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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61B3/113
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020043914
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021142207
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-63246(JP,A)
【文献】特開2017-169601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者に視標を提示する視標投影系と、
前記視標投影系による前記視標の提示状態を制御する視標制御部と、
前記被検者が前記視標を左被検眼と右被検眼で同時視してから複視が現れるまでの融像時間を測定する融像時間測定部と、
前記視標の提示状態と前記融像時間とを関連付けて出力する結果出力部と、
を備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼科装置において、
前記視標の提示状態を、前記左被検眼及び前記右被検眼から前記視標の提示位置までの距離である検査距離とし、
前記視標制御部は、前記検査距離が異なる複数の視標を表示させ、
前記融像時間測定部は、前記検査距離が異なる視標ごとに前記融像時間を測定し、
前記結果出力部は、前記検査距離と、前記融像時間とを関連付けて出力する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項1に記載された眼科装置において、
前記視標の提示状態を、前記視標の融像刺激の強度とし、
前記視標制御部は、前記融像刺激の強度が異なる複数の視標を提示させ、
前記融像時間測定部は、前記融像刺激の強度が異なる視標ごとに前記融像時間を測定し、
前記結果出力部は、前記融像刺激の強度と、前記融像時間とを関連付けて出力する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項1に記載された眼科装置において、
前記視標の提示状態を、前記視標の融像刺激の強度、及び、前記左被検眼及び前記右被検眼から前記視標の提示位置までの距離である検査距離とし、
前記視標制御部は、前記融像刺激の強度が異なると共に前記検査距離が異なる複数の視標を表示させ、
前記融像時間測定部は、前記融像刺激の強度及び前記検査距離が異なる視標ごとに前記融像時間を測定し、
前記結果出力部は、前記融像刺激の強度と、前記検査距離と、前記融像時間とを関連付けて出力する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記結果出力部は、前記融像時間と、前記融像時間に関連付けられた前記視標の提示状態との関係をグラフ化して出力する
ことを特徴する眼科装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記左被検眼の前眼部画像及び前記右被検眼の前眼部画像を取得する画像取得部を備え、
前記融像時間測定部は、前記画像取得部によって取得された前記左被検眼の前眼部画像及び前記右被検眼の前眼部画像に基づいて前記融像時間を測定する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記左被検眼の視軸及び前記右被検眼の視軸を算出する視軸算出部を備え、
前記融像時間測定部は、前記視軸算出部によって算出された前記左被検眼の視軸及び前記右被検眼の視軸に基づいて前記融像時間を測定する
ことを特徴とする眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、テレビや、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等のモニタディスプレイを長時間注視すると眼疲労が生じる。また、若年層では、スマートフォンやゲーム機の画面を近距離で長時間見ることによる急性内斜視等が問題となっている。ここで、眼疲労と目の輻輳機能との間には密接な関係があるため、眼疲労を推定するために、目の輻輳機能状態を把握することが有効である。
【0003】
一方、従来から、左右の被検眼にそれぞれ入射する光の光量差を意図的に変化させ、左右の被検眼の視線方向の変化が発生する特定の光量差を眼疲労の視標として用いることで、他覚的に眼疲労を検査する検査装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-169601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の検査装置では、左右の被検眼にそれぞれ入射する光の光量差を変化させる機構を装置内に設ける必要があり、装置が煩雑化し、大型化するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、装置の大型化を抑制しつつ、被検眼の輻輳機能状態を容易に把握することができる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の眼科装置は、被検者に視標を提示する視標投影系と、前記視標投影系による前記視標の提示状態を制御する視標制御部と、前記被検者が前記視標を左被検眼と右被検眼で同時視してから複視が現れるまでの融像時間を測定する融像時間測定部と、前記視標の提示状態と前記融像時間とを関連付けて出力する結果出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
このように構成された眼科装置では、装置の大型化を抑制しつつ、被検眼の輻輳機能状態を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の眼科装置の外観を示す斜視図である。
図2】実施例1の眼科装置の測定ユニットの構成を模式的に示す説明図である。
図3】実施例1の眼科装置の測定光学系の構成を模式的に示す説明図であり、(a)は両眼で無限遠を見ている状態を示し、(b)は両眼で所定位置を見ている状態を示す。
図4】実施例1の眼科装置の制御系の構成を示すブロック図である。
図5】実施例1の眼科装置で得られた融像刺激の強度と検査距離と融像時間との関係を示すグラフの一例である。
図6】検査距離と融像時間との関係を示すグラフの一例である。
図7】融像刺激の強度と融像時間との関係を示すグラフの一例である。
図8】融像刺激の強度と検査距離と融像時間との関係を示す表の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の眼科装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
以下、実施例1の眼科装置10の構成を、図1図5に基づいて説明する。
【0012】
実施例1の眼科装置10は、被検眼の眼特性の測定を、被検者が左右の目を開放した状態で、両眼同時に実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。
【0013】
実施例1の眼科装置10は、図1に示すように、床面に設置された基台11と、検眼用テーブル12と、支柱13と、アーム14と、測定ユニット20と、を備えている。また、この眼科装置10は、携帯端末等の検者用コントローラ19aと、被検者用コントローラ19b(図4参照)と、液晶ディスプレイ等の表示装置19cと、を有している。
【0014】
この眼科装置10では、検眼用テーブル12に正対する被検者が、測定ユニット20に設けられた額当部15に額を接触させた状態で被検眼の眼特性の測定を行う。以下では、被検者から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(奥行き方向)をZ方向とする。
【0015】
検眼用テーブル12は、基台11に支持され、高さ位置が調節可能になっている。支柱13は、検眼用テーブル12の後端部からY方向に起立しており、上部にアーム14が設けられている。アーム14は、測定ユニット20を検眼用テーブル12の上方で吊り下げ支持するものであり、支柱13からZ方向に沿って延在されている。このアーム14は、支柱13に対して上下動可能に取り付けられている。
【0016】
検眼用テーブル12の下方には、眼科装置10の各部を統括的に制御するメイン制御部30が収納された制御ボックス30aが設けられている。なお、メイン制御部30には、電源ケーブル30bを介して図示しない商用電源から電力供給がなされる。
【0017】
測定ユニット20は、任意の自覚検査及び任意の他覚測定を行う。なお、自覚検査では、被検者に視標等を提示し、この視標等に対する被検者の応答に基づいて検査結果を取得する。この自覚検査には、遠用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査等の自覚屈折測定や、視野検査、乱視軸検査、乱視度数検査等がある。また、他覚測定では、被検眼に光を照射し、その戻り光の検出結果に基づいて被検眼に関する情報(特性)を測定する。この他覚測定には、被検眼の特性を取得するための測定と、被検眼の画像を取得するための撮影とが含まれる。さらに、他覚測定には、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:以下、「OCT」という)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測等がある。
【0018】
また、この測定ユニット20は、制御/電源ケーブル30c(図2参照)を介してメイン制御部30に接続されており、このメイン制御部30を経由して電力供給がなされる。また、測定ユニット20とメイン制御部30との間の情報の送受信も、この制御/電源ケーブル30cを介して行われる。
【0019】
測定ユニット20は、図2に示すように、取付ベース部20aと、この取付ベース部20aに設けられた左駆動機構21L及び右駆動機構21Rと、左駆動機構21Lに支持された左眼測定ヘッド22Lと、右駆動機構21Rに支持された右眼測定ヘッド22Rと、を備えている。
【0020】
左眼測定ヘッド22L及び右眼測定ヘッド22Rは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。また、左眼測定ヘッド22Lを支持する左駆動機構21Lの各駆動部の構成と、右眼測定ヘッド22Rを支持する右駆動機構21Rの各駆動部の構成とは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。
【0021】
左駆動機構21Lは、取付ベース部20aの一方の端部に取り付けられ、メイン制御部30からの制御指令に基づいて、左眼測定ヘッド22LのX方向、Y方向、Z方向の位置、及び左被検眼ELの眼球回旋軸OL(図2参照)を中心にした向きを変更する。この左駆動機構21Lは、左鉛直駆動部23a、左水平駆動部23b、左回旋駆動部23cと、を有する。これらの各駆動部23a、23b、23cは、取付ベース部20aと左眼測定ヘッド22Lとの間に、上方側から左鉛直駆動部23a、左水平駆動部23b、左回旋駆動部23cの順に配置されている。
【0022】
右駆動機構21Rは、取付ベース部20aの他方の端部に取り付けられ、メイン制御部30からの制御指令に基づいて、右眼測定ヘッド22RのX方向、Y方向、Z方向の位置、及び右被検眼ERの眼球回旋軸OR(図2参照)を中心にした向きを変更する。この右駆動機構21Rは、右鉛直駆動部24a、右水平駆動部24b、右回旋駆動部24cと、を有する。これらの各駆動部24a、24b、24cは、取付ベース部20aと右眼測定ヘッド22Rとの間に、上方側から右鉛直駆動部24a、右水平駆動部24b、右回旋駆動部24cの順に配置されている。
【0023】
ここで、左鉛直駆動部23a、左水平駆動部23b、右鉛直駆動部24a、右水平駆動部24bは、いずれもパルスモータ等の駆動力を発生するアクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力を伝達する伝達機構と、を有している。なお、左水平駆動部23b及び右水平駆動部24bは、X方向とZ方向とで個別にアクチュエータ及び伝達機構の組み合わせを設けてもよく、この場合には、構成を簡易にできると共に水平方向の移動の制御を容易なものにできる。
【0024】
また、左回旋駆動部23c及び右回旋駆動部24cも、パルスモータ等の駆動力を発生するアクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力を伝達する伝達機構と、を有している。ここで、左回旋駆動部23c及び右回旋駆動部24cは、アクチュエータからの駆動力を受けた伝達機構を、眼球回旋軸OL、ORを中心位置とする円弧状の案内溝に沿って移動させることで、左被検眼ELの眼球回旋軸OL、右被検眼ERの眼球回旋軸ORを中心にそれぞれ左眼測定ヘッド22L、右眼測定ヘッド22Rを回転させることができる。
【0025】
なお、左回旋駆動部23c及び右回旋駆動部24cは、自らが有する回転軸線回りに左眼測定ヘッド22L、右眼測定ヘッド22Rを回転可能に取り付けるものでもよい。
【0026】
左回旋駆動部23c及び右回旋駆動部24cによって、左眼測定ヘッド22Lと右眼測定ヘッド22Rとを所望の方向に回旋させることで、左右被検眼EL、ERに開散運動や輻輳運動を行わせることができる。これにより、眼科装置10では、開散運動及び輻輳運動のテストを行うことや、両眼視の状態で遠用検査や近用検査を行って両被検眼の各種特性を測定することができる。
【0027】
左眼測定ヘッド22Lは、図2及び図3に示すように、左回旋駆動部23cに固定された左ハウジング22aに内蔵された左眼測定光学系25Lと、対物レンズ26Lと、左ハウジング22aの外側面に設けられた左眼用偏向部材27Lとを有している。この左眼測定ヘッド22Lでは、左眼測定光学系25Lから対物レンズ26Lを介して出射された出射光を、左眼用偏向部材27Lによって屈曲して左被検眼ELに照射し、左眼特性を測定する。
【0028】
右眼測定ヘッド22Rは、図2及び図3に示すように、右回旋駆動部24cに固定された右ハウジング22bに内蔵された右眼測定光学系25Rと、対物レンズ26Rと、右ハウジング22bの外側面に設けられた右眼用偏向部材27Rと、を有している。この右眼測定ヘッド22Rでは、右眼測定光学系25Rから対物レンズ26Rを介して出射された出射光を、右眼用偏向部材27Rによって屈曲して右被検眼ERに照射し、右眼特性を測定する。
【0029】
以下、左眼測定光学系25L及び右眼測定光学系25Rの構成の一例を、図3(a)、(b)を参照して説明する。なお、左眼測定光学系25Lの構成と右眼測定光学系25Rの構成は同一であるので、以下では右眼測定光学系25Rについてのみ説明する。
【0030】
右眼測定光学系25Rは、図3(a)、(b)に示すように、観察系25a(画像取得部)や、視標投影系25b等の光学系を有している。右ハウジング22b内には、各光学系に必要な光源、光学素子(光学部材、光学デバイス)、アクチュエータ、機構、回路、表示デバイス、受光素子、イメージセンサ等が設けられている。
【0031】
ここで、観察系25aは、右被検眼ERの前眼部を撮影する光学系である。観察系25aが撮影した画像(以下、「前眼部画像」という)を、検者用コントローラ19aの表示装置19c等に表示させることで、検者による右被検眼ERの状態確認を可能とする。また、前眼部画像に基づいて光軸に直交する方向(XY方向)のアライメント情報の取得や、両眼視した際の融像状態の推定を可能とする。
【0032】
視標投影系25bは、右被検眼ERに視標を提示する光学系である。この視標投影系25bは、任意の画像を表示可能なディスプレイや、移動レンズ等を有している。ディスプレイは、EL(エレクトロルミネッセンス)や液晶ディスプレイで構成され、他覚検査や自覚検査を実施する際に固視及び雲霧を行う風景チャートの他、ランドルト環やE文字視標等、任意の検眼視標等を表示する。移動レンズは、ディスプレイと対物レンズ26Rとの間に配置され、光軸に沿って進退駆動される。移動レンズを対物レンズ26R側に移動させることで、屈折力をマイナス側に変位させることができ、移動レンズをディスプレイ側に移動させることで、屈折力をプラス側に変位させる。従って、視標投影系25bでは、移動レンズの進退駆動に伴って、左右被検眼EL、ERからディスプレイに表示された視標の提示位置までの見かけの距離(以下、「検査距離」という)を変更可能である。
【0033】
また、実施例1の眼科装置10は、視標投影系25bによって視標を提示しているとき、左眼測定ヘッド22L及び右眼測定ヘッド22Rの回転姿勢を調節し、図3(a)に示すように、左被検眼ELから左眼用偏向部材27Lに至るまでの光軸LLと、右被検眼ERからから右眼用偏向部材27Rに至るまでの光軸LRとを平行にすることで、被検者が両眼で無限遠を見ている状態の視軸とすることができる。また、図3(b)に示すように、左眼測定ヘッド22L及び右眼測定ヘッド22Rの回転姿勢を調節し、光軸LL及び光軸LRを延長させた先を所定の位置Pに向わせることで、被検者が両眼で位置Pを見ている状態の視軸とすることができる。すなわち、眼科装置10では、左眼測定ヘッド22L及び右眼測定ヘッド22Rの回転姿勢を左右対称に同時に変化させることで、左右被検眼EL、ERの視軸を輻輳又は開散させるように変化させ、視標を提示した位置(例えば位置P)に視軸を向けさせることができる。
【0034】
さらに、左眼測定光学系25L及び右眼測定光学系25Rは、アライメント検出系や、測定系等を有していてもよい。アライメント検出系は、左眼測定光学系25Lや右眼測定光学系25Rの光軸方向(Z方向)のアライメント情報や、XY方向のアライメント情報を取得する光学系である。測定系は、被検眼の眼特性を測定するための光束を被検眼に照射し、反射光を受光することで眼特性を取得する光学系である。
【0035】
メイン制御部30は、図4に示すように、左眼測定光学系25L及び右眼測定光学系25Rと、左右駆動機構21L、21Rとしての左右鉛直駆動部23a、24a、左右水平駆動部23b、24b、左右回旋駆動部23c、24cに加えて、検者用コントローラ19aと、被検者用コントローラ19bと、記憶部30dと、が接続されている。
【0036】
ここで、検者用コントローラ19aは、検者が眼科装置10を操作するために用いられる操作機構である。検者用コントローラ19aは、メイン制御部30と近距離無線通信によって、互いに通信可能に接続されている。なお、実施例1の検者用コントローラ19aは、タブレット端末やスマートフォン等の携帯端末を用いているが、メイン制御部30と有線又は無線の通信路を介して接続されていればよく、実施例1の構成に限定されない。すなわち、検者用コントローラ19aは、ノート型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ等でもよく、眼科装置10に固定されて構成されていてもよい。
【0037】
また、この検者用コントローラ19aには、表示装置19cが設けられている。表示装置19cは、画像等が表示される表示面19d(図1等参照)と、そこに重畳して配置されたタッチパネル式の入力部19eと、を有する。検者用コントローラ19aは、メイン制御部30の制御下で、観察系25aからの前眼部画像等を適宜表示面19dに表示させる。また、検者用コントローラ19aは、入力部19eを介して入力されたアライメントの指示や測定の指示等の操作情報をメイン制御部30に出力する。
【0038】
被検者用コントローラ19bは、左右被検眼EL、ERの各種の眼特性の取得の際に、被検者の応答を入力するために用いられる。被検者用コントローラ19bは、図示しないが、例えばコントロールレバーや、キーボード、マウス、携帯端末等の入力装置であればよい。被検者用コントローラ19bは、有線または無線の通信路を介してメイン制御部30と接続されている。
【0039】
メイン制御部30は、接続された記憶部30d又は内蔵する内部メモリ30eに記憶したプログラムを例えばRAM(Random Access Memory)上に展開することにより、適宜検者用コントローラ19aや被検者用コントローラ19bに対する操作に応じて、眼科装置10の動作を統括的に制御する。実施例1では、記憶部30dは、ROM(ReadOnly Memory)やEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等で構成され、内部メモリ30eは、RAM等で構成されている。
【0040】
さらに、実施例1のメイン制御部30は、視標制御部31と、視軸算出部32と、融像時間測定部33と、結果出力部34と、備えている。
【0041】
視標制御部31は、視標投影系25bを制御して、被検者に提示する視標の提示状態を任意の状態に設定する。ここで、視標制御部31によって任意の状態に設定される「視標の提示状態」は、視標を提示する見かけの位置を規定する検査距離と、提示される視標の融像しやすさを規定する融像刺激の強度とする。すなわち、視標制御部31は、左眼測定光学系25Lが有する視標投影系25bと、右眼測定光学系25Rが有する視標投影系25bの移動レンズをそれぞれ進退駆動し、検査距離を任意の距離(例えば、10cm、20cm、30cm等)に設定する。また、このとき、視標制御部31は、左眼測定ヘッド22L及び右眼測定ヘッド22Rの回転姿勢を調節し、左右被検眼EL、ERから検査距離だけ離れた位置に視軸を向けさせる。さらに、視標制御部31は、視標投影系25bのディスプレイに表示する視標を制御し、左右の視標投影系25bに表示される視標の融像刺激を適宜の強度(例えば、融像しやすい強強度、融像しにくい低強度等)に設定する。なお、検査距離や融像刺激の強度の設定値は、検者用コントローラ19aを介して検者によって設定してもよいし、予めプログラムされていてもよい。
【0042】
視軸算出部32は、左被検眼EL及び右被検眼ERの瞳孔中心の位置と、左被検眼EL及び右被検眼ERの角膜反射の位置とに基づいて、左被検眼EL及び右被検眼ERの視軸を求める。ここで、瞳孔中心の位置は、観察系25aによって撮影された左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像から検出する。また、角膜反射の位置は、左被検眼ELや右被検眼ERに照射した平行光束が、左被検眼ELや右被検眼ERの内部で結像して得られる輝点に基づいて検出する。
【0043】
融像時間測定部33は、被検者が、視標投影系25bによって提示された視標の同時視を開始してから複視が現れるまでの融像時間を測定する。なお、「同時視」とは、左被検眼ELと右被検眼ERがそれぞれ提示された視標を同時に視認している状態である。また、「複視」とは、両眼視している視標が二重に見える状態である。つまり、「融像時間」とは、左被検眼ELと右被検眼ERで視標を同時に見始めてから、両眼で見てる視標が二重に見えるまでの時間である。
【0044】
また、ここでは、被検者に提示される視標は、検査距離及び融像刺激の強度が適宜設定される。そのため、融像時間測定部33は、検査距離や融像刺激の強度が異なる視標ごとに融像時間を測定する。
【0045】
さらに、この融像時間測定部33では、被検者用コントローラ19bを介して入力される被検者の応答結果に基づいて融像時間を測定する。つまり、融像時間測定部33は、被検者が複視になったと判断したタイミングで入力された応答結果から、複視になったタイミングを推定する。そして、視標の提示を開始してから、複視になったと推定したときまでの時間をカウントして融像時間とする。
【0046】
なお、融像時間測定部33では、観察系25aによって撮影された左右被検眼EL、ERの前眼部画像から得られる視線の方向や、視軸算出部32によって算出された左右被検眼EL、ERの視軸の向きに基づいて融像時間を測定してもよい。すなわち、前眼部画像から得られた左右被検眼EL、ERの視線の方向や、左右被検眼EL、ERの視軸の向きに所定以上の変動が生じたときを複視になったタイミングとしてもよい。
【0047】
結果出力部34は、被検者に提示した視標の提示状態と、当該視標を提示したときの融像時間とを関連付けて出力する。具体的には、検査距離と、融像刺激の強度と、融像時間との関係を、図5に示すようにグラフ化し、表示装置19cの表示面19dに表示する。
【0048】
以下、実施例1の眼科装置10の作用効果を説明する。
【0049】
一般的に、眼疲労と目の輻輳機能状態との間には密接な関係があり、眼疲労を推定するために、目の輻輳機能状態を把握することが有効であることが分かっている。一方、比較的近距離(例えば、被検眼の前方10cm~50cm)に提示された視標を両眼視したときに融像ができている状態は、左右の目を内側に寄せること(輻輳)ができている状態であり、目の輻輳機能が適切に機能している状態である。一方、目の輻輳機能が適切に機能しないときには、左右の目を長時間内側に寄せることができず、融像時間が短くなる傾向がある。よって、融像時間は目の輻輳機能状態を示す視標になり得るため、融像時間を測定することで、目の輻輳機能状態を把握することができる。
【0050】
また、左右の被検眼に入射する光の光量差と視線方向の変化に基づいて眼疲労を推定する場合では、被検眼に入射する光の光量差を意図的に変化させるため、自然な状況下で眼疲労を推定しているとはいえない。しかし、融像時間に基づいて目の輻輳機能状態を把握する場合では、物体を両眼で自然に見ている状態での輻輳機能を把握することができるため、自然な状況下で眼疲労を推定することが可能となる。さらに、融像時間の測定は、時間をカウントすればよいので、複雑な解析や演算、煩雑化した装置等が不要となる。この結果、装置の大型化を抑制しつつ、目の輻輳機能状態を容易に把握することができる。
【0051】
これに対し、実施例1の眼科装置10では、両眼開放状態で被検者の左右被検眼EL、ERにそれぞれ視標を提示し、当該視標を被検者が融像できていた時間(融像時間)を測定する。
【0052】
すなわち、まず、メイン制御部30は、左右被検眼EL、ERに対する測定ユニット20のアライメントを行う。具体的には、左駆動機構21Lを制御し、左眼測定ヘッド22Lに内蔵された左眼測定光学系25Lの光軸と左被検眼ELの角膜頂点とをほぼ一致させると共に、右駆動機構21Rを制御して、右眼測定ヘッド22Rに内蔵された右眼測定光学系25Rの光軸と右被検眼ERの角膜頂点とをほぼ一致させる。
【0053】
メイン制御部30によるアライメントが完了したら、視標制御部31は、視標投影系25bを制御し、左右被検眼EL、ERに対して、左右被検眼EL、ERから所定の検査距離(例えば、10cm)だけ離れた見かけの位置に、所定強度(例えば、強強度)の融像刺激の視標を提示する。このとき、視標制御部31は、左眼測定ヘッド22L及び右眼測定ヘッド22Rの回転姿勢を調節し、被検者が両眼視で左右被検眼EL、ERから検査距離(例えば、10cm)だけ離れた見かけの位置を見ている状態と同様の視軸とする。
【0054】
視標投影系25bによって視標を提示したら、融像時間測定部33は、被検者の応答に基づいて複視が現れたタイミングを推定する。そして、被検者が視標を両眼視してから複視が現れるまでの融像時間を測定する。
【0055】
融像時間測定部33による融像時間の測定が完了したら、結果出力部34は、測定された融像時間と、視標の提示状態(検査距離及び融像刺激の強度)とを関連付けて内部メモリ30eに記憶する。
【0056】
続いて、視標制御部31は、視標投影系25bを制御し、左右被検眼EL、ERに対して検査距離を変更(例えば、20cm)して視標を提示する。このとき、融像刺激は変更しない。そして、視標を提示した後、融像時間測定部33によって融像時間を測定し、結果出力部34によって融像時間と視標の提示状態(検査距離及び融像刺激の強度)とを関連付けて内部メモリ30eに記憶する。
【0057】
そして、検査距離や融像刺激の強度が異なる視標を順次提示し、その都度融像時間を測定することを繰り返す。予め設定された検査距離や融像刺激の強度ごとの融像時間の測定が完了したら、結果出力部34は、内部メモリ30eに記憶した融像時間と視標の提示状態(検査距離及び融像刺激の強度)との関係をグラフ化(図5参照)し、表示装置19cの表示面19dに表示する。
【0058】
このように、実施例1の眼科装置10では、視標の提示状態(検査距離及び融像刺激の強度)を任意の状態に設定して視標を提示し、提示された視標を両眼視してからの融像時間を測定する。そして、測定した融像時間と視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)とを関連付けて表示する。このため、複雑な解析や演算、煩雑化した装置等を不要とし、装置の大型化を抑制しつつ、目の輻輳機能状態を容易に把握することができる。また、例えば、検者が、表示装置19cの表示面19dに表示されたグラフ(図5参照)を視認することで、融像時間と視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)との関係を認識でき、この関係に基づいて、左右被検眼EL、ERの眼疲労の程度(度合い)を推定することができる。
【0059】
なお、視標の表示状態と融像時間の関係に基づいて推定される眼疲労の程度を、例えば実験等によって求め、記憶部30dに記憶してもよい。この場合では、結果出力部34は、記憶部30dに記憶された「視標の表示状態と融像時間の関係に基づいて推定される眼疲労の程度」と、測定した融像時間及びそのときの視標の提示状態とを比較して、左右被検眼EL、ERの眼疲労の程度を自動的に判定することができる。つまり、眼疲労の推定を自動化することができ、より簡易的に眼疲労の程度を推定することができる。
【0060】
また、一般的に、若年層であれば融像時間は長くなり、高齢になるほど融像時間が短くなる傾向がある。つまり、同じ検査距離や同一の融像刺激強度であっても、眼疲労状態とは関係なく年齢的に融像時間に差が生じる。
【0061】
これに対し、実施例1では、視標の提示状態を、検査距離及び融像刺激の強度とし、この検査距離と融像刺激の強度とが異なる複数の視標を提示させ、検査距離及び融像刺激の強度が異なる視標ごとに融像時間を測定する。このように、視標の提示状態を多段階で変化させ、複数の視標の提示状態ごとに融像時間を測定することができる。この結果、年齢的に生じる融像時間の差異に拘らず、眼疲労の程度を適切に推定することができる。
【0062】
しかも、この実施例1では、視標の提示状態を、検査距離及び融像刺激の強度としている。そのため、目の輻輳機能状態を精度よく把握することができる。
【0063】
また、実施例1では、結果出力部34により、融像時間と視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)との関係をグラフ化することで関連付けて表示装置19cにより表示する。そのため、検者は、融像時間と視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)との関係を認識しやすく、眼疲労の推定を速やかに行うことができる。
【0064】
また、実施例1の融像時間測定部33は、被検者の応答に基づいて複視が現れたタイミングを推定し、融像時間を測定する。しかしながら、融像時間測定部33において、前眼部画像から得られる視線の方向や、視軸算出部32によって算出した視軸の方向に基づいて複視が現れたタイミングを検知してもよい。つまり、融像時間測定部33は、前眼部画像や視軸に基づいて融像時間を測定してもよい。この場合、視標を同時視してから複視が現れるまでの融像時間を、被検者の主観の影響を受けることなく他覚的に測定することができる。そのため、被検者の応答に基づいて融像時間を測定する場合よりも、より正確に融像時間を測定することができる。
【0065】
以上、本発明の眼科装置を実施例1に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0066】
例えば、実施例1では、視標制御部31によって任意の状態に設定する視標の提示状態を、検査距離及び視標の融像刺激の強度とする例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、検査距離のみを任意の状態に設定する視標の提示状態としてもよい。この場合、融像刺激の強度を変更することなく、検査距離が異なる複数の視標を被検者に順次提示し、当該視標を提示するごとに融像時間を測定する。そして、図6に示すように、検査距離と融像時間とを関係をグラフ化することで関連付けて表示する。
【0067】
また、融像刺激の強度のみを任意の状態に設定する視標の提示状態としてもよい。この場合、検査距離を変更することなく、融像刺激の強度が異なる複数の視標を被検者に順次提示し、融像刺激の強度が異なる視標を提示するごとに融像時間を測定する。そして、図7に示すように、融像刺激の強度と融像時間とを関係をグラフ化することで関連付けて表示する。
【0068】
このように、任意の状態に設定する視標の提示状態として、検査距離のみとした場合や、融像刺激の強度のみとした場合であっても、左右被検眼EL、ERの輻輳機能状態を、装置の大型化を抑制しつつ容易に把握することができる。
【0069】
また、実施例1では、融像時間と視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)との関係をグラフ化することで関連付けて表示する例を示したが、必ずしもグラフ化して表示しなくてもよい。例えば、図8に示す表のように、融像時間と視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)との関係を一覧表に示すことで関連付けて表示してもよい。
【0070】
さらに、実施例1では、視標の表示状態(検査距離及び融像刺激の強度)が異なる複数の視標を提示し、各視標を提示するごとに融像時間を測定する例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、視標の提示状態を予め設定された所定状態に設定した上で視標を提示し、そのときの融像時間を測定する。そして、所定の視標提示状態のときの融像時間に基づいて左右被検眼EL、ERの輻輳機能状態を把握してもよい。つまり、視標の提示状態は、必ずしも段階的に変更しなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 眼科装置
20 測定ユニット
21L 左駆動機構
21R 右駆動機構
22L 左眼測定ヘッド
22R 右眼測定ヘッド
25L 左眼測定光学系
25R 右眼測定光学系
25a 観察系
25b 視標投影系
30 メイン制御部
31 視標制御部
32 視軸算出部
33 融像時間測定部
34 結果出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8