(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】機械システム
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20231220BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20231220BHJP
F16J 15/53 20060101ALI20231220BHJP
F16J 15/3296 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16J15/3212
F16J15/53
F16J15/3296
(21)【出願番号】P 2020068484
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 諒
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】米内 寿斗
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-028981(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
F16J 15/3212
F16J 15/53
F16J 15/3296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とハウジングとの間の環状の隙間を封止する装置であって、前記回転軸を包囲する環状のシールリップを含む密封装置と、
前記回転軸の回転を検出する検出部と、
前記回転軸に対する前記シールリップの緊迫力を、前記検出部による検出の結果に応じて調整する調整部とを具備
し、
前記調整部は、前記検出部が検出する回転の回転数が閾値を上回る場合における緊迫力が、前記回転数が前記閾値を下回る場合における緊迫力よりも小さくなるように、前記シールリップの緊迫力を調整する
機械システム。
【請求項2】
電流の供給により磁力を発生する電磁石を具備し、
前記調整部は、前記電磁石に発生する磁力を制御することで、当該シールリップの緊迫力を調整する
請求項
1の機械システム。
【請求項3】
回転軸とハウジングとの間の環状の隙間を封止する装置であって、前記回転軸を包囲する環状のシールリップを含む密封装置と、
前記回転軸の回転を検出する検出部と、
電流の供給により磁力を発生する電磁石と、
前記電磁石に発生する磁力を前記検出部による検出の結果に応じて制御することで、前記回転軸に対する前記シールリップの緊迫力
を調整する調整部と
を具備する機械システム。
【請求項4】
前記調整部は、前記検出部が検出する回転の回転数が閾値を上回る場合における緊迫力が、前記回転数が前記閾値を下回る場合における緊迫力よりも小さくなるように、前記シールリップの緊迫力を調整する
請求項
3の機械システム。
【請求項5】
前記調整部は、前記検出部が前記回転軸の回転を検出する場合における緊迫力が、前記検出部が前記回転軸の回転を検出しない場合における緊迫力よりも小さくなるように、前記シールリップの緊迫力を調整する
請求項
3の機械システム。
【請求項6】
前記電磁石は、前記シールリップを包囲する環状に設置される
請求項
2から請求項5の何れかの機械システム。
【請求項7】
前記シールリップは、磁性体であり、
前記調整部は、前記電磁石から前記シールリップに作用する磁力を制御する
請求項
2から請求項6の何れかの機械システム。
【請求項8】
前記密封装置は、前記シールリップを緊縛する環状のガーターバネを含み、
前記ガーターバネは、磁性体であり、
前記調整部は、前記電磁石から前記ガーターバネに作用する磁力を制御する
請求項
2から請求項
7の何れかの機械システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の周囲の隙間を封止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸の外周面とハウジングの貫通孔の内周面との間に形成される環状の間隙を封止する密封装置(オイルシール)が従来から提案されている。例えば特許文献1には、回転軸の外周面に接触する環状のシールリップが形成された密封装置が開示されている。密封装置により密封されたハウジングの内部空間には、例えば潤滑油等の潤滑剤が充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転軸の回転に必要なトルクの低減を目的として密封装置による緊迫力(シールリップが回転軸を締付ける力)を低減する場合が想定される。しかし、緊迫力が低い状態では、回転軸とシールリップとの間に異物が進入した場合に、両者が密着する領域(以下「接触領域」という)に途切れが発生し易い。特に回転軸が静止している状態では、接触領域の途切れを介して潤滑剤が漏出する場合がある。以上の事情を考慮して、本発明は、回転軸のトルクを低減しながら、回転軸の周囲の隙間を適切に封止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係る機械システムは、回転軸とハウジングとの間の環状の隙間を封止する装置であって、前記回転軸を包囲する環状のシールリップを含む密封装置と、前記回転軸の回転を検出する検出部と、前記回転軸に対する前記シールリップの緊迫力を、前記検出部による検出の結果に応じて調整する調整部とを具備する。
【0006】
本発明の好適な態様において、前記調整部は、前記検出部が検出する回転の回転数が閾値を上回る場合における前記緊迫力が、前記回転数が前記閾値を下回る場合における前記緊迫力よりも小さくなるように、前記シールリップの緊迫力を調整する。
【0007】
本発明の他の態様において、前記調整部は、前記検出部が前記回転軸の回転を検出する場合における前記緊迫力が、前記検出部が前記回転軸の回転を検出しない場合における前記緊迫力よりも小さくなるように、前記シールリップの緊迫力を調整する。
【0008】
本発明の好適な態様に係る機械システムは、電流の供給により磁力を発生する電磁石を具備し、前記調整部は、前記電磁石に発生する磁力を制御することで、当該シールリップの緊迫力を調整する。さらに具体的な態様において、前記電磁石は、前記シールリップを包囲する環状に設置される。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記シールリップは、磁性体であり、前記調整部は、前記電磁石から前記シールリップに作用する磁力を制御する。また、他の態様において、前記密封装置は、前記シールリップを緊縛する環状のガーターバネを含み、前記ガーターバネは、磁性体であり、前記調整部は、前記電磁石から前記ガーターバネに作用する磁力を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転軸のトルクを低減しながら、回転軸の周囲の隙間を適切に封止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る電気自動車の構成を例示するブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る機械システムの構成を例示するブロック図である。
【
図3】制御処理の具体的な手順を例示するフローチャートである。
【
図4】第2実施形態における制御処理の具体的な手順を例示するフローチャートである。
【
図5】変形例における回転数の範囲に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な形態について図面を参照しながら以下に説明する。なお、各図面における各要素の寸法および縮尺は実際の製品とは適宜に相違する。
【0013】
A:第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る機械システム30を利用した電気自動車100の構成を例示するブロック図である。第1実施形態の電気自動車100は、電気を動力源とする自動車であり、電源装置10と電動機20と機械システム30とを具備する。
【0014】
電源装置10は、電気自動車100の各要素に電力を供給する電源である。電源装置10は、例えば電動機20および機械システム30に電力を供給する。例えば二次電池または燃料電池等の各種の電池が電源装置10として利用される。
【0015】
電動機20は、電源装置10から供給される電力を機械的な動力に変換するモーターである。具体的には、電動機20は、円柱状の回転軸21を回転させる。回転軸21は、電動機20の出力軸である。機械システム30は、電動機20が出力する動力(すなわち回転軸21の回転)を電気自動車100の複数の駆動輪(図示略)に伝達するためのシステムである。
【0016】
図2は、機械システム30の構成図である。なお、以下の説明においては、回転軸21の中心軸Cを中心とする任意の半径の仮想円における円周の方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。また、回転軸21の中心軸Cに沿う一方向を「X1方向」と表記し、X1方向とは反対の方向を「X2方向」と表記する。
【0017】
図2に例示される通り、機械システム30は、ハウジング40と密封装置50と電磁石31と制御ユニット32と検出装置33とを具備する。ハウジング40は、回転軸21の回転を伝達するための動力伝達系(図示略)を収容する筐体である。電動機20の回転軸21が挿入される貫通孔41がハウジング40には形成される。回転軸21の外周面F1と貫通孔41の内周面F2との間には、回転軸21と同心に環状の隙間Gが形成される。
【0018】
密封装置50は、回転軸21の外周面F1と貫通孔41の内周面F2との間の隙間Gを封止する環状の構造体である。すなわち、密封装置50は、回転軸21と同心に設置されて当該回転軸21を包囲する。密封装置50により封止されるハウジング40の内部空間には、例えば潤滑油等の潤滑剤が充填される。第1実施形態の密封装置50は、貫通孔41を介した潤滑剤の漏出(油漏れ)を防止するためのオイルシールである。
【0019】
密封装置50は、補強環51と弾性体52とガーターバネ53とを具備する。補強環51は、密封装置50の機械的な強度を補強するための環状の芯金である。補強環51は、例えばステンレス鋼または冷間圧延鋼板(SPCC)等の高剛性の金属材料で形成される。
図2に例示される通り、補強環51は、筒状部511と鍔状部512とを具備する。筒状部511は、回転軸21を包囲する円筒状の部分である。鍔状部512は、筒状部511のうちX1方向の周縁から回転軸21側に突出する円環状の板状部分である。以上の説明から理解される通り、補強環51は、断面がL字状に形成された環状部材である。
【0020】
弾性体52は、弾性材料で形成された環状の構造体である。第1実施形態の弾性体52は、外周部521と中間部522とシールリップ523とダストリップ524とが一体に構成された構造体である。外周部521は、筒状部511の外周面を被覆する円筒状の部分である。外周部521の表面は、貫通孔41の内周面F2に密着する。中間部522は、鍔状部512のうちX1方向の表面を被覆する環状の部分である。
【0021】
シールリップ523は、中間部522の内周縁(または鍔状部512の内周縁)からX2方向に突出する部分であり、回転軸21を包囲する環状に形成される。シールリップ523のうち回転軸21の外周面F1との対向面(すなわち内周面)には、回転軸21の外周面F1に向けて楔状に突出する接触部525が形成される。接触部525の先端が回転軸21の外周面F1に接触することで隙間Gが封止される。具体的には、回転軸21の外周面F1に押付けられることで接触部525の先端が変形する結果、外周面F1において周方向に延在する帯状の接触領域が形成される。接触領域は、回転軸21の外周面F1のうち接触部525が密着する領域である。回転軸21が回転することで、接触部525は外周面F1に対して摺動する。
【0022】
他方、シールリップ523の外周面は、補強環51における筒状部511の内周面に間隔をあけて対向する。
図2に例示される通り、シールリップ523の外周面には、周方向に沿う環状の溝部526が形成される。
【0023】
ガーターバネ53は、シールリップ523を緊縛する環状の弾性部材である。例えば、ステンレス鋼等の金属材料により形成されたコイルバネがガーターバネ53として利用される。ガーターバネ53は、シールリップ523の溝部526内に設置される。シールリップ523は、ガーターバネ53により締付けられることで回転軸21の外周面F1に押付けられる。
【0024】
ダストリップ524は、シールリップ523の基端部(例えば中間部522とシールリップ523とが連結される部分)から回転軸21の外周面F1に向けて突出する環状の部分である。ダストリップ524の先端が回転軸21の外周面F1に接触することで、ハウジング40の内部空間に対する塵埃等の異物の進入が抑制される。
【0025】
第1実施形態の弾性体52は、磁性材料または磁石材料で形成された磁性体である。例えば、各種の合成ゴムに磁性粉末または磁石粉末を混練した磁性ゴムにより弾性体52は形成される。弾性体52の形成に利用される合成ゴムとしては、例えば、ニトリルゴム(NBR),アクリルゴム(ACM),シリコーンゴム(VMQ),またはフッ素ゴム(FKM)が利用される。以上の例示の通り、第1実施形態のシールリップ523は磁性体で形成される。
【0026】
図2の電磁石31は、電流の供給により磁力を発生する磁石である。第1実施形態の電磁石31は、シールリップ523の外周面と補強環51の筒状部511の内周面との間の環状の空間に設置される環状の構造体である。すなわち、電磁石31はシールリップ523を全周にわたり包囲する。シールリップ523の外周面と電磁石31の内周面とは相互に間隔をあけて対向する。
【0027】
電流の供給により電磁石31に磁力が発生すると、
図2に白矢印で図示される通り、当該磁力によりシールリップ523は電磁石31側(すなわち径方向の外側)に引寄せられる。すなわち、シールリップ523が拡径する方向に磁力が作用する。他方、電磁石31に電流が供給されない状態ではシールリップ523に磁力は作用しない。したがって、電磁石31に電流が供給されている状態でシールリップ523が回転軸21を締付ける力(以下「緊迫力」という)は、電磁石31に電流が供給されない状態におけるシールリップ523の緊迫力を下回る。すなわち、電磁石31に対する電流の供給によりシールリップ523の緊迫力が低減される。
【0028】
検出装置33は、回転軸21の回転を検出するセンサである。具体的には、検出装置33は、回転軸21の回転に応じた検出信号Dを生成する。例えば回転軸21の回転を光学的または機械的に検出することで回転数に応じた検出信号Dを出力する公知のロータリーエンコーダーが、検出装置33として好適に利用される。検出装置33は、「検出部」の一例である。
【0029】
制御ユニット32は、検出装置33による検出の結果に応じて、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整する。第1実施形態の制御ユニット32は、電磁石31に発生する磁力を制御することでシールリップ523の緊迫力を調整する。具体的には、制御ユニット32は、電磁石31に対する電流の供給(供給/停止)を制御することでシールリップ523の緊迫力を調整する。制御ユニット32は、例えば電源装置10から供給される電力により動作する電気回路または電子回路により構成される。すなわち、電動機20に電力を供給するための電源装置10が制御ユニット32に対する電力の供給にも兼用される。制御ユニット32は、「調整部」の一例である。
【0030】
図3は、制御ユニット32が実行する処理(以下「制御処理Sa」という)の具体的な手順を例示するフローチャートである。例えば所定の周期で発生する割込を契機として制御処理Saが反復的に実行される。
【0031】
制御処理Saが開始されると、制御ユニット32は、検出装置33から供給される検出信号Dを解析することで回転軸21の回転数Rを算定する(Sa1)。回転数Rは、例えば単位時間内における回転軸21の回転数である。
【0032】
制御ユニット32は、回転数Rが所定の閾値Rthを上回るか否かを判定する(Sa2)。閾値Rthは、例えば定格の回転数に対して所定の比率(例えば定格の回転数の1割程度)の関係にある正数である。制御ユニット32による判定(Sa2)は、回転軸21の回転が、閾値Rthを上回る回転数Rの高速回転であるか、閾値Rthを下回る回転数Rの低速回転(または静止状態)であるかを判定する処理とも換言される。なお、閾値Rthは、基本的には固定値であるが、例えば利用者からの指示に応じた可変値に設定されてもよい。
【0033】
回転数Rが閾値Rthを上回る場合(Sa2:YES)、制御ユニット32は、電磁石31に電流を供給することでシールリップ523の緊迫力を低減する(Sa3)。すなわち、制御ユニット32は、径方向の外側にシールリップ523を引寄せる磁力を電磁石31に発生させることで緊迫力を低減する。制御ユニット32が電磁石31に供給する電流は、電源装置10から制御ユニット32に供給される電力を利用して生成される。
【0034】
他方、回転数Rが閾値Rthを下回る場合(Sa2:NO)、制御ユニット32は、電磁石31に電流を供給しない(Sa4)。すなわち、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力は高い水準に維持される。以上の説明から理解される通り、第1実施形態の制御ユニット32は、回転軸21の回転数Rが閾値Rthを上回る場合における緊迫力が、回転数Rが閾値Rthを下回る場合における緊迫力よりも小さくなるように、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整する。なお、回転数Rが閾値Rthと等しい場合、制御ユニット32は、緊迫力を低減してもよいし維持してもよい。
【0035】
以上に例示した通り、第1実施形態においては、回転軸21の回転を検出した結果に応じて回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力が調整される。したがって、以下に詳述する通り、回転軸21の回転数Rに関わらずシールリップ523の緊迫力が一定に維持される構成と比較して、回転軸21とハウジング40との間の環状の隙間Gを適切に封止できるという利点がある。
【0036】
まず、回転数Rが閾値Rthを上回る場合(高速回転時)には、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力が低減される。したがって、回転軸21の高速回転に必要なトルクが低減される。他方、回転数Rが閾値Rthを下回る場合(低速回転時または静止状態)には、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力が高い水準に維持される。したがって、回転軸21とシールリップ523との間に異物が進入する可能性、または、当該異物の進入に起因して接触領域に途切れが発生する可能性が低減される。したがって、潤滑剤の漏出を有効に抑制できる。すなわち、第1実施形態によれば、高速回転時におけるトルクの低減と低速回転時(または静止状態)における潤滑剤の漏出の抑制とを両立できるという利点がある。なお、高速回転時にはシールリップ523のポンピング作用により潤滑剤の漏出が抑制される。したがって、高速回転時には、緊迫力が低減された状態でも潤滑剤の漏出は特段の問題とならない。
【0037】
また、第1実施形態においては、電磁石31に発生する磁力を制御することでシールリップ523の緊迫力が調整される。したがって、緊迫力を調整するための構成および制御が簡素化されるという利点がある。第1実施形態においては特に、電磁石31がシールリップ523を包囲する環状に設置される。したがって、周方向の全体にわたりシールリップ523の緊迫力を均等に調整できるという利点もある。
【0038】
B:第2実施形態
本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0039】
第2実施形態の制御ユニット32は、
図3に例示した制御処理Saに代えて
図4の制御処理Sbを実行する。
図4の制御処理Sbは、例えば所定の周期で発生する割込を契機として反復的に実行される。
【0040】
制御処理Sbが開始されると、制御ユニット32は、検出装置33から供給される検出信号Dを解析することで回転軸21が回転しているか否かを判定する(Sb1)。回転軸21が回転している場合(Sb1:YES)、制御ユニット32は、電磁石31に電流を供給することでシールリップ523の緊迫力を低減する(Sb2)。他方、回転軸21が回転していない場合(Sb2:NO)、制御ユニット32は、電磁石31に電流を供給しない(Sb3)。すなわち、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力は維持される。以上の説明から理解される通り、第2実施形態の制御ユニット32は、検出装置33が回転軸21の回転を検出する場合における緊迫力が、検出装置33が回転軸21の回転を検出しない場合における緊迫力よりも小さくなるように、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整する。
【0041】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態においては、回転軸21が回転している状態における緊迫力を低減することで、回転軸21の回転に必要なトルクが低減され、かつ、回転軸21が静止している状態における緊迫力を確保することで、静止状態における潤滑剤の漏出等の問題を抑制できる。
【0042】
また、第2実施形態においては、回転軸21の回転の有無が判定されるから、回転数Rを算定する処理(Sa1)は不要である。したがって、第1実施形態と比較して制御ユニット32または検出装置33の構成または動作が簡素化されるという利点もある。例えば、第2実施形態の検出装置33は、回転数Rの算定に必要な検出信号Dを生成する装置(例えばロータリーエンコーダー)である必要はなく、回転軸21の回転の有無を検出できるセンサで充分である。他方、第1実施形態によれば、静止状態に加えて低速回転時(R<Rth)においても、緊迫力の確保により潤滑剤の漏出等の問題を抑制できるという利点がある。
【0043】
C:第3実施形態
第1実施形態においてはシールリップ523が磁性体である構成を例示した。第3実施形態においては、ガーターバネ53が磁性体で形成される。すなわち、第3実施形態のガーターバネ53は、磁性材料または磁石材料で形成された磁性体である。他方、第3実施形態のシールリップ523は、非磁性材料で形成される。
【0044】
電磁石31の構造および位置は第1実施形態と同様である。すなわち、
図2から理解される通り、ガーターバネ53と筒状部511との間の空間に環状の電磁石31が設置される。ガーターバネ53と電磁石31の内周面とは相互に間隔をあけて対向する。
【0045】
以上の構成において、電流の供給により電磁石31に発生する磁力はガーターバネ53に作用する。制御ユニット32は、電磁石31からガーターバネ53に作用する磁力を制御することで、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整する。具体的には、電流の供給により電磁石31に磁力が発生すると、当該磁力によりガーターバネ53が径方向の外側に引寄せられる。したがって、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力が低減される。他方、電磁石31に電流が供給されない状態においては、ガーターバネ53に磁力は作用しない。
【0046】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態においては、ガーターバネ53が磁性体で形成されるから、シールリップ523に磁性は要求されない。したがって、第3実施形態によれば、第1実施形態と比較してシールリップ523の材料の自由度を確保し易いという利点がある。他方、シールリップ523が磁性体で形成される第1実施形態においては、回転軸21に対する緊迫力を発生させるシールリップ523に直接的に磁力が作用する。したがって、密封装置50におけるシールリップ523以外の要素(例えばガーターバネ53)に磁力を作用させる構成と比較して、シールリップ523の緊迫力を調整し易いという利点がある。
【0047】
なお、シールリップ523が磁性体で形成される第1実施形態とガーターバネ53が磁性体で形成される第3実施形態とを組合せてもよい。すなわち、電磁石31に発生する磁力を、シールリップ523およびガーターバネ53の双方に作用させてもよい。また、以上の説明においては第1実施形態の構成を基礎として第3実施形態を説明したが、回転軸21の回転の有無に応じて緊迫力を制御する第2実施形態に、ガーターバネ53を磁性体で形成する第3実施形態を採用してもよい。
【0048】
D:第4実施形態
第4実施形態においては、第1実施形態における電磁石31が加熱機構に置換される。加熱機構は、例えば電熱線等の発熱源を具備するヒーターである。加熱機構は、電流の供給により発熱することで密封装置50のガーターバネ53を加熱する。加熱機構により加熱されることでガーターバネ53は熱膨張するから、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力は低減される。
【0049】
制御ユニット32は、検出装置33による検出の結果に応じて加熱機構を制御する。具体的には、制御ユニット32は、回転軸21の回転数Rが閾値Rthを上回る場合に、加熱機構に電流を供給することでガーターバネ53を加熱する。したがって、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力が低減される。他方、回転数Rが閾値Rthを下回る場合、制御ユニット32は加熱機構に電流を供給しない。したがって、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力は維持される。
【0050】
第4実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。なお、回転軸21の回転の有無に応じて緊迫力を制御する第2実施形態の構成を、第4実施形態に適用してもよい。例えば、制御ユニット32は、回転軸21が回転している場合に加熱機構にガーターバネ53を加熱させ、回転軸21が回転していない場合には加熱機構によるガーターバネ53の加熱を停止させる。
【0051】
E:第5実施形態
第5実施形態においては、第1実施形態における電磁石31が駆動機構に置換される。駆動機構は、密封装置50のシールリップ523を径方向の外側(筒状部511側)に機械的に引寄せるアクチュエータである。駆動機構によりシールリップ523が引寄せられることで、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力は低減される。
【0052】
制御ユニット32は、検出装置33による検出の結果に応じて駆動機構を制御する。具体的には、制御ユニット32は、回転軸21の回転数Rが閾値Rthを上回る場合に、シールリップ523を径方向の外側に引寄せる動作を駆動機構に実行させる。したがって、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力が低減される。他方、回転数Rが閾値Rthを下回る場合、制御ユニット32は駆動機構の動作を停止させる。したがって、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力は維持される。
【0053】
第5実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。なお、回転軸21の回転の有無に応じて緊迫力を制御する第2実施形態の構成を、第5実施形態に適用してもよい。例えば、制御ユニット32は、回転軸21が回転している場合にはシールリップ523を引寄せる動作を駆動機構に実行させ、回転軸21が回転していない場合には駆動機構の動作を停止させる。また、以上の説明においては駆動機構がシールリップ523を引寄せる構成を例示したが、駆動機構がガーターバネ53を径方向の外側に引寄せることでシールリップ523の緊迫力を調整してもよい。
【0054】
第1実施形態から第5実施形態の例示から理解される通り、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整するための機構は任意である。第1実施形態における電磁石31、第4実施形態における加熱機構、および第5実施形態における駆動機構は、制御ユニット32による制御のもとで回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を変化させる機構として包括的に表現される。
【0055】
F:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0056】
(1)前述の各形態においては、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力について低減(Sa3,Sb2)および維持(Sa4,Sb3)の何れかを択一的に選択したが、緊迫力を多段階に制御してもよい。例えば、
図5に例示される通り、回転軸21の回転数Rの値域が第1範囲Q1と第2範囲Q2と第3範囲Q3とに区分される。第1範囲Q1は、閾値Rth1を下回る範囲であり、第3範囲Q3は、閾値Rth2(Rth2>Rth1)を上回る範囲であり、第2範囲Q2は、閾値Rth1と閾値Rth2との間の範囲である。
【0057】
制御ユニット32は、回転軸21の回転数Rが第2範囲Q2内にある場合の緊迫力が、回転数Rが第1範囲Q1内にある場合の緊迫力よりも小さくなるように、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整する。さらに、制御ユニット32は、回転数Rが第3範囲Q3内にある場合の緊迫力が、回転数Rが第2範囲Q2内にある場合の緊迫力よりも小さくなるように、回転軸21に対するシールリップ523の緊迫力を調整する。すなわち、回転数Rが増加するほど緊迫力が減少するように、制御ユニット32はシールリップ523の緊迫力を段階的に制御する。
【0058】
(2)密封装置50の構造は前述の各形態において例示した構造に限定されない。例えば、ダストリップ524を省略した構成、またはガーターバネ53を省略した構成も想定される。また、補強環51を省略してもよい。以上の説明から理解される通り、密封装置50は、回転軸21を包囲する環状のシールリップ523を含む構造体として包括的に表現される。
【0059】
(3)第2実施形態においては、検出信号Dを解析することで回転軸21の回転の有無を判定した。しかし、第2実施形態において、第1実施形態と同様に回転軸21の回転数Rを算定し、当該回転数Rが0(=Rth)を上回るか否かに応じて回転軸21の回転の有無を判定してもよい。
【0060】
(4)前述の各形態においては、電機システムを利用した電気自動車100を例示したが、本発明に係る電機システムの用途は以上の例示に限定されない。回転軸21とハウジング40との間の環状の隙間Gに密封装置50が設置される任意の構成に、本発明が適用される。
【符号の説明】
【0061】
100…電気自動車、10…電源装置、20…電動機、21…回転軸、30…機械システム、31…電磁石、32…制御ユニット、33…検出装置、40…ハウジング、41…貫通孔、50…密封装置、51…補強環、511…筒状部、512…鍔状部、52…弾性体、521…外周部、522…中間部、523…シールリップ、524…ダストリップ、525…接触部、526…溝部、53…ガーターバネ。