(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】基板処理装置および基板処理システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231220BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/68 A
(21)【出願番号】P 2020015214
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0003068(KR,A)
【文献】特開2019-067855(JP,A)
【文献】特開2019-067863(JP,A)
【文献】特開2013-033963(JP,A)
【文献】特開2013-033964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容可能な内部空間と、前記内部空間に連通し前記基板を通過させるための開口とを有する処理容器本体と、
前記開口を閉塞可能な蓋部と、
前記開口に対し前記蓋部を相対移動させて前記開口を開閉する移動部と、
前記処理容器本体に対して前記蓋部をロックするロック機構と
を備え、
前記開口は前記処理容器本体の側面に設けられており、前記処理容器本体に対する前記蓋部の相対移動方向は水平方向であり、前記基板は水平姿勢で前記内部空間に搬入され、
前記移動部は、前記処理容器本体に対する前記蓋部の相対位置を、
前記蓋部が、前記処理容器本体に近接して前記開口を閉塞する閉塞位置と、
前記蓋部が、前記開口に対し前記内部空間とは反対方向に、かつ前記開口との間に前記内部空間へ搬送される前記基板を通過させるための間隙空間を隔てて離間する離間位置と
の間で変化させ、
前記ロック機構は、
前記処理容器本体および前記蓋部のうち一方側に
、これらのうちの他方側に向
かって延びるように設けられ、かつ、前記蓋部が前記離間位置にあるときには前記間隙空間を超えて前記他方側まで延びるアーム部と、
前記アーム部のうち、前記蓋部が前記離間位置にあるときに前記間隙空間を超えた位置にある部位に係合して、前記アーム部の変位を規制する係止部と
を有する、基板処理装置。
【請求項2】
前記アーム部は、前記開口よりも水平方向における外側に延設されている請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記間隙空間を挟む1対の前記アーム部が設けられ、前記係止部は前記1対の前記アーム部のそれぞれに係合する請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記係止部では、単一の係止部材が前記1対のアーム部に係合する請求項3に記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記アーム部は前記蓋部に取り付けられており、前記移動部は前記蓋部と前記アーム部とを一体的に移動させる請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記
アーム部は、前記処理容器本体よりも水平方向における外側に延設されている請求項1ないし5のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記基板を水平姿勢に保持する基板保持部を有し、前記基板保持部は前記蓋部に取り付けられて、前記基板とともに前記内部空間に収容される請求項1ないし6のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記蓋部が前記離間位置にあるとき、前記基板保持部は前記間隙空間に位置する請求項7に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記内部空間に超臨界状態の処理流体を供給する流体供給部を備える請求項1ないし8のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の基板処理装置と、
前記間隙空間へ前記基板を搬送する搬送装置と、
前記間隙空間の上方から前記間隙空間へダウンフローを供給する送気装置と
を備える基板処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理容器内で基板を処理する基板処理装置、特に高圧下で処理を行う基板処理装置およびこれを含む基板処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。このような処理は、処理流体の効率的な利用や外部への散逸防止を目的として、気密性の処理容器内で行われる場合がある。この場合、処理容器には、基板の搬入・搬出のための開口と、該開口を閉塞して内部空間の気密性を確保するための蓋部とが設けられる。特に、周囲雰囲気に対して高圧の条件下で処理が行われる場合、気密性を保ち、また内部の圧力によって蓋部が開いてしまうのを防止するために、処理容器本体と蓋部とを確実に固定するためのロック機構が必要となる。
【0003】
例えば特許文献1に記載の処理装置では、処理対象となる基板(ウエハ)が平板状のホルダーに載置された状態で処理容器内に搬入される。そして、ホルダーと一体化された蓋体が処理容器の開口を閉塞した後、処理容器に蓋体を押さえるロックプレートが装着されることで、蓋体の飛び出しが機械的に抑止される。また例えば、特許文献2に記載の基板処理装置では、ハウジング本体に対し揺動自在に取り付けられたドアが開口を閉塞するとともに加圧板と係合することで、ドアがロックされ、ハウジング内の気密が保たれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-039040号公報
【文献】特開2013-033964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような処理容器を含む処理装置が例えば基板を清浄化するプロセスに適用される場合、処理容器へ搬入または処理容器から搬出される基板が、機構部品の作動に起因する発塵によって汚染されるのを防止する必要がある。しかしながら、上記した従来技術のロック機構は、いずれも処理容器の開口部の近傍で部材同士の摺擦が起きる構造である。このため、部材間の摺擦によって生じた微粉がパーティクルとして基板の搬送経路や開口部の周囲に飛散または付着し、これが基板を汚染する原因となり得る。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、処理容器内で基板を処理する基板処理装置において、部材の摺擦による発塵が基板を汚染するのを防止しつつ、容器本体に対し蓋部を確実にロックすることのできる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一の態様は、上記目的を達成するため、基板を収容可能な内部空間と前記内部空間に連通し前記基板を通過させるための開口とを有する処理容器本体と、前記開口を閉塞可能な蓋部と、前記開口に対し前記蓋部を相対移動させて前記開口を開閉する移動部と、前記処理容器本体に対して前記蓋部をロックするロック機構とを備えている。ここで、前記開口は前記処理容器本体の側面に設けられており、前記処理容器本体に対する前記蓋部の相対移動方向は水平方向であり、前記基板は水平姿勢で前記内部空間に搬入される。また、前記移動部は、前記処理容器本体に対する前記蓋部の相対位置を、前記蓋部が、前記処理容器本体に近接して前記開口を閉塞する閉塞位置と、前記蓋部が、前記開口に対し前記内部空間とは反対方向に、かつ前記開口との間に前記内部空間へ搬送される前記基板を通過させるための間隙空間を隔てて離間する離間位置との間で変化させる。そして、前記ロック機構は、前記処理容器本体および前記蓋部のうち一方側に、これらのうちの他方側に向かって延びるように設けられ、かつ、前記蓋部が前記離間位置にあるときには前記間隙空間を超えて前記他方側まで延びるアーム部と、前記アーム部のうち、前記蓋部が前記離間位置にあるときに前記間隙空間を超えた位置にある部位に係合して、前記アーム部の変位を規制する係止部とを有している。
【0008】
このように構成された発明では、ロック機構に設けられたアーム部と係止部とが係合することにより、処理容器本体と蓋部との間が係止される。アーム部と係止部との摺擦により発塵の可能性があるが、その影響は基板が搬送される間隙空間には及ばない。その理由は以下の通りである。
【0009】
なお、本発明において、蓋部の「閉塞位置」および「離間位置」は処理容器本体に対する相対位置であるが、煩雑を避けるため、以下ではこれらの位置が「処理容器本体に対する相対位置」であることの記載を省略することがある。同様に、以下の説明における部材の「移動」は、特に言及しない限り他の部材に対する「相対移動」を指しており、実空間における移動主体を限定するものではない。
【0010】
この発明において、蓋部は処理容器本体に対し、処理容器本体の開口を閉塞する閉塞位置と、処理容器との間に基板が通過可能な間隙空間を形成する離間位置との間で移動する。ロック機構のアーム部は、処理容器本体および蓋部の一方から他方側へ延びており、しかもその先端は、蓋部が離間位置にある場合でも間隙空間を超えて他方側まで到達している。
【0011】
この状態から、蓋部が閉塞位置まで移動する過程を考えると、処理容器本体と蓋部との間隔が次第に小さくなり間隙空間が狭くなる。これとともに、アーム部のうち係止部と係合する部位(以下では「係合部位」と称することとする)は、間隙空間からより離れる方向へ移動してゆく。そうすると、蓋部が離間位置と閉塞位置との間で移動する過程においては、アーム部の係合部位は、常に間隙空間からは離れた位置にある。特に、アーム部と係止部との係合は間隙空間や処理容器本体の開口からは大きく離れた位置において実現されることとなる。
【0012】
このように、離間位置と閉塞位置との移動過程の全体において間隙空間よりも他方側でアーム部と係止部とが係合するため、仮に両者の摺擦によってパーティクルが発生したとしても、これが基板の搬送経路や処理容器本体の内部空間へ混入する確率は大きく低減されている。また、蓋部が閉塞位置から離間位置に移動する際に、係合部位で発生しその周囲に付着したパーティクルがアーム部の移動に伴って間隙空間まで搬送されてくることも回避される。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明では、蓋部が処理容器本体の開口を閉塞する閉塞位置にあるときに、ロック機構のアーム部と係止部とが機械的に係合することにより、蓋部と処理容器本体とを強固に結合し確実にロックすることができる。これにより、内部空間の気密を保ち、内容物の漏出を防止することができる。また、蓋部が処理容器本体から離間した状態でも、アーム部と係止部との摺擦によって生じたパーティクルが間隙空間に入り込むことが防止されており、基板の汚染についても防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る基板処理システムの一実施形態の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係る基板処理装置を含む基板処理システムの一実施形態の概略構成を示す図である。この基板処理システム1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を超臨界流体を用いて処理するための処理システムである。以下の各図における方向を統一的に示すために、
図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0016】
ここで、本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理システムを例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
【0017】
基板処理システム1は、クリーンルーム100内に設置された処理ユニット10および移載ユニット30と、クリーンルーム100の内部または外部に設置された供給ユニット50および制御ユニット90とを備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものであり、移載ユニット30は、図示しない外部の搬送装置により搬送されてくる未処理基板Sを受け取って処理ユニット10に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット10から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット50は、処理に必要な化学物質および動力を処理ユニット10および移載ユニット30に供給する。
【0018】
移載ユニット30としては、例えば公知の多関節ロボットを用いることができる。このような処理ユニット間で基板を移送するロボットとしては他にも種々のものが知られており、それらの中から適宜選択して使用可能である。このため、移載ユニット30の構造についての説明は省略する。また、クリーンルーム100の天井部分にはファンフィルタユニット(FFU)40が設置されており、処理ユニット10の上方から清浄なダウンフローが供給されている。
【0019】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90は、各種の制御プログラムを実行するCPU91、処理データを一時的に記憶するメモリ92、CPU91が実行する制御プログラムを記憶するストレージ93、およびユーザや外部装置と情報交換を行うためのインターフェース94などを備えている。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0020】
処理ユニット10は、支持脚11の上に処理チャンバ12が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ12は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ12の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口121が形成されており、開口121を介して処理空間SPと外部空間とが連通している。
【0021】
処理チャンバ12の(-Y)側側面には、開口121を閉塞するように蓋部材13が設けられている。蓋部材13が処理チャンバ12の開口121を閉塞することにより処理容器が構成され、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材13の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられており、支持トレイ15の上面は基板Sを載置可能な支持面となっている。移載ユニット30は未処理の基板Sを支持トレイ15の上面に載置し、また支持トレイ15上の処理済み基板Sを搬出する。
【0022】
蓋部材13は、アーム部材161を介し、支持部14によりY方向に水平移動自在に支持されている。より具体的には、蓋部材13は、後述するロック機構16の一部となるアーム部材161に取り付けられており、アーム部材161が支持部14により支持される。支持部14は、クリーンルーム100の床面にY方向に沿って設置されたガイドレール141と、ガイドレール141に対しY方向に移動自在に係合されたスライダ142とを備えている。スライダ142には支持脚143が設けられており、支持脚143により、アーム部材161が支持されている。
【0023】
蓋部材13は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ12に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が支持部14のスライダ142をガイドレール141に沿ってY方向に移動させることで、蓋部材13がY方向に移動する。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0024】
蓋部材13が(-Y)方向に移動することにより、
図1に点線で示すように、支持トレイ15が処理空間SPから開口121を介して外部へ引き出されると、支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材13が(+Y)方向に移動することにより、
図1に実線で示すように、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0025】
蓋部材13が(+Y)方向に移動し開口121を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材13の(+Y)側側面と処理チャンバ12の(-Y)側側面との間にはシール部材122が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。また、後述するロック機構により、蓋部材13は処理チャンバ12に対して固定される。このようにして処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。
【0026】
この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、超臨界処理に利用可能な物質の流体、例えば二酸化炭素を気体または液体の状態で処理ユニット10に供給する。二酸化炭素は比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。
【0027】
流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、流体は超臨界状態となる。こうして基板Sが処理チャンバ12内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は制御ユニット90により制御されている。
【0028】
上記のような主要構成を有する基板処理システム1では、処理液で濡れた状態で搬送されてくる基板Sを超臨界流体を用いて乾燥させる、超臨界乾燥処理が実行される。この処理では、基板Sに付着する処理液が表面張力の極めて低い超臨界流体により置換され、さらに超臨界流体が液相を介することなく直接昇華することで基板Sを乾燥させる。このため、特に表面に微細パターンが形成された基板の乾燥において、気液界面で液体の表面張力が作用することにより生じるパターン倒壊を防止することができる。このような超臨界乾燥処理については公知であるため、ここでは処理プロセスの詳細については説明を省略する。
【0029】
処理中、処理チャンバ12内の処理空間SPは高圧となる。このため、高圧流体の漏出を防止し、内部の圧力を適正に維持し、さらに内圧による蓋部材13の脱落を防止するために、処理チャンバ12と蓋部材13とを強固に結合するロック機構が必要とされる。以下、本実施形態におけるロック機構16の構造について、
図2ないし
図5を参照して説明する。
【0030】
図2および
図3はロック機構の構成を示す分解斜視図である。また、
図4および
図5はロック機構の動作を示す図である。
図2および
図3に示すように、この実施形態におけるロック機構16は、アーム部材161と係止部材162とを備えている。まず、
図2を参照してアーム部材161の構造について説明する。
【0031】
アーム部材161は、概略コの字型形状を有する金属製部材である。
図2に示すように、アーム部材161は、Y方向に延びる1対のアーム161a,161bと、これらの(-Y)側端部を接続するようにX方向に延びる接続部位161cとを有している。接続部位131cは、蓋部材13のX方向長さより大きい長さを有しており、その(+Y)側側面に蓋部材13が固定される。すなわち、アーム部材161と蓋部材13とは機械的に一体化されている。
【0032】
アーム161a,161bは、蓋部材13よりもX方向における外側で、接続部位161cから(+Y)方向に延びている。アーム161a,161bそれぞれの先端付近には、アーム上端部が部分的に切り欠かれた切り欠き部161d,161eが設けられている。
【0033】
図3に示すように、上記のように蓋部材13とアーム部材161とが一体化された構造体が、処理チャンバ12と組み合わされる。当該構造体は、進退機構53の作動によりY方向に移動可能である。構造体が(+Y)方向へ進むと、蓋部材13に取り付けられた支持トレイ15およびその上面に載置される基板Sは、処理チャンバ12の(-Y)側側面に設けられた開口121を通って処理チャンバ12内部の処理空間SPに進入する。最終的には、蓋部材13が開口121の周囲に設けられたシール部材122に当接し開口121を閉塞する位置まで構造体が進行し、これにより支持トレイ15および基板Sが処理空間SP内に密封される。
【0034】
一方、アーム部材161の両アーム161a,161bは、処理チャンバ12のX方向側両側面よりも外側を通って(+Y)方向へ進行する。処理チャンバ12の(+Y)側端部は上部が切り欠かれており、該切り欠き部123の上方には係止部材162が配置されている。
図3への記載を省略しているが、係止部材162は例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の昇降機構54(
図1)により昇降自在に支持されている。
【0035】
係止部材162はX方向に延びる金属製の棒状部材であり、その断面は、アーム161a,161bの切り欠き部161d,161eに嵌合する形状となっている。蓋部材13が開口121を閉塞する位置まで進出するとき、アーム161a,161bの切り欠き部161d,161eがちょうど係止部材162の直下位置まで進出する。言い換えれば、そのような位置関係となるように、アーム161a,161bの長さおよび切り欠き部161d,161eの位置に対応して係止部材162の配置が定められている。
【0036】
この状態で係止部材162が降下すると、係止部材162のX方向における両端はそれぞれ切り欠き部161d,161eに係合する。その結果、アーム部材161と係止部材162とにより構成される矩形環状の構造体が、処理チャンバ12の外周全体を取り囲むように配置されることになる。
【0037】
係止部材162は、処理チャンバ12の切り欠き部123の側面に係合することによって(-Y)方向への変位が規制されている。したがって、アーム部材161およびこれに取り付けられた蓋部材13についても、(-Y)方向への変位が規制される。このように、蓋部材13が処理チャンバ12とアーム部材16との間に挟み込まれ、かつアーム部材16の変位が係止部材162により規制されることで、蓋部材13が開口121を閉塞した状態が維持される。こうして、アーム部材161および係止部材162が蓋部材13を強固に固定するロック機構16として機能する。
【0038】
このロック状態は、各部材の機械的な係合によって実現されており、例えばモータやエアシリンダ、クラッチ等の能動的機構によって実現されるものではない。したがって、ロック状態を維持するのに動力を必要としない。また、処理空間SPの内圧により蓋部材13を押し出そうとする力は、アーム部材161と係止部材162との係合をより強固なものとする方向に作用する。この意味において、本実施形態のロック機構16は、内部空間が密閉された状態でのみ機能し、かつ部材が機械的に破壊されない限りにおいて駆動力に頼ることなくロック状態を維持することができる、インターロック機能を有している。
【0039】
進退機構53はアーム部材161を介して、蓋部材13を
図4に示す「離間位置」と、
図5に示す「閉塞位置」との間で移動させる。
図4上の図は蓋部材13の離間位置を示す平面図であり、下の図はその側面図である。蓋部材13が
図4に示す離間位置に位置決めされているとき、基板Sを載置する支持トレイ15は、蓋部材13と処理チャンバ12との間の間隙空間GSに全体が露出した状態となっており、移載ユニット30による基板Sの搬入および搬出が可能である。
【0040】
このとき、アーム161a,161bの切り欠き部161d,161eは、間隙空間GSおよび処理チャンバ12の開口121の位置よりも(+Y)方向側の位置にある。言い換えれば、蓋部材13が離間位置にある状態で、切り欠き部161d,161eが処理チャンバ12の開口121の位置よりも(+Y)側に位置するように、切り欠き部161d,161eの位置が定められている。したがって、アーム161a,161bの長さは、蓋部材13が離間位置にあるときにアーム161a,161bの先端が間隙空間GSを超えて(+Y)側まで延びるように設定される。
【0041】
進退機構53がアーム部材161を(+Y)方向へ移動させることにより、アーム部材161、蓋部材13および支持トレイ15が一体的に(+Y)方向へ移動する。これにより、蓋部材13は離間位置(
図4)から閉塞位置(
図5)に向けて移動する。
図5上の図は蓋部材13の閉塞位置を示す平面図であり、下の図はその側面図である。
【0042】
閉塞位置において、蓋部材13はシール部材122を介して処理チャンバ12の開口121を閉塞する。このとき、アーム161a,161bの切り欠き部161d,161eは、処理チャンバ12の切り欠き部123および係止部材162の配設位置まで到達しており、係止部材162が降下することで、アーム部材161、処理チャンバ12および係止部材162が一体的に係合される。これにより蓋部材13に対するロック作用が機能する。
【0043】
以上よりわかるように、蓋部材13が離間位置と閉塞位置との間を移動する過程において、アーム161a,161bの切り欠き部161d,161eは、常に処理チャンバ12の開口121よりも(+Y)方向側、つまり基板Sが搬入・搬出される際の経路となる間隙空間GSから(+Y)方向側に離れた位置にある。このことは、搬入・搬出される基板Sの汚染を防止する上で有利である。その理由は以下の通りである。
【0044】
内部空間が高圧となる処理容器では、内圧により蓋部が脱落するのを防止するためのインターロック機構が必要とされ、その実現のためには堅牢な部材同士を機械的に強固に係合させることが求められる。そうすると、部材間の摺擦が不可避的に発生し、これに起因する発塵、つまり部材の表面が削られて生じる微粉の飛散が起こり得る。
【0045】
このような発塵が、基板Sが通過する開口121あるいはその搬送経路となる間隙空間GSの近傍で生じたとき、微粉が搬送中あるいは処理空間SP内の基板Sに付着することがあり得る。このことが、パーティクルによる基板Sの汚染を引き起こす原因となる。
【0046】
本実施形態では、Y方向に延びるアーム161a,161bの先端近くに設けられた切り欠き部161d,161eが係止部材162と係合することでインターロック機構として作用し、その係合位置は、処理チャンバ12の開口121からは大きく離れている。つまり、発塵の原因となる部材間の摺擦は、基板Sから大きく離れた位置で発生する。
【0047】
さらに、発生した微粉が仮に切り欠き部161d,161eまたはその周囲に付着していたとしても、アーム部材161の移動に伴ってそれが間隙空間GSは入り込むことも防止される。というのは、切り欠き部161d,161eが最も(-Y)方向側に位置することとなる蓋部材13の離間位置においても、切り欠き部161d,161eは間隙空間GSよりも(+Y)側にあるからである。
【0048】
すなわち、蓋部材13が離間位置と閉塞位置との間を移動する間において、微粉が付着している可能性のある切り欠き部161d,161eが、離間位置において間隙空間GSとなる空間を通過することがない。処理ユニット10の周囲にFFU40によるダウンフローが形成されていることも、微粉を間隙空間GSから遠ざける効果を有する。
【0049】
そのため、基板Sの搬入および搬出に際しては、ロック機構16における部材の摺擦によって生じた微粉に触れさせることなく基板Sを通過させることが可能である。これにより、発塵に起因する基板Sの汚染を防止することが可能である。
【0050】
また、この実施形態では、間隙空間GSおよび処理チャンバ12を水平方向から挟むように、1対のアーム161a,161bが設けられている。単にロック機構という観点からは1つのアームのみでも機能するが、蓋部材13および処理チャンバ12を挟む両側にそれぞれアームを設けることで、インターロック機能をより確実なものとすることができる。この場合、2つのアームを間隙空間GSに対し水平方向位置に配置することで、アームから落下した微粉が間隙空間GSに入り込むのを防止することができる。
【0051】
また、この実施形態では、アーム部材161と蓋部材13とを結合し、蓋部材13側から処理チャンバ12側に向かってアーム161a,161bが延びる構造となっているが、これとは逆に、処理チャンバ12側から蓋部材13側に向かってアームが延びる構造としても、技術的には等価である。ただし、次のような問題が生じ得る。
【0052】
図6はロック機構の変形例を示す上面図である。より具体的には、
図6(a)はこの変形例の処理ユニット10Aにおける離間位置を示す図、
図6(b)は閉塞位置を示す図である。この変形例の処理ユニット10Aでは、処理チャンバ12AのX方向両端部から(-Y)方向、つまり蓋部材13Aに向かう方向に、1対のアーム163a,163bが延びている。蓋部材13Aの(+Y)側端面に基板Sを支持する支持トレイ15Aが取り付けられる点は上記実施形態と同様である。
【0053】
そうすると、
図6(a)に示す離間位置でアーム先端の切り欠き部163d,163eが間隙空間GSよりも(-Y)方向側にあり、かつ
図6(b)に示す閉塞位置で切り欠き部163d,163dに係止部材162Aを係合させるという条件を満たすインターロック機構を構成しようとすると、
図6(b)に示すように、係止部材162Aを蓋部材13Aから大きく(-Y)方向に離れた位置に配置する必要が生じる。このため、例えば蓋部材13Aの(-Y)側に大きな延長部材17Aを装着するなどの対策が必要となり、装置のコストやフットプリントが大きくなるという点で不利である。
【0054】
上記実施形態は、基板Sを受け入れる処理空間SPを内包することで必然的に奥行き(Y方向長さ)が大きくなる処理チャンバ12A側に向かって、蓋部材13側からアーム161a,161bが延びる構造となっている。この構造は、装置のフットプリント増大を抑えることができるという点で有利である。
【0055】
図7はロック機構の他の変形例を示す図である。これらの変形例においては、ロック機構を構成する係止部材の構造が上記実施形態とは異なっているが、それ以外の構成については基本的に上記実施形態のものと同じとすることができる。そこで、上記実施形態と同一または実質的に同一の構成には同一の符号を付し、詳しい構造の説明を省略することとする。また、これらの変形例は処理ユニット10に関するものであり、それ以外については上記実施形態から特に変更がないため記載を省略する。
【0056】
図7(a)に示す変形例の処理ユニット10Bでは、上記実施形態では一体のものとして構成されていた係止部材162に代えて、2つのアーム161a,161bの切り欠き部161d,161eにそれぞれ対応する1対の係止部材164a,164bが昇降自在に設けられる。また、
図7(b)に示す変形例の処理ユニット10Cでは、1対の係止部材165a,165bが、モータ、エアシリンダ、ソレノイド等の適宜の駆動機構166a,166bにより、それぞれX方向に進退駆動される。
【0057】
これらの構成において、アーム161a,161bには、切り欠き部161d,161eに代えて、係止部材を挿通するための貫通孔が設けられてもよい。これらの変形例に示すように、ロック機構16の構造としては各種のものを適用して、上記実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0058】
以上説明したように、上記実施形態においては、基板処理システム1のうち特に処理ユニット10が、本発明の「基板処理装置」に相当している。そして、処理チャンバ12が本発明の「処理容器本体」に、蓋部材13が本発明の「蓋部」に、支持トレイ15が本発明の「基板保持部」に、それぞれ相当している。また、支持部14および進退機構53が一体として、本発明の「移動部」として機能している。
【0059】
また、ロック機構16において、アーム部材161(特にアーム161a,161b)、係止部材162がそれぞれ、本発明の「アーム部」、「係止部」として機能している。また、上記実施形態では、移載ユニット30が本発明の「搬送装置」として、またファンフィルタユニット40が本発明の「送気装置」としてそれぞれ機能している。また、処理空間SPが、本発明の「内部空間」に相当している。
【0060】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では基板Sを水平姿勢に保持しつつ処理チャンバ12に搬入し処理するが、基板の姿勢はこれに限定されない。例えばその主面を水平方向に向けた状態で搬入または搬出されてもよい。
【0061】
また、上記実施形態のロック機構16では、搬入・搬出時に基板Sが通過する間隙空間GSを水平方向から挟むように1対のアーム161a,161bが配置されている。しかしながら、アームの数や配置はこれに限定されない。例えば、1本または3本以上のアームが設けられてもよく、また間隙空間の下方に延びるアームが設けられてもよい。
【0062】
また、上記実施形態のロック機構16は、アーム161a,161bに設けられた切り欠き部161d,161eと棒状の係止部材162とが係合することで蓋部材13をロックする構造を有している。しかしながら、ロック機構としてはこれに限定されず、機械的な係合により変位が規制されるような各種の構造のものを採用可能である。例えばアーム161a,161bに設けられた切り欠き部161d,161eは、上記した実施形態のようにアーム上部に形成されるのではなく、切り欠き部が互いに対向するように形成されてもよい。また、棒状の係止部材162を切り欠き部にはめ込むための移動機構は、処理チャンバ12の側面に配置してもよいし、上面または下面に配置してもよい。また、当該移動機構を処理チャンバ12の(+Y)側側面に配置してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、開口121とは反対側の処理チャンバ12の側面に係止部材162が当接することでアーム部材161の変位が規制されるが、係止部材は処理チャンバとは別体の支持機構によって支持される構成であってもよい。また、上記実施形態および変形例では係止部材が進退移動することでアーム部材と係止するが、例えば回動または回転によりアーム部材との係合状態とその解除状態とを切り替えるような構成であってもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、固定された処理チャンバ12に対して蓋部材13およびアーム部材161が一体的に進退移動するが、蓋部材が固定され処理チャンバが移動することによっても両者の相対移動は実現可能である。ただし、一般的には蓋部材に比して処理チャンバは大きく重量があり、また各種の配管が接続される等の点から、処理チャンバを固定し蓋部材を移動させることが現実的であると考えられる。
【0065】
また、上記実施形態は基板を超臨界流体により処理する基板処理システムであるが、これに限定されず、基板に対し高圧の処理容器内で行う各種の処理にも本発明を適用することが可能である。
【0066】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理装置において、例えばアーム部は、開口よりも水平方向における外側に延設されてもよい。このような構成によれば、摺擦によって生じた微粉がアーム部から落下したとしても、間隙空間に入り込むことは回避される。
【0067】
また例えば、間隙空間を挟む1対のアーム部が設けられ、係止部は1対のアーム部のそれぞれに係合する構造であってもよい。例えば、単一の係止部材が1対のアーム部に係合する構造とすることができる。このような構成によれば、内部空間の内圧により蓋部が押し出されるのを確実に防止し、またアーム部に捩れの力が作用するのを防止することができる。
【0068】
また例えば、アーム部は蓋部に取り付けられ、移動部は蓋部とアーム部とを一体的に移動させる構成であってもよい。このような構成によれば、アーム部を係止することで、蓋部についても確実に係止することができる。
【0069】
また例えば、開口は処理容器本体の側面に設けられており、処理容器本体に対する蓋部の相対移動方向は水平方向であり、基板は水平姿勢で内部空間に搬入されてもよい。また例えば、基板を水平姿勢に保持する基板保持部を有し、基板保持部は蓋部に取り付けられて、基板とともに内部空間に収容される構成であってもよい。このような構成によれば、基板が水平姿勢に支持されることで、例えば上面に液膜が形成された基板を受け入れて処理することができる。
【0070】
この場合、蓋部が離間位置にあるとき、基板保持部は間隙空間に位置するように構成されてもよい。このような構成によれば、間隙空間にある基板保持部に対し基板を載置し、あるいは基板保持部から基板を取り出すことができる。
【0071】
また例えば、本発明に係る基板処理装置は、内部空間に超臨界状態の処理流体を供給する流体供給部を備えてもよい。本発明のロック機構は内部空間が高圧となる場合にも好適なものであり、例えば超臨界状態の処理流体を用いた基板処理にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
この発明は、高圧下で基板を処理する基板処理装置全般に適用することができる。特に、半導体基板等の基板を超臨界流体によって乾燥させる基板乾燥処理に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 基板処理システム
10 処理ユニット(基板処理装置)
12 処理チャンバ(処理容器本体)
13 蓋部材(蓋部)
14 支持部(移動部)
15 支持トレイ(基板保持部)
16 ロック機構
30 移載ユニット(搬送装置)
40 ファンフィルタユニット(送気装置)
53 進退機構(移動部)
57 流体供給部
121 開口
161 アーム部材(アーム部)
161a,161b アーム
162 係止部材(係止部)
GS 間隙空間
S 基板
SP 処理空間(内部空間)