(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】モータ制御回路
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20231220BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2020079480
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江角 尚史
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-011639(JP,A)
【文献】特開2019-075964(JP,A)
【文献】特開2008-131770(JP,A)
【文献】特開2001-327173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流モータを駆動するインバータの直流母線電流から相電流を検出して3相の電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
3相の前記電圧指令と所定周波数の三角波信号との比較結果から3相のPWM[pulse width modulation]信号を生成して前記インバータに出力するPWM信号生成部と、
を有し、
前記PWM信号生成部は、連続する複数のPWM周期のうち、第1周期では最大又は最小の電圧指令を中間の電圧指令と一致させ、第2周期では前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との差分を所定値以上とし、かつ、前記複数のPWM周期の全体では総補正量をゼロとするように、前記最大又は最小の電圧指令を補正する、
モータ制御回路。
【請求項2】
前記PWM信号生成部は、前記第1周期の前後に連続している前記第2周期のうち、一方では前記PWM信号を第1方向にシフトさせ、他方では前記PWM信号を前記第1方向と逆向きの第2方向にシフトさせるように、前記最大又は最小の電圧指令を補正する、
請求項1に記載のモータ制御回路。
【請求項3】
前記PWM信号生成部は、前記第2周期の前半及び後半のうち、一方では前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との差分を前記所定値以上とし、他方では前記第2周期全体の補正量をゼロに近付けるように、前記最大又は最小の電圧指令を補正する、
請求項1又は2に記載のモータ制御回路。
【請求項4】
前記PWM信号生成部は、補正による前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との逆転を許容する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ制御回路。
【請求項5】
前記PWM信号生成部は、補正による前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との逆転を許容しない、
請求項1~3のいずれか一項に記載のモータ制御回路。
【請求項6】
前記PWM信号生成部は、前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との差分が前記所定値以上であるときには、前記最大又は最小の電圧指令を補正しない、
請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ制御回路。
【請求項7】
前記電圧指令生成部は、ベクトル制御方式で3相の前記電圧指令を生成する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のモータ制御回路。
【請求項8】
前記電圧指令生成部は、
前記PWM信号生成部から指示される電流検出タイミングでアナログの前記直流母線電流をデジタルの第1電流値に変換するAD[analog-to-digital]変換部と、
3相の前記第1電流値を2相の第2電流値に変換するクラーク変換部と、
固定座標系の前記第2電流値を回転座標系の第3電流値に変換するパーク変換部と、
前記第3電流値を目標値に補正するための第1電圧値を導出するPI制御部と、
回転座標系の前記第1電圧値を固定座標系の第2電圧値に変換する逆パーク変換部と、
2相の前記第2電圧値を3相の前記電圧指令に変換する逆クラーク変換部と、
を含む、
請求項7に記載のモータ制御回路。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のモータ制御回路と、
前記モータ制御回路に接続されるインバータと、
前記インバータに接続される交流モータと、
を有する、モータ装置。
【請求項10】
前記インバータは、前記直流母線電流を検出する単一のシャント抵抗を含む、
請求項9に記載のモータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に開示されている発明は、モータ制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ制御回路には、インバータの直流母線電流から相電流を検出してベクトル制御方式で交流モータを駆動するものがある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のモータ制御回路では、電流検出期間の確保について更なる検討の余地があった。
【0005】
本明細書中に開示されている発明は、本願の発明者により見出された上記課題に鑑み、電流検出期間を確保することのできるモータ制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成すべく、本明細書中に開示されているモータ制御回路は、例えば、交流モータを駆動するインバータの直流母線電流から相電流を検出して3相の電圧指令を生成する電圧指令生成部と、3相の前記電圧指令と所定周波数の三角波信号との比較結果から3相のPWM[pulse width modulation]信号を生成して前記インバータに出力するPWM信号生成部とを有し、前記PWM信号生成部は、連続する複数のPWM周期のうち、第1周期では最大又は最小の電圧指令を中間の電圧指令と一致させ、第2周期では前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との差分を所定値以上とし、かつ、前記複数のPWM周期の全体では総補正量をゼロとするように、前記最大又は最小の電圧指令を補正する構成(第1の構成)とされている。
【0007】
なお、上記第1の構成から成るモータ制御回路において、前記PWM信号生成部は、前記第1周期の前後に連続している前記第2周期のうち、一方では前記PWM信号を第1方向にシフトさせ、他方では前記PWM信号を前記第1方向と逆向きの第2方向にシフトさせるように、前記最大又は最小の電圧指令を補正する構成(第2の構成)にしてもよい。
【0008】
また、上記第1又は第2の構成から成るモータ制御回路において、前記PWM信号生成部は、前記第2周期の前半及び後半のうち、一方では前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との差分を前記所定値以上とし、他方では前記第2周期全体の補正量をゼロに近付けるように、前記最大又は最小の電圧指令を補正する構成(第3の構成)にしてもよい。
【0009】
また、上記第1~第3いずれかの構成から成るモータ制御回路において、前記PWM信号生成部は、補正による前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との逆転を許容する構成(第4の構成)にしてもよい。
【0010】
また、上記第1~第3いずれかの構成から成るモータ制御回路において、前記PWM信号生成部は、補正による前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との逆転を許
容しない構成(第5の構成)にしてもよい。
【0011】
また、上記第1~第5いずれかの構成から成るモータ制御回路において、前記PWM信号生成部は、前記最大又は最小の電圧指令と前記中間の電圧指令との差分が前記所定値以上であるときには、前記最大又は最小の電圧指令を補正しない構成(第6の構成)にしてもよい。
【0012】
また、上記第1~第6いずれかの構成から成るモータ制御回路において、前記電圧指令生成部は、ベクトル制御方式で3相の前記電圧指令を生成する構成(第7の構成)にしてもよい。
【0013】
また、上記第7の構成から成るモータ制御回路において、前記電圧指令生成部は、前記PWM信号生成部から指示される電流検出タイミングでアナログの前記直流母線電流をデジタルの第1電流値に変換するAD[analog-to-digital]変換部と、3相の前記第1電
流値を2相の第2電流値に変換するクラーク変換部と、固定座標系の前記第2電流値を回転座標系の第3電流値に変換するパーク変換部と、前記第3電流値を目標値に補正するための第1電圧値を導出するPI制御部と、回転座標系の前記第1電圧値を固定座標系の第2電圧値に変換する逆パーク変換部と、2相の前記第2電圧値を3相の前記電圧指令に変換する逆クラーク変換部と、を含む構成(第8の構成)にしてもよい。
【0014】
また、本明細書中に開示されているモータ装置は、上記第1~第8いずれかの構成から成るモータ制御回路と、前記モータ制御回路に接続されるインバータと、前記インバータに接続される交流モータと、を有する構成(第9の構成)とされている。
【0015】
なお、上記第9の構成から成るモータ装置において、前記インバータは、前記直流母線電流を検出する単一のシャント抵抗を含む構成(第10の構成)にしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本明細書中に開示されている発明によれば、電流検出期間を確保することのできるモータ制御回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
<モータ装置>
図1は、モータ装置の全体構成を示す図である。本構成例のモータ装置100は、モータ制御回路10と、インバータ20(例えば3相モータドライバIC)と、交流モータ30(例えば3相交流モータ)と、を有する。
【0019】
モータ制御回路10は、インバータ20の直流母線電流iDCから3相の相電流iU、iV及びiWを検出し、ベクトル制御方式で交流モータ30を駆動する。ベクトル制御方式によれば、低速域から高速域まで、高効率かつスムーズに交流モータ30の回転を制御
することが可能である。
【0020】
インバータ20は、モータ制御回路10に接続された3相のハーフブリッジ(=3相の上側FET及び下側FET)を含み、モータ制御回路10から入力される3相のPWM信号(=3相の上側FETそれぞれのゲートに印加される上側PWM信号hU、hV及びhW、並びに、3相の下側FETそれぞれのゲートに印加される下側PWM信号lU、lV及びlW)に基づいて交流モータ30に流れる3相の駆動電流U、V及びW(=それぞれの位相が120度ずつずれた3相の正弦波電流)を生成する。
【0021】
なお、本図では明示していないが、インバータ20は、直流母線電流iDCを検出する手段として、単一のシャント抵抗を含むとよい。このシャント抵抗は、3相の下側FETそれぞれの共通端と接地端との間に接続してもよいし、3相の上側FETそれぞれの共通端と電源端との間に接続してもよい。
【0022】
交流モータ30は、インバータ20に接続された3相のモータコイルを含み、それぞれに駆動電流U、V及びWを流すことにより、ロータを回転させる。なお、ロータの回転速度は、駆動電流U、V及びWの周波数が低いほど低速となり、駆動電流U、V及びWの周波数が高いほど高速となる。
【0023】
<モータ制御回路>
引き続き、
図1を参照しながら、モータ制御回路10の構成及び動作について詳細に説明する。本構成例のモータ制御回路10は、AD変換部11と、クラーク[Clarke]変換部12と、パーク[Park]変換部13と、PI制御部14と、逆パーク変換部15と、逆クラーク変換部16と、PWM信号生成部17と、速度・軸誤差推定部18と、速度制御部19と、軸誤差制御部1Aと、を含む。
【0024】
AD変換部11は、PWM信号生成部17から指示される電流検出タイミングでアナログの直流母線電流iDCをサンプリングして、デジタルの第1電流値iU、iV及びiW(=3相の相電流に相当)に変換する。
【0025】
クラーク変換部12は、3相の第1電流値iU、iV及びiW(ただし、iU+iV+iW=0)を2相の第2電流値iα(=iU)及びiβ(=(iU+2×iV)/√3)に変換する。
【0026】
パーク変換部13は、固定座標系の第2電流値iα及びiβを回転座標系の第3電流値id(=iαcosθ+iβsinθ)及びiq(=-iαsinθ+iβcosθ、ただし、θはロータの回転角)に変換する。
【0027】
PI制御部14は、比例制御(P[proportional])と積分制御(I[integral])を並列に実施することにより、第3電流値id及びiqをそれぞれ所望の目標電流値idref及びiqrefに補正するための第1電圧値vd及びvqを導出する。
【0028】
逆パーク変換部15は、回転座標系の第1電圧値vd及びvqを固定座標系の第2電圧値vα(=vdcosθ-vqsinθ)及びvβ(=vdsinθ+vqcosθ、ただし、θはロータの回転角)に変換する。
【0029】
逆クラーク変換部16は、2相の第2電圧値vα及びvβを3相の電圧指令vU(=vβ)、vV(=(-vβ+√3vα)/2)及びvW(=(-vβ-√3vα)/2)に変換する。
【0030】
なお、上記のAD変換部11、クラーク変換部12、パーク変換部13、PI制御部14、逆パーク変換部15、並びに、逆クラーク変換部16は、インバータ20の直流母線電流iDCから相電流iU、iV及びiWをそれぞれ検出してベクトル制御方式で3相の電圧指令vU、vV及びvWを生成する電圧指令生成部を形成している。この電圧指令生成部は、ハードウェアとして実装してもよいし、ソフトウェアとして実装してもよい。
【0031】
PWM信号生成部17は、3相の電圧指令vU、vV及びvWと所定周波数f(=1/T)の三角波信号TRIとを比較し、その比較結果から3相のPWM信号(=上側PWM信号hU、hV及びhWと下側PWM信号lU、lV及びlW)を生成してインバータ20に出力する。上側PWM信号hU、hV及びhWと下側PWM信号lU、lV及びlWは、基本的に、互いの論理レベルが反転された信号である。
【0032】
なお、PWM信号生成部17は、3相の電圧指令vU、vV及びvWに基づいて3相のPWM信号(hU、hV及びhW、並びに、lU、lV及びlW)それぞれのデューティを決定し、インバータ20(上側FET及び下側FET)のゲート駆動パターンを生成するとともに、AD変換部11に対して電流検出タイミングを指示する。
【0033】
また、PWM信号生成部17は、直流母線電流iDC(延いては3相の相電流iU、iV及びiW)の電流検出期間を確保するために、PWM信号のパルスシフト処理を行う。具体的に述べると、PWM信号生成部17は、3相の電圧指令vU、vV及びvWと三角波信号TRIとを比較する前に、3相の電圧指令vU、vV及びvWのうち、少なくとも一つに補正処理(=PWM信号のデューティ加減算に相当)を施す。なお、パルスシフト処理の詳細(電圧指令の補正要否や補正量の設定など)については後述する。
【0034】
速度・軸誤差推定部18は、クラーク変換部12の出力(=第2電流値iα及びiβ)に基づいて3相モータ30の回転速度及び軸誤差を推定する。
【0035】
速度制御部19は、3相モータ30の回転速度が所望の目標値と一致するように、PI制御部14の目標電流値idref及びiqrefを設定する。
【0036】
軸誤差制御部1Aは、3相モータ30の軸誤差が小さくなるように、パーク変換部13へ位置推定値Θc(ロータ回転角θに相当)を設定する。
【0037】
なお、上記の速度・軸誤差推定部18、速度制御部19、及び、軸誤差制御部1Aは、ハードウェアとして実装してもよいし、CPU[central processing unit]で適切な演
算処理プログラムを実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0038】
<相電流検出処理>
図2は、相電流検出処理の一例を示す図であり、上から順に、電圧指令vU、vV及びvW(小破線、大破線及び一点鎖線)並びに三角波信号TRI(実線)、上側PWM信号hU、hV及びhW、下側PWM信号lU、lV及びlW、電圧ベクトルVCT(hU,hV,hW)、並びに、直流母線電流iDCが描写されている。
【0039】
なお、以下の説明では、3相の相電流iU、iV及びiWについて、インバータ20から交流モータ30に向かう方向を正(+)として定義し、交流モータ30からインバータ20に向かう方向を負(-)として定義する。
【0040】
三角波信号TRIは、時刻t1~t5において上昇する一方、時刻t5~t9において低下しており、時刻t9以降も同様の挙動を繰り返す。すなわち、三角波信号TRIは、時刻t1~t9をPWM周期Tとし、所定のPWM周波数f(=1/T)で上昇と低下を
繰り返す挙動となる。
【0041】
時刻t1~t2並びに時刻t8~t9では、それぞれ、vU>vV>vW>TRIである。このとき、hU=hV=hW=H(1)かつlU=lV=lW=L(0)となる。従って、インバータ20では、3相の上側FETが全てオンして、3相の下側FETが全てオフする。その結果、iU=iV=iW=0となるので、iDC=0となる。すなわち、VCT(1,1,1)は、いずれの相電流も流れない零ベクトルに相当する。
【0042】
時刻t2~t3並びに時刻t7~t8では、それぞれ、vU>vV>TRI>VWである。このとき、hU=hV=lW=H(1)かつlU=lV=hW=L(0)となる。従って、インバータ20では、U相及びV相の上側FETとW相の下側FETがオンして、U相及びV相の下側FETとW相の上側FETがオフする。その結果、吹き出し枠Xで示した経路に電流が流れるので、iDC=-iWとなる。すなわち、VCT(1,1,0)における直流母線電流iDCをサンプリングすることにより、W相の相電流-iWを検出することができる。
【0043】
時刻t3~t4並びに時刻t6~t7では、それぞれ、vU>TRI>vV>VWである。このとき、hU=lV=lW=H(1)かつlU=hV=hW=L(0)となる。従って、インバータ20では、U相の上側FETとV相及びW相の下側FETがオンして、U相の下側FETとV相及びW相の上側FETがオフする。その結果、吹き出し枠Yで示した経路に電流が流れるので、iDC=iUとなる。すなわち、VCT(1,0,0)における直流母線電流iDCをサンプリングすることにより、U相の相電流iUを検出することができる。
【0044】
時刻t4~t5並びに時刻t5~t6では、それぞれ、TRI>vU>vV>vWである。このとき、lU=lV=lW=H(1)かつhU=hV=hW=L(0)となる。従って、インバータ20では、3相の上側FETが全てオフして、3相の下側FETが全てオンする。その結果、iU=iV=iW=0となるので、iDC=0となる。すなわち、VCT(0,0,0)は、いずれの相電流も流れない零ベクトルに相当する。
【0045】
なお、本図では、電圧指令値vU、vV及びvWそれぞれの大小関係が一意(vU>vV>vW)に固定されており、三角波信号TRIの時間変化に伴って、4通りの電圧ベクトルVCT((1,1,1)、(1,1,0)、(1,0,0)、(0,0,0))が設定される例を挙げたが、電圧指令値vU、vV及びvWの大小関係によっては、さらに4通りの電圧ベクトルVCT((0,1,1)、(0,1,0)、(1,0,1)、(0,0,1))、すなわち、合計8通りの電圧ベクトルVCTが設定され得る。
【0046】
先にも述べたように、VCT(1,1,0)では相電流-iWを検出することができ、VCT(1,0,0)では相電流iUを検出することができる。また、VCT(0,1,1)では相電流-iUを検出することができ、VCT(0,1,0)では相電流iVを検出することができる。同様に、VCT(1,0,1)では相電流-iVを検出することができ、VCT(0,0,1)では相電流iWを検出することができる。
【0047】
<パルスシフト処理(基本動作)>
図3は、PWM信号生成部17におけるパルスシフト処理の基本動作を示す図であり、上から順番に、電圧指令vU及びvV(小破線及び大破線)並びに三角波信号TRI(実線)、上側PWM信号hU、並びに、上側PWM信号hVが描写されている。なお、本図では、vU>vV(>vW)であるものとする。
【0048】
また、電圧指令vUについては、細い小破線が補正なしの指令値を示しており、太い小
破線が補正ありの指令値(以下では、補正ありの電圧指令vU’と呼ぶ)を示している。さらに、上側PWM信号hUについては、小破線が補正なし(パルスシフトなし)の挙動を示しており、実線が補正あり(パルスシフトあり)の挙動を示している。
【0049】
今、VCT(1,0,0)(すなわち、vU>TRI>vV(>vW))における直流母線電流iDCをサンプリングして、U相の相電流iUを検出する場合を考える。
【0050】
本図では、電圧指令vUと電圧指令vVとの差分(=vU-vV)が所定値Vdiff未満であり、上側PWM信号hUのパルスエッジ(時刻t13及びt16)と上側PWM信号hVのパルスエッジ(時刻t11及びt17)が近いので、そのままでは必要な電流検出期間Tdetが確保されていない。そのため、直流母線電流iDCに生じるリンギングなどの影響により、相電流iUを高精度に検出することが難しくなる。
【0051】
そこで、PWM信号生成部17は、電圧指令vUを補正することにより、上側PWM信号hUの左シフト(=パルスエッジの発生タイミングを早める方向のパルスシフト処理)を行う機能を備えている。
【0052】
本図に即して述べると、PWM周期Tの前半(=時刻t14以前)では、電圧指令vUに対して負の補正量(-ΔV)が付与されており、PWM周期Tの後半(=時刻t14以降)では、電圧指令vUに対して正の補正量(+ΔV)が付与されている。すなわち、PWM周期Tの前半では、vU’=vU-ΔVとなっており、PWM周期Tの後半では、vU’=vU+ΔVとなっている。なお、最大電圧指令maxの補正量ΔVは、ΔV≧Vdiff-(vU-vV)を満たすように設定しておけばよい。
【0053】
上記の補正によれば、PWM周期Tの後半において、補正ありの電圧指令vU’と電圧指令vVとの差分(=vU’-vV)が所定値Vdiff以上となり、上側PWM信号hUのパルスエッジ(時刻t15)と上側PWM信号hVのパルスエッジ(時刻t17)を引き離すことができるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となり、延いては、相電流iUを高精度に検出することが可能となる。
【0054】
また、PWM周期Tの全体(=前半及び後半のトータル)では、電圧指令vUに対する総補正量がゼロとなっているので、交流モータ30の回転駆動に影響を及ぼしにくい。
【0055】
このように、電流検出期間Tdetを確保するためには、PWM信号のパルスシフト処理が非常に有効である。なお、PWM信号のパルスシフト処理については、従前より種々の方式が提案されている。
【0056】
例えば、(1)全周期で左シフトだけを実施する方式、(2)全周期で右シフト(=パルスエッジの発生タイミングを遅らせる方向のパルスシフト処理)だけを実施する方式、(3)1周期毎に右シフトと左シフトを交互に切り替えて実施する方式、(4)1周期毎に右シフト・シフトなし・左シフトを順次切り替えて実施する方式、または、(5)1.5周期毎に右シフト(補正量1かつ補正期間0.5)と左シフト(補正量0.5かつ補正期間0.5×2)を順次切り替えて実施する方式を挙げることができる。
【0057】
以下では、上記いずれの方式とも異なる新規な方式のパルスシフト処理を提案する。
【0058】
<パルスシフト処理(第1実施形態)>
図4は、PWM信号生成部17におけるパルスシフト処理の第1実施形態を示す図である。本図の上段には、パルスシフト処理による最大電圧指令maxの補正量ΔVが描写されており、本図の下段には、パルスシフト処理による直流母線電流iDCの変化量ΔIが
描写されている。
【0059】
なお、本図上段において、最大電圧指令max及び中間電圧指令midは、それぞれ、先出の電圧指令vU、vV及びvWのうち、最大の電圧指令及び中間の電圧指令を指している。また、実線は補正ありの最大電圧指令max’(=max+ΔV)を示しており、破線は中間電圧指令midを示している。
【0060】
本図では、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)が「1」であるのに対して、電流検出期間Tdetを確保するために必要な差分(=Vdiff)が「4」である場合を例に挙げて説明を行う。
【0061】
まず、第N周期(=時刻t21~t22)では、上側PWM信号hmaxの左シフトが行われる。本図に即して述べると、第N周期の前半では、最大電圧指令maxに負の補正量(ΔV=-2)が付与されており、第N周期の後半では、最大電圧指令maxに正の補正量(ΔV=+3)が付与されている。
【0062】
すなわち、第N周期の前半では、max’=max-2となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-2)に応じて負方向に増大していく(0→-1)。一方、第N周期の後半では、max’=max+3となる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+3)に応じて正方向に増大していく(-1→+0.5)。
【0063】
上記の補正によれば、第N周期の後半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0064】
次に、第(N+1)周期(=時刻t22~t23)では、差分ゼロシフト(=最大電圧指令maxを中間電圧指令midまで引き下げることにより、上側PWM信号hmax及びhmidそれぞれのパルスエッジを一致させるパルスシフト処理)が行われる。本図に即して述べると、第(N+1)周期では、最大電圧指令maxに対して一律に負の補正量(ΔV=-1)が付与される。
【0065】
すなわち、第(N+1)周期では、max’=max-1(=mid)となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-1)に応じて負方向に増大していく(+0.5→-0.5)。
【0066】
次に、第(N+2)周期(=時刻t23~t24)では、上側PWM信号hmaxの右シフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+2)周期の前半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量(ΔV=+3)が付与されており、第(N+2)周期の後半では、最大電圧指令maxに対して負の補正量(ΔV=-2)が付与されている。
【0067】
すなわち、第(N+2)周期の前半では、max’=max+3となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+3)に応じて正方向に増大していく(-0.5→+1)。これに対し、第(N+2)周期の後半では、max’=max-2となる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-2)に応じて負方向に増大していく(+1→0)。
【0068】
上記の補正によれば、第(N+2)周期の前半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0069】
このように、PWM信号生成部17は、連続する複数のPWM周期(=第N~第(N+2)周期)のうち、第(N+1)周期(=第1周期に相当)では、最大電圧指令maxを中間電圧指令midと一致させ、第N周期及び第(N+2)周期(=第2周期に相当)では、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分を所定値Vdiff以上とするように、最大電圧指令maxを補正する。
【0070】
また、PWM信号生成部17は、複数のPWM周期(第N~第(N+2)周期)の全体では総補正量ΣΔVをゼロとするように、最大電圧指令maxを補正する。
【0071】
本図に即して述べると、第N周期の総補正量ΣΔV(N)は「+1(=-2+3)」であり、第(N+1)周期の総補正量ΣΔV(N+1)は「-2(=-1-1)」であり、第(N+2)周期の総補正量ΣΔV(N+2)は「+1(=+3-2)」である。その結果、第N~第(N+2)周期の全体では、総補正量ΣΔV(=ΣΔV(N)+ΣΔV(N+1)+ΣΔV(N+2))が「0(=+1-2+1)」となっている。
【0072】
このようなパルスシフト処理によれば、3周期毎に総補正量ΣΔVをゼロに維持しつつ必要な電流検出期間Tdetを確保することができる。
【0073】
また、特に第(N+1)周期では、その周期中における電流検出の機会を放棄し、最大電圧指令maxが中間電圧指令midと一致されている。すなわち、電流検出を行わないと決めた第(N+1)周期では、「最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの間に差を付ける必要がない」という逆転の発想から、両者の差分(=max-mid)がゼロとなるように、最大電圧指令maxが引き下げられている。
【0074】
その結果、第N周期及び第(N+2)周期では、第(N+1)周期における最大電圧指令maxの引き下げ分を相殺するように、最大電圧指令maxの引き上げ量を大きく設定することができるので、電流検出期間Tdetをより長く確保することが可能となる。
【0075】
なお、電流検出を行わない第(N+1)周期では、直前の第N周期で得られた電流検出値を保持したり、それまでの電流検出値から相電流の大きさを推定したりすればよい。
【0076】
また、第N~第(N+2)周期では、1周期毎に必ずパルスシフト処理(左シフト又は右シフト、若しくは、差分ゼロシフト)が実施されており、パルスシフト処理が行われないPWM周期は存在しない。従って、パルスシフト処理に伴うノイズ重畳成分の周波数が人間の可聴域(一般に20Hz~20kHz)にまで低下することはないので、可聴騒音の発生を抑制することが可能となる。
【0077】
また、PWM信号生成部17は、第(N+1)周期の前後に連続している第N周期及び第(N+2)周期のうち、一方では上側PWM信号hmaxを左シフトし、他方では上側PWM信号hmaxを右シフトするように、最大電圧指令maxを補正する。
【0078】
このようなパルスシフト処理によれば、第N~第(N+2)周期における直流母線電流iDCの変化量ΔIが時間軸で見ると対称性を持つように変動する。従って、相電流の歪みを緩和することができるので、交流モータ30の回転駆動に影響を及ぼしにくくなる。
【0079】
また、PWM信号生成部17は、第N周期及び第(N+2)周期それぞれの前半及び後半のうち、一方では最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分を所定値Vdiff以上とし、他方では第N周期及び第(N+2)周期それぞれの総補正量ΣΔV(N)及びΣΔV(N+2)をゼロに近付けるように、最大電圧指令maxを補正する。
【0080】
例えば、第N周期に着目すると、第N周期の後半では、所望の電流検出期間Tdetを確保するために最大電圧指令maxが引き上げられていることに鑑み、第N周期の前半では、最大電圧指令maxが逆に引き下げられている。
【0081】
また、例えば、第(N+2)周期に着目すると、第(N+2)周期の前半では、所望の電流検出期間Tdetを確保するために最大電圧指令maxが引き上げられていることに鑑み、第(N+2)周期の後半では、最大電圧指令maxが逆に引き下げられている。
【0082】
このようなパルスシフト処理によれば、第N周期及び第(N+2)周期それぞれにおける直流母線電流iDCの変化量ΔIが当該周期内でゼロに近付くので、交流モータ30の回転駆動に影響を及ぼしにくくなる。
【0083】
ところで、本実施形態のパルスシフト処理では、補正による最大電圧指令max(または最小電圧指令min)と中間電圧指令midとの逆転が許容されている(例えば、第N周期の前半、及び、第(N+2)周期の後半を参照)。この場合、相電流の意図しない挙動(最悪の場合には相電流の逆転)が生じて交流モータ30の駆動音が大きくなるおそれがある。そこで、以下では、上記の不具合を生じにくいパルスシフト処理を提案する。
【0084】
<パルスシフト処理(第2実施形態)>
図5は、PWM信号生成部17におけるパルスシフト処理の第2実施形態を示す図である。先出の
図4と同じく、本図の上段には、パルスシフト処理による最大電圧指令maxの補正量ΔVが描写されており、本図の下段には、パルスシフト処理による直流母線電流iDCの変化量ΔIが描写されている。
【0085】
なお、本図においても、先の第1実施形態(
図4)と同じく、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)が「1」であるのに対して、電流検出期間Tdetを確保するために必要な差分(=Vdiff)が「4」である場合を例に挙げて説明を行う。
【0086】
ただし、先の第1実施形態(
図4)と異なり、PWM信号生成部17は、補正による最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの逆転を許容しない。言い換えると、最大電圧指令maxの補正量ΔVは、ΔV≧-1に制限されている。
【0087】
このようなパルスシフト処理によれば、相電流の意図しない挙動を生じることがないので、交流モータ30の駆動音増大を抑えることが可能となる。
【0088】
まず、第N周期(=時刻t31~t32)では、上側PWM信号hmaxの左シフトが行われる。本図に即して述べると、第N周期の前半では、最大電圧指令maxに対して負の補正量(ΔV=-1)が付与されており、第N周期の後半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量(ΔV=+3)が付与されている。
【0089】
つまり、第N周期の前半では、max’=max-1(=mid)となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-1)に応じて負方向に増大していく(0→-0.5)。一方、第N周期の後半では、max’=max+3となる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+3)に応じて正方向に増大していく(-0.5→+1)。
【0090】
上記の補正によれば、第N周期の後半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上とな
るので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。この点については、先の第1実施形態(
図4)と何ら変わらない。
【0091】
次に、第(N+1)周期(=時刻t32~t33)では、差分ゼロシフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+1)周期では、最大電圧指令maxに対して一律に負のオフセット(ΔV=-1)が付与される。
【0092】
すなわち、第(N+1)周期では、max’=max-1(=mid)となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-1)に応じて負方向に増大していく(+1→0)。
【0093】
次に、第(N+2)周期(=時刻t33~t34)では、パルスシフト処理がスキップされる(シフトなし)。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIもゼロとなる。
【0094】
なお、パルスシフト処理をスキップする理由の一つは、先の第N周期及び第(N+1)周期において、双方の総補正量ΣΔV(=ΣΔV(N)+ΣΔV(N+1))が既にゼロとなっているので、第(N+2)周期で更なる補正を行う必要がないからである。本図に即して述べると、第N周期の総補正量ΣΔV(N)は「+2(=-1+3)」であり、第(N+1)周期の総補正量ΣΔV(N+1)は「-2(=-1-1)」であるから、双方の総補正量ΣΔVは「0(=+2-2)」となっている。そのため、第(N+2)周期では、パルスシフト処理がスキップされる。
【0095】
また、パルスシフト処理をスキップするもう一つの理由として、第(N+2)周期だけでは、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分を所定値Vdiff以上としつつ、総補正量ΣΔV(N+2)をゼロとすることができないからである。例えば、仮に、第2(N+2)周期の前半で最大電圧指令maxに必要な正の補正量(ΔV=+3)を与えた場合には、第2周期(N+2)の後半で最大限まで負の補正量(ΔV=-1)を与えても、総補正量ΣΔV(N+2)が「+2(=+3-1)」となってしまう。これを回避すべく、第(N+2)周期では、パルスシフト処理がスキップされる。
【0096】
このように、補正による最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの逆転を許容しないパルスシフト処理では、差分ゼロシフトを行う第(N+1)周期だけでなく、第(N+2)周期でも電流検出の機会を失う場合があることに留意すべきである。
【0097】
<パルスシフト処理(第3実施形態)>
図6は、PWM信号生成部17におけるパルスシフト処理の第3実施形態を示す図である。先出の
図4及び
図5と同じく、本図の上段には、パルスシフト処理による最大電圧指令maxの補正量ΔVが描写されており、本図の下段には、パルスシフト処理による直流母線電流iDCの変化量ΔIが描写されている。
【0098】
なお、本図では、先の第2実施形態(
図5)と異なり、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)が「1.5」である場合を例に挙げて説明を行う。また、補正による最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの逆転は、本実施形態でも許容されていない。すなわち、最大電圧指令maxの補正量ΔVは、ΔV≧-1.5に制限されている。
【0099】
まず、第N周期(=時刻t41~t42)では、上側PWM信号hmaxの左シフトが行われる。本図に即して述べると、第N周期の前半では、最大電圧指令maxに対して負の補正量(ΔV=-1)が付与されており、第N周期の後半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量(ΔV=+2.5)が付与されている。
【0100】
すなわち、第N周期の前半では、max’=max-1となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-1)に応じて負方向に増大していく(0→-0.5)。一方、第N周期の後半では、max’=max+2.5となる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+2.5)に応じて正方向に増大していく(-0.5→+0.75)。
【0101】
上記の補正によれば、第N周期の後半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0102】
次に、第(N+1)周期(=時刻t42~t43)では、差分ゼロシフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+1)周期では、最大電圧指令maxに対して一律に負のオフセット(ΔV=-1.5)が付与される。
【0103】
つまり、第(N+1)周期では、max’=max-1.5(=mid)となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-1.5)に応じて負方向に増大していく(+0.75→-0.75)。
【0104】
次に、第(N+2)周期(=時刻t43~t44)では、上側PWM信号hmaxの右シフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+2)周期の前半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量(ΔV=+2.5)が付与されており、第(N+2)周期の後半では、最大電圧指令maxに対して負の補正量(ΔV=-1)が付与されている。
【0105】
つまり、第(N+2)周期の前半では、max’=max+2.5となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+2.5)に応じて正方向に増大していく(-0.75→+0.5)。これに対し、第(N+2)周期の後半では、max’=max-1となる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-1)に応じて負方向に増大していく(+0.5→0)。
【0106】
上記の補正によれば、第(N+2)周期の前半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0107】
このように、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)がある程度大きい場合、より具体的に述べると、max-mid≧Vdiff/3を満たしていれば、補正による最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの逆転を許容しない構成であっても、パルスシフト処理のスキップを生じずに済む。
【0108】
<パルスシフト処理(第4実施形態)>
図7は、PWM信号生成部17におけるパルスシフト処理の第4実施形態を示す図である。先出の
図4~
図6と同じく、本図の上段には、パルスシフト処理による最大電圧指令maxの補正量ΔVが描写されており、本図の下段には、パルスシフト処理による直流母線電流iDCの変化量ΔIが描写されている。
【0109】
なお、本図では、先の第2実施形態(
図5)及び第3実施形態(
図6)と異なり、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)が「2」である場合を例に挙げて説明を行う。また、補正による最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの逆転は、本実施形態でも許容されていない。すなわち、最大電圧指令maxの補正量Δ
Vは、ΔV≧-2に制限されている。
【0110】
まず、第N周期(=時刻t51~t52)では、上側PWM信号hmaxの左シフトが行われる。本図に即して述べると、第N周期の前半では、最大電圧指令maxが補正なし(ΔV=0)とされており、第N周期の後半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量(ΔV=+2)が付与されている。
【0111】
すなわち、第N周期の前半では、max’=maxとなる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIはゼロとなる。これに対して、第N周期の後半では、max’=max+2となる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+2)に応じて正方向に増大していく(0→+1)。
【0112】
上記の補正によれば、第N周期の後半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0113】
次に、第(N+1)周期(=時刻t52~t53)では、差分ゼロシフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+1)周期では、最大電圧指令maxに対して一律に負のオフセット(ΔV=-2)が付与される。
【0114】
すなわち、第(N+1)周期では、max’=max-2(=mid)となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=-2)に応じて負方向に増大していく(+1→-1)。
【0115】
次に、第(N+2)周期(=時刻t53~t54)では、上側PWM信号hmaxの右シフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+2)周期の前半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量(ΔV=+2)が付与されており、第(N+2)周期の後半では、最大電圧指令maxが補正なし(ΔV=0)とされている。
【0116】
つまり、第(N+2)周期の前半では、max’=max+2となる。このとき、直流母線電流iDCの変化量ΔIは、最大電圧指令maxの補正量ΔV(=+2)に応じて正方向に増大していく(-1→0)。これに対し、第(N+2)周期の後半では、max’=maxとなる。このとき、直流母線電圧iDCの変化量ΔIはゼロとなる。
【0117】
上記の補正によれば、第(N+2)周期の前半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0118】
このように、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)がさらに大きい場合、より具体的に述べると、max-mid≧Vdiff/2を満たしている場合には、第N周期の前半及び第(N+2)周期の後半において、最大電圧指令maxに対する補正を行う必要がなくなる。言い換えれば、第(N+1)周期における負の補正量(ΔV=-2)だけで、第N周期及び第(N+2)周期における正の補正量(ΔV=+2)を相殺することが可能となる。
【0119】
<パルスシフト処理(第5実施形態)>
図8は、PWM信号生成部17におけるパルスシフト処理の第5実施形態を示す図であり、上から順に、最大電圧指令max及び中間電圧指令mid(小破線及び大破線)並びに三角波信号TRI(実線)、上側PWM信号hmax及びhmidが描写されている。
【0120】
また、最大電圧指令maxについては、細い小破線が補正なしの指令値を示しており、太い小破線が補正ありの指令値(以下では、補正ありの電圧指令max’と呼ぶ)を示している。さらに、上側PWM信号hmaxについては、小破線が補正なし(パルスシフトなし)の挙動を示しており、実線が補正あり(パルスシフトあり)の挙動を示している。
【0121】
先の第1~第4実施形態(
図4~
図7)では、説明を簡単とするために、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)を固定値としたが、本実施形態では、上記の差分が時間の経過とともに変動する場合の挙動について説明する。また、また、補正による最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの逆転は、本実施形態でも許容されていないものとする。
【0122】
第(N-2)周期(=時刻t61~t62)、及び、第(N-1)周期(=時刻t62~63)では、それぞれ、最大電圧指令maxと最小電圧指令minとの差分(=max-mid)が所定値Vdiff以上であり、必要な電流検出期間Tdetが確保されている。従って、PWM信号生成部17は、パルスシフト処理が不要であると判断し、最大電圧指令maxを補正しない。
【0123】
第N周期(=時刻t63~t64)では、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)が所定値Vdiff未満であり、そのままでは必要な電流検出期間Tdetが確保されていない。そこで、PWM信号生成部17は、最大電圧指令maxを補正することにより、上側PWM信号hmaxの左シフトを行う。本図に即して具体的に述べると、第N周期の前半では、最大電圧指令maxに対して負の補正量が付与されており、第N周期の後半では、最大電圧指令maxに対して正の補正量が付与されている。ここでは、第N周期の総補正量がゼロとされている(先出の
図3と同様)。
【0124】
上記の補正によれば、第N周期の後半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0125】
第(N+1)周期(=時刻t64~t65)では、最大電圧指令maxと中間電圧指令midとの差分(=max-mid)がさらに小さくなり、電流検出期間Tdetの確保がより難しくなっている。そこで、PWM信号生成部17は、電流検出の機会を放棄して差分ゼロシフトを行う。本図に即して述べると、第(N+1)周期では、補正ありの最大電圧指令max’が中間電圧指令midと一致するように、最大電圧指令maxに対して一律に負のオフセットが付与されている。
【0126】
第(N+2)周期(=時刻t65~t66)では、第(N+1)周期における最大電圧指令maxの引き下げ分を相殺するように、上側PWM信号hmaxの右シフトが行われる。本図に即して述べると、第(N+2)周期の前半では、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分を所定値Vdiff以上とするように、最大電圧指令maxに対して正の補正量が付与されている。一方、第(N+2)周期の後半では、最大電圧指令maxが補正なしとされている。
【0127】
上記の補正によれば、第(N+2)周期の前半において、補正ありの最大電圧指令max’と中間電圧指令midとの差分(=max’-mid)が所定値Vdiff(=4)以上となるので、必要な電流検出期間Tdetを確保することが可能となる。
【0128】
なお、第(N+1)周期における最大電圧指令maxの引き下げ分を、第(N+2)周期だけで相殺することができない場合(例えば、補正ありの最大電圧指令max’が設定
上限値に達した場合)には、第(N+3)周期(=時刻t66~t67)における補正で帳尻を合わせてもよい。
【0129】
なお、第(N+1)周期で差分ゼロシフトが行われることを事前に予想しておき、第N周期における左シフトを大きくしてもよい(先出の
図5~
図7と同様)。
【0130】
このように、或るPWM周期でパルスシフト処理を行うか否か、並びに、パルスシフト処理における最大電圧指令maxの補正量については、それ以前のPMW周期における最大電圧指令max及び中間電圧指令midから事前に予想しておけばよい。
【0131】
<その他の変形例>
なお、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0132】
例えば、上記実施形態では、いずれも最大電圧指令maxと中間電圧指令midに着目して説明したが、例えば、中間電圧指令midと最小電圧指令min(=先出の電圧指令vU、vV及びvWのうち、最小の電圧指令を指す)に着目した場合には、上記した最大電圧指令maxを最小電圧指令minと読み替えて理解すればよい。
【0133】
このように、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本明細書中に開示されているモータ制御回路は、様々なアプリケーションに用いられる交流モータの制御手段として好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0135】
10 モータ制御回路
11 AD変換部
12 クラーク変換部
13 パーク変換部
14 PI制御部
15 逆パーク変換部
16 逆クラーク変換部
17 PWM信号生成部
18 速度・軸誤差推定部
19 速度制御部
1A 軸誤差制御部
20 インバータ
30 交流モータ