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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/18 20060101AFI20231220BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20231220BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F01N3/18 G
F01N3/08 A ZAB
F01N3/24 E
F01N3/24 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020022992
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127728
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康吉
(72)【発明者】
【氏名】丹 功
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-117231(JP,A)
【文献】特開2006-291773(JP,A)
【文献】特開2010-014000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/18
F01N 3/08
F01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管内に設けられる第1触媒と、
前記排気管における前記第1触媒の上流側から分岐され、前記排気管における前記第1触媒の上流側に再接続されるバイパス管と、
前記バイパス管に設けられる第2触媒と、
前記排気管の前記第1触媒の上流側における排気ガスの通過経路を、前記バイパス管を通過しない第1経路と前記バイパス管を通過する第2経路とに切り換える切換弁と、
前記排気管における前記第1触媒の上流側かつ前記バイパス管が再接続される箇所の下流側に配置される上流側空燃比センサと、
前記排気管における前記第1触媒の下流側に配置される下流側空燃比センサと、
前記上流側空燃比センサの検出値に基づき導出される上流側空燃比および前記下流側空燃比センサの検出値に基づき導出される下流側空燃比に基づいて、前記第1触媒の劣化度を導出する劣化度導出部と、
前記劣化度に基づき、前記切換弁を制御する切換制御部と、
を備え
前記劣化度導出部は、前記排気ガスの通過経路が前記第1経路であり、かつ、前記上流側空燃比が理論空燃比ではない場合に、前記劣化度を、前記上流側空燃比と前記下流側空燃比との差分が小さくなるほど大きくなる値として導出する排気ガス浄化装置。
【請求項2】
排気管内に設けられる第1触媒と、
前記排気管における前記第1触媒の上流側から分岐され、前記排気管における前記第1触媒の上流側に再接続されるバイパス管と、
前記バイパス管に設けられる第2触媒と、
前記排気管の前記第1触媒の上流側における排気ガスの通過経路を、前記バイパス管を通過しない第1経路と前記バイパス管を通過する第2経路とに切り換える切換弁と、
前記排気管における前記第1触媒の下流側に配置される下流側空燃比センサと、
前記下流側空燃比センサの検出値に基づき導出される下流側空燃比に基づいて、前記第1触媒の劣化度を導出する劣化度導出部と、
前記劣化度に基づき、前記切換弁を制御する切換制御部と、
前記劣化度を記憶するメモリと、
前記排気ガスの温度を検出する温度センサと、
を備え
前記切換制御部は、
前記メモリに記憶された劣化度が劣化閾値未満である場合には、前記温度センサの検出値にかかわらず前記排気ガスの通過経路が前記第1経路となるように前記切換弁を制御し、
前記メモリに記憶された劣化度が前記劣化閾値以上であり、かつ、前記温度センサの検出値が温度閾値未満である場合には、前記排気ガスの通過経路が前記第2経路となるように前記切換弁を制御し、
前記メモリに記憶された劣化度が前記劣化閾値以上であり、かつ、前記温度センサの検出値が前記温度閾値以上である場合には、前記排気ガスの通過経路が前記第1経路となるように前記切換弁を制御する排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記劣化度を記憶するメモリと、
前記排気ガスの温度を検出する温度センサと、
をさらに備え、
前記切換制御部は、
前記メモリに記憶された劣化度が劣化閾値未満である場合には、前記温度センサの検出値にかかわらず前記排気ガスの通過経路が前記第1経路となるように前記切換弁を制御し、
前記メモリに記憶された劣化度が前記劣化閾値以上であり、かつ、前記温度センサの検出値が温度閾値未満である場合には、前記排気ガスの通過経路が前記第2経路となるように前記切換弁を制御し、
前記メモリに記憶された劣化度が前記劣化閾値以上であり、かつ、前記温度センサの検出値が前記温度閾値以上である場合には、前記排気ガスの通過経路が前記第1経路となるように前記切換弁を制御する請求項1に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記温度閾値は、所定の切換温度を上限として、前記メモリに記憶された前記劣化度が大きくなるにしたがって高くなるよう設定される請求項2または3に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記切換温度は、劣化した前記第1触媒であっても、目標値まで炭化水素を除去できる前記第1触媒の温度の下限値である請求項4に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項6】
前記第2触媒は、OSC材を含まない請求項1から5のいずれか1項に記載の排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元触媒を備える排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および、窒素酸化物(NOx)を除去するために、車両の排気管には三元触媒が設けられている(例えば、特許文献1)。三元触媒は、炭化水素を酸化して水および二酸化炭素(CO)とし、一酸化炭素を酸化して二酸化炭素とし、窒素酸化物を還元して窒素(N)とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-253447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンを始動する際、エンジンの暖機を早期に行うため、空燃比をリッチにする。このため、エンジンの始動時において、排気ガスには炭化水素が相対的に多く含まれることになる。
【0005】
一方、エンジンを始動する際、排気ガスの温度は相対的に低温であるため、三元触媒による炭化水素の除去能力は、通常運転時よりも低い。また、三元触媒は、劣化すると炭化水素の除去能力が低下する。このため、三元触媒が劣化しても、エンジンを始動する際に炭化水素を除去できるように、三元触媒における貴金属の含有量を多くしている。したがって、三元触媒のコストが高くなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、炭化水素の除去率を低コストで向上させることが可能な排気ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の排気ガス浄化装置は、排気管内に設けられる第1触媒と、排気管における第1触媒の上流側から分岐され、排気管における第1触媒の上流側に再接続されるバイパス管と、バイパス管に設けられる第2触媒と、排気管の第1触媒の上流側における排気ガスの通過経路を、バイパス管を通過しない第1経路とバイパス管を通過する第2経路とに切り換える切換弁と、排気管における第1触媒の上流側かつバイパス管が再接続される箇所の下流側に配置される上流側空燃比センサと、排気管における第1触媒の下流側に配置される下流側空燃比センサと、上流側空燃比センサの検出値に基づき導出される上流側空燃比および下流側空燃比センサの検出値に基づき導出される下流側空燃比に基づいて、第1触媒の劣化度を導出する劣化度導出部と、劣化度に基づき、切換弁を制御する切換制御部と、を備え、劣化度導出部は、排気ガスの通過経路が第1経路であり、かつ、上流側空燃比が理論空燃比ではない場合に、劣化度を、上流側空燃比と下流側空燃比との差分が小さくなるほど大きくなる値として導出する。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の他の排気ガス浄化装置は、排気管内に設けられる第1触媒と、排気管における第1触媒の上流側から分岐され、排気管における第1触媒の上流側に再接続されるバイパス管と、バイパス管に設けられる第2触媒と、排気管の第1触媒の上流側における排気ガスの通過経路を、バイパス管を通過しない第1経路とバイパス管を通過する第2経路とに切り換える切換弁と、排気管における第1触媒の下流側に配置される下流側空燃比センサと、下流側空燃比センサの検出値に基づき導出される下流側空燃比に基づいて、第1触媒の劣化度を導出する劣化度導出部と、劣化度に基づき、切換弁を制御する切換制御部と、劣化度を記憶するメモリと、排気ガスの温度を検出する温度センサと、を備え、切換制御部は、メモリに記憶された劣化度が劣化閾値未満である場合には、温度センサの検出値にかかわらず排気ガスの通過経路が第1経路となるように切換弁を制御し、メモリに記憶された劣化度が劣化閾値以上であり、かつ、温度センサの検出値が温度閾値未満である場合には、排気ガスの通過経路が第2経路となるように切換弁を制御し、メモリに記憶された劣化度が劣化閾値以上であり、かつ、温度センサの検出値が温度閾値以上である場合には、排気ガスの通過経路が第1経路となるように切換弁を制御する
【0009】
また、劣化度を記憶するメモリと、排気ガスの温度を検出する温度センサと、をさらに備え、切換制御部は、メモリに記憶された劣化度が劣化閾値未満である場合には、温度センサの検出値にかかわらず排気ガスの通過経路が第1経路となるように切換弁を制御し、メモリに記憶された劣化度が劣化閾値以上であり、かつ、温度センサの検出値が温度閾値未満である場合には、排気ガスの通過経路が第2経路となるように切換弁を制御し、メモリに記憶された劣化度が劣化閾値以上であり、かつ、温度センサの検出値が温度閾値以上である場合には、排気ガスの通過経路が第1経路となるように切換弁を制御してもよい。
【0010】
また、温度閾値は、所定の切換温度を上限として、メモリに記憶された劣化度が大きくなるにしたがってくなるよう設定されてもよい。
また、切換温度は、劣化した第1触媒であっても、目標値まで炭化水素を除去できる第1触媒の温度の下限値であってもよい。
【0011】
また、第2触媒は、OSC材を含まないとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炭化水素の除去率を低コストで向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態にかかるエンジンシステムを説明する図である。
図2】実施形態にかかる排気ガス浄化装置の構成を説明する図である。
図3】切換マップを説明する図である。
図4】排気ガス浄化方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[エンジンシステム100]
図1は、本実施形態にかかるエンジンシステム100を説明する図である。なお、図1中、破線の矢印は、信号の流れを示す。
【0016】
図1に示すように、車両に搭載されるエンジンシステム100には、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータでなるECU(Engine Control Unit)10が設けられる。ECU10によりエンジンE全体が統括制御される。ただし、以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0017】
エンジンシステム100を構成するエンジンEは、シリンダブロック102と、クランクケース104と、シリンダヘッド106と、オイルパン110とを含む。クランクケース104は、シリンダブロック102と一体形成されている。シリンダヘッド106は、シリンダブロック102におけるクランクケース104とは反対側に接合される。オイルパン110は、クランクケース104におけるシリンダブロック102とは反対側に接合される。
【0018】
シリンダブロック102には、複数のシリンダボア112が形成されている。複数のシリンダボア112において、それぞれピストン114が摺動可能にコネクティングロッド116に支持されている。そして、エンジンEでは、シリンダボア112と、シリンダヘッド106と、ピストン114の冠面とによって囲まれた空間が燃焼室118として形成される。
【0019】
また、エンジンEでは、クランクケース104およびオイルパン110に囲まれた空間がクランク室120として形成される。クランク室120内には、クランクシャフト122が回転可能に支持されており、ピストン114がコネクティングロッド116を介してクランクシャフト122に連結される。
【0020】
シリンダヘッド106には、吸気ポート124および排気ポート126が燃焼室118に連通するように設けられる。吸気ポート124と燃焼室118との間には、吸気弁128の先端(傘部)が位置し、排気ポート126と燃焼室118との間には、排気弁130の先端(傘部)が位置している。
【0021】
また、シリンダヘッド106および不図示のヘッドカバーに囲まれた空間には、吸気用カム134a、ロッカーアーム134b、排気用カム136a、および、ロッカーアーム136bが設けられる。吸気弁128には、ロッカーアーム134bを介して、吸気用カムシャフトに固定された吸気用カム134aが当接されている。吸気弁128は、吸気用カムシャフトの回転に伴って、軸方向に移動し、吸気ポート124と燃焼室118との間を開閉する。排気弁130には、ロッカーアーム136bを介して、排気用カムシャフトに固定された排気用カム136aが当接されている。排気弁130は、排気用カムシャフトの回転に伴って、軸方向に移動し、排気ポート126と燃焼室118との間を開閉する。
【0022】
吸気ポート124の上流側には、吸気マニホールドを含む吸気管140が連通される。吸気管140内には、スロットル弁142、および、スロットル弁142より上流側にエアクリーナ144が設けられる。スロットル弁142は、アクセル(図示せず)の開度に応じてアクチュエータにより開閉駆動される。エアクリーナ144にて浄化された空気は、吸気管140、吸気ポート124を通じて燃焼室118に吸入される。
【0023】
シリンダヘッド106には、燃料噴射口が燃焼室118に開口するようにインジェクタ150(燃料噴射部)が設けられるとともに、先端が燃焼室118内に位置するように点火プラグ152が設けられる。インジェクタ150から燃焼室118に噴射された燃料は、吸気ポート124から燃焼室118に供給された空気と混ざり混合気となる。そして、所定のタイミングで点火プラグ152が点火され、燃焼室118内で生成された混合気が燃焼される。かかる燃焼により、ピストン114が往復運動を行い、その往復運動が、コネクティングロッド116を通じてクランクシャフト122の回転運動に変換される。
【0024】
排気ポート126の下流側には、排気マニホールドを含む排気管160が連通される。排気管160内には、排気ガス浄化装置200が設けられる。排気ガス浄化装置200は、排気ポート126から排出された排気ガスを浄化する。排気ガス浄化装置200の具体的な構成については、後に詳述する。排気ガス浄化装置200によって浄化された排気ガスは、マフラ164を通じて外部に排気される。
【0025】
また、エンジンシステム100には、吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、アクセル開度センサ186が設けられる。
【0026】
吸入空気量センサ180は、エンジンEに流入する吸入空気量を検出する。スロットル開度センサ182は、スロットル弁142の開度を検出する。クランク角センサ184は、クランクシャフト122のクランク角を検出する。アクセル開度センサ186は、アクセル(図示せず)の開度を検出する。
【0027】
吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、および、アクセル開度センサ186は、ECU10に接続されており、検出値を示す信号をECU10に出力する。
【0028】
ECU10は、吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、アクセル開度センサ186、および、後述する空燃比センサ260、下流側空燃比センサ262、温度センサ264から出力された信号を取得してエンジンEを制御する。ECU10は、エンジンEを制御する際、信号取得部12、駆動制御部14として機能する。
【0029】
信号取得部12は、吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、および、アクセル開度センサ186が検出した値を示す信号を取得する。また、信号取得部12は、クランク角センサ184から取得したクランク角を示す信号に基づいてエンジンEの回転数(クランクシャフトの回転数)を導出する。また、信号取得部12は、吸入空気量センサ180から取得した吸入空気量を示す信号に基づいてエンジンEの負荷(エンジン負荷)を導出する。かかる吸入空気量からエンジン負荷を求める技術は、既存の様々な技術を利用可能なので、ここではその説明を省略する。
【0030】
駆動制御部14は、信号取得部12が取得した信号に基づいて、スロットル弁用アクチュエータ(図示せず)、インジェクタ150、点火プラグ152を制御する。
【0031】
また、ECU10は、排気ガス浄化装置200として機能する際、信号取得部12、劣化度導出部270、切換制御部272として機能する(図2参照)。劣化度導出部270および切換制御部272については後に詳述する。
【0032】
[排気ガス浄化装置200]
図2は、本実施形態にかかる排気ガス浄化装置200の構成を説明する図である。なお、図2中、破線の矢印は、信号の流れを示す。
【0033】
図2に示すように、排気ガス浄化装置200は、前段触媒210と、後段触媒220と、バイパス管230と、補助触媒240と、切換弁250と、空燃比センサ260と、下流側空燃比センサ262と、温度センサ264と、信号取得部12と、劣化度導出部270と、切換制御部272とを含む。
【0034】
前段触媒210(第1触媒)は、排気管160に設けられる。後段触媒220は、排気管160における前段触媒210の下流側に設けられる。換言すれば、後段触媒220は、排気管160における前段触媒210とマフラ164との間に設けられる。
【0035】
前段触媒210、および、後段触媒220は、三元触媒(Three-Way Catalyst)である。前段触媒210、および、後段触媒220は、排気ガスに含まれる炭化水素、一酸化炭素、および、窒素酸化物を浄化(除去)する。前段触媒210、および、後段触媒220は、貴金属材、OSC材、および、アルミナ(Al)を含む。貴金属材は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、および、ロジウム(Rh)のうちのいずれか1または複数を含む。OSC材は、セリア(酸化セリウム(IV)、CeO)-ジルコニア(二酸化ジルコニウム、ZrO)複合体を含む。セリアは、酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する。後段触媒220は、前段触媒210よりも貴金属材の量が少ない。
【0036】
バイパス管230は、排気管160における前段触媒210の上流側から分岐され、排気管160における前段触媒210の上流側に再接続される。なお、バイパス管230の分岐箇所は、再接続箇所の上流側に位置する。
【0037】
補助触媒240(第2触媒)は、バイパス管230に設けられる。補助触媒240は、パラジウムおよびアルミナを含む。本実施形態において、補助触媒240は、OSC材を含まない。
【0038】
切換弁250は、排気管160とバイパス管230との分岐箇所に設けられる。切換弁250は、排気ガスの通過経路(流路)を排気管160とバイパス管230とに切り換える。
【0039】
空燃比センサ260は、エンジンEから排気された排気ガスの空燃比を検出する。本実施形態において、空燃比センサ260は、排気管160におけるバイパス管230の再接続箇所と前段触媒210との間を通過する排気ガスの空燃比を検出する。
【0040】
下流側空燃比センサ262は、前段触媒210を通過した排気ガスの酸素濃度を検出する。本実施形態において、下流側空燃比センサ262は、排気管160における前段触媒210と後段触媒220との間を通過する排気ガスの酸素濃度を検出する。
【0041】
温度センサ264は、前段触媒210の温度を検出する。前段触媒210から排気される排気ガスの温度は、前段触媒210の温度と実質的に等しい。このため、本実施形態において、温度センサ264は、排気管160における前段触媒210と後段触媒220との間を通過する排気ガスの温度を測定し、前段触媒210の温度とみなす。
【0042】
信号取得部12は、空燃比センサ260、下流側空燃比センサ262、温度センサ264が検出した値を示す信号を取得する。
【0043】
劣化度導出部270は、空燃比センサ260の検出値および下流側空燃比センサ262の検出値に基づいて、前段触媒210の劣化度を導出する。上記したように、前段触媒210には、OSC材が含まれる。したがって、前段触媒210が劣化していない場合、前段触媒210を通過する過程で排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
【0044】
このため、例えば、劣化度導出部270は、空燃比センサ260によって検出された空燃比と、下流側空燃比センサ262の検出値から導出された空燃比との差分(以下、「空燃比差分」と称する)を導出する。そして、劣化度導出部270は、空燃比差分に基づいて、前段触媒210の劣化度を導出する。また、前段触媒210の劣化度が大きいほど、空燃比差分は小さくなる。また、劣化度導出部270は、空燃比センサ260によって検出される空燃比が、理論空燃比ではないときに、空燃比差分を導出する。導出された前段触媒210の劣化度は、不図示のメモリに記憶される。
【0045】
そして、切換制御部272は、前段触媒210の劣化度に基づき、排気ガスの通過経路をバイパス管230(補助触媒240)に切り換える。本実施形態において、切換制御部272は、劣化度に基づき、切換弁250を制御する。
【0046】
切換制御部272は、メモリに記憶された切換マップを参照して、切換弁250を制御する。切換マップは、劣化閾値と、劣化度と、温度閾値とが関連付けられた情報である。
【0047】
図3は、切換マップを説明する図である。図3に示すように、前段触媒210の劣化度が劣化閾値Td未満である場合、温度閾値Ttは0℃に設定される。なお、劣化閾値Tdは、エンジンの始動時であっても目標値まで炭化水素を除去できる前段触媒210の劣化度の上限値に設定される。
【0048】
一方、前段触媒210の劣化度が劣化閾値Td以上であると、劣化度が大きくなるにしたがって、温度閾値Ttが高く設定される。そして、温度閾値Ttが所定の切換温度に到達すると、前段触媒210の劣化度に拘わらず、温度閾値Ttは、切換温度に維持される。なお、切換温度は、劣化した前段触媒210であっても、目標値まで炭化水素を除去できる前段触媒210の温度(排気ガスの温度)の下限値(例えば、400℃以上450℃以下の所定の値)である。
【0049】
そして、切換制御部272は、前段触媒210の劣化度が劣化閾値Td以上である場合、温度センサ264の検出値が温度閾値Ttに到達するまで(温度閾値Tt未満である場合)、切換弁250を制御し、排気ガスの通過経路をバイパス管230に切り換える。
【0050】
一方、切換制御部272は、前段触媒210の劣化度が劣化閾値Td以上であり、温度センサ264の検出値が温度閾値Ttに到達すると(温度閾値Tt以上である場合)、切換弁250を制御し、排気ガスの通過経路を排気管160に切り換える。つまり、切換制御部272は、バイパス管230への排気ガスの導入を停止させる。
【0051】
なお、上記したように、前段触媒210の劣化度が劣化閾値Td未満である場合、温度閾値Ttは、0℃に設定されている。したがって、前段触媒210の劣化度が劣化閾値Td未満である場合、切換制御部272は、温度センサ264の検出値に拘わらず、排気ガスの通過経路を排気管160とする。
【0052】
[排気ガス浄化方法]
続いて、排気ガス浄化装置200を用いた排気ガス浄化方法について説明する。図4は、排気ガス浄化方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
図4に示すように、排気ガス浄化方法は、劣化度判定処理S110、第1温度判定処理S120、バイパス管切換処理S130、第2温度判定処理S140、排気管切換処理S150、条件成立判定処理S160、導出判定処理S170、劣化度導出処理S180、劣化度記憶処理S190を含む。なお、排気ガス浄化方法は、ユーザによるエンジンの始動入力を受け付けた場合に開始される。以下、各処理について説明する。
【0054】
[劣化度判定処理S110]
切換制御部272は、前回の運転サイクルでメモリに記憶された劣化度が、劣化閾値Td以上であるか否かを判定する。運転サイクルは、エンジンEを始動してから停止するまでの期間である。その結果、劣化度が劣化閾値Td以上であると判定した場合(S110におけるYES)、切換制御部272は、第1温度判定処理S120に処理を移す。一方、劣化度が劣化閾値Td以上ではない、つまり、劣化閾値Td未満であると判定した場合(S110におけるNO)、切換制御部272は、排気管切換処理S150に処理を移す。
【0055】
[第1温度判定処理S120]
切換制御部272は、前段触媒210の温度Tcat(温度センサ264によって検出された排気ガスの温度)が、温度閾値Tt以下であるか否かを判定する。その結果、温度Tcatが温度閾値Tt以下であると判定した場合(S120におけるYES)、切換制御部272は、バイパス管切換処理S130に処理を移す。一方、温度Tcatが温度閾値Tt以下ではない、つまり、温度閾値Ttを上回ると判定した場合(S120におけるNO)、切換制御部272は、排気管切換処理S150に処理を移す。
【0056】
切換制御部272は、第1温度判定処理S120を実行することにより、前回の運転サイクルから今回の運転サイクルまでの時間が短く、エンジンEが既に暖機されている場合に、補助触媒240に排気ガスが導入されてしまう事態を回避することができる。
【0057】
[バイパス管切換処理S130]
切換制御部272は、切換弁250を制御して、排気ガスの通過経路をバイパス管230(補助触媒240)に切り換える。
【0058】
[第2温度判定処理S140]
切換制御部272は、前段触媒210の温度Tcatが、温度閾値Ttを上回るか否かを判定する。そして、温度Tcatが温度閾値Ttを上回るまで(S140におけるNO)待機し、温度Tcatが温度閾値Ttを上回ったら(S140におけるYES)、切換制御部272は、排気管切換処理S150に処理を移す。
【0059】
[排気管切換処理S150]
切換制御部272は、切換弁250を制御して、排気ガスの通過経路を排気管160に切り換える。
【0060】
[条件成立判定処理S160]
切換制御部272は、前段触媒210の劣化度の導出条件が成立したか否かを判定する。導出条件は、例えば、通常運転時における理論空燃比ではないときである。そして、導出条件が成立するまで(S160におけるNO)待機し、導出条件が成立したら(S160におけるYES)、切換制御部272は、導出判定処理S170に処理を移す。
【0061】
[導出判定処理S170]
切換制御部272は、今回の運転サイクルで劣化度を導出済みであるか否かを判定する。その結果、導出済みではないと判定した場合(S170におけるNO)、切換制御部272は、劣化度導出処理S180に処理を移す。一方、導出済みであると判定した場合(S170におけるYES)、切換制御部272は、当該排気ガス浄化方法を終了する。
【0062】
[劣化度導出処理S180]
劣化度導出部270は、空燃比センサ260の検出値および下流側空燃比センサ262の検出値から空燃比差分を導出し、空燃比差分に基づいて前段触媒210の劣化度を導出する。
【0063】
[劣化度記憶処理S190]
劣化度導出部270は、劣化度導出処理S180において導出した劣化度をメモリに上書きして、当該排気ガス浄化方法を終了する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の排気ガス浄化装置200は、前段触媒210が劣化するまで、前段触媒210および後段触媒220によって排気ガスを浄化する。そして、前段触媒210が劣化したら、排気ガス浄化装置200は、エンジンの始動時において、前段触媒210、後段触媒220に加えて、補助触媒240によって排気ガスを浄化する。これにより、排気ガス浄化装置200は、前段触媒210の貴金属材の量を増加させることなく、エンジンの始動時に炭化水素の除去率を向上させることができる。したがって、排気ガス浄化装置200は、炭化水素の除去率を低コストで向上させることが可能となる。
【0065】
また、補助触媒240は、エンジンの始動時に排気ガスに含まれる炭化水素を除去するために設けられる。したがって、補助触媒240は、触媒雰囲気を理論空燃比とする必要がない。このため、上記したように、補助触媒240は、OSC材を含まない。これにより、補助触媒240を低コストで製造することが可能となる。
【0066】
また、補助触媒240は、炭化水素の除去性能が高いパラジウムを含む。したがって、補助触媒240は、排気ガスに含まれる炭化水素を効率よく除去することが可能となる。
【0067】
また、上記したように、温度閾値Ttを超えたときには、前段触媒210の温度が活性温度に到達しているため、前段触媒210は、劣化していても排気ガスを浄化できる。したがって、切換制御部272が、温度閾値Ttを超えた場合に、補助触媒240への排気ガスの導入を停止させることにより、補助触媒240の劣化を防止しつつ、炭化水素の漏出を防止することが可能となる。
【0068】
また、上記したように、バイパス管230は、前段触媒210の上流側に設けられる。つまり、補助触媒240は、前段触媒210の上流側に設けられる。これにより、排気ガス浄化装置200は、エンジンの始動時に補助触媒240を早期に暖機することができる。したがって、補助触媒240は、エンジンの始動時に、直ちに炭化水素を除去することが可能となる。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0070】
なお、上記実施形態において、切換制御部272は、前段触媒210の温度が温度閾値Tt以上である場合、バイパス管230(補助触媒240)への排気ガスの導入を停止させる場合を例に挙げた。しかし、切換制御部272は、前段触媒210の温度が温度閾値Tt以上である場合、前段触媒210および補助触媒240に排気ガスを通過させてもよい。
【0071】
また、上記実施形態において、温度閾値Ttは、前段触媒210の劣化度が大きくなるほど高く設定される場合を例に挙げた。しかし、温度閾値Ttは、一定の値であってもよい。例えば、温度閾値Ttは、切換温度に設定されてもよい。
【0072】
また、上記実施形態において、OSC材が、セリア-ジルコニア複合体を含む場合を例に挙げた。しかし、OSC材は、少なくともセリアを含んでいればよい。
【0073】
また、上記実施形態において、補助触媒240が、OSC材を含まない場合を例に挙げた。しかし、補助触媒240は、前段触媒210よりもOSC材が少なければよい。この場合、補助触媒240を低コストで製造することができる。また、補助触媒240は、OSC材を含んでいてもよい。
【0074】
また、上記実施形態において、補助触媒240が、パラジウムを含む場合を例に挙げた。しかし、補助触媒240は、パラジウムに代えて、または、パラジウムに加えて、ロジウムおよび白金のうちのいずれか一方または両方を含んでもよい。
【0075】
また、上記実施形態において、劣化度導出部270が、空燃比差分に基づいて前段触媒210の劣化度を導出する場合を例に挙げた。しかし、劣化度導出部270による前段触媒210の劣化度の導出方法に限定はない。例えば、劣化度導出部270は、下流側空燃比センサ262によって検出された酸素濃度に基づいて導出される空燃比が、理論空燃比に維持されている時間に基づいて、前段触媒210の劣化度を導出してもよい。この場合、前段触媒210の劣化度が大きいほど、理論空燃比に維持されている時間は短くなる。
【0076】
また、上記実施形態において、排気ガス浄化装置200が、空燃比センサ260および下流側空燃比センサ262を備える場合を例に挙げた。しかし、排気ガス浄化装置200は、前段触媒210の上流側の酸素濃度(空燃比)と、前段触媒210の下流側の酸素濃度(空燃比)とを測定できれば構成に限定はない。例えば、排気ガス浄化装置200は、空燃比センサ260に代えて酸素センサを備えてもよい。また、排気ガス浄化装置200は、下流側空燃比センサ262に代えて酸素センサを備えてもよい。また、排気ガス浄化装置200は、空燃比センサ260、下流側空燃比センサ262に代えて、NOxセンサを備えてもよい。
【0077】
また、上記実施形態において、温度センサ264が、排気管160における前段触媒210と後段触媒220との間を通過する排気ガスの温度を測定する場合を例に挙げた。しかし、温度センサ264は、前段触媒210の温度を取得できればよい。例えば、温度センサ264は、前段触媒210の温度を測定してもよい。また、温度センサ264は、前段触媒210の上流側を通過する排気ガスの温度を測定してもよい。
【0078】
また、上記実施形態において、排気ガス浄化装置200が温度センサ264を備える場合を例に挙げた。しかし、温度センサ264は必須の構成ではない。例えば、排気ガス浄化装置200は、エンジンEの燃焼状態から排気ガスの温度を推定し、これにより、前段触媒210の温度を推定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、三元触媒を備える排気ガス浄化装置に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
200 排気ガス浄化装置
210 前段触媒(第1触媒)
230 バイパス管
240 補助触媒(第2触媒)
272 切換制御部
図1
図2
図3
図4