(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】杭強度推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20231220BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
E02D5/30 Z
E02D5/34 Z
(21)【出願番号】P 2020040361
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小谷 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】谷川 友浩
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】山中 龍
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019471(JP,A)
【文献】特開2016-075114(JP,A)
【文献】特開2014-006183(JP,A)
【文献】特開2003-121389(JP,A)
【文献】特開2011-027686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22- 5/80
E02D 3/12
E02D 7/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭孔へセメントミルクを注入する工程と、
前記杭孔から前記セメントミルクと土とが混合されたソイルセメントの未固結試料を採集する工程と、
前記未固結試料のカルシウム含有量を蛍光X線分析計により測定する工程と、
前記蛍光X線分析計による測定値と、複数の試料から導出されたカルシウム含有量とソイルセメントの圧縮強度との相関関係データから、前記未固結試料が固結した時の圧縮強度を推定する工程と、
を備えた杭強度推定方法。
【請求項2】
前記杭孔が形成される地盤の土試料を採取してカルシウム含有量を測定し、かつ、セメント試料のカルシウム含有量を測定して、前記土試料と前記セメント試料との混合比率に応じた、混合試料のカルシウム含有量の理論値を算出し、
前記混合比率を変えた複数の前記混合試料を形成して一軸圧縮強度を測定し、
前記相関関係データとして、前記理論値と前記一軸圧縮強度との関係を導出する、
請求項1に記載の杭強度推定方法。
【請求項3】
前記未固結試料のカルシウム含有量を測定し、
前記混合比率及び前記理論値から、測定値と前記理論値とを対応付けた近似線を作成し、
前記近似線を用いて前記測定値を前記理論値へ補正して前記圧縮強度を推定する、
請求項2に記載の杭強度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭強度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、杭穴に根固め液を注入し、根固め液と泥水が混ざったソイルセメントを未固結の状態で採集する杭穴充填物の採集方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1における杭穴充填物の採集方法では、杭穴充填物を地上に引き上げて固結させた後、圧縮強度試験を行って、根固め部の強度を確認している。このような方法では、地上に引き上げた杭穴充填物が固結するまでの養生期間、杭の構築工事を進めることが難しい。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、ソイルセメントが未固結の状態で強度を推定できる杭強度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の杭強度推定方法は、杭孔へセメントミルクを注入する工程と、前記杭孔から前記セメントミルクと土とが混合されたソイルセメントの未固結試料を採集する工程と、前記未固結試料のカルシウム含有量を蛍光X線分析計により測定する工程と、前記蛍光X線分析計による測定値と、複数の試料から導出されたカルシウム含有量とソイルセメントの圧縮強度との相関関係データから、前記未固結試料が固結した時の圧縮強度を推定する工程と、を備えている。
【0007】
請求項1の杭強度推定方法では、杭孔から採集したソイルセメントの未固結試料のカルシウム含有量が蛍光X線分析計により測定される。一方で、複数の試料から導出されたカルシウム含有量と圧縮強度との相関関係データから、未固結試料が固結した時の圧縮強度を推定できる。すなわち、ソイルセメントが未固結の状態で圧縮強度を推定できる。
【0008】
請求項2の杭強度推定方法は、請求項1に記載の杭強度推定方法において、前記杭孔が形成される地盤の土試料を採取してカルシウム含有量を測定し、かつ、セメント試料のカルシウム含有量を測定して、前記土試料と前記セメント試料との混合比率に応じた、混合試料のカルシウム含有量の理論値を算出し、前記混合比率を変えた複数の前記混合試料を形成して一軸圧縮強度を測定し、前記相関関係データとして、前記理論値と前記一軸圧縮強度との関係を導出する。
【0009】
請求項2の杭強度推定方法では、杭孔が形成される敷地から採集された土とセメントミルクを用いた試料から、カルシウム含有量及び強度の相関関係が導出される。このため、他の敷地から採集された土を用いる場合と比較して、精度よくソイルセメントの強度を推定できる。
【0010】
請求項3の杭強度推定方法は、請求項1又は請求項2に記載の杭強度推定方法において、前記未固結試料のカルシウム含有量を測定し、前記混合比率及び前記理論値から、測定値と前記理論値とを対応付けた近似線を作成し、前記近似線を用いて前記測定値を前記理論値へ補正して前記圧縮強度を推定する。
【0011】
セメント粒子は土粒子よりも一般的に比重が大きいため、土(土粒子の集合体)とセメント(セメント粒子の集合体)ミルクとを混合した未固結試料においては、未固結試料の下側におけるセメントの割合は、上側と比較して大きくなる。このような場合において、未固結試料の下側から蛍光X線を照射して未固結試料のカルシウム含有量を測定すると、実際の含有量より大きく測定される。
請求項3の杭強度推定方法では、土とセメントミルクとの混合割合に対応したカルシウム含有量の理論値を算出しておく。そして、蛍光X線分析計によって得られた測定値を、この理論値に基づいて補正する。これにより、試料が未固結の場合でも、ソイルセメントの強度を精度よく推定できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の杭強度推定方法によると、ソイルセメントが未固結の状態で強度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)は本発明の杭強度推定方法が適用される既製杭を埋設する杭孔を形成している状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔に根固め部を形成している状態を示す立断面図であり、(C)は杭孔から掘削ロッドを引き上げている状態を示す立断面図であり、(D)は杭孔に既製杭を挿入した状態を示す立断面図である。
【
図2】事前調査によって導出されたソイルセメントのカルシウム含有量と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
【
図3】杭孔から採集したソイルセメントの未固結試料の蛍光X線測定時を示す断面図である。
【
図4】(A)は未固結試料におけるカルシウム含有量の測定値と理論値との対応関係をプロットしたグラフであり、(B)は(A)から導出した、未固結試料におけるカルシウム含有量の測定値と理論値との対応関係を近似線で描いたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る杭強度推定方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。本明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<杭の施工方法>
本発明の実施形態に係る杭強度推定方法の説明に先立ち、本発明によって強度を推定する杭の施工方法の概略について説明する。
【0016】
図1(A)~(D)には、既製杭10を埋込み工法で地盤Gへ埋設する方法の一例が示されている。
図1(D)に示す既製杭10は、コンクリート製の杭であり、工場などにおいて予め成型された後、施工現場へ搬入される。
【0017】
既製杭10を地盤Gへ埋設するためには、まず、
図1(A)に示すように、掘削ロッド20を用いて掘削液を注入しながら地盤Gを掘削し、杭孔GHを形成する。本実施形態においては既製杭10を先端支持杭とするために、杭孔GHの先端は支持層GAに到達させる。
【0018】
次に
図1(B)に示すように、掘削ロッド20から杭孔GHの先端(底)へセメントミルクを注入する。このセメントミルクを攪拌することで地盤G中の土と混合させ、根固め部を形成するソイルセメント12を構築する。なお、セメントミルクは、セメント及び水を混錬して、又は、セメント、水及び各種添加剤を混錬して形成される。また、ソイルセメントとは、セメントミルクと土との混錬体である。本明細書においては、「地盤G」を形成する鉱物、有機物、気体、液体及び生物等の混合物を「土」と称す。
【0019】
杭孔GHの先端には、杭孔GHの直径が拡径され、かつ、ソイルセメント12が充填された部分である根固め球根12Aを形成することが好適である。なお、根固め球根12Aを形成する場合、掘削ロッド20における掘削ヘッドを、拡径できる公知の構造とする。そして当該掘削ヘッドを所定の深度にて拡径することで、根固め球根12Aが形成される。
【0020】
次に
図1(C)に示すように、掘削ロッド20を引き抜きながら、ソイルセメント12の上方にセメントミルクを注入及び攪拌する。これにより杭周固定液としてのソイルセメント14を形成する。ソイルセメント14は、ソイルセメント12と比較して、単位体積当たりのセメント量が少ない貧調合のセメントミルクを用いて形成してもよい。
【0021】
次に
図1(D)に示すように、杭孔GHへ既製杭10を挿入する。このとき、既製杭10の先端を、杭孔GHの先端の根固め球根12Aへ陥入する。これにより、既製杭10が地盤Gへ埋設される。
【0022】
<杭強度推定方法>
本発明の実施形態に係る杭強度推定方法は、既製杭10そのものの強度ではなく、既製杭10の根固め部であるソイルセメント12の固結後の強度を推定する方法である。
【0023】
ソイルセメント12の固結後の強度を推定する理由は、既製杭10の支持力がソイルセメント12の強度に影響を受けるからである。具体的には、ソイルセメント12は、既製杭10の先端部分と支持層GAとを一体化し、既製杭10に作用する押し込み力に抵抗する。このため、既製杭10の支持力を評価する際には、既製杭10そのものの強度だけではなく、ソイルセメント12の強度を推定することが好適である。
【0024】
また、ソイルセメント12の固結後の強度を「推定」するとは、ソイルセメント12の「固結前」において固結後の強度を評価することである。これにより、ソイルセメント12の固結後の強度を「測定」する場合と比較して、時間を短縮できる。
【0025】
(事前調査-試料採取)
ソイルセメント12の強度を推定するためには、事前調査を実施する。事前調査の一例としては、まず、杭孔GHの形成に先立って、地盤Gから複数の試料を採集する。試料の採集は、地盤調査のためのボーリング試験と併せて実行することが好適である。この試料とは、支持層GAを形成する土である(以下、「土試料」と称す場合がある)。
【0026】
(事前調査-カルシウム含有量の測定)
次に、蛍光X線分析計を用いて、採集した複数の土試料におけるカルシウム含有量を測定する。カルシウム含有量は、一例として、試料の単位体積当たりの全重量に占めるカルシウムの重量(質量パーセント濃度:[wt%])で示される。ここで、土試料のカルシウム含有量をWs[%]と表記するものとする。
【0027】
また、蛍光X線分析計を用いて、ソイルセメント12を形成するセメントミルク(土と混合されていない状態のセメントミルク)におけるカルシウム含有量を測定する(以下、測定対象とするセメントミルクを「セメント試料」と称す場合がある)。ここで、セメント試料のカルシウム含有量をWc[%]と表記するものとする。
【0028】
(事前調査-カルシウム含有量の算出)
セメント試料のカルシウム含有量Wc[%]と、土試料のカルシウム含有量Ws[%]と、をそれぞれ測定することにより、セメントミルクと土とを混合して形成されるソイルセメントのカルシウム含有量が算出される。
【0029】
例えばソイルセメントにおけるセメントミルクと土との混合割合を{α:(1-α)}とした場合、このソイルセメントにおけるカルシウム含有量は、
W(α)={αWc+(1-α)Ws}・・・(1-1)式
として算出される。
【0030】
(事前調査-一軸圧縮強度試験)
次に、セメントミルクと土とを所定の割合で混合し、ソイルセメントを形成する。ソイルセメントは、セメントミルクと土との配合比率を変えたものを、複数形成する。これらのソイルセメントが固結した後、一軸圧縮強度試験を行って、一軸圧縮強度を測定する(以下、測定対象とする固結したソイルセメントを「混合試料」と称す場合がある)。
【0031】
ここで、それぞれの混合試料におけるカルシウム含有量は、(1-1)式によって算出されている。これにより、
図2に示すように、混合試料のカルシウム含有量W[%]と、一軸圧縮強度qu[kN/m
2]と、の関係が導出される。すなわち、地盤Gにおけるソイルセメントのカルシウム含有量と、一軸圧縮強度と、の関係が導出される。この一軸圧縮強度quは、ソイルセメントが固結した時の強度である。また、ソイルセメントのカルシウム含有量W[%]と、一軸圧縮強度qu[kN/m
2]と、の関係は、例えば近似直線Cxで表される。
【0032】
なお、本実施形態においては、事前調査として「杭孔GHを形成する地盤G」から採集した土試料のカルシウム含有量を測定しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば杭孔GHを形成する地盤G「以外」の地盤から採取した土試料のカルシウム含有量を測定し、この測定値から、地盤Gにおけるソイルセメントのカルシウム含有量と、一軸圧縮強度と、の関係を推測してもよい。
【0033】
但しこの場合、様々な地盤において土試料を採集し、それぞれの土試料のカルシウム含有量を測定する。また、各種土質とカルシウム含有量との相関関係を定量的に分析する。さらに、これらの測定結果及び分析結果を蓄積する。蓄積されたデータから得られる統計的な知見を用いて、地盤G「以外」の地盤から採取した土試料のカルシウム含有量から、地盤Gにおけるソイルセメントのカルシウム含有量と、一軸圧縮強度と、の関係を推測することができる。
【0034】
(未固結試料の採集)
事前調査の後、本工事段階で、ソイルセメント12の強度を推定する。ソイルセメント12の強度を推定するためには、
図1(B)に示す杭孔GHから、ソイルセメント12の未固結試料12S(
図3参照)を採集する。なお、未固結試料12Sを採集する杭孔GHは、本設杭を埋設する杭孔としてもよいし、試験杭を埋設するための杭孔としてもよい。
【0035】
採集した未固結試料12Sには、セメントミルクと支持層GAの土とが、所定の割合で混合されている。この割合は、杭孔GHの杭径、掘削深さ、杭孔GHに注入する掘削液の量、セメントミルクの量等に依存するが、施工者は予めこの割合を把握しているものとする。例えば未固結試料12Sにおけるセメントミルクと土との混合割合を{α1:(1-α1)}とすると、この未固結試料12Sにおけるカルシウム含有量の「理論値」は、(1-1)式を用いて、
W(α1)={α1Wc+(1-α1)Ws}・・・(1-2)式
と算出される。
【0036】
(カルシウム含有量の測定)
未固結試料12Sのカルシウム含有量は、蛍光X線分析計を用いて測定される。このとき、一例として、
図3に矢印Lxを用いて示すように、未固結試料12Sの下方からX線を照射する。
【0037】
ここで、
図3に示すように、未固結試料12Sは成分の分布が一様ではない。具体的には、セメント粒子は土粒子よりも一般的に比重が大きいため、土とセメントミルクとを混合した未固結試料においては、未固結試料の下側におけるセメントの割合は、上側と比較して大きくなる傾向がある。このため、未固結試料12Sにおいては、下方のセメント濃度が高く、上方のセメント濃度が低い。
【0038】
このため、例えば未固結試料12Sの下側の表面においては、セメントミルクと土との混合割合が、本来の混合割合と異なる。具体的には、未固結試料12Sの下側の表面においては、セメントの混合割合が実際より大きく測定される。
【0039】
この誤差を含んだセメントミルクと土との混合割合を{α2:(1-α2)}(セメントの混合割合が実際より大きく測定されるため、α2>α1)とすると、この未固結試料12Sにおけるカルシウム含有量の「測定値」は、(1-1)式を用いて、
W(α2)={α2Wc+(1-α2)Ws}・・・(1-3)式
と測定される。
【0040】
セメントミルクのカルシウム含有量Wc[%]は、一般的に、土のカルシウム含有量Ws[%]より大きい(Wc>Ws)。かつ、未固結試料12Sにおける誤差を含んだセメントミルクの混合割合α2は、実際のセメントミルクの混合割合α1より大きい。このため、未固結試料12Sにおけるカルシウム含有量の「測定値」W(α2)は、「理論値」W(α1)より大きい。
【0041】
(カルシウム含有量の補正)
ここで、未固結試料12Sにおける実際のセメントミルクの混合割合α1と、セメントミルクのカルシウム含有量Wc[%]と、土のカルシウム含有量Ws[%]と、は事前に把握されている。このため、(1-2)式を用いて、未固結試料12Sにおけるカルシウム含有量の「理論値」W(α1)を計算することができる。
【0042】
これにより、算出されたカルシウム含有量の「理論値」W(α1)と、蛍光X線分析計によって測定されたカルシウム含有量の「測定値」W(α2)と、を、関連付けて捉えることができる。
【0043】
すなわち、
図4(A)に示すように、未固結試料12Sにおけるカルシウム含有量の「測定値」W(α
2)と「理論値」W(α
1)との関係をグラフ上にプロットすることにより、
図4(B)に示すように、「測定値」W(α
2)と「理論値」W(α
1)とを対応付けた近似線(近似関数Wx)を作成することができる。
【0044】
この近似関数Wxを用いることにより、蛍光X線分析計によって測定されたカルシウム含有量の「測定値」W1を、「理論値」W2に基づいて補正することができる。
【0045】
(圧縮強度の推定)
次に、事前調査によって得られた地盤Gにおけるソイルセメントのカルシウム含有量と、一軸圧縮強度と、の関係から、未固結試料12Sが固結した時の一軸圧縮強度を推定する。具体的には、
図4(B)の近似線を用いて補正された「理論値」W2を、
図2に示すカルシウム含有量とする。これにより、未固結試料12Sが固結した時の一軸圧縮強度が、推定強度C2として推定される。
【0046】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る杭強度推定方法では、
図1(B)に示す杭孔GHから採集したソイルセメント12の未固結試料12S(
図3参照)のカルシウム含有量が、蛍光X線分析計により測定される。一方で、複数の試料から導出されたカルシウム含有量と一軸圧縮強度との相関関係データ(
図2参照)から、未固結試料12Sが固結した時の一軸圧縮強度を推定できる。すなわち、ソイルセメント12が未固結の状態で、一軸圧縮強度を推定できる。
【0047】
これに対して、未固結試料12Sが固結した時の一軸圧縮強度を「推定しない」場合、ソイルセメント12が固結した後で一軸圧縮強度試験を行い、一軸圧縮強度を測定する必要がある。この場合、ソイルセメント12が固結するまでの時間、根固め部における強度の確認ができないため、次工程に進むことが難しい。このため工期が長くなる。また、工期が長くなることを避けるためには、ソイルセメント12を形成するセメント量を設計量より多くして、強度を高めに維持して根固め部を形成する方法を講じる。
【0048】
また、本発明の実施形態に係る杭強度推定方法では、杭孔GHが形成される敷地から採集された土を用いた試料から、
図2に示すカルシウム含有量及び一軸圧縮強度の相関関係が導出される。このため、他の敷地から採集された土を用いる場合と比較して、精度よくソイルセメント12の強度を推定できる。
【0049】
また、本発明の実施形態に係る杭強度推定方法では、(1-2)式に示された計算式を用いて、土(支持層GAにおける土)とセメントミルクとの混合割合に対応したカルシウム含有量の理論値を算出しておく。そして、蛍光X線分析計によって得られた測定値を、この理論値に基づいて補正する(
図4(B))。これにより、試料(未固結試料12S)が未固結の場合であっても、ソイルセメントの強度を精度よく推定できる。
【0050】
<その他の実施形態>
本実施形態においては、蛍光X線分析計によって測定されたカルシウム含有量の「測定値」W1を「理論値」W2に補正しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば未固結試料12Sにおいてセメントが一様に分布している場合、「測定値」W1を補正しなくてもよい。または、「測定値」W1と「理論値」W2との乖離が少ない場合も、「測定値」W1を補正しなくてもよい。すなわち、
図2に示すカルシウム含有量として「測定値」W1を用いて未固結試料12Sが固結した時の一軸圧縮強度を推定してもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、事前調査によって混合試料の一軸圧縮強度試験を行い、未固結試料12Sが固結した時の一軸圧縮強度を推定しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば一軸圧縮強度試験に代えて三軸圧縮強度試験を行い、未固結試料12Sが固結した時の三軸圧縮強度を推定してもよい。
【0052】
また、本実施形態においては、根固め部を形成するソイルセメント12の強度を推定しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば上記の方法によって、根固め部以外の部分におけるソイルセメント14の強度を推定してもよい。
【0053】
さらに、本発明の実施形態は、既製杭の強度推定に用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば地盤改良のための改良杭の強度推定に用いてもよい。この場合においても、改良杭の先端部以外のソイルセメントの強度推定に用いることができる。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0054】
12 ソイルセメント
12S 未固結試料
GH 杭孔