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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】風車翼、及び、風車
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/30 20160101AFI20231220BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20231220BHJP
   H05F 3/02 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
F03D80/30
F03D1/06 A
H05F3/02 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020095606
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021188577
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村田 直人
(72)【発明者】
【氏名】山本 修作
(72)【発明者】
【氏名】津村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】青井 辰史
(72)【発明者】
【氏名】池田 顕夫
(72)【発明者】
【氏名】神原 信幸
(72)【発明者】
【氏名】名嘉 丈博
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223325(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077970(WO,A1)
【文献】特開2013-155723(JP,A)
【文献】国際公開第2013/007267(WO,A1)
【文献】特開2004-245174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/06
F03D 80/30
H05F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼本体と、
導電性材料を含んで構成され、前記翼本体の前縁部を覆う前縁プロテクタと
前記翼本体において外皮によって囲まれた中空空間に配置されたダウンコンダクタ
前記外皮の外表面に沿って設けられる導電メッシュ部材と、
を備え
前記前縁プロテクタは、前記外表面から前記外皮の厚さ方向に沿って延びるように前記外皮に設けられたレセプタによって、前記外皮の厚さ方向に沿って異なる位置に設けられた前記ダウンコンダクタ及び前記導電メッシュ部材に接続される、風車翼。
【請求項2】
前記前縁プロテクタは、前記翼本体の翼長方向に沿って配置される複数のプロテクタ部材を含む、請求項に記載の風車翼。
【請求項3】
前記複数のプロテクタ部材は、互いに電気的に接続される、請求項に記載の風車翼。
【請求項4】
前記複数のプロテクタ部材は、前記複数のプロテクタ部材と前記外皮との間に設けられる導電板を介して電気的に接続される、請求項に記載の風車翼。
【請求項5】
前記複数のプロテクタ部材のうち前記翼本体の翼根部に最も近い前記プロテクタが、前記ダウンコンダクタ又は前記導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続される、請求項又はに記載の風車翼。
【請求項6】
前記前縁プロテクタは、
金属板材から構成される第1領域と、
前記第1領域より前記翼本体の翼根部側に設けられ、溶射膜から構成される第2領域と、
を備える、請求項1からのいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項7】
前記前縁プロテクタは、前記外皮を貫通するボルト部材によって前記翼本体に固定される、請求項1からのいずれか一項に記載の風車翼。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の風車翼を備える、風車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車翼、及び、風車翼を備える風車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば風力発電装置等に利用される風車では、回転する風車翼の前縁部に対して、雨滴や砂塵等が繰り返し衝突することによってエロージョン損傷が生じる。近年、風車の大型化に伴って風車翼の翼先端部における周速が増加しており、風車の寿命に対するエロージョン損傷の影響が大きくなっている。
【0003】
このようなエロージョン損傷を抑制することを目的として、エロージョン損傷が発生しやすい風車翼の前縁部に対してプロテクタが配置されることがある。例えば特許文献1では、風車翼の周速が大きくなる翼先端側において、風車翼の前縁部をシールド部材で覆うことにより、エロージョン損傷を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/219524号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のシールド部材のようなエロージョン損傷を抑制するためのプロテクタは、風車翼の前縁部を覆うことで、翼本体に代わって雨滴や砂塵等を受けることにより、翼本体がエロージョン損傷を受けることを抑制する。このようなプロテクタは、雨滴や砂塵等を受けることによって少なからず損傷を受けるため、適切なタイミングで交換する必要がある。従来のプロテクタは、ウレタン等の材質で形成されており、例えば数年の期間で交換しなければならないのが現状である。
【0006】
また風車が備える風車翼は高所に位置するため、落雷を受ける可能性があり、良好な耐雷性能が求められる。風車翼の前縁部に配置されるプロテクタは、十分な耐雷性能がない場合、落雷を受けた際に、雷撃によるアークエネルギーや、プロテクタを流れるジュール熱によって損傷し、場合によっては剥がれ落ちる可能性もある。
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、エロージョン損傷の発生を効果的に抑制するとともに、優れた耐雷性能を有する風車翼、及び、当該風車翼を備える風車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る風車翼は、上記課題を解決するために、
翼本体と、
導電性材料を含んで構成され、前記翼本体の前縁部を覆い、前記翼本体において外皮によって囲まれた中空空間に配置されたダウンコンダクタ、又は、前記外皮の外表面に沿って設けられる導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続される前縁プロテクタと、
を備える。
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係る風車は、上記課題を解決するために、
本開示の少なくとも一実施形態に係る風車翼を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、エロージョン損傷の発生を効果的に抑制するとともに、優れた耐雷性能を有する風車翼、及び、当該風車翼を備える風車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る風車を概略的に示す全体構成図である。
図2】一実施形態に係る風車翼の翼先端部側を示す斜視図である。
図3図2の前縁部に設けられた前縁プロテクタを示す斜視図である。
図4図2のA-A線における背側外皮近傍の断面図である。
図5】他の実施形態に係る風車翼の翼先端部側を示す斜視図である。
図6図5のB-B線における概略断面図である。
図7】他の実施形態に係る風車翼の翼先端部側を示す斜視図である。
図8図7のC-C線における背側外皮近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
まず本開示の少なくとも一実施形態に係る風車1の構成について説明する。図1は一実施形態に係る風車1を概略的に示す全体構成図である。
【0014】
風車1は、少なくとも1枚の風車翼2を備える。風車翼2は、ハブ4に対して取り付けられることによって、回転軸の周りに回転可能な風車ロータ6をハブ4とともに構成する。図1に示す風車1の風車ロータ6では、ハブ4に対して回転軸の周りに等間隔で3枚の風車翼2が取り付けられている。各風車翼2は、ハブ4に連結される翼根部12と、翼長方向において翼根部12と反対側にある翼先端部14と、を有する。風車ロータ6は、タワー10上に旋回可能に設けられたナセル8に対して、回転可能に取り付けられる。このような構成を有する風車1は、風が風車翼2に当たると、風車翼2及びハブ4を含む風車ロータ6が、回転軸の周りで回転する。
【0015】
尚、風車1は例えば風力発電装置として構成されてもよい。この場合、ナセル8には、発電機と、風車ロータ6の回転を発電機に伝達するための動力伝達機構とが収容される。風車1では、風車ロータ6から動力伝達機構により発電機に伝達された回転エネルギーが、発電機によって電気エネルギーに変換される。
【0016】
図2は一実施形態に係る風車翼2の翼先端部14側を示す斜視図であり、図3図2の前縁部20に設けられた前縁プロテクタ30を示す斜視図であり、図4図2のA-A線における背側外皮24近傍の断面図である。
【0017】
風車翼2は、翼本体18を有する。翼本体18は、翼長方向に沿って翼根部12から翼先端部14に向けて延在し、翼コード方向の前方側に設けられた前縁部20と、翼コード方向の後方側に設けられた後縁部22と、を有する。
【0018】
翼本体18は、繊維強化プラスチックを含む外皮を有する。外皮を構成する繊維強化プラスチックは、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Grass Fiber Reinforced Plastics)やカーボン繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いることができる。
【0019】
本実施形態では、翼本体18は、互いに対向するように配置された背側外皮24及び腹側外皮26を含む。背側外皮24及び腹側外皮26は、翼本体18の前縁部20及び後縁部22において、互いに接続されることで、翼本体18の内部に、外皮によって囲まれる中空空間16が形成されている。
【0020】
尚、前縁部20及び後縁部22において、背側外皮24及び腹側外皮26は、例えば接着剤等によって接着されることで互いに固定される。
【0021】
中空空間16には、ダウンコンダクタ15が配置される。ダウンコンダクタ15は、導電性材料を含んで構成されており、風車1が落雷を受けた際に、風車翼2に生じる雷電流が流れる電路の少なくとも一部を構成する。ダウンコンダクタ15は、中空空間16の内部を翼長方向に沿って延在しており、翼根部12側において一端が不図示のアース線に電気的に接続される。
尚、ダウンコンダクタ15の他端は、翼先端部に設けられたレセプタ(不図示)に電気的に接続されていてもよい。
【0022】
翼本体18は、導電メッシュ部材17を備える。導電メッシュ部材17は、導電性材料を含んで構成されており、風車1が落雷を受けた際に、前述のダウンコンダクタ15とともに、風車翼2に生じる雷電流が流れる電路の少なくとも一部を構成する。導電メッシュ部材17は、導電性材料がメッシュ形状を有するように構成され、翼本体18を構成する外皮の外表面に沿って設けられる。具体的には、図4に示すように、導電メッシュ部材17は外皮の外表面近傍に埋め込まれる。
【0023】
本実施形態では、導電メッシュ部材17は背側外皮24の外表面に沿って設けられており、図2に示すように、翼コード方向に沿った幅が略一定であり、且つ、翼根部12から翼先端部14に向かう所定範囲にわたって形成されている。
【0024】
風車翼2は、前縁プロテクタ30を備える。前縁プロテクタ30は、図3に示すように、翼本体18のうち前縁部20を覆うように構成される。前縁プロテクタ30は、耐エロージョン性に優れた材料から構成されることで、風車1の稼働時に、前縁部20を雨滴や砂塵等から保護することで、エロージョン損傷を抑制する。
【0025】
尚、前縁プロテクタ30は、図4に示すように、接着層29を介して背側外皮24の外表面に対して取り付けられる。接着層29は、例えば、アクリル又はエポキシ系の接着剤が硬化して形成される。
【0026】
また前縁プロテクタ30は、導電性材料を含んで構成される。導電性材料は、例えば、銅合金、又は、これに類似する物性を有する金属を用いることができる。これにより、前縁プロテクタ30は、風車1が落雷を受けた際に、前述のダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17とともに、風車翼2に生じる雷電流が流れる電路の少なくとも一部を構成する。このように、翼本体18のエロージョン損傷を防止するための前縁プロテクタ30が、風車翼2の耐雷構造の一部を構成することで、風車翼2の耐雷性能を向上できる。
【0027】
また前縁プロテクタ30は、図3に示すように、前縁部20を広い面積にわたって覆うことで、耐雷性能を有する前縁プロテクタ30に対する着雷確率を上昇させることができる。これにより、例えば、翼本体18を構成する外皮が雷撃を受けることで損傷することを効果的に防止できる。
【0028】
前縁プロテクタ30は、図2に示すように、翼本体18の前縁部20のうち、翼先端部14側において所定領域にわたって設けられる。前縁部20のうち翼先端部14側は、周速が大きくなるためエロージョン損傷が生じやすく、また高所に位置することで雷撃を受ける可能性が高い。そのため、当該領域にわたって前縁プロテクタ30を設けることで、効果的にエロージョン損傷の抑制と、耐雷性能の向上を図ることができる。
【0029】
前縁プロテクタ30は、ダウンコンダクタ15又は導電メッシュ部材17の少なくとも一方に電気的に接続される。本実施形態では、前縁プロテクタ30は、ダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17の両方に電気的に接続される。これにより、風車翼2が落雷を受けた場合に、前縁プロテクタ30に生じた雷電流がダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17に導かれることで、良好な耐雷性能が得られる。
【0030】
翼本体18には、着雷ターゲットとなる少なくとも1つのレセプタ32が設けられる。本実施形態では、図2に示すように、背側外皮24のうち外表面から垂直方向から見て、導電メッシュ部材17と前縁プロテクタ30とが互いに重なる領域にレセプタが配置されている。このレセプタ32は、翼本体18を構成する外皮において、外表面から厚さ方向に沿って延びるように設けられる。図4に示すように、レセプタ32は、翼本体18を構成する外皮のうち背側外皮24を貫通するように設けられる。
【0031】
前縁プロテクタ30は、レセプタ32を介して、ダウンコンダクタ15又は導電メッシュ部材17の少なくとも一方に電気的に接続される。本実施形態の前縁プロテクタ30は、ダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17の両方に電気的に接続される。具体的には、図4に示すように、背側外皮24の外表面側に配置された前縁プロテクタ30は、背側外皮24を貫通するレセプタ32を介して、背側外皮24に埋め込まれた導電メッシュ部材17に電気的に接続されるとともに、背側外皮24の内側(中空空間16)に配置されたダウンコンダクタ15に電気的に接続される。
【0032】
このように外皮の厚さ方向に沿って延びるレセプタ32によって、外皮の厚さ方向に沿って異なる位置に設けられたダウンコンダクタ15や導電メッシュ部材17に対して、効率的なレイアウトで前縁プロテクタ30を電気的に接続できる。
【0033】
前縁プロテクタ30は複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・を含んで構成されてもよい。複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、図4に示すように、板形状を有する前縁プロテクタ30が、翼長方向に沿って複数に分割することで構成される。これにより、風車翼2の翼長方向に沿ったサイズが大きい場合であっても、複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・を翼長方向に沿って配置することで、広い範囲にわたって前縁部20を覆う前縁プロテクタ30を構成し、十分な耐エロージョン性能と耐雷性能を得ることができる。
【0034】
前縁プロテクタ30を構成する複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、互いに電気的に接続されていてもよい。図4では、隣接する複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、互いに相補的形状を有する端部を介して接合されることで、互いに電気的に接続されている。例えば、プロテクタ部材30bに隣接するプロテクタ部材30aは、部分的に厚さが小さくなるように上層側が部分的に切り欠かれた断面形状を有する端部31を有し、当該端部31は、プロテクタ部材30bにおいて部分的に厚さが小さくなるように下層側が部分的に切り欠かれた断面形状を有する端部33に対して、互いに係合可能に構成されている。
尚、図4に示す端部31、33の形状は一例に過ぎず、他の形状を有してもよい。例えば、端部31、33は、互いに対向するテーパ状の傾斜面を有してもよい。
【0035】
このように前縁プロテクタ30を構成する複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・が互いに電気的に接続されることで、いずれのプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・が落雷を受けた場合においても、前縁プロテクタ30に生じる雷電流をダウンコンダクタ15や導電メッシュ部材17に的確に導くことができる。その結果、翼長方向に沿ったサイズが大きな風車翼2においても、エロージョン損傷を防止しつつ、良好な耐雷性能が得られる。
【0036】
複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・は、図4に示すように、複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・と外皮(背側外皮24)との間に設けられる導電板35を介して電気的に接続される。これにより、複数のプロテクタ30部材a、30b、30c、・・・の間における接触抵抗を低減することで、前縁プロテクタ30が有する電気抵抗値を低く抑え、耐雷性能を向上できる。
【0037】
尚、複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・が互いに直接接続されていない場合には、導電板35を介して、隣接するプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・同士を電気的に接続するように構成してもよい。
【0038】
また前縁プロテクタ30が複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・から構成される場合、翼本体18の翼根部12に最も近いプロテクタ部材が、ダウンコンダクタ15又は導電メッシュ部材17の少なくとも一方に電気的に接続されてもよい。図4の例では、互いに電気的接続された複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・のうち、翼根部12に最も近いプロテクタ部材30dが、レセプタ32を介して、ダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17に電気的に接続される。
【0039】
これにより、風車翼2が落雷を受けた際に、各プロテクタ部材30a、30b、30c、・・・で生じた雷電流は、翼根部12に最も近いプロテクタ部材30dまで導かれた後、ダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17に導かれる電路が形成される。このような耐雷構造は、プロテクタ部材30a、30b、30c、・・・の各々をダウンコンダクタ15や導電メッシュ部材17にそれぞれ電気的に接続する場合に比べて構成が簡易であり、良好な耐雷性能が得られる。
【0040】
尚、図4では、ダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17が、前縁プロテクタ30のうち翼根部12に最も近いプロテクタ部材30dの位置において重なることから、プロテクタ部材30dがレセプタ32を介してダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17に電気的に接続されている。そのため、例えば、ダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17が他のブロテクタ部材に重なるように構成されている場合には、当該他のプロテクタ部材がレセプタ32を介してダウンコンダクタ15及び導電メッシュ部材17に電気的に接続してもよい。
【0041】
以上説明したように、上記実施形態に係る風車翼2では、レセプタ32を介してダウンコンダクタ15又は導電メッシュ部材17に電気的に接続された前縁プロテクタ30を備えることで、良好な耐エロージョン性能と耐雷性能が得られる。このような構成は、風車翼2が従来から備える既存レセプタを利用して実現できるため、風車翼2の基本設計や製造工程に与える影響が少ない。
【0042】
続いて他の実施形態に係る風車翼2について説明する。図5は他の実施形態に係る風車翼2の翼先端部14側を示す斜視図であり、図6図5のB-B線における概略断面図である。ここで図6では、風車翼2を構成する各部材間の電気的接続状態をわかりやすく示すために、各部材の位置関係を簡略化して示している。
尚、以下の説明では、前述の実施形態に対応する構成については共通の符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0043】
図5に示すように、本実施形態では、背側外皮24に設けられたレセプタ32aは、背側外皮24の外表面に対して垂直方向から見た際に、前縁プロテクタ30から離れた位置に配置される(腹側外皮26にも略同位置にレセプタ32b(図6を参照)が配置される)。そしてレセプタ32a、32bは、図6に示すように、それぞれ背側外皮24及び腹側外皮26の外表面に沿って設けられたダイバータストリップ38a、38bを介して、前縁プロテクタ30に電気的に接続される。このように前縁プロテクタ30とレセプタ32a、32bとが離れて配置される場合においても、前縁プロテクタ30へ着雷した雷電流をダイバータストリップ38a、38bを介して、レセプタへ誘導することが可能となり、被雷時における前縁プロテクタ30への物理的損傷を低減でき、耐雷性能を向上できる。
【0044】
このような耐雷構成では、図6に示すように、前縁プロテクタ30及びレセプタ32は、翼本体18の背側と腹側に配置されたダイバータストリップ38a、38bによって並列接続されている。前縁部20が雷撃Lを受けた場合、雷撃Lによって生じた雷電流は、背側では、前縁プロテクタ30からレセプタ32aに向かう背側外皮24に沿った経路R1と、レセプタ32aからダウンコンダクタ38aに向かう経路R2を経て導かれるとともに、腹側では、前縁プロテクタ30からレセプタ32bに向かう腹側外皮26に沿った経路R3と、レセプタ32bからダウンコンダクタ38bに向かう経路R4を経て導かれる。これにより、被雷時における前縁プロテクタ30への物理的損傷を更に低減でき、耐雷性能を向上できる。
【0045】
以上説明したように、上記実施形態に係る風車翼2では、前縁プロテクタ30がレセプタ32から離れて配置された場合においても、ダイバータストリップ38によって前縁プロテクタ30に着雷した雷電流をレセプタ32へ誘導することにより、良好な耐雷性能が得られる。
【0046】
続いて他の実施形態に係る風車翼2について説明する。図7は他の実施形態に係る風車翼2の翼先端部14側を示す斜視図であり、図8図7のC-C線における背側外皮24近傍の断面図である。
尚、以下の説明では、前述の実施形態に対応する構成については共通の符号を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0047】
翼本体18の前縁部20を覆うように設けられる前縁プロテクタ30は、図7に示すように、第1領域30Aと、第2領域30Bと、を備える。第1領域30Aは、前述の各実施形態の前縁プロテクタ30と同様に、金属板材から構成される。第2領域30Bは、溶射膜から構成され、第1領域30Aより翼本体18の翼根部12側に設けられる。第1領域30A及び第2領域30Bは、翼長方向に沿って配置され、互いに電気的に接続される。このように前縁プロテクタ30は、異なる形態を有する第1領域30A及び第2領域30Bからなるハイブリッド構造を有する。一般的に、溶射膜は板材に比べて薄く形成できるため、このようなハイブリッド構造を有することにより、耐雷性能を確保しながら、前縁プロテクタ30の軽量化を図ることができる。
【0048】
また、金属板材から構成される第1領域30Aは、第2領域30Bに比べて、落雷を直接受ける可能性が高い翼先端部14側に配置されることによって、雷撃に対して前縁プロテクタが損傷することを防止できる。そして第2領域30Bは、導電メッシュ部材17との間で電位差を低減しやくスパークを生じにくい溶射膜から構成されるため、第1領域30Aより翼根部12側に配置されることで、第1領域30Aからの雷電流を導電メッシュ部材17に対して好適に導くことができる。
【0049】
また前縁プロテクタ30は、外皮を貫通するボルト部材40によって翼本体に固定されていてもよい。本実施形態では、図8に示すように、前縁プロテクタ30を構成する複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・の各々において、翼長方向に沿った両端近傍がそれぞれボルト部材40によって、翼本体18を構成する背側外皮24に対して固定されている。このようなボルト部材40を用いた固定構造を採用することにより、翼本体18からの前縁プロテクタ30の脱落リスクを低く抑えることができ、信頼性の高い構成を有する風車翼2を実現できる。
【0050】
尚、ボルト部材40は、前縁プロテクタ30を構成する隣接するプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・間に配置された導電板35を貫通するように設けられる。これにより、複数のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・間の電気的接続を、導電版35とともに強化することができる。
【0051】
尚、第1領域30A及び第2領域30Bは、図8に示すように、導電性材料からなる接続板33を介して電気的に接続されている。このように接続板33を設けることで、仮にレセプタ32が存在しない領域においても、第1領域30A及び第2領域30Bの間の電気的接続を確保できる。
【0052】
以上説明したように、上記実施形態に係る風車翼2では、第1領域30A及び第2領域30Bからなるハイブリッド構造を有することにより、良好な耐雷性能を確保しながらも、重量が軽く構成することで効果的に脱落リスクを軽減できる。そして前述の各実施形態に係る風車翼2を備える風車1では、風車翼2におけるエロージョン損傷が防止されることでメンテナンス負担が少なく、優れた耐雷性能を得ることができる。
【0053】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0054】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0055】
(1)一態様に係る風車翼(例えば上記実施形態の風車翼2)は、
翼本体(例えば上記実施形態の翼本体18)と、
導電性材料を含んで構成され、前記翼本体の前縁部(例えば上記実施形態の前縁部20)を覆い、前記翼本体において外皮によって囲まれた中空空間(例えば上記実施形態の中空空間16)に配置されたダウンコンダクタ(例えば上記実施形態のダウンコンダクタ15)、又は、前記外皮の外表面に沿って設けられる導電メッシュ部材(例えば上記実施形態の導電メッシュ部材17)の少なくとも一方に電気的に接続される前縁プロテクタ(例えば上記実施形態の前縁プロテクタ30)と、
を備える。
【0056】
上記(1)の態様によれば、翼本体のエロージョン損傷を防止するために前縁部を覆うように設けられる前縁プロテクタが導電性材料を含んで構成される。そして、前縁プロテクタは、ダウンコンダクタ又は導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続されることにより、前縁プロテクタが落雷を受けた場合に、雷電流をこれらに導くことができる。風車翼がこのような構成を備えることにより、エロージョン損傷を防止しつつ、良好な耐雷性能が得られる。
【0057】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記前縁プロテクタは、前記外表面から前記外皮の厚さ方向に沿って延びるように前記外皮に設けられたレセプタ(例えば上記実施形態のレセプタ32)を介して、前記ダウンコンダクタ又は前記導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続される。
【0058】
上記(2)の態様によれば、翼本体に設けられたレセプタを介して、前縁プロテクタが、ダウンコンダクタ又は導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続される。レセプタは、翼本体を構成する外皮において、外表面から外皮の厚さ方向に延びるように設けられることで、厚さ方向に沿って異なる位置に設けられたダウンコンダクタや導電メッシュ部材に対して、効率的なレイアウトで前縁プロテクタを電気的に接続できる。
【0059】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記前縁プロテクタは、前記翼本体の翼長方向に沿って配置される複数のプロテクタ部材(例えば上記実施形態のプロテクタ部材30a、30b、30c、・・・)を含む。
【0060】
上記(3)の態様によれば、翼本体の前縁部を覆う前縁プロテクタは、翼本体の翼長方向に沿って配置される複数のプロテクタ部材から構成される。これにより、風車翼の翼長方向に沿ったサイズが大きい場合であっても、複数のプロテクタ部材を翼長方向に沿って配置することで、広い範囲にわたって前縁部を覆う前縁プロテクタを構成することができる。
【0061】
(4)他の態様では、上記(3)の態様において、
前記複数のプロテクタ部材は、互いに電気的に接続される。
【0062】
上記(4)の態様によれば、前縁プロテクタを構成する複数のプロテクタ部材が互いに電気的に接続される。これにより、いずれのプロテクタ部材が落雷を受けた場合においても、前縁プロテクタに生じる雷電流をダウンコンダクタや導電メッシュ部材に的確に導くことができる。その結果、翼長方向に沿ったサイズが大きな風車翼においても、エロージョン損傷を防止しつつ、良好な耐雷性能が得られる。
【0063】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
前記複数のプロテクタ部材は、前記複数のプロテクタ部材と前記外皮との間に設けられる導電板(例えば上記実施形態の導電板35)を介して電気的に接続される。
【0064】
上記(5)の態様によれば、前縁プロテクタを構成する複数のプロテクタ部材は、導電板を介して電気的に接続される。これにより、複数のプロテクタの間のおける電気的接続を良好に確保し、耐雷性能を向上できる。例えば、隣接するプロテクタ部材同士が直接接続されていない場合であっても導電板を介して両者を電気的に接続できる。また隣接するプロテクタ部材同士が直接接続されている場合であっても、両者の接続部における電気抵抗値を低減できる。
【0065】
(6)他の態様では、上記(4)又は(5)の態様において、
前記複数のプロテクタ部材のうち前記翼本体の翼根部に最も近い前記プロテクタ部材(例えば上記実施形態のプロテクタ部材30d)が、前記ダウンコンダクタ又は前記導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続される。
【0066】
上記(6)の態様によれば、互いに電気的に接続される複数のプロテクタ部材のうち、翼根部に最も近いプロテクタ部材が、ダウンコンダクタ又は導電メッシュ部材の少なくとも一方に電気的に接続される。前縁プロテクタを構成する各プロテクタ部材で生じた雷電流は、翼根部に最も近いプロテクタ部材まで導かれた後、ダウンコンダクタ又は導電メッシュ部材の少なくとも一方に導かれる。これにより、各前縁プロテクタをダウンコンダクタ又は導電メッシュ部材の少なくとも一方にそれぞれ電気的に接続する場合に比べて、簡易な構成で耐雷性能の向上を図ることができる。
【0067】
(7)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記前縁プロテクタは、前記外表面において前記前縁プロテクタから離れた位置に設けられ、前記ダウンコンダクタに対して電気的に接続されたレセプタに対して、前記外表面に沿って設けられたダイバータストリップ(例えば上記実施形態のダイバータストリップ38a、38b)を介して電気的に接続される。
【0068】
上記(7)の態様によれば、翼本体の外表面においてレセプタから離れた位置に設けられたレセプタに対して、前縁プロテクタがダイバータストリップを介して電気的に接続される。これにより、前縁プロテクタとレセプタとが離れて配置される場合においても、両者をダイバータストリップを介して電気的に接続することで、風車翼が落雷を受けた際に、レセプタと前縁プロテクタとの間の電位差によって放電が生じることにより風車翼が損傷することを効果的に回避できる。
【0069】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記前縁プロテクタは、
金属板材から構成される第1領域(例えば上記実施形態の第1領域30A)と、
前記第1領域より前記翼本体の翼根部側に設けられ、溶射膜から構成される第2領域(例えば上記実施形態の第2領域30B)と、
を備える。
【0070】
上記(8)の態様によれば、前縁プロテクタは、金属板材から構成される第1領域と、溶射膜から構成される第2領域とを含む。これにより、前縁プロテクタの全体を金属板材から構成する場合に比べて重量を低減できる。
また、金属板材から構成される第1領域は、第2領域に比べて、落雷を直接受ける可能性が高い翼先端側に配置されることによって、雷撃に対して前縁プロテクタが損傷することを防止できる。そして第2領域は、導電メッシュ部材との間で電位差を低減しやくスパークを生じにくい溶射膜から構成されるため、第1領域より翼根部側に配置されることで、第1領域からの雷電流を導電メッシュ部材に対して好適に導くことができる。
このように前縁プロテクタが第1領域及び第2領域からなるハイブリッド構造を有することで、優れた耐雷性能が得られる。
【0071】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記前縁プロテクタは、前記外皮を貫通するボルト部材(例えば上記実施形態のボルト部材40)によって前記翼本体に固定される。
【0072】
上記(9)の態様によれば、前縁プロテクタは外皮を貫通するボルト部材によって、翼本体に固定される。これにより、翼本体からの前縁プロテクタの脱落リスクが低く、信頼性の高い構成が得られる。
【0073】
(10)一態様に係る風車(例えば上記実施形態の風車1)は、
上記(1)から(9)のいずれか一態様に係る風車翼を備える。
【0074】
上記(10)の態様によれば、上記構成を有する風車翼を備えることで、風車翼におけるエロージョン損傷が防止されることでメンテナンス負担が少なく、優れた耐雷性能を有する風車を実現できる。
【符号の説明】
【0075】
1 風車
2 風車翼
4 ハブ
6 風車ロータ
8 ナセル
10 タワー
12 翼根部
14 翼先端部
15 ダウンコンダクタ
16 中空空間
17 導電メッシュ部材
18 翼本体
20 前縁部
22 後縁部
24 背側外皮
26 腹側外皮
29 接着層
30 前縁プロテクタ
30A 第1領域
30B 第2領域
31 端部
32 レセプタ
33 端部
35 導電板
38a、38b ダイバータストリップ
40 ボルト部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8