(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20231220BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20231220BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20231220BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20231220BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B01J35/04 301C
B01J35/04 301K
B01J32/00 ZAB
B01D39/20 D
F01N3/08 B
F01N3/28 301G
F01N3/28 301D
(21)【出願番号】P 2020047719
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 博隆
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-167581(JP,A)
【文献】特表2010-537929(JP,A)
【文献】特開2018-143905(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046242(WO,A1)
【文献】特開2017-170414(JP,A)
【文献】特開2014-148924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 39/20
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/08,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一端面から第二端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部を備え、
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する面における開口率(%)の値の絶対値をAとし、前記隔壁の気孔率(%)の値の絶対値をPとし、下記式(1)で示される値が、0.05~0.12であり、
前記隔壁の平均細孔径(μm)の値をDとし、前記隔壁の幾何学的表面積(mm
2/mm
3)の値をGとし、下記式(2)で示される値が、20~30(μm×mm
2/mm
3)であり、
前記ハニカム構造部の前記開口率(%)が、80~90%であり、
前記隔壁の前記気孔率(%)が、30~60%であり、
前記隔壁の前記平均細孔径(μm)が、4~13μmであり、
前記隔壁の前記幾何学的表面積(mm
2/mm
3)が、1~4mm
2/mm
3であり、
前記セルの水力直径が、1.1mm以上である、ハニカム構造体
であって、
内燃機関の排気系に設けられ、当該排気系に別途設けられた酸化触媒よりも前記排気系の上流側に配置される、ハニカム構造体。
式(1):(1-A/100)×(1-P/100)
式(2):D×G
【請求項2】
前記隔壁の材質が、コージェライト、炭化珪素、窒化珪素、及びムライトからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記隔壁の表面粗さRaが、1μm以上である、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。更に詳しくは、昇温性に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒を担持した際に、担持した触媒の剥がれを有効に抑制することが可能なハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、先進国におけるディーゼル車やトラックのNOx規制として更に厳しいものが検討されている。このようなNOx規制に対して、排気ガス中のNOxを処理するための技術が種々提案されている。例えば、このような技術の1つとして、選択的触媒還元触媒(以下、「SCR触媒」ともいう)等を、多孔質の隔壁を有するハニカム構造体に担持し、当該ハニカム構造体によって排気ガス中のNOxを浄化処理する技術がある(例えば、特許文献1参照)。「SCR」とは、「Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元」の略である。
【0003】
従来の排気ガス浄化システムとしては、排気系の上流側から下流側に向けて、酸化触媒を担持した第一ハニカム触媒体、ハニカムフィルタ、SCR触媒を担持した第二ハニカム触媒体を順次配置したものが主流であった。そして、現在は、上述したような厳しいNOx規制への対応として、酸化触媒を担持した第一ハニカム触媒体よりも排気系の上流側に、SCR触媒を担持した第三ハニカム触媒体を更に追加した排気ガス浄化システムが検討されている。第三ハニカム触媒体は、排気ガスの低温時における浄化性能の向上を狙いとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、排気系のより上流側にSCR触媒を担持した第三ハニカム触媒体を追加する場合には、第三ハニカム触媒体に担持するSCR触媒の量を多くする必要がある。特に、第三ハニカム触媒体に担持するSCR触媒の量を、排気系の下流側に位置する第二ハニカム触媒体に比べて多くすることで、排気ガスの低温時における浄化性能の向上を有効に実現することが可能となる。
【0006】
しかしながら、第三ハニカム触媒体に対して多量のSCR触媒を担持した場合、従来の触媒担体用のハニカム構造体では、SCR触媒が塗布される隔壁の表面積を十分に確保することできず、実使用下において担持した触媒が剥がれてしまうという問題があった。特に、ハニカム構造体のセル数が少なく、1セル当たりの流路が大きい場合は、触媒が塗布される隔壁の表面積が小さいため、上述した担持した触媒が剥がれてしまうという問題が顕著になっている。以下、ハニカム構造体に担持した触媒が剥がれてしまうことを、「触媒剥がれ」ということがある。
【0007】
また、SCR触媒用の触媒担体として従来使用されているハニカム構造体は、隔壁によって区画形成されるセルのセル密度が、例えば、100個/cm2程度である。例えば、上述した第二ハニカム触媒体のように、ハニカムフィルタの下流側に配置される場合には、ハニカムフィルタによって排気ガス中の煤等の粒子状物質が除去されるため、触媒担体として使用されるハニカム構造体は比較的に高セル密度となっている。しかしながら、ハニカム構造体を排気系のより上流側に配置する第三ハニカム触媒体の触媒担体として用いた場合、そのハニカム構造体のセル内に粒子状物質が詰まり、比較的に短期間でセルが閉塞してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、昇温性に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒を担持した際に、担持した触媒の剥がれを有効に抑制することが可能なハニカム構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム構造体が提供される。
【0010】
[1] 第一端面から第二端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造部を備え、
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する面における開口率(%)の値の絶対値をAとし、前記隔壁の気孔率(%)の値の絶対値をPとし、下記式(1)で示される値が、0.05~0.12であり、
前記隔壁の平均細孔径(μm)の値をDとし、前記隔壁の幾何学的表面積(mm2/mm3)の値をGとし、下記式(2)で示される値が、20~30(μm×mm2/mm3)であり、
前記ハニカム構造部の前記開口率(%)が、80~90%であり、
前記隔壁の前記気孔率(%)が、30~60%であり、
前記隔壁の前記平均細孔径(μm)が、4~13μmであり、
前記隔壁の前記幾何学的表面積(mm2/mm3)が、1~4mm2/mm3であり、
前記セルの水力直径が、1.1mm以上である、ハニカム構造体であって、
内燃機関の排気系に設けられ、当該排気系に別途設けられた酸化触媒よりも前記排気系の上流側に配置される、ハニカム構造体。
式(1):(1-A/100)×(1-P/100)
式(2):D×G
【0011】
[2] 前記隔壁の材質が、コージェライト、炭化珪素、窒化珪素、及びムライトからなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0012】
[3] 前記隔壁の表面粗さRaが、1μm以上である、前記[1]又は[2]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のハニカム構造体は、昇温性に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒を担持した際に、担持した触媒の剥がれを有効に抑制することができるという顕著な効果を奏するものである。また、本発明のハニカム構造体は、排気系の比較的に上流側に配置した場合であっても、セル内に排気ガス中の粒子状物質が詰まり難く、セルの閉塞を有効に抑制することができる。また、本発明のハニカム構造体は、機械的強度にも優れる。例えば、ハニカム構造体は、排気ガス浄化用の触媒担体として使用する場合、金属ケース等の缶体内に収納した状態で用いられることがある。ハニカム構造体を、金属ケース等の缶体内に収納することを、キャニング(canning)ということがある。ハニカム構造体をキャニングする際には、マット等の把持材を介してハニカム構造体の外周面に面圧をかけ、缶体内に把持する。本発明のハニカム構造体は、このようなキャニング時において、外周面に付与される圧縮面圧による破損を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のハニカム構造体の第一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すハニカム構造体の第一端面側を示す平面図である。
【
図3】
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
(1)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の第一実施形態は、
図1~
図3に示すようなハニカム構造体100である。ここで、
図1は、本発明のハニカム構造体の第一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示すハニカム構造体の第一端面側を示す平面図である。
図3は、
図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【0018】
図1~
図3に示すように、ハニカム構造体100は、第一端面11及び第二端面12を有する柱状のハニカム構造部4を備えたものである。ハニカム構造部4は、第一端面11から第二端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する。ハニカム構造体100において、ハニカム構造部4は、円柱形状となるように構成され、その外周側面に、外周壁3を更に有している。即ち、外周壁3は、格子状に配設された隔壁1を囲繞するように配設されている。
【0019】
ハニカム構造体100は、ハニカム構造部4の開口率(%)の値の絶対値をAとし、隔壁1の気孔率(%)の値の絶対値をPとし、下記式(1)で示される値が、0.05~0.12である。
【0020】
式(1):(1-A/100)×(1-P/100)
【0021】
ここで、ハニカム構造部4の開口率(%)とは、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する面における開口率(%)のことである。具体的には、ハニカム構造部4の開口率(%)は、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する面における総面積S1に対する、セル2の空隙部分の面積S2の比の百分率によって求めることができる。ハニカム構造部4の開口率(%)は、例えば、光学顕微鏡によって測定することができる。
【0022】
隔壁1の気孔率(%)は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の気孔率の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。気孔率の測定は、ハニカム構造体100から隔壁1の一部を切り出して試験片とし、このようにして得られた試験片を用いて行うことができる。
【0023】
上記式(1)で示される値を0.05~0.12とすることで、昇温性に優れるとともに、排気ガス浄化用の触媒を担持した際に、担持した触媒の剥がれを有効に抑制することができる。なお、上記式(1)で示される値については、0.07~0.10が好ましく、0.08~0.09が更に好ましい。
【0024】
ハニカム構造部4の開口率(%)は、80~90%であり、81~89%であることが更に好ましく、82~88%であることが特に好ましい。ハニカム構造部4の開口率(%)が80%未満であると、昇温性及び煤詰まりの点で好ましくない。また、ハニカム構造部4の開口率(%)が90%を超えると、アイソスタティック強度が低下し、キャニング時に破損し易くなることがある点で好ましくない。
【0025】
隔壁1の気孔率(%)は、30~60%であり、30~55%であることが更に好ましく、30~45%であることが特に好ましい。隔壁1の気孔率(%)が25%未満であると、触媒剥がれの点で好ましくない。また、隔壁1の気孔率(%)が60%を超えると、アイソスタティック強度が低下し、キャニング時に破損し易くなることがある点で好ましくない。
【0026】
また、ハニカム構造体100は、隔壁1の平均細孔径(μm)の値をDとし、隔壁1の幾何学的表面積(mm2/mm3)の値をGとし、下記式(2)で示される値が、20~30(μm×mm2/mm3)である。
【0027】
式(2):D×G
【0028】
隔壁1の平均細孔径(μm)は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の平均細孔径の測定は、気孔率の測定と同様に、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。
【0029】
隔壁1の幾何学的表面積(mm2/mm3)は、光学顕微鏡によって測定された値である。隔壁1の幾何学的表面積の測定は、例えば、まず、光学顕微鏡により、セル2を区画する隔壁1の表面の長さの測定を行う。また、その隔壁1の単位体積あたりの面積の測定を行う。これらの結果に基づき、隔壁1の幾何学的表面積(mm2/mm3)を求めることができる。なお、「隔壁1の表面の長さ」とは、セル2をハニカム構造体100の端面側から観察したときの、当該セル2の周長のことを意味する。
【0030】
参考例として、上記式(2)で示される値を8~50(μm×mm2/mm3)とすることで、触媒の剥がれを有効に抑制することができるとともに、キャニング時にハニカム構造体100の外周面に付与される圧縮面圧による破損を有効に抑制することができる。なお、上記式(2)で示される値については、10~40(μm×mm2/mm3)が好ましく、本発明では上記式(2)で示される値が20~30(μm×mm2/mm3)である。
【0031】
参考例として、隔壁1の平均細孔径(μm)は、1~20μmであることが好ましく、3~15μmであることが更に好ましく、本発明では平均細孔径(μm)が4~13μmである。隔壁1の平均細孔径(μm)が1μm未満であると、触媒剥がれの点で好ましくない。例えば、隔壁1の内部へ侵入する触媒量が少ないため、触媒によって形成された触媒層と隔壁1との接着面積が小さく、触媒が剥がれやすくなることがある。また、隔壁1の平均細孔径(μm)が20μmを超えると、浄化性能の点で好ましくない。例えば、触媒の多くが隔壁1の内部に侵入し、浄化に寄与する隔壁1表面の触媒の量が少なくなるため、浄化性能が低下することがある。
【0032】
隔壁1の幾何学的表面積(mm2/mm3)は、1~4mm2/mm3であり、1.5~3.5mm2/mm3であることが更に好ましく、2~3mm2/mm3であることが特に好ましい。隔壁1の幾何学的表面積(mm2/mm3)が1mm2/mm3未満であると、昇温性の点で好ましくない。また、隔壁1の幾何学的表面積(mm2/mm3)が4mm2/mm3を超えると、煤詰まりの点で好ましくない。例えば、セル2の開口径を大きくすることが難しくなり、煤が詰まりやすくなることがある。
【0033】
更に、ハニカム構造体100は、隔壁1によって取り囲まれたセル2の水力直径が、1.1mm以上である。「セル2の水力直径」とは、各セル2の断面積及び周長に基づき、4×(断面積)/(周長)によって計算される値である。セル2の水力直径は、1.1~1.7mmであることが好ましく、1.2~1.6mmであることが更に好ましく、1.3~1.5mmであることが特に好ましい。セル2の水力直径が1.1mm未満であると、排気ガス中の煤等の粒子状物質が、セル2の内部に詰まりやすくなる。
【0034】
隔壁1の表面粗さRaが、1μm以上であることが好ましく、1~4μmであることが更に好ましく、1.5~3.5μmであることが特に好ましい。隔壁1の表面粗さRaが1μm未満であると、キャニング時の保持の点で好ましくない。即ち、ハニカム構造体100の製法上、隔壁1の表面粗さと外周壁3の表面粗さは概ね同じになるため、外周壁3の表面粗さが小さく、キャニング時に、ハニカム構造体100を安定的に保持しにくくなることがある。隔壁1の表面粗さRaは、三次元測定機によるJIS B0633:2001に記載の方法にて測定した値とする。
【0035】
ハニカム構造体100は、隔壁1の厚さが、0.06~0.21mmであることが好ましく、0.07~0.15mmであることが更に好ましい。隔壁1の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡又はマイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。隔壁1の厚さが0.06mm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。一方、隔壁1の厚さが0.21mmを超えると、圧力損失が増大することがある。
【0036】
ハニカム構造部4に形成されているセル2の形状については特に制限はない。例えば、セル2の延びる方向に直交する断面における、セル2の形状としては、多角形、円形、楕円形等を挙げることができる。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等を挙げることができる。なお、セル2の形状は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形であることが好ましい。また、セル2の形状については、全てのセル2の形状が同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。例えば、図示は省略するが、四角形のセルと、八角形のセルとが混在したものであってもよい。また、セル2の大きさについては、全てのセル2の大きさが同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、図示は省略するが、複数のセルのうち、一部のセルの大きさを大きくし、他のセルの大きさを相対的に小さくしてもよい。なお、本発明において、セル2とは、隔壁1によって取り囲まれた空間のことを意味する。
【0037】
隔壁1によって区画形成されるセル2のセル密度が、30~70個/cm2であることが好ましく、35~65個/cm2であることが更に好ましく、40~50個/cm2であることが特に好ましい。このように構成することによって、本実施形態のハニカム構造体100を、自動車のエンジンから排出される排気ガスを浄化するための浄化部材(例えば、触媒担体)として好適に利用することができる。
【0038】
ハニカム構造部4の外周壁3は、隔壁1と一体的に構成されたものであってもよいし、隔壁1を囲繞するように外周コート材を塗工することによって形成した外周コート層であってもよい。図示は省略するが、外周コート層は、製造時において、隔壁と外周壁とを一体的に形成した後、形成された外周壁を、研削加工等の公知の方法によって除去した後、隔壁の外周側に設けることができる。
【0039】
ハニカム構造部4の形状については特に制限はない。ハニカム構造部4の形状としては、第一端面11及び第二端面12の形状が、円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。
【0040】
ハニカム構造部4の大きさ、例えば、第一端面11から第二端面12までの長さや、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。本実施形態のハニカム構造体100を、排気ガス浄化用の浄化部材として用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。例えば、ハニカム構造部4の第一端面11から第二端面12までの長さは、72~254mmであることが好ましく、102~203mmであることが更に好ましい。また、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する断面の面積は、1900~130000mm2であることが好ましく、5000~100000mm2であることが更に好ましい。
【0041】
隔壁1の材質が、コージェライト、炭化珪素、窒化珪素、及びムライトからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。隔壁1を構成する材料は、上記群に列挙された材料を、20質量%以上含む材料であることが好ましく、30質量%以上含む材料であることが更に好ましく、50質量%以上含む材料であることが特に好ましい。
【0042】
ハニカム構造体100においては、複数のセル2を区画形成する隔壁1に、排気ガス浄化用の触媒が担持されていてもよい。隔壁1に触媒を担持するとは、隔壁1の表面及び隔壁1に形成された細孔内に、触媒が担持されることをいう。特に、ハニカム構造体100においては、隔壁1に形成された細孔内に担持される触媒の量を多くすることができるため、排気ガス浄化用の触媒の担持後における、圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0043】
ハニカム構造部4の隔壁1に担持される触媒の単位体積当たりの担持量については、使用する触媒の種類に応じて適宜決定することができる。触媒の担持方法としては、例えば、ハニカム構造部4に対して、触媒成分を含む触媒スラリーをウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等を挙げることができる。排気ガス浄化用の触媒としては、例えば、SCR触媒を挙げることができる。
【0044】
ハニカム構造体100は、上記したようなSCR触媒などの排気ガス浄化用の触媒を担持するための触媒担体として好適に用いることができる。触媒を担持したハニカム構造体100は、内燃機関の排気系に設けられて使用される。触媒を担持したハニカム構造体100は、この排気系に別途設けられた酸化触媒(図示せず)よりも排気系の上流側に配置することによって使用される。また、参考例として、触媒を担持したハニカム構造体100は、排ガス浄化フィルタ(図示せず)よりも排気系の上流側に配置することによって使用することができる。
【0045】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体を製造する方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造部を作製するための可塑性の坏土を調製する。ハニカム構造部を作製するための坏土は、原料粉末として、前述のハニカム構造部の好適な材料の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、造孔材、及び水を添加することによって調製することができる。バインダとしては、例えば、メチルセルロース(Methylcellulose)や、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methylcellulose)等を挙げることができる。また、添加剤としては、界面活性剤等を挙げることができる。造孔材の粒子径、及びその添加量を調整することにより、隔壁の気孔率及び平均細孔径を調節することができる。
【0046】
次に、このようにして得られた坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及びこの隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を作製する。なお、ハニカム成形体を押出成形する際には、押出成形用の口金により、ハニカム成形体の開口率(%)が所望の値となるように調節することが好ましい。
【0047】
次に、得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥する。次に、ハニカム成形体を焼成することにより、ハニカム構造体を製造する。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を10質量部、分散媒を4質量部、有機バインダを4質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては、水を使用した。有機バインダとしては、メチルセルロース(Methylcellulose)を使用した。分散剤としては、デキストリン(Dextrin)を使用した。造孔材としては、平均粒子径5μmの吸水性ポリマーを使用した。
【0050】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形状のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形とした。
【0051】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。次に、乾燥したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカム構造体を製造した。
【0052】
実施例1のハニカム構造体は、第一端面及び第二端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。第一端面及び第二端面の直径の大きさは、190.5mmであった。また、ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さは、101.6mmであった。実施例1のハニカム構造体は、隔壁の厚さが0.114mmであり、セル密度が62.0個/cm2であり、セルピッチが1.27mmであった。ハニカム構造体の開口率Aは、82.8%であった。セルの水力直径は、1.16mmであった。各結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
また、実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、「気孔率P(%)」、「幾何学的表面積G(mm2/mm3)」、「平均細孔径D(μm)」、及び「表面粗さRa(μm)」の測定を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[気孔率P(%)]
Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて、隔壁の気孔率を測定した。気孔率の測定は、ハニカム構造体から隔壁の一部を切り出して試験片とし、得られた試験片を用いて行った。試験片は、縦、横、高さのそれぞれの長さが、約10mm、約10mm、約10mmの直方体のものとした。なお、試験片は、ハニカム構造体の軸方向の中心付近から切り出した。
【0056】
[幾何学的表面積G(mm2/mm3)]
光学顕微鏡を用いて、測定した。
【0057】
[平均細孔径D(μm)]
Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて、隔壁の平均細孔径を測定した。平均細孔径の測定においても、気孔率の測定に用いた試験片を用いた。
【0058】
[表面粗さRa(μm)]
三次元測定装置を用いて測定した。
【0059】
実施例1のハニカム構造体は、気孔率Pが45%であり、幾何学的表面積Gが2.87mm2/mm3であり、平均細孔径Dが6μmであり、表面粗さRaが2.1μmであった。得られた各値を元に、「式(1):(1-A/100)×(1-P/100)」及び「式(2):D×G」の値を算出した。結果を表1に示す。
【0060】
実施例1のハニカム構造体の隔壁に、以下の方法で触媒を担持した。まず、触媒としてゼオライトを含む触媒スラリーを調製した。この触媒スラリーを、ハニカム構造体に対して、乾燥後の単位体積当たりの担持量が150g/Lとなるように担持した。触媒の担持においては、ハニカム構造体をディッピング(Dipping)して、余分な触媒スラリーを空気にて吹き飛ばして、含浸させた。そして120℃の温度で乾燥させ、さらに500℃、3時間の熱処理を行うことにより、触媒を担持したハニカム構造体を得た。実施例1のハニカム構造体に担持した触媒の担持量は、150g/Lである。
【0061】
上記のようにして触媒を担持した実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、「昇温試験」、「煤詰まり試験」、「触媒剥がれ試験」、「キャニング試験」を行った。結果を、表2に示す。
【0062】
【0063】
[昇温試験]
ハニカム構造体を収納する金属ケースと、当該金属ケース内に加熱ガスを供給することができるプロパンガスバーナーと、を備えた「プロパンガスバーナー試験機」を用いて、ハニカム構造体の加熱試験を実施した。上記加熱ガスは、ガスバーナー(プロパンガスバーナー)でプロパンガスを燃焼させることにより発生する燃焼ガスとした。そして、上記加熱試験によって、ハニカム構造体の450℃に達する時間を確認することにより、昇温性を評価した。具体的には、まず、プロパンガスバーナー試験機の金属ケースに、得られたハニカム構造体を収納(キャニング)した。そして、金属ケース内に、プロパンガスバーナーにより加熱されたガス(燃焼ガス)を供給し、ハニカム構造体内を通過するようにした。金属ケースに流入する加熱ガスの温度条件(入口ガス温度条件)を以下のようにした。まず、2分で600℃まで昇温し、600℃で10分間保持した。このような昇温保持の一連の操作を「昇温操作」と称する。その後、ハニカム構造体の450℃に達する時間を確認した。23秒以下の場合、表2にて「OK」とし、23秒より上の場合、表2にて「NG」とする。
【0064】
[煤詰まり試験]
ハニカム構造体を収納する金属ケースと、当該金属ケース内に加熱ガスを供給することができるエンジン又は煤発生装置を用いて、ハニカム構造体の煤詰まり試験を実施した。ガス温度200℃、流量1.5Nm3/minの条件で、ハニカム構造体のサイズ:直径190.5mmで全長101.6mmに3時間ガスを流通させ、その後、ハニカム構造体のセルの表面を光学顕微鏡で観察した。ハニカム構造体のセルの1/2未満の面積が煤で閉塞されていればOKとし、セルの1/2以上の面積が煤で閉塞されていればNGとした。
【0065】
[触媒剥がれ試験]
ハニカム構造体について、エアーガンにて0.5MPa工場エア―を吹き付け、吹き付け前後の重量変化が5%未満をOKとし、5%以上をNGとした。
【0066】
[キャニング試験]
ハニカム構造体について、アイソスタティック強度を測定し、1MPa以上をOK、1MPa未満をNGとした。アイソスタティック強度は社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)のM505-87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて行った。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に、ハニカム構造体を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。アイソスタティック破壊強度試験によって測定されるアイソスタティック強度は、ハニカム構造体が破壊したときの加圧圧力値(MPa)で示される。
【0067】
(実施例2~11)
ハニカム構造体の構成を表1に示すように変更したハニカム構造体を作製した。気孔率Pと平均細孔径Dについては、造孔材の量と、サイズによって調整した。幾何学的表面積Gについては、口金によって調整した。実施例2~11の製造時における変更点については、以下の通りである。以下、実施例1~11の記載を、参考例1~11と読み替える。
【0068】
実施例2においては、造孔材の添加量を10質量部とし、平均粒子径5μmの造孔材を用いた。なお、造孔材の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対する比率を示し、これ以降の値も同様の比率とする。
【0069】
(比較例1~7)
ハニカム構造体の構成を表1に示すように変更したハニカム構造体を作製した。比較例1~7の製造時における変更点については、以下の通りである。
【0070】
比較例1においては、造孔材の添加量を5質量部とし、平均粒子径3μmの造孔材を用いた。
【0071】
実施例2~11及び比較例1~7のハニカム構造体について、「昇温試験」、「煤詰まり試験」、「触媒剥がれ試験」、「キャニング試験」を行った。結果を、表2に示す。
【0072】
(結果)
実施例1~11のハニカム構造体は、「昇温試験」、「煤詰まり試験」、「触媒剥がれ試験」、「キャニング試験」の全てにおいて良好な結果を得ることができた。一方、比較例1のハニカム構造体は、式(1)の値が0.13であり、昇温試験において昇温性が悪いという結果となった。また、比較例1~3,5,6のハニカム構造体は、セルの水力直径が1.1mm未満であり、煤詰まり試験において、煤によるセルの詰まりが確認された。比較例4のハニカム構造体は、式(2)の値が7であり、触媒剥がれ試験において、触媒の剥がれが確認された。触媒剥がれ試験に関しましては、比較例5,6のハニカム構造体についても、触媒の剥がれが確認された。比較例5のハニカム構造体の触媒の剥がれについては、セル密度が高く水力直径が小さいことが原因と推察される。また、比較例6のハニカム構造体については、式(1)の値が0.07であり、キャニング試験においても不合格となった。比較例7のハニカム構造体は、式(2)の値が57であり、キャニング試験が不合格となった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のハニカム構造体は、排気ガス浄化用の触媒を担持するための触媒担体として利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、4:ハニカム構造部、11:第一端面、12:第二端面、100:ハニカム構造体。