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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20231220BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20231220BHJP
   F16N 7/36 20060101ALI20231220BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H1/28
F16N7/36
H02K7/116
F16H57/04 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020058926
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021156395
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】水田 博史
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-315456(JP,A)
【文献】特開2008-144900(JP,A)
【文献】特開2017-057877(JP,A)
【文献】特開2002-295646(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0125691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 1/28
F16N 7/36
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシング内に収納された減速機構と、前記ケーシング内に収納された潤滑剤と、を備えた減速装置であって、
前記ケーシング内の空間と連通し、前記ケーシング内の空間との間で前記潤滑剤が流通可能な潤滑剤タンクを有し、
第1姿勢から第2姿勢に変化したときに、前記ケーシング内の前記潤滑剤が前記潤滑剤タンク内に退避し、前記第2姿勢から前記第1姿勢に変化したときに、前記潤滑剤タンク内の前記潤滑剤が前記ケーシング内に供給され、
前記ケーシングは、前記減速機構よりも入力側に供給穴を有し、当該供給穴が前記潤滑剤タンク内の空間と連通し、
前記潤滑剤タンクは、前記ケーシングの前記供給穴に前記潤滑剤を案内する案内面を有し、当該案内面は、前記第2姿勢から前記第1姿勢になったときに、より水平に近づく傾斜面とされることを特徴とする減速装置。
【請求項2】
ケーシングと、前記ケーシング内に収納された減速機構と、前記ケーシング内に収納された潤滑剤と、を備えた減速装置であって、
前記ケーシング内の空間と連通し、前記ケーシング内の空間との間で前記潤滑剤が流通可能な潤滑剤タンクを有し、
第1姿勢から第2姿勢に変化したときに、前記ケーシング内の前記潤滑剤が前記潤滑剤タンク内に退避し、前記第2姿勢から前記第1姿勢に変化したときに、前記潤滑剤タンク内の前記潤滑剤が前記ケーシング内に供給され、
モータと本減速装置とを連結するための連結フランジを有し、前記潤滑剤タンクは、前記連結フランジの前記モータ側に配置されるタンク本体と、前記連結フランジの本減速装置側に配置される連結タンクと、を有し、前記タンク本体と前記連結タンクは前記連結フランジに設けられた連通穴により連通することを特徴とする減速装置。
【請求項3】
ケーシングと、前記ケーシング内に収納された減速機構と、前記ケーシング内に収納された潤滑剤と、を備えた減速装置であって、
前記ケーシング内の空間と連通し、前記ケーシング内の空間との間で前記潤滑剤が流通可能な潤滑剤タンクを有し、
第1姿勢から第2姿勢に変化したときに、前記ケーシング内の前記潤滑剤が前記潤滑剤タンク内に退避し、前記第2姿勢から前記第1姿勢に変化したときに、前記潤滑剤タンク内の前記潤滑剤が前記ケーシング内に供給され、
本減速装置は、被駆動装置に取り付けられ、前記被駆動装置の動作に応じて、前記第1姿勢と前記第2姿勢の間で姿勢が変化することを特徴とする減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力軸に入力された回転を減速して出力軸に出力する減速機が記載されている。この減速機は、ケーシングに包囲された複数の歯車を有する。この減速機は、油圧ポンプを駆動して潤滑箇所に注油するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭51-52175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の減速機のように、油圧ポンプを駆動して潤滑箇所に潤滑する構成では、油圧ポンプが故障したときに潤滑が確保されない可能性がある。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、潤滑を確保できる減速装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の減速装置は、ケーシングと、ケーシング内に収納された減速機構と、ケーシング内に収納された潤滑剤と、を備えた減速装置であって、ケーシング内の空間と連通し、ケーシング内の空間との間で潤滑剤が流通可能な潤滑剤タンクを有する。第1姿勢から第2姿勢に変化したときに、ケーシング内の潤滑剤が潤滑剤タンク内に退避し、第2姿勢から第1姿勢に変化したときに、潤滑剤タンク内の潤滑剤がケーシング内に供給される。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、潤滑を確保できる減速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る減速装置が取り付けられた被駆動装置を概略的に示す側面図である。
図2】実施形態に係る減速装置を概略的に示す側面図である。
図3図2の減速装置の潤滑剤タンクを示す平面図である。
図4図2の減速装置の潤滑剤タンクを示す側面図である。
図5図2の減速装置の潤滑剤タンクを示す正面図である。
図6図2の減速装置の連結タンクの周辺を示す側断面図である。
図7図6のA-A線に沿って切断した断面図である。
図8図2の減速装置の潤滑剤の状態を模式的に示す側面図である。
図9図2の減速装置の潤滑剤の状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、入力回転を減速して被駆動装置を駆動する減速装置について研究し、以下の知見を得た。用途によっては、減速装置は、姿勢が変化する環境で運転されることがある。例えば、クレーンのアームの電動シリンダに取り付けられた減速装置は、電動シリンダの被駆動部材を駆動することによりアームを上げ下げする。アームが上げ下げされると、減速装置の姿勢(軸方向が水平方向となす角度)は、電動シリンダの角度と一体的に変化する。
【0011】
減速装置の適正潤滑剤量は姿勢によって異なるため、姿勢が変化すると、一定量の潤滑剤を保持する方式では、姿勢によって潤滑剤量の過剰または不足が発生する。このため、強制循環潤滑方式の強制循環装置を減速装置に外付けし、強制循環装置によって潤滑剤量を制御することが考えられる。しかし、この方法では、強制循環装置が故障した場合や、外部配管から潤滑剤が漏れた場合などに潤滑剤不足が発生するおそれがある。
【0012】
これらから、本発明者は、強制循環装置を用いなくとも、減速装置の姿勢に応じて減速装置の潤滑剤量を調整できる機構を着想した。この調整機構によれば、減速装置の姿勢が変化する状況でも、各姿勢において適正な潤滑剤量を実現し、減速装置の安定的な運転が可能になる。以下、実施形態を説明する。
【0013】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0015】
[実施形態]
図1を参照して、本開示の実施形態に係る減速装置100が取り付けられた被駆動装置80を説明する。図1は、減速装置100が取り付けられた被駆動装置80を概略的に示す側面図である。この図は、一部を破断して示している。減速装置100は、被駆動装置80に取り付けられ、被駆動装置80の動作に応じて、後述する第1姿勢と第2姿勢の間で姿勢が変化する。減速装置100は、モータ70の回転を減速して被駆動装置80を回転駆動する。
【0016】
図1の例では、被駆動装置80は、シリンダ本体83と出力ロッド84とを備え、被駆動部材85(例えば、入力歯車)に入力された回転に応じて、シリンダ本体83に対して出力ロッド84が進退する電動シリンダである。減速装置100は、出力軸14に出力した回転を出力歯車15を介して被駆動部材85に伝達する。被駆動装置80は、クレーンなどのアーム(不図示)を備える装置に搭載され、出力ロッド84を進出させることによりアームを上昇させ、出力ロッド84を後退させることによりアームを下降させる。以下の説明では、水平面に対して垂直であることを単に垂直という。
【0017】
一例として、アームの起伏角が最大(例えば、垂直)であるとき、被駆動装置80および減速装置100は、実線で示すように、その軸方向が水平から90°傾斜した大傾斜姿勢になる。また、アームの起伏角が0°(水平)であるとき、被駆動装置80および減速装置100は、破線で示すように、軸方向が大傾斜姿勢よりも水平に近い低傾斜姿勢になる。減速装置100は、各姿勢での適切な潤滑を確保するために、その姿勢に応じて潤滑剤を供給しまたは退避させる潤滑剤タンク50を備える。
【0018】
図2を参照して、減速装置100の全体構成を説明する。図2は、減速装置100を示す側面図であり、一部を破断して示している。図2は、後述する中心軸線Laが水平となる状態にて後述する第2姿勢における減速装置100を示している。減速装置100は、減速機構10と、ケーシング30と、潤滑剤タンク50と、潤滑剤58とを備える。減速装置100は、減速装置100をモータ70と連結するための連結フランジ40を有する。潤滑剤タンク50は、連結フランジ40のモータ70側に配置されるタンク本体51と、連結フランジ40の減速装置100側に配置される連結タンク60とを有する。タンク本体51と連結タンク60とは連結フランジ40に設けられた連通穴を通じて連通する。タンク本体51は、第2姿勢でモータ70の下側に配置され、連結タンク60は、第2姿勢で減速機構10の下側に配置される。連結フランジ40および潤滑剤タンク50については後述する。
【0019】
減速装置100は、モータ70から入力された回転を減速して出力軸14から外部の被駆動装置80に出力する。以下、出力軸14の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(減速機構10に対してモータ70が配置される側)を入力側といい、他方側を反入力側という。また、中心軸線Laが水平方向に向いた状態における水平面内で軸方向に直交する方向を「幅方向」といい、矢印Wで示すことがある。また、図2にて、矢印Zの方向を「上側」、「上」といい、矢印Zと逆向きの方向「下側」、「下」ということがある。また、軸方向で矢印Xの方向に視た状態を正面視という。また、矢印Zの方向に視た状態を平面視という。
【0020】
減速機構10は、モータ70から入力された回転を減速して出力軸14に出力する。出力軸14の反入力側の端部には、被駆動装置80の入力歯車(不図示)と噛み合い、回転を伝達する出力歯車15が固定される。出力歯車15は、出力軸14に例えばスプライン結合される。
【0021】
ケーシング30は、減速機構10および潤滑剤58を収納する外殻であり、ケーシング内空間30aを規定する。潤滑剤58は、ケーシング30内に収納され、減速機構10を潤滑するとともに、減速機構10の冷却にも寄与する。潤滑剤タンク50は、ケーシング内空間30aと連通し、ケーシング内空間30aとの間で潤滑剤58が流通可能に構成されている。
【0022】
減速装置100は、減速装置100が第1姿勢から第2姿勢に変化したときに、ケーシング30内の潤滑剤58が潤滑剤タンク50内に退避し、減速装置100が第2姿勢から第1姿勢に変化したときに、潤滑剤タンク50内の潤滑剤58が連結タンク60を通じてケーシング30内に供給されるように構成されている。本明細書では、減速装置100の軸方向の水平方向に対する傾斜を「軸方向の傾斜」という。
【0023】
第1姿勢は、第2姿勢よりも軸方向が鉛直に近い(軸方向の傾斜が90°に近い)姿勢であり、第2姿勢は、第1姿勢よりも軸方向の傾斜が0°(水平)に近い姿勢である。以下、便宜上、第1姿勢は、減速装置100の出力軸14が下方に位置し、軸方向の傾斜が90°(垂直)となる姿勢とし、第2姿勢は、減速装置100の軸方向の傾斜が0°(水平)となる姿勢とする。この傾斜の記載は減速装置100の姿勢の変化範囲を限定するものではない。
【0024】
減速機構10を説明する。減速機構10の構成に限定はないが、この例の減速機構10は、それぞれ単純遊星減速機である1段目減速機16と、2段目減速機17と、3段目減速機18と、4段目減速機19とを有する。1段目減速機16、2段目減速機17、3段目減速機18および4段目減速機19はこの順でカスケード接続されており、入力回転を順次減速して出力軸14に出力する。
【0025】
1段目減速機16は、第1入力軸16jと、第1太陽歯車16sと、第1遊星歯車16pと、第1遊星ピン16bと、第1キャリヤ16cと、第1内歯歯車16dとを有する。2段目減速機17は、第2入力軸17jと、第2太陽歯車17sと、第2遊星歯車17pと、第2遊星ピン17bと、第2キャリヤ17cと、第2内歯歯車17dとを有する。3段目減速機18は、第3入力軸18jと、第3太陽歯車18sと、第3遊星歯車18pと、第3遊星ピン18bと、第3キャリヤ18cと、第3内歯歯車18dとを有する。4段目減速機19は、第4入力軸19jと、第4太陽歯車19sと、第4遊星歯車19pと、第4遊星ピン19bと、第4キャリヤ19cと、第4内歯歯車19dとを有する。
【0026】
1段目~4段目減速機16~19は、第1~第4入力軸16j~19jと一体的に回転する第1~第4太陽歯車16s~19sから回転を入力し、第1~第4遊星歯車16p~19pを第1~第4内歯歯車16d~19dとの間で公転させ、この第1~第4遊星歯車16p~19pの公転を第1~第4遊星ピン16b~19bを介して第1~第4キャリヤ16c~19cに伝達し、第1~第4キャリヤ16c~19cから取り出す構成とされている。
【0027】
第1~第4入力軸16j~19jは、中心軸線Laと同軸に配置される。第1入力軸16jは、モータ軸72に連結され、モータ70の回転が入力される。第1入力軸16jとモータ軸72とは、それぞれ反対方向からスリーブ体64に挿入され、スリーブ体64に例えばスプライン結合される。第2~第4入力軸17j~19jは、前段の第1~第3キャリヤ16c~18cに連結され、前段の1段目~3段目減速機16~18の出力回転が入力される。
【0028】
第1~第4太陽歯車16s~19sは、第1~第4入力軸16j~19jの反入力側の部分の外周に固定され、これらと一体的に回転する。
【0029】
第1~第4遊星歯車16p~19pは、周方向に等間隔で複数(この例では3つ)配置される。第1~第4遊星歯車16p~19pは、第1~第4太陽歯車16s~19sに外接噛み合いし、第1~第4内歯歯車16d~19dに内接噛み合いする。
【0030】
第1~第4内歯歯車16d~19dは、ケーシング30に固定されている。より具体的には、第1、第2、第4内歯歯車16d、17d、19dは、後述する第1、第2、第4ケーシング体31、32、34と一体的に構成され、第3内歯歯車18dは、第3ケーシング体33に嵌合した状態で固定されている。
【0031】
第1~第4遊星ピン16b~19bは、第1~第4遊星歯車16p~19pの中心孔を貫通する。第1~第4遊星歯車16p~19pは、第1~第4遊星ピン16b~19bにローラ軸受を介して回転可能に支持される。特に、第4遊星歯車19pと第4遊星ピン19bとの間には2列のローラ軸受が設けられている。第1~第4遊星ピン16b~19bそれぞれの反入力側は、第1~第4キャリヤ16c~19cに固定される。
【0032】
第1~第4キャリヤ16c~19cは、第1~第4遊星歯車16p~19pの反入力側に配置される略円板状の部材で、中心軸線La周りに回転する。第1~第3キャリヤ16c~18cの中心孔に第2~第4入力軸17j~19jが、例えばスプライン結合される。第4キャリヤの中心孔に出力軸14が、例えばスプライン結合される。第1~第4キャリヤ16c~19cの中心孔から径方向にオフセットした位置に設けられたオフセット孔に第1~第4遊星ピン16b~19bが圧入等により結合される。
【0033】
4段目減速機19は、第4遊星歯車19pの入力側に配置される入力側キャリヤ体19eを有する。入力側キャリヤ体19eは、第4入力軸19jを隙間を介して環囲する中空の環状の部材である。入力側キャリヤ体19eの中心から径方向にオフセットした位置に設けられたオフセット孔に第4遊星ピン19bの入力側が圧入等により結合される。第4キャリヤ19cと入力側キャリヤ体19eとは、軸方向に延びる3本の連結部材19fにより連結される。各連結部材19fは、各第4遊星歯車19pの周方向隙間に配置される。
【0034】
ケーシング30を説明する。ケーシング30は、全体として軸方向に延びる略筒形状を有する。ケーシング30は、入力側から反入力側に向かって順に連結される、連結フランジ40と、導入筒部41と、第1ケーシング体31と、第2ケーシング体32と、第3ケーシング体33と、第4ケーシング体34と、第5ケーシング体35と、第6ケーシング体36と、第7ケーシング体37と、第8ケーシング体38と、第2カバー部39とを含む。第1~第8ケーシング体31~38は互いに、溶接やボルト締めなどにより連結され、一体的な筒状体を構成してもよいし、その一部または全部が一体的に形成されてもよい。
【0035】
第1、第2、第4ケーシング体31、32、34の内周側には、第1、第2、第4内歯歯車16d、17d、19dが一体的に形成されている。第3ケーシング体33の内周側には、第3内歯歯車18dが嵌合固定されている。第8ケーシング体38には、径方向外向きに張り出した反入力側フランジ38fが設けられる。反入力側フランジ38fが被駆動装置80の取付部82にボルトB38により固定されることにより、減速装置100は、被駆動装置80に固定される。
【0036】
第6ケーシング体36と出力軸14との間には、第1主軸受28が設けられる。第8ケーシング体38と出力軸14との間には、第2主軸受29が設けられる。図2の例では、第1主軸受28および第2主軸受29は、例えばそれぞれ正面組合せの2列円筒ころ軸受である。出力軸14は、軸方向に離隔して設けられる第1主軸受28および第2主軸受29を介してケーシング30に支持される。
【0037】
第8ケーシング体38の反入力側には、第2カバー部39が連結される。第2カバー部39は、第8ケーシング体38の反入力側を塞ぐ厚板形状を有する。第2カバー部39は、第8ケーシング体38の反入力側の端面にボルトB39により連結される。第2カバー部39は、その反入力側の端面から反入力側に突き出る中空筒状のカバー筒状部39pを有する。カバー筒状部39pのには、出力軸14を通すための出力軸孔39hが設けられている。
【0038】
カバー筒状部39pの内周面には反入力側オイルシール39sが固定される。反入力側オイルシール39sは、軸方向に隣接して配置される2列のシール体を含む。反入力側オイルシール39sの内周側は、出力軸14の外周面と接する。反入力側オイルシール39sは、ケーシング内空間30aから外部への潤滑剤58の漏れ出しを抑制する。
【0039】
第1ケーシング体31の入力側には、導入筒部41が連結される。導入筒部41は、第1入力軸16j、モータ軸72およびスリーブ体64を環囲する。導入筒部41の内側空間41aはケーシング内空間30aの一部を構成している。
【0040】
図6も参照する。図6は、連結タンク60の周辺を示す側断面図である。ケーシング30は、潤滑剤58の供給穴41hを有する。本実施形態では、図6に示すように、供給穴41hは、減速機構10よりも入力側に配置された導入筒部41に設けられる。潤滑剤58の供給穴41hは、導入筒部41における第2姿勢にて中心軸線Laの下側の周壁面に設けられている。供給穴41hは、平面視にて長手方向が軸方向に延びる矩形形状を有する。供給穴41hの外周側には、潤滑剤タンク50からケーシング内空間30aに潤滑剤58を案内する連結タンク60が接続されている。この構成により、供給穴41hは、潤滑剤タンク50内のタンク内空間50aと連通する。連結タンク60および潤滑剤タンク50は後述する。
【0041】
導入筒部41の入力側には連結フランジ40が連結され、反入力側には中間フランジ41fが連結される。連結フランジ40は、導入筒部41の入力側を塞ぐ厚板形状を有する。連結フランジ40および中間フランジ41fは、導入筒部41に溶接などにより連結される。連結フランジ40および中間フランジ41fは、導入筒部41の外周よりも径方向外側にフランジ状に張り出している。
【0042】
図7も参照する。図7は、図6のA-A線に沿って切断した断面図である。連結フランジ40は、軸方向に視て、上半分が円形であり、下半分が矩形である外形を有する(図7も参照)。連結フランジ40には、モータ軸72を通すためのモータ軸孔40hが設けられている。
【0043】
導入筒部41および連結フランジ40には、周方向に所定の間隔で配置された複数の補強板43が固定される。補強板43は、直角をはさむ2辺を有する多角形の板状部材で、当該2辺が導入筒部41の外筒面と連結フランジ40の反入力側の端面とに溶接で固定されている。
【0044】
図2に示すように、連結フランジ40の入力側の面には、モータ70のモータフランジ70fが、ボルトB40により連結される。連結フランジ40の反入力側には、入力側シールユニット68が設けられている。入力側シールユニット68は、連結フランジ40に溶接などで固定される中空円筒状のシール保持部68hと、シール保持部68hの内周面に固定された入力側オイルシール68sとを含む。入力側オイルシール68sの内周側は、スリーブ体64の外周面と接する。入力側オイルシール68sは、ケーシング内空間30aから外部への潤滑剤58の漏れ出しを抑制する。
【0045】
モータ70は、モータフランジ70fから、入力側に延びて内部機構を取り囲む筒状のモータケース70mを有する。モータ70の構成に限定はないが、本実施形態のモータ70は、インバータモータである。
【0046】
図2図5を参照して、潤滑剤タンク50を説明する。図3は、潤滑剤タンク50の平面図であり、図4は、潤滑剤タンク50の側面図であり、図5は、潤滑剤タンク50の正面図である。これらの図では、潤滑剤タンク50のうち、主にタンク本体51の周辺を示している。前述したように、潤滑剤タンク50は、ケーシング内空間30aとの間で潤滑剤58が流通可能なタンクである。本実施形態の潤滑剤タンク50は、タンク本体51と、タンク連結板52と、側板53と、通気部54と、連通パイプ55と、連結タンク60とを含む。
【0047】
タンク本体51は、上下に扁平な直方体状のタンク内空間50aを包囲する板金製の箱で、反入力側に開口51hを有する。タンク連結板52は、タンク本体51を減速機構10に連結するための厚板部材である。タンク連結板52は、正面視で上辺に円弧状の切り欠きが設けられた横長の長方形形状を有する。図5に示すように、タンク連結板52には、それぞれ軸方向に貫通する、第1連通穴52hと、複数のボルト孔52kとが設けられる。第1連通穴52hは、正面視で横長の長方形形状を有する。タンク連結板52は、開口51hを閉じるようにタンク本体51に溶接等により固定される。第1連通穴52hは、開口51hを介して潤滑剤タンク50のタンク内空間50aと連通する。
【0048】
側板53は、タンク本体51の幅方向の両側面に溶接等により固定された一対の板状部材である。側板53は、側面視で、タンク本体51の側面を覆う外形を有し、その上側に、入力側から反入力側に向かって上向きに傾斜する傾斜部を有する。側板53は、反入力側の縁53fがタンク連結板52の入力側に溶接等により固定されることにより、タンク本体51を補強する。
【0049】
図2図5を参照して、通気部54を説明する。通気部54は、連通パイプ55を介して、導入筒部41に設けられた貫通孔41jと連通する。本実施形態の通気部54は、潤滑剤タンク50の側面に設けられており、側板53およびタンク本体51の側壁を貫通する貫通孔を有する。通気部54は、連通パイプ55を介して導入筒部41と潤滑剤タンク50との間で、主に空気の移動を許容する。連通パイプ55は、運転中にケーシング内空間30aの圧力が上昇したときに、空気などの退避路としても機能する。
【0050】
図6図7も参照して、連結タンク60を説明する。図7は、図6のA-A線に沿って切断した断面図である。連結タンク60は、潤滑剤58を蓄える案内空間60aを有して潤滑剤タンク50の一部を構成する。また、連結タンク60は、タンク内空間50aとケーシング内空間30aとを繋ぐ潤滑剤58の通路として機能する。連結タンク60は、案内空間60aを包囲する第1、第2側壁部61、62および底壁部63を有する。第1、第2側壁部61、62は、案内空間60aを幅方向に挟んで対向する側壁を構成する。底壁部63は、案内空間60aの下方を規定する底壁を構成する。第1、第2側壁部61、62は、底壁部63の幅方向両端から上方に延びる。
【0051】
第1、第2側壁部61、62の上側は、導入筒部41に溶接等により固定される。第1、第2側壁部61、62の入力側は、連結フランジ40に溶接等により固定され、反入力側は、中間フランジ41fに溶接等により固定される。
【0052】
案内空間60aの上側は、ケーシング30の供給穴41hを通じてケーシング内空間30aと繋がる。案内空間60aの入力側は、連結フランジ40に塞がれる。連結フランジ40には、軸方向に貫通する第2連通穴40jが設けられており、案内空間60aの入力側は、第2連通穴40jと、タンク連結板52の第1連通穴52hとを通じて潤滑剤タンク50のタンク内空間50aと繋がる。
【0053】
潤滑剤タンク50は、姿勢が変化するときに、ケーシング30の供給穴41hに潤滑剤58を案内する案内面63gを有する。本実施形態では、案内面63gは連結タンク60の底壁部63に設けられている。案内面63gは、第2姿勢から第1姿勢になったときに、より水平に近づく傾斜面とされる。図6に示すように、案内面63gは、第2姿勢の側面視にて、反入力側から入力側に向かって下向きに傾斜する傾斜面であり、入力側が反入力側より下がっている。つまり、第2姿勢では、案内面63gは、重力の作用により潤滑剤58をケーシング内空間30aからタンク内空間50aへ案内する。
【0054】
また、案内面63gは、第1姿勢の側面視にて、入力側から反入力側に向かって下向きに傾斜する傾斜面であり、反入力側が入力側より下がっている。つまり、第1姿勢では、案内面63gは、重力の作用により潤滑剤58をタンク内空間50aからケーシング内空間30aへ案内する。
【0055】
図1図8図9を参照して、本実施形態の減速装置100の動作を説明する。図8図9は、第1姿勢および第2姿勢の減速装置100の潤滑剤58の状態を模式的に示す側面視の図である。図8図9において、太い実線は潤滑剤58の封入空間を示し、細い一点鎖線は主に減速機構10の回転部分を示す。
【0056】
モータ70の回転に伴い、減速装置100は、出力軸14から被駆動装置80の被駆動部材85に減速回転を伝達する。被駆動装置80の姿勢は、被駆動部材85の回転に応じて変化する。被駆動装置80に取り付けられた減速装置100は、被駆動装置80の姿勢変化と一体的に姿勢が変化する。このとき、減速装置100の姿勢は、図8に示す第1姿勢と図9に示す第2姿勢との間で変化する。
【0057】
図8に示すように、軸方向が垂直(鉛直)となる第1姿勢では、潤滑剤58は、タンク内空間50aからケーシング内空間30aに移動し、潤滑剤58の液面L58は、減速機構10の噛み合い部分が潤滑剤58に浸るレベルに形成される。この例では、最上部に位置する第1内歯歯車16dが潤滑剤58に浸ることが望ましい。一例として、潤滑剤58の液面L58は、第1内歯歯車16dよりも上方に位置する。この場合、減速機構10の潤滑を確保できる。
【0058】
図9に示すように、軸方向が水平となる第2姿勢では、潤滑剤58は、タンク内空間50aおよび案内空間60aに移動し、これらの空間の容量を超えた潤滑剤58がケーシング内空間30aに残る。第2姿勢では、潤滑剤58の液面L58は、各遊星歯車が鉛直方向最下方に位置したときに、遊星歯車と遊星ピンとの間に配置される軸受の一部が浸るレベルに形成される。この例では、中心軸線Laからの距離が最小の第1遊星歯車17pが鉛直方向最下方に位置したときに、当該第1遊星歯車17pと第1遊星ピン16bの間に配置される軸受の少なくとも一部が浸ることが望ましい。一例として、潤滑剤58の液面L58は、第1遊星歯車17pと第1遊星ピン16bの間に配置される軸受の少なくとも一つの転動体よりも上方に位置する。この場合、減速機構10の潤滑を確保できる。
【0059】
第1姿勢および第2姿勢にて、潤滑剤58の液面L58は、入力側オイルシール68sよりも下方に位置することも可能となる。この場合、入力側オイルシール68sからの潤滑剤58の漏れ出しが減り、液面L58よりも上側の空間を確保できる。
【0060】
上述のように構成された本実施形態の減速装置100の特徴を説明する。本実施形態によれば、第1姿勢から第2姿勢に変化したときに、ケーシング30内の潤滑剤58が潤滑剤タンク50内に退避し、第2姿勢から第1姿勢に変化したときに、潤滑剤タンク50内の潤滑剤58がケーシング30内に供給されるので、減速機構10の潤滑を容易に確保できる。
【0061】
また、第2姿勢は、第1姿勢に比べて、減速機構10の軸方向が水平方向に近い姿勢となるので、減速装置100の姿勢変化範囲を広く設定できる。また、ケーシング30は、減速機構10よりも入力側に供給穴41hを有し、供給穴41hが潤滑剤タンク50のタンク内空間50aと連通しているので、潤滑剤タンク50を減速機構10よりも入力側に配置した場合に、重力の作用で潤滑剤58の退避と供給をさせることができる。
【0062】
また、案内面63gが、第2姿勢から第1姿勢になったときに、より水平に近づく傾斜面とされるので、案内面63gが潤滑剤58の移動元から移動先に向かって低くなり、潤滑剤58の移動が円滑になる。
【0063】
また、潤滑剤タンク50は、連結フランジ40のモータ70側に配置されるタンク本体51と、連結フランジ40の減速装置100側に配置される連結タンク60とを有するので、潤滑剤タンク50の合計容量を大きくできる。また、タンク本体51と連結タンク60とは、連結フランジ40に設けられた連通穴40jにより連通するから、連結タンク60を通路として利用できる。
【0064】
また、減速装置100は、被駆動装置80に取り付けられ、被駆動装置80の動作に応じて、第1姿勢と第2姿勢の間で姿勢が変化するので、これらの間の伝達機構を簡素化できる。この結果、装置全体の小型化と軽量化に有利である。
【0065】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。
【0066】
[変形例]
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0067】
実施形態の説明では、第1姿勢は、軸方向の傾斜が90°となる姿勢であり、第2姿勢は、軸方向の傾斜が0°となる姿勢である例を示したがこれに限定されない。第1姿勢は、第2姿勢よりも軸方向の傾斜が大きい姿勢であればよい。
【0068】
実施形態の説明では、減速機構10が単純遊星歯車機構で構成される例を示したが、減速機構10は、単純遊星歯車機構に代えて別の原理で動作する減速機構で構成されてもよいし、異なる原理の減速機構の組合せで構成されてもよい。また、減速機構10は、歯車を有するものに限らず、例えばトラクションドライブでもよい。
【0069】
実施形態の説明では、減速機構10が4段の減速機で構成される例を示したが、減速機の段数に限定はなく、減速機構10は、3段以下または5段以上の減速機で構成されてもよい。
【0070】
実施形態の説明では、連結タンク60を備える例を示したが、連結タンク60に代えて、潤滑剤タンク50とケーシング30とを繋ぐパイプなどの通路部材を備えてもよい。
【0071】
実施形態の説明では、減速機構10が中心軸線La上に配置された減速機で構成される例を示したが、減速機構10は、互いにオフセットした位置に配置された減速機を含んでもよい。
【0072】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0073】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0074】
10 減速機構、 30 ケーシング、 30a ケーシング内空間、 40 連結フランジ、 41 導入筒部、 41h 供給穴、 50 潤滑剤タンク、 50a タンク内空間、 51 タンク本体、 58 潤滑剤、 L58 液面、 60 連結タンク、 63g 案内面、 70 モータ、 80 被駆動装置、 100 減速装置。
図1
図2
図3
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図5
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図9