(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】生検組織診断支援システム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61B8/00
(21)【出願番号】P 2020095783
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0173307(US,A1)
【文献】特開2012-035010(JP,A)
【文献】特開2006-102494(JP,A)
【文献】特開2008-307234(JP,A)
【文献】特開2002-301074(JP,A)
【文献】特開2007-061359(JP,A)
【文献】特開2019-141149(JP,A)
【文献】特開2017-159027(JP,A)
【文献】特開2016-123666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側面に湾曲凹部が造形されている電磁波反射防止材からなる保持カップを有し、当該保持カップの前記湾曲凹部を被検体の乳房に配置して陰圧により密着させる密着保持部と、
前記密着保持部により前記保持カップが前記被検体の乳房に密着された状態で、指向性エネルギ波を送受信する検査プローブを前記保持カップの外側面に沿って全面にわたり走査するプローブ走査部と、
前記プローブ走査部による前記保持カップに対する走査結果に基づいて、前記被検体の乳房の3次元空間上の座標を設定すると同時に当該乳房の断層画像を生成する座標設定兼画像生成部と、
前記座標設定兼画像生成部により生成された前記乳房の断層画像を解析し、当該
断層画像を解析した結果に基づいて、前記乳房内の要検査部位を探索する要検査部位探索部と、
前記要検査部位探索部により探索された前記要検査部位を基準として3次元空間上における所望の対象部位の座標を特定する対象部位特定部と、
前記対象部位特定部により座標が特定された前記対象部位に生検用針を位置決めして穿刺する生検支援装置と
を備えることを特徴とする生検組織診断支援システム。
【請求項2】
前記プローブ走査部は、前記検査プローブを前記保持カップの外側面との接触圧を測定しながら、当該保持カップに対する接触圧を所定レベル以下に維持されるように制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の生検組織診断支援システム。
【請求項3】
前記プローブ走査部は、前記検査プローブに代えて、前記保持カップの外側面との接触状態を保ちながら、当該保持カップの外側面を全面にわたって自律的に走査する自走式検査プローブを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の生検組織診断支援システム。
【請求項4】
前記保持カップの外側表面に対応する湾曲形状を有し、当該保持カップの外側表面を覆うように取り付けた際、当該湾曲形状をなす内側表面と前記保持カップの外側表面との間に所定幅の間隙を形成する走査誘導用カップを備え、
前記プローブ走査部は、前記保持カップと前記走査誘導用カップとの間に形成される前記間隙に沿って前記保持カップの外側表面を全面にわたって、前記自走式検査プローブを自律的に走査させる
ことを特徴とする請求項3に記載の生検組織診断支援システム。
【請求項5】
前記保持カップは、前記外側面を形成するカップ部材と、前記内側面を形成する網目状のネット部材とが分離可能な二層構造からなり、
前記生検支援装置は、前記保持カップから前記カップ部材を取り除いた状態で、前記ネット部材
を形成する網目の隙間から前記生検用針を穿刺する
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか
一項に記載の生検組織診断支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生検組織診断支援システムに関し、例えば超音波による乳房の断層画像に基づく生検を支援するための生体組織診断支援システムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、女性の乳がんの罹患率は、増加の一途を辿っており、女性がかかる「がん」の中でもトップを占めている。生涯のうちに乳がんになる日本の女性の割合は、50年前は50人に1人であったが、現在は14人に1人と言われており、年間6万人以上が乳がんと診断されている。乳がんで死亡する女性の割合も年々増加の傾向にあり、国内では乳がんを発症した人の30%程度に相当する年間約1万3,000人が亡くなっている。
【0003】
このため、乳がんの検診、精密検査や手術などの受診者数も急増している。乳がんの検診は、主としてマンモグラフィ検査と超音波検査とを用いて実施されている。マンモグラフィ検査は、立位での片側縦横2方向撮影で実施され、そのポジショニングや撮影方法は確立されている。一方、超音波検査や手術は、被検者をベッドの上に仰臥位にして実施され、必要に応じて斜位などのポジショニングが取られている。
【0004】
マンモグラフィ検査は、脂肪の多い乳房では高い検出力を示すが、乳腺が多く脂肪の少ない乳房に対しては、早期のがんの検出力が低く、これが大きな問題となっている。超音波検査は、その欠点を補填する役割を有し、最近の乳がんの個別化治療の流れの中で、世界的にその重要性が指摘されている。
【0005】
日本人女性の乳房は、比較的高齢になっても乳腺組織が多いため、我が国では以前から超音波検査が盛んに行われてきた。この場合の超音波検査は、超音波検査技師が、仰臥位になった被検者の左右の全乳房を、体位を変えながらスキャンし、異常と思われる変化のイメージを残し、それを医師が別個にレビューする方法で行われている。
【0006】
しかし、この方法には、医師本来の業務である診断業務を技師が行っていることや再現性、技師の心身両面の負担などの問題が潜在しており、自動式の乳房専用の超音波診断装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
乳がんの検診結果に基づき病変が発見された場合の良悪性の判断は、生検による病理診断によって決定される。穿刺針によって乳房の生検を行う場合、施術者はそれに並行して超音波撮影を行い、リアルタイムの断層像で患部の位置および穿刺針の進行状況を確認しながら作業を進めるのが一般的である。
【0008】
具体的には、超音波プローブの位置及び姿勢に、この時のプローブから得られた超音波画像を対応させることにより、対象組織内に設定されたターゲットの3次元位置を求め、その位置に到達するように穿刺針の動作を制御するシステムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
また、生体内部の超音波画像と、生体内を穿刺する生検用針周りの光画像とを画像融合して表示しながら、所定のターゲットに向けて生検用針をガイドするための生検支援装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-172226号公報
【文献】特開2012-35010号公報
【文献】特開2019-13788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献1の超音波診断装置においては、超音波プローブが取り付けられる旋回アームを、被検体の乳房に対して回転軸を中心に水平方向に回転させながら当該回転軸における所定の位置を頂点にして円錐状に可動させる構成を有し、被検体の乳房の形状に応じて全体回転軸を移動させることにより、超音波プローブを常に密着させることができる。
【0012】
しかし、被検体の乳房は柔軟性に富み患部が容易に動いてしまうため、被検体の乳房に対して超音波プローブを圧接させながら可動させて超音波画像を生成すると、乳房の形状が変動された状態で超音波画像が生成されることとなり、その後の穿刺の際に元の乳房の患部との位置関係を正確に対応させることが困難になるおそれがある。
【0013】
このため上述の特許文献2のように、穿刺針の位置および姿勢と超音波画像とを対応させて、患部であるターゲットの3次元位置を求める方法が提案されているが、この方法では、3次元位置に基づいてターゲットに穿刺針を到達させるまでに、乳房のような柔軟性に富むターゲットの場合は3次元位置が変動してしまう可能性が高く、高い精度で位置決めすることが困難となる問題がある。
【0014】
また上述の特許文献3では、生体内部の超音波画像と、生体内を穿刺する生検用針周りの光画像とを画像融合する際、双方の特徴部を位置合わせすることにより、生検プローブと生検対象のターゲットとの位置関係を計算するようになされている。
【0015】
しかし、かかる特許文献3では、穿刺に際しては被検体の患部を動かないように乳房を拘束することを前提としており、実際に被検体の乳房を圧迫板と乳房検査台によって挟んで拘束するため、乳房が圧迫されて被検体に不快感を与えるおそれがある。
【0016】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、被検体に不快感を与えることなく、非常に高い精度にて超音波診断および生検を支援することが可能な生検組織診断支援システムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するために本発明においては、内側面に湾曲凹部が造形されている電磁波反射防止材からなる保持カップを有し、当該保持カップの湾曲凹部を被検体の乳房に配置して陰圧により密着させる密着保持部と、密着保持部により保持カップが被検体の乳房に密着された状態で、指向性エネルギ波を送受信する検査プローブを保持カップの外側面に沿って全面にわたり走査するプローブ走査部と、プローブ走査部による保持カップに対する走査結果に基づいて、被検体の乳房の3次元空間上の座標を設定すると同時に当該乳房の断層画像を生成する座標設定兼画像生成部と、座標設定兼画像生成部により生成された乳房の断層画像を解析し、当該断層画像を解析した結果に基づいて、乳房内の要検査部位を探索する要検査部位探索部と、要検査部位探索部により探索された要検査部位を基準として3次元空間上における所望の対象部位の座標を特定する対象部位特定部と、対象部位特定部により座標が特定された対象部位に生検用針を位置決めして穿刺する生検支援装置とを設けるようにした。
【0018】
このように生検組織診断支援システムでは、被検体の乳房を密着保持部により密着させることにより、当該乳房の形状をほとんど変化させずに拘束することができ、さらにその密着状態のまま検査プローブを乳房の全面にわたり走査して当該乳房の3次元空間上の座標と当該乳房の断層画像とを取得し、断層画像の解析結果に基づく乳房内の要検査部位を基準として、3次元空間上における所望の対象部位の座標を特定することにより、乳房の形状変化がない分、画像解析に要する演算処理を比較的簡易化させることができる。そして3次元空間上の座標が特定された対象部位に生検用針を位置決めして穿刺することにより、乳房の位置ずれがほとんどない分、非常に高い精度で生検用針を位置決めして穿刺させることが可能となる。
【0019】
また本発明においては、プローブ走査部は、検査プローブを保持カップの外側面との接触圧を測定しながら、当該保持カップに対する接触圧を所定レベル以下に維持されるように制御するようにした。この結果、生検組織診断支援システムでは、検査プローブを自律的に制御する場合に、保持カップがある程度の剛性を有していても、接触圧を所定レベル以下に維持することにより、被検体の乳房の形状に変化を与えることを未然に防止することができる。
【0020】
さらに本発明においては、プローブ走査部は、検査プローブに代えて、保持カップの外側面との接触状態を保ちながら、当該保持カップの外側面を全面にわたって自律的に走査する自走式検査プローブを有するようにした。この結果、生検組織診断支援システムでは、ロボット装置の多関節アーム機構のような大掛かりな装置を用いることなく、術者が検査プローブを把持して保持カップの全面にわたって走査させる手間を省くことができ、被検体にとっても乳房に対する接触を回避できる分、不快感をなくすことが可能となる。
【0021】
さらに本発明においては、保持カップの外側表面に対応する湾曲形状を有し、当該保持カップの外側表面を覆うように取り付けた際、当該湾曲形状をなす内側表面と前記保持カップの外側表面との間に所定幅の間隙を形成する走査誘導用カップを備え、プローブ走査部は、保持カップと走査誘導用カップとの間に形成される間隙に沿って保持カップの外側表面を全面にわたって、自走式検査プローブを自律的に走査させるようにした。
【0022】
この結果、生検組織診断支援システムでは、保持カップに走査誘導用カップを覆わせた状態で自走式検査プローブを当該保持カップの全面にわたって自律的に走査させることにより、ロボット装置の多関節アーム機構のような大掛かりな装置を用いることなく、かつ簡易な構成で、術者が検査プローブを把持して保持カップの全面にわたって走査させる手間を省くことができ、被検体にとっても乳房に対する接触を回避できる分、不快感をなくすことが可能となる。
【0023】
さらに本発明においては、保持カップは、外側面を形成するカップ部材と、内側面を形成する網目状のネット部材とが分離可能な二層構造からなり、生検支援装置は、保持カップからカップ部材を取り除いた状態で、ネット部材を形成する網目の隙間から生検用針を穿刺するようにした。この結果、生検組織診断支援システムでは、保持カップ自体に生検用針を穿刺することが困難な場合、保持カップを二層構造にして検査プローブによる検査後にカップ部材のみを取り外した後、ネット部材に密着された乳房の対象部位に対して生検用針を位置決めして穿刺することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被検体に不快感を与えることなく、比較的簡易な演算処理のみで非常に高い精度にて超音波診断および生検を支援することが可能な生検組織診断支援システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係る生検組織診断支援システムの構成を示す略線図である。
【
図2】
図1に示すプローブ走査部および針穿刺駆動部の構成の説明に供する略線図である。
【
図3】他の実施形態によるプローブ走査部および走査誘導用カップの構成を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0027】
(1)本実施の形態による生検組織診断支援システムの構成
図1は本実施の形態による生検組織診断支援システム1を示し、被検体が仰向けで横たわる寝台2と、当該寝台2に併設された垂直多関節型のロボット装置3と、当該ロボット装置3に組み込まれた超音波診断装置4および生検支援装置5とを有する。
【0028】
ロボット装置3は、多自由度を有する多関節アーム機構10を有し、本体装置を支持する支持部11と、当該支持部11に水平方向(矢印A方向)に旋回可能に連結された第1アーム部12と、当該第1アーム部12に上下方向(矢印B方向)に旋回可能に連結された第2アーム部13と、当該第2アーム部13に上下方向(矢印C方向)に旋回可能かつ捻り方向(矢印D方向)回転可能に連結された第3アーム部14と、当該第3アーム部14に上下方向(矢印E方向)に旋回可能かつ捻り方向(矢印F方向)に回転可能に連結された第4アーム部15と、当該第4アーム部15に連結されたエンドエフェクタ16とを有する。
【0029】
ロボット装置3には、装置全体を司る統括制御部20が設けられ、支持部11を基準とする多関節アーム機構10の動作を制御するとともに、超音波診断装置4および生検支援装置5を制御するようになされている。
【0030】
超音波診断装置4は、ロボット装置3のエンドエフェクタ16に保持された検査プローブ30と、当該検査プローブ30から被検体に超音波を送信し、当該被検体にて反射された超音波を受信して電気的なエコー信号に所定の処理を施して超音波画像を生成する超音波信号処理部(座標設定兼画像生成部)31とを有する。検査プローブ30は、複数の超音波振動子が走査方向に格子状に配列された2次元超音波プローブが用いられる。
【0031】
生検支援装置5は、ロボット装置3のエンドエフェクタ16に保持され、生検用針40を保持して穿刺動作させる針穿刺動作部41と、当該針穿刺動作部41を制御するための針穿刺制御部42とを有する。
【0032】
図2において、ロボット装置3のエンドエフェクタ16に検査プローブ30および針穿刺動作部41が保持された状態を示す。具体的には、エンドエフェクタ16の先端に検査プローブ30が保持されるとともに、当該エンドエフェクタの先端近傍に針穿刺動作部41が隣に並ぶように保持されており、統括制御部20は超音波診断時と生検支援時とでエンドエフェクタ16の先端の制御基準を切り替えるようになされている。
【0033】
ロボット装置3における統括制御部20は、被検体に対する超音波診断時には、検査プローブ30を制御対象として多関節アーム機構10のエンドエフェクタ16を位置制御する一方、被検体に対する生検組織診断支援時には、針穿刺動作部41の生検用針40を制御対象として多関節アーム機構10のエンドエフェクタ16を位置制御する。
【0034】
実際に乳がん検診を行う際、被検体は寝台2に仰向けに横たわった状態で、乳房に対して密着保持部50を構成する保持カップ51をその湾曲凹部が当接するように配置する。この保持カップ51は、内側面に湾曲凹部が造形されている電磁波反射防止材からなる。電磁波反射防止材としては、例えば、鉄または鉄合金の軟磁性粉末をシリコーンゴム中に分散させてなる電磁波吸収体や、炭素繊維織物(グラファイト、カーボンブラック、カーボンファイバ、カーボンナノコイル等)を電気的絶縁性有機物(ゴムや樹脂等)に分散させてなる電磁波吸収体が用いられる。
【0035】
密着保持部50は、保持カップ51に接続された吸引ポンプ等の陰圧発生源52を有し、ロボット装置3の統括制御部20が当該陰圧発生源52を駆動して、被検体の乳房に配置された保持カップ51に対して湾曲凹部と乳房との間が密着するように陰圧させる。
【0036】
なお、保持カップ51の厚みは特に限定しないが、被検体の乳房に配置された際に陰圧による密着状態となっても、カップ形状が変化しない程度の厚みを設定するようになされている。保持カップ51の材質強度に基づいて、乳房に対する密着状態が保持される程度の陰圧を加えた際に、カップ形状が変化しない程度まで薄く設定することが望ましい。また保持カップ51に対して、生検用針40が貫通可能であれば、超音波診断時から生検組織診断支援時に切り替える際に、保持カップ51を取り除くことなくそのまま配置するようにしてもよい。
【0037】
統括制御部20は、密着保持部50により保持カップ51が被検体の乳房に密着された状態で、多関節アーム機構10のエンドエフェクタ16を動作制御することにより、超音波(指向性エネルギ波)を送受信する検査プローブ30を保持カップ51の外側面に沿って全面にわたり走査する。
【0038】
超音波診断装置4における超音波信号処理部31は、検査プローブ30による保持カップ51に対する走査結果に基づいて、被検体の乳房の3次元空間上の座標を設定すると同時に当該乳房の断層画像を生成する。
【0039】
被検体の乳房の3次元空間上の座標設定は、超音波によって物体との距離を測定し、測定した距離に基づいて物体の3次元座標を計算する手法が用いられる。すなわち、超音波信号処理部31は、送信器(図示せず)から送信された超音波を受信する3個以上の受信器(図示せず)を有し、当該各受信器における反射波の受信タイミングに基づいて、超音波が送信されてから物体に反射して各受信器に到達するまでの伝搬距離をそれぞれ算出し、当該全ての伝搬距離に基づいて、物体の3次元座標を求めるようになされている。
【0040】
統括制御部20は、超音波信号処理部31により生成された乳房の断層画像を実行する。生検支援装置5における針穿刺制御部42は、統括制御部20による乳房の断層画像の解析結果に基づいて、乳房内の要検査部位を探索する。
【0041】
具体的に、統括制御部20は、乳房の断層画像に対してパターン認識等の画像解析を行い、要検査部位に対する断層画像内の走査部位の尤度を算出する。この尤度は、要検査部位に対する断層画像内の走査部位の尤もらしさを表す数値であり、尤度の値の大きさに比例して断層画像内の走査部位が要検査部位である確率が高いと判断することができる。統括制御部20は、算出した走査部位の尤度の値が所定レベル以上の値と判断した場合は、当該走査部位を乳房内の要検査部位(病変部位または病変可能性部位)として探索する。
【0042】
なお、統括制御部20は、乳房の断層画像に対する画像解析として、単フレームの断層画像に対するパターン認識または画素値解析を含む画像解析のみならず、複数フレームの断層画像に共通して含まれる特定のパターンの動きに対する画像解析を行うようにしてもよく、また時系列に取得された複数フレームの断層画像に対してフレーム単位に画像解析して当該解析結果を統合するようにしてもよい。
【0043】
統括制御部20は、探索した乳房内の要検査部位を中心に、機械学習手法を用いて、3次元空間上における所望の対象部位(腫瘍、腫瘤)を分類するとともに、当該対象部位の座標を特定する。
【0044】
機械学習手法としては、ディープラーニング手法であるDBN(Deep Belief Network)や、SDAE(Stacked Denoising Auto Encoder)によるニューラルネットワークを用いる。その他の機械学習手法として、確率的勾配降下法による逐次学習を適用でき、CNN(Convolutional Neural Network)やSVM(Support Vector Machine)、ロジスティック回帰分析、線形判別分析、ランダムフォレスト法、ブースティング法を用いてもよい。
【0045】
機械学習手法を適用するに際して、事前に、乳がん等の腫瘍や腫瘤に相当する対象部位の画像(腫瘍や腫瘤が描出可能なサイズの画像)とそれ以外の正常組織に相当する部位の画像との両方を用いて学習させておく必要がある。このような学習用の画像データを、読み出し可能な記憶メモリ(図示せず)に記憶しておく。
【0046】
統括制御部20は、このような機械学習手法を用いて、学習用の画像データを基に正常組織に相当する部位か腫瘍や腫瘤に相当する対象部位かを分類するモデルを算出する。
【0047】
そして統括制御部20は、学習により算出した分類モデルと要検査部位の画像を比較して、当該要検査部位の中から乳がん等の腫瘍や腫瘤に相当する対象部位を特定するとともに、3次元空間上における当該対象部位の座標も特定する。
【0048】
続いて、統括制御部20は、座標を特定した対象部位に生検用針40を位置決めした後、針穿刺制御部42を制御して穿刺動作を行わせる。すなわち、統括制御部20は、多関節アーム機構10を制御して、保持カップ51の外側表面上方に沿って生検用針40を移動させながら、3次元空間上において特定された対象部位の座標を基準とする保持カップ51の外側表面の法線上に当該生検用針40を到達させて位置決めする。
【0049】
続いて針穿刺制御部42は、保持カップ51の外側表面上方に位置決めされた生検用針40を、当該外側表面の法線方向にスライド移動させて乳房内に穿刺させながら、当該生検用針40の先端が特定された対象部位の座標に到達させる。
【0050】
そして針穿刺制御部42は、統括制御部20の制御下にて針穿刺動作部41を制御して、生検用針40を特定された対象部位の座標を中心として、予め設定したストローク長(針の進行する長さ)で生検用針40をスライド動作させて対象部位に存在する腫瘍や腫瘤の細胞組織を採取する。
【0051】
以上の構成において、生検組織診断支援システム1では、被検体の乳房を密着保持部50により密着させることにより、当該乳房の形状をほとんど変化させずに拘束することができる。さらにその密着状態のまま検査プローブ30を乳房の全面にわたり走査して当該乳房の3次元空間上の座標と当該乳房の断層画像とを取得し、断層画像の解析結果に基づく乳房内の要検査部位を基準として、3次元空間上における所望の対象部位の座標を特定することにより、乳房の形状変化がない分、画像解析に要する演算処理を比較的簡易化させることができる。
【0052】
そして3次元空間上の座標が特定された対象部位に生検用針40を位置決めして穿刺することにより、乳房の位置ずれがほとんどない分、非常に高い精度で生検用針40を位置決めして穿刺させることが可能となる。
【0053】
(2)他の実施の形態
なお本実施の形態においては、ロボット装置3における統括制御部20および多関節アーム機構10と、超音波診断装置4における検査プローブ30とからプローブ走査部を構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、プローブ走査部としては、超音波のみならず、超音波以外のミリ波等の指向性エネルギ波を送受信する検査プローブを有する種々の診断装置を適用するようにしてもよい。
【0054】
さらにプローブ走査部の制御機能を担う統括制御部20は、検査プローブ30を保持カップ51の外側面との接触圧を測定しながら、当該保持カップ51に対する接触圧を所定レベル以下に維持されるように制御するようにしてもよい。この結果、検査プローブ30を自律的に制御する場合に、保持カップ51がある程度の剛性を有していても、接触圧を所定レベル以下に維持することにより、被検体の乳房の形状に変化を与えることを未然に防止することができる。
【0055】
また本実施の形態においては、ロボット装置3に超音波診断装置4および生検支援装置5を組み込んだ場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ロボット装置3から超音波診断装置4の一部(プローブ走査部のみ)を切り分けて別途単独で診断機能を持たせるようにしてもよい。
【0056】
すなわち
図3に示すように、超音波診断装置4におけるプローブ走査部において、上述の検査プローブ30に代えて(プローブ走査部をロボット装置3から分離して)、保持カップ51の外側面との接触状態を保ちながら、当該保持カップ51の外側面を全面にわたって自律的に走査する自走式検査プローブ60を設けるようにしてもよい。この構成では、ロボット装置3における多関節アーム機構10のエンドエフェクタ16には、針穿刺動作部41のみが保持されるようにする。
【0057】
この自走式検査プローブ60は、保持カップ51の外側面に対して移動自在に保持可能な手段(吸着力発生手段や磁力発生手段、摩擦発生手段等)と、当該外側面に対して2次元方向に駆動可能な推進力発生手段(車輪やローラ、キャタピラ等)とを有する。統括制御部20は、密着保持部50により保持カップ51が被検体の乳房に密着された状態で、自走式検査プローブ60を保持カップ51の外側面に沿って全面にわたり自律的に走査させる。
【0058】
これにより、生検組織診断支援システム1では、ロボット装置の多関節アーム機構のような大掛かりな装置を用いることなく、術者が自走式検査プローブ60を把持して保持カップ51の全面にわたって走査させる手間を省くことができ、被検体にとっても乳房に対する接触を回避できる分、不快感をなくすことが可能となる。
【0059】
さらに
図4に示すように、保持カップ51の外側表面に対応する湾曲形状を有し、当該保持カップ51の外側表面を覆うように取り付けた際、当該湾曲形状をなす内側表面と保持カップの外側表面との間に所定幅の間隙を形成する走査誘導用カップ70を備えるようにする。そして、プローブ走査部の制御機能を担う統括制御部20は、保持カップ51と走査誘導用カップ70との間に形成される間隙に沿って保持カップ51の外側表面を全面にわたって自走式検査プローブ60を自律的に走査させるようにしてもよい。
【0060】
この結果、生検組織診断支援システム1では、保持カップ51に走査誘導用カップ70を覆わせた状態で自走式検査プローブ60を当該保持カップ51の全面にわたって自律的に走査させることにより、ロボット装置3の多関節アーム機構10のような大掛かりな装置を用いることなく、かつ簡易な構成で、術者が検査プローブを把持して保持カップ51の全面にわたって走査させる手間を省くことができ、被検体にとっても乳房に対する接触を回避できる分、不快感をなくすことが可能となる。
【0061】
特に自走式検査プローブ60を、上述した推進力発生手段のみで構成することができ、保持カップ51の外側面に対して移動自在に保持可能な手段(吸着力発生手段や磁力発生手段、摩擦発生手段等)を設ける必要がなくて済む分、構成を簡易化することができる。
【0062】
また本実施の形態においては、被検体の乳房に配置される保持カップ51と、統括制御部20により駆動される陰圧発生源52とから密着保持部50を構成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要は、保持カップ51の一面側を陰圧させて当該被検体の乳房に対して密着させることができれば、陰圧発生源52以外の種々の手法を適用するようにしてもよい。
【0063】
また本実施の形態においては、保持カップ51を、内側面に湾曲凹部が造形されている電磁波反射防止材から構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、
図5(A)および(B)に示すように、外側面を形成するカップ部材80Aと、内側面を形成する網目状のネット部材80Bとが分離可能な二層構造から保持カップ80を構成し、生検支援装置5は、保持カップ80からカップ部材80Aを取り除いた状態で、ネット部材80Bにおける網目の隙間から生検用針40を穿刺するようにしてもよい。
【0064】
このような保持カップ80を生検組織診断支援システム1に適用することにより、保持カップ自体に生検用針40を穿刺することが困難な場合、保持カップ80を二層構造にして検査プローブ30(または自走式検査プローブ60)による検査後にカップ部材80Aのみを取り外した後、ネット部材80Bに密着された乳房の対象部位に対して生検用針40を位置決めして穿刺することができる。
【0065】
さらに本実施の形態においては、ロボット装置3の統括制御部20は、要検査部位探索部として、超音波信号処理部(座標設定兼画像生成部)31により生成された乳房の断層画像を解析し、当該解析結果に基づいて、乳房内の要検査部位を探索するとともに、対象部位特定部として、探索した要検査部位を基準として3次元空間上における所望の対象部位の座標を特定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要検査部位探索部および対象部位特定部としては、超音波診断装置4および/または生検支援装置5に同一機能を持たせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…生検組織診断支援システム、2…寝台、3…ロボット装置、4…超音波診断装置、5…生検支援装置(生検支援装置)、10…多関節アーム機構、11…支持部、12…第1アーム部、13…第2アーム部、14…第3アーム部、15…第4アーム部、16…エンドエフェクタ、20…統括制御部、30…検査プローブ、31…超音波信号処理部、40…生検用針、41…針穿刺動作部、42…針穿刺制御部、50…密着保持部、51、80…保持カップ、52…陰圧発生源、60…自走式検査プローブ、70…走査誘導用カップ、80A…カップ部材、80B…ネット部材。