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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20231220BHJP
【FI】
H02P29/024
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020089461
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021184668
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】今井 寛人
(72)【発明者】
【氏名】小関 知延
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/042608(WO,A1)
【文献】特開2020-016493(JP,A)
【文献】国際公開第2003/078237(WO,A1)
【文献】特開2010-011622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相ブラシレスモータに交流電力を供給するインバータと、
前記インバータの直流母線電流を検出するために、前記インバータとグランドとの間に直列に接続したシャント抵抗と、
前記シャント抵抗の両端の電位差を検出する第1検出回路と、
前記シャント抵抗の両端の電位差を検出する第2検出回路と、
前記シャント抵抗の両端の電位差を検出する第3検出回路と、
前記第1検出回路の出力、前記第2検出回路の出力、及び前記第3検出回路の出力をアナログ-デジタル変換して読み込んで、前記インバータを制御する制御部と、
を備えた、モータ駆動装置であって、
前記制御部は、
前記第1検出回路の出力及び前記第2検出回路の出力をアナログ-デジタル変換する第1のアナログ-デジタル変換回路と、
前記第2検出回路の出力及び前記第3検出回路の出力をアナログ-デジタル変換する第2のアナログ-デジタル変換回路と、
を備え、
前記第1のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換された出力と、前記第2のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換された出力とを比較する比較処理を実施し、
前記比較処理での一致、不一致の判定結果に基づいて、前記第1検出回路、前記第2検出回路、前記第3検出回路のうちの故障している検出回路を判別し、
前記第1検出回路、前記第2検出回路、前記第3検出回路のうち、故障していると判別した検出回路以外の検出回路の出力に基づき、前記インバータを制御する、
モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動装置であって、
前記制御部は、前記比較処理として、
前記第1のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換した前記第1検出回路の出力と、前記第2のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換した前記第2検出回路の出力とを比較する第1比較処理と、
前記第1のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換した前記第2検出回路の出力と、前記第2のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換した前記第3検出回路の出力とを比較する第2比較処理と、
前記第1のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換した前記第1検出回路の出力と、前記第2のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換した前記第3検出回路の出力とを比較する第3比較処理と、
を実施する、
モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動装置であって、
前記制御部は、
前記第1比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の不一致を判定したときに、前記第1検出回路の故障を判別し、
前記第1比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の一致を判定したときに、前記第2検出回路の故障を判別し、
前記第1比較処理で両出力の一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の不一致を判定したときに、前記第3検出回路の故障を判別する、
モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項2に記載のモータ駆動装置であって、
前記制御部は、
前記第1比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の不一致を判定したときに、前記第1検出回路の故障を判別し、
前記第1比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の一致を判定したときに、前記第2検出回路の故障を判別し、
前記第1比較処理で両出力の一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の不一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の不一致を判定したときに、前記第3検出回路の故障を判別し、
前記第1比較処理で両出力の一致を判定し、前記第2比較処理で両出力の一致を判定し、前記第3比較処理で両出力の一致を判定したときに、前記第1検出回路、前記第2検出回路、及び、前記第3検出回路の全てが正常であると判別し、
前記第1検出回路、前記第2検出回路、前記第3検出回路のうち、故障していると判別した検出回路以外の検出回路の出力に基づき、前記インバータを制御する一方、
前記一致、不一致のパターンのいずれにも該当しないときに、前記第1検出回路、前記第2検出回路、前記第3検出回路のうちの2つ以上の検出回路が故障していると判別し、前記3相ブラシレスモータの制御をフェイルセーフモードに移行させる、
モータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される3相ブラシレスモータの駆動装置は、インバータの直流母線電流を検出する電流検出器であって、各相の下アームとグランドとの間に直列に接続したシャント抵抗と、オペアンプからなる検出回路とからなる前記電流検出器と、前記電流検出器の出力を入力して各相の相電流を検出し、検出した相電流に用いて前記インバータをPWM制御する制御部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-163789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インバータの直流母線電流を検出する検出回路を備え、直流母線電流の検出値から各相の相電流を検出するモータ駆動装置では、前記検出回路が故障して相電流の検出が不能になると、モータの駆動制御を継続することができなくなってしまう。
例えば、車両のパワーステアリング装置において操舵のアシストトルクを発生するモータの駆動装置の場合、検出回路の故障によってモータの駆動制御が不能になると、モータによるアシストトルクの発生が無くなることで、運転者によるステアリングホイールの操作性が低下する、という問題が生じる。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、インバータの直流母線電流を検出する検出回路の故障が発生しても、モータ制御を可及的に継続させることができる、モータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本発明に係るモータ駆動装置は、その一態様として、3相ブラシレスモータに交流電力を供給するインバータと、前記インバータの直流母線電流を検出するために、前記インバータとグランドとの間に直列に接続したシャント抵抗と、前記シャント抵抗の両端の電位差を検出する第1検出回路と、前記シャント抵抗の両端の電位差を検出する第2検出回路と、前記シャント抵抗の両端の電位差を検出する第3検出回路と、前記第1検出回路の出力、前記第2検出回路の出力、及び前記第3検出回路の出力をアナログ-デジタル変換して読み込んで、前記インバータを制御する制御部と、を備えた、モータ駆動装置であって、前記制御部は、前記第1検出回路の出力及び前記第2検出回路の出力をアナログ-デジタル変換する第1のアナログ-デジタル変換回路と、前記第2検出回路の出力及び前記第3検出回路の出力をアナログ-デジタル変換する第2のアナログ-デジタル変換回路と、を備え、前記第1のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換された出力と、前記第2のアナログ-デジタル変換回路でアナログ-デジタル変換された出力とを比較する比較処理を実施し、前記比較処理での一致、不一致の判定結果に基づいて、前記第1検出回路、前記第2検出回路、前記第3検出回路のうちの故障している検出回路を判別し、前記第1検出回路、前記第2検出回路、前記第3検出回路のうち、故障していると判別した検出回路以外の検出回路の出力に基づき、前記インバータを制御する。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によると、インバータの直流母線電流を検出する検出回路の故障が発生しても、モータ制御を可及的に継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】3相ブラシレスモータの駆動装置の一態様を示す回路図である。
図2】3相ブラシレスモータのPWM制御の一態様を示すブロック図である。
図3】インバータの直流母線電流を検出する検出回路の詳細を示す回路図である。
図4】検出回路の故障診断の手順を示すフローチャートである。
図5】検出回路の出力の比較パターンと故障判別結果との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、3相ブラシレスモータ100及びモータ駆動装置200の一態様を示す回路図である。
【0010】
3相ブラシレスモータ100は、例えば、車両の電動パワーステアリング装置において操舵のアシストトルクを発生するモータである。
3相ブラシレスモータ100を駆動するモータ駆動装置200は、駆動回路210と制御部220とを備える。
【0011】
制御部220は、アナログ-デジタル変換回路221(以下、AD変換回路221と称する。)、及び、マイクロコンピュータ222を備え、マイクロコンピュータ222は、CPUなどのマイクロプロセッサ、及び、ROM、RAMなどのメモリデバイスを有する。
3相ブラシレスモータ100は、スター結線されるU相、V相及びW相の3相巻線101u、101v、101wを図示省略した円筒状の固定子に備え、該固定子の中央部に形成した空間に永久磁石からなる回転子102を回転可能に備える。
【0012】
駆動回路210は、逆並列のダイオード211a-211fを含んでなるスイッチング素子212a-212fを3相ブリッジ接続したインバータ213と、直流の電源回路214とを備え、インバータ213は3相ブラシレスモータ100に交流電力を供給する。
インバータ213のスイッチング素子212a-212fは例えばFETであり、スイッチング素子212a-212fの各ゲート端子は、制御部220の出力ポートに接続される。
そして、制御部220がスイッチング素子212a-212fの各ゲート端子に出力するゲート信号に応じて、スイッチング素子212a-212fがオン状態とオフ状態とに切り換わる。
【0013】
制御部220は、インバータ213のスイッチング素子212a-212fのオン・オフを、例えば、三角波比較方式のPWM(Pulse Width Modulation)によって制御して、3相ブラシレスモータ100に印加する電圧を制御する。
三角波比較方式のPWM制御においては、三角波と、指令デューティ比に応じて設定されるPWMタイマとを比較することで、各スイッチング素子212a-212fのオン・オフを切り換えるタイミング、換言すれば、スイッチング素子212a-212fのゲート信号であるPWMパルスの立ち上げ及び立ち下げのタイミングを検出する。
【0014】
また、制御部220は、インバータ213の各相の上アーム(スイッチング素子212a,212c,212e)のオン・オフを制御するPWMパルスに対し、各相の下アーム(スイッチング素子212b,212d,212f)のオン・オフを制御するPWMパルスを逆相とする相補方式によって、インバータ213のスイッチング素子212a-212fをPWM制御する。
上記の相補方式では、1つの相の上アームのオン・オフを制御するPWMパルスが論理レベルでハイのとき、同じ相の下アームのオン・オフを制御するPWMパルスは論理レベルでローとなり、全相の上アームがオンのときに全相の下アームがオフに、全相の下アームがオンのときに全相の上アームがオフになる。
【0015】
また、モータ駆動装置200は、各相の下アーム(スイッチング素子212b,212d,212f)と電源回路214のグランド(接地側)との間に直列に接続したシャント抵抗230と、シャント抵抗230の両端の電位差を検出する検出回路240(電流検出アンプ)と、を備える。
シャント抵抗230と検出回路240とによってインバータ213の直流母線電流が検出され、シャント抵抗230と検出回路240との組み合わせは、インバータ213の直流母線電流を検出する母線電流検出部250を構成する。
【0016】
検出回路240が出力する電圧のアナログ信号は、制御部220のAD変換回路221で電圧値を示すデジタル信号に変換され、マイクロコンピュータ222は、AD変換回路221が出力するデジタル信号を読み込む。
マイクロコンピュータ222は、例えば、回転子位置と指令トルクとに基づくベクトル制御方式によって3相指令電圧Vu、Vv、Vwを決定し、この指令電圧に基づきインバータ213をPWM制御する。
【0017】
マイクロコンピュータ222は、検出回路240の検出値、つまり、インバータ213の直流母線電流の検出値に基づき各相の相電流を検出し、検出した相電流を用いてベクトル制御を実施する。
つまり、マイクロコンピュータ222は、各相のPWMパルスの組み合わせによって検出回路240の出力(換言すれば、直流母線電流)が1つの相の相電流を示すようになることを利用して、各相の相電流を検出回路240の出力に基づき検出する。
【0018】
例えば、U相の上アーム(スイッチング素子212a)がオンで、V相及びW相の上アーム(スイッチング素子212c及びスイッチング素子212e)が共にオフである場合は、U相に流れた電流がV相及びW相に分かれて流れ、検出回路240は、U相の相電流Iuを検出することになる。
つまり、各相の上アーム(スイッチング素子212a、212c、212e)のうちの1つがオンで他の2つがオフであるPWMパルスの組み合わせ状態において、検出回路240は、上アームがオン制御されている1つの相の相電流を検出することになる。
【0019】
また、例えば、U相及びV相の上アーム(スイッチング素子212a及びスイッチング素子212c)が共にオンで、W相の上アーム(スイッチング素子212e)がオフである場合は、U相に流れた電流及びV相に流れた電流が合流してW相に流れることになり、検出回路240は、W相の相電流Iwを検出することになる。
つまり、各相の上アーム(スイッチング素子212a、212c、212e)のうちの2つがオンで他の1つがオフであるPWMパルスの組み合わせ状態において、検出回路240は、上アームがオフに制御されている1つの相の相電流を検出することになる。
【0020】
このように、各相の上アームのうちの1つ又は2つがオンであるPWMパルスの組み合わせ状態において、検出回路240の出力は、PWMパルスの組み合わせパターンで決まる1つの相の相電流を表すことになる。
そこで、マイクロコンピュータ222は、係る特性を利用して検出回路240の出力から各相の相電流を検出し、検出した相電流をPWM制御に用いる。
【0021】
図2は、マイクロコンピュータ222のブロック図であり、ベクトル制御方式による3相指令電圧Vu、Vv、Vwの設定処理の機能を示す。
図2において、相電流検出部501は、検出回路240の出力をAD変換回路221でA/D変換した値、換言すれば、インバータ213の直流母線電流のデジタル値に基づき、各相の相電流Iu、Iv、Iwを検出する。
【0022】
前述したように、相電流検出部501は、各相の上アームのうちの1つ又は2つがオンであるPWMパルス区間を相電流検出区間とし、また、どの相の上アームがオンであるかに基づき前記相電流検出区間で相電流が検出される1つの相を特定する。
そして、相電流検出部501は、相電流検出区間内に相電流検出タイミング、換言すれば、検出回路240の出力のA/D変換値のサンプリングタイミングを設定し、この相電流検出タイミングで検出回路240の出力をサンプリングし、サンプリングした値から求めた電流値を、そのときに検出対象として特定されている相の相電流検出値とする。
なお、相電流検出部501は、インバータ213の直流母線電流の検出値に基づき2相の相電流を検出すると、相電流の総和が零になることを用いて、残りの1相の相電流を演算によって求めることができる。
【0023】
角度・角速度演算部502は、モータ角度(磁極位置)及び角速度(モータ回転数)を推定する。
ここで、マイクロコンピュータ222がセンサレス駆動方式で3相ブラシレスモータ100をPWM制御する場合、角度・角速度演算部502は、3相ブラシレスモータ100の逆起電力に基づき回転子位置を推定し、推定した回転子位置に基づき、3相ブラシレスモータ100の角速度を求める。
【0024】
一方、3相ブラシレスモータ100が磁極位置センサを有する場合、角度・角速度演算部502は、磁極位置センサの出力から回転子位置を検出し、検出した回転子位置に基づき、3相ブラシレスモータ100の角速度を求める。
また、3相-2軸変換器503は、相電流検出部501が検出した相電流Iu、Iv、Iwを、そのときのモータ角度(磁極位置)θに基づいて2軸の回転座標系(dq座標系)の実電流Id,Iqに変換する。
【0025】
ベクトル制御部504には、指令トルクに応じたd軸指令電流及びq軸指令電流、角度・角速度演算部502が算出した角速度、3相-2軸変換器503が求めた実電流Id,Iqが入力される。
そして、ベクトル制御部504は、d軸指令電流、q軸指令電流、角速度、及びdq座標系の実電流Id,Iqに基づき、dq座標系の指令電圧Vq,Vdを決定し、決定したdq座標系の指令電圧Vq,Vdを2軸-3相変換器505に出力する。
【0026】
2軸-3相変換器505は、ベクトル制御部504が出力するdq座標系の指令電圧Vq,Vdを3相指令電圧Vu、Vv、Vwに変換してPWM変調部506に出力する。
PWM変調部506は、インバータ213の各相のスイッチング素子(上アーム及び下アーム)を駆動するためのスイッチングゲート波形(PWMパルス)の立ち上げタイミング及び立ち下げタイミングを、変調波としての3相指令電圧Vu、Vv、Vwと三角波キャリアとの比較によって決定し、スイッチングゲート波形を生成する。
【0027】
そして、PWM変調部506は、生成したスイッチングゲート波形をインバータ213の各スイッチング素子212a-212fの制御端子(ゲート端子)に出力する。
ここで、PWM変調部506は、U相指令電圧Vuと三角波キャリアとを比較し、U相指令電圧Vuが三角波キャリアよりも大きいときに、U相の上アーム(スイッチング素子212a)を駆動するためのスイッチングゲート波形を論理レベルとしてハイレベルに設定し、U相指令電圧Vuが三角波キャリアよりも小さいときにU相の上アームを駆動するためのスイッチングゲート波形を論理レベルとしてローレベルに設定する。
【0028】
更に、PWM変調部506は、U相の上アーム(スイッチング素子212a)を駆動するためのスイッチングゲート波形の反転信号を、U相の下アーム(スイッチング素子212b)を駆動するためのスイッチングゲート波形として生成する。
同様にして、PWM変調部506は、V相の上下アーム(スイッチング素子212c,212d)を駆動するためのスイッチングゲート波形、及び、W相の上下アーム(スイッチング素子212e,212f)を駆動するためのスイッチングゲート波形を生成する。
【0029】
図3は、検出回路240及びAD変換回路221の詳細を示す回路図である。
モータ駆動装置200において、シャント抵抗230の両端の電位差(換言すれば、インバータ213の直流母線電流)を検出する検出回路240、及び、検出回路240のアナログ出力をデジタル信号に変換するAD変換回路221がそれぞれ冗長化されている。
【0030】
詳細には、検出回路240は、第1検出回路240a、第2検出回路240b、及び、第3検出回路240cを有し、各検出回路240a,240b,240cは、それぞれにシャント抵抗230の両端の電位差を検出する。
また、AD変換回路221は、第1のAD変換回路221a及び第2のAD変換回路221bを有し、第1のAD変換回路221aは、第1検出回路240aのアナログ出力及び第2検出回路240bのアナログ出力をデジタル信号に変換し、第2のAD変換回路221bは、第2検出回路240bのアナログ出力及び第3検出回路240cのアナログ出力をデジタル信号に変換する。
つまり、第2検出回路240bのアナログ出力は、第1のAD変換回路221a及び第2のAD変換回路221bの双方でそれぞれにデジタル信号に変換される。
【0031】
ここで、マイクロコンピュータ222は、各検出回路240a,240b,240cの出力を比較して、検出回路240a,240b,240cのうちの故障している検出回路を判別し、検出回路240a,240b,240cのうち、故障していると判別した検出回路以外の検出回路の出力に基づき相電流を検出し、検出した相電流に基づきインバータ213を制御する。
なお、モータ駆動装置200は、各検出回路240a,240b,240cの出力側にCRローパスフィルタを備え、第1のAD変換回路221a及び第2のAD変換回路221bは、CRローパスフィルタを通過したアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0032】
図4は、マイクロコンピュータ222による検出回路240a,240b,240cの故障診断の手順を示すフローチャートである。
なお、以下では、第1のAD変換回路221aによってデジタル信号に変換された第1検出回路240aの出力をSO1、第1のAD変換回路221aによってデジタル信号に変換された第2検出回路240bの出力をSO2(0)、第2のAD変換回路221bによってデジタル信号に変換された第2検出回路240bの出力をSO2(1)、第2のAD変換回路221bによってデジタル信号に変換された第3検出回路240cの出力をSO3とする。
【0033】
マイクロコンピュータ222は、ステップS701(第1比較処理)で、第1検出回路240aの出力SO1と第2検出回路240bの出力SO2(1)とを比較し、両出力の一致・不一致を判別する。
マイクロコンピュータ222は、第1検出回路240aの出力SO1と第2検出回路240bの出力SO2(1)との偏差の絶対値が閾値(閾値>0)を下回るときに、出力SO1と出力SO2(1)とが一致していると判別し、前記偏差の絶対値が前記閾値以上であるときに、出力SO1と出力SO2(1)とが不一致であると判別する。
なお、マイクロコンピュータ222は、後述するステップS703、ステップS705での一致・不一致の判別においても、ステップS701と同様に判別する。
【0034】
マイクロコンピュータ222は、ステップS701で、第1検出回路240aの出力SO1と第2検出回路240bの出力SO2(1)とが不一致であると判別すると、ステップS702で故障フラグFAを立ち上げた後(故障フラグFA=1)、ステップS703に進む。
一方、マイクロコンピュータ222は、ステップS701で、第1検出回路240aの出力SO1と第2検出回路240bの出力SO2(1)とが一致していると判別すると、ステップS702を迂回してステップS703に進む。
なお、故障フラグFAの初期値は零であり、後述する故障フラグFB,FCの初期値も零である。
【0035】
マイクロコンピュータ222は、ステップS703(第2比較処理)で、第2検出回路240bの出力SO2(0)と第3検出回路240cの出力SO3とを比較し、両出力の一致・不一致を判別する。
そして、マイクロコンピュータ222は、ステップS703で、出力SO2(0)と出力SO3とが不一致であると判別すると、ステップS704で故障フラグFBを立ち上げた後(故障フラグFB=1)、ステップS705に進む。
一方、マイクロコンピュータ222は、ステップS703で、出力SO2(0)と出力SO3とが一致していると判別すると、ステップS704を迂回してステップS705に進む。
【0036】
マイクロコンピュータ222は、ステップS705(第3比較処理)で、第1検出回路240aの出力SO1と第3検出回路240cの出力SO3とを比較し、両出力の一致・不一致を判別する。
そして、マイクロコンピュータ222は、ステップS705で、出力SO1と出力SO3とが不一致であると判別すると、ステップS706で故障フラグFCを立ち上げた後(故障フラグFC=1)、ステップS707に進む。
一方、マイクロコンピュータ222は、ステップS705で、出力SO1と出力SO3とが一致していると判別すると、ステップS706を迂回してステップS707に進む。
【0037】
マイクロコンピュータ222は、ステップS707で、故障フラグFA、故障フラグFB、故障フラグFCの全てが零に設定されている状態(故障フラグFA=0、かつ、故障フラグFB=0、かつ、故障フラグFC=0)であるか否かを判別する。
故障フラグFA、故障フラグFB、故障フラグFCの全てが零である場合、マイクロコンピュータ222は、ステップS708に進んで、第1検出回路240a、第2検出回路240b、及び、第3検出回路240cの全てが正常であると判別する。
第1検出回路240a、第2検出回路240b、及び、第3検出回路240cが全て正常である場合、マイクロコンピュータ222は、出力SO1、SO2(0)、SO2(1)、SO3のいずれかを用いて相電流を検出し、インバータ213を制御する。
【0038】
一方、マイクロコンピュータ222は、ステップS707で、故障フラグFA、故障フラグFB、故障フラグFCの全てが零ではない、換言すれば、故障フラグFA、故障フラグFB、故障フラグFCのうちの少なくとも1つが立ち上がっていると判別すると、ステップS709に進む。
マイクロコンピュータ222は、ステップS709で、故障フラグFA=1、故障フラグFB=0、故障フラグFC=1であるか否かを判別する。
【0039】
故障フラグFA=1、故障フラグFB=0、故障フラグFC=1である場合、マイクロコンピュータ222は、ステップS710に進み、第1検出回路240aの故障(出力SO1の異常)を判別する一方、第2検出回路240b及び第3検出回路240cの正常(出力SO2(0)、SO2(1)、SO3の正常)を判別する。
このとき、マイクロコンピュータ222は、出力SO2(0)、SO2(1)、SO3のいずれかを用いて相電流を検出し、インバータ213を制御する。
【0040】
また、マイクロコンピュータ222は、ステップS709で、故障フラグFA=1、故障フラグFB=0、故障フラグFC=1が成立していないと判別すると、ステップS711に進む。
マイクロコンピュータ222は、ステップS711で、故障フラグFA=1、故障フラグFB=1、故障フラグFC=0であるか否かを判別する。
【0041】
故障フラグFA=1、故障フラグFB=1、故障フラグFC=0である場合、マイクロコンピュータ222は、ステップS712に進み、第2検出回路240bの故障(出力SO2(0)、SO2(1)の異常)を判別する一方、第1検出回路240a及び第3検出回路240cの正常(出力SO1、SO3の正常)を判別する。
このとき、マイクロコンピュータ222は、出力SO1、SO3のいずれかを用いて相電流を検出し、インバータ213を制御する。
【0042】
また、マイクロコンピュータ222は、ステップS711で、故障フラグFA=1、故障フラグFB=1、故障フラグFC=0が成立していないと判別すると、ステップS713に進む。
マイクロコンピュータ222は、ステップS713で、故障フラグFA=0、故障フラグFB=1、故障フラグFC=1であるか否かを判別する。
【0043】
故障フラグFA=0、故障フラグFB=1、故障フラグFC=1である場合、マイクロコンピュータ222は、ステップS714に進み、第3検出回路240cの故障(出力SO3の異常)を判別する一方、第1検出回路240a及び第2検出回路240bの正常(出力SO1、SO2(0)、SO2(1)の正常)を判別する。
このとき、マイクロコンピュータ222は、出力SO1、SO2(0)、SO2(1)のいずれかを用いて相電流を検出し、インバータ213を制御する。
【0044】
また、マイクロコンピュータ222は、ステップS713で、故障フラグFA=0、故障フラグFB=1、故障フラグFC=1が成立していないと判別すると、ステップS715に進んで、第1検出回路240a、第2検出回路240b、第3検出回路240cのうちの2つ以上の検出回路が故障していると判別する。
この場合、マイクロコンピュータ222は、インバータ213の直流母線電流の検出出力のうちの正常な出力を特定して、相電流の検出に用いることができない状態であると判別し、3相ブラシレスモータ100の制御を、モータの駆動停止などを含むフェイルセーフモードに移行させる。
【0045】
図5は、出力SO1、SO2(0)、SO2(1)、SO3の比較パターン(第1-第3比較処理)と、各比較における一致・不一致の判断結果に応じて特定される故障状態の検出回路を示す。
出力SO1と出力SO2(1)とが不一致で、出力SO2(0)と出力SO3とが一致し、出力SO1と出力SO3とが不一致である場合、マイクロコンピュータ222は、出力SO1(第1検出回路240a)の故障を判別する。
出力SO1と出力SO2(1)とが不一致である場合、いずれか一方が故障している可能性があるが、マイクロコンピュータ222は、どちらが故障しているかを判別することはできない。
しかし、出力SO2(0)と出力SO3とが一致していて、出力SO1と出力SO3とが不一致であれば、マイクロコンピュータ222は、各比較結果が出力SO1(第1検出回路240a)の故障状態でのパターンであるとして、出力SO1(第1検出回路240a)の故障を特定できる。
【0046】
また、出力SO1と出力SO2(1)とが不一致で、出力SO2(0)と出力SO3とが不一致で、出力SO1と出力SO3とが一致している場合、マイクロコンピュータ222は、出力SO2(第2検出回路240b)の故障を判別する。
更に、出力SO1と出力SO2(1)とが一致し、出力SO2(0)と出力SO3とが不一致で、出力SO1と出力SO3とが不一致である場合、マイクロコンピュータ222は、出力SO3(第3検出回路240c)の故障を判別する。
【0047】
以上のように、マイクロコンピュータ222は、3つの検出回路240a、240b、240cのうちの1つが故障したときに、故障した検出回路を特定して、正常な検出回路の出力に基づきインバータ213の制御、つまり、3相ブラシレスモータ100の駆動制御を継続することができる。
したがって、3相ブラシレスモータ100が、例えば、車両の電動パワーステアリング装置において操舵のアシストトルクを発生するモータである場合、検出回路240a、240b、240cのうちの1つが故障しても、正常な検出回路の出力を用いて3相ブラシレスモータ100を駆動制御して、アシストトルクの発生を継続させることができ、運転者による操舵性が低下することを抑止できる。
【0048】
また、マイクロコンピュータ222は、図4のステップS701、ステップS703、ステップS705において、第1のAD変換回路221aでデジタル信号に変換された電圧データと、第2のAD変換回路221bでデジタル信号に変換された電圧データとを比較する。
したがって、例えば、第1のAD変換回路221aの故障によって、出力SO1と出力SO2(0)とが同レベルの異常値になったとしても、誤った一致判定がなされることが抑止され、マイクロコンピュータ222は、ステップS715に進み、2つ以上の検出回路の故障を判別してフェイルセーフ制御を実施することができる。
【0049】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0050】
100…3相ブラシレスモータ、200…モータ駆動装置、210…駆動回路、213…インバータ、220…制御部、221…AD変換回路、221a…第1のAD変換回路、221b…第2のAD変換回路、222…マイクロコンピュータ、230…シャント抵抗、240…検出回路、240a…第1検出回路、240b…第2検出回路、240c…第3検出回路
図1
図2
図3
図4
図5