イベントツリーET1Aから出力される炉心損傷状態PDSを所定のルールで分類することで、続く格納容器損傷防止イベントツリーET1Bへのデータ引き継ぎ量を抑え、演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0032】
格納容器損傷防止イベントツリーET1Bは、格納容器損傷防止システムを構成する機器CS1、CS2、・・・に対応する複数のイベントCS1、CS2、・・・を少なくとも部分的に含んで構成され、炉心損傷防止イベントツリーET1Aの出力である炉心損傷状態PDSごとに設定される。より具体的には、各格納容器損傷防止イベントツリーET1Bは、格納容器損傷防止システムを構成する機器CS1、CS2、・・・のうち関連する炉心損傷状態PDSが発生した際に機能する機器に対応するイベントが時系列順に配列されて構成され、各イベントにおいて成功又は失敗に対応する枝分かれ構造を有する。つまり格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれるイベントは、当該格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに入力される炉心損傷状態PDSに関連する格納容器損傷防止システムの構成機器に対応する各イベントが選択されることで構成される(尚、互いに異なる炉心損傷状態PDSに対応する格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれるイベントは、少なくとも一部が重複していてもよい)。
【0033】
このように第1イベントツリーET1では、異なる炉心損傷防止イベントツリーET1Aから出力された炉心損傷状態PDSであっても、共通カテゴリに分類された炉心損傷状態PDSは、共通の格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに入力される。
図3を参照して説明すると、起因事象Aに対応する炉心損傷防止イベントツリーET1Aから炉心損傷状態PDSaが出力されるシナリオ、及び、起因事象Bに対応する炉心損傷防止イベントツリーET1Aから炉心損傷状態PDSaが出力されるシナリオは、炉心損傷状態PDSaを入力とする共通の格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに導かれる。これにより、起因事象ごとに設定される炉心損傷防止イベントツリーET1Aに含まれる全シナリオの各々に対して個別に格納容器損傷防止イベントツリーET1Bを用意する場合に比べて、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bの数が少なく済み、演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0034】
格納容器損傷防止イベントツリーET1Bは、各イベントCS1、CS2、・・・を含む枝分かれ構造を経由したシナリオごとに、原子炉格納容器2の各損傷状態に至るまでの格納容器損傷防止システムに関する各イベントCS1、CS2、・・・の成功又は失敗を含むシナリオ情報SIを出力する。ここで
図5はシナリオ情報SIの設定例である。
図5では、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれる各イベントCS1、CS2、・・・において、成功した場合には「0」が付与され、失敗した場合には「1」が付与されることで、これらの組み合わせによってシナリオ情報SIが規定されるルールが示されている。例えば、イベントCS1、CS2、・・・の各々で成功するシナリオでは、シナリオ情報SIとして「PDSa-000」が出力される。また、イベントCS1、CS2で成功し、且つ、イベントCS3で失敗するシナリオでは、シナリオ情報SIとして「PDSa-001」が出力される。また、イベントCS1、CS3で成功し、且つ、イベントCS2で失敗するシナリオでは、シナリオ情報SIとして「PDSa-010」が出力される。
【0035】
尚、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bでは、このようなシナリオ情報SIに加えて、MCS情報を出力可能に構成される。MCS情報は、炉心損傷防止イベントツリーET1A又は格納容器損傷防止イベントツリーET1Bの少なくとも一方に含まれる各イベントにおける成功又は失敗の要因となる機器損傷状態に関する情報である。具体的には、MCS情報には、炉心損傷防止イベントツリーET1Aに含まれる各イベントに対応して炉心損傷防止システムを構成する機器MS1、MS2、・・・の少なくとも一部における機器損傷状態、及び、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれる各イベントに対応して格納容器損傷防止システムを構成する機器CS1、CS2、・・・の少なくとも一部における機器損傷状態が含まれる。これらのMCS情報は、解析部110に送られることで、後述する重要度・不確かさ解析に用いることができる。
【0036】
第2解析モデル112Bは、原子炉格納容器2の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントPH1、PH2、・・・を含む第2イベントツリーET2を有する。第2イベントツリーET2に含まれる複数のイベントPH1、PH2、・・・は、前述の格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれる複数のイベントCS1、CS2、・・・に対応する物理化学現象に関する。本実施形態の第2イベントツリーET2は、このような原子炉格納容器2の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベントPH1、PH2、・・・に加えて、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれる複数のイベントCS1、CS2、・・・を含むように構成されることで、両者のリンク付けがなされている。このような第2イベントツリーET2は、原子力プラントにおける3つのレベルのPRAのうちレベル2PRAに対応するイベントツリーである。
【0037】
第2イベントツリーET2は、炉心損傷状態PDSごとに設けられ、共通の炉心損傷状態PDSを有するシナリオは共通の第2イベントツリーET2に導かれるように構成される。具体的に説明すると、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bからシナリオ情報SIとして「PDSa-000」、「PDSa-001」、「PDSa-010」、・・・が出力されるシナリオは、これらに共通する炉心損傷状態PDSaに対応する第2イベントツリーET2に入力される。第2イベントツリーET2では、シナリオ情報SI「PDSa-000」、「PDSa-001」、「PDSa-010」、・・・に基づいて枝分かれ構造の分岐先を特定することで各シナリオが特定される。例えば、シナリオ情報SIが「PDSa-000」場合、第2イベントツリーET2に含まれるイベントCS1、CS2、・・・の各々で成功するシナリオが特定される。また、シナリオ情報SIが「PDSa-001」の場合、イベントCS1、CS2で成功し、且つ、イベントCS3で失敗するシナリオが特定される。また、シナリオ情報SIが「PDSa-010」の場合、イベントCS1、CS3で成功し、且つ、イベントCS2で失敗するシナリオが特定される。
【0038】
このように第2イベントツリーET2では、第1イベントツリーET1の格納容器損傷防止イベントツリーET1Bから出力されるシナリオ情報SIに基づいてシナリオが特定されるため、ツリー構造を簡略化することができ、演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0039】
図2に戻って、成否確率設定部106は、解析モデル記憶部に記憶された解析モデルに含まれるイベントツリーが有する各イベントに対して成功又は失敗の成否確率を設定する。具体的に説明すると、解析モデル記憶部104には上述のように、第1解析モデル112A及び第2解析モデル112Bが記憶されており、それぞれ第1イベントツリーET1及び第2イベントツリーET2を有する。成否確率設定部106は、第1イベントツリーET1及び第2イベントツリーET2に含まれる各イベントについて成功又は失敗の成否確率を設定する。
【0040】
尚、成否確率設定部106における成功又は失敗の成否確率の設定は、予めアクセス可能な記憶装置に読み出し可能に記憶され、成否確率設定部106によって読み出されることで設定されてもよいし、オペレータの操作によって所定のインターフェイス(不図示)を介して成否確率を入力することで設定されてもよい。また、成否確率設定部106で設定される各イベントにおける成功又は失敗の成否確率は、過去データに基づく実績値であってもよいし、シミュレーションなどによって算出された仮想値であってもよい。
【0041】
確率頻度算出部108は、解析モデル記憶部104に記憶された解析モデルを用いて、格納容器の機能喪失に至る各シナリオが生じる確率頻度CFを算出する。具体的には確率頻度算出部108は、解析モデル(
図3及び
図4を参照)に対して起因事象ごとの発生頻度を入力することで、解析モデルが有するイベントツリーに規定される各シナリオについて確率頻度CFを算出する。このように確率頻度CFを算出することで、各シナリオがどの程度の頻度で発生する可能性があるかを定量的にリスク評価することができる。
尚、確率頻度算出部108による詳細な確率頻度の算出方法については後述する。
【0042】
解析部110は、解析モデルを用いた確率頻度の算出過程において求められるMCS情報に基づいて、重要度・不確かさ解析を実施する機能を有する構成である。重要度・不確かさ解析は、MCS情報を用いて確率頻度に支配的な因子を同定したり、不確実さ幅を評価することにより求められる。これにより、PRA学会標準で要求されている重要度・不確かさ解析の実施が可能となる。
【0043】
続いて上記構成を有するリスク評価システム100を用いて実施可能なリスク評価方法について説明する。
図7は本開示の少なくとも一実施形態に係るリスク評価方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0044】
まず確率頻度算出部108は、解析モデル記憶部104から解析モデルを取得する(ステップS1)。解析モデル記憶部104には、
図3及び
図4を参照して前述した解析モデルが予め記憶されており、確率頻度算出部108は解析モデル記憶部104にアクセスすることで解析モデルを取得する。
【0045】
尚、解析モデル記憶部104に記憶される解析モデルは、原子力プラント1に想定される起因事象、各起因事象によって発生する炉心損傷を防止するために機能する炉心損傷防止システムの構成機器MS1、MS2、・・・、炉心損傷による格納容器の損傷を防止するために機能する格納容器損傷防止システムの構成機器CS1、CS2、・・・、及び、物理化学現象PH1、PH2、・・・に基づいて構築される。解析モデルの構築は、コンピュータのような電子演算装置を用いて自動的に行われてもよいし、オペレータの作業によってマニュアル的に行われてもよい。
【0046】
続いて成否確率設定部106は、ステップS1で取得された解析モデル112が有するイベントツリーに含まれる各イベントに対して成否確率を設定する(ステップS2)。成否確率設定部106は、解析モデルに含まれる第1解析モデル112Aが有する第1イベントツリーET1に含まれる各イベント、及び、第2解析モデル112Bが有する第2イベントツリーET2に含まれる各イベントに対して成否確率を設定する。これにより、解析モデル112に含まれる各イベントツリーの分岐点における成功又は失敗の確率がそれぞれ設定される。
【0047】
続いて確率頻度算出部108は、起因事象発生頻度取得部102によって取得された各起因事象の発生頻度を、ステップS2で成否確率が設定された解析モデル112に対して入力し(ステップS3)、解析モデル112が有するイベントツリーに含まれる各シナリオの確率頻度CFを算出する(ステップS4)。具体的に説明すると、起因事象発生頻度取得部102によって取得された起因事象ごとの発生頻度は、まず解析モデル112のうち第1解析モデル112Aが有する第1イベントツリーET1に入力される。起因事象A、B、・・・の発生頻度は、第1イベントツリーET1のうち各起因事象に対応する炉心損傷防止イベントツリーET1Aに入力される。炉心損傷防止イベントツリーET1Aは、各イベントMS1、MS2、・・・を含む枝割れ構造によって規定されるシナリオごとに、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに引き継ぐための炉心損傷状態PDSを出力する。
【0048】
格納容器損傷防止イベントツリーET1Bは、炉心損傷防止イベントツリーET1Aから出力される炉心損傷状態PDSごとに設けられており、共通の炉心損傷状態PDSは対応する1の格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに導かれる。これにより、起因事象ごとに設定される炉心損傷防止イベントツリーET1Aに含まれる全シナリオの各々に対して個別に格納容器損傷防止イベントツリーET1Bを用意する場合に比べて、格納容器損傷防止イベントツリーET1Bの数が少なく済み、演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0049】
格納容器損傷防止イベントツリーET1Bは、各シナリオに対応するシナリオ情報SIを出力することにより、第1イベントツリーET1の各シナリオは第2イベントツリーET2に引き継がれる。第2イベントツリーET2は、第1イベントツリーET1のうち格納容器損傷防止イベントツリーET1Bに含まれる各イベントに対応する物理化学現象PH1、PH2、・・・を有することで、第1イベントツリーET1及び第2イベントツリーET2間において少ない情報量でシナリオの引き継ぎができる。
【0050】
確率頻度算出部108は、このようにイベントツリー間で引き継がれる情報量が削減された解析モデル112を用いて確率頻度CFの演算を行う。これにより、炉心損傷から原子炉格納容器2の損傷に至るまでの一連の流れを一つのイベントツリーで構成した解析モデルを用いた場合に比べて、演算負荷を大幅に削減することができる。その結果、リスク評価システム100において各シナリオの確率頻度CFを算出するための処理時間を効果的に短縮することができる。
【0051】
また解析部110は、前述のように解析モデル112の演算過程で出力されるMCS情報を取得し(ステップS5)、MCS情報を用いて重要度・不確かさ解析を実施する(ステップS6)。これにより、PRA学会標準で要求されている重要度・不確かさ解析の実施が可能となる。
【0052】
以上説明したように上記実施形態によれば、炉心損傷の起因事象の発生頻度に対して、炉心損傷から原子炉格納容器2の機能喪失に至るシナリオごとに確率頻度CFを算出するための解析モデル112において、第1解析モデル112Aが有する第1イベントツリーET1と第2解析モデル112Bが有する第2イベントツリーET2との間をシナリオ情報SIによってシナリオの引き継ぎが行われる。これにより、第1イベントツリーET1と第2イベントツリーET2との間で引き継がれる情報量が大幅に削減され、確率頻度CFを算出するための演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0053】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0054】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0055】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力プラントのリスク評価システムは、
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラント(例えば上記実施形態の原子力プラント1)のリスク評価システム(例えば上記実施形態のリスク評価システム100)であって、
前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベント(例えば上記実施形態のイベントMS1、MS2、・・・・、CS1、CS2、・・・)を含む第1イベントツリー(例えば上記実施形態の第1イベントツリーET1)を有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報(例えば上記実施形態のシナリオ情報SI)を出力する第1解析モデル(例えば上記実施形態の第1解析モデル112A)と、
前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベント(例えば上記実施形態のイベントPH1、PH2、・・・)を含む第2イベントツリー(例えば上記実施形態の第2イベントツリーET2)を有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデル(例えば上記実施形態の第2解析モデル112B)と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する成否確率設定部(例えば上記実施形態の成否確率設定部106)と、
前記起因事象の発生頻度が前記第1解析モデルに入力された際に、前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度(例えば上記実施形態の確率頻度CF)を算出する確率頻度算出部(例えば上記実施形態の確率頻度算出部108)と、
を備える。
【0056】
上記(1)の態様によれば、炉心損傷の起因事象の発生頻度に対して、炉心損傷から格納容器の機能喪失に至るシナリオごとに確率頻度を算出するための解析モデルにおいて、第1解析モデルが有する第1イベントツリーと第2解析モデルが有する第2イベントツリーとの間をシナリオ情報によってシナリオの引き継ぎが行われる。これにより、第1イベントツリーと第2イベントツリーとの間で引き継がれる情報量が大幅に削減され、確率頻度を算出するための演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0057】
(2)一態様では上記(1)の態様において、
前記第1解析モデルは、前記起因事象ごとに設定された前記第1イベントツリーを有し、
前記第2解析モデルは、前記第1イベントツリーから出力される前記格納容器の損傷状態ごとに設定された前記第2イベントツリーを有する。
【0058】
上記(2)の態様によれば、第1イベントツリーから出力される格納容器の損傷状態ごとに第2イベントツリーを設けることで、第1イベントツリーのシナリオごとに第2イベントツリーを設ける場合に比べて第2イベントツリーの数を減らすことができる。これにより、第1イベントツリーと第2イベントツリーとの間で引き継がれる情報量をより効果的に削減し、確率頻度を算出するための演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0059】
(3)一態様では上記(1)又は(2)の態様において、
前記第1解析モデルは、前記第1イベントツリーに含まれる前記複数のイベントの少なくとも一部における成功又は失敗の要因となる機器損傷状態に関するMCS情報を前記第2解析モデルに対して出力する。
【0060】
上記(3)の態様によれば、シナリオごとの確率頻度を算出する際に、各イベントの成功又は失敗の要因となる機器損傷状態に関するMCS情報が出力される。これにより、MCS情報を用いて重要度・不確かさ解析の実施が可能となり、PRA学会標準による要求に好適に対応することができる。
【0061】
(4)一態様では上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記第2イベントツリーは、前記格納容器損傷防止システムに関するイベント(例えば上記実施形態のイベントCS1、CS2、・・・)と、前記物理化学現象に関するイベント(例えば上記実施形態のイベントPH1、PH2、・・・)とを含む。
【0062】
上記(4)の態様によれば、物理化学現象に関するイベントを含む第2イベントツリーには、第1イベントツリーに含まれる格納容器損傷防止システムに関するイベントが更に含まれる。これにより、第1イベントツリー及び第2イベントツリーは、第1イベントツリーに含まれる格納容器損傷防止システムに関するイベントを共通して含むことになり、第1イベントツリーにおける各シナリオをシナリオ情報によって、第2イベントツリーに効率的に引き継ぐことができる。
【0063】
(5)一態様では上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記第1イベントツリーは、
前記炉心損傷防止システムに関する複数のイベントを含み、各シナリオに対応する前記炉心の損傷状態を出力する炉心損傷防止イベントツリーと、
前記炉心の損傷状態ごとに前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベントを含み、各シナリオに対応する前記格納容器の損傷状態を出力する格納容器損傷防止イベントツリーと、
を含む。
【0064】
上記(5)の態様によれば、炉心損傷防止イベントツリーと格納容器損傷防止イベントツリーとを含んで第1イベントツリーを構成することで、確率頻度を算出するための演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0065】
(6)本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力プラントのリスク評価方法は、
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラント(例えば上記実施形態の原子力プラント1)のリスク評価方法であって、
(i)前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベント(例えば上記実施形態のイベントMS1、MS2、・・・・、CS1、CS2、・・・)を含む第1イベントツリー(例えば上記実施形態の第1イベントツリーET1)を有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報(例えば上記実施形態のシナリオ情報SI)を出力する第1解析モデル(例えば上記実施形態の第1解析モデル112A)と、(ii)前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベント(例えば上記実施形態のイベントPH1、PH2、・・・)を含む第2イベントツリー(例えば上記実施形態の第2イベントツリーET2)を有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデル(例えば上記実施形態の第2解析モデル112B)とを用意する工程と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する工程と、
前記起因事象の発生頻度を前記第1解析モデルに入力する工程と、
前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度(例えば上記実施形態の確率頻度CF)を算出する工程と、
を備える。
【0066】
上記(6)の態様によれば、炉心損傷の起因事象の発生頻度に対して、炉心損傷から格納容器の機能喪失に至るシナリオごとに確率頻度を算出するための解析モデルにおいて、第1解析モデルが有する第1イベントツリーと第2解析モデルが有する第2イベントツリーとの間をシナリオ情報によってシナリオの引き継ぎが行われる。これにより、第1イベントツリーと第2イベントツリーとの間で引き継がれる情報量が大幅に削減され、確率頻度を算出するための演算負荷を効果的に軽減することができる。
【0067】
(7)本開示の少なくとも一実施形態に係る原子力プラントのリスク評価プログラムは、
炉心の損傷を防止するための炉心損傷防止システム、及び、格納容器の損傷を防止するための格納容器損傷防止システムを含む原子力プラント(例えば上記実施形態の原子力プラント1)のリスク評価プログラムであって、
コンピュータ装置で、
(i)前記炉心損傷防止システム、及び、前記格納容器損傷防止システムに関する複数のイベント(例えば上記実施形態のイベントMS1、MS2、・・・・、CS1、CS2、・・・)を含む第1イベントツリー(例えば上記実施形態の第1イベントツリーET1)を有し、前記格納容器の損傷に至るまでの前記格納容器損傷防止システムに関する各イベントの成功又は失敗を含むシナリオ情報(例えば上記実施形態のシナリオ情報SI)を出力する第1解析モデル(例えば上記実施形態の第1解析モデル112A)と、(ii)前記格納容器の機能喪失に関連した物理化学現象に関する複数のイベント(例えば上記実施形態のイベントPH1、PH2、・・・)を含む第2イベントツリー(例えば上記実施形態の第2イベントツリーET2)を有し、前記シナリオ情報に対応するシナリオごとに前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度を出力する第2解析モデル(例えば上記実施形態の第2解析モデル112B)とを用意する工程と、
前記第1イベントツリー及び前記第2イベントツリーに含まれる各イベントに対して、成功又は失敗の成否確率を設定する工程と、
前記起因事象の発生頻度を前記第1解析モデルに入力する工程と、
前記第1解析モデルから出力される前記シナリオ情報を前記第2解析モデルに入力することにより、前記シナリオ情報に基づく各シナリオにおける前記格納容器の機能喪失が生じる確率頻度(例えば上記実施形態の確率頻度CF)を算出する工程と、
を実行可能である。
【0068】
上記(7)の態様によれば、炉心損傷の起因事象の発生頻度に対して、炉心損傷から格納容器の機能喪失に至るシナリオごとに確率頻度を算出するための解析モデルにおいて、第1解析モデルが有する第1イベントツリーと第2解析モデルが有する第2イベントツリーとの間をシナリオ情報によってシナリオの引き継ぎが行われる。これにより、第1イベントツリーと第2イベントツリーとの間で引き継がれる情報量が大幅に削減され、確率頻度を算出するための演算負荷を効果的に軽減することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 原子力プラント
2 原子炉格納容器
4 原子炉容器
8 制御棒
10 一次冷却ループ
12 加圧器
14 蒸気発生器
15 炉心注入系
16 一次冷却材ポンプ
17 格納容器スプレイ系
18 二次冷却ループ
21,22 配管
100 リスク評価システム
102 起因事象発生頻度取得部
104 解析モデル記憶部
106 成否確率設定部
108 確率頻度算出部
110 解析部
112 解析モデル
112A 第1解析モデル
112B 第2解析モデル