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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】臓器収容容器
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/00 20160101AFI20231220BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61B90/00
A01N1/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020023246
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021126384
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】虎井 真司
(72)【発明者】
【氏名】小林 英司
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107969419(CN,A)
【文献】特開2006-141536(JP,A)
【文献】特開2019-94315(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105852982(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00 ― 1/02
A61B 46/20 ― 46/27
A61B 90/00 ― 90/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器を収容する、側部にマチを有する臓器収容容器であって、
臓器が通過可能な開口部と、
前記開口部を介して挿入された臓器を保持する袋状の断熱シートと、
を備え、
前記断熱シートは、内面に凹凸形状を有し、
前記凹凸形状は、前記断熱シートの前記マチを形成する面を除く一対の側面部の内面に設けられている、臓器収容容器。
【請求項2】
請求項1に記載の臓器収容容器であって、
前記断熱シートの材料は、医療用のシリコンゴムである、臓器収容容器。
【請求項3】
請求項2に記載の臓器収容容器であって、
前記断熱シートの材料は、熱可塑性のシリコンゴムである、臓器収容容器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の臓器収容容器であって、
前記断熱シートの厚みは、1mm以上である、臓器収容容器。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の臓器収容容器であって、
前記断熱シートの硬度は、日本工業規格JIS K 6253-3:2012のデュロメータ硬さ試験方法においてA40~A50である、臓器収容容器。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の臓器収容容器であって、
前記断熱シートの耐熱温度は、190℃以上である、臓器収容容器。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の臓器収容容器であって、
前記凹凸形状は、
袋状の前記断熱シートの内側の空間へ向かって突出し、かつ、前記開口部の縁と平行な線状の突起
を複数含む、臓器収容容器。
【請求項8】
請求項7に記載の臓器収容容器であって、
前記線状の突起の断面は四角形状である、臓器収容容器。
【請求項9】
請求項7に記載の臓器収容容器であって、
前記線状の突起の断面は半円形状である、臓器収容容器。
【請求項10】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の臓器収容容器であって、
前記凹凸形状は、
袋状の前記断熱シートの内側の空間へ向かって突出し、かつ、前記断熱シートの内面に垂直な方向から見て多角形または円形の突起
を複数含む、臓器収容容器。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の臓器収容容器であって、
前記開口部の縁に沿って設けられた複数の挿通孔と、
前記複数の挿通孔に挿通され、前記開口部を少なくとも部分的に収縮させる操作紐と、
をさらに備える、臓器収容容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器を収容する臓器収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器の移植手術では、ドナーから摘出された臓器を、冷却した状態で保存する。これは、常温のまま血流が途絶える、いわゆる温虚血状態になると、臓器内の代謝によって、臓器の劣化が生じやすくなるためである。具体的には、摘出された臓器に対して低温の保存液を注入する、あるいは、臓器の周囲にアイス・スラッシュを投入した生理食塩水を直接ふりかける等の処置により、臓器の温度を低温に維持する。これにより、臓器の代謝を抑制する。
【0003】
しかしながら、レシピエントへの臓器の移植時には、レシピエントの体腔内に臓器を配置して、血管吻合等の処置を行う。このとき、臓器の冷却を継続できないので、レシピエントの体温や外気温によって臓器の温度が上昇し、臓器が徐々に温虚血状態となる。このため、移植手術の執刀者は、可能な限り短時間で血管吻合等の処置を行うか、あるいは、腹腔内に氷等を入れることにより、移植される臓器を低温状態に維持しなければならなかった。後者の場合、臓器だけでなく、執刀者の手先も同時に冷却されることとなり、精密さを求められる血管吻合において不利となる。
【0004】
そこで、本願の発明者は、特許文献1において、レシピエントへの臓器の移植時に、レシピエントと臓器との間に、断熱機能をもつシートを挿入することで、臓器の昇温を抑える技術を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-000309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、レシピエントへの臓器の移植時におけるシートの使用形態として、臓器にシートを載置し、または臓器をシートで包むのみであった。このため、シートから臓器が滑り落ちたり外れたりして、臓器が露出してしまう虞があった。この場合、臓器が昇温してしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、レシピエントへの臓器の移植時に、臓器を断熱シートに収容しつつ、臓器が滑り落ちたり外れたりすることを抑制できる臓器収容容器、および当該臓器収容容器を用いた臓器の移植方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の第1発明は、臓器を収容する、側部にマチを有する臓器収容容器であって、臓器が通過可能な開口部と、前記開口部を介して挿入された臓器を保持する袋状の断熱シートと、を備え、前記断熱シートは、内面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状は、前記断熱シートの前記マチを形成する面を除く一対の側面部の内面に設けられている
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の臓器収容容器であって、前記断熱シートの材料は、医療用のシリコンゴムである。
【0010】
本願の第3発明は、第2発明の臓器収容容器であって、前記断熱シートの材料は、熱可塑性のシリコンゴムである。
【0011】
本願の第4発明は、第2発明または第3発明の臓器収容容器であって、前記断熱シートの厚みは、1mm以上である。
【0012】
本願の第5発明は、第1発明から第4発明までのいずれか1発明の臓器収容容器であって、前記断熱シートの硬度は、日本工業規格JIS K 6253-3:2012のデュロメータ硬さ試験方法においてA40~A50である。
【0013】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の臓器収容容器であって、前記断熱シートの耐熱温度は、190℃以上である。
【0014】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の臓器収容容器であって、前記凹凸形状は、袋状の前記断熱シートの内側の空間へ向かって突出し、かつ、前記開口部の縁と平行な線状の突起を複数含む。
【0015】
本願の第8発明は、第7発明の臓器収容容器であって、前記線状の突起の断面は四角形状である。
【0016】
本願の第9発明は、第7発明の臓器収容容器であって、前記線状の突起の断面は半円形状である。
【0017】
本願の第10発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の臓器収容容器であって、前記凹凸形状は、袋状の前記断熱シートの内側の空間へ向かって突出し、かつ、前記断熱シートの内面に垂直な方向から見て多角形または円形の突起を複数含む。
【0018】
本願の第11発明は、第1発明から第10発明までのいずれか1発明の臓器収容容器であって、前記開口部の縁に沿って設けられた複数の挿通孔と、前記複数の挿通孔に挿通され、前記開口部を少なくとも部分的に収縮させる操作紐と、をさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1発明~第11発明によれば、レシピエントへの臓器の移植時に、臓器を臓器収容容器の袋状の断熱シート内に収容し、かつ、断熱シートの内面に有る凹凸形状によって、臓器が断熱シートから滑り落ちたり外れたりすることを抑制できる。これにより、レシピエントの体温や外気温によって臓器の温度が上昇することを抑制しつつ、血管の吻合を行うことができる。その結果、臓器が温虚血状態となることを抑制し、手術後における障害の発生を抑制できる。また、断熱シートの内面に有る凹凸形状によって、断熱シートの内面と臓器との隙間に、冷却用の保存液を保持できる。これにより、臓器の温度が上昇することをより抑制できる。
【0020】
特に、本願の第4発明によれば、断熱シートの断熱性能が、より高まる。これにより、断熱シート内に臓器を収容した際に、断熱シート内の臓器に、断熱シートの外部の温度(レシピエントの体温や外気温)が伝わるのをより抑制できる。これにより、断熱シート内の臓器をより低温に維持することができる。
【0021】
特に、本願の第6発明によれば、レシピエントの体温や外気温が高温になった場合でも、断熱シートの断熱性能を維持しつつ、臓器を安定して保持することができる。
【0022】
特に、本願の第7発明~第10発明によれば、臓器を傷つけることを抑制しつつ、断熱シート内に臓器を安定して保持することができる。また、臓器に凹凸形状の跡が残ることを抑制できる。
【0023】
特に、本願の第11発明によれば、開口部を収縮させることにより、臓器が断熱シートから滑り落ちたり外れたりすることをさらに抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る臓器収容容器および臓器の外観図である。
図2】第1実施形態に係る臓器収容容器の斜視図である。
図3】第1実施形態に係る臓器収容容器の上面図である。
図4】第1実施形態に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図5】第1実施形態に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図6】変形例に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図7】臓器収容容器を用いた移植手術の流れを示したフローチャートである。
図8】第2実施形態に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図9】変形例に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図10】変形例に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図11】変形例に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図12】変形例に係る臓器収容容器の縦断面図である。
図13】第3実施形態に係る臓器収容容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
本願において「ドナー」および「レシピエント」は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。すなわち、本願において、「臓器」は、ヒトの臓器であってもよいし、非ヒト動物の臓器であってもよい。また、非ヒト動物は、マウスおよびラットを含む齧歯類、ブタ、ヤギおよびヒツジを含む有蹄類、チンパンジーを含む非ヒト霊長類、その他の非ヒトほ乳動物であってもよいし、ほ乳動物以外の動物であってもよい。
【0027】
<1.第1実施形態>
<1-1.臓器収容容器について>
図1は、第1実施形態に係る臓器収容容器1と、臓器収容容器1に収容された臓器9を側方から見た外観図である。この臓器収容容器1は、ドナーから摘出された臓器9をレシピエントへ移植する移植手術において、臓器を一時的に収容するための容器である。すなわち、臓器収容容器1は、臓器9の移植手術に使用されることを目的とした医療器具である。
【0028】
臓器収容容器1に収容される臓器9としては、例えば、腎臓、心臓、肺を挙げることができる。これらの臓器9は、移植手術において吻合すべき血管91,92が、臓器9の片側に集中している。本実施形態の臓器収容容器1の構造は、これらの臓器9に対して特に好適である。しかしながら、本発明の臓器収容容器1は、肝臓等の他の臓器を収容するものであってもよい。
【0029】
図2は、臓器収容容器1の斜視図である。図3は、臓器収容容器1の上面図である。図4は、図3のI-I位置から見たときの臓器収容容器1の縦断面図である。図5は、図3のII-II位置から見たときの臓器収容容器1の縦断面図である。図1図5に示すように、本実施形態の臓器収容容器1は、臓器9を保持する1枚のシームレスな袋状の断熱シート10により構成される。ただし、臓器収容容器1は、2枚以上の断熱シート10を縫合、接着、または溶着することによって袋状に構成されたものであってもよい。
【0030】
臓器収容容器1は、略楕円体である。この臓器収容容器1は、特に、腎臓を収容するものである。本実施形態では、断熱シート10の内面が腎臓の表面に沿いやすい形状とするために、全体として略楕円体としている。ただし、断熱シート10の形状は、これに限定されない。また、臓器収容容器1のサイズは、臓器9の挿入および取り出しが容易で、かつ、内部において臓器9が容易に移動しないように、対象となる臓器9よりもやや大きいサイズとされる。また、臓器収容容器1の底部および側部には、マチ12が設けられている。これにより、臓器収容容器1内の空間が広く確保されている。ただし、マチ12は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0031】
また、臓器収容容器1は、楕円形の開口部20を有する。開口部20は、開放状態において、臓器9が通過可能な大きさを有する。なお、開口部20の形状は、真円形状であってもよく、臓器9の種類や形状に合わせて、任意に設定すればよい。また、断熱シート10には、複数の挿通孔21が設けられている。複数の挿通孔21は、開口部20の縁に沿って並ぶ。また、複数の挿通孔21はそれぞれ、断熱シート10を厚み方向に貫通する。図2において破線にて示すように、複数の挿通孔21には、例えば、1本の操作紐30が挿通される。操作紐30としては、例えば、手術用の滅菌された糸が用いられる。操作紐30は、絹製の糸であってもよく、ナイロン製であってもよい。また、操作紐30は、伸縮性のない紐であってもよく、ゴム(エラストマー)等の弾性材料からなる伸縮可能な紐であってもよい。
【0032】
開口部20から断熱シート10内に臓器9を挿入した後、操作紐30を引くと、巾着袋のように、臓器収容容器1の開口部20が収縮する。これにより、開口部20が閉鎖され、断熱シート10内に臓器9が保持される。そして、臓器9が断熱シート10から滑り落ちたり外れたりすることが抑制される。なお、本実施形態のように、1本の操作紐30のみを用いて、断熱シート10の一端側で操作紐30を引くことにより開口部20を収縮させてもよく、2本の操作紐30を用いて、断熱シート10の両端側で操作紐30を引くことにより開口部20を収縮させてもよい。すなわち、操作紐30は、開口部20を少なくとも部分的に収縮させるものであればよい。ただし、操作紐30は必ずしも用いなくてもよい。例えば、断熱シート10の内側の空間Sと臓器9とがほぼ同程度の大きさであれば、断熱シート10内に臓器9を挿入した後、開口部20を収縮させなくても、臓器9が断熱シート10から滑り落ちたり外れたりすることが抑制される。
【0033】
断熱シート10には、断熱性を有し、かつ、生体適合性および滅菌保持性を有する多孔質材または布帛が用いられる。具体的には、本実施形態の断熱シート10の材料として、容易に入手可能な、厚み1mm以上の市販の医療用かつ熱可塑性のシリコンゴムが用いられる。市販の材料を用いることによって、臓器収容容器1の製造コスト(イニシャルコスト)を削減できる。また、医療用かつ熱可塑性のシリコンゴムを用いることによって、高い生体適合性が得られ、かつ、断熱シート10と接触する臓器9へ及ぼす悪影響が軽減される。
【0034】
また、断熱シート10として、1mm以上の厚みを有するシリコンゴムを用いることによって、断熱シート10の断熱性能が高まる。これにより、断熱シート10内に臓器9を収容した際に、断熱シート10内の臓器9に断熱シート10の外部の温度(レシピエントの体温または外気温)または移植手術に用いられる様々な機器から発熱した熱が伝わるのを抑制できる。この結果、断熱シート10内の臓器9をより低温に維持することができる。なお、本実施形態の断熱シート10の断熱性能を検証するため、表面が37℃の台の上に、当該断熱シート10に用いるシリコンゴムを敷き、その上に4℃に冷やした臓器9を置いたところ、臓器9の温度を30分間以上に亘って20℃以下に保てることが確認された。ただし、断熱シート10の材料として、シリコンゴムの替わりに、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ウレタンゴム、塩化ビニル、ナイロン、ポリエチレン、ポリウレタンエラストマー、またはオイルブリードシリコンゲルが用いられてもよい。
【0035】
また、本実施形態の断熱シート10の耐熱温度は、190℃以上である。このように、断熱シート10が高い耐熱性能を有することによって、断熱シート10の外部の温度が高温になった場合でも、断熱シート10に亀裂や損傷が生じにくい。この結果、臓器9を安定して保持することができる。また、断熱シート10の断熱性能を維持できため、断熱シート10内の臓器9をより低温に維持することができる。
【0036】
また、本実施形態の断熱シート10の硬度は、例えば、日本工業規格JIS K 6253-3:2012のデュロメータ硬さ試験方法においてA40~A50(またはD10~E70)である。このように、断熱シート10が適度な硬度を有することにより、破断しにくく、かつ、臓器9が収容された断熱シート10に衝撃が加わった場合でも、臓器9への影響を抑制できる。
【0037】
さらに、断熱シート10の内面には、凹凸形状が形成されている。本実施形態の凹凸形状は、複数の線状の突起41からなる。複数の線状の突起41はそれぞれ、袋状の断熱シート10の内側の空間Sへ向かって突出する。また、本実施形態の複数の線状の突起41はそれぞれ、開口部20の縁と略平行である。ただし、複数の線状の突起41はそれぞれ、開口部20の縁に対して若干傾斜していてもよい。また、図5の部分拡大図に示すように、本実施形態の線状の突起41の断面は四角形状である。また、複数の線状の突起41は、断熱シート10の対向する一対の側面部11の内面に設けられている。ただし、複数の線状の突起41は、断熱シート10の内面の全体に亘って設けられてもよく、断熱シート10の内面の一部のみに設けられてもよい。
【0038】
ただし、線状の突起41の断面における四角形状の角部にさらにテーパ面が形成されていてもよい。また、図6の変形例に示すように、線状の突起41の断面は半円形状であってもよい。これにより、断熱シート10内に保持される臓器9が傷ついたり、凹凸形状の跡が残ったりすることをさらに防止できる。
【0039】
本実施形態では、断熱シート10が上記の構成を有することにより、レシピエントへの臓器9の移植時に、断熱シート10内に収容された臓器9は、断熱シート10の凹凸形状によって、断熱シート10から滑り落ちたり外れたりすることが抑制される。また、臓器9は、凹凸形状によって傷ついたり、凹凸形状の跡が残ったりすることなく、断熱シート10内に保持される。この結果、臓器9を断熱シート10内に安定して保持しつつ、臓器9の温度を低温に保ちながら、血管の吻合を行うことができる。したがって、臓器9が温虚血状態となることを抑制し、手術後における障害の発生を抑制できる。
【0040】
また、本実施形態では、断熱シート10の内面に凹凸形状を有することによって、断熱シート10内に臓器9が収容された状態で、断熱シート10の内面と臓器9との間の隙間に、それぞれが水平方向に延びる複数の溝が形成される。そして、複数の溝のそれぞれにおいて、さらに保存液を保持できる。これにより、臓器9の温度が上昇することをさらに抑制できる。
【0041】
<1-2.臓器移植の流れについて>
続いて、上記の臓器収容容器1を用いて、ドナーから摘出された臓器9(本実施形態では、腎臓である)をレシピエントへ移植する移植手術の流れについて、説明する。図7は、臓器収容容器1を用いた移植手術の流れを示したフローチャートである。
【0042】
移植手術を行うときには、まず、ドナーから臓器9を摘出する(ステップS1)。具体的には、ドナーの臓器9から延びる血管91,92および尿管93(図1参照)を切断し、ドナーの体腔内から臓器9を取り出す。
【0043】
取り出された臓器9は、低温の保存液に浸漬された状態で、保存される。また、臓器9は、臓器収容容器1に収容される(ステップS2)。保存液には、例えば、4℃に維持された生理食塩水が用いられる。一般に、臓器は、常温のまま血流が途絶える、いわゆる温虚血状態になると、臓器内の代謝によって、劣化が生じやすくなる。このため、ステップS2では、臓器9を常温より低い温度で保存することにより、臓器9の劣化を抑制する。
【0044】
なお、ステップS2では、臓器9の血管91,92に配管を接続し、臓器9内に保存液を灌流させた状態で、臓器9を保存してもよい。なお、保存液の灌流は、後述するステップS4まで、継続してもよい。
【0045】
臓器9を臓器収容容器1に収容するタイミングは、臓器9を保存液に浸漬する前であってもよいし、臓器9しばらく保存液に浸漬して十分に冷却した後であってもよい。臓器9を臓器収容容器1に収容する際には、臓器収容容器1の開口部20を開き、開口部20を介して、袋状の断熱シート10の内側の空間Sへ、臓器9を挿入する。これにより、断熱シート10内に、臓器9が保持される。
【0046】
このとき、断熱シート10の内面と臓器9との間の隙間(上記の複数の溝)に、シリンジやピペットを用いて、低温の保存液が注入される。そして、操作紐30を引いて、臓器収容容器1の開口部20を閉鎖する。これにより、臓器収容容器1から臓器9が滑り落ちたり外れたりすることを防止する。ただし、後述するステップS5においてレシピエントの血管と吻合すべき臓器9の血管91,92および尿管93のみは、開口部20から外部へ露出した状態としておく。さらに、臓器9は、臓器収容容器1に包まれた状態で、再度低温の保存液に浸漬され、低温保存状態が維持される。
【0047】
臓器収容容器1に保持された臓器9は、低温の保存液に浸漬された状態で、ドナー側からレシピエント側へと搬送される(ステップS3)。レシピエント側に搬送された臓器9は、移植の直前まで引き続き、臓器収容容器1に保持されつつ、低温の保存液に浸漬される。
【0048】
続いて、レシピエントの腹部を開き、臓器9が収容された臓器収容容器1を、レシピエントの体腔内に配置する(ステップS4)。そして、レシピエントの血管と、臓器収容容器1の開口部20から外部へ露出した臓器9の血管91,92とを、吻合する(ステップS5)。併せて、移植する臓器9が腎臓である場合、尿管93を膀胱へと接続する。
【0049】
ステップS2~S5の作業の間、臓器9の内部には、まだ血液が流れていない。また、ステップS4~S5の作業の間、臓器収容容器1に収容された臓器9は、レシピエントの体腔内に配置される。しかしながら、臓器9は、臓器9は臓器収容容器1に収容され、断熱シート10に覆われているため、外部の温度(レシピエントの体温または外気温)または移植手術に用いられる様々な機器から発熱した熱の影響を受けにくい。また、ステップS2~S5の作業の間、臓器9は、断熱シート10の内面の複数の突起41からなる凹凸形状によって、安定して保持される。これにより、臓器9は、断熱シート10から滑り落ちたり外れたりすることが抑制される。この結果、臓器9の昇温を抑制しつつ、血管の吻合を行うことができる。したがって、臓器9が温虚血状態となって、代謝による劣化が進むことを抑制できる。その結果、手術後における障害の発生を抑制できる。
【0050】
なお、ステップS4~S5において、臓器収容容器1の内部には、定期的に(例えば数分毎に)、シリンジやピペットを用いて、低温の保存液が注入される。また、既に臓器収容容器1の内部に存在する保存液(若干温まってしまっている保存液)は、ドレンを用いて回収され、レシピエントの体外に排出される。これにより、断熱シート10内の臓器9の温度が上昇することを、さらに抑制できる。
【0051】
また、臓器9が適度な硬度を有する断熱シート10に収容されることにより、手術中に何らかの衝撃が加わった場合でも、断熱シート10において衝撃を吸収することができるため、臓器9の損傷を抑制することができる。また、断熱シート10は袋状とされているため、断熱シート10の端部が、執刀者の作業の妨げとなりにくい。
【0052】
その後、臓器収容容器1の開口部20を開き、血管吻合後の臓器9を、臓器収容容器1から取り出す。そして、レシピエントの体腔内から臓器収容容器1を除去する(ステップS6)。その後、吻合したレシピエントの血管との間で臓器9の血流を再開する(ステップS7)。
【0053】
なお、ステップS6において、執刀者は操作紐30を緩めることによって、臓器収容容器1の開口部20を開く。この構造により、執刀者は、開口部20を容易に開閉できる。また、開閉動作により臓器9を傷つけてしまうおそれも小さい。
【0054】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について、説明する。なお、以下では、上記の第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の点については、重複説明を一部省略する。
【0055】
図8は、第2実施形態に係る(図3のI-I位置から見たときの)臓器収容容器1Bの縦断面図である。本実施形態の臓器収容容器1Bは、断熱シート10Bの内面の凹凸形状の構造が、上記の第1実施形態と相違する。
【0056】
本実施形態の断熱シート10Bの内面に形成された凹凸形状は、複数のスポット状の突起41Bからなる。複数のスポット状の突起41Bはそれぞれ、袋状の断熱シート10Bの内側の空間へ向かって突出する。また、本実施形態の複数のスポット状の突起41Bはそれぞれ、断熱シート10Bの内面に垂直な方向から見て、円形である。また、複数のスポット状の突起41Bは、断熱シート10Bの側面部11Bの内面に設けられている。ただし、複数のスポット状の突起41Bは、断熱シート10Bの内面の全体に亘って設けられていてもよい。
【0057】
本実施形態では、断熱シート10Bが上記の構成を有することにより、第1実施形態と同様に臓器9をレシピエントへ移植する際に、断熱シート10B内に収容された臓器9は、断熱シート10Bの凹凸形状によって、断熱シート10Bから滑り落ちたり外れたりすることが抑制される。また、臓器9は、凹凸形状によって傷ついたり、凹凸形状の跡が残ったりすることなく、断熱シート10B内に保持される。この結果、臓器9を断熱シート10B内に安定して保持しつつ、臓器9の温度を低温に保ちながら、血管の吻合を行うことができる。さらに、臓器9が温虚血状態となることを抑制し、手術後における障害の発生を抑制できる。
【0058】
また、図9の変形例に示すように、複数のスポット状の突起41Bはそれぞれ、断熱シート10Bの内面に垂直な方向から見て、三角形であってもよい。また、図10の変形例に示すように、複数のスポット状の突起41Bはそれぞれ、断熱シート10Bの内面に垂直な方向から見て、六角形であってもよい。また、図11の変形例に示すように、複数のスポット状の突起41Bはそれぞれ、断熱シート10Bの内面に垂直な方向から見て、四角形であってもよい。さらに、図12の変形例に示すように、複数のスポット状の突起41Bはそれぞれ、断熱シート10Bの内面に垂直な方向から見て、四角形であって、かつ、互いにスペースを隔てて配置されてもよい。さらに、複数のスポット状の突起41Bは、互いに等間隔で配置されてもよく、互いに不等間隔で配置されてもよい。
【0059】
すなわち、凹凸形状は、断熱シートの内面において、断熱シートの内側の空間へ向かって突出し、かつ、断熱シートの内面に垂直な方向から見て多角形、円形、またはその他の形状(半円形や月形等)の複数の突起から形成されていればよい。また、複数の多角形、円形、またはその他の形状の突起は、断熱シートの内面の任意の位置に配置されていればよく、かつ、任意の大きさであればよい。
【0060】
<3.第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について、説明する。なお、以下では、上記の第1実施形態および第2実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態および第2実施形態と同等の点については、重複説明を一部省略する。
【0061】
図13は、第3実施形態に係る臓器収容容器1Cの斜視図である。図13に示すように、本実施形態の臓器収容容器1Cは、第1実施形態および第2実施形態と同様に臓器9を保持する1枚のシームレスな袋状の断熱シート10Cにより構成される。臓器収容容器1Cは、略楕円体である。また、臓器収容容器1Cの底部および側部には、マチ12Cが設けられている。
【0062】
また、臓器収容容器1Cは、開口部20Cを有する。開口部20Cは、開放状態において、臓器9が通過可能な大きさを有する。また、断熱シート10Cには、複数の挿通孔21Cが設けられている。複数の挿通孔21Cは、開口部20Cの縁に沿って並ぶ。また、複数の挿通孔21Cはそれぞれ、断熱シート10Cを厚み方向に貫通する。
【0063】
本実施形態では、複数の挿通孔21Cのそれぞれにおいて、クリップ50Cが固定される。クリップ50は、挿通孔21Cに対して、着脱可能となっている。これにより、例えば、臓器収容容器1Cを吊り下げるための紐(図示省略)を用意し、当該紐の先端にクリップ50Cを取り付けておいて、移植手術中に必要に応じてクリップ50Cを挿通孔21Cに取り付けることによって、臓器収容容器1Cを容易に支持することができる。ただし、当該クリップ50Cの使用用途は、これに限定されない。
【0064】
<4.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0065】
上述の実施形態および変形例では、断熱シートの内面には、それぞれ1種類の凹凸形状が形成されていた。しかしながら、断熱シートの内面には、複数種類の凹凸形状が形成されてもよい。例えば、開口部付近における断熱シートの内面には、複数の線状の突起からなる凹凸形状が形成され、開口部から離れた箇所における断熱シートの内面には、複数のスポット状の突起からなる凹凸形状が形成されてもよい。さらに、断熱シートの内面には、複数種類の凹凸形状が規則的に形成されてもよく、複数種類の凹凸形状が不規則に形成されてもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、臓器収容容器の断熱シートは1種類の材料で形成されていたが、本発明はこれに限定されない。断熱シートは、複数種類の材料で形成されてもよい。また、断熱シートの外表面に、外傷を防止するためのコーティングを施してもよい。
【0067】
また、臓器収容容器の細部の構造については、本願の各図に示された構造と、完全に一致していなくてもよい。また、上記の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,1B,1C 臓器収容容器
9 臓器
10,10B,10C 断熱シート
20,20C 開口部
21,21C 挿通孔
30 操作紐
41,41B 突起
50C クリップ
91 血管
92 血管
S (断熱シートの内側の)空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13