(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】硬質金属部材の製造方法及び硬質金属部材
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20231220BHJP
【FI】
B23K26/342
(21)【出願番号】P 2020072628
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183347
【氏名又は名称】住友重機械ハイマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】石川 毅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智一
(72)【発明者】
【氏名】富田 英治
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓海
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-506763(JP,A)
【文献】特開平10-339117(JP,A)
【文献】特開2011-225960(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0109545(US,A1)
【文献】特開平3-27887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B22F 3/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶性合金粉末と硬質粒子を含む混合粉末を原料とし、レーザ粉体肉盛溶接によって金属基材の表面に硬質金属肉盛層を形成させる第一工程と、
前記自溶性合金粉末のみを原料とし、前記レーザ粉体肉盛溶接によって前記硬質金属肉盛層の表面に金属肉盛層を形成させる第二工程と、
前記金属肉盛層に切削加工を施す第三工程と、を含むこと、
を特徴とする硬質金属部材の製造方法。
【請求項2】
前記硬質粒子がタングステンカーバイド(WC)粒子であること、
を特徴とする請求項1に記載の硬質金属部材の製造方法。
【請求項3】
前記硬質粒子が粉砕粉であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の硬質金属部材の製造方法。
【請求項4】
前記自溶性合金粉末がニッケル基自溶性合金粉末であること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の硬質金属部材の製造方法。
【請求項5】
前記硬質金属肉盛層に切削加工を施すこと、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の硬質金属部材の製造方法。
【請求項6】
金属基材の表面に硬質金属肉盛層を有し、
前記硬質金属肉盛層は自溶性合金と硬質粒子からなり、
前記硬質金属肉盛層の最表面における前記硬質粒子の平均粒径は、前記硬質金属肉盛層全体の値よりも小さくなっていること、
を特徴とする硬質金属部材。
【請求項7】
前記硬質粒子がタングステンカーバイド(WC)粒子であり、
前記自溶性合金がニッケル基自溶性合金であること、
を特徴とする請求項6に記載の硬質金属部材。
【請求項8】
前記硬質粒子が粉砕粉であること、
を特徴とする請求項6又は7に記載の硬質金属部材。
【請求項9】
前記金属基材の表面に金属肉盛層からなる領域を有し、
前記金属肉盛層は前記自溶性合金からなること、
を特徴とする請求項6~8のうちのいずれかに記載の硬質金属部材。
【請求項10】
搬送ローラー、金型及び切削工具のうちのいずれかであること、
を特徴とする請求項6~9のうちのいずれかに記載の硬質金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面に金属肉盛層を有する硬質金属部材の製造方法及び当該製造方法によって得られる硬質金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面処理技術の一つとして、金属基材の表面に当該金属基材とは異なる高硬度材料を肉盛りすることにより、最表面の耐摩耗性等を向上させる技術が知られている。当該技術を用いた場合、高硬度材料を用いて形成した表面の肉盛層が摩耗しても、基材は元の形状を保持できるため、当該基材に対して再度同様の肉盛りを行うことで、繰り返し使用することが可能である。例えば、特許文献1(特開2013-176778号公報)には、肉盛りを行う手法として、レーザを用いて金属基材表面に高硬度の肉盛層を形成するレーザクラッディング法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2(特開平4-371390号公報)においては、鉄系母材上へ非酸化性雰囲気でシールドして所望成分のマトリックスを形成するワイヤを溶着肉盛しつつ、当該マトリックス溶融プール中へ粒径0.5~3.0mmの超硬合金粒体を定率で添加し、肉盛層の30~70重量%を占める超硬合金粒体をマトリックス中へ均等に分散した複合組織を形成することを特徴とする耐摩耗性肉盛層の溶接方法、が開示されている。
【0004】
上記特許文献2の肉盛溶接に使用する溶接機は、非酸化性雰囲気すなわち中性(又は還元性)のガスでシールドされたトーチ先端からアークを発して溶着部を母材上に作っていく型式のもので、いわゆるメタルイナートガスアーク溶接機と呼ばれるものであり、この型式の溶接機は、既に各工場で広く普及しており、ワイヤの材質を任意に選んで任意のマトリックスを自由に採択でき、必要とあれば山間の砕石現場へ出張して現地で肉盛再生を施工できるなど汎用性と作業性に優れている、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-176778号公報
【文献】特開平4-371390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のレーザクラッディング法や上記特許文献2に記載の耐摩耗性肉盛層の溶接方法を用いることで、基材の表面に種々の金属肉盛層を効率的かつ簡便に形成することができる。また、例えば、従来一般的な超硬合金材は焼結によって製造されるために大きさが限定され、工具等として使用する場合は基材へのロウ付けや機械的接合が必要であったが、金属基材の表面に金属肉盛層を形成させることで、大型製品の製造が容易となり、別工程での基材への接合が不要になる。しかしながら、製品の最終形状とするためには、当該金属肉盛層に切削加工等を施す必要がある。
【0007】
ここで、金属肉盛層は一般的に高硬度であり、特に、金属肉盛層に硬質セラミックス粒子が含まれている場合は仕上げ加工の難易度は極めて高く、特殊で高価な切削工具を使用しないと加工ができない。より具体的には、例えば、CBN製の切削工具で極端に加工速度を低下させるか、ダイヤモンド焼結体製の切削工具等を使用しないと加工ができない。そのため、製造コスト及び加工時間が増加することが大きな問題となっていた。
【0008】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、優れた耐摩耗性と良好な仕上げ面を有する硬質金属肉盛層を簡便かつ効率的に得る方法、及び当該によって製造される硬質金属部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、硬質金属肉盛層の形成方法及び加工方法について鋭意研究を重ねた結果、自溶性合金粉末と硬質粒子を含む混合粉末を原料として形成させた硬質金属肉盛層の表面に、当該自溶性合金粉末のみを原料として金属肉盛層を形成させ、当該金属肉盛層に対して切削加工を施すこと等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
自溶性合金粉末と硬質粒子を含む混合粉末を原料とし、レーザ粉体肉盛溶接によって金属基材の表面に硬質金属肉盛層を形成させる第一工程と、
前記自溶性合金粉末のみを原料とし、前記レーザ粉体肉盛溶接によって前記硬質金属肉盛層の表面に金属肉盛層を形成させる第二工程と、
前記金属肉盛層に切削加工を施す第三工程と、を含むこと、
を特徴とする硬質金属部材の製造方法、を提供する。
【0011】
本発明の硬質金属部材の製造方法においては、硬質粒子を含む硬質金属肉盛層よりも軟質な金属肉盛層が切削加工の主な対象となるため、良好な仕上げ面を容易に形成させることができる。また、金属肉盛層の形成プロセスにおいて、硬質金属肉盛層の表面近傍が僅かに軟化等するため、当該領域の切削加工も容易となる。
【0012】
ここで、金属肉盛層の原料である自溶性合金粉末は、硬質金属肉盛層の原料でもあることから、当該硬質金属肉盛層に不純物元素等が混入することがなく、硬質金属肉盛層への影響を最小限に留めることができる。なお、自溶性合金とは、ニッケル基やコバルト基からなる合金に、ボロンやシリコンなどのフラックス成分を含有させたものである。
【0013】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、硬質粒子の種類、形状及び大きさは特に限定されず、従来公知の種々のセラミックス粒子を用いることができる。また、硬質粒子の添加量は、硬質金属肉盛層に対する所望の硬度及び耐摩耗性等に応じて、適宜設定すればよいが、欠陥のない良好な硬質金属肉盛層を得る観点から、60vol.%以下とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明の硬質金属部材の製造方法においては、前記硬質粒子がタングステンカーバイド(WC)粒子であること、が好ましい。タングステンカーバイド粒子は高硬度を有し、産業的に汎用されている超硬合金の主成分でもあり、適当な自溶性合金粉末と組み合わせることで、硬質金属肉盛層に超硬合金と同程度の耐摩耗性を付与することができる。
【0015】
また、本発明の硬質金属部材の製造方法においては、前記硬質粒子が粉砕粉であること、が好ましい。一般的に粉砕粉では素材本来の機械的性質が担保されており、硬質金属部材に確実に高い硬度を付与することができる。
【0016】
また、硬質金属肉盛層で硬質粒子の焼結相となる自溶性合金についても、本発明の効果を損なわない限りにおいて、従来公知の種々の金属を用いることができるが、超硬合金やサーメットの金属結合相として使用されている金属材を好適に用いることができる。自溶性合金粉末のサイズ及び形状は、硬質粒子の形状、大きさ及び添加量を踏まえて、無欠陥の硬質金属肉盛層が効率的に形成されるように適宜調整すればよい。
【0017】
また、前記自溶性合金粉末がニッケル基自溶性合金粉末であること、が好ましい。超硬合金の代表的な金属結合相はコバルト基合金又はニッケル基合金であるが、ニッケル基合金を用いることで、硬質金属肉盛層に優れた耐食性と靭性を付与することができる。
【0018】
また、本発明の硬質金属部材の製造方法においては、前記硬質金属肉盛層に切削加工を施すこと、が好ましい。硬質金属肉盛層の表面に形成させた金属肉盛層のみを切削加工して所望の最終形状としてもよいが、その場合は、硬度及び耐摩耗性に劣る金属肉盛層が再表面に僅かに残存してしまう。これに対し、硬質金属肉盛層の表面近傍にも切削加工を施すことで、最表面が極めて均質かつ高硬度な硬質金属部材を得ることができる。ここで、金属肉盛層の形成過程において、硬質金属肉盛層表面近傍の硬質粒子のエッジが丸みを帯びると共に、サイズも低減されるため、精密な切削加工に適した状況となっている。
【0019】
一方で、金属肉盛層のみに切削加工を施すことで、切削加工の時間が短縮されると共に、切削精度が向上する。また、金属肉盛層のみを切削加工した場合は硬質金属部材の最表面が当該金属肉盛層となり、当該金属肉盛層には硬質粒子が存在しないため、潤滑や滑り止めを目的とした微細パターン加工も可能である。更に、例えば、標準的に摩耗する部位と激しく摩耗する部位で、金属肉盛層と硬質金属肉盛層を使い分けることができる。また、補修を目的として、自溶性合金の肉盛溶接を施すこともできる。
【0020】
本発明の硬質金属部材の製造方法においては、硬質金属肉盛層及び金属肉盛層をレーザ粉体肉盛溶接によって形成させるため、基本的に形状及び大きさの制約がなく、従来の焼結材では製造できない大型部材を得ることができる。
【0021】
また、本発明は、
金属基材の表面に硬質金属肉盛層を有し、
前記硬質金属肉盛層は自溶性合金と硬質粒子からなり、
前記硬質金属肉盛層の最表面における前記硬質粒子の平均粒径は、前記硬質金属肉盛層全体の値よりも小さくなっていること、
を特徴とする硬質金属部材、も提供する。
【0022】
本発明の硬質金属部材は、本発明の硬質金属部材の製造方法によって好適に得ることができるが、硬質金属肉盛層の最表面における硬質粒子の平均粒径が硬質金属肉盛層全体の値よりも小さくなっていることで、滑らかかつ精密な表面形状を実現することができる。なお、硬質粒子のエッジが丸くなることでも、当該硬質粒子の平均粒径は低下することになる。
【0023】
また、本発明の硬質金属部材においては、前記硬質粒子がタングステンカーバイド(WC)粒子であることが好ましく、前記硬質粒子が粉砕粉であることが好ましい。上述のとおり、硬質粒子には従来公知の種々のセラミックス粒子を用いることができるが、タングステンカーバイド粒子は高い硬度と優れた耐摩耗性を有しており、粉砕粉を用いることで、素材が本来有する性質を十分に発現させることができる。
【0024】
また、本発明の硬質金属部材は、前記金属基材の表面に金属肉盛層からなる領域を有し、 前記金属肉盛層は前記自溶性合金からなること、が好ましい。例えば、硬質金属部材において標準的に摩耗する部位の表面を金属肉盛層、激しく摩耗する部位を硬質金属肉盛層とすることで、全体としてバランスよく摩耗が進行する硬質金属部材とすることができる。
【0025】
更に、本発明の硬質金属部材は、搬送ローラー、金型及び切削工具のうちのいずれかであること、が好ましい。搬送ローラー、金型及び切削工具は滑らかかつ精密に加工された表面形状と優れた耐摩耗性が要求されるところ、本発明の硬質金属部材はこれらの要求を全て具備している。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、優れた耐摩耗性と良好な仕上げ面を有する硬質金属肉盛層を簡便かつ効率的に得る方法、及び当該によって製造される硬質金属部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の硬質金属部材の製造方法の工程図である。
【
図2】本発明における硬質金属肉盛層の形成方法を示す模式図である。
【
図3】本発明における粉体肉盛溶接に関するレーザ走査方向の一例を示す模式図である。
【
図4】硬質金属肉盛層6の一例を示す概略断面図である。
【
図5】第一工程後及び第二工程後の被処理材の状況を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の硬質金属部材の一態様を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の硬質金属部材の別の態様を示す概略断面図である。
【
図8】実施例における切削加工の状況を示す写真である。
【
図9】実施例で切削加工された硬質金属肉盛層の表面状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図を参照しながら、本発明の硬質金属部材の製造方法及び硬質金属部材における代表的な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではなく、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて比や数を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0029】
1.硬質金属部材の製造方法
図1に本発明の硬質金属部材の製造方法の工程図を示す。本発明の硬質金属部材の製造方法は、レーザ粉体肉盛溶接によって金属基材の表面に硬質金属肉盛層を形成させる第一工程(S01)と、レーザ粉体肉盛溶接によって硬質金属肉盛層の表面に金属肉盛層を形成させる第二工程(S02)と、金属肉盛層に切削加工を施す第三工程(S03)と、を含んでいる。以下、これらの各工程について詳述する。
【0030】
(1)第一工程(S01:硬質金属肉盛層の形成)
第一工程は、自溶性合金粉末と硬質粒子を含む混合粉末を原料とし、レーザ粉体肉盛溶接によって金属基材の表面に硬質金属肉盛層を形成するための工程である。
【0031】
図2に本実施形態に係る硬質金属肉盛層の形成方法の模式図を示す。本実施形態に係る硬質金属肉盛層の形成方法では、レーザ粉体肉盛溶接が用いられる。ここで、レーザ粉体肉盛溶接はレーザメタルデポジション法とも呼ばれ、例えばレーザクラッディング法やダイレクトエナジーデポジション法等と略同様で、レーザビーム2を用いて原料粉末を溶融することで、金属基材4の被肉盛領域に硬質金属肉盛層6を形成することができる。
【0032】
レーザ粉体肉盛溶接では、レーザ光源から射出されたレーザビーム2を集光させて局所的な入熱を行うことで金属粉末を溶融するため、硬質金属肉盛層6は急速溶融及び急冷凝固により形成される。また、金属基材4に対する熱ひずみや熱影響部を少なくし、金属基材4と形成した硬質金属肉盛層6とにおける希釈率を低減することが可能である。更に、レーザビーム2及び原料粉末を射出するトーチ部8はプログラムによるロボット制御が可能であり、硬質金属肉盛層6の形成領域及び形状を比較的正確にコントロールすることができる。
【0033】
図3に粉体肉盛溶接におけるレーザ走査方向の一例を示す模式図を示す。レーザ粉体肉盛溶接では、所望の被肉盛領域に対してレーザビーム2の直線移動及び所定の間隔による並行移動によって略面状の硬質金属肉盛層6を形成することが基本である。
【0034】
図4に硬質金属肉盛層6の断面図を示す。
図4に示すとおり、形成する硬質金属肉盛層6の厚さ方向の寸法を調整する場合は、複数の溶接ビードからなる積層構造とすることが望ましい。より具体的な積層方法としては、特開2016-155155号公報に開示された工具材の製造方法を用いることができる。
【0035】
硬質金属肉盛層6の形成に用いるレーザ粉体肉盛溶接の条件としては、レーザ出力、レーザ焦点距離、レーザ走査速度、原料粉末の供給量、キャリアガス(シールドガス)の供給量、及び長手方向Yの並行移動量等であるが、使用する金属基材4や自溶性金属粉末及び硬質粒子の組成、形状、サイズ及び混合量等に応じて、適宜最適な条件を選択することが好ましい。
【0036】
金属基材4の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属材を用いることができる。当該金属材としては、例えば、各種ステンレス鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等の鉄基合金、ニッケル基合金及びコバルト基合金を用いることができる。
【0037】
原料として用いる硬質粒子は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のセラミックス粒子を用いることができる。セラミックス粒子としては、例えば、WC、TiC、VC、Mo2C、ZrC、HfC、NbC、TaC、Cr3C2、SiC等の炭化物、Si3N4等の窒化物、TiB2等のホウ化物およびAl2O3等の酸化物等を例示することができるが、WCとすることが好ましい。硬質粒子をWCとすることで、硬質金属肉盛層6に焼結超硬合金材と同等以上の耐摩耗性を付与することができる。
【0038】
硬質粒子の組成、形状及びサイズは適当に選定することができ、硬質金属肉盛層6に対する所望の硬度及び耐摩耗性等に応じて、適宜選定すればよい。
【0039】
また、自溶性合金粉末についても、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の自溶性合金粉末を用いることができるが、ニッケル基又はコバルト基の自溶性合金粉末を用いることが好ましい。これらを用いることで、硬質金属肉盛層6に優れた耐食性と靭性を付与することができる。
【0040】
(2)第二工程(S02:金属肉盛層の形成)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で用いた自溶性合金粉末のみを原料とし、レーザ粉体肉盛溶接によって硬質金属肉盛層6の表面に金属肉盛層を形成させるための工程である。
【0041】
本発明の効果を損なわない限り、レーザ粉体肉盛溶接の条件は特に限定されず、原料粉末の種類や所望の金属肉盛層の厚さ等に応じて、適宜調整すればよい。基本的には、第一工程(S01)で用いたレーザ粉体肉盛条件を基準とし、必要に応じて微調整することで、良好な金属肉盛層を得ることができる。
【0042】
図5は第一工程後及び第二工程後の状態の一例であり、金属基材4及びその表面の概略断面図である。本発明の硬質金属部材の製造方法においては、未加工の金属基材4に硬質金属肉盛層6を形成し、硬質金属肉盛層6の表面に金属肉盛層10を形成させてもよいが、第三工程(S03)の切削加工を考慮し、
図5に示すように、当該切削加工後に硬質金属肉盛層6が再表面となるように金属基材4の表面を加工しておくことが好ましい。
【0043】
具体的には、金属基材4の表面に凹部を形成し、当該領域に硬質金属肉盛層6と金属肉盛層10を形成し、金属肉盛層10を切削除去した状態を仕上げ形状とすることが好ましい。このような製造工程とすることで、極めて効率的に再表面を硬質金属肉盛層6とする硬質金属部材を簡便かつ高精度に得ることができる。
【0044】
(3)第三工程(S03:切削加工)
第三工程(S03)は、金属肉盛層10(必要に応じて硬質金属肉盛層6)に切削加工を施して、所望の形状を有する硬質金属部材を得るための工程である。
【0045】
例えば、WC粒子とニッケル基自溶性合金粉末からなる従来一般的な硬質金属肉盛層に切削加工を施す場合、硬質金属肉盛層6は焼結超硬合金材と同等以上の硬度及び耐摩耗性を有していることから、CBN製の切削工具を用いて極端に加工速度を落とすか、高価なダイヤモンド焼結体製の切削工具を用いる必要がある。これに対し、第三工程(S03)では主として金属肉盛層10に切削加工を施すため、汎用の安価な切削工具を用いて、比較的高速で加工を施すことができる。
【0046】
また、金属肉盛層10のみに切削加工を施す場合、金属肉盛層10には硬質粒子が存在しないため、例えば、潤滑や滑り止めを目的とした微細パターンを加工することも可能である。
【0047】
また、第二工程(S02)における入熱で硬質金属肉盛層6の表面近傍の硬質粒子のエッジが丸みを帯びると共に、サイズも低減されるため、精密な切削加工に適した状況となっている。その結果、硬質金属肉盛層6に僅かに切削加工を施すことで、極めて良好な仕上がり表面を得ることができる。
【0048】
2.硬質金属部材
図6に本発明の硬質金属部材の一態様に関する概略断面図を示す。
図6には、金属基材4の表面の全域に硬質金属肉盛層6が形成されている場合を示している。硬質金属肉盛層6は自溶性合金と硬質粒子からなり、硬質金属肉盛層6の最表面における硬質粒子の平均粒径は、硬質金属肉盛層6全体の値よりも小さくなっている。
【0049】
図6において、硬質金属部材20は金属基材4の表面の全域に硬質金属肉盛層6を有している。ここで、硬質金属部材20の表面形状は硬質金属肉盛層6の表面に形成させた金属肉盛層10を切削除去して得られたものであり、硬質金属肉盛層6の表面には薄い金属肉盛層10が残存していてもよく、金属肉盛層10は完全に除去されていてもよい。金属肉盛層10は、硬質金属肉盛層6の自溶性合金のみからなるものである。
【0050】
硬質金属肉盛層6の表面に形成された金属肉盛層10が完全に除去されている場合は、硬質金属部材20の最表面は硬質金属肉盛層6となる。ここで、硬質金属肉盛層6の表面近傍では、その他の領域と比較して硬質粒子が微細化され、角が丸まった形状となっていることから、滑らかかつ寸法精度の高い表面となっている。
【0051】
硬質金属肉盛層6の最表面における硬質粒子の平均粒径は、硬質金属肉盛層6全体の値よりも小さくなっている。硬質粒子の平均粒径の測定方法は特に限定されないが、例えば、適当な断面試料に対する光学顕微鏡観察や走査電子顕微鏡観察を行い、少なくとも20個程度の硬質粒子が含まれる観察画像を用いて、粒径の平均値を算出すればよい。
【0052】
硬質金属肉盛層6の硬質粒子は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の硬質粒子を用いることができる。セラミックス粒子としては、例えば、WC、TiC、VC、Mo2C、ZrC、HfC、NbC、TaC、Cr3C2、SiC等の炭化物、Si3N4等の窒化物、TiB2等のホウ化物およびAl2O3等の酸化物等を例示することができるが、WCとすることが好ましい。硬質粒子をWCとすることで、硬質金属肉盛層6に焼結超硬合金材と同等以上の耐摩耗性を付与することができる。また、硬質粒子の組成、形状及びサイズは適当に選定することができ、硬質金属肉盛層6に対する所望の硬度及び耐摩耗性等に応じて、適宜選定すればよい。
【0053】
硬質金属肉盛層6の自溶性合金粉末は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の自溶性合金粉末を用いることができるが、ニッケル基自溶性合金粉末を用いることが好ましい。ニッケル基合金を用いることで、硬質金属肉盛層6に優れた耐食性と靭性を付与することができる。
【0054】
硬質金属肉盛層6は金属基材4と冶金的に接合されている。一方で、硬質金属肉盛層6と金属基材4の混合や希釈は最小限に留められており、接合界面近傍での強度低下や耐食性低下等が効果的に抑制されている。また、硬質金属肉盛層6と金属基材4が冶金的に確実に接合されていることで、硬質金属肉盛層6に大きな応力や繰り返しの応力が印加されるような用途にも好適に使用することができる。
【0055】
金属基材4は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属基材を用いることができるが、表面に形成させる硬質金属肉盛層6及び/又は金属肉盛層10との密着性、機械的性質及び価格等の観点から、鋼材を用いることが好ましく、例えば、工具鋼や軸受鋼等を好適に用いることができる。より具体的には、金属基材4として、例えば、中炭素鋼材(S45C等)、クロムモリブデン鋼鋼材、合金工具鋼鋼材、高炭素クロム軸受鋼鋼材、ステンレス鋼材等を用いることができる。
【0056】
図7に本発明の硬質金属部材のその他の態様に関する概略断面図を示す。
図7には、金属基材の表面に硬質金属肉盛層6の領域と金属肉盛層10の領域が形成されている場合を示している。
【0057】
図7に示す硬質金属部材20では、標準的に摩耗する部位の表面が金属肉盛層10、激しく摩耗する部位が硬質金属肉盛層6となっており、全体としてバランスよく摩耗を進行させることができる。
【0058】
ここで、金属肉盛層10と金属基材4も冶金的に接合されている。硬質金属肉盛層10と金属基材4の混合や希釈は最小限に留められており、接合界面近傍での強度低下や耐食性低下等が効果的に抑制されている。
【0059】
硬質金属部材20は、搬送ローラー、金型及び切削工具のうちのいずれかに好適に用いることができる。搬送ローラー、金型及び切削工具は滑らかかつ精密に加工された表面形状と優れた耐摩耗性が要求されるところ、硬質金属部材20はこれらの要求を全て具備している。加えて、硬質金属肉盛層6及び金属肉盛層10はレーザ粉体肉盛溶接によって形成させることができ、硬質金属部材20のサイズは特に限定されないことから、従来のHIP(熱間等方圧加圧法)等による製造方法ではサイズが大きすぎる用途や、経済的に割が合わない大型の製品にも好適に適用することができる。
【0060】
以下、実施例において本発明の硬質金属部材の製造方法及び硬質金属部材について更に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
Ni基自溶性合金(NiBSi)粉末とWC粉末を、WC粉末が30vol.%となるように混合し、外径320mm、長さ2300mmの円筒状のSS基材上にレーザクラッディングを施して、2層の硬質金属肉盛層を形成した。その後、Ni基自溶性合金(NiBSi)粉末のみを用いて、硬質金属肉盛層の表面に薄い金属肉盛層を形成させた。レーザには半導体レーザを用い、レーザ出力5kW、レーザビーム幅19mm、レーザ移動速度900mm/分とした。
【0062】
次に、CBN製の切削チップを用いて、被削材の回転数:40rpm、切削送り:0.25mm/rev、切込量:0.2mmの条件で外周面の切削を施した。当該切削の状況を
図8、切削面の拡大写真を
図9にそれぞれ示す。切削面は滑らかな状態となっており、本発明の硬質金属部材は一般的な切削によって表面加工が可能であることが分かる。また、得られた表面は各種搬送ローラーや金型に使用できる状態であることに加え、大量のWC粉末を含んでおり耐摩耗性等に優れている。
【符号の説明】
【0063】
2・・・レーザビーム、
4・・・金属基材、
6・・・硬質金属肉盛層、
8・・・トーチ部、
10・・・金属肉盛層、
20・・・硬質金属部材。